説明

燃料組成物

【課題】 低温型燃料電池のアノードにおける電気化学的反応によってCOが副生するが、このCOの副生を抑制し、COによる触媒被毒を効果的に防止し得るようにした、低温型燃料電池のアノードに供給する燃料組成物を提供する。
【解決手段】 低温型燃料電池のアノードに供給する燃料組成物中に溶存する酸素濃度を0.01〜0.25cm/cm(燃料組成物)とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は燃料組成物、詳しくは低温型燃料電池のアノードに供給する燃料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
メタノールなどの含酸素炭化水素化合物を燃料とした、直接メタノール型燃料電池(DMFC)などの低温型燃料電池は、簡易電力供給源として広く研究されている。この低温型燃料電池のアノードでは、燃料である含酸素炭化水素の電気化学的反応により一酸化炭素(CO)が副生し、アノードとして用いる触媒を被毒することは一般によく知られているところであり、この問題を解決するために種々の方法が提案されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
【特許文献1】特開2002−343403号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、上記COによる触媒被毒を効果的に防止して、アノード触媒による酸化反応が効率よく進行するようにし、結果として、高い出力電圧が得られるようにした、低温型燃料電池のアノードに供給する燃料組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らの研究によれば、低温型燃料電池のアノードに供給する液体燃料中に溶存する酸素濃度を高めることにより、副生するCOを効率よく酸化して、COによる触媒被毒を効果的に防止し得ることがわかった。すなわち、本発明は、液体燃料、水、および0.01〜0.25cm/cm(燃料組成物)の量の溶存酸素とからなる燃料組成物である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の燃料組成物を用いることにより、COによる触媒被毒を効果的に防止でき、安定して高い出力電圧を得ることができる。例えば、DMFCの場合には、燃料として用いるメタノールの酸化反応の際に副生するCOによる触媒被毒を効果的に防止することができる。また、特許文献1に記載のような過酸化水素などの化学品を使用しないので、安全性、コスト、調製操作の簡便性などの点において有利なものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の「低温型燃料電池」とは、例えば、DMFCなどの、低温型燃料電池として一般によく知られている燃料電池を意味する。「液体燃料」としては、水溶性を有する有機化合物であればいずれでもよいが、なかでも水に任意の割合で溶解する、水素、炭素および酸素からなる有機化合物が好ましい。具体的には、水溶性を有するアルコール類、有機酸類、アルデヒド類、ケトン類などを挙げることができるが、 メタノール、エタノール、2−プロパノール、ジメチルエーテルなどの炭素数1〜6の含酸素炭化水素化合物が好適に用いられる。これらは単独でも、2種以上混合して使用してもよい。
【0008】
本発明の「燃料組成物」は、上記液体燃料の水溶液からなり、その中に0.01〜0.25cm/cm(燃料組成物)、好ましくは0.05〜0.25cm/cm(燃料組成物)の酸素が溶存しているというものである。水溶液中の液体燃料の濃度は特に限定されるものではないが、通常、1〜30質量%、好ましくは2〜16質量%である。使用する「水」については特に制限はなく、燃料電池の燃料成分として一般に用いられているものであればいずれでもよく、ろ過膜やイオン交換樹脂などを用いて不純物を除去した純水あるいは超純水が好適に用いられる。溶存酸素の量が0.01cm/cm(燃料組成物)より少ないと、COによる触媒被毒の防止効果が低く、一方溶存酸素濃度を0.25cm/cm(燃料組成物)より多くしてもCOによる触媒被毒の防止効果の更なる向上は認められず、かえって電気化学的短絡をきたして出力が低下し、また高い溶存酸素濃度を維持するためには高い圧力下での運転が必要となるため実用上システムが複雑になるなどの問題が生じる。
【0009】
溶存酸素濃度が0.01〜0.25cm/cm(燃料組成物)である燃料組成物は、例えば、水中に酸素や空気などをバブリングして飽和させ、これを液体燃料と混合することにより容易に得られる。また、ナノメートルサイズの微細な酸素バブルを導入して水中の溶存酸素量を大幅に高めることも可能である。本発明における燃料組成物中の溶存酸素濃度は、25℃、1気圧の条件下にウィンクラー法(JIS K0101)により測定したものである。
【0010】
なお、本発明の燃料組成物は、予め調製、貯蔵し、適宜使用しても、あるいは使用時に調製してもよい。また、本発明の燃料組成物の使用は、連続的であっても、間欠的であってもよく、通常の燃料組成物を用いた発電において性能低下をきたした場合などに、一時的に本発明の燃料組成物を供給して性能の賦活を図ることも可能である。
【0011】
本発明の有利な実施態様を示している以下の実施例を挙げて、本発明を更に具体的に説明する。
【実施例1】
【0012】
30℃にて純水に酸素バブリングを行って酸素を溶解させて、水中の溶存酸素濃度を0.025cm/cm(水)とした後、メタノール濃度が5質量%となる割合でメタノールと混合して、溶存酸素濃度が0.0245cm/cm(燃料組成物)であるメタノール水溶液を得た。次に、電極面積:25cm、電解質膜:ナフィオン112、アノード:白金−ルテニウム(20−10質量%)担持カーボンブラック(VulcanXC27)/東レカーボンペーパー、アノード貴金属含量:白金1.0mg/cm、ルテニウム0.5mg/cm、カソード:白金(10質量%)担持カーボンブラック(VulcanXC72)/東レカーボンクロス、カソード貴金属含有量:白金1.0mg/cmのElectrochem社製の膜−電極触媒複合体を燃料電池試験用単セルに組み込み、このアノードに上記メタノール水溶液を6ml/min、またカソードに酸素を0.3L/minで供給し、単セル温度を30℃に保持して電流−電位曲線を求めた。電流密度が75mA/cmのときのセル電圧は120mVであった。
【比較例1】
【0013】
実施例1において、純水を酸素バブリングすることなくそのまま使用した以外は、実施例1と同様にして電流−電位曲線を求めた。電流密度が75mA/cmのときのセル電圧は90mVであった。なお、水中の溶存酸素濃度は0.0053cm/cm(水)であり、燃料組成物中の溶存酸素濃度は0.005cm/cm(燃料組成物)であった。実施例1と比較例1との比較により、溶存酸素濃度を高めた燃料組成物をアノードに供給することにより発電時の出力電圧が向上することがわかる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体燃料、水、および0.01〜0.25cm/cm(燃料組成物)の量の溶存酸素とからなる、低温型燃料電池のアノードに供給する燃料組成物。
【請求項2】
液体燃料がメタノール、エタノール、2−プロパノールおよびジメチルエーテルから選ばれる少なくとも1つである請求項1記載の燃料組成物。


【公開番号】特開2006−185711(P2006−185711A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−376986(P2004−376986)
【出願日】平成16年12月27日(2004.12.27)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】