説明

燃料チャンネルボックスおよびその製造方法

【課題】 簡易な構成で燃料チャンネルボックスへの水素吸収を抑制する。
【解決手段】 燃料チャンネルボックス1は、ジルコニウム合金を角筒形状に形成したジ
ルコニウム合金部材2と、このジルコニウム合金部材2の表面の一部または全部に形成さ
れたSiC被膜3とを備え、SiC被膜3は、SiCの前躯体となるポリカルボシランを
ヘキサン中に溶解させ、SiC粉末を懸濁させたスラリー中にジルコニウム合金部材2を
導入した後に乾燥させるディップコーティング法工程によって形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、沸騰水型原子炉において内部に燃料集合体を収容する燃料チャンネルボック
スおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
沸騰水型原子力発電所では、燃料チャンネルボックス内に燃料集合体が収容される。燃
料チャンネルボックスは、燃料集合体と制御棒とが接触することを防ぐとともに、燃料集
合体の周囲を流れる炉水を整流する働きがある。燃料チャンネルボックスには、優れた耐
食性と小さな中性子吸収断面積からジルコニウム合金が適用される。
【0003】
ここで、プラント運転に伴い原子炉内の炉水が放射線によって分解され水素が発生する
ことが報告されている。この水素は、燃料チャンネルボックスの表面に接して水素化物を
形成し、燃料チャンネルボックスの強度を低下させる可能性がある。さらに近年の高燃焼
度運転に伴い、この水素の発生量が増加する可能性もある。したがって、燃料チャンネル
ボックスの水素吸収を抑制する技術が望まれる。
【0004】
そこで、燃料チャンネルボックスの表面に酸化被膜を形成して燃料チャンネルボックス
の水素吸収を抑制する技術が公開されている(例えば、特許文献1参照。)。さらに、燃
料チャンネルボックスの表面にフェライト被膜を形成して水素吸収を抑制する技術が公開
されている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4−285151号公報
【特許文献2】特開2009−92619号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した特許文献1に記載の技術は、酸素濃度の異なる雰囲気で燃料チ
ャンネルボックス表面に2層の酸化膜を形成しており、最終処理に複数回の熱処理を要し
製造コストが増大するおそれがある。また、上述した特許文献2に記載の技術は、金属イ
オン溶液、酸化剤溶液、PH調整剤等の複数の溶液を90℃程度に保ちながら燃料チャン
ネルボックスの表面に噴きつけてフェライト被膜を形成しており、同様に被膜形成処理が
煩雑であり製造コストが増大するおそれがある。
【0007】
そこで本発明は、より簡易な構成で水素吸収を抑制することができる燃料チャンネルボ
ックスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の燃料チャンネルボックスは、ジルコニウム合金を
角筒形状に形成したジルコニウム合金部材と、このジルコニウム合金部材の表面の一部ま
たは全部に形成されたSiC被膜とを備えることを特徴とする。
【0009】
さらに上記目的を達成するために、本発明の燃料チャンネルボックスの製造方法は、ジ
ルコニウム合金を角筒形状のジルコニウム合金部材に形成する工程と、SiCの前躯体と
なるポリカルボシランをヘキサン中に溶解させ、SiC粉末を懸濁させたスラリー中にジ
ルコニウム合金部材を導入した後に乾燥させて、ジルコニウム合金部材の表面にSiC被
膜を形成するディップコーティング法工程とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、より簡易な構成で燃料チャンネルボックスへの水素吸収を抑制するこ
とができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る燃料チャンネルボックスの長手方向に垂直な概略断面図。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る燃料チャンネルボックスの製造工程を示すフロー図。
【図3】本発明の第2の実施形態に係る燃料チャンネルボックスの製造工程を示すフロー図。
【図4】本発明の第3の実施形態に係る燃料チャンネルボックスの製造工程を示すフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を説明する。
【0013】
(第1の実施形態)
(構成)
以下、本発明の第1の実施形態に係る燃料チャンネルボックスについて図1および図2
を参照して説明する。図1は、本発明の第1の実施形態に係る燃料チャンネルボックスの
長手方向に垂直な概略断面図である。燃料チャンネルボックス1は、ジルコニウム合金部
材2と、SiC被膜3とから構成される。
【0014】
ジルコニウム合金部材2は、ジルコニウム合金を内部に燃料集合体を収容できる角筒形
状に形成することにより構成される。ジルコニウム合金は、ジルコニウムを主成分とする
合金であり、例えばジルカロイ4と呼ばれる、錫、鉄、クロム、ニッケルを含有し、残部
がジルコニウムからなる合金(Sn−Fe−Cr−Zr合金)や、ジルカロイ2と呼ばれ
る、錫、鉄、ニオブを含有し残部がジルコニウムからなる合金(Sn−Fe−Cr−Ni
−Zr合金)を適用することができる。ジルカロイ2およびジルカロイ4には製造時の不
可避的成分が含まれる場合もある。
【0015】
以下、燃料チャンネルボックス1の製造方法について説明する。図2は、本発明の第1
の実施形態に係る燃料チャンネルボックスの製造工程を示すフロー図である。図2に示す
ように、圧延工程21にてジルコニウム合金からなる2つの長方形板形状の板材2aを圧
延し、焼鈍工程22にて焼鈍した後に、成型加工工程23にて長手方向の断面がコの字型
になるように曲げ加工を施す。さらに、溶接工程24にて2つの板材2aの互いの辺を溶
接することによって角筒形状のジルコニウム合金部材2を形成する。さらに熱処理工程2
5にて組織や析出物を制御するための熱処理が行われる。さらに、表面を研磨し、表面の
凹凸を滑らかにする仕上げ工程を加えてもよい。
【0016】
さらに、ディップコーティング法工程26によってジルコニウム合金部材2の内外表面
にSiC被膜3を形成する。ディップコーティング法工程26では、まず熱分解によって
SiCの前躯体となるポリカルボシランをヘキサン中に溶解させ、SiC粉末を懸濁させ
たスラリー11を作製する。次に、スラリー11を収容したスラリー容器12内にジルコ
ニウム合金部材2を導入する。所定時間の後、スラリー容器12からジルコニウム合金部
材2を引き上げ、表面を200℃以上に加熱することでSiC被膜3を形成する。なお、
乾燥の際には、大気中加熱および真空中電子ビーム照射のいずれの方法を使用しても良い

【0017】
ジルコニウム合金部材2の内外表面に形成されたSiC被膜3は、主に燃焼集合体から
発生する水素がジルコニウム合金部材2に吸収されることを抑制する。結果、ジルコニウ
ム合金部材2に水素化物が形成されることによる燃料チャンネルボックス1の強度低下を
防止することができる。
【0018】
さらに、SiC被膜3の厚さは0.01μm以上、10μm以下とすることが望ましい
。これは、膜厚0.01μm未満ではジルコニウム合金部材2の表面の凹凸により、Si
C被膜3の連続性が破れるためであり、また、10μmを超えるとSiC被膜3とジルコ
ニウム合金部材2の密着性が低下するためである。
【0019】
(効果)
本発明の第1の実施形態によれば、ディップコーティング法工程26によって、SiC
被膜3をジルコニウム合金部材2の表面に簡易に形成することができ、燃料チャンネルボ
ックス1の水素吸収を抑制することができる。
【0020】
(第2の実施形態)
(構成)
以下、本発明の第2の実施形態に係る燃料チャンネルボックスについて図3を参照して
説明する。第1の実施形態に係る燃料チャンネルボックスの各部と同一部分には同一符号
を付し、同一の構成についての説明は省略する。
【0021】
図3は、本発明の第2の実施形態に係る燃料チャンネルボックスの製造工程を示すフロ
ー図である。第2の実施形態が第1の実施形態と異なる点は、ディップコーティング法工
程26に代えてスプレー法工程27によってSiC被膜3を形成する点である。
【0022】
ジルコニウム合金部材2は、図2に示す熱処理工程25の後、スプレー法工程27によ
って表面にSiC被膜3を形成する。スプレー法工程27では、まず熱分解によってSi
Cの前躯体となるポリカルボシランをヘキサン中に溶解させ、SiC粉末を懸濁させたス
ラリー11を作製する。次にスラリー11をスプレー器具13によってジルコニウム合金
部材2表面に塗付した後、表面を200℃以上に加熱して乾燥することによってSiC被
膜3を形成する。
【0023】
なお、乾燥の際には、大気中加熱および真空中電子ビーム照射のいずれの方法を使用し
ても良い。さらに乾燥工程をジルコニウム合金部材2の角筒形状の1面へのスラリー11
塗付終了毎に行うことによって、より膜厚で均一性が高いSiC被膜3を形成することが
できる。
【0024】
(効果)
本発明の第2の実施形態によれば、スプレー法工程27によって、SiC被膜3をジル
コニウム合金部材2の内外表面に簡易に形成することができ、燃料チャンネルボックス1
の水素吸収を抑制することができる。
【0025】
(第3の実施形態)
(構成)
以下、本発明の第3の実施形態に係る燃料チャンネルボックスについて図4を参照して
説明する。第1の実施形態に係る燃料チャンネルボックスの各部と同一部分には同一符号
を付し、同一の構成についての説明は省略する。
【0026】
図4は、本発明の第3の実施形態に係る燃料チャンネルボックスの製造工程を示すフロ
ー図である。第3の実施形態が第1の実施形態と異なる点は、ディップコーティング法工
程26に代えてCVD(Chemical Vapor Deposition)法工程
28によってSiC被膜3を形成する点である。CVD法工程28には、真空容器14が
用いられる。真空容器14は、真空条件下で反応ガスをガス導入口14aから内部に導入
し、ガス排出口14bから排出することができる容器である。
【0027】
ジルコニウム合金部材2は、図2に示す熱処理25工程の後、CVD法工程28によっ
て表面にSiC被膜3を形成する。CVD法工程28では、まずジルコニウム合金部材2
を真空装置14内に配置し、10−7Torr台の真空中で、ガス導入口14aから真空
装置14内にCガスとSiHガスを導入する。さらにジルコニウム合金部材2を
加熱することによって、ジルコニウム合金部材2の内外表面にCとSiHの化学
反応を生じさせ、SiC被膜3を形成する。CVD法工程28は、表面の化学反応によっ
て膜を形成するため、凹凸のある表面であっても均一な膜厚を形成でき、さらにジルコニ
ウム合金部材2表面に形成されるSiC被膜3の密度を高めることが可能となる。
【0028】
(効果)
本発明の第3の実施形態によれば、CVD法工程28によって、SiC被膜3をジルコ
ニウム合金部材2の表面に簡易に形成することができ、燃料チャンネルボックス1の水素
吸収を抑制することができる。
【0029】
なお、本発明の実施形態は上述した実施形態に限られないことは言うまでもない。例え
ば、燃料チャンネルボックス1の長さおよび幅、ならびに板材の厚みは、原子力プラント
の出力や運転年数によって適宜変更されうるものである。さらに、ジルコニウム合金部材
2の製造方法は、板材2aを断面をコの字に曲げ加工したものを2つ組み合わせて形成す
るだけでなく、4つの板材2aを互いの辺を溶接して形成してもよい。
【0030】
また、SiC被膜3はジルコニウム合金部材2の内外表面の全部に形成するだけでなく
、ジルコニウム合金部材2の表面の一部に形成してもよい。例えば、燃料チャンネルボッ
クス1は、内部に燃料集合体を収容するため内表面において水素に晒されやすい。そこで
、ジルコニウム合金部材2の内側表面のみに形成することによって、より効率よく水素吸
収を抑えることができる。
【符号の説明】
【0031】
1・・・燃料チャンネルボックス
2・・・ジルコニウム合金
2a・・・板材
3・・・SiC被膜
11・・・スラリー
12・・・スラリー容器
13・・・スプレー器具
14・・・真空装置
14a・・・ガス導入口
14b・・・ガス排出口
21・・・圧延工程
22・・・焼鈍工程
23・・・成型加工工程
24・・・溶接工程
25・・・熱処理工程
26・・・ディップコーティング法工程
27・・・スプレー法工程
28・・・CVD法工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジルコニウム合金を角筒形状に形成したジルコニウム合金部材と、
このジルコニウム合金部材の表面の一部または全部に形成されたSiC被膜とを備えるこ
とを特徴とする燃料チャンネルボックス。
【請求項2】
前記SiC被膜の厚みは、0.01μm以上、10μm以下であることを特徴とする請
求項1に記載の燃料チャンネルボックス。
【請求項3】
前記ジルコニウム合金部材は、2つの板材を長手方向の断面がコの字型となるように曲
げ加工を行い、この2つの板材を溶接して角筒形状を形成することを特徴とする請求項1
または請求項2に記載の燃料チャンネルボックス。
【請求項4】
ジルコニウム合金を角筒形状のジルコニウム合金部材に形成する工程と、
SiCの前躯体となるポリカルボシランをヘキサン中に溶解させ、SiC粉末を懸濁させ
たスラリー中に前記ジルコニウム合金部材を導入した後に乾燥させて、前記ジルコニウム
合金部材の表面にSiC被膜を形成するディップコーティング法工程とを備えることを特
徴とする燃料チャンネルボックスの製造方法。
【請求項5】
前記ディップコーティング法工程に代えて、
SiCの前躯体となるポリカルボシランをヘキサン中に溶解させ、SiC粉末を懸濁させ
たスラリーをスプレー器具によってジルコニウム合金部材2に塗付した後、表面を加熱し
て乾燥するスプレー法工程を備えることを特徴とする請求項4に記載の燃料チャンネルボ
ックスの製造方法。
【請求項6】
前記ディップコーティング法工程に代えて、
前記ジルコニウム合金部材を真空装置内に導入し、さらにこの真空装置内に真空中でC
ガスとSiHガスを導入し、前記ジルコニウム合金部材を加熱することによって前
記ジルコニウム合金部材の表面に前記SiC被膜を形成するCVD法工程を備えることを
特徴とする請求項4に記載の燃料チャンネルボックスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−79822(P2013−79822A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−218686(P2011−218686)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)