燃料補給容器用ホルダー
【課題】
ダイレクトメタノール型燃料電池などにおいて、燃料が残り少なくなった燃料電池本体側の燃料収容部内に、外部から燃料を注入、補給するに際し、少量ずつの連続注入を可能とし、さらに、燃料注入時の燃料収容部内の圧力を一定以下に維持することにより、起電部の破損を防止することができる燃料補給容器を収容するための燃料補給容器用ホルダーを提供する。
【解決手段】
ホルダー10をなす表面部材11と裏面部材12が備える開口部20に、これらの部材11,12の内側に向かって回動可能とされたレバー30を取り付け、このレバー30を回動操作によって押し下げたときに、レバー30の作用部30aが燃料補給容器Cに当接することにより、レバー30を押し下げた分だけ燃料補給容器Cの容積を縮減させるようにする。
ダイレクトメタノール型燃料電池などにおいて、燃料が残り少なくなった燃料電池本体側の燃料収容部内に、外部から燃料を注入、補給するに際し、少量ずつの連続注入を可能とし、さらに、燃料注入時の燃料収容部内の圧力を一定以下に維持することにより、起電部の破損を防止することができる燃料補給容器を収容するための燃料補給容器用ホルダーを提供する。
【解決手段】
ホルダー10をなす表面部材11と裏面部材12が備える開口部20に、これらの部材11,12の内側に向かって回動可能とされたレバー30を取り付け、このレバー30を回動操作によって押し下げたときに、レバー30の作用部30aが燃料補給容器Cに当接することにより、レバー30を押し下げた分だけ燃料補給容器Cの容積を縮減させるようにする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、ダイレクトメタノール型燃料電池など、改質器を用いることなくアルコール類などの液体燃料を直接供給して電気化学反応を生じさせる方式の燃料電池において、燃料の残量が少なくなった本体側の燃料収容部内に、外部から燃料を注入、補給するための燃料補給容器を収容する燃料補給容器用ホルダーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、水素(プロトン)を取り出すための改質器を用いることなく、燃料であるメタノールを直接アノード極(燃料極)に供給して、電気化学反応を生じさせることができるダイレクトメタノール型燃料電池(DMFC)が、機器の小型化に適していることから、特に、携帯機器用の燃料電池として注目されている。そして、このようなDMFCにおける燃料の供給手段も種々提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、少なくとも一部が柔軟性を有する部材から構成された燃料容器を備え、ポンプにより燃料が供給される携帯機器用燃料電池が記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、筐体内に設けられる燃料タンクと、燃料タンクの装着部に着脱自在に装着される燃料カートリッジとから燃料収容容器を構成し、燃料カートリッジを、ハードケースにより構成された外部容器と、この外部容器内に収容される高収縮性を有する内部容器とからなる二重構造として、内部容器内に液体燃料を収容した液体型燃料電池が記載されている。
【0005】
また、特許文献3には、可撓性を有する樹脂で一体成形され、メタノールが封入された燃料補給器を、人手にて押し潰すことで燃料電池の燃料収納部にメタノールを注入することが記載されている。
【0006】
【特許文献1】特開2004−319388号公報
【特許文献2】特開2005−71713号公報
【特許文献3】特開2005−63726号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、DMFCにあっては、その燃料の供給方式により、アクティブ型と、パッシブ型とに大別される。アクティブ型は、ポンプなどを利用して燃料電池に燃料を供給、循環させる方式のものであり、例えば、特許文献1に記載されたもの(特許文献1の図6に示される燃料電池システム)が、その典型例といえるが、このようなアクティブ型のDMFCは、大きな電力が得られやすい反面、ポンプなどの機械的な燃料供給手段を必要とするため、機器を小型化する上での不利がある。
【0008】
また、特許文献2に開示されたものは、ポンプなどを直接には用いてはいないが、DMFCの筐体内に燃料タンクを設け、さらに、この燃料タンクの装着部にハードケースを備えた燃料カートリッジが装着される嵩高い燃料収容容器を有しているため、機器の小型化には不利な構造といえる。
【0009】
一方、パッシブ型は、対流や、濃度勾配などを利用して燃料を供給する方式のものであり、機械的な燃料供給手段を用いないため、機器の小型化に最も適している。例えば、特許文献3に記載されている燃料電池システム(特許文献3の図1参照)が、その典型例といえ、小型化の要求が強い携帯機器、そのなかでも特に消費電力が小さいものに適用するには、燃料供給手段や、燃料収納部の構造をできる限り簡略化するとともに、燃料の収納量も必要最小限とし、燃料が不足する都度、必要に応じて外部から燃料を注入、補給するようにするのが、現実的、かつ、実用的な構造であると考えられる。
【0010】
しかしながら、燃料電池本体側の燃料収容部に、外部から燃料を注入、補充するに際して、特許文献3に記載されているように、可撓性の燃料補給器を人の手で押し潰して燃料を注入する場合には、その注入量が多すぎるなどして、燃料収容部内の圧力が高くなってしまうことにより、電極や、電解質膜などからなる起電部を破損してしまうことが考えられる。このため、外部からの燃料注入によって起電部を破損しないようにするためには、燃料注入時の燃料収容部内の圧力を一定以下に維持し、起電部への負荷を抑制するのが有効と考えられるが、特許文献3では、そのような検討は一切なされていない。
【0011】
また、特許文献1には、筐体内に収容された燃料容器を、ばねの弾性力によって平板を介して圧迫するようにした態様について記載されているが、これは、燃料容器内の燃料が減少しても、安定した燃料供給が行えるようにするためのものでしかなく、人の手で燃料容器を押し潰して燃料を注入する際の起電部への負荷については何ら考慮されていない。
【0012】
さらに、外部から燃料を注入するにあたり、燃料の注入によって本体側の燃料収容部内は陽圧になり、その陽圧状態を解消するには燃料収容部内のガス抜きをしなければならず、特に燃料注入時の燃料収容部内の圧力を一定以下に維持するために、燃料を少量ずつ数回に分けて連続的に注入しようとする場合には、燃料収容部内のガス抜きがなされないと燃料の注入に支障を来すことが考えられる。
【0013】
しかしながら、特許文献1では、燃料の排出にともなって、柔軟性を有する部材が縮んで燃料の残量を容器形状から容易に把握できるとしていることからも明らかなように、燃料注入後の燃料収容部内のガス抜きができない構造となっており、特許文献1に記載された燃料供給手段を、そのまま外部から燃料を注入、補給する燃料供給手段に適用するのは困難である。また、特許文献2には、燃料カートリッジの内部容器をゴム状の材質により構成し、これを風船のように膨らませた状態で液体燃料を収容して、燃料を補給する態様についての記載があるが、このような態様のものも、特許文献1と同様の理由から、外部から燃料を注入、補給する燃料供給手段にそのまま適用するのは困難である。
【0014】
本発明は、上記のような本発明者らによる検討に基づいてなされた、ダイレクトメタノール型燃料電池などにおいて、燃料が残り少なくなった燃料電池本体側の燃料収容部内に、外部から燃料を注入、補給するに際し、少量ずつの連続注入を可能とし、さらに、燃料注入時の燃料収容部内の圧力を一定以下に維持することにより、起電部の破損を防止することができる燃料補給容器を収容するための燃料補給容器用ホルダーの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決する本発明に係る燃料補給容器用ホルダーは、燃料電池本体の燃料収容部内との気密状態を維持しつつ、容積を縮減させて燃料を前記燃料収容部内に所定量注入した後に、容積が復元することによって前記燃料収容部内の雰囲気ガスを吸入する燃料注入操作を行うことにより、前記燃料収容部に、外部から燃料を注入、補給する燃料補給容器を収容するための剛性体からなるホルダーであって、前記燃料補給容器の容積を縮減させる操作部を備えている構成としてある。
【0016】
このような構成とした本発明に係る燃料補給容器用ホルダーによれば、燃料補給容器に充填された燃料を少量ずつ数回に分けて、燃料電池本体の燃料収容部内に連続的に注入する燃料注入操作を可能としつつ、そのような燃料補給容器の携帯を容易にし、また、燃料漏れなどをも有効に回避して、燃料補給容器の携帯時の安全性を高めることができる。
【0017】
このような本発明に係る燃料補給容器用ホルダーにおいて、前記操作部は、回動可能に取り付けられたレバーを備え、回動操作によって前記レバーを押し下げたときに、前記レバーが燃料補給容器を押圧して前記燃料補給容器の容積を縮減させるものとすることができる。
【0018】
また、本発明に係る燃料補給容器用ホルダーは、少なくとも前記レバーを透明性の高い材料にて成形した構成とすることができる。
このような構成とすることにより、収容された燃料補給容器の状態、例えば、燃料補給容器内に残存する燃料の量を目視することができる。
【0019】
また、本発明に係る燃料補給容器用ホルダーは、前記レバーの側面を部分的に囲み、かつ、前記レバーの操作面と面一又は突出するように隆起して形成された隆起部を設けることにより、前記レバーの操作範囲を制限した構成とすることができる。
このような構成とすることにより、鞄などに入れて携行する場合や、誤って落としてしまった場合などに、レバーが不用意に押し下げられないようにすることができる。
【0020】
また、本発明に係る燃料補給容器用ホルダーは、前記燃料補給容器が、前記燃料収容部の容積をVT、燃料注入操作直前の前記燃料収容部内の燃料の量をVTL、前記燃料補給容器の容積をVC、燃料注入操作直前の前記燃料補給容器内の燃料の量をVCL、燃料注入時における前記燃料補給用器の容積縮減量をVs、許容される前記燃料収容部内の圧力をPtf、大気圧をPとしたときに、下記式(1)の関係が成り立つように設計されている構成とすることができる。
(VC−VCL+VT−VTL)/(VC−VCL+VT−VTL−Vs)≦Ptf/P ・・・ (1)
このような構成とすることにより、燃料電池本体の燃料収容部内に燃料を注入するに際して、燃料収容部内の圧力を、許容される一定以下の圧力に維持して、燃料電池の起電部への負荷を抑制することが可能となり、燃料電池の燃料収容部に隣設された起電部の破損を防止することができる。
【0021】
また、本発明に係る燃料補給容器用ホルダーは、前記燃料補給容器が、前記燃料収容部に収容する燃料の目標量をVf、前記目標量Vfになるまでに要する燃料注入操作の回数をX、i回目の燃料注入操作の直前における前記燃料収容部内の燃料の量をVTLi、i回目の燃料注入操作の直前における前記燃料補給容器の燃料の量をVCLiとしたときに、下記式(2)の関係が成り立つように設計されている構成とすることができる。
【数2】
[但し、iは、1〜Xまでの整数]
このような構成とすることにより、上記式(2)が成り立つように燃料注入操作の回数を規定して、燃料収容部内の圧力を許容される一定以下の圧力に維持しつつ、燃料収容部内の燃料が収容可能な最大量に達するまでに要する燃料注入操作の回数が少なくなるように、燃料補給容器を設計することが可能となる。
【0022】
また、本発明に係る燃料補給容器用ホルダーは、前記燃料補給容器の容積の縮減量が一定量を超えないように、前記ホルダーの操作部に制限機構を設けた構成とすることができる。
このような構成とすることにより、燃料補給容器自体には容器の縮減量が一定量を越えないようにするための制限機構を設ける必要がなく、燃料補給容器そのものは簡便な構成としながらも、燃料電池本体の燃料収容部内に燃料を注入する際の注入量が一定以上とならないようにして、燃料電池の燃料収容部に隣設された起電部の破損をより確実に防止することができる。
【0023】
また、本発明に係る燃料補給容器用ホルダーは、前記燃料補給容器の口部を覆うように立ち上がらせた保護壁を設け、前記保護壁にキャップを螺着させるようにした構成とすることができる。
このような構成とすることにより、燃料補給容器の口部が変形などしてキャップのねじ締めに支障が生じたり、キャップが脱落してしまったりするのを防止することができ、このような態様は、可撓性を有する軟質材料により燃料補給容器を形成し、キャップのねじ締めに対する口部の強度の確保が困難となる場合に、特に好ましい。
【0024】
また、本発明に係る燃料補給容器用ホルダーは、胴部の水平方向断面を楕円形状とした前記燃料補給容器が、前記胴部の長径方向に沿う面に前記操作部が対向するようにして収容される構成とすることができる。
このような構成とすることにより、燃料補給容器の胴部の長径方向に沿う面を操作部が押圧して燃料補給容器を弾性変形させるので、燃料容器の容積を縮減させやすくなり、その縮減量の調整なども容易に行うことができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、燃料電池本体の燃料収容部内に、外部から燃料を注入するに際して、充填された燃料を少量ずつ数回に分けて連続的に注入する燃料注入操作が可能とされた燃料補給容器の携帯を容易にし、燃料補給容器からの燃料漏れなどを有効に回避して、携帯時の安全性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の好ましい実施形態について、図面を参照しながら説明する。
ここで、図1は、本発明に係る燃料補給容器用ホルダーに収容される燃料補給容器により、燃料電池本体の燃料収容部Tに、外部から燃料を注入、補給する燃料注入操作の1サイクルを概念的に示す説明図である。
【0027】
図1に示す例において、燃料補給容器Cは、燃料電池本体の燃料収容部Tに、外部から燃料を注入、補給するに際して、燃料収容部T内との気密状態を維持しつつ、燃料収容部Tに対して着脱自在に接合されている。そして、燃料補給容器Cは、その容積を縮減させることによりメタノールなどの燃料(内容液)CLを燃料収容部T内に所定量注入し(図1(b)参照)、その後に、燃料補給容器Cの容積が復元することによって燃料収容部T内の雰囲気ガスを吸入するようにしてある(図1(c)参照)。
【0028】
このような燃料注入操作を行うにあたり、燃料収容部Tへの燃料の注入量が多すぎると、燃料収容部T内の圧力が高くなってしまい、これによって、燃料収容部Tに隣設された図示しない電極や、電解質膜などからなる起電部を破損してしまうことにもなりかねないが、本実施形態では、燃料収容部Tの容積や、起電部が耐えることができる燃料収容部T内の圧力、すなわち、許容される燃料収容部T内の圧力などに応じて、燃料補給容器Cを設計している。
具体的には、燃料補給容器Cは、次のようにして設計することができる。
【0029】
まず、燃料収容部Tの容積をVT、燃料注入操作直前の燃料収容部T内の燃料TLの量をVTLとすると、燃料の残存量がVTLとなったときに、燃料収容部T内において雰囲気ガスが占める体積(燃料収容部T内のヘッドスペース量)は、(VT−VTL)となる(図1(a)参照)。また、一回の燃料注入操作によって燃料収容部T内に注入される燃料の量(補給量)をL1とすると、燃料注入操作時の燃料収容部T内のヘッドスペース量は、(VT−VTL−L1)となる(図1(b)参照)。
したがって、燃料注入操作を行う前の燃料収容部T内の圧力が大気圧Pに等しく、雰囲気ガスを理想気体に近似できるとすると、燃料注入操作時の燃料収容部T内の圧力Ptは、ボイルの法則により下記式(3)で表される。
Pt=P×(VT−VTL)/(VT−VTL−L1) ・・・ (3)
【0030】
一方、燃料補給容器Cの容積をVC、燃料注入操作直前の燃料補給容器C内の燃料CLの量をVCLとすると、燃料注入操作を行う前の燃料補給容器C内において雰囲気ガスが占める体積(燃料補給容器C内のヘッドスペース量)は、(VC−VCL)となる(図1(a)参照)。また、一回の燃料注入操作によって燃料補給容器Cから注出される燃料の量(注出量)をL0、燃料注入操作時における燃料補給容器Cの容積縮減量をVsとすると、燃料注入操作時の燃料収容部T内のヘッドスペース量は、((VC−VCL)−(Vs−L0))となる(図1(b)参照)。
したがって、燃料注入操作を行う前の燃料補給容器C内の圧力が大気圧Pに等しく、雰囲気ガスを理想気体に近似できるとすると、燃料注入操作時の燃料補給容器C内の圧力Pcは、上記と同様に、ボイルの法則により下記式(4)で表される。
Pc=P×(VC−VCL)/((VC−VCL)−(Vs−L0)) ・・・ (4)
【0031】
そして、燃料注入操作時に、燃料収容部T内の圧力Ptと、燃料補給容器C内の圧力Pcとは、圧平衡(Pt=Pc)の関係にあるから、下記式(5)の関係が成り立つ。
P×(VT−VTL)/(VT−VTL−L1)
=P×(VC−VCL)/((VC−VCL)−(Vs−L0)) ・・・ (5)
【0032】
次に、この式(5)を変形すると下記式(6)が得られる。
L1×(VC−VCL)/(VT−VTL)=Vs−L0 ・・・ (6)
ここで、補給量L1と、注出量L0とは等しいから、上記式(6)にL0=L1を代入するとともに、両辺をL1で割ると、下記式(7)が得られる。
(VC−VCL)/(VT−VTL)=Vs/L1−1 ・・・ (7)
また、この式(7)をL1について解くと、下記式(8)が得られる。
L1=Vs×(VT−VTL)/(VC−VCL+VT−VTL) ・・・ (8)
【0033】
以上より、上記式(3)に上記式(8)を代入して整理すれば、燃料注入操作時の燃料収容部T内の圧力Ptは、下記式(9)で表される。
Pt=P×(VC−VCL+VT−VTL)/(VC−VCL+VT−VTL−Vs) ・・・ (9)
したがって、燃料注入操作時の燃料収容部T内の圧力Ptが、許容される燃料収容部T内の圧力Ptfを超えないようにするには、すなわち、Pt≦Ptfとするには、下記式(1)が成り立つ範囲で、燃料補給容器Cを設計すればよい。
(VC−VCL+VT−VTL)/(VC−VCL+VT−VTL−Vs)≦Ptf/P ・・・ (1)
【0034】
ここで、燃料注入操作直前の燃料収容部T内の燃料TLの量VTL、及び燃料注入操作直前の燃料補給容器C内の燃料CLの量VCLは、想定される使用状況に応じて種々の値を取り得るが、例えば、燃料収容部T内の燃料が消費され、燃料収容部Tへの燃料補給が必要となる燃料TLの残存量をVTLとし、燃料補給容器Cに充填する燃料CLの初期量をVCLとすることができる。
また、燃料収容部T内の燃料が目標とする収容量からほとんど消費されていない状況で、初期量を保った燃料補給容器Cから燃料を補給しようとした場合には、燃料収容部T内の圧力Ptが最も高くなるので、このような状況を想定して上記式(1)を適用することもできる。
【0035】
本実施形態にあっては、上記式(1)を満たすように燃料補給容器Cを設計することにより、燃料電池本体の燃料収容部T内に燃料を注入するに際して、燃料収容部T内の圧力を、許容される燃料収容部T内の圧力Ptfを超えないように、一定以下の圧力に維持して、燃料電池の起電部への負荷を抑制することが可能となり、起電部の破損を有効に防止することができる。
【0036】
また、前述したように、燃料補給容器Cは、その容積を縮減させて燃料CLを燃料収容部T内に注入し、その後、容積が復元することによって燃料収容部T内の雰囲気ガスを吸入するようにしてある。このため、本実施形態によれば、燃料補給容器Cに充填された燃料CLを複数回に分けて燃料収容部T内に注入するにあたって、燃料の注入に支障を来すことなく、連続的な燃料注入操作が可能となる。
【0037】
ところで、上記式(1)を満たすように燃料補給容器Cを設計しつつ、燃料注入時の燃料収容部T内の圧力を一定以下に維持するために、数回に分けて燃料を連続的に注入する場合には、その操作回数は可能な限り少なくなるのが好ましい。本実施形態では、上記式(1)を満たすとともに、燃料収容部Tに収容する燃料の目標量Vfになるまでの燃料注入操作回数が少なくなるように、燃料補給容器Cを設計することもできる。
【0038】
すなわち、一回の燃料注入操作によって燃料収容部T内に注入される燃料の補給量L1は、前述したように式(8)で表されるから、i回目の燃料注入操作の直前における燃料収容部T内の燃料の量VTLi、i回目の燃料注入操作の直前における燃料補給容器Cの内容液量VCLiとすれば、i回目の燃料注入操作によって燃料収容部T内に注入される補給量Liは、下記式(10)で表すことができる。
Li=(VT−VTLi)×Vs/(VC−VCLi+VT−VTLi) ・・・(10)
【0039】
したがって、X回の燃料注入操作で、燃料収容部Tへの燃料補給が完了するのであれば、燃料収容部Tに収容する燃料の目標量Vfから、燃料注入操作を開始したときに燃料収容部T内に残存する燃料量、すなわち、燃料注入操作直前の燃料収容部T内の燃料の量VTLを引いたものが、X回の燃料注入操作で燃料収容部T内に注入された燃料の総和に等しくなり、下記式(2)が成立する。
【数3】
[但し、iは、1〜Xまでの整数]
【0040】
このように、上記式(1)が成り立つ範囲で、上記式(2)が成り立つXの最小値により燃料注入操作の回数を規定することによって、燃料収容部T内の圧力を許容される一定以下の圧力に維持しつつ、燃料収容部T内の燃料が、燃料収容部Tに収容する燃料の目標量Vfに達するまでに要する燃料注入操作の回数が少なくなるように、燃料補給容器Cを設計することが可能となる。
【0041】
ここで、VTLi、及びVCLiの初期値、すなわち、i=1のときのVTLi(=VTL)、及びVCLi(=VCL)は、前述したように、想定される使用状況に応じて種々の値を取り得るが、燃料収容部T内の燃料の残存量がほぼ0で、燃料補給容器C内の燃料の量が、燃料収容部Tに収容する燃料の目標量Vfを僅かに超える程度のときに燃料注入操作を開始しようとする場合に、燃料注入操作の回数が最も多くなるので、このような条件下で上記式(2)を適用するのが特に好ましい。
【0042】
なお、燃料収容部T内の燃料が満杯の状態にあるときに、さらに燃料を注入すると、上記式(1)が成り立つか否かに関わらず、燃料収容部T内の圧力が過大となってしまう。このため、燃料収容部Tに収容する燃料の目標量Vfは、燃料収容部Tの容積VTよりも少なく見積もるのが好ましく、具体的には、燃料収容部Tの容積VTの80%程度とするのが好ましい。
【0043】
本実施形態において、燃料補給容器Cの具体的な形状や、寸法などは、上記式(1)、(2)を満たすものである限り、特に限定されないが、通常は、口部C1、胴部C2、及び底部C3を備えたボトル状の形態とすることができる。そして、燃料補給容器Cの口部C1には、例えば、燃料注出口1aが先端側に突出して設けられたカプラー1を取り付け(図2参照)、この燃料注出口1aを燃料収容部Tの燃料注入口に挿入、嵌合することにより、燃料収容部T内との気密状態を維持しつつ、燃料収容部Tに燃料補給容器Cを着脱自在に接合し、その状態で前述したような燃料注入操作が行えるようにすることができる。
【0044】
このとき、燃料収容部T内との気密状態を維持するには、例えば、図13、及び図14に示すようなバルブ機構を用いることができる。
ここで、図13は、燃料補給容器Cと燃料収容部Tとの間の気密状態を維持しながら、両者を接合するためのバルブ機構の一例を概念的に示す説明図であり、燃料補給容器C側の燃料注出口1aに設けられたバルブ機構の概略断面と、燃料収容部T側の燃料注入口2に設けられたバルブ機構の概略断面を示している。また、図14は、燃料収容部T側の燃料注入口2に、燃料補給容器C側の燃料注出口1aを挿入、嵌合させた状態を示している。
【0045】
図示する例において、燃料補給容器C側の燃料注出口1aが、燃料収容部T側の燃料注入口2に挿入されると、燃料補給容器C側の弁体1bと、燃料収容部T側の弁体2aとが当接して互いに押し合うことになる。通常は、燃料収容部T側の弁体2aを付勢するバネ2cの付勢力が、燃料補給容器C側の弁体1bを付勢するバネ1dの付勢力よりも弱く設定されており、先に、燃料収容部T側の弁体2aが弁座2bから離れ、燃料収容部T側のバルブ機構を開放する。このとき、燃料補給容器C側の燃料注出口1aと、燃料収容部T側の燃料注入口2とが密に嵌合するように、両者の間に図示しない適当なシール部材を介在させることで、燃料収容部T内の気密状態を維持することができる。
【0046】
そして、燃料補給容器C側の燃料注出口1aをさらに押し込むと、燃料補給容器C側の弁体1bが弁座1cから離れ、燃料補給容器C側のバルブ機構も開放される。これにより、燃料収容部Tと燃料補給容器Cとが気密状態を維持したまま連通し、前述したような燃料注入操作を行うことによって、燃料補給容器C内の燃料CLを、燃料収容部Tに注入することができる。
なお、特に図示しないが、燃料補給容器Cと燃料収容部Tとの間に、適当な係合手段を設けておけば、燃料補給容器Cと燃料収容部Tとを接合させた状態を容易に維持して、連続的な燃料注入操作を行うことができる。
【0047】
以上のような燃料補給容器Cは、高密度ポリエチレン(HDPE),低密度ポリエチレン(LDPE),直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE),ポリプロピレン(PP),環状オレフィン(COC)等のオレフィン系樹脂、及びこれらの共重合体や、これらのブレンド樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET),ポリエチレンナフタレート(PEN),ポリ乳酸(PLA)等のポリエステル系樹脂、及びこれらの共重合体や、これらのブレンド樹脂などの合成樹脂材料を用いて、ダイレクトブロー成形や、二軸延伸ブロー成形などの適宜手段により所定形状に成形することによって得ることができるが、燃料補給容器C内の燃料CLの残量を目視できるように、透明性のある材料を用いるのが好ましい。また、上記した合成樹脂材料のなかでも、燃料注入操作時の容積の縮減と、復元が容易な可撓性を有する材料によって燃料補給容器Cを成形するのが好ましい。
【0048】
また、このような合成樹脂材料を用いて成形される燃料補給容器Cは、単層構成とするに限らず、多層構成とすることもできる。
燃料補給容器Cを多層構成とする場合には、少なくとも最内層は、上記した合成樹脂材料を用いて形成するのが好ましい。また、中間層として、燃料に対するバリア機能を有する樹脂(例えば、環状オレフィンや、ポリアミド系樹脂など)、接着性樹脂などで形成される機能性樹脂層の他、リグラインド層などを設けてもよい。
【0049】
また、本実施形態において、燃料補給容器Cは、その携帯性を考慮して、図2に示すような、剛性体からなるホルダー10に収納される。これにより、燃料補給容器Cを鞄などに入れて携行する際に、燃料補給容器Cが、鞄のなかで押し潰されるなどして、燃料が漏れ出してしまうというような不具合を有効に回避して、燃料補給容器Cの携帯時の安全性を高めることができる。このような態様は、可撓性を有する材料によって燃料補給容器Cを成形した場合に、特に好適である。
【0050】
図示する例において、ホルダー10は、縦方向に分割される表面部材11と裏面部材12とからなっている。そして、表面部材11側に設けられた係合爪11aを、裏面部材12側に設けられた係合孔12aに係合させることによって、一体化された表面部材11と裏面部材12との間に、燃料補給容器Cが収容されるようにしてある。
ここで、図2(a)は、燃料補給容器Cをホルダー10に収容した状態を示す一部を切り欠いた正面図であり、図2(b)は、燃料補給容器Cをホルダー10に収容した状態を示す側面図である。また、図3は、ホルダー10を、表面部材11と裏面部材12とに分割した状態を示しており、図4は、図3のB−B要部断面図である。
【0051】
ホルダー10をなす表面部材11と裏面部材12は、それぞれのほぼ中央に開口部20を備えており、この開口部20には、下端側を軸にして、これらの部材11,12の内側に向かって回動可能とされたレバー30が取り付けられている。このようにして取り付けられたレバー30は、その回動操作によってレバー30を押し下げたときに、レバー30の作用部30aが燃料補給容器Cに当接し、レバー30を押し下げた分だけ燃料補給容器Cの容積を縮減させて、前述したような燃料注入操作を行うための操作部として機能する(図6参照)。
【0052】
ここで、図6は、図2(a)のA−A断面に相当し、図6(a)は、レバー30が定常位置にある状態を示しており、図6(b)は、レバー30を押し下げた状態を示している。図6(b)に示すように、レバー30を押し下げることにより、レバー30の作用部30aに押圧されて燃料補給容器Cが弾性変形するが、燃料補給容器Cはレバー30を押し下げた方向のみならず、図2(a)に一点破線で示すように、レバー30の押し下げ方向に直交する方向にも弾性変形する。このため、ホルダー10の内寸は、このような方向への燃料補給容器Cの弾性変形を考慮して設計するのが好ましい。
より具体的には、燃料補給容器Cの容積の縮減量の最適化を図り、この最適な縮減量に相当する燃料注出操作を行う際の燃料補給容器Cの変形量(通常、燃料補給容器Cは、レバー30の押し下げ方向に直交する方向に変形する)を求め、このときの変形量を吸収できる程度の余裕をもつように、ホルダー10の内寸を設計するのが好ましい。
【0053】
また、このようなホルダー10に燃料補給容器Cを収納するにあたっては、燃料補給容器Cの胴部C2の水平断面を楕円形状とするとともに、胴部の長径方向に沿う面にレバー30が対向するようにして、燃料補給容器Cがホルダー10に収容されるようにするのが好ましい。
このようにすれば、前述したような手段により燃料補給容器Cを成形するに際し、一般には、燃料補給容器Cの胴部C2の長径方向に沿う面の方が、成形時に短径方向に沿う面に比べて押圧する力が少なくてすむので、この面をレバー30の作用部30aが押圧して燃料補給容器Cを弾性変形させるようにすれば、燃料容器Cの容積を縮減させやすくなり、その縮減量の調整なども容易に行うことができる。
【0054】
また、図5に、裏面部材12の内側からみたレバー30の取り付け状態を示すように、本実施形態において、レバー30は、下端側に延長するアーム31を有している。そして、図中鎖線で囲む部分を拡大して示すように、アーム31の先端側に設けられた突部32を、裏面部材12に設けられた突片12bの穿孔12cに挿通することにより、裏面部材12に対して、レバー30が回動可能となるように取り付けられている。
なお、図示する例において、レバー30は、回動軸が下端側に位置するように取り付けられているが、回動軸は上端側に位置するようにしてもよく、レバー30が燃料注入操作を行うための操作部として機能するかぎり、その具体的な取り付け手段は限定されない。
【0055】
レバー30を押し下げる力を緩めると、燃料補給容器Cは、その弾性力とヘッドスペースの内圧により容積を復元し、これによりレバー30は押し戻されて定常位置に復帰するが、このとき、レバー30の作用部30a側の端縁と、開口部20との間に隙間が生じてしまうと、異物が入り込んでしまったり、レバー30を再度押し下げて燃料注入操作を繰り返す際に、この隙間にレバー30を操作する使用者の手指を挟んでしまったりするなどの不具合が考えられる。
このため、レバー30には、開口部20の縁部に内側から当接するストッパー33が設けられており、これによって、裏面部材12の外側に向かうレバー30の回動範囲を規制して、レバー30の作用部30a側の端縁と、開口部20との間に隙間が生じないようにするとともに、例えば、高温環境下で燃料補給容器Cが膨張したとしても、レバー30が外側に突出してしまわないようにしている。
【0056】
なお、特に図示しないが、表面部材11に対しても、同様にしてレバー30を取り付けることができる。
【0057】
また、本実施形態において、表面部材11と裏面部材12には、図示するように、それぞれその上方及び下方に、レバー30の上端側と下端側の側面を部分的に囲み、かつ、レバー30の操作面と面一となるように基準面10aから隆起して形成された隆起部10bを設けることができる。これにより、レバー30の操作範囲を、レバー30の中央部分の操作し易い部位に制限し、鞄などに入れて携行する場合や、誤って落としてしまった場合などに、レバー30が不用意に押し下げられないようにしている。
したがって、図示する例にあっては、使用者は、レバー30の中央部分の操作面を、例えば、親指と人差し指とで挟むようにして押し下げることによって、燃料注入操作を行うことができるようになっている。
なお、レバー30の操作範囲を、レバー30の中央部分の操作し易い部位に制限することができれば、隆起部10bは、レバー30の操作面から突出するように隆起して形成されていてもよい。
【0058】
また、ホルダー10には、レバー30を押し下げて燃料注入操作を行うときに、燃料補給容器Cの容積の縮減量が一定量を超えないようにする制限機構を設けておくことができる。このような制限機構の具体的な構成は特に限定されないが、例えば、レバー30の押し下げ可能な量、すなわち、レバー30の操作面と、基準面10aとの差tを適宜調整することで、レバー30の押し下げ量が一定以上にならないようにして、燃料補給容器Cの容積の縮減量が一定量を超えないように制限することができる。
このような制限機構を設けることにより、燃料注入操作時における燃料補給容器Cの容積縮減量Vsを一定として、すなわち、燃料電池本体の燃料収容部T内への燃料の注入量を一定として、起電部の破損をより確実に防止することができる。
【0059】
また、レバー30の横幅は任意に設定することができるが、図8に示すように、レバー30の横幅Wを細く(例えば、13mm以下)することにより、レバー30を押し下げるときに、使用者の指がレバー30の操作面をはみ出して、レバー30を押し切ったときに基準面10aに当たり、それ以上レバー30が押し下げられないようになっているのが好ましい。これにより、よりいっそう確実に、燃料注入時の燃料補給容器Cの容積縮減量Vsを一定とすることができる。
【0060】
また、操作部としてのレバー30は、図7に示すように、ホルダー10の片面だけに設けるようにしてもよい。このような態様は、燃料注入操作の際に、ホルダー10の姿勢を安定させることができるとともに、ホルダー10の他方の面には、使用上の注意などの注意書きを印刷、又は貼り付けるためのスペースとすることができるという利点がある。
【0061】
また、本実施形態では、燃料補給容器Cの口部C1にねじ山を設け、口部C1にキャップ40が螺着されるようにすることができるが、例えば、子どもが誤ってキャップを外してしまったりすることがないように、キャップ40としては、チャイルドレジスタンス機能を備えたものを用いるのが好ましい。チャイルドレジスタンス機能を備えたキャップ40としては、図9に示すような外キャップと、図10に示すような内キャップとからなる二重構造を有しているものを、その一例として挙げることができる。
【0062】
図9は、外キャップ41の説明図であり、図9(a)は外キャップ41の正面図、図9(b)は図9(a)のC−C断面図、図9(c)は外キャップ41の底面図である。これらの図に示すように、外キャップ41の天面の内側には、複数の垂下片41aが周方向に沿って設けられている。
また、図10は、内キャップ42の説明図であり、図10(a)は内キャップ42の正面図、図10(b)は図10(a)のD−D断面図、図10(c)は内キャップ41の平面図である。これらの図に示すように、内キャップ42の内周面にはねじ溝が形成されており、このねじ溝によって、燃料補給容器Cの口部C1にキャップ40が螺着される。さらに、内キャップ42の上面側には、立上り面42bと傾斜面42cとに挟まれて溝部42aが形成されており、外キャップ41内に内キャップ42を挿入したときに、外キャップ41の垂下片41aが、内キャップ42の溝部42aに入り込むようになっている。
【0063】
このような外キャップ41と内キャップ42とは、内キャップ42が、外キャップ41内で相対的に上下動可能となっているとともに、外キャップ41の抜け止め41bと、内キャップ42の係止部42dとにより、内キャップ42が外キャップ41から容易に外れないようにしてある。そして、図11に示すように、燃料補給容器Cの口部C1からキャップ40を外そうとして、単に図中矢印方向にキャップを回しただけでは、外キャップ41の垂下片41aが、内キャップ42側の傾斜面42cを乗り上げて(図11(b)参照)、内キャップ42に対して外キャップ41が空回りするようになっている(図11(c)参照)。
逆に、キャップ40を燃料補給容器Cの口部C1に螺着するときには、図12に示すように、図中矢印方向に外キャップ41を回せば、外キャップ41の垂下片41aが、内キャップ42側の立上り面42bに当接して(図12(b)参照)、外キャップ41とともに、内キャップ41も回転して、キャップ40を容易に締め付けることができるようになっている。
なお、図11、図12では、着目する一つの垂下片41aのみを図示し、これを斜線で示している。
【0064】
一方、燃料補給容器Cの口部C1からキャップ40を外すには、内キャップ42に対して外キャップ41が空回りしないように、外キャップ41に下向きの力を加えて、外キャップ41の垂下片41aの先端を、内キャップ42の傾斜面42cに押し付けながら回すようにすればよい。これにより、外キャップ41とともに、内キャップ41も回転して、キャップ40を燃料補給容器Cの口部C1から外すことができる。
【0065】
また、本実施形態にあっては、燃料補給容器Cの口部C1に直接キャップ40を螺着させる態様に限らず、図7に示すように、燃料補給容器Cの口部C1を覆うようにホルダー30から立ち上がる保護壁13を設け、この保護壁13に形成されたねじ山にキャップ40を螺着するようにしてもよい。
特に、燃料補給容器Cを、可撓性を有する軟質材料により形成した場合には、キャップ40のねじ締めに対する口部C1の強度の確保が困難となるため、このような態様は、燃料補給容器Cの口部C1が変形などしてキャップ40のねじ締めに支障が生じたり、キャップ40が脱落してしまったりするのを防止する上でも好ましい。
【0066】
さらに、このような保護壁13を設けるにあたり、燃料補給容器Cの口部C1とカプラー1との接合部を保護壁13で覆い隠すことによって、カプラー1の取り外しを困難とし、燃料補給容器Cの口部C1からカプラー1が不用意に取り外されてしまうのを防止することもできる。
【0067】
本実施形態において、ホルダー10を構成する表面部材11、裏面部材12、レバー30、キャップ40は、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS),ポリスチレン(PS),アクリロニトリル−スチレン樹脂(AS),ポリエチレンテレフタレート(PET),ポリブチレンテレフタレート(PBT),ポリエチレンナフタレート(PEN),ポリカーボネート(PC),ポリプロピレン(PP),ポリエチレン(PE),ポリアセタール(POM),ポリメチルメタクリレート(PMMA),変性ポリフェニレンエーテル(PPE)などの合成樹脂材料を単独で、又は二種以上ブレンドして用い、あるいは、これらのものに必要に応じてガラス繊維や、タルクなどの充填材を配合した複合材料として用いて、射出成形などにより所定形状に成形することができるが、少なくともレバー30を透明性の高い材料にて成形して、収容された燃料補給容器Cの状態、例えば、燃料補給容器C内に残存する燃料の量などを目視できるようにするのが好ましい。一般に、耐落下衝撃性などの高い材料には、透明性の高いものが少ないので、レバー30を透明性の高い材料で形成するのは、ホルダー10の耐落下衝撃性を確保しつつ、燃料補給容器C内の燃料の残量を目視できるようにする上で、特に好適である。
【0068】
以上、本発明について、好ましい実施形態を示して説明したが、本発明は、前述した実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲で種々の変更実施が可能であることは言うまでもない。
【0069】
例えば、前述した実施形態では、縦方向に分割される表面部材11と裏面部材12とからなるホルダー10に、燃料補給容器Cが収容されるようにしてあるが、ホルダー10の構成はこれに限定されず、特に図示しないが、横方向に分割可能として燃料補給容器Cを収容するようにしたものであってもよい。
【0070】
また、前述した実施形態では、表面部材11側に設けられた係合爪11aを、裏面部材12側に設けられた係合孔12aに係合させることによって、一体化された表面部材11と裏面部材12との間に、燃料補給容器Cが収容されるようにしてあるが、燃料補給容器Cに、燃料としてメタノールなどが充填される場合には、安全性確保の観点からホルダー10から燃料補給容器Cが容易に取り外せないようにすることが求められる。
【0071】
このためには、例えば、図15に示すように、表面部材11側に設けられた隣り合う係合爪11aの間に挿入される突片12dを裏面部材12側に設け、表面部材11を変形させて係合爪11aと係合孔12aとの係合を解除しようとする力に抗して、表面部材11と裏面部材12とが容易に外れないようにすることができる。
ここで、図15(a)は、ホルダー10を、表面部材11と裏面部材12とに分割した状態を示しており、図15(b)は、図15(a)のC−C要部断面図、図15(c)は、図15(a)のD−D要部断面図である。
【0072】
また、特に図示しないが、表面部材11と裏面部材12とのそれぞれに、係合爪11aと係合孔12aとを交互に配置して、これらを互いに係合させるようにしたり、表面部材11と裏面部材12とを接着、又は溶着により接合したりすることによっても、表面部材11と裏面部材12とが容易に外れないようにすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
以上説明したように、本発明は、ダイレクトメタノール型燃料電池など、改質器を用いることなくアルコール類などの液体燃料を直接供給して電気化学反応を生じさせる方式の燃料電池において、燃料の残量が少なくなった本体側の燃料収容部内に、外部から燃料を注入、補給する燃料補給容器を収容するための燃料補給容器用ホルダーを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明に係る燃料補給容器用ホルダーに収容される燃料補給容器により、燃料電池本体の燃料収容部に外部から燃料を注入、補給する燃料注入操作の一サイクルを概念的に示す説明図である。
【図2】燃料補給容器をホルダーに収容した状態の一例を示す説明図である。
【図3】ホルダーを表面部材と裏面部材とに分割した状態を示す説明図である。
【図4】図3のB−B要部断面図である。
【図5】裏面部材の内側からみたレバーの取り付け状態を示す説明図である。
【図6】燃料注入操作時のレバーの動作を示す説明図である。
【図7】燃料補給容器をホルダーに収容した状態の他の例を示す説明図である。
【図8】燃料補給容器をホルダーに収容した状態の他の例を示す説明図である。
【図9】キャップを構成する外キャップの一例を示す説明図である。
【図10】キャップを構成する内キャップの一例を示す説明図である。
【図11】内キャップに対して外キャップが空回りする際の動作を示す説明図である。
【図12】キャップを締め付ける際の動作を示す説明図である。
【図13】燃料補給容器を燃料収容部に接合するためのバルブ機構の一例を概念的に示す説明図である。
【図14】燃料収容部の燃料注入口に燃料補給容器の燃料注出口を嵌合させた状態を概念的に示す説明図である。
【図15】ホルダーの他の例において、表面部材と裏面部材とに分割した状態を示す説明図である。
【符号の説明】
【0075】
1 カプラー
1a 燃料注出口
2 燃料注入口
10 ホルダー
10b 隆起部
13 保護壁
30 レバー(操作部)
C 燃料補給容器
T 燃料収容部
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、ダイレクトメタノール型燃料電池など、改質器を用いることなくアルコール類などの液体燃料を直接供給して電気化学反応を生じさせる方式の燃料電池において、燃料の残量が少なくなった本体側の燃料収容部内に、外部から燃料を注入、補給するための燃料補給容器を収容する燃料補給容器用ホルダーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、水素(プロトン)を取り出すための改質器を用いることなく、燃料であるメタノールを直接アノード極(燃料極)に供給して、電気化学反応を生じさせることができるダイレクトメタノール型燃料電池(DMFC)が、機器の小型化に適していることから、特に、携帯機器用の燃料電池として注目されている。そして、このようなDMFCにおける燃料の供給手段も種々提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、少なくとも一部が柔軟性を有する部材から構成された燃料容器を備え、ポンプにより燃料が供給される携帯機器用燃料電池が記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、筐体内に設けられる燃料タンクと、燃料タンクの装着部に着脱自在に装着される燃料カートリッジとから燃料収容容器を構成し、燃料カートリッジを、ハードケースにより構成された外部容器と、この外部容器内に収容される高収縮性を有する内部容器とからなる二重構造として、内部容器内に液体燃料を収容した液体型燃料電池が記載されている。
【0005】
また、特許文献3には、可撓性を有する樹脂で一体成形され、メタノールが封入された燃料補給器を、人手にて押し潰すことで燃料電池の燃料収納部にメタノールを注入することが記載されている。
【0006】
【特許文献1】特開2004−319388号公報
【特許文献2】特開2005−71713号公報
【特許文献3】特開2005−63726号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、DMFCにあっては、その燃料の供給方式により、アクティブ型と、パッシブ型とに大別される。アクティブ型は、ポンプなどを利用して燃料電池に燃料を供給、循環させる方式のものであり、例えば、特許文献1に記載されたもの(特許文献1の図6に示される燃料電池システム)が、その典型例といえるが、このようなアクティブ型のDMFCは、大きな電力が得られやすい反面、ポンプなどの機械的な燃料供給手段を必要とするため、機器を小型化する上での不利がある。
【0008】
また、特許文献2に開示されたものは、ポンプなどを直接には用いてはいないが、DMFCの筐体内に燃料タンクを設け、さらに、この燃料タンクの装着部にハードケースを備えた燃料カートリッジが装着される嵩高い燃料収容容器を有しているため、機器の小型化には不利な構造といえる。
【0009】
一方、パッシブ型は、対流や、濃度勾配などを利用して燃料を供給する方式のものであり、機械的な燃料供給手段を用いないため、機器の小型化に最も適している。例えば、特許文献3に記載されている燃料電池システム(特許文献3の図1参照)が、その典型例といえ、小型化の要求が強い携帯機器、そのなかでも特に消費電力が小さいものに適用するには、燃料供給手段や、燃料収納部の構造をできる限り簡略化するとともに、燃料の収納量も必要最小限とし、燃料が不足する都度、必要に応じて外部から燃料を注入、補給するようにするのが、現実的、かつ、実用的な構造であると考えられる。
【0010】
しかしながら、燃料電池本体側の燃料収容部に、外部から燃料を注入、補充するに際して、特許文献3に記載されているように、可撓性の燃料補給器を人の手で押し潰して燃料を注入する場合には、その注入量が多すぎるなどして、燃料収容部内の圧力が高くなってしまうことにより、電極や、電解質膜などからなる起電部を破損してしまうことが考えられる。このため、外部からの燃料注入によって起電部を破損しないようにするためには、燃料注入時の燃料収容部内の圧力を一定以下に維持し、起電部への負荷を抑制するのが有効と考えられるが、特許文献3では、そのような検討は一切なされていない。
【0011】
また、特許文献1には、筐体内に収容された燃料容器を、ばねの弾性力によって平板を介して圧迫するようにした態様について記載されているが、これは、燃料容器内の燃料が減少しても、安定した燃料供給が行えるようにするためのものでしかなく、人の手で燃料容器を押し潰して燃料を注入する際の起電部への負荷については何ら考慮されていない。
【0012】
さらに、外部から燃料を注入するにあたり、燃料の注入によって本体側の燃料収容部内は陽圧になり、その陽圧状態を解消するには燃料収容部内のガス抜きをしなければならず、特に燃料注入時の燃料収容部内の圧力を一定以下に維持するために、燃料を少量ずつ数回に分けて連続的に注入しようとする場合には、燃料収容部内のガス抜きがなされないと燃料の注入に支障を来すことが考えられる。
【0013】
しかしながら、特許文献1では、燃料の排出にともなって、柔軟性を有する部材が縮んで燃料の残量を容器形状から容易に把握できるとしていることからも明らかなように、燃料注入後の燃料収容部内のガス抜きができない構造となっており、特許文献1に記載された燃料供給手段を、そのまま外部から燃料を注入、補給する燃料供給手段に適用するのは困難である。また、特許文献2には、燃料カートリッジの内部容器をゴム状の材質により構成し、これを風船のように膨らませた状態で液体燃料を収容して、燃料を補給する態様についての記載があるが、このような態様のものも、特許文献1と同様の理由から、外部から燃料を注入、補給する燃料供給手段にそのまま適用するのは困難である。
【0014】
本発明は、上記のような本発明者らによる検討に基づいてなされた、ダイレクトメタノール型燃料電池などにおいて、燃料が残り少なくなった燃料電池本体側の燃料収容部内に、外部から燃料を注入、補給するに際し、少量ずつの連続注入を可能とし、さらに、燃料注入時の燃料収容部内の圧力を一定以下に維持することにより、起電部の破損を防止することができる燃料補給容器を収容するための燃料補給容器用ホルダーの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決する本発明に係る燃料補給容器用ホルダーは、燃料電池本体の燃料収容部内との気密状態を維持しつつ、容積を縮減させて燃料を前記燃料収容部内に所定量注入した後に、容積が復元することによって前記燃料収容部内の雰囲気ガスを吸入する燃料注入操作を行うことにより、前記燃料収容部に、外部から燃料を注入、補給する燃料補給容器を収容するための剛性体からなるホルダーであって、前記燃料補給容器の容積を縮減させる操作部を備えている構成としてある。
【0016】
このような構成とした本発明に係る燃料補給容器用ホルダーによれば、燃料補給容器に充填された燃料を少量ずつ数回に分けて、燃料電池本体の燃料収容部内に連続的に注入する燃料注入操作を可能としつつ、そのような燃料補給容器の携帯を容易にし、また、燃料漏れなどをも有効に回避して、燃料補給容器の携帯時の安全性を高めることができる。
【0017】
このような本発明に係る燃料補給容器用ホルダーにおいて、前記操作部は、回動可能に取り付けられたレバーを備え、回動操作によって前記レバーを押し下げたときに、前記レバーが燃料補給容器を押圧して前記燃料補給容器の容積を縮減させるものとすることができる。
【0018】
また、本発明に係る燃料補給容器用ホルダーは、少なくとも前記レバーを透明性の高い材料にて成形した構成とすることができる。
このような構成とすることにより、収容された燃料補給容器の状態、例えば、燃料補給容器内に残存する燃料の量を目視することができる。
【0019】
また、本発明に係る燃料補給容器用ホルダーは、前記レバーの側面を部分的に囲み、かつ、前記レバーの操作面と面一又は突出するように隆起して形成された隆起部を設けることにより、前記レバーの操作範囲を制限した構成とすることができる。
このような構成とすることにより、鞄などに入れて携行する場合や、誤って落としてしまった場合などに、レバーが不用意に押し下げられないようにすることができる。
【0020】
また、本発明に係る燃料補給容器用ホルダーは、前記燃料補給容器が、前記燃料収容部の容積をVT、燃料注入操作直前の前記燃料収容部内の燃料の量をVTL、前記燃料補給容器の容積をVC、燃料注入操作直前の前記燃料補給容器内の燃料の量をVCL、燃料注入時における前記燃料補給用器の容積縮減量をVs、許容される前記燃料収容部内の圧力をPtf、大気圧をPとしたときに、下記式(1)の関係が成り立つように設計されている構成とすることができる。
(VC−VCL+VT−VTL)/(VC−VCL+VT−VTL−Vs)≦Ptf/P ・・・ (1)
このような構成とすることにより、燃料電池本体の燃料収容部内に燃料を注入するに際して、燃料収容部内の圧力を、許容される一定以下の圧力に維持して、燃料電池の起電部への負荷を抑制することが可能となり、燃料電池の燃料収容部に隣設された起電部の破損を防止することができる。
【0021】
また、本発明に係る燃料補給容器用ホルダーは、前記燃料補給容器が、前記燃料収容部に収容する燃料の目標量をVf、前記目標量Vfになるまでに要する燃料注入操作の回数をX、i回目の燃料注入操作の直前における前記燃料収容部内の燃料の量をVTLi、i回目の燃料注入操作の直前における前記燃料補給容器の燃料の量をVCLiとしたときに、下記式(2)の関係が成り立つように設計されている構成とすることができる。
【数2】
[但し、iは、1〜Xまでの整数]
このような構成とすることにより、上記式(2)が成り立つように燃料注入操作の回数を規定して、燃料収容部内の圧力を許容される一定以下の圧力に維持しつつ、燃料収容部内の燃料が収容可能な最大量に達するまでに要する燃料注入操作の回数が少なくなるように、燃料補給容器を設計することが可能となる。
【0022】
また、本発明に係る燃料補給容器用ホルダーは、前記燃料補給容器の容積の縮減量が一定量を超えないように、前記ホルダーの操作部に制限機構を設けた構成とすることができる。
このような構成とすることにより、燃料補給容器自体には容器の縮減量が一定量を越えないようにするための制限機構を設ける必要がなく、燃料補給容器そのものは簡便な構成としながらも、燃料電池本体の燃料収容部内に燃料を注入する際の注入量が一定以上とならないようにして、燃料電池の燃料収容部に隣設された起電部の破損をより確実に防止することができる。
【0023】
また、本発明に係る燃料補給容器用ホルダーは、前記燃料補給容器の口部を覆うように立ち上がらせた保護壁を設け、前記保護壁にキャップを螺着させるようにした構成とすることができる。
このような構成とすることにより、燃料補給容器の口部が変形などしてキャップのねじ締めに支障が生じたり、キャップが脱落してしまったりするのを防止することができ、このような態様は、可撓性を有する軟質材料により燃料補給容器を形成し、キャップのねじ締めに対する口部の強度の確保が困難となる場合に、特に好ましい。
【0024】
また、本発明に係る燃料補給容器用ホルダーは、胴部の水平方向断面を楕円形状とした前記燃料補給容器が、前記胴部の長径方向に沿う面に前記操作部が対向するようにして収容される構成とすることができる。
このような構成とすることにより、燃料補給容器の胴部の長径方向に沿う面を操作部が押圧して燃料補給容器を弾性変形させるので、燃料容器の容積を縮減させやすくなり、その縮減量の調整なども容易に行うことができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、燃料電池本体の燃料収容部内に、外部から燃料を注入するに際して、充填された燃料を少量ずつ数回に分けて連続的に注入する燃料注入操作が可能とされた燃料補給容器の携帯を容易にし、燃料補給容器からの燃料漏れなどを有効に回避して、携帯時の安全性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の好ましい実施形態について、図面を参照しながら説明する。
ここで、図1は、本発明に係る燃料補給容器用ホルダーに収容される燃料補給容器により、燃料電池本体の燃料収容部Tに、外部から燃料を注入、補給する燃料注入操作の1サイクルを概念的に示す説明図である。
【0027】
図1に示す例において、燃料補給容器Cは、燃料電池本体の燃料収容部Tに、外部から燃料を注入、補給するに際して、燃料収容部T内との気密状態を維持しつつ、燃料収容部Tに対して着脱自在に接合されている。そして、燃料補給容器Cは、その容積を縮減させることによりメタノールなどの燃料(内容液)CLを燃料収容部T内に所定量注入し(図1(b)参照)、その後に、燃料補給容器Cの容積が復元することによって燃料収容部T内の雰囲気ガスを吸入するようにしてある(図1(c)参照)。
【0028】
このような燃料注入操作を行うにあたり、燃料収容部Tへの燃料の注入量が多すぎると、燃料収容部T内の圧力が高くなってしまい、これによって、燃料収容部Tに隣設された図示しない電極や、電解質膜などからなる起電部を破損してしまうことにもなりかねないが、本実施形態では、燃料収容部Tの容積や、起電部が耐えることができる燃料収容部T内の圧力、すなわち、許容される燃料収容部T内の圧力などに応じて、燃料補給容器Cを設計している。
具体的には、燃料補給容器Cは、次のようにして設計することができる。
【0029】
まず、燃料収容部Tの容積をVT、燃料注入操作直前の燃料収容部T内の燃料TLの量をVTLとすると、燃料の残存量がVTLとなったときに、燃料収容部T内において雰囲気ガスが占める体積(燃料収容部T内のヘッドスペース量)は、(VT−VTL)となる(図1(a)参照)。また、一回の燃料注入操作によって燃料収容部T内に注入される燃料の量(補給量)をL1とすると、燃料注入操作時の燃料収容部T内のヘッドスペース量は、(VT−VTL−L1)となる(図1(b)参照)。
したがって、燃料注入操作を行う前の燃料収容部T内の圧力が大気圧Pに等しく、雰囲気ガスを理想気体に近似できるとすると、燃料注入操作時の燃料収容部T内の圧力Ptは、ボイルの法則により下記式(3)で表される。
Pt=P×(VT−VTL)/(VT−VTL−L1) ・・・ (3)
【0030】
一方、燃料補給容器Cの容積をVC、燃料注入操作直前の燃料補給容器C内の燃料CLの量をVCLとすると、燃料注入操作を行う前の燃料補給容器C内において雰囲気ガスが占める体積(燃料補給容器C内のヘッドスペース量)は、(VC−VCL)となる(図1(a)参照)。また、一回の燃料注入操作によって燃料補給容器Cから注出される燃料の量(注出量)をL0、燃料注入操作時における燃料補給容器Cの容積縮減量をVsとすると、燃料注入操作時の燃料収容部T内のヘッドスペース量は、((VC−VCL)−(Vs−L0))となる(図1(b)参照)。
したがって、燃料注入操作を行う前の燃料補給容器C内の圧力が大気圧Pに等しく、雰囲気ガスを理想気体に近似できるとすると、燃料注入操作時の燃料補給容器C内の圧力Pcは、上記と同様に、ボイルの法則により下記式(4)で表される。
Pc=P×(VC−VCL)/((VC−VCL)−(Vs−L0)) ・・・ (4)
【0031】
そして、燃料注入操作時に、燃料収容部T内の圧力Ptと、燃料補給容器C内の圧力Pcとは、圧平衡(Pt=Pc)の関係にあるから、下記式(5)の関係が成り立つ。
P×(VT−VTL)/(VT−VTL−L1)
=P×(VC−VCL)/((VC−VCL)−(Vs−L0)) ・・・ (5)
【0032】
次に、この式(5)を変形すると下記式(6)が得られる。
L1×(VC−VCL)/(VT−VTL)=Vs−L0 ・・・ (6)
ここで、補給量L1と、注出量L0とは等しいから、上記式(6)にL0=L1を代入するとともに、両辺をL1で割ると、下記式(7)が得られる。
(VC−VCL)/(VT−VTL)=Vs/L1−1 ・・・ (7)
また、この式(7)をL1について解くと、下記式(8)が得られる。
L1=Vs×(VT−VTL)/(VC−VCL+VT−VTL) ・・・ (8)
【0033】
以上より、上記式(3)に上記式(8)を代入して整理すれば、燃料注入操作時の燃料収容部T内の圧力Ptは、下記式(9)で表される。
Pt=P×(VC−VCL+VT−VTL)/(VC−VCL+VT−VTL−Vs) ・・・ (9)
したがって、燃料注入操作時の燃料収容部T内の圧力Ptが、許容される燃料収容部T内の圧力Ptfを超えないようにするには、すなわち、Pt≦Ptfとするには、下記式(1)が成り立つ範囲で、燃料補給容器Cを設計すればよい。
(VC−VCL+VT−VTL)/(VC−VCL+VT−VTL−Vs)≦Ptf/P ・・・ (1)
【0034】
ここで、燃料注入操作直前の燃料収容部T内の燃料TLの量VTL、及び燃料注入操作直前の燃料補給容器C内の燃料CLの量VCLは、想定される使用状況に応じて種々の値を取り得るが、例えば、燃料収容部T内の燃料が消費され、燃料収容部Tへの燃料補給が必要となる燃料TLの残存量をVTLとし、燃料補給容器Cに充填する燃料CLの初期量をVCLとすることができる。
また、燃料収容部T内の燃料が目標とする収容量からほとんど消費されていない状況で、初期量を保った燃料補給容器Cから燃料を補給しようとした場合には、燃料収容部T内の圧力Ptが最も高くなるので、このような状況を想定して上記式(1)を適用することもできる。
【0035】
本実施形態にあっては、上記式(1)を満たすように燃料補給容器Cを設計することにより、燃料電池本体の燃料収容部T内に燃料を注入するに際して、燃料収容部T内の圧力を、許容される燃料収容部T内の圧力Ptfを超えないように、一定以下の圧力に維持して、燃料電池の起電部への負荷を抑制することが可能となり、起電部の破損を有効に防止することができる。
【0036】
また、前述したように、燃料補給容器Cは、その容積を縮減させて燃料CLを燃料収容部T内に注入し、その後、容積が復元することによって燃料収容部T内の雰囲気ガスを吸入するようにしてある。このため、本実施形態によれば、燃料補給容器Cに充填された燃料CLを複数回に分けて燃料収容部T内に注入するにあたって、燃料の注入に支障を来すことなく、連続的な燃料注入操作が可能となる。
【0037】
ところで、上記式(1)を満たすように燃料補給容器Cを設計しつつ、燃料注入時の燃料収容部T内の圧力を一定以下に維持するために、数回に分けて燃料を連続的に注入する場合には、その操作回数は可能な限り少なくなるのが好ましい。本実施形態では、上記式(1)を満たすとともに、燃料収容部Tに収容する燃料の目標量Vfになるまでの燃料注入操作回数が少なくなるように、燃料補給容器Cを設計することもできる。
【0038】
すなわち、一回の燃料注入操作によって燃料収容部T内に注入される燃料の補給量L1は、前述したように式(8)で表されるから、i回目の燃料注入操作の直前における燃料収容部T内の燃料の量VTLi、i回目の燃料注入操作の直前における燃料補給容器Cの内容液量VCLiとすれば、i回目の燃料注入操作によって燃料収容部T内に注入される補給量Liは、下記式(10)で表すことができる。
Li=(VT−VTLi)×Vs/(VC−VCLi+VT−VTLi) ・・・(10)
【0039】
したがって、X回の燃料注入操作で、燃料収容部Tへの燃料補給が完了するのであれば、燃料収容部Tに収容する燃料の目標量Vfから、燃料注入操作を開始したときに燃料収容部T内に残存する燃料量、すなわち、燃料注入操作直前の燃料収容部T内の燃料の量VTLを引いたものが、X回の燃料注入操作で燃料収容部T内に注入された燃料の総和に等しくなり、下記式(2)が成立する。
【数3】
[但し、iは、1〜Xまでの整数]
【0040】
このように、上記式(1)が成り立つ範囲で、上記式(2)が成り立つXの最小値により燃料注入操作の回数を規定することによって、燃料収容部T内の圧力を許容される一定以下の圧力に維持しつつ、燃料収容部T内の燃料が、燃料収容部Tに収容する燃料の目標量Vfに達するまでに要する燃料注入操作の回数が少なくなるように、燃料補給容器Cを設計することが可能となる。
【0041】
ここで、VTLi、及びVCLiの初期値、すなわち、i=1のときのVTLi(=VTL)、及びVCLi(=VCL)は、前述したように、想定される使用状況に応じて種々の値を取り得るが、燃料収容部T内の燃料の残存量がほぼ0で、燃料補給容器C内の燃料の量が、燃料収容部Tに収容する燃料の目標量Vfを僅かに超える程度のときに燃料注入操作を開始しようとする場合に、燃料注入操作の回数が最も多くなるので、このような条件下で上記式(2)を適用するのが特に好ましい。
【0042】
なお、燃料収容部T内の燃料が満杯の状態にあるときに、さらに燃料を注入すると、上記式(1)が成り立つか否かに関わらず、燃料収容部T内の圧力が過大となってしまう。このため、燃料収容部Tに収容する燃料の目標量Vfは、燃料収容部Tの容積VTよりも少なく見積もるのが好ましく、具体的には、燃料収容部Tの容積VTの80%程度とするのが好ましい。
【0043】
本実施形態において、燃料補給容器Cの具体的な形状や、寸法などは、上記式(1)、(2)を満たすものである限り、特に限定されないが、通常は、口部C1、胴部C2、及び底部C3を備えたボトル状の形態とすることができる。そして、燃料補給容器Cの口部C1には、例えば、燃料注出口1aが先端側に突出して設けられたカプラー1を取り付け(図2参照)、この燃料注出口1aを燃料収容部Tの燃料注入口に挿入、嵌合することにより、燃料収容部T内との気密状態を維持しつつ、燃料収容部Tに燃料補給容器Cを着脱自在に接合し、その状態で前述したような燃料注入操作が行えるようにすることができる。
【0044】
このとき、燃料収容部T内との気密状態を維持するには、例えば、図13、及び図14に示すようなバルブ機構を用いることができる。
ここで、図13は、燃料補給容器Cと燃料収容部Tとの間の気密状態を維持しながら、両者を接合するためのバルブ機構の一例を概念的に示す説明図であり、燃料補給容器C側の燃料注出口1aに設けられたバルブ機構の概略断面と、燃料収容部T側の燃料注入口2に設けられたバルブ機構の概略断面を示している。また、図14は、燃料収容部T側の燃料注入口2に、燃料補給容器C側の燃料注出口1aを挿入、嵌合させた状態を示している。
【0045】
図示する例において、燃料補給容器C側の燃料注出口1aが、燃料収容部T側の燃料注入口2に挿入されると、燃料補給容器C側の弁体1bと、燃料収容部T側の弁体2aとが当接して互いに押し合うことになる。通常は、燃料収容部T側の弁体2aを付勢するバネ2cの付勢力が、燃料補給容器C側の弁体1bを付勢するバネ1dの付勢力よりも弱く設定されており、先に、燃料収容部T側の弁体2aが弁座2bから離れ、燃料収容部T側のバルブ機構を開放する。このとき、燃料補給容器C側の燃料注出口1aと、燃料収容部T側の燃料注入口2とが密に嵌合するように、両者の間に図示しない適当なシール部材を介在させることで、燃料収容部T内の気密状態を維持することができる。
【0046】
そして、燃料補給容器C側の燃料注出口1aをさらに押し込むと、燃料補給容器C側の弁体1bが弁座1cから離れ、燃料補給容器C側のバルブ機構も開放される。これにより、燃料収容部Tと燃料補給容器Cとが気密状態を維持したまま連通し、前述したような燃料注入操作を行うことによって、燃料補給容器C内の燃料CLを、燃料収容部Tに注入することができる。
なお、特に図示しないが、燃料補給容器Cと燃料収容部Tとの間に、適当な係合手段を設けておけば、燃料補給容器Cと燃料収容部Tとを接合させた状態を容易に維持して、連続的な燃料注入操作を行うことができる。
【0047】
以上のような燃料補給容器Cは、高密度ポリエチレン(HDPE),低密度ポリエチレン(LDPE),直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE),ポリプロピレン(PP),環状オレフィン(COC)等のオレフィン系樹脂、及びこれらの共重合体や、これらのブレンド樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET),ポリエチレンナフタレート(PEN),ポリ乳酸(PLA)等のポリエステル系樹脂、及びこれらの共重合体や、これらのブレンド樹脂などの合成樹脂材料を用いて、ダイレクトブロー成形や、二軸延伸ブロー成形などの適宜手段により所定形状に成形することによって得ることができるが、燃料補給容器C内の燃料CLの残量を目視できるように、透明性のある材料を用いるのが好ましい。また、上記した合成樹脂材料のなかでも、燃料注入操作時の容積の縮減と、復元が容易な可撓性を有する材料によって燃料補給容器Cを成形するのが好ましい。
【0048】
また、このような合成樹脂材料を用いて成形される燃料補給容器Cは、単層構成とするに限らず、多層構成とすることもできる。
燃料補給容器Cを多層構成とする場合には、少なくとも最内層は、上記した合成樹脂材料を用いて形成するのが好ましい。また、中間層として、燃料に対するバリア機能を有する樹脂(例えば、環状オレフィンや、ポリアミド系樹脂など)、接着性樹脂などで形成される機能性樹脂層の他、リグラインド層などを設けてもよい。
【0049】
また、本実施形態において、燃料補給容器Cは、その携帯性を考慮して、図2に示すような、剛性体からなるホルダー10に収納される。これにより、燃料補給容器Cを鞄などに入れて携行する際に、燃料補給容器Cが、鞄のなかで押し潰されるなどして、燃料が漏れ出してしまうというような不具合を有効に回避して、燃料補給容器Cの携帯時の安全性を高めることができる。このような態様は、可撓性を有する材料によって燃料補給容器Cを成形した場合に、特に好適である。
【0050】
図示する例において、ホルダー10は、縦方向に分割される表面部材11と裏面部材12とからなっている。そして、表面部材11側に設けられた係合爪11aを、裏面部材12側に設けられた係合孔12aに係合させることによって、一体化された表面部材11と裏面部材12との間に、燃料補給容器Cが収容されるようにしてある。
ここで、図2(a)は、燃料補給容器Cをホルダー10に収容した状態を示す一部を切り欠いた正面図であり、図2(b)は、燃料補給容器Cをホルダー10に収容した状態を示す側面図である。また、図3は、ホルダー10を、表面部材11と裏面部材12とに分割した状態を示しており、図4は、図3のB−B要部断面図である。
【0051】
ホルダー10をなす表面部材11と裏面部材12は、それぞれのほぼ中央に開口部20を備えており、この開口部20には、下端側を軸にして、これらの部材11,12の内側に向かって回動可能とされたレバー30が取り付けられている。このようにして取り付けられたレバー30は、その回動操作によってレバー30を押し下げたときに、レバー30の作用部30aが燃料補給容器Cに当接し、レバー30を押し下げた分だけ燃料補給容器Cの容積を縮減させて、前述したような燃料注入操作を行うための操作部として機能する(図6参照)。
【0052】
ここで、図6は、図2(a)のA−A断面に相当し、図6(a)は、レバー30が定常位置にある状態を示しており、図6(b)は、レバー30を押し下げた状態を示している。図6(b)に示すように、レバー30を押し下げることにより、レバー30の作用部30aに押圧されて燃料補給容器Cが弾性変形するが、燃料補給容器Cはレバー30を押し下げた方向のみならず、図2(a)に一点破線で示すように、レバー30の押し下げ方向に直交する方向にも弾性変形する。このため、ホルダー10の内寸は、このような方向への燃料補給容器Cの弾性変形を考慮して設計するのが好ましい。
より具体的には、燃料補給容器Cの容積の縮減量の最適化を図り、この最適な縮減量に相当する燃料注出操作を行う際の燃料補給容器Cの変形量(通常、燃料補給容器Cは、レバー30の押し下げ方向に直交する方向に変形する)を求め、このときの変形量を吸収できる程度の余裕をもつように、ホルダー10の内寸を設計するのが好ましい。
【0053】
また、このようなホルダー10に燃料補給容器Cを収納するにあたっては、燃料補給容器Cの胴部C2の水平断面を楕円形状とするとともに、胴部の長径方向に沿う面にレバー30が対向するようにして、燃料補給容器Cがホルダー10に収容されるようにするのが好ましい。
このようにすれば、前述したような手段により燃料補給容器Cを成形するに際し、一般には、燃料補給容器Cの胴部C2の長径方向に沿う面の方が、成形時に短径方向に沿う面に比べて押圧する力が少なくてすむので、この面をレバー30の作用部30aが押圧して燃料補給容器Cを弾性変形させるようにすれば、燃料容器Cの容積を縮減させやすくなり、その縮減量の調整なども容易に行うことができる。
【0054】
また、図5に、裏面部材12の内側からみたレバー30の取り付け状態を示すように、本実施形態において、レバー30は、下端側に延長するアーム31を有している。そして、図中鎖線で囲む部分を拡大して示すように、アーム31の先端側に設けられた突部32を、裏面部材12に設けられた突片12bの穿孔12cに挿通することにより、裏面部材12に対して、レバー30が回動可能となるように取り付けられている。
なお、図示する例において、レバー30は、回動軸が下端側に位置するように取り付けられているが、回動軸は上端側に位置するようにしてもよく、レバー30が燃料注入操作を行うための操作部として機能するかぎり、その具体的な取り付け手段は限定されない。
【0055】
レバー30を押し下げる力を緩めると、燃料補給容器Cは、その弾性力とヘッドスペースの内圧により容積を復元し、これによりレバー30は押し戻されて定常位置に復帰するが、このとき、レバー30の作用部30a側の端縁と、開口部20との間に隙間が生じてしまうと、異物が入り込んでしまったり、レバー30を再度押し下げて燃料注入操作を繰り返す際に、この隙間にレバー30を操作する使用者の手指を挟んでしまったりするなどの不具合が考えられる。
このため、レバー30には、開口部20の縁部に内側から当接するストッパー33が設けられており、これによって、裏面部材12の外側に向かうレバー30の回動範囲を規制して、レバー30の作用部30a側の端縁と、開口部20との間に隙間が生じないようにするとともに、例えば、高温環境下で燃料補給容器Cが膨張したとしても、レバー30が外側に突出してしまわないようにしている。
【0056】
なお、特に図示しないが、表面部材11に対しても、同様にしてレバー30を取り付けることができる。
【0057】
また、本実施形態において、表面部材11と裏面部材12には、図示するように、それぞれその上方及び下方に、レバー30の上端側と下端側の側面を部分的に囲み、かつ、レバー30の操作面と面一となるように基準面10aから隆起して形成された隆起部10bを設けることができる。これにより、レバー30の操作範囲を、レバー30の中央部分の操作し易い部位に制限し、鞄などに入れて携行する場合や、誤って落としてしまった場合などに、レバー30が不用意に押し下げられないようにしている。
したがって、図示する例にあっては、使用者は、レバー30の中央部分の操作面を、例えば、親指と人差し指とで挟むようにして押し下げることによって、燃料注入操作を行うことができるようになっている。
なお、レバー30の操作範囲を、レバー30の中央部分の操作し易い部位に制限することができれば、隆起部10bは、レバー30の操作面から突出するように隆起して形成されていてもよい。
【0058】
また、ホルダー10には、レバー30を押し下げて燃料注入操作を行うときに、燃料補給容器Cの容積の縮減量が一定量を超えないようにする制限機構を設けておくことができる。このような制限機構の具体的な構成は特に限定されないが、例えば、レバー30の押し下げ可能な量、すなわち、レバー30の操作面と、基準面10aとの差tを適宜調整することで、レバー30の押し下げ量が一定以上にならないようにして、燃料補給容器Cの容積の縮減量が一定量を超えないように制限することができる。
このような制限機構を設けることにより、燃料注入操作時における燃料補給容器Cの容積縮減量Vsを一定として、すなわち、燃料電池本体の燃料収容部T内への燃料の注入量を一定として、起電部の破損をより確実に防止することができる。
【0059】
また、レバー30の横幅は任意に設定することができるが、図8に示すように、レバー30の横幅Wを細く(例えば、13mm以下)することにより、レバー30を押し下げるときに、使用者の指がレバー30の操作面をはみ出して、レバー30を押し切ったときに基準面10aに当たり、それ以上レバー30が押し下げられないようになっているのが好ましい。これにより、よりいっそう確実に、燃料注入時の燃料補給容器Cの容積縮減量Vsを一定とすることができる。
【0060】
また、操作部としてのレバー30は、図7に示すように、ホルダー10の片面だけに設けるようにしてもよい。このような態様は、燃料注入操作の際に、ホルダー10の姿勢を安定させることができるとともに、ホルダー10の他方の面には、使用上の注意などの注意書きを印刷、又は貼り付けるためのスペースとすることができるという利点がある。
【0061】
また、本実施形態では、燃料補給容器Cの口部C1にねじ山を設け、口部C1にキャップ40が螺着されるようにすることができるが、例えば、子どもが誤ってキャップを外してしまったりすることがないように、キャップ40としては、チャイルドレジスタンス機能を備えたものを用いるのが好ましい。チャイルドレジスタンス機能を備えたキャップ40としては、図9に示すような外キャップと、図10に示すような内キャップとからなる二重構造を有しているものを、その一例として挙げることができる。
【0062】
図9は、外キャップ41の説明図であり、図9(a)は外キャップ41の正面図、図9(b)は図9(a)のC−C断面図、図9(c)は外キャップ41の底面図である。これらの図に示すように、外キャップ41の天面の内側には、複数の垂下片41aが周方向に沿って設けられている。
また、図10は、内キャップ42の説明図であり、図10(a)は内キャップ42の正面図、図10(b)は図10(a)のD−D断面図、図10(c)は内キャップ41の平面図である。これらの図に示すように、内キャップ42の内周面にはねじ溝が形成されており、このねじ溝によって、燃料補給容器Cの口部C1にキャップ40が螺着される。さらに、内キャップ42の上面側には、立上り面42bと傾斜面42cとに挟まれて溝部42aが形成されており、外キャップ41内に内キャップ42を挿入したときに、外キャップ41の垂下片41aが、内キャップ42の溝部42aに入り込むようになっている。
【0063】
このような外キャップ41と内キャップ42とは、内キャップ42が、外キャップ41内で相対的に上下動可能となっているとともに、外キャップ41の抜け止め41bと、内キャップ42の係止部42dとにより、内キャップ42が外キャップ41から容易に外れないようにしてある。そして、図11に示すように、燃料補給容器Cの口部C1からキャップ40を外そうとして、単に図中矢印方向にキャップを回しただけでは、外キャップ41の垂下片41aが、内キャップ42側の傾斜面42cを乗り上げて(図11(b)参照)、内キャップ42に対して外キャップ41が空回りするようになっている(図11(c)参照)。
逆に、キャップ40を燃料補給容器Cの口部C1に螺着するときには、図12に示すように、図中矢印方向に外キャップ41を回せば、外キャップ41の垂下片41aが、内キャップ42側の立上り面42bに当接して(図12(b)参照)、外キャップ41とともに、内キャップ41も回転して、キャップ40を容易に締め付けることができるようになっている。
なお、図11、図12では、着目する一つの垂下片41aのみを図示し、これを斜線で示している。
【0064】
一方、燃料補給容器Cの口部C1からキャップ40を外すには、内キャップ42に対して外キャップ41が空回りしないように、外キャップ41に下向きの力を加えて、外キャップ41の垂下片41aの先端を、内キャップ42の傾斜面42cに押し付けながら回すようにすればよい。これにより、外キャップ41とともに、内キャップ41も回転して、キャップ40を燃料補給容器Cの口部C1から外すことができる。
【0065】
また、本実施形態にあっては、燃料補給容器Cの口部C1に直接キャップ40を螺着させる態様に限らず、図7に示すように、燃料補給容器Cの口部C1を覆うようにホルダー30から立ち上がる保護壁13を設け、この保護壁13に形成されたねじ山にキャップ40を螺着するようにしてもよい。
特に、燃料補給容器Cを、可撓性を有する軟質材料により形成した場合には、キャップ40のねじ締めに対する口部C1の強度の確保が困難となるため、このような態様は、燃料補給容器Cの口部C1が変形などしてキャップ40のねじ締めに支障が生じたり、キャップ40が脱落してしまったりするのを防止する上でも好ましい。
【0066】
さらに、このような保護壁13を設けるにあたり、燃料補給容器Cの口部C1とカプラー1との接合部を保護壁13で覆い隠すことによって、カプラー1の取り外しを困難とし、燃料補給容器Cの口部C1からカプラー1が不用意に取り外されてしまうのを防止することもできる。
【0067】
本実施形態において、ホルダー10を構成する表面部材11、裏面部材12、レバー30、キャップ40は、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS),ポリスチレン(PS),アクリロニトリル−スチレン樹脂(AS),ポリエチレンテレフタレート(PET),ポリブチレンテレフタレート(PBT),ポリエチレンナフタレート(PEN),ポリカーボネート(PC),ポリプロピレン(PP),ポリエチレン(PE),ポリアセタール(POM),ポリメチルメタクリレート(PMMA),変性ポリフェニレンエーテル(PPE)などの合成樹脂材料を単独で、又は二種以上ブレンドして用い、あるいは、これらのものに必要に応じてガラス繊維や、タルクなどの充填材を配合した複合材料として用いて、射出成形などにより所定形状に成形することができるが、少なくともレバー30を透明性の高い材料にて成形して、収容された燃料補給容器Cの状態、例えば、燃料補給容器C内に残存する燃料の量などを目視できるようにするのが好ましい。一般に、耐落下衝撃性などの高い材料には、透明性の高いものが少ないので、レバー30を透明性の高い材料で形成するのは、ホルダー10の耐落下衝撃性を確保しつつ、燃料補給容器C内の燃料の残量を目視できるようにする上で、特に好適である。
【0068】
以上、本発明について、好ましい実施形態を示して説明したが、本発明は、前述した実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲で種々の変更実施が可能であることは言うまでもない。
【0069】
例えば、前述した実施形態では、縦方向に分割される表面部材11と裏面部材12とからなるホルダー10に、燃料補給容器Cが収容されるようにしてあるが、ホルダー10の構成はこれに限定されず、特に図示しないが、横方向に分割可能として燃料補給容器Cを収容するようにしたものであってもよい。
【0070】
また、前述した実施形態では、表面部材11側に設けられた係合爪11aを、裏面部材12側に設けられた係合孔12aに係合させることによって、一体化された表面部材11と裏面部材12との間に、燃料補給容器Cが収容されるようにしてあるが、燃料補給容器Cに、燃料としてメタノールなどが充填される場合には、安全性確保の観点からホルダー10から燃料補給容器Cが容易に取り外せないようにすることが求められる。
【0071】
このためには、例えば、図15に示すように、表面部材11側に設けられた隣り合う係合爪11aの間に挿入される突片12dを裏面部材12側に設け、表面部材11を変形させて係合爪11aと係合孔12aとの係合を解除しようとする力に抗して、表面部材11と裏面部材12とが容易に外れないようにすることができる。
ここで、図15(a)は、ホルダー10を、表面部材11と裏面部材12とに分割した状態を示しており、図15(b)は、図15(a)のC−C要部断面図、図15(c)は、図15(a)のD−D要部断面図である。
【0072】
また、特に図示しないが、表面部材11と裏面部材12とのそれぞれに、係合爪11aと係合孔12aとを交互に配置して、これらを互いに係合させるようにしたり、表面部材11と裏面部材12とを接着、又は溶着により接合したりすることによっても、表面部材11と裏面部材12とが容易に外れないようにすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
以上説明したように、本発明は、ダイレクトメタノール型燃料電池など、改質器を用いることなくアルコール類などの液体燃料を直接供給して電気化学反応を生じさせる方式の燃料電池において、燃料の残量が少なくなった本体側の燃料収容部内に、外部から燃料を注入、補給する燃料補給容器を収容するための燃料補給容器用ホルダーを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明に係る燃料補給容器用ホルダーに収容される燃料補給容器により、燃料電池本体の燃料収容部に外部から燃料を注入、補給する燃料注入操作の一サイクルを概念的に示す説明図である。
【図2】燃料補給容器をホルダーに収容した状態の一例を示す説明図である。
【図3】ホルダーを表面部材と裏面部材とに分割した状態を示す説明図である。
【図4】図3のB−B要部断面図である。
【図5】裏面部材の内側からみたレバーの取り付け状態を示す説明図である。
【図6】燃料注入操作時のレバーの動作を示す説明図である。
【図7】燃料補給容器をホルダーに収容した状態の他の例を示す説明図である。
【図8】燃料補給容器をホルダーに収容した状態の他の例を示す説明図である。
【図9】キャップを構成する外キャップの一例を示す説明図である。
【図10】キャップを構成する内キャップの一例を示す説明図である。
【図11】内キャップに対して外キャップが空回りする際の動作を示す説明図である。
【図12】キャップを締め付ける際の動作を示す説明図である。
【図13】燃料補給容器を燃料収容部に接合するためのバルブ機構の一例を概念的に示す説明図である。
【図14】燃料収容部の燃料注入口に燃料補給容器の燃料注出口を嵌合させた状態を概念的に示す説明図である。
【図15】ホルダーの他の例において、表面部材と裏面部材とに分割した状態を示す説明図である。
【符号の説明】
【0075】
1 カプラー
1a 燃料注出口
2 燃料注入口
10 ホルダー
10b 隆起部
13 保護壁
30 レバー(操作部)
C 燃料補給容器
T 燃料収容部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池本体の燃料収容部内との気密状態を維持しつつ、容積を縮減させて燃料を前記燃料収容部内に所定量注入した後に、容積が復元することによって前記燃料収容部内の雰囲気ガスを吸入する燃料注入操作を行うことにより、前記燃料収容部に、外部から燃料を注入、補給する燃料補給容器を収容するための剛性体からなるホルダーであって、
前記燃料補給容器の容積を縮減させる操作部を備えていることを特徴とする燃料補給容器用ホルダー。
【請求項2】
前記操作部が、回動可能に取り付けられたレバーを備え、回動操作によって前記レバーを押し下げたときに、前記レバーが燃料補給容器を押圧して前記燃料補給容器の容積を縮減させる請求項1に記載の燃料補給容器用ホルダー。
【請求項3】
少なくとも前記レバーを透明性の高い材料にて成形した請求項2に記載の燃料補給容器用ホルダー。
【請求項4】
前記レバーの側面を部分的に囲み、かつ、前記レバーの操作面と面一又は突出するように隆起して形成された隆起部を設けることにより、前記レバーの操作範囲を制限した請求項2〜3のいずれか1項に記載の燃料補給容器用ホルダー。
【請求項5】
前記燃料補給容器が、
前記燃料収容部の容積をVT、
燃料注入操作直前の前記燃料収容部内の燃料の量をVTL、
前記燃料補給容器の容積をVC、
燃料注入操作直前の前記燃料補給容器内の燃料の量をVCL、
燃料注入時における前記燃料補給用器の容積縮減量をVs、
許容される前記燃料収容部内の圧力をPtf、
大気圧をP
としたときに、下記式(1)の関係が成り立つように設計されている請求項1〜4のいずれか1項に記載の燃料補給容器用ホルダー。
(VC−VCL+VT−VTL)/(VC−VCL+VT−VTL−Vs)≦Ptf/P ・・・ (1)
【請求項6】
前記燃料補給容器が、
前記燃料収容部に収容する燃料の目標量をVf、
前記目標量Vfになるまでに要する燃料注入操作の回数をX、
i回目の燃料注入操作の直前における前記燃料収容部内の燃料の量をVTLi、
i回目の燃料注入操作の直前における前記燃料補給容器の燃料の量をVCLi
としたときに、下記式(2)の関係が成り立つように設計されている請求項5に記載の燃料電池に用いる燃料補給容器。
【数1】
[但し、iは、1〜Xまでの整数]
【請求項7】
前記燃料補給容器の容積の縮減量が一定量を超えないように、前記操作部に制限機構を設けた請求項1〜6のいずれか1項に記載の燃料補給容器用ホルダー。
【請求項8】
前記燃料補給容器の口部を覆うように立ち上がらせた保護壁を設け、前記保護壁にキャップを螺着させるようにした請求項1〜7のいずれか1項に記載の燃料補給容器用ホルダー。
【請求項9】
胴部の水平方向断面を楕円形状とした前記燃料補給容器が、前記胴部の長径方向に沿う面に前記操作部が対向するようにして収容される請求項1〜8のいずれか1項に記載の燃料補給容器用ホルダー。
【請求項1】
燃料電池本体の燃料収容部内との気密状態を維持しつつ、容積を縮減させて燃料を前記燃料収容部内に所定量注入した後に、容積が復元することによって前記燃料収容部内の雰囲気ガスを吸入する燃料注入操作を行うことにより、前記燃料収容部に、外部から燃料を注入、補給する燃料補給容器を収容するための剛性体からなるホルダーであって、
前記燃料補給容器の容積を縮減させる操作部を備えていることを特徴とする燃料補給容器用ホルダー。
【請求項2】
前記操作部が、回動可能に取り付けられたレバーを備え、回動操作によって前記レバーを押し下げたときに、前記レバーが燃料補給容器を押圧して前記燃料補給容器の容積を縮減させる請求項1に記載の燃料補給容器用ホルダー。
【請求項3】
少なくとも前記レバーを透明性の高い材料にて成形した請求項2に記載の燃料補給容器用ホルダー。
【請求項4】
前記レバーの側面を部分的に囲み、かつ、前記レバーの操作面と面一又は突出するように隆起して形成された隆起部を設けることにより、前記レバーの操作範囲を制限した請求項2〜3のいずれか1項に記載の燃料補給容器用ホルダー。
【請求項5】
前記燃料補給容器が、
前記燃料収容部の容積をVT、
燃料注入操作直前の前記燃料収容部内の燃料の量をVTL、
前記燃料補給容器の容積をVC、
燃料注入操作直前の前記燃料補給容器内の燃料の量をVCL、
燃料注入時における前記燃料補給用器の容積縮減量をVs、
許容される前記燃料収容部内の圧力をPtf、
大気圧をP
としたときに、下記式(1)の関係が成り立つように設計されている請求項1〜4のいずれか1項に記載の燃料補給容器用ホルダー。
(VC−VCL+VT−VTL)/(VC−VCL+VT−VTL−Vs)≦Ptf/P ・・・ (1)
【請求項6】
前記燃料補給容器が、
前記燃料収容部に収容する燃料の目標量をVf、
前記目標量Vfになるまでに要する燃料注入操作の回数をX、
i回目の燃料注入操作の直前における前記燃料収容部内の燃料の量をVTLi、
i回目の燃料注入操作の直前における前記燃料補給容器の燃料の量をVCLi
としたときに、下記式(2)の関係が成り立つように設計されている請求項5に記載の燃料電池に用いる燃料補給容器。
【数1】
[但し、iは、1〜Xまでの整数]
【請求項7】
前記燃料補給容器の容積の縮減量が一定量を超えないように、前記操作部に制限機構を設けた請求項1〜6のいずれか1項に記載の燃料補給容器用ホルダー。
【請求項8】
前記燃料補給容器の口部を覆うように立ち上がらせた保護壁を設け、前記保護壁にキャップを螺着させるようにした請求項1〜7のいずれか1項に記載の燃料補給容器用ホルダー。
【請求項9】
胴部の水平方向断面を楕円形状とした前記燃料補給容器が、前記胴部の長径方向に沿う面に前記操作部が対向するようにして収容される請求項1〜8のいずれか1項に記載の燃料補給容器用ホルダー。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2007−80585(P2007−80585A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−264231(P2005−264231)
【出願日】平成17年9月12日(2005.9.12)
【出願人】(000003768)東洋製罐株式会社 (1,150)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年9月12日(2005.9.12)
【出願人】(000003768)東洋製罐株式会社 (1,150)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]