燃料電池および燃料電池の製造方法
【課題】アノード拡散層でのフラッディングによる発電出力低下とアノードガスの流路内での水の滞留による発電出力低下とを同時に防止することである。
【解決手段】アノード拡散層20Bは3つの部分21,22,23を含んでいる。第1部分21は表面20S3から深さ20Zまでの間に渡っている。第2部分22は深さ20Zの位置から表面20S1までの間に渡っている。第3部分23は表面20S3から第2部分22に至り、アノードセパレータ30のガス流路用の凹部31に連続している。第1部分21は第2部分22、第3部分23およびセパレータ30よりも親水性が高い。第1部分21はセパレータ30との接触箇所に対向して設けられ、当該接触箇所から凹部31に対向する箇所へ延在している。凹部31において底面30S1よりも側面30S3の方が親水性が高く、側面30S3よりも第1部分21の方が親水性が高い。
【解決手段】アノード拡散層20Bは3つの部分21,22,23を含んでいる。第1部分21は表面20S3から深さ20Zまでの間に渡っている。第2部分22は深さ20Zの位置から表面20S1までの間に渡っている。第3部分23は表面20S3から第2部分22に至り、アノードセパレータ30のガス流路用の凹部31に連続している。第1部分21は第2部分22、第3部分23およびセパレータ30よりも親水性が高い。第1部分21はセパレータ30との接触箇所に対向して設けられ、当該接触箇所から凹部31に対向する箇所へ延在している。凹部31において底面30S1よりも側面30S3の方が親水性が高く、側面30S3よりも第1部分21の方が親水性が高い。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池およびそれの製造方法に係り、具体的には燃料ガスを含んだアノードガスが供給される側の構成およびそれの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スタック型の燃料電池は複数のセルが積層されて構成されている。従来のセル102を図14の模式図を参照しつつ説明する。セル102は、電解質膜111の一方側にアノード触媒層112とアノード拡散層120とアノードセパレータ130とがこの順序で積層されている。図14では省略しているが、電解質膜の他方側にはカソード触媒層とカソード拡散層とカソードセパレータとがこの順序で積層されている。カソードセパレータのガス流路からカソード拡散層越しにカソード触媒層へ酸素ガスが供給され、アノードセパレータ130のガス流路141からアノード拡散層120越しにアノード触媒層112へ水素ガスが供給されることによって、セル102が発電する。
【0003】
発電に伴ってカソード触媒層で水が生成される。この生成水190は、カソード拡散層内で凝縮してカソードガス流路に排水されるとともに、電解質膜111およびアノード触媒層112を通ってアノード拡散層120へ移動し、アノードガス流路141へ排出される。
【0004】
なお、特許文献1には、拡散層を親水性の導電性多孔質基材と撥水性の樹脂を含んだスラリ層との積層構造とし、親水性の導電性多孔質基材をセパレータ側に向けて構成した燃料電池が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、拡散層を撥水性の異なる2つの分割拡散層を重ねて構成し、撥水性の高い分割拡散層を触媒層に密接させた構造の燃料電池が開示されている。
【0006】
また、特許文献3には、拡散層を多孔質カーボン平板を2枚以上重ねて構成し、触媒層に接するカーボン平板に撥水処理を施し、それ以外のカーボン平板には親水処理を施した構造の燃料電池が開示されている。
【0007】
また、特許文献4には、アノード拡散層のカーボン基材を親水処理して水との接触角を90°以下にした構造の燃料電池が開示されている。
【0008】
また、特許文献5には、セパレータに設けられた溝形状のガス流路において溝の側面に親水処理を施し、他の部分を非親水とした構造の燃料電池が開示されている。
【0009】
また、特許文献6には、スタックされたうちの端部のセルには冷却水を流さないことにより当該端部セルの温度を高くする手法が開示されている。
【0010】
【特許文献1】特開2002−313359号公報
【特許文献2】特開2003−331850号公報
【特許文献3】特開平11−135132号公報
【特許文献4】特開2004−152588号公報
【特許文献5】特開2005−116179号公報
【特許文献6】国際公開第2002/082573号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
アノード拡散層120へ移動した生成水190は、アノード拡散層120の気孔129に滞留してフラッディングの原因となる。このフラッディングがアノード拡散層120とアノード触媒層112との界面付近で生じると、発電出力が低下する可能性がある。
【0012】
また、アノードガス流路141へ排水された生成水190は当該ガス流路141内に滞留しやすい。これは、一般的にアノード側はカソード側に比べてガス流速が遅いからである。アノードガス流路141内に滞留した水190は、各セル102間にガス配分のばらつきを引き起こす。特にスタックされたうちの端部のセル102では、温度が低く水190が滞留しやすいので、水素ガスが不足しやすい。その結果、発電出力が低下する可能性がある。
【0013】
このようにアノード拡散層120へ移動した生成水190は、発電出力の低下を招くという問題がある。
【0014】
この問題の一つの解決策として、アノード拡散層に撥水処理を施すことが考えられる。しかし、これによれば、アノード拡散層のフラッディングを防止することはできても、上記生成水がアノードガス流路へ排水されやすくなるのでガス流路内での生成水の滞留を防止することは困難であると思われる。
【0015】
また、上記問題の他の一つの解決策として、特許文献6の上記手法が考えられる。しかし、これによれば、高負荷時に電解質の冷却が追いつかず、そのため高温で電解質が劣化する場合があると思われる。
【0016】
本発明の目的は、アノード拡散層でのフラッディングによる発電出力低下と、アノードガスの流路内での上記生成水の滞留による発電出力低下と、を同時に防止可能な燃料電池および燃料電池の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明に係る燃料電池は、電解質膜と前記電解質膜の一方側に配置されたアノード拡散層とを含んで構成された積層体と、前記アノード拡散層上に配置されたアノードセパレータと、を備え、燃料ガスを含んだアノードガスが前記アノードセパレータを利用して設けられたガス流路を通り前記アノード拡散層越しに供給される燃料電池であって、前記アノード拡散層は、前記アノードセパレータに対向する第1表面から所定深さまでの間に渡って設けられた第1部分と、前記所定深さの位置から前記第1表面とは表裏面の関係にある第2表面までの間に渡り前記第1部分に引き続いて設けられた第2部分と、を含んで構成され、前記第1部分は、前記第2部分よりも親水性が高くかつ前記アノードセパレータよりも親水性が高いことを特徴とする。
【0018】
また、前記アノード拡散層は、前記第1表面から前記第2部分に至る少なくとも1つの第3部分をさらに含んで構成され、前記少なくとも1つの第3部分よりも前記第1部分の方が親水性が高いことが好ましい。
【0019】
また、前記アノード拡散層において前記第1部分の占める割合が前記少なくとも1つの第3部分の占める割合よりも大きいことが好ましい。
【0020】
また、前記少なくとも1つの第3部分は前記ガス流路に連続していることが好ましい。
【0021】
また、前記少なくとも1つの第3部分は、複数の第3部分であり、前記アノードセパレータは、前記ガス流路を構成する凹部と前記アノード拡散層に接触する凸部とを含んだ凹凸表面を前記アノード拡散層の側に有し、前記凹部に対向して前記複数の第3部分の2個以上が設けられていることが好ましい。
【0022】
また、前記凹部の開口寸法よりも短い間隔で前記複数の第3部分が設けられていることが好ましい。
【0023】
また、前記第1部分は前記凸部と前記アノード拡散層との接触箇所に対向して設けられていることが好ましい。
【0024】
また、前記第1部分は前記接触箇所から前記凹部に対向する箇所へ延在しており、前記凹凸表面は前記接触箇所に近いほど高い親水性を有し、前記凹凸表面よりも前記第1部分の方が親水性が高いことが好ましい。
【0025】
また、本発明に係る燃料電池の製造方法は、電解質膜と前記電解質膜の一方側に配置されたアノード拡散層とを含んで構成された積層体と、前記アノード拡散層上に配置されたアノードセパレータと、を備え、燃料ガスを含んだアノードガスが前記アノードセパレータを利用して設けられたガス流路を通り前記アノード拡散層越しに供給される燃料電池の製造方法であって、前記アノード拡散層を形成する工程は、前記アノードセパレータよりも親水性が高い基材に対して互いに表裏面の関係にある第1表面と第2表面との間を貫通する穴を形成する穴形成工程と、前記穴内に前記基材に比べて撥水性のより高い材料を充填する充填工程と、前記基材の前記第1表面上に前記基材に比べて撥水性のより高い層を形成する層形成工程と、を備え、前記撥水性のより高い層を前記電解質膜の側に向けて前記アノード拡散層を配置し、前記アノード拡散層上に前記アノードセパレータを配置することを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
上記構成によれば、アノード拡散層のアノードセパレータ側の部分は電解質膜側の部分よりも親水性が高くかつアノードセパレータよりも親水性が高いので、発電時に生成された水がアノード側へ移動した場合であっても、当該生成水は上記親水性の高い部分内に保水される。このため、アノード拡散層の電解質膜側の部分における上記生成水によるフラッディングと、アノードセパレータを利用して設けられたアノードガスの流路内での上記生成水の滞留と、を同時に防止することができる。その結果、両要因による発電出力の低下を同時に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下に図面を用いて本発明に係る実施の形態について詳細に説明する。
【0028】
図1に、実施の形態1の燃料電池1の概略を説明する斜視図を示す。図1に示すように、燃料電池1は、複数のセル2が積層されて構成されており、いわゆるスタック型の燃料電池である。なお、セルは単セルとも呼ばれる。
【0029】
ここで、説明の便宜のため、セル2の積層方向をZ方向と呼び、当該Z方向に直交しかつ互いに直交する2方向をX方向およびY方向と呼ぶことにする。なお、ここでは、Z方向から見た場合に、燃料電池1およびセル2の外形が、X方向に平行を成し対向する2辺とY方向に平行を成し対向する2辺とで規定される四角形の場合を例示するが、この形状に限られるものではない。
【0030】
図2および図3にセル2を説明する断面図および分解断面図を示す。セル2は、膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly。以下「MEA」と呼ぶ)3と、MEA3の両側に配置されたセパレータ30,60とを含んで構成されている。
【0031】
MEA3は、燃料ガスを含んだアノードガスおよび酸化性ガスを含んだカソードガスを利用して発電する。ここでは、燃料ガスとして水素ガスを例示し、酸化性ガスとして酸素ガスを例示するが、これらに限られない。また、アノードガスは、燃料ガスを含んでいればよく、燃料ガスが100%である必要はなく、カソードガスについても同様である。また、酸素ガスを含んだカソードガスとして例えば空気を利用できる。
【0032】
MEA3は、電解質膜11と、触媒層12,15と、拡散層20,50とを含んで構成されている。ここでは、MEA3は、拡散層20と、触媒層12と、電解質膜11と、触媒層15と、拡散層50とがこの順序でZ方向に並んだ積層体である。ここで、アノードガスが供給される側の触媒層12をアノード触媒層(または燃料極触媒層)12とも呼び、カソードガスが供給される側の触媒層15をカソード触媒層(または酸化極触媒層)15とも呼ぶことにする。なお、触媒層は、発電によって発生した電気エネルギーを集電する機能もあり、このため触媒電極等とも呼ばれる。
【0033】
拡散層20はアノード触媒層12に対向しかつ接触して配置されている。セパレータ30は拡散層20を介してアノード触媒層12に対向し拡散層20に接触して配置されている。すなわち、拡散層20およびセパレータ30は、この順序で、アノード触媒層12上にZ方向に積層されている。同様に、拡散層50およびセパレータ60は、この順序で、カソード触媒層15上にZ方向に積層されている。
【0034】
ここで、アノード触媒層12の側、すなわちアノードガスを供給する側の拡散層20およびセパレータ30をアノード拡散層(または燃料極拡散層)20およびアノードセパレータ(または燃料極セパレータ)30とも呼ぶことにする。同様に、拡散層50およびセパレータ60をカソード拡散層(または酸化極拡散層)50およびカソードセパレータ(または酸化極セパレータ)60とも呼ぶことにする。
【0035】
アノード拡散層20は、アノードセパレータ30の側から供給されたアノードガスを拡散させてアノード触媒層12および電解質膜11へ供給する。カソード拡散層50は、カソードセパレータ60の側から供給されたカソードガスを拡散させてカソード触媒層15および電解質膜11へ供給する。このため、拡散層20,50は例えば多孔質材料で構成される。なお、拡散層20,50は触媒層12,15よりも厚い。なお、拡散層は、ガス拡散層等とも呼ばれ、また、発生した電気エネルギーを集電する機能を有するので拡散電極等とも呼ばれる。
【0036】
アノード拡散層20は、厚さ方向、すなわちZ方向において2つの部分21,22に大別される。第1部分21は、アノード拡散層20においてアノードセパレータ30側の表面20S3からZ方向に所定深さ20Zまでの間に渡って設けられている。第2部分22は、アノード拡散層20において上記表面20S3とは表裏面の関係にある表面20S1、すなわちアノード拡散層20においてアノード触媒層12および電解質膜11の側の表面20S1から、Z方向に上記深さ20Zの位置までの間に渡って設けられている。第2部分22は、上記深さ20Zの位置で第1部分21に接し、第1部分21に引き続いている。
【0037】
第1部分21は、第2部分22よりも相対的に親水性が高く、かつ、アノードセパレータ30よりも相対的に親水性が高い。例えば、第1部分21についての水の接触角を90°以下とし、第2部分22およびアノードセパレータ30についての水の接触角を90°以上としている。あるいは、例えば、第1部分21、第2部分22およびアノードセパレータ30のいずれについても水の接触角を90°以下(または90°以上)とし、そのような設定範囲内において第1部分21の親水性を相対的に第2部分22およびアノードセパレータ30よりも高くしてもよい。なお、第2部分22とアノードセパレータ30との親水性はいずれが高くてもよいし、同じであってもよい。
【0038】
ここで、一般的に、親水性が高いほど撥水性が低く、逆に撥水性が高いほど親水性が低いという関係がある。なお、一般的に、水の接触角が90°以下の材料は親水性材料と呼ばれ、逆に水の接触角が90°以上の材料は撥水性材料と呼ばれる。親水性のレベル、換言すれば撥水性のレベルは、例えば材質や材料中の気孔径の選択によって、設定可能である。
【0039】
アノード拡散層20のこの構成は、例えば、第1部分21に相当する基材上に第2部分22に相当し上記基材よりも撥水性が高い材料を塗布等することによって、形成可能である。また、例えば、第1部分21に相当する基材の片面側を撥水処理することによって、あるいは逆に第2部分22に相当する基材の片面側を親水処理することによって、アノード拡散層20を形成可能である。
【0040】
アノードセパレータ30は、アノード拡散層20の側に凹凸表面30Sを有している。この凹凸表面30Sは、凹部(または窪み部)31と、凸部(または突出部)32とを含んで構成されている。ここでは、凹部31および凸部32が断面視上四角形の場合を例示するが、これに限られるものではなく、例えば断面視上半円形でもよい。凹凸表面30Sは、凹部31の底面30S1と、凸部32の頂上面30S2と、これらの面30S1,30S2間を繋ぐ側面30S3とを含んで構成され、底面30S1と側面30S3とによって凹部31が構成され、頂上面30S2と側面30S3とによって凸部32が構成されている。なお、凸部32をリブ32とも呼ぶことにする。
【0041】
凹部31は、Z方向から見た場合、例えば直線状、曲線状またはこれらを組み合わせた形状等に形成されている(例えば後述の図9の蛇行した凹部31を参照)。また、凸部32は、Z方向から見た場合、例えば直線状、曲線状、島状等に形成されている。
【0042】
アノードセパレータ30は、凸部32を、換言すれば頂上面30S2をアノード拡散層20の第1部分に接触させて配置されている。この接触箇所を介して、アノード拡散層20へ集電された電気エネルギーがアノードセパレータ30へ集電される。また、上記配置形態によればアノードセパレータ30とアノード拡散層20との間に凹部31によって隙間または空間が形成され、この隙間によってガス流路41が構成される。このとき、ガス流路41はアノード拡散層20の表面20S3に面しており、これによりアノードガスがガス流路41を通りアノード拡散層20越しに電解質膜11の側へ供給される。
【0043】
凹凸表面30Sは、凸部32とアノード拡散層20との接触箇所に近いほど親水性が高い。ここでは、底面30S1よりも側面30S3の方の親水性を高くしている。なお、頂上面30S2の親水性は側面30S3と同等以上である。凹凸表面30Sはこのような親水性分布(換言すれば撥水性分布)を有しているが、上記のようにアノードセパレータ30よりもアノード拡散層20の第1部分21の方が親水性が高いので、凹凸表面30Sは全体において第1部分21よりも親水性が低い。なお、凹凸表面30Sの上記親水性分布は既存の各種の処理・方法によって形成可能である。
【0044】
アノードセパレータ30は、冷却水流路42を有している。冷却水流路42は、凹凸表面30Sとは反対側の表面、換言すれば凹凸表面30Sとは表裏面の関係にある表面に設けられた凹部を利用して構成される。
【0045】
カソード拡散層50として各種の拡散層が適用可能であり、当該拡散層50を、例えば、全体的に均一な親水性(換言すれば撥水性)を有する部材で構成してもよいし、アノード拡散層20と同様に電解質膜11側の撥水性をより高くした部材で構成してもよい。
【0046】
カソードセパレータ60は、カソードガスを流すためのガス流路71をアノードセパレータ30と同様に構成し、これによりカソードガスがガス流路71を通りカソード拡散層50越しに電解質膜11の側へ供給される。また、カソードセパレータ60もカソード拡散層50へ集電された電気エネルギーを集電する。さらに、カソードセパレータ60は、冷却水流路72をアノードセパレータ30と同様に有している。
【0047】
図4にセル2のアノード側の構造を模式化して示す。上記構成によれば、アノード拡散層20の第1部分21は第2部分22よりも親水性が高く、逆に言えば第2部分22の方が第1部分21よりも撥水性が高い。このため、発電時にカソード触媒層15で生成され電解質膜11を通ってアノード触媒層12の側へ移動した水90は、第2部分22よりも第1部分21内に保水されやすい。その結果、アノード拡散層20とアノード触媒層12との界面付近には上記生成水90が滞留しにくいので、第2部分22の気孔29の目詰まり、すなわちフラッディングを防止することができる。このとき、第2部分22はアノード拡散層20においてアノード触媒層12の側、換言すれば電解質膜11の側に全面的に設けられているので、全面的にフラッディングを防止してアノード触媒層12および電解質膜11の全面に対して均一にアノードガスを供給することができる。
【0048】
なお、水素ガスは酸素ガスに比べて拡散しやすいので、アノード拡散層20とアノード触媒層12との界面付近に水90が滞留していなければ、第1部分21に水90が滞留していても、水素ガスはアノード触媒層12へ到達可能である。
【0049】
さらに、アノード拡散層20の第1部分21はアノードセパレータ30よりも親水性が高い。このため、アノード拡散層20内で凝縮した水90はアノードセパレータ30側へ排水されにくく第1部分21内に保水され、また、ガス流路41内で凝縮した水90は第1部分21へ吸収される。この結果、ガス流路41内に水が滞留しにくく、各セル2間でガス分配のばらつきを防止することができる。
【0050】
ここで、第1部分21はアノードセパレータ30の側に全面的に設けられているので、第1部分21は凸部32との接触箇所から凹部31の側へ延在している。このため、凹凸表面30Sの側面30S3は上記接触箇所を介して第1部分21に繋がっている。したがって、側面30S3上で凝縮した水90は、親水性のより高い第1部分21の側へ移動し第1部分21に吸収される。また、凹凸表面30Sの底面30S1上で水90が凝縮しても、当該水90は底面30S1よりも親水性が高い側面30S3へ誘導され最終的に第1部分21へ吸収される。このように、凹凸表面30Sと第1部分21との親水性のレベルの相違によって、上記水滞留防止が促進される。
【0051】
また、第1部分21はアノードセパレータ30の側に全面的に設けられているので、第1部分21は凸部32との接触箇所に対向して設けられている。このため、当該接触箇所対向部分内に保水された水90は直接にはガス流路41へ排水されない。このことも上記水滞留防止に貢献している。
【0052】
このように燃料電池1によれば、発電時に生成された水90がアノード側へ移動した場合であっても、アノード拡散層20の第2部分22でのフラッディングと、ガス流路41内での滞留と、を同時に防止することができる。その結果、両要因による発電出力の低下を同時に防止することができる。なお、第1部分21と第2部分22との境界である上記深さ20Zの位置は、第1部分21の保水力、アノード触媒層12の側でフラッディングを回避させる厚さ等の観点に基づいて設定するのが好適である。
【0053】
図5および図6に実施の形態2のセル2Bを説明する断面図および分解断面図を示す。セル2Bは上記セル2に代えて燃料電池1に適用することができる。セル2Bは、上記セル2において、アノード拡散層20をアノード拡散層20Bに代えた構成を有している。
【0054】
アノード拡散層20Bは、上記アノード拡散層20において第1部分21を部分的に第3部分23に代えた構成を有している。すなわち、第3部分23は、アノード拡散層20Bのアノードセパレータ30側の表面20S3からZ方向に上記深さ20Zまでの間に渡って設けられている。このため、アノード拡散層20Bでは、上記深さ20Zの位置から表面20S3側に第1部分21と第3部分23とが混在している。ここでは、第3部分23は円柱状の場合を例示するが(後述の図9参照)、この形状に限られず、例えばZ方向から見た場合に線状や曲線状であってもよい。また、第3部分23の形状によっては第1部分21が複数個に分かれてもよい。
【0055】
第3部分23は、第1部分21よりも相対的に親水性が低い(撥水性が高い)。なお、第3部分23と第2部分22との親水性(または撥水性)はいずれが高くてもよいし、同じであってもよい。このため、アノード拡散層20B内の水は第2部分22および第3部分23よりも第1部分21において保水されやすい。したがって、第3部分23によって、保水した第1部分21に比べてアノードガスが通りやすい経路が、表面20S3と第2部分22との間に形成される。その結果、アノード拡散層20B越しのアノードガスの供給がより確実になる。
【0056】
アノード拡散層20Bには複数の第3部分23が設けられているが、アノード拡散層20Bの保水性の観点から、これらの第3部分23がアノード拡散層20Bにおいて占める割合よりも第1部分21が占める割合が高く設定されている。換言すれば、第3部分23の体積の合計よりも第1部分21の体積(の合計)が大きく設定されている。
【0057】
また、第3部分23はアノード拡散層20B内に2次元的に散在しており(図9参照)、これによりアノードガスが偏りなく、すなわち分散されてアノード触媒層12および電解質膜11へ全面的に供給される。
【0058】
さらに、第3部分23は、アノードセパレータ30の凹部31に対向して設けられており、これによりガス流路41に連続して設けられている。このため、第3部分23が凸部32に対向する場合よりも、アノードガスをガス流路41から第3部分23へスムーズに流入させることができる。
【0059】
ここで、図7の断面図に示すように、1つのガス流路41に対して、換言すれば1つの凹部31に対して第3部分23を複数設けてもよい。なお、図7には2個の第3部分23を設ける場合を例示しているが、この個数に限られるものではない。この構成によれば、複数の第3部分23と単一の第3部分23とで体積が同じ場合であっても、アノードガスをより分散させてアノード触媒層12および電解質膜11へ導くことができるので、ガス供給をいっそう均一にすることができる。
【0060】
また、図8の断面図および図9の平面図に示すように、Y方向において隣接する第3部分23の間隔23Yを凹部31のY方向における開口寸法31Yよりも短くする寸法規定を適用してもよい。Y方向についての寸法規定に代えてまたは加えて、X方向において隣接する第3部分23の間隔23Xを凹部31のX方向における開口寸法31Xよりも短くする寸法規定を適用してもよい。なお、図9では、分かりやすくするために、凹部31を一点鎖線で図示している。この構成によれば、仮にアノード拡散層20Bとアノードセパレータ30との位置合わせ時にずれが生じたとしても、いずれかの第3部分23が凹部31に対向することになる。すなわち、高い位置合わせ精度が要求されることなく容易に第3部分23を凹部31に対向させることができる。
【0061】
セル2Bのその他の構成は上記セル2と同様である。このため、セル2Bを含んで構成された燃料電池1によれば、アノード拡散層20Bの第2部分22でのフラッディングとガス流路41内での滞留とを同時に防止し、両要因による発電出力の低下を同時に防止することができる。なお、アノード拡散層20Bでは、第3部分23が追加されているが、第1部分21は凸部32との接触箇所に対向して設けられている。このため、セル2と同様に、第1部分21の上記接触箇所対向部分内に保水された水90は直接にはガス流路41へ排水されない。さらに、セル2Bにおいても、第1部分21は上記接触箇所から凹部31の側へ延在している。このため、セル2と同様に、凹部31内で凝縮した水90は、側面30S3を伝い、当該側面30S3に上記接触箇所を介して繋がっている第1部分21へ吸収される。これらの結果、ガス流路41内に水が滞留しにくくなっている。
【0062】
図10にアノード拡散層20Bの製造方法の手順を説明するフローチャートを示す。当該製造方法は、穴形成工程ST1と、充填工程ST2と、層形成工程ST3とを含んでいる。図11〜図13に工程ST1〜ST3を説明する断面図を示す。
【0063】
穴形成工程ST1では、基材210に穴を開けてアノード拡散層20Bの第1部分21を形成する(図11参照)。基材210として、第1部分21と同じレベルの親水性を当初から有する部材を用いることができる。また、基材210として、親水性のレベルが第1部分21とは異なる部材に親水性処理または撥水性処理を施すことによって親水性のレベルを第1部分21と同じにした部材を用いることもでき、この場合、上記の親水性処理または撥水性処理は穴211を開ける前後の少なくともいずれかにおいて実施すればよい。穴211は、基材210において表裏面の関係にある2つの表面210S1,S210S3間を貫通させて形成する。また、穴211は、基材210においてアノード拡散層20Bの第3部分23の配置位置に相当する位置に形成する。
【0064】
充填工程ST2では、アノード拡散層20Bの第3部分23と同じ撥水レベルの材料、すなわち基材210に比べて撥水性のより高い材料を穴211内に充填し、これによって第3部分23を形成する(図12参照)。
【0065】
層形成工程ST3では、アノード拡散層20Bの第2部分22と同じ撥水レベルの材料、すなわち基材210に比べて撥水性のより高い層を塗布等によって基材210の片側の表面210S1上に形成し、これによって第2部分22を形成する(図13参照)。なお、層形成工程ST3を充填工程ST2よりも先に実施することもできる。
【0066】
なお、層形成工程ST3で上記撥水性のより高い層を形成しなかった表面210S3がアノード拡散層20Bの表面20S3にあたり、上記撥水性のより高い層において基材210から遠い側の表面がアノード拡散層20Bの表面20S1にあたる。
【0067】
上記工程ST1〜ST3によって製造されたアノード拡散層20Bは、燃料電池1の製造方法において、第2部分22、すなわち上記撥水性のより高い層をアノード触媒層12に対向させて、換言すればアノード触媒層12を介して電解質膜11の側に向けて、アノード触媒層12上に積層される。そして、アノード拡散層20B上にアノードセパレータ30が積層される。
【0068】
上記製造方法によれば、局所的に親水処理または撥水性処理を施すことによってアノード拡散層20Bの各部分21,22,23を形成する場合に比べて、各部分21,22,23の配置位置、形状等を制御性よく形成することができる。
【0069】
なお、上記ではアノードセパレータ30がガス流路41用の凹部31を有する場合を例示したが、アノードセパレータ30に代えて例えば多孔質部材で構成したセパレータを適用してもよい。この場合、多孔質部材の気孔をガス流路41として利用することができる。この点はカソードセパレータ60についても同様である。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明に係る実施の形態1の燃料電池の概略を説明する斜視図である。
【図2】本発明に係る実施の形態1のセルを説明する断面図である。
【図3】本発明に係る実施の形態1のセルを説明する分解断面図である。
【図4】本発明に係る実施の形態1のセルを説明する模式図である。
【図5】本発明に係る実施の形態2のセルを説明する断面図である。
【図6】本発明に係る実施の形態2のセルを説明する分解断面図である。
【図7】本発明に係る実施の形態2のセルの第2の構成を説明する断面図である。
【図8】本発明に係る実施の形態2のセルの第3の構成を説明する断面図である。
【図9】本発明に係る実施の形態2のセルの第3の構成を説明する平面図である。
【図10】本発明に係る実施の形態2のアノード拡散層の製造方法の手順を説明するフローチャートである。
【図11】本発明に係る実施の形態2のアノード拡散層の製造方法について穴形成工程を説明する断面図である。
【図12】本発明に係る実施の形態2のアノード拡散層の製造方法について充填工程を説明する断面図である。
【図13】本発明に係る実施の形態2のアノード拡散層の製造方法について層形成工程を説明する断面図である。
【図14】従来の燃料電池を説明する模式図である。
【符号の説明】
【0071】
1 燃料電池、2,2B セル、3 MEA(積層体)、11 電解質膜、20,20B アノード拡散層、21 第1部分、22 第2部分、23 第3部分、23X,23Y 第3部分の間隔、20S1,20S3 表面、20Z 深さ、30 アノードセパレータ、30S 凹凸表面、31 凹部、31X,31Y 凹部の開口寸法、32 凸部、41 ガス流路、ST1 穴形成工程、ST2 充填工程、ST3 層形成工程、210 基材、210S1,210S3 表面、211 穴。
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池およびそれの製造方法に係り、具体的には燃料ガスを含んだアノードガスが供給される側の構成およびそれの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スタック型の燃料電池は複数のセルが積層されて構成されている。従来のセル102を図14の模式図を参照しつつ説明する。セル102は、電解質膜111の一方側にアノード触媒層112とアノード拡散層120とアノードセパレータ130とがこの順序で積層されている。図14では省略しているが、電解質膜の他方側にはカソード触媒層とカソード拡散層とカソードセパレータとがこの順序で積層されている。カソードセパレータのガス流路からカソード拡散層越しにカソード触媒層へ酸素ガスが供給され、アノードセパレータ130のガス流路141からアノード拡散層120越しにアノード触媒層112へ水素ガスが供給されることによって、セル102が発電する。
【0003】
発電に伴ってカソード触媒層で水が生成される。この生成水190は、カソード拡散層内で凝縮してカソードガス流路に排水されるとともに、電解質膜111およびアノード触媒層112を通ってアノード拡散層120へ移動し、アノードガス流路141へ排出される。
【0004】
なお、特許文献1には、拡散層を親水性の導電性多孔質基材と撥水性の樹脂を含んだスラリ層との積層構造とし、親水性の導電性多孔質基材をセパレータ側に向けて構成した燃料電池が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、拡散層を撥水性の異なる2つの分割拡散層を重ねて構成し、撥水性の高い分割拡散層を触媒層に密接させた構造の燃料電池が開示されている。
【0006】
また、特許文献3には、拡散層を多孔質カーボン平板を2枚以上重ねて構成し、触媒層に接するカーボン平板に撥水処理を施し、それ以外のカーボン平板には親水処理を施した構造の燃料電池が開示されている。
【0007】
また、特許文献4には、アノード拡散層のカーボン基材を親水処理して水との接触角を90°以下にした構造の燃料電池が開示されている。
【0008】
また、特許文献5には、セパレータに設けられた溝形状のガス流路において溝の側面に親水処理を施し、他の部分を非親水とした構造の燃料電池が開示されている。
【0009】
また、特許文献6には、スタックされたうちの端部のセルには冷却水を流さないことにより当該端部セルの温度を高くする手法が開示されている。
【0010】
【特許文献1】特開2002−313359号公報
【特許文献2】特開2003−331850号公報
【特許文献3】特開平11−135132号公報
【特許文献4】特開2004−152588号公報
【特許文献5】特開2005−116179号公報
【特許文献6】国際公開第2002/082573号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
アノード拡散層120へ移動した生成水190は、アノード拡散層120の気孔129に滞留してフラッディングの原因となる。このフラッディングがアノード拡散層120とアノード触媒層112との界面付近で生じると、発電出力が低下する可能性がある。
【0012】
また、アノードガス流路141へ排水された生成水190は当該ガス流路141内に滞留しやすい。これは、一般的にアノード側はカソード側に比べてガス流速が遅いからである。アノードガス流路141内に滞留した水190は、各セル102間にガス配分のばらつきを引き起こす。特にスタックされたうちの端部のセル102では、温度が低く水190が滞留しやすいので、水素ガスが不足しやすい。その結果、発電出力が低下する可能性がある。
【0013】
このようにアノード拡散層120へ移動した生成水190は、発電出力の低下を招くという問題がある。
【0014】
この問題の一つの解決策として、アノード拡散層に撥水処理を施すことが考えられる。しかし、これによれば、アノード拡散層のフラッディングを防止することはできても、上記生成水がアノードガス流路へ排水されやすくなるのでガス流路内での生成水の滞留を防止することは困難であると思われる。
【0015】
また、上記問題の他の一つの解決策として、特許文献6の上記手法が考えられる。しかし、これによれば、高負荷時に電解質の冷却が追いつかず、そのため高温で電解質が劣化する場合があると思われる。
【0016】
本発明の目的は、アノード拡散層でのフラッディングによる発電出力低下と、アノードガスの流路内での上記生成水の滞留による発電出力低下と、を同時に防止可能な燃料電池および燃料電池の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明に係る燃料電池は、電解質膜と前記電解質膜の一方側に配置されたアノード拡散層とを含んで構成された積層体と、前記アノード拡散層上に配置されたアノードセパレータと、を備え、燃料ガスを含んだアノードガスが前記アノードセパレータを利用して設けられたガス流路を通り前記アノード拡散層越しに供給される燃料電池であって、前記アノード拡散層は、前記アノードセパレータに対向する第1表面から所定深さまでの間に渡って設けられた第1部分と、前記所定深さの位置から前記第1表面とは表裏面の関係にある第2表面までの間に渡り前記第1部分に引き続いて設けられた第2部分と、を含んで構成され、前記第1部分は、前記第2部分よりも親水性が高くかつ前記アノードセパレータよりも親水性が高いことを特徴とする。
【0018】
また、前記アノード拡散層は、前記第1表面から前記第2部分に至る少なくとも1つの第3部分をさらに含んで構成され、前記少なくとも1つの第3部分よりも前記第1部分の方が親水性が高いことが好ましい。
【0019】
また、前記アノード拡散層において前記第1部分の占める割合が前記少なくとも1つの第3部分の占める割合よりも大きいことが好ましい。
【0020】
また、前記少なくとも1つの第3部分は前記ガス流路に連続していることが好ましい。
【0021】
また、前記少なくとも1つの第3部分は、複数の第3部分であり、前記アノードセパレータは、前記ガス流路を構成する凹部と前記アノード拡散層に接触する凸部とを含んだ凹凸表面を前記アノード拡散層の側に有し、前記凹部に対向して前記複数の第3部分の2個以上が設けられていることが好ましい。
【0022】
また、前記凹部の開口寸法よりも短い間隔で前記複数の第3部分が設けられていることが好ましい。
【0023】
また、前記第1部分は前記凸部と前記アノード拡散層との接触箇所に対向して設けられていることが好ましい。
【0024】
また、前記第1部分は前記接触箇所から前記凹部に対向する箇所へ延在しており、前記凹凸表面は前記接触箇所に近いほど高い親水性を有し、前記凹凸表面よりも前記第1部分の方が親水性が高いことが好ましい。
【0025】
また、本発明に係る燃料電池の製造方法は、電解質膜と前記電解質膜の一方側に配置されたアノード拡散層とを含んで構成された積層体と、前記アノード拡散層上に配置されたアノードセパレータと、を備え、燃料ガスを含んだアノードガスが前記アノードセパレータを利用して設けられたガス流路を通り前記アノード拡散層越しに供給される燃料電池の製造方法であって、前記アノード拡散層を形成する工程は、前記アノードセパレータよりも親水性が高い基材に対して互いに表裏面の関係にある第1表面と第2表面との間を貫通する穴を形成する穴形成工程と、前記穴内に前記基材に比べて撥水性のより高い材料を充填する充填工程と、前記基材の前記第1表面上に前記基材に比べて撥水性のより高い層を形成する層形成工程と、を備え、前記撥水性のより高い層を前記電解質膜の側に向けて前記アノード拡散層を配置し、前記アノード拡散層上に前記アノードセパレータを配置することを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
上記構成によれば、アノード拡散層のアノードセパレータ側の部分は電解質膜側の部分よりも親水性が高くかつアノードセパレータよりも親水性が高いので、発電時に生成された水がアノード側へ移動した場合であっても、当該生成水は上記親水性の高い部分内に保水される。このため、アノード拡散層の電解質膜側の部分における上記生成水によるフラッディングと、アノードセパレータを利用して設けられたアノードガスの流路内での上記生成水の滞留と、を同時に防止することができる。その結果、両要因による発電出力の低下を同時に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下に図面を用いて本発明に係る実施の形態について詳細に説明する。
【0028】
図1に、実施の形態1の燃料電池1の概略を説明する斜視図を示す。図1に示すように、燃料電池1は、複数のセル2が積層されて構成されており、いわゆるスタック型の燃料電池である。なお、セルは単セルとも呼ばれる。
【0029】
ここで、説明の便宜のため、セル2の積層方向をZ方向と呼び、当該Z方向に直交しかつ互いに直交する2方向をX方向およびY方向と呼ぶことにする。なお、ここでは、Z方向から見た場合に、燃料電池1およびセル2の外形が、X方向に平行を成し対向する2辺とY方向に平行を成し対向する2辺とで規定される四角形の場合を例示するが、この形状に限られるものではない。
【0030】
図2および図3にセル2を説明する断面図および分解断面図を示す。セル2は、膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly。以下「MEA」と呼ぶ)3と、MEA3の両側に配置されたセパレータ30,60とを含んで構成されている。
【0031】
MEA3は、燃料ガスを含んだアノードガスおよび酸化性ガスを含んだカソードガスを利用して発電する。ここでは、燃料ガスとして水素ガスを例示し、酸化性ガスとして酸素ガスを例示するが、これらに限られない。また、アノードガスは、燃料ガスを含んでいればよく、燃料ガスが100%である必要はなく、カソードガスについても同様である。また、酸素ガスを含んだカソードガスとして例えば空気を利用できる。
【0032】
MEA3は、電解質膜11と、触媒層12,15と、拡散層20,50とを含んで構成されている。ここでは、MEA3は、拡散層20と、触媒層12と、電解質膜11と、触媒層15と、拡散層50とがこの順序でZ方向に並んだ積層体である。ここで、アノードガスが供給される側の触媒層12をアノード触媒層(または燃料極触媒層)12とも呼び、カソードガスが供給される側の触媒層15をカソード触媒層(または酸化極触媒層)15とも呼ぶことにする。なお、触媒層は、発電によって発生した電気エネルギーを集電する機能もあり、このため触媒電極等とも呼ばれる。
【0033】
拡散層20はアノード触媒層12に対向しかつ接触して配置されている。セパレータ30は拡散層20を介してアノード触媒層12に対向し拡散層20に接触して配置されている。すなわち、拡散層20およびセパレータ30は、この順序で、アノード触媒層12上にZ方向に積層されている。同様に、拡散層50およびセパレータ60は、この順序で、カソード触媒層15上にZ方向に積層されている。
【0034】
ここで、アノード触媒層12の側、すなわちアノードガスを供給する側の拡散層20およびセパレータ30をアノード拡散層(または燃料極拡散層)20およびアノードセパレータ(または燃料極セパレータ)30とも呼ぶことにする。同様に、拡散層50およびセパレータ60をカソード拡散層(または酸化極拡散層)50およびカソードセパレータ(または酸化極セパレータ)60とも呼ぶことにする。
【0035】
アノード拡散層20は、アノードセパレータ30の側から供給されたアノードガスを拡散させてアノード触媒層12および電解質膜11へ供給する。カソード拡散層50は、カソードセパレータ60の側から供給されたカソードガスを拡散させてカソード触媒層15および電解質膜11へ供給する。このため、拡散層20,50は例えば多孔質材料で構成される。なお、拡散層20,50は触媒層12,15よりも厚い。なお、拡散層は、ガス拡散層等とも呼ばれ、また、発生した電気エネルギーを集電する機能を有するので拡散電極等とも呼ばれる。
【0036】
アノード拡散層20は、厚さ方向、すなわちZ方向において2つの部分21,22に大別される。第1部分21は、アノード拡散層20においてアノードセパレータ30側の表面20S3からZ方向に所定深さ20Zまでの間に渡って設けられている。第2部分22は、アノード拡散層20において上記表面20S3とは表裏面の関係にある表面20S1、すなわちアノード拡散層20においてアノード触媒層12および電解質膜11の側の表面20S1から、Z方向に上記深さ20Zの位置までの間に渡って設けられている。第2部分22は、上記深さ20Zの位置で第1部分21に接し、第1部分21に引き続いている。
【0037】
第1部分21は、第2部分22よりも相対的に親水性が高く、かつ、アノードセパレータ30よりも相対的に親水性が高い。例えば、第1部分21についての水の接触角を90°以下とし、第2部分22およびアノードセパレータ30についての水の接触角を90°以上としている。あるいは、例えば、第1部分21、第2部分22およびアノードセパレータ30のいずれについても水の接触角を90°以下(または90°以上)とし、そのような設定範囲内において第1部分21の親水性を相対的に第2部分22およびアノードセパレータ30よりも高くしてもよい。なお、第2部分22とアノードセパレータ30との親水性はいずれが高くてもよいし、同じであってもよい。
【0038】
ここで、一般的に、親水性が高いほど撥水性が低く、逆に撥水性が高いほど親水性が低いという関係がある。なお、一般的に、水の接触角が90°以下の材料は親水性材料と呼ばれ、逆に水の接触角が90°以上の材料は撥水性材料と呼ばれる。親水性のレベル、換言すれば撥水性のレベルは、例えば材質や材料中の気孔径の選択によって、設定可能である。
【0039】
アノード拡散層20のこの構成は、例えば、第1部分21に相当する基材上に第2部分22に相当し上記基材よりも撥水性が高い材料を塗布等することによって、形成可能である。また、例えば、第1部分21に相当する基材の片面側を撥水処理することによって、あるいは逆に第2部分22に相当する基材の片面側を親水処理することによって、アノード拡散層20を形成可能である。
【0040】
アノードセパレータ30は、アノード拡散層20の側に凹凸表面30Sを有している。この凹凸表面30Sは、凹部(または窪み部)31と、凸部(または突出部)32とを含んで構成されている。ここでは、凹部31および凸部32が断面視上四角形の場合を例示するが、これに限られるものではなく、例えば断面視上半円形でもよい。凹凸表面30Sは、凹部31の底面30S1と、凸部32の頂上面30S2と、これらの面30S1,30S2間を繋ぐ側面30S3とを含んで構成され、底面30S1と側面30S3とによって凹部31が構成され、頂上面30S2と側面30S3とによって凸部32が構成されている。なお、凸部32をリブ32とも呼ぶことにする。
【0041】
凹部31は、Z方向から見た場合、例えば直線状、曲線状またはこれらを組み合わせた形状等に形成されている(例えば後述の図9の蛇行した凹部31を参照)。また、凸部32は、Z方向から見た場合、例えば直線状、曲線状、島状等に形成されている。
【0042】
アノードセパレータ30は、凸部32を、換言すれば頂上面30S2をアノード拡散層20の第1部分に接触させて配置されている。この接触箇所を介して、アノード拡散層20へ集電された電気エネルギーがアノードセパレータ30へ集電される。また、上記配置形態によればアノードセパレータ30とアノード拡散層20との間に凹部31によって隙間または空間が形成され、この隙間によってガス流路41が構成される。このとき、ガス流路41はアノード拡散層20の表面20S3に面しており、これによりアノードガスがガス流路41を通りアノード拡散層20越しに電解質膜11の側へ供給される。
【0043】
凹凸表面30Sは、凸部32とアノード拡散層20との接触箇所に近いほど親水性が高い。ここでは、底面30S1よりも側面30S3の方の親水性を高くしている。なお、頂上面30S2の親水性は側面30S3と同等以上である。凹凸表面30Sはこのような親水性分布(換言すれば撥水性分布)を有しているが、上記のようにアノードセパレータ30よりもアノード拡散層20の第1部分21の方が親水性が高いので、凹凸表面30Sは全体において第1部分21よりも親水性が低い。なお、凹凸表面30Sの上記親水性分布は既存の各種の処理・方法によって形成可能である。
【0044】
アノードセパレータ30は、冷却水流路42を有している。冷却水流路42は、凹凸表面30Sとは反対側の表面、換言すれば凹凸表面30Sとは表裏面の関係にある表面に設けられた凹部を利用して構成される。
【0045】
カソード拡散層50として各種の拡散層が適用可能であり、当該拡散層50を、例えば、全体的に均一な親水性(換言すれば撥水性)を有する部材で構成してもよいし、アノード拡散層20と同様に電解質膜11側の撥水性をより高くした部材で構成してもよい。
【0046】
カソードセパレータ60は、カソードガスを流すためのガス流路71をアノードセパレータ30と同様に構成し、これによりカソードガスがガス流路71を通りカソード拡散層50越しに電解質膜11の側へ供給される。また、カソードセパレータ60もカソード拡散層50へ集電された電気エネルギーを集電する。さらに、カソードセパレータ60は、冷却水流路72をアノードセパレータ30と同様に有している。
【0047】
図4にセル2のアノード側の構造を模式化して示す。上記構成によれば、アノード拡散層20の第1部分21は第2部分22よりも親水性が高く、逆に言えば第2部分22の方が第1部分21よりも撥水性が高い。このため、発電時にカソード触媒層15で生成され電解質膜11を通ってアノード触媒層12の側へ移動した水90は、第2部分22よりも第1部分21内に保水されやすい。その結果、アノード拡散層20とアノード触媒層12との界面付近には上記生成水90が滞留しにくいので、第2部分22の気孔29の目詰まり、すなわちフラッディングを防止することができる。このとき、第2部分22はアノード拡散層20においてアノード触媒層12の側、換言すれば電解質膜11の側に全面的に設けられているので、全面的にフラッディングを防止してアノード触媒層12および電解質膜11の全面に対して均一にアノードガスを供給することができる。
【0048】
なお、水素ガスは酸素ガスに比べて拡散しやすいので、アノード拡散層20とアノード触媒層12との界面付近に水90が滞留していなければ、第1部分21に水90が滞留していても、水素ガスはアノード触媒層12へ到達可能である。
【0049】
さらに、アノード拡散層20の第1部分21はアノードセパレータ30よりも親水性が高い。このため、アノード拡散層20内で凝縮した水90はアノードセパレータ30側へ排水されにくく第1部分21内に保水され、また、ガス流路41内で凝縮した水90は第1部分21へ吸収される。この結果、ガス流路41内に水が滞留しにくく、各セル2間でガス分配のばらつきを防止することができる。
【0050】
ここで、第1部分21はアノードセパレータ30の側に全面的に設けられているので、第1部分21は凸部32との接触箇所から凹部31の側へ延在している。このため、凹凸表面30Sの側面30S3は上記接触箇所を介して第1部分21に繋がっている。したがって、側面30S3上で凝縮した水90は、親水性のより高い第1部分21の側へ移動し第1部分21に吸収される。また、凹凸表面30Sの底面30S1上で水90が凝縮しても、当該水90は底面30S1よりも親水性が高い側面30S3へ誘導され最終的に第1部分21へ吸収される。このように、凹凸表面30Sと第1部分21との親水性のレベルの相違によって、上記水滞留防止が促進される。
【0051】
また、第1部分21はアノードセパレータ30の側に全面的に設けられているので、第1部分21は凸部32との接触箇所に対向して設けられている。このため、当該接触箇所対向部分内に保水された水90は直接にはガス流路41へ排水されない。このことも上記水滞留防止に貢献している。
【0052】
このように燃料電池1によれば、発電時に生成された水90がアノード側へ移動した場合であっても、アノード拡散層20の第2部分22でのフラッディングと、ガス流路41内での滞留と、を同時に防止することができる。その結果、両要因による発電出力の低下を同時に防止することができる。なお、第1部分21と第2部分22との境界である上記深さ20Zの位置は、第1部分21の保水力、アノード触媒層12の側でフラッディングを回避させる厚さ等の観点に基づいて設定するのが好適である。
【0053】
図5および図6に実施の形態2のセル2Bを説明する断面図および分解断面図を示す。セル2Bは上記セル2に代えて燃料電池1に適用することができる。セル2Bは、上記セル2において、アノード拡散層20をアノード拡散層20Bに代えた構成を有している。
【0054】
アノード拡散層20Bは、上記アノード拡散層20において第1部分21を部分的に第3部分23に代えた構成を有している。すなわち、第3部分23は、アノード拡散層20Bのアノードセパレータ30側の表面20S3からZ方向に上記深さ20Zまでの間に渡って設けられている。このため、アノード拡散層20Bでは、上記深さ20Zの位置から表面20S3側に第1部分21と第3部分23とが混在している。ここでは、第3部分23は円柱状の場合を例示するが(後述の図9参照)、この形状に限られず、例えばZ方向から見た場合に線状や曲線状であってもよい。また、第3部分23の形状によっては第1部分21が複数個に分かれてもよい。
【0055】
第3部分23は、第1部分21よりも相対的に親水性が低い(撥水性が高い)。なお、第3部分23と第2部分22との親水性(または撥水性)はいずれが高くてもよいし、同じであってもよい。このため、アノード拡散層20B内の水は第2部分22および第3部分23よりも第1部分21において保水されやすい。したがって、第3部分23によって、保水した第1部分21に比べてアノードガスが通りやすい経路が、表面20S3と第2部分22との間に形成される。その結果、アノード拡散層20B越しのアノードガスの供給がより確実になる。
【0056】
アノード拡散層20Bには複数の第3部分23が設けられているが、アノード拡散層20Bの保水性の観点から、これらの第3部分23がアノード拡散層20Bにおいて占める割合よりも第1部分21が占める割合が高く設定されている。換言すれば、第3部分23の体積の合計よりも第1部分21の体積(の合計)が大きく設定されている。
【0057】
また、第3部分23はアノード拡散層20B内に2次元的に散在しており(図9参照)、これによりアノードガスが偏りなく、すなわち分散されてアノード触媒層12および電解質膜11へ全面的に供給される。
【0058】
さらに、第3部分23は、アノードセパレータ30の凹部31に対向して設けられており、これによりガス流路41に連続して設けられている。このため、第3部分23が凸部32に対向する場合よりも、アノードガスをガス流路41から第3部分23へスムーズに流入させることができる。
【0059】
ここで、図7の断面図に示すように、1つのガス流路41に対して、換言すれば1つの凹部31に対して第3部分23を複数設けてもよい。なお、図7には2個の第3部分23を設ける場合を例示しているが、この個数に限られるものではない。この構成によれば、複数の第3部分23と単一の第3部分23とで体積が同じ場合であっても、アノードガスをより分散させてアノード触媒層12および電解質膜11へ導くことができるので、ガス供給をいっそう均一にすることができる。
【0060】
また、図8の断面図および図9の平面図に示すように、Y方向において隣接する第3部分23の間隔23Yを凹部31のY方向における開口寸法31Yよりも短くする寸法規定を適用してもよい。Y方向についての寸法規定に代えてまたは加えて、X方向において隣接する第3部分23の間隔23Xを凹部31のX方向における開口寸法31Xよりも短くする寸法規定を適用してもよい。なお、図9では、分かりやすくするために、凹部31を一点鎖線で図示している。この構成によれば、仮にアノード拡散層20Bとアノードセパレータ30との位置合わせ時にずれが生じたとしても、いずれかの第3部分23が凹部31に対向することになる。すなわち、高い位置合わせ精度が要求されることなく容易に第3部分23を凹部31に対向させることができる。
【0061】
セル2Bのその他の構成は上記セル2と同様である。このため、セル2Bを含んで構成された燃料電池1によれば、アノード拡散層20Bの第2部分22でのフラッディングとガス流路41内での滞留とを同時に防止し、両要因による発電出力の低下を同時に防止することができる。なお、アノード拡散層20Bでは、第3部分23が追加されているが、第1部分21は凸部32との接触箇所に対向して設けられている。このため、セル2と同様に、第1部分21の上記接触箇所対向部分内に保水された水90は直接にはガス流路41へ排水されない。さらに、セル2Bにおいても、第1部分21は上記接触箇所から凹部31の側へ延在している。このため、セル2と同様に、凹部31内で凝縮した水90は、側面30S3を伝い、当該側面30S3に上記接触箇所を介して繋がっている第1部分21へ吸収される。これらの結果、ガス流路41内に水が滞留しにくくなっている。
【0062】
図10にアノード拡散層20Bの製造方法の手順を説明するフローチャートを示す。当該製造方法は、穴形成工程ST1と、充填工程ST2と、層形成工程ST3とを含んでいる。図11〜図13に工程ST1〜ST3を説明する断面図を示す。
【0063】
穴形成工程ST1では、基材210に穴を開けてアノード拡散層20Bの第1部分21を形成する(図11参照)。基材210として、第1部分21と同じレベルの親水性を当初から有する部材を用いることができる。また、基材210として、親水性のレベルが第1部分21とは異なる部材に親水性処理または撥水性処理を施すことによって親水性のレベルを第1部分21と同じにした部材を用いることもでき、この場合、上記の親水性処理または撥水性処理は穴211を開ける前後の少なくともいずれかにおいて実施すればよい。穴211は、基材210において表裏面の関係にある2つの表面210S1,S210S3間を貫通させて形成する。また、穴211は、基材210においてアノード拡散層20Bの第3部分23の配置位置に相当する位置に形成する。
【0064】
充填工程ST2では、アノード拡散層20Bの第3部分23と同じ撥水レベルの材料、すなわち基材210に比べて撥水性のより高い材料を穴211内に充填し、これによって第3部分23を形成する(図12参照)。
【0065】
層形成工程ST3では、アノード拡散層20Bの第2部分22と同じ撥水レベルの材料、すなわち基材210に比べて撥水性のより高い層を塗布等によって基材210の片側の表面210S1上に形成し、これによって第2部分22を形成する(図13参照)。なお、層形成工程ST3を充填工程ST2よりも先に実施することもできる。
【0066】
なお、層形成工程ST3で上記撥水性のより高い層を形成しなかった表面210S3がアノード拡散層20Bの表面20S3にあたり、上記撥水性のより高い層において基材210から遠い側の表面がアノード拡散層20Bの表面20S1にあたる。
【0067】
上記工程ST1〜ST3によって製造されたアノード拡散層20Bは、燃料電池1の製造方法において、第2部分22、すなわち上記撥水性のより高い層をアノード触媒層12に対向させて、換言すればアノード触媒層12を介して電解質膜11の側に向けて、アノード触媒層12上に積層される。そして、アノード拡散層20B上にアノードセパレータ30が積層される。
【0068】
上記製造方法によれば、局所的に親水処理または撥水性処理を施すことによってアノード拡散層20Bの各部分21,22,23を形成する場合に比べて、各部分21,22,23の配置位置、形状等を制御性よく形成することができる。
【0069】
なお、上記ではアノードセパレータ30がガス流路41用の凹部31を有する場合を例示したが、アノードセパレータ30に代えて例えば多孔質部材で構成したセパレータを適用してもよい。この場合、多孔質部材の気孔をガス流路41として利用することができる。この点はカソードセパレータ60についても同様である。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明に係る実施の形態1の燃料電池の概略を説明する斜視図である。
【図2】本発明に係る実施の形態1のセルを説明する断面図である。
【図3】本発明に係る実施の形態1のセルを説明する分解断面図である。
【図4】本発明に係る実施の形態1のセルを説明する模式図である。
【図5】本発明に係る実施の形態2のセルを説明する断面図である。
【図6】本発明に係る実施の形態2のセルを説明する分解断面図である。
【図7】本発明に係る実施の形態2のセルの第2の構成を説明する断面図である。
【図8】本発明に係る実施の形態2のセルの第3の構成を説明する断面図である。
【図9】本発明に係る実施の形態2のセルの第3の構成を説明する平面図である。
【図10】本発明に係る実施の形態2のアノード拡散層の製造方法の手順を説明するフローチャートである。
【図11】本発明に係る実施の形態2のアノード拡散層の製造方法について穴形成工程を説明する断面図である。
【図12】本発明に係る実施の形態2のアノード拡散層の製造方法について充填工程を説明する断面図である。
【図13】本発明に係る実施の形態2のアノード拡散層の製造方法について層形成工程を説明する断面図である。
【図14】従来の燃料電池を説明する模式図である。
【符号の説明】
【0071】
1 燃料電池、2,2B セル、3 MEA(積層体)、11 電解質膜、20,20B アノード拡散層、21 第1部分、22 第2部分、23 第3部分、23X,23Y 第3部分の間隔、20S1,20S3 表面、20Z 深さ、30 アノードセパレータ、30S 凹凸表面、31 凹部、31X,31Y 凹部の開口寸法、32 凸部、41 ガス流路、ST1 穴形成工程、ST2 充填工程、ST3 層形成工程、210 基材、210S1,210S3 表面、211 穴。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜と前記電解質膜の一方側に配置されたアノード拡散層とを含んで構成された積層体と、前記アノード拡散層上に配置されたアノードセパレータと、を備え、燃料ガスを含んだアノードガスが前記アノードセパレータを利用して設けられたガス流路を通り前記アノード拡散層越しに供給される燃料電池であって、
前記アノード拡散層は、
前記アノードセパレータに対向する第1表面から所定深さまでの間に渡って設けられた第1部分と、
前記所定深さの位置から前記第1表面とは表裏面の関係にある第2表面までの間に渡り前記第1部分に引き続いて設けられた第2部分と、
を含んで構成され、
前記第1部分は、前記第2部分よりも親水性が高くかつ前記アノードセパレータよりも親水性が高いことを特徴とする燃料電池。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池であって、
前記アノード拡散層は、前記第1表面から前記第2部分に至る少なくとも1つの第3部分をさらに含んで構成され、
前記少なくとも1つの第3部分よりも前記第1部分の方が親水性が高いことを特徴とする燃料電池。
【請求項3】
請求項2に記載の燃料電池であって、
前記アノード拡散層において前記第1部分の占める割合が前記少なくとも1つの第3部分の占める割合よりも大きいことを特徴とする燃料電池。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載の燃料電池であって、
前記少なくとも1つの第3部分は前記ガス流路に連続していることを特徴とする燃料電池。
【請求項5】
請求項4に記載の燃料電池であって、
前記少なくとも1つの第3部分は、複数の第3部分であり、
前記アノードセパレータは、前記ガス流路を構成する凹部と前記アノード拡散層に接触する凸部とを含んだ凹凸表面を前記アノード拡散層の側に有し、
前記凹部に対向して前記複数の第3部分の2個以上が設けられていることを特徴とする燃料電池。
【請求項6】
請求項4に記載の燃料電池であって、
前記少なくとも1つの第3部分は、複数の第3部分であり、
前記アノードセパレータは、前記ガス流路を構成する凹部と前記アノード拡散層に接触する凸部とを含んだ凹凸表面を前記アノード拡散層の側に有し、
前記凹部の開口寸法よりも短い間隔で前記複数の第3部分が設けられていることを特徴とする燃料電池。
【請求項7】
請求項5または請求項6に記載の燃料電池であって、
前記第1部分は前記凸部と前記アノード拡散層との接触箇所に対向して設けられていることを特徴とする燃料電池。
【請求項8】
請求項1ないし請求項4のいずれか一つに記載の燃料電池であって、
前記アノードセパレータは、前記ガス流路を構成する凹部と前記アノード拡散層に接触する凸部とを含んだ凹凸表面を前記アノード拡散層の側に有し、
前記第1部分は前記凸部と前記アノード拡散層との接触箇所に対向して設けられていることを特徴とする燃料電池。
【請求項9】
請求項7または請求項8に記載の燃料電池であって、
前記第1部分は前記接触箇所から前記凹部に対向する箇所へ延在しており、
前記凹凸表面は前記接触箇所に近いほど高い親水性を有し、前記凹凸表面よりも前記第1部分の方が親水性が高いことを特徴とする燃料電池。
【請求項10】
電解質膜と前記電解質膜の一方側に配置されたアノード拡散層とを含んで構成された積層体と、前記アノード拡散層上に配置されたアノードセパレータと、を備え、燃料ガスを含んだアノードガスが前記アノードセパレータを利用して設けられたガス流路を通り前記アノード拡散層越しに供給される燃料電池の製造方法であって、
前記アノード拡散層を形成する工程は、
前記アノードセパレータよりも親水性が高い基材に対して互いに表裏面の関係にある第1表面と第2表面との間を貫通する穴を形成する穴形成工程と、
前記穴内に前記基材に比べて撥水性のより高い材料を充填する充填工程と、
前記基材の前記第1表面上に前記基材に比べて撥水性のより高い層を形成する層形成工程と、
を備え、
前記撥水性のより高い層を前記電解質膜の側に向けて前記アノード拡散層を配置し、前記アノード拡散層上に前記アノードセパレータを配置することを特徴とする燃料電池の製造方法。
【請求項1】
電解質膜と前記電解質膜の一方側に配置されたアノード拡散層とを含んで構成された積層体と、前記アノード拡散層上に配置されたアノードセパレータと、を備え、燃料ガスを含んだアノードガスが前記アノードセパレータを利用して設けられたガス流路を通り前記アノード拡散層越しに供給される燃料電池であって、
前記アノード拡散層は、
前記アノードセパレータに対向する第1表面から所定深さまでの間に渡って設けられた第1部分と、
前記所定深さの位置から前記第1表面とは表裏面の関係にある第2表面までの間に渡り前記第1部分に引き続いて設けられた第2部分と、
を含んで構成され、
前記第1部分は、前記第2部分よりも親水性が高くかつ前記アノードセパレータよりも親水性が高いことを特徴とする燃料電池。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池であって、
前記アノード拡散層は、前記第1表面から前記第2部分に至る少なくとも1つの第3部分をさらに含んで構成され、
前記少なくとも1つの第3部分よりも前記第1部分の方が親水性が高いことを特徴とする燃料電池。
【請求項3】
請求項2に記載の燃料電池であって、
前記アノード拡散層において前記第1部分の占める割合が前記少なくとも1つの第3部分の占める割合よりも大きいことを特徴とする燃料電池。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載の燃料電池であって、
前記少なくとも1つの第3部分は前記ガス流路に連続していることを特徴とする燃料電池。
【請求項5】
請求項4に記載の燃料電池であって、
前記少なくとも1つの第3部分は、複数の第3部分であり、
前記アノードセパレータは、前記ガス流路を構成する凹部と前記アノード拡散層に接触する凸部とを含んだ凹凸表面を前記アノード拡散層の側に有し、
前記凹部に対向して前記複数の第3部分の2個以上が設けられていることを特徴とする燃料電池。
【請求項6】
請求項4に記載の燃料電池であって、
前記少なくとも1つの第3部分は、複数の第3部分であり、
前記アノードセパレータは、前記ガス流路を構成する凹部と前記アノード拡散層に接触する凸部とを含んだ凹凸表面を前記アノード拡散層の側に有し、
前記凹部の開口寸法よりも短い間隔で前記複数の第3部分が設けられていることを特徴とする燃料電池。
【請求項7】
請求項5または請求項6に記載の燃料電池であって、
前記第1部分は前記凸部と前記アノード拡散層との接触箇所に対向して設けられていることを特徴とする燃料電池。
【請求項8】
請求項1ないし請求項4のいずれか一つに記載の燃料電池であって、
前記アノードセパレータは、前記ガス流路を構成する凹部と前記アノード拡散層に接触する凸部とを含んだ凹凸表面を前記アノード拡散層の側に有し、
前記第1部分は前記凸部と前記アノード拡散層との接触箇所に対向して設けられていることを特徴とする燃料電池。
【請求項9】
請求項7または請求項8に記載の燃料電池であって、
前記第1部分は前記接触箇所から前記凹部に対向する箇所へ延在しており、
前記凹凸表面は前記接触箇所に近いほど高い親水性を有し、前記凹凸表面よりも前記第1部分の方が親水性が高いことを特徴とする燃料電池。
【請求項10】
電解質膜と前記電解質膜の一方側に配置されたアノード拡散層とを含んで構成された積層体と、前記アノード拡散層上に配置されたアノードセパレータと、を備え、燃料ガスを含んだアノードガスが前記アノードセパレータを利用して設けられたガス流路を通り前記アノード拡散層越しに供給される燃料電池の製造方法であって、
前記アノード拡散層を形成する工程は、
前記アノードセパレータよりも親水性が高い基材に対して互いに表裏面の関係にある第1表面と第2表面との間を貫通する穴を形成する穴形成工程と、
前記穴内に前記基材に比べて撥水性のより高い材料を充填する充填工程と、
前記基材の前記第1表面上に前記基材に比べて撥水性のより高い層を形成する層形成工程と、
を備え、
前記撥水性のより高い層を前記電解質膜の側に向けて前記アノード拡散層を配置し、前記アノード拡散層上に前記アノードセパレータを配置することを特徴とする燃料電池の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2008−16384(P2008−16384A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−188207(P2006−188207)
【出願日】平成18年7月7日(2006.7.7)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年7月7日(2006.7.7)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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