燃料電池、燃料電池の製造方法、電子機器、酵素固定化電極、バイオセンサー、エネルギー変換素子、細胞、細胞小器官および細菌
【課題】一種または複数種の酵素あるいはさらに補酵素を微小な空間に閉じ込め、この空間を反応場として酵素反応を行うことによりグルコースなどから効率的に電子を取り出して電気エネルギーを発生させることができ、これらの酵素あるいはさらに補酵素の電極への固定も容易に行うことができる燃料電池およびその製造方法を提供する。
【解決手段】酵素反応に必要な酵素13、14および補酵素15をリポソーム12に封入し、リポソーム12を構成する脂質2分子膜に抗生物質16を結合させることによりグルコースの透過が可能な一つまたは複数の穴17を形成し、かつ脂質2分子膜にステロール18を結合させる。このリポソーム12を多孔質カーボンなどからなる電極の表面に固定化して酵素固定化電極を形成する。この酵素固定化電極を例えばバイオ燃料電池の負極として用いる。
【解決手段】酵素反応に必要な酵素13、14および補酵素15をリポソーム12に封入し、リポソーム12を構成する脂質2分子膜に抗生物質16を結合させることによりグルコースの透過が可能な一つまたは複数の穴17を形成し、かつ脂質2分子膜にステロール18を結合させる。このリポソーム12を多孔質カーボンなどからなる電極の表面に固定化して酵素固定化電極を形成する。この酵素固定化電極を例えばバイオ燃料電池の負極として用いる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、燃料電池、燃料電池の製造方法、電子機器、酵素固定化電極、バイオセンサー、エネルギー変換素子、細胞、細胞小器官および細菌に関する。より詳細には、この発明は、例えば、燃料または基質としてグルコースを用いるバイオ燃料電池、バイオセンサーおよびエネルギー変換素子ならびにバイオ燃料電池を電源に用いた各種の電子機器に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
近年、酵素を用いた燃料電池(バイオ燃料電池)が注目されている(例えば、特許文献1〜12参照。)。このバイオ燃料電池は、燃料を酵素により分解してプロトン(H+ )と電子とに分離するもので、燃料としてメタノールやエタノールなどのアルコール類あるいはグルコースなどの単糖類あるいはデンプンなどの多糖類を用いたものが開発されている。
【0003】
このバイオ燃料電池においては、電極に対する酵素の固定化・配列が非常に重要であることが分かっている。また、電子を伝達する役目を果たす電子メディエーターが酵素とともに有効に存在する必要性もあることが分かっている。従来の酵素の固定化方法は様々なものがあるが、その中でも本発明者らは、プラスに電荷を帯びたポリマーとマイナスに電荷を帯びたポリマーとを酵素と適当な割合で混合して多孔質カーボンなどからなる電極上に塗布することにより、電極との接着性を保ちつつ固定化膜を安定化させるポリイオンコンプレックス法やグルタルアルデヒド法を主体に開発してきた。
【0004】
しかしながら、上述のポリイオンコンプレックスを用いる固定化方法は、酵素の物理化学的性質、特に電荷に大きく依存しており、外部溶液の変化、使用中の環境変化などにより固定化の状態が絶えず変化することが懸念され、固定化した酵素などが溶出しやすい。また、一般的に酵素は熱に対する耐性が低いが、バイオ燃料電池の実用化に向けて酵素を改変してゆく際に、酵素そのものの物理化学的性質が変わり、その都度、固定化膜作製方法の最適化を図る必要があり、煩雑である。さらに、燃料からより多くの電子を取り出したいときには、より多くの酵素が必要となるが、これらの酵素を固定化する場合、その固定化条件の最適化に多大な労力を費やすことになる。
【0005】
こうした中、本発明者らは、酵素や補酵素をリポソームに封入し、この空間を反応場として酵素反応を行うことにより燃料から効率的に電子を取り出して電気エネルギーを発生させることを提案した(特許文献13参照。)。こうして酵素や補酵素を封入したリポソームを電極に固定化することにより、酵素や補酵素の電極への固定化を容易に行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−133297号公報
【特許文献2】特開2003−282124号公報
【特許文献3】特開2004−71559号公報
【特許文献4】特開2005−13210号公報
【特許文献5】特開2005−310613号公報
【特許文献6】特開2006−24555号公報
【特許文献7】特開2006−49215号公報
【特許文献8】特開2006−93090号公報
【特許文献9】特開2006−127957号公報
【特許文献10】特開2006−156354号公報
【特許文献11】特開2007−12281号公報
【特許文献12】特開2007−35437号公報
【特許文献13】特開2009−158458号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Biophys.J.,71,pp.2984-2995(1996)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、リポソームの内部に酵素や補酵素を閉じ込める特許文献13の方法では、燃料としてグルコースを用いる場合には、リポソームを構成する脂質2分子膜がグルコースを透過しないため、グルコースを透過するトランスポーターを脂質2分子膜に組み込まなければならない。また、乳酸などの有機酸もリポソームを構成する脂質2分子膜を透過しないため、リポソームをそのまま用いた場合にはこれらの有機酸を燃料として用いることはできない。
【0009】
そこで、この発明が解決しようとする課題は、一種または複数種の酵素あるいはさらに補酵素をリポソームの内部の微小な空間に閉じ込め、このリポソームの内部にグルコースや有機酸などの燃料を容易に透過させることができ、しかもこの燃料の透過速度を制御することができ、リポソームの内部の空間を反応場として酵素反応を行うことにより燃料から効率的に電子を取り出して電気エネルギーを発生させることができ、これらの酵素あるいはさらに補酵素の電極への固定化も容易に行うことができる燃料電池およびその製造方法を提供することである。
【0010】
この発明が解決しようとする他の課題は、上記の優れた燃料電池を用いた高性能の電子機器を提供することである。
【0011】
この発明が解決しようとするさらに他の課題は、上記の燃料電池に適用して好適な酵素固定化電極ならびに高効率のバイオセンサーおよびエネルギー変換素子を提供することである。
【0012】
この発明が解決しようとするさらに他の課題は、グルコースや有機酸などの基質を内部に容易に透過させることができ、しかもこの基質の透過速度を制御することができ、内部の空間を反応場として酵素反応を行うことにより基質から効率的に電子を取り出して電気エネルギーを発生させることができる細胞、細胞小器官および細菌を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った。その結果、バイオ燃料電池において、酵素反応に必要な酵素あるいはさらに補酵素を人工細胞であるリポソームに封入した場合には、同量の酵素あるいはさらに補酵素をリポソームに封入しないで用いる場合に比べて、酵素反応をはるかに効率的に行って極めて高い触媒電流を得たり、電極への固定化を容易にしたりすることができることを見出した。
【0014】
一方、バイオ燃料電池においてグルコースを燃料に用いる場合、周知のようにグルコースはリポソームを構成する脂質2分子膜に対する透過性が著しく低いため、グルコースを含む燃料溶液中にリポソームを置いても、リポソームの内部に燃料溶液からグルコースを取り込むことは極めて困難である(図58参照。)。本発明者らは、この点に関し鋭意研究を行った結果、リポソームを構成する脂質2分子膜に、グルコースの透過が可能な穴(チャネル)を有する抗生物質を結合させることにより、この問題を解消することができることを見出した。このグルコースの透過が可能な穴を有する抗生物質では有機酸の透過も可能である。さらに、リポソームを構成する脂質2分子膜に、抗生物質に加えてステロールを結合させることにより、抗生物質の穴を通しての有機酸やグルコースなどの透過速度の制御が可能となることを見出した。
【0015】
この発明は、本発明者らが独自に得た上記の知見に基づいて、上記の手法の適用が可能な範囲について様々な観点から検討を行い、案出されたものである。
【0016】
すなわち、上記課題を解決するために、この発明は、
正極と負極とがプロトン伝導体を介して対向した構造を有し、酵素を用いて燃料から電子を取り出すように構成され、
少なくとも一種の上記酵素がリポソームに封入されており、
上記リポソームを構成する脂質2分子膜に、グルコースの透過が可能な穴を有する抗生物質およびステロールが結合している燃料電池である。
【0017】
また、この発明は、
正極と負極とがプロトン伝導体を介して対向した構造を有し、酵素を用いて燃料から電子を取り出す燃料電池を製造する場合に、少なくとも一種の上記酵素をリポソームに封入した後、上記リポソームを構成する脂質2分子膜に、グルコースの透過が可能な穴を有する抗生物質およびステロールを結合させる工程を有する燃料電池の製造方法である。
【0018】
上記の各発明においては、典型的には、燃料電池は、酵素および補酵素を用いて燃料から電子を取り出すように構成され、少なくとも一種の酵素および少なくとも一種の補酵素がリポソームに封入される。
【0019】
リポソームは、リン脂質などからなる脂質2分子膜により形成された閉鎖小胞であり、内部が水相となっている。このリポソームには、一層の脂質2分子膜からなる単層リポソーム(SUV:小さな一枚膜リポソーム、GUV:巨大一枚膜リポソーム)だけでなく、小さなリポソーム(SUV)が大きいリポソーム(GUV)に取り込まれて入れ子になった多重層リポソーム(MUV)も含まれる。リポソームは、例えば、直径100nm程度のものから10μmに及ぶ大きなものまで作製することができ、直径は必要に応じて選ばれるが、具体例を挙げると2〜7μmである。リン脂質としては基本的にはどのようなものを用いてもよく、グリセロリン脂質、スフィンゴリン脂質のいずれを用いてもよい。グリセロリン脂質としては、ホスファチジン酸、ホスファチジルコリン(レシチン)、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、ジホスファチジルグリセロール(カルジオリピン)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。スフィンゴリン脂質としては、スフィンゴミエリンなどが挙げられるが、これに限定されるものではない。ホスファチジルコリンの代表例はジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)である。リポソームの形成およびリポソーム内部への酵素および補酵素の封入には従来公知の方法を用いることができ、必要に応じて選ばれる。
【0020】
リポソームを構成する脂質2分子膜に、グルコースの透過が可能な穴を有する抗生物質を結合させることで、抗生物質により縁取られる形で脂質2分子膜を貫通する穴が形成される。この抗生物質としては従来公知の各種のものを用いることができ、必要に応じて選ばれる。この穴は、リポソームの内部に封入される酵素あるいはさらに補酵素が少なくとも容易に透過しない大きさを有する。抗生物質は典型的には、複数の分子が環状に配列した多分子からなる。
【0021】
リポソームを構成する脂質2分子膜に結合させるステロールとしては従来公知の各種のものを用いることができ、必要に応じて選ばれる。ステロールの代表例としては、コレステロールやコプロスタノールなどの動物ステロールや、植物中のシトステロールやスチグマステロール、酵母や麦角菌が産出するエルゴステロールなどが挙げられる。リポソームを構成する脂質2分子膜に対するステロールの重量比は、好適には、1/4以上1/3以下であるが、これに限定されるものではない。
【0022】
このリポソームには、酵素反応に必要な酵素あるいはさらに補酵素のうち、少なくとも一種の酵素あるいはさらに少なくとも一種の補酵素を封入するが、酵素反応に必要な全ての酵素あるいはさらに補酵素をリポソームに封入してもよいし、一部の酵素または補酵素をリポソームに封入せず、このリポソームを構成する脂質2分子膜に組み込んだり、固定化したり、リポソームの外部に存在させるようにしてもよい。酵素または補酵素をリポソームを構成する脂質2分子膜に固定化する場合には、例えばポリエチレングリコール鎖などのアンカーを用いることができる。
【0023】
このリポソームは、好適には負極に固定化されるが、必ずしも固定化する必要はなく、プロトン伝導体に緩衝液(緩衝物質)を含む電解質を用いるような場合にはその緩衝液に含ませるようにしてもよい。リポソームの固定には、例えば細胞の固定に用いられる従来公知の各種の固定化方法を用いることができる。また、この場合、負極に対するリポソームの固定を安定化するために、負極とリポソームとの間に中間層を形成してもよい。この中間層としては、タンパク質やDNAなどの生体高分子のみならず、親水、疎水の両方の性質を持つような高分子電解質や、ミセル、逆ミセル、ラメラなどの構造体を形成することができるものや、ナノメートル構造を持ち、一つまたは複数の性質を持つ化合物であって生体親和性の高い化合物を用いることができる。タンパク質としては、例えば、アルブミンを代表とした、アルコールデヒドロゲナーゼ、ラクテートデヒドロゲナーゼ、オボアルブミン、ミオキナーゼなどの酸性タンパク質のほか、等電点をアルカリ側に持つリゾチウム、チトクロームc、ミオグロビン、トリプシノーゲンなどを用いることができる。このようなタンパク質などからなる中間層を電極表面に物理的に吸着させ、この中間層にリポソームを固定化することにより、負極に対してリポソームを安定に固定化することが可能である。
【0024】
負極に対してリポソームを安定に固定化する方法としては、次のような方法を用いることが有効である。すなわち、負極には第1の物質を固定化し、リポソームには第2の物質を結合し、負極に固定化された第1の物質とリポソームに結合した第2の物質とが互いに結合することにより、負極に対してリポソームを安定に固定化することができる。このような第1の物質と第2の物質との組み合わせとしては、好適には、特異的に結合する結合対が用いられるが、必ずしもこれに限定されるものではない。このような第1の物質と第2の物質との組み合わせの具体例を挙げると次の通りである。
【0025】
・アビジン(avidin) とビオチン(biotin)
アビジンはビオチンと特異的に結合する糖タンパク質である。例えば、負極にアビジンを固定化するとともに、ビオチンをリポソームに結合し、負極に固定化したアビジンとリポソームに結合したビオチンとを結合させることにより負極にリポソームを固定化することができる。負極にビオチンを固定化し、リポソームにアビジンを結合させてもよい。アビジンとしては、ストレプトアビジン(StreptAvidin) 、ニュートロアビジン(NeutroAvidin)などの各種のものを用いることができ、さらにはこれらの変異体を用いることもできる。
【0026】
・抗原と抗体
抗体は抗原と特異的に結合する免疫グロブリンである。例えば、抗原修飾脂質を用いてリポソームを作製するとともに、負極に抗体を固定化し、負極に固定化した抗体とリポソームに結合した抗原とを結合させることにより負極にリポソームを固定化することができる。負極に抗原を固定化し、リポソームに抗体を結合させてもよい。
【0027】
・プロテインAまたはプロテインGと免疫グロブリンIg G
プロテインAまたはプロテインGは免疫グロブリンIg Gに強い親和性を有するタンパク質である。例えば、負極に免疫グロブリンIg Gを固定化するとともに、プロテインAまたはプロテインGをリポソームに結合する。そして、負極に固定化した免疫グロブリンIg Gとリポソームに結合したプロテインAまたはプロテインGとを結合させることにより負極にリポソームを固定化することができる。負極にプロテインAまたはプロテインGを固定化し、リポソームに免疫グロブリンIg Gを結合させてもよい。
【0028】
・糖分子(あるいは糖鎖含有化合物)とレクチン
レクチンは糖結合性タンパク質の総称である。例えば、膜貫通型レクチンを混ぜてリポソームを作製するとともに、負極に糖分子(あるいは糖鎖含有化合物)を固定化する。そして、負極に固定化した糖分子(あるいは糖鎖含有化合物)の糖鎖とリポソームに結合したレクチンとを結合させることにより負極にリポソームを固定化することができる。負極にレクチンを固定化し、リポソームに糖分子(あるいは糖鎖含有化合物)を結合させてもよい。
【0029】
・DNAと相補鎖DNA
例えば、DNAを結合した水溶性脂質を利用してリポソームを作製するとともに、負極に相補鎖DNAを固定化する。そして、負極に固定化した相補鎖DNAとリポソームに結合したDNAとをハイブリダイゼーションにより結合させることにより負極にリポソームを固定化することができる。
【0030】
・グルタチオンとグルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST)
例えば、GST融合膜貫通タンパク質を混ぜてリポソームを作製するとともに、負極にグルタチオンを固定化する。そして、負極に固定化したグルタチオンとリポソームに結合したGSTとを結合させることにより負極にリポソームを固定化することができる。
【0031】
・ヘパリンとヘパリン結合性分子
例えば、リポソームを構成する脂質2分子膜をヘパリン結合性分子で修飾するとともに、負極をヘパリンで修飾する。そして、ヘパリン修飾負極のヘパリンとリポソームに結合したヘパリン結合性分子とを結合させることにより負極にリポソームを固定化することができる。
【0032】
・ホルモンとホルモン受容体
ホルモン受容体はホルモン分子を特異的に受容するタンパク質分子または分子複合体である。例えば、負極にホルモン受容体を固定化するとともに、リポソームにホルモンを結合し、負極に固定化したホルモン受容体とリポソームに結合したホルモンとを結合させることにより負極にリポソームを固定化することができる。
【0033】
・カルボン酸とイミド
例えば、負極にカルボン酸を結合するとともに、リポソームにアミンを結合する。そして、負極に結合したカルボン酸とリポソームに結合したアミンとをカルボジイミドやN−ヒドロキシスクシンイミドなどのイミドを用いてアミドカップリングにより結合することにより負極にリポソームを固定化することができる。負極にアミンを結合するとともに、リポソームにカルボン酸を結合してもよい。
【0034】
なお、負極の電極材料が炭素(カーボン)である場合、負極にカルボン酸を結合する方法としては、例えば、ジアゾニウム塩を硝酸、硫酸、過酸化水素などを含む溶液中でリフラックス、もしくは電気化学的酸化を行う方法を用いることができる。
【0035】
燃料としては、グルコースなどの種々のものを用いることができ、必要に応じて選ばれる。グルコース以外の燃料としては、例えば、クエン酸回路に関与する各種の有機酸や、ペントースリン酸回路および解糖系に関与する糖および有機酸などが挙げられる。クエン酸回路に関与する各種の有機酸は、乳酸、ピルビン酸、アセチルCoA、クエン酸、イソクエン酸、αケトグルタル酸、スクシニルCoA、コハク酸、フマル酸、リンゴ酸、オキサロ酢酸などである。ペントースリン酸回路および解糖系に関与する糖および有機酸は、グルコース6リン酸、6ホスホグルコノラクトン、6ホスホグルコン酸、リブロース5リン酸、グリセルアルデヒド3リン酸、フルクトース6リン酸、キシルロース5リン酸、セドヘプツロース7リン酸、エリトロース4リン酸、ホスホエノールピルビン酸、1,3ビスホスホグリセリン酸、リボース5リン酸などである。これらの燃料は、いずれも、リポソームを構成する脂質2分子膜に結合した抗生物質が有する、グルコースの透過が可能な穴の透過が可能である。
【0036】
これらの燃料は、典型的には、これらの燃料をリン酸緩衝液やトリス緩衝液などの従来公知の緩衝液に溶かした燃料溶液の形で用いる。
【0037】
リポソームに封入する酵素は、典型的には、グルコースなどの燃料の酸化を促進し分解する酸化酵素を含み、さらに、燃料の酸化に伴って還元された補酵素を酸化体に戻すとともに電子メディエーターを介して電子を負極に渡す補酵素酸化酵素を含む。具体的には、好適には、リポソームに封入する酵素は、グルコースなどの燃料の酸化を促進し分解する酸化酵素と、この酸化酵素によって還元される補酵素を酸化体に戻す補酵素酸化酵素とを含む。この補酵素酸化酵素の作用により、補酵素が酸化体に戻るときに電子が生成され、補酵素酸化酵素から電子メディエーターを介して負極に電子が渡される。例えば燃料としてグルコースを用いる場合、酸化酵素としては例えばグルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)(特に、NAD依存型グルコースデヒドロゲナーゼ)が、補酵素としては例えばNAD+ またはNADP+ が、補酵素酸化酵素としては例えばジアホラーゼ(DI)が用いられる。
【0038】
電子メディエーターとしては基本的にはどのようなものを用いてもよいが、好適には、キノン骨格を有する化合物が用いられ、具体的には、例えば、2,3−ジメトキシ−5−メチル−1,4−ベンゾキノン(Q0)や、ナフトキノン骨格を有する化合物、例えば、2−アミノ−1,4−ナフトキノン(ANQ)、2−アミノ−3−メチル−1,4−ナフトキノン(AMNQ)、2−メチル−1,4−ナフトキノン(VK3)、2−アミノ−3−カルボキシ−1,4−ナフトキノン(ACNQ)、ビタミンK1などの各種のナフトキノン誘導体が用いられる。キノン骨格を有する化合物としては、例えば、アントラキノンやその誘導体を用いることもできる。電子メディエーターには、必要に応じて、キノン骨格を有する化合物以外に、電子メディエーターとして働く一種または二種以上の他の化合物を含ませてもよい。この電子メディエーターは、酵素および補酵素が封入されたリポソームとともに負極に固定化してもよいし、このリポソームの内部に封入してもよいし、このリポソームに固定してもよいし、燃料溶液に含ませるようにしてもよい。
【0039】
正極に酵素が固定化される場合、この酵素は、典型的には酸素を還元する酵素を含む。この酸素を還元する酵素としては、例えば、ビリルビンオキシダーゼ、ラッカーゼ、アスコルビン酸オキシダーゼなどを用いることができる。この場合、正極には、好適には、酵素に加えて電子メディエーターも固定化される。電子メディエーターとしては、例えば、ヘキサシアノ鉄酸カリウム、オクタシアノタングステン酸カリウムなどを用いる。電子メディエーターは、好適には、十分に高濃度、例えば、平均値で0.64×10-6mol/mm2 以上固定化する。
【0040】
プロトン伝導体としては種々のものを用いることができ、必要に応じて選択されるが、具体的には、例えば、セロハン、パーフルオロカーボンスルホン酸(PFS)系の樹脂膜、トリフルオロスチレン誘導体の共重合膜、リン酸を含浸させたポリベンズイミダゾール膜、芳香族ポリエーテルケトンスルホン酸膜、PSSA−PVA(ポリスチレンスルホン酸ポリビニルアルコール共重合体)や、PSSA−EVOH(ポリスチレンスルホン酸エチレンビニルアルコール共重合体)、含フッ素カーボンスルホン酸基を有するイオン交換樹脂(ナフィオン(商品名、米国デュポン社)など)などからなるものが挙げられる。
【0041】
プロトン伝導体として緩衝液(緩衝物質)を含む電解質を用いる場合には、高出力動作時に十分な緩衝能を得ることができ、酵素が本来持っている能力を十分に発揮することができるようにするのが望ましい。このために、電解質に含まれる緩衝物質の濃度を0.2M以上2.5M以下にすることが有効であり、好適には0.2M以上2M以下、より好適には0.4M以上2M以下、さらに好適には0.8M以上1.2M以下とする。緩衝物質は、一般的には、pKa が6以上9以下のものであれば、どのようなものを用いてもよいが、具体例を挙げると、リン酸二水素イオン(H2 PO4 - )、2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール(略称トリス)、2−(N−モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)、カコジル酸、炭酸(H2 CO3 )、クエン酸水素イオン、N−(2−アセトアミド)イミノ二酢酸(ADA)、ピペラジン−N,N’−ビス(2−エタンスルホン酸)(PIPES)、N−(2−アセトアミド)−2−アミノエタンスルホン酸(ACES)、3−(N−モルホリノ)プロパンスルホン酸(MOPS)、N−2−ヒドロキシエチルピペラジン−N’−2−エタンスルホン酸(HEPES)、N−2−ヒドロキシエチルピペラジン−N’−3−プロパンスルホン酸(HEPPS)、N−[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]グリシン(略称トリシン)、グリシルグリシン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)グリシン(略称ビシン)などである。リン酸二水素イオン(H2 PO4 - )を生成する物質は、例えば、リン酸二水素ナトリウム(NaH2 PO4 )やリン酸二水素カリウム(KH2 PO4 )などである。緩衝物質としてはイミダゾール環を含む化合物も好ましい。イミダゾール環を含む化合物は、具体的には、イミダゾール、トリアゾール、ピリジン誘導体、ビピリジン誘導体、イミダゾール誘導体(ヒスチジン、1−メチルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、4−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、イミダゾール−2−カルボン酸エチル、イミダゾール−2−カルボキシアルデヒド、イミダゾール−4−カルボン酸、イミダゾール−4,5−ジカルボン酸、イミダゾール−1−イル−酢酸、2−アセチルベンズイミダゾール、1−アセチルイミダゾール、N−アセチルイミダゾール、2−アミノベンズイミダゾール、N−(3−アミノプロピル) イミダゾール、5−アミノ−2−(トリフルオロメチル) ベンズイミダゾール、4−アザベンズイミダゾール、4−アザ−2−メルカプトベンズイミダゾール、ベンズイミダゾール、1−ベンジルイミダゾール、1−ブチルイミダゾール)などである。必要に応じて、これらの緩衝物質に加えて、例えば、塩酸(HCl)、酢酸(CH3 COOH)、リン酸(H3 PO4 )および硫酸(H2 SO4 )からなる群より選ばれた少なくとも一種の酸を中和剤として加えてもよい。こうすることで、酵素の活性をより高く維持することができる。緩衝物質を含む電解質のpHは、好適には7付近であるが、一般的には1〜14のいずれであってもよい。
【0042】
正極および負極の電極材料としては各種のものを用いることができるが、例えば、多孔質カーボン、カーボンペレット、カーボンフェルト、カーボンペーパーなどのカーボン系材料が用いられる。電極の材料としては、多孔体材料からなる骨格と、この骨格の少なくとも一部の表面を被覆する、カーボン系材料を主成分とする材料とを含む多孔体導電材料を用いることもできる(特許文献12参照。)。
【0043】
この燃料電池はおよそ電力が必要なものすべてに用いることができ、大きさも問わないが、例えば、電子機器、移動体(自動車、二輪車、航空機、ロケット、宇宙船など)、動力装置、建設機械、工作機械、発電システム、コージェネレーションシステムなどに用いることができ、用途などによって出力、大きさ、形状、燃料の種類などが決められる。
【0044】
また、この発明は、
一つまたは複数の燃料電池を用い、
少なくとも一つの上記燃料電池が、
正極と負極とがプロトン伝導体を介して対向した構造を有し、酵素を用いて燃料から電子を取り出すように構成され、
少なくとも一種の上記酵素がリポソームに封入されており、
上記リポソームを構成する脂質2分子膜に、グルコースの透過が可能な穴を有する抗生物質およびステロールが結合しているものである電子機器である。
【0045】
この電子機器は、基本的にはどのようなものであってもよく、携帯型のものと据え置き型のものとの双方を含むが、具体例を挙げると、携帯電話、モバイル機器(携帯情報端末機(PDA)など)、ロボット、パーソナルコンピュータ(デスクトップ型、ノート型の双方を含む)、ゲーム機器、カメラ一体型VTR(ビデオテープレコーダ)、車載機器、家庭電気製品、工業製品などである。
【0046】
この電子機器の発明においては、その性質に反しない限り、上記の燃料電池および燃料電池の製造方法の発明に関連して説明したことが成立する。
【0047】
また、この発明は、
少なくとも一種の酵素が封入されたリポソームが固定化されており、
上記リポソームを構成する脂質2分子膜に、グルコースの透過が可能な穴を有する抗生物質およびステロールが結合している酵素固定化電極である。
【0048】
この酵素固定化電極の発明においては、その性質に反しない限り、上記の燃料電池および燃料電池の製造方法の発明に関連して説明したことが成立する。
【0049】
また、この発明は、
酵素を用い、
少なくとも一種の上記酵素がリポソームに封入されており、
上記リポソームを構成する脂質2分子膜に、グルコースの透過が可能な穴を有する抗生物質およびステロールが結合しているバイオセンサーである。
【0050】
このバイオセンサーの発明においては、その性質に反しない限り、上記の燃料電池および燃料電池の製造方法の発明に関連して説明したことが成立する。
【0051】
また、この発明は、
少なくとも一種の酵素が封入されたリポソームを用い、上記リポソームを構成する脂質2分子膜に、グルコースの透過が可能な穴を有する抗生物質およびステロールが結合しているエネルギー変換素子である。
【0052】
ここで、このエネルギー変換素子は、燃料または基質が持つ化学エネルギーを酵素反応により電気エネルギーに変換する素子であり、上記の燃料電池、すなわちバイオ燃料電池はこのエネルギー変換素子の一種である。
【0053】
このエネルギー変換素子の発明においては、その性質に反しない限り、上記の燃料電池および燃料電池の製造方法の発明に関連して説明したことが成立する。
【0054】
また、この発明は、
細胞膜を構成する脂質2分子膜に、グルコースの透過が可能な穴を有する抗生物質およびステロールが結合している細胞である。
【0055】
また、この発明は、
細胞膜を構成する脂質2分子膜に、グルコースの透過が可能な穴を有する抗生物質およびステロールが結合している細胞小器官である。
【0056】
また、この発明は、
細胞膜を構成する脂質2分子膜に、グルコースの透過が可能な穴を有する抗生物質およびステロールが結合している細菌である。
【0057】
上記の細胞、細胞小器官および細菌は、グルコースなどの燃料または基質の代謝系を有するものである限り、特に限定されるものではなく、従来公知の各種のものを含む。必要に応じて、これらの細胞、細胞小器官および細菌の内部に、上記の燃料電池と同様に、グルコースなどの燃料または基質の分解などに必要な酵素あるいはさらに補酵素を封入してもよい。
【0058】
上述のように構成されたこの発明においては、酵素反応に関与する少なくとも一種の酵素あるいはさらに少なくとも一種の補酵素を、高活性を保ったままリポソームに封入することができる。このリポソームを構成する脂質2分子膜に結合した抗生物質の穴からこのリポソームの内部にグルコースや有機酸などの燃料または基質を容易に透過させることができ、しかも、このリポソームを構成する脂質2分子膜に結合したステロールによりこの燃料の透過速度を制御することができる。そして、このリポソームの内部の微小な空間を反応場として効率的に酵素反応が行われ、グルコースなどの燃料または基質から効率的に電子を取り出すことができる。この場合、このリポソームの内部に封入された酵素および補酵素の濃度は極めて高く、従って酵素および補酵素の相互の間隔は極めて小さいため、これらの酵素および補酵素による触媒サイクルは極めて高速に進行し、酵素反応が高速に進行する。そして、このリポソームを負極または電極に固定化することにより、このリポソームの内部に封入された酵素あるいはさらに補酵素をこのリポソームを介して負極または電極に容易に固定化することができる。このため、グルコースなどの燃料または基質から取り出された電子を確実に負極または電極に受け渡すことができる。この場合、リポソームの固定は、酵素や補酵素をポリイオンコンプレックスなどにより固定化する場合に比べて簡単に行うことができる。
【0059】
また、上記の細胞、細胞小器官および細菌においては、これらの細胞、細胞小器官および細菌の内部の微小な空間を反応場として効率的に酵素反応が行われ、グルコースや有機酸などの燃料または基質から効率的に電子を取り出すことができる。この場合、酵素反応は、これらの細胞、細胞小器官および細菌に備わっている代謝系により行われるが、これらの細胞、細胞小器官および細菌の内部に燃料または基質の分解などに必要な酵素あるいはさらに補酵素を封入する場合はこれらの酵素および補酵素により行うことができる。
【発明の効果】
【0060】
この発明によれば、酵素あるいはさらに補酵素をリポソームの内部の微小な空間に閉じ込め、このリポソームの内部にグルコースや有機酸などの燃料を容易に透過させることができ、しかもこの燃料の透過速度を制御することができ、リポソームの内部の空間を反応場として酵素反応を行うことにより燃料から効率的に電子を取り出して電気エネルギーを発生させることができ、これらの酵素あるいはさらに補酵素の電極への固定化も容易な高効率の燃料電池を実現することができる。そして、このように高効率の燃料電池を用いることにより、高性能の電子機器などを実現することができる。また、同様に、高効率のバイオセンサーおよびエネルギー変換素子を実現することができる。
また、グルコースや有機酸などの燃料または基質から効率的に電子を取り出して電気エネルギーを発生させることができる細胞、細胞小器官および細菌を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】この発明の第1の実施の形態による酵素固定化電極を示す略線図である。
【図2】この発明の第1の実施の形態による酵素固定化電極において用いられる酵素および補酵素が封入されたリポソームを示す略線図である。
【図3】この発明の第1の実施の形態による酵素固定化電極においてリポソームに封入された酵素群および補酵素による電子の受け渡し反応を模式的に示す略線図である。
【図4】リポソームに酵素群および補酵素を封入して酵素反応を行うことによる利点を説明するための略線図である。
【図5】蛍光ラベル化したアルコールデヒドロゲナーゼ、蛍光ラベル化したジアホラーゼおよびNADHを封入したリポソームの蛍光顕微鏡像を示す図面代用写真である。
【図6】蛍光ラベル化したアルコールデヒドロゲナーゼ、蛍光ラベル化したジアホラーゼおよびNADHを封入したリポソームの蛍光顕微鏡像を示す図面代用写真である。
【図7】蛍光ラベル化したアルコールデヒドロゲナーゼ、蛍光ラベル化したジアホラーゼおよびNADHを封入したリポソームの蛍光顕微鏡像を示す図面代用写真である。
【図8】蛍光ラベル化したアルコールデヒドロゲナーゼ、蛍光ラベル化したジアホラーゼおよびNADHを封入したリポソームを蛍光モニタリングした結果を示す略線図である。
【図9】蛍光ラベル化したアルコールデヒドロゲナーゼ、蛍光ラベル化したジアホラーゼおよびNADHを封入したリポソームを蛍光モニタリングした結果を示す略線図である。
【図10】蛍光ラベル化したアルコールデヒドロゲナーゼ、蛍光ラベル化したジアホラーゼおよびNADHを封入したリポソームを蛍光モニタリングした結果を示す略線図である。
【図11】リポソームの安定性を説明するための略線図である。
【図12】アルコールデヒドロゲナーゼ、ジアホラーゼおよびNADHを封入したリポソームを所定の溶液中に分散させた場合ならびにアルコールデヒドロゲナーゼ、ジアホラーゼおよびNADHを単に所定の溶液中に分散させた場合に行ったクロノアンペロメトリーの結果を示す略線図である。
【図13】アルコールデヒドロゲナーゼ、ジアホラーゼおよびNADHを封入したリポソームを緩衝液中に分散させた状態を示す略線図である。
【図14】アルコールデヒドロゲナーゼ、ジアホラーゼおよびNADHを単に緩衝液中に分散させた状態を示す略線図である。
【図15】グルコースデヒドロゲナーゼ、ジアホラーゼおよびNADHを封入したリポソームを測定溶液中に分散させた場合に行ったクロノアンペロメトリーの結果を示す略線図である。
【図16】グルコースデヒドロゲナーゼ、ジアホラーゼおよびNADHを封入したリポソームを測定溶液中に分散させた場合に行ったクロノアンペロメトリーの結果を示す略線図である。
【図17】この発明の実施例1において抗生物質として用いるアムホテリシンBの構造式を示す略線図である。
【図18】この発明の実施例1においてリポソームを構成する脂質2分子膜にアムホテリシンBが結合して穴が形成されている状態を示す断面図である。
【図19】この発明の実施例1においてリポソームを構成する脂質2分子膜にアムホテリシンBが結合して穴が形成されている状態を示す平面図である。
【図20】脂質2分子膜にアムホテリシンBを結合させたリポソームをイオン液体に浸漬して撮影した走査型電子顕微鏡像を示す図面代用写真である。
【図21】脂質2分子膜にアムホテリシンBを結合させていないリポソームをイオン液体に浸漬して撮影した走査型電子顕微鏡像を示す図面代用写真である。
【図22】この発明の実施例1においてグルコースデヒドロゲナーゼ、ジアホラーゼおよびNADHを封入したリポソームを測定溶液中に分散させた場合に行ったクロノアンペロメトリーの結果を示す略線図である。
【図23】実施例1との比較のために行ったクロノアンペロメトリーの結果を示す略線図である。
【図24】実施例1との比較のために行ったクロノアンペロメトリーの結果を示す略線図である。
【図25】電気化学分析に用いた電気化学測定装置を示す略線図である。
【図26】電気化学分析の測定条件を示す略線図である。
【図27】電気化学分析の測定結果を示す略線図である。
【図28】脂質2分子膜の両側のイオン分布を示す略線図である。
【図29】脂質2分子膜の内外のイオン濃度を示す略線図である。
【図30】脂質2分子膜の内外のイオン濃度を示す略線図である。
【図31】電気化学分析の測定結果を示す略線図である。
【図32】各種の有機酸の拡散係数比と有機酸の分子量との関係を示す略線図である。
【図33】コレステロールを用いた場合の電気化学分析の測定結果を示す略線図である。
【図34】エルゴステロールを用いた場合の電気化学分析の測定結果を示す略線図である。
【図35】コレステロールまたはエルゴステロールを用いた場合の各種の有機酸の拡散係数比と有機酸の分子量との関係を示す略線図である。
【図36】電気化学測定系を示す略線図である。
【図37】電気化学分析の測定結果を示す略線図である。
【図38】エルゴステロールを用いた場合の利点を説明するための略線図である。
【図39】電気化学分析の測定結果を示す略線図である。
【図40】電気化学分析の測定結果を示す略線図である。
【図41】電気化学分析の測定結果を示す略線図である。
【図42】この発明の第2の実施の形態によるバイオ燃料電池を示す略線図である。
【図43】この発明の第2の実施の形態によるバイオ燃料電池の負極の構成の詳細ならびにこの負極に固定化されたリポソームに封入された酵素群および補酵素の一例およびこの酵素群および補酵素による電子の受け渡し反応を模式的に示す略線図である。
【図44】この発明の第2の実施の形態によるバイオ燃料電池の具体的な構成例を示す略線図である。
【図45】この発明の第3の実施の形態によるバイオ燃料電池において負極の電極材料に用いる多孔体導電材料の構造を説明するための略線図および断面図である。
【図46】この発明の第3の実施の形態によるバイオ燃料電池において負極の電極材料に用いる多孔体導電材料の製造方法を説明するための略線図である。
【図47】この発明の第4の実施の形態による細胞の要部を示す略線図である。
【図48】この発明の第5の実施の形態によるミトコンドリアを示す略線図である。
【図49】この発明の第6の実施の形態による細菌を示す略線図である。
【図50】この発明の第7の実施の形態によるバイオ燃料電池において負極の電極に用いる多孔質電極を示す斜視図および断面図である。
【図51】この発明の第8の実施の形態による酵素固定化電極を示す略線図である。
【図52】この発明の実施例2においてクロノアンペロメトリー測定を行うために作製した試料を示す略線図である。
【図53】この発明の実施例2との比較のために作製した第1の試料を示す略線図である。
【図54】この発明の実施例2との比較のために作製した第2の試料を示す略線図である。
【図55】この発明の実施例2との比較のために作製した第3の試料を示す略線図である。
【図56】この発明の実施例2において行ったクロノアンペロメトリーの結果を比較例の結果とともに示す略線図である。
【図57】この発明の第9の実施の形態による酵素固定化電極を示す略線図である。
【図58】脂質2分子膜に対する種々の分子の透過性を示す略線図である。
【発明を実施するための形態】
【0062】
以下、発明を実施するための形態(以下「実施の形態」とする)について説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
1.第1の実施の形態(酵素固定化電極およびその製造方法)
2.第2の実施の形態(バイオ燃料電池)
3.第3の実施の形態(バイオ燃料電池)
4.第4の実施の形態(細胞)
5.第5の実施の形態(ミトコンドリア)
6.第6の実施の形態(細菌)
7.第7の実施の形態(バイオ燃料電池)
8.第8の実施の形態(酵素固定化電極およびその製造方法)
9.第9の実施の形態(酵素固定化電極およびその製造方法)
【0063】
〈1.第1の実施の形態〉
[酵素固定化電極]
図1はこの発明の第1の実施の形態による酵素固定化電極を示す。この酵素固定化電極においては、基質としてグルコースや有機酸などを用いる。
【0064】
図1に示すように、この酵素固定化電極においては、多孔質カーボンなどからなる電極11の表面にリン脂質などの脂質2分子膜からなるリポソーム12が物理吸着などにより固定化されている。このリポソーム12の内部の水相に、目的とする酵素反応に関与する少なくとも一種の酵素および少なくとも一種の補酵素が封入される。
【0065】
図2にこのリポソーム12の構造の詳細を示す。図2においては、リポソーム12の内部の水相12aに二種類の酵素13、14および一種類の補酵素15が封入されている。このリポソーム12の内部の水相12aには、これらの酵素13、14および補酵素15以外に、例えば電子メディエーターを封入してもよい。この電子メディエーターは、リポソーム12とともに電極11上に固定化してもよい。例えば、酵素13は基質として用いられるグルコースの酸化を促進し分解する酸化酵素、酵素14はこのグルコースの酸化に伴って還元された補酵素15を酸化体に戻すとともに電子メディエーターを介して電子を電極11に渡す補酵素酸化酵素である。
【0066】
図2に示すように、リポソーム12を構成する脂質2分子膜に一つまたは複数の抗生物質16が結合しており、この抗生物質16により縁取られる形でこの脂質2分子膜を貫通する穴17が形成されている。図2においては一つの穴17だけが示されているが、この穴17の数および配置は任意である。この穴17の大きさは、グルコースの透過は可能であるが、リポソーム12の内部に封入された酵素13、14および補酵素15の透過は不可能あるいは困難な大きさに選ばれる。
【0067】
抗生物質16としては、例えば、ポリエン系抗生物質であるアムホテリシン(Amphotericin)Bのほか、イオノホア(ionophore)などを用いることができるが、これに限定されるものではない。イオノホアは、例えば、バリノマイシン、イオノマイシン、ナイジェリシン、グラミシジンA、モネンシン、カルボニルシアニド−m−クロロフェニルヒドラゾン、カルボニルシアニド−p−フルオロメトキシフェニルヒドラゾンなどである。
【0068】
リポソーム12を構成する脂質2分子膜には、抗生物質16に加えて、一つまたは複数のステロール18が結合している。図2においては五つのステロール18が示されているが、このステロール18の数および配置は任意であり、必要に応じて選ばれる。好適には、リポソーム12を構成する脂質2分子膜に対するステロール18の重量比は1/4以上1/3以下の範囲に選ばれる。
【0069】
ステロール18の具体例を挙げると、コレステロール
【化1】
やエルゴステロール
【化2】
などである。
【0070】
[酵素固定化電極の製造方法]
この酵素固定化電極は、例えば、次のようにして製造することができる。まず、酵素13、14および補酵素15が封入されたリポソーム12を作製する。次に、このリポソーム12を構成する脂質2分子膜に抗生物質16を結合させて穴17を形成するとともに、この脂質2分子膜にステロール18を結合させる。次に、こうして抗生物質16およびステロール18を結合させたリポソーム12を電極11上に固定化する。これによって、酵素固定化電極が製造される。酵素13、14および補酵素15を封入する前のリポソーム12を構成する脂質2分子膜に抗生物質16およびステロール18を結合させるようにしてもよい。また、リポソーム12を電極11上に固定化してからこのリポソーム12を構成する脂質2分子膜に抗生物質16およびステロール18を結合させてもよい。
【0071】
より具体的には、酵素固定化電極は、例えば、次のようにして製造される。まず、酵素13を含む緩衝液、酵素14を含む緩衝液、補酵素15を含む緩衝液およびステロール18が結合しているリポソーム12(内部に酵素13、14および補酵素15が封入されていないもの)を含む緩衝液をそれぞれ作製する。次に、これらの緩衝液を混合した後、この混合溶液をゲルろ過カラムに通したりすることなどによりリポソーム12外の酵素13、14および補酵素15を除去する。次に、こうして内部に酵素13、14および補酵素15が封入されたリポソーム12を緩衝液中に置き、この緩衝液中に抗生物質16を添加してリポソーム12を構成する脂質2分子膜に抗生物質16を結合させて穴17を形成する。
【0072】
図3にこの酵素固定化電極における酵素、補酵素および電子メディエーターによる電子の受け渡し反応の一例を模式的に示す。この例では、グルコースの分解に関与する酵素がグルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)である。また、グルコースの分解プロセスにおける酸化反応に伴って還元体が生成される補酵素がNAD+ である。また、補酵素の還元体であるNADHを酸化する補酵素酸化酵素がジアホラーゼ(DI)である。そして、補酵素酸化酵素から補酵素の酸化に伴って生じる電子を電子メディエーターが受け取って電極11に渡すようになっている。この場合、グルコースは、リポソーム12を構成する脂質2分子膜に形成された穴17を透過してリポソーム12の内部に入り、グルコースデヒドロゲナーゼによるこのグルコースの分解によりグルコノラクトンが生成され、このグルコノラクトンが穴17を透過してリポソーム12の外部に出る。電子メディエーターは、リポソーム12を構成する脂質2分子膜を出入りして電子伝達を行う。
【0073】
実施例について説明する前に、酵素反応の反応場として酵素および補酵素を封入したリポソームを用いることの有効性について詳細に検討を行った結果について説明する(特許文献13参照。)。ただし、ここでは、リポソームとして脂質2分子膜にグルコースの透過が可能な穴が形成されていないものを用い、酵素反応の基質としてエチルアルコールを用いる場合を考える。
【0074】
図4に示すように、電極19に、脂質2分子膜にグルコースの透過が可能な穴が形成されていないリポソーム20の内部にエチルアルコール(EtOH)の分解に関与する酵素および補酵素が封入されたものを固定化した酵素固定化電極を作製した。電極19としては電極11と同様なものを用いた。図4にこの酵素固定化電極における酵素、補酵素および電子メディエーターによる電子の受け渡し反応の一例を模式的に示す。この例では、エチルアルコール(EtOH)の分解に関与する酵素がアルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)である。また、エチルアルコールの分解プロセスにおける酸化反応に伴って還元体が生成される補酵素がNAD+ である。また、補酵素の還元体であるNADHを酸化する補酵素酸化酵素がジアホラーゼ(DI)である。そして、補酵素酸化酵素から補酵素の酸化に伴って生じる電子を電子メディエーターが受け取って電極19に渡す。この場合、エチルアルコールは、リポソーム20を構成する脂質2分子膜を透過してリポソーム20の内部に入り、アルコールデヒドロゲナーゼによるこのエチルアルコールの分解によりアセトアルデヒド(CH3 CHO)が生成され、このアセトアルデヒドがリポソーム20の外部に出る。電子メディエーターは、リポソーム20を構成する脂質2分子膜を出入りして電子伝達を行う。
【0075】
この図4に示す酵素固定化電極を実際に作製して実験を行った。
まず、次のようにして酵素固定化電極を作製した。
ジアホラーゼ(DI)(EC 1.8.1.4、天野エンザイム製)を5mg秤量し、緩衝溶液(10mMリン酸緩衝液、pH7)1mLに溶解させ、DI酵素緩衝溶液(1)とした。
【0076】
アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)(NAD依存型、EC 1.1.1.1、天野エンザイム製)を5mg秤量し、緩衝溶液(10mMリン酸緩衝液、pH7)1mLに溶解させ、ADH酵素緩衝溶液(2)とした。
【0077】
上記の酵素を溶解させる緩衝溶液は直前まで冷蔵されていたものが好ましく、酵素緩衝溶液もできるだけ冷蔵保存しておくことが好ましい。
【0078】
NADH(シグマアルドリッチ製、N−8129)を35mg秤量し、緩衝溶液(10mMリン酸緩衝液、pH7)1mLに溶解させ、NADH緩衝溶液(3)とした。
【0079】
2,3−ジメトキシ−5−メチル−1,4−ベンゾキノン(Q0)を15〜300mg秤量し、緩衝溶液(10mMリン酸緩衝液、pH7)1mLに溶解させ、Q0緩衝溶液(4)とした。
【0080】
卵黄レシチン(Wako製)を100mg秤量し、緩衝溶液(10mMリン酸緩衝液、pH7)10mLに溶解させてホモジナイザーで均一化し、リポソーム緩衝溶液(5)とした。
【0081】
上記のようにして作製した各種の溶液を、下記に示す量ずつ採取して混合し、凍結融解を3度繰り返した。
DI酵素緩衝溶液(1):50μL
ADH酵素緩衝溶液(2):50μL
NADH緩衝溶液(3):50μL
リポソーム緩衝溶液(5):50μL
【0082】
上記の混合溶液をゲルろ過カラムに通し、リポソーム外の酵素およびNADHを除去する。ここで得たリポソーム溶液をADH、DI、NADH封入リポソーム溶液(6)とした。
【0083】
図5、図6および図7は、シアニン色素Cy2で蛍光ラベル化したADH、シアニン色素Cy3で蛍光ラベル化したDIおよびNADHを封入したリポソームの蛍光顕微鏡写真である。図5、図6および図7において、Ex(Excitation) は励起光を示し、Exの右に記載されている波長を有し、DM(Dichroic mirror)は励起光と蛍光を分離するミラーを示し、DMの右に記載されている波長以上の光のみを透過し、BA(Barrier filter)
は蛍光と散乱光を分離するフィルターを示し、BAの右に記載されている波長以上の光を透過する。この蛍光顕微鏡では、励起光により色素を励起し、それによって得られる光をDMおよびBAに順次通して不要な光を除去し、色素からの蛍光のみを検出する。図5は波長450〜490nmの励起光でCy2を励起して蛍光を発生させたものでADHの分布を示す。図6は波長510〜560nmの励起光でCy3を励起して蛍光を発生させたものでDIの分布を示す。図7は波長380〜420nmの励起光でNADHを励起して蛍光を発生させたものでNADHの分布を示す。
【0084】
図5、図6および図7より、リポソームの直径は平均4.6μm、標準偏差は2.0μmであった。ただし、リポソームの平均直径は、図5、図6および図7中の30個のリポソームの直径を測定し、それらの平均を取ることにより求めた。
【0085】
図8、図9および図10は、Cy2で蛍光ラベル化したADH、Cy3で蛍光ラベル化したDIおよびNADHを封入したリポソームを蛍光モニタリングした結果を示すグラフである。図8はCy2で蛍光ラベル化したADHからの蛍光強度、図9はCy3で蛍光ラベル化したDIからの蛍光強度、図10はNADHからの蛍光強度を示す。図8、図9および図10において、Em(Emission)は励起光Exにより色素を励起した時に放出される光を示し、Emの右に記載されている波長を有し、Exの波長およびEmの波長の右の括弧内の数値は半値幅である。図8、図9および図10から分かるように、いずれの場合も、エチルアルコール濃度100mMまで蛍光強度は変化しなかった。つまり、少なくともエチルアルコール濃度100mMまではリポソームは安定で、リポソーム内部にADH、DIおよびNADHが確実に封入されていることが分かった。また、界面活性剤である0.3%TritonXを添加したところ、蛍光強度が増加した。これは、0.3%TritonXによりリポソームが破壊され、内部のADH、DIおよびNADHがリポソーム外に放出され、蛍光強度が増加したことを意味する。この時の様子をNADHを例に取って図11に示す。図11に示すように、リポソームの内部にNADHが封入されていた状態ではNADHによる蛍光強度は低いが、リポソームが破壊され、内部に封入されていたNADHがリポソームの外部に放出されるとNADHによる蛍光強度が増加する。
【0086】
こうして得たADH、DIおよびNADH封入リポソーム溶液(6)とQ0緩衝溶液(4)とを混合して総体積100μLの測定溶液を作製し、カーボンフェルトを作用電極とし、参照電極Ag|AgClに対して、0.3Vと電子メディエーターの酸化還元電位より十分高い電位に設定し、溶液攪拌下においてクロノアンペロメトリーを行った。クロノアンペロメトリー中に測定溶液に、エチルアルコールが終濃度1、10、100mMとなるよう添加したものを順次添加した。
【0087】
ADH、DIおよびNADH封入リポソームを含む上記測定溶液に上述のようにしてエチルアルコールを添加した際のクロノアンペロメトリーの結果を図12の曲線(a)に示す。この曲線(a)から明らかなように、ADH、DIおよびNADHをリポソームに封入した場合にはエチルアルコール由来の触媒電流が観察され、エチルアルコールの濃度が高くなるに従って触媒電流は増加する。すなわち、人工細胞であるADH、DIおよびNADH封入リポソームによる電気化学的触媒活性が観察された。一方、ADH、DIおよびNADHをリポソームに封入した場合と同量のADH、DIおよびNADHをリポソームに封入せず、単にQ0緩衝溶液(4)中に分散させた場合について、上記と同様にしてクロノアンペロメトリーを行った。その結果を図12の曲線(b)に示す。この曲線(b)から明らかなように、ADH、DIおよびNADHをリポソームに封入せず、単にQ0緩衝溶液(4)中に分散させた場合にはエチルアルコール由来の触媒電流はほとんど観測されない。例えば、エチルアルコールの濃度が100mMの場合で比較すると、ADH、DIおよびNADHをリポソームに封入せず、単にQ0緩衝溶液(4)中に分散させた場合に得られる触媒電流は、ADH、DIおよびNADHをリポソームに封入した場合に得られる触媒電流の約30分の1程度に過ぎない。このことから、ADH、DIおよびNADHをリポソームに封入した場合には、封入しない場合に比べてはるかに高い触媒電流を得ることができることが明らかである。
【0088】
このように、ADH、DIおよびNADHをリポソームに封入した場合には、封入しない場合に比べてはるかに高い触媒電流が得られる理由について説明する。図13に示すように、リポソーム20内にADH(横線を施した○で示す)、DI(縦線を施した○で示す)およびNADH(空白の○で示す)を封入したものが緩衝液S中に正方格子状に配列している場合を考える。一方、図14に示すように、図13に示すものと同じ体積の緩衝液S中に、図13に示すものと同じ量のADH(横線を施した○で示す)、DI(縦線を施した○で示す)およびNADH(空白の○で示す)が六方格子状に配列している場合を考える。緩衝液Sの体積は例えば100μL、リポソーム20の内部の体積は例えば約0.17μLである。ただし、リポソーム20の脂質2分子膜を構成するリン脂質は緩衝液S中に5.5×10-3μmol存在し、リポソーム20の内部の体積の合計はリポソーム1μmol当たりに換算すると30μL/μmolである。図14に示すようにADH、DIおよびNADHが緩衝液S中に単に分散されている場合におけるADH、DIおよびNADHの濃度に比べて、図13に示すようにリポソーム20内にADH、DIおよびNADHが封入されている場合におけるこれらのADH、DIおよびNADHの局所的な濃度は約600倍も高い。すなわち、リポソーム20内にADH、DIおよびNADHを封入することにより、これらのADH、DIおよびNADHの濃度を著しく高くすることができ、これらのADH、DIおよびNADHの相互の間隔を極めて小さくすることができる。このため、リポソーム20内では、ADH、DIおよびNADHによる触媒サイクルが極めて高速に進行し、図12に示すような結果が得られる。
【0089】
以上のことから、リポソーム12の内部に酵素反応に必要な酵素13、14および補酵素15を封入することにより、酵素反応をリポソーム12の内部の微小な空間を反応場として効率的に行うことができ、基質から効率的に電子を取り出すことができることが分かる。
【0090】
次に、リポソーム12を構成する脂質2分子膜に抗生物質16を結合させることの有効性について詳細に検討を行った結果について説明する。抗生物質16としてはアムホテリシンBを用いた。
【0091】
次のようにして酵素固定化電極を作製した。
ジアホラーゼ(DI)(EC 1.8.1.4、天野エンザイム製)を1〜10mg秤量し、緩衝溶液(10mMリン酸緩衝液、pH7)1mLに溶解させ、DI酵素緩衝溶液(11)とした。
【0092】
グルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)(NAD依存型、EC 1.1.1.47、天野エンザイム製)を10〜50mg秤量し、緩衝溶液(10mMリン酸緩衝液、pH7)1mLに溶解させ、GDH酵素緩衝溶液(12)とした。
【0093】
上記の酵素を溶解させる緩衝溶液は直前まで冷蔵されていたものが好ましく、酵素緩衝溶液もできるだけ冷蔵保存しておくことが好ましい。
【0094】
NADH(シグマアルドリッチ製、N−8129)を10〜50mg秤量し、緩衝溶液(10mMリン酸緩衝液、pH7)1mLに溶解させ、NADH緩衝溶液(13)とした。
【0095】
2,3−ジメトキシ−5−メチル−1,4−ベンゾキノン(Q0)を100〜200mg秤量し、緩衝溶液(10mMリン酸緩衝液、pH7)1mLに溶解させ、Q0緩衝溶液(14)とした。
【0096】
卵黄レシチン(Wako製)を10〜100mg秤量し、緩衝溶液(10mMリン酸緩衝液、pH7)10mLに溶解させてホモジナイザーで均一化し、リポソーム緩衝溶液(15)とした。
【0097】
上記のようにして作製した各種の溶液を、下記に示す量ずつ採取して混合し、凍結融解を3度繰り返した。
【0098】
DI酵素緩衝溶液(11):50μL
GDH酵素緩衝溶液(12):50μL
NADH緩衝溶液(13):50μL
リポソーム緩衝溶液(15):50μL
【0099】
上記の混合溶液をゲルろ過カラムに通し、リポソーム外の酵素およびNADHを除去する。ここで得たリポソーム溶液をGDH、DI、NADH封入リポソーム溶液(16)とした。
【0100】
こうして得たGDH、DIおよびNADH封入リポソーム溶液(16)とQ0緩衝溶液(14)とを混合して総体積100μLの測定溶液を作製した。そして、作用電極としてカーボンフェルト、参照電極としてAg|AgCl、対極として白金ワイヤーを用い、電位をAg|AgClに対して+0.1Vに設定し、グルコースを燃料として、溶液攪拌下においてクロノアンペロメトリーを行った。クロノアンペロメトリーの結果を図15に示す。
【0101】
図15に示すように、まず、クロノアンペロメトリー中に測定溶液に、終濃度100mMとなるようにグルコースを添加した時には、反応はほとんど起こらず、得られる電流値はほとんど変化しなかった。これは、リポソームを構成する脂質2分子膜をグルコースが透過する速度が著しく小さく、実質的に透過しないことに起因するものである。
【0102】
次に、測定溶液に、終濃度100μMとなるように抗生物質16としてアムホテリシンB(AmB)を添加した。すると、グルコース由来の触媒電流が観察された。すなわち、リポソームを構成する脂質2分子膜をグルコースが透過し、リポソームの内部で一連の酵素反応が進行したことが判明した。本発明者らが知る限り、このようにリポソームの内部に取り込まれたグルコースに由来する触媒電流を観測したのは初めてである。
【0103】
次に、測定溶液に、リポソームを破壊しうる界面活性剤である0.3%TritonXを添加したところ、触媒電流は著しく低下した。これは、0.3%TritonXによりリポソームが破壊され、内部のGDH、DIおよびNADHがリポソーム外に放出されたことを意味する。
【0104】
図16に、上記と同様な100mMのグルコースを含む測定溶液に添加するアムホテリシンBの終濃度を1、10、100μMと変化させてクロノアンペロメトリーを行った結果を示す。図16に示すように、この1〜100μMの濃度範囲内では、添加するアムホテリシンBの終濃度が高くなるに従って触媒電流は増加するが、アムホテリシンBの終濃度が100μMでは触媒電流の増加は頭打ちの傾向を示す。
【0105】
図17にアムホテリシンBの構造式を示す。また、図18に、リポソーム12を構成する脂質2分子膜にアムホテリシンBが結合した状態を示す断面図を示す。また、図19に、脂質2分子膜(図示せず)にアムホテリシンBが結合した状態を示す平面図を示す。図19に示すように、脂質2分子膜に環状に複数結合したアムホテリシンBにより、これらのアムホテリシンBで縁取られる形で穴が脂質2分子膜を貫通して形成されている。アムホテリシンBによりリポソームに穴を形成することができることは報告されている(例えば、非特許文献1参照。)。この穴は、グルコースの透過が可能であり、しかも酵素であるGDHおよびDIと補酵素であるNADHとが透過しない大きさを有する。
【0106】
図20は、リポソームを構成する脂質2分子膜にアムホテリシンBが結合したリポソームの走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。図21は、アムホテリシンBが結合していないリポソームのSEM写真である。ただし、撮影は、走査型電子顕微鏡の試料室内に、このリポソームをイオン液体に浸漬した容器を置き、試料室内を1Pa以下の高真空に真空排気した状態で行った。イオン液体としては、BMIBF4 :1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート(1-butyl-3-methylimidazolium tetrafluoroborate)
【化3】
を用いた。試料溶液は、リポソーム懸濁液10μLとBMIBF4 10μLとを混合することにより調製した。このように試料をイオン液体中に浸漬して電子顕微鏡により撮影する手法は、本発明者らが知る限り、これまで全く用いられておらず、本発明者らが初めて用いたものである。
【0107】
図21に示すように、アムホテリシンBが結合していないリポソームは球状の形状を有する。これに対し、図20に示すように、アムホテリシンBが結合したリポソームは、全体として球状で周囲に小さな突起がある形状を有する。この突起はアムホテリシンBが結合している部分に対応する。このように、イオン液体中にリポソームを浸漬した状態で観察することにより、リポソームを極めて鮮明に撮影することができ、リポソームの形状を正確に知ることができる。
【0108】
〈実施例1〉
次に、リポソーム12を構成する脂質2分子膜にステロール18を結合させることの有効性について詳細に検討を行った結果について説明する。ステロール18としてはコレステロールを用いた。なお、この検証に関しても抗生物質16を用いている。
【0109】
次のようにして酵素固定化電極を作製した。
ジアホラーゼ(DI)(EC 1.8.1.4、天野エンザイム製)を1〜10mg秤量し、緩衝溶液(10mMリン酸緩衝液、pH7)1mLに溶解させ、DI酵素緩衝溶液(17)とした。
【0110】
グルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)(NAD依存型、EC 1.1.1.47、天野エンザイム製)を10〜50mg秤量し、緩衝溶液(10mMリン酸緩衝液、pH7)1mLに溶解させ、GDH酵素緩衝溶液(18)とした。
【0111】
上記の酵素を溶解させる緩衝溶液は直前まで冷蔵されていたものが好ましく、酵素緩衝溶液もできるだけ冷蔵保存しておくことが好ましい。
【0112】
NADH(シグマアルドリッチ製、N−8129)を10〜50mg秤量し、緩衝溶液(10mMリン酸緩衝液、pH7)1mLに溶解させ、NADH緩衝溶液(19)とした。
【0113】
2,3−ジメトキシ−5−メチル−1,4−ベンゾキノン(Q0)を100〜200mg秤量し、緩衝溶液(10mMリン酸緩衝液、pH7)1mLに溶解させ、Q0緩衝溶液(20)とした。
【0114】
卵黄レシチン(Wako製)を10〜100mg、コレステロールを1〜50mg秤量し、エタノール10mLに溶解させ、ロータリーエバポレーターによりエタノールを揮発させ、レシチンとコレステロールとが均一に混合したフィルムを形成する。そのフィルムを緩衝溶液(10mMリン酸緩衝液、pH7)10mLで懸濁させてホモジナイザーで均一化し、リポソーム緩衝溶液(21)とした。
【0115】
上記のようにして作製した各種の溶液を、下記に示す量ずつ採取して混合し、凍結融解を3度繰り返した。
【0116】
DI酵素緩衝溶液(17):50μL
GDH酵素緩衝溶液(18):50μL
NADH緩衝溶液(19):50μL
リポソーム緩衝溶液(21):50μL
【0117】
上記の混合溶液をゲルろ過カラムに通し、リポソーム外の酵素およびNADHを除去する。ここで得たリポソーム溶液をGDH、DI、NADH封入リポソーム溶液(22)とした。
【0118】
こうして得たGDH、DIおよびNADH封入リポソーム溶液(22)とQ0緩衝溶液(20)とを混合して総体積100μLの測定溶液を作製した。そして、作用電極としてカーボンフェルト、参照電極としてAg|AgCl、対極として白金ワイヤーを用い、電位をAg|AgClに対して+0.1Vに設定し、グルコースを燃料として、溶液攪拌下においてクロノアンペロメトリーを行った。クロノアンペロメトリー中に測定溶液に、終濃度が100mMとなるようにグルコースを添加し、さらに終濃度が100μMとなるようにアムホテリシンBを添加した。クロノアンペロメトリーの結果を図22に示す。比較のために、コレステロールが結合していないことを除いて同様な条件で行った二つの例のクロノアンペロメトリーの結果を図23および図24に示す。図23および図24に示すように、コレステロールが結合していないリポソームでは電流の下降が観測されるのに対し、図22に示すように、コレステロールが結合したリポソームは定常電流を示す。これより、ステロールを結合させることにより、アムホテリシンBが結合したリポソームは構造的に安定化し、グルコースの透過が改善され、より安定した触媒電流を示すことが確認できた。すなわち、ステロールを結合させることは、リポソームを電気化学触媒として用いる上で非常に有用な物質であるということが分かる。
【0119】
これまでの検証により、ステロールが脂質2分子膜に対する有機酸の透過の改善に有用であることを確認したが、次にステロールの種類によって透過が変化するかを検討した。リポソームを構成する脂質2分子膜にアムホテリシンBおよびステロールとしてコレステロールまたはエルゴステロールが結合した状態において、アムホテリシンBに対する有機酸の透過性を調べた。有機酸は水溶液中で電離し、電荷を持つ。そこで、有機酸イオンの移動を電気化学的に分析した。
【0120】
ただし、電気化学分析は、リポソームの代わりに、平坦な脂質2分子膜にアムホテリシンBおよびステロールとしてコレステロールまたはエルゴステロールが結合したものを用いて行った。
【0121】
図25は電気化学分析に用いた電気化学測定装置を示す。図25に示すように、この電気化学測定装置においては、二つの容器W1、W2が、それらの壁に形成された穴H1と穴H2とが互いに一致するように連結されている。穴H1と穴H2との間には脂質2分子膜BLMが容器W1の内部と容器W2の内部とを仕切るように設けられている。脂質2分子膜BLMにアムホテリシンBおよびコレステロールを結合させた。脂質2分子膜BLMとしては、ホスファチジルコリンからなるものを用いた。容器W1、W2内にはそれぞれ緩衝液からなる支持電解質SEが入れられている。容器W1内の支持電解質SEに対極CEおよび参照電極REを浸漬し、容器W2内の支持電解質SEに作用極WEを浸漬し、これらの対極CE、参照電極REおよび作用極WEにポテンショスタットPを接続した。対極CEとしては白金(Pt)を用い、参照電極REおよび作用極WEとしてはAg|AgClを用いた。容器W1内の支持電解質SEを基準とし、容器W2内の支持電解質SEに電圧ΔEを印加して、脂質2分子膜BLMに対する有機酸の透過を作用極WEと対極CEとの間に流れる電流値(電流密度j)を求めた。
【0122】
有機酸として乳酸ナトリウムを用い、乳酸ナトリウムの電離により発生する乳酸イオンおよびナトリウムイオン(Na+ )のアムホテリシンBに対する透過を観察した。図26に示すように、容器W1、W2内の支持電解質SEとして用いた緩衝液は10-2MのBisTris−HEPES(pH7.4)である。アムホテリシンBの量は5×10-7Mである。容器W1内の支持電解質SEに0.01Mの乳酸ナトリウムを添加し、容器W2内の支持電解質SEにそのc倍、すなわち0.01×cMの乳酸ナトリウムを添加した。
【0123】
図27に電気化学測定の結果を示す。図27に示すように、cが大きくなるにつれて電流jは大きな負の値になり、電流がゼロとなる電位(ゼロ電流電位)が正にシフトする。図28に、容器W1、W2内の支持電解質SE中の乳酸イオンおよびNa+ の分布を模式的に示す。図28に示すように、濃度勾配による乳酸イオンおよびNa+ の移動をゼロにするには、正の電圧Eを印加しなければならない。このことから、アムホテリシンBはアニオン選択性を有することが分かる。
【0124】
ここで、脂質2分子膜BLMの内外でのイオン分布の評価を行う。
図29は容器W1、W2内の支持電解質SE中のNa+ および乳酸イオン(Org- )の分布を模式的に示す。容器W1内の支持電解質SE中のNa+ の濃度を[Na+ ]W1、乳酸イオン(Org- )の濃度を[Org- ]W1、容器W2内の支持電解質SE中のNa+ の濃度を[Na+ ]W2、乳酸イオン(Org- )の濃度を[Org- ]W2と表す。また、脂質2分子膜BLMのうちの容器W1内の支持電解質SEと接する部分のNa+ の濃度を[Na+ ]M1、乳酸イオン(Org- )の濃度を[Org- ]M1と表す。また、脂質2分子膜BLMのうちの容器W2内の支持電解質SE中のNa+ の濃度を[Na+ ]M2、乳酸イオン(Org- )の濃度を[Org- ]M2と表す。
【0125】
脂質2分子膜BLMの内外でのイオンの分配平衡は
【数1】
と表される。
【0126】
実験条件は
【数2】
である。また、電気的中性則より
【数3】
となる。
【0127】
以上より、
【数4】
が成立する。
【0128】
次に、理論式によりゼロ電流電位の評価を行う。
図29における[Na+ ]W2および[Org- ]W2をそれぞれ[Na+ ]W1および[Org- ]W1で表し、[Na+ ]M2および[Org- ]M2をそれぞれ[Na+ ]M1および[Org- ]M1で表したものを図30に示す。容器W1内の支持電解質SEと脂質2分子膜BLMとの界面電位をES:W1/BLM、容器W2内の支持電解質SEと脂質2分子膜BLMとの界面電位をES:BLM/W2、脂質2分子膜BLMの電位をEM と表す。
【0129】
Goldman式およびNernst式より
【数5】
が成立する。
【0130】
Na+ およびOrg- の拡散係数をそれぞれDNa+ およびDOrg-と表し、拡散係数比
【数6】
とすると、
【数7】
と表すことができる。ただし、Rは気体定数、Fはファラデー定数、Tは絶対温度である。
【0131】
次に、拡散係数比αの算出方法について説明する。
図31はcratio の実測値に対してゼロ電流電位Eobs をプロットした図である。図31に示すように、Eobs の式から、実測値に対するフィッティングによりα=2.0と求められる。
図32に各種の有機酸イオンのα値を有機酸の分子量に対して示す。
【0132】
図33および図34はそれぞれステロールとしてコレステロールおよびエルゴステロールを用いた場合の電気化学測定の結果を示す。測定条件は図26においてc=1としたものである。図33および図34より、コレステロールを用いた場合には、乳酸0.01Mでの電流密度jは、乳酸なしと比較して約200倍増加する。これに対し、エルゴステロールを用いた場合には、乳酸0.01Mでの電流密度jは、乳酸なしと比較して約30倍増加する。このように、エルゴステロールを用いた場合にはコレステロールを用いた場合に比べて、電流密度jの増加は少ない。これは、リポソームを構成する脂質2分子膜にアムホテリシンBに加えてステロールを結合させたことにより、アムホテリシンBの穴の径が影響を受け、乳酸ナトリウムの透過が制御されたことを意味する。あるいは、脂質2分子膜BLMにアムホテリシンBに加えてステロールを結合させたことにより、アムホテリシンBのアニオン選択性が増加し、乳酸ナトリウムが透過しやすくなったことによるものとも考えられる。つまり、ステロールを利用することにより、有機酸の透過やアニオン選択性を制御することができるということである。
【0133】
図35は、コレステロールまたはエルゴステロールを用いた場合において、種々の有機酸の拡散係数比αを有機酸の分子量に対して示したものである。
【0134】
図35に示すように、いずれの有機酸でも、コレステロールを用いた場合の方が、エルゴステロールを用いた場合に比べて、拡散係数比αは大きい。これは、エルゴステロールを用いた場合には、コレステロールを用いた場合に比べて、Na+ に対し、全ての有機酸イオンの透過性が低下することによるものと考えられる。
【0135】
次に、アムホテリシンBの穴をグルコースが透過することを確認した結果について説明する。グルコースは電荷を持たないため、直接、電気化学測定を行うことができない。そこで、グルコースを酵素で酸化し、電極で電子移動を観測するものとする。
【0136】
図36は使用した電気化学測定系を示す。図36に示すように、カーボンペースト電極CP上にグルコースオキシダーゼ(GOD)、ペルオキシダーゼ(POD)およびフェロセンを固定化したバイオセンサーを作製した。そして、リポソーム内にグルコースを封入し、アムホテリシンBの添加によるグルコースの溶出を測定した。
【0137】
図37に測定結果を示す。図37の縦軸はグルコース濃度c、横軸は時間tを示す。図37に示すように、アムホテリシンBの添加と同時に、グルコース濃度が立ち上がり、グルコースが溶出したことが分かる。
【0138】
グルコース溶出速度は理論的に次のように求められる。
グルコース溶出速度をV、グルコースの初期濃度をcin、リポソームの外部のグルコース濃度をcout と表すと、グルコース溶出速度Vは次式で表される。
【0139】
【数8】
ただし、kはアムホテリシンBの穴の透過性を示す定数である。
【0140】
この微分方程式を解くと、リポソームの外部のグルコース濃度cout は
【数9】
と求められる。ただし、
【数10】
である。
【0141】
cout の式を図37に示す実験結果とフィッティングすることによりkを算出することができる。その結果、コレステロール使用時のkは6.1±1.8×10-5s-1 、エルゴステロール使用時のkは6.3±0.3×10-5s-1であり、両者はほぼ同じであった。このことから、コレステロールもエルゴステロールも、アムホテリシンBの穴の径は変わらないことが分かる。
【0142】
図38を参照して、リポソームにエルゴステロールを結合させた場合の利点について説明する。図38に示すように、この場合には、基質としてグルコースのような中性物質を用い、中間体に有機酸などのアニオンが生じる場合には、アムホテリシンBの穴からの基質の取り込みを低下させることなく、エルゴステロールによるアムホテリシンBのアニオン選択性の低下により、リポソームの外部への中間体の漏出を抑制することができる。
【0143】
次に、リポソームを構成する脂質2分子膜が単層の場合と多層の場合とでリポソームからのグルコースの流出を確認した結果について説明する。
【0144】
図39Aはコレステロールを結合させた直径50nmの単層リポソームを用いた場合のグルコース濃度の時間変化、図39Bはコレステロールを結合させた直径100nmの単層リポソームを用いた場合のグルコース濃度の時間変化を示す。図40はコレステロールを結合させた多重層リポソームを用いた場合のグルコース濃度の時間変化を示す。図39AおよびBならびに図40より、単層リポソームでも多重層リポソームでも、アムホテリシンBの添加まではグルコースの溶出は観測されない。
【0145】
図41Aはエルゴステロールを結合させた直径100nmの単層リポソームを用いた場合のグルコース濃度の時間変化、図41Bはエルゴステロールを結合させた多層リポソームを用いた場合のグルコース濃度の時間変化を示す。
【0146】
以上のように、この第1の実施の形態によれば、脂質2分子膜に抗生物質16が結合して穴17が形成され、さらにステロール18が結合したリポソーム12の内部に、基質、例えばグルコースや有機酸などを分解するための酵素反応に必要な酵素13、14および補酵素15を封入している。そして、このリポソーム12を電極11に固定化している。このため、酵素反応をこのリポソーム12の内部の微小な空間を反応場として効率的に行うことができ、基質であるグルコースから効率的に電子を取り出し、電極11に受け渡すことができる。また、従来のように酵素などをポリイオンコンプレックスなどにより電極11上に直接固定化する場合に比べて固定化を簡単に行うことができる。
【0147】
〈2.第2の実施の形態〉
[バイオ燃料電池]
次に、この発明の第2の実施の形態について説明する。この第2の実施の形態においては、バイオ燃料電池の負極として、第1の実施の形態による酵素固定化電極を用いる。
【0148】
図42はこのバイオ燃料電池を模式的に示す。このバイオ燃料電池では、燃料としてグルコースを用いる。図43は、このバイオ燃料電池の負極の構成の詳細ならびにこの負極に固定化されたリポソーム12に封入された酵素群および補酵素の一例およびこの酵素群および補酵素による電子の受け渡し反応を模式的に示す。
【0149】
図42および図43に示すように、このバイオ燃料電池は、負極21と正極22とが電解質層23を介して対向した構造を有する。負極21は、燃料として供給されたグルコースを酵素により分解し電子を取り出すとともにプロトン(H+ )を発生する。正極22は、負極21から電解質層23を通って輸送されたプロトンと負極21から外部回路を通って送られた電子と例えば空気中の酸素とにより水を生成する。
【0150】
負極21としては、第1の実施の形態による酵素固定化電極が用いられる。この酵素固定化電極は、具体的には、電極11上に、脂質2分子膜に、グルコースの透過が可能な穴17を有する抗生物質16およびステロール18が結合したリポソーム12が固定化されたものである。このリポソーム12の内部には、グルコースの分解に関与する酵素、グルコースの分解プロセスにおける酸化反応に伴って還元体が生成される補酵素および補酵素の還元体を酸化する補酵素酸化酵素が封入されている。電極11上には、必要に応じて、リポソーム12に加えて、補酵素酸化酵素から補酵素の酸化に伴って生じる電子を受け取って電極11に渡す電子メディエーターも固定化される。
【0151】
グルコースの分解に関与する酵素としては、例えば、グルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)、好適にはNAD依存型グルコースデヒドロゲナーゼを用いることができる。この酸化酵素を存在させることにより、例えば、β−D−グルコースをD−グルコノ−δ−ラクトンに酸化することができる。
【0152】
さらに、このD−グルコノ−δ−ラクトンは、グルコノキナーゼとフォスフォグルコネートデヒドロゲナーゼ(PhGDH)との二つの酵素を存在させることにより、2−ケト−6−フォスフォ−D−グルコネートに分解することができる。すなわち、D−グルコノ−δ−ラクトンは、加水分解によりD−グルコネートになり、D−グルコネートは、グルコノキナーゼの存在下、アデノシン三リン酸(ATP)をアデノシン二リン酸(ADP)とリン酸とに加水分解することでリン酸化されて、6−フォスフォ−D−グルコネートになる。この6−フォスフォ−D−グルコネートは、酸化酵素PhGDHの作用により、2−ケト−6−フォスフォ−D−グルコネートに酸化される。
【0153】
また、グルコースは上記分解プロセスのほかに、糖代謝を利用してCO2 まで分解することもできる。この糖代謝を利用した分解プロセスは、解糖系によるグルコースの分解およびピルビン酸の生成ならびにTCA回路に大別されるが、これらは広く知られた反応系である。
【0154】
単糖類の分解プロセスにおける酸化反応は、補酵素の還元反応を伴って行われる。この補酵素は作用する酵素によってほぼ定まっており、GDHの場合、補酵素にはNAD+ が用いられる。すなわち、GDHの作用によりβ−D−グルコースがD−グルコノ−δ−ラクトンに酸化されると、NAD+ がNADHに還元され、H+ を発生する。
【0155】
生成されたNADHは、ジアホラーゼ(DI)の存在下で直ちにNAD+ に酸化され、二つの電子とH+ とを発生する。したがって、グルコース1分子につき1段階の酸化反応で二つの電子と二つのH+ とが生成されることになる。2段階の酸化反応では、合計四つの電子と四つのH+ とが生成される。
【0156】
上記プロセスで生成された電子はジアホラーゼから電子メディエーターを介して電極11に渡され、H+ は電解質層23を通って正極22へ輸送される。
【0157】
上記の酵素および補酵素が封入されたリポソーム12および電子メディエーターは、電極反応が効率よく定常的に行われるようにするために、電解質層23に含まれるリン酸緩衝液やトリス緩衝液などの緩衝液によって、酵素にとって最適なpH、例えばpH7付近に維持されていることが好ましい。リン酸緩衝液としては、例えばNaH2 PO4 やKH2 PO4 が用いられる。さらに、イオン強度(I.S.)は、あまり大きすぎても小さすぎても酵素活性に悪影響を与えるが、電気化学応答性も考慮すると、適度なイオン強度、例えば0.3程度であることが好ましい。ただし、pHおよびイオン強度は、用いる酵素それぞれに最適値が存在し、上述した値に限定されない。
【0158】
図43には、一例として、グルコースの分解に関与する酵素がグルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)、グルコースの分解プロセスにおける酸化反応に伴って還元体が生成される補酵素がNAD+ 、補酵素の還元体であるNADHを酸化する補酵素酸化酵素がジアホラーゼ(DI)、補酵素酸化酵素から補酵素の酸化に伴って生じる電子を受け取って電極11に渡す電子メディエーターがACNQである場合が図示されている。
【0159】
正極22は、例えば多孔質カーボンなどの電極材料からなる電極に、例えばビリルビンオキシダーゼ、ラッカーゼ、アスコルビン酸オキシダーゼなどの酸素を分解する酵素を固定化したものである。この正極22の外側の部分(電解質層23と反対側の部分)は通常、多孔質カーボンよりなるガス拡散層により形成されるが、これに限定されるものではない。正極22には、好適には、酵素に加えて、この正極22との間で電子の受け渡しを行う電子メディエーターも固定化される。
【0160】
この正極22においては、上記の酸素を分解する酵素の存在下で、電解質層23からのH+ と負極21からの電子とにより空気中の酸素を還元し水を生成する。
【0161】
電解質層23は負極21において発生したH+ を正極22に輸送するためのもので、電子伝導性を持たず、H+ を輸送することが可能な材料により構成されている。電解質層23としては、具体的には、例えば、セロハンなどの既に挙げたものが用いられる。
【0162】
以上のように構成されたバイオ燃料電池において、負極21側にグルコースが供給されると、このグルコースが酸化酵素を含む分解酵素により分解される。この単糖類の分解プロセスで酸化酵素が関与することで、負極21側で電子とH+ とを生成することができ、負極21と正極22との間で電流を発生させることができる。
【0163】
次に、バイオ燃料電池の具体的な構造例について説明する。
図44AおよびBに示すように、このバイオ燃料電池は、負極21と正極22とが電解質層23を介して対向した構成を有している。この場合、正極22の下および負極21の下にそれぞれTi集電体41、42が置かれ、集電を容易に行うことができるようになっている。符号43、44は固定板を示す。これらの固定板43、44はねじ45により相互に締結され、それらの間に、正極22、負極21、電解質層23およびTi集電体41、42の全体が挟み込まれている。固定板43の一方の面(外側の面)には空気取り込み用の円形の凹部43aが設けられ、この凹部43aの底面に他方の面まで貫通した多数の穴43bが設けられている。これらの穴43bは正極22への空気の供給路となる。一方、固定板44の一方の面(外側の面)には燃料装填用の円形の凹部44aが設けられ、この凹部44aの底面に他方の面まで貫通した多数の穴44bが設けられている。これらの穴44bは負極21への燃料の供給路となる。この固定板44の他方の面の周辺部にはスペーサー46が設けられており、固定板43、44をねじ45により相互に締結したときにそれらの間隔が所定の間隔になるようになっている。
【0164】
図44Bに示すように、Ti集電体41、42の間に負荷47を接続し、固定板44の凹部44aに燃料として例えばリン酸緩衝液にグルコースを溶かしたグルコース溶液を入れて発電を行う。
【0165】
この第2の実施形態によれば、酵素反応に必要な酵素群および補酵素が封入され、かつ脂質2分子膜に、穴17を有する抗生物質16およびステロール18が結合したリポソーム12を電極11上に固定化した酵素固定化電極を負極21として用いている。このため、酵素反応をリポソーム12の内部の微小な空間を反応場として効率的に行うことができ、燃料であるグルコースから効率的に電子を取り出し、電極11に受け渡すことができるとともに、酵素などをポリイオンコンプレックスなどにより電極11上に直接固定化する場合に比べて固定化を簡単に行うことができる。このように負極21として用いられる酵素固定化電極が高効率であることにより、高効率のバイオ燃料電池を実現することができる。また、バイオ燃料電池の高出力化のためには燃料であるグルコースから2電子よりも多くの電子を取り出す必要があり、このためには三種類以上の酵素が適切な位置に固定化された酵素固定化電極を負極21に用いる必要があるが、リポソーム12の内部に三種類以上の酵素を封入することによりこのような要求も満たすことができる。また、互いに異なる三種類以上の酵素が封入された多種類のリポソームを混在させることにより多種類の燃料への対応が容易になる。さらには、負極リポソームと正極リポソームとを配列させたマイクロバイオ燃料電池の実現も可能である。
【0166】
〈3.第3の実施の形態〉
[バイオ燃料電池]
この第3の実施の形態によるバイオ燃料電池は、負極21の電極材に図45AおよびBに示すような多孔体導電材料を用いることを除いて、第2の実施の形態によるバイオ燃料電池と同様な構成を有する。
【0167】
図45Aはこの多孔体導電材料の構造を模式的に示し、図45Bはこの多孔体導電材料の骨格部の断面図である。図45AおよびBに示すように、この多孔体導電材料は、三次元網目状構造の多孔体材料からなる骨格79aと、この骨格79aの表面を被覆するカーボン系材料79bとからなり、このカーボン系材料79bの表面に、第2の実施形態と同様なリポソーム12が固定化されている。この多孔体導電材料は、カーボン系材料79bに囲まれた多数の孔80が網目に相当する三次元網目状構造を有する。この場合、これらの孔80同士は互いに連通している。カーボン系材料79bの形態は問わず、繊維状(針状)、粒状などのいずれであってもよい。
【0168】
多孔体材料からなる骨格79aとしては、発泡金属あるいは発泡合金、例えば発泡ニッケルが用いられる。この骨格79aの多孔率は一般的には85%以上、あるいは90%以上であり、その孔径は、一般的には例えば10nm〜1mm、あるいは10nm〜600μm、あるいは1〜600μm、典型的には50〜300μm、より典型的には100〜250μmである。カーボン系材料79bとしては、例えばケッチェンブラックなどの高導電性のものが好ましいが、カーボンナノチューブやフラーレンなどの機能性カーボン材料を用いてもよい。
【0169】
この多孔体導電材料の多孔率は一般的には80%以上、あるいは90%以上であり、孔80の径は、一般的には例えば9nm〜1mm、あるいは9nm〜600μm、あるいは1〜600μm、典型的には30〜400μm、より典型的には80〜230μmである。
【0170】
次に、この多孔体導電材料の製造方法について説明する。
図46Aに示すように、まず、発泡金属あるいは発泡合金(例えば、発泡ニッケル)からなる骨格79aを用意する。
【0171】
次に、図46Bに示すように、この発泡金属あるいは発泡合金からなる骨格79aの表面にカーボン系材料79bをコーティングする。このコーティング方法としては従来公知の方法を用いることができる。一例を挙げると、カーボン粉末や適当な結着剤などを含むエマルションをスプレーにより骨格79aの表面に噴射することによりカーボン系材料79bをコーティングする。このカーボン系材料79bのコーティング厚さは、発泡金属あるいは発泡合金からなる骨格79aの多孔率および孔径との兼ね合いで、多孔体導電材料に要求される多孔率および孔径に応じて決められる。このコーティングの際には、カーボン系材料79bに囲まれた多数の孔80同士が互いに連通するようにする。
【0172】
こうして、目的とする多孔体導電材料が製造される。この後、この多孔体導電材料のカーボン系材料79bの表面にリポソーム12を固定化する。
上記以外のことは第2の実施の形態と同様である。
【0173】
この第3の実施の形態によれば、第2の実施の形態と同様な利点に加えて次のような利点を得ることができる。すなわち、発泡金属あるいは発泡合金からなる骨格79aの表面をカーボン系材料79bにより被覆した多孔体導電材料は、孔80の径が十分に大きく、粗な三次元網目状構造を有しながら、高強度でしかも高い導電性を有し、必要十分な表面積を得ることもできる。このため、この多孔体導電材料を電極材に用い、これに酵素、補酵素および電子メディエーターを固定化することで得られる酵素/補酵素/電子メディエーター固定化電極からなる負極21は、その上での酵素代謝反応を高効率に行わせることができ、あるいは、電極の近傍で起こっている酵素反応現象を効率よく電気信号として捉えることが可能であり、しかも使用環境によらずに安定であり、高性能のバイオ燃料電池を実現することが可能である。
【0174】
〈4.第4の実施の形態〉
[細胞]
この第4の実施の形態においては、生物から採取した細胞あるいは生物から採取した細胞の培養などにより得られる細胞の細胞膜を構成する脂質2分子膜に、グルコースの透過が可能な穴を有する抗生物質およびステロールを結合させる。
【0175】
図47に、細胞の外周の脂質2分子膜からなる細胞膜81の一部分を示す。ここでは、この細胞が動物細胞である場合を考えるが、植物細胞であってもよい。この細胞は、主として、核とミトコンドリア、小胞体、ゴルジ体、リソゾームなどの細胞小器官と種々のイオン、養分、酵素などが溶けた水とを含む。図47に示すように、この細胞の細胞膜81には種々のタンパク質82、83、84などが埋め込まれている。例えば、タンパク質82はイオンなどを細胞の外部から内部に輸送するポンプタンパク質、タンパク質83は膜内タンパク質、タンパク質84は特定の分子を細胞の内外へ輸送する機能を有するチャネルタンパク質である。この細胞膜81には、上述の種々のタンパク質82、83、84に加えて抗生物質16が結合しており、グルコースの透過が可能な一つまたは複数の穴17が形成され、さらにステロール18が結合している。
【0176】
上記のように構成された細胞は、従来公知の方法により、多孔質カーボンなどからなる電極に固定化される。
【0177】
この第4の実施の形態によれば、上記の細胞がグルコースを含む緩衝液などに置かれた場合、細胞膜81の穴17を透過して内部に例えばグルコースを取り込むことができる。こうして細胞の内部に取り込まれたグルコースは、この細胞が有するクエン酸回路、解糖系、ペントースリン酸回路などの代謝系により分解され、電子が取り出される。こうして取り出された電子は最終的には電子メディエーターを介して、もしくは電子メディエーターなしで直接、この細胞が固定化された電極に受け渡されて外部に取り出される。こうして、グルコースから電気エネルギーを取り出すことができる。
【0178】
〈5.第5の実施の形態〉
[ミトコンドリア]
この第5の実施の形態においては、生物から採取した細胞あるいは生物から採取した細胞の培養などにより得られる細胞に含まれる細胞小器官であるミトコンドリアを構成する脂質2分子膜にグルコースの透過が可能な一つまたは複数の穴を形成する。ミトコンドリアは真核細胞のエネルギー生産の場であり、食物の分子の酸化反応に際して得られるエネルギーでATPを作る。
【0179】
図48にミトコンドリアを示す。図48に示すように、ミトコンドリアは、外膜85および内膜86を有する。これらの外膜85および内膜86は脂質2分子膜からなる細胞膜である。内膜86はひだ状のクリステを形成している。内膜86の内部のマトリックス腔87には多種の酵素が濃縮されている。分子の酸化の最終段階は内膜86で起こる。このミトコンドリアの外膜85および内膜86を構成する細胞膜には抗生物質16が結合しており、グルコースの透過が可能な一つまたは複数の穴17が形成され、さらにステロール18が結合している。
【0180】
上記のように構成されたミトコンドリアは、従来公知の方法により、多孔質カーボンなどからなる電極に固定化される。
【0181】
この第5の実施の形態によれば、上記のミトコンドリアがグルコースを含む緩衝液などに置かれた場合、外膜85および内膜86の穴17を透過して内部にグルコースを取り込むことができる。こうしてミトコンドリアの内部に取り込まれたグルコースは、このミトコンドリアが有する分子の酸化系、すなわちクエン酸回路、解糖系、ペントースリン酸回路などにより分解され、電子が取り出される。こうして取り出された電子は最終的には電子メディエーターを介して、もしくは電子メディエーターなしで直接、このミトコンドリアが固定化された電極に受け渡されて外部に取り出される。こうして、グルコースから電気エネルギーを取り出すことができる。
【0182】
〈6.第6の実施の形態〉
[細菌]
この第6の実施の形態においては、細菌の細胞膜を構成する脂質2分子膜にグルコースの透過が可能な一つまたは複数の穴を形成する。
【0183】
図49に細菌を示す。ここでは、この細菌が真正細菌である場合を考える。図49に示すように、この細菌は外部から順に莢膜88、細胞壁89および細胞膜90により取り囲まれており、その内部に細胞質91が入っている。この細菌の外部には鞭毛92および繊毛93が結合している。ただし、細菌によっては莢膜88、鞭毛92および繊毛93がないものもある。例えば、大腸菌にはこれらの莢膜88、鞭毛92および繊毛93がない。細胞質91には、図示は省略するが、核様体、リボソームなどが存在している。細胞膜90には電子伝達系や各種の輸送体などのタンパク質が分布している。この細菌の脂質2分子膜からなる細胞膜90には抗生物質16が結合しており、グルコースの透過が可能な一つまたは複数の穴17が形成され、さらにステロール18が結合している。
【0184】
上記のように構成された細菌は、従来公知の方法により、多孔質カーボンなどからなる電極に固定化される。
【0185】
この第6の実施の形態によれば、この細菌がグルコースを含む緩衝液などに置かれた場合、この細菌の細胞膜90の穴17を透過して内部にグルコースを取り込むことができる。こうして細菌の内部に取り込まれたグルコースは、この細菌が有するクエン酸回路、解糖系、ペントースリン酸回路などの代謝系により分解され、電子が取り出される。こうして取り出された電子は最終的には電子メディエーターを介して、もしくは電子メディエーターなしで直接、この細菌が固定化された電極に受け渡されて外部に取り出される。こうして、グルコースから電気エネルギーを取り出すことができる。
【0186】
〈7.第7の実施の形態〉
[バイオ燃料電池]
この第7の実施の形態によるバイオ燃料電池は、負極21の電極11として図50AおよびBに示すような多孔質電極を用いることを除いて、第2の実施の形態によるバイオ燃料電池と同様な構成を有する。
【0187】
図50Aはこの多孔質電極からなる電極11の全体構成を示し、図50Bはこの電極11の断面構造を模式的に示す。図50Bに示すように、この多孔質電極からなる電極11は多数の孔(ポア)11aを有する。この孔11aの内面に、第2の実施形態と同様なリポソーム12(内部の水相に封入されている酵素および補酵素や脂質2分子膜に結合した抗生物質およびこの抗生物質に縁取られる穴などの図示は省略)が固定化されている。この場合、これらの孔11a同士は互いに連通している。この多孔質電極の材料としては、好適にはカーボン系材料が用いられるが、これに限定されるものではない。この多孔質電極は、典型的にはカーボンペースト電極である。
【0188】
この多孔質電極からなる電極11の孔11aの内面へのリポソーム12の固定化は、リポソーム12を含む溶液を電極11中に浸透させることにより行うことができる。
上記以外のことは第2の実施の形態と同様である。
この第7の実施の形態によれば、第3の実施の形態と同様な利点を得ることができる。
【0189】
〈8.第8の実施の形態〉
[酵素固定化電極]
図51はこの第8の実施の形態による酵素固定化電極を示す。この酵素固定化電極においては、基質としてグルコースを用いる。
【0190】
図51に示すように、この酵素固定化電極においては、多孔質カーボンなどからなる電極11の表面(電極11の内部の孔の内面も含む)にアビジン101が固定化されている。一方、第1の実施の形態と同様なリポソーム12にビオチン102が結合している。そして、電極11の表面に固定化されたアビジン101とリポソーム12に結合したビオチン102とが不可逆的に特異的に結合している。図51においては、一つのリポソーム12に一つのビオチン102が結合している場合が示されているが、一つのリポソーム12に複数のビオチン102を結合させてもよい。
【0191】
リポソーム12の内部の水相12aには、目的とする酵素反応に関与する酵素13、14および補酵素15が封入されている。このリポソーム12の内部の水相12aには、これらの酵素13、14および補酵素15以外に、例えば電子メディエーターを封入してもよい。この電子メディエーターは、リポソーム12とともに電極11上に固定化してもよい。酵素13は基質として用いられるグルコースの酸化を促進し分解する酸化酵素、酵素14はこのグルコースの酸化に伴って還元された補酵素15を酸化体に戻すとともに電子メディエーターを介して電子を電極11に渡す補酵素酸化酵素である。
【0192】
図示は省略するが、図2に示すリポソーム12と同様に、リポソーム12を構成する脂質2分子膜に一つまたは複数の抗生物質およびステロールが結合しており、この抗生物質により縁取られる形でこの脂質2分子膜を貫通する穴が形成されている。
【0193】
[酵素固定化電極の製造方法]
この酵素固定化電極は、例えば、次のようにして製造することができる。まず、酵素13、14および補酵素15が封入され、外周面にビオチン102が結合したリポソーム12を作製する。リポソーム12にビオチン102を結合するためには、例えば、NHSエステルによって修飾されたビオチン102を用いてリン脂質、例えばホスファチジルエタノールアミンと脱水縮合させてアミド結合させる。次に、このリポソーム12を構成する脂質2分子膜に抗生物質を結合させて穴を形成するとともに、この脂質2分子膜にステロールを結合させる。一方、電極11の表面にアビジン101を固定化する。アビジン101を電極11に固定化するためには、例えば、アビジン101が結合したアガロースビーズが混合されたカーボンペースト電極を電極11として用いたり、アビジン101を電極11の表面上でポリ−L−リシン(PLL)などのポリマーに埋め込ませたりする。次に、こうして電極11の表面に固定化したアビジン101と、穴17を形成したリポソーム12に結合したビオチン102とを結合させることにより、リポソーム12を電極11上に固定化する。これによって、酵素固定化電極が製造される。酵素13、14および補酵素15を封入する前のリポソーム12を構成する脂質2分子膜に抗生物質を結合させて穴を形成するとともに、ステロールを結合させるようにしてもよい。また、リポソーム12を電極11上に固定化してからこのリポソーム12を構成する脂質2分子膜に抗生物質を結合させて穴を形成するとともに、ステロールを結合させるようにしてもよい。
【0194】
〈実施例2〉
次のようにして酵素固定化電極を作製した。ただし、ここでは、ステロールの効果を除外するために、リポソームにはステロールを結合させない。
【0195】
ジアホラーゼ(DI)(EC 1.8.1.4、天野エンザイム製)を5mg秤量し、緩衝溶液(10mMリン酸緩衝液、pH7)1mLに溶解させ、5mg/mLのDI酵素緩衝溶液を調製した。
【0196】
グルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)(NAD依存型、EC 1.1.1.47、天野エンザイム製)を25mg秤量し、緩衝溶液(10mMリン酸緩衝液、pH7)1mLに溶解させ、25mg/mLのGDH酵素緩衝溶液を調製した。
【0197】
上記の酵素を溶解させる緩衝溶液は直前まで冷蔵されていたものが好ましく、酵素緩衝溶液もできるだけ冷蔵保存しておくことが好ましい。
【0198】
NADH(シグマ社製)を緩衝溶液(10mMリン酸緩衝液、pH7)に溶解させ、50mMのNADH緩衝溶液を調製した。
【0199】
2,3−ジメトキシ−5−メチル−1,4−ベンゾキノン(Q0)を緩衝溶液(10mMリン酸緩衝液、pH7)に溶解させ、10mMのQ0緩衝溶液を調製した。
【0200】
リン脂質として卵黄レシチン(Wako製)およびビオチン修飾ホスファチジルエタノールアミン(1,2-dipalmitoyl-sn-glycero-3-phosphoethanolamine-N-(cap biotinyl)を用いた。
【0201】
次のようにしてビオチン修飾リポソームを作製した。
レシチンをエタノールに溶解し、100mg/mLレシチン溶液を調製する。また、CHCl3 、メタノールおよび水の混合溶液(CHCl3 :メタノール:水=65:35:8)にビオチン修飾ホスファチジルエタノールアミンを溶解し、10mg/mLビオチン修飾ホスファチジルエタノールアミン溶液を調製する。
【0202】
エタノール20mLに上記のレシチン溶液を1mL、上記のビオチン修飾ホスファチジルエタノールアミン溶液を50μL加え、良く混合する。こうして得られた混合溶液をロータリーエバポレーターにより40℃バス、真空下で1時間以上処理して溶媒を減圧除去する。
【0203】
次に、得られた生成物に、25mg/mLのGDH酵素緩衝溶液50μL、5mg/mLのDI酵素緩衝溶液50μL、50mMのNADH緩衝溶液50μLを混合してから加え、30〜60秒、超音波バスにつける。その際、ポリテトラフルオロエチレン製スクレーパーによりリン脂質フィルムをかきとるように混ぜる。
【0204】
次に、上記のようにして得られたリポソーム溶液を1.5mLのチューブに移し、50μLの100mMリン酸緩衝液で残りのリポソーム溶液も回収し、1mLの100mMリン酸緩衝液を用いて1500g、4minの条件での遠心分離により2回、洗浄する。
【0205】
こうして得たGDH、DIおよびNADH封入ビオチン修飾リポソームを600μLの0.1Mリン酸緩衝液に懸濁させて、終濃度1mMになるようにアムホテリシンBを添加し、ボルテックスで混合する。
【0206】
以上のようにして、GDH、DIおよびNADHが封入され、アムホテリシンBが結合したビオチン修飾リポソームが作製される。
【0207】
次のようにしてアビジン修飾電極を作製した。
均一な粒子径のグラファイトパウダーと接着剤として用いるパラフィンオイルとを混合したカーボンペースト(ビー・エー・エス株式会社製)200mgにアビジンアガロースビーズ懸濁液100μLを加え、めのう乳鉢上で軽い力で練り込む。次に、こうして得られたアビジン含有カーボンペーストをデシケーター内で1時間以上乾燥させた後、上面にポケット部(凹部)を有する電極のポケット部に練り込む。この後、この電極の上面側をコピー紙に円を描くように押し付け、表面を平らにした。
以上のようにしてアビジン修飾電極が作製される。
【0208】
次に、次のようにして、GDH、DIおよびNADHが封入され、アムホテリシンBが結合したビオチン修飾リポソームをアビジン修飾電極に固定化した。
【0209】
まず、上記のようにして作製されたビオチン修飾リポソーム300μLに、上記のようにして作製されたアビジン修飾電極を浸漬する。そして、1時間、室温でインキュベーションを行った後、0.1Mリン酸緩衝液500μLで2回洗浄する。
【0210】
図52に、GDH、DIおよびNADHが封入され、アムホテリシンBが結合したビオチン修飾リポソームをアビジン修飾電極に固定化したものを示す。図52に示すように、電極103の上面に設けたポケット部103aにカーボンペースト電極104が埋め込まれ、このカーボンペースト電極104にアビジン101が固定化されている。そして、このアビジン101とリポソーム12のビオチン102とが結合することにより、カーボンペースト電極104にリポソーム12が結合し、固定化されている。リポソーム12の内部の水相12aに封入された酵素13、14および補酵素15はそれぞれGDH、DIおよびNADHである。
【0211】
上記のようにして作製されたリポソーム固定化電極(以下、必要に応じてAviCPE−BioLipoと略称)の電気化学応答を測定した。第1の比較例として、図53に示すように、カーボンペースト電極104にアビジン101が固定化されていないことを除いて上記と同様なリポソーム固定化電極(以下、必要に応じてCPE−BioLipoと略称)を作製した。第2の比較例として、図54に示すように、リポソーム12にビオチン102が結合していないことを除いて上記と同様なリポソーム固定化電極(以下、必要に応じてAviCPE−Lipoと略称)を作製した。第3の比較例として、図55に示すように、カーボンペースト電極104にアビジン101が固定化されていないこと、および、リポソーム12にビオチン102が結合していないことを除いて上記と同様なリポソーム固定化電極(以下、必要に応じてCPE−Lipoと略称)を作製した。
【0212】
2mLのチューブに0.1Mリン酸緩衝液180μL、終濃度1mMになるように10mMのQ0緩衝溶液20μLを加え、これに対極として白金ワイヤー、参照電極としてAg|AgCl、作用電極として上記の四種類のリポソーム固定化電極(AviCPE−BioLipo、CPE−BioLipo、AviCPE−Lipo、CPE−Lipo)を浸漬させ、電位をAg|AgClに対して+0.3Vに設定し、クロノアンペロメトリーを行った。測定開始後、終濃度100mMになるように20μLの1Mグルコース溶液を加えた。クロノアンペロメトリーの結果を図56に示す。図56の各電流(I)−時間曲線は0.03μAのオフセットが加算されて示されているが、ベース電流値は同程度である。図56から、カーボンペースト電極104にアビジン101が固定化され、かつリポソーム12にビオチン102が結合しているリポソーム固定化電極(AviCPE−BioLipo)を用いた場合だけ、グルコースの添加時に0.015μA→0.023μAと他のリポソーム固定化電極(CPE−BioLipo、AviCPE−Lipo、CPE−Lipo)に比べて比較的高い電流値応答が見られることが分かる。
【0213】
以上のように、この第8の実施の形態によれば、脂質2分子膜に抗生物質16が結合して穴17が形成されるとともに、ステロール18が結合したリポソーム12の内部に、グルコースを分解するための酵素反応に必要な酵素13、14および補酵素15を封入している。そして、電極11にアビジン101を固定化するとともに、リポソーム12にビオチン102を結合し、電極11に固定化したアビジン101とリポソーム12に結合したビオチン102とを結合させることにより、電極11にリポソーム12を固定化している。このため、第1の実施の形態と同様な利点に加えて、電極11にリポソーム12を容易かつ確実にしかも強固に固定化することができるという利点を得ることができる。このリポソーム固定化電極は、例えば、バイオ燃料電池の負極として用いて好適なものである。
【0214】
〈9.第9の実施の形態〉
[酵素固定化電極]
図57はこの第9の実施の形態による酵素固定化電極を示す。この酵素固定化電極においては、基質としてグルコースを用いる。
【0215】
図57に示すように、この酵素固定化電極においては、アビジン101が4個のビオチン結合ポケットを有することを利用して、電極11の表面に多層のリポソーム12が固定化されている。すなわち、第8の実施の形態と同様に、電極11の表面に固定化されたアビジン101とリポソーム12に結合したビオチン102とが不可逆的に特異的に結合することにより、電極11の表面にリポソーム12が固定化されている。これに加えて、この場合、この電極11の表面に固定化されたリポソーム12には複数(図57に示す例では二つ)のビオチン102が結合している。この電極11の表面に固定化されたリポソーム12の、電極11の表面への固定化に用いられていないビオチン102は、電極11の表面に固定化されていないアビジン101と結合している。そして、このアビジン101と他のリポソーム12に結合した一つまたは二つ以上のビオチン102とが結合することにより、リポソーム12同士が互いに結合している。こうして、電極11の表面に多層のリポソーム12が固定化されている。その他のことは第8の実施の形態と同様である。
【0216】
[酵素固定化電極の製造方法]
この酵素固定化電極を製造するためには、第8の実施の形態による酵素固定化電極と同様にしてリポソーム12を電極11上に固定化した後、例えば、アビジン101またはアビジンアガロースビーズを加えることで、リポソーム12を積層させる。この場合、加えるアビジンの量やリポソーム12を構成する脂質2分子膜中のビオチン修飾脂質の比を調整することにより、積層するリポソーム12の層の厚さやリポソーム12の密度などを制御することができる。
この第9の実施の形態によれば、第8の実施の形態と同様な利点を得ることができる。
【0217】
以上、この発明の実施の形態および実施例について具体的に説明したが、この発明は、上述の実施の形態および実施例に限定されるものではなく、この発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
【0218】
例えば、上述の実施の形態および実施例において挙げた数値、構造、構成、形状、材料などはあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれらと異なる数値、構造、構成、形状、材料などを用いてもよい。
【0219】
なお、アビジンとビオチンとの特異的な結合などを用いたこの発明によるリポソームの電極への固定化方法は、リポソームを構成する脂質2分子膜がグルコースの透過が可能な穴を有しない場合にも有効な方法である。例えば、この電極を燃料電池の負極に用いる場合、燃料はグルコースに限定されず、アルコールを始めとした各種の燃料を用いることができる。
【符号の説明】
【0220】
11…電極、12…リポソーム、13、14…酵素、15…補酵素、16…抗生物質、17…穴、18…ステロール、21…負極、22…正極、23…電解質層、41、42…Ti集電体、43、44…固定板、47…負荷、81、90…細胞膜、85…外膜、86…内膜、101…アビジン、102…ビオチン
【技術分野】
【0001】
この発明は、燃料電池、燃料電池の製造方法、電子機器、酵素固定化電極、バイオセンサー、エネルギー変換素子、細胞、細胞小器官および細菌に関する。より詳細には、この発明は、例えば、燃料または基質としてグルコースを用いるバイオ燃料電池、バイオセンサーおよびエネルギー変換素子ならびにバイオ燃料電池を電源に用いた各種の電子機器に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
近年、酵素を用いた燃料電池(バイオ燃料電池)が注目されている(例えば、特許文献1〜12参照。)。このバイオ燃料電池は、燃料を酵素により分解してプロトン(H+ )と電子とに分離するもので、燃料としてメタノールやエタノールなどのアルコール類あるいはグルコースなどの単糖類あるいはデンプンなどの多糖類を用いたものが開発されている。
【0003】
このバイオ燃料電池においては、電極に対する酵素の固定化・配列が非常に重要であることが分かっている。また、電子を伝達する役目を果たす電子メディエーターが酵素とともに有効に存在する必要性もあることが分かっている。従来の酵素の固定化方法は様々なものがあるが、その中でも本発明者らは、プラスに電荷を帯びたポリマーとマイナスに電荷を帯びたポリマーとを酵素と適当な割合で混合して多孔質カーボンなどからなる電極上に塗布することにより、電極との接着性を保ちつつ固定化膜を安定化させるポリイオンコンプレックス法やグルタルアルデヒド法を主体に開発してきた。
【0004】
しかしながら、上述のポリイオンコンプレックスを用いる固定化方法は、酵素の物理化学的性質、特に電荷に大きく依存しており、外部溶液の変化、使用中の環境変化などにより固定化の状態が絶えず変化することが懸念され、固定化した酵素などが溶出しやすい。また、一般的に酵素は熱に対する耐性が低いが、バイオ燃料電池の実用化に向けて酵素を改変してゆく際に、酵素そのものの物理化学的性質が変わり、その都度、固定化膜作製方法の最適化を図る必要があり、煩雑である。さらに、燃料からより多くの電子を取り出したいときには、より多くの酵素が必要となるが、これらの酵素を固定化する場合、その固定化条件の最適化に多大な労力を費やすことになる。
【0005】
こうした中、本発明者らは、酵素や補酵素をリポソームに封入し、この空間を反応場として酵素反応を行うことにより燃料から効率的に電子を取り出して電気エネルギーを発生させることを提案した(特許文献13参照。)。こうして酵素や補酵素を封入したリポソームを電極に固定化することにより、酵素や補酵素の電極への固定化を容易に行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−133297号公報
【特許文献2】特開2003−282124号公報
【特許文献3】特開2004−71559号公報
【特許文献4】特開2005−13210号公報
【特許文献5】特開2005−310613号公報
【特許文献6】特開2006−24555号公報
【特許文献7】特開2006−49215号公報
【特許文献8】特開2006−93090号公報
【特許文献9】特開2006−127957号公報
【特許文献10】特開2006−156354号公報
【特許文献11】特開2007−12281号公報
【特許文献12】特開2007−35437号公報
【特許文献13】特開2009−158458号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Biophys.J.,71,pp.2984-2995(1996)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、リポソームの内部に酵素や補酵素を閉じ込める特許文献13の方法では、燃料としてグルコースを用いる場合には、リポソームを構成する脂質2分子膜がグルコースを透過しないため、グルコースを透過するトランスポーターを脂質2分子膜に組み込まなければならない。また、乳酸などの有機酸もリポソームを構成する脂質2分子膜を透過しないため、リポソームをそのまま用いた場合にはこれらの有機酸を燃料として用いることはできない。
【0009】
そこで、この発明が解決しようとする課題は、一種または複数種の酵素あるいはさらに補酵素をリポソームの内部の微小な空間に閉じ込め、このリポソームの内部にグルコースや有機酸などの燃料を容易に透過させることができ、しかもこの燃料の透過速度を制御することができ、リポソームの内部の空間を反応場として酵素反応を行うことにより燃料から効率的に電子を取り出して電気エネルギーを発生させることができ、これらの酵素あるいはさらに補酵素の電極への固定化も容易に行うことができる燃料電池およびその製造方法を提供することである。
【0010】
この発明が解決しようとする他の課題は、上記の優れた燃料電池を用いた高性能の電子機器を提供することである。
【0011】
この発明が解決しようとするさらに他の課題は、上記の燃料電池に適用して好適な酵素固定化電極ならびに高効率のバイオセンサーおよびエネルギー変換素子を提供することである。
【0012】
この発明が解決しようとするさらに他の課題は、グルコースや有機酸などの基質を内部に容易に透過させることができ、しかもこの基質の透過速度を制御することができ、内部の空間を反応場として酵素反応を行うことにより基質から効率的に電子を取り出して電気エネルギーを発生させることができる細胞、細胞小器官および細菌を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った。その結果、バイオ燃料電池において、酵素反応に必要な酵素あるいはさらに補酵素を人工細胞であるリポソームに封入した場合には、同量の酵素あるいはさらに補酵素をリポソームに封入しないで用いる場合に比べて、酵素反応をはるかに効率的に行って極めて高い触媒電流を得たり、電極への固定化を容易にしたりすることができることを見出した。
【0014】
一方、バイオ燃料電池においてグルコースを燃料に用いる場合、周知のようにグルコースはリポソームを構成する脂質2分子膜に対する透過性が著しく低いため、グルコースを含む燃料溶液中にリポソームを置いても、リポソームの内部に燃料溶液からグルコースを取り込むことは極めて困難である(図58参照。)。本発明者らは、この点に関し鋭意研究を行った結果、リポソームを構成する脂質2分子膜に、グルコースの透過が可能な穴(チャネル)を有する抗生物質を結合させることにより、この問題を解消することができることを見出した。このグルコースの透過が可能な穴を有する抗生物質では有機酸の透過も可能である。さらに、リポソームを構成する脂質2分子膜に、抗生物質に加えてステロールを結合させることにより、抗生物質の穴を通しての有機酸やグルコースなどの透過速度の制御が可能となることを見出した。
【0015】
この発明は、本発明者らが独自に得た上記の知見に基づいて、上記の手法の適用が可能な範囲について様々な観点から検討を行い、案出されたものである。
【0016】
すなわち、上記課題を解決するために、この発明は、
正極と負極とがプロトン伝導体を介して対向した構造を有し、酵素を用いて燃料から電子を取り出すように構成され、
少なくとも一種の上記酵素がリポソームに封入されており、
上記リポソームを構成する脂質2分子膜に、グルコースの透過が可能な穴を有する抗生物質およびステロールが結合している燃料電池である。
【0017】
また、この発明は、
正極と負極とがプロトン伝導体を介して対向した構造を有し、酵素を用いて燃料から電子を取り出す燃料電池を製造する場合に、少なくとも一種の上記酵素をリポソームに封入した後、上記リポソームを構成する脂質2分子膜に、グルコースの透過が可能な穴を有する抗生物質およびステロールを結合させる工程を有する燃料電池の製造方法である。
【0018】
上記の各発明においては、典型的には、燃料電池は、酵素および補酵素を用いて燃料から電子を取り出すように構成され、少なくとも一種の酵素および少なくとも一種の補酵素がリポソームに封入される。
【0019】
リポソームは、リン脂質などからなる脂質2分子膜により形成された閉鎖小胞であり、内部が水相となっている。このリポソームには、一層の脂質2分子膜からなる単層リポソーム(SUV:小さな一枚膜リポソーム、GUV:巨大一枚膜リポソーム)だけでなく、小さなリポソーム(SUV)が大きいリポソーム(GUV)に取り込まれて入れ子になった多重層リポソーム(MUV)も含まれる。リポソームは、例えば、直径100nm程度のものから10μmに及ぶ大きなものまで作製することができ、直径は必要に応じて選ばれるが、具体例を挙げると2〜7μmである。リン脂質としては基本的にはどのようなものを用いてもよく、グリセロリン脂質、スフィンゴリン脂質のいずれを用いてもよい。グリセロリン脂質としては、ホスファチジン酸、ホスファチジルコリン(レシチン)、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、ジホスファチジルグリセロール(カルジオリピン)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。スフィンゴリン脂質としては、スフィンゴミエリンなどが挙げられるが、これに限定されるものではない。ホスファチジルコリンの代表例はジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)である。リポソームの形成およびリポソーム内部への酵素および補酵素の封入には従来公知の方法を用いることができ、必要に応じて選ばれる。
【0020】
リポソームを構成する脂質2分子膜に、グルコースの透過が可能な穴を有する抗生物質を結合させることで、抗生物質により縁取られる形で脂質2分子膜を貫通する穴が形成される。この抗生物質としては従来公知の各種のものを用いることができ、必要に応じて選ばれる。この穴は、リポソームの内部に封入される酵素あるいはさらに補酵素が少なくとも容易に透過しない大きさを有する。抗生物質は典型的には、複数の分子が環状に配列した多分子からなる。
【0021】
リポソームを構成する脂質2分子膜に結合させるステロールとしては従来公知の各種のものを用いることができ、必要に応じて選ばれる。ステロールの代表例としては、コレステロールやコプロスタノールなどの動物ステロールや、植物中のシトステロールやスチグマステロール、酵母や麦角菌が産出するエルゴステロールなどが挙げられる。リポソームを構成する脂質2分子膜に対するステロールの重量比は、好適には、1/4以上1/3以下であるが、これに限定されるものではない。
【0022】
このリポソームには、酵素反応に必要な酵素あるいはさらに補酵素のうち、少なくとも一種の酵素あるいはさらに少なくとも一種の補酵素を封入するが、酵素反応に必要な全ての酵素あるいはさらに補酵素をリポソームに封入してもよいし、一部の酵素または補酵素をリポソームに封入せず、このリポソームを構成する脂質2分子膜に組み込んだり、固定化したり、リポソームの外部に存在させるようにしてもよい。酵素または補酵素をリポソームを構成する脂質2分子膜に固定化する場合には、例えばポリエチレングリコール鎖などのアンカーを用いることができる。
【0023】
このリポソームは、好適には負極に固定化されるが、必ずしも固定化する必要はなく、プロトン伝導体に緩衝液(緩衝物質)を含む電解質を用いるような場合にはその緩衝液に含ませるようにしてもよい。リポソームの固定には、例えば細胞の固定に用いられる従来公知の各種の固定化方法を用いることができる。また、この場合、負極に対するリポソームの固定を安定化するために、負極とリポソームとの間に中間層を形成してもよい。この中間層としては、タンパク質やDNAなどの生体高分子のみならず、親水、疎水の両方の性質を持つような高分子電解質や、ミセル、逆ミセル、ラメラなどの構造体を形成することができるものや、ナノメートル構造を持ち、一つまたは複数の性質を持つ化合物であって生体親和性の高い化合物を用いることができる。タンパク質としては、例えば、アルブミンを代表とした、アルコールデヒドロゲナーゼ、ラクテートデヒドロゲナーゼ、オボアルブミン、ミオキナーゼなどの酸性タンパク質のほか、等電点をアルカリ側に持つリゾチウム、チトクロームc、ミオグロビン、トリプシノーゲンなどを用いることができる。このようなタンパク質などからなる中間層を電極表面に物理的に吸着させ、この中間層にリポソームを固定化することにより、負極に対してリポソームを安定に固定化することが可能である。
【0024】
負極に対してリポソームを安定に固定化する方法としては、次のような方法を用いることが有効である。すなわち、負極には第1の物質を固定化し、リポソームには第2の物質を結合し、負極に固定化された第1の物質とリポソームに結合した第2の物質とが互いに結合することにより、負極に対してリポソームを安定に固定化することができる。このような第1の物質と第2の物質との組み合わせとしては、好適には、特異的に結合する結合対が用いられるが、必ずしもこれに限定されるものではない。このような第1の物質と第2の物質との組み合わせの具体例を挙げると次の通りである。
【0025】
・アビジン(avidin) とビオチン(biotin)
アビジンはビオチンと特異的に結合する糖タンパク質である。例えば、負極にアビジンを固定化するとともに、ビオチンをリポソームに結合し、負極に固定化したアビジンとリポソームに結合したビオチンとを結合させることにより負極にリポソームを固定化することができる。負極にビオチンを固定化し、リポソームにアビジンを結合させてもよい。アビジンとしては、ストレプトアビジン(StreptAvidin) 、ニュートロアビジン(NeutroAvidin)などの各種のものを用いることができ、さらにはこれらの変異体を用いることもできる。
【0026】
・抗原と抗体
抗体は抗原と特異的に結合する免疫グロブリンである。例えば、抗原修飾脂質を用いてリポソームを作製するとともに、負極に抗体を固定化し、負極に固定化した抗体とリポソームに結合した抗原とを結合させることにより負極にリポソームを固定化することができる。負極に抗原を固定化し、リポソームに抗体を結合させてもよい。
【0027】
・プロテインAまたはプロテインGと免疫グロブリンIg G
プロテインAまたはプロテインGは免疫グロブリンIg Gに強い親和性を有するタンパク質である。例えば、負極に免疫グロブリンIg Gを固定化するとともに、プロテインAまたはプロテインGをリポソームに結合する。そして、負極に固定化した免疫グロブリンIg Gとリポソームに結合したプロテインAまたはプロテインGとを結合させることにより負極にリポソームを固定化することができる。負極にプロテインAまたはプロテインGを固定化し、リポソームに免疫グロブリンIg Gを結合させてもよい。
【0028】
・糖分子(あるいは糖鎖含有化合物)とレクチン
レクチンは糖結合性タンパク質の総称である。例えば、膜貫通型レクチンを混ぜてリポソームを作製するとともに、負極に糖分子(あるいは糖鎖含有化合物)を固定化する。そして、負極に固定化した糖分子(あるいは糖鎖含有化合物)の糖鎖とリポソームに結合したレクチンとを結合させることにより負極にリポソームを固定化することができる。負極にレクチンを固定化し、リポソームに糖分子(あるいは糖鎖含有化合物)を結合させてもよい。
【0029】
・DNAと相補鎖DNA
例えば、DNAを結合した水溶性脂質を利用してリポソームを作製するとともに、負極に相補鎖DNAを固定化する。そして、負極に固定化した相補鎖DNAとリポソームに結合したDNAとをハイブリダイゼーションにより結合させることにより負極にリポソームを固定化することができる。
【0030】
・グルタチオンとグルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST)
例えば、GST融合膜貫通タンパク質を混ぜてリポソームを作製するとともに、負極にグルタチオンを固定化する。そして、負極に固定化したグルタチオンとリポソームに結合したGSTとを結合させることにより負極にリポソームを固定化することができる。
【0031】
・ヘパリンとヘパリン結合性分子
例えば、リポソームを構成する脂質2分子膜をヘパリン結合性分子で修飾するとともに、負極をヘパリンで修飾する。そして、ヘパリン修飾負極のヘパリンとリポソームに結合したヘパリン結合性分子とを結合させることにより負極にリポソームを固定化することができる。
【0032】
・ホルモンとホルモン受容体
ホルモン受容体はホルモン分子を特異的に受容するタンパク質分子または分子複合体である。例えば、負極にホルモン受容体を固定化するとともに、リポソームにホルモンを結合し、負極に固定化したホルモン受容体とリポソームに結合したホルモンとを結合させることにより負極にリポソームを固定化することができる。
【0033】
・カルボン酸とイミド
例えば、負極にカルボン酸を結合するとともに、リポソームにアミンを結合する。そして、負極に結合したカルボン酸とリポソームに結合したアミンとをカルボジイミドやN−ヒドロキシスクシンイミドなどのイミドを用いてアミドカップリングにより結合することにより負極にリポソームを固定化することができる。負極にアミンを結合するとともに、リポソームにカルボン酸を結合してもよい。
【0034】
なお、負極の電極材料が炭素(カーボン)である場合、負極にカルボン酸を結合する方法としては、例えば、ジアゾニウム塩を硝酸、硫酸、過酸化水素などを含む溶液中でリフラックス、もしくは電気化学的酸化を行う方法を用いることができる。
【0035】
燃料としては、グルコースなどの種々のものを用いることができ、必要に応じて選ばれる。グルコース以外の燃料としては、例えば、クエン酸回路に関与する各種の有機酸や、ペントースリン酸回路および解糖系に関与する糖および有機酸などが挙げられる。クエン酸回路に関与する各種の有機酸は、乳酸、ピルビン酸、アセチルCoA、クエン酸、イソクエン酸、αケトグルタル酸、スクシニルCoA、コハク酸、フマル酸、リンゴ酸、オキサロ酢酸などである。ペントースリン酸回路および解糖系に関与する糖および有機酸は、グルコース6リン酸、6ホスホグルコノラクトン、6ホスホグルコン酸、リブロース5リン酸、グリセルアルデヒド3リン酸、フルクトース6リン酸、キシルロース5リン酸、セドヘプツロース7リン酸、エリトロース4リン酸、ホスホエノールピルビン酸、1,3ビスホスホグリセリン酸、リボース5リン酸などである。これらの燃料は、いずれも、リポソームを構成する脂質2分子膜に結合した抗生物質が有する、グルコースの透過が可能な穴の透過が可能である。
【0036】
これらの燃料は、典型的には、これらの燃料をリン酸緩衝液やトリス緩衝液などの従来公知の緩衝液に溶かした燃料溶液の形で用いる。
【0037】
リポソームに封入する酵素は、典型的には、グルコースなどの燃料の酸化を促進し分解する酸化酵素を含み、さらに、燃料の酸化に伴って還元された補酵素を酸化体に戻すとともに電子メディエーターを介して電子を負極に渡す補酵素酸化酵素を含む。具体的には、好適には、リポソームに封入する酵素は、グルコースなどの燃料の酸化を促進し分解する酸化酵素と、この酸化酵素によって還元される補酵素を酸化体に戻す補酵素酸化酵素とを含む。この補酵素酸化酵素の作用により、補酵素が酸化体に戻るときに電子が生成され、補酵素酸化酵素から電子メディエーターを介して負極に電子が渡される。例えば燃料としてグルコースを用いる場合、酸化酵素としては例えばグルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)(特に、NAD依存型グルコースデヒドロゲナーゼ)が、補酵素としては例えばNAD+ またはNADP+ が、補酵素酸化酵素としては例えばジアホラーゼ(DI)が用いられる。
【0038】
電子メディエーターとしては基本的にはどのようなものを用いてもよいが、好適には、キノン骨格を有する化合物が用いられ、具体的には、例えば、2,3−ジメトキシ−5−メチル−1,4−ベンゾキノン(Q0)や、ナフトキノン骨格を有する化合物、例えば、2−アミノ−1,4−ナフトキノン(ANQ)、2−アミノ−3−メチル−1,4−ナフトキノン(AMNQ)、2−メチル−1,4−ナフトキノン(VK3)、2−アミノ−3−カルボキシ−1,4−ナフトキノン(ACNQ)、ビタミンK1などの各種のナフトキノン誘導体が用いられる。キノン骨格を有する化合物としては、例えば、アントラキノンやその誘導体を用いることもできる。電子メディエーターには、必要に応じて、キノン骨格を有する化合物以外に、電子メディエーターとして働く一種または二種以上の他の化合物を含ませてもよい。この電子メディエーターは、酵素および補酵素が封入されたリポソームとともに負極に固定化してもよいし、このリポソームの内部に封入してもよいし、このリポソームに固定してもよいし、燃料溶液に含ませるようにしてもよい。
【0039】
正極に酵素が固定化される場合、この酵素は、典型的には酸素を還元する酵素を含む。この酸素を還元する酵素としては、例えば、ビリルビンオキシダーゼ、ラッカーゼ、アスコルビン酸オキシダーゼなどを用いることができる。この場合、正極には、好適には、酵素に加えて電子メディエーターも固定化される。電子メディエーターとしては、例えば、ヘキサシアノ鉄酸カリウム、オクタシアノタングステン酸カリウムなどを用いる。電子メディエーターは、好適には、十分に高濃度、例えば、平均値で0.64×10-6mol/mm2 以上固定化する。
【0040】
プロトン伝導体としては種々のものを用いることができ、必要に応じて選択されるが、具体的には、例えば、セロハン、パーフルオロカーボンスルホン酸(PFS)系の樹脂膜、トリフルオロスチレン誘導体の共重合膜、リン酸を含浸させたポリベンズイミダゾール膜、芳香族ポリエーテルケトンスルホン酸膜、PSSA−PVA(ポリスチレンスルホン酸ポリビニルアルコール共重合体)や、PSSA−EVOH(ポリスチレンスルホン酸エチレンビニルアルコール共重合体)、含フッ素カーボンスルホン酸基を有するイオン交換樹脂(ナフィオン(商品名、米国デュポン社)など)などからなるものが挙げられる。
【0041】
プロトン伝導体として緩衝液(緩衝物質)を含む電解質を用いる場合には、高出力動作時に十分な緩衝能を得ることができ、酵素が本来持っている能力を十分に発揮することができるようにするのが望ましい。このために、電解質に含まれる緩衝物質の濃度を0.2M以上2.5M以下にすることが有効であり、好適には0.2M以上2M以下、より好適には0.4M以上2M以下、さらに好適には0.8M以上1.2M以下とする。緩衝物質は、一般的には、pKa が6以上9以下のものであれば、どのようなものを用いてもよいが、具体例を挙げると、リン酸二水素イオン(H2 PO4 - )、2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール(略称トリス)、2−(N−モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)、カコジル酸、炭酸(H2 CO3 )、クエン酸水素イオン、N−(2−アセトアミド)イミノ二酢酸(ADA)、ピペラジン−N,N’−ビス(2−エタンスルホン酸)(PIPES)、N−(2−アセトアミド)−2−アミノエタンスルホン酸(ACES)、3−(N−モルホリノ)プロパンスルホン酸(MOPS)、N−2−ヒドロキシエチルピペラジン−N’−2−エタンスルホン酸(HEPES)、N−2−ヒドロキシエチルピペラジン−N’−3−プロパンスルホン酸(HEPPS)、N−[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]グリシン(略称トリシン)、グリシルグリシン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)グリシン(略称ビシン)などである。リン酸二水素イオン(H2 PO4 - )を生成する物質は、例えば、リン酸二水素ナトリウム(NaH2 PO4 )やリン酸二水素カリウム(KH2 PO4 )などである。緩衝物質としてはイミダゾール環を含む化合物も好ましい。イミダゾール環を含む化合物は、具体的には、イミダゾール、トリアゾール、ピリジン誘導体、ビピリジン誘導体、イミダゾール誘導体(ヒスチジン、1−メチルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、4−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、イミダゾール−2−カルボン酸エチル、イミダゾール−2−カルボキシアルデヒド、イミダゾール−4−カルボン酸、イミダゾール−4,5−ジカルボン酸、イミダゾール−1−イル−酢酸、2−アセチルベンズイミダゾール、1−アセチルイミダゾール、N−アセチルイミダゾール、2−アミノベンズイミダゾール、N−(3−アミノプロピル) イミダゾール、5−アミノ−2−(トリフルオロメチル) ベンズイミダゾール、4−アザベンズイミダゾール、4−アザ−2−メルカプトベンズイミダゾール、ベンズイミダゾール、1−ベンジルイミダゾール、1−ブチルイミダゾール)などである。必要に応じて、これらの緩衝物質に加えて、例えば、塩酸(HCl)、酢酸(CH3 COOH)、リン酸(H3 PO4 )および硫酸(H2 SO4 )からなる群より選ばれた少なくとも一種の酸を中和剤として加えてもよい。こうすることで、酵素の活性をより高く維持することができる。緩衝物質を含む電解質のpHは、好適には7付近であるが、一般的には1〜14のいずれであってもよい。
【0042】
正極および負極の電極材料としては各種のものを用いることができるが、例えば、多孔質カーボン、カーボンペレット、カーボンフェルト、カーボンペーパーなどのカーボン系材料が用いられる。電極の材料としては、多孔体材料からなる骨格と、この骨格の少なくとも一部の表面を被覆する、カーボン系材料を主成分とする材料とを含む多孔体導電材料を用いることもできる(特許文献12参照。)。
【0043】
この燃料電池はおよそ電力が必要なものすべてに用いることができ、大きさも問わないが、例えば、電子機器、移動体(自動車、二輪車、航空機、ロケット、宇宙船など)、動力装置、建設機械、工作機械、発電システム、コージェネレーションシステムなどに用いることができ、用途などによって出力、大きさ、形状、燃料の種類などが決められる。
【0044】
また、この発明は、
一つまたは複数の燃料電池を用い、
少なくとも一つの上記燃料電池が、
正極と負極とがプロトン伝導体を介して対向した構造を有し、酵素を用いて燃料から電子を取り出すように構成され、
少なくとも一種の上記酵素がリポソームに封入されており、
上記リポソームを構成する脂質2分子膜に、グルコースの透過が可能な穴を有する抗生物質およびステロールが結合しているものである電子機器である。
【0045】
この電子機器は、基本的にはどのようなものであってもよく、携帯型のものと据え置き型のものとの双方を含むが、具体例を挙げると、携帯電話、モバイル機器(携帯情報端末機(PDA)など)、ロボット、パーソナルコンピュータ(デスクトップ型、ノート型の双方を含む)、ゲーム機器、カメラ一体型VTR(ビデオテープレコーダ)、車載機器、家庭電気製品、工業製品などである。
【0046】
この電子機器の発明においては、その性質に反しない限り、上記の燃料電池および燃料電池の製造方法の発明に関連して説明したことが成立する。
【0047】
また、この発明は、
少なくとも一種の酵素が封入されたリポソームが固定化されており、
上記リポソームを構成する脂質2分子膜に、グルコースの透過が可能な穴を有する抗生物質およびステロールが結合している酵素固定化電極である。
【0048】
この酵素固定化電極の発明においては、その性質に反しない限り、上記の燃料電池および燃料電池の製造方法の発明に関連して説明したことが成立する。
【0049】
また、この発明は、
酵素を用い、
少なくとも一種の上記酵素がリポソームに封入されており、
上記リポソームを構成する脂質2分子膜に、グルコースの透過が可能な穴を有する抗生物質およびステロールが結合しているバイオセンサーである。
【0050】
このバイオセンサーの発明においては、その性質に反しない限り、上記の燃料電池および燃料電池の製造方法の発明に関連して説明したことが成立する。
【0051】
また、この発明は、
少なくとも一種の酵素が封入されたリポソームを用い、上記リポソームを構成する脂質2分子膜に、グルコースの透過が可能な穴を有する抗生物質およびステロールが結合しているエネルギー変換素子である。
【0052】
ここで、このエネルギー変換素子は、燃料または基質が持つ化学エネルギーを酵素反応により電気エネルギーに変換する素子であり、上記の燃料電池、すなわちバイオ燃料電池はこのエネルギー変換素子の一種である。
【0053】
このエネルギー変換素子の発明においては、その性質に反しない限り、上記の燃料電池および燃料電池の製造方法の発明に関連して説明したことが成立する。
【0054】
また、この発明は、
細胞膜を構成する脂質2分子膜に、グルコースの透過が可能な穴を有する抗生物質およびステロールが結合している細胞である。
【0055】
また、この発明は、
細胞膜を構成する脂質2分子膜に、グルコースの透過が可能な穴を有する抗生物質およびステロールが結合している細胞小器官である。
【0056】
また、この発明は、
細胞膜を構成する脂質2分子膜に、グルコースの透過が可能な穴を有する抗生物質およびステロールが結合している細菌である。
【0057】
上記の細胞、細胞小器官および細菌は、グルコースなどの燃料または基質の代謝系を有するものである限り、特に限定されるものではなく、従来公知の各種のものを含む。必要に応じて、これらの細胞、細胞小器官および細菌の内部に、上記の燃料電池と同様に、グルコースなどの燃料または基質の分解などに必要な酵素あるいはさらに補酵素を封入してもよい。
【0058】
上述のように構成されたこの発明においては、酵素反応に関与する少なくとも一種の酵素あるいはさらに少なくとも一種の補酵素を、高活性を保ったままリポソームに封入することができる。このリポソームを構成する脂質2分子膜に結合した抗生物質の穴からこのリポソームの内部にグルコースや有機酸などの燃料または基質を容易に透過させることができ、しかも、このリポソームを構成する脂質2分子膜に結合したステロールによりこの燃料の透過速度を制御することができる。そして、このリポソームの内部の微小な空間を反応場として効率的に酵素反応が行われ、グルコースなどの燃料または基質から効率的に電子を取り出すことができる。この場合、このリポソームの内部に封入された酵素および補酵素の濃度は極めて高く、従って酵素および補酵素の相互の間隔は極めて小さいため、これらの酵素および補酵素による触媒サイクルは極めて高速に進行し、酵素反応が高速に進行する。そして、このリポソームを負極または電極に固定化することにより、このリポソームの内部に封入された酵素あるいはさらに補酵素をこのリポソームを介して負極または電極に容易に固定化することができる。このため、グルコースなどの燃料または基質から取り出された電子を確実に負極または電極に受け渡すことができる。この場合、リポソームの固定は、酵素や補酵素をポリイオンコンプレックスなどにより固定化する場合に比べて簡単に行うことができる。
【0059】
また、上記の細胞、細胞小器官および細菌においては、これらの細胞、細胞小器官および細菌の内部の微小な空間を反応場として効率的に酵素反応が行われ、グルコースや有機酸などの燃料または基質から効率的に電子を取り出すことができる。この場合、酵素反応は、これらの細胞、細胞小器官および細菌に備わっている代謝系により行われるが、これらの細胞、細胞小器官および細菌の内部に燃料または基質の分解などに必要な酵素あるいはさらに補酵素を封入する場合はこれらの酵素および補酵素により行うことができる。
【発明の効果】
【0060】
この発明によれば、酵素あるいはさらに補酵素をリポソームの内部の微小な空間に閉じ込め、このリポソームの内部にグルコースや有機酸などの燃料を容易に透過させることができ、しかもこの燃料の透過速度を制御することができ、リポソームの内部の空間を反応場として酵素反応を行うことにより燃料から効率的に電子を取り出して電気エネルギーを発生させることができ、これらの酵素あるいはさらに補酵素の電極への固定化も容易な高効率の燃料電池を実現することができる。そして、このように高効率の燃料電池を用いることにより、高性能の電子機器などを実現することができる。また、同様に、高効率のバイオセンサーおよびエネルギー変換素子を実現することができる。
また、グルコースや有機酸などの燃料または基質から効率的に電子を取り出して電気エネルギーを発生させることができる細胞、細胞小器官および細菌を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】この発明の第1の実施の形態による酵素固定化電極を示す略線図である。
【図2】この発明の第1の実施の形態による酵素固定化電極において用いられる酵素および補酵素が封入されたリポソームを示す略線図である。
【図3】この発明の第1の実施の形態による酵素固定化電極においてリポソームに封入された酵素群および補酵素による電子の受け渡し反応を模式的に示す略線図である。
【図4】リポソームに酵素群および補酵素を封入して酵素反応を行うことによる利点を説明するための略線図である。
【図5】蛍光ラベル化したアルコールデヒドロゲナーゼ、蛍光ラベル化したジアホラーゼおよびNADHを封入したリポソームの蛍光顕微鏡像を示す図面代用写真である。
【図6】蛍光ラベル化したアルコールデヒドロゲナーゼ、蛍光ラベル化したジアホラーゼおよびNADHを封入したリポソームの蛍光顕微鏡像を示す図面代用写真である。
【図7】蛍光ラベル化したアルコールデヒドロゲナーゼ、蛍光ラベル化したジアホラーゼおよびNADHを封入したリポソームの蛍光顕微鏡像を示す図面代用写真である。
【図8】蛍光ラベル化したアルコールデヒドロゲナーゼ、蛍光ラベル化したジアホラーゼおよびNADHを封入したリポソームを蛍光モニタリングした結果を示す略線図である。
【図9】蛍光ラベル化したアルコールデヒドロゲナーゼ、蛍光ラベル化したジアホラーゼおよびNADHを封入したリポソームを蛍光モニタリングした結果を示す略線図である。
【図10】蛍光ラベル化したアルコールデヒドロゲナーゼ、蛍光ラベル化したジアホラーゼおよびNADHを封入したリポソームを蛍光モニタリングした結果を示す略線図である。
【図11】リポソームの安定性を説明するための略線図である。
【図12】アルコールデヒドロゲナーゼ、ジアホラーゼおよびNADHを封入したリポソームを所定の溶液中に分散させた場合ならびにアルコールデヒドロゲナーゼ、ジアホラーゼおよびNADHを単に所定の溶液中に分散させた場合に行ったクロノアンペロメトリーの結果を示す略線図である。
【図13】アルコールデヒドロゲナーゼ、ジアホラーゼおよびNADHを封入したリポソームを緩衝液中に分散させた状態を示す略線図である。
【図14】アルコールデヒドロゲナーゼ、ジアホラーゼおよびNADHを単に緩衝液中に分散させた状態を示す略線図である。
【図15】グルコースデヒドロゲナーゼ、ジアホラーゼおよびNADHを封入したリポソームを測定溶液中に分散させた場合に行ったクロノアンペロメトリーの結果を示す略線図である。
【図16】グルコースデヒドロゲナーゼ、ジアホラーゼおよびNADHを封入したリポソームを測定溶液中に分散させた場合に行ったクロノアンペロメトリーの結果を示す略線図である。
【図17】この発明の実施例1において抗生物質として用いるアムホテリシンBの構造式を示す略線図である。
【図18】この発明の実施例1においてリポソームを構成する脂質2分子膜にアムホテリシンBが結合して穴が形成されている状態を示す断面図である。
【図19】この発明の実施例1においてリポソームを構成する脂質2分子膜にアムホテリシンBが結合して穴が形成されている状態を示す平面図である。
【図20】脂質2分子膜にアムホテリシンBを結合させたリポソームをイオン液体に浸漬して撮影した走査型電子顕微鏡像を示す図面代用写真である。
【図21】脂質2分子膜にアムホテリシンBを結合させていないリポソームをイオン液体に浸漬して撮影した走査型電子顕微鏡像を示す図面代用写真である。
【図22】この発明の実施例1においてグルコースデヒドロゲナーゼ、ジアホラーゼおよびNADHを封入したリポソームを測定溶液中に分散させた場合に行ったクロノアンペロメトリーの結果を示す略線図である。
【図23】実施例1との比較のために行ったクロノアンペロメトリーの結果を示す略線図である。
【図24】実施例1との比較のために行ったクロノアンペロメトリーの結果を示す略線図である。
【図25】電気化学分析に用いた電気化学測定装置を示す略線図である。
【図26】電気化学分析の測定条件を示す略線図である。
【図27】電気化学分析の測定結果を示す略線図である。
【図28】脂質2分子膜の両側のイオン分布を示す略線図である。
【図29】脂質2分子膜の内外のイオン濃度を示す略線図である。
【図30】脂質2分子膜の内外のイオン濃度を示す略線図である。
【図31】電気化学分析の測定結果を示す略線図である。
【図32】各種の有機酸の拡散係数比と有機酸の分子量との関係を示す略線図である。
【図33】コレステロールを用いた場合の電気化学分析の測定結果を示す略線図である。
【図34】エルゴステロールを用いた場合の電気化学分析の測定結果を示す略線図である。
【図35】コレステロールまたはエルゴステロールを用いた場合の各種の有機酸の拡散係数比と有機酸の分子量との関係を示す略線図である。
【図36】電気化学測定系を示す略線図である。
【図37】電気化学分析の測定結果を示す略線図である。
【図38】エルゴステロールを用いた場合の利点を説明するための略線図である。
【図39】電気化学分析の測定結果を示す略線図である。
【図40】電気化学分析の測定結果を示す略線図である。
【図41】電気化学分析の測定結果を示す略線図である。
【図42】この発明の第2の実施の形態によるバイオ燃料電池を示す略線図である。
【図43】この発明の第2の実施の形態によるバイオ燃料電池の負極の構成の詳細ならびにこの負極に固定化されたリポソームに封入された酵素群および補酵素の一例およびこの酵素群および補酵素による電子の受け渡し反応を模式的に示す略線図である。
【図44】この発明の第2の実施の形態によるバイオ燃料電池の具体的な構成例を示す略線図である。
【図45】この発明の第3の実施の形態によるバイオ燃料電池において負極の電極材料に用いる多孔体導電材料の構造を説明するための略線図および断面図である。
【図46】この発明の第3の実施の形態によるバイオ燃料電池において負極の電極材料に用いる多孔体導電材料の製造方法を説明するための略線図である。
【図47】この発明の第4の実施の形態による細胞の要部を示す略線図である。
【図48】この発明の第5の実施の形態によるミトコンドリアを示す略線図である。
【図49】この発明の第6の実施の形態による細菌を示す略線図である。
【図50】この発明の第7の実施の形態によるバイオ燃料電池において負極の電極に用いる多孔質電極を示す斜視図および断面図である。
【図51】この発明の第8の実施の形態による酵素固定化電極を示す略線図である。
【図52】この発明の実施例2においてクロノアンペロメトリー測定を行うために作製した試料を示す略線図である。
【図53】この発明の実施例2との比較のために作製した第1の試料を示す略線図である。
【図54】この発明の実施例2との比較のために作製した第2の試料を示す略線図である。
【図55】この発明の実施例2との比較のために作製した第3の試料を示す略線図である。
【図56】この発明の実施例2において行ったクロノアンペロメトリーの結果を比較例の結果とともに示す略線図である。
【図57】この発明の第9の実施の形態による酵素固定化電極を示す略線図である。
【図58】脂質2分子膜に対する種々の分子の透過性を示す略線図である。
【発明を実施するための形態】
【0062】
以下、発明を実施するための形態(以下「実施の形態」とする)について説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
1.第1の実施の形態(酵素固定化電極およびその製造方法)
2.第2の実施の形態(バイオ燃料電池)
3.第3の実施の形態(バイオ燃料電池)
4.第4の実施の形態(細胞)
5.第5の実施の形態(ミトコンドリア)
6.第6の実施の形態(細菌)
7.第7の実施の形態(バイオ燃料電池)
8.第8の実施の形態(酵素固定化電極およびその製造方法)
9.第9の実施の形態(酵素固定化電極およびその製造方法)
【0063】
〈1.第1の実施の形態〉
[酵素固定化電極]
図1はこの発明の第1の実施の形態による酵素固定化電極を示す。この酵素固定化電極においては、基質としてグルコースや有機酸などを用いる。
【0064】
図1に示すように、この酵素固定化電極においては、多孔質カーボンなどからなる電極11の表面にリン脂質などの脂質2分子膜からなるリポソーム12が物理吸着などにより固定化されている。このリポソーム12の内部の水相に、目的とする酵素反応に関与する少なくとも一種の酵素および少なくとも一種の補酵素が封入される。
【0065】
図2にこのリポソーム12の構造の詳細を示す。図2においては、リポソーム12の内部の水相12aに二種類の酵素13、14および一種類の補酵素15が封入されている。このリポソーム12の内部の水相12aには、これらの酵素13、14および補酵素15以外に、例えば電子メディエーターを封入してもよい。この電子メディエーターは、リポソーム12とともに電極11上に固定化してもよい。例えば、酵素13は基質として用いられるグルコースの酸化を促進し分解する酸化酵素、酵素14はこのグルコースの酸化に伴って還元された補酵素15を酸化体に戻すとともに電子メディエーターを介して電子を電極11に渡す補酵素酸化酵素である。
【0066】
図2に示すように、リポソーム12を構成する脂質2分子膜に一つまたは複数の抗生物質16が結合しており、この抗生物質16により縁取られる形でこの脂質2分子膜を貫通する穴17が形成されている。図2においては一つの穴17だけが示されているが、この穴17の数および配置は任意である。この穴17の大きさは、グルコースの透過は可能であるが、リポソーム12の内部に封入された酵素13、14および補酵素15の透過は不可能あるいは困難な大きさに選ばれる。
【0067】
抗生物質16としては、例えば、ポリエン系抗生物質であるアムホテリシン(Amphotericin)Bのほか、イオノホア(ionophore)などを用いることができるが、これに限定されるものではない。イオノホアは、例えば、バリノマイシン、イオノマイシン、ナイジェリシン、グラミシジンA、モネンシン、カルボニルシアニド−m−クロロフェニルヒドラゾン、カルボニルシアニド−p−フルオロメトキシフェニルヒドラゾンなどである。
【0068】
リポソーム12を構成する脂質2分子膜には、抗生物質16に加えて、一つまたは複数のステロール18が結合している。図2においては五つのステロール18が示されているが、このステロール18の数および配置は任意であり、必要に応じて選ばれる。好適には、リポソーム12を構成する脂質2分子膜に対するステロール18の重量比は1/4以上1/3以下の範囲に選ばれる。
【0069】
ステロール18の具体例を挙げると、コレステロール
【化1】
やエルゴステロール
【化2】
などである。
【0070】
[酵素固定化電極の製造方法]
この酵素固定化電極は、例えば、次のようにして製造することができる。まず、酵素13、14および補酵素15が封入されたリポソーム12を作製する。次に、このリポソーム12を構成する脂質2分子膜に抗生物質16を結合させて穴17を形成するとともに、この脂質2分子膜にステロール18を結合させる。次に、こうして抗生物質16およびステロール18を結合させたリポソーム12を電極11上に固定化する。これによって、酵素固定化電極が製造される。酵素13、14および補酵素15を封入する前のリポソーム12を構成する脂質2分子膜に抗生物質16およびステロール18を結合させるようにしてもよい。また、リポソーム12を電極11上に固定化してからこのリポソーム12を構成する脂質2分子膜に抗生物質16およびステロール18を結合させてもよい。
【0071】
より具体的には、酵素固定化電極は、例えば、次のようにして製造される。まず、酵素13を含む緩衝液、酵素14を含む緩衝液、補酵素15を含む緩衝液およびステロール18が結合しているリポソーム12(内部に酵素13、14および補酵素15が封入されていないもの)を含む緩衝液をそれぞれ作製する。次に、これらの緩衝液を混合した後、この混合溶液をゲルろ過カラムに通したりすることなどによりリポソーム12外の酵素13、14および補酵素15を除去する。次に、こうして内部に酵素13、14および補酵素15が封入されたリポソーム12を緩衝液中に置き、この緩衝液中に抗生物質16を添加してリポソーム12を構成する脂質2分子膜に抗生物質16を結合させて穴17を形成する。
【0072】
図3にこの酵素固定化電極における酵素、補酵素および電子メディエーターによる電子の受け渡し反応の一例を模式的に示す。この例では、グルコースの分解に関与する酵素がグルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)である。また、グルコースの分解プロセスにおける酸化反応に伴って還元体が生成される補酵素がNAD+ である。また、補酵素の還元体であるNADHを酸化する補酵素酸化酵素がジアホラーゼ(DI)である。そして、補酵素酸化酵素から補酵素の酸化に伴って生じる電子を電子メディエーターが受け取って電極11に渡すようになっている。この場合、グルコースは、リポソーム12を構成する脂質2分子膜に形成された穴17を透過してリポソーム12の内部に入り、グルコースデヒドロゲナーゼによるこのグルコースの分解によりグルコノラクトンが生成され、このグルコノラクトンが穴17を透過してリポソーム12の外部に出る。電子メディエーターは、リポソーム12を構成する脂質2分子膜を出入りして電子伝達を行う。
【0073】
実施例について説明する前に、酵素反応の反応場として酵素および補酵素を封入したリポソームを用いることの有効性について詳細に検討を行った結果について説明する(特許文献13参照。)。ただし、ここでは、リポソームとして脂質2分子膜にグルコースの透過が可能な穴が形成されていないものを用い、酵素反応の基質としてエチルアルコールを用いる場合を考える。
【0074】
図4に示すように、電極19に、脂質2分子膜にグルコースの透過が可能な穴が形成されていないリポソーム20の内部にエチルアルコール(EtOH)の分解に関与する酵素および補酵素が封入されたものを固定化した酵素固定化電極を作製した。電極19としては電極11と同様なものを用いた。図4にこの酵素固定化電極における酵素、補酵素および電子メディエーターによる電子の受け渡し反応の一例を模式的に示す。この例では、エチルアルコール(EtOH)の分解に関与する酵素がアルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)である。また、エチルアルコールの分解プロセスにおける酸化反応に伴って還元体が生成される補酵素がNAD+ である。また、補酵素の還元体であるNADHを酸化する補酵素酸化酵素がジアホラーゼ(DI)である。そして、補酵素酸化酵素から補酵素の酸化に伴って生じる電子を電子メディエーターが受け取って電極19に渡す。この場合、エチルアルコールは、リポソーム20を構成する脂質2分子膜を透過してリポソーム20の内部に入り、アルコールデヒドロゲナーゼによるこのエチルアルコールの分解によりアセトアルデヒド(CH3 CHO)が生成され、このアセトアルデヒドがリポソーム20の外部に出る。電子メディエーターは、リポソーム20を構成する脂質2分子膜を出入りして電子伝達を行う。
【0075】
この図4に示す酵素固定化電極を実際に作製して実験を行った。
まず、次のようにして酵素固定化電極を作製した。
ジアホラーゼ(DI)(EC 1.8.1.4、天野エンザイム製)を5mg秤量し、緩衝溶液(10mMリン酸緩衝液、pH7)1mLに溶解させ、DI酵素緩衝溶液(1)とした。
【0076】
アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)(NAD依存型、EC 1.1.1.1、天野エンザイム製)を5mg秤量し、緩衝溶液(10mMリン酸緩衝液、pH7)1mLに溶解させ、ADH酵素緩衝溶液(2)とした。
【0077】
上記の酵素を溶解させる緩衝溶液は直前まで冷蔵されていたものが好ましく、酵素緩衝溶液もできるだけ冷蔵保存しておくことが好ましい。
【0078】
NADH(シグマアルドリッチ製、N−8129)を35mg秤量し、緩衝溶液(10mMリン酸緩衝液、pH7)1mLに溶解させ、NADH緩衝溶液(3)とした。
【0079】
2,3−ジメトキシ−5−メチル−1,4−ベンゾキノン(Q0)を15〜300mg秤量し、緩衝溶液(10mMリン酸緩衝液、pH7)1mLに溶解させ、Q0緩衝溶液(4)とした。
【0080】
卵黄レシチン(Wako製)を100mg秤量し、緩衝溶液(10mMリン酸緩衝液、pH7)10mLに溶解させてホモジナイザーで均一化し、リポソーム緩衝溶液(5)とした。
【0081】
上記のようにして作製した各種の溶液を、下記に示す量ずつ採取して混合し、凍結融解を3度繰り返した。
DI酵素緩衝溶液(1):50μL
ADH酵素緩衝溶液(2):50μL
NADH緩衝溶液(3):50μL
リポソーム緩衝溶液(5):50μL
【0082】
上記の混合溶液をゲルろ過カラムに通し、リポソーム外の酵素およびNADHを除去する。ここで得たリポソーム溶液をADH、DI、NADH封入リポソーム溶液(6)とした。
【0083】
図5、図6および図7は、シアニン色素Cy2で蛍光ラベル化したADH、シアニン色素Cy3で蛍光ラベル化したDIおよびNADHを封入したリポソームの蛍光顕微鏡写真である。図5、図6および図7において、Ex(Excitation) は励起光を示し、Exの右に記載されている波長を有し、DM(Dichroic mirror)は励起光と蛍光を分離するミラーを示し、DMの右に記載されている波長以上の光のみを透過し、BA(Barrier filter)
は蛍光と散乱光を分離するフィルターを示し、BAの右に記載されている波長以上の光を透過する。この蛍光顕微鏡では、励起光により色素を励起し、それによって得られる光をDMおよびBAに順次通して不要な光を除去し、色素からの蛍光のみを検出する。図5は波長450〜490nmの励起光でCy2を励起して蛍光を発生させたものでADHの分布を示す。図6は波長510〜560nmの励起光でCy3を励起して蛍光を発生させたものでDIの分布を示す。図7は波長380〜420nmの励起光でNADHを励起して蛍光を発生させたものでNADHの分布を示す。
【0084】
図5、図6および図7より、リポソームの直径は平均4.6μm、標準偏差は2.0μmであった。ただし、リポソームの平均直径は、図5、図6および図7中の30個のリポソームの直径を測定し、それらの平均を取ることにより求めた。
【0085】
図8、図9および図10は、Cy2で蛍光ラベル化したADH、Cy3で蛍光ラベル化したDIおよびNADHを封入したリポソームを蛍光モニタリングした結果を示すグラフである。図8はCy2で蛍光ラベル化したADHからの蛍光強度、図9はCy3で蛍光ラベル化したDIからの蛍光強度、図10はNADHからの蛍光強度を示す。図8、図9および図10において、Em(Emission)は励起光Exにより色素を励起した時に放出される光を示し、Emの右に記載されている波長を有し、Exの波長およびEmの波長の右の括弧内の数値は半値幅である。図8、図9および図10から分かるように、いずれの場合も、エチルアルコール濃度100mMまで蛍光強度は変化しなかった。つまり、少なくともエチルアルコール濃度100mMまではリポソームは安定で、リポソーム内部にADH、DIおよびNADHが確実に封入されていることが分かった。また、界面活性剤である0.3%TritonXを添加したところ、蛍光強度が増加した。これは、0.3%TritonXによりリポソームが破壊され、内部のADH、DIおよびNADHがリポソーム外に放出され、蛍光強度が増加したことを意味する。この時の様子をNADHを例に取って図11に示す。図11に示すように、リポソームの内部にNADHが封入されていた状態ではNADHによる蛍光強度は低いが、リポソームが破壊され、内部に封入されていたNADHがリポソームの外部に放出されるとNADHによる蛍光強度が増加する。
【0086】
こうして得たADH、DIおよびNADH封入リポソーム溶液(6)とQ0緩衝溶液(4)とを混合して総体積100μLの測定溶液を作製し、カーボンフェルトを作用電極とし、参照電極Ag|AgClに対して、0.3Vと電子メディエーターの酸化還元電位より十分高い電位に設定し、溶液攪拌下においてクロノアンペロメトリーを行った。クロノアンペロメトリー中に測定溶液に、エチルアルコールが終濃度1、10、100mMとなるよう添加したものを順次添加した。
【0087】
ADH、DIおよびNADH封入リポソームを含む上記測定溶液に上述のようにしてエチルアルコールを添加した際のクロノアンペロメトリーの結果を図12の曲線(a)に示す。この曲線(a)から明らかなように、ADH、DIおよびNADHをリポソームに封入した場合にはエチルアルコール由来の触媒電流が観察され、エチルアルコールの濃度が高くなるに従って触媒電流は増加する。すなわち、人工細胞であるADH、DIおよびNADH封入リポソームによる電気化学的触媒活性が観察された。一方、ADH、DIおよびNADHをリポソームに封入した場合と同量のADH、DIおよびNADHをリポソームに封入せず、単にQ0緩衝溶液(4)中に分散させた場合について、上記と同様にしてクロノアンペロメトリーを行った。その結果を図12の曲線(b)に示す。この曲線(b)から明らかなように、ADH、DIおよびNADHをリポソームに封入せず、単にQ0緩衝溶液(4)中に分散させた場合にはエチルアルコール由来の触媒電流はほとんど観測されない。例えば、エチルアルコールの濃度が100mMの場合で比較すると、ADH、DIおよびNADHをリポソームに封入せず、単にQ0緩衝溶液(4)中に分散させた場合に得られる触媒電流は、ADH、DIおよびNADHをリポソームに封入した場合に得られる触媒電流の約30分の1程度に過ぎない。このことから、ADH、DIおよびNADHをリポソームに封入した場合には、封入しない場合に比べてはるかに高い触媒電流を得ることができることが明らかである。
【0088】
このように、ADH、DIおよびNADHをリポソームに封入した場合には、封入しない場合に比べてはるかに高い触媒電流が得られる理由について説明する。図13に示すように、リポソーム20内にADH(横線を施した○で示す)、DI(縦線を施した○で示す)およびNADH(空白の○で示す)を封入したものが緩衝液S中に正方格子状に配列している場合を考える。一方、図14に示すように、図13に示すものと同じ体積の緩衝液S中に、図13に示すものと同じ量のADH(横線を施した○で示す)、DI(縦線を施した○で示す)およびNADH(空白の○で示す)が六方格子状に配列している場合を考える。緩衝液Sの体積は例えば100μL、リポソーム20の内部の体積は例えば約0.17μLである。ただし、リポソーム20の脂質2分子膜を構成するリン脂質は緩衝液S中に5.5×10-3μmol存在し、リポソーム20の内部の体積の合計はリポソーム1μmol当たりに換算すると30μL/μmolである。図14に示すようにADH、DIおよびNADHが緩衝液S中に単に分散されている場合におけるADH、DIおよびNADHの濃度に比べて、図13に示すようにリポソーム20内にADH、DIおよびNADHが封入されている場合におけるこれらのADH、DIおよびNADHの局所的な濃度は約600倍も高い。すなわち、リポソーム20内にADH、DIおよびNADHを封入することにより、これらのADH、DIおよびNADHの濃度を著しく高くすることができ、これらのADH、DIおよびNADHの相互の間隔を極めて小さくすることができる。このため、リポソーム20内では、ADH、DIおよびNADHによる触媒サイクルが極めて高速に進行し、図12に示すような結果が得られる。
【0089】
以上のことから、リポソーム12の内部に酵素反応に必要な酵素13、14および補酵素15を封入することにより、酵素反応をリポソーム12の内部の微小な空間を反応場として効率的に行うことができ、基質から効率的に電子を取り出すことができることが分かる。
【0090】
次に、リポソーム12を構成する脂質2分子膜に抗生物質16を結合させることの有効性について詳細に検討を行った結果について説明する。抗生物質16としてはアムホテリシンBを用いた。
【0091】
次のようにして酵素固定化電極を作製した。
ジアホラーゼ(DI)(EC 1.8.1.4、天野エンザイム製)を1〜10mg秤量し、緩衝溶液(10mMリン酸緩衝液、pH7)1mLに溶解させ、DI酵素緩衝溶液(11)とした。
【0092】
グルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)(NAD依存型、EC 1.1.1.47、天野エンザイム製)を10〜50mg秤量し、緩衝溶液(10mMリン酸緩衝液、pH7)1mLに溶解させ、GDH酵素緩衝溶液(12)とした。
【0093】
上記の酵素を溶解させる緩衝溶液は直前まで冷蔵されていたものが好ましく、酵素緩衝溶液もできるだけ冷蔵保存しておくことが好ましい。
【0094】
NADH(シグマアルドリッチ製、N−8129)を10〜50mg秤量し、緩衝溶液(10mMリン酸緩衝液、pH7)1mLに溶解させ、NADH緩衝溶液(13)とした。
【0095】
2,3−ジメトキシ−5−メチル−1,4−ベンゾキノン(Q0)を100〜200mg秤量し、緩衝溶液(10mMリン酸緩衝液、pH7)1mLに溶解させ、Q0緩衝溶液(14)とした。
【0096】
卵黄レシチン(Wako製)を10〜100mg秤量し、緩衝溶液(10mMリン酸緩衝液、pH7)10mLに溶解させてホモジナイザーで均一化し、リポソーム緩衝溶液(15)とした。
【0097】
上記のようにして作製した各種の溶液を、下記に示す量ずつ採取して混合し、凍結融解を3度繰り返した。
【0098】
DI酵素緩衝溶液(11):50μL
GDH酵素緩衝溶液(12):50μL
NADH緩衝溶液(13):50μL
リポソーム緩衝溶液(15):50μL
【0099】
上記の混合溶液をゲルろ過カラムに通し、リポソーム外の酵素およびNADHを除去する。ここで得たリポソーム溶液をGDH、DI、NADH封入リポソーム溶液(16)とした。
【0100】
こうして得たGDH、DIおよびNADH封入リポソーム溶液(16)とQ0緩衝溶液(14)とを混合して総体積100μLの測定溶液を作製した。そして、作用電極としてカーボンフェルト、参照電極としてAg|AgCl、対極として白金ワイヤーを用い、電位をAg|AgClに対して+0.1Vに設定し、グルコースを燃料として、溶液攪拌下においてクロノアンペロメトリーを行った。クロノアンペロメトリーの結果を図15に示す。
【0101】
図15に示すように、まず、クロノアンペロメトリー中に測定溶液に、終濃度100mMとなるようにグルコースを添加した時には、反応はほとんど起こらず、得られる電流値はほとんど変化しなかった。これは、リポソームを構成する脂質2分子膜をグルコースが透過する速度が著しく小さく、実質的に透過しないことに起因するものである。
【0102】
次に、測定溶液に、終濃度100μMとなるように抗生物質16としてアムホテリシンB(AmB)を添加した。すると、グルコース由来の触媒電流が観察された。すなわち、リポソームを構成する脂質2分子膜をグルコースが透過し、リポソームの内部で一連の酵素反応が進行したことが判明した。本発明者らが知る限り、このようにリポソームの内部に取り込まれたグルコースに由来する触媒電流を観測したのは初めてである。
【0103】
次に、測定溶液に、リポソームを破壊しうる界面活性剤である0.3%TritonXを添加したところ、触媒電流は著しく低下した。これは、0.3%TritonXによりリポソームが破壊され、内部のGDH、DIおよびNADHがリポソーム外に放出されたことを意味する。
【0104】
図16に、上記と同様な100mMのグルコースを含む測定溶液に添加するアムホテリシンBの終濃度を1、10、100μMと変化させてクロノアンペロメトリーを行った結果を示す。図16に示すように、この1〜100μMの濃度範囲内では、添加するアムホテリシンBの終濃度が高くなるに従って触媒電流は増加するが、アムホテリシンBの終濃度が100μMでは触媒電流の増加は頭打ちの傾向を示す。
【0105】
図17にアムホテリシンBの構造式を示す。また、図18に、リポソーム12を構成する脂質2分子膜にアムホテリシンBが結合した状態を示す断面図を示す。また、図19に、脂質2分子膜(図示せず)にアムホテリシンBが結合した状態を示す平面図を示す。図19に示すように、脂質2分子膜に環状に複数結合したアムホテリシンBにより、これらのアムホテリシンBで縁取られる形で穴が脂質2分子膜を貫通して形成されている。アムホテリシンBによりリポソームに穴を形成することができることは報告されている(例えば、非特許文献1参照。)。この穴は、グルコースの透過が可能であり、しかも酵素であるGDHおよびDIと補酵素であるNADHとが透過しない大きさを有する。
【0106】
図20は、リポソームを構成する脂質2分子膜にアムホテリシンBが結合したリポソームの走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。図21は、アムホテリシンBが結合していないリポソームのSEM写真である。ただし、撮影は、走査型電子顕微鏡の試料室内に、このリポソームをイオン液体に浸漬した容器を置き、試料室内を1Pa以下の高真空に真空排気した状態で行った。イオン液体としては、BMIBF4 :1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート(1-butyl-3-methylimidazolium tetrafluoroborate)
【化3】
を用いた。試料溶液は、リポソーム懸濁液10μLとBMIBF4 10μLとを混合することにより調製した。このように試料をイオン液体中に浸漬して電子顕微鏡により撮影する手法は、本発明者らが知る限り、これまで全く用いられておらず、本発明者らが初めて用いたものである。
【0107】
図21に示すように、アムホテリシンBが結合していないリポソームは球状の形状を有する。これに対し、図20に示すように、アムホテリシンBが結合したリポソームは、全体として球状で周囲に小さな突起がある形状を有する。この突起はアムホテリシンBが結合している部分に対応する。このように、イオン液体中にリポソームを浸漬した状態で観察することにより、リポソームを極めて鮮明に撮影することができ、リポソームの形状を正確に知ることができる。
【0108】
〈実施例1〉
次に、リポソーム12を構成する脂質2分子膜にステロール18を結合させることの有効性について詳細に検討を行った結果について説明する。ステロール18としてはコレステロールを用いた。なお、この検証に関しても抗生物質16を用いている。
【0109】
次のようにして酵素固定化電極を作製した。
ジアホラーゼ(DI)(EC 1.8.1.4、天野エンザイム製)を1〜10mg秤量し、緩衝溶液(10mMリン酸緩衝液、pH7)1mLに溶解させ、DI酵素緩衝溶液(17)とした。
【0110】
グルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)(NAD依存型、EC 1.1.1.47、天野エンザイム製)を10〜50mg秤量し、緩衝溶液(10mMリン酸緩衝液、pH7)1mLに溶解させ、GDH酵素緩衝溶液(18)とした。
【0111】
上記の酵素を溶解させる緩衝溶液は直前まで冷蔵されていたものが好ましく、酵素緩衝溶液もできるだけ冷蔵保存しておくことが好ましい。
【0112】
NADH(シグマアルドリッチ製、N−8129)を10〜50mg秤量し、緩衝溶液(10mMリン酸緩衝液、pH7)1mLに溶解させ、NADH緩衝溶液(19)とした。
【0113】
2,3−ジメトキシ−5−メチル−1,4−ベンゾキノン(Q0)を100〜200mg秤量し、緩衝溶液(10mMリン酸緩衝液、pH7)1mLに溶解させ、Q0緩衝溶液(20)とした。
【0114】
卵黄レシチン(Wako製)を10〜100mg、コレステロールを1〜50mg秤量し、エタノール10mLに溶解させ、ロータリーエバポレーターによりエタノールを揮発させ、レシチンとコレステロールとが均一に混合したフィルムを形成する。そのフィルムを緩衝溶液(10mMリン酸緩衝液、pH7)10mLで懸濁させてホモジナイザーで均一化し、リポソーム緩衝溶液(21)とした。
【0115】
上記のようにして作製した各種の溶液を、下記に示す量ずつ採取して混合し、凍結融解を3度繰り返した。
【0116】
DI酵素緩衝溶液(17):50μL
GDH酵素緩衝溶液(18):50μL
NADH緩衝溶液(19):50μL
リポソーム緩衝溶液(21):50μL
【0117】
上記の混合溶液をゲルろ過カラムに通し、リポソーム外の酵素およびNADHを除去する。ここで得たリポソーム溶液をGDH、DI、NADH封入リポソーム溶液(22)とした。
【0118】
こうして得たGDH、DIおよびNADH封入リポソーム溶液(22)とQ0緩衝溶液(20)とを混合して総体積100μLの測定溶液を作製した。そして、作用電極としてカーボンフェルト、参照電極としてAg|AgCl、対極として白金ワイヤーを用い、電位をAg|AgClに対して+0.1Vに設定し、グルコースを燃料として、溶液攪拌下においてクロノアンペロメトリーを行った。クロノアンペロメトリー中に測定溶液に、終濃度が100mMとなるようにグルコースを添加し、さらに終濃度が100μMとなるようにアムホテリシンBを添加した。クロノアンペロメトリーの結果を図22に示す。比較のために、コレステロールが結合していないことを除いて同様な条件で行った二つの例のクロノアンペロメトリーの結果を図23および図24に示す。図23および図24に示すように、コレステロールが結合していないリポソームでは電流の下降が観測されるのに対し、図22に示すように、コレステロールが結合したリポソームは定常電流を示す。これより、ステロールを結合させることにより、アムホテリシンBが結合したリポソームは構造的に安定化し、グルコースの透過が改善され、より安定した触媒電流を示すことが確認できた。すなわち、ステロールを結合させることは、リポソームを電気化学触媒として用いる上で非常に有用な物質であるということが分かる。
【0119】
これまでの検証により、ステロールが脂質2分子膜に対する有機酸の透過の改善に有用であることを確認したが、次にステロールの種類によって透過が変化するかを検討した。リポソームを構成する脂質2分子膜にアムホテリシンBおよびステロールとしてコレステロールまたはエルゴステロールが結合した状態において、アムホテリシンBに対する有機酸の透過性を調べた。有機酸は水溶液中で電離し、電荷を持つ。そこで、有機酸イオンの移動を電気化学的に分析した。
【0120】
ただし、電気化学分析は、リポソームの代わりに、平坦な脂質2分子膜にアムホテリシンBおよびステロールとしてコレステロールまたはエルゴステロールが結合したものを用いて行った。
【0121】
図25は電気化学分析に用いた電気化学測定装置を示す。図25に示すように、この電気化学測定装置においては、二つの容器W1、W2が、それらの壁に形成された穴H1と穴H2とが互いに一致するように連結されている。穴H1と穴H2との間には脂質2分子膜BLMが容器W1の内部と容器W2の内部とを仕切るように設けられている。脂質2分子膜BLMにアムホテリシンBおよびコレステロールを結合させた。脂質2分子膜BLMとしては、ホスファチジルコリンからなるものを用いた。容器W1、W2内にはそれぞれ緩衝液からなる支持電解質SEが入れられている。容器W1内の支持電解質SEに対極CEおよび参照電極REを浸漬し、容器W2内の支持電解質SEに作用極WEを浸漬し、これらの対極CE、参照電極REおよび作用極WEにポテンショスタットPを接続した。対極CEとしては白金(Pt)を用い、参照電極REおよび作用極WEとしてはAg|AgClを用いた。容器W1内の支持電解質SEを基準とし、容器W2内の支持電解質SEに電圧ΔEを印加して、脂質2分子膜BLMに対する有機酸の透過を作用極WEと対極CEとの間に流れる電流値(電流密度j)を求めた。
【0122】
有機酸として乳酸ナトリウムを用い、乳酸ナトリウムの電離により発生する乳酸イオンおよびナトリウムイオン(Na+ )のアムホテリシンBに対する透過を観察した。図26に示すように、容器W1、W2内の支持電解質SEとして用いた緩衝液は10-2MのBisTris−HEPES(pH7.4)である。アムホテリシンBの量は5×10-7Mである。容器W1内の支持電解質SEに0.01Mの乳酸ナトリウムを添加し、容器W2内の支持電解質SEにそのc倍、すなわち0.01×cMの乳酸ナトリウムを添加した。
【0123】
図27に電気化学測定の結果を示す。図27に示すように、cが大きくなるにつれて電流jは大きな負の値になり、電流がゼロとなる電位(ゼロ電流電位)が正にシフトする。図28に、容器W1、W2内の支持電解質SE中の乳酸イオンおよびNa+ の分布を模式的に示す。図28に示すように、濃度勾配による乳酸イオンおよびNa+ の移動をゼロにするには、正の電圧Eを印加しなければならない。このことから、アムホテリシンBはアニオン選択性を有することが分かる。
【0124】
ここで、脂質2分子膜BLMの内外でのイオン分布の評価を行う。
図29は容器W1、W2内の支持電解質SE中のNa+ および乳酸イオン(Org- )の分布を模式的に示す。容器W1内の支持電解質SE中のNa+ の濃度を[Na+ ]W1、乳酸イオン(Org- )の濃度を[Org- ]W1、容器W2内の支持電解質SE中のNa+ の濃度を[Na+ ]W2、乳酸イオン(Org- )の濃度を[Org- ]W2と表す。また、脂質2分子膜BLMのうちの容器W1内の支持電解質SEと接する部分のNa+ の濃度を[Na+ ]M1、乳酸イオン(Org- )の濃度を[Org- ]M1と表す。また、脂質2分子膜BLMのうちの容器W2内の支持電解質SE中のNa+ の濃度を[Na+ ]M2、乳酸イオン(Org- )の濃度を[Org- ]M2と表す。
【0125】
脂質2分子膜BLMの内外でのイオンの分配平衡は
【数1】
と表される。
【0126】
実験条件は
【数2】
である。また、電気的中性則より
【数3】
となる。
【0127】
以上より、
【数4】
が成立する。
【0128】
次に、理論式によりゼロ電流電位の評価を行う。
図29における[Na+ ]W2および[Org- ]W2をそれぞれ[Na+ ]W1および[Org- ]W1で表し、[Na+ ]M2および[Org- ]M2をそれぞれ[Na+ ]M1および[Org- ]M1で表したものを図30に示す。容器W1内の支持電解質SEと脂質2分子膜BLMとの界面電位をES:W1/BLM、容器W2内の支持電解質SEと脂質2分子膜BLMとの界面電位をES:BLM/W2、脂質2分子膜BLMの電位をEM と表す。
【0129】
Goldman式およびNernst式より
【数5】
が成立する。
【0130】
Na+ およびOrg- の拡散係数をそれぞれDNa+ およびDOrg-と表し、拡散係数比
【数6】
とすると、
【数7】
と表すことができる。ただし、Rは気体定数、Fはファラデー定数、Tは絶対温度である。
【0131】
次に、拡散係数比αの算出方法について説明する。
図31はcratio の実測値に対してゼロ電流電位Eobs をプロットした図である。図31に示すように、Eobs の式から、実測値に対するフィッティングによりα=2.0と求められる。
図32に各種の有機酸イオンのα値を有機酸の分子量に対して示す。
【0132】
図33および図34はそれぞれステロールとしてコレステロールおよびエルゴステロールを用いた場合の電気化学測定の結果を示す。測定条件は図26においてc=1としたものである。図33および図34より、コレステロールを用いた場合には、乳酸0.01Mでの電流密度jは、乳酸なしと比較して約200倍増加する。これに対し、エルゴステロールを用いた場合には、乳酸0.01Mでの電流密度jは、乳酸なしと比較して約30倍増加する。このように、エルゴステロールを用いた場合にはコレステロールを用いた場合に比べて、電流密度jの増加は少ない。これは、リポソームを構成する脂質2分子膜にアムホテリシンBに加えてステロールを結合させたことにより、アムホテリシンBの穴の径が影響を受け、乳酸ナトリウムの透過が制御されたことを意味する。あるいは、脂質2分子膜BLMにアムホテリシンBに加えてステロールを結合させたことにより、アムホテリシンBのアニオン選択性が増加し、乳酸ナトリウムが透過しやすくなったことによるものとも考えられる。つまり、ステロールを利用することにより、有機酸の透過やアニオン選択性を制御することができるということである。
【0133】
図35は、コレステロールまたはエルゴステロールを用いた場合において、種々の有機酸の拡散係数比αを有機酸の分子量に対して示したものである。
【0134】
図35に示すように、いずれの有機酸でも、コレステロールを用いた場合の方が、エルゴステロールを用いた場合に比べて、拡散係数比αは大きい。これは、エルゴステロールを用いた場合には、コレステロールを用いた場合に比べて、Na+ に対し、全ての有機酸イオンの透過性が低下することによるものと考えられる。
【0135】
次に、アムホテリシンBの穴をグルコースが透過することを確認した結果について説明する。グルコースは電荷を持たないため、直接、電気化学測定を行うことができない。そこで、グルコースを酵素で酸化し、電極で電子移動を観測するものとする。
【0136】
図36は使用した電気化学測定系を示す。図36に示すように、カーボンペースト電極CP上にグルコースオキシダーゼ(GOD)、ペルオキシダーゼ(POD)およびフェロセンを固定化したバイオセンサーを作製した。そして、リポソーム内にグルコースを封入し、アムホテリシンBの添加によるグルコースの溶出を測定した。
【0137】
図37に測定結果を示す。図37の縦軸はグルコース濃度c、横軸は時間tを示す。図37に示すように、アムホテリシンBの添加と同時に、グルコース濃度が立ち上がり、グルコースが溶出したことが分かる。
【0138】
グルコース溶出速度は理論的に次のように求められる。
グルコース溶出速度をV、グルコースの初期濃度をcin、リポソームの外部のグルコース濃度をcout と表すと、グルコース溶出速度Vは次式で表される。
【0139】
【数8】
ただし、kはアムホテリシンBの穴の透過性を示す定数である。
【0140】
この微分方程式を解くと、リポソームの外部のグルコース濃度cout は
【数9】
と求められる。ただし、
【数10】
である。
【0141】
cout の式を図37に示す実験結果とフィッティングすることによりkを算出することができる。その結果、コレステロール使用時のkは6.1±1.8×10-5s-1 、エルゴステロール使用時のkは6.3±0.3×10-5s-1であり、両者はほぼ同じであった。このことから、コレステロールもエルゴステロールも、アムホテリシンBの穴の径は変わらないことが分かる。
【0142】
図38を参照して、リポソームにエルゴステロールを結合させた場合の利点について説明する。図38に示すように、この場合には、基質としてグルコースのような中性物質を用い、中間体に有機酸などのアニオンが生じる場合には、アムホテリシンBの穴からの基質の取り込みを低下させることなく、エルゴステロールによるアムホテリシンBのアニオン選択性の低下により、リポソームの外部への中間体の漏出を抑制することができる。
【0143】
次に、リポソームを構成する脂質2分子膜が単層の場合と多層の場合とでリポソームからのグルコースの流出を確認した結果について説明する。
【0144】
図39Aはコレステロールを結合させた直径50nmの単層リポソームを用いた場合のグルコース濃度の時間変化、図39Bはコレステロールを結合させた直径100nmの単層リポソームを用いた場合のグルコース濃度の時間変化を示す。図40はコレステロールを結合させた多重層リポソームを用いた場合のグルコース濃度の時間変化を示す。図39AおよびBならびに図40より、単層リポソームでも多重層リポソームでも、アムホテリシンBの添加まではグルコースの溶出は観測されない。
【0145】
図41Aはエルゴステロールを結合させた直径100nmの単層リポソームを用いた場合のグルコース濃度の時間変化、図41Bはエルゴステロールを結合させた多層リポソームを用いた場合のグルコース濃度の時間変化を示す。
【0146】
以上のように、この第1の実施の形態によれば、脂質2分子膜に抗生物質16が結合して穴17が形成され、さらにステロール18が結合したリポソーム12の内部に、基質、例えばグルコースや有機酸などを分解するための酵素反応に必要な酵素13、14および補酵素15を封入している。そして、このリポソーム12を電極11に固定化している。このため、酵素反応をこのリポソーム12の内部の微小な空間を反応場として効率的に行うことができ、基質であるグルコースから効率的に電子を取り出し、電極11に受け渡すことができる。また、従来のように酵素などをポリイオンコンプレックスなどにより電極11上に直接固定化する場合に比べて固定化を簡単に行うことができる。
【0147】
〈2.第2の実施の形態〉
[バイオ燃料電池]
次に、この発明の第2の実施の形態について説明する。この第2の実施の形態においては、バイオ燃料電池の負極として、第1の実施の形態による酵素固定化電極を用いる。
【0148】
図42はこのバイオ燃料電池を模式的に示す。このバイオ燃料電池では、燃料としてグルコースを用いる。図43は、このバイオ燃料電池の負極の構成の詳細ならびにこの負極に固定化されたリポソーム12に封入された酵素群および補酵素の一例およびこの酵素群および補酵素による電子の受け渡し反応を模式的に示す。
【0149】
図42および図43に示すように、このバイオ燃料電池は、負極21と正極22とが電解質層23を介して対向した構造を有する。負極21は、燃料として供給されたグルコースを酵素により分解し電子を取り出すとともにプロトン(H+ )を発生する。正極22は、負極21から電解質層23を通って輸送されたプロトンと負極21から外部回路を通って送られた電子と例えば空気中の酸素とにより水を生成する。
【0150】
負極21としては、第1の実施の形態による酵素固定化電極が用いられる。この酵素固定化電極は、具体的には、電極11上に、脂質2分子膜に、グルコースの透過が可能な穴17を有する抗生物質16およびステロール18が結合したリポソーム12が固定化されたものである。このリポソーム12の内部には、グルコースの分解に関与する酵素、グルコースの分解プロセスにおける酸化反応に伴って還元体が生成される補酵素および補酵素の還元体を酸化する補酵素酸化酵素が封入されている。電極11上には、必要に応じて、リポソーム12に加えて、補酵素酸化酵素から補酵素の酸化に伴って生じる電子を受け取って電極11に渡す電子メディエーターも固定化される。
【0151】
グルコースの分解に関与する酵素としては、例えば、グルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)、好適にはNAD依存型グルコースデヒドロゲナーゼを用いることができる。この酸化酵素を存在させることにより、例えば、β−D−グルコースをD−グルコノ−δ−ラクトンに酸化することができる。
【0152】
さらに、このD−グルコノ−δ−ラクトンは、グルコノキナーゼとフォスフォグルコネートデヒドロゲナーゼ(PhGDH)との二つの酵素を存在させることにより、2−ケト−6−フォスフォ−D−グルコネートに分解することができる。すなわち、D−グルコノ−δ−ラクトンは、加水分解によりD−グルコネートになり、D−グルコネートは、グルコノキナーゼの存在下、アデノシン三リン酸(ATP)をアデノシン二リン酸(ADP)とリン酸とに加水分解することでリン酸化されて、6−フォスフォ−D−グルコネートになる。この6−フォスフォ−D−グルコネートは、酸化酵素PhGDHの作用により、2−ケト−6−フォスフォ−D−グルコネートに酸化される。
【0153】
また、グルコースは上記分解プロセスのほかに、糖代謝を利用してCO2 まで分解することもできる。この糖代謝を利用した分解プロセスは、解糖系によるグルコースの分解およびピルビン酸の生成ならびにTCA回路に大別されるが、これらは広く知られた反応系である。
【0154】
単糖類の分解プロセスにおける酸化反応は、補酵素の還元反応を伴って行われる。この補酵素は作用する酵素によってほぼ定まっており、GDHの場合、補酵素にはNAD+ が用いられる。すなわち、GDHの作用によりβ−D−グルコースがD−グルコノ−δ−ラクトンに酸化されると、NAD+ がNADHに還元され、H+ を発生する。
【0155】
生成されたNADHは、ジアホラーゼ(DI)の存在下で直ちにNAD+ に酸化され、二つの電子とH+ とを発生する。したがって、グルコース1分子につき1段階の酸化反応で二つの電子と二つのH+ とが生成されることになる。2段階の酸化反応では、合計四つの電子と四つのH+ とが生成される。
【0156】
上記プロセスで生成された電子はジアホラーゼから電子メディエーターを介して電極11に渡され、H+ は電解質層23を通って正極22へ輸送される。
【0157】
上記の酵素および補酵素が封入されたリポソーム12および電子メディエーターは、電極反応が効率よく定常的に行われるようにするために、電解質層23に含まれるリン酸緩衝液やトリス緩衝液などの緩衝液によって、酵素にとって最適なpH、例えばpH7付近に維持されていることが好ましい。リン酸緩衝液としては、例えばNaH2 PO4 やKH2 PO4 が用いられる。さらに、イオン強度(I.S.)は、あまり大きすぎても小さすぎても酵素活性に悪影響を与えるが、電気化学応答性も考慮すると、適度なイオン強度、例えば0.3程度であることが好ましい。ただし、pHおよびイオン強度は、用いる酵素それぞれに最適値が存在し、上述した値に限定されない。
【0158】
図43には、一例として、グルコースの分解に関与する酵素がグルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)、グルコースの分解プロセスにおける酸化反応に伴って還元体が生成される補酵素がNAD+ 、補酵素の還元体であるNADHを酸化する補酵素酸化酵素がジアホラーゼ(DI)、補酵素酸化酵素から補酵素の酸化に伴って生じる電子を受け取って電極11に渡す電子メディエーターがACNQである場合が図示されている。
【0159】
正極22は、例えば多孔質カーボンなどの電極材料からなる電極に、例えばビリルビンオキシダーゼ、ラッカーゼ、アスコルビン酸オキシダーゼなどの酸素を分解する酵素を固定化したものである。この正極22の外側の部分(電解質層23と反対側の部分)は通常、多孔質カーボンよりなるガス拡散層により形成されるが、これに限定されるものではない。正極22には、好適には、酵素に加えて、この正極22との間で電子の受け渡しを行う電子メディエーターも固定化される。
【0160】
この正極22においては、上記の酸素を分解する酵素の存在下で、電解質層23からのH+ と負極21からの電子とにより空気中の酸素を還元し水を生成する。
【0161】
電解質層23は負極21において発生したH+ を正極22に輸送するためのもので、電子伝導性を持たず、H+ を輸送することが可能な材料により構成されている。電解質層23としては、具体的には、例えば、セロハンなどの既に挙げたものが用いられる。
【0162】
以上のように構成されたバイオ燃料電池において、負極21側にグルコースが供給されると、このグルコースが酸化酵素を含む分解酵素により分解される。この単糖類の分解プロセスで酸化酵素が関与することで、負極21側で電子とH+ とを生成することができ、負極21と正極22との間で電流を発生させることができる。
【0163】
次に、バイオ燃料電池の具体的な構造例について説明する。
図44AおよびBに示すように、このバイオ燃料電池は、負極21と正極22とが電解質層23を介して対向した構成を有している。この場合、正極22の下および負極21の下にそれぞれTi集電体41、42が置かれ、集電を容易に行うことができるようになっている。符号43、44は固定板を示す。これらの固定板43、44はねじ45により相互に締結され、それらの間に、正極22、負極21、電解質層23およびTi集電体41、42の全体が挟み込まれている。固定板43の一方の面(外側の面)には空気取り込み用の円形の凹部43aが設けられ、この凹部43aの底面に他方の面まで貫通した多数の穴43bが設けられている。これらの穴43bは正極22への空気の供給路となる。一方、固定板44の一方の面(外側の面)には燃料装填用の円形の凹部44aが設けられ、この凹部44aの底面に他方の面まで貫通した多数の穴44bが設けられている。これらの穴44bは負極21への燃料の供給路となる。この固定板44の他方の面の周辺部にはスペーサー46が設けられており、固定板43、44をねじ45により相互に締結したときにそれらの間隔が所定の間隔になるようになっている。
【0164】
図44Bに示すように、Ti集電体41、42の間に負荷47を接続し、固定板44の凹部44aに燃料として例えばリン酸緩衝液にグルコースを溶かしたグルコース溶液を入れて発電を行う。
【0165】
この第2の実施形態によれば、酵素反応に必要な酵素群および補酵素が封入され、かつ脂質2分子膜に、穴17を有する抗生物質16およびステロール18が結合したリポソーム12を電極11上に固定化した酵素固定化電極を負極21として用いている。このため、酵素反応をリポソーム12の内部の微小な空間を反応場として効率的に行うことができ、燃料であるグルコースから効率的に電子を取り出し、電極11に受け渡すことができるとともに、酵素などをポリイオンコンプレックスなどにより電極11上に直接固定化する場合に比べて固定化を簡単に行うことができる。このように負極21として用いられる酵素固定化電極が高効率であることにより、高効率のバイオ燃料電池を実現することができる。また、バイオ燃料電池の高出力化のためには燃料であるグルコースから2電子よりも多くの電子を取り出す必要があり、このためには三種類以上の酵素が適切な位置に固定化された酵素固定化電極を負極21に用いる必要があるが、リポソーム12の内部に三種類以上の酵素を封入することによりこのような要求も満たすことができる。また、互いに異なる三種類以上の酵素が封入された多種類のリポソームを混在させることにより多種類の燃料への対応が容易になる。さらには、負極リポソームと正極リポソームとを配列させたマイクロバイオ燃料電池の実現も可能である。
【0166】
〈3.第3の実施の形態〉
[バイオ燃料電池]
この第3の実施の形態によるバイオ燃料電池は、負極21の電極材に図45AおよびBに示すような多孔体導電材料を用いることを除いて、第2の実施の形態によるバイオ燃料電池と同様な構成を有する。
【0167】
図45Aはこの多孔体導電材料の構造を模式的に示し、図45Bはこの多孔体導電材料の骨格部の断面図である。図45AおよびBに示すように、この多孔体導電材料は、三次元網目状構造の多孔体材料からなる骨格79aと、この骨格79aの表面を被覆するカーボン系材料79bとからなり、このカーボン系材料79bの表面に、第2の実施形態と同様なリポソーム12が固定化されている。この多孔体導電材料は、カーボン系材料79bに囲まれた多数の孔80が網目に相当する三次元網目状構造を有する。この場合、これらの孔80同士は互いに連通している。カーボン系材料79bの形態は問わず、繊維状(針状)、粒状などのいずれであってもよい。
【0168】
多孔体材料からなる骨格79aとしては、発泡金属あるいは発泡合金、例えば発泡ニッケルが用いられる。この骨格79aの多孔率は一般的には85%以上、あるいは90%以上であり、その孔径は、一般的には例えば10nm〜1mm、あるいは10nm〜600μm、あるいは1〜600μm、典型的には50〜300μm、より典型的には100〜250μmである。カーボン系材料79bとしては、例えばケッチェンブラックなどの高導電性のものが好ましいが、カーボンナノチューブやフラーレンなどの機能性カーボン材料を用いてもよい。
【0169】
この多孔体導電材料の多孔率は一般的には80%以上、あるいは90%以上であり、孔80の径は、一般的には例えば9nm〜1mm、あるいは9nm〜600μm、あるいは1〜600μm、典型的には30〜400μm、より典型的には80〜230μmである。
【0170】
次に、この多孔体導電材料の製造方法について説明する。
図46Aに示すように、まず、発泡金属あるいは発泡合金(例えば、発泡ニッケル)からなる骨格79aを用意する。
【0171】
次に、図46Bに示すように、この発泡金属あるいは発泡合金からなる骨格79aの表面にカーボン系材料79bをコーティングする。このコーティング方法としては従来公知の方法を用いることができる。一例を挙げると、カーボン粉末や適当な結着剤などを含むエマルションをスプレーにより骨格79aの表面に噴射することによりカーボン系材料79bをコーティングする。このカーボン系材料79bのコーティング厚さは、発泡金属あるいは発泡合金からなる骨格79aの多孔率および孔径との兼ね合いで、多孔体導電材料に要求される多孔率および孔径に応じて決められる。このコーティングの際には、カーボン系材料79bに囲まれた多数の孔80同士が互いに連通するようにする。
【0172】
こうして、目的とする多孔体導電材料が製造される。この後、この多孔体導電材料のカーボン系材料79bの表面にリポソーム12を固定化する。
上記以外のことは第2の実施の形態と同様である。
【0173】
この第3の実施の形態によれば、第2の実施の形態と同様な利点に加えて次のような利点を得ることができる。すなわち、発泡金属あるいは発泡合金からなる骨格79aの表面をカーボン系材料79bにより被覆した多孔体導電材料は、孔80の径が十分に大きく、粗な三次元網目状構造を有しながら、高強度でしかも高い導電性を有し、必要十分な表面積を得ることもできる。このため、この多孔体導電材料を電極材に用い、これに酵素、補酵素および電子メディエーターを固定化することで得られる酵素/補酵素/電子メディエーター固定化電極からなる負極21は、その上での酵素代謝反応を高効率に行わせることができ、あるいは、電極の近傍で起こっている酵素反応現象を効率よく電気信号として捉えることが可能であり、しかも使用環境によらずに安定であり、高性能のバイオ燃料電池を実現することが可能である。
【0174】
〈4.第4の実施の形態〉
[細胞]
この第4の実施の形態においては、生物から採取した細胞あるいは生物から採取した細胞の培養などにより得られる細胞の細胞膜を構成する脂質2分子膜に、グルコースの透過が可能な穴を有する抗生物質およびステロールを結合させる。
【0175】
図47に、細胞の外周の脂質2分子膜からなる細胞膜81の一部分を示す。ここでは、この細胞が動物細胞である場合を考えるが、植物細胞であってもよい。この細胞は、主として、核とミトコンドリア、小胞体、ゴルジ体、リソゾームなどの細胞小器官と種々のイオン、養分、酵素などが溶けた水とを含む。図47に示すように、この細胞の細胞膜81には種々のタンパク質82、83、84などが埋め込まれている。例えば、タンパク質82はイオンなどを細胞の外部から内部に輸送するポンプタンパク質、タンパク質83は膜内タンパク質、タンパク質84は特定の分子を細胞の内外へ輸送する機能を有するチャネルタンパク質である。この細胞膜81には、上述の種々のタンパク質82、83、84に加えて抗生物質16が結合しており、グルコースの透過が可能な一つまたは複数の穴17が形成され、さらにステロール18が結合している。
【0176】
上記のように構成された細胞は、従来公知の方法により、多孔質カーボンなどからなる電極に固定化される。
【0177】
この第4の実施の形態によれば、上記の細胞がグルコースを含む緩衝液などに置かれた場合、細胞膜81の穴17を透過して内部に例えばグルコースを取り込むことができる。こうして細胞の内部に取り込まれたグルコースは、この細胞が有するクエン酸回路、解糖系、ペントースリン酸回路などの代謝系により分解され、電子が取り出される。こうして取り出された電子は最終的には電子メディエーターを介して、もしくは電子メディエーターなしで直接、この細胞が固定化された電極に受け渡されて外部に取り出される。こうして、グルコースから電気エネルギーを取り出すことができる。
【0178】
〈5.第5の実施の形態〉
[ミトコンドリア]
この第5の実施の形態においては、生物から採取した細胞あるいは生物から採取した細胞の培養などにより得られる細胞に含まれる細胞小器官であるミトコンドリアを構成する脂質2分子膜にグルコースの透過が可能な一つまたは複数の穴を形成する。ミトコンドリアは真核細胞のエネルギー生産の場であり、食物の分子の酸化反応に際して得られるエネルギーでATPを作る。
【0179】
図48にミトコンドリアを示す。図48に示すように、ミトコンドリアは、外膜85および内膜86を有する。これらの外膜85および内膜86は脂質2分子膜からなる細胞膜である。内膜86はひだ状のクリステを形成している。内膜86の内部のマトリックス腔87には多種の酵素が濃縮されている。分子の酸化の最終段階は内膜86で起こる。このミトコンドリアの外膜85および内膜86を構成する細胞膜には抗生物質16が結合しており、グルコースの透過が可能な一つまたは複数の穴17が形成され、さらにステロール18が結合している。
【0180】
上記のように構成されたミトコンドリアは、従来公知の方法により、多孔質カーボンなどからなる電極に固定化される。
【0181】
この第5の実施の形態によれば、上記のミトコンドリアがグルコースを含む緩衝液などに置かれた場合、外膜85および内膜86の穴17を透過して内部にグルコースを取り込むことができる。こうしてミトコンドリアの内部に取り込まれたグルコースは、このミトコンドリアが有する分子の酸化系、すなわちクエン酸回路、解糖系、ペントースリン酸回路などにより分解され、電子が取り出される。こうして取り出された電子は最終的には電子メディエーターを介して、もしくは電子メディエーターなしで直接、このミトコンドリアが固定化された電極に受け渡されて外部に取り出される。こうして、グルコースから電気エネルギーを取り出すことができる。
【0182】
〈6.第6の実施の形態〉
[細菌]
この第6の実施の形態においては、細菌の細胞膜を構成する脂質2分子膜にグルコースの透過が可能な一つまたは複数の穴を形成する。
【0183】
図49に細菌を示す。ここでは、この細菌が真正細菌である場合を考える。図49に示すように、この細菌は外部から順に莢膜88、細胞壁89および細胞膜90により取り囲まれており、その内部に細胞質91が入っている。この細菌の外部には鞭毛92および繊毛93が結合している。ただし、細菌によっては莢膜88、鞭毛92および繊毛93がないものもある。例えば、大腸菌にはこれらの莢膜88、鞭毛92および繊毛93がない。細胞質91には、図示は省略するが、核様体、リボソームなどが存在している。細胞膜90には電子伝達系や各種の輸送体などのタンパク質が分布している。この細菌の脂質2分子膜からなる細胞膜90には抗生物質16が結合しており、グルコースの透過が可能な一つまたは複数の穴17が形成され、さらにステロール18が結合している。
【0184】
上記のように構成された細菌は、従来公知の方法により、多孔質カーボンなどからなる電極に固定化される。
【0185】
この第6の実施の形態によれば、この細菌がグルコースを含む緩衝液などに置かれた場合、この細菌の細胞膜90の穴17を透過して内部にグルコースを取り込むことができる。こうして細菌の内部に取り込まれたグルコースは、この細菌が有するクエン酸回路、解糖系、ペントースリン酸回路などの代謝系により分解され、電子が取り出される。こうして取り出された電子は最終的には電子メディエーターを介して、もしくは電子メディエーターなしで直接、この細菌が固定化された電極に受け渡されて外部に取り出される。こうして、グルコースから電気エネルギーを取り出すことができる。
【0186】
〈7.第7の実施の形態〉
[バイオ燃料電池]
この第7の実施の形態によるバイオ燃料電池は、負極21の電極11として図50AおよびBに示すような多孔質電極を用いることを除いて、第2の実施の形態によるバイオ燃料電池と同様な構成を有する。
【0187】
図50Aはこの多孔質電極からなる電極11の全体構成を示し、図50Bはこの電極11の断面構造を模式的に示す。図50Bに示すように、この多孔質電極からなる電極11は多数の孔(ポア)11aを有する。この孔11aの内面に、第2の実施形態と同様なリポソーム12(内部の水相に封入されている酵素および補酵素や脂質2分子膜に結合した抗生物質およびこの抗生物質に縁取られる穴などの図示は省略)が固定化されている。この場合、これらの孔11a同士は互いに連通している。この多孔質電極の材料としては、好適にはカーボン系材料が用いられるが、これに限定されるものではない。この多孔質電極は、典型的にはカーボンペースト電極である。
【0188】
この多孔質電極からなる電極11の孔11aの内面へのリポソーム12の固定化は、リポソーム12を含む溶液を電極11中に浸透させることにより行うことができる。
上記以外のことは第2の実施の形態と同様である。
この第7の実施の形態によれば、第3の実施の形態と同様な利点を得ることができる。
【0189】
〈8.第8の実施の形態〉
[酵素固定化電極]
図51はこの第8の実施の形態による酵素固定化電極を示す。この酵素固定化電極においては、基質としてグルコースを用いる。
【0190】
図51に示すように、この酵素固定化電極においては、多孔質カーボンなどからなる電極11の表面(電極11の内部の孔の内面も含む)にアビジン101が固定化されている。一方、第1の実施の形態と同様なリポソーム12にビオチン102が結合している。そして、電極11の表面に固定化されたアビジン101とリポソーム12に結合したビオチン102とが不可逆的に特異的に結合している。図51においては、一つのリポソーム12に一つのビオチン102が結合している場合が示されているが、一つのリポソーム12に複数のビオチン102を結合させてもよい。
【0191】
リポソーム12の内部の水相12aには、目的とする酵素反応に関与する酵素13、14および補酵素15が封入されている。このリポソーム12の内部の水相12aには、これらの酵素13、14および補酵素15以外に、例えば電子メディエーターを封入してもよい。この電子メディエーターは、リポソーム12とともに電極11上に固定化してもよい。酵素13は基質として用いられるグルコースの酸化を促進し分解する酸化酵素、酵素14はこのグルコースの酸化に伴って還元された補酵素15を酸化体に戻すとともに電子メディエーターを介して電子を電極11に渡す補酵素酸化酵素である。
【0192】
図示は省略するが、図2に示すリポソーム12と同様に、リポソーム12を構成する脂質2分子膜に一つまたは複数の抗生物質およびステロールが結合しており、この抗生物質により縁取られる形でこの脂質2分子膜を貫通する穴が形成されている。
【0193】
[酵素固定化電極の製造方法]
この酵素固定化電極は、例えば、次のようにして製造することができる。まず、酵素13、14および補酵素15が封入され、外周面にビオチン102が結合したリポソーム12を作製する。リポソーム12にビオチン102を結合するためには、例えば、NHSエステルによって修飾されたビオチン102を用いてリン脂質、例えばホスファチジルエタノールアミンと脱水縮合させてアミド結合させる。次に、このリポソーム12を構成する脂質2分子膜に抗生物質を結合させて穴を形成するとともに、この脂質2分子膜にステロールを結合させる。一方、電極11の表面にアビジン101を固定化する。アビジン101を電極11に固定化するためには、例えば、アビジン101が結合したアガロースビーズが混合されたカーボンペースト電極を電極11として用いたり、アビジン101を電極11の表面上でポリ−L−リシン(PLL)などのポリマーに埋め込ませたりする。次に、こうして電極11の表面に固定化したアビジン101と、穴17を形成したリポソーム12に結合したビオチン102とを結合させることにより、リポソーム12を電極11上に固定化する。これによって、酵素固定化電極が製造される。酵素13、14および補酵素15を封入する前のリポソーム12を構成する脂質2分子膜に抗生物質を結合させて穴を形成するとともに、ステロールを結合させるようにしてもよい。また、リポソーム12を電極11上に固定化してからこのリポソーム12を構成する脂質2分子膜に抗生物質を結合させて穴を形成するとともに、ステロールを結合させるようにしてもよい。
【0194】
〈実施例2〉
次のようにして酵素固定化電極を作製した。ただし、ここでは、ステロールの効果を除外するために、リポソームにはステロールを結合させない。
【0195】
ジアホラーゼ(DI)(EC 1.8.1.4、天野エンザイム製)を5mg秤量し、緩衝溶液(10mMリン酸緩衝液、pH7)1mLに溶解させ、5mg/mLのDI酵素緩衝溶液を調製した。
【0196】
グルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)(NAD依存型、EC 1.1.1.47、天野エンザイム製)を25mg秤量し、緩衝溶液(10mMリン酸緩衝液、pH7)1mLに溶解させ、25mg/mLのGDH酵素緩衝溶液を調製した。
【0197】
上記の酵素を溶解させる緩衝溶液は直前まで冷蔵されていたものが好ましく、酵素緩衝溶液もできるだけ冷蔵保存しておくことが好ましい。
【0198】
NADH(シグマ社製)を緩衝溶液(10mMリン酸緩衝液、pH7)に溶解させ、50mMのNADH緩衝溶液を調製した。
【0199】
2,3−ジメトキシ−5−メチル−1,4−ベンゾキノン(Q0)を緩衝溶液(10mMリン酸緩衝液、pH7)に溶解させ、10mMのQ0緩衝溶液を調製した。
【0200】
リン脂質として卵黄レシチン(Wako製)およびビオチン修飾ホスファチジルエタノールアミン(1,2-dipalmitoyl-sn-glycero-3-phosphoethanolamine-N-(cap biotinyl)を用いた。
【0201】
次のようにしてビオチン修飾リポソームを作製した。
レシチンをエタノールに溶解し、100mg/mLレシチン溶液を調製する。また、CHCl3 、メタノールおよび水の混合溶液(CHCl3 :メタノール:水=65:35:8)にビオチン修飾ホスファチジルエタノールアミンを溶解し、10mg/mLビオチン修飾ホスファチジルエタノールアミン溶液を調製する。
【0202】
エタノール20mLに上記のレシチン溶液を1mL、上記のビオチン修飾ホスファチジルエタノールアミン溶液を50μL加え、良く混合する。こうして得られた混合溶液をロータリーエバポレーターにより40℃バス、真空下で1時間以上処理して溶媒を減圧除去する。
【0203】
次に、得られた生成物に、25mg/mLのGDH酵素緩衝溶液50μL、5mg/mLのDI酵素緩衝溶液50μL、50mMのNADH緩衝溶液50μLを混合してから加え、30〜60秒、超音波バスにつける。その際、ポリテトラフルオロエチレン製スクレーパーによりリン脂質フィルムをかきとるように混ぜる。
【0204】
次に、上記のようにして得られたリポソーム溶液を1.5mLのチューブに移し、50μLの100mMリン酸緩衝液で残りのリポソーム溶液も回収し、1mLの100mMリン酸緩衝液を用いて1500g、4minの条件での遠心分離により2回、洗浄する。
【0205】
こうして得たGDH、DIおよびNADH封入ビオチン修飾リポソームを600μLの0.1Mリン酸緩衝液に懸濁させて、終濃度1mMになるようにアムホテリシンBを添加し、ボルテックスで混合する。
【0206】
以上のようにして、GDH、DIおよびNADHが封入され、アムホテリシンBが結合したビオチン修飾リポソームが作製される。
【0207】
次のようにしてアビジン修飾電極を作製した。
均一な粒子径のグラファイトパウダーと接着剤として用いるパラフィンオイルとを混合したカーボンペースト(ビー・エー・エス株式会社製)200mgにアビジンアガロースビーズ懸濁液100μLを加え、めのう乳鉢上で軽い力で練り込む。次に、こうして得られたアビジン含有カーボンペーストをデシケーター内で1時間以上乾燥させた後、上面にポケット部(凹部)を有する電極のポケット部に練り込む。この後、この電極の上面側をコピー紙に円を描くように押し付け、表面を平らにした。
以上のようにしてアビジン修飾電極が作製される。
【0208】
次に、次のようにして、GDH、DIおよびNADHが封入され、アムホテリシンBが結合したビオチン修飾リポソームをアビジン修飾電極に固定化した。
【0209】
まず、上記のようにして作製されたビオチン修飾リポソーム300μLに、上記のようにして作製されたアビジン修飾電極を浸漬する。そして、1時間、室温でインキュベーションを行った後、0.1Mリン酸緩衝液500μLで2回洗浄する。
【0210】
図52に、GDH、DIおよびNADHが封入され、アムホテリシンBが結合したビオチン修飾リポソームをアビジン修飾電極に固定化したものを示す。図52に示すように、電極103の上面に設けたポケット部103aにカーボンペースト電極104が埋め込まれ、このカーボンペースト電極104にアビジン101が固定化されている。そして、このアビジン101とリポソーム12のビオチン102とが結合することにより、カーボンペースト電極104にリポソーム12が結合し、固定化されている。リポソーム12の内部の水相12aに封入された酵素13、14および補酵素15はそれぞれGDH、DIおよびNADHである。
【0211】
上記のようにして作製されたリポソーム固定化電極(以下、必要に応じてAviCPE−BioLipoと略称)の電気化学応答を測定した。第1の比較例として、図53に示すように、カーボンペースト電極104にアビジン101が固定化されていないことを除いて上記と同様なリポソーム固定化電極(以下、必要に応じてCPE−BioLipoと略称)を作製した。第2の比較例として、図54に示すように、リポソーム12にビオチン102が結合していないことを除いて上記と同様なリポソーム固定化電極(以下、必要に応じてAviCPE−Lipoと略称)を作製した。第3の比較例として、図55に示すように、カーボンペースト電極104にアビジン101が固定化されていないこと、および、リポソーム12にビオチン102が結合していないことを除いて上記と同様なリポソーム固定化電極(以下、必要に応じてCPE−Lipoと略称)を作製した。
【0212】
2mLのチューブに0.1Mリン酸緩衝液180μL、終濃度1mMになるように10mMのQ0緩衝溶液20μLを加え、これに対極として白金ワイヤー、参照電極としてAg|AgCl、作用電極として上記の四種類のリポソーム固定化電極(AviCPE−BioLipo、CPE−BioLipo、AviCPE−Lipo、CPE−Lipo)を浸漬させ、電位をAg|AgClに対して+0.3Vに設定し、クロノアンペロメトリーを行った。測定開始後、終濃度100mMになるように20μLの1Mグルコース溶液を加えた。クロノアンペロメトリーの結果を図56に示す。図56の各電流(I)−時間曲線は0.03μAのオフセットが加算されて示されているが、ベース電流値は同程度である。図56から、カーボンペースト電極104にアビジン101が固定化され、かつリポソーム12にビオチン102が結合しているリポソーム固定化電極(AviCPE−BioLipo)を用いた場合だけ、グルコースの添加時に0.015μA→0.023μAと他のリポソーム固定化電極(CPE−BioLipo、AviCPE−Lipo、CPE−Lipo)に比べて比較的高い電流値応答が見られることが分かる。
【0213】
以上のように、この第8の実施の形態によれば、脂質2分子膜に抗生物質16が結合して穴17が形成されるとともに、ステロール18が結合したリポソーム12の内部に、グルコースを分解するための酵素反応に必要な酵素13、14および補酵素15を封入している。そして、電極11にアビジン101を固定化するとともに、リポソーム12にビオチン102を結合し、電極11に固定化したアビジン101とリポソーム12に結合したビオチン102とを結合させることにより、電極11にリポソーム12を固定化している。このため、第1の実施の形態と同様な利点に加えて、電極11にリポソーム12を容易かつ確実にしかも強固に固定化することができるという利点を得ることができる。このリポソーム固定化電極は、例えば、バイオ燃料電池の負極として用いて好適なものである。
【0214】
〈9.第9の実施の形態〉
[酵素固定化電極]
図57はこの第9の実施の形態による酵素固定化電極を示す。この酵素固定化電極においては、基質としてグルコースを用いる。
【0215】
図57に示すように、この酵素固定化電極においては、アビジン101が4個のビオチン結合ポケットを有することを利用して、電極11の表面に多層のリポソーム12が固定化されている。すなわち、第8の実施の形態と同様に、電極11の表面に固定化されたアビジン101とリポソーム12に結合したビオチン102とが不可逆的に特異的に結合することにより、電極11の表面にリポソーム12が固定化されている。これに加えて、この場合、この電極11の表面に固定化されたリポソーム12には複数(図57に示す例では二つ)のビオチン102が結合している。この電極11の表面に固定化されたリポソーム12の、電極11の表面への固定化に用いられていないビオチン102は、電極11の表面に固定化されていないアビジン101と結合している。そして、このアビジン101と他のリポソーム12に結合した一つまたは二つ以上のビオチン102とが結合することにより、リポソーム12同士が互いに結合している。こうして、電極11の表面に多層のリポソーム12が固定化されている。その他のことは第8の実施の形態と同様である。
【0216】
[酵素固定化電極の製造方法]
この酵素固定化電極を製造するためには、第8の実施の形態による酵素固定化電極と同様にしてリポソーム12を電極11上に固定化した後、例えば、アビジン101またはアビジンアガロースビーズを加えることで、リポソーム12を積層させる。この場合、加えるアビジンの量やリポソーム12を構成する脂質2分子膜中のビオチン修飾脂質の比を調整することにより、積層するリポソーム12の層の厚さやリポソーム12の密度などを制御することができる。
この第9の実施の形態によれば、第8の実施の形態と同様な利点を得ることができる。
【0217】
以上、この発明の実施の形態および実施例について具体的に説明したが、この発明は、上述の実施の形態および実施例に限定されるものではなく、この発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。
【0218】
例えば、上述の実施の形態および実施例において挙げた数値、構造、構成、形状、材料などはあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれらと異なる数値、構造、構成、形状、材料などを用いてもよい。
【0219】
なお、アビジンとビオチンとの特異的な結合などを用いたこの発明によるリポソームの電極への固定化方法は、リポソームを構成する脂質2分子膜がグルコースの透過が可能な穴を有しない場合にも有効な方法である。例えば、この電極を燃料電池の負極に用いる場合、燃料はグルコースに限定されず、アルコールを始めとした各種の燃料を用いることができる。
【符号の説明】
【0220】
11…電極、12…リポソーム、13、14…酵素、15…補酵素、16…抗生物質、17…穴、18…ステロール、21…負極、22…正極、23…電解質層、41、42…Ti集電体、43、44…固定板、47…負荷、81、90…細胞膜、85…外膜、86…内膜、101…アビジン、102…ビオチン
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と負極とがプロトン伝導体を介して対向した構造を有し、酵素を用いて燃料から電子を取り出すように構成され、
少なくとも一種の上記酵素がリポソームに封入されており、
上記リポソームを構成する脂質2分子膜に、グルコースの透過が可能な穴を有する抗生物質およびステロールが結合している燃料電池。
【請求項2】
上記酵素および補酵素を用いて上記燃料から電子を取り出すように構成され、少なくとも一種の上記酵素および少なくとも一種の補酵素が上記リポソームに封入されている請求項1記載の燃料電池。
【請求項3】
上記リポソームを構成する脂質2分子膜に対する上記ステロールの重量比が1/4以上1/3以下である請求項2記載の燃料電池。
【請求項4】
上記抗生物質はアムホテリシンBまたはイオノホアである請求項3記載の燃料電池。
【請求項5】
上記ステロールはコレステロール、エルゴステロール、コプロスタノール、シトステロールおよびスチグマステロールからなる群より選ばれた少なくとも一つである請求項4記載の燃料電池。
【請求項6】
上記リポソームが上記負極に固定化されている請求項5記載の燃料電池。
【請求項7】
上記負極に固定化された第1の物質と上記リポソームに結合した第2の物質とが互いに結合している請求項6記載の燃料電池。
【請求項8】
上記第1の物質と上記第2の物質との組み合わせが、アビジンとビオチン、抗原と抗体、プロテインAと免疫グロブリンIg G、プロテインGと免疫グロブリンIg G、糖分子とレクチン、DNAと相補鎖DNA、グルタチオンとグルタチオンS−トランスフェラーゼ、ヘパリンとヘパリン結合性分子、ホルモンとホルモン受容体またはカルボン酸とイミドである請求項7記載の燃料電池。
【請求項9】
少なくとも二つの上記リポソーム間が互いに結合している請求項7記載の燃料電池。
【請求項10】
正極と負極とがプロトン伝導体を介して対向した構造を有し、酵素を用いて燃料から電子を取り出す燃料電池を製造する場合に、少なくとも一種の上記酵素をリポソームに封入した後、上記リポソームを構成する脂質2分子膜に、グルコースの透過が可能な穴を有する抗生物質およびステロールを結合させる工程を有する燃料電池の製造方法。
【請求項11】
上記燃料電池は上記酵素および補酵素を用いて上記燃料から電子を取り出し、少なくとも一種の上記酵素および少なくとも一種の補酵素を上記リポソームに封入する請求項10記載の燃料電池の製造方法。
【請求項12】
一つまたは複数の燃料電池を用い、
少なくとも一つの上記燃料電池が、
正極と負極とがプロトン伝導体を介して対向した構造を有し、酵素を用いて燃料から電子を取り出すように構成され、
少なくとも一種の上記酵素がリポソームに封入されており、
上記リポソームを構成する脂質2分子膜に、グルコースの透過が可能な穴を有する抗生物質およびステロールが結合している燃料電池である電子機器。
【請求項13】
上記酵素および補酵素を用いて上記燃料から電子を取り出すように構成され、少なくとも一種の上記酵素および少なくとも一種の補酵素が上記リポソームに封入されている請求項12記載の電子機器。
【請求項14】
少なくとも一種の酵素が封入されたリポソームが固定化されており、
上記リポソームを構成する脂質2分子膜に、グルコースの透過が可能な穴を有する抗生物質およびステロールが結合している酵素固定化電極。
【請求項15】
少なくとも一種の上記酵素および少なくとも一種の補酵素が上記リポソームに封入されている請求項14記載の酵素固定化電極。
【請求項16】
酵素を用い、
少なくとも一種の上記酵素がリポソームに封入されており、
上記リポソームを構成する脂質2分子膜に、グルコースの透過が可能な穴を有する抗生物質およびステロールが結合しているバイオセンサー。
【請求項17】
少なくとも一種の酵素が封入されたリポソームを用い、上記リポソームを構成する脂質2分子膜に、グルコースの透過が可能な穴を有する抗生物質およびステロールが結合しているエネルギー変換素子。
【請求項18】
細胞膜を構成する脂質2分子膜に、グルコースの透過が可能な穴を有する抗生物質およびステロールが結合している細胞。
【請求項19】
細胞膜を構成する脂質2分子膜に、グルコースの透過が可能な穴を有する抗生物質およびステロールが結合している細胞小器官。
【請求項20】
細胞膜を構成する脂質2分子膜に、グルコースの透過が可能な穴を有する抗生物質およびステロールが結合している細菌。
【請求項1】
正極と負極とがプロトン伝導体を介して対向した構造を有し、酵素を用いて燃料から電子を取り出すように構成され、
少なくとも一種の上記酵素がリポソームに封入されており、
上記リポソームを構成する脂質2分子膜に、グルコースの透過が可能な穴を有する抗生物質およびステロールが結合している燃料電池。
【請求項2】
上記酵素および補酵素を用いて上記燃料から電子を取り出すように構成され、少なくとも一種の上記酵素および少なくとも一種の補酵素が上記リポソームに封入されている請求項1記載の燃料電池。
【請求項3】
上記リポソームを構成する脂質2分子膜に対する上記ステロールの重量比が1/4以上1/3以下である請求項2記載の燃料電池。
【請求項4】
上記抗生物質はアムホテリシンBまたはイオノホアである請求項3記載の燃料電池。
【請求項5】
上記ステロールはコレステロール、エルゴステロール、コプロスタノール、シトステロールおよびスチグマステロールからなる群より選ばれた少なくとも一つである請求項4記載の燃料電池。
【請求項6】
上記リポソームが上記負極に固定化されている請求項5記載の燃料電池。
【請求項7】
上記負極に固定化された第1の物質と上記リポソームに結合した第2の物質とが互いに結合している請求項6記載の燃料電池。
【請求項8】
上記第1の物質と上記第2の物質との組み合わせが、アビジンとビオチン、抗原と抗体、プロテインAと免疫グロブリンIg G、プロテインGと免疫グロブリンIg G、糖分子とレクチン、DNAと相補鎖DNA、グルタチオンとグルタチオンS−トランスフェラーゼ、ヘパリンとヘパリン結合性分子、ホルモンとホルモン受容体またはカルボン酸とイミドである請求項7記載の燃料電池。
【請求項9】
少なくとも二つの上記リポソーム間が互いに結合している請求項7記載の燃料電池。
【請求項10】
正極と負極とがプロトン伝導体を介して対向した構造を有し、酵素を用いて燃料から電子を取り出す燃料電池を製造する場合に、少なくとも一種の上記酵素をリポソームに封入した後、上記リポソームを構成する脂質2分子膜に、グルコースの透過が可能な穴を有する抗生物質およびステロールを結合させる工程を有する燃料電池の製造方法。
【請求項11】
上記燃料電池は上記酵素および補酵素を用いて上記燃料から電子を取り出し、少なくとも一種の上記酵素および少なくとも一種の補酵素を上記リポソームに封入する請求項10記載の燃料電池の製造方法。
【請求項12】
一つまたは複数の燃料電池を用い、
少なくとも一つの上記燃料電池が、
正極と負極とがプロトン伝導体を介して対向した構造を有し、酵素を用いて燃料から電子を取り出すように構成され、
少なくとも一種の上記酵素がリポソームに封入されており、
上記リポソームを構成する脂質2分子膜に、グルコースの透過が可能な穴を有する抗生物質およびステロールが結合している燃料電池である電子機器。
【請求項13】
上記酵素および補酵素を用いて上記燃料から電子を取り出すように構成され、少なくとも一種の上記酵素および少なくとも一種の補酵素が上記リポソームに封入されている請求項12記載の電子機器。
【請求項14】
少なくとも一種の酵素が封入されたリポソームが固定化されており、
上記リポソームを構成する脂質2分子膜に、グルコースの透過が可能な穴を有する抗生物質およびステロールが結合している酵素固定化電極。
【請求項15】
少なくとも一種の上記酵素および少なくとも一種の補酵素が上記リポソームに封入されている請求項14記載の酵素固定化電極。
【請求項16】
酵素を用い、
少なくとも一種の上記酵素がリポソームに封入されており、
上記リポソームを構成する脂質2分子膜に、グルコースの透過が可能な穴を有する抗生物質およびステロールが結合しているバイオセンサー。
【請求項17】
少なくとも一種の酵素が封入されたリポソームを用い、上記リポソームを構成する脂質2分子膜に、グルコースの透過が可能な穴を有する抗生物質およびステロールが結合しているエネルギー変換素子。
【請求項18】
細胞膜を構成する脂質2分子膜に、グルコースの透過が可能な穴を有する抗生物質およびステロールが結合している細胞。
【請求項19】
細胞膜を構成する脂質2分子膜に、グルコースの透過が可能な穴を有する抗生物質およびステロールが結合している細胞小器官。
【請求項20】
細胞膜を構成する脂質2分子膜に、グルコースの透過が可能な穴を有する抗生物質およびステロールが結合している細菌。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40】
【図41】
【図42】
【図43】
【図44】
【図45】
【図46】
【図47】
【図48】
【図49】
【図50】
【図51】
【図52】
【図53】
【図54】
【図55】
【図56】
【図57】
【図58】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40】
【図41】
【図42】
【図43】
【図44】
【図45】
【図46】
【図47】
【図48】
【図49】
【図50】
【図51】
【図52】
【図53】
【図54】
【図55】
【図56】
【図57】
【図58】
【公開番号】特開2012−146460(P2012−146460A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−3256(P2011−3256)
【出願日】平成23年1月11日(2011.1.11)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年1月11日(2011.1.11)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
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