説明

燃料透過バリアを含むガスケット

内燃エンジン(10)中のガスケットジョイントを介する燃料透過を減ずる方法は、ガスケットを使用状態に置く前にハロゲン化媒体中でそのガスケットを表面処理することを含んでいる。アクリル系、EPDM、またはHNBRのような低コストのエラストマーが、ガスケット本体に使用され得る。ハロゲン化媒体は、ガスケットが漬けられる液漕またはガス槽のいずれかを含み得る。本発明によって処理されたガスケットは化学的に改変された外表面を有し、それは比較的低コストで燃料透過抵抗を実質的に高める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般的には燃料透過を減ずるように処理されたガスケットに関し、より特定的には燃料透過に対するガスケット抵抗を実質的に高めるようにハロゲン化溶液で表面処理されたポリマガスケットに関する。
【背景技術】
【0002】
内燃エンジンにおいては、高度に揮発性の燃料が燃焼過程に用いられる。常に増大している排出規制は、環境への未燃燃料の漏れを最小にするようにエンジンや自動車の製造業者を動機付ける。典型的には、未燃燃料は、種々のボルト締め部品をシールするためにエンジン全体に用いられるタイプの静的ガスケットを介する透過によって漏れる。燃料配送経路中のガスケットは特に燃料透過に対して弱く、エンジンのオイル側のガスケットも危険にさらされている。オイル交換の期間において燃料は20%までエンジンオイルに混じるので、オイルパンのガスケットも燃料透過に対して弱い。
【0003】
豊富で低コストのアクリル系エラストマーから造られたガスケットは、非燃料経路の用途において典型的に用いられる。燃料経路ガスケットを介する燃料蒸気の透過を減ずるために、先行技術はフッ素系エラストマーからガスケットを製造することを教示している。フッ素系エラストマー材料は燃料透過バリアとして効果的であるが、アクリル系エラストマーから造られた同じガスケットに比べて典型的には4倍以上高価である。換言すれば、大きなコスト差のために、均一なフッ素系エラストマー材料から造られたガスケットは、主として吸入マニフォルドや他の燃料経路の用途において用いられてきた。他方、よりコスト効率のよいアクリル系、EPDM、またはHNBRのエラストマーガスケットは、少量の燃料透過が許容され得ると考えられる弁カバーやオイルパンのガスケットなどに用いられる傾向にある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
エンジンからの燃料の漏れについての環境理由からの高い関心のために、燃料透過に対するガスケット抵抗をより完全に内燃エンジンに装備する必要性がある。しかしながら、この要求は、エンジンガスケット全体をフッ素系エラストマーから作製する先行技術の解決策の高コストで埋め合わせ(代償)されなければならない。
【0005】
本発明は、内燃エンジン中のガスケットジョイントを介する燃料透過を減ずる方法を提供することによって、先行技術によるガスケットシステムにおける欠点と不利益を克服する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の方法は、第1のエンジン部品を準備し、その第1のエンジン部品に直接結合するように適合される第2のエンジン部品を準備し、そして対向する表面間で液密界面を確率する目的でそれらの間で圧縮されるタイプのガスケットを準備するステップを含んでいる。そのガスケットは、水素原子を包含する外表面を含んでいる。本発明の方法はさらに、第1のエンジン部品と第2のエンジン部品との間で液密シール界面を生じるようにそれらの間でガスケットを圧縮することを含んでいる。本発明の利点は圧縮ステップに先立ってハロゲン化媒体中でガスケットを表面処理するステップによって達成され、ハロゲン化媒体中のハロゲン原子はガスケットの外表面における水素原子と置換し、その外表面の化学組成を変化させて、ガスケットの燃料透過抵抗を実質的に高める。
【発明の効果】
【0007】
先行技術の解決策は均一なフッ素系エラストマーからガスケットを製造することを要したが、本発明はハロゲン化プロセスにおいてガスケットの表面を処理するだけである。それによって、ガスケットの外表面が化学的に改変され、当初の水素原子がハロゲン原子に置換されて、ガスケットの露出表面に燃料抵抗バリアが形成される。したがって、本発明によって処理されるとき、構成材料または基材として標準的な低コストのエラストマーを使用することによって、実質的なコスト低減が実現され得る。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】内燃エンジンの簡略化された分解図であり、分解された数個の部品とともにエンジンブロックを描いており、各部品は未燃燃料にさらされる関連ガスケットを伴っている。
【図2】本発明のハロゲン化プロセスの模式図であり、ガスケットはハロゲン化表面処理を生じる液槽内に漬けられる。
【図3】図2に類似の模式図であるが、ハロゲン化ガス槽内へガスケットを漬す代替的技術を示している。
【図4】本発明によって処理されて使用状態に置かれたガスケットを描く拡大模式図であり、左側から右側への燃料蒸気の透過が抑制されている。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の上述および他の特徴と利点は、添付図面および以下の詳細な説明と関連して検討することによって、より容易に理解されるであろう。
【0010】
図面において、同じ参照番号は数図を通して同じまたは対応する部分を示し、内燃エンジンは分解図において全体として10で示されている。エンジン10は、通常ネジ締め具で多くのエンジン部品が取付けられるブロック12を含んでいる。例えば、オイルパン14はブロック12の下側に取付けられ、吸入マニフォールド16はシリンダヘッド18を介して間接的にブロック12に取付けられる。弁カバー20も、シリンダヘッド18によって間接的にブロック12に取付けられる。
【0011】
ガスケットは、取付けられる部品間の液密界面を確立するために設けられる。オイルパン14の場合、オイルパンガスケット22が設けられる。ここで、オイルパン14は、エンジンブロック12の底部への直接結合に適合させられる周縁部24を含んでいる。使用において、ガスケット22はエンジンブロック12とオイルパン14の周縁部24との間で圧縮され、それら2つのエンジン部品の間に液密界面を確立する。同様に、吸入マニフォールドガスケット26は、吸入マニフォールド16の周縁部28とシリンダヘッド18の適合表面との間で圧縮される。また、弁カバーガスケット30は、弁カバー20の周縁部32とシリンダヘッド18の対向表面との間で圧縮される。実際、他のエンジン部品も同様に直接的または間接的にエンジンブロック12に結合され、それらの間にガスケットが挿入されて密閉シール界面を完成するように圧縮される。上述のガスケットは、燃料透過の影響を受けやすいエンジンにおける静的ガスケットの単なる代表的例示である。
【0012】
これらのエンジンガスケットの多くは吸入中の揮発性燃料またはエンジンオイル内の汚染物としての揮発性燃料にさらされるので、上記ガスケット22、26、および30に限定されずに含まれる多くのエンジンガスケットの燃料透過抵抗を高めることは環境的に利益である。本発明は、使用状態にされる前にハロゲン化媒体中でガスケットを表面処理するステップを含んでいる。そのハロゲン化プロセス中に、ハロゲン化のガスまたは溶液内のハロゲン原子はガスケットの外表面における水素原子と置換し、そのガスケットの外表面の化学組成を変える。このハロゲン化処理は、その処理されたガスケットの燃料透過抵抗を実質的に高める。
【0013】
好ましくは、ガスケットは、炭化水素化合物を含むタイプのアクリルのような低コストのエラストマー材料から作製される。しかしながら、EPDMまたはHNBRのような他の低コストのエラストマー化合物もアクリルの代わりに用いられ得る。実際、水素元素(H)を含む任意の適当なエラストマーが、本発明において用いられ得る。ハロゲン化媒体中のハロゲンが例えばフッ素元素として選択されれば、3つの潜在的反応機構が以下の式で表される。
【0014】
【化1】

【0015】
これらの反応機構は、本例ではフッ素(F)であるハロゲン原子がガスケット表面層の材料組成中の水素原子と置換する少なくとも3通りを示している。臭素(Br)および塩素(Cl)のハロゲンに関する同様な反応機構が、当業者によって容易に記載され得る。
【0016】
図2は本発明による表面処理技術を図解しており、代表的なガスケット34が、液状のハロゲン化媒体38を含むタンク36内に漬けられる。ハロゲン元素を含む溶液38は、バーナ40で図示されているように加熱によって励起されてもよい。ガスケット34が溶液38中に漬けられている間に、その媒体中のハロゲン原子は上述の反応機構の少なくとも1つにしたがってガスケット34の材料組成中の水素原子と化学的に置換させられる。そして、処理されたガスケット34’はタンク36から除去されて、ファン42で図示されているように乾燥させられる。勿論、他の乾燥技術が採用されてもよい。
【0017】
ハロゲン化媒体が液体状態で保持されている図2に関して上述された製造方法は、ハロゲン化媒体中のハロゲンが臭素(Br)または塩素(Cl)であるときに、おそらく最も良好に用いられる。媒体中のハロゲンとしてフッ素(F)を使用することが望まれるとき、その媒体を液体状態ではなくてガス状態で維持することが好まれるであろう。図3は例示的な製造方法を図解しており、フッ素48を含むガス状媒体が供給パイプ50を通して導入されるチャンバ46内にガスケット44が置かれる。したがって、表面処理は噴煙プロセス中で行なわれ、ガス状媒体中のフッ素原子が、上述の反応機構の1つ(またはそれ以上)にしたがって、エラストマーガスケット44の材料組成中の水素原子と化学的に置換させられる。チャンバ46から除去された表面処理後のガスケット44’は、燃料透過
の抑制層として機能する外表面を有している。先述の例のように、チャンバ46内のガス状ハロゲン化媒体48の温度を高めるために熱源52を使用することは、ハロゲン化プロセスをより促進させる励起雰囲気を生じるために効果的である。勿論、本発明にしたがってハロゲン化プロセスを実行する他の技術や方法が可能であって、ここで述べられたのと等しくまたはより効果的な適当な状況において適用され得る。
【0018】
図4は、燃料蒸気が存在するガスケット用途で用いられている本発明を概念的に図解している。燃料分子(すなわち、炭化水素)60が、ガス状または蒸気の状態で表されている。方向矢印62は透過方向を示し、ガスケット56の左側は内燃エンジン領域であって、ガスケット56の右側は外部環境を表している。アクリル系エラストマーから造られた先行技術のガスケットは、燃料蒸気60の透過に対して評価し得るバリアを生じないであろう。しかし、図4に示されているように、本発明のガスケット56は透過を抑制し、実際に燃料蒸気分子60の実質的な量が外部環境へ透過することを阻止する。この高度に図解的な断面において示されているように、ガスケット56の処理された層は、表面54下の所定深さまで延びているだけである。このことは、ガスケットの全材料組成がフッ素系エラストマーから製造される先行技術から識別される。すなわち、ガスケット56のコア58は、ハロゲン化プロセスによって全体として影響されずに残る。
【0019】
上述の発明は適切な法的標準に沿って述べられており、すなわち明細書は性質において限定的なものでなくて例示的なものである。開示された実施例に対する変更や修正が当業者にとって明らかであり、それらは本発明の範囲に属する。したがって、本発明に与えられる法的保護の範囲は、特許請求の範囲によってのみ決定され得る。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明は、内燃エンジン中のガスケットジョイントを介する燃料透過を減ずる方法を提供することによって、先行技術によるガスケットシステムにおける欠点と不利益を克服することができる。
【符号の説明】
【0021】
10 内燃エンジン、12 エンジンブロック、14 オイルパン、16 吸入マニフォールド、18 シリンダヘッド、20 弁カバー、22、26、30、34、34’、44、44’、56 ガスケット、54 ガスケット表面、58 ガスケットコア、36、46 チャンバ、38 液状ハロゲン化媒体、48 ガス状ハロゲン化媒体、40、52 熱源、60 炭化水素分子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃エンジン中のガスケットジョイントを介する燃料透過を減ずる方法であって、
第1のエンジン部品を準備するステップと、
前記第1のエンジン部品に直接結合されるように適合された第2のエンジン部品を準備するステップと、
対向面の間で液密界面を確立する目的のためにそれらの間で圧縮されるタイプのガスケットを準備するステップとを含み、前記ガスケットは水素原子を包含する外表面を含み、
前記第1のエンジン部品と前記第2のエンジン部品との間で液密シール界面を生じるためにそれらの間で前記ガスケットを圧縮するステップをさらに含み、
前記ガスケットを準備するステップは、前記圧縮するステップの前にハロゲン化媒体中で前記ガスケットを表面処理することを含み、前記ハロゲン化媒体中のハロゲン原子は前記ガスケットの外表面中の水素原子と置換して前記外表面の化学組成を変化させて、前記ガスケットの燃料透過抵抗を実質的に高めることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記ガスケットを準備するステップは、水素元素(H)を含有するエラストマーから前記ガスケットを作製することを含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ガスケットを表面処理するステップは、塩素含有媒体中に前記ガスケットを漬けることを含む請求項2に記載の方法。
【請求項4】
塩素含有媒体中に前記ガスケットを漬ける前記ステップは、前記塩素含有媒体を液体状態で維持することを含む請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記ガスケットを表面処理するステップは、臭素含有媒体中に前記ガスケットを漬けることを含む請求項2に記載の方法。
【請求項6】
臭素含有媒体中に前記ガスケットを漬ける前記ステップは、前記臭素含有媒体を液体状態で維持することを含む請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記ガスケットを表面処理するステップは、フッ素含有媒体中に前記ガスケットを漬けることを含む請求項2に記載の方法。
【請求項8】
フッ素含有媒体中に前記ガスケットを漬ける前記ステップは、前記フッ素含有媒体をガス状態で維持することを含む請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記ガスケットを表面処理するステップは、前記ハロゲン化媒体を加熱することを含む請求項1に記載の方法。
【請求項10】
内燃エンジン中のガスケットジョイントを介する燃料透過を減ずる方法であって、
エンジンブロックを準備するステップと、
前記エンジンブロックに少なくとも周縁部が間接的に結合されるエンジン部品を準備するステップと、
水素元素を含有するエラストマーからガスケットを作製するステップとを含み、前記ガスケットは対向表面の間で液密界面を確立する目的のためにそれらの間で圧縮される外表面を有するタイプのものであり、
液密シール界面を生じるように前記エンジン部品の周縁部で前記ガスケットを圧縮するステップをさらに含み、
前記ガスケットを準備するステップは、前記圧縮するステップの前にハロゲン化媒体中で前記ガスケットを表面処理することを含み、前記ハロゲン化媒体中のハロゲン原子は前
記ガスケットの外表面中の水素原子と置換して前記外表面の化学組成を変化させて、前記ガスケットの燃料透過抵抗を実質的に高めることを特徴とする方法。
【請求項11】
前記ガスケットを表面処理するステップは、液漕中に前記ガスケットを漬けることを含む請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記ガスケットを液漕中に漬けるステップは、塩素含有液を与えることを含む請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記ガスケットを液漕中に漬けるステップは、臭素含有液を与えることを含む請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記ガスケットを表面処理するステップは、前記ガスケットを液漕中に漬けるステップに続いて前記ガスケットを乾燥させることを含む請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記ガスケットを表面処理するステップは、前記ガスケットをガス槽中に漬けることを含む請求項10に記載の方法
【請求項16】
前記ガスケットをガス槽内に漬けるステップは、フッ素含有ガスを与えることを含む請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記ガスケットを表面処理するステップは、ハロゲン化媒体を加熱することを含む請求項10に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−526240(P2010−526240A)
【公表日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−506712(P2010−506712)
【出願日】平成20年5月5日(2008.5.5)
【国際出願番号】PCT/US2008/062622
【国際公開番号】WO2008/137829
【国際公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【出願人】(599058372)フェデラル−モーグル コーポレイション (234)
【Fターム(参考)】