説明

燃料噴射制御装置

【課題】制御装置と駆動装置との間のインターフェースを変更することなく既存の信号により流量調整弁の駆動電流の切り替えを行う。
【解決手段】EDU7のデコーダ15は、何れか1つの気筒の噴射信号IJTnが噴射指令状態となったときにインジェクタ駆動回路16に対し駆動信号Dnを出力する。さらに、エンジンが無噴射減速状態にある期間において、全ての気筒の噴射信号IJT1〜IJT4が同時に1(噴射指令状態)となったとき、電流切替信号SCを1にして電流検出抵抗回路39の電流検出抵抗値を低下させる。駆動制御回路45は、電圧検出回路46の検出電圧が所定のしきい値に達するまでの期間、駆動信号S2を1にしてトランジスタ32をオン駆動するので、電磁コイルPCの立ち上がり時の駆動電流が増加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御装置から駆動装置に伝送される信号に従って、コモンレールに高圧燃料を圧送する燃料供給ポンプの燃料吐出量を調整する流量調整弁と、高圧燃料を内燃機関の各気筒内に噴射する燃料噴射弁とを駆動する燃料噴射制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンの燃料噴射装置としてコモンレール式燃料噴射装置が用いられている。この燃料噴射装置では、フィードポンプから供給された低圧燃料を燃料供給ポンプで加圧してコモンレールに圧送し、コモンレール内に高圧燃料を蓄圧する。そして、蓄圧した高圧燃料をエンジンの各気筒ごとに設けられたインジェクタにより各気筒の燃焼室に噴射する。
【0003】
コモンレール内の燃料圧力を目標圧力に維持するため、コモンレール内の燃料圧力をセンサにより検出し、目標圧力と検出圧力との差(圧力偏差)に基づいて燃料供給ポンプの燃料吐出量を制御している。この制御を行うため、燃料供給ポンプは吸入調量弁(SCV)または吐出量制御弁(PCV)を備えている。前者は、弁体の変位量に応じて燃料吸入通路の開口面積を変え、燃料供給ポンプへの燃料吸入量を調整することにより燃料供給ポンプの燃料吐出量を制御する。後者は、カムリフトに伴う燃料吸入・圧送行程における閉弁タイミング(プレストローク)を変えることにより燃料供給ポンプの燃料吐出量を制御する。
【0004】
こうした燃料供給ポンプの流量調整弁(SCV、PCV)に弁体の摺動不良や固着などの異常が発生すると、弁体の全開異常ではコモンレール内の燃料圧力が過度に上昇し、弁体の全閉異常ではコモンレール内の燃料圧力が過度に低下することになる。吸入調量弁は、PWMのデューティ比を変更することにより電磁コイルに流れる電流を制御しているので、弁体の固着等を検出した場合にはデューティ比を100%(フル通電)にすることで復帰させている。一方、吐出量制御弁は、固着等が比較的生じにくいこともあり、これまでのところ対策は施されていない。
【0005】
その他、特許文献1には、PWM駆動信号のデューティ比により吸入調量弁の開度を制御し、吸入調量弁の弁体の摺動性が低下していると判定した場合には、摺動性が低下していないと判定した場合に比べて低い駆動周波数を用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−80443号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
燃料噴射制御装置は、制御装置であるECU(Electronic Control Unit)と駆動装置であるEDU(Electronic Driving Unit)とを備えている。ECUはEDUに対し各気筒ごとの噴射信号と吐出量制御弁の開閉制御信号を伝送し、EDUはこれらの信号に従ってインジェクタの駆動と吐出量制御弁の駆動を行う。この場合の吐出量制御弁の開閉制御信号は、上述した閉弁タイミングとその後の開弁タイミングを指令する信号である。
【0008】
吐出量制御弁の場合も、弁体の固着や摺動部の不良から復帰するには電磁コイルの通電電流を増やすことが有効である。この場合、弁体の異常検出はECUが実行し、実際の駆動はEDUが実行するようになっている。このため、異常検出に応じて通電電流を変更するには、ECUからEDUに対し新たな電流切替信号を伝送する必要が生じ、現在用いられているECUとEDUとの間のインターフェースの構成を変更する必要が生じる。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的は、制御装置と駆動装置との間のインターフェースを変更することなく既存の信号により流量調整弁の駆動電流の切り替えを実現し、異常が生じた流量調整弁を正常な状態に復帰させることができる燃料噴射制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載した燃料噴射制御装置は、制御装置から駆動装置に伝送される信号に従って、コモンレールに高圧燃料を圧送する燃料供給ポンプの燃料吐出量を調整する流量調整弁と、コモンレールに蓄えられた高圧燃料を内燃機関の各気筒内に噴射する燃料噴射弁とを駆動する。そのため、制御装置から駆動装置に各気筒ごとの噴射信号と流量調整弁の開閉制御信号が伝送される。
【0011】
駆動装置は、噴射弁駆動手段、電流切替制御手段および調整弁駆動手段を備えている。噴射弁駆動手段は、制御装置から伝送された各気筒の噴射信号に従って各気筒の燃料噴射弁を駆動する。電流切替制御手段は、制御装置から伝送された各気筒の噴射信号を組み合わせた状態が予め定められた信号状態と一致するか否かを判定し、一致する場合には当該信号状態に対応した所定の電流値による駆動を指示する電流切替信号を出力する。調整弁駆動手段は、制御装置から伝送された流量調整弁の開閉制御信号に従って、上記電流切替信号に応じた電流値で流量調整弁を駆動する。
【0012】
本手段によれば、噴射信号を用いた燃料噴射弁の開閉動作に支障がない限りにおいて、各気筒の噴射信号を組み合わせた状態を予め定められた特定の信号状態と一致させることにより、噴射信号を利用して流量調整弁の駆動電流の切り替えを行うことが可能となる。その結果、制御装置と駆動装置との間の従前からのインターフェースを変更することなく、これまでと同じ噴射信号と流量調整弁の開閉制御信号を用いて流量調整弁の駆動電流の切り替えを実現できる。この電流切り替え手段を用いれば流量調整弁の駆動電流を増やすことができるので、弁体の固着などの異常が生じた流量調整弁を正常な状態に復帰させることができる。
【0013】
請求項2に記載した燃料噴射制御装置は、コモンレール内の燃料圧力を検出する圧力検出手段を備えている。制御装置は、コモンレールの目標圧力と検出圧力との偏差に基づいて流量調整弁の異常の有無を判定する。そして、異常と判定した場合には、内燃機関が無噴射減速状態である時に、異常状態から復帰させるのに必要な電流値に対応した信号状態に一致する各気筒の噴射信号を駆動装置に伝送する。本手段によれば、内燃機関が無噴射減速状態である時に噴射信号を流量調整弁の駆動電流の切り替え指令に利用するので、燃料噴射弁の開閉制御と干渉し合うことがない。
【0014】
請求項3に記載した手段によれば、電流切替制御手段は、入力した全ての気筒の噴射信号が同時に噴射指令状態となったときに、流量調整弁の駆動電流が増大するように電流切替信号を出力する。内燃機関の燃料噴射制御では、全ての気筒の噴射信号が同時に噴射指令状態となることはない。このような使用されることのない噴射信号の組み合わせを流量調整弁の駆動電流の切り替え指令に利用するので、噴射信号に従った燃料噴射弁の開閉制御と干渉し合うことがない。
【0015】
請求項4に記載した手段によれば、電流切替制御手段は、何れか1つの気筒の噴射信号が噴射指令状態となったときに、噴射弁駆動手段に当該1つの気筒の燃料噴射弁を開閉駆動させる。本手段によれば、電流切替制御手段は、噴射信号に基づく噴射弁の駆動制御と流量調整弁の駆動電流の切り替え制御とを統合的に行うので、構成の簡単化および誤動作の防止を図ることができる。
【0016】
請求項5に記載した手段によれば、電流切替制御手段は、入力した全ての気筒の噴射信号が同時に噴射指令状態となったときを除き、複数の気筒の噴射信号が同時に噴射指令状態となったときに異常と判定する。本手段によれば、電流切替制御手段が噴射信号の異常判定まで統合的に行うので、構成の簡単化および誤動作の防止を図ることができる。
【0017】
請求項6に記載した手段によれば、電流切替制御手段は、各気筒の噴射信号を入力し、電流切替信号を出力するデコーダから構成されている。デコーダを用いることにより、噴射信号の組み合わせ状態と流量調整弁の駆動電流の切り替えとの対応制御が容易になる。また、噴射信号に対する燃料噴射弁の駆動指令、禁止されている噴射信号の組み合わせの検出などを容易に行うこともできる。
【0018】
請求項7に記載した手段によれば、流量調整弁は、電磁コイルに流れる電流に応じて燃料供給ポンプの燃料吐出量を調整する吐出量制御弁から構成される。調整弁駆動手段は、第1電源線と電磁コイルの一端子との間に接続された第1スイッチと、第1電源線よりも高い電圧を持つ第2電源線と電磁コイルの一端子との間に接続された第2スイッチと、電磁コイルと直列に接続された電流検出抵抗と、電流切替信号に従って電流検出抵抗の抵抗値を変更する検出抵抗切替回路と、電磁コイルに流れる電流を反映した電流検出抵抗の電圧を検出する電圧検出手段とを備えている。
【0019】
調整弁駆動手段は、流量調整弁の駆動を指令する開閉制御信号が入力された時点から、駆動電流の増加に伴い検出電圧が所定のしきい値に達するまでの期間(立ち上がり期間)において少なくとも第2スイッチをオンする。これにより、第2電源線のより高い電圧が電磁コイルに印加され、駆動電流の立ち上がりを速めることができる。その後、開閉制御信号が駆動停止を指令するまでの期間は、例えば駆動電流に相当する検出電圧が規定値に等しくなるように第1スイッチをオンオフ制御すればよい。
【0020】
電流切替制御手段は、各気筒の噴射信号を組み合わせた状態が予め定められた信号状態と一致すると判定したとき、電流切替信号を出力して電流検出抵抗を当該信号状態に対応した抵抗値に変更する。電流検出抵抗の抵抗値を変更すると、その検出電圧と電磁コイルに流れる実電流との対応関係が変更されるので、調整弁駆動手段が一定のしきい値を用いていると駆動電流が実質的に変更される。
【0021】
請求項8に記載した手段によれば、検出抵抗切替回路は、電流切替信号に従って電流検出抵抗の抵抗値を複数段階に変更可能に構成されている。これにより、噴射信号を利用して流量調整弁の駆動電流を複数段階に切り替えることが可能となる。その結果、固着などの弁体異常の程度に応じて復帰に必要な流量調整弁の駆動電流を調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態を示すEDUの構成図
【図2】コモンレール式燃料噴射装置の概略構成図
【図3】デコーダの真理値表を示す図
【図4】電流切替信号SCが通常電流指令のときの波形図
【図5】電流切替信号SCが電流増加指令のときの波形図
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
図2は、コモンレール式燃料噴射装置の概略構成を示している。コモンレール式燃料噴射装置1は、高圧燃料を蓄圧するコモンレール2、コモンレール2に蓄圧した高圧燃料を内燃機関例えばディーゼルエンジンの各気筒の燃焼室内に所定のタイミングで噴射する複数のインジェクタ3(燃料噴射弁)、高圧配管4を通してコモンレール2に燃料を圧送する燃料供給ポンプ5、およびインジェクタ3と燃料供給ポンプ5を駆動制御するECU6(制御装置)とEDU7(駆動装置)を備えている。ECU6とEDU7により燃料噴射制御装置8が構成されている。
【0024】
コモンレール2は、コモンレール2内の燃料圧(コモンレール圧)を検出する圧力センサ9(圧力検出手段)と、コモンレール圧が規定値よりも上昇した時にECU6により駆動されて圧力を逃がす減圧弁10を備えている。減圧弁10から逃がされた燃料、インジェクタ3からリークした燃料および燃料供給ポンプ5からリークした燃料は、図示しない燃料帰還路を通して燃料タンク13に戻されるようになっている。
【0025】
コモンレール2の高圧燃料は、各気筒ごとに高圧配管11を通してインジェクタ3に供給される。ECU6は、燃料の噴射時期および噴射期間を制御するための噴射信号IJT1〜IJT4をEDU7に送り、EDU7は入力した噴射信号IJT1〜IJT4に基づいてインジェクタ3の弁開閉用アクチュエータ例えばピエゾアクチュエータP1〜P4(図1参照)を駆動する。
【0026】
フィードポンプ12は、燃料タンク13から燃料を吸入し、その吸入した燃料をフィルタを介して燃料供給ポンプ5に供給する。燃料供給ポンプ5は、フィードポンプ12から供給された低圧燃料を高圧に加圧してコモンレール2に圧送する高圧供給ポンプである。燃料供給ポンプ5のシリンダ上部には、高圧配管4への燃料の吐出量を可変するために、流量調整弁としての吐出量制御弁14(PCV)を備えている。この吐出量制御弁14はノーマリオープン型である。
【0027】
エンジンの回転中は、その動力により燃料供給ポンプ5のカムが回転してプランジャーが往復動する。燃料供給ポンプ5が燃料吸入行程を経て燃料圧送行程に移行した後、EDU7がECU6から送られた開閉制御信号DPCVに基づき吐出量制御弁14の電磁コイルPCに通電して閉弁させると、その閉弁タイミングに応じた量の燃料が燃料供給ポンプ5からコモンレール2に圧送され燃料吐出量を調整できる。
【0028】
ECU6は、CPU、揮発性メモリ(RAM)、不揮発性メモリ(ROM、フラッシュメモリ)、A/D変換器、入出力インターフェースなどを備えた周知のマイクロコンピュータにより構成されている。ECU6は、回転速度センサ、アクセル開度センサ、上記圧力センサ9などの各種センサから検出信号を入力し、それらに基づいて最適な噴射時期および燃料期間(噴射量)を決定してEDU7に対し噴射信号IJT1〜IJT4を出力する。また、ECU6は、エンジンの運転状態に基づいて目標コモンレール圧を算出し、検出したコモンレール圧が目標コモンレール圧と一致するようにEDU7に対し吐出量制御弁14の開閉制御信号DPCVを出力する。
【0029】
図1は、EDU7の構成を示している。EDU7の出力端子7p1〜7p4と出力端子7m1〜7m4との間にはそれぞれ各気筒のインジェクタ3を構成するピエゾアクチュエータP1〜P4が接続されており、出力端子7p5と7m5との間には吐出量制御弁14の電磁コイルPCが接続されている。EDU7は、デコーダ15(電流切替制御手段)、インジェクタ駆動回路16(噴射弁駆動手段)およびPCV駆動回路17(調整弁駆動手段)を備えている。EDU7の電源端子7d1、7d2にはバッテリ電圧VBが供給されており、そのバッテリ電圧VBを昇圧する昇圧回路18を備えている。
【0030】
4入力16出力のデコーダ15は、入力端子a〜dに各気筒の噴射信号IJT1〜IJT4を入力し、出力端子A、H、L、N、Oからそれぞれ電流切替信号SC、駆動信号D1、D2、D3、D4を出力する。図3は、デコーダ15の真理値表を示している。論理0は信号のLレベル、論理1は信号のHレベルに対応している。噴射信号IJT1〜IJT4のうち何れか1つの噴射信号IJTnが1(噴射指令状態)である時には、その1つの駆動信号Dnだけを1(駆動指令状態)にする。
【0031】
噴射信号IJT1〜IJT4の全てが1である時には、電流切替信号SCを1にして電磁コイルPCの駆動電流を増大させる。噴射信号IJT1〜IJT4の全てが1である場合を除き、噴射信号IJT1〜IJT4のうち複数の噴射信号が同時に1となったときには異常と判定し、ECU6に対しフェイル信号を送信する。
【0032】
インジェクタ駆動回路16は、駆動信号Dnが1の期間に当該インジェクタ3が開弁するようにピエゾアクチュエータPnを充電し、駆動信号Dnが0の期間に当該インジェクタ3が閉弁するようにピエゾアクチュエータPnを放電する。ハイサイド側には、充電スイッチとして動作するMOSトランジスタ19、放電スイッチとして動作するMOSトランジスタ20およびコイル21を共通に備えている。ローサイド側には、気筒選択スイッチとして動作するMOSトランジスタ22を気筒ごとに備えている。
【0033】
駆動制御回路23は、駆動信号D1〜D4を入力としてMOSトランジスタ19、20、22を駆動する。駆動信号Dnが0から1になると、対応するMOSトランジスタ22をオンさせ、MOSトランジスタ20をオフさせた状態でMOSトランジスタ19をオンオフ駆動する。これによりピエゾアクチュエータPnが充電されて伸長しインジェクタ3(燃料噴射弁)が開弁する。駆動信号Dnが1から0になると、MOSトランジスタ22をオンに維持し、MOSトランジスタ19をオフさせた状態でMOSトランジスタ20をオンオフ駆動する。これによりピエゾアクチュエータPnが放電されて収縮しインジェクタ3が閉弁する。
【0034】
PCV駆動回路17は、開閉制御信号DPCVが1にある期間に吐出量制御弁14の電磁コイルPCに通電する。ハイサイド側には、2系統のスイッチを備えている。バッテリ電圧VBを有する第1電源線24と出力端子7p5との間には、MOSトランジスタ25(第1スイッチ)と逆流防止用のダイオード26が直列に接続されている。トランジスタ27と抵抗28〜30はMOSトランジスタ25のドライブ回路を構成している。一方、昇圧電圧VCP2を有する第2電源線31と出力端子7p5との間には、MOSトランジスタ32(第2スイッチ)が接続されている。トランジスタ33と抵抗34〜36はMOSトランジスタ32のドライブ回路を構成している。出力端子7p5とグランドとの間には還流ダイオード37が接続されている。
【0035】
ローサイド側の出力端子7m5とグランドとの間には、MOSトランジスタ38と電流検出抵抗回路39(電流検出抵抗)が直列に接続されている。電流検出抵抗回路39は、検出抵抗切替回路42により、抵抗40だけの回路構成と抵抗40、41の並列回路構成の何れかに変更できる。検出抵抗切替回路42は、電流切替信号SCと後述する駆動信号S2の論理積を出力するANDゲート43と、抵抗41に直列接続されたトランジスタ44とから構成されている。
【0036】
駆動制御回路45は、開閉制御信号DPCVを入力として駆動信号S1、S2、S3によりトランジスタ27、33、38を駆動する。駆動制御回路45は、電流検出抵抗回路39の電圧を検出する電圧検出回路46(電圧検出手段)を備えており、この検出電圧と所定のしきい値電圧との比較に基づき吐出量制御弁14の電磁コイルPCに流れる電流を制御する。なお、デコーダ15と駆動制御回路23、45は1つの半導体集積回路として構成されている。
【0037】
次に、図4と図5を参照しながら燃料噴射制御装置8の動作を説明する。
はじめに、吐出量制御弁14を含めコモンレール式燃料噴射装置1が正常に動作している場合について説明する。この場合、噴射信号IJT1〜IJT4は順次1つずつ噴射指令状態になるので、デコーダ15は駆動信号D1〜D4を順に駆動指令状態にし、インジェクタ駆動回路16は各気筒のインジェクタ3を順次駆動する。このとき、デコーダ15が出力する電流切替信号SCは0(通常電流指令)であり、電流検出抵抗回路39の電流検出抵抗値は抵抗40単独の抵抗値となっている。
【0038】
PCV駆動回路17は、図4に示すように吐出量制御弁14の電磁コイルPCを駆動する。すなわち、開閉制御信号DPCVが1(通電指令)になると、PCV駆動回路17は駆動信号S1、S2、S3を1(Hレベル)にしてトランジスタ27、33、38を一斉にオンする。PCV駆動回路17は、定電流制御として、検出電圧が第1しきい値と第2しきい値との間に保たれるように駆動信号S1を用いてトランジスタ27(すなわちトランジスタ25)をオンオフ駆動する。
【0039】
また、PCV駆動回路17は、駆動電流の立ち上がりを速める制御として、検出電圧が第3しきい値に達するまでの期間、駆動信号S2を用いてトランジスタ33(すなわちトランジスタ32)をオン駆動する。トランジスタ25、32が同時にオンしている期間は、電源線24、31のうち高い電圧を持つ電源線31から電磁コイルPCに駆動電流が流れる。その結果、開閉制御信号DPCVが1に変化した時点から駆動電流がI3に達するまでは、昇圧電圧VCP2により駆動電流が急速に立ち上がり、その後は駆動電流がI1とI2の間に保持される。
【0040】
ECU6は、検出したコモンレール圧が目標コモンレール圧と一致するように、吐出量制御弁14の開閉制御信号DPCVを出力してコモンレール圧をフィードバック制御している。しかし、デポジットの堆積や弁体の摺動部の摩耗などが原因となって、弁体の摺動性が悪化し弁体の固着が生じる場合がある。
【0041】
弁体に異常が生じて弁体が開いた状態になると、燃料供給ポンプ5からコモンレール2に燃料が過剰に供給されコモンレール圧が異常に上昇する。逆に弁体に異常が生じて弁体が閉じた状態になると、燃料供給ポンプ5からコモンレール2に燃料が供給されずコモンレール圧が異常に低下する。ECU6は、コモンレール圧をフィードバック制御している時(減圧弁10の開放時を除く)に、圧力偏差が所定の規定値を超えて過大になると、吐出量制御弁14の弁体異常と判断する。
【0042】
この弁体異常から復帰するには、電磁コイルPCの駆動電流を通常時よりも増大させることが有効である。本燃料噴射制御装置8ではECU6とEDU7とのインターフェースに専用の電流切替信号は存在しないので、噴射信号IJT1〜IJT4を利用して電流切替を指令する。ただし、噴射信号IJT1〜IJT4を用いた燃料噴射動作との干渉を避けるため、エンジンが無噴射減速状態にある時に限り噴射信号IJT1〜IJT4を同時に1にすることで電流切替を指令する。
【0043】
EDU7のデコーダ15は、噴射信号IJT1〜IJT4が同時に1になる期間、電流切替信号SCを1(電流増加指令)にする。これにより、駆動制御回路45が駆動信号S2を1にする立ち上げ期間において、電流検出抵抗回路39の電流検出抵抗値は抵抗40、41の並列抵抗値に低下する。このときの駆動波形は図5に示すようになる。
【0044】
この場合、駆動制御回路45が駆動電流の立ち上がりを速めるために用いる上記第3しきい値は変更していないが、電流検出抵抗値が低下したことにより駆動電流に対する検出電圧が低下し、第3しきい値に相当する到達目標電流がI3からI4に高まる。その結果、電磁コイルPCの立ち上がり時の駆動電流が増大し、吐出量制御弁14の弁体に作用する駆動力が増えるので、弁体の摺動性が改善されて固着状態から復帰することができる。駆動信号S2が0に移行した後の定電流制御時には、電流検出抵抗回路39の電流検出抵抗値は抵抗40単独の抵抗値に戻るので、駆動電流はI1とI2の間に保持される。
【0045】
以上説明したように、本実施形態の燃料噴射制御装置8は、噴射信号IJT1〜IJT4を利用して吐出量制御弁14の駆動電流の切り替えを行う構成を備えている。これにより、ECU6とEDU7との間の従前からのインターフェースを変更することなく、これまでと同じ噴射信号IJT1〜IJT4と吐出量制御弁14の開閉制御信号DPCVを用いて吐出量制御弁14の駆動電流を切り替えることができる。この切り替えにより吐出量制御弁14の駆動電流を増やすことにより、弁体の固着や摺動不良などの異常が生じた吐出量制御弁14を正常な状態に復帰させることができる。
【0046】
この駆動電流の切り替えは、全ての気筒の噴射信号IJT1〜IJT4が同時に噴射指令状態となったときに駆動電流を増大するように定められている。エンジンの燃料噴射制御においては、全ての気筒の噴射信号IJT1〜IJT4が同時に噴射指令状態となることはない。このように使用されることのない噴射信号の組み合わせにより吐出量制御弁14の駆動電流を切り替えるので、噴射信号IJT1〜IJT4に従ったインジェクタ3の開閉制御と干渉することがない。
【0047】
ECU6は、検出したコモンレール圧と目標コモンレール圧との圧力偏差が過大となったことにより吐出量制御弁14の弁体異常と判定する。この場合、エンジンが無噴射減速状態にある期間において、噴射信号IJT1〜IJT4を同時に1にして駆動電流の増加を指令するので、エンジンの燃料噴射動作との干渉を避けることができる。
【0048】
噴射信号IJT1〜IJT4の組み合わせ状態に応じて電流切替信号SCを出力する電流切替制御手段としてデコーダ15を採用した。これにより、噴射信号IJT1〜IJT4の組み合わせ状態と吐出量制御弁14の駆動電流の切り替えとの対応制御が容易になる。また、従来構成に対する半導体集積回路でのレイアウトサイズの増加も最小限に抑えることができる。
【0049】
このデコーダ15は、PCV駆動回路17に対し電流切替信号SCを出力する機能のみならず、何れか1つの気筒の噴射信号IJTnが噴射指令状態となったときにインジェクタ駆動回路16に対し駆動信号Dnを出力する機能も有している。さらに、デコーダ15は、噴射信号IJT1〜IJT4のうち複数(全てを除く)が同時に噴射指令状態となったときに異常と判定する機能も有している。この構成により、EDU7は、インジェクタ3の駆動制御と吐出量制御弁14の駆動電流の切り替え制御とを統合的に行うことができ、構成の簡単化および誤動作の防止を図ることができる。
【0050】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の変形、拡張を行うことができる。
【0051】
デコーダ15(電流切替制御手段)は、噴射信号IJT1〜IJT4に応じて通常電流指令と電流増加指令の2状態を持つ電流切替信号SCを出力するが、さらに多くの状態を持つ電流切替信号を出力してもよい。例えば、電流の切り替えを指令する噴射信号IJT1〜IJT4の組み合わせ状態を増やして、通常電流よりも大きい複数の電流値への切り替えを可能としてもよい。この場合、検出抵抗切替回路42が電流検出抵抗回路39の抵抗値を3複数段階に切り替えるように構成する。これにより、弁体の固着や摺動不良などの異常の程度に応じて復帰に必要な駆動電流を選択することができるようになる。
【0052】
電流切替制御手段はデコーダ以外の回路で構成してもよい。
電流切替信号SCが電流増加指令にある期間は、駆動信号S2が1になる立ち上がり時のみならず、駆動信号S2が0に移行した後の定電流制御時にも駆動電流を増加させてもよい。この場合には、ANDゲート43を省略し、電流切替信号SCだけでトランジスタ44を駆動すればよい。
【0053】
流量調整弁として、弁体の変位量に応じて燃料吸入通路の開口面積を変え、燃料供給ポンプへの燃料吸入量を調整することにより燃料供給ポンプの燃料吐出量を制御する吸入調量弁(SCV)を採用してもよい。この場合にも、上述した実施形態と同様にして駆動電流を切り替えることができる。
【符号の説明】
【0054】
図面中、2はコモンレール、3はインジェクタ(燃料噴射弁)、5は燃料供給ポンプ、6はECU(制御装置)、7はEDU(駆動装置)、8は燃料噴射制御装置、9は圧力センサ(圧力検出手段)、14は吐出量制御弁(流量調整弁)、15はデコーダ(電流切替制御手段)、16はインジェクタ駆動回路(噴射弁駆動手段)、17はPCV駆動回路(調整弁駆動手段)、24は第1電源線、25はMOSトランジスタ(第1スイッチ)、31は第2電源線、32はMOSトランジスタ(第2スイッチ)、39は電流検出抵抗回路(電流検出抵抗)、42は検出抵抗切替回路、46は電圧検出回路(電圧検出手段)、PCは電磁コイルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御装置から駆動装置に伝送される信号に従って、コモンレールに高圧燃料を圧送する燃料供給ポンプの燃料吐出量を調整する流量調整弁と、前記コモンレールに蓄えられた高圧燃料を内燃機関の各気筒内に噴射する燃料噴射弁とを駆動する燃料噴射制御装置において、
前記駆動装置は、
前記制御装置から伝送された各気筒の噴射信号に従って前記各気筒の燃料噴射弁を開閉駆動する噴射弁駆動手段と、
前記制御装置から伝送された各気筒の噴射信号を組み合わせた状態が予め定められた信号状態と一致するか否かを判定し、一致する場合には当該信号状態に対応した所定の電流値による駆動を指示する電流切替信号を出力する電流切替制御手段と、
前記制御装置から伝送された前記流量調整弁の開閉制御信号に従って、前記電流切替信号に応じた電流値で前記流量調整弁を駆動する調整弁駆動手段とを備えていることを特徴とする燃料噴射制御装置。
【請求項2】
前記コモンレール内の燃料圧力を検出する圧力検出手段を備え、
前記制御装置は、前記コモンレールの目標圧力と検出圧力との偏差に基づいて前記流量調整弁の異常の有無を判定し、異常と判定した場合には前記内燃機関が無噴射減速状態である時に、前記予め定められた信号状態に一致する各気筒の噴射信号を前記駆動装置に伝送することを特徴とする請求項1記載の燃料噴射制御装置。
【請求項3】
前記電流切替制御手段は、入力した全ての気筒の噴射信号が同時に噴射指令状態となったときに、前記流量調整弁の駆動電流が増大するように前記電流切替信号を出力することを特徴とする請求項1または2記載の燃料噴射制御装置。
【請求項4】
前記電流切替制御手段は、何れか1つの気筒の噴射信号が噴射指令状態となったときに、前記噴射弁駆動手段に当該1つの気筒の燃料噴射弁を開閉駆動させることを特徴とする請求項3記載の燃料噴射制御装置。
【請求項5】
前記電流切替制御手段は、入力した全ての気筒の噴射信号が同時に噴射指令状態となったときを除き、複数の気筒の噴射信号が同時に噴射指令状態となったときに異常と判定することを特徴とする請求項4記載の燃料噴射制御装置。
【請求項6】
前記電流切替制御手段は、各気筒の噴射信号を入力して前記電流切替信号を出力するデコーダから構成されていることを特徴とする請求項1ないし5の何れかに記載の燃料噴射制御装置。
【請求項7】
前記流量調整弁は、電磁コイルに流れる電流に応じて前記燃料供給ポンプの燃料吐出量を調整する吐出量制御弁であって、
前記調整弁駆動手段は、第1電源線と前記電磁コイルの一端子との間に接続された第1スイッチと、前記第1電源線よりも高い電圧を持つ第2電源線と前記電磁コイルの一端子との間に接続された第2スイッチと、前記電磁コイルと直列に接続された電流検出抵抗と、前記電流切替信号に従って前記電流検出抵抗の抵抗値を変更する検出抵抗切替回路と、前記電流検出抵抗の電圧を検出する電圧検出手段とを備え、前記流量調整弁の駆動を指令する開閉制御信号が入力された時点から前記検出電圧が所定のしきい値に達するまでの期間において少なくとも前記第2スイッチをオンし、
前記電流切替制御手段は、前記各気筒の噴射信号を組み合わせた状態が予め定められた信号状態と一致すると判定したときに、当該信号状態に対応して前記電流検出抵抗の抵抗値を変更する電流切替信号を出力することを特徴とする請求項1ないし6の何れかに記載の燃料噴射制御装置。
【請求項8】
前記検出抵抗切替回路は、前記電流切替信号に従って前記電流検出抵抗の抵抗値を複数段階に変更可能に構成されていることを特徴とする請求項7記載の燃料噴射制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2013−24080(P2013−24080A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−157893(P2011−157893)
【出願日】平成23年7月19日(2011.7.19)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】