説明

燃料タンク用弁装置及びその製造方法

【課題】 燃料による膨潤を抑制することができる樹脂製の燃料タンク用弁装置及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 燃料タンク用弁装置1であって、燃料タンク2の上壁3に形成された開口4に取り付けられ、燃料タンクの内部と外部とを連通する通路20及び通路に設けられた弁座16を有する筒状のケーシング6と、ケーシングの通路内に上下方向に変位可能に支持され、通路内に流入する燃料から浮力を受けて上下動し、上方に移動したときに弁座に着座して通路を閉塞するフロート7とを有し、フロートは、単一の結晶性熱可塑性樹脂から成形され、径方向において、外周面部33、内周面部34及び外周面部と内周面部との間の中間部35を有する円筒部22を有し、外周面部及び内周面部のそれぞれは、径方向に配向した結晶性熱可塑性樹脂の結晶部を中間部よりも多く含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の燃料タンクに使用される燃料タンク用弁装置及びその製造方法に関する。燃料タンク用弁装置は、燃料の液位に応じて開閉し、液位が低いときに開弁して燃料タンク内の蒸気を外部に逃がす一方、液位が高いときに閉弁して蒸気の流通を遮断する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の燃料タンクにおいて、内圧の上昇を抑制するために、その上壁に形成した開口に燃料タンク用弁装置を設けたものがある(例えば、特許文献1)。特許文献1に係る燃料タンク用弁装置は、開口に取り付けられ、通路を画成するケーシングと、ケーシング内に移動可能に支持されるフロートとを有している。ケーシングは、燃料タンクの内部と外部とを連通するべく、上下方向に延在する通路を有し、通路の途中に弁座を有している。通路の下部には、上下動可能にフロートが支持されている。燃料タンク内の燃料(ガソリン、軽油等)の液位が低い場合には、フロートは弁座から離間して通路を開いている。そのため、燃料タンク内の蒸気は通路を通過して、外部へと流出することができる。一方、燃料の液位が高くなり、燃料が通路内に進入する場合には、フロートが燃料中で浮力を受けて上方へと移動し、弁座に着座して通路を閉塞する。これにより、燃料の外部への流出が防止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−71861号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
以上のような燃料タンク用弁装置のケーシング及びフロートは、樹脂で構成されることがあるが、樹脂製のケーシング及びフロートは、ガソリンや軽油等の石油系燃料を含む有機溶剤に浸漬された際に膨潤するという問題がある。膨潤とは、固体化した樹脂の高分子鎖間に有機溶剤(燃料)が浸透し、体積が膨張する現象をいう。ケーシングやフロートが膨潤すると、フロートと通路内面とが接触及び干渉し、液位に応じた通路の開閉が阻害される。
【0005】
本発明は、以上の背景を鑑みてなされたものであって、燃料による膨潤を抑制することができる樹脂製の燃料タンク用弁装置及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、燃料タンク用弁装置(1)であって、燃料タンク(2)の上壁(3)に形成された開口(4)に取り付けられ、前記燃料タンクの内部と外部とを連通する通路(20)及び前記通路に設けられた弁座(16)を有する筒状のケーシング(6)と、前記ケーシングの前記通路内に上下方向に変位可能に支持され、前記通路内に流入する燃料から浮力を受けて上下動し、上方に移動したときに前記弁座に着座して前記通路を閉塞するフロート(7)とを有し、前記フロートは、単一の結晶性熱可塑性樹脂から成形され、径方向において、外周面部(33)、内周面部(34)及び前記外周面部と前記内周面部との間の中間部(35)を有する円筒部(22)を有し、前記外周面部及び前記内周面部のそれぞれは、前記径方向に配向した前記結晶性熱可塑性樹脂の結晶部を前記中間部よりも多く含むことを特徴とする。ここで、結晶性熱可塑性樹脂とは、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリアミド(PA)、ポリアセタール(POM)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の固化した際に高分子鎖が規則性をもって配列する結晶部を有する熱可塑性樹脂をいう。また、燃料とは、軽油やガソリン等の石油系燃料やエタノール等を含む炭化水素を主成分とする燃料をいう。
【0007】
この構成によれば、フロートの円筒部の外周面部及び内周面部に円筒形状の径方向に配向した結晶部が多く含まれるため、高分子鎖間の隙間にガソリン及び軽油等の燃料(有機溶剤)が進入し難く、膨潤が抑制される。
【0008】
本発明の他の側面は、燃料タンク用弁装置(1)のケーシング(6)内において、燃料から浮力を受けて上下動する円筒形状の樹脂成形体を有するフロート(7)の製造方法であって、円筒形状のキャビティ(50)と、前記キャビティを軸線方向から縮小させる可動部材(43)とを有する成形型(40)を準備する工程と、前記キャビティに溶融した前記結晶性熱可塑性樹脂を充填する工程と、前記可動部材を変位させ、前記キャビティに充填した前記結晶性熱可塑性樹脂を、前記軸線方向から加圧し、前記外周面部及び前記内周面部のそれぞれの前記結晶部を前記径方向に配向させる工程と、加圧を維持したまま前記結晶性熱可塑性樹脂を固化させる工程とを有することを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、フロートの円筒部の外周面部及び内周面部に径方向に配向する結晶部を多く含ませることができる。
【0010】
本発明の他の側面は、前記キャビティに溶融した前記結晶性熱可塑性樹脂を充填する工程の後に、所定の圧縮開始遅延時間の間放置する工程を更に有し、その後、前記可動部材を変位させ、前記キャビティに充填した前記結晶性熱可塑性樹脂を、前記軸線方向から加圧する工程を有することを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、可動部材による加圧が開始される前に、キャビティ表面近傍にある樹脂をより低温化することができ、可動部材による加圧が行われた際に外周面部及び内周面部にある結晶部を径方向により確実に配向させることができる。
【0012】
本発明の他の側面は、有機溶剤に浸漬される条件下で使用される円筒部(22)を備えた樹脂成形体(7)であって、単一の結晶性熱可塑性樹脂から成形され、前記円筒部の径方向において、外周面部(33)と、内周面部(34)と、前記外周面部と前記内周面部との間の中間部(35)とを有し、前記外周面部及び前記内周面部のそれぞれは、前記径方向に配向した前記結晶性熱可塑性樹脂の結晶部を前記中間部よりも多く含むことを特徴とする。ここで、有機溶剤とは、ガソリンや軽油等の石油系燃料や、アルコール等を含む炭化水素系溶剤をいう。
【0013】
この構成によれば、樹脂成形体の円筒部の外周面部及び内周面部に円筒部の径方向に配向した結晶部が多く含まれるため、高分子鎖間の隙間に有機溶剤が進入し難く、膨潤が抑制される。
【発明の効果】
【0014】
以上の構成によれば、燃料(有機溶剤)による膨潤を抑制することができる樹脂製の燃料タンク用弁装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】燃料タンク用弁装置の断面図
【図2】燃料タンク用弁装置のフロートの斜視図
【図3】フロートの円筒部を示す模式的断面図
【図4】フロートの成形型の断面図
【図5】フロートの成形工程を示す図
【図6】フロートの成形工程を示す図
【図7】フロートの外周面部及び中間部のX線回折解析の結果を表すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明を自動車の燃料タンクに設けられる弁装置に適用した実施形態について説明する。
【0017】
図1に示すように、弁装置1は、自動車の燃料タンク2の上壁3に形成された貫通孔である取付孔4に取り付けられる。燃料タンク2は、例えば高密度ポリエチレン等の樹脂や金属から形成されている。
【0018】
弁装置1は、ケーシング6と、ケーシング6に支持されるフロート7とを有している。ケーシング6は、第1ケーシング8と、第2ケーシング9とを組み合わせて構成されている。第1ケーシング8及び第2ケーシング9は、樹脂材料から形成されている。樹脂材料は、熱可塑性樹脂であることが好ましく、結晶性熱可塑性樹脂であることがより好ましい。本実施形態では、第1ケーシング8及び第2ケーシング9は、ポリアセタールから形成されている。
【0019】
第1ケーシング8は、一端が端板11によって閉塞される一方、他端が開口した円筒部12を有している。円筒部12の端板11側の端部には、径方向外方に延出したフランジ13が形成されている。端板11の中心部には、円筒部12の軸線に沿って円筒部12側と異なる側に延出した接続管14が突設されている。接続管14は、長手方向における中間部分で略直角に屈曲されL字状となっている。接続管14の内部に形成された管路15は、端板11を貫通し、円筒部12の内部と連通している。端板11の円筒部12側を向く面の中心部分には管路15が開口しており、その開口端はテーパ状に拡径されて弁座16を形成している。
【0020】
第2ケーシング9は、一端に底板17を有する一方、他端が開口した円筒形状を呈する。底板17の中心部には、貫通孔である通路孔18が形成されている。第2ケーシング9の内部に円筒部12の開口端を嵌め入れることによって、第2ケーシング9は第1ケーシング8に取り付けられる。第2ケーシング9と円筒部12とは、更に溶着等によって結合されてもよい。第2ケーシング9が第1ケーシング8に取り付けられた状態で、底板17が円筒部12の開口端を覆い、円筒部12の内部にフロート受容部19が画成される。第1ケーシング8及び第2ケーシング9からなるケーシング6は、通路孔18、フロート受容部19及び管路15からなる通路20を有している。
【0021】
図1及び2に示すように、フロート7は、軸線Aに沿って延在する円筒部22と、円筒部22の一端を閉塞する端板23とを有している。円筒部22の他端は開口している。端板23の外面側の中心部には、弁座16に着座して、管路15を閉塞可能な円錐状の弁体24が突設されている。また、端板23の適所には、端板23を貫通する複数の連通孔25が形成されている。フロート7は、結晶性熱可塑性樹脂から形成されており、本実施形態では、ポリアセタールから形成されている。
【0022】
図3に示すように、円筒部22の径方向において、外周面31を含む表層部を外周面部33、内周面32を含む表層部を内周面部34、外周面部33と内周面部34とに挟まれた部分を中間部35とする。なお、外周面部33、中間部35及び内周面部34の境界は、明確に現れるものではなく、材質が同じで内部構造が徐変したものである。外周面部33及び内周面部34は、円筒部22の径方向に配向した結晶部を多く含む。外周面部33及び内周面部34が、単位体積当たりに含む円筒部22の径方向に配向した結晶部の割合は、中間部35よりも多くなっている。
【0023】
フロート7は、円筒部22の軸線Aが第1ケーシング8の円筒部12の軸線と略平行となり、弁体24が弁座16に対向する姿勢で、フロート受容部19に受容される。フロート7は、フロート受容部19に受容された状態で、円筒部12の軸線方向に移動(変位)可能となっており、弁体24が弁座16に着座して管路15(通路20)を閉塞する位置と、弁体24が弁座16から離れて管路15(通路20)を開く位置とをとることができる。
【0024】
弁装置1は、第1ケーシング8の円筒部12が、燃料タンク2の取付孔4に挿入され、フランジ13が上壁3の外面に当接する姿勢で燃料タンク2に取り付けられる。これにより、取付孔4はケーシング6に閉塞され、燃料タンク2の内部と外部はケーシング6の通路20を介して連通される。フランジ13は、上壁3の取付孔4の周縁部に溶着される。他の実施形態では、フランジ13と上壁3との結合は、接着剤を利用してもよい。また、フランジ13及び上壁3に雄ねじ又は雌ねじを形成し、それらを螺合させるようにしてもよい。弁装置1が燃料タンク2に取り付けられた状態で、円筒部12及び円筒部22の軸線は略上下方向に延在し、フロート7は、フロート受容部19内を上下動可能となっている。接続管14の外端は、図示しないキャニスタに接続される接続ホース27に接続されている。
【0025】
以上のように構成した弁装置1の動作について説明する。燃料タンク2内のガソリンの液位が低く、ガソリンがケーシング6まで達していない場合には、フロート7はケーシング6の底板17上に支持されている。すなわち、フロート7はフロート受容部19内において、下方に位置し、弁体24が弁座16から離間している。この状態では、管路15(通路20)が開かれており、燃料タンク2内のガソリンの蒸気は、通路孔18、フロート7の円筒部22の内部、連通孔25、フロート受容部19、管路15を通過して、接続ホース27へと流れることができる。すなわち、ガソリンの蒸気は、通路20を通過して燃料タンク2の内部から接続ホース27へと流れることができる。
【0026】
燃料タンク2内のガソリンの液位が高くなり、ガソリンが通路20を通過してフロート受容部19内に進入する場合には、ガソリンの液位に応じてフロート7がガソリンから浮力を受け、フロート受容部19内を上方へと移動する。そして、ガソリンの液位が所定の高さになったときに、弁体24が弁座16に着座し、管路15(通路20)が閉塞される。これにより、通路20を通過してガソリンの液体及び蒸気が燃料タンク2内から通路20を通過して接続ホース27へと流れることが禁止される。
【0027】
フロート7の比重がガソリンに対して大きい場合には、底板17と端板23との間に圧縮コイルばねを介装し、フロート7の上方への移動を補助するようにしてもよい。
【0028】
フロート7は、外周面部33及び内周面部34に、円筒部22の径方向に配向した結晶部を多く含むため、ガソリンが円筒部22の高分子鎖に侵入し難くなっている。そのため、円筒部22の径方向における膨潤率を低くすることができる。ここで、円筒部22の径方向における膨潤率とは、ガソリンへの浸漬によって円筒部22が径方向に膨張した割合をいい、浸漬後の円筒部22の外径から浸漬前の円筒部22の外径を引いた値を、浸漬前の円筒部22の外径で除した値(%)をいう。
【0029】
次に、フロート7の製造方法について説明する。フロート7は、射出圧縮成形法を用いて成形される。図4は、フロート7の成形に用いる成形型40を示している。成形型40は、第1成形型41と、第2成形型42と、第2成形型42に組み込まれた可動部材43とからなる。
【0030】
第1成形型41は、フロート7の円筒部22の外周面31(図1及び2参照)、端板23の外面及び弁体24に対応する凹部44を有している。凹部44は、フロート7の軸線Aに対応する軸線Bを有している。凹部44の底部には、樹脂を供給するための樹脂供給路45(ゲート、ランナー及びスプルーを含む)が形成されている。なお、図示しないが、凹部44の底部には、フロート7の連通孔25に対応した形状が形成されている。
【0031】
第2成形型42は、第1成形型41の凹部44に突入し、フロート7の円筒部22の内周面32(図1参照)及び端板23の内面に対応する円柱状の凸部47を有している。凸部47は、軸線Bと同軸となっている。第2成形型42は、成形する樹脂の冷却効果を高めるため、例えばベリリウム銅合金といった熱伝導率が高い金属から形成されていることが好ましい。また、他の実施形態では、冷却効果をより高めるべく、凸部47の内側に冷却管を設けてもよい。
【0032】
また、第2成形型42には、フロート7の円筒部22の開口端端面に対応する部分に円環状の可動部材43が設けられている。可動部材43には第2成形型42を貫通して軸線Bと平行に延びるアーム部49が設けられており、アーム部49を押圧することによって可動部材43を第2成形型42に対して軸線B方向に変位させることができる。これにより、可動部材43は、成形されるフロート7の円筒部22の軸線A方向に変位可能となっている。
【0033】
第1成形型41と、可動部材43が取り付けられた第2成形型42とを組み合わせることによって、第1成形型41、第2成形型42及び可動部材43によってフロート7の形状に対応したキャビティ50が画成される。キャビティ50の円筒部22の開口端に対応する部分は、可動部材43の変位によって軸線B方向に縮小される。
【0034】
フロート7を成形する際には、最初に、第1成形型41と、可動部材43が取り付けられた第2成形型42とを組み合わせて、キャビティ50を形成し、図5に示すように、樹脂供給路45を介してキャビティ50に溶融した結晶性熱可塑性樹脂を充填する。樹脂の充填は、図示しない射出装置を用いて行われる。樹脂の充填が完了すると、樹脂供給路45を閉塞し、樹脂の逆流を禁止する。
【0035】
次に、樹脂の充填が完了してから圧縮開始遅延時間として15秒以内の時間放置した後に、図6に示すように、アーム部49を押圧し、可動部材43を軸線B方向に変位させる。なお、樹脂の射出(充填)中に圧縮を開始してもよい。これにより、キャビティ50に充填された樹脂は、軸線B方向に加圧(圧縮)される。このときの樹脂の圧力は、60MPa以上であり、円筒部22に対応する部分を軸線B方向に3%以上圧縮する。
【0036】
次に、可動部材43の位置を保持したまま、すなわち可動部材43による樹脂の加圧を維持したまま、15〜85秒放冷し、樹脂を固化させる。樹脂が固化した後に、可動部材43による加圧を止め、第1成形型41及び第2成形型42から固化した樹脂を取り出し、樹脂供給路45に対応する部分を取り除く。これにより、フロート7が完成する。
【0037】
以上のように形成したフロート7の円筒部22は、外周面部33及び内周面部34において、中間部35よりも円筒部22の径方向に配向した結晶部を多く含む。これは、キャビティ50内に充填した後の樹脂を、円筒部22の軸線方向から加圧したことに起因する。キャビティ50に充填された樹脂は、キャビティ50の表面に接触する部分から冷却されるため、円筒部22の外周面部33及び内周面部34は、中間部35に比べて温度が低くなり、結晶化及び固化が始まる。この状態で、円筒部22の軸線A方向から加圧されると、外周面部33及び内周面部34は、軸線A方向と直交する仮想平面に沿う方向に逃げようとする。このとき、中間部35は外周面部33及び内周面部34に比べて温度が高く、粘度が低いため、外周面部33及び内周面部34は中間部35が存在する方向、すなわち円筒部22の径方向へと逃げ、高分子鎖が径方向に延び、結晶部が径方向に配向する。樹脂をキャビティ50に充填した後、圧縮開始遅延時間の間放置することによって、外周面部33及び内周面部34と中間部35との間の温度差はより大きくなるため、粘度差が大きくなり、外周面部33及び内周面部34は円筒部22の径方向に配向した結晶部をより多く含むようになる。配向した結晶部が含まれる外周面部33及び内周面部34は、そのまま加圧された状態で冷却され、固化するため、固化が完了した後も配向した結晶構造が維持される。一方、中間部35は、加圧されたときに外周面部33及び内周面部34に比べて温度が高く、粘性が低いため、結晶部が一の方向に配向することはなく、ランダムな方向に配向する。
【0038】
また、可動部材43による樹脂の加圧によって、成形後のフロート7は、ボイド及びヒケが低減される。また、可動部材43による樹脂の加圧を行いながら、樹脂の固化を行うと、ヒケが発生しないため、樹脂がキャビティ50の表面に密着し、外周面部33及び内周面部34の冷却がより効率的に行われる。これにより、外周面部33及び内周面部34と中間部35との間で温度勾配がより大きくなるため、外周面部33及び内周面部34には、円筒部22の径方向に配向した結晶部がより多く含まれるようになる。また、冷却効果の向上により、成形時間(冷却時間)の短縮が図れる。その他、円筒部22の径方向における厚みが均一となる。
【実施例】
【0039】
以下に、上記実施形態のフロート7の実施例を示す。実施例では、樹脂は、ポリアセタール樹脂(POM98%以上、安定剤他2%以下)とした。実施例での成形条件は、上述した成形型40を使用し、樹脂温度を200℃、第1成形型41の温度を45℃、射出圧を100MPa、射出時間を8秒、圧縮開始遅延時間を6秒、圧縮後保圧を60MPa、圧縮量(軸線B方向における圧縮長さ)を3%、加圧状態での冷却時間を60秒とした。比較例では、可動部材43による加圧(圧縮)を行わず、保圧を100MPaとし、冷却時間を60秒とした。比較例での他の条件は実施例と同様である。
【0040】
以上のように、作成した実施例及び比較例の結果について示す。図7は、実施例の外周面部33及び中間部35のX線結晶構造解析の結果を示す図である。X線結晶構造解析は、X線解析装置 D8 Discovery with GADDS(BRUKER社)を使用し、透過法により、X線波長1.542Å(CuK α)、X線管電流110mA、X線管電圧45kV、コリメータ径φ500μmとして測定を行った。図7に示すように、中間部35の結果を示すグラフ100には、特定のピークは確認されない。これは、中間部35に含まれる結晶部が特定の配向性を有さないことを示している。一方、外周面部33の結果を示すグラフ101には、−100〜−100°度にピークが現れている。これは、外周面部33に含まれる結晶部が円筒部22の径方向に配向していることを表している。
【0041】
次に、実施例及び比較例に係るフロート7のガソリン浸漬試験を行った。試験は、実施例及び比較例に係るフロート7を、60℃のガソリンに168時間浸漬することによって行い、浸漬の前後で各フロート7の寸法(円筒部22の軸線方向長さ及び外径)を測定し、膨潤率を確認した。膨潤率は、浸漬後の寸法から浸漬前の寸法を引いた値を浸漬前の寸法で除した値(%)であり、円筒部22の軸線方向と、円筒部22の径方向との2方向において確認した。結果、実施例及び比較例に係るフロート7で、円筒部22の軸線方向における膨潤率は差がないことが確認された。一方、実施例に係るフロート7の円筒部22の径方向における膨潤率は0.60%であり、比較例に係るフロート7の円筒部22の径方向における膨潤率は1.40%であることが確認された。すなわち、円筒部22の径方向における膨潤率は、実施例に係るフロート7が比較例に係るフロート7の半分以下となることが確認された。
【0042】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。例えば、フロート7の形状は例示であって、他の様々な形状を適用することができる。また、他の実施形態では、第1ケーシング8及び第2ケーシング9の成形に、実施形態に係るフロート7の成形法を適用してもよい。
【符号の説明】
【0043】
1…弁装置、2…燃料タンク、3…上壁、4…取付孔、6…ケーシング、7…フロート、8…第1ケーシング、9…第2ケーシング、15…管路、16…弁座、18…通路孔、19…フロート受容部、20…通路、22…円筒部、4…弁体、25…連通孔、31…外周面、32…内周面、33…外周面部、34…内周面部、35…中間部、40…成形型、41…第1成形型、42…第2成形型、43…可動部材、44…凹部、45…樹脂供給路、47…凸部、49…アーム部、50…キャビティ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料タンク用弁装置であって、
燃料タンクの上壁に形成された開口に取り付けられ、前記燃料タンクの内部と外部とを連通する通路及び前記通路に設けられた弁座を有する筒状のケーシングと、
前記ケーシングの前記通路内に上下方向に変位可能に支持され、前記通路内に流入する燃料から浮力を受けて上下動し、上方に移動したときに前記弁座に着座して前記通路を閉塞するフロートと
を有し、
前記フロートは、単一の結晶性熱可塑性樹脂から成形され、径方向において、外周面部、内周面部及び前記外周面部と前記内周面部との間の中間部を有する円筒部を有し、
前記外周面部及び前記内周面部のそれぞれは、前記径方向に配向した前記結晶性熱可塑性樹脂の結晶部を前記中間部よりも多く含むことを特徴とする燃料タンク用弁装置。
【請求項2】
燃料タンク用弁装置のケーシング内において、燃料から浮力を受けて上下動する円筒形状の樹脂成形体を有するフロートの製造方法であって、
円筒形状のキャビティと、前記キャビティを軸線方向から縮小させる可動部材とを有する成形型を準備する工程と、
前記キャビティに溶融した前記結晶性熱可塑性樹脂を充填する工程と、
前記可動部材を変位させ、前記キャビティに充填した前記結晶性熱可塑性樹脂を、前記軸線方向から加圧し、前記外周面部及び前記内周面部のそれぞれの前記結晶部を前記径方向に配向させる工程と、
加圧を維持したまま前記結晶性熱可塑性樹脂を固化させる工程と
を有することを特徴とするフロートの製造方法。
【請求項3】
前記キャビティに溶融した前記結晶性熱可塑性樹脂を充填する工程の後に、所定の圧縮開始遅延時間の間放置する工程を更に有し、その後、前記可動部材を変位させ、前記キャビティに充填した前記結晶性熱可塑性樹脂を、前記軸線方向から加圧する工程を有することを特徴とする請求項2に記載のフロートの製造方法。
【請求項4】
有機溶剤に浸漬される条件下で使用される円筒部を備えた樹脂成形体であって、
単一の結晶性熱可塑性樹脂から成形され、
前記円筒部の径方向において、外周面部と、内周面部と、前記外周面部と前記内周面部との間の中間部とを有し、
前記外周面部及び前記内周面部のそれぞれは、前記径方向に配向した前記結晶性熱可塑性樹脂の結晶部を前記中間部よりも多く含むことを特徴とする樹脂成形体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−99991(P2013−99991A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−244255(P2011−244255)
【出願日】平成23年11月8日(2011.11.8)
【出願人】(000135209)株式会社ニフコ (972)
【Fターム(参考)】