説明

燃料チューブ

【課題】複数の層を径方向に積層してなる燃料チューブ1において、コスト性、成形性、発泡品質を損なうことなく、チューブ1の導電性能の向上を図り、延いては、静電荷の蓄積によるスパークを防止する。
【解決手段】最内層4のみでなく該最内層4に隣接する内層5を導電性樹脂で形成するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
少なくとも三つの層を径方向に積層してなり且つ最内層が導電性を有する樹脂製の燃料チューブに関する技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来より、複数の層を径方向に積層してなる樹脂製の燃料チューブは知られている(例えば、特許文献1参照)。この燃料チューブでは、最内層を導電性樹脂で形成することで、最内層と燃料との摩擦により蓄積した電荷がスパークして燃料に引火するのを防止している。上記最内層を形成する導電性樹脂は、樹脂材に導電性フィラー混練して形成されている。
【0003】
上記燃料チューブは、通常、押出成形装置を用いて製造される(例えば、特許文献2参照)。この押出成形装置は、燃料チューブの層数に対応する三つの押出し成形機を備えている。各押出し成形機は、原料として投入されたペレット状の樹脂を、シリンダ内で加熱・溶融しながらスクリューにより混練して、シリンダーのヘッド部から吐出させる。この樹脂の加熱・溶融温度は、例えばシリンダーに設置されたヒータ等により制御される。各押出し成形機から吐出された溶融樹脂はそれぞれ、チューブ積層用のダイスへと導かれる。このチューブ積層用のダイスには、最内層流路、中間層流路、及び最外層流路が形成されていて、各流路を通過した溶融樹脂は、各流路の下流端に接続された合流流路で積層されてチューブ状に成形される。そうして、ダイスの合流流路を通過した後の製品チューブは冷却装置へと送られて所定温度に冷却された後、引取機へと送られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−54055号公報
【特許文献2】特開2008−105401号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述した押出成形による製造方法では、シリンダー内の溶融樹脂に対してスクリュー混練時に大きな剪断力が作用する。このため、最内層用の溶融樹脂に含まれる導電性フィラーが該剪断力により破壊されて、所望の導電性能(スパークを防止可能な導電性能)が得られない場合がある。
【0006】
そこで、スクリュー混練時に最内層用の溶融樹脂に作用する剪断力を低減するべく、以下の四つの方法が考えられる。
【0007】
第1の方法は、最内層用の樹脂の溶融温度を通常よりも高く設定する方法である。この方法によれば、最内層用の樹脂のシリンダー内における流動性を高めることができ、これにより、スクリュー混練時に該溶融樹脂に作用する剪断力を低減することができる。
【0008】
第2の方法は、中間層用の樹脂の溶融温度を通常よりも高く設定することで、間接的に最内層用の樹脂の溶融温度を高める方法である。この方法によれば、第1の方法と同様の理由により、スクリュー混練時に最内層用の溶融樹脂に作用する剪断力を低減することができる。
【0009】
第3の方法は、最内層用の樹脂の押出速度を通常よりも低く設定する方法である。この方法によれば、押出成形機のスクリュー回転数を低く設定することができるため、スクリュー混練時に最内層用の溶融樹脂に作用する剪断力を低減することができる。
【0010】
第4の方法は、ダイスの吐出部開口面積を通常よりも大きく設定する方法である。この方法によれば、最内層用の溶融樹脂に作用するダイス吐出部における吐出抵抗を低減することができ、これにより、該溶融樹脂に作用する剪断力を低減することができる。
【0011】
しかしながら、上記第1及び第2の方法では、溶融樹脂の流動性が高くなり過ぎてチューブの成形性が悪化したり、最内層用の樹脂の含有成分が高温により分解されて発泡が生じたりするという問題がある。また、上記第3の方法では、溶融樹脂の押出速度が低下するためにチューブの量産性(延いてはコスト性)が低下するという問題がある。また、上記第4の方法では、ダイスの吐出部開口面積を大きくしたために、引取機によるチューブの引取り速度が制限されて、第3の方法と同様に、チューブの量産性が低下するという問題がある。
【0012】
そこで、チューブの押出条件(溶融温度や押出速度等)に制限を設ける代わりに、導電層である最内層の厚みを大きくとることで、チューブの導電性能を向上させることが考えられる。しかし、最内層には通常、耐燃料性等の観点から比較的高価な樹脂が使用されるため、最内層の厚みを大きくとると、製品コストが増加するという問題がある。
【0013】
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、少なくとも三つの層を径方向に積層してなり且つ最内層である第1層が導電性を有する樹脂製の燃料チューブに対して、その構成に工夫を凝らすことで、コスト性、成形性、及び発泡品質を損なうことなく、チューブの導電性能の向上を図り、静電荷の蓄積によるスパークの発生を防止しようとすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的を達成するために、この発明では、最内層である第1層のみでなく該第1層に隣接する第2層を導電性樹脂で形成するようにした。
【0015】
具体的には、請求項1の発明では、少なくとも三つの層を径方向に積層してなり且つ最内層である第1層が導電性を有する樹脂製の燃料チューブを対象とする。
【0016】
そして、上記第1層に隣接してその径方向外側に積層された第2層がさらに導電性を有しているものとする。
【0017】
この構成によれば、最内層である第1層のみでなく、該第1層に隣接する第2層も導電性樹脂で形成するようにしたことで、第1層の導電性が低くてもチューブ全体として所望の導電性を確保して、静電荷の蓄積に起因したスパークの発生を防止することができる。
【0018】
したがって、第1層の導電性を向上させるためにチューブの押出条件(例えば、溶融温度、押出速度、吐出開口部面積等)に制限を設ける必要がなくなり、この結果、押出条件の制限に起因して生じる発泡不良や成形不良を防止することができる。
【0019】
また、第2層を導電性樹脂で形成するようにしたことで、比較例高価な樹脂が使用される第1層を極力薄く形成することができ、これにより、製品コストの増加を抑制することができる。
【0020】
請求項2の発明では、請求項1の発明において、上記第1層を形成する樹脂は、溶融時の樹脂流動性が悪い樹脂であるものとする。
【0021】
この構成によれば、第1層を形成する樹脂の樹脂流動性が低いため、押出し成形時(スクリュー混練時)に第1層に作用する剪断力が大きくなる。このため、第1層に含まれる導電材が該剪断力により破壊され易くなり、結果として、第1層の導電性が低くなってしまう。本発明は、このように第1層の導電性が低くなる場合でも、第2層を導電性樹脂で形成することで、チューブ全体として所望の導電性を確保して、静電荷の蓄積によるスパークの発生を確実に抑制することができる。ここで、「第1層を形成する樹脂の溶融時の樹脂流動性が悪い」とは、例えば、第2層と比較して溶融時の樹脂流動性が悪いことを意味する。
【0022】
請求項3の発明では、請求項1の発明において、上記第2層の電気抵抗値が上記第1層の電気抵抗値よりも低いものとする。
【0023】
この構成によれば、第2層の電気抵抗値を第1層の電気抵抗値よりも低くすることで、第1層の電気抵抗値が高くても、チューブ全体として所望の導電性を確保することができる。したがって、第1層の電気抵抗値を下げるために比較的高価な樹脂材が必要な第1層の厚み増やす必要がなくなる。よって、チューブの製品コストの増加を抑制することができる。また、第1層に配合される導電性フィラーの量を極力低減することができ、これにより、導電性フィラーの配合量が多くなり過ぎてチューブの強度及び耐衝撃性が低下するのを防止することができる。尚、本明細書において、「電気抵抗値」の語は、体積電気抵抗値を意味していて表面電気抵抗値とは区別して用いている。
【0024】
請求項4の発明では、請求項1乃至3のいずれか一つの発明において、上記第1層を形成する樹脂の耐燃料性が、上記第2層を形成する樹脂の耐燃料性よりも優れているものとする。
【0025】
この構成によれば、第1層の耐燃料性が高いため、第1層の燃料接触による経年劣化に伴う電気抵抗値の低下を抑制することができる。よって、第1層の製造初期の電気抵抗値を、その後の経年劣化による低下を見越して予め高く設定する必要もない。よって、第1層の導電性を向上させるためにチューブの押出条件に制限を設ける必要がなくなるため、請求項1の発明と同様の作用効果をより一層確実に得ることができる。
【0026】
また、第1層に耐燃料性に優れた導電性樹脂を採用することで、チューブの膨潤による寸法変化を抑制し、延いては、導電性の低下も抑制することができる。
【0027】
請求項5の発明では、請求項1乃至4のいずれか一つの発明において、最外層を形成する樹脂は非導電性樹脂であるものとする。
【0028】
この構成によれば、チューブの機械特性(例えば、耐衝撃性)を向上させることができる。すなわち、チューブの最外層には、他部品との接触による破損を防止する観点から優れた機械特性が要求されるが、最外層に導電性樹脂を採用した場合、最外層を形成する樹脂にカーボンブラック等の導電性フィラー等を混練する必要があり、この結果、最外層の機械特性が悪化するという問題がある。これに対して、本請求項5の発明では、最外層を非導電性樹脂で形成するようにしたことで、チューブの最外層に要求される高い機械特性を満足させることができる。
【0029】
また、本請求項5の発明では、最外層を非導電性樹脂で形成するようにしたことで、最外層を導電性樹脂で形成した場合に比べて、チューブ全体に占める導電性樹脂の体積比率を低減して、チューブの低コスト化を図ることができる。
【0030】
請求項6の発明では、請求項1乃至5のいずれか一つの発明において、上記第2層を形成する樹脂はナイロン系樹脂であるものとする。
【0031】
請求項7の発明では、請求項6の発明において、上記ナイロン系樹脂は、PA12又はPA11であるものとする。
【0032】
請求項6及び請求項7の発明によれば、上記第2層を比較的安価なナイロン系樹脂(例えばPA12又はPA11)で形成することで、燃料チューブの製造コストを低減することができる。
【0033】
請求項8の発明では、請求項1乃至7のいずれか一つの発明において、上記第1層は、導電性を有するフッ素系樹脂からなるものとする。
【0034】
この構成によれば、最内層(第1層)を構成する樹脂としてフッ素系樹脂を採用するようにしたことで、アルコール燃料等に対する耐燃料性(耐久性、耐腐食性等)を向上させることができる。さらに、フッ素系樹脂は、ガソリンが酸化されて生成するサワーガソリンに対する耐性にも優れているため、燃料チューブの耐サワーガソリン性を向上させることができる。
【0035】
請求項9の発明では、請求項8の発明において、上記第1層を形成するフッ素系樹脂は、以下のA群から選ばれる少なくとも1種を含む重合体又はその官能基変性体からなるものとする。
A群:テトラフルオロエチレンの単量体、クロロトリフルオロエチレンの単量体、パーフルオロアルキルビニルエーテルの単量体
【0036】
この構成によれば、上記第1層を形成するフッ素系樹脂の溶融時における樹脂流動性が非常に低いため、押出し成形時(スクリュー混練時)における樹脂流動性も非常に低い。このため、本請求項9の発明に係る燃料チューブでは、押出成形時に第1層に大きな剪断力が作用して導電性フィラーが破壊され易く、この結果、第1層の導電性が低くなってしまう。本発明は、このように、第1層の導電性が低い場合でも、第2層を導電性樹脂で形成することでチューブ全体として所望の導電性を確保できる点で有用である。
【0037】
請求項10の発明では、請求項9の発明において、上記第1層を形成するフッ素系樹脂は、テトラフルオロエチレンの単量体とクロロトリフルオロエチレンの単量体とパーフルオロアルキルビニルエーテルの単量体との重合体又はその官能基変性体からなるものとする。
【0038】
この構成によれば、上記第1層を形成するフッ素系樹脂が、請求項9で挙げたフッ素系樹脂の中でも特に樹脂流動性の低い樹脂で形成されている。本発明は、このような燃料チューブに対して特に有用である。
【0039】
請求項11の発明では、請求項1乃至10のいずれか一つの発明において、最外層と上記第2層との間に位置し、耐燃料透過性を有するバリア層をさらに有しているものとする。
【0040】
この構成によれば、最外層と上記第2層との間に、耐燃料透過性を有するバリア層を配置するようにしたことで、バリア層の内側に、少なくとも上記第1層と上記第2層との二つの層を配置することができる。したがって、燃料通路内からチューブの厚さ方向に向かう揮発燃料の貫通力(透過力)を、この二つの層でもって弱めることができ、これにより、燃料通路からバリア層に到達する揮発燃料の量を低減することができる。延いては、揮発燃料がバリア層の外側に漏出するのを確実に防止して、燃料チューブの耐燃料透過性を高めることができる。
【0041】
請求項12の発明では、請求項11の発明において、上記バリア層は導電性を有するものとする。
【0042】
この構成によれば、バリア層を導電性樹脂で形成するようにしたことで、第1層及び第2層の導電性が低くてもチューブ全体として所望の導電性能を確保することができる。したがって、第1層及び第2層の導電性を向上させるために、チューブの押出し条件(例えば、各層の溶融温度、押出速度、吐出開口部面積等)に制限を設ける必要がなくなり、この結果、押出条件の制限に起因して生じる発泡不良や成形不良を防止することができる。
【発明の効果】
【0043】
以上説明したように、本発明の燃料チューブによると、最内層である第1層のみでなく該第1層に隣接する第2層を導電性樹脂で形成するようにしたことで、コスト性、成形性、及び発泡品質を損なうことなく、チューブの導電性能の向上を図り、静電荷の蓄積に起因したスパークの発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】燃料チューブを示す、その軸心に垂直な断面図である。
【図2】押出成形装置の概略を示す平面図である。
【図3】積層用ダイスを示す、その軸心に沿った断面図である。
【図4】実施形態2を示す図1相当図である。
【図5】燃料チューブの電気抵抗値の測定方法を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態に係る燃料チューブ1を示す。この燃料チューブ1(以下、単にチューブ1という)は、例えば、自動車の燃料注入配管と燃料タンクとの連絡、或いはエンジンへ燃料を送る連絡配管に用いられるものである。尚、このチューブ1は、液体燃料に限らず気体燃料にも使用することができる。
【0046】
上記チューブ1は、内径及び外径が一端側から他端側まで略一定である円管であって、径方向に積層された少なくとも三つの層で形成されている。
【0047】
上記チューブ1は、図1に示す例では、第1層としての最内層4と、該最内層4の外側に積層される第2層としての内層5と、該内層5の外側に積層された最外層6との三つの層で形成されている。
【0048】
上記最内層4は、燃料が通過する燃料通路8を形成している。最内層4の内周壁は、燃料通路8内を流れる燃料と直接接触するため、両者の摩擦により蓄積した静電荷がスパークして燃料に引火する虞がある。したがって、これを防止するために、最内層4は導電性を有する樹脂で形成されている。
【0049】
本実施形態では、最内層4は、樹脂に導電性フィラーを混練して形成されている。導電性フィラーとしては、例えば、金属、炭素等の導電性単体粉末、導電性単体繊維、酸化亜鉛等の導電性化合物の粉末、表面導電化処理粉末等が挙げられる。
【0050】
上記導電性単体粉末、導電性単体繊維としては、例えば、銅、ニッケル等の金属粉末、鉄、ステンレス等の金属繊維、カーボンブラック、炭素繊維、特開平3−174018号公報等に記載の炭素フィブリル等が挙げられる。上記表面導電化処理粉末は、ガラスビーズ、酸化チタン等の非導電性粉末の表面に導電化処理を施して得られる粉末である。上記導電化処理の方法としては、例えば、金属スパッタリング、無電解メッキ等が挙げられる。上述した導電性フィラーの中でも、カーボンブラックが経済性及び静電荷蓄積防止の観点から特に好ましい。
【0051】
また、上記最内層4に使用される樹脂は、直接燃料に接触するため、導電性に加えて燃料に対する耐性(耐燃料劣化性、耐燃料腐食性等)を有していることが好ましい。最内層用の樹脂としては、例えば、耐アルコール燃料性及び耐サワーガソリン性に優れたフッ素系樹脂を採用することができる。フッ素系樹脂は、PA樹脂よりも耐燃料透過性に優れていて、チューブ1の耐燃料透過性を向上させる観点からも好ましい。このフッ素系樹脂としては、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルエーテル共重合体(PFA)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、エチレン/クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、フッ化ビニリデン/クロロトリフルオロエチレン共重合体、クロロトリフルオロエチレン/テトラフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル/クロロトリフルオロエチレン共重合、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル/クロロジフルオロエチレン共重合、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル/ヘキサフルオロプロピレン共重合、ビニリデンフルオライド/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、エチレン/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン/ペンタフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/フッ化ビニリデン共重合体(THV)、フッ化ビニリデン/ペンタフルオロプロピレン/テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン/パーフルオロアルキルビニルエーテル/テトラフルオロエチレン共重合体等が挙げられ、少なくとも1種の含フッ素単量体から誘導される繰り返し単位を有する重合体であり、前記重合体を1種又は2種以上用いても構わない。
【0052】
さらに、上記フッ素系樹脂の分子構造を、PA樹脂と化学的に結合できるように官能基変性した分子構造体(例えば特開2008−100503に示す分子構造体であって、官能基変性体ともいう)にしてもよい。これにより、例えば、内層5がナイロン系樹脂の場合に最内層4と内層5との接着性を高めることができる。PA12との接着性に優れたフッ素系樹脂として、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体やクロロトリフルオロエチレン/テトラフルオロエチレン共重合体を採用することもでき、接着性を高めるために、前記含フッ素重合体に接着機能性官能基を備えることが好ましい。接着機能性官能基を備える場合には、接着機能性官能基を主鎖末端又は側鎖のいずれかに有する重合体からなるものであってもよいし、主鎖末端及び側鎖の両方に有する重合体からなるものであってもよい。主鎖末端に接着性機能性官能基を有する場合は、主鎖の両方の末端に有していてもよいし、いずれか一方の末端にのみ有していてもよい。
【0053】
接着機能性官能基は、反応性や極性を有する基で、例えばカルボキシル基、1分子中の2つのカルボキシル基が脱水縮合した残基(以下、カルボン酸無水物残基という。)、エポキシ基、ヒドロキシル基、イソシアネート基、エステル基、アミド基、アルデヒド基、アミノ基、カルボニル基、オキサゾリル基、グリシジル基、シラノール基、加水分解性シリル基、シアノ基、炭素−炭素二重結合、スルホン酸基及びエーテル基等が好ましいものとして挙げられる。この中でも、カルボキシル基、カルボン酸無水物残基、エポキシ基、加水分解性シリル基及び炭素−炭素二重結合が好ましく、エポキシ基、無水マレイン酸基、カルボニル基が特に好ましい。このような官能基は、含フッ素エチレン性単量体1分子中に異なる種類のものが2種類以上存在していても良く、また1分子中に2個以上存在していても良い。
【0054】
上記内層5は、最内層4と同様に、樹脂に導電性フィラーを混練して形成されている。導電性フィラーとしては、上述したように、例えばカーボンブラック等を使用することができる。
【0055】
内層用の樹脂としては、例えば比較的安価なナイロン系熱可塑性樹脂であることが好ましく、例えば、ポリアミド(PA)11、ポリアミド12、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド99、ポリアミド610、ポリアミド26、ポリアミド46、ポリアミド69、ポリアミド611、ポリアミド612、ポリアミド6T、ポリアミド6I、ポリアミド912、ポリアミドTMHT、ポリアミド9T、ポリアミド9I、ポリアミド9N、ポリアミド1010、ポリアミド1012、ポリアミド10T、ポリアミド10N、ポリアミド11T、ポリアミド11I、ポリアミド11N、ポリアミド1212、ポリアミド12T、ポリアミド12I、ポリアミド12N、ポリアミドMXD6、ポリアミドPACM12、ポリアミドジメチルPACM12等の脂肪族ポリアミドや芳香族ポリアミド等が挙げられ、少なくとも1種のポリアミドや、これらポリアミドの原料モノマーを数種用いた共重合体が挙げられる。これらは1種又は2種以上を用いることができる。チューブ本体2の耐熱性、機械的強度や、層間接着性の観点から、上記ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド46、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド6T、ポリアミド6N、ポリアミド9T、ポリアミド9N、ポリアミド12T、ポリアミド12Nが好ましく、この中でもポリアミド11、ポリアミド12がより一層好ましい。このように、内層用の樹脂としてPA樹脂を採用すれば、例えばチューブ1の端部にPA樹脂製のコネクタを溶接する場合に、内層5とコネクタとの接着性(溶着性)を高めることができて好ましい。尚、内層5と最外層7とを必ずしも同じ樹脂材で構成する必要はない。
【0056】
上記最外層は7は、耐薬品性、耐候性、柔軟性、強度、靱性等の観点から、例えば、PA11,PA12,PA6,PA66,PA99,PA610,PA6/66,PA6/12等のナイロン系樹脂で形成することが好ましく、この中でも、成形性及びコスト性に優れたPA12又はPA11がより好ましい。また、最外層用の樹脂としてPA樹脂を採用すれば、例えばチューブ1の端部にコネクタを溶接する場合に、最外層6とコネクタとの接着性(溶着性)を高めることができて好ましい。最外層6は導電性樹脂で形成してもよいし非導電性樹脂で形成してもよい。但し、最外層6を導電性樹脂で形成する場合には、最外層6にも導電性フィラーを混練する必要があるため、チューブ1全体としての導電性フィラーの含有量が多くなってしまう。この導電性フィラーの含有量が多過ぎると、チューブ1の強度や耐衝撃性が低下するとともに、押出成形時に溶融樹脂の流動性が悪化してチューブ1の成形精度が低下するという問題がある。したがって、チューブ1の強度、耐衝撃性及び成形性の観点から、最外層6は非導電性樹脂で形成することが好ましい。
【0057】
以上のように構成されたチューブ1は、押出成形装置30(図2参照)を使用して押出成形により製造される。押出成形装置30は、チューブ1の層の数に対応する数(本実施形態では三つ)の押出成形機21とダイス22と冷却装置23と引取機24と切断機25とを有している。
【0058】
押出成形機21は、ホッパ21aより投入されたペレット状の樹脂を、シリンダ26内で加熱・溶融しながらスクリュー27により混練して、シリンダ26のヘッド部から吐出させる。
【0059】
この樹脂の加熱・溶融温度は、例えばシリンダ26に設置されたヒータ等により制御される。各押出成形機21から吐出された溶融樹脂はそれぞれ、チューブ積層用のダイス22(図3参照)へと導かれる。このダイス22には、最内層流路31、内層流路32、及び最外層流路33が形成されていて、各流路31〜33を通過した溶融樹脂は、各流路31〜33の下流端に接続された合流流路34で積層されてチューブ状に成形される。そうして、ダイス22の合流流路34を通過した製品チューブ1は、冷却装置23へと送られて所定温度に冷却された後、引取機24へと送られて、最後に切断機25にて所定長さに切断される。尚、押出成形機21の数は、必ずしもチューブ1の層数と同じである必要はなく、例えば、押出成形機21を4機用意しておいてそのうち1機を停止させたり、そのうち2機に同材料を入れることによって3層を押し出したりするようにしてもよい。つまり、チューブ1の層の数以上の数の押出成形機21を使用してチューブ1を押出すようにしてもよい。
【0060】
ところで、上述した押出成形による製造方法では、シリンダ26内の溶融樹脂に対してスクリュー混練による大きな剪断力が作用する。このため、スクリュー混練時に、最内層用の溶融樹脂に含まれる導電性フィラーが該剪断力により破壊されて、所望の導電性能(スパークを防止可能な導電性能)を得られない場合がある。
【0061】
そこで、スクリュー混練により最内層用の溶融樹脂に作用する剪断力を低減するべく、以下の四つの方法が考えられる。
【0062】
第1の方法は、最内層用の樹脂の溶融温度を通常よりも高く設定する方法である。この方法によれば、最内層用の樹脂のシリンダ26内における流動性を高めることができ、これにより、スクリュー混練時に溶融樹脂に作用する剪断力を低減することができる。
【0063】
第2の方法は、中間層用の樹脂の溶融温度を通常よりも高く設定することで、間接的に最内層用の樹脂の溶融温度を高める方法である。この方法によれば、第1の方法と同様の理由により、スクリュー混練時に最内層用の樹脂に作用する剪断力を低減することができる。
【0064】
第3の方法は、最内層の押出速度を通常よりも低く設定する方法である。この方法によれば、押出成形機21のスクリュー回転数を低く設定することができるため、スクリュー混練時に最内層用の樹脂に作用する剪断力を低減することができる。
【0065】
第4の方法は、ダイス22の吐出部25の開口面積(以下、吐出部開口面積という)を通常よりも大きく設定する方法である。この方法によれば、吐出部25にて溶融樹脂に作用する吐出抵抗を低減することができるため、スクリュー混練時に最内層用の樹脂に作用する剪断力を低減することができる。
【0066】
しかしながら、上記第1及び第2の方法では、溶融樹脂の流動性が低くなり過ぎてチューブ1の成形性が悪化するという問題がある。また、上記第3の方法では、溶融樹脂の押出速度が低下するためにチューブ1の生産性(量産性)が低下するという問題がある。また、上記第4の方法では、ダイス22の吐出部開口面積を大きくしたために、引取機24によるチューブ1の引取り速度が制限されて、第3の方法と同様に、チューブ1の生産性が低下するという問題がある。
【0067】
そこで、チューブ1の押出条件(溶融温度や押出速度等)に制限を設ける代わりに、導電層である最内層4の厚みを大きくとることで、チューブ1の導電性能を向上させることが考えられる。しかし、最内層4には上述したようにフッ素系樹脂等の比較的効果な樹脂が使用されるため、最内層4の厚みを大きくとると、製品コストが増加するという問題がある。
【0068】
これに対して、上記実施形態1では、最内層4に加えて内層5も導電性樹脂で形成するようにしたことで、最内層4の厚みを増加させたり、押出成形条件に制限を設けたりすることなく、チューブ全体としての電気抵抗値を低く抑えることができる。
【0069】
すなわち、上記実施形態1では、内層5を導電性樹脂で形成するようにしたことで、最内層4の導電性が低くても、チューブ1全体として所望の導電性能(静電荷の蓄積に起因したスパークの発生を防止可能な導電性能)を確保できるため、最内層4の導電性を高めるために最内層4の厚みを大きくとったり、押出条件を制限して(上記第1〜第4の方法を採用して)スクリュー混練時における導電性フィラーの破壊を防止したりする必要もない。このため、押出条件の制限に起因したチューブ1の成形性及び生産性の低下や、最内層4を厚肉化することによる製品コストの増加等の問題を生じることなく、チューブ1の導電性を可及的に高めて、静電荷の蓄積に起因したスパークの発生を確実に防止することできる。
【0070】
(実施形態2)
図4は、チューブ1の積層構造を上記実施形態1とは異ならせたものである。すなわち、本実施形態では、チューブ1は、内層5と最外層6との間に耐燃料透過性に優れたバリア層7を配置した4層構造を有している。
【0071】
最内層4、内層5、及び最外層6の構成は上記実施形態1と同様である。また、チューブ1の製造方法については、押出成形機21が4機必要な点を除いて、実施形態1と同様であるため、これらの説明を省略し、以下ではバリア層7の構成について説明する。
【0072】
バリア層7は、主にチューブ1の周側面からの燃料漏れを防止する機能を有している。バリア層7は、最内層4及び内層5と同様に、導電性を有していることが好ましい。バリア層7に導電性を付与する場合には、樹脂に導電性フィラーを混練する等すればよい。この導電性フィラーとしては、上述したように例えばカーボンブラック等を使用することができる。
【0073】
バリア層7に使用される樹脂は、耐燃料透過性に優れた樹脂であればどのような樹脂で形成してもよく、例えば、上述のフッ素系樹脂や、上述のナイロン系樹脂から選択できるバリア性の高い樹脂、その他にエチレン/酢酸ビニル共重合体ケン化物(EVOH)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、ポリアリレート(PAR)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアセタール(POM)、ポリフェニレンオキシド(PPO)、ポリサルホン(PSF)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリチオエーテルサルホン(PTES)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアリルエーテルケトン(PAEK)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメタクリロニトリル、アクリロニトリル/スチレン共重合体、メタクリロニトリル/スチレン共重合体、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体(ABS)、メタクリロニトリル/スチレン/ブタジエン共重合体(MBS)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリメタクリル酸エチル(PEMA)、ポリにビルアルコール(PVA)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、熱可塑性ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリサルホン(PSU)、高密度ポリエチレン(HDPE)、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン/プロピレン共重合体(EPR)、エチレン/ブテン共重合体(EBR)、エチレン/酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン/アクリル酸共重合体(EAA)、エチレン/メタクリル酸共重合体(EMAA)、エチレン/アクリル酸メチル共重合体(EMA)、エチレン/メタクリル酸メチル共重合体(EMMA)、エチレン/アクリル酸エチル(EEA)等が挙げられ、これらは接着機能性官能基を有していても構わないし、1種又は2種以上が重合されていても構わない。さらに、チューブ1の耐熱性、機械的強度や、層間接着性の観点から、上述のフッ素系樹脂、ポリアミド46、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド612等のバリア性の高い脂肪族ポリアミドや、ポリアミド6T、ポリアミド6N、ポリアミド9T、ポリアミド9N、ポリアミド12T、ポリアミド12N等のバリア性の高い芳香族ポリアミドや、エチレン/酢酸ビニル共重合体ケン化物(EVOH)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)がより好ましく、この中でもフッ素系樹脂がより一層好ましい。
【0074】
以上の如く上記実施形態2では、最内層4のみでなく内層5を導電性樹脂で形成するようにしたことで、上記実施形態1と同様に、コスト性、生産性、及び成形性を損なうことなく、チューブ1の導電性能の向上を図り、静電荷の蓄積に起因したスパークの発生を防止することができる。
【0075】
また、上記実施形態2では、内層5と最外層6との間にバリア層7を設けるようにしたことで、実施形態1に比べて、チューブ1の耐燃料透過性を向上させることができる。
【0076】
(実施例及び比較例)
次に、具体的に実施した実施例(表1参照)について説明する。
【0077】
【表1】

【0078】
(実施例1)
実施例1では、チューブ1を3層構造として、最内層4をカーボンブラック(導電性フィラー)が12wt%の割合で添加された導電性の樹脂材料Iで形成している。ここで、樹脂材料Iは、テトラフルオロエチレンとパーフルオロアルキルビニルエーテルとクロロトリフルオロエチレンとの共重合体の官能基変性体である。また、実施例1では、内層5を、導電性フィラーが20wt%の割合で添加されたPA12(ダイセル・エボニック社製:商品名 ベスタミドLX9102:以下、導電性PA12という)で形成し、最外層6を非導電性PA12(ダイセル・エボニック社製:商品名 ベスタミドLX9011)で形成している。
【0079】
この実施例1では、最内層4の厚みを0.05mmとし、内層5の厚みを0.05mmとし、最外層6の厚みを0.9mmとした。
【0080】
また、実施例1において、押出成形時における最内層4、内層5、最外層6の溶融温度をそれぞれ、295℃、245℃、245℃に設定した。また、ダイス22の吐出部開口面積を140mmに設定し、チューブ1の押出速度を15m/minに設定した。
【0081】
(実施例2)
実施例2では、チューブ1は実施例1と同様に3層構造を有しているが、チューブ1の内層5の厚みを0.2mmとした点で実施例1とは異なっている。チューブ1の各層4〜6の構成材料やチューブ1の押出条件は上記実施例1と同様である。
【0082】
(実施例3)
実施例3では、チューブ1は実施例1と同様に3層構造を有しているが、ダイス22の吐出部開口面積を240mmとした点で実施例1とは異なっている。チューブ1の各層4〜6の構成材料及び厚み、並びに、吐出部開口面積以外のチューブ押出条件は上記実施例1と同様である。
【0083】
(実施例4)
実施例4では、チューブ1は実施例1と同様に3層構造を有しているが、チューブ1の押出速度を20m/minとした点で実施例1とは異なっている。チューブ1の各層4〜6の構成材料及び厚み、並びに、押出速度以外のチューブ押出条件は上記実施例1と同様である。
【0084】
(実施例5)
実施例5では、チューブ1は実施例1と同様に3層構造を有しているが、チューブ1の最内層4を、カーボンブラック(導電性フィラー)が5wt%の割合で添加されたETFE(ダイキン工業社製 商品名:ネオフロンETFE、以下、導電性ETFEという)で形成した点で実施例1とは異なっている。この導電性ETFEは、導電性フィラーの充填量を3wt%として通常よりも2〜17wt%少なくしたものである。その他の層5,6の構成材料、各層4〜6の厚み、及び、チューブ1の押出条件は上記実施例1と同様である。
【0085】
(実施例6)
実施例6では、チューブ1を4層構造として、内層5と最外層6との間にバリア層7を配置した点で実施例1とは異なっている。バリア層7は非導電性の樹脂材料Iで形成されている。このチューブ1では、内層4の厚みを0.05mmとし、内層5の厚みを0.05mmとし、バリア層7の厚みを0.1mmとし、最外層6の厚みを0.8mmとした。
【0086】
この実施例6において、押出成形時における最内層4、内層5、バリア層7、最外層6の押出温度(溶融温度)はそれぞれ、295℃、245℃、280℃、245℃に設定した。ダイス22の吐出部開口面積、チューブ1の押出速度はそれぞれ、実施例1と同様、140mm、15m/minに設定した。
【0087】
(実施例7)
実施例7では、チューブ1は実施例6と同様に4層構造を有しているが、チューブ1のバリア層7をEFEP(ダイキン工業社製 商品名:ネオフロンEFEP RP5000)で形成した点で実施例6とは異なっている。その他の層4〜6の構成材料及び各層4〜7の厚み、並びに、チューブ1の押出条件は実施例6と同様である。
【0088】
(実施例8)
実施例8では、チューブ1は実施例6と同様に4層構造を有しているが、チューブ1のバリア層7(樹脂材料I)を、実施例7の非導電性EFEPにカーボンブラック(導電性フィラー)を5wt%の割合で添加したもので形成した点で実施例6とは異なっている。その他の層4〜6の構成材料及び各層4〜7の厚み、並びに、チューブ1の押出条件は実施例6と同様である。
【0089】
次に、比較例(表2参照)について説明する。
【0090】
【表2】

【0091】
(比較例1)
比較例1では、チューブ1を二層構造として、最内層4を導電性樹脂材料Iで形成し、最外層6をPA12で形成している。各層4,5の押出温度(溶融温度)はそれぞれ、295℃、245℃であって実施例1と同様である。
【0092】
(比較例2)
比較例2では、チューブ1は比較例1と同様の二層構造を有しているが、最内層4の厚みを0.2mmとした点で比較例1とは異なっている。各層4,5の構成材料、並びにチューブ1の押出条件は比較例1と同様である。
【0093】
(比較例3)
比較例3では、チューブ1は比較例1と同様の二層構造を有しているが、押出成形時における最内層4の押出温度(溶融温度)を310℃とした点で比較例1とは異なっている。各層4,5の構成材料及び厚み、並びに、最内層4の押出温度以外の押出条件は比較例1と同様である。
【0094】
(比較例4)
比較例4では、チューブ1は比較例1と同様の二層構造を有しているが、押出成形時における最内層4の押出温度(溶融温度)を305℃とした点で比較例1とは異なっている。各層4,5の構成材料及び厚み、並びに、最内層4の押出温度以外の押出条件は比較例1と同様である。
【0095】
(比較例5)
比較例5では、チューブ1は比較例1と同様の二層構造を有しているが、押出成形時における最外層6の押出温度(溶融温度)を280℃とした点で比較例1とは異なっている。各層4,5の構成材料及び厚み、並びに、最外層6の押出温度以外の押出条件は比較例1と同様である。
【0096】
(比較例6)
比較例6では、チューブ1は比較例1と同様の二層構造を有しているが、吐出部開口面積を240mmとした点で比較例1とは異なっている。各層4,5の構成材料及び厚み、並びに、吐出部開口面積以外の押出条件は比較例1と同様である。
【0097】
(比較例7)
比較例7では、チューブ1は比較例1と同様の二層構造を有しているが、チューブ1の押出速度を7m/minとした点で比較例1とは異なっている。各層4,5の構成材料及び厚み、並びに、押出速度以外の押出条件は比較例1と同様である。
【0098】
(比較例8)
比較例8では、チューブ1は比較例1と同様の二層構造を有しているが、各層4〜7の厚さ及び押出条件が比較例1とは異なっている。すなわち、本比較例8では、最内層4の厚さを0.2mmとして、最外層6の厚さを0.8mmとしている。押出成形時の最内層4の押出温度(溶融温度)を305℃とし、最外層6の押出温度を280℃とし、吐出部開口面積を240mmとしている。
【0099】
(樹脂の溶融粘度について)
溶融樹脂の粘度は、例えばJIS K7210に定めるメルトフローレート(以下、MFRという)により表すことができる。MFRは、溶融樹脂の流動性を示す尺度の一つであって、押出式プラストメーターにより、所定の試験温度及び試験圧力の下、規定寸法を有するオリフィスから流出する溶融樹脂の質量流量(g/10min)を測定したものである。一般に、MFRが大きい樹脂ほど溶融時の樹脂流動性は高くなる。
【0100】
上記導電性樹脂材料Iの試験温度297℃、試験荷重49Nでのメルトフローレート(以下「MFR」という)は、7(g/10min)である。
【0101】
上記導電性PA12及び非導電性PA12の試験温度280℃、試験荷重21NでのMFRはそれぞれ、1.8(g/10min)、14(g/10min)である。
【0102】
上記導電性ETFE、導電性EFEP、非導電性樹脂材料I、及び非導電性EFEPの試験温度297度、試験荷重49NでのMFRはそれぞれ、10(g/10min)、10(g/10min)、20(g/10min)、30(g/10min)、50(g/10min)である。
【0103】
上記導電性樹脂材料Iは、導電性ETFE、導電性EFEP、非導電性樹脂材料I、及び非導電性EFEP等の他のフッ素系樹脂に比べて、MFR測定時の試験温度及び試験圧力が高いにも拘わらずMFRの値が7(g/min)と低く、溶融時の樹脂流動性が低い(悪い)ことがわかる。
【0104】
(性能評価)
各実施例及び比較例に係るチューブ1の性能評価は、電気抵抗測定値、表面電気抵抗値、発泡品質、押出安定性、及びコスト性の四つの観点から行った。これらの評価結果は表1及び表2に示されている。
【0105】
(電気抵抗測定値及び表面電気抵抗値)
電気抵抗測定値は、図5に示すように、試験用のチューブ1の両端部に250Vの電圧を印加した際に測定される電気抵抗値である。具体的には、チューブ1の両端部に銅ピン15を差し込んで、両銅ピン15間に電圧を印加した際の電気抵抗値を測定した。測定に用いた試験用のチューブ1は、内径6mm、外径8mm、チューブ長200mmである。電気抵抗値の測定には抵抗測定器50を使用した。
【0106】
表面電気抵抗値は、上記電気抵抗測定値を基に次式より算出される値である。
表面電気抵抗値(Ω/sq)=R(πd)/(L−2a)
【0107】
ここで、Lはチューブ長さであり、aはチューブ1への銅ピン15の差込み長さである(図5参照)。Rは抵抗測定器50による測定値であり、dはチューブ1の内径である。表面電気抵抗値は、例えば10以下(米国自動車技術協会SAE J2260規格)であることが好ましい。
【0108】
(発泡品質)
チューブ1をその軸心方向の任意の位置で切断して、チューブ1の軸心に垂直な断面に発泡が生じているか否かを目視で検査することで発泡品質を三段階で評価した。表1及び表2中の発泡品質の評価において、「○」は「良好(発泡無し)」、「△」は「やや悪い(僅かな発泡有り)」、「×」は「悪い(多数の発泡有り)」を意味している。
【0109】
(押出寸法安定性)
押出成形された製品チューブ1の径寸法(内径寸法及び外径寸法)を測定して、測定した径寸法と設計値との差を基に、チューブ1の押出安定性(成形性)を三段階で評価した。表1及び表2中の押出寸法安定性の評価において、「○」は「良好」、「△」は「やや悪い」、「×」は「悪い」を意味している。
【0110】
(コスト性)
チューブ1の材料費及び量産性(生産性)の観点から、チューブ1のコスト性を二段階で評価した。「○」は「良い」、「×」は「悪い」を意味している。
【0111】
表1及び表2に示す試験結果によれば、実施例1〜8では、チューブ1の導電性、発泡品質、押出安定性、及びコスト性の全てにおいて要件を満たしているのに対し、比較例1〜8では、これらのうち少なくとも一つが要件を満たしていないことがわかる。
【0112】
すなわち、比較例1のチューブ1では、表面電気抵抗値(=1×10(Ω/sq))が規定値(例えば1×10(Ω/sq))を大きく上回っていて、スパークの発生を防止できるだけの導電性を確保できなかった。
【0113】
比較例2は、最内層4の厚みを比較例1の4倍の0.20mmに増加させた例であるが、この場合、表面電気抵抗値(=2×10(Ω/sq))を比較例1よりも低下させることができたが、スパークを防止できるだけの導電性を確保することはできなかった。また、比較的高価な導電性樹脂材料Iを多く使用したためコスト性の面で要件を満足することができなかった。
【0114】
比較例3は、最内層用の樹脂の溶融温度を比較例1よりも高い310℃に設定した例(上記第1の方法の一例)であるが、この場合、表面電気抵抗値(=3×10(Ω/sq))を比較例1よりも低下させることができたが、スパークを防止できるだけの導電性を確保することはできなかった。また、最内層用の樹脂の溶融温度が高くなったことで、押出寸法安定性及び発泡品質の面で要件を満足することができなかった。
【0115】
比較例4は、最内層用の樹脂の溶融温度を比較例3よりもやや低い305℃に設定した例(上記第1の方法の例)であるが、この場合、比較例3に比べて、導電性及び発泡品質の面でやや改善が見られたがいずれも要件を満足するものではなかった。
【0116】
比較例5は、比較例1と比べて、最内層用の樹脂の溶融温度を同じ温度に維持したまま、最外層用の樹脂(最内層に隣接する樹脂)の溶融温度を280℃に高めた例(上記第2の方法の一例)である。この場合、発泡品質の要件を満足することができたが、押出寸法安定性の要件を満足することができなかった。また、表面電気抵抗値も規定値よりも高くなっており、スパークを防止できるだけの十分な導電性を確保することができなかった。
【0117】
比較例6は、ダイス22の吐出部開口面積を比較例1の略1.7倍の240mmに増加させた例(上記第4の方法の一例)であり、この場合、表面電気抵抗値(=8×10(Ω/sq))を実施例1よりも低下させることができたが、スパークを防止できるだけの導電性を確保することはできなかった。また、押出寸法安定性の要件を満たすことができかった。
【0118】
比較例7は、チューブ1の押出速度を比較例1の略半分に低下させた例(上記第3の一例)であり、この場合、表面電気抵抗値(=5×10(Ω/sq))を実施例1よりも低下させることができたが、スパークを防止できるだけの導電性を確保することはできなかった。また、押出速度が低下したことで量産性が低下し、コスト性の要件を満たさなかった。
【0119】
比較例8は、比較例1に比較例2〜7の効果を取り込んだ例(上記第1〜第4の方法を全て含む例)であり、これらの相乗効果により、表面電気抵抗値(=4×10(Ω/sq))を規定値未満に抑えて、所望の導電性能を得ることができた。しかし、比較例2〜7で述べたデメリットが全て取り込まれた結果、発泡品質、押出寸法安定性、及びコスト性のいずれも要件を満たさなかった。
【0120】
これに対して、実施例1では、最内層4に隣接してその外側に積層された内層5を導電性樹脂で形成したことで、比較例1と全く同じ押出条件であるにも拘わらず、導電性、発泡品質、押出寸法安定性(成形性)及びコスト性の全ての要件を満足させることができた。
【0121】
実施例2は、導電層である内層5の厚みを実施例1の4倍の0.2mmに増加させた例である。この例では、チューブ1の表面電気抵抗値が1×10(Ω/sq)となって、チューブ1の導電性を実施例1よりもさらに向上させることができた。また、内層5を形成する導電性PA12は、最内層4を形成する導電性樹脂材料Iよりも安価なため、内層5の厚みを増加させたにも拘わらず、コスト性の要件を満足させることができた。
【0122】
実施例3は、ダイス22の吐出部開口面積を実施例1の略1.7倍の240mmに増加させた例であり、この場合においても、上記四つの要件を全て満足させることができた。このことから、上記実施形態及び実施例に係るチューブ1では、ダイス22の吐出部開口面積に左右されることなく、高いチューブ性能を確保できることがわかる。
【0123】
実施例4は、チューブ1の押出速度を実施例1よりも高い20m/minに設定した例であり、この場合においても、上記四つの要件を全て満足させることができた。
【0124】
実施例5は、最内層4に含まれる導電性フィラーの充填量を通常よりも2〜20wt%低減した例(最内層4の導電性が悪い例)であり、この場合においても、上記四つの要件を全て満足させることができた。
【0125】
実施例6及び実施例7は、第2層の外側の第3層として耐燃料透過性に優れたバリア層7を形成して、最外層6を第4層とした例であり、この場合においても、上記四つの要件を全て満足させることができた。
【0126】
実施例8は、実施例6及び実施例7のバリア層を導電性EFEPで形成した例であり、この例では、発泡品質、押出寸法安定性、及びコスト性の要件を満足させつつ、表面電気抵抗値(=2×10(Ω/sq))を実施例6及び7よりもさらに低減することができた。
【0127】
ここで、導電性PA12と導電性樹脂材料Iとでは、以下の表3の結果からもわかるように、層厚さが同じである場合には、導電性PA12の方が導電性樹脂材料Iよりも導電性が高い(電気抵抗値が小さい)。そして、上記実施例1〜8では、内層5を形成する樹脂を、最内層4を形成する導電性樹脂材料Iよりも導電性の高いPA12で形成するようにしたことで、チューブ全体として所望の導電性を確実に得ることができる。
【0128】
【表3】

【0129】
以上の実施例及び比較例より明らかなように、最内層4のみでなく内層5にも導電性を付与することで、導電性、発泡品質、押出寸法安定性(成形性)及びコスト性の要件を全て満足するチューブ1を提供できることがわかる。
【0130】
またさらに、上記実施例1〜8では、最内層4を内層5(導電性PA12)に比べて耐燃料性に優れた導電性樹脂(導電性樹脂材料I又は導電性ETFE)で形成するようにしたことで、最内層4の燃料接触による経年劣化を抑制することができる。
【0131】
この経年劣化は、例えば、燃料封入20日後の電気抵抗測定値によって評価することができる。表4及び表5には、それぞれ、実施例1及び比較例9に係るチューブ1の燃料封入20日後の電気抵抗測定値を示す。
【0132】
【表4】

【0133】
【表5】

【0134】
燃料封入20日後の電気抵抗測定値は、試験用のチューブ1の両端部を金属継手で閉塞し、その内部に、FuelC(イソオクタン:トルエン=50:50体積比)とエタノ−ルとを0:100〜100:0の体積比率で混合したアルコ−ル/ガソリンを封入して60℃の温度で20日間保持した後、チューブ1内から液を取り出して3分以内に、該チューブ1の電気抵抗値を測定した値である。電気抵抗値の測定方法は上述した測定方法と同様である。
【0135】
ここで、実施例1に係るチューブ1の構成については上述した通りであるため説明を省略する。上記比較例9に係るチューブ1は、四層構造を有していて、最内層4が導電性PA12で形成され、内層5が非導電性PA12で形成され、バリア層がEVOHで形成され、最外層6が非導電性PA12で形成されている。また、内層5とバリア層7との間、及び、バリア層7と最外層6との間にはそれぞれ、各層間の接着強度が不足しないように変性POの接着層を0.05mmの厚みで設けるようにしている。最内層4の厚みは0.1mmであり、内層5の厚みは0.05mmであり、バリア層7の厚みは0.25mmであり、最外層6の厚みは0.5mmである。
【0136】
表4及び表5の試験結果によれば、実施例1に係るチューブ1では、燃料封入20日後の電気抵抗測定値が、燃料封入直後の電気抵抗測定値と比べて殆ど変わらないのに対して、比較例9に係るチューブ1では、燃料封入20日後の電気抵抗測定値が、燃料封入直後の電気抵抗値に比べて格段に増加していることがわかる。また、実施例1に係るチューブ1では、エタノールの混合比率が変化しても、燃料封入20日後の電気抵抗測定値が殆ど変化していないのに対し、比較例9に係るチューブ1では、エタノールの混合比率が50%以上になると、エタノールの混合比率が25%以下の場合に比べて、燃料封入20日後の電気抵抗値が10〜100倍に増加していることがわかる。これは、実施例1に係るチューブ1では、最内層4が比較例9に比べて耐燃料性(特に、耐エタノール性)に優れた導電性樹脂材料Iで形成されているためと考えられる。
【0137】
したがって、実施例1〜8にかかるチューブ1では、最内層4の燃料接触による経年劣化に伴う電気抵抗値の低下を抑制することができるため、最内層4の製造初期(射出成形直後)の電気抵抗値を、その後の経年劣化による低下を見越して予め高く設定する必要もない。よって、最内層4の導電性を向上させるためにチューブ1の押出条件に制限を設ける必要もないため、押出条件の制限に起因して生じる発泡不良や成形不良を防止することができる。
【0138】
ここで、樹脂材料の耐燃料性は、例えば、後述する重量変化率、寸法変化率、オリゴマー溶出率、抵抗値変化比率により評価することができる。表6は、各樹脂材料について、これらの評価指標を測定した結果を示している。
【0139】
【表6】

【0140】
(試験樹脂材料)
この測定に用いる試験材料は、樹脂を240℃〜360℃に溶融加熱して5分以上滞留させた後に射出成形して形成される。射出成形時に各樹脂材料に混練されるカーボンブラック量は、各樹脂材料の初期抵抗値が10Ωから10Ωになるように、例えば3wt%〜25wt%に設定した。具体的には、例えば、導電性樹脂材料Iの場合には、カーボンブラック量を12wt%に設定し、シリンダ温度を300℃に設定した。また、例えば、導電性PA12の場合には、カーボンブラック量を20wt%に設定し、シリンダ温度を260℃に設定した。試験材料のサイズは、長さ50mm、幅5mm、厚さ3mmとした。
【0141】
(抵抗値変化比率の測定手順)
抵抗値変化比率の測定に際しては、先ず、試験片を、FuelC(トルエンとイソオクタンとが50:50の体積比率)とエタノールとを100:0〜15:85の体積比率で混合された試験液中に60℃の温度で20日間保持する。その後、試験片を試験液中から取り出して3分以内に、試験片の電気抵抗値を測定した。そうして、測定した電気抵抗値の初期抵抗値に対する比率(=測定電気抵抗値/初期抵抗値)を抵抗値変化比率として算出した。
【0142】
(重量変化率の測定手順)
重量変化率の測定に際しては、先ず、試験片を上記試験液中に40℃の温度で7日間保持し、その後、試験片を試験液中から取り出して3分以内に、試験片の重量を測定し、該測定した重量の初期重量に対する変化率(=(測定重量−初期重量)/初期重量×100%)を重量変化率として算出した。
【0143】
(寸法変化率の測定手順)
寸法変化率の測定に際しては、先ず、試験片を上記試験液中に40℃の温度で7日間保持し、その後、試験片を試験液中から取り出して3分以内に、試験片の寸法を測定し、該測定した寸法の初期寸法に対する変化率(=(測定寸法−初期寸法)/初期寸法×100%)を寸法変化率として算出した。
【0144】
(オリゴマー溶出率の測定手順)
オリゴマー溶出率の測定に際しては、先ず、試験片を上記試験液中に60℃の温度で4日間保持する。その後、試験片を試験液から取り出して、残った試験液を真空乾燥させることで、試験液中に溶出したオリゴマーを析出させる。そして、この析出したオリゴマーの重量を測定し、該測定した重量の試験片初期重量に対する比率(=測定重量/試験片初期重量×100%)をオリゴマー溶出率として算出した。
【0145】
各樹脂材料の耐燃料性は、上記測定した抵抗値変化比率、重量変化率、寸法変化率、及びオリゴマー溶出率が低いほど高いと言える。そして、表6の試験結果によれば、導電性樹脂材料Iの耐燃料性が最も高く、これに次いで導電性ETFE及び導電性EFEPの耐燃料性が高いことがわかる。また、導電性PA12の耐燃料性は、導電性樹脂材料I,導電性ETFE及び導電性EFEPよりも低いことがわかる。
【0146】
そして、上記実施例1〜8では、最内層4を内層5(導電性PA12)に比べて耐燃料性に優れた導電性樹脂(導電性樹脂材料I又は導電性ETFE)で形成するようにしたことで、チューブ1の膨潤による寸法変化を抑制することができる。すなわち、内層5の方が最内層4に比べて耐燃料性に優れている場合には、内層5及び最内層4が膨潤してそれぞれの材料特性に順じて経年変形するため、内層5の変形量と最内層4の変形量のいずれもがチューブ1全体の変形量に寄与することになる。これに対して、上記実施例1〜8のように、最内層4の方が内層5に比べて耐燃料性に優れている場合には、最内層4が膨潤しても、内層5の膨潤による変形が最内層4によって制限されるため、内層5の変形は殆ど無視し得て、最内層4の変形量だけがチューブ1全体の変形量として現れる。よって、実施例1〜8に係るチューブ1では、膨潤による寸法の経年変化を抑制することができる。また、最内層4の耐燃料性を向上させることにより、最内層4からのオリゴマー溶出量(オリゴマー溶出率)も低減することができるため、チューブ1内の燃料中に溶出したオリゴマーが燃料噴射弁内に詰まったりするのを防止することができる。
【0147】
また、上記実施例1〜8に係るチューブ1では、最外層7を非導電性樹脂で形成するようにしたことで、最外層7を導電性樹脂で形成した場合に比べて、チューブ1全体に占める導電性樹脂の体積比率を低く抑えることができ、これにより、チューブ1の低コスト化を図ることができる。また、最外層7を導電性樹脂で形成した場合と比較して、最外層7にカーボンブラック等の導電性フィラーが混練されることもないので、チューブ1の最外層7に要求される高い機械的特性(例えば、低温時又は高温時の耐衝撃性や機械強度)を満足させることができる。
【0148】
表7は、実施例1、並びに比較例10及び11に係るチューブ1について、低温衝撃性試験及びコスト評価を行った結果を示す。表中の「○」は良い(要求レベルを満たす)を意味し、「×」は悪い(要求レベルを満たさない)を意味している。
【0149】
【表7】

【0150】
実施例1に係るチューブ1の構成は上述した通りであるためその説明を省略する。
【0151】
比較例10では、チューブ1を二層構造として、最内層4を導電性ETFEで形成し、最外層7を導電性PA12で形成した。最内層4の厚みは0.3mmであり、最外層7の厚みは0.65mmである。各層4,7の間には、接着強度が不足しないように変性POの接着層を0.05mmの厚みで設けるようにしている。導電性フィラーとしては炭素長繊維を採用した。
【0152】
比較例11では、チューブ1を二層構造として、最内層4を導電性PPSで形成し、最外層7を導電性PA12で形成した。最内層4の厚みは0.3mmであり、最外層7の厚みは0.65mmである。各層4,7間には、接着強度が不足しないように変性POの接着層を0.05mmの厚みで設けるようにした。
【0153】
表7の試験結果によれば、最外層7に非導電性PA12を採用した実施例1に係るチューブ1では、低温衝撃性及びコスト性ともに要求レベルを満たしているのに対して、最外層7に導電性PA12を採用した比較例10及び11に係るチューブ1では、低温衝撃性及びコスト性ともに要求レベルを満たさないことがわかる。よって、この試験結果からも、最外層7を非導電性樹脂で形成することで、チューブの耐衝撃性(機械特性)及びコスト性を両立できることがわかる。
【0154】
(他の実施形態)
本発明の構成は、上記実施形態及び実施例に限定されるものではなく、それ以外の種々の構成を包含するものである。
【0155】
すなわち、上記実施形態及び実施例では、一例として3層又は4層のチューブ1について説明したが、5層以上のチューブ1であってもよいことは言うまでもない。
【0156】
また、上記実施形態及び実施例では、最内層4、内層5、又はバリア層7に導電性を付与する手段として、樹脂に導電性フィラーを混練する方法を採用しているが、これに限ったものではなく、例えば、樹脂層の表面に導電性のコーティングを施す等してもよい。
【0157】
また、上記各実施例では、内層5を形成する樹脂(導電性PA12)の電気抵抗値を、最内層4を形成する樹脂(導電性樹脂材料I)の電気抵抗値よりも小さく設定するようにしているが、これに限ったものではなく、例えば、内層5の電気抵抗値が最内層4の電気抵抗値と同じ大きさであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0158】
本発明は、少なくとも三つの層を径方向に積層してなり且つ最内層が導電性を有する樹脂製の燃料チューブに有用であり、特に、押出成形による方法で製造される燃料チューブに有用である。
【符号の説明】
【0159】
1 燃料チューブ
4 最内層(第1層)
5 内層(第2層)
6 最外層
7 バリア層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも三つの層を径方向に積層してなり且つ最内層である第1層が導電性を有する樹脂製の燃料チューブであって、
上記第1層に隣接してその径方向外側に積層された第2層がさらに導電性を有していることを特徴とする燃料チューブ。
【請求項2】
請求項1記載の燃料チューブにおいて、
上記第1層を形成する樹脂は、溶融時の樹脂流動性が悪い樹脂であることを特徴とする燃料チューブ。
【請求項3】
請求項1記載の燃料チューブにおいて、
上記第2層の電気抵抗値が上記第1層の電気抵抗値よりも低いことを特徴とする燃料チューブ。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の燃料チューブにおいて、
上記第1層を形成する樹脂の耐燃料性が、上記第2層を形成する樹脂の耐燃料性よりも優れていることを特徴とする燃料チューブ。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の燃料チューブにおいて、
最外層を形成する樹脂は非導電性樹脂であることを特徴とする燃料チューブ。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の燃料チューブにおいて、
上記第2層を形成する樹脂はナイロン系樹脂であることを特徴とする燃料チューブ。
【請求項7】
請求項6記載の燃料チューブにおいて、
上記ナイロン系樹脂は、PA12又はPA11であることを特徴とする燃料チューブ。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の燃料チューブにおいて、
上記第1層は、導電性を有するフッ素系樹脂からなることを特徴とする燃料チューブ。
【請求項9】
請求項8記載の燃料チューブにおいて、
上記第1層を形成するフッ素系樹脂は、以下のA群から選ばれる少なくとも1種を含む重合体又はその官能基変性体からなることを特徴とする燃料チューブ。
A群:テトラフルオロエチレンの単量体、クロロトリフルオロエチレンの単量体、パーフルオロアルキルビニルエーテルの単量体
【請求項10】
請求項9記載の燃料チューブにおいて、
上記第1層を形成するフッ素系樹脂は、テトラフルオロエチレンの単量体とクロロトリフルオロエチレンの単量体とパーフルオロアルキルビニルエーテルの単量体との重合体又はその官能基変性体からなることを特徴とする燃料チューブ。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか一項に記載の燃料チューブにおいて、
最外層と上記第2層との間に位置し、耐燃料透過性を有するバリア層をさらに有していることを特徴とする燃料チューブ。
【請求項12】
請求項11記載の燃料チューブにおいて、
上記バリア層は導電性を有することを特徴とする燃料チューブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−211687(P2012−211687A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−289184(P2011−289184)
【出願日】平成23年12月28日(2011.12.28)
【出願人】(000201869)倉敷化工株式会社 (282)
【Fターム(参考)】