説明

燃料用タンク又は燃料輸送用ホース用の含フッ素重合体成形体及び積層体

【課題】 含フッ素重合体の燃料バリア性を、より的確、かつ容易な手段により、PZEV規制等のより厳しい規制に対処しうるように、格段に向上させる。
【解決手段】 融点以下の温度で一軸又は二軸延伸した含フッ素重合体成形体を燃料バリア層として少なくとも一層含む積層体を、燃料用タンク又は燃料輸送用ホース用の積層体として使用する。含フッ素重合体しては、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体及びテトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体から選択される含フッ素重合体を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料の透過量を大幅に低減させた燃料用タンク又は燃料輸送用ホース用の含フッ素重合体成形体及び積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
含フッ素重合体、例えばテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体(以下、ETFEという。)等の含フッ素重合体材料は、耐熱性、耐候性、耐薬品性、ガスバリア性(燃料バリア性)、電気絶縁性等の特性に優れることから、種々の分野、例えば自動車産業の分野で好適に用いられている。
【0003】
特に近年、当該含フッ素重合体は、そのガスバリア性が高い特性を有することに着目し、自動車用の燃料用タンク、燃料輸送用ホース、燃料輸送用チューブ等の樹脂構造材により形成される部品に、燃料成分の散逸を防ぐ目的で含フッ素系重合体を燃料バリア層として適用することが検討されている。
【0004】
例えば燃料用タンクには、従来、防食塗装を施した鉄系材料等金属系材料が多用されてきたが、近年軽量性、設計形状の自由度の大きさ、加工のしやすさ、コスト面等から、欧米を中心に高密度ポリエチレン(以下、HDPEという。)をベース材料(構造材料)にした樹脂製タンクが急増している。しかしながら、HDPE自体は燃料透過性が高いため、近年の環境保護のための規制に、HDPE単体では対応が困難となってきている。中でも環境保護の流れを先導している米国カルフォルニア州の燃料漏洩量規制であるLEV(Low Emission Vehicle)−II規制や、さらにこれより厳しいPZEV(Partial Zero Emission Vehicle)規制に対応するには、HDPE層に何らかの燃料バリア層を形成又は併用することが不可避となっており、多数の提案がされている。
【0005】
例えば、ガスバリア性の高いエチレン/ビニルアルコール共重合体(以下、EVOHという。)層とHDPEの多層構成とするものや、HDPEの一部をフッ素化処理する手法が一般的である。ただしPZEV規制に対しては、フッ素化処理だけでは不十分であるため、EVOHとの多層構成が有望視されている。
【0006】
EVOHを使用する場合、HDPEとEVOH間の接着性が低いため、通常無水マレイン酸をグラフト重合させた接着性ポリエチレン(接着性PE)をその間の接着層として使用する。タンク強度は構造材であるHDPEが受け持つため、最も厚い外層にはHDPEを用い、同時に燃料面(内層)には耐薬品性の点から同様にHDPEが使用されるので、基本構成としては外層側から、HDPE/接着性PE/EVOH/接着性PE/HDPEの五層、又は外層HDPEと接着性PEの間に再生樹脂層を入れた六層構成が一般的である。
【0007】
しかしながら、EVOHは常温では高い燃料バリア性を示すものの、温度が上昇すると急激にバリア性が低下するという大きな問題がある。そのため、高温下でも高いバリア性を示すポリフェニレンスルフィド、液晶ポリマー等を用いた多層積層体も提案されているが、材料的にも高価で処理工程も煩わしく、かかる点から含フッ素重合体を燃料バリア層として使用することが最も好ましいと考えられる。
【0008】
また、自動車用に使用される燃料輸送用ホースについても、同様な状況にある。ここで燃料輸送用ホース(以下、単に燃料ホースと称することがある。)とは、アルコールや芳香族化合物を含んでいるガソリン系燃料やジーゼル燃料を移送するための配管用ホースである。
【0009】
この分野においても、従来の金属系配管の代わりに、燃料タンクと同様のLEV−IIやPZEV等の厳しい環境保護の観点からの規制とエタノールやメタノール等の浸食性液体を含有する燃料への耐薬品性の観点から、ガスバリア性の高い単層材料としての含フッ素重合体や各種の多層構造体が一般化してきており、例えば高温強度、疲労耐性の高いポリアミド樹脂の単層構造が代表的なものとして使用されている。しかしながら、ポリアミド樹脂は、構造材としては優れているが、ガスバリア性の点から不十分であり、これに代わって、含フッ素重合体単体又は含フッ素重合体を含む多層積層体からなる構造体、すなわち、含フッ素重合体と非フッ素重合体との積層構造体が、ガスバリア性を始めとする種々の特性を満足するものとして最も有望視されている。
【0010】
すなわち、当該含フッ素重合体の多層積層体の内層は、燃料に直接接触するため、燃料に対するガスバリア性及び燃料に含まれるエタノールやメタノール等の浸食性液体に対する耐薬品性を有する含フッ素重合体により構成され、一方燃料ホースの外層には、機械的強度やコスト低減に優れる非フッ素系重合体(場合によってはゴムでもよい。)からなる材料が構造材として用いられる。
【0011】
なお、後記するように、このような含フッ素重合体と非フッ素系重合体との積層構造体からなる燃料ホースにおいては、当該含フッ素重合体と非フッ素系重合体を良好、かつ、安定的に接着する技術が必要であり、各種の接着手法や接着性重合体の提案がなされている。例えば、含フッ素重合体の表面に、ナトリウムやカルシウム等のアルカリ金属、アルカリ土類金属によるエッチング処理(例えば、特許文献1を参照。)やアセトン雰囲気中でのコロナ放電処理(例えば、特許文献2を参照。)等を行った後に、接着剤を用いて他材料と接着させる方法や、基材である非フッ素系重合体の表面をサンドブラスト処理した後に含フッ素重合体を融着させる方法等が挙げられる。
【0012】
さらに、官能基を有する含フッ素系重合体(接着性含フッ素共重合体)を用いて、非フッ素系重合体と接着する方法が提案されており、特許文献3には、ETFEに無水マレイン酸等の不飽和ポリカルボン酸をグラフト重合させて接着性ETFEを得る方法が開示されている。特許文献4には、無水マレイン酸等とフッ素モノマーとを、トリフルオロ酢酸や液体状態又は超臨界状態の二酸化炭素やヘキサフルオロプロピレン等とを溶媒として用いて共重合し、接着性含フッ素共重合体を製造する方法が開示されている。
【0013】
最近、特許文献5においては、無水イタコン酸(以下、IAHということがある。)又は無水シトラコン酸(以下、CANということがある。)をエチレン及びテトラフルオロエチレン等と共重合することにより、特殊な重合方法を用いることなく、非フッ素系重合体との接着性の高い含フッ素共重合体を得る方法が提案されている。
【0014】
【特許文献1】米国特許第2789063号明細書(第5欄50行〜第6欄54行)
【特許文献2】特開平4−232741号公報(特許請求の範囲(請求項1〜5))
【特許文献3】特開平7−173446号公報(特許請求の範囲(請求項1〜7))
【特許文献4】特開平11−193312号公報(特許請求の範囲(請求項1〜33))
【特許文献5】特開2004−238405号公報(特許請求の範囲(請求項1〜4))
【特許文献6】特開平6−234904号公報(特許請求の範囲(請求項1〜3)、〔0002〕〜〔0003〕、〔00031〕〔表1〕)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
以上のごとく、含フッ素重合体は、燃料タンク及び燃料ホースの内層材料として耐熱性、耐候性、耐薬品性及びガスバリア性を兼ね備える点で、現在のところ最も適したものの一つと考えられるが、本発明の目的は、当該含フッ素重合体の燃料バリア性を、より的確、かつ容易な手段により、PZEV規制等のより厳しい規制に対処しうるように、更に一層向上させることである。
【0016】
本発明者らはかかる観点から鋭意検討した結果、従来フッ化ビニリデン樹脂(以下、PVDFという。)を除いて延伸が困難であるため、ほとんどなされていない含フッ素重合体を延伸することにより、ガスバリア性が顕著に向上するという意外な現象を見いだした。本発明はかかる知見に基づいてなされるに至ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明に従えば、融点以下の温度で一軸又は二軸延伸した含フッ素重合体成形体からなることを特徴とする燃料用タンク又は燃料輸送用ホース成形体が提供される。
また、本発明に従えば、融点以下の温度で一軸又は二軸延伸した含フッ素重合体成形体を燃料バリア層として少なくとも一層含むことを特徴とする燃料用タンク又は燃料輸送用ホース用の積層体が提供される。
さらに本発明に従えば、融点以下の温度で一軸又は二軸延伸した含フッ素重合体成形体を燃料バリア層として少なくとも一層含む上記の積層体から構成される体燃料用タンク又は燃料輸送用ホースが提供される。
【発明の効果】
【0018】
以下に詳述するように、また、後記実施例において示されているように、本発明の、融点以下の温度で一軸又は二軸延伸した含フッ素重合体成形体からなる燃料用タンク、燃料輸送用ホース成形体、また同様にして延伸した含フッ素重合体成形体を燃料バリア層として少なくとも一層含む積層体によれば、これらの燃料バリア性を、厳しいPZEV規制等にも容易・かつ適格に対応しうる程度に、格段に向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を詳細に説明する。
(含フッ素重合体)
本発明において使用する含フッ素重合体とは、フッ素を分子内に含む樹脂であって、耐薬品性を有し、延伸により燃料バリア性が向上するものであれば、特に限定するものではないが、例えば好ましいものとして、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)及びエチレン/クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、テトラフルオロエチレン/ヘキサフロオロプロピレン/フッ化ビニリデン(THV)等が挙げられる。これらは単独で使用してもよいし、二種以上のブレンドとして使用してもよい。また、当該含フッ素重合体はさらに50容積%未満、好ましくは30容積%未満の熱可塑性樹脂を含有した組成物であってもよい。
【0020】
そして特に好ましくは、含フッ素重合体は、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)及びテトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)からなる群より選択される少なくとも一種の含フッ素重合体であるか、又はこれら少なくとも一種の含フッ素重合体を50容積%以上含む熱可塑性樹脂組成物からなるものである。
【0021】
なお、熱可塑性樹脂としては、任意に選択しうるものであり、例えばポリエチレン(HDPE、MDPE、LDPE、ULDPE)、ポリプロピレン等のポリオレフィン類、ポリ酢酸ビニル、塩素化ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、エチレン/ビニルアルコール共重合体、ポリアリレート樹脂、エチレン/酢酸ビニル共重合体、ポリスチレン、メタクリル樹脂、アクリル樹脂、ノルボルネン樹脂、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンエーテル、熱可塑性ポリウレタン樹脂、ポリビニルブチラール、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリスルホン樹脂等があげられる。
【0022】
(非フッ素系重合体)
上記熱可塑性樹脂の多くは、また、本発明の延伸した含フッ素重合体と積層して積層体を形成すべき溶融成形性の非フッ素系重合体として使用することができる。すなわち、非フッ素系重合体としては、ポリエチレン(HDPE、MDPE、LDPE、ULDPE)、ポリプロピレン等のポリオレフィン類、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート等のポリエステル類、ポリ酢酸ビニル、塩素化ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、エチレン/ビニルアルコール共重合体、ポリアリレート樹脂、エチレン/酢酸ビニル共重合体、ポリスチレン、メタクリル樹脂、ノルボルネン樹脂、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンエーテル、熱可塑性ポリウレタン樹脂、ポリビニルブチラール、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリスルホン樹脂等があげられる。
【0023】
(延伸)
本発明においては、上記のような含フッ素重合体を延伸し、この燃料バリア性を向上させるものである。したがって本発明における延伸とは、少なくとも含フッ素重合体に対して行うものである。当該延伸は、典型的には、(1)ペースト押し出しや溶融押し出し成形等で賦形金型を通して目的とする延伸前の形状及び寸法を有する前駆体(延伸用成形体又は原反ともいう。)を成形する第1工程、(2)前記前駆体を含フッ素重合体の融点以下の温度で一軸又は二軸に延伸する第2工程、(3)前記延伸した含フッ素重合体成形体をその緊張下のまま融点以下の温度で熱固定またはアニーリングする第3工程を含むものである。
以下、延伸した含フッ素重合体成形体単体、及び延伸した含フッ素重合体成形体を少なくとも一層として含む積層体を形成する場合の延伸操作について、まず、上記第1工程〜第3工程に従って説明し、つぎに燃料用タンク又は燃料用ホースを形成する場合について特徴的な事項について述べる。
【0024】
(第1工程/原反の形成工程)
この場合の原反を成形する工程としては、製品精度の高さと生産性から一般に押し出し成形が使用される。原反としては、延伸した含フッ素重合体単体で使用される場合は含フッ素重合体の単体成形体の形態として使用し、一方、延伸した含フッ素重合体の層を含む非フッ素系重合体との多層構造で使用される場合は、生産性の高さから、非フッ素系重合体との共押し出し一体成形した多層構造の原反が主として使用される。なお、前記含フッ素重合体の単体成形品へ表面処理等を行った後に非フッ素系重合体材料を押し出しラミネート、加熱ラミネート、ドライラミネートした多層構造の原反を使用してもよい。
【0025】
多層構造の原反を加熱ラミネート又はドライラミネートして形成するには、すでに述べたようにして、従来公知の方法により、含フッ素重合体と非フッ素系重合体の間に充分な接着性を確保することが望ましい。すなわち、特許文献1に記載のごとく、含フッ素重合体の表面にナトリウムやカルシウム等のアルカリ金属、アルカリ土類金属によるエッチング処理を行ったり、特許文献2に記載のように、アセトン雰囲気中でのコロナ放電処理等を行った後に、接着剤を用いて他材料と接着させるものである。また基材である非フッ素系重合体の表面をサンドブラスト処理した後に含フッ素重合体を融着させることも好ましい。
【0026】
さらに、特許文献3に記載のように、ETFEに無水マレイン酸等の不飽和ポリカルボン酸をグラフト重合させて接着性ETFEを得てもよいし、特許文献4に記載のごとく、無水マレイン酸等とフッ素モノマーとを、トリフルオロ酢酸や液体状態又は超臨界状態の二酸化炭素やヘキサフルオロプロピレン等とを溶媒として用いて共重合し、接着性含フッ素共重合体を製造してもよい。
【0027】
最も好ましくは、特許文献5等において開示されているように、イタコン酸、無水イタコン酸(IAH)、シトラコン酸、無水シトラコン酸(CAN)、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸又は無水5−ノルボルネン−2,3−ジカルボンをETFE等の含フッ素重合体に共重合することにより、非フッ素系重合体との接着性の高い含フッ素共重合体を得るものである。
【0028】
(原反形成温度)
共押し出し成形で多層構造の原反を形成する場合の温度としては、エチレン/テトラフルオロエチレン(ETFE)の場合は260〜380℃、テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)の場合は320〜400℃、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)の場合は320〜420℃が好ましい。当該押し出し温度が、これらの温度より低いと、溶融粘度の高さから成形品の面荒れが大きく、一方、これより高い場合は、材料自体の熱分解が起こり、材料強度が低下しやすい。
【0029】
また、多層構造の原反形成において、HDPEやポリアミド等の非フッ素系重合体材料と共押し出しする場合は、一般にそれらが含フッ素系重合体よりも耐熱性の低いことに留意する必要がある。この場合には、(a)生産性を犠牲にしても成形温度を低めにする、(b)成形金型の温度に傾斜をつけて含フッ素重合体側を高く、非フッ素系重合体側を低くする、(c)非フッ素系重合体材料自体の熱分解性を低減させるために、当該非フッ素側の押し出し機の入り口部を、真空保持又は窒素などの不活性ガス雰囲気とする等の手段を取ることが好ましい。
【0030】
(第2工程/延伸工程)
延伸工程は、第1工程で形成した無延伸のフィルムやシート等の形態の原反を、融点以下、好ましくはガラス転移点以上の温度で、縦方向または縦/横二方向に引き延ばし、分子鎖あるいは結晶面を延伸方向に配向させる操作である。
【0031】
(延伸温度)
前記形成した原反を延伸する温度としては、基本的には延伸に伴い適度な分子間力を保持し分子鎖が伸びうるような温度範囲に設定されるが、より具体的には、延伸エネルギー低減の観点からは高温ほど望ましく、一方延伸効果の観点からは低温ほど好ましい。含フッ素重合体単体の原反を延伸する場合には、当該含フッ素重合体の融点以下で、かつ、そのガラス転移点以上で行うことが上記要請の双方を満足する上で好ましい。例えばETFEというの場合は90〜240℃、より好ましくは120〜220℃で、PFAの場合は90〜280℃、より好ましくは140〜250℃で、FEPの場合には80〜290℃、より好ましくは120〜240℃でそれぞれ行うことが望ましい。
【0032】
一方、含フッ素重合体と非フッ素系重合体材料との積層体の原反を延伸する場合は、当然のことながら、当該含フッ素重合体の適切な延伸条件だけではなく、非フッ素系重合体材料についてもその融点及びガラス転移点、並びに延伸安定領域の温度を選択する必要がある。例えばHDPEの場合、80〜170℃、ポリプロピレンの場合は100〜180℃が好ましく、したがって、積層体原体の延伸の場合は、当該含フッ素重合体及び非フッ素系重合体のそれぞれの適正な延伸条件の双方を満足することが要請される。
【0033】
本発明における延伸方法としては、基本的には、一軸延伸、二軸延伸どちらも使用できるが、本発明者らの知見によれば、ガスバリア性の向上効果及び延伸の容易性の点からは、一軸延伸の方がより好ましく、一軸延伸のみによって充分な燃料バリア性を得ることができる。
【0034】
(延伸速度)
延伸速度としては、延伸に伴う分子配向、加熱による応力緩和速度、内部摩擦熱の発生などを考慮して設定され、基本的には0.05〜1000m/分が採用されるが、生産性(低速限界)と延伸安定性(高速限界)の点からは、1〜200m/分がより好ましい。
延伸方法としては、両端をクランプして予熱ロールなどで上記温度に予熱した後、延伸する通常の方法、低速ロールと高速ロールからなる縦延伸装置による延伸方法や予熱をレーザーで行い局所延伸させる方法などが使用できる。二軸延伸は、通常、低速ロールと高速ロールからなる縦延伸装置により、ロール間で張力を与えて縦延し(一軸延伸)し、これを横延伸装置で、縦延伸された原反の両端をクリップで把持して横方向に延伸(逐次延伸)することにより行われる。
【0035】
(延伸倍率)
本発明において、延伸倍率φは、一般的には対象となる含フッ素重合体の断面積の変化であるが、一軸延伸の場合は式1により計算した値である。

延伸倍率φ=(延伸後の含フッ素重合体成形体の延伸方向の長さ)/
(延伸前の含フッ素重合体成形体の長さ) (1)
【0036】
一軸延伸の場合は、延伸倍率φは、1.5〜6倍が好ましく、より好ましくは2〜5倍である。延伸倍率φが1.5倍未満だと延伸によるガスバリア性の改良効果が低く、6倍を越えると原反が破断したり延伸が不均一になりやすい。
【0037】
(第3工程/熱固定工程)
ついで行われる熱固定(アニーリング)は、延伸した含フッ素重合体を延伸後の緊張下にある状態で熱処理する工程であり、具体的には当該含フッ素重合体の融点以下の温度で一定時間保持する工程である。
熱固定を行うことにより、使用時や加熱時に残留応力に基づく熱収縮を防止し含フッ素重合体成形体の使用上の安定性を保持することができるため好ましい。特に高速延伸工程で残る当該成形体の内部残留応力を低減させることができる。
【0038】
(熱固定温度)
熱固定の温度としては融点以下で、かつ、応力緩和の効果を得るためには高い程良く、例えばETFEの場合は150〜240℃、PFAの場合は150〜280℃、FEPの場合には150〜290℃が好ましい。
【0039】
熱固定の保持時間は、熱固定の効果の観点からは長いほど好ましいが、生産性の観点からは短時間であるほど望ましい。両者を勘案して、0.005〜60分が好ましく、より好ましくは0.01〜3分である。なお、この熱固定の後段で上記熱固定温度のまま延伸伸長度を緩和することも出来る。緩和度が大きいほど使用時の熱収縮性が改善され、一方、緩和度が大きすぎると延伸によるバリア性改善の効果が低下するので適切な数値を選択することが好ましい。したがって、緩和度は2〜20%の範囲が望ましい。
【0040】
一方、含フッ素重合体と非フッ素系重合体との積層体の場合には、延伸時と同様に熱固定工程においても、これら非フッ素系重合体の融点を考慮する必要がある。例えばHDPEの場合170℃以下、ポリプロピレンの場合180℃以下で熱固定を実施する必要がある。
【0041】
以上のごとくして、融点以下の温度で一軸又は二軸延伸した含フッ素重合体成形体を少なくとも一層含む積層体が形成される。当該延伸含フッ素重合体の層は燃料バリア層としての効果を奏するものであり、当該積層体は、燃料用タンク又は燃料輸送用ホース用として好適に適用できるものである。なお、ここにいう「含フッ素重合体成形体を少なくとも一層含む積層体」とは、延伸含フッ素重合体成形体のみでシートやフィルムを形成する場合の単体シート等も含む意味で使用する。
【0042】
(層厚み、層数等)
本発明の延伸含フッ素重合体成形体を少なくとも一層含む積層体における当該含フッ素重合体層の厚みは特に限定するものではないが、燃料バリア性を好適に奏させるためには、1〜1000μm、好ましくは10〜100μmである。またこれと積層すべき他の非フッ素系重合体の層のそれぞれは、構造体として使用する場合は、1〜10000μm、好ましくは10〜1000μmである。そして積層体全体の厚みは、1〜20000μm、好ましくは1〜10000μmの範囲である。
【0043】
また、積層体の層数は、1〜10、好ましくは1〜5であり、そのうちの少なくとも一層は必ず、本発明における延伸した含フッ素重合体成形体である。
本発明の延伸含フッ素重合体やこれと積層する非フッ素系重合体には、酸化チタン、酸化亜鉛等の顔料、カーボンブラック等の導電性材料、カーボン繊維、ポリイミド、PPS等の耐熱性高分子、銅粉、酸化銅、ヨウ化銅等の熱安定剤等を含有することも好ましい。その含有量は、特に制限はないが、当該含フッ素重合体の100質量部に対して0.1〜50質量部が好ましい。
【0044】
(燃料用タンク)
上記した、延伸した含フッ素重合体成形体単体により、または、当該延伸含フッ素重合体成形体を少なくとも一層含む積層体により、燃料バリア性が格段に向上した燃料用タンクを形成することができる。以下、燃料用タンクを形成する工程について説明する。
本発明における燃料用タンクとは、主として乗用車やトラック、バス等の自動車用に搭載、使用される箱形または円筒形のガソリン燃料、ジーゼル燃料等を収容する容器で、乗用車の場合は内容積約40〜100L程度の容器である。ただし、必ずしも自動車用に限られず、航空機用の燃料タンクであってもよい。
【0045】
本発明の延伸含フッ素重合体成形を使用する燃料用タンクの製法としては、すでに述べたような(I)含フッ素重合体成形体の延伸工程及び(II)得られた延伸成形体による燃料用タンクの形成工程からなる。
【0046】
(I)(延伸含フッ素重合体成形体の形成)
単体原反フィルム等の場合、まず溶融押し出し成形した含フッ素重合体の単体シート又はフィルムを一軸延伸する。一軸延伸は、原反フィルムを一段〜数段に分けて速度差を与えた加熱ロールに沿わせて延伸する方法、原反フィルムの端部を連続的にチャッキングした後、チャックを縦方向又は横方向にのみ移動延伸する方法等が使用できる。次いで延伸伸長状態下で熱固定して延伸した含フッ素重合体の単体シート又はフィルムを得る。
【0047】
(a)上記延伸した単体シートはそれのみでタンクを形成してもよいが、この延伸した含フッ素重合体成形体と非フッ素系重合体との積層シートとすることもできる。当該含フッ素重合体と非フッ素系重合体とを積層するに際し、上記延伸した含フッ素重合体が接着性官能基を持たない場合には、当該表面をコロナ放電処理、プラズマ放電処理、テトラエッチ処理した後、非フッ素系重合体のシート、又はフィルムと、イソシアネート系接着剤などでドライラミネートすることが高い接着力を得る為に好ましい。この場合、同様に非フッ素系材料が接着官能基を持たない場合には、含フッ素系重合体と同様な表面処理を施して接着力を確保することが好ましい。また、当該含フッ素重合体成形体を延伸した後、非フッ素系重合体を押し出しラミネートや加熱ラミネートして積層体を形成してもよい。
【0048】
(b)また、含フッ素重合体と非フッ素系重合体を押し出しラミネート共押し出し成形等で多層化したシートを作成し、これを積層原反シートとし、当該積層原反シートに対し延伸処理を行うこともできる。この場合、層間が強固に固定されている積層原反シートでないと、延伸時に層間剥離が生じて、積層体としての機能を奏することができなくなり好ましくない。そこで当該含フッ素重合体と非フッ素系重合体の間の接着強度を確保するために含フッ素重合体及び/又は非フッ素系重合体に接着性の官能基を共重合又はグラフト重合させたり、含フッ素重合体と非フッ素系重合体の間にそれぞれに接着性のある重合体同士を混合したポリマーアロイ層を設けたり、接着性官能基を持った接着性重合体の層を配置することにより、層間が強固に固定されている積層原反シートとすることが好ましい。次いでこの積層フィルム又はシートを前述の方法で延伸、好ましくは一軸延伸し熱固定する。
【0049】
(II)(得られた延伸成形体による燃料用タンクの形成)
次いで、上記延伸した含フッ素重合体単体、又は少なくとも延伸した含フッ素重合体を一層以上含む積層体シートをサーモフォーミングで上下部品を成形した後、当該含フッ素重合体面同士を接着剤や接着フィルムで接合したり、外部よりの熱や超音波を用いて含フッ素重合体面を加熱溶着で一体化することにより燃料用タンクを形成する。
【0050】
なお、官能基を有する含フッ素重合体と非フッ素系重合体を直接に、又はさらに別の接着層を挟んで共押し出し成形したシートを上記のサーモフォーミングで同様に燃料タンクに成形することも可能である。この場合の接着層は、使用する含フッ素重合体の種類及びそれが有する官能基、並びに非フッ素系重合体の種類及びその官能基により適切なものが選択・使用される。例えば、当該延伸した含フッ素重合体が無水イタコン酸を共重合した接着性ETFEであり、非フッ素系重合体が官能基を持たないHDPEの場合、この間に、ポリアミド系樹脂と無水マレイン酸グラフト重合ポリエチレンの層を挿入した層構成を使用し、延伸した接着性ETFE/ポリアミド系樹脂/無水マレイン酸グラフト重合ポリエチレン/HDPEの4層構成とすることにより高い接着性の積層体が得られる。又延伸した接着性ETFE/無水マレイン酸グラフト重合ポリエチレンとポリアミド系樹脂のポリマーブレンド/HDPEの三層構成でも前記四層構成ほどではないが実用上十分な接着力を有する積層体が得られる。
【0051】
(燃料輸送用ホース)
上記した、延伸した含フッ素重合体成形体単体により、または、当該延伸含フッ素積層体を少なくとも一層含む積層体により、燃料バリア性が格段に向上した燃料輸送用ホースを形成することができる。
【0052】
本発明を使用した燃料ホースの製法例としては、(a)含フッ素重合体の単層チューブを溶融押し出し成形して単体の原反チューブとし、この原反チューブを直線上で両端を連続的に固定した後、固定間に予熱炉、延伸炉を配置して前後の固定送り装置に速度差を与えて延伸した後、さらに延伸後、固定装置の後にもう一段の固定装置を配置し、この間に熱固定炉を設けて熱固定した延伸含フッ素重合体の単体延伸チューブからなる燃料輸送用ホースを連続的に成形するものである。
【0053】
この含フッ素重合体単体延伸チューブは燃料輸送用ホースとしてそのまま使用することができるが、さらに当該含フッ素重合体チューブに、非フッ素系重合体と積層した積層体からなるホースとすることもできる。当該延伸した含フッ素重合体が接着性官能基を持たない場合には、当該表面をコロナ放電処理等で連続的に処理した後、非フッ素系重合体をその上に押し出しラミネートすることにより積層体ホースとする。この場合、表面処理した含フッ素系重合体と押し出した非フッ素系重合体の間に接着剤、接着層などを介在させても良い。
【0054】
一方、(b)官能基を有する含フッ素重合体と非フッ素系重合体を直接又は別の接着層を挟んで共押し出し成形した多層チューブを原反多層チュープとし、これを上記(a)と全く同様にして延伸・熱固定を行うことも可能である。
【0055】
(延伸含フッ素重合体のガスバリア作用)
本発明における延伸した含フッ素重合体成形体が、延伸前の原反に比較してガスバリア性が格段に向上するメカニズムについては次のように考えられる。すなわち、基本的に、含フッ素重合体成形体内部における主要な燃料ガスの透過部が、その非晶質構造部であるとされているところ、これを延伸、特に一軸延伸することにより、隣接分子間が物理的に近づき、非晶部の密度が増大するため、燃料分子の透過抵抗が増大することによるものと推定される。
【0056】
なお、本発明における含フッ素重合体には、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)は含まれないものである。すなわち、従来、PVDFは、他の含フッ素重合体と同様に比較的ガスバリア性にすぐれているとされており、また、比較的延伸も容易なため、二軸延伸PVDFも知られているが、当該PVDFは特異的に高度の結晶性樹脂であり、結晶化度が高いので、これを延伸シートとした場合、高度の分子配向が生ずることにより引裂強度が低下し、破損発生しやすいという大きな問題がある。そこで、柔軟性を向上させるため、軟質フッ素樹脂や熱可塑性ウレタン樹脂等の柔軟剤を添加して延伸シートとすることが提案されている(例えば、特許文献6を参照。)。しかしながら、この場合、当該柔軟剤の添加により、場合によってはそのガスバリア性が1/10程度まで大幅に低下してしまうことがあり、いずれにせよ、PVDFは本発明における含フッ素重合体と異なり、延伸して燃料バリア性を向上させる手段は実質的に適用されないのである。
【0057】
(本発明の積層体シートの他の用途例)
本発明の延伸した延伸した含フッ素重合体成形体を少なくとも一層含む積層体シートは、サーモフォーミング用の燃料タンクだけでなく、その耐薬品性及び高いガスバリア性を有することから防食用の単層又は多層フィルム、食品及び医療品包装用の単層又は多層フィルム、輸液バック及び血液バック用の単層又は積層フィルム、ゴム栓用耐薬品性被覆用の単層又は多層フィルム等にも好適に適用することが出来る。
又同様に、単層または多層のチューブ形状に形成したものは、燃料輸送用ホースだけでなく、産業用又は工業用の単層又は多層ホース、食品用単層又は多層ホースなどにも好適に適用できる。
【実施例】
【0058】
以下、実施例をあげて本発明を具体的に説明するが、本発明の技術的範囲がこれに限定されるものではない。なお、%とあるものは、とくに断りなき限り、質量%である。
【0059】
〔実施例1〕(単体延伸フィルム)
(1)エチレン/テトラフルオロエチレン(ETFE)共重合体のペレット(商品名;フルオンC−55AXP、旭硝子社製)をスクリュー径50mmの1軸押出機を用いてバレル温度300℃、ダイ幅450mm、ダイ温度330℃で温度140℃に設定したロールで引き取り、厚さ205μの原反シートを作成した。
【0060】
(2)この原反シートを、外径250mmで表面温度160℃に加熱した3連のロールに当該シートが十分に沿うように配置し、第一段ロール速度0.5m/分、第二段ロール1.5m/分、第三段ロール2.0m/分で延伸した後、225℃のロールに伸長状態のまま沿わせて熱固定した。熱固定時間は9.4秒であった。得られた延伸フィルムの厚さは77μmであり、延伸倍率は4倍であった。
【0061】
(3)この延伸前の原反フィルムと延伸後のフィルムをJISZ−0208に基づくカップ法により60℃の燃料透過性を測定した。試験燃料としてはイソオクタン:トルエン:エタノール=45:45:10(以下CE10と記す。)を用いた。未延伸原反フィルムの燃料透過係数は2.8(グラム・ミリメーター/平方メートル・24時間)(以下g・mm/m2・24hrと記す。)であったが、延伸後のフィルムは0.21g・mm/m2・24hrであった。すなわち、延伸フィルムの燃料透過性は、未延伸フィルムに比較して1/10以下であることがわかった。
【0062】
〔実施例2〕(延伸フィルムによる燃料タンク作製)
(1)特許文献5の実施例1の教示に従って合成した無水イタコン酸を共重合したエチレン/テトラフルオロエチレン共重合体(以下IAH-ETFEと記す。)とポリアミド6(UBE Nylon 1024B、宇部興産社製)を用いた。当該IAH−ETFEを30mm口径の単軸押し出し機でシリンダ温度320℃とし、またポリアミド6を30mm口径の単軸押し出し機でシリンダ温度260℃とし、マルチマニホールドタイプの二層共押し出しダイスを温度320℃としてIAH−ETFEとポリアミド6の共押し出し二層フィルムを成形した。このフィルムは、全体厚が285μm、IAH−ETFE層厚さは201μm、ポリアミド層は84μmで、幅は両端の厚い部分をカットした後で200mmであった。
【0063】
(2)この二層フィルムを原反フィルム(A’)とし、外径200mmの金属ロールを三連で近接させた一軸延伸機を用い、ロール表面温度140℃、ロールギャップ3mmとし、第一ロールの周速2m/分、第二ロールの周速6m/分、第三ロールの周速8m/分として縦方向に4倍延伸した。この延伸過程で幅が200mmから130mmとなり、フィルムの厚さは201μmから75μmとなった。この延伸フィルム(A)のIAH−ETFE層は53μm、ポリアミド6層は22μmであった。
【0064】
(3)一方、前記とは別に、HDPE(Hi−zex7000F、三井化学社製)と無水マレイン酸共重合の接着性ポリエチレン(GB−301、日本ユニカー社製)を用い、HDPEを50mm口径の単軸押し出し機でシリンダ温度240℃とし、接着性ポリエチレンを30mm口径の単軸押し出し機でシリンダ温度230℃とし、マルチマニホールドタイプの二層共押し出しダイスを温度240℃としてHDPEと接着性PEの共押し出し二層シート(B)を成形した。このフィルムは、全体厚が1045μm、HDPE層厚さは1020μm、接着性PE層厚さは25μmであった。
【0065】
(4)次いで、一対の外径300mmの金属製ロールと、外径200mmでゴム硬度80度のシリコーンゴムロールを10mmライニングしたゴムロールを用い、金属ロール温度242℃、ゴムロール温度を145℃として、線圧10kg/cm、速度0.8m/分で上記延伸したIAH−ETFEフィルムと、ポリアミド6の共押し出し二層フィルム(A)のポリアミド6側と、HDPEと接着性PEの共押し出し二層シート(B)の接着性ポリエチレン側を張り合わせ、延伸した含フッ素重合体フィルム部を含む多層積層体(A/B)を得た。当該延伸含フッ素重合体フィルム部を含む多層積層体により燃料タンクを形成することができるが、その場合の60℃における燃料透過性を、実施例1と同様にして、JISZ−0208に基づくカップ法にて測定した。また、試験燃料としては実施例1と同じイソオクタン:トルエン:エタノール=45:45:10(CE10)を用いた。結果を表1に示す。
【0066】
〔比較例1〕
実施例2における、IAH−ETFEとポリアミド6の共押し出し二層原反フィルム(A’)は、共押し出し成形後に全体フィルム厚さ78μmであり、その内IAH−ETFE層は53μm、ポリアミド6層は25μmであったが、この延伸前の原反フィルム(A’)を延伸することなくそのまま、これと実施例2で用いたHDPEと接着性PEの共押し出し二層シート(B)とを、実施例2と同様に接着性ポリエチレン側を張り合わせ、多層積層体(A’/B)を得た。この多層積層体(A’/B)について、実施例2と同様にして燃料透過性を測定した結果を表1に示す。
【0067】
【表1】

【0068】
〔実施例3〕(延伸チューブ)
(1)エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体のペレット(商品名;フルオンC−88AXP、旭硝子社製)を30mm口径の単軸押し出し機を用い、シリンダ温度330℃、スパイラル導入部構造を有する二層チューブダイを用い、ダイ温度330℃で二層チューブの内径9.8mm、外径13.1mmで肉厚1.65mmの単層チュープを押し出し成形した。
【0069】
(2)この単層チューブを、150℃に加熱した恒温層を持つ引っ張り試験機に取り付け、約長さ方向に3.9倍延伸した。次いで、200℃に昇温して2分間熱固定した。出来上がった延伸チューブの内径は5.9mm、外径は7.9mm、肉厚は1.0mmであった。
【0070】
(3)一方、上記と同条件で押し出し成形した内径6mm、外径8mm、肉厚1.0mmの延伸工程を持たない単層チューブを別途準備した。これら2種類のチューブを各1mに切断してこれに実施例1と同じ燃料を満たして封入し、60℃で60日放置した場合の重量減少から算出した燃料透過量は、未延伸チューブにおいては39mg/day・mであっが、延伸したチューブでは3.5mg/day・mであり、その燃料透過性は1/10以下に減少することがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の燃料タンク又は燃料ホース用含フッ素共重合体成形体及び積層体は、ガスバリア性、薬品性、耐熱性に優れており、特にPZEV規制に対応できる燃料バリア性を達成できる。
【0072】
また当該積層体は、その液体及び気体のバリア性に優れることから、防食用単層又は多層フィルム、食品及び医療品包装用単層又は多層フィルム、輸液バック及び血液バック用単層又は積層フィルム、ゴム栓用耐薬品性被覆単層又は多層フィルム等にも適用出来る。又同様にチューブ形状として、燃料ホースだけでなく、産業用単層又は多層ホース、食品用単層又は多層ホースなどにも適用できるのでその産業上の利用可能性は大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点以下の温度で一軸又は二軸延伸した含フッ素重合体成形体からなることを特徴とする燃料用タンク又は燃料輸送用ホース成形体。
【請求項2】
融点以下の温度で一軸又は二軸延伸した含フッ素重合体成形体を燃料バリア層として少なくとも一層含むことを特徴とする燃料用タンク又は燃料輸送用ホース用積層体。
【請求項3】
前記含フッ素重合体が、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体及びテトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体からなる群より選択される少なくとも一種の含フッ素重合体であるか、又はこれら選択される少なくとも一種の含フッ素重合体を50容積%以上含む熱可塑性樹脂組成物からなるものである請求項1に記載の燃料用タンク又は燃料輸送用ホース成形体。
【請求項4】
前記含フッ素重合体が、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体及びテトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体からなる群より選択される少なくとも一種の含フッ素重合体であるか、又はこれら選択される少なくとも一種の含フッ素重合体を50容積%以上含む熱可塑性樹脂組成物からなるものである請求項2に記載の燃料用タンク又は燃料輸送用ホース用積層体。
【請求項5】
前記含フッ素重合体が、無水マレイン酸、無水イタコン酸、イタコン酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸及び無水5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸からなる群より選択される官能基を有する重合単位をグラフト重合又は共重合させたものである請求項1又は3に記載の燃料用タンク又は燃料輸送用ホース成形体。
【請求項6】
前記含フッ素重合体が、無水マレイン酸、無水イタコン酸、イタコン酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸、5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸及び無水5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸からなる群より選択される官能基を有する重合単位をグラフト重合又は共重合させたものである請求項2又は4に記載の燃料用タンク又は燃料輸送用ホース用積層体。
【請求項7】
前記含フッ素重合体成形体が、前記含フッ素重合体と当該含フッ素重合体以外の非フッ素系重合体からなる溶融成形性合成樹脂とを共押出し成形した後、延伸したものである請求項2、4又は6に記載の燃料用タンク又は燃料輸送用ホース用積層体。
【請求項8】
前記含フッ素重合体成形体が、前記含フッ素重合体を延伸した後、当該含フッ素重合体以外の非フッ素系重合体からなる溶融成形性合成樹脂と押し出しラミネート、加熱ラミネート又はドライラミネートしたものである請求項2、4又は6に記載の燃料用タンク又は燃料輸送用ホース用積層体。

【公開番号】特開2006−151442(P2006−151442A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−344768(P2004−344768)
【出願日】平成16年11月29日(2004.11.29)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】