説明

燃料移送を監視するシステム及び方法

航空機の燃料システムにおいて燃料移送を自動的に監視するための燃料監視システムであって、燃料システムが、複数の燃料タンク(2、4、6、10、12)を含み、当該燃料監視システムが、第1燃料タンク(10)における燃料の量を計測するように構成された燃料量センサー(14)と、センサーから燃料量の計測結果を受信するように構成されたデータプロセッサ(16)とを含み、第1燃料タンクから更に別の1以上の燃料タンク(12)に燃料を移送するための指令の受信に応答して、データプロセッサが、受信された燃料量の計測結果から第1タンクにおける燃料量の変化率を測定するように構成され、燃料量の変化率が閾値よりも小さく、且つ、受信された燃料量の計測結果が、予期された値よりも大きい場合、その後、データプロセッサが、更に、指令された燃料移送が失敗だったことを表示する出力を提供するように構成される、燃料監視システムが提供される。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
1以上のエンジンに燃料を提供するための1よりも多い個々の燃料タンクを有する比較的大きな燃料システム、例えば航空機の燃料システムにおいて、燃料システムが使用されている間に、一つの燃料タンクから1以上の他の燃料タンクに燃料を移送することは一般的な慣行である。このことは、航空機の燃料システムにおいて、航空機の各エンジンが常に利用可能な燃料を有することを確実なものとするだけでなく、燃料が消費されるときに航空機の重量配分の変化が所定の限界値の範囲内に維持されることも確実なものとするようになされる。
【0002】
航空機の燃料システムでは、個々の燃料タンク間における燃料の移送は、通常、燃料システム内に配置された1以上の燃料バルブを開閉することによって源タンクから1以上の受容タンクに燃料をポンプで送り出すことによって実現される。燃料ポンプ及び/又はバルブに1以上のセンサーを設けることによって、燃料システムにおける所定の不具合状態を検出することが可能であり、例えば、バルブの開閉状態を判定するのにセンサーが提供され、燃料ポンプが運転可能か否かを判定するのに圧力センサーが提供されうる。
【0003】
しかしながら、容易に検出されることができず且つ所望の燃料移送において不具合をもたらす、所定の装置の不具合又は状態が依然として存在する。例えば、燃料移送システムにおけるバルブシャフトの不具合又は閉塞は、現在のところ容易に検出されることができないが、燃料移送の不具合を引き起こしうる。
【0004】
航空機における、燃料のポンプ移送の不具合の場合、重力による燃料の移送を試みることが通常の運転慣行であり、重力による燃料の移送において、燃料源タンクから1以上の受容燃料タンクに燃料を移送することが試みられ、このとき、燃料源タンクは燃料システムにおける受容タンクよりも上方に置かれる。例えば、いくつかの航空機では、航空機の主翼内に配置された燃料タンクに加えて、トリムタンクと称されることが多い追加の燃料タンクが、航空機の後部における水平尾翼内に配置される。通常の飛行状態において、トリムタンクは少なくともいくつかの翼タンクよりも上方にある。結果的に、航空機が適切な姿勢であるならば、その後、重力の効果の下、トリムタンクから1以上の翼タンクに燃料を送り込むことができる。加えて、航空機が水平の飛行姿勢にあるときに航空機の翼の外側タンクが翼の内側タンクよりも上方に位置することが多く、結果的に、重力によって外側タンクから翼の内側タンクに燃料を移送することができる。
【0005】
航空機の航空乗務員は、一般的には、個々の燃料タンクの任意の一つにおいて保持された燃料の量を航空乗務員に知らせる、利用可能な1以上の機器表示器(instrument display)を有するが、燃料量が変化する割合、すなわち流量は、燃料移送の間、比較的小さいことがあり、例えば重力による移送について一時間当たり3000〜20000kg(3〜20メートルトン)程度又はポンプ移送について一時間当たり15000〜35000kg(15〜35メートルトン)程度であることがある。結果的に、たとえ燃料移送が正常に進行しているとしても、航空乗務員は、燃料移送が、予期された率で進行しているかどうかを判定するために、比較的長時間に亘って燃料量の表示器を監視することが求められる。航空乗務員はこれと同時に他の機器を点検し且つ監視する必要があることが多く、このため、燃料移送が航空乗務員によって正確に監視されないことが頻繁にありそうである。加えて、航空機における燃料システムの運転は、典型的には、燃料移送が航空機制御システムによって自動的になされうるように構成され、この場合、航空乗務員は、燃料移送率を監視する必要性を認識していないかもしれない。
【発明の概要】
【0006】
本発明の第1態様によれば、航空機の燃料システムにおいて燃料移送を自動的に監視する方法において、航空機の燃料システムが、複数の燃料タンクを含み、当該方法が、複数の燃料タンクのうちの第1タンクから複数の燃料タンクのうちの更に別の1以上のタンクに燃料を移送するための燃料移送指令を識別することと、第1燃料タンクにおける燃料量の変化率を監視し、燃料量の変化率が閾値よりも小さい場合、その後、第1タンクにおける燃料量を測定し、第1タンクにおける燃料量が、予期された値よりも大きい場合、その後、燃料移送が失敗だったことを宣告することとを含む、方法が提供される。
【0007】
燃料移送が失敗の場合、第1燃料タンク内に残っている燃料が使用不可能であることが宣告されうる。
【0008】
加えて、第1タンクにおける燃料量が、予期された値よりも小さい場合、その後、本方法は、燃料移送が完了したことを宣告することを更に含むことができる。
【0009】
加えて又は代替的に、燃料量の変化率の閾値は、第1燃料タンクと更に別の燃料タンクとの間における指令された燃料移送の間において予期される燃料量の変化率よりも小さくてもよい。加えて、閾値は、好ましくは、一時間当たり50〜1000kgの燃料の範囲内である。閾値が、重力で補助される通常の燃料移送について予期される値よりも著しく小さいことは有利である。
【0010】
燃料移送命令は手動で又は自動的に発せられうる。
【0011】
本発明の更なる態様によれば、航空機の燃料システムにおいて燃料移送を自動的に監視するための燃料監視システムであって、燃料システムが、複数の燃料タンクを含み、燃料監視システムが、第1燃料タンクにおける燃料の量を計測するように構成された燃料量センサーと、センサーから燃料量の計測結果を受信するように構成されたデータプロセッサとを具備し、第1燃料タンクから更に別の1以上の燃料タンクに燃料を移送するための指令の受信に応答して、データプロセッサが受信された燃料量の計測結果から第1タンクにおける燃料量の変化率を測定するように構成され、燃料量の変化率が閾値よりも小さく、且つ、受信された燃料量の計測結果が、予期された値よりも大きい場合、その後、データプロセッサが、更に、指令された燃料移送が失敗だったことを表示する出力を提供するように構成される、燃料監視システムが提供される。
【0012】
受信された燃料量の計測結果が、予期された値よりも小さい場合、その後、データプロセッサは、指令された燃料移送が完了したことを表示する出力を提供するように構成されうる。
【0013】
燃料移送の失敗が宣告された場合、データプロセッサは、更に、受信された燃料量の計測結果によって示された、第1タンク内に残っている燃料が使用不可能であることを表示する出力を提供するように構成されうる。
【0014】
加えて又は代替的に、燃料量の変化率の閾値は、第1タンクと更に別のタンクとの間における指令された燃料移送について、予期される燃料量の変化率よりも小さくてもよい。
【0015】
加えて、閾値は一時間当たり50〜1000kgの範囲内であってもよい。
【0016】
加えて又は代替的に、燃料移送指令は手動で又は自動的に発せられうる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、航空機における複数の燃料タンクの配置を概略的に示す。
【図2】図2は、本発明の実施形態に係る燃料監視システムを概略的に示す。
【図3】図3は、本発明の実施形態に係る燃料移送を監視する方法のフローチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施形態が、以下、添付の図面を参照して、限定されるものではない例のみの目的で記述される。
図1は、従来の航空機と、航空機の燃料システムにおける燃料タンクの一般的な配置とを概略的に示す。従来から、航空機の各翼は多数の別個の燃料タンクを含む。図示される例では、各翼は、各翼内に配置された三つのタンク、すなわち、翼の先端に向かって配置された外側タンク2と、翼の中央区域に配置された中間タンク4と、航空機の胴体に近接した翼内に配置された内側タンク6とを有する。また、航空機の水平尾翼内に配置されたトリムタンク8も図示される。航空機が水平姿勢で飛行しているとき、胴体から翼の先端に向かう、翼の上方への緩やかな曲線(sweep)によって、翼の外側タンク2は中間タンク4よりも上方に配置され、次いで、中間タンク4は翼の内側タンク6よりも上方に配置される。また、典型的には、トリムタンク8は少なくとも翼の内側タンク6よりも上方にある。結果的に、通常の状況において、翼の外側タンク2、中間タンク4、又はトリムタンク8のうちのいずれかから翼の内側タンク6に、重力のみによって燃料を移送することが可能なはずである。完全を期すために、典型的には、航空機の各エンジンは、関連する供給タンクを有し、供給タンクはそれ自体1以上の主燃料タンクに相互接続される。これらは図1には示されない。
【0019】
図2は、本発明の実施形態に係る、航空機の燃料システム及び燃料移送監視システムの一部を概略的に示す。図示される例では、源タンク10が、航空機の燃料システムにおける二つの受容タンク12よりも物理的に高く配置されるようにとられる。源タンク10は燃料量センサー14を含み、燃料量センサー14は、源タンクにおける燃料の量を表示する出力信号を提供するように構成される。燃料量センサー14は、当業者に既に公知の任意の適切なセンサーであってもよい。源タンク10内における第1燃料量センサー14からの出力はデータプロセッサ16に提供される。好ましくは、データプロセッサ16は、表示器18、又は航空機の航空乗務員によって見られうる他の適切な出力器と、1以上の更なるデータプロセッサとに接続される。通常の運転状態において、源タンク10から受容タンク12に燃料を移送することが望まれるとき、典型的には源タンク10内に配置される燃料ポンプ22が、燃料タンク同士を接続する燃料移送ライン26の範囲内に配置される燃料バルブ24と連動して、源タンク10から受容タンク12に所望量の燃料をポンプで送り出すべく作動される。ポンプ移送が不可能な場合、例えば燃料ポンプの不具合のせいでポンプ移送が不可能な場合には、一般的には、重力による燃料の移送が航空機の制御システムによって自動的に又は航空機の航空乗務員によって手動で要請されるであろう。重力による燃料の移送を達成するために、源タンク10と受容タンク12との間における燃料の流れを制御するバルブ24が、重力の作用の下、源タンク10から受容タンクに燃料が流れ込むことを可能とすべく開放位置に設定されるであろう。本発明の実施形態の燃料移送監視システムは、燃料のポンプ移送又は重力による燃料の移送の進行を監視するのに使用されうる。
【0020】
図3は、本発明の実施形態に係る燃料移送監視システムの運転方法をフローチャートの形態で示す。燃料移送の監視は、燃料移送指令30が発せられることに応答して開始され、燃料移送指令は自動的に又は手動で発せられることができる。燃料移送指令の識別に続いて、燃料源タンク10における燃料の燃料量の値32が監視され、燃料量が源タンク内における燃料量センサー14によって提供され、この燃料量から、所定の時間に亘る、流量34又は燃料量の変化率についての値が計算される。計算された流量34が流量閾値よりも小さいかどうかを判定するために、計算された流量34は、予め定められた流量閾値36と比較される。この比較38の結果が、計算された流量が閾値以上ということであれば、その後、源タンク10からの燃料の計算された流量が更新される34。比較38の結果が、第1タンク10からの流量が流量閾値36よりも小さいということであれば、その後、本方法は更なる比較ステップ40に進み、更なる比較ステップ40において、源燃料タンク10からの報告された燃料量の値32が更なる燃料量の閾値と比較され、更なる燃料量の閾値は、指令された移送が停止することが通常期待されるときの燃料高さに対応する。源燃料タンク10において報告された燃料量の値が燃料量の閾値よりも大きければ、その後、燃料移送が失敗だったことが宣告される42。対応した警告又はメッセージが燃料移送監視システムのデータプロセッサ16から航空乗務員の表示器18に提供され、燃料移送の失敗が宣告されたことが報告される。源燃料タンク10内に残っている、報告された燃料量の値が燃料量の閾値よりも小さければ、その後、燃料移送が完了44又は成功したことが宣告され、燃料移送が完了したことを航空乗務員に通知するために、対応したメッセージがデータプロセッサによって航空乗務員の表示器18に提供されうる。
【0021】
好ましい実施形態では、流量閾値は、各燃料タンク間における、重力による燃料の移送について予期されるであろう流量よりも実質的に小さくなるように設定される。通常の状況において、重力による移送について予期される、燃料の流量は一時間当たり3000〜20000kg(3〜20メートルトン)の燃料の範囲内である。本発明の実施形態では、流量閾値についての好ましい値は、例えばこの値の3分の1〜5分の1であり、例えば一時間当たり50〜1000kgの燃料の範囲内である。例えば、本発明の特定の実施形態では、流量閾値は一時間当たり100kgの燃料であってもよい。
【0022】
二回目の比較40において使用される燃料量の閾値は、燃料システム及び燃料設計に応じて予め定められてもよく、このことは、順に、燃料の移送後の、任意の与えられた燃料タンクにおける燃料の予期される残量を恐らく決定するであろう。
【0023】
したがって、本発明の実施形態では、燃料システムにおける燃料移送監視システム及び燃料移送の監視方法が提供され、本燃料システムは、人間のあらゆる介入を必要とすることなく、燃料移送が完了したとき又は失敗だったときを決定することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
航空機の燃料システムにおいて燃料移送を自動的に監視する方法において、
前記航空機の燃料システムが、複数の燃料タンクを含み、
当該方法が、
前記複数の燃料タンクのうちの第1タンクから前記複数の燃料タンクのうちの更に別の1以上のタンクに燃料を移送するための燃料移送指令を識別することと、
前記第1燃料タンクにおける燃料量の変化率を監視し、該燃料量の変化率が閾値よりも小さい場合、その後、前記第1燃料タンクにおける燃料量を測定し、該第1タンクにおける燃料量が、予期された値よりも大きい場合、その後、燃料移送が失敗だったことを宣告することと
を含む、方法。
【請求項2】
前記第1燃料タンク内に残っている燃料の量が使用不可能であることがその後に宣告される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1タンクにおける燃料量が前記予期された値よりも小さい場合、その後、前記燃料移送が完了したことを宣告する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記燃料量の変化率の閾値が、前記第1燃料タンクと更に別の燃料タンクとの間における前記指令された燃料移送の間において予期される燃料量の変化率よりも小さい、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記閾値が一時間当たり50〜1000kgの燃料の範囲内である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記燃料移送指令が手動で又は自動的に発せられる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記指令された燃料移送がポンプ移送又は重力による移送である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
航空機の燃料システムにおいて燃料移送を自動的に監視するための燃料監視システムであって、
前記燃料システムが、複数の燃料タンクを含み、
当該燃料監視システムが、
第1燃料タンクにおける燃料の量を計測するように構成された燃料量センサーと、該センサーから燃料量の計測結果を受信するように構成されたデータプロセッサとを具備し、
前記第1燃料タンクから更に別の1以上の燃料タンクに燃料を移送するための指令の受信に応答して、前記データプロセッサが前記受信された燃料量の計測結果から前記第1タンクにおける燃料量の変化率を測定するように構成され、前記燃料量の変化率が閾値よりも小さく、且つ、前記受信された燃料量の計測結果が、予期された値よりも大きい場合、その後、前記データプロセッサが、更に、前記指令された燃料移送が失敗だったことを表示する出力を提供するように構成される、燃料監視システム。
【請求項9】
前記受信された燃料量の計測結果が前記予期された値よりも小さい場合、前記データプロセッサが前記指令された燃料移送が完了したことを表示する出力を提供するように構成される、請求項8に記載の燃料監視システム。
【請求項10】
前記データプロセッサが、更に、前記受信された燃料量の計測結果によって示された、前記第1タンク内に残っている燃料が使用不可能であることを表示する出力を提供するように構成される、請求項8に記載の燃料監視システム。
【請求項11】
前記燃料量の変化率の閾値が、前記第1タンクと更に別のタンクとの間における前記指令された燃料移送の間において予期される燃料量の変化率よりも小さい、請求項8〜10のいずれか1項に記載の燃料監視システム。
【請求項12】
前記閾値が一時間当たり50〜1000kgの範囲内である、請求項11に記載の燃料監視システム。
【請求項13】
前記燃料移送指令が手動で又は自動的に発せられる、請求項8〜12のいずれか1項に記載の燃料監視システム。
【請求項14】
前記指令された燃料移送がポンプ移送又は重力による移送である、請求項8〜13のいずれか1項に記載の燃料監視システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−509221(P2012−509221A)
【公表日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−536939(P2011−536939)
【出願日】平成20年11月19日(2008.11.19)
【国際出願番号】PCT/GB2008/051084
【国際公開番号】WO2010/058147
【国際公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(508305926)エアバス オペレーションズ リミティド (38)