燃料噴射ノズル
【課題】簡単な構造により、低いコストで、ノズル本体の内部で旋回流を生じさせ、噴射燃料の微粒化を促進することで、燃料の燃焼性および排気特性の改善に貢献する。
【解決手段】燃料噴射ノズル1は、一端に燃料を噴出させる噴孔2が形成され、噴孔2に燃料を導く燃料通路3を有するノズル本体4と、ノズル本体4に挿入される軸状の部材であり、ノズル本体4とともに、ノズル本体4に対する軸方向の往復移動により燃料通路3を開閉する弁部7を構成するニードル5とを備え、燃料通路3は、燃料溜り部8と、燃料溜り部8よりも上流側に設けられ、ニードル5のノズル本体4に対する挿入方向側に向けて燃料を導く燃料供給通路部21と、燃料溜り部8と燃料供給通路部21との間に設けられ、ニードル5の軸方向に対して垂直な平面に沿う方向に形成され、燃料溜り部8に対して、ニードル5の径方向からずれた方向に連通する方向変換通路部22とを有する。
【解決手段】燃料噴射ノズル1は、一端に燃料を噴出させる噴孔2が形成され、噴孔2に燃料を導く燃料通路3を有するノズル本体4と、ノズル本体4に挿入される軸状の部材であり、ノズル本体4とともに、ノズル本体4に対する軸方向の往復移動により燃料通路3を開閉する弁部7を構成するニードル5とを備え、燃料通路3は、燃料溜り部8と、燃料溜り部8よりも上流側に設けられ、ニードル5のノズル本体4に対する挿入方向側に向けて燃料を導く燃料供給通路部21と、燃料溜り部8と燃料供給通路部21との間に設けられ、ニードル5の軸方向に対して垂直な平面に沿う方向に形成され、燃料溜り部8に対して、ニードル5の径方向からずれた方向に連通する方向変換通路部22とを有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼルエンジン等に用いられる燃料噴射ノズルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ディーゼルエンジン等のエンジンにおいては、排気ガスに含まれる有毒物質の排出量の低減や、二酸化炭素の排出量の低減を促す熱効率の向上や、スモークの排出量の低減等のために、燃料噴射弁を構成する燃料噴射ノズルの特性の改善が重要な鍵を握っている。特に、スモークの排出量を低減させる観点からは、燃料噴射ノズルから噴射された燃料が速やかに微粒化して燃料蒸気となり、空気と混合して燃焼することが望ましい。そこで、燃料噴射ノズルにおいては、従来、噴射された燃料噴霧の微粒化を促進するため、燃料の噴射圧の高圧化や燃料の噴射孔の微細化等の種々の工夫が行われている。
【0003】
燃料噴射ノズルにおいては、噴射燃料の微粒化を促進するため、噴射する燃料に旋回流を生じさせる工夫を行うことが、従来技術として存在する。噴射する燃料に旋回流を生じさせる構成としては、例えば特許文献1の燃料噴射ノズルのように、噴射する燃料の旋回流を、燃料が噴孔から燃料噴射ノズルの外部に噴出する直前となる噴孔内で生じさせるものがある。具体的には、特許文献1の燃料噴射ノズルは、燃料が噴出する噴孔を弁座の内周面の接線方向に形成すること等により、噴孔内に流れ込む燃料の所定の方向の流速に遅速を生じさせ、噴孔内に旋回流を生じさせる。
【0004】
一方、噴射する燃料に旋回流を生じさせる構成としては、例えば特許文献2の燃料噴射ノズルのように、噴射する燃料の旋回流を、噴孔内よりも上流側、つまりノズルボディ等と呼ばれるノズル本体の内部で生じさせるものがある。特許文献2の燃料噴射ノズルは、ノズル本体に挿入されてノズル本体に設けられる弁座に着座するニードルの周囲に、旋回流を生じさせる。このため、特許文献2の燃料噴射ノズルにおいては、ニードルの外周面に、螺旋溝が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−324868号公報
【特許文献2】特開平6−147057号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2の燃料噴射ノズルのように、ニードルの外周面に螺旋溝が形成される構成によれば、ニードルの形状が複雑となる。このため、ニードルの加工が難しく、加工コストも高くなる。
【0007】
他方、噴射燃料の微粒化を促進するため、マイクロバブルを含む燃料をポンプにより圧縮するという方法も考案されている。しかしながら、マイクロバブルを用いる方法は、マイクロバブルを生成して燃料中に入れるために動力が必要であること、マイクロバブルの生存時間が限られていること、圧縮用のポンプの内部およびポンプに接続される配管の途中で気泡が発生して燃料が正常に送れなくなること等から、現実的ではないと考えられる。
【0008】
そこで、本発明は、簡単な構造により、低いコストで、ノズル本体の内部で旋回流を生じさせることができ、噴射燃料の微粒化を促進することができ、燃料の燃焼性および排気特性の改善に貢献することができる燃料噴射ノズルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の燃料噴射ノズルは、一端に燃料を噴出させる噴孔が形成され、前記噴孔に燃料を導く燃料通路を有するノズル本体と、前記ノズル本体に挿入される軸状の部材であり、前記ノズル本体とともに、前記ノズル本体に対する軸方向の往復移動により前記燃料通路を開閉する弁部を構成するニードルと、を備え、前記燃料通路は、前記ニードルの外周面とともに、前記ニードルの軸心回りに燃料を保持する空間を形成する燃料溜り部と、前記燃料溜り部よりも上流側に設けられ、前記ニードルの前記ノズル本体に対する挿入方向側に向けて燃料を導く第1の通路部と、前記燃料溜り部と前記第1の通路部との間に設けられ、前記ニードルの軸方向に対して垂直な平面に沿う方向に形成され、前記燃料溜り部に対して、前記ニードルの径方向からずれた方向に連通する第2の通路部と、を有するものである。
【0010】
本発明の燃料噴射ノズルにおいては、好ましくは、前記第2の通路部は、前記燃料溜り部および前記第1の通路部に対する絞りを構成するものである。
【0011】
本発明の燃料噴射ノズルにおいては、好ましくは、前記燃料溜り部は、前記ニードルの軸方向視で円形状となる内周面部を有し、前記第2の通路部は、前記燃料溜り部に対して、前記円形状における接線方向に連通するものである。
【0012】
本発明の燃料噴射ノズルにおいては、好ましくは、前記燃料溜り部により形成される空間は、前記ニードルの軸方向に沿って、下流側に向けて縮径する先細り形状を有するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、簡単な構造により、低いコストで、ノズル本体の内部で旋回流を生じさせることができ、噴射燃料の微粒化を促進することができ、燃料の燃焼性および排気特性の改善に貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る燃料噴射ノズルの構成を示す一部断面図。
【図2】本発明の一実施形態に係る燃料噴射ノズルの開弁状態を示す一部断面図。
【図3】本発明の一実施形態に係る燃料噴射ノズルのノズル本体の構成を示す断面図。
【図4】図3におけるA方向矢視図。
【図5】図3におけるB−B矢視断面図。
【図6】本発明の一実施形態に係る燃料噴射ノズルの他の構成例を示す図。
【図7】本発明の一実施形態に係る燃料噴射ノズルの他の構成例を示す図。
【図8】本発明の実施例に係る実施例品に対する比較例品の構成を示す図。
【図9】本発明の実施例に係る解析装置の構成を示す図。
【図10】本発明の実施例に係る燃料の燃焼の様子を表す連続的な撮像画像の一例を示す図。
【図11】本発明の実施例に係る燃料の燃焼の様子を表す連続的な撮像画像の一例を示す図。
【図12】本発明の実施例に係る燃料の燃焼の様子を表す連続的な撮像画像の一例を示す図。
【図13】本発明の実施例に係る燃料の燃焼過程における雰囲気圧力の時間変化を示す図。
【図14】本発明の実施例に係る燃料の噴霧の様子の撮影についての説明図。
【図15】本発明の実施例に係る燃料の噴霧の様子の撮影結果例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、燃料噴射ノズルを構成するノズル本体において、燃料を噴出させる噴孔に燃料を導くために形成される燃料の経路の構成を工夫することにより、簡単な構造で、ノズル本体の内部で旋回流を生じさせ、噴射燃料の微粒化を促進しようとするものである。また、燃料の経路において、所定の部分を絞りとして構成することにより、ノズル本体の内部でのキャビテーションの発生を促し、より効果的に噴射燃料の微粒化を促進しようとするものである。以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0016】
本実施形態の燃料噴射ノズル1は、例えば舶用や自動車用のエンジンに適用され、エンジンにおいて、ディーゼル燃料等の燃料の噴射弁を構成する。すなわち、燃料噴射ノズル1は、例えば、エンジンにおいて、シリンダ内に燃料の燃焼空間を形成する燃焼室に燃料を噴射するように設けられる。
【0017】
燃料噴射ノズル1は、燃料タンク等からコンプレッサや燃料ポンプ等によって加圧された状態で送られてくる燃料の供給を受け、エンジンの燃焼空間に燃料を噴射する。このため、図1に示すように、燃料噴射ノズル1は、燃料を噴出させる噴孔2と、供給された燃料を噴孔2に導くための燃料の経路である燃料通路3とを有する。
【0018】
つまり、燃料噴射ノズル1は、エンジンにおいて、噴孔2が燃焼空間に臨むような姿勢で設けられ、燃料ポンプ等によって加圧された状態で供給される燃料を、燃料通路3によって噴孔2に導き、噴孔2から噴出させることで、燃料を燃焼空間に噴射する。なお、以下の説明では、燃料噴射ノズル1において、噴孔2が設けられる側(図1における下側)を下側とし、その反対側(図1における上側)を上側とする。
【0019】
燃料噴射ノズル1により構成される燃料噴射弁は、例えば、コモンレール式の燃料噴射システムを構成する。コモンレール式の燃料噴射システムは、複数の燃料噴射弁と、高圧化した燃料を蓄えるコモンレールとを備え、コモンレールから各燃料噴射弁に均一に燃料を供給するシステムである。
【0020】
コモンレール式の燃料噴射システムでは、燃料の噴射圧力、噴射時期、噴射量等が、制御装置によって電子的に制御される。このため、燃料噴射ノズル1がコモンレール式の燃料噴射システムの各燃料噴射弁を構成する場合、燃料噴射ノズル1は、その動作等について、制御装置による電子的な制御を受ける。
【0021】
図1から図5に示すように、本実施形態の燃料噴射ノズル1は、ノズル本体4と、ニードル5とを備える。ノズル本体4は、全体として略円筒状の外形を有する部材である。ニードル5は、全体として略円柱状の外形を有する軸状の部材である。なお、図3は、図4におけるC−C断面図に相当する。
【0022】
ニードル5は、ノズル本体4に対して、略同軸心となる位置に挿入された状態で、軸方向(上下方向)に相対的に移動可能に設けられる。言い換えると、ニードル5は、ノズル本体4への挿脱方向(上下方向)の移動が許容された状態で、ノズル本体4に挿入される。
【0023】
図1から図5に示すように、ノズル本体4は、ニードル5を挿入させる孔を形成する案内面6を有する。ノズル本体4は、ニードル5を、軸方向(上下方向)に往復摺動可能な状態で収容する。このため、ニードル5の挿入孔を形成する案内面6は、ノズル本体4に挿入されたニードル5が摺動するように、ニードル5の外周面に対応する内周面として形成される。つまり、ニードル5の案内面6に対して摺動する部分の外径寸法と、案内面6の内径寸法とは、略同じである。案内面6は、ニードル5の軸方向の移動を案内するとともに、ニードル5をノズル本体4に保持する。
【0024】
図1に示すように、燃料噴射ノズル1は、ノズル本体4とニードル5により、燃料通路3を開閉する弁部7を構成する。弁部7は、ノズル本体4に対するニードル5の往復摺動により開閉する。具体的には次のとおりである。
【0025】
燃料噴射ノズル1が有する噴孔2は、ノズル本体4の下端に形成される。本実施形態の燃料噴射ノズル1は、1個の噴孔2を有する。噴孔2は、ニードル5の軸心線上に位置し、ニードル5の軸方向に沿って貫通する。噴孔2は、ノズル本体4の下側において、燃料通路3をノズル本体4の外部に開口させる。
【0026】
また、燃料通路3は、ノズル本体4において、噴孔2が形成される側と反対側(上側)の端面4aに開口する。燃料通路3の端面4aに対する開口部が、燃料通路3の入口部3aとなる。したがって、燃料噴射ノズル1に供給される燃料は、入口部3aから流入し、燃料通路3によって噴孔2へと導かれる。
【0027】
噴孔2と案内面6との間には、燃料溜り部8が設けられる。燃料溜り部8は、燃料通路3の一部を構成する。燃料溜り部8は、内周面9によって空間18を形成する。内周面9により形成される空間18は、案内面6で形成されるニードル5の挿入孔の下端側を開口させるように、ニードル5の挿入孔に対して拡径した部分を有する。燃料溜り部8は、先端通路部10を介して、噴孔2に連通する。つまり、燃料溜り部8と噴孔2との間に、先端通路部10が設けられる。先端通路部10は、弁部7におけるノズル本体4の強度確保等のために設けられるが、その通路長さは短い方が好ましい。
【0028】
先端通路部10は、ニードル5と同軸心上に位置する略円筒状の空間を形成する部分であり、噴孔2に対しては拡径された空間を形成し、燃料溜り部8に対しては縮径された空間を形成する。つまり、先端通路部10の径方向の寸法は、噴孔2の径方向の寸法よりも大きく、燃料溜り部8の径方向の寸法よりも小さい。
【0029】
したがって、先端通路部10の上端側(噴孔2と連通する側と反対側)は、燃料溜り部8に対して開口する。先端通路部10の燃料溜り部8に対する開口部が、ニードル5により閉塞されることで、弁部7が閉じた状態となる。
【0030】
先端通路部10がニードル5によって閉塞されるため、燃料溜り部8を形成する内周面9の、先端通路部10側の部分には、弁座11が設けられている。弁座11は、先端通路部10の燃料溜り部8に対する開口部の周辺部分に形成される。
【0031】
弁座11は、下側(噴孔2側)にかけて縮径する円錐台状の内周面である座面を形成する。したがって、弁座11は、小径側で噴孔2に連通し、大径側で燃料溜り部8に連通する。弁座11は、その円錐台状の座面の軸心方向が、ニードル5の軸心方向と一致するように設けられる。
【0032】
弁部7を構成する弁座11に対しては、弁体として機能するニードル5の先端部が着座する。ニードル5は、ノズル本体4に対する挿入方向の先端側の端部に、縮径部12を有する。縮径部12は、ニードル5において、案内面6を形成する部分に対して小径の部分である。縮径部12は、燃料溜り部8に位置する。縮径部12のさらに先端側には、弁座11に対して着座する部分となる着座部13が設けられている。
【0033】
着座部13は、ニードル5の先端側にかけて縮径する円錐形状を有する。着座部13の外周面が、弁座11により形成される座面に対する着座面となる。つまり、着座部13により形成される着座面が、弁座11により形成される座面に接触することで、弁部7が閉じた状態となり、着座部13により形成される着座面が、弁座11により形成される座面から離間することで、弁部7が開いた状態となる。
【0034】
図1は、燃料噴射ノズル1の閉弁状態、つまり弁部7が閉じた状態を示し、図2は、燃料噴射ノズル1の開弁状態、つまり弁部7が開いた状態を示す。弁部7は、上記のとおりニードル5の往復摺動により開閉する。ニードル5は、スプリング等の付勢部材によって、弁部7を閉じる方向、つまり下向きに付勢された状態で設けられる。ニードル5は、付勢部材による付勢力を受けるため、着座部13側と反対側(上側)の端部に、突出部14を有する。突出部14は、ニードル5の上端部において、案内面6を形成する部分に対して小径の円柱状の突起部分として形成される。
【0035】
一方、ニードル5は、縮径部12において、先端側(下側)にかけて縮径するテーパ面12aを有する。上述したように、縮径部12は、燃料溜り部8に位置し、燃料溜り部8は、燃料通路3の一部を構成する。このため、ニードル5は、燃料溜り部8において、テーパ面12aによって、燃料通路3に供給される高圧(例えば800気圧)に維持された燃料の圧力を受けることで、弁部7を開弁させる方向(上向き)の力の作用を受ける。
【0036】
なお、上述したように燃料噴射ノズル1がコモンレール式の燃料噴射システムに適用される場合、燃料噴射ノズル1のニードル5の動作は、電磁弁やピエゾ素子(圧電素子)等を含む周知の構成によって電子的に制御される。ニードル5は、電子的な制御により、弁部7を開弁させる方向(上向き)の力、または弁部7を閉弁させる方向(下向き)の力の作用を受ける。
【0037】
いずれにしても、ニードル5に作用する上下方向の力の大小関係の変化により、弁部7の開閉動作が行われる。すなわち、付勢部材による付勢力等によってニードル5が受ける下向きの力が、燃料溜り部8においてテーパ面12a等によってニードル5が受ける上向きの力よりも大きい状態では、ニードル5の先端の着座部13は、弁座11に着座し、弁部7が閉じた状態となる(図1参照)。一方、ニードル5が受ける上向きの力が下向きの力よりも大きい状態では、ニードル5の先端の着座部13は、弁座11から離れ、弁部7が開いた状態となる(図2参照)。
【0038】
このような弁部7の開閉動作において、電子的な制御が用いられる場合、電磁弁に対する通電状態やピエゾ素子に対する電圧の印加状態等により、ニードル5に作用する上下方向の力の大小関係が変化させられる。そして、弁部7の開閉のタイミングによって燃料の噴射時期が制御され、弁部7の開弁時間によって燃料の噴射量が制御されながら、弁部7の開閉により、間欠的な燃料の噴射が行われる。
【0039】
以上のように、本実施形態の燃料噴射ノズル1は、一端に燃料を噴出させる噴孔2が形成され、噴孔2に燃料を導く燃料通路3を有するノズル本体4と、ノズル本体4に挿入される軸状の部材であり、ノズル本体4とともに、ノズル本体4に対する軸方向(上下方向)の往復移動により燃料通路3を開閉する弁部7を構成するニードル5とを備える。なお、燃料噴射ノズル1の動作方式、つまり往復動作するニードル5の駆動方式は、特に限定されるものではない。
【0040】
また、燃料噴射ノズル1においては、ノズル本体4に、連結ピン15を嵌合させるための穴部4bが形成されている。穴部4bは、ノズル本体4の端面4aに開口するように形成される。連結ピン15は、燃料噴射ノズル1により構成される燃料噴射弁において、ノズル本体4に対して端面4a側に接合される構造体16と、ノズル本体4とを連結させる。本実施形態では、端面4aに開口する穴部4bは、同じく端面4aに開口する入口部3aと干渉しないように2箇所設けられ(図4参照)、ノズル本体4は、2本の連結ピン15が用いられて所定の構造体16に連結される。
【0041】
以下では、燃料噴射ノズル1が備える燃料通路3の構成について、具体的に説明する。図1等に示すように、燃料通路3は、噴孔2に対する燃料の流れの上流側から、燃料供給通路部21と、方向変換通路部22と、燃料溜り部8とを有する。
【0042】
燃料供給通路部21は、ノズル本体4において、案内面6により形成される挿入孔の軸心回りの所定の位置に設けられ、ニードル5の軸方向に沿って形成される直線状の孔を形成する部分である。つまり、燃料供給通路部21は、ノズル本体4において、軸心位置からずれた位置にて、案内面6により形成される挿入孔と平行に形成される孔部である。燃料供給通路部21は、略円形状となる断面形状を有する。
【0043】
燃料供給通路部21の上流側(上側)の端部は、ノズル本体4の端面4aにて、燃料通路3の入口部3aとして開口する。一方、燃料供給通路部21の下流側(下側)の端部は、上下方向について、燃料溜り部8の位置まで延びて形成される。燃料供給通路部21の下流側の端部は、ニードル5の軸方向視で、燃料溜り部8に対して間隔を隔てた位置、つまりニードル5の径方向の外側の位置に臨む。
【0044】
方向変換通路部22は、燃料供給通路部21と燃料溜り部8との間に設けられ、燃料供給通路部21と燃料溜り部8とを連通させる直線状の孔を形成する部分である。方向変換通路部22は、上記のとおり燃料溜り部8に対して間隔を隔てた位置に臨む燃料供給通路部21の下流側の端部から、燃料溜り部8内に燃料を導く。
【0045】
このため、方向変換通路部22は、ニードル5の軸方向に対して垂直な平面に沿う方向に形成される。つまり、方向変換通路部22は、燃料供給通路部21によってニードル5の軸方向に沿って送られてきた燃料を、ニードル5の軸方向に対して垂直な平面に沿う方向に送る。このように、方向変換通路部22は、燃料供給通路部21によってニードル5の軸方向に沿って流れてきた燃料の流れる方向を、ニードル5の軸方向に対して垂直な平面に沿う方向に変換して、燃料溜り部8に燃料を導く。
【0046】
方向変換通路部22は、燃料溜り部8に対して、ニードル5の軸方向視で、燃料溜り部8の接線方向に沿うように形成される。図5に示すように、燃料溜り部8を形成する内周面9は、ニードル5の軸方向視で円形状となる内周面部23を有する。そして、方向変換通路部22は、燃料溜り部8に対して、内周面部23によるニードル5の軸方向視での円形状における接線方向に連通する。
【0047】
詳細には、図5に示すように、燃料溜り部8を形成する内周面9は、ニードル5の軸方向視で、ニードル5の軸心位置O1を中心とする円形状となる内周面部23を有する。軸心位置O1を中心とする円形状においては、任意の位置にて接線O2を引くことができる。
【0048】
そこで、直線状の孔を形成する方向変換通路部22は、その直線の方向に相当する通路の方向が、軸心位置O1を中心とする円形状における接線O2の方向に沿う方向となるように設けられる。言い換えると、方向変換通路部22は、その通路の方向が、軸心位置O1を中心とする円形状における接線O2の方向に対して平行な方向となるように形成される。
【0049】
また、本実施形態の燃料噴射ノズル1においては、方向変換通路部22は、燃料通路3を構成する燃料供給通路部21と燃料溜り部8との間において、絞りを構成する。つまり、方向変換通路部22は、燃料供給通路部21および燃料溜り部8の通路面積に対して絞りとして機能するような孔径の流路を形成する。方向変換通路部22は、燃料供給通路部21と燃料溜り部8との間において、流路を絞り、燃料供給通路部21から燃料溜り部8に流れ込む燃料の流量を制限する。
【0050】
したがって、方向変換通路部22において形成される流路は、燃料供給通路部21において形成される流路に対して小径に形成される。また、方向変換通路部22において形成される流路は、燃料溜り部8において形成される空間に対しても十分に小さい径で開口するように形成される。
【0051】
また、燃料通路3を構成する燃料溜り部8は、ニードル5の外周面、詳細には縮径部12の部分の外周面とともに、ニードル5の軸心回りに燃料を保持する空間18を形成する。図1等に示すように、ノズル本体4に挿入された状態のニードル5は、燃料溜り部8の部分に、縮径部12を位置させる。これにより、燃料溜り部8は、内周面9と、縮径部12の外周面とによって、ニードル5の周りに、燃料が溜まる空間18を形成する。
【0052】
以上のような構成の燃料通路3による燃料の流れについて説明する。なお、ここで説明する燃料の流れは、噴孔2から燃料が噴射される際の燃料の流れ、つまり弁部7が開いている状態における燃料の流れである。
【0053】
燃料噴射ノズル1に対して所定の経路で供給される燃料は、燃料通路3の入口部3aから、燃料供給通路部21内に流入する。燃料供給通路部21内に流入した燃料は、燃料供給通路部21により、ニードル5の軸方向に沿って下向きに導かれる(図2、矢印A1参照)。
【0054】
燃料供給通路部21の下端部に達した燃料は、方向変換通路部22に流入することで流れる方向が変換され、方向変換通路部22によって燃料溜り部8に流れ込む。方向変換通路部22を通過して燃料溜り部8に流れ込む燃料は、上述したように方向変換通路部22が燃料溜り部8に対して接線方向に設けられることから、燃料溜り部8に対して接線方向に流れ込む(図5、矢印A2参照)。
【0055】
燃料溜り部8に対して接線方向に流れ込んだ燃料は、燃料溜り部8において、内周面9に沿って旋回流を生じさせる(図5、矢印A3参照)。つまり、ここで燃料溜り部8内において生じる燃料の旋回流は、ニードル5の軸心回りの旋回流である。
【0056】
また、方向変換通路部22から燃料溜り部8に対して接線方向に燃料が流れ込むことにより、燃料通路3を流れる燃料についてキャビテーションが発生する。このキャビテーションの発生は、方向変換通路部22が燃料通路3において絞りを構成することにより促される。つまり、絞りとして機能する方向変換通路部22によって、燃料供給通路部21から燃料溜り部8に流れ込む燃料の流量が制限されることに起因して、燃料通路3を流れる燃料についてキャビテーションが発生しやすくなる。
【0057】
燃料溜り部8内において旋回流を形成する燃料は、弁部7の開弁状態において互いに離間している弁座11とニードル5の着座部13との間の狭い隙間を通って、先端通路部10に流入し、噴孔2から噴出する。このようにして燃料噴射ノズル1から噴射された燃料は、燃焼室において着火することで火炎として広がり、燃焼する。
【0058】
このように、燃料通路3により噴孔2に導かれる燃料の流れにおいては、噴孔2から噴出する燃料は、燃料が方向変換通路部22から燃料溜り部8に流れ込むことによって生じる旋回流の流れに沿って、旋回しながら噴出する。つまり、燃料溜り部8内において生じた燃料の旋回流は、先端通路部10および噴孔2の内部においても維持され、噴孔2から噴出する燃料を旋回流に沿ってねじれた状態で噴出させる。
【0059】
以上のような構成を備える本実施形態の燃料噴射ノズル1においては、燃料通路3を構成する燃料供給通路部21が、第1の通路部として機能し、同じく燃料通路3を構成する方向変換通路部22が、第2の通路部として機能する。
【0060】
すなわち、燃料供給通路部21は、燃料通路3において燃料溜り部8よりも上流側に設けられ、ニードル5のノズル本体4に対する挿入方向側(下側)に向けて燃料を導く。また、方向変換通路部22は、燃料溜り部8と燃料供給通路部21との間に設けられ、ニードル5の軸方向に対して垂直な平面に沿う方向に形成され、燃料溜り部8に対して、ニードル5の径方向からずれた方向に連通する。
【0061】
以上のような燃料噴射ノズル1によれば、簡単な構造により、低いコストで、ノズル本体4の内部で旋回流を生じさせることができ、噴射燃料の微粒化を促進することができ、燃料の燃焼性および排気特性の改善に貢献することができる。
【0062】
具体的には、本実施形態の燃料噴射ノズル1は、噴孔2に対する燃料の供給経路において、燃料をニードル5の軸方向に導く燃料供給通路部21に加え、燃料供給通路部21から燃料溜り部8に対して接線方向に連通する方向変換通路部22を有する。これにより、燃料噴射ノズル1は、ノズル本体4の内部となる燃料溜り部8において、旋回流を発生させる。このため、本実施形態の燃料噴射ノズル1によれば、例えばニードル5の外周面形状を工夫すること等によってニードル5の形状の複雑化を招くことなく、簡単な構造および低コストを容易に実現することができるとともに、ノズル本体4の内部で旋回流を効果的に発生させることができる。
【0063】
さらに、本実施形態の燃料噴射ノズル1によれば、噴射した燃料が燃焼した後の燃料の液だれ(後だれ)が防止されるという効果も得られる。このことは、ノズル本体4の内部で生じる旋回流によって、噴孔2における液切れが良くなることに基づくと考えられる。
【0064】
また、本実施形態の燃料噴射ノズル1では、燃料溜り部8において旋回流を生じさせる方向変換通路部22が、燃料通路3において絞りを構成する。これにより、ノズル本体4の内部において、燃料通路3を流れる燃料について、積極的にキャビテーションを発生させることができる。
【0065】
この点、従来からの研究により、キャビテーションの発生のメカニズムの詳細は未だ明らかにされていないものの、ノズル本体の内部で発生するキャビテーションが噴射燃料の微粒化に寄与するという報告がなされている。つまり、ノズル本体の内部でキャビテーションが発生することにより、噴射燃料の微粒化が促進されることがわかっている。
【0066】
したがって、本実施形態の燃料噴射ノズル1によれば、燃料通路3の流路構成によって、燃料通路3を流れる燃料についてのキャビテーションの発生が促され、噴射燃料の微粒化が効果的に促進される。結果として、本実施形態の燃料噴射ノズル1によれば、燃料の燃焼性および排気特性が改善される。
【0067】
本実施形態の燃料噴射ノズル1では、燃料通路3を構成する方向変換通路部22が、燃料溜り部8に対して接線方向に連通しているが、これに限定されない。つまり、本実施形態では、方向変換通路部22の燃料溜り部8に対する連通方向に関し、ニードル5の径方向からずれた方向として、燃料溜り部8に対する接線方向が採用されているが、これに限定されない。
【0068】
したがって、方向変換通路部22の燃料溜り部8に対する連通方向について、ニードル5の径方向からずれた方向は、上述したような効果を得る観点から、燃料溜り部8に対する接線方向を、ニードル5の径方向からのずれ量が最大となる方向として、燃料溜り部8内において旋回流が生じる程度にニードル5の径方向からずれた方向であればよい。
【0069】
また、ノズル本体4において方向変換通路部22が形成される方向に関し、ニードル5の軸方向に対して垂直な平面に沿う方向とは、ニードル5の軸方向に対して厳密に垂直な平面に沿う方向に限定されず、ニードル5の軸方向に対して略垂直な平面に沿う方向も含む趣旨である。
【0070】
方向変換通路部22が形成される方向としては、下流側の端部が燃料溜り部8の位置に達する燃料供給通路部21によってニードル5の軸方向に沿って送られてきた燃料が、燃料供給通路部21よりも内側(ニードル5の軸心位置側)に位置する燃料溜り部8に導かれるように方向転換される程度に、ニードル5の軸方向に対して略垂直な平面に沿う方向であればよい。
【0071】
また、本実施形態の燃料噴射ノズル1では、燃料通路3を構成する燃料供給通路部21が、ニードル5の軸方向に沿って、つまりニードル5の挿入孔と平行に形成されているが、これに限定されない。燃料供給通路部21は、ニードル5の軸方向に平行である必要はなく、ニードル5のノズル本体4に対する挿入方向側(下側)に向けて燃料を導く構成であればよい。
【0072】
したがって、燃料供給通路部21の方向としては、ニードル5の軸方向に対して斜め方向であってもよい。ここで、燃料供給通路部21の下流側の端部の位置が、ニードル5の軸方向視で、燃料溜り部8に対して隔てる間隔が大きいほど、方向変換通路部22の流路長さを確保することが容易となる。
【0073】
また、本実施形態の燃料噴射ノズル1では、燃料供給通路部21および方向変換通路部22は、いずれも直線状に形成されているが、各通路部の形状は特に限定されない。燃料供給通路部21および方向変換通路部22については、例えば、両通路部の連結部分が曲線状に形成されたり、各通路部が全体としてあるいは部分的に曲線状に形成されたりしてもよい。
【0074】
さらに、本実施形態の燃料噴射ノズル1では、燃料通路3を構成する燃料供給通路部21および方向変換通路部22が1組設けられているが、複数組の燃料供給通路部21および方向変換通路部22が、燃料溜り部8に連通する構成であってもよい。この場合、複数の方向変換通路部22は、燃料溜り部8に対して、各方向変換通路部22によって燃料溜り部8内で生じる旋回流が互いに相殺されることのないように設けられる。
【0075】
例えば、2組の燃料供給通路部21および方向変換通路部22が設けられ、各方向変換通路部22が燃料溜り部8に対して接線方向に連通する場合、2つの方向変換通路部22は、ニードル5の軸方向視で、ニードル5の軸心位置O1(図5参照)を中心として点対称に設けられる。このように、燃料溜り部8に対して、複数組の燃料供給通路部21および方向変換通路部22が連通する構成が採用されることにより、燃料溜り部8内において、旋回流をより効果的に発生させることができる。
【0076】
また、燃料溜り部8において、ニードル5の軸方向視で円形状となる内周面部23について、円形状とは、真円形状に限定されるものではなく、一部に円弧状となる部分を含む略円形状も含む趣旨である。すなわち、内周面部23についてのニードル5の軸方向視での円形状とは、方向変換通路部22が燃料溜り部8に対して接線方向に連通する場合に、その接線方向を規定するための形状であるため、内周面部23についての円形状は、接線方向を規定することができるように、円弧状となる部分を有する略円形状であればよい。
【0077】
また、燃料溜り部8により形成される空間18ついては、本実施形態の燃料噴射ノズル1のように、ニードル5の軸方向に沿って、下流側に向けて縮径する先細り形状を有することが好ましい。具体的には、図1等に示すように、燃料溜り部8において内周面9により形成される空間18は、案内面6により形成されるニードル5の挿入孔に対する拡径部分となる上側から、先端通路部10が開口する下側(下流側)にかけて、徐々に縮径する略円錐形状を有する。
【0078】
このように、燃料溜り部8により形成される空間18が、燃料の噴射側に向けて先細り形状を有することにより、燃料溜り部8から先端通路部10に向かう燃料の流れにおいて渦流が生じやすくなる。これにより、燃料溜り部8内において生じた旋回流の勢いを維持または増幅させることができ、より効果的に旋回流による微粒化を促進することができる。
【0079】
また、本実施形態の燃料噴射ノズル1は、燃料を噴出させる噴孔2を1個有するが、噴孔2を複数個有してもよい。燃料噴射ノズル1が複数の噴孔2を有する場合、例えば、図6に示すように、複数の噴孔2は、ニードル5の軸心の位置を中心として、下側に向けて放射状に燃料を噴出するように形成される。
【0080】
さらに、例えば、図7に示すように、複数の噴孔2は、ニードル5の軸方向視で、円形状となる先端通路部10に対して接線方向に沿って形成されてもよい。図7は、8個の噴孔2が、ニードル5の軸方向視で、先端通路部10の円周方向に等間隔に、先端通路部10に対して接線方向に沿って形成された場合の例を示している。
【0081】
以下では、本発明の実施例について説明する。本実施例では、上述した実施形態の燃料噴射ノズル1を適用した燃料噴射ノズル(以下「実施例品」という。)と、実施例品の比較対象としての従来技術を適用した燃料噴射ノズル(以下「比較例品」という。)とについて、燃料の燃焼、および噴射される燃料についての解析を行ったものである。また、本実施例では、噴射する燃料として、主にディーゼルエンジンの燃料として使用される軽油を用いた。
【0082】
本実施例の説明に際し、比較例品としての燃料噴射ノズル31について、図8を用いて説明する。なお、比較例品としての燃料噴射ノズル31の説明においては、便宜上、上述した実施形態の燃料噴射ノズル1と共通する部分については、同一の符号を用いて説明を省略する。
【0083】
図8に示すように、比較例品としての燃料噴射ノズル31は、燃料を入口部3aから燃料溜り部8まで導くための燃料の通路として、直線通路部41を有する。直線通路部41は、入口部3aから、燃料溜り部8の周縁部に対して、直線状の孔を形成する部分である。
【0084】
直線通路部41は、ニードル5の軸心線を通る断面に沿って、入口部3aから、噴孔2側にかけて、ニードル5の軸心位置に近付くように、ニードル5の軸方向に対して斜め方向に形成される。このように、比較例品としての燃料噴射ノズル31は、上述した実施形態の燃料噴射ノズル1との比較において、燃料供給通路部21および方向変換通路部22の代わりに、入口部3aから燃料溜り部8に対して直接的に燃料を導く1本の直線状の通路である直線通路部41を有する点で、燃料噴射ノズル1と異なる。
【0085】
続いて、本実施例で用いた解析装置の構成について、図9を用いて説明する。図9に示すように、本実施例に用いた解析装置51は、燃焼室52と、予備燃焼調整部53と、燃料供給部54と、フォトセンサ55と、カメラ56と、制御部57とを備える。
【0086】
燃焼室52は、燃料を燃焼させるための燃焼空間60を形成する。本実施例では、燃焼空間60は、直径100mm、高さ330mmの略円筒形状の空間として形成される。燃焼室52は、金属製の容器として構成される。
【0087】
燃焼室52には、観察窓61が設けられている。観察窓61は、燃焼室52の内部での燃料の燃焼の様子を燃焼室52の外部から観察するための窓である。観察窓61は、燃焼室52において燃焼空間60を形成する周壁部分に設けられる。観察窓61は、燃焼室52の外部から石英ガラス62を介して燃焼室52の内部が見えるように構成される。石英ガラス62は、燃焼空間60を形成する周壁部分に装着される。観察窓61は、高さ280mm、幅50mmの略楕円形状を有する(図14参照)。
【0088】
燃焼室52には、燃焼室52内に燃料を噴射するための燃料噴射ノズルが設けられる。つまり、実施例品についての解析を行う場合は、上述した実施形態の燃料噴射ノズル1が燃焼室52に設けられ、比較例品についての解析を行う場合は、比較例品としての燃料噴射ノズル31が燃焼室52に設けられる。解析装置51の説明では、実施例品としての燃料噴射ノズル1が設けられた場合を例に説明する。
【0089】
燃料噴射ノズル1は、噴孔2側が下を向く姿勢で燃焼室52の上部に設けられる。このように、本実施例では、燃焼室52において、燃料噴射ノズル1から噴射された燃料を燃焼させる。
【0090】
また、燃焼室52には、点火プラグ64が設けられている。点火プラグ64は、燃焼室52において燃焼空間60を形成する周壁部分に装着され、図示せぬイグナイタに接続される。点火プラグ64は、後述するように予備燃焼調整部53から燃焼室52に供給される混合ガスに点火するためのものである。点火プラグ64の動作は、制御部57により制御される。
【0091】
また、燃焼室52には、燃焼室52内の燃焼ガスを排気するための排気管65が接続されている。排気管65には、排気制御弁66が設けられている。排気制御弁66は、燃焼室52内からの燃焼ガスの排気が行われる排気状態と、燃焼室52内からの燃焼ガスの排気が止められる非排気状態とを切り換えるための弁である。排気制御弁66は、排気管65の燃焼室52に対する接続部分の近傍に設けられる。
【0092】
排気管65は、排気制御弁66の下流側の部分において、燃焼室52内の高圧状態を利用した自然排気を行うための自然排気管65aと、真空ポンプ67による強制的な排気を行うための強制排気管65bとに分岐している。排気管65は、真空ポンプ67による燃焼室52内の燃焼ガスの強制的な排気により、燃焼室52内に燃焼の残渣ができるだけ残留しないように、燃焼室52内の排気を行う。
【0093】
排気管65を構成する自然排気管65aおよび強制排気管65bには、切換用の開閉弁68a,68bが設けられている。これらの開閉弁68a,68bの開閉制御により、燃焼室52内の燃焼ガスの効率良く速やかな排気が行われる。排気管65に設けられる排気制御弁66、および開閉弁68a,68bの動作は、制御部57により制御される。また、燃焼室52には、燃焼室52内の気圧の変化等が生じる状況下において安全を確保するための安全弁69が設けられている。
【0094】
また、燃焼室52には、燃焼室52内の初期温度を計測するための燃焼室用温度計71と、燃焼室52内の圧力を計測するための燃焼室用圧力計72とが設けられている。燃焼室用温度計71は、熱電対であり、燃焼室用圧力計72は、圧力変換素子である。
【0095】
予備燃焼調整部53は、燃焼室52内の温度、圧力、およびガス成分を含む雰囲気状態を調整するための構成である。つまり、予備燃焼調整部53は、燃焼室52内で燃焼を生じさせることにより、燃焼室52内の雰囲気状態をあらかじめ所定の状態に調整する。
【0096】
予備燃焼調整部53は、調整ガスタンク81とエチレンガスタンク82とを有する。調整ガスタンク81は、窒素を配合した酸素からなる調整ガスを貯溜し、調整ガス供給管83を介して燃焼室52に接続される。エチレンガスタンク82は、燃料ガスとしてのエチレンガスを貯溜し、エチレンガス供給管84を介して燃焼室52に接続される。
【0097】
つまり、予備燃焼調整部53は、調整ガス供給管83を介して調整ガスタンク81内の調整ガスを燃焼室52内に送給するとともに、エチレンガス供給管84を介してエチレンガスタンク82内のエチレンガスを燃焼室52内に送給する。本実施例では、調整ガス供給管83とエチレンガス供給管84とは、途中で合流した状態で燃焼室52に接続される。
【0098】
調整ガス供給管83およびエチレンガス供給管84には、それぞれマスフローコントローラ85と制御バルブ86とが設けられている。調整ガス供給管83に設けられるマスフローコントローラ85および制御バルブ86により、調整ガスタンク81から燃焼室52に送給される調整ガスの流量が調整される。エチレンガス供給管84に設けられるマスフローコントローラ85および制御バルブ86により、エチレンガスタンク82から燃焼室52に送給されるエチレンガスの流量が調整される。
【0099】
このように、予備燃焼調整部53により、流量が調整された調整ガスおよびエチレンガスが燃焼室52内に送り込まれることにより、燃焼室52内において、酸素(O2)と窒素(N2)とエチレン(C2H4)とが所定の割合で混合された予混合ガスが生成される。本実施例では、調整ガスタンク81内に貯溜される調整ガスとして、酸素34%、窒素66%の成分比のものを用いた。
【0100】
燃料供給部54は、解析装置51による解析対象の燃料を燃焼室52内に供給するための構成である。燃料供給部54は、燃料タンク91を有する。燃料タンク91は、解析対象の燃料を貯溜し、燃料供給管92を介して燃料噴射ノズル1に接続される。つまり、燃料供給部54は、燃料供給管92を介して燃料タンク91内の燃料を燃料噴射ノズル1に供給する。
【0101】
燃料供給部54は、燃料噴射ノズル1に対して燃料を所定の圧力に加圧して供給するための構成として、コンプレッサ93と燃料ポンプ94とを有する。コンプレッサ93は、燃料タンク91に接続され、燃料タンク91内を加圧する。燃料ポンプ94は、燃料供給管92に設けられ、燃料タンク91から燃料供給管92に送り込まれた燃料を、燃料噴射ノズル1に対して圧送する。
【0102】
燃料ポンプ94は、作動油によって動作するピストン94aを有し、作動油の供給を受けることで作動する。燃料ポンプ94に対する作動油の供給は、オイルポンプ95およびアキュムレータ96を含む構成により行われる。オイルポンプ95およびアキュムレータ96は、電磁弁97を介して燃料ポンプ94に接続される。
【0103】
燃料供給部54においては、コンプレッサ93により加圧された燃料が、アキュムレータ96により加圧された作動油を受けて押されるピストン94aによってさらに加圧され、燃料噴射ノズル1に供給される。なお、電磁弁97の動作は、制御部57により制御される。以上のような構成を有する燃料供給部54により、燃料噴射ノズル1からの燃焼空間60に対する安定的な燃料噴射が行われる。
【0104】
また、燃料供給管92と燃料噴射ノズル1との接続部分には、燃料供給部54から燃料噴射ノズル1に供給された燃料のうち余分な燃料を排出するためのドレン管98が接続されている。ドレン管98によって排出された燃料は、ドレンタンク99に貯溜される。ドレン管98には、開閉弁100が設けられている。
【0105】
また、解析装置51においては、燃料噴射ノズル1から噴射される燃料の温度を計測するための燃料用温度計101と、燃料噴射ノズル1から噴射される燃料の圧力を計測するための燃料用圧力計102とが設けられている。燃料用温度計101は、熱電対であり、燃料供給管92に設けられる。燃料用圧力計102は、圧力変換素子であり、燃料噴射ノズル1に接続される。
【0106】
フォトセンサ55は、燃焼室52内における燃料の燃焼にともなう火炎の光を受光して、その光を検出するためのものである。本実施例では、フォトセンサ55は、上下方向に所定の間隔を隔てて三箇所に配置されている。図9では説明の便宜上、フォトセンサ55が観察窓61から燃焼室52内に臨むように示されているが、本実施例では、フォトセンサ55は、燃焼室52において燃焼空間60を形成する周壁部分に埋め込まれた態様で設けられる。
【0107】
フォトセンサ55による検出信号は、制御部57に入力される。フォトセンサ55が用いられることで、燃料の燃焼状態を観察するに際して時間分解能を極めて容易に向上させることができ、燃料の燃焼状態について精度良く確実な計測を行うことができる。
【0108】
カメラ56は、高速度ビデオカメラであり、燃焼室52内における燃料の燃焼状態についての画像データを取得するためのものである。カメラ56は、燃焼室52の観察窓61に対峙するように配置され、観察窓61を介して燃焼室52内における燃料の燃焼にともなう火炎の挙動を含む燃焼の様子を高い撮影速度で撮影する。
【0109】
カメラ56により取得された画像データは、制御部57に入力される。本実施例では、カメラ56は、0.5ms(ミリ秒)の時間間隔で画像データを取得する。つまり、カメラ56は、0.5msごとに燃焼室52内の様子を撮像する。
【0110】
制御部57は、所定のプログラムに基づいて解析装置51の各部を制御する。制御部57は、プログラム等を格納する格納部、プログラム等に従って所定の演算を行う演算部、演算部による演算結果等を保管する保管部等を有する。制御部57は、CPU(Central Processing Unit)やROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)等がバス等で接続された構成を有するコンピュータである。
【0111】
制御部57は、予備燃焼調整部53および燃料供給部54を制御することで、燃焼室52で燃料を燃焼させる。制御部57は、燃焼室52での燃料の燃焼についてフォトセンサ55およびカメラ56によって得られるデータに基づいて、所定の解析処理を実行する。
【0112】
制御部57は、燃焼室52で燃料を燃焼させるために、まず、燃焼室52内において予混合ガスを燃焼させることにより、燃焼室52内を所定の圧力・温度の疑似空気が充満した状態とする。制御部57は、予備燃焼調整部53および点火プラグ64を制御することにより、燃焼室52内で予混合ガスを燃焼させる。
【0113】
具体的には、制御部57は、予備燃焼調整部53におけるマスフローコントローラ85および制御バルブ86を制御することで、燃焼室52に調整ガスおよびエチレンガスを所定量ずつ送給し、燃焼室52内に、酸素(O2)と窒素(N2)とエチレン(C2H4)とが所定の割合で混合された予混合ガスを生成する。
【0114】
制御部57は、燃焼室52内に予混合ガスが充填された時点で、予備燃焼調整部53から燃焼室52への調整ガスおよびエチレンガスの供給を停止する。制御部57は、燃焼室52へのガスの供給を停止してから、点火プラグ64に接続されるイグナイタに信号を送信することで点火プラグ64を作動させ、燃焼室52内に充填している予混合ガスを燃焼させる。
【0115】
燃焼室52内で予混合ガスが燃焼することで、燃焼室52内の圧力が増大する。予混合ガスが燃焼することで、燃焼室52内に疑似空気が生成される。本実施例では、燃焼室52内で生成される疑似空気において酸素が21%存在するように、予混合ガスの圧力や成分比等を調整した。ここで、燃焼室52内に生成される疑似空気中の酸素量(酸素濃度)は、予備燃焼調整部53から燃焼室52に供給される調整ガス中の酸素の配合量や、燃焼室52に供給される調整ガスとエチレンガスとの混合比等により調整される。
【0116】
予混合ガスの燃焼によって上昇した燃焼室52内の圧力は、熱損失によって徐々に低下する。この燃焼室52内の圧力が低下する過程において、所定のタイミングで燃料噴射ノズル1から燃料が噴射されることにより、燃料の燃焼が行われる。つまり、制御部57は、予備燃焼調整部53および点火プラグ64を制御することで燃焼室52内を疑似空気で充満させた状態から、燃料供給部54を制御することにより、所定のタイミングで燃料噴射ノズル1から燃料を噴射させ、燃焼室52において燃料の燃焼を生じさせる。
【0117】
具体的には、制御部57は、予混合ガスの燃焼によって上昇した燃焼室52内の圧力が低下する過程において、燃焼室52内の圧力が所定の設定圧力に達した時点で、電磁弁97を切換制御することにより燃料ポンプ94を作動させることで、燃料噴射ノズル1から燃焼室52内に燃料を噴射させる。
【0118】
本実施例では、制御部57の制御による燃料噴射ノズル1からの燃料の噴射を、燃焼室52内の圧力が1.9MPa(メガパスカル)に達した時点で実行した。そして、燃焼室52内の雰囲気状態について、燃焼室52内の圧力が1.9MPaの状態で、燃焼室52内の温度が684Kとなるような調整を行った。
【0119】
また、本実施例では、他の場合として、制御部57の制御による燃料噴射ノズル1からの燃料の噴射を、燃焼室52内の圧力が1.8MPaに達した時点で実行した。そして、燃焼室52内の雰囲気状態について、燃焼室52内の圧力が1.8MPaの状態で、燃焼室52内の温度が648Kとなるような調整を行った。
【0120】
以下では、燃焼室52内の雰囲気圧力(Pa)が1.9MPa、雰囲気温度(Ta)が684Kの雰囲気状態を「第1温度状態」と称し、燃焼室52内の雰囲気圧力が1.8MPa、雰囲気温度が648Kの雰囲気状態を「第2温度状態」と称する。
【0121】
燃料噴射ノズル1から燃焼室52内に噴射された燃料は、燃焼室52内の雰囲気状態によって自己着火し、燃焼を開始する。言い換えると、燃焼室52内への燃料の噴射は、燃焼室52内の圧力が低下する過程において、燃焼室52内の圧力や温度等の雰囲気状態が、噴射された燃料の自然的な着火を生じさせる状態となった時点で行われる。燃焼室52内で燃料噴射ノズル1から噴射された燃料が燃焼することで、燃焼室52内の圧力が、徐々に低下する過程において一時的に上昇する。
【0122】
このように燃焼室52内において燃焼する燃料は、燃料供給部54により安定的に供給される。燃料噴射ノズル1から燃焼室52内に噴射される燃料の圧力(以下「燃料噴射圧力」という。)は、前述したように燃料用圧力計102によって計測される。燃焼室52内への燃料の噴射は、約30msの間行われる。
【0123】
制御部57は、燃焼室52内における燃料の燃焼が終了した後、燃焼室52内の燃焼ガスの排気を行う。制御部57は、燃焼室52内の燃焼ガスの排気として、排気制御弁66および自然排気管65aの開閉弁68aを開弁することによる排気、ならびに排気制御弁66および強制排気管65bの開閉弁68bを開弁するとともに真空ポンプ67を作動させることによる強制排気を行う。
【0124】
以上のような構成の解析装置51を用いて、本発明の実施例として、燃料の燃焼、および噴射される燃料についての解析を行った。
【0125】
図10および図11は、それぞれカメラ56により取得される、燃焼室52内における燃料の着火時を含む合計41枚の(20msの間の)連続的な撮像画像(画像データ)を示す。つまり、図10および図11の各図は、燃料噴射開始後の燃焼の様子を示す。図10および図11の各図において、長方形で区切られる各部分が1枚の撮像画像(画像データ)であり、各撮像画像における白い部分が火炎の部分を表し、黒い部分が背景を表す。また、図10および図11の各図の画像データは、燃料の噴射タイミングを基準として時間軸を共通にする。
【0126】
図10(a)は、燃料噴射時の雰囲気条件を第1温度状態(Pa=1.9MPa、Ta=684K)とし、解析装置51において実施例品を用いた場合の燃焼の様子を示す。図10(b)は、同じく雰囲気条件を第1温度状態とし、解析装置51において比較例品を用いた場合の燃焼の様子を示す。
【0127】
図11(a)は、燃料噴射時の雰囲気条件を第2温度状態(Pa=1.8MPa、Ta=648K)とし、解析装置51において実施例品を用いた場合の燃焼の様子を示す。図11(b)は、同じく雰囲気条件を第2温度状態とし、解析装置51において比較例品を用いた場合の燃焼の様子を示す。
【0128】
図10(a)、(b)、図11(a)、(b)の各図において、上段のデータは、燃料噴射圧力(Pinj)が32MPaの場合を示し、中段のデータは、燃料噴射圧力が40MPaの場合を示し、下段のデータは、燃料噴射圧力が80MPaの場合を示す。また、図10および図11に示すいずれの場合についても、雰囲気条件としての酸素濃度を21%とした。
【0129】
図10(a)、(b)の比較からわかるように、実施例品と比較例品とでは、着火遅れはほぼ同程度であった。ここで、着火遅れとは、燃料噴射ノズルによる燃料の噴射から着火までの時間、つまり燃料噴射ノズルにより燃料の噴射が開始された時点から、燃料噴射ノズルから噴射された燃料が着火した時点までの時間である。
【0130】
また、図10(a)、(b)の比較から、燃料の着火後の燃焼に関しては、実施例品の方が、比較例品よりも、火炎が太っている様子がわかる。つまり、実施例品の方が、着火後の燃焼による火炎の横方向の広がりの程度が大きい。
【0131】
実施例品の方が比較例品よりも火炎が太くなることは、実施例品の方が比較例品よりも、噴霧する燃料の噴射角度が広がった状態で燃料が燃焼し、燃料の濃い部分の少ない燃焼になっていることに起因すると推測される。
【0132】
また、図10(a)、(b)それぞれの上段、中段、下段の各データの比較から、燃料噴射圧力が変化することによっても、実施例品の方が比較例品よりも火炎が太くなることがわかる。つまり、燃料噴射圧力に特に影響されることなく、実施例品による火炎の広がり効果を得ることができる。
【0133】
図11(a)、(b)からわかるように、第2温度状態においても、燃料の燃焼の様子は、図10に示す第1温度状態の場合と同様の傾向を示す。すなわち、第2温度状態においても、燃料噴射圧力に特に影響されることなく、実施例品の方が比較例品よりも火炎が太くなる。そして、図10と図11の比較から、雰囲気条件に特に影響されることなく(特に、雰囲気温度が低い状態でも)、実施例品による火炎の広がり効果を得ることができるがわかる。
【0134】
このように、実施例品によれば、従来技術を適用した比較例品との比較において、火炎の広がりが大きくなる。火炎の広がりが大きいということは、それだけ燃料が微粒化しているということを示す。本実施例により、実施例品を用いることで、ノズル本体の内部で発生する旋回流によって噴射燃料の微粒化が促進されることが実証された。
【0135】
また、本実施例では、燃料の燃焼に関し、燃料噴射ノズルの弁部7が閉じてからの後燃えの様子を観察した。図12は、カメラ56により取得される、燃焼室52内における燃料噴射終了後の燃焼(後燃え)の様子を表す合計21枚の(10ms間の)連続的な撮像画像(画像データ)を示す。
【0136】
図12において、長方形で区切られる各部分が1枚の撮像画像(画像データ)である。1コマは0.5msである。図12(a)は、実施例品についてのデータであり、同図(b)は、比較例品についてのデータである。また、図12(a)、(b)の各図の画像データは、燃料の噴射タイミングを基準として時間軸を共通にする。図12に示すデータを取得した際の雰囲気条件は、Pa=1.9MPa、Ta=684K(第1温度状態)であり、燃料噴射圧力(Pinj)は、Pinj=32MPaである。
【0137】
図12(b)に示すように、比較例品の場合には、燃料の噴射終了後に燃料の後だれがあり、その後だれの燃料が燃焼している様子が見られる(破線楕円部分参照)。この点、図12(a)に示すように、実施例品の場合には、燃料の噴射終了後の後だれがほとんどない。
【0138】
このことから、実施例品は、燃料の噴射終了後の燃料の噴霧の切れがよいことがわかる。雰囲気条件および燃料噴射圧力等について他の条件でも同様の観察を行ったが、いずれも本実施例と同様の傾向にあり、実施例品の場合、後だれは、あってもわずかであり、ほとんど見受けられなかった。
【0139】
本実施例により、実施例品を用いることで、従来技術を適用した比較例品の場合に生じていた燃料の後だれが抑制されることが実証された。このように燃料の後だれを抑制できる実施例品によれば、ノズルから噴射される燃料をきれいに燃焼させることができるので、実機において、燃費改善、燃焼室の清浄性の向上、エンジンのシリンダのライナー表面の腐食環境改善など、得られるメリットは大きい。
【0140】
次に、実施例品および比較例品の燃料の流量についての考察を加える。実施例品については、燃料通路3において方向変換通路部22が絞りとして構成されることから、比較例品に対して燃料の流量が減少することが懸念される。そこで、本実施例では、燃料の燃焼にともなう雰囲気圧力の変化を測定した。
【0141】
図13に、実施例品と比較例品についての燃料の燃焼にともなう雰囲気圧力の時間変化を示す。図13に示すグラフにおいて、横軸は時間(ms)を示し、縦軸は雰囲気圧力(MPa)を示し、実線が実施例品についてのグラフであり、一点鎖線が比較例品についてのグラフである。図13に示す測定結果は、Pa=1.9MPa、Ta=684K、Pinj=80MPaの雰囲気条件のもとで得られたものである。
【0142】
図13に示す測定結果から、燃料が燃焼する過程での雰囲気圧力は、実施例品および比較例品で同じように上昇していることがわかる。このことは、実施例品と比較例品とで、単位時間当たりに噴射される燃料の量にはほとんど差がないことを示す。ここで、解析装置51の燃焼室52が定容容器であることから、図13のグラフにおいて縦軸で示す雰囲気圧力の値は、単位時間あたりの熱発生量に対応する。つまり、雰囲気圧力の値が大きくなるほど、単位時間あたりの熱発生量も大きくなる。
【0143】
このように、図13実施例品と比較例品とで、雰囲気圧力の上昇の様子が同じであるということから、実施例品の燃料通路3において方向変換通路部22が絞りとして構成されることは、燃料の流量に特に影響しないことがわかる。なお、図13において、25ms辺り以降の熱発生終了時で実施例品の方が比較例品よりも雰囲気圧力の値が低いのは、本測定例では実施例品の方が噴射期間がわずかに短かったことに起因するものであり、単位時間あたりの熱発生量は、実施例品と比較例品とでほぼ同じであると考えられる。
【0144】
また、実施例品と比較例品とで単位時間あたりの燃料の噴射量が同程度であるということは、上述したように実施例品を用いることで火炎の広がりが大きくなることから、実施例品から噴射された燃料の方がより効率的に燃焼しているといえる。
【0145】
続いて、本実施例として、燃料噴射ノズルの近傍の燃料の噴霧の様子を撮影した。ここでは、上述した解析装置51において、カメラ56として、毎秒100万コマの画像データを取得する高速度カメラを用いて、燃料の噴霧の様子を撮影した。
【0146】
噴霧火炎の場合、燃料の流速が速いため、燃料噴射ノズルの近傍は火炎がなく、噴霧状態となっている。このため、本実施例では、図14に示すように、燃料噴射ノズル1(31)の噴孔2の直下における燃料の噴霧の様子を撮影した。
【0147】
具体的には、図14に示すように、縦5mm、横6mmの長方形状の範囲を撮影範囲(撮影フレーム)とし、燃料噴射ノズル1(31)の先端の位置を基準とする下向きの上下方向(Z方向)の位置について、撮影フレームの縦の長さ(5mm)ごとに撮影を行った。なお、本実施例では、燃料噴射圧力を32MPa(Pinj=32MPa)とした。
【0148】
図15に、実施例品と比較例品の、Z=15mmの位置(図14、「撮影フレームF1」参照)と、Z=20mmの位置((図14、「撮影フレームF2」参照)での撮影結果(1コマの画像データ)を示す。なお、各撮影写真において、黒い部分が噴霧燃料を表し、白い部分が背景を表す。
【0149】
図15に示す撮影結果について考察する。燃料噴射ノズルから噴射された燃料の噴霧形状は時間とともに変化するが、図15に示す各撮影写真は、標準的な噴霧状態を表している。実施例品と比較例品の噴霧形状を比較した場合、実施例品の方が、噴霧形状が膨れていることがわかる。この現象は、実施例品の方が、比較例品と比べて、噴孔2から噴射された液体燃料がより微粒化されて広がっているためであると考えられる。
【0150】
このように、燃料噴射ノズルの近傍の燃料の噴霧の様子からも、実施例品を用いることで、ノズル本体の内部で発生する旋回流によって噴射燃料の微粒化が促進されることが実証された。
【0151】
本発明は、ディーゼル燃料(バンカー油)やガソリンを含む石油系燃料のほか、バイオディーゼル燃料、アルコール系燃料、その他の合成燃料等の液体燃料の噴射に広く適用可能である。したがって、本発明に係る燃料噴射ノズルは、例えば舶用や自動車用のディーゼルエンジンやガソリンエンジン等において、直噴式、副室式等、燃料噴射方式にかかわらず広く適用可能である。本発明は、船舶工学の分野や機械工学の分野、さらには食品加工の分野や塗装の分野等、燃料の噴射が行われる技術分野において広く展開される。
【符号の説明】
【0152】
1 燃料噴射ノズル
2 噴孔
3 燃料通路
4 ノズル本体
5 ニードル
6 案内面
7 弁部
8 燃料溜り部
9 内周面
12 縮径部
18 空間
21 燃料供給通路部(第1の通路部)
22 方向変換通路部(第2の通路部)
23 内周面部
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼルエンジン等に用いられる燃料噴射ノズルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ディーゼルエンジン等のエンジンにおいては、排気ガスに含まれる有毒物質の排出量の低減や、二酸化炭素の排出量の低減を促す熱効率の向上や、スモークの排出量の低減等のために、燃料噴射弁を構成する燃料噴射ノズルの特性の改善が重要な鍵を握っている。特に、スモークの排出量を低減させる観点からは、燃料噴射ノズルから噴射された燃料が速やかに微粒化して燃料蒸気となり、空気と混合して燃焼することが望ましい。そこで、燃料噴射ノズルにおいては、従来、噴射された燃料噴霧の微粒化を促進するため、燃料の噴射圧の高圧化や燃料の噴射孔の微細化等の種々の工夫が行われている。
【0003】
燃料噴射ノズルにおいては、噴射燃料の微粒化を促進するため、噴射する燃料に旋回流を生じさせる工夫を行うことが、従来技術として存在する。噴射する燃料に旋回流を生じさせる構成としては、例えば特許文献1の燃料噴射ノズルのように、噴射する燃料の旋回流を、燃料が噴孔から燃料噴射ノズルの外部に噴出する直前となる噴孔内で生じさせるものがある。具体的には、特許文献1の燃料噴射ノズルは、燃料が噴出する噴孔を弁座の内周面の接線方向に形成すること等により、噴孔内に流れ込む燃料の所定の方向の流速に遅速を生じさせ、噴孔内に旋回流を生じさせる。
【0004】
一方、噴射する燃料に旋回流を生じさせる構成としては、例えば特許文献2の燃料噴射ノズルのように、噴射する燃料の旋回流を、噴孔内よりも上流側、つまりノズルボディ等と呼ばれるノズル本体の内部で生じさせるものがある。特許文献2の燃料噴射ノズルは、ノズル本体に挿入されてノズル本体に設けられる弁座に着座するニードルの周囲に、旋回流を生じさせる。このため、特許文献2の燃料噴射ノズルにおいては、ニードルの外周面に、螺旋溝が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−324868号公報
【特許文献2】特開平6−147057号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2の燃料噴射ノズルのように、ニードルの外周面に螺旋溝が形成される構成によれば、ニードルの形状が複雑となる。このため、ニードルの加工が難しく、加工コストも高くなる。
【0007】
他方、噴射燃料の微粒化を促進するため、マイクロバブルを含む燃料をポンプにより圧縮するという方法も考案されている。しかしながら、マイクロバブルを用いる方法は、マイクロバブルを生成して燃料中に入れるために動力が必要であること、マイクロバブルの生存時間が限られていること、圧縮用のポンプの内部およびポンプに接続される配管の途中で気泡が発生して燃料が正常に送れなくなること等から、現実的ではないと考えられる。
【0008】
そこで、本発明は、簡単な構造により、低いコストで、ノズル本体の内部で旋回流を生じさせることができ、噴射燃料の微粒化を促進することができ、燃料の燃焼性および排気特性の改善に貢献することができる燃料噴射ノズルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の燃料噴射ノズルは、一端に燃料を噴出させる噴孔が形成され、前記噴孔に燃料を導く燃料通路を有するノズル本体と、前記ノズル本体に挿入される軸状の部材であり、前記ノズル本体とともに、前記ノズル本体に対する軸方向の往復移動により前記燃料通路を開閉する弁部を構成するニードルと、を備え、前記燃料通路は、前記ニードルの外周面とともに、前記ニードルの軸心回りに燃料を保持する空間を形成する燃料溜り部と、前記燃料溜り部よりも上流側に設けられ、前記ニードルの前記ノズル本体に対する挿入方向側に向けて燃料を導く第1の通路部と、前記燃料溜り部と前記第1の通路部との間に設けられ、前記ニードルの軸方向に対して垂直な平面に沿う方向に形成され、前記燃料溜り部に対して、前記ニードルの径方向からずれた方向に連通する第2の通路部と、を有するものである。
【0010】
本発明の燃料噴射ノズルにおいては、好ましくは、前記第2の通路部は、前記燃料溜り部および前記第1の通路部に対する絞りを構成するものである。
【0011】
本発明の燃料噴射ノズルにおいては、好ましくは、前記燃料溜り部は、前記ニードルの軸方向視で円形状となる内周面部を有し、前記第2の通路部は、前記燃料溜り部に対して、前記円形状における接線方向に連通するものである。
【0012】
本発明の燃料噴射ノズルにおいては、好ましくは、前記燃料溜り部により形成される空間は、前記ニードルの軸方向に沿って、下流側に向けて縮径する先細り形状を有するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、簡単な構造により、低いコストで、ノズル本体の内部で旋回流を生じさせることができ、噴射燃料の微粒化を促進することができ、燃料の燃焼性および排気特性の改善に貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る燃料噴射ノズルの構成を示す一部断面図。
【図2】本発明の一実施形態に係る燃料噴射ノズルの開弁状態を示す一部断面図。
【図3】本発明の一実施形態に係る燃料噴射ノズルのノズル本体の構成を示す断面図。
【図4】図3におけるA方向矢視図。
【図5】図3におけるB−B矢視断面図。
【図6】本発明の一実施形態に係る燃料噴射ノズルの他の構成例を示す図。
【図7】本発明の一実施形態に係る燃料噴射ノズルの他の構成例を示す図。
【図8】本発明の実施例に係る実施例品に対する比較例品の構成を示す図。
【図9】本発明の実施例に係る解析装置の構成を示す図。
【図10】本発明の実施例に係る燃料の燃焼の様子を表す連続的な撮像画像の一例を示す図。
【図11】本発明の実施例に係る燃料の燃焼の様子を表す連続的な撮像画像の一例を示す図。
【図12】本発明の実施例に係る燃料の燃焼の様子を表す連続的な撮像画像の一例を示す図。
【図13】本発明の実施例に係る燃料の燃焼過程における雰囲気圧力の時間変化を示す図。
【図14】本発明の実施例に係る燃料の噴霧の様子の撮影についての説明図。
【図15】本発明の実施例に係る燃料の噴霧の様子の撮影結果例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、燃料噴射ノズルを構成するノズル本体において、燃料を噴出させる噴孔に燃料を導くために形成される燃料の経路の構成を工夫することにより、簡単な構造で、ノズル本体の内部で旋回流を生じさせ、噴射燃料の微粒化を促進しようとするものである。また、燃料の経路において、所定の部分を絞りとして構成することにより、ノズル本体の内部でのキャビテーションの発生を促し、より効果的に噴射燃料の微粒化を促進しようとするものである。以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0016】
本実施形態の燃料噴射ノズル1は、例えば舶用や自動車用のエンジンに適用され、エンジンにおいて、ディーゼル燃料等の燃料の噴射弁を構成する。すなわち、燃料噴射ノズル1は、例えば、エンジンにおいて、シリンダ内に燃料の燃焼空間を形成する燃焼室に燃料を噴射するように設けられる。
【0017】
燃料噴射ノズル1は、燃料タンク等からコンプレッサや燃料ポンプ等によって加圧された状態で送られてくる燃料の供給を受け、エンジンの燃焼空間に燃料を噴射する。このため、図1に示すように、燃料噴射ノズル1は、燃料を噴出させる噴孔2と、供給された燃料を噴孔2に導くための燃料の経路である燃料通路3とを有する。
【0018】
つまり、燃料噴射ノズル1は、エンジンにおいて、噴孔2が燃焼空間に臨むような姿勢で設けられ、燃料ポンプ等によって加圧された状態で供給される燃料を、燃料通路3によって噴孔2に導き、噴孔2から噴出させることで、燃料を燃焼空間に噴射する。なお、以下の説明では、燃料噴射ノズル1において、噴孔2が設けられる側(図1における下側)を下側とし、その反対側(図1における上側)を上側とする。
【0019】
燃料噴射ノズル1により構成される燃料噴射弁は、例えば、コモンレール式の燃料噴射システムを構成する。コモンレール式の燃料噴射システムは、複数の燃料噴射弁と、高圧化した燃料を蓄えるコモンレールとを備え、コモンレールから各燃料噴射弁に均一に燃料を供給するシステムである。
【0020】
コモンレール式の燃料噴射システムでは、燃料の噴射圧力、噴射時期、噴射量等が、制御装置によって電子的に制御される。このため、燃料噴射ノズル1がコモンレール式の燃料噴射システムの各燃料噴射弁を構成する場合、燃料噴射ノズル1は、その動作等について、制御装置による電子的な制御を受ける。
【0021】
図1から図5に示すように、本実施形態の燃料噴射ノズル1は、ノズル本体4と、ニードル5とを備える。ノズル本体4は、全体として略円筒状の外形を有する部材である。ニードル5は、全体として略円柱状の外形を有する軸状の部材である。なお、図3は、図4におけるC−C断面図に相当する。
【0022】
ニードル5は、ノズル本体4に対して、略同軸心となる位置に挿入された状態で、軸方向(上下方向)に相対的に移動可能に設けられる。言い換えると、ニードル5は、ノズル本体4への挿脱方向(上下方向)の移動が許容された状態で、ノズル本体4に挿入される。
【0023】
図1から図5に示すように、ノズル本体4は、ニードル5を挿入させる孔を形成する案内面6を有する。ノズル本体4は、ニードル5を、軸方向(上下方向)に往復摺動可能な状態で収容する。このため、ニードル5の挿入孔を形成する案内面6は、ノズル本体4に挿入されたニードル5が摺動するように、ニードル5の外周面に対応する内周面として形成される。つまり、ニードル5の案内面6に対して摺動する部分の外径寸法と、案内面6の内径寸法とは、略同じである。案内面6は、ニードル5の軸方向の移動を案内するとともに、ニードル5をノズル本体4に保持する。
【0024】
図1に示すように、燃料噴射ノズル1は、ノズル本体4とニードル5により、燃料通路3を開閉する弁部7を構成する。弁部7は、ノズル本体4に対するニードル5の往復摺動により開閉する。具体的には次のとおりである。
【0025】
燃料噴射ノズル1が有する噴孔2は、ノズル本体4の下端に形成される。本実施形態の燃料噴射ノズル1は、1個の噴孔2を有する。噴孔2は、ニードル5の軸心線上に位置し、ニードル5の軸方向に沿って貫通する。噴孔2は、ノズル本体4の下側において、燃料通路3をノズル本体4の外部に開口させる。
【0026】
また、燃料通路3は、ノズル本体4において、噴孔2が形成される側と反対側(上側)の端面4aに開口する。燃料通路3の端面4aに対する開口部が、燃料通路3の入口部3aとなる。したがって、燃料噴射ノズル1に供給される燃料は、入口部3aから流入し、燃料通路3によって噴孔2へと導かれる。
【0027】
噴孔2と案内面6との間には、燃料溜り部8が設けられる。燃料溜り部8は、燃料通路3の一部を構成する。燃料溜り部8は、内周面9によって空間18を形成する。内周面9により形成される空間18は、案内面6で形成されるニードル5の挿入孔の下端側を開口させるように、ニードル5の挿入孔に対して拡径した部分を有する。燃料溜り部8は、先端通路部10を介して、噴孔2に連通する。つまり、燃料溜り部8と噴孔2との間に、先端通路部10が設けられる。先端通路部10は、弁部7におけるノズル本体4の強度確保等のために設けられるが、その通路長さは短い方が好ましい。
【0028】
先端通路部10は、ニードル5と同軸心上に位置する略円筒状の空間を形成する部分であり、噴孔2に対しては拡径された空間を形成し、燃料溜り部8に対しては縮径された空間を形成する。つまり、先端通路部10の径方向の寸法は、噴孔2の径方向の寸法よりも大きく、燃料溜り部8の径方向の寸法よりも小さい。
【0029】
したがって、先端通路部10の上端側(噴孔2と連通する側と反対側)は、燃料溜り部8に対して開口する。先端通路部10の燃料溜り部8に対する開口部が、ニードル5により閉塞されることで、弁部7が閉じた状態となる。
【0030】
先端通路部10がニードル5によって閉塞されるため、燃料溜り部8を形成する内周面9の、先端通路部10側の部分には、弁座11が設けられている。弁座11は、先端通路部10の燃料溜り部8に対する開口部の周辺部分に形成される。
【0031】
弁座11は、下側(噴孔2側)にかけて縮径する円錐台状の内周面である座面を形成する。したがって、弁座11は、小径側で噴孔2に連通し、大径側で燃料溜り部8に連通する。弁座11は、その円錐台状の座面の軸心方向が、ニードル5の軸心方向と一致するように設けられる。
【0032】
弁部7を構成する弁座11に対しては、弁体として機能するニードル5の先端部が着座する。ニードル5は、ノズル本体4に対する挿入方向の先端側の端部に、縮径部12を有する。縮径部12は、ニードル5において、案内面6を形成する部分に対して小径の部分である。縮径部12は、燃料溜り部8に位置する。縮径部12のさらに先端側には、弁座11に対して着座する部分となる着座部13が設けられている。
【0033】
着座部13は、ニードル5の先端側にかけて縮径する円錐形状を有する。着座部13の外周面が、弁座11により形成される座面に対する着座面となる。つまり、着座部13により形成される着座面が、弁座11により形成される座面に接触することで、弁部7が閉じた状態となり、着座部13により形成される着座面が、弁座11により形成される座面から離間することで、弁部7が開いた状態となる。
【0034】
図1は、燃料噴射ノズル1の閉弁状態、つまり弁部7が閉じた状態を示し、図2は、燃料噴射ノズル1の開弁状態、つまり弁部7が開いた状態を示す。弁部7は、上記のとおりニードル5の往復摺動により開閉する。ニードル5は、スプリング等の付勢部材によって、弁部7を閉じる方向、つまり下向きに付勢された状態で設けられる。ニードル5は、付勢部材による付勢力を受けるため、着座部13側と反対側(上側)の端部に、突出部14を有する。突出部14は、ニードル5の上端部において、案内面6を形成する部分に対して小径の円柱状の突起部分として形成される。
【0035】
一方、ニードル5は、縮径部12において、先端側(下側)にかけて縮径するテーパ面12aを有する。上述したように、縮径部12は、燃料溜り部8に位置し、燃料溜り部8は、燃料通路3の一部を構成する。このため、ニードル5は、燃料溜り部8において、テーパ面12aによって、燃料通路3に供給される高圧(例えば800気圧)に維持された燃料の圧力を受けることで、弁部7を開弁させる方向(上向き)の力の作用を受ける。
【0036】
なお、上述したように燃料噴射ノズル1がコモンレール式の燃料噴射システムに適用される場合、燃料噴射ノズル1のニードル5の動作は、電磁弁やピエゾ素子(圧電素子)等を含む周知の構成によって電子的に制御される。ニードル5は、電子的な制御により、弁部7を開弁させる方向(上向き)の力、または弁部7を閉弁させる方向(下向き)の力の作用を受ける。
【0037】
いずれにしても、ニードル5に作用する上下方向の力の大小関係の変化により、弁部7の開閉動作が行われる。すなわち、付勢部材による付勢力等によってニードル5が受ける下向きの力が、燃料溜り部8においてテーパ面12a等によってニードル5が受ける上向きの力よりも大きい状態では、ニードル5の先端の着座部13は、弁座11に着座し、弁部7が閉じた状態となる(図1参照)。一方、ニードル5が受ける上向きの力が下向きの力よりも大きい状態では、ニードル5の先端の着座部13は、弁座11から離れ、弁部7が開いた状態となる(図2参照)。
【0038】
このような弁部7の開閉動作において、電子的な制御が用いられる場合、電磁弁に対する通電状態やピエゾ素子に対する電圧の印加状態等により、ニードル5に作用する上下方向の力の大小関係が変化させられる。そして、弁部7の開閉のタイミングによって燃料の噴射時期が制御され、弁部7の開弁時間によって燃料の噴射量が制御されながら、弁部7の開閉により、間欠的な燃料の噴射が行われる。
【0039】
以上のように、本実施形態の燃料噴射ノズル1は、一端に燃料を噴出させる噴孔2が形成され、噴孔2に燃料を導く燃料通路3を有するノズル本体4と、ノズル本体4に挿入される軸状の部材であり、ノズル本体4とともに、ノズル本体4に対する軸方向(上下方向)の往復移動により燃料通路3を開閉する弁部7を構成するニードル5とを備える。なお、燃料噴射ノズル1の動作方式、つまり往復動作するニードル5の駆動方式は、特に限定されるものではない。
【0040】
また、燃料噴射ノズル1においては、ノズル本体4に、連結ピン15を嵌合させるための穴部4bが形成されている。穴部4bは、ノズル本体4の端面4aに開口するように形成される。連結ピン15は、燃料噴射ノズル1により構成される燃料噴射弁において、ノズル本体4に対して端面4a側に接合される構造体16と、ノズル本体4とを連結させる。本実施形態では、端面4aに開口する穴部4bは、同じく端面4aに開口する入口部3aと干渉しないように2箇所設けられ(図4参照)、ノズル本体4は、2本の連結ピン15が用いられて所定の構造体16に連結される。
【0041】
以下では、燃料噴射ノズル1が備える燃料通路3の構成について、具体的に説明する。図1等に示すように、燃料通路3は、噴孔2に対する燃料の流れの上流側から、燃料供給通路部21と、方向変換通路部22と、燃料溜り部8とを有する。
【0042】
燃料供給通路部21は、ノズル本体4において、案内面6により形成される挿入孔の軸心回りの所定の位置に設けられ、ニードル5の軸方向に沿って形成される直線状の孔を形成する部分である。つまり、燃料供給通路部21は、ノズル本体4において、軸心位置からずれた位置にて、案内面6により形成される挿入孔と平行に形成される孔部である。燃料供給通路部21は、略円形状となる断面形状を有する。
【0043】
燃料供給通路部21の上流側(上側)の端部は、ノズル本体4の端面4aにて、燃料通路3の入口部3aとして開口する。一方、燃料供給通路部21の下流側(下側)の端部は、上下方向について、燃料溜り部8の位置まで延びて形成される。燃料供給通路部21の下流側の端部は、ニードル5の軸方向視で、燃料溜り部8に対して間隔を隔てた位置、つまりニードル5の径方向の外側の位置に臨む。
【0044】
方向変換通路部22は、燃料供給通路部21と燃料溜り部8との間に設けられ、燃料供給通路部21と燃料溜り部8とを連通させる直線状の孔を形成する部分である。方向変換通路部22は、上記のとおり燃料溜り部8に対して間隔を隔てた位置に臨む燃料供給通路部21の下流側の端部から、燃料溜り部8内に燃料を導く。
【0045】
このため、方向変換通路部22は、ニードル5の軸方向に対して垂直な平面に沿う方向に形成される。つまり、方向変換通路部22は、燃料供給通路部21によってニードル5の軸方向に沿って送られてきた燃料を、ニードル5の軸方向に対して垂直な平面に沿う方向に送る。このように、方向変換通路部22は、燃料供給通路部21によってニードル5の軸方向に沿って流れてきた燃料の流れる方向を、ニードル5の軸方向に対して垂直な平面に沿う方向に変換して、燃料溜り部8に燃料を導く。
【0046】
方向変換通路部22は、燃料溜り部8に対して、ニードル5の軸方向視で、燃料溜り部8の接線方向に沿うように形成される。図5に示すように、燃料溜り部8を形成する内周面9は、ニードル5の軸方向視で円形状となる内周面部23を有する。そして、方向変換通路部22は、燃料溜り部8に対して、内周面部23によるニードル5の軸方向視での円形状における接線方向に連通する。
【0047】
詳細には、図5に示すように、燃料溜り部8を形成する内周面9は、ニードル5の軸方向視で、ニードル5の軸心位置O1を中心とする円形状となる内周面部23を有する。軸心位置O1を中心とする円形状においては、任意の位置にて接線O2を引くことができる。
【0048】
そこで、直線状の孔を形成する方向変換通路部22は、その直線の方向に相当する通路の方向が、軸心位置O1を中心とする円形状における接線O2の方向に沿う方向となるように設けられる。言い換えると、方向変換通路部22は、その通路の方向が、軸心位置O1を中心とする円形状における接線O2の方向に対して平行な方向となるように形成される。
【0049】
また、本実施形態の燃料噴射ノズル1においては、方向変換通路部22は、燃料通路3を構成する燃料供給通路部21と燃料溜り部8との間において、絞りを構成する。つまり、方向変換通路部22は、燃料供給通路部21および燃料溜り部8の通路面積に対して絞りとして機能するような孔径の流路を形成する。方向変換通路部22は、燃料供給通路部21と燃料溜り部8との間において、流路を絞り、燃料供給通路部21から燃料溜り部8に流れ込む燃料の流量を制限する。
【0050】
したがって、方向変換通路部22において形成される流路は、燃料供給通路部21において形成される流路に対して小径に形成される。また、方向変換通路部22において形成される流路は、燃料溜り部8において形成される空間に対しても十分に小さい径で開口するように形成される。
【0051】
また、燃料通路3を構成する燃料溜り部8は、ニードル5の外周面、詳細には縮径部12の部分の外周面とともに、ニードル5の軸心回りに燃料を保持する空間18を形成する。図1等に示すように、ノズル本体4に挿入された状態のニードル5は、燃料溜り部8の部分に、縮径部12を位置させる。これにより、燃料溜り部8は、内周面9と、縮径部12の外周面とによって、ニードル5の周りに、燃料が溜まる空間18を形成する。
【0052】
以上のような構成の燃料通路3による燃料の流れについて説明する。なお、ここで説明する燃料の流れは、噴孔2から燃料が噴射される際の燃料の流れ、つまり弁部7が開いている状態における燃料の流れである。
【0053】
燃料噴射ノズル1に対して所定の経路で供給される燃料は、燃料通路3の入口部3aから、燃料供給通路部21内に流入する。燃料供給通路部21内に流入した燃料は、燃料供給通路部21により、ニードル5の軸方向に沿って下向きに導かれる(図2、矢印A1参照)。
【0054】
燃料供給通路部21の下端部に達した燃料は、方向変換通路部22に流入することで流れる方向が変換され、方向変換通路部22によって燃料溜り部8に流れ込む。方向変換通路部22を通過して燃料溜り部8に流れ込む燃料は、上述したように方向変換通路部22が燃料溜り部8に対して接線方向に設けられることから、燃料溜り部8に対して接線方向に流れ込む(図5、矢印A2参照)。
【0055】
燃料溜り部8に対して接線方向に流れ込んだ燃料は、燃料溜り部8において、内周面9に沿って旋回流を生じさせる(図5、矢印A3参照)。つまり、ここで燃料溜り部8内において生じる燃料の旋回流は、ニードル5の軸心回りの旋回流である。
【0056】
また、方向変換通路部22から燃料溜り部8に対して接線方向に燃料が流れ込むことにより、燃料通路3を流れる燃料についてキャビテーションが発生する。このキャビテーションの発生は、方向変換通路部22が燃料通路3において絞りを構成することにより促される。つまり、絞りとして機能する方向変換通路部22によって、燃料供給通路部21から燃料溜り部8に流れ込む燃料の流量が制限されることに起因して、燃料通路3を流れる燃料についてキャビテーションが発生しやすくなる。
【0057】
燃料溜り部8内において旋回流を形成する燃料は、弁部7の開弁状態において互いに離間している弁座11とニードル5の着座部13との間の狭い隙間を通って、先端通路部10に流入し、噴孔2から噴出する。このようにして燃料噴射ノズル1から噴射された燃料は、燃焼室において着火することで火炎として広がり、燃焼する。
【0058】
このように、燃料通路3により噴孔2に導かれる燃料の流れにおいては、噴孔2から噴出する燃料は、燃料が方向変換通路部22から燃料溜り部8に流れ込むことによって生じる旋回流の流れに沿って、旋回しながら噴出する。つまり、燃料溜り部8内において生じた燃料の旋回流は、先端通路部10および噴孔2の内部においても維持され、噴孔2から噴出する燃料を旋回流に沿ってねじれた状態で噴出させる。
【0059】
以上のような構成を備える本実施形態の燃料噴射ノズル1においては、燃料通路3を構成する燃料供給通路部21が、第1の通路部として機能し、同じく燃料通路3を構成する方向変換通路部22が、第2の通路部として機能する。
【0060】
すなわち、燃料供給通路部21は、燃料通路3において燃料溜り部8よりも上流側に設けられ、ニードル5のノズル本体4に対する挿入方向側(下側)に向けて燃料を導く。また、方向変換通路部22は、燃料溜り部8と燃料供給通路部21との間に設けられ、ニードル5の軸方向に対して垂直な平面に沿う方向に形成され、燃料溜り部8に対して、ニードル5の径方向からずれた方向に連通する。
【0061】
以上のような燃料噴射ノズル1によれば、簡単な構造により、低いコストで、ノズル本体4の内部で旋回流を生じさせることができ、噴射燃料の微粒化を促進することができ、燃料の燃焼性および排気特性の改善に貢献することができる。
【0062】
具体的には、本実施形態の燃料噴射ノズル1は、噴孔2に対する燃料の供給経路において、燃料をニードル5の軸方向に導く燃料供給通路部21に加え、燃料供給通路部21から燃料溜り部8に対して接線方向に連通する方向変換通路部22を有する。これにより、燃料噴射ノズル1は、ノズル本体4の内部となる燃料溜り部8において、旋回流を発生させる。このため、本実施形態の燃料噴射ノズル1によれば、例えばニードル5の外周面形状を工夫すること等によってニードル5の形状の複雑化を招くことなく、簡単な構造および低コストを容易に実現することができるとともに、ノズル本体4の内部で旋回流を効果的に発生させることができる。
【0063】
さらに、本実施形態の燃料噴射ノズル1によれば、噴射した燃料が燃焼した後の燃料の液だれ(後だれ)が防止されるという効果も得られる。このことは、ノズル本体4の内部で生じる旋回流によって、噴孔2における液切れが良くなることに基づくと考えられる。
【0064】
また、本実施形態の燃料噴射ノズル1では、燃料溜り部8において旋回流を生じさせる方向変換通路部22が、燃料通路3において絞りを構成する。これにより、ノズル本体4の内部において、燃料通路3を流れる燃料について、積極的にキャビテーションを発生させることができる。
【0065】
この点、従来からの研究により、キャビテーションの発生のメカニズムの詳細は未だ明らかにされていないものの、ノズル本体の内部で発生するキャビテーションが噴射燃料の微粒化に寄与するという報告がなされている。つまり、ノズル本体の内部でキャビテーションが発生することにより、噴射燃料の微粒化が促進されることがわかっている。
【0066】
したがって、本実施形態の燃料噴射ノズル1によれば、燃料通路3の流路構成によって、燃料通路3を流れる燃料についてのキャビテーションの発生が促され、噴射燃料の微粒化が効果的に促進される。結果として、本実施形態の燃料噴射ノズル1によれば、燃料の燃焼性および排気特性が改善される。
【0067】
本実施形態の燃料噴射ノズル1では、燃料通路3を構成する方向変換通路部22が、燃料溜り部8に対して接線方向に連通しているが、これに限定されない。つまり、本実施形態では、方向変換通路部22の燃料溜り部8に対する連通方向に関し、ニードル5の径方向からずれた方向として、燃料溜り部8に対する接線方向が採用されているが、これに限定されない。
【0068】
したがって、方向変換通路部22の燃料溜り部8に対する連通方向について、ニードル5の径方向からずれた方向は、上述したような効果を得る観点から、燃料溜り部8に対する接線方向を、ニードル5の径方向からのずれ量が最大となる方向として、燃料溜り部8内において旋回流が生じる程度にニードル5の径方向からずれた方向であればよい。
【0069】
また、ノズル本体4において方向変換通路部22が形成される方向に関し、ニードル5の軸方向に対して垂直な平面に沿う方向とは、ニードル5の軸方向に対して厳密に垂直な平面に沿う方向に限定されず、ニードル5の軸方向に対して略垂直な平面に沿う方向も含む趣旨である。
【0070】
方向変換通路部22が形成される方向としては、下流側の端部が燃料溜り部8の位置に達する燃料供給通路部21によってニードル5の軸方向に沿って送られてきた燃料が、燃料供給通路部21よりも内側(ニードル5の軸心位置側)に位置する燃料溜り部8に導かれるように方向転換される程度に、ニードル5の軸方向に対して略垂直な平面に沿う方向であればよい。
【0071】
また、本実施形態の燃料噴射ノズル1では、燃料通路3を構成する燃料供給通路部21が、ニードル5の軸方向に沿って、つまりニードル5の挿入孔と平行に形成されているが、これに限定されない。燃料供給通路部21は、ニードル5の軸方向に平行である必要はなく、ニードル5のノズル本体4に対する挿入方向側(下側)に向けて燃料を導く構成であればよい。
【0072】
したがって、燃料供給通路部21の方向としては、ニードル5の軸方向に対して斜め方向であってもよい。ここで、燃料供給通路部21の下流側の端部の位置が、ニードル5の軸方向視で、燃料溜り部8に対して隔てる間隔が大きいほど、方向変換通路部22の流路長さを確保することが容易となる。
【0073】
また、本実施形態の燃料噴射ノズル1では、燃料供給通路部21および方向変換通路部22は、いずれも直線状に形成されているが、各通路部の形状は特に限定されない。燃料供給通路部21および方向変換通路部22については、例えば、両通路部の連結部分が曲線状に形成されたり、各通路部が全体としてあるいは部分的に曲線状に形成されたりしてもよい。
【0074】
さらに、本実施形態の燃料噴射ノズル1では、燃料通路3を構成する燃料供給通路部21および方向変換通路部22が1組設けられているが、複数組の燃料供給通路部21および方向変換通路部22が、燃料溜り部8に連通する構成であってもよい。この場合、複数の方向変換通路部22は、燃料溜り部8に対して、各方向変換通路部22によって燃料溜り部8内で生じる旋回流が互いに相殺されることのないように設けられる。
【0075】
例えば、2組の燃料供給通路部21および方向変換通路部22が設けられ、各方向変換通路部22が燃料溜り部8に対して接線方向に連通する場合、2つの方向変換通路部22は、ニードル5の軸方向視で、ニードル5の軸心位置O1(図5参照)を中心として点対称に設けられる。このように、燃料溜り部8に対して、複数組の燃料供給通路部21および方向変換通路部22が連通する構成が採用されることにより、燃料溜り部8内において、旋回流をより効果的に発生させることができる。
【0076】
また、燃料溜り部8において、ニードル5の軸方向視で円形状となる内周面部23について、円形状とは、真円形状に限定されるものではなく、一部に円弧状となる部分を含む略円形状も含む趣旨である。すなわち、内周面部23についてのニードル5の軸方向視での円形状とは、方向変換通路部22が燃料溜り部8に対して接線方向に連通する場合に、その接線方向を規定するための形状であるため、内周面部23についての円形状は、接線方向を規定することができるように、円弧状となる部分を有する略円形状であればよい。
【0077】
また、燃料溜り部8により形成される空間18ついては、本実施形態の燃料噴射ノズル1のように、ニードル5の軸方向に沿って、下流側に向けて縮径する先細り形状を有することが好ましい。具体的には、図1等に示すように、燃料溜り部8において内周面9により形成される空間18は、案内面6により形成されるニードル5の挿入孔に対する拡径部分となる上側から、先端通路部10が開口する下側(下流側)にかけて、徐々に縮径する略円錐形状を有する。
【0078】
このように、燃料溜り部8により形成される空間18が、燃料の噴射側に向けて先細り形状を有することにより、燃料溜り部8から先端通路部10に向かう燃料の流れにおいて渦流が生じやすくなる。これにより、燃料溜り部8内において生じた旋回流の勢いを維持または増幅させることができ、より効果的に旋回流による微粒化を促進することができる。
【0079】
また、本実施形態の燃料噴射ノズル1は、燃料を噴出させる噴孔2を1個有するが、噴孔2を複数個有してもよい。燃料噴射ノズル1が複数の噴孔2を有する場合、例えば、図6に示すように、複数の噴孔2は、ニードル5の軸心の位置を中心として、下側に向けて放射状に燃料を噴出するように形成される。
【0080】
さらに、例えば、図7に示すように、複数の噴孔2は、ニードル5の軸方向視で、円形状となる先端通路部10に対して接線方向に沿って形成されてもよい。図7は、8個の噴孔2が、ニードル5の軸方向視で、先端通路部10の円周方向に等間隔に、先端通路部10に対して接線方向に沿って形成された場合の例を示している。
【0081】
以下では、本発明の実施例について説明する。本実施例では、上述した実施形態の燃料噴射ノズル1を適用した燃料噴射ノズル(以下「実施例品」という。)と、実施例品の比較対象としての従来技術を適用した燃料噴射ノズル(以下「比較例品」という。)とについて、燃料の燃焼、および噴射される燃料についての解析を行ったものである。また、本実施例では、噴射する燃料として、主にディーゼルエンジンの燃料として使用される軽油を用いた。
【0082】
本実施例の説明に際し、比較例品としての燃料噴射ノズル31について、図8を用いて説明する。なお、比較例品としての燃料噴射ノズル31の説明においては、便宜上、上述した実施形態の燃料噴射ノズル1と共通する部分については、同一の符号を用いて説明を省略する。
【0083】
図8に示すように、比較例品としての燃料噴射ノズル31は、燃料を入口部3aから燃料溜り部8まで導くための燃料の通路として、直線通路部41を有する。直線通路部41は、入口部3aから、燃料溜り部8の周縁部に対して、直線状の孔を形成する部分である。
【0084】
直線通路部41は、ニードル5の軸心線を通る断面に沿って、入口部3aから、噴孔2側にかけて、ニードル5の軸心位置に近付くように、ニードル5の軸方向に対して斜め方向に形成される。このように、比較例品としての燃料噴射ノズル31は、上述した実施形態の燃料噴射ノズル1との比較において、燃料供給通路部21および方向変換通路部22の代わりに、入口部3aから燃料溜り部8に対して直接的に燃料を導く1本の直線状の通路である直線通路部41を有する点で、燃料噴射ノズル1と異なる。
【0085】
続いて、本実施例で用いた解析装置の構成について、図9を用いて説明する。図9に示すように、本実施例に用いた解析装置51は、燃焼室52と、予備燃焼調整部53と、燃料供給部54と、フォトセンサ55と、カメラ56と、制御部57とを備える。
【0086】
燃焼室52は、燃料を燃焼させるための燃焼空間60を形成する。本実施例では、燃焼空間60は、直径100mm、高さ330mmの略円筒形状の空間として形成される。燃焼室52は、金属製の容器として構成される。
【0087】
燃焼室52には、観察窓61が設けられている。観察窓61は、燃焼室52の内部での燃料の燃焼の様子を燃焼室52の外部から観察するための窓である。観察窓61は、燃焼室52において燃焼空間60を形成する周壁部分に設けられる。観察窓61は、燃焼室52の外部から石英ガラス62を介して燃焼室52の内部が見えるように構成される。石英ガラス62は、燃焼空間60を形成する周壁部分に装着される。観察窓61は、高さ280mm、幅50mmの略楕円形状を有する(図14参照)。
【0088】
燃焼室52には、燃焼室52内に燃料を噴射するための燃料噴射ノズルが設けられる。つまり、実施例品についての解析を行う場合は、上述した実施形態の燃料噴射ノズル1が燃焼室52に設けられ、比較例品についての解析を行う場合は、比較例品としての燃料噴射ノズル31が燃焼室52に設けられる。解析装置51の説明では、実施例品としての燃料噴射ノズル1が設けられた場合を例に説明する。
【0089】
燃料噴射ノズル1は、噴孔2側が下を向く姿勢で燃焼室52の上部に設けられる。このように、本実施例では、燃焼室52において、燃料噴射ノズル1から噴射された燃料を燃焼させる。
【0090】
また、燃焼室52には、点火プラグ64が設けられている。点火プラグ64は、燃焼室52において燃焼空間60を形成する周壁部分に装着され、図示せぬイグナイタに接続される。点火プラグ64は、後述するように予備燃焼調整部53から燃焼室52に供給される混合ガスに点火するためのものである。点火プラグ64の動作は、制御部57により制御される。
【0091】
また、燃焼室52には、燃焼室52内の燃焼ガスを排気するための排気管65が接続されている。排気管65には、排気制御弁66が設けられている。排気制御弁66は、燃焼室52内からの燃焼ガスの排気が行われる排気状態と、燃焼室52内からの燃焼ガスの排気が止められる非排気状態とを切り換えるための弁である。排気制御弁66は、排気管65の燃焼室52に対する接続部分の近傍に設けられる。
【0092】
排気管65は、排気制御弁66の下流側の部分において、燃焼室52内の高圧状態を利用した自然排気を行うための自然排気管65aと、真空ポンプ67による強制的な排気を行うための強制排気管65bとに分岐している。排気管65は、真空ポンプ67による燃焼室52内の燃焼ガスの強制的な排気により、燃焼室52内に燃焼の残渣ができるだけ残留しないように、燃焼室52内の排気を行う。
【0093】
排気管65を構成する自然排気管65aおよび強制排気管65bには、切換用の開閉弁68a,68bが設けられている。これらの開閉弁68a,68bの開閉制御により、燃焼室52内の燃焼ガスの効率良く速やかな排気が行われる。排気管65に設けられる排気制御弁66、および開閉弁68a,68bの動作は、制御部57により制御される。また、燃焼室52には、燃焼室52内の気圧の変化等が生じる状況下において安全を確保するための安全弁69が設けられている。
【0094】
また、燃焼室52には、燃焼室52内の初期温度を計測するための燃焼室用温度計71と、燃焼室52内の圧力を計測するための燃焼室用圧力計72とが設けられている。燃焼室用温度計71は、熱電対であり、燃焼室用圧力計72は、圧力変換素子である。
【0095】
予備燃焼調整部53は、燃焼室52内の温度、圧力、およびガス成分を含む雰囲気状態を調整するための構成である。つまり、予備燃焼調整部53は、燃焼室52内で燃焼を生じさせることにより、燃焼室52内の雰囲気状態をあらかじめ所定の状態に調整する。
【0096】
予備燃焼調整部53は、調整ガスタンク81とエチレンガスタンク82とを有する。調整ガスタンク81は、窒素を配合した酸素からなる調整ガスを貯溜し、調整ガス供給管83を介して燃焼室52に接続される。エチレンガスタンク82は、燃料ガスとしてのエチレンガスを貯溜し、エチレンガス供給管84を介して燃焼室52に接続される。
【0097】
つまり、予備燃焼調整部53は、調整ガス供給管83を介して調整ガスタンク81内の調整ガスを燃焼室52内に送給するとともに、エチレンガス供給管84を介してエチレンガスタンク82内のエチレンガスを燃焼室52内に送給する。本実施例では、調整ガス供給管83とエチレンガス供給管84とは、途中で合流した状態で燃焼室52に接続される。
【0098】
調整ガス供給管83およびエチレンガス供給管84には、それぞれマスフローコントローラ85と制御バルブ86とが設けられている。調整ガス供給管83に設けられるマスフローコントローラ85および制御バルブ86により、調整ガスタンク81から燃焼室52に送給される調整ガスの流量が調整される。エチレンガス供給管84に設けられるマスフローコントローラ85および制御バルブ86により、エチレンガスタンク82から燃焼室52に送給されるエチレンガスの流量が調整される。
【0099】
このように、予備燃焼調整部53により、流量が調整された調整ガスおよびエチレンガスが燃焼室52内に送り込まれることにより、燃焼室52内において、酸素(O2)と窒素(N2)とエチレン(C2H4)とが所定の割合で混合された予混合ガスが生成される。本実施例では、調整ガスタンク81内に貯溜される調整ガスとして、酸素34%、窒素66%の成分比のものを用いた。
【0100】
燃料供給部54は、解析装置51による解析対象の燃料を燃焼室52内に供給するための構成である。燃料供給部54は、燃料タンク91を有する。燃料タンク91は、解析対象の燃料を貯溜し、燃料供給管92を介して燃料噴射ノズル1に接続される。つまり、燃料供給部54は、燃料供給管92を介して燃料タンク91内の燃料を燃料噴射ノズル1に供給する。
【0101】
燃料供給部54は、燃料噴射ノズル1に対して燃料を所定の圧力に加圧して供給するための構成として、コンプレッサ93と燃料ポンプ94とを有する。コンプレッサ93は、燃料タンク91に接続され、燃料タンク91内を加圧する。燃料ポンプ94は、燃料供給管92に設けられ、燃料タンク91から燃料供給管92に送り込まれた燃料を、燃料噴射ノズル1に対して圧送する。
【0102】
燃料ポンプ94は、作動油によって動作するピストン94aを有し、作動油の供給を受けることで作動する。燃料ポンプ94に対する作動油の供給は、オイルポンプ95およびアキュムレータ96を含む構成により行われる。オイルポンプ95およびアキュムレータ96は、電磁弁97を介して燃料ポンプ94に接続される。
【0103】
燃料供給部54においては、コンプレッサ93により加圧された燃料が、アキュムレータ96により加圧された作動油を受けて押されるピストン94aによってさらに加圧され、燃料噴射ノズル1に供給される。なお、電磁弁97の動作は、制御部57により制御される。以上のような構成を有する燃料供給部54により、燃料噴射ノズル1からの燃焼空間60に対する安定的な燃料噴射が行われる。
【0104】
また、燃料供給管92と燃料噴射ノズル1との接続部分には、燃料供給部54から燃料噴射ノズル1に供給された燃料のうち余分な燃料を排出するためのドレン管98が接続されている。ドレン管98によって排出された燃料は、ドレンタンク99に貯溜される。ドレン管98には、開閉弁100が設けられている。
【0105】
また、解析装置51においては、燃料噴射ノズル1から噴射される燃料の温度を計測するための燃料用温度計101と、燃料噴射ノズル1から噴射される燃料の圧力を計測するための燃料用圧力計102とが設けられている。燃料用温度計101は、熱電対であり、燃料供給管92に設けられる。燃料用圧力計102は、圧力変換素子であり、燃料噴射ノズル1に接続される。
【0106】
フォトセンサ55は、燃焼室52内における燃料の燃焼にともなう火炎の光を受光して、その光を検出するためのものである。本実施例では、フォトセンサ55は、上下方向に所定の間隔を隔てて三箇所に配置されている。図9では説明の便宜上、フォトセンサ55が観察窓61から燃焼室52内に臨むように示されているが、本実施例では、フォトセンサ55は、燃焼室52において燃焼空間60を形成する周壁部分に埋め込まれた態様で設けられる。
【0107】
フォトセンサ55による検出信号は、制御部57に入力される。フォトセンサ55が用いられることで、燃料の燃焼状態を観察するに際して時間分解能を極めて容易に向上させることができ、燃料の燃焼状態について精度良く確実な計測を行うことができる。
【0108】
カメラ56は、高速度ビデオカメラであり、燃焼室52内における燃料の燃焼状態についての画像データを取得するためのものである。カメラ56は、燃焼室52の観察窓61に対峙するように配置され、観察窓61を介して燃焼室52内における燃料の燃焼にともなう火炎の挙動を含む燃焼の様子を高い撮影速度で撮影する。
【0109】
カメラ56により取得された画像データは、制御部57に入力される。本実施例では、カメラ56は、0.5ms(ミリ秒)の時間間隔で画像データを取得する。つまり、カメラ56は、0.5msごとに燃焼室52内の様子を撮像する。
【0110】
制御部57は、所定のプログラムに基づいて解析装置51の各部を制御する。制御部57は、プログラム等を格納する格納部、プログラム等に従って所定の演算を行う演算部、演算部による演算結果等を保管する保管部等を有する。制御部57は、CPU(Central Processing Unit)やROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)等がバス等で接続された構成を有するコンピュータである。
【0111】
制御部57は、予備燃焼調整部53および燃料供給部54を制御することで、燃焼室52で燃料を燃焼させる。制御部57は、燃焼室52での燃料の燃焼についてフォトセンサ55およびカメラ56によって得られるデータに基づいて、所定の解析処理を実行する。
【0112】
制御部57は、燃焼室52で燃料を燃焼させるために、まず、燃焼室52内において予混合ガスを燃焼させることにより、燃焼室52内を所定の圧力・温度の疑似空気が充満した状態とする。制御部57は、予備燃焼調整部53および点火プラグ64を制御することにより、燃焼室52内で予混合ガスを燃焼させる。
【0113】
具体的には、制御部57は、予備燃焼調整部53におけるマスフローコントローラ85および制御バルブ86を制御することで、燃焼室52に調整ガスおよびエチレンガスを所定量ずつ送給し、燃焼室52内に、酸素(O2)と窒素(N2)とエチレン(C2H4)とが所定の割合で混合された予混合ガスを生成する。
【0114】
制御部57は、燃焼室52内に予混合ガスが充填された時点で、予備燃焼調整部53から燃焼室52への調整ガスおよびエチレンガスの供給を停止する。制御部57は、燃焼室52へのガスの供給を停止してから、点火プラグ64に接続されるイグナイタに信号を送信することで点火プラグ64を作動させ、燃焼室52内に充填している予混合ガスを燃焼させる。
【0115】
燃焼室52内で予混合ガスが燃焼することで、燃焼室52内の圧力が増大する。予混合ガスが燃焼することで、燃焼室52内に疑似空気が生成される。本実施例では、燃焼室52内で生成される疑似空気において酸素が21%存在するように、予混合ガスの圧力や成分比等を調整した。ここで、燃焼室52内に生成される疑似空気中の酸素量(酸素濃度)は、予備燃焼調整部53から燃焼室52に供給される調整ガス中の酸素の配合量や、燃焼室52に供給される調整ガスとエチレンガスとの混合比等により調整される。
【0116】
予混合ガスの燃焼によって上昇した燃焼室52内の圧力は、熱損失によって徐々に低下する。この燃焼室52内の圧力が低下する過程において、所定のタイミングで燃料噴射ノズル1から燃料が噴射されることにより、燃料の燃焼が行われる。つまり、制御部57は、予備燃焼調整部53および点火プラグ64を制御することで燃焼室52内を疑似空気で充満させた状態から、燃料供給部54を制御することにより、所定のタイミングで燃料噴射ノズル1から燃料を噴射させ、燃焼室52において燃料の燃焼を生じさせる。
【0117】
具体的には、制御部57は、予混合ガスの燃焼によって上昇した燃焼室52内の圧力が低下する過程において、燃焼室52内の圧力が所定の設定圧力に達した時点で、電磁弁97を切換制御することにより燃料ポンプ94を作動させることで、燃料噴射ノズル1から燃焼室52内に燃料を噴射させる。
【0118】
本実施例では、制御部57の制御による燃料噴射ノズル1からの燃料の噴射を、燃焼室52内の圧力が1.9MPa(メガパスカル)に達した時点で実行した。そして、燃焼室52内の雰囲気状態について、燃焼室52内の圧力が1.9MPaの状態で、燃焼室52内の温度が684Kとなるような調整を行った。
【0119】
また、本実施例では、他の場合として、制御部57の制御による燃料噴射ノズル1からの燃料の噴射を、燃焼室52内の圧力が1.8MPaに達した時点で実行した。そして、燃焼室52内の雰囲気状態について、燃焼室52内の圧力が1.8MPaの状態で、燃焼室52内の温度が648Kとなるような調整を行った。
【0120】
以下では、燃焼室52内の雰囲気圧力(Pa)が1.9MPa、雰囲気温度(Ta)が684Kの雰囲気状態を「第1温度状態」と称し、燃焼室52内の雰囲気圧力が1.8MPa、雰囲気温度が648Kの雰囲気状態を「第2温度状態」と称する。
【0121】
燃料噴射ノズル1から燃焼室52内に噴射された燃料は、燃焼室52内の雰囲気状態によって自己着火し、燃焼を開始する。言い換えると、燃焼室52内への燃料の噴射は、燃焼室52内の圧力が低下する過程において、燃焼室52内の圧力や温度等の雰囲気状態が、噴射された燃料の自然的な着火を生じさせる状態となった時点で行われる。燃焼室52内で燃料噴射ノズル1から噴射された燃料が燃焼することで、燃焼室52内の圧力が、徐々に低下する過程において一時的に上昇する。
【0122】
このように燃焼室52内において燃焼する燃料は、燃料供給部54により安定的に供給される。燃料噴射ノズル1から燃焼室52内に噴射される燃料の圧力(以下「燃料噴射圧力」という。)は、前述したように燃料用圧力計102によって計測される。燃焼室52内への燃料の噴射は、約30msの間行われる。
【0123】
制御部57は、燃焼室52内における燃料の燃焼が終了した後、燃焼室52内の燃焼ガスの排気を行う。制御部57は、燃焼室52内の燃焼ガスの排気として、排気制御弁66および自然排気管65aの開閉弁68aを開弁することによる排気、ならびに排気制御弁66および強制排気管65bの開閉弁68bを開弁するとともに真空ポンプ67を作動させることによる強制排気を行う。
【0124】
以上のような構成の解析装置51を用いて、本発明の実施例として、燃料の燃焼、および噴射される燃料についての解析を行った。
【0125】
図10および図11は、それぞれカメラ56により取得される、燃焼室52内における燃料の着火時を含む合計41枚の(20msの間の)連続的な撮像画像(画像データ)を示す。つまり、図10および図11の各図は、燃料噴射開始後の燃焼の様子を示す。図10および図11の各図において、長方形で区切られる各部分が1枚の撮像画像(画像データ)であり、各撮像画像における白い部分が火炎の部分を表し、黒い部分が背景を表す。また、図10および図11の各図の画像データは、燃料の噴射タイミングを基準として時間軸を共通にする。
【0126】
図10(a)は、燃料噴射時の雰囲気条件を第1温度状態(Pa=1.9MPa、Ta=684K)とし、解析装置51において実施例品を用いた場合の燃焼の様子を示す。図10(b)は、同じく雰囲気条件を第1温度状態とし、解析装置51において比較例品を用いた場合の燃焼の様子を示す。
【0127】
図11(a)は、燃料噴射時の雰囲気条件を第2温度状態(Pa=1.8MPa、Ta=648K)とし、解析装置51において実施例品を用いた場合の燃焼の様子を示す。図11(b)は、同じく雰囲気条件を第2温度状態とし、解析装置51において比較例品を用いた場合の燃焼の様子を示す。
【0128】
図10(a)、(b)、図11(a)、(b)の各図において、上段のデータは、燃料噴射圧力(Pinj)が32MPaの場合を示し、中段のデータは、燃料噴射圧力が40MPaの場合を示し、下段のデータは、燃料噴射圧力が80MPaの場合を示す。また、図10および図11に示すいずれの場合についても、雰囲気条件としての酸素濃度を21%とした。
【0129】
図10(a)、(b)の比較からわかるように、実施例品と比較例品とでは、着火遅れはほぼ同程度であった。ここで、着火遅れとは、燃料噴射ノズルによる燃料の噴射から着火までの時間、つまり燃料噴射ノズルにより燃料の噴射が開始された時点から、燃料噴射ノズルから噴射された燃料が着火した時点までの時間である。
【0130】
また、図10(a)、(b)の比較から、燃料の着火後の燃焼に関しては、実施例品の方が、比較例品よりも、火炎が太っている様子がわかる。つまり、実施例品の方が、着火後の燃焼による火炎の横方向の広がりの程度が大きい。
【0131】
実施例品の方が比較例品よりも火炎が太くなることは、実施例品の方が比較例品よりも、噴霧する燃料の噴射角度が広がった状態で燃料が燃焼し、燃料の濃い部分の少ない燃焼になっていることに起因すると推測される。
【0132】
また、図10(a)、(b)それぞれの上段、中段、下段の各データの比較から、燃料噴射圧力が変化することによっても、実施例品の方が比較例品よりも火炎が太くなることがわかる。つまり、燃料噴射圧力に特に影響されることなく、実施例品による火炎の広がり効果を得ることができる。
【0133】
図11(a)、(b)からわかるように、第2温度状態においても、燃料の燃焼の様子は、図10に示す第1温度状態の場合と同様の傾向を示す。すなわち、第2温度状態においても、燃料噴射圧力に特に影響されることなく、実施例品の方が比較例品よりも火炎が太くなる。そして、図10と図11の比較から、雰囲気条件に特に影響されることなく(特に、雰囲気温度が低い状態でも)、実施例品による火炎の広がり効果を得ることができるがわかる。
【0134】
このように、実施例品によれば、従来技術を適用した比較例品との比較において、火炎の広がりが大きくなる。火炎の広がりが大きいということは、それだけ燃料が微粒化しているということを示す。本実施例により、実施例品を用いることで、ノズル本体の内部で発生する旋回流によって噴射燃料の微粒化が促進されることが実証された。
【0135】
また、本実施例では、燃料の燃焼に関し、燃料噴射ノズルの弁部7が閉じてからの後燃えの様子を観察した。図12は、カメラ56により取得される、燃焼室52内における燃料噴射終了後の燃焼(後燃え)の様子を表す合計21枚の(10ms間の)連続的な撮像画像(画像データ)を示す。
【0136】
図12において、長方形で区切られる各部分が1枚の撮像画像(画像データ)である。1コマは0.5msである。図12(a)は、実施例品についてのデータであり、同図(b)は、比較例品についてのデータである。また、図12(a)、(b)の各図の画像データは、燃料の噴射タイミングを基準として時間軸を共通にする。図12に示すデータを取得した際の雰囲気条件は、Pa=1.9MPa、Ta=684K(第1温度状態)であり、燃料噴射圧力(Pinj)は、Pinj=32MPaである。
【0137】
図12(b)に示すように、比較例品の場合には、燃料の噴射終了後に燃料の後だれがあり、その後だれの燃料が燃焼している様子が見られる(破線楕円部分参照)。この点、図12(a)に示すように、実施例品の場合には、燃料の噴射終了後の後だれがほとんどない。
【0138】
このことから、実施例品は、燃料の噴射終了後の燃料の噴霧の切れがよいことがわかる。雰囲気条件および燃料噴射圧力等について他の条件でも同様の観察を行ったが、いずれも本実施例と同様の傾向にあり、実施例品の場合、後だれは、あってもわずかであり、ほとんど見受けられなかった。
【0139】
本実施例により、実施例品を用いることで、従来技術を適用した比較例品の場合に生じていた燃料の後だれが抑制されることが実証された。このように燃料の後だれを抑制できる実施例品によれば、ノズルから噴射される燃料をきれいに燃焼させることができるので、実機において、燃費改善、燃焼室の清浄性の向上、エンジンのシリンダのライナー表面の腐食環境改善など、得られるメリットは大きい。
【0140】
次に、実施例品および比較例品の燃料の流量についての考察を加える。実施例品については、燃料通路3において方向変換通路部22が絞りとして構成されることから、比較例品に対して燃料の流量が減少することが懸念される。そこで、本実施例では、燃料の燃焼にともなう雰囲気圧力の変化を測定した。
【0141】
図13に、実施例品と比較例品についての燃料の燃焼にともなう雰囲気圧力の時間変化を示す。図13に示すグラフにおいて、横軸は時間(ms)を示し、縦軸は雰囲気圧力(MPa)を示し、実線が実施例品についてのグラフであり、一点鎖線が比較例品についてのグラフである。図13に示す測定結果は、Pa=1.9MPa、Ta=684K、Pinj=80MPaの雰囲気条件のもとで得られたものである。
【0142】
図13に示す測定結果から、燃料が燃焼する過程での雰囲気圧力は、実施例品および比較例品で同じように上昇していることがわかる。このことは、実施例品と比較例品とで、単位時間当たりに噴射される燃料の量にはほとんど差がないことを示す。ここで、解析装置51の燃焼室52が定容容器であることから、図13のグラフにおいて縦軸で示す雰囲気圧力の値は、単位時間あたりの熱発生量に対応する。つまり、雰囲気圧力の値が大きくなるほど、単位時間あたりの熱発生量も大きくなる。
【0143】
このように、図13実施例品と比較例品とで、雰囲気圧力の上昇の様子が同じであるということから、実施例品の燃料通路3において方向変換通路部22が絞りとして構成されることは、燃料の流量に特に影響しないことがわかる。なお、図13において、25ms辺り以降の熱発生終了時で実施例品の方が比較例品よりも雰囲気圧力の値が低いのは、本測定例では実施例品の方が噴射期間がわずかに短かったことに起因するものであり、単位時間あたりの熱発生量は、実施例品と比較例品とでほぼ同じであると考えられる。
【0144】
また、実施例品と比較例品とで単位時間あたりの燃料の噴射量が同程度であるということは、上述したように実施例品を用いることで火炎の広がりが大きくなることから、実施例品から噴射された燃料の方がより効率的に燃焼しているといえる。
【0145】
続いて、本実施例として、燃料噴射ノズルの近傍の燃料の噴霧の様子を撮影した。ここでは、上述した解析装置51において、カメラ56として、毎秒100万コマの画像データを取得する高速度カメラを用いて、燃料の噴霧の様子を撮影した。
【0146】
噴霧火炎の場合、燃料の流速が速いため、燃料噴射ノズルの近傍は火炎がなく、噴霧状態となっている。このため、本実施例では、図14に示すように、燃料噴射ノズル1(31)の噴孔2の直下における燃料の噴霧の様子を撮影した。
【0147】
具体的には、図14に示すように、縦5mm、横6mmの長方形状の範囲を撮影範囲(撮影フレーム)とし、燃料噴射ノズル1(31)の先端の位置を基準とする下向きの上下方向(Z方向)の位置について、撮影フレームの縦の長さ(5mm)ごとに撮影を行った。なお、本実施例では、燃料噴射圧力を32MPa(Pinj=32MPa)とした。
【0148】
図15に、実施例品と比較例品の、Z=15mmの位置(図14、「撮影フレームF1」参照)と、Z=20mmの位置((図14、「撮影フレームF2」参照)での撮影結果(1コマの画像データ)を示す。なお、各撮影写真において、黒い部分が噴霧燃料を表し、白い部分が背景を表す。
【0149】
図15に示す撮影結果について考察する。燃料噴射ノズルから噴射された燃料の噴霧形状は時間とともに変化するが、図15に示す各撮影写真は、標準的な噴霧状態を表している。実施例品と比較例品の噴霧形状を比較した場合、実施例品の方が、噴霧形状が膨れていることがわかる。この現象は、実施例品の方が、比較例品と比べて、噴孔2から噴射された液体燃料がより微粒化されて広がっているためであると考えられる。
【0150】
このように、燃料噴射ノズルの近傍の燃料の噴霧の様子からも、実施例品を用いることで、ノズル本体の内部で発生する旋回流によって噴射燃料の微粒化が促進されることが実証された。
【0151】
本発明は、ディーゼル燃料(バンカー油)やガソリンを含む石油系燃料のほか、バイオディーゼル燃料、アルコール系燃料、その他の合成燃料等の液体燃料の噴射に広く適用可能である。したがって、本発明に係る燃料噴射ノズルは、例えば舶用や自動車用のディーゼルエンジンやガソリンエンジン等において、直噴式、副室式等、燃料噴射方式にかかわらず広く適用可能である。本発明は、船舶工学の分野や機械工学の分野、さらには食品加工の分野や塗装の分野等、燃料の噴射が行われる技術分野において広く展開される。
【符号の説明】
【0152】
1 燃料噴射ノズル
2 噴孔
3 燃料通路
4 ノズル本体
5 ニードル
6 案内面
7 弁部
8 燃料溜り部
9 内周面
12 縮径部
18 空間
21 燃料供給通路部(第1の通路部)
22 方向変換通路部(第2の通路部)
23 内周面部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端に燃料を噴出させる噴孔が形成され、前記噴孔に燃料を導く燃料通路を有するノズル本体と、
前記ノズル本体に挿入される軸状の部材であり、前記ノズル本体とともに、前記ノズル本体に対する軸方向の往復移動により前記燃料通路を開閉する弁部を構成するニードルと、を備え、
前記燃料通路は、
前記ニードルの外周面とともに、前記ニードルの軸心回りに燃料を保持する空間を形成する燃料溜り部と、
前記燃料溜り部よりも上流側に設けられ、前記ニードルの前記ノズル本体に対する挿入方向側に向けて燃料を導く第1の通路部と、
前記燃料溜り部と前記第1の通路部との間に設けられ、前記ニードルの軸方向に対して垂直な平面に沿う方向に形成され、前記燃料溜り部に対して、前記ニードルの径方向からずれた方向に連通する第2の通路部と、を有する、
燃料噴射ノズル。
【請求項2】
前記第2の通路部は、前記燃料溜り部および前記第1の通路部に対する絞りを構成する、
請求項1に記載の燃料噴射ノズル。
【請求項3】
前記燃料溜り部は、前記ニードルの軸方向視で円形状となる内周面部を有し、
前記第2の通路部は、前記燃料溜り部に対して、前記円形状における接線方向に連通する、
請求項1または請求項2に記載の燃料噴射ノズル。
【請求項4】
前記燃料溜り部により形成される空間は、前記ニードルの軸方向に沿って、下流側に向けて縮径する先細り形状を有する、
請求項1〜3のいずれか1項に記載の燃料噴射ノズル。
【請求項1】
一端に燃料を噴出させる噴孔が形成され、前記噴孔に燃料を導く燃料通路を有するノズル本体と、
前記ノズル本体に挿入される軸状の部材であり、前記ノズル本体とともに、前記ノズル本体に対する軸方向の往復移動により前記燃料通路を開閉する弁部を構成するニードルと、を備え、
前記燃料通路は、
前記ニードルの外周面とともに、前記ニードルの軸心回りに燃料を保持する空間を形成する燃料溜り部と、
前記燃料溜り部よりも上流側に設けられ、前記ニードルの前記ノズル本体に対する挿入方向側に向けて燃料を導く第1の通路部と、
前記燃料溜り部と前記第1の通路部との間に設けられ、前記ニードルの軸方向に対して垂直な平面に沿う方向に形成され、前記燃料溜り部に対して、前記ニードルの径方向からずれた方向に連通する第2の通路部と、を有する、
燃料噴射ノズル。
【請求項2】
前記第2の通路部は、前記燃料溜り部および前記第1の通路部に対する絞りを構成する、
請求項1に記載の燃料噴射ノズル。
【請求項3】
前記燃料溜り部は、前記ニードルの軸方向視で円形状となる内周面部を有し、
前記第2の通路部は、前記燃料溜り部に対して、前記円形状における接線方向に連通する、
請求項1または請求項2に記載の燃料噴射ノズル。
【請求項4】
前記燃料溜り部により形成される空間は、前記ニードルの軸方向に沿って、下流側に向けて縮径する先細り形状を有する、
請求項1〜3のいずれか1項に記載の燃料噴射ノズル。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図13】
【図14】
【図10】
【図11】
【図12】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図13】
【図14】
【図10】
【図11】
【図12】
【図15】
【公開番号】特開2012−154309(P2012−154309A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−16887(P2011−16887)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【出願人】(506037663)株式会社栄和技研 (3)
【出願人】(000205535)株式会社 商船三井 (21)
【出願人】(591083406)株式会社ディーゼルユナイテッド (30)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【出願人】(506037663)株式会社栄和技研 (3)
【出願人】(000205535)株式会社 商船三井 (21)
【出願人】(591083406)株式会社ディーゼルユナイテッド (30)
【Fターム(参考)】
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