説明

燃料遮断装置

【目的】 燃料タンク内圧の降圧調整とタンク外部への燃料の流出回避とを行なう燃料遮断装置の構成を簡略化する。
【構成】 正圧弁機構30は、正圧バルブ体34の外側突起37が底部平面39に着座するよう正圧用スプリング31により付勢されており、正圧バルブ体34を挟んだ圧力の均衡により開弁圧P1にて開閉する。一方、安全弁機構60は、安全弁シール体61のシール突起62が上部平面63に着座するよう、外側突起37と底部平面39との着座を通して正圧用スプリング31により付勢されている。そして、安全弁シール体61を挟んだ圧力の開閉により、開弁圧P2にて開閉する。正圧バルブ体34の受圧面積S1,安全弁シール体61の受圧面積S2は、燃料タンク内圧がP1となったとき、正圧弁機構30では圧力の均衡が開弁側に崩れ安全弁機構60では開弁側に崩れないよう定められている。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、燃料タンクからの燃料蒸気の通気を行なうとともに、外部機器への燃料液の流出を遮断する燃料遮断装置に関する。
【0002】
【従来の技術】一般に、車両等の燃料タンクにおいては、環境保全や安全確保を図るうえで、燃料液自体は勿論その蒸気をも大気中にできるだけ放出しないことが望ましい。このためには、タンク外部への燃料液の流出を防止することと、燃料タンク内圧を所定の圧力に維持することが不可欠である。なお、以下の説明において、燃料液を単に燃料と表記し、燃料蒸気と区別することとする。
【0003】タンク外部への燃料の流出回避は、例えば特開平2−274622号に提案された燃料遮断装置に見られるように、この燃料遮断装置内にフロートバルブを設け、その浮沈によりなされている。つまり、燃料の燃料遮断装置への流入に応じてフロートバルブが浮上することで、この燃料遮断装置から外部に通じた通路を閉鎖するよう構成されている。
【0004】一方、燃料液面の変動が少なく燃料流出が起きない間においては、燃料タンク内圧の所定圧力への調整は、次のようにして行なわれている。つまり、燃料タンク内圧が燃料蒸気の発生により上昇すればこの燃料蒸気を外部機器に通気して燃料タンク内圧を下げるべく、正圧弁を備えている。この場合、この燃料遮断装置は、燃料蒸気の吸着・放出ができるキャニスタに接続されている。なお、この燃料遮断装置10では、燃料タンク内圧が低下すれば外部から燃料蒸気を燃料タンクに通気して、燃料タンク内圧を上げる負圧弁が併用されている。
【0005】また、フロートバルブによりタンク外部への燃料の流出回避が図られている間には、上記した正圧弁による内圧調整ができないため、この内圧調整の未実施に基づき燃料タンク内圧が上昇することがある。よって、正圧弁を経由せず直接燃料蒸気をタンク内からキャニスタに通気して燃料タンク内圧を下げる安全弁が併設されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】上記従来の燃料遮断装置では、タンク内圧を調整する際にタンク内の燃料蒸気を排出して圧力低下を招くよう開弁する正圧弁と、直接燃料タンク内圧を下げる安全弁とは、その目的が異なることから各弁の閉弁に関与する力を得るために別々のスプリングを用いている。つまり、正圧弁の開弁圧と安全弁の開弁圧とは異なり安全弁の開弁圧を高くしなければならない。このため、この各弁は、キャニスタ側に燃料蒸気を通気させる弁ではあるものの、別々のスプリングを備えていた。
【0007】本発明は、上記問題点を解決するためになされ、燃料タンク内圧の降圧調整とタンク外部への燃料の流出回避とを行なう燃料遮断装置の構成を簡略化することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】かかる目的を達成するために本発明の採用した手段は、燃料タンクに配置され、該燃料タンクからの燃料蒸気の通気を行なうとともに、外部機器への燃料液の流出を遮断する燃料遮断装置であって、前記燃料タンク内の燃料蒸気および燃料液が流入可能な下室と、区画壁により該下室と区画されて形成され、前記外部機器と接続される接続ポートを有する上室と、該上室側に上下動自在に収納され、前記上室を燃料蒸気の通気を可能にして上下の空間に分割する上室分割板と、該上室分割板に設けられ、前記分割された前記上室における上方の空間と前記下室とに亘る燃料蒸気通路を形成する蒸気通路形成部材と、前記下室内に収納され、前記下室に流入する燃料により浮上することで前記燃料蒸気通路を閉鎖するフロートバルブと、前記燃料蒸気通路を前記上室分割板の上面を着座面として開閉する弁体を有し、前記上方の空間に配置されたスプリングの付勢力を前記着座面に向けて受けるとともに前記燃料蒸気通路を通して前記燃料タンク内圧を受圧し、前記弁体を挟んだ圧力の均衡により開閉する正圧弁と、前記区画壁の上面を着座面とするよう前記上室分割板又は蒸気通路形成部材に設けられた弁体を有し、前記正圧弁の弁体の前記上室分割板上面への着座を通して前記スプリングの付勢力を前記着座面に向けて受けるとともに前記区画壁に形成された内外室連通孔を通して前記燃料タンク内圧を受圧し、前記弁体を挟んだ圧力の均衡により前記内外室連通孔を開閉する安全弁とを備え、前記正圧弁の弁体の前記燃料タンク内圧の受圧面積と前記安全弁の弁体の前記燃料タンク内圧の受圧面積とを、前記正圧弁の受圧面積を前記安全弁の受圧面積より大きくして定めたことをその要旨とする。
【0009】
【作用】上記構成を有し燃料タンクに配置される燃料遮断装置は、下室に燃料液(燃料)が流入するとフロートバルブが浮上するので、このフロートバルブにより燃料蒸気通路を閉鎖し、この燃料蒸気通路を通した上室における上方の空間への燃料の流出を遮断する。この上室における上方の空間は上室分割板により上室側を上下に分割されたものであるものの、このような分割に当たり上室の上下の空間において燃料蒸気の通気が可能である。よって、上記燃料蒸気通路の閉鎖により、接続ポートおよび外部機器への燃料の流出を遮断する。
【0010】その一方で、上室分割板の上面を着座面とする正圧弁の弁体には、これをその着座面に押し下げる側に、上室の上方の空間における圧力とこの上室分割板上部の上記上方の空間に配置されたスプリングの付勢力で定まる圧力(スプリングの付勢力を正圧弁の弁体の受圧面積で除算した圧力)が作用する。また、この弁体を着座面から押し上げる側に、燃料蒸気通路を通して燃料タンク内圧が作用する。よって、正圧弁はこの弁体を挟んだ圧力の均衡で開閉し、燃料タンク内圧が正圧弁の開弁圧となるまでは開弁しない。
【0011】また、区画壁の上面を着座面とする安全弁の弁体には、これをその着座面に押し下げる側に、正圧弁の弁体の着座面への着座を通して上記スプリングの付勢力で定まる圧力(スプリングの付勢力を安全弁の弁体の受圧面積で除算した圧力)と上室の上方の空間における圧力とが作用する。この場合、正圧弁の弁体の受圧面積は安全弁の弁体の受圧面積より大きく安全弁側の受圧面積が小さいことから、スプリングの付勢力に基づいて安全弁の弁体が受ける圧力は正圧弁の弁体より大きくなる。また、この安全の弁体を着座面から押し上げる側に、内外室連通孔を通して燃料タンク内圧が作用する。よって、安全弁はこの弁体を挟んだ圧力の均衡で開閉する。この際、燃料タンク内圧が正圧弁の開弁圧となっても、上記した受圧面積の大小関係により、安全弁の弁体を着座面に押し下げる側の圧力が勝っているため圧力の均衡が崩れず、安全弁は開弁しない。しかし、燃料タンク内圧が上記正圧弁の開弁圧より大きい安全弁の開弁圧を越えると、圧力の均衡が開弁側に崩れて安全弁は開弁する。つまり、安全弁は、燃料タンク内圧が正圧弁の開弁圧を越えても開弁せずこの安全弁の開弁圧となって始めて開弁する。
【0012】なお、上記したように、フロートバルブにより燃料蒸気通路が閉鎖されていればこの燃料蒸気通路を通して正圧弁には燃料タンク内圧がかからないので正圧弁の弁体は着座面に着座している。よって、燃料蒸気通路が閉鎖されている間には、正圧弁の弁体の着座面への着座を通して安全弁の弁体に必ずスプリングの付勢力が加わることになり、この間には安全弁のみ上記したように作動する。
【0013】
【実施例】次に、本発明に係る燃料遮断装置の好適な実施例について、図面に基づき説明する。実施例の燃料遮断装置10は、その断面図である図1に示すように、略円筒状のケース12内に、その構成部材および各構成部材で構成される後述の各種弁機構を総て収納して備える。
【0014】ケース12は、その下端を開口した筐体として耐油性の樹脂(例えば、ポリアセタールやナイロン等)から一体成形され、その中央にフランジ部13を備える。そして、図示しない燃料タンクの上端壁とこのフランジ部13との間にパッキン14を介在させて、受け板16により燃料タンクに固定される。このように燃料タンクに固定されると、フランジ部13より下部は燃料タンク内に位置し、フランジ部13の上部は燃料タンクから露出することになる。
【0015】また、ケース12は、フランジ部13上部の円筒部側壁には図示しないキャニスタと接続される通気ポート18を備える。更に、フランジ部13の下部側壁には燃料タンク内の燃料およびその蒸気(ベーパ)が流入する複数のベーパ孔22を備える。
【0016】そして、ケース12の内壁中央部には、ケース12内部を上部空間24と下部空間26に区画する上記樹脂製の仕切板28が、超音波溶着されている。また、下端の開口には、これを閉塞する上記樹脂製の蓋体29が固定されている。
【0017】次に、このケース12に収納して組み付けられる構成部材および各構成部材で構成される各種弁機構について説明する。
【0018】まず、ケース12の上部空間24に収納される弁機構(正圧弁機構30,負圧弁機構50,安全弁機構60)について説明する。ここで、正圧弁機構30は、後述するフロート71が浮上していないときに燃料タンク内圧が上昇した場合、タンク内の燃料蒸気をキャニスタに排出してタンク内圧を調整するためのものである。負圧弁機構50は、燃料タンク内圧が低下したとき、タンク内にキャニスタから燃料蒸気を導入してタンク内圧を調整するためのものである。つまり、この正圧弁機構30と負圧弁機構50とで、キャニスタと燃料タンクとの間の双方向弁を構成し、両弁機構によりタンク内圧が調整される。
【0019】一方、安全弁機構60は、燃料タンクの液面の変動に追従した後述するようなフロート71の浮上を介して燃料(液体)の不用意なキャニスタへの流入を回避している場合、タンク内の燃料蒸気をキャニスタに排出してタンク内圧の不用意な上昇を回避しタンク内圧を調整するためのものである。
【0020】正圧弁機構30は、上部空間24の上端面に形成された突起25にその下方から組み付けられた正圧用スプリング31と、この正圧用スプリング31により下方に付勢される上記樹脂性の椀状のバルブ受け体32と、このバルブ受け体32の下端面の凹部33に嵌合・固定された正圧バルブ体34とを備える。そして、下部空間26から上部空間24に到る燃料蒸気の通路を形成する上記樹脂製の支持体35の開口内部36に、バルブ受け体32に嵌合・固定された正圧バルブ体34を上下動自在に収納して備える。なお、正圧バルブ体34は、ニトリルゴム,フッ素ゴム等から形成される。
【0021】正圧バルブ体34は、その周縁に環状に形成された外側突起37と、その内側に段差を持って環状に形成された内側突起38とを備え、正圧用スプリング31の付勢力をバルブ受け体32を介して受ける。この正圧バルブ体34を収納する支持体35は、その中央に仕切板28を貫通し下部空間26に向けて突出した燃料遮断体65を備え、この燃料遮断体65を貫通する貫通孔66を下部空間26から上部空間24に到る燃料蒸気の通路として備える。この貫通孔66の下端には、フロート71の先端が進入し密着できるようテーパとされたフロートシール面67が形成されている。また、燃料遮断体65基部には、その外側に突出した環状凸部68が、その内部に貫通孔66の上部を座ぐった段部69がそれぞれ形成されている。なお、仕切板28には、燃料遮断体65との間に所定のクリアランスを残して上下連通孔64があけられている。
【0022】従って、正圧弁機構30は、正圧バルブ体34を挟んだ開口内部36の圧力(通気ポート18を介して伝わるキャニスタ側圧力),正圧用スプリング31の付勢力で定まる圧力および下部空間26における圧力(燃料タンク内圧)の均衡を通して開閉することになる。つまり、正圧バルブ体34が下方に押し下げられて外側突起37が支持体35内部の底部平面39に着座することで、正圧弁機構30は開口内部36、即ちキャニスタと下部空間26との間を閉弁する。
【0023】一方、燃料遮断体65の貫通孔66を通して正圧バルブ体34の受圧する燃料タンク内圧が上部空間24におけるキャニスタ側圧力より大きくなり、この燃料タンク内圧に基づく力が正圧用スプリング31の付勢力に勝ると、正圧バルブ体34が正圧用スプリング31に抗して持ち上げられる。このため、正圧バルブ体34の外側突起37が底部平面39から離間して正圧弁機構30は開弁状態となり、上部空間24の開口内部36と下部空間26とは貫通孔66を介して連通する。こうして正圧弁機構30が開弁する時の燃料タンク内圧が、正圧弁機構30の開弁圧P1となるので、燃料タンク内圧はこの正圧弁機構30の開弁圧P1に調整されることになる。
【0024】負圧弁機構50は、上記した正圧弁機構30の正圧バルブ体34における内側突起38とともに弁機能を果たすものであり、次のような構成を備える。この負圧弁機構50は、正圧バルブ体34の内側突起38の着座面を形成する鍔51を有する上記樹脂製の負圧バルブ体52を、正圧バルブ体34,バルブ受け体32に貫通して備える。そして、負圧用スプリング53をある程度圧縮した状態で負圧バルブ体52とバネ支え部材54とで挟むよう、負圧バルブ体52の上端にバネ支え部材54を係合・固定して形成される。
【0025】ここで、負圧弁機構50と正圧弁機構30のバルブ受け体32,正圧バルブ体34との関係について、図1のI−I線の拡大断面図である図2を併用して説明する。図1に示すように、負圧バルブ体52外周と正圧バルブ体34およびバルブ受け体32との間にそれぞれ透孔55,56が形成されている。バルブ受け体32側の透孔55は、図2に示すように、半円状の孔であり、負圧バルブ体52が貫通する貫通孔57の内周に等ピッチで4個形成されている。同様に、正圧バルブ体34の透孔56は、この透孔55に一致するよう形成されている。バルブ受け体32の貫通孔57および正圧バルブ体34の貫通孔は、負圧バルブ体52が円滑に上下に摺動できる径の孔として形成されている。そして、負圧用スプリング53は、バネ支え部材54の段部およびバルブ受け体32の内部に立設された内周壁58にて位置決めされて既述したようにバネ支え部材54により支えられている。
【0026】上記したように負圧バルブ体52,負圧用スプリング53,バネ支え部材54が組み付けられ無負荷状態の場合、負圧バルブ体52はバネ支え部材54を介して負圧用スプリング53の付勢力を受け、上に引き上げられている。よって、この場合には、鍔51の鍔面に正圧バルブ体34の内側突起38が押し当てられて着座することになり、負圧弁機構50は、上部空間24の開口内部36と燃料遮断体65の貫通孔66、即ち下部空間26との間を閉弁する。
【0027】一方、図示するように、上記した正圧弁機構30の閉弁時に、バネ支え部材54がその上面で受圧するキャニスタ側圧力が鍔51がその下面で貫通孔66を通して受圧する燃料タンク内圧より大きくなり、このキャニスタ側圧力に基づく力が負圧用スプリング53の付勢力に勝ると、負圧用スプリング53が圧縮される。よって、負圧バルブ体52が押し下げられて鍔51の鍔面が内側突起38から離間するため、負圧弁機構50は開弁状態となり上部空間24の開口内部36と下部空間26とは透孔55,56および貫通孔66を介して連通する。
【0028】換言すれば、負圧弁機構50は、バネ支え部材54の上面および鍔51の下面に作用する圧力の均衡を通して開閉することになる。この場合、下部空間26の圧力(燃料タンク内圧)が上部空間24の開口内部36の圧力(キャニスタ側圧力)に対して負圧となりその圧力差が所定値となったときに開弁するよう、負圧用スプリング53の付勢力、即ちそのバネ荷重等が設計されている。
【0029】安全弁機構60は、燃料遮断体65の環状凸部68に嵌合・固定される上記ゴム製の安全弁シール体61と、この安全弁シール体61下端に環状に形成されたシール突起62とをその固有の構成部材として備える。そして、この安全弁シール体61のシール突起62を仕切板28の上部平面63に向けて付勢する正圧用スプリング31と支持体35とを、正圧弁機構30と共通な構成部材とする。そして、次のようにして安全弁として機能する。
【0030】安全弁機構60を構成する燃料遮断体65は、支持体35に連接されていることから、正圧バルブ体34の外側突起37が支持体35の底部平面39に着座し正圧弁機構30が閉弁状態にある時には、正圧用スプリング31の付勢力を下向きに受ける。この場合、安全弁シール体61は押し下げられそのシール突起62は仕切板28の上部平面63に着座し、安全弁機構60は閉弁する。また、燃料遮断体65に固定された安全弁シール体61には、仕切板28の上下連通孔64を通して燃料タンク内圧が加わる。このため、安全弁機構60はこの安全弁シール体61を挟んだ圧力の均衡を通して開閉する。しかしながら、貫通孔66が閉鎖されていないときには、正圧弁機構30,負圧弁機構50による内圧調整がなされることから、安全弁機構60は、貫通孔66が後述するフロート71により閉鎖されたときに上記開閉を行なうよう構成されている。この詳細については、後述する。
【0031】つまり、貫通孔66が閉鎖された状態で上下連通孔64を通して安全弁シール体61の受圧する燃料タンク内圧が上部空間24におけるキャニスタ側圧力より大きくなり、この燃料タンク内圧に基づく力が正圧用スプリング31の付勢力に勝ると、安全弁シール体61が支持体35および正圧弁機構30とともに正圧用スプリング31に抗して持ち上げられる。このため、安全弁シール体61のシール突起62が上部平面63から離間して安全弁機構60は開弁状態となり、上部空間24の開口内部36と下部空間26とは仕切板28の上下連通孔64を介して連通する。こうして安全弁機構60が開弁する時の燃料タンク内圧が、安全弁機構60の開弁圧P2となる。
【0032】このように安全弁機構60は、貫通孔66が閉鎖され正圧弁機構30および負圧弁機構50による燃料タンク内圧の調整がなされないときに開弁し、燃料タンク内圧を上記開弁圧P2に調整する。よって、この安全弁機構60の開弁圧P2は、正圧弁機構30の開弁圧P1より高く設定されている。
【0033】ここで、上記したように正圧用スプリング31を正圧弁機構30および安全弁機構60に共通に使用しても、安全弁機構60の開弁圧P2を正圧弁機構30の開弁圧P1より高く設定でき、上記両弁機構をそれぞれの開弁圧で開弁することができる理由について説明する。
【0034】既述したように、正圧弁機構30の正圧バルブ体34には、これを押し下げる側にキャニスタ側圧力および正圧用スプリング31の付勢力で定まる圧力が作用し、押し上げる側に燃料タンク内圧が作用する。よって、燃料タンク内圧が正圧弁機構30の開弁圧P1となりこれらが均衡している場合、キャニスタ側圧力をPK1,これらの圧力を受ける正圧バルブ体34の受圧面積をS1,正圧用スプリング31の付勢力をFと表わすことで、次の式■が成り立つ。なお、この受圧面積S1は、図3に示すように、正圧バルブ体34の外側突起37が底部平面39に着座したとき外側突起37で囲まれる面積である。
PK1+F/S1=P1 …
【0035】同様に、燃料タンク内圧が安全弁機構60の開弁圧P2となり圧力が均衡している場合、キャニスタ側圧力をPK2,これらの圧力を受ける安全弁シール体61の受圧面積をS2,正圧用スプリング31の付勢力をFと表わすことで、次の式■が成り立つ。この受圧面積S2は、図3に示すように、安全弁シール体61のシール突起62が上部平面63に着座したときシール突起62で囲まれる面積である。
PK2+F/S2=P2 …
【0036】なお、キャニスタ側圧力PK1,PK2は、正圧弁機構30又は安全弁機構60の開弁時であっても近似した圧力であるので、各キャニスタ側圧力はPKと表わすことができる。よって、式■,■は、それぞれ式■,■に変形できる。
PK+F/S1=P1 …■PK+F/S2=P2 …
【0037】そして、燃料タンク内圧がP1を越えると式■の右辺の値が左辺の値を上回り、既述した正圧バルブ体34を挟んだ圧力の均衡が開弁側に崩れる。また、燃料タンク内圧がP2を越えると式■の右辺の値が左辺の値を上回り、安全弁シール体61を挟んだ圧力の均衡が開弁側に崩れる。よって、既述したように正圧弁機構30,安全弁機構60はそれぞれの開弁圧で開弁状態となる。
【0038】このように各弁における圧力の均衡を表わした式■,■から次の式■が導き出せる。
F=(P1−PK)×S1=(P2−PK)×S2S2/S1=(P1−PK)/(P2−PK) …
【0039】キャニスタ側圧力PK,正圧用スプリング31の付勢力F,正圧弁機構30の開弁圧P1,安全弁機構60の開弁圧P2は、燃料タンクの設計段階で定まる。このため、正圧バルブ体34の受圧面積S1および安全弁シール体61の受圧面積S2を式■が成り立つよう定めることができる。具体的には、受圧面積S1および受圧面積S2を定めるに当たり、開弁圧P2が開弁圧P1より大きいことから、受圧面積S1は受圧面積S2より大きくなる。
【0040】このようにして受圧面積S1,S2を定めた燃料遮断装置10において、燃料タンク内圧が正圧弁機構30の開弁圧P1となれば、式■が成立するので正圧弁機構30は開弁可能な状態となる。しかし、式■の右辺はP1となりP1<P2であることから、この右辺(P1)の値は、式■の左辺(PK+F/S2)の値より小さい。つまり、安全弁シール体61を押し上げて開弁する方向に作用する圧力より安全弁シール体61を押し下げて閉弁する方向に作用する圧力が勝ることになる。よって、正圧弁機構30は開弁可能な状態であっても、安全弁機構60は閉弁したままである。
【0041】従って、ただ一つの正圧用スプリング31により、正圧弁機構30および安全弁機構60をそれぞれの開弁圧P1,開弁圧P2で開弁することができる。なお、燃料タンク内圧が安全弁機構60の開弁圧P2となる場合には、貫通孔66が閉鎖されているので正圧弁機構30は作動せず式■を考慮する必要はない。
【0042】本実施例の燃料遮断装置10では、キャニスタ側圧力Pを0mmAq,正圧用スプリング31の付勢力Fを75g,正圧弁機構30の開弁圧P1を300mmAq,安全弁機構60の開弁圧P2を1000mmAqとして定め、正圧バルブ体34の受圧面積S1を250mm2 ,安全弁シール体61の受圧面積S2を70mm2 とした。
【0043】次に、上記した正圧弁機構30,負圧弁機構50および安全弁機構60をケース12の上部空間24内に組み付ける作業について、その分解図である図4を用いて説明する。
【0044】まず、図4に示すように、ケース12の開口が上を向くよう所定の治具にセットし、上記各部材を上から組み付けられるように準備する。その後、ケース12の開口を通じて、上部空間24側の突起25に正圧用スプリング31を位置決めして入れ込む。次に、既述したように負圧弁機構50を予め組み込んで一体となったバルブ受け体32および正圧バルブ体34を正圧用スプリング31に組み付ける。
【0045】次いで、燃料遮断体65の環状凸部68に予め安全弁シール体61を固定した支持体35をその開口側を下にして挿入し、仕切板28をその周縁部が上部空間24と下部空間26との境界段部27に密着するまで押し込み、この段部に嵌め込む。そして、図示しない超音波溶着機のホーンにより、仕切板28は境界段部27に気密に超音波溶着される。こうして、ケース12の上部空間24内に、正圧弁機構30,負圧弁機構50および安全弁機構60が収納して組み付けられる。なお、ケース12を横向きとしたり上部空間24側を上にしたりして、上記作業を行なってもよいことは勿論である。
【0046】このように、仕切板28が溶着された後には、正圧用スプリング31に正圧弁機構30のバルブ受け体32および支持体35が共通に付勢されて、正圧バルブ体34の外側突起37は底部平面39に、安全弁シール体61のシール突起62は上部平面63にそれぞれ着座する。よって、外側突起37,安全弁シール体61は、不用意に横方向にずれない。そして、正圧用スプリング31はその組み付けに当たって突起25に位置決めされていることから、外側突起37と安全弁シール体61はほぼ同心となる。
【0047】次に、ケース12の下部空間26に収納される燃料遮断弁機構70について、図1に戻って説明する。この燃料遮断弁機構70は、車両の急旋回等により燃料タンクの液面が変動した際にあっても、燃料の不用意なキャニスタへの流入を回避するためのものである。
【0048】この燃料遮断弁機構70は、下部空間26内において燃料タンクの液面の変動に応じて浮沈する上記樹脂製のフロート71と、このフロート71を上向きに付勢するスプリング72とを備え、既述した支持体35の燃料遮断体65と協同して作用するフロート弁として構成されている。なお、このスプリング72は、フロート71の見かけ比重を低下させるために使用される。そして、下部空間26への燃料流入がないときには、スプリング72は、フロート71がその自重により蓋体29に接するまで圧縮されるよう、そのバネ荷重が設計されている。
【0049】フロート71は、その先端にはバルブ部73を備え、内部にはスプリング72を収納するスプリング収納室74とエアー溜まり室75とが形成されている。また、その外周面には、フロート71が下部空間26に組み込まれた場合、ケース12の内周面と所定のクリアランスを持つよう形成された案内片76を等間隔に備える。
【0050】ケース12下端の開口を閉塞する蓋体29は、ケース12下端の周壁に開口された係止孔77に係合しこの蓋体29を固定する係合片78と、ケース12の下部空間26内への燃料の流入・排出に関与する燃料通過孔79と、スプリング72を位置決めする凸部80とを備える。
【0051】従って、下部空間26内に燃料が流入してフロート71が浮上すると、フロート71のバルブ部73が燃料遮断体65の貫通孔66下端に形成されたフロートシール面67に進入しこれと密着することで、上記貫通孔66を閉鎖する。よって、この燃料遮断弁機構70は、上記一連の動作により燃料のキャニスタへの流入を回避する。なお、フロート71は、案内片76により下部空間26内を案内されることから、フロートシール面67へのバルブ部73の進入は、精度よくなされる。
【0052】燃料遮断弁機構70の組み付けに当たっては、仕切板28のケース12への超音波溶着後に、ケース12の開口を通じて、フロート71を下部空間26内に挿入し、次いでスプリング72をスプリング収納室74に入れた後、蓋体29をケース12の開口にかぶせて押し込む。こうすることで、係合片78がケース12の係止孔77に係合して、ケース12の下部空間26内への燃料遮断弁機構70の組み付けが完了する。なお、この燃料遮断弁機構70の組み付けは、ケース12の開口を上向きにして所定の治具にセットした状態のまま、正圧弁機構30等の組み付けに引き続いて行なわれる。
【0053】次に、上記構成を備える燃料遮断装置10の動作について、図面を用いて説明する。まず、車両停車時や定速走行時などのように燃料タンク内の燃料液面の変動が少なく、燃料がケース12の下部空間26内に流入していない場合の燃料遮断装置10の動作について説明する。
【0054】車両停車時等であって燃料タンク内圧が正圧弁機構30の開弁圧P1に達していない場合には、図1R>1に示すように、燃料遮断装置10の正圧弁機構30,負圧弁機構50および安全弁機構60は、作動せず総て閉弁状態にある。また、燃料がケース12の下部空間26内に流入していないことに起因して、燃料遮断装置10の燃料遮断弁機構70は、燃料遮断体65の貫通孔66を解放した状態にある。
【0055】各弁機構が上記した状態にあるとき、燃料タンク内の燃料が蒸発しタンク内圧が上昇すると、ケース12の下部空間26内の圧力も同様に上昇する。よって、下部空間26と燃料遮断体65の貫通孔66を通して連通する正圧バルブ体34の受圧圧力も燃料タンク同様上昇する。そして、引き続き上昇すれば、燃料タンク内圧は、上部空間24におけるキャニスタ側圧力より大きくなり正圧弁機構30の開弁圧P1を越える。すると、正圧バルブ体34を挟んだ圧力の均衡が崩れ、図5に示すように、正圧バルブ体34は正圧用スプリング31の付勢力およびキャニスタ側圧力に抗して押し上げられる。このため、外側突起37が支持体35の底部平面39から離間し、正圧弁機構30は開弁する。
【0056】よって、ケース12のベーパ孔22,蓋体29の燃料通過孔79を経て下部空間26内に流入した燃料蒸気は、図5中に矢印で示すように、貫通孔66→外側突起37と底部平面39との間の間隙→開口内部36の順に通過し、通気ポート18を経てキャニスタ側に流れる。この結果、燃料タンク内圧は低下するとともに、キャニスタに流れた燃料蒸気はキャニスタにて吸着される。
【0057】このように正圧弁機構30が開弁する場合、燃料タンク内圧は燃料遮断弁機構70の開弁圧P2より低い開弁圧P1に近似した圧力であるので、燃料遮断弁機構70は閉弁したままである。また、負圧弁機構50の鍔51下面も、燃料タンク内圧を受圧することから、この負圧弁機構50は、閉弁したまま正圧バルブ体34とともに押し上げられる。
【0058】その後、燃料タンク内圧が上記した燃料蒸気の流出により低下して開弁圧P1に一致すると正圧バルブ体34を挟んだ圧力が均衡する。そして、引き続き低下すると、正圧バルブ体34が正圧用スプリング31により下方に押し下げられて外側突起37は底部平面39に着座して正圧弁機構30は閉弁する。このため、上記したキャニスタへの燃料蒸気の流出は停止する。
【0059】一方、燃料タンク内圧が低下すると燃料タンク内圧はキャニスタ側圧力に対して負圧となることがある。この圧力差が所定値を越えると、図6に示すように、安全弁機構60におけるバネ支え部材54上面および鍔51下面に作用する圧力の均衡が崩れ、負圧バルブ体52は負圧用スプリング53の付勢力および燃料タンク内圧に抗して押し下げられる。このため、鍔51の鍔面が内側突起38から離間し、負圧弁機構50は開弁する。燃料タンク内圧の低下は、例えば外気温等の低下により燃料タンク内の燃料蒸気が減少したり燃料消費が進んだりすることなどで起きる。
【0060】よって、キャニスタから放出された燃料蒸気は、図6中に矢印で示すように、通気ポート18→開口内部36→バルブ受け体32の透孔55→正圧バルブ体34の透孔56→内側突起38と鍔51の鍔面との間の間隙→貫通孔66の順に通過して下部空間26内に到り、ベーパ孔22,燃料通過孔79を経て燃料タンク内に流れる。この結果、燃料タンク内圧は上昇する。そして、燃料タンク内圧がキャニスタ側圧力に近づき、その圧力差が所定値以内となるよう燃料タンク内圧が上昇すると、バネ支え部材54上面および鍔51下面に作用する圧力が均衡して、負圧バルブ体52が負圧用スプリング53により押し上げれる。よって、図1に示すように、内側突起38は鍔51の鍔面に着座して負圧弁機構50は閉弁するので、上記した燃料蒸気の流入は停止する。
【0061】従って、燃料タンク内圧が変動しても、正圧弁機構30および負圧弁機構50の上記した開閉により、燃料タンク内圧は所定範囲の圧力に調整される。
【0062】次に、急旋回時や凹凸の激しい路面或いは急斜面の走行時などのように燃料タンク内の燃料液面が大きく変動し、燃料がケース12の下部空間26内に流入する場合の燃料遮断装置10の動作について説明する。
【0063】車両が急旋回したりすると、図7に示すように、燃料タンクの液面が変動し燃料は燃料通過孔79から下部空間26内に流入する。従って、図示するようにフロート71は浮力により浮上し、その先端のバルブ部73は燃料遮断体65の貫通孔66内に進入してフロートシール面67に密着する。よって、燃料遮断体65の貫通孔66は閉鎖されるので、この燃料遮断弁機構70により、燃料のキャニスタへの不用意な流入は回避される。
【0064】そして、燃料タンク内圧が上昇する前に燃料タンクの液面の変動が減衰し下部空間26内の燃料が燃料通過孔79から燃料タンク内に戻れば、それに伴ってフロート71に作用する浮力が小さくなるので、フロート71は自重により下降する。この結果、バルブ部73はフロートシール面67から離間するので、既述したように正圧弁機構30および負圧弁機構50により燃料タンク内圧が調整される。
【0065】その一方で、上記したように燃料遮断弁機構70のフロート71により貫通孔66が閉鎖された状態では、この貫通孔66を経由した既述の燃料蒸気の流出が起きない。よって、貫通孔66の閉鎖状態において、燃料タンク内圧の上昇を引き起こす事態に到ると、例えば外気温の上昇等により燃料が多量に蒸発すると、燃料タンク内圧は急速にしかも開弁圧P1を越えて上昇する。
【0066】このようにして上昇した燃料タンク内圧は、貫通孔66が閉鎖していることから正圧バルブ体34には作用せず、仕切板28の上下連通孔64を通して安全弁シール体61にのみ作用する。よって、上記上昇した燃料タンク内圧が安全弁機構60の開弁圧P2を越えて上昇すると、図7に示すように、安全弁シール体61を挟んだ圧力の均衡が崩れ、安全弁シール体61は正圧用スプリング31の付勢力およびキャニスタ側圧力に抗して押し上げられる。このため、安全弁シール体61のシール突起62が仕切板28の上部平面63から離間し、安全弁機構60は釣合位置まで開弁する。
【0067】従って、ケース12のベーパ孔22を経て下部空間26内に流入した燃料蒸気は、図7中に矢印で示すように、仕切板28の上下連通孔64を経て直に上部空間24内に流入し、通気ポート18を経てキャニスタ側に流れる。この結果、燃料タンク内圧は低下して調整されるとともに、キャニスタに流れた燃料蒸気はキャニスタにて吸着される。なお、このように燃料蒸気が上部空間24内に流入すると上部空間24と下部空間26との圧力差がなくなり、フロート71は下部空間26からの燃料の戻りに伴って下降する。
【0068】その後、燃料タンク内圧が上記した燃料蒸気の流出により低下し安全弁機構60の開弁圧P2に一致すると、安全弁シール体61を挟んだ圧力が均衡し、安全弁シール体61は正圧用スプリング31に押されて下降する。よって、安全弁シール体61のシール突起62は上部平面63に着座して安全弁機構60は閉弁するので、上記した燃料蒸気の流出は停止する。そして、貫通孔66が閉鎖されたまま再び燃料タンク内圧が上昇すれば、安全弁機構60の開閉によりタンク内圧が調整される。このため、燃料のキャニスタへの不用意な流入を回避するために貫通孔66が閉鎖された状態であっても、燃料タンク内圧は安全弁機構60の開弁圧P2に調整される。
【0069】なお、燃料タンク内圧が開弁圧P2に調整されている間にフロート71が下降すれば、正圧弁機構30および負圧弁機構50により既述したように燃料タンク内圧の調整がなされる。
【0070】以上説明したように、本実施例の燃料遮断装置10では、ただ一つの正圧用スプリング31により正圧弁機構30における外側突起37と安全弁機構60におけるシール突起62とを閉弁方向に付勢し、燃料タンク内圧を正圧弁機構30が開弁方向に受圧する受圧面積と安全弁機構60が開弁方向に受圧する受圧面積とに、各弁の開弁圧P1,P2の大小関係を反映した特定の関係を持たせた。こうすることで、燃料タンク内圧に基づき各弁が開弁方向に受ける力を各弁の開弁圧P1,P2の大小関係に即した力とし、正圧弁機構30および安全弁機構60をそれぞれの開弁圧P1,開弁圧P2で開弁させる。この結果、本実施例の燃料遮断装置10によれば、正圧弁機構30,安全弁機構60を閉弁状態とするスプリングを正圧用スプリング31のみで賄うことができ、部品点数の削減を通してその構成を簡略化することができる。
【0071】更に、本実施例の燃料遮断装置10の組み付けに当たって、ケース12の開口を通して一方向から総ての構成部材の組み付けを行なうことができる。このため、本実施例の燃料遮断装置10によれば、その組み付け作業の簡略化と組み付け作業性の向上とを図ることができる。しかも、燃料遮断装置10の組み付けに先立ち、正圧弁機構30の正圧バルブ体34,バルブ受け体32への負圧弁機構50のいわゆるサブ組み付けや安全弁シール体61と支持体35との一体化を行なうことができるので、組み付け作業の簡略化や組み付け作業性の向上をより一層推進することができる。
【0072】また、仕切板28の超音波溶着により、必要な総てのシール箇所のシールが完了するとともに、シール箇所のケース12外部への露出がない。このため、本実施例の燃料遮断装置10によれば、シール性に優れた燃料遮断装置10とすることができ気密信頼性を向上させることができる。
【0073】加えて、燃料蒸気の通路となる燃料遮断体65の貫通孔66の上部に段部69を座ぐって形成した。このため、フロート71の浮上に先立ち燃料が貫通孔66に流入しても、その燃料は鍔51下面に当たって段部69に落下し保持される。また、貫通孔66の解放時にタンク内に落下する。このため、燃料が貫通孔66に流入した場合であっても、外部に流入させずタンクに回収することができる。そして、この段部69の底面をテーパ状の面とすることで、上記した燃料の回収を好適に行なうことができる。
【0074】なお、従来の燃料遮断装置と同様の効果を奏することができるのは勿論である。即ち、本実施例の燃料遮断装置10によれば、急旋回時や凹凸の激しい路面或いは急斜面の走行時などのように燃料タンク内の燃料液面が大きく変動しても、キャニスタへの不用意な燃料流出を回避することができる。また、燃料タンク内圧を正圧弁機構30の開弁圧P1又は安全弁機構60の開弁圧P2に安定して調整することができる。
【0075】以上本発明の一実施例について説明したが、本発明はこの様な実施例になんら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【0076】例えば、負圧弁機構50を傘バルブを用いた構成とすることもできる。即ち、図8に示すように、外側突起37,内側突起38を有する正圧バルブ体34に替えて外側突起37のみを有する正圧バルブ体134とする。そして、この正圧バルブ体134をバルブ受け体32に嵌合・固定する。また、正圧バルブ体134に傘バルブ90をその傘部を貫通孔66に対向させて嵌合・固定し、正圧バルブ体134にあけた透孔91をこの傘バルブ90により開閉するよう負圧弁機構50Aを構成する。この負圧弁機構50Aであっても、傘バルブ90の傘部を挟んだ開口内部36と下部空間26との圧力の均衡に基づき、上記した負圧弁機構50と同様に燃料タンク内圧を調整できる。このような構成とすることで、負圧バルブ体52,バネ支え部材54等が不要となりその構成を簡略化することができる。
【0077】また、本実施例の燃料遮断装置10では、正圧バルブ体34の受圧面積S1および安全弁シール体61の受圧面積S2を定めるに当たり、正圧弁機構30の開弁圧P1,安全弁機構60の開弁圧P2および正圧用スプリング31の付勢力Fばかりか、キャニスタ側圧力PKも考慮したが(式■参照)、開弁圧P1,開弁圧P2および正圧用スプリング31の付勢力Fにより次式■から上記受圧面積S1,S2を定めることもできる。このようにキャニスタ側圧力Pを考慮しなくとも、ただ一つの正圧用スプリング31により、正圧弁機構30および安全弁機構60をそれぞれの開弁圧P1,開弁圧P2で開弁することができる。
S2/S1=P1/P2 …
【0078】
【発明の効果】以上詳述したように本発明の燃料遮断装置では、燃料タンク内圧の調整に関与する正圧弁と安全弁とをただ一つのスプリングにより付勢するとともに、燃料タンク内圧を正圧弁が開弁方向に受圧する受圧面積を安全弁が開弁方向に受圧する受圧面積より大きく定め、スプリングの付勢力に基づいて安全弁が受ける圧力を、正圧弁より大きくした。よって、燃料タンク内圧が正圧弁の開弁圧となったときには、正圧弁では弁体を挟んだ圧力の均衡は開弁側に崩れるが、安全弁では、スプリングの付勢力に基づいて受ける圧力が大きいことから弁体を挟んだ圧力の均衡は開弁側に崩れない。この結果、本発明の燃料遮断装置によれば、各弁における圧力の均衡を各弁の開弁圧の大小関係に即して開弁側に崩すので、正圧弁および安全弁をそれぞれの開弁圧で開弁させることができる。しかも、本発明の燃料遮断装置によれば、正圧弁,安全弁を閉弁するスプリングを一つのスプリングのみで賄うことができ、部品点数の削減を通して燃料遮断装置の構成を簡略化することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例の燃料遮断装置10の断面図。
【図2】図1におけるI−I線の拡大断面図。
【図3】正圧バルブ体34の受圧面積S1と安全弁シール体61の受圧面積S2との関係と、正圧弁機構30および安全弁機構60の開弁の様子を説明するための説明図。
【図4】燃料遮断装置10における正圧弁機構30,負圧弁機構50,安全弁機構60の組み付けの様子を説明するための分解図。
【図5】燃料遮断装置10における燃料タンク内圧の調整の様子を説明するための説明図。
【図6】燃料遮断装置10における燃料タンク内圧の調整の様子を説明するための説明図。
【図7】燃料遮断装置10からの燃料蒸気の流出を回避する様子を説明するための説明図。
【図8】変形例の燃料遮断装置10の断面図。
【符号の説明】
10…燃料遮断装置
12…ケース
18…通気ポート
22…ベーパ孔
24…上部空間
26…下部空間
28…仕切板
30…正圧弁機構
31…正圧用スプリング
32…バルブ受け体
34…正圧バルブ体
35…支持体
36…開口内部
37…外側突起
38…内側突起
39…底部平面
50…負圧弁機構
50A…負圧弁機構
51…鍔
52…負圧バルブ体
53…負圧用スプリング
54…バネ支え部材
55,56…透孔
60…安全弁機構
61…安全弁シール体
62…シール突起
63…上部平面
64…上下連通孔
65…燃料遮断体
66…貫通孔
67…フロートシール面
69…段部
70…燃料遮断弁機構
71…フロート
72…スプリング
73…バルブ部
79…燃料通過孔
90…傘バルブ
91…透孔
134…正圧バルブ体
S1…受圧面積
S2…受圧面積

【特許請求の範囲】
【請求項1】 燃料タンクに配置され、該燃料タンクからの燃料蒸気の通気を行なうとともに、外部機器への燃料液の流出を遮断する燃料遮断装置であって、前記燃料タンク内の燃料蒸気および燃料液が流入可能な下室と、区画壁により該下室と区画されて形成され、前記外部機器と接続される接続ポートを有する上室と、該上室側に上下動自在に収納され、前記上室を燃料蒸気の通気を可能にして上下の空間に分割する上室分割板と、該上室分割板に設けられ、前記分割された前記上室における上方の空間と前記下室とに亘る燃料蒸気通路を形成する蒸気通路形成部材と、前記下室内に収納され、前記下室に流入する燃料により浮上することで前記燃料蒸気通路を閉鎖するフロートバルブと、前記燃料蒸気通路を前記上室分割板の上面を着座面として開閉する弁体を有し、前記上方の空間に配置されたスプリングの付勢力を前記着座面に向けて受けるとともに前記燃料蒸気通路を通して前記燃料タンク内圧を受圧し、前記弁体を挟んだ圧力の均衡により開閉する正圧弁と、前記区画壁の上面を着座面とするよう前記上室分割板又は蒸気通路形成部材に設けられた弁体を有し、前記正圧弁の弁体の前記上室分割板上面への着座を通して前記スプリングの付勢力を前記着座面に向けて受けるとともに前記区画壁に形成された内外室連通孔を通して前記燃料タンク内圧を受圧し、前記弁体を挟んだ圧力の均衡により前記内外室連通孔を開閉する安全弁とを備え、前記正圧弁の弁体の前記燃料タンク内圧の受圧面積と前記安全弁の弁体の前記燃料タンク内圧の受圧面積とを、前記正圧弁の受圧面積を前記安全弁の受圧面積より大きくして定めたことを特徴とする燃料遮断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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