説明

燃料性状検出装置

【課題】 燃料の性状を高分解能に検出可能な燃料性状検出装置を提供する。
【解決手段】 燃料性状検出装置10は、燃料通路35を有する有底筒状の第1電極20と、第1電極20内で同軸に配置される筒状の第2電極40および第3電極50と、回路部80とを備える。回路部80は、第1電極20と第2電極40との間の第1静電容量、及び、第2電極40と第3電極50との間の第2静電容量の和に等しい合成静電容量を取得し、マップから合成静電容量に基づき燃料通路35内の燃料のエタノール濃度を算出する。回路部80が取得する合成静電容量は、電極が一組である構成にて回路部が取得する静電容量と比べ、燃料のエタノール濃度が変化するとき大きく変化する。したがって、燃料のエタノール濃度を高分解能に検出可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料性状検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関に燃料を供給する燃料供給系統に設けられ、燃料の例えばアルコール濃度などの性状を検出する燃料性状検出装置が知られている。燃料性状検出装置が検出する燃料の性状は、内燃機関の電子制御ユニットに伝送され、各種制御に利用される。電子制御ユニットは、燃料の性状に応じて内燃機関の燃料噴射量や燃料噴射時期を制御することで排気中の有害物質の発生を抑制する。
特許文献1に開示された燃料性状検出装置は、燃料通路を有する外側電極と、燃料通路内に配置される内側電極との間の静電容量に基づき燃料通路内の燃料のアルコール濃度を検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第7030629号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示された燃料性状検出装置は、一組の電極間の静電容量に基づきアルコール濃度を検出するため、アルコール濃度が変化するときの静電容量の変化量が小さい。そのため、検出することができるアルコール濃度の分解能が低いという問題があった。
この問題に対し、内側電極および外側電極を長手方向に長くすることで電極同士の対向面積を増やし、アルコール濃度の変化に対する静電容量の変化を大きくすることが考えられる。しかし、これによると燃料性状検出装置の体格が大きくなるという弊害が生じる。
【0005】
また、上記問題に対し、外側電極の内径を小さくするか或いは内側電極の外径を大きくすることで電極間の隙間を狭くし、アルコール濃度の変化に対する静電容量の変化を大きくすることが考えられる。しかし、これによると燃料通路の流通抵抗が大きくなり、燃料を圧送する燃料ポンプの負担が大きくなるという弊害が生じる。
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、燃料の性状を高分解能に検出可能な燃料性状検出装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明による燃料性状検出装置は、第1電極と、第2電極と、第3電極と、回路部とを備える。第1電極は燃料通路を有する。第2電極は、燃料通路内で第1電極に対し所定の隙間を隔てて配置される。第3電極は、燃料通路内で第2電極に対し所定の隙間を隔てて配置される。回路部は、第1電極と第2電極との間の第1静電容量、及び、第2電極と第3電極との間の第2静電容量に基づき燃料通路内の燃料の性状を算出する。
電極間の静電容量と燃料の性状との間には相関関係がある。燃料の性状が変化すると静電容量も変化する。燃料の性状が所定量だけ変化するとき、二組の電極間の静電容量の和で表される合成静電容量の変化量は、上記二組の電極のうち一方の電極間の静電容量の変化量と比べて大きくなる。そのため、回路部が取得する合成静電容量は、電極が一組である構成にて回路部が取得する静電容量と比べ、燃料の性状が変化するとき大きく変化する。したがって、燃料の性状を高分解能に検出可能である。
【0007】
請求項2に記載の発明では、第1電極と第3電極とを互いに電気的に接続する接続手段を備える。この構成では、第1電極と第2電極とで構成される第1コンデンサ、及び、第2電極と第3電極とで構成される第2コンデンサが電気回路上で互いに並列に接続される。これにより、回路部は、第1静電容量と第2静電容量との和で表される合成静電容量を取得する。そのため、燃料の性状の変化に対する静電容量の変化が大きくなり、燃料の性状を高分解能に検出可能である。
【0008】
請求項3に記載の発明では、接続手段は、第3電極を第1電極に固定する固定部材から構成される。そのため、第1電極と第3電極とを電気的に接続する部材を別途設ける必要がなく、部品点数を削減することができる。
【0009】
請求項4に記載の発明では、第1電極は、第1筒部と、第1筒部の端部を塞ぐ第1底部と、を有する有底筒状に形成される。第2電極は、筒状に形成され、第1筒部の内側に配置される。第3電極は、筒状に形成され、第2電極の内側に配置される。これら第1電極、第2電極および第3電極は、軸が互いに略平行となるように設けられる。この構成では、第2電極および第3電極を同じ方向から第1電極内に挿入することができるので、各電極の組み付けを容易に行うことができる。
【0010】
請求項5に記載の発明では、第1底部は、内壁に第1筒部とは反対側に凹む凹部を有し、第2電極のうち第1電極の第1底部側の端部は、上記凹部の内側に位置する。この構成では、凹部の内壁の内径を変更することで第1静電容量を容易に調整することができる。
請求項6に記載の発明では、第2電極は、回路部に電力を供給する電源の正極側に接続され、第1電極および第3電極は、電源の負極側に接続される。これによれば、燃料性状検出装置の外郭を構成する第1電極が例えば車体等の他の部材に接触しても検出値に誤差が生じない。そのため、検出誤差の発生を防止することができる。
【0011】
請求項7に記載の発明では、燃料通路内の燃料の温度を検出する温度センサを備える。回路部は、第1静電容量および第2静電容量に加え、温度センサが検出する燃料の温度に基づき燃料通路内の燃料の性状を算出する。これにより、燃料の温度に応じた正確な燃料の性状を算出することができる。
請求項8に記載の発明では、第3電極は、第2筒部と、第2筒部のうち燃料通路側の端部を塞ぐ第2底部と、を有する有底筒状に形成される。温度センサは、第2筒部の内側に配置される。これにより、温度センサを燃料通路内の燃料から隔離することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態による燃料性状検出装置が適用された燃料供給系統を示す構成図である。
【図2】図1の燃料性状検出装置の断面図である。
【図3】図1の燃料性状検出装置の電気回路の構成図である。
【図4】図1の燃料性状検出装置の各電極間の燃料のエタノール濃度、温度および静電容量の関係を示す特性図である。
【図5】図1の燃料性状検出装置の各電極間の燃料のエタノール濃度および静電容量の関係、及び、電極が一組のみ設けられる比較形態の電極間の燃料のエタノール濃度および静電容量の関係、を比較して示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の燃料性状検出装置を図面に基づき説明する。
(一実施形態)
本発明の一実施形態による燃料性状検出装置は、図1に示す自動車用の燃料供給系統に適用される。この燃料供給系統は、図示しないエンジンに燃料を供給するシステムであり、燃料タンク2、燃料ポンプ3、燃料配管4、デリバリパイプ5、インジェクタ6およびECU(電子制御ユニット)7等を備える。燃料タンク2内の燃料は、燃料ポンプ3により燃料配管4を経由しデリバリパイプ5に圧送され、インジェクタ6からエンジンの吸気管内や気筒内などに噴射される。ECU7は、インジェクタ6の作動を電気的に制御する。燃料性状検出装置10は、燃料タンク2とデリバリパイプ5とを接続する燃料配管4の途中に設けられる。
【0014】
燃料タンク2内には、例えばエタノールとガソリンとが混合されたエタノール混合ガソリン等が給油される。このエタノール混合ガソリンのエタノール濃度は0〜100[%]の間で適宜選択可能である。したがって、燃料タンク2内の燃料のエタノール濃度は、給油時点を境に変動する可能性がある。燃料性状検出装置10は、燃料配管4内を流れる燃料のエタノール濃度を検出し、このエタノール濃度に対応する電気信号をECU7に出力するエタノール濃度センサである。ECU7は、エンジンに供給される直前の燃料のエタノール濃度に応じて燃料噴射量や燃料噴射時期などを制御することで、エンジンを最適条件で作動させる。この最適条件は、エンジンの排気中の有害物質量が可及的に少なくなること等を考慮し設定される。
【0015】
図2に示すように、燃料性状検出装置1は、第1電極20、第2電極40、第3電極50、ハウジング65、サーミスタ70および回路部80等を備える。
第1電極20は、「第1筒部」としての筒部21と、筒部21の一端部を塞ぐ「第1底部」としての底部22とからなり、例えばステンレス等の金属により有底円筒状に形成される。また、第1電極20は、筒部21の他端部側の外壁に開口する有底の第1収容穴23と、第1収容穴23の底壁24に開口する有底の第2収容穴25とを有する。第1収容穴23は、第1電極20の筒部21の内壁で区画形成される。第2収容穴25は、第1電極20の筒部21の内壁と底部22の内壁とで区画形成される。第1収容穴23の内径は、第2収容穴25の内径よりも大きい。第1収容穴23および第2収容穴25は、第2電極40および第3電極50を収容する。第1電極20は、第2電極40および第3電極50のハウジングとして機能し、ハウジング65と共に燃料性状検出装置10の外郭を構成する。
第1電極20の筒部21のうち第1収容穴23側の外壁は、互いに周方向に離れて配置される複数のねじ穴26と、これらのねじ穴26を取り囲むように環状に形成されるOリング溝27とを有する。
【0016】
第1電極20の底部22は、内壁28に筒部21とは反対側に凹む凹部29を有する。凹部29の内側には第2電極40の端部が挿入される。
第1電極20の筒部21は、第1収容穴23に対応する軸方向位置で径方向へ内外に貫通する通孔30、31を有する。第1電極20の筒部21の外壁のうち通孔30、31に対応する箇所には、管継手33、34の一端部が接続される。これら管継手33、34の他端部には、図1の燃料配管4を構成する管の一端部が接続される。管継手33および通孔30を通じて第2収容穴25に流入する燃料は、通孔31および管継手34を通じて燃料配管4に流出する。第2収容穴25は、燃料の通路としての燃料通路35を構成する。
【0017】
第2電極40は、第1収容穴23内および第2収容穴25内に位置する筒部41と、第1収容穴23内で筒部41から径外方向へ突き出す鍔部42とからなり、例えばステンレス等の金属により円筒状に形成される。第2電極40の筒部41は、第1電極20の筒部21と同軸上に設けられる。また、第2電極40の筒部41のうち第2収容穴25側の端部の先端は、第1電極20の底部22の凹部29の内側に挿入される。
第2電極40の筒部41は、通孔30に対応する周方向位置で径方向へ内外に貫通する通孔43と、通孔31に対応する周方向位置で径方向へ内外に貫通する通孔44とを有する。これらの通孔43、44には燃料が流通可能である。
【0018】
第2電極40の筒部41のうち第1収容穴23側の外壁と第1電極20の筒部21の内壁との間には、シール部材45が設けられる。シール部材45は、第1電極20と第2電極40との径方向の隙間を液密に封止し、燃料通路35内の燃料が第1収容穴23側に漏れることを防止する。
第2電極40は、鍔部42に接合された端子46により回路部80に電気的に接続される。端子46は、第3電極50の鍔部53が有するスリット57、及び、後述の保持プレート61が有する通孔62を通して第1電極20外に取り出される。
【0019】
第2電極40と第1電極20との間には、環状の第1絶縁部材47が設けられる。第1絶縁部材47は、第2電極40の鍔部42と底壁24との軸方向の隙間、及び、第2電極20の鍔部42と第1収容穴23を形成する内壁32との径方向の隙間に介在させられる。第1絶縁部材47は、第2電極40と第1電極20とを電気的に絶縁する。
第2電極40の筒部41は、燃料通路35内で第1電極20の筒部21に対し所定の隙間G1を隔てて配置される。また、第2電極40の筒部41のうち第2収容穴25側の端部の先端は、第1電極20の底部22の凹部29の内側で凹部29の内壁に対し所定の隙間G2を隔てて配置される。隙間G2は、隙間G1より小さく設定される。燃料通路35内を燃料が流れるとき、隙間G1および隙間G2には燃料が満たされる。このとき、第1電極20および第2電極40は、誘電体としての燃料を隔てて配置され、第1のコンデンサを構成する。
【0020】
第3電極50は、第1収容穴23内および第2電極40の筒部41内に位置する「第2筒部」としての筒部51と、筒部51の底部22側の端部を塞ぐ「第2底部」としての底部52と、第1収容穴23内で筒部51から径外方向へ突き出す鍔部53とからなり、例えばステンレス等の金属により有底円筒状に形成される。第3電極50の筒部51は、第2電極40の筒部41と同軸上に設けられる。第3電極50は、第2電極40と同じ方向から第1電極20内に挿入される。第3電極50の筒部51の内側は、底部52によって燃料通路35内から隔離される。
第3電極50の筒部51の外壁と第2電極40の筒部41の内壁との間には、シール部材54が設けられる。シール部材54は、第2電極40と第3電極50との径方向の隙間を液密に封止し、燃料通路35内の燃料が第1収容穴23側に漏れることを防止する。
【0021】
第3電極50は、鍔部53に接合された端子55により回路部80に電気的に接続される。端子55は、保持プレート61の通孔62を通して第1電極20外に取り出される。
第3電極50と第2電極40との間には、環状の第2絶縁部材56が設けられる。第2絶縁部材56は、第3電極50の鍔部53と第2電極40の鍔部42との軸方向の隙間、及び、第3電極50の筒部51と第2電極40の筒部41との径方向の隙間に介在させられる。第2絶縁部材56は、第3電極50と第2電極40とを電気的に絶縁する。
第3電極50の筒部51は、燃料通路35内で第2電極40の筒部41に対し所定の隙間G3を空けて配置される。燃料通路35内を燃料が流れるとき、隙間G3には燃料が満たされる。このとき、第2電極40および第3電極50は、誘電体としての燃料を隔てて配置され、第2のコンデンサを構成する。
【0022】
第2電極40および第3電極50は、固定手段60により第1電極20に固定される。固定手段60は、保持プレート61およびビス63から構成される。
「固定部材」としての保持プレート61は、例えばステンレス等の金属により円環板状に形成される。この保持プレート61は、第1電極20の筒部21のうち第1収容穴23側の外壁、及び、第3電極50の鍔部53のうち筒部51とは反対側の外壁に当接するように配置される。保持プレート61は、第1電極20と第3電極とを電気的に接続する「接続手段」である。
【0023】
ビス63は、第1電極20のねじ穴26にねじ込まれることで保持プレート61を第1電極20に固定する。保持プレート61の通孔62の内径は、第3電極50の鍔部53の外径よりも小さい。これにより、第3電極50は、第1収容穴23および第2収容穴25から抜け出し不能とされる。
保持プレート61と第1電極20との隙間は、Oリング溝27内のOリング64により液密に封止される。
第3電極50、第1絶縁部材47、第2電極40および第2絶縁部材56は、保持プレート61と第1収容穴の底壁24とに挟まれることで第1電極20に固定される。固定手段60は、第1電極20と第3電極50とを電気的に接続しつつ、第3電極50および第2電極40を第1電極20に固定する。
【0024】
ハウジング65は、例えば樹脂等により有底筒状に形成され、底部66が保持プレート61と共にビス63で第1電極20に固定される。ハウジング65の開口部は、カバー67により塞がれる。ハウジング65とカバー67との隙間は、Oリング68により液密に封止される。
「温度センサ」としてのサーミスタ70は、温度に応じて電気抵抗が変化する温度検出素子である。サーミスタ70は、例えば放熱グリス等の熱伝導物質が充填された第3電極50の内側に設けられ、端子71、72を経由して回路部80に電気的に接続される。燃料通路35内の燃料の熱は、第3電極50および放熱グリスを経由してサーミスタ70に伝導する。そのためサーミスタ70の温度は燃料通路35内の燃料の温度と略同じになる。サーミスタ70は、燃料通路35内の燃料の温度を間接的に検出する。
【0025】
回路部80は、ハウジング65内部に固定される基板81と、この基板81上に設けられる複数の電子部品からなる濃度取得手段とを備える。
図3に示すように、回路部80には、「電源」としてのバッテリ83からイグニッションスイッチ84を介して電力が供給される。回路部80とバッテリ83との間には、回路部80に印加される電圧を安定させる目的で定電圧レギュレータ85が設けられる。回路部80には、二本の電力供給線と、ECU7に電気信号を伝送するための電気信号伝送線とが接続される。
【0026】
濃度検出手段86は、第1電極20および第2電極40が構成する第1コンデンサ87と、第2電極40および第3電極50が構成する第2コンデンサ88とからなる。第1コンデンサ87および第2コンデンサ88は、濃度取得手段82に並列に接続される。第2電極40はバッテリ83の正極側に接続され、第1電極20および第3電極50はバッテリ83の負極側に接続される。
第1コンデンサ87の静電容量を第1静電容量とし、また、第2コンデンサ88の静電容量を第2静電容量とすると、濃度検出手段86全体の静電容量は、第1静電容量と第2静電容量との和に等しくなる。以下、濃度検出手段86全体の静電容量を「合成静電容量」と記載する。
【0027】
一定の温度下では、合成静電容量と各電極間の燃料のエタノール濃度とが相関関係を有する。また、一定のエタノール濃度下では、合成静電容量と各電極間の燃料の温度とが相関関係を有する。これらの特性を利用し、濃度取得手段82は、合成静電容量および燃料の温度に基づき燃料のエタノール濃度を取得する。
【0028】
具体的には、濃度取得手段82は、濃度検出手段86に直流電圧を印加することで第1コンデンサ87および第2コンデンサ88に電荷を蓄える充電状態と、上記直流電圧の印加を止めて第1コンデンサ87および第2コンデンサ88から電荷を放出させる放電状態と、をスイッチで周期的に切り替える。そして濃度取得手段82は、上記放電時に、例えば端子46と端子55との間の電位差(以下、放電時電位差と記載する)を検出する。放電時電位差の例えば最大値等は、合成静電容量と比例関係にある。濃度取得手段82は、放電時電位差と合成静電容量との関係を表すマップや演算式等から放電時電位差に基づき合成静電容量を算出する。なお、濃度取得手段82が用いるマップや演算式等は、濃度取得手段82が有する図示しないROM等に予め記憶される。以下に記載するマップや演算式も同様である。
【0029】
また、濃度取得手段82は、端子71と端子72との間に印加する電圧と、そのときサーミスタ70に流れる電流とに基づき、オームの法則からサーミスタ70の抵抗を算出する。サーミスタ70の抵抗は燃料の温度に応じて変化する。濃度取得手段82は、サーミスタ70の抵抗と燃料の温度との関係を表すマップや演算式等からサーミスタ70の抵抗に基づき燃料の温度を算出する。
【0030】
また、濃度取得手段82は、濃度検出手段86の合成静電容量と、燃料の温度と、燃料のエタノール濃度との関係を表すマップや演算式等から、上記算出した合成静電容量および燃料の温度に基づき燃料のエタノール濃度を算出する。上記関係は、例えば図4に示すような線図で表される。図4の線図は、合成静電容量C[pF]を示す縦軸と燃料の温度T[℃]を示す横軸との二次元座標内で燃料のエタノール濃度D[%]が等しくなる点を結んだ複数本の線から構成される。便宜上、図4にはエタノール濃度Dを0〜100[%]まで20[%]刻みで示すが、実際にはさらに細かく設定される。
【0031】
以上説明したように、本実施形態の燃料性状検出装置10は、3つの電極20、40、50、および回路部80を備える。第1電極20は、燃料通路35を有するハウジングから構成される。第2電極40は、燃料通路35内で第1電極20に対し所定の隙間G1、G2を隔てて配置される。第3電極50は、燃料通路35内で第2電極40に対し所定の隙間G3を隔てて配置される。回路部80は、第1電極20と第2電極40との間の第1静電容量、及び、第2電極40と第3電極50との間の第2静電容量の和に相当する合成静電容量を取得し、マップから合成静電容量に基づき燃料通路35内の燃料のエタノール濃度を算出する。
【0032】
このような構成では、回路部80が取得する合成静電容量は、燃料のエタノール濃度が変化するとき大きく変化する。このことを図5に示す。
図5に示すように、一定の温度下では、本実施形態の燃料性状検出装置10が検出する合成静電容量C1とエタノール濃度Dとの関係(実線)は、第2電極40および第3電極50からなる一組の電極だけを備える比較形態が検出する静電容量C2とエタノール濃度Dとの関係(一点鎖線)に比べ、勾配が大きくなる。そのため、燃料のエタノール濃度Dが所定値D(1)から所定値D(2)に変化するとき、本実施形態の合成静電容量C1の変化量ΔC1(=C1(2)−C1(1))は、比較形態の静電容量C2の変化量ΔC2(=C2(2)−C2(1))に比べて大きくなる。したがって、本実施形態による燃料性状検出装置10は、燃料のエタノール濃度Dを高分解能に検出可能である。
【0033】
また、本実施形態では、第1電極20と第3電極50とを互いに電気的に接続する保持プレート61を備える。この構成では、第1電極20と第2電極40とで構成される第1コンデンサ87、及び、第2電極40と第3電極50とで構成される第2コンデンサ88が電気回路上で互いに並列に接続される。これにより、回路部80は、第1静電容量と第2静電容量との和で表される合成静電容量を取得する。そのため、燃料のエタノール濃度の変化に対する回路部80が取得する合成静電容量の変化が大きくなるので、燃料のエタノール濃度を高分解能に検出可能である。
【0034】
また、本実施形態では、保持プレート61は、第3電極50を第1電極20に固定する固定部材から構成される。そのため、第1電極20と第3電極50とを電気的に接続する部材を別途設ける必要がなく、部品点数を削減することができる。
また、本実施形態では、各電極20、40、50は、同軸上に配置される。この構成では、第2電極40および第3電極50を同じ方向から第1電極20内に挿入することができるので、各電極の組み付けを容易に行うことができる。
【0035】
また、本実施形態では、第1電極20の底部22は内壁に開口する凹部29を有し、第2電極40のうち底部22側の端部は凹部29内に挿入される。この構成では、凹部29の内壁の内径を変更することで第1静電容量を容易に調整することができる。
また、凹部29の内壁と第2電極40の外壁との隙間G2は、第1電極20の筒部21の内側の燃料通路35から外れて位置する。そのため、凹部29の内壁と第2電極40の外壁との間の隙間G2を狭く設定するとき、燃料通路35の流通抵抗が大きくなる弊害が生じない。したがって、上記隙間G2を狭く設定することができ、燃料のエタノール濃度の変化に対する静電容量の変化を大きくすることができる。
【0036】
また、本実施形態では、第2電極40は、回路部80に電力を供給するバッテリ83の正極側に接続され、第1電極20および第3電極50は、バッテリ83の負極側に接続される。これによれば、燃料性状検出装置10の外郭を構成する第1電極20が例えば車体等の他の部材に接触しても検出値に誤差が生じない。そのため、検出誤差の発生を防止することができる。
【0037】
また、本実施形態では、燃料通路35内の燃料の温度を検出するサーミスタ70を備える。回路部80は、第1静電容量および第2静電容量に加え、サーミスタ70が検出する燃料の温度に基づき燃料通路35を流れる燃料のエタノール濃度を算出する。これにより、燃料の温度に応じた正確な燃料のエタノール濃度を算出することができる。
また、本実施形態では、第3電極50は、内部が燃料通路35から隔離される有底筒状に形成される。サーミスタ70は、第3電極50の内部に配置される。これにより、サーミスタ70を燃料通路35内の燃料から隔離することができる。
【0038】
(他の実施形態)
本発明の他の実施形態では、燃料性状検出装置は、エタノール以外のアルコールとガソリンとが混合されたアルコール混合ガソリンのアルコール濃度を検出するものであってもよい。また、燃料性状検出装置は、アルコール濃度以外の燃料の性状を検出してもよい。要するに、燃料性状検出装置は、3つの電極間の静電容量に基づき燃料の性状を検出する装置であればよい。
本発明の他の実施形態では、演算式等で表される関係から燃料の性状を算出してもよい。
本発明の他の実施形態では、各電極間に印加する電圧は、直流電圧に限らず、交流電圧であってもよい。
【0039】
本発明の他の実施形態では、サーミスタに代えて他の温度センサが設けられてもよい。
本発明の他の実施形態では、回路部は、第1静電容量および第2静電容量のみに基づきエタノール濃度を検出してもよい。また、回路部は、第1静電容量および第2静電容量に加え、外気温度や燃料タンク中の燃料の温度等に基づきエタノール濃度を検出してもよい。その際、燃料性状検出装置は、サーミスタ等の温度センサを備えていなくてもよい。
【0040】
本発明の他の実施形態では、第1電極、第2電極および第3電極は、円筒状以外の形状に形成されてもよく、また、互いに異なる軸上に設けられてもよい。第2電極および第3電極は、例えば棒状や板状に形成されてもよい。第1電極は、必ずしも有底筒状である必要はなく、中空形状に形成され燃料通路を有していればよい。
本発明の他の実施形態では、第2電極の端部が第1電極の凹部の内側に位置する必要はなく、また、第1電極が凹部を有していなくてもよい。
【0041】
本発明の他の実施形態では、第1電極と第3電極とを電気的に接続する接続手段は、第2電極および第3電極を第1電極に固定する固定部材とは異なる部材で構成してもよい。また、接続手段は、第1電極と第3電極とを電気的に接続するものであればよく、円環板状である必要はない。
本発明の他の実施形態では、第3電極と保持プレートとを同一部材で構成してもよい。例えば、径外方向へ延長された第3電極の鍔部が第1電極にビス等で固定されるように構成してもよい。
【0042】
本発明の他の実施形態では、第3電極を回路部の基板に接続する端子とは別に、第1電極を回路部の基板に接続する端子が設けられ、第1電極と第3電極とを電気的に接続する接続手段が回路部の基板上に設けられてもよい。
本発明の他の実施形態では、保持プレートに代えて他の部材が第2電極および第3電極を第1電極に固定するように構成してもよい。例えば、保持プレートを設けず、ハウジングの底部と第1電極との間で第2電極や第3電極を挟むように構成してもよい。
【0043】
本発明の他の実施形態では、第2電極および第3電極は、第1電極以外の例えばハウジング等に固定されてもよい。
本発明の他の実施形態では、燃料性状検出装置は、燃料タンクとデリバリパイプとを接続する燃料配管の途中ではなく、燃料タンクやデリバリパイプに直接設けられてもよい。
【0044】
以上、本発明は、上述した実施形態に何ら限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の形態で実施可能である。
【符号の説明】
【0045】
10・・・燃料性状検出装置
20・・・第1電極
35・・・燃料通路
40・・・第2電極
50・・・第3電極
61・・・保持プレート(接続手段、固定部材)
80・・・回路部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料通路を有する第1電極と、
前記燃料通路内で前記第1電極に対し所定の隙間を隔てて配置される第2電極と、
前記燃料通路内で前記第2電極に対し所定の隙間を隔てて配置される第3電極と、
前記第1電極と前記第2電極との間の第1静電容量、及び、前記第2電極と前記第3電極との間の第2静電容量に基づき前記燃料通路内の燃料の性状を算出する回路部と、
を備えることを特徴とする燃料性状検出装置。
【請求項2】
前記第1電極と前記第3電極とを互いに電気的に接続する接続手段をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の燃料性状検出装置。
【請求項3】
前記接続手段は、前記第3電極を前記第1電極に固定する固定部材から構成されることを特徴とする請求項2に記載の燃料性状検出装置。
【請求項4】
前記第1電極は、第1筒部と当該第1筒部の一端部を塞ぐ第1底部とを有する有底筒状に形成され、
前記第2電極は、筒状に形成され、前記第1筒部の内側に位置し、
前記第3電極は、筒状に形成され、前記第2電極の内側に位置し、
前記第1電極、前記第2電極および前記第3電極は、軸が互いに略平行となるように設けられることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の燃料性状検出装置。
【請求項5】
前記第1電極の前記第1底部は、内壁に前記第1筒部とは反対側に凹む凹部を有し、
前記第2電極のうち前記第1底部側の端部は、前記凹部の内側に位置することを特徴とする請求項4に記載の燃料性状検出装置。
【請求項6】
前記第2電極は、前記回路部に電力を供給する電源の正極側に接続され、
前記第1電極および前記第3電極は、前記電源の負極側に接続されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の燃料性状検出装置。
【請求項7】
前記燃料通路内の燃料の温度を検出する温度センサをさらに備え、
前記回路部は、前記第1静電容量、前記第2静電容量および前記燃料の温度に基づき前記燃料通路内の燃料の性状を算出することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の燃料性状検出装置。
【請求項8】
前記第3電極は、第2筒部と、前記第2筒部の一端部を塞ぐことで前記第2筒部の内側を前記燃料通路から隔離する第2底部と、を有する有底筒状に形成され、
前記温度センサは、前記第3電極の前記第2筒部の内側に位置することを特徴とする請求項7に記載の燃料性状検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−32975(P2013−32975A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−169213(P2011−169213)
【出願日】平成23年8月2日(2011.8.2)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】