説明

燃料噴射ポンプ

【課題】アーマチャ室内に残存する空気を抜けるようにすることにより、エンジンの始動不良を防止する。
【解決手段】加圧室135及び燃料ギャラリ14が形成されるポンプ本体部10と、電磁スピル弁部20と、を具備する燃料噴射ポンプにおいて、前記電磁スピル弁部20は、ハウジング21と、該ハウジング21に摺動可能に収容されるとともに、前記加圧室135と燃料ギャラリ14とを連通及び遮断するスピル弁体24と、該スピル弁体24の摺動方向の一端部に取り付けられるアーマチャ247と、該アーマチャ247を収容するアーマチャ室221と、該アーマチャ室221と外部とを連通する空気抜き通路22aと、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁スピル弁部を具備する燃料噴射ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プランジャで燃料を圧送するジャーク式燃料噴射ポンプにおいては、加圧室及び燃料ギャラリが形成されるポンプ本体部と、電磁スピル弁部と、を具備するものが公知となっている。例えば特許文献1に記載の如くである。
【0003】
特許文献1に記載の燃料噴射ポンプの電磁スピル弁部は、ハウジングと、該ハウジングに摺動可能に収容されて前記加圧室と燃料ギャラリとを連通及び遮断するスピル弁体と、該スピル弁体の摺動方向の一端部に取り付けられるアーマチャと、該アーマチャを収容するアーマチャ室と、を具備している。
【0004】
上記の構成の燃料噴射ポンプにおいては、一般的に、前記燃料ギャラリ内の空気を抜くための空気抜き通路(以下、「燃料ギャラリ用の空気抜き通路」と称する。)が前記ポンプ本体部に形成されており、例えばメンテナンス等により前記燃料噴射ポンプを開放した後に初めて始動する場合等に、前記燃料ギャラリ内に残存する空気を外部に抜けるようになっている。
【0005】
しかしながら、上記の構成の燃料噴射ポンプにおいては、前記アーマチャ室内に残存する空気を抜くための構造が設けられていなかった。そのため、例えばメンテナンス等により前記燃料噴射ポンプを開放した後に初めて始動する場合等に、前記アーマチャ室内に残存する空気を抜くことができないために、いわゆるエア噛みが生じて、このことによりエンジンの始動不良が招かれる虞があったのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−163902号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記を考慮して、アーマチャ室内に残存する空気を抜けるようにすることにより、エンジンの始動不良を防止することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明は、加圧室及び燃料ギャラリが形成されるポンプ本体部と、電磁スピル弁部と、を具備する燃料噴射ポンプにおいて、前記電磁スピル弁部は、ハウジングと、該ハウジングに摺動可能に収容されるとともに、前記加圧室と燃料ギャラリとを連通及び遮断するスピル弁体と、該スピル弁体の摺動方向の一端部に取り付けられるアーマチャと、該アーマチャを収容するアーマチャ室と、該アーマチャ室と外部とを連通する空気抜き通路と、を備えることを特徴としている。
【0009】
請求項2の発明は、請求項1に記載の燃料噴射ポンプにおいて、前記空気抜き通路は、配管により低圧側の空間と接続されることを特徴としている。
【0010】
請求項3の発明は、請求項1または請求項2に記載の燃料噴射ポンプにおいて、前記スピル弁体の摺動方向の他端部に形成された室は、排出通路を介して前記燃料ギャラリと連通接続されることを特徴としている。
【0011】
請求項4の発明は、請求項3に記載の燃料噴射ポンプにおいて、前記スピル弁体には、前記アーマチャ室と、前記スピル弁体の摺動方向の他端部に形成された室と、を連通するスピル弁体貫通孔が形成されることを特徴としている。
【0012】
請求項5の発明は、請求項4に記載の燃料噴射ポンプにおいて、前記スピル弁体貫通孔をプラグで閉塞可能としたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に記載の発明によれば、メンテナンス等により燃料噴射ポンプを開放した後に初めて始動するときに、空気抜き通路を閉塞しているプラグ等を取り外すことにより、アーマチャ室内に残存する空気を、空気抜き通路より外部に抜くことができる。よって、エンジンの始動不良を防止することができる。
【0014】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明の効果に加えて、アーマチャ室内に残存する空気を、配管を経由して低圧側の空間(例えば、燃料ギャラリ等)に抜くことができる。よって、エンジンの始動不良を防止することができる。また、アーマチャ室内に高圧燃料が漏れても、配管を経由して低圧側の空間(例えば、燃料ギャラリ等)に排出することができる。よって、アーマチャ室内の圧力上昇を抑制することができ、電磁スピル弁の性能が不安定となることを防止できる。その結果、燃料の噴射特性の安定化を図れる。
【0015】
請求項3に記載の発明によれば、請求項1または請求項2に記載の発明の効果に加えて、スピル弁体の摺動方向の他端部の室内に残存する空気を、排出通路を経由して燃料ギャラリに排出し、外部に抜くことができる。よって、エンジンの始動不良を防止することができる。また、スピル弁体の摺動方向の他端部の室内に高圧燃料が漏れても、排出通路を経由して燃料ギャラリに排出することができる。よって、摺動方向の他端部の室内の圧力上昇を抑制することができ、電磁スピル弁の性能が不安定となることを防止できる。その結果、燃料の噴射特性の安定化を図れる。
【0016】
請求項4に記載の発明によれば、請求項3に記載の発明の効果に加えて、空気及び高圧燃料が、アーマチャ室と、スピル弁体の摺動方向の他端部の室と、の間を行き来することが可能となるので、空気及び高圧燃料を外部に抜くことが一層容易となる。
【0017】
請求項5に記載の発明によれば、請求項4に記載の発明の効果に加えて、アーマチャ室とスピル弁体の摺動方向の他端部の室との間における圧力が脈動する場合には、プラグを設けることにより、アーマチャ室とスピル弁体の摺動方向の他端部の室とを該プラグで隔てることができる。こうすることにより、アーマチャ室とスピル弁体の摺動方向の他端部の室との間で圧力バランスが崩れることを防止できる。よって、電磁スピル弁の性能が不安定となることを防止できる。その結果、ひいては燃料の噴射特性のさらなる安定化を図れる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第一実施形態に係る燃料噴射ポンプの断面図。
【図2】電磁スピル弁及び等圧弁部の断面図。
【図3】(a)電磁スピル弁が閉弁した場合における燃料の流れを示す燃料噴射ポンプの断面図。(b)電磁スピル弁が開弁した場合における燃料の流れを示す燃料噴射ポンプの断面図。
【図4】第一実施形態に係る燃料噴射ポンプにおける、プラグを外してエア抜きを行うときの空気の流れを示す図。
【図5】本発明の第二実施形態に係る燃料噴射ポンプの断面図。
【図6】第二実施形態に係る燃料噴射ポンプにおける空気及び高圧燃料の流れを示す図。
【図7】本発明の第三実施形態に係る燃料噴射ポンプの断面図。
【図8】第三実施形態の変形例に係る燃料噴射ポンプの断面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<第一実施形態>
以下では、本発明の第一実施形態に係る燃料噴射ポンプ1について、添付図面を参照して説明する。
【0020】
まず、燃料噴射ポンプ1の全体的な構成について、図1及び図2により説明する。なお、以下では、図1の矢印Uで示す方向を「上方」と規定し、矢印Lで示す方向を「左方」と規定して、説明を行う。
【0021】
図1に示すように、燃料噴射ポンプ1は、ポンプ本体部10と、電磁スピル弁部20と、等圧弁部30と、を具備する。
【0022】
ポンプ本体部10は、その内部に加圧室135及び燃料ギャラリ14が形成されるものである。ポンプ本体部10には、ポンプ本体11が備えられる。ポンプ本体11には、バレル孔111及びタペット室112が上下方向に連続して延びるように形成される。タペット室112の下端部は、ポンプ本体11下面にて開口する。タペット室112には、その下端開口部からタペット12が上下方向に摺動自在に挿入される。
【0023】
また、バレル孔111の上端部は、ポンプ本体11上面にて開口する。バレル孔111には、その上端開口部からプランジャバレル13が挿入される。プランジャバレル13の下端部は、バレル孔111から下方のタペット室112内に突出する一方、プランジャバレル13の上端部は、バレル孔111から上方に突出する。プランジャバレル13の上端部には、フランジ部131が形成される。プランジャバレル13は、フランジ部131を介してポンプ本体11上面に図示しないボルトで固定される。また、バレル孔111の上下中途部には、その孔径が拡大された拡径部が形成される。この拡径部とプランジャバレル13の外周面とで、燃料ギャラリ14が形成される。
【0024】
さらに、ポンプ本体11には、燃料ギャラリ14と接続される燃料入口113及び燃料出口114が形成される。燃料入口113は、図示しないフィードポンプと接続される。燃料入口113からは、前記フィードポンプによって圧送された燃料が燃料ギャラリ14内に送入される。また、燃料出口114からは、燃料ギャラリ14から溢れ出た燃料が排出される。
【0025】
また、ポンプ本体11には、燃料ギャラリ14と、ポンプ本体11の外部と、を連通する通路である燃料ギャラリ用の空気抜き通路90が設けられている。燃料ギャラリ用の空気抜き通路90は、ポンプ本体11の側壁に左右方向に延びるように形成されており、その左端はポンプ本体11の外部にて開口し、その右端は燃料ギャラリ14内にて開口している。燃料ギャラリ用の空気抜き通路90の左端側の開口には、プラグ91が着脱可能に取り付けられる。このような構成により、メンテナンス等により燃料噴射ポンプ1を開放した後に初めて始動するときには、プラグ91を取り外すことにより、燃料ギャラリ14内に残存する空気を、燃料ギャラリ用の空気抜き通路90より外部に抜くことができる。
【0026】
また、プランジャバレル13には、第一燃料供給路132及びプランジャ孔133が上下方向に連続して延びるように形成される。第一燃料供給路132の上端部は、プランジャバレル13の上面にて開口する。また、プランジャ孔133の下端部は、プランジャバレル13の下面にて開口する。プランジャ孔133には、その下端開口部からプランジャ15が上下方向に摺動自在に挿入される。プランジャ孔133の上端部には、その内周面とプランジャ15の上端面とで、加圧室135が形成される。
【0027】
また、プランジャ15の下端部は、プランジャ孔133から下方のタペット室112内に突出するとともに、下部ばね受け16を介してタペット12内の底部に固定される。また、バレル孔111から下方に突出するプランジャバレル13には、上部ばね受け17が外嵌される。上部ばね受け17と下部ばね受け16との上下間には、プランジャばね151が介装される。プランジャばね151によってタペット12が下方に付勢され、タペット12の下方に架設される図示しないカム軸上のカムにタペット12の下面が当接する。
【0028】
さらに、プランジャバレル13には、第一スピル油排出路134が燃料ギャラリ14側から上方向に延びるように形成される。第一スピル油排出路134の上端部は、プランジャバレル13の上面にて開口する一方、第一スピル油排出路134の下端部は、燃料ギャラリ14内にて開口する。
【0029】
電磁スピル弁部20は、ハウジング21と、スピル弁体24と、アーマチャ247と、ソレノイド23と、間座22と、アーマチャ室221と、エンドキャップ室260と、スピル弁体貫通孔242と、アーマチャ室用の空気抜き構造40と、等を備えて構成される。
【0030】
ハウジング21は、電磁スピル弁部20の主たる構造体を成すものである。ハウジング21は、プランジャバレル13のフランジ部131上面に図示しないボルトで固定される。ハウジング21には、吐出弁室211、等圧弁ばね室212及び第二燃料供給路213が、上下方向に連続して延びるように形成される。吐出弁室211の上端部は、ハウジング21の上面にて開口する。また、第二燃料供給路213の下端部は、ハウジング21の下面にて開口する。
【0031】
さらに、ハウジング21には、スピル弁孔214が第二燃料供給路213と交差してハウジング21を左右方向に貫通するように形成される。
【0032】
スピル弁体24は、概ね円柱形状の部材であり、ハウジング21のスピル弁孔214に摺動可能に収容される。後に詳述するように、スピル弁体24は、ハウジング21のスピル弁孔214内を摺動することにより、開弁または閉弁し、加圧室135と燃料ギャラリ14とを連通及び遮断することができる。なお、スピル弁体24の中心軸には、該スピル弁体24を摺動方向に貫通するスピル弁体貫通孔242が形成される。
【0033】
アーマチャ247は、磁性体から成るものである。アーマチャ247は、スピル弁体24の摺動方向の一端部(本実施形態では右端部)に取り付けられる。アーマチャ247は、その軸部を介してスピル弁体貫通孔242の右端側開口にボルトにより固定されるとともに、後述するアーマチャ室221に収納される。
【0034】
ソレノイド23は、アーマチャ247を引き付ける磁力を発生させるものである。ソレノイド23は、アーマチャ247と対向配置される。ソレノイド23が制御装置等の制御に従って適宜に励磁されることにより、スピル弁体24がハウジング21のスピル弁孔214内において摺動し、開弁または閉弁する。
【0035】
間座22は、ソレノイド23とハウジング21との間に設けられるスペーサである。間座22は、ハウジング21の右側面に取り付けられる。
【0036】
アーマチャ室221は、アーマチャ247を収容するための部屋である。アーマチャ室221は、間座22の側面視中央に略円柱形状に形成されるとともに、その左右両端部がそれぞれ間座22の左右両側面にて開口する。
【0037】
また、スピル弁孔214の左側において、その左端部には、インサートピース室214Bが、該インサートピース室214Bの右側には、連通室214Cが、それぞれ形成される。インサートピース室214Bの左端部は、ハウジング21の左側面にて開口する。また、連通室214Cは、スピル弁孔214の左右中途部が、左方に向かって段差状に拡径されて形成される。連通室214Cの段差部には、弁座214Dが形成される。なお、弁座214Dには、スピル弁体24に形成される後述するシール面241が着座する。
【0038】
また、インサートピース室214Bには、その左端開口部から略円環状のインサートピース25が挿入されるとともに、これに続いてエンドキャップ26が挿入される。エンドキャップ26によってインサートピース25がインサートピース室214B内に固定される。インサートピース25には、スピル弁体24が左右方向に摺動自在に挿入される。
【0039】
エンドキャップ室260は、スピル弁体24の摺動方向の他端部(本実施形態では左端部)に形成される部屋である。エンドキャップ室260は、本発明に係る「スピル弁体の摺動方向の他端部に形成された室」の実施の一形態である。本実施形態のエンドキャップ室260は、エンドキャップ26の右端面と、スピル弁体24の左端部に形成された窪みと、により取り囲まれて形成される。スピル弁体24の中心軸に形成された前記スピル弁体貫通孔242により、アーマチャ室221とエンドキャップ室260とが連通されている。
【0040】
図2に示すように、スピル弁孔214の右端部には、スピル弁ばね室214Aが形成される。スピル弁ばね室214Aの右端部は、ハウジング21の右側面にて開口する。
【0041】
さらに、ハウジング21には、第二スピル油排出路215が連通室214C側から下方向に延びるように形成される。第二スピル油排出路215の上端部は、連通室214C内にて開口する一方、第二スピル油排出路215の下端部は、ハウジング21の下面にて開口する。第二燃料供給路213と第二スピル油排出路215とは、スピル弁孔214を介して連通される。第二燃料供給路213及び第二スピル油排出路215は、それぞれプランジャバレル13の第一燃料供給路132及び第一スピル油排出路134と接続される(図1参照)。
【0042】
前記スピル弁体貫通孔242は、スピル弁体24の軸部を左右方向(摺動方向)に貫通するように形成される。スピル弁体貫通孔242の左端部は、インサートピース25内にて開口する一方、スピル弁体貫通孔242の右端部は、間座22に形成されたアーマチャ室221内にて開口する。
【0043】
また、スピル弁体24の軸方向中途部外周には、縮径部243が形成される。縮径部243は、スピル弁体24の軸方向中途部外周が段差状に縮径されて形成される。縮径部243の左右両側の段差部のうち左側の段差部には、弁座214Dに着座するシール面241が形成される。
【0044】
アーマチャ室221の右端開口部を通じて、アーマチャ247とソレノイド23とが対向する。また、アーマチャ室221の左端開口部には、突出孔281が形成された間座側ばね受け28が嵌設される。間座側ばね受け28の突出孔281からは、スピル弁体24の突出部244が突出する。
【0045】
突出部244は、スピル弁体24の右端部が右方に向かって段差状に縮径されて形成される。突出部244の外周面と突出孔281の内周面との間には、アーマチャ室221とスピル弁ばね室214Aとを連通させる隙間が形成される。突出部244の段差部には、スピル弁体側ばね受け29が外嵌される。スピル弁体側ばね受け29と間座側ばね受け28との左右間には、スピル弁ばね245が介装される。スピル弁ばね245によってスピル弁体24が左方(ソレノイド23とは反対側)に付勢される。
【0046】
等圧弁部30には、等圧弁ホルダ31が備えられる。等圧弁ホルダ31は、ハウジング21上面に図示しないボルトで固定される。等圧弁ホルダ31の下部には、吐出弁ばね室311が上下方向に延びるように形成される。吐出弁ばね室311の下端部は、等圧弁ホルダ31の下面にて開口する。吐出弁ばね室311は、ハウジング21の吐出弁室211と接続される。これら吐出弁室211及び吐出弁ばね室311には、吐出弁32が収納される。
【0047】
また、等圧弁ホルダ31の上部には、シール面312が形成される。シール面312は、下方に向かってテーパー状に縮径されて形成される。シール面312には、図示しない高圧管継手が取り付けられる。また、等圧弁ホルダ31の上下中途部には、吐出通路313が上下方向に延びるように形成される。吐出通路313を介して、吐出弁ばね室311と、シール面312に取り付けられた図示しない高圧管継手と、が連通される。
【0048】
吐出弁32は、吐出弁体321、吐出弁ばね322、及び吐出弁ばね受け323から構成される。吐出弁体321は、その下端面が吐出弁室211内の下面に着座するように、吐出弁ばね322によって下方へ付勢される。吐出弁ばね322の上端部は、吐出弁ばね受け323を介して吐出弁ばね室311内の上面に固定される。
【0049】
また、吐出弁体321の下部には、等圧弁室321Aが形成される。等圧弁室321Aの下端部は、吐出弁体321の下端面にて開口する。吐出弁体321が吐出弁室211内の下面に着座した状態で、等圧弁室321Aと等圧弁ばね室212とが接続される。これら等圧弁室321A及び等圧弁ばね室212には、等圧弁33が収納される。また、吐出弁体321の上部には、等圧弁通路331Bが上下方向に延びるように形成される。等圧弁通路331Bを介して、吐出弁ばね室311と等圧弁室321Aとが連通される。
【0050】
等圧弁33は、等圧弁体331、等圧弁ばね332、等圧弁下部ばね受け333、及び等圧弁上部ばね受け334から構成される。等圧弁体331は、等圧弁通路331Bの下端開口部に着座するように、等圧弁上部ばね受け334を介して等圧弁ばね332によって上方へ付勢される。等圧弁ばね332の下端部は、等圧弁下部ばね受け333を介して等圧弁ばね室212内の下面に固定される。
【0051】
次に、燃料噴射ポンプ1の各作動態様(燃料噴射ポンプ1が燃料を噴射する場合、及び燃料噴射ポンプ1が燃料の噴射を停止する場合)について、図3により説明する。なお、図3における黒塗り矢印は、燃料(低質油)の流れを示す。
【0052】
先ず、燃料噴射ポンプ1が燃料を噴射する場合は、図3(a)に示すように、図示しないフィードポンプからの燃料が、燃料入口113から燃料ギャラリ14に送られ、燃料ギャラリ14内の燃料が、電磁スピル弁部20を介して加圧室135に送られる。なお、矢印で示していないが、燃料ギャラリ14内の燃料は、燃料ギャラリ14から第一スピル油排出路134、第二スピル油排出路215、縮径部243、第二燃料供給路213、第一燃料供給路132の順に流れて、加圧室135に送られる。そして、プランジャ15が図示しないカムの回転に従って上方向に摺動されて、加圧室135内の燃料が加圧されると、この燃料が加圧室135から第一燃料供給路132、第二燃料供給路213の順に流れて、等圧弁ばね室212に送られる。
【0053】
この際、電磁スピル弁部20においては、図示しない制御装置からの信号に基づいてソレノイド23に磁力が発生すると、アーマチャ247がソレノイド23に引き付けられる。すると、アーマチャ247を介して、スピル弁体24がスピル弁ばね245の付勢力に抗して右方(ソレノイド23側の方向)に摺動される。そして、スピル弁体24のシール面241がスピル弁孔214の弁座214Dに着座し、電磁スピル弁部20が閉弁する。これにより、第二燃料供給路213と第二スピル油排出路215との連通が遮断されるため、第二燃料供給路213内の燃料圧力が低下することなく維持される。そして、加圧室135、第一燃料供給路132、第二燃料供給路213、及び等圧弁ばね室212内が、燃料で満たされた状態となる。
【0054】
そして、吐出弁32においては、吐出弁体321を上方に付勢する力(等圧弁ばね室212内の燃料圧力)が、吐出弁体321を下方に付勢する力(吐出弁ばね322の付勢力)よりも大きくなると、吐出弁体321が上方に移動して吐出弁室211の下面から離間し、吐出弁32が開弁する。ここで、等圧弁33は、閉弁しているため、等圧弁ばね室212内の燃料は、等圧弁通路331Bを流れずに、吐出弁ばね室311、吐出通路313の順に流れて、図示しない高圧管継手から吐出される。
【0055】
こうして、図示しない高圧管継手から燃料が吐出されて、等圧弁ばね室212内の圧力が低下すると、吐出弁ばね322の付勢力によって吐出弁体321が下方に移動して吐出弁室211内の下面に着座し、吐出弁32が閉弁する。すると、等圧弁ばね室212内の燃料が吐出弁ばね室311に流れなくなって、図示しない高圧管継手から吐出されなくなる。
【0056】
ここで、吐出弁32からその吐出下流側にかけて残留する燃料圧力に脈動が発生した場合、この燃料圧力の脈動が吐出弁ばね室311及び等圧弁通路331B内の燃料を通じて等圧弁体331に作用する。そして、等圧弁体331に作用する燃料圧力が等圧弁ばね332の付勢力よりも大きくなると、等圧弁体331が下方に移動し、等圧弁33が開弁する。これにより、脈動により上昇した燃料圧力が、所定の値まで低下する。
【0057】
一方、燃料噴射ポンプ1が燃料の噴射を停止する場合は、図3(b)に示すように、電磁スピル弁部20において、前記制御装置からの信号に基づいてソレノイド23に磁力が発生しなくなると、アーマチャ247がソレノイド23に引き付けられなくなる。すると、スピル弁ばね245の付勢力によってスピル弁体24がエンドキャップ26に当接するまで左方(ソレノイド23とは反対側の方向)に摺動される。そして、スピル弁体24のシール面241がスピル弁孔214の弁座214Dから離間し、電磁スピル弁部20が開弁する。これにより、第二燃料供給路213と第二スピル油排出路215とが、スピル弁孔214を介して連通されるため、第二燃料供給路213内の燃料圧力が低下する。そして、第二燃料供給路213内の燃料は、スピル弁孔214、第二スピル油排出路215、第一スピル油排出路134の順に流れて、燃料ギャラリ14に排出される。なお、スピル弁孔214内の燃料は、スピル弁孔214内周面とスピル弁体24外周面との隙間等から、アーマチャ室221内に漏れ出る。
【0058】
以下では、アーマチャ室用の空気抜き構造40について、図2〜図4を参照して説明する。
本実施形態のアーマチャ室用の空気抜き構造40は、空気抜き通路22a及びプラグ270により構成される。
【0059】
空気抜き通路22aは、アーマチャ室221と、間座22(燃料噴射ポンプ1)の外部と、を連通する通路である。本実施形態の空気抜き通路22aは、間座22の上部に上下方向に延びるように形成されており、その下端はアーマチャ室221内にて開口し、その上端は間座22(燃料噴射ポンプ1)の外部にて開口している。
【0060】
プラグ270は、空気抜き通路22aを閉塞するものである。プラグ270は、空気抜き通路22aの上端側の開口に着脱可能に取り付けられる。本実施形態においては、プラグ270は空気抜き通路22aに螺装される。
なお、本実施形態では空気抜き通路22aをプラグ270により閉塞するものとしたが、本発明はこれに限定するものではなく、これに代えて、例えば着脱可能なシール部材により空気抜き通路を閉塞する構成としてもよい。
【0061】
以上の如く、本実施形態に係る燃料噴射ポンプ1は、加圧室135及び燃料ギャラリ14が形成されるポンプ本体部10と、電磁スピル弁部20と、を具備する燃料噴射ポンプにおいて、前記電磁スピル弁部20は、ハウジング21と、該ハウジング21に摺動可能に収容されるとともに、前記加圧室135と燃料ギャラリ14とを連通及び遮断するスピル弁体24と、該スピル弁体24の摺動方向の一端部に取り付けられるアーマチャ247と、該アーマチャ247を収容するアーマチャ室221と、該アーマチャ室221と外部とを連通する空気抜き通路22aと、を備えたものである。
【0062】
したがって、図4に示すように、メンテナンス等により燃料噴射ポンプ1を開放した後に初めて始動するときに、空気抜き通路22aを閉塞しているプラグ270等を取り外すことにより、アーマチャ室221内に残存する空気を、空気抜き通路22aより外部に抜くことができる。また、スピル弁ばね室214A内に残存する空気も、アーマチャ室221を経由して空気抜き通路22aより外部に抜くことができる。よって、エンジンの始動不良を防止することができる。なお、図4中の黒塗り矢印は、空気の流れを示している。
【0063】
また、本実施形態の燃料噴射ポンプ1は、前記スピル弁体24には、前記アーマチャ室221と、前記スピル弁体24の摺動方向の他端部に形成された室であるエンドキャップ室260と、を連通するスピル弁体貫通孔242が形成されたものである。
【0064】
したがって、エンドキャップ室260内の空気を、図4に示すように、スピル弁体貫通孔242及びアーマチャ室221を経由して空気抜き通路22aより外部に抜くことができる。よって、エンジンの始動不良を防止することができる。
【0065】
<第二実施形態>
以下では、本発明の第二実施形態に係る燃料噴射ポンプ2について、図5及び図6を参照して説明する。
第二実施形態に係る燃料噴射ポンプ2は、アーマチャ室用の空気抜き構造40に代えてアーマチャ室用の空気・高圧燃料抜き構造50を備えており、さらに、エンドキャップ室用の空気・高圧燃料抜き構造60を備えている点で、第一実施形態に係る燃料噴射ポンプ1とは異なる。
【0066】
以下では、燃料噴射ポンプ2の構成のうち、燃料噴射ポンプ1の構成と同様の部分については同一の符号を付し、詳細な説明を省略することとする。
【0067】
以下では、アーマチャ室用の空気・高圧燃料抜き構造50について、図5及び図6を参照して説明する。
アーマチャ室用の空気・高圧燃料抜き構造50は、通路22b、通路11a、配管52、継ぎ手53、及び継ぎ手54等により構成される。
【0068】
通路22bは、アーマチャ室221と、間座22(燃料噴射ポンプ1)の外部と、を連通する通路である。本実施形態の通路22bは、間座22の上部に上下方向に延びるように形成されており、その下端はアーマチャ室221内にて開口し、その上端は間座22(燃料噴射ポンプ1)の外部にて開口している。すなわち、通路22bは、第一実施形態に係る空気抜き通路22aと同様の構成である。
【0069】
通路11aは、燃料ギャラリ14と、ポンプ本体11の外部と、を連通する通路である。通路11aは、ポンプ本体11の側壁に左右方向に延びるように形成されており、その右端はポンプ本体11の外部にて開口し、その左端は燃料ギャラリ14内にて開口している。
【0070】
配管52は、通路22bと、通路11aと、を接続する配管である。配管52の一端は、継ぎ手53を介して通路22bの上端と接続されている。配管52の他端は、継ぎ手54を介して通路11aの右端と接続されている。
【0071】
このように、アーマチャ室用の空気・高圧燃料抜き構造50により、アーマチャ室221と燃料ギャラリ14とが連通接続されている。すなわち、通路22bが配管52により燃料ギャラリ14に接続されることにより、アーマチャ室221と、該アーマチャ室221よりも低圧の空間(低圧側の空間)である燃料ギャラリ14と、が連通されている。
【0072】
なお、本実施形態では、アーマチャ室221が配管52により燃料ギャラリ14に接続されるものとしたが、この構成に代えて、アーマチャ室を配管により燃料タンク(不図示)に接続する構成としてもよい。すなわち、アーマチャ室は、配管により前記アーマチャ室よりも低圧の任意の空間に連通されるものとすることができる。
【0073】
以下では、エンドキャップ室用の空気・高圧燃料抜き構造60について、図5及び図6を参照して説明する。
エンドキャップ室用の空気・高圧燃料抜き構造60は、排出通路26a及び排出通路216等により構成される。
【0074】
排出通路26aは、エンドキャップ26に形成される通路である。排出通路26aは正面視略L字状に形成されており、その一端はエンドキャップ室260内にて開口し、その他端はエンドキャップ26の外周面の下端部にて開口している。
【0075】
排出通路216は、ハウジング21に形成される通路である。排出通路216の上端部はインサートピース室214B(スピル弁孔214)内にて開口して排出通路26aの他端に接続される一方、排出通路216の下端部は第二スピル油排出路215内にて開口している。
【0076】
このように、エンドキャップ室用の空気・高圧燃料抜き構造60により、エンドキャップ室260と第二スピル油排出路215とが連通接続されており、該第二スピル油排出路215及び前記第一スピル油排出路134を介して、エンドキャップ室260と、該エンドキャップ室260よりも低圧の空間(低圧側の空間)である燃料ギャラリ14と、が連通接続されている。ただし、エンドキャップ室用の空気・高圧燃料抜き構造60は、上記の構造のものに限定するものではなく、エンドキャップ室260が第二スピル油排出路215及び第一スピル油排出路134等を介さずに別の経路で燃料ギャラリ14に連通される構造としてもよい。すなわち、エンドキャップ室用の空気・高圧燃料抜き構造は、エンドキャップ室と燃料ギャラリとを連通できる構造のものであればよい。
【0077】
以上の如く、本実施形態に係る燃料噴射ポンプ2は、通路22bは、配管52により低圧側の空間である燃料ギャラリ14と接続されたものである。
【0078】
したがって、アーマチャ室221内に残存する空気を、図6に示すように、配管52を経由して燃料ギャラリ14に抜くことができる。よって、エンジンの始動不良を防止することができる。また、アーマチャ室221内に高圧燃料が漏れても、配管52を経由して燃料ギャラリ14に排出することができる。よって、アーマチャ室221内の圧力上昇を抑制することができ、電磁スピル弁の性能が不安定となることを防止できる。その結果、燃料の噴射特性の安定化を図れる。なお、図6中の黒塗り矢印は、空気及び高圧燃料の流れを示している。
【0079】
また、本実施形態に係る燃料噴射ポンプ2は、前記スピル弁体24の摺動方向の他端部に形成された室であるエンドキャップ室260は、排出通路26a・216を介して前記燃料ギャラリ14と連通接続されたものである。
【0080】
したがって、スピル弁体24の摺動方向の他端部の室であるエンドキャップ室260内に残存する空気を、図6に示すように、排出通路26a・216を経由して燃料ギャラリ14に排出し、外部に抜くことができる。よって、エンジンの始動不良を防止することができる。また、エンドキャップ室260内に高圧燃料が漏れても、排出通路26a・216を経由して燃料ギャラリ14に排出することができる。よって、エンドキャップ室260内の圧力上昇を抑制することができ、電磁スピル弁の性能が不安定となることを防止できる。その結果、燃料の噴射特性の安定化を図れる。
【0081】
さらに、本実施形態に係る燃料噴射ポンプ2は、前記スピル弁体24には、前記アーマチャ室221と、前記スピル弁体24の摺動方向の他端部に形成された室であるエンドキャップ室260と、を連通するスピル弁体貫通孔242が形成されたものである。
【0082】
したがって、空気及び高圧燃料が、アーマチャ室221と、エンドキャップ室260と、の間を行き来することが可能となるので、空気及び高圧燃料を外部に抜くことが一層容易となる。
【0083】
<第三実施形態>
以下では、本発明の第三実施形態に係る燃料噴射ポンプ3について、図7を参照して説明する。
第三実施形態に係る燃料噴射ポンプ3は、スピル弁体貫通孔242をプラグ80で閉塞している点で、第二実施形態に係る燃料噴射ポンプ2とは異なる。
【0084】
プラグ80は、スピル弁体24の他端部に嵌装されるものである。本実施形態においては、プラグ80はスピル弁体24のスピル弁体貫通孔242に螺装される。プラグ80をスピル弁体24に取り付けることにより、アーマチャ室221とエンドキャップ室260とを隔てることができる。
【0085】
以上の如く、本実施形態に係る燃料噴射ポンプ3は、前記スピル弁体貫通孔242をプラグ80で閉塞可能としたものである。
【0086】
したがって、アーマチャ室221とエンドキャップ室260との間における圧力が脈動する場合には、図7に示すようにプラグ80を設けることにより、アーマチャ室221とエンドキャップ室260とをプラグ80で隔てることができる。こうすることにより、アーマチャ室221とエンドキャップ室260との間で圧力バランスが崩れることを防止できる。よって、電磁スピル弁の性能が不安定となることを防止できる。その結果、ひいては燃料の噴射特性のさらなる安定化を図れる。なお、図7中の黒塗り矢印は、空気及び高圧燃料の流れを示している。
【0087】
<第三実施形態の変形例>
なお、上記の第三実施形態に係る燃料噴射ポンプ3においては、スピル弁体24にスピル弁体貫通孔242が形成され、該スピル弁体貫通孔242にプラグ80が嵌装されるものとした。しかしながら、この構成に代えて、図8に示す燃料噴射ポンプ4のように、スピル弁体24にスピル弁体貫通孔242を形成しない、換言すれば、アーマチャ室221とエンドキャップ室260を連通させるために設けていたスピル弁体貫通孔242を廃止した構成としてもよい。
【0088】
このように構成することにより、スピル弁体貫通孔242を閉塞するためのプラグ80を設ける必要がなくなり、部品点数を削減することができる。
【符号の説明】
【0089】
1 燃料噴射ポンプ
10 ポンプ本体部
14 燃料ギャラリ
22a 空気抜き通路
24 スピル弁体
20 電磁スピル弁部
21 ハウジング
135 加圧室
221 アーマチャ室
247 アーマチャ
270 プラグ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加圧室及び燃料ギャラリが形成されるポンプ本体部と、
電磁スピル弁部と、を具備する燃料噴射ポンプにおいて、
前記電磁スピル弁部は、
ハウジングと、
該ハウジングに摺動可能に収容されるとともに、前記加圧室と燃料ギャラリとを連通及び遮断するスピル弁体と、
該スピル弁体の摺動方向の一端部に取り付けられるアーマチャと、
該アーマチャを収容するアーマチャ室と、
該アーマチャ室と外部とを連通する空気抜き通路と、を備えることを特徴とする燃料噴射ポンプ。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料噴射ポンプにおいて、
前記空気抜き通路は、配管により低圧側の空間と接続されることを特徴とする燃料噴射ポンプ。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の燃料噴射ポンプにおいて、
前記スピル弁体の摺動方向の他端部に形成された室は、排出通路を介して前記燃料ギャラリと連通接続されることを特徴とする燃料噴射ポンプ。
【請求項4】
請求項3に記載の燃料噴射ポンプにおいて、
前記スピル弁体には、
前記アーマチャ室と、前記スピル弁体の摺動方向の他端部に形成された室と、を連通するスピル弁体貫通孔が形成されることを特徴とする燃料噴射ポンプ。
【請求項5】
請求項4に記載の燃料噴射ポンプにおいて、
前記スピル弁体貫通孔をプラグで閉塞可能としたことを特徴とする燃料噴射ポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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