説明

燃料品質判定装置及び燃料品質判定方法

【課題】精確で確実な判定を可能とする燃料の品質の判定装置及び判定方法を提供する。
【解決手段】噴射ノズルから噴射された燃料を、あらかじめ設定した雰囲気条件で自着火させた際の燃焼状態を外部から視認可能とした観察窓を設けた燃焼室と、この燃焼室内での燃焼による火炎の光量を観察窓越しに計測する光量計測手段と、噴射ノズルからの燃料の噴射を制御する噴射制御手段と、この噴射制御手段によって燃料の噴射を開始した噴射開始タイミングと、燃料の噴射を終了した噴射終了タイミングとからなる噴射制御情報と、光量計測手段で得られた光量情報とを解析する解析手段を備え、燃焼室内を第1の温度として燃料を複数回燃焼させるとともに、前記燃焼室内を前記第1の温度と異なる第2の温度として前記燃料を複数回燃焼させ、各燃焼におけるそれぞれの光量の変化曲線のバラツキ特に着火時期の長短に基づいて、前記燃料品質の良否判定を精度よく実施する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼル機関などに用いる重油などの石油系燃料またはアルコール系燃料などの液体燃料の品質検査に用いられる燃料品質判定装置及び燃料品質判定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
昨今、外航船を中心とした舶用のディーゼル機関の燃料として、石油精製にともなって生じた残渣油が一般的に使用されている。
【0003】
外航船は、自国以外の国の港に寄港し、その港で燃料の補給を行っているが、各国によって石油精製の方式が異なるために、燃料となる残渣油の品質が国ごとに異なっており、劣悪な品質の燃料を補給した場合には舶用ディーゼル機関が損傷するおそれがあった。
【0004】
特に、舶用ディーゼル機関では、スカッフィングの発生が最も甚大な被害を与えるものとして知られている。スカッフィングとは、潤滑油不足の状態でピストンとシリンダとが摺動することによりシリンダ壁にキズなどの損傷が生じるものであり、場合によっては、舶用ディーゼル機関の破損をまねくおそれがあった。
【0005】
そこで、補給する燃料の品質を確認する手段として、Fuel Tech社によって燃料の品質
を検査する検査装置が提案されている。この検査装置では、燃焼室で燃料を燃焼させ、その燃焼の際の燃焼室内の圧力変化を熱力学的に解析して、燃料の燃焼による熱発生率を算出することにより燃焼状態を推定しているものであって、特に、燃焼室内に燃料を噴射してから、噴射された燃料が着火するまでの時間である着火遅れなどに注目し、燃料の品質判定を行っている。
【0006】
Fuel Tech社の検査装置では燃焼室内の圧力変化に基づいて燃焼状態の検出を行ってい
るが、最近では、燃焼室に石英ガラスなどの耐火性の透明ガラスを装着して観察窓を設け、この観察窓越しに燃焼室内の燃焼状態を高速度カメラなどで撮影することにより燃焼状態を直接的に観察し、火炎の長さまたは後燃え時間の長さから燃料の品質を判定する判定方法も提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2001−329906号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、Fuel Tech社製の検査装置のように燃焼室内の圧力変化を検出するだけ
では、燃料の燃焼状態を正しく判定できていないおそれがあった。
【0008】
一方、燃焼室に観察窓を設けて燃焼状態を高速度カメラなどで直接的に観察可能として、観察された燃焼状態だけから燃料の品質を判定するようにした場合には、特定時間における燃焼状態を確実に確認することはできるが、時間的分解能が十分ではないことがあった。
【0009】
すなわち、一般的な高速度カメラを用いて例えば2000コマ/秒で高速記録したとしても0.5ミリ秒の時間的分解能しか得られず、数十ミリ秒間程度しかない燃焼状態を観察
するには十分ではなかった。そこで、より正確な判定を行うためにはより高速な高速度カメラを用いればよいのであるが、その場合には高速度カメラが極めて高価であるために、検査装置が広く一般的に利用されるにはコスト的に見合わなくなるという問題があった。
【0010】
このような現状に鑑み、本発明者は、より正確に確実な判定を可能とする判定装置を提供すべく研究開発を行って本発明を成すに至ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の燃料品質判定装置では、噴射ノズルから噴射された燃料を燃焼させる燃焼室と、
前記燃料の噴射前に前記燃焼室内の温度を調整する温度調整手段と、
前記噴射ノズルからの前記燃料の噴射を制御する噴射制御手段と、
前記燃焼室内での燃焼による火炎の光量を計測する光量計測手段と、
前記光量計測手段での計測結果を解析して燃料の品質を判定する解析手段と
を備え、
前記解析手段は、
前記温度調整手段及び前記噴射制御手段を制御して前記燃焼室内を所定温度として前記燃料を複数回燃焼させ、燃焼開始後に時間の経過にともなって増大する火炎の光量の変化曲線を特定し、各燃焼における前記光量の変化曲線のバラツキに基づいて前記燃料の品質を判定することとした。
【0012】
さらに、前記解析手段は、前記温度調整手段及び前記噴射制御手段を制御して前記燃焼室内を第1の温度として前記燃料を複数回燃焼させるとともに、
前記燃焼室内を前記第1の温度と異なる第2の温度として前記燃料を複数回燃焼させ、
各燃焼におけるそれぞれの前記光量の変化曲線のバラツキに基づいて前記燃料の品質を判定することにも特徴を有するものである。
【0013】
また、本発明の燃料品質判定方法では、燃焼室内に燃料を噴射して燃焼させ、この燃焼によって生じた火炎の光量を光量計測手段で検出し、この光量に基づいて前記燃料の品質を判定する燃料品質判定方法において、
前記燃焼室内の温度を所定温度として前記燃料を複数回燃焼させ、燃焼開始後に時間の経過にともなって増大する火炎の光量の変化曲線をそれぞれ特定し、各燃焼における前記光量の変化曲線のバラツキに基づいて前記燃料の品質を判定することとした。
【0014】
さらに、前記燃料品質判定方法では、燃焼室内に燃料を噴射して燃焼させ、この燃焼によって生じた火炎の光量を光量計測手段で検出し、この光量に基づいて前記燃料の品質を判定する燃料品質判定方法において、
前記燃焼室内の温度を第1の温度として前記燃料を複数回燃焼させるとともに、前記燃焼室内の温度を前記第1の温度と異なる第2の温度として前記燃料を複数回燃焼させて、燃焼開始後に時間の経過にともなって増大する火炎の光量の変化曲線をそれぞれ特定し、各燃焼における前記光量の変化曲線のバラツキに基づいて前記燃料の品質を判定することとした。
【発明の効果】
【0015】
請求項1記載の発明によれば、噴射ノズルから噴射された燃料を燃焼させる燃焼室と前記燃料の噴射前に前記燃焼室内の温度を調整する温度調整手段と、前記噴射ノズルからの前記燃料の噴射を制御する噴射制御手段と、前記燃焼室内での燃焼による火炎の光量を計測する光量計測手段と、前記光量計測手段での計測結果を解析して燃料の品質を判定する解析手段とを備え、前記解析手段は、前記温度調整手段及び前記噴射制御手段を制御して前記燃焼室内を所定温度として前記燃料を複数回燃焼させ、燃焼開始後に時間の経過にともなって増大する火炎の光量の変化曲線を特定し、各燃焼における前記光量の変化曲線のバラツキに基づいて前記燃料の品質を判定することによって、燃焼状態の検出精度を極めて容易に向上させやすく、正確で確実な燃料の品質判定を行うことができるとともに、高速度カメラを用いないことによって低コスト化した燃料品質判定装置を提供できる。
【0016】
請求項2記載の発明によれば、請求項1記載の燃料品質判定装置において、前記解析手段が、前記温度調整手段及び前記噴射制御手段を制御して前記燃焼室内を第1の温度として前記燃料を複数回燃焼させるとともに、前記燃焼室内を前記第1の温度と異なる第2の温度として前記燃料を複数回燃焼させ、各燃焼におけるそれぞれの前記光量の変化曲線のバラツキに基づいて前記燃料の品質を判定することによって、燃料の品質判定の精度を向上させることができる。
【0017】
請求項3記載の発明によれば、燃焼室内に燃料を噴射して燃焼させ、この燃焼によって生じた火炎の光量を光量計測手段で検出し、この光量に基づいて前記燃料の品質を判定する燃料品質判定方法において、前記燃焼室内の温度を所定温度として前記燃料を複数回燃焼させ、燃焼開始後に時間の経過にともなって増大する火炎の光量の変化曲線をそれぞれ特定し、各燃焼における前記光量の変化曲線のバラツキに基づいて前記燃料の品質を判定することによって、燃料の品質判定の精度を向上させることができる。
【0018】
請求項4記載の発明によれば、燃焼室内に燃料を噴射して燃焼させ、この燃焼によって生じた火炎の光量を光量計測手段で検出し、この光量に基づいて前記燃料の品質を判定する燃料品質判定方法において、前記燃焼室内の温度を第1の温度として前記燃料を複数回燃焼させるとともに、前記燃焼室内の温度を前記第1の温度と異なる第2の温度として前記燃料を複数回燃焼させて、燃焼開始後に時間の経過にともなって増大する火炎の光量の変化曲線をそれぞれ特定し、各燃焼における前記光量の変化曲線のバラツキに基づいて前記燃料の品質を判定することによって、燃料の品質判定の精度を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の燃料品質判定装置及び燃料品質判定方法では、燃料を燃焼させる燃焼室に外部から視認可能とした観察窓を設けており、前記燃焼室内を所定温度として前記燃料を複数回燃焼させ、燃焼開始後に時間の経過にともなって増大する火炎の光量の変化曲線を特定し、各燃焼における前記光量の変化曲線のバラツキに基づいて前記燃料の品質を判定ものである。
【0020】
すなわち、燃料の品質が良い場合には着火後に速やかに安定な燃焼が生じるのに対して、燃料の品質が悪い場合には着火後緩やかな燃焼が生じるとともに不安定な燃焼状態となることを本発明者らは知見し、これを燃料の品質判定に適用しようとしているものである。
【0021】
さらに詳述すると、燃料の品質が良い場合には燃焼室内の温度が下がっても着火後速やかに安定な燃焼が生じるのに対して、燃料の品質が悪い場合には燃焼室内の温度が下がると、噴射ノズルから噴射された燃料が着火するまでの時間の遅れ(以後「着火遅れ」という)が生じるとともに不安定な燃焼状態となることも本発明者らは知見している。なお、光量計測手段の配置を調整することによって、燃料が着火した際の着火開始位置の検知も可能とすることができる。
【0022】
以下において、図面に基づいて本発明の実施形態を詳説する。図1は、本実施形態の燃料品質判定装置Aの概略模式図である。
【0023】
燃料品質判定装置Aは、周壁の一部に石英ガラス11を装着した観察窓12を設けた燃焼室10と、この燃焼室10内の圧力及び温度を調整するため予備燃焼を生じさせるための予備燃焼調整部20と、燃焼室10内に検査される燃料を供給する燃料供給部30と、燃焼室10内に生じた火炎の光量を測定する光量測手段である光センサ40と、予備燃焼調整部20と燃料供給部30及び光センサ40を制御するとともに燃料の品質判定のための解析を行う解析手段を備えた制御部50で構成している。
【0024】
燃焼室10は、本実施形態では、内径120mm、高さ300mmの円筒形状の燃焼空間を有するステンレス製の基体としており、燃焼室10上部には燃料を噴射する噴射ノズル13を装着し、この噴射ノズル13によって上方から下方に向けて燃料を噴射している。図1中、14aは燃料供給部30から噴射ノズル13に供給された燃料のうち、余分な燃料を排出するためのドレン管、14bはドレン管14aによって排出された燃料を貯留するドレンタンク、14cは開閉弁である。
【0025】
燃焼室10の周壁には点火プラグ15を装着しており、この点火プラグ15は図示しないイグナイタに接続している。この点火プラグ15は、後述する予備燃焼調整部20によって燃焼室10に供給された混合気に点火するためのものである。
【0026】
また、燃焼室10には、燃焼室10内の燃焼ガスを排気するための排気管16aを接続しており、この排気管16aには、燃焼ガスを排気している排気状態と、燃焼ガスを排気していない非排気状態とを切り換える排気制御弁16bを燃焼室10に近接させて設けている。
【0027】
排気管16aは、燃焼室10内の高圧状態を利用して自然排気を行わせる自然排気管16cと、真空ポンプ16dによる強制排気を行わせるための強制排気管16eとに分岐させており、特に、真空ポンプ16dによる燃焼室10内の燃焼ガスの強制排気によって、燃焼室10内に燃焼残渣をできるだけ残留させないようにしている。図1中、16fは、自然排気管16cに設けた切換用第1開閉弁であり、16gは強制排気管16eに設けた切換用第2開閉弁であり、切換用第1開閉弁16fと切換用第2開閉弁16gの開閉制御によって燃焼室10内の燃焼ガスを効率よく速やかに排気可能としている。また、図1中、17は燃焼室10に設けた安全弁である。
【0028】
さらに、図1中、T1は噴射ノズル13から噴射される燃料の温度を計測する燃料用温度計、P1は噴射ノズル13から噴射される燃料の圧力を計測する燃料用圧力計、T2は燃焼室10内の温度を計測する燃焼室用温度計、P2は燃焼室10内の圧力を計測する燃焼室用圧力計である。
【0029】
予備燃焼調整部20は、燃焼室10内で燃焼を生じさせることにより燃焼室10内の温度及び雰囲気を所定の状態にあらかじめ調整するための温度調整手段となっており、窒素を配合した酸素からなる調整気体を貯留した調整気体タンク21と、エチレンガスを貯留したエチレンガスタンク22とを備え、調整気体タンク21の調整気体を調整気体供給管23を介して燃焼室10に送給するとともに、エチレンガスタンク22のエチレンガスをエチレンガス供給管24を介して燃焼室10に送給し、燃焼室10において酸素と、窒素と、エチレンとを混合した混合気を生成している。
【0030】
調整気体供給管23には、第1マスフローコントローラ26-1と、第1制御バルブ27-1を設けて調整気体の流量を調整可能としており、エチレンガス供給管24には、第2マスフローコントローラ26-2と、第2制御バルブ27-2を設けてエチレンガスの流量を調整可能としている。なお、調整気体は、本実施形態では酸素34%と窒素66%との混合気としている。
【0031】
燃料供給部30は、検査対象の燃料を貯留する燃料タンク31を備えており、この燃料タンク31内の燃料を燃料供給管32を介して噴射ノズル13に供給している。
【0032】
特に、燃料タンク31には、この燃料タンク31内を加圧するコンプレッサ33を接続するとともに、燃料供給管32には噴射制御手段である燃料ポンプ34を介設しており、燃料を所定圧力に加圧して供給している。本実施形態では、燃料ポンプ34には電磁弁35を介してオイルポンプ36及びアキュームレータ37から作動油を供給し、噴射ノズル13での燃料噴射を安定的に行えるようにしている。
【0033】
光センサ40は光量計測手段であって、燃焼にともなう火炎の光を受光して光量を計測可能としている。本実施形態では、光センサ40は1台だけ用いているが複数の光センサ40を配置してもよく、必要であれば高速度ビデオカメラなどの画像記録器を適宜に配置してもよい。カメラは上方と下方の両方に2台設けると燃焼状態をより詳しく観察することができる。また、光センサ40を用いることによって、時間的分解能を極めて容易に向上させることができ、より精確で確実な計測を可能とすることができる。
【0034】
制御部50は、所要のプログラムに基づいて燃料品質判定装置Aを制御しており、以下のようにして燃料の品質の判定を行っている。
【0035】
まず、燃料品質判定装置Aでは燃焼室10内で混合気を燃焼させて、燃焼室10内を所定圧力及び所定温度の疑似空気で満たすようにしている。
【0036】
すなわち、制御部50は、第1制御バルブ27-1と第2制御バルブ27-2を制御して、燃焼室10に調整気体とエチレンガスを所定量ずつ送給して燃焼室10内に混合気を生成し、燃焼室10内に混合気が充填された時点で調整気体及びエチレンガスの供給を停止して、イグナイタに信号を送信して点火プラグ15を作動させ、混合気を燃焼させている。
【0037】
混合気を燃焼させると、図2の燃焼室10内の圧力推移グラフに示すように燃焼室10内の圧力が増大する。図2中、H1は混合気が燃焼している第1燃焼期間を示している。その後、熱損失によって、図2に示すように燃焼室10内の圧力は低下する。混合気の燃焼にともなって生成された疑似空気は、本実施形態では酸素が21%程度存在するようにしている。疑似空気中の酸素量は、調整気体中の酸素の配合量、及び、調整気体とエチレンガスとの配合比を調整することによって適宜調整することができる。
【0038】
燃焼室10内の圧力が低下して設定圧に達した時点で、制御部50は電磁弁35の切換制御を行って燃料ポンプ34を作動させ、噴射ノズル13から燃焼室10内に燃料を噴射している。本実施形態では、燃焼室10内の圧力が2.0MPa程度、及び燃焼室10内の温度が450℃程度となったところで燃料を噴射している。
【0039】
噴射ノズル13は、燃料ポンプ34によって安定的に燃料が供給されている。特に、本実施形態では、常に図3の噴射ノズル13における燃料の圧力推移グラフに示すように噴射圧を安定的に維持しながら噴射することができる。
【0040】
燃焼室10内への燃料の噴射にともなって、燃料は燃焼室10内の雰囲気によって自着火し、燃焼を開始する。図2中、H2は燃料が燃焼している第2燃焼期間を示している。
【0041】
光センサ40は燃焼によって生じた火炎の光量を検出し、検出結果の光量信号を制御部50に入力している。
【0042】
制御部50は、光センサ40から入力された光量信号と、噴射ノズル13からの燃料の噴射を開始した噴射開始タイミングと、燃料の噴射を終了した噴射終了タイミングとから、図4に示す燃焼室10内における光量推移グラフにおける燃焼開始直後の光量の変化率を算出し、この光量の変化率に基づいて着火時期を判定している。
【0043】
図4及び図5は、燃料を燃焼させた場合の光量推移グラフを示している。図4及び図5中、Lは、噴射ノズル13から噴射された燃料が着火するまでの時間の遅れ(着火遅れ)である。
【0044】
その後、制御部50は、排気制御弁16b及び切換用第1開閉弁16fをそれぞれ開弁して燃焼室10内の燃焼ガスを排気し、さらに、切換用第2開閉弁16gを開弁して真空ポンプ16dを作動させ、燃焼室10内の燃焼ガスを強制排気している。
【0045】
本発明者らは、燃料の着火遅れが燃料の良否判定を決める第1段階における大きな要素であるということに着目する一方で、着火遅れだけではなく光量の変化率に着目することにより燃料の良否判定を精度よく実施できることを知見した。
【0046】
良否判定の一つとして、燃焼開始直後の光量の変化率(図4及び図5における第1仮想線V1の水平からの傾き)が大きい場合を良品と判定し、光量の変化率が小さい場合を不良品と判定することができる。
【0047】
ただし、この場合でも燃料の品質に1対1に対応していないことがあり、そこで、制御部50は、燃焼開始直後の光量の変化率である第1の光量変化率(図4及び図5における第1仮想線V1の傾き)と、この第1の光量変化率で光量が増大した後に、この第1の光量変化率よりも小さい変化率で光量が増大する第2の光量変化率(図4及び図5における第2仮想線V2の傾き)とを検出し、この第2の光量変化率の大きさすなわち第2仮想線V2の傾きの大小に基づいて燃料の品質を判定することができる。
【0048】
すなわち、良質の燃料ほど燃焼性が高く、第2の光量変化率が小さく(水平に)なる傾向があるので、第2の光量変化率が小さい場合を良品と判定し、第2の光量変化率が大きい(右上がりの傾きを持つ)場合を不良品と判定することができる。
【0049】
また、良質の燃料は、前述した燃料品質判定装置Aで複数回燃焼させた場合の燃焼状態が安定していることによって、燃焼開始直後の光量の変化率が安定しているのに対して、良質でない燃料は、前述した燃料品質判定装置Aで複数回燃焼させた場合の燃焼状態が不安定であって、燃焼開始直後の光量の変化率のバラツキが大きい(それぞれの光量変化率曲線にずれがある)ことを加味して判定精度をさらに向上させることができる。
【0050】
また、複数回の燃焼を行ってそれぞれ変化率を算出し、この変化率の標準偏差を算出して標準偏差が小さい場合を良品と判定し、標準偏差が大きい場合を不良品と判定することによって、判定精度を向上させることもできる。
【0051】
また、同一条件で繰り返し燃料を燃焼させるのではなく、燃焼室10内の温度を異ならせながら燃焼させ、異なる温度すなわち第1の温度と第2の温度でのそれぞれの燃焼ごとの光量の変化率を算出し、この光量の変化率の燃焼温度の依存性を算出して燃料の品質を判定することもできる。
【0052】
すなわち、良質の燃料は、燃焼室10内の温度が多少変化しても燃焼状態の変化が少ないのに対して、良質でない燃料は、燃焼室10内の温度変化の影響を受けやすく、燃焼室10の内の温度低下にともなって燃焼しにくくなる傾向が強いため、温度によって燃焼開始直後の光量が変わりやすいすなわちそれぞれの光量変化率曲線にずれがでてくる。
【0053】
そこで、燃焼室10内の温度を異ならせて複数の光量の変化率を算出し、これらの変化率が燃焼室10内の温度に基づいて大きく変動する場合には不良品と判定し、変化率の変動が小さい場合には良品と判定することによって、判定精度を向上させることができる。
【0054】
制御部50での燃料の品質の良否判定は、その一つの要素として燃料の着火遅れを用いるが、燃焼室内の温度が一定の場合、すべての燃料について、着火遅れが短いというだけでは、必ずしも燃料の品質の差を判定することができない。燃料の一種、軽油の品質についてはこの着火遅れによってかなり容易に品質の見極めをすることができるが、バンカー油についてはその性状が定まっていないということもあって品質の見極めはさらに困難と思われたが、本発明者らは、バンカー油について、図6に示すように、4種類の燃料について燃焼室内の温度と着火遅れの関係を調べたところ、燃焼室内の雰囲気温度の低下とともに着火遅れはかなり長くなる傾向があることが分かった。すなわち燃料によってその値が異なっているということである。
【0055】
本発明者らは、燃焼室内を第1の温度として燃料を複数回燃焼させるとともに、前記燃焼室内を前記第1の温度と異なる第2の温度すなわち低い温度として前記燃料を複数回燃焼させ、各燃焼における光量の変化曲線のバラツキの大小に基づいて、前記燃料の品質を判定することにより燃料の良否判定をより精度よく実施できることを知見した。
【0056】
ここで、光量の変化曲線のバラツキとは、光量の大小すなわち縦軸の山谷(高低)のズレや図4及び図5における第1の仮想線V1や第2の仮想線V2の傾きをいうだけでなく、図4及び図5中の着火遅れ時間Lの長短すなわち着火遅れも含めていうものとする。
【0057】
良質の燃料は、前述した燃料品質判定装置Aで温度を変えてそれぞれ複数回燃焼させた場合でも、その着火遅れが短く、その他の光量の変化曲線のバラツキが少ないことに対して、良質でない燃料は、前述した燃料品質判定装置Aで温度を変えてすなわち温度を下げてそれぞれ複数回燃焼させた場合の燃焼状態は、着火遅れが長く、その他の光量の変化曲線のバラツキが大きいことで判定することができる。
【0058】
すなわち、良質の燃料は、燃焼室10内の温度が多少変化しても着火遅れが短く、燃焼状態の変化が少ないのに対して、良質でない燃料は、燃焼室10内の温度変化の影響を受けやすく、燃焼室10の内の温度低下にともなって燃焼しにくくなる傾向が強いため、着火遅れが長く、その他の光量の変化曲線のバラツキが大きくなりやすいのである。
【0059】
最も精度高い燃料の良否判定の方法としては、図7における第1段階でGrade CやGrade Dのパターンになった場合、すなわち着火遅れが長くその他の光量の変化曲線のバラツキも大きい場合は、それら燃料の品質をただちに不良品と判定することである。
【0060】
ただし、図7におけるGrade ?のパターンではその燃料の品質はこの段階では判定できないとする。この場合、制御部50は、第2段階として燃焼室内の温度を第1の温度と異なる第2の温度に下げて複数回燃焼させ、各燃焼におけるそれぞれ着火時期の長短及びその他の光量の変化曲線のバラツキの大小に基づいて前記燃料の品質を判定することとする。
【0061】
すなわち、良質の燃料はGrade Aに見られるようにその着火遅れが短く、その他の光量の変化曲線のバラツキも少ないので、それを良品と判定する。
【0062】
着火遅れがやや長く、その他の光量の変化曲線のバラツキも大きいGrade B に見られるような場合には、使用するディーゼルエンジン等の機関によっては特に問題のないものもあるが、不良品として問題を起こすおそれのものもあるので、条件付品質と判定することとした。
【0063】
なお、燃焼室内10の温度調整は、噴射ノズル13から燃料を噴射する際の燃焼室内10の圧力設定によって容易に調整できる。
【0064】
また、前述した実施形態では、燃料の品質の良否のみを判定しているかのように説明しているが、適宜のランク分けを行ってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明に係る燃料品質判定装置の概略模式図である。
【図2】燃焼室内の圧力推移グラフである。
【図3】噴射ノズルにおける燃料の圧力推移グラフである。
【図4】燃焼時の光量推移グラフの一例である。
【図5】燃焼時の光量推移グラフの他の一例である。
【図6】燃焼室の雰囲気温度に対する着火時期を示すグラフである。
【図7】バンカー油の燃焼性判定方法を示すグラフである。
【符号の説明】
【0066】
A 燃料品質判定装置
10 燃焼室
11 石英ガラス
12 観察窓
13 噴射ノズル
14a ドレン管
14b ドレンタンク
14c 開閉弁
15 点火プラグ
16a 排気管
16b 排気制御弁
16c 自然排気管
16d 真空ポンプ
16e 強制排気管
16f 切換用第1開閉弁
16g 切換用第2開閉弁
17 安全弁
20 予備燃焼調整部
21 調整気体タンク
22 エチレンガスタンク
23 調整気体供給管
24 エチレンガス供給管
26-1 第1マスフローコントローラ
26-2 第2マスフローコントローラ
27-1 第1制御バルブ
27-2 第2制御バルブ
30 燃料供給部
31 燃料タンク
32 燃料供給管
33 コンプレッサ
34 燃料ポンプ
35 電磁弁
36 オイルポンプ
37 アキュームレータ
40 光センサ
50 制御部
T1 燃料用温度計
P1 燃料用圧力計
T2 燃焼室用温度計
P2 燃焼室用圧力計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
噴射ノズルから噴射された燃料を燃焼させる燃焼室と、
前記燃料の噴射前に前記燃焼室内の温度を調整する温度調整手段と、
前記噴射ノズルからの前記燃料の噴射を制御する噴射制御手段と、
前記燃焼室内での燃焼による火炎の光量を計測する光量計測手段と、
前記光量計測手段での計測結果を解析して燃料の品質を判定する解析手段と
を備え、
前記解析手段は、
前記温度調整手段及び前記噴射制御手段を制御して前記燃焼室内を所定温度として前記燃料を複数回燃焼させ、燃焼開始後に時間の経過にともなって増大する火炎の光量の変化曲線を特定し、各燃焼における前記光量の変化曲線のバラツキに基づいて前記燃料の品質を判定する燃料品質判定装置。
【請求項2】
前記解析手段は、
前記温度調整手段及び前記噴射制御手段を制御して前記燃焼室内を第1の温度として前記燃料を複数回燃焼させるとともに、
前記燃焼室内を前記第1の温度と異なる第2の温度として前記燃料を複数回燃焼させ、
各燃焼におけるそれぞれの前記光量の変化曲線のバラツキに基づいて前記燃料の品質を判定することを特徴とする請求項1記載の燃料品質判定装置。
【請求項3】
燃焼室内に燃料を噴射して燃焼させ、この燃焼によって生じた火炎の光量を光量計測手段で検出し、この光量に基づいて前記燃料の品質を判定する燃料品質判定方法において、
前記燃焼室内の温度を所定温度として前記燃料を複数回燃焼させ、燃焼開始後に時間の経過にともなって増大する火炎の光量の変化曲線をそれぞれ特定し、各燃焼における前記光量の変化曲線のバラツキに基づいて前記燃料の品質を判定することを特徴とする燃料品質判定方法。
【請求項4】
燃焼室内に燃料を噴射して燃焼させ、この燃焼によって生じた火炎の光量を光量計測手段で検出し、この光量に基づいて前記燃料の品質を判定する燃料品質判定方法において、
前記燃焼室内の温度を第1の温度として前記燃料を複数回燃焼させるとともに、前記燃焼室内の温度を前記第1の温度と異なる第2の温度として前記燃料を複数回燃焼させて、燃焼開始後に時間の経過にともなって増大する火炎の光量の変化曲線をそれぞれ特定し、各燃焼における前記光量の変化曲線のバラツキに基づいて前記燃料の品質を判定することを特徴とする燃料品質判定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−239739(P2007−239739A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−316892(P2006−316892)
【出願日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【出願人】(506037663)株式会社栄和技研 (3)
【Fターム(参考)】