説明

燃料系統の中空要素を調製する方法

本発明は、重合体の表面を含む中空要素を活性化工程及びグラフト工程に供することを含む燃料系統の中空要素を調製する方法に関する。グラフト工程においては、フッ素化C2-C4炭化水素が中空要素の活性化された重合体の表面にグラフトする。本発明は、更に、本発明の方法によって得られる中空要素及びメタノール及び/又は炭化水素についての燃料タンク又は燃料パイプのような製品の浸透性を減少させるためのフッ素化C2-C4炭化水素の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明はプラズマ処理の技術を用いて燃料系統の中空要素を調製する方法に関する。本発明の方法は、活性化工程とグラフト工程を含む。活性化工程において、中空要素の重合体の表面が活性化される。グラフト工程において、フッ素化C2-C4炭化水素化合物が中空要素の活性化された重合体の表面にグラフトされる。本発明は、更に、この方法によって得られる中空要素及びメタノール及び/又は炭化水素ついての燃料タンクとパイプの浸透性を減少させるためのフッ素化C2-C4炭化水素化合物の使用に関する。
ポリエチレンのようなポリマーから製造される容器は、金属又はガラスから製造されるものより多くの設計利点、例えば、可撓性、質量の減少、低コスト製造、良好な耐食性、切断を示す。これらの利点は、中空要素、例えば、燃料タンクやパイプを高密度ポリエチレン(HDPE)で製造するために自動車工業や石油工業の非常な関心を説明するものである。残念なことに、ポリエチレン(PE)は、ガソリン(炭化水素、酸素等)の主成分に非常に浸透する。
中空要素の壁を通って有機化合物の浸透性を減少させるために用いられる1つの技術は、壁のポリマー表面のフッ素化又はスルホン化である。しかしながら、スルホン化に用いられる物質は、毒性であり、環境問題を生じる。
【0002】
ポリエチレンのようなポリマーを直接フッ素化すると、不活性ガスで希釈されたフッ素が気相で得ることができる。しかしながら、この従来のフッ素化は時間がかかり費用もかかる。更にまた、フッ素化重合体表面の浸透性は、特に、中空要素がしばらくの間用いられ且つ機械的応力に供された場合には、しばしば十分なものではない。
フッ素化は、また、プラズマ処理によって得ることができる。ポリマー上にフルオロカーボン薄層を堆積させるためにプラズマ加工技術の適用を記載するいくつかの文献がある。
米国特許出願第2003/0040807 A1号は、歯科用インプラントのポリマー成分を処理するための方法であって、ポリマー成分をガスプラズマで処理することを含む前記方法に関する。前記方法は、アルゴンのような不活性ガスによる任意の洗浄工程の後、種々のフッ素化物の使用を含むことができる。米国特許第4,869,922号には、H2及びCF4及び/又はC2F6のガス流のプラズマ重合によってプラスチック材料をポリフルオロカーボン膜でコーティングする方法が開示されている。米国の引例は、ポリマーのバリヤ性を改善することを目標とせず、燃料タンク又はパイプのような中空要素は述べられていない。
【0003】
ドイツ特許出願第3908418 A1号には、重合性成分、例えば、不飽和炭化水素及び偏光成分、例えば、CHF3を含む低圧プラズマにさらすことによってポリマー容器の表面を処理する方法が記載されている。欧州特許第0 739 655 A1号には、薄層における極性要素と非極性要素の取込みが教示されている。一実施態様においては、エチレン(C2H4)とトリフルオロメタン(CHF3)が、テーパが付けられた層を調製する方法に用いられている。同様に、Walker et al. (1997) J Appl Polym Sci 64, 717-722には、C2H4/CHF3電子サイクロトロン共鳴(ECR)プラズマから重合されるバリヤ薄膜の浸透性研究が記載されている。得られたフルオロカーボン層は、PEのトルエンバリヤ性が改善されている。Serpe et al. (1996) J Appl Polym Sci 61, 1707-1715には、PEプラズマフッ素化とメタノール-ガソリン混合物に対する浸透性の関係についての研究が記載されている。CF4又はSF6から生成したプラズマが、HDPE及び中密度ポリエチレン(MDPE)にコーティングするために用いられた。分析法によって、高分子膜の表面に-CF3基の存在が示された。しかしながら、記載された方法は、フッ素がガソリンと接触することによって表面から除去される弱点を有する。ドイツ特許第3908418 A1号、欧州特許第0 739 655 A1号、Walker et al.及びSerpe et al.に用いられたフッ素化炭素分子は、C1化合物(CF4又はCHF3)に限られている。
【0004】
従来技術で行われるようにC1化合物によるプラズマフッ素化は、実際に、燃料タンクのバリヤ性を改善する。しかしながら、バリヤ性は必ずしも満足でない。特に、燃料に存在するメタノールのような小さな極性有機化合物は、必ずしも許容できない程度まで燃料タンクになお浸透してしまう。更にまた、実際には、燃料タンク及び同様の製品は、特に自動車工業に用いられる場合には、例えば、車の正と負の加速の間、機械的応力に供される。この応力によって、燃料タンクのポリマー表面上の不透過膜が弱められてしまうので、非常にしばしばこのようなプラズマフッ素化燃料タンクの浸透性が使用中に増大する(更に悪化する)。
それ故、高分子材料のバリヤ性を改善するとともに低生産コストによる環境的にやさしいコーティング技術を示すことが継続して求められている。好ましくは、バリヤ性の経時損失はできるだけ小さくなければならない。
【0005】
それ故、本発明は、燃料系統の中空要素を調製する方法であって、重合体の表面を含む中空要素が以下の工程:
(a) 重合体の表面を活性化する工程; 及び
(b) 重合体の表面をフッ素化C2-C4炭化水素である少なくとも1つの化合物から生成されたガスプラズマと接触させる工程
に供されることを含む、前記方法に関する。
【0006】
従来技術は、燃料系統の中空要素を製造するためのフッ素化C2-C4炭化水素の使用を教示せず示唆もない。フッ素化C2-C4炭化水素は、炭化水素又はメタノールのような燃料の化合物に対して燃料タンク又は同様の製品のバリヤ性を改善するためにこれまで用いられなかった。
“中空要素”は、バリヤが取り囲むことができるキャビティ又は孔又は内部空間を有する製品である。中空要素は、内部空間と要素の外側とを接続する開口1、2、3個以上を有することができる。開口は、必要ならば閉じることができる。他の実施態様においては、要素は開口をもたず、内部空間は要素の外側に接続されていない。中空要素の例は、チューブ又は容器である。
本明細書に用いられる“燃料系統の要素”という用語は、燃料に接触することができるあらゆる製品を示す。燃料系統の中空要素の例としては、燃料タンク、燃料キャニスタ及び燃料パイプが挙げられるが、これらに限定されない。燃料系統の好ましい中空要素は、車両の燃料タンク又は燃料パイプである。
【0007】
本発明によれば、重合体の表面を含む中空要素は、工程(a)と(b)に供される。重合体の表面は、中空要素の内面及び/又は外面であってもよく、好ましくは、内面である。中空要素の内面及び/又は外面の少なくとも一部は重合体である。好ましくは、中空要素の内面全体が重合体である。
中空要素は、本質的に1以上の高分子材料からなることができる。一実施態様においては、中空要素の壁は、高分子材料から製造される1つの層だけを含む。他の実施態様においては、中空要素の壁は、第1の材料から製造される層を備え、層の内面及び/又は外面、好ましくは層の内面は、高分子材料である第2材料で少なくとも部分的にコーティングされ、好ましくは完全にコーティングされるので、重合体の表面が形成される。第1材料は、高分子材料であっても高分子材料でなくてもよい。
高分子材料は、好ましくは、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリオキシメチレン、ポリプロピレン、エラストマー及びそれらの2以上の混合物からなる群より選ばれる。重合体の表面は、また、高分子材料に加えて金属を含有することができる。好ましくは、高分子材料は高密度ポリエチレン(HDPE)を含む。個々の実施態様においては、中空要素は、本質的にこれらのポリマーの1つ以上からなる。中空要素は、好ましくは本質的にはHDPEからなる。
【0008】
本発明の方法の工程(a)及び(b)は、同時に行うことができる。しかしながら、好ましくは、工程(a)は、工程(b)の前に行われる。
任意に、洗浄工程は、工程(a)の前に行うことができる。好ましい洗浄工程においては、工程(a)と(b)に供される中空要素の重合体の表面は、不活性ガス又は還元ガスから生成されるガスプラズマと接触させる。不活性ガスの好ましい例としては、アルゴン及び/又は二酸化炭素が挙げられる。還元ガスの好ましい例は、水素である。好ましくは、洗浄工程は本発明の方法の第1工程として行われる。
工程(a)においては、重合体の表面は活性化される。本明細書に用いられる“活性化する”という用語は、重合体の表面が更に反応性になる、特にフッ素化C2-C4炭化水素から生成されるガスプラズマに更に反応性になるあらゆる作用を意味する。好ましくは、中空要素の重合体の表面の活性化は、気体の不飽和炭化水素から生成されるガスプラズマと重合体の表面を接触させることを含む。適切な気体の不飽和炭化水素の好ましい例は、アセチレン、ブタジエン及び/又はベンゼンである。最も好ましくは、重合体の表面は、気体のアセチレンから生成されるガスプラズマと接触させる。
【0009】
工程(b)においては、中空要素の重合体の表面は、フッ素化C2-C4炭化水素である少なくとも1つの化合物から生成されるガスプラズマと接触させる。フッ素化C2-C4炭化水素は、炭素原子2、3又は4個を有することができ、フッ素化C2炭化水素が好ましい。フッ素化C2-C4炭化水素は、飽和又は不飽和の化合物であってもよい。一実施態様においては、フッ素化C2-C4炭化水素は、次の式(I)を特徴とする。
CxHyFz (I)、
(式中、xは2〜4であり、yは0〜xであり、zは2x + 2 - yである。)
好ましくは、xは2である。好ましくは、yは1〜xであり、より好ましくは、xは2であり、yは1又は2である。炭素、フッ素及び任意に水素原子だけを含有する炭化水素が好ましく、少なくとも1つの水素原子を含有する上で定義された炭化水素が好ましい。炭化水素が過フッ素化である場合には、少なくとも1つの二重結合又は三重結合を含有することが好ましい。
【0010】
フッ素化C2-C4炭化水素の限定されない例としては、ジフルオロエタン(C2H4F2)、トリフルオロエタン(C2H3F3)、テトラフルオロエタン(C2H2F4)、ペンタフルオロエタン(C2HF5)、フルオロエテン(C2H3F)、ジフルオロエテン(C2H2F2)、トリフルオロエテン(C2HF3)、テトラフルオロエテン(C2F4)、1,3-ジフルオロプロパン、1,2,3-トリフルオロプロパン、1,1,2,3-テトラフルオロプロパン、1,1,2,3,3-ペンタフルオロプロパン、1,1,2,2,3,3-ヘキサフルオロプロパン、トリフルオロブタンの異性体、テトラフルオロブタンの異性体、ペンタフルオロブタンの異性体、ヘキサフルオロブタンの異性体が挙げられる。
テトラフルオロエタン及びペンタフルオロエタンが最も好ましい。
【0011】
本発明によるプラズマ処理は、好ましくは、処理チャンバ内行われる。好ましくは、処理チャンバは減圧密封することができる。処理チャンバは、ガスプラズマを生成させる手段を備えることができる。ガスプラズマを生成させる手段は、高エネルギー放射線、例えば、紫外線、高周波放射線又はマイクロ波放射線を放出することができる装置であってもよい。好ましくは、チャンバはマイクロ波発生器を備えている。適切で好ましい処理チャンバは、例えば、国際特許第02/087788号に開示され、この明細書の記載は本願明細書に含まれるものとする。
本明細書に用いられる“マイクロ波”は、約300MHz〜約300GHzの周波数を有する電磁波を意味する。それらのそれぞれの波長は、約1mm〜約1mである。
【0012】
処理チャンバの寸法は、特に限定されない。処理チャンバは、好ましくは円筒形である。処理チャンバは、内部長さが50mm以上、好ましくは100mm以上であってもよい。この長さは、好ましくは10000mm以下、好ましくは5000mm以下である。処理チャンバは、内径が50mm以上、好ましくは200mm以上であってもよい。この直径は、好ましくは3000mm以下、好ましくは2000mm以下である。いくつかの(例えば、2、3、4、5、6以上)円筒形部分が接続されて円筒形処理チャンバを形成することができる。
処理チャンバは、チャンバを減圧するための少なくとも1つの手段を備えていることができる。
通常、中空要素は、プラズマ処理の前に処理室内に配置される。処理チャンバは中空要素と共に、チャンバ内の圧力が50Pa未満、好ましくは10Pa未満、より好ましくは5Pa未満、最も好ましくは2Pa未満、例えば、約1Paであるように減圧されてもよい。
【0013】
続く工程において、ガスが処理チャンバに注入されてもよく、好ましくは、その中の絶対圧が2Pa以上、好ましくは3Pa以上、より好ましくは5Pa以上であるように注入されてもよい。その中の絶対圧は、好ましくは100Pa以下、好ましくは50Pa以下、より好ましくは15Pa以下である。最も好ましい絶対圧は、約10Paである。その圧力は、プラズマ処理の間、維持することができる。これらの圧力は、任意の洗浄工程に、活性化工程(a)に及びグラフト工程(b)に用いることができる。
処理チャンバは、通常、異なるプラズマ処理工程の間に減圧される。
【0014】
特に好ましい実施態様においては、本発明の方法は、以下の工程:
(i) 重合体の表面を含む中空要素を、少なくとも1つのマイクロ波発生器を備えたチャンバに導入する工程;
(ii) チャンバをその中の絶対圧が5Pa未満であるように減圧する工程;
(iii) 気体の不飽和炭化水素をチャンバにその中の絶対圧が5Pa〜50Paであるように注入する工程;
(iv) 気体の不飽和炭化水素を、プラズマがチャンバ内に生じるような周波数と強度で、マイクロ波発生器が生成するマイクロ波放射線に供する工程;
(v) チャンバを、その中の絶対圧が5Pa未満であるように減圧する工程;
(vi) フッ素化C2-C4炭化水素をチャンバにその中の絶対圧が5Pa〜50Paであるように注入する工程; 及び(vii) フッ素化C2-C4炭化水素を、プラズマがチャンバ内に生じるような周波数と強度で、マイクロ波発生器が分配するマイクロ波放射線に供する工程
を含む。
【0015】
処理チャンバ内のガスは、プラズマがチャンバ内で生じるような周波数と強度で高エネルギー放射線に供することができる。マイクロ波は、1GHz以上、好ましくは2GHz以上の周波数で生成することができる。これらの周波数は、10GHz以下、好ましくは5GHz以下、より好ましくは3GHz以下であってもよい(約2.45GHzの周波数が良好な結果を示す)。ガスをプラズマ形態に変換するために印加される電力は、それぞれの処理工程において達成されるようように探求された効果に従って選ばれる。以下における電力密度は、処理される表面の単位面積当たりのワット数によって表される。露出時間は、同様に可変であり、電力密度に用いられるものと同様に考えて選ばれる。
【0016】
任意の洗浄工程が行われる場合には、不活性ガス又は還元ガスは、ガスプラズマが生成するような高エネルギー放射線、例えば、マイクロ波放射線に供することができる。“洗浄”ガスをプラズマに変換するために適用される電力密度は、一般的には1kW/m2以上、好ましくは2kW/m2以上である。これらの密度は、一般的には10kW/m2以上、好ましくは5kW/m2以上である。任意の洗浄工程に典型的な露出時間は、5秒以上、好ましくは10秒以上、最も好ましくは15秒以上である。しかしながら、これらの露出時間は、一般的には30秒以下、好ましくは25秒以下である。
【0017】
活性化工程(a)においては、アセチレンのようなガスは、ガスプラズマが生成するような高エネルギー放射線、例えば、マイクロ波放射線に供することができる。“活性化”ガスをプラズマ形態に変換するために適用される電力密度は、5kW/m2以上、好ましくは8kW/m2以上、最も好ましくは10kW/m2以上であってもよい。これらの電力密度は、30kW未満/m2以下、好ましくは20kW/m2以下であってもよい。活性化工程に典型的な露出時間は、0.5秒以上、好ましくは0.8秒以上、最も好ましくは0.9秒以上であってもよい。これらの露出時間は、2秒以下、好ましくは1.5秒以下、最も好ましくは1.1秒以下であってもよい。
グラフト工程(b)においては、フッ素化C2-C4炭化水素は、ガスプラズマが生成するような高エネルギー放射線、例えば、マイクロ波放射線に供することができる。フッ素化C2-C4炭化水素気体をプラズマ形態に変換するために適用される電力密度は、7.5kW/m2以上、好ましくは10kW/m2以上、最も好ましくは15kW/m2以上であってもよい。これらの電力密度は、30kW/m2以下、好ましくは28kW/m2以下であってもよい。電力密度は、最も好ましくは約25kW/m2である。グラフト工程の露出時間は、6秒以上、より好ましくは8秒以上であってもよい。典型的な露出時間は、100秒以下、より好ましくは20秒以下、更により好ましくは15秒以下である。
プラズマ処理は、高温を必要とせず、60℃以下の温度、好ましくは50℃以下、より好ましくは40℃以下で容易に行われるが、一般的には20℃以上で行われる。
【0018】
ガスの流量は、変動することができるが、典型的には10scc/分以上(温度と圧力の標準条件で測定し、毎分立方センチメートルとして表される)、好ましくは50ssc/分以上である。この流量は、1000scc/分以下(温度と圧力の標準条件で測定し、毎分立方センチメートルとして表される)、好ましくは500ssc/分以下であってもよい。これらの範囲内の最適流量は、処理チャンバのサイズによって変動する。
一実施態様においては、1つの中空要素が処理チャンバにおいて処理される。他の実施態様においては、いくつかの(例えば、2、3、4、5、6以上)中空要素が処理チャンバにおいて同時に処理される。その場合、単一のプラズマのみが全体のチャンバに生成されなければならない。
【0019】
本発明の方法によって得られる製品は、新規であり、優れたバリヤ性を示す。それ故、本発明は、また、燃料系統の中空要素であって、その表面上にグラフトされたフッ素化C2-C4炭化水素を有することを特徴とする、前記中空要素に関する。好ましくは、このようにして得られる燃料系統の中空要素は、燃料タンク、燃料キャニスタ又は燃料パイプである。本発明は、また、本明細書に記載される方法によって得られる燃料系統の中空要素に関する。
フッ素化C2-C4炭化水素のグラフトがフッ素化C1-炭化水素のグラフトによって生成される構造と異なる構造を生成するので、本発明の中空要素の構造は従来技術の製品の構造と異なる。異なる構造は、種々の方法、例えば、19F-NMR-分光法で測定することができる。
メカニズム又は操作のあらゆる具体的な理論で縛られるものではないが、フッ素化分子を活性化されたポリマーにグラフトすることによりフルオロカーボン部分が2つの共有結合によってポリマーに結合している生成物が得られると考えられる。例えば、フッ素化C2-C4炭化水素としてテトラフルオロエタン(C2H2F4)が用いられる場合には、このようなフルオロカーボン部分の構造は下記の通りである。








【0020】
【化1】

【0021】
その構成要素の存在は、19F-NMRによって確認される。上記の構造は、1,3-グラフト過フルオロイソブタンとして示すことができる。他のフッ素化C2-C4炭化水素が用いられる場合には、異なるフルオロカーボン部分が製品の表面に存在してもよい。限定されない例は、フッ素化C2-C4炭化水素としてテトラフルオロエタン(C2H2F4)の使用から得られた1,4-グラフトペルフルオロ-2,3-ジメチルブタン、フッ素化C2-C4炭化水素としてヘキサフルオロブタン(C2F6)の使用から得られた1,5-グラフトペルフルオロ-2,3,4-トリメチルペンタン:

























【0022】
【化2】

【0023】
である。
それ故、本発明は、-CF2-CF(CF3)-CF2-、-CF2-CF(CF3)-CF(CF3)-CF2-及び-CF2-CF(CF3)-CF(CF3)-CF(CF3)-CF2からなる群より選ばれる構造を含む燃料系統の中空要素に関する。
フッ素化部分が2つの結合によってポリマーに結合しているように、燃料と接触時の表面からのそれらの放出、例えば、メタノール含有燃料は、かなり減少する。対照的に、フッ素化C1化合物を使う従来の方法は、フルオロカーボン部分が1つの共有結合だけによってポリマーに結合している製品が得られる。このような製品は、ポリマー表面からフッ素化部分の実質的な放出を示し、機械的応力に対する耐性がない。
それ故、本発明の製品は、燃料の成分に対する浸透性の減少を示す。浸透性減少は、長い間持続する。従って、本発明の製品は、特に自動車の業界において、例えば燃料タンク又はパイプとして有効である。
【0024】
本発明の他の態様は、メタノール及び/又は炭化水素についての燃料タンク、燃料キャニスタ又は燃料パイプの浸透性を減少させるためのフッ素化C2-C4炭化水素の使用である。本発明の使用の好ましい実施態様は、本明細書に記載される本発明の方法の実施態様に対応する。
本発明の好ましい実施態様に従って行われるプラズマサイクルの例を以下に記載する。重合体の表面を含む中空要素を処理チャンバ内に配置する。処理チャンバをその中の圧力が約1Paであるように減圧する。チャンバ内の圧力が約10Paであるように、水素をチャンバに注入する。プラズマは、マイクロ波放射線によって約19秒間生成される(洗浄ステップ)。更に減圧工程(圧力が約1Paであるような)においては、“洗浄ガス”は、実質的にチャンバから除去される。アセチレンを注入した後、プラズマが約1秒間生成される(活性化工程)。減圧によって“活性化ガス”を除去した後、フッ素化C2-C4炭化水素(R 134又はCH2F4)がチャンバに注入され、プラズマが約8秒間生成される(グラフト工程)。後者の工程においては、フッ素化炭化水素部分が中空要素の重合体の表面にグラフトされるので、ユニークな表面構造が得られる。
有利には、1つのサイクルは30秒以内に完了することができる。
【0025】
以下の限定されない実施例は、更に本発明を具体的に説明するものである。
製品:
製品は、本質的にBP Solvay Eltex RSB 714 N0060 HDPEからなる360ccのびんである。BM303機による吹込み成形によって製造される。
処理:
360ccのびんを次の処理工程に供した:
- 一次減圧(20〜100mbar)までチャンバとびんから空気をポンプで送る工程;
- びんから空気のポンピングを続けて更にびん内減圧(0.05mbarまで)にする;
- 次の順序: 水素、アセチレン、ハロゲン化炭素でイオン化気体を注入する;
- チャンバを通気し、びんを取り出す。
浸透性
浸透性は、最低20週間の調整で平衡に達した後に減量によって評価した。調節温度は40℃である。用いられる流体は、M0(参照非酸素添加燃料(欧州基準CEC RF0203)か又はTF1燃料(SAE J1681, REV Jan 2000に記載されるM0と10%エタノールの混合物)である。
耐久性
処理の耐久性を、20週間の調整でスラッシュ試験によって試験する。スラッシュ試験は振動フレーム上に燃料で充填したびんを固定することからなる(15o振幅による12振動/分)。
各例について、10の試料を試験した。
表1は、浸透性結果について異なるパラメータの効果: 堆積物の種類、プラズマ生成中の圧力、電力導入、前処理ガスの種類を示すものである。















【0026】
【表1】








【0027】

【0028】
表1: 実施例
- 実施例1〜3は炭素、フッ化物及びシリカの処理の影響を示す。浸透値は非常に高く、未処理のHDPEと比較してほとんど改善していない(典型的な浸透約68000mg/日/m2);
- 実施例4は、本発明によるベースケースである;
- 実施例5及び6は、電力低下(350Wから250Wへ)の影響を示し、浸透値の増加とプロセス態様の増加が得られる;
- 実施例7〜9においては、異なる圧力を試験し(45〜110mT)、圧力増加により、浸透値が低下するが、温度(表面が燃えることがある)とプラズマ開始によって制限される;
- 実施例10については、HFCガスフローを倍にし(65sccmから130sccmに)、浸透結果は良好である; しかしながら、この効果はガスの消費によって制限される;
- 実施例11及び12においては、アルゴン前処理を水素で置き換えた; この場合には、レギュラー燃料(M0)及びアルコールの存在下のスラッシュ前後に、最良の浸透結果が示される。
この最後の実施例においては、CF3の存在が19F-NMRによって確認された(図1: 処理された内面のNMR(核磁気共鳴)スペクトルを参照のこと)。分析は、びん内面から取り出した材料で行った。図1に出現する異なるピークを表2に記載する。種々のCF3を50〜120ppmで同定する。
【0029】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】処理された内面のNMRスペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料系統の中空要素を調製する方法であって、重合体の表面を含む中空要素が以下の工程:
(a) 重合体の表面を活性化する工程; 及び
(b) 重合体の表面をフッ素化C2-C4炭化水素である少なくとも1つの化合物から生成されたガスプラズマと接触させる工程
に供されることを含む、前記方法。
【請求項2】
フッ素化C2-C4炭化水素が下記式(I)
CxHyFz (I)、
(式中、xは2〜4であり、yは0〜xであり、zは2x + 2 - yである。)
を有する化合物である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
xが2である、請求項2記載の方法。
【請求項4】
フッ素化C2-C4炭化水素が、テトラフルオロエタン及びペンタフルオロエタンからなる群より選ばれる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
工程(a)が、重合体の表面を気体の不飽和炭化水素から生成されるガスプラズマと接触させることを含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
不飽和炭化水素が、アセチレン、ブタジエン及びベンゼンからなる群より選ばれる、請求項5記載の方法。
【請求項7】
工程(a)の前に、重合体の表面が、不活性ガス又は還元ガスから生成されるガスプラズマと接触させることによって洗浄されることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
不活性ガス又は還元ガスが、アルゴン、二酸化炭素及び水素からなる群より選ばれる、請求項7記載の方法。
【請求項9】
重合体の表面が、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリオキシメチレン、ポリプロピレン、エラストマー及び/又は金属を含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
重合体の表面が高密度ポリエチレンを含む、請求項9記載の方法。
【請求項11】
以下の工程、
(i) 重合体の表面を含む中空要素を、少なくとも1つのマイクロ波発生器を備えたチャンバに導入する工程;
(ii) チャンバをその中の絶対圧が5Pa未満であるように減圧する工程;
(iii) 気体の不飽和炭化水素をチャンバにその中の絶対圧が5Pa〜50Paであるように注入する工程;
(iv) 気体の不飽和炭化水素を、プラズマがチャンバ内に生じるような周波数と強度で、マイクロ波発生器が生成するマイクロ波放射線に供する工程;
(v) チャンバをその中の絶対圧が5Pa未満であるように減圧する工程;
(vi) フッ素化C2-C4炭化水素をチャンバにその中の絶対圧が5Pa〜50Paであるように注入する工程; 及び
(vii) フッ素化C2-C4炭化水素を、プラズマがチャンバ内に生じるような周波数と強度で、マイクロ波発生器が分配するマイクロ波放射線に供する工程
が行われる、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
その表面上にグラフトした請求項1〜4のいずれか1項に記載のフッ素化C2-C4炭化水素を有することを特徴とする、燃料系統の中空要素。
【請求項13】
燃料タンク、燃料キャニスタ又は燃料パイプである、請求項12記載の燃料系統の中空要素。
【請求項14】
メタノール及び/又は炭化水素についての燃料タンク、燃料キャニスタ又は燃料パイプの浸透性を減少させるためのフッ素化C2-C4炭化水素の使用。

【図1】
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【公表番号】特表2007−537322(P2007−537322A)
【公表日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−512211(P2007−512211)
【出願日】平成17年5月11日(2005.5.11)
【国際出願番号】PCT/EP2005/052127
【国際公開番号】WO2005/113654
【国際公開日】平成17年12月1日(2005.12.1)
【出願人】(502294138)イネルジー オートモーティヴ システムズ リサーチ (41)
【Fターム(参考)】