説明

燃料電池および燃料電池の運転方法

【課題】効率的に低温環境下における燃料電池の発電性能を維持する。
【解決手段】燃料電池10は、電解質膜110と、電解質膜110に接している触媒層112と、触媒層112に対して電解質膜110とは逆の側に設けられた拡散層120と、拡散層120に対して触媒層112とは逆の側に設けられガス流路22の外殻を構成するセパレータと、を備える。そして、触媒層112と電解質膜110と拡散層120とセパレータとのうちの少なくとも一つの構成要素は、水分を吸収して発熱することができ水分を放出して発熱可能な状態となることができる吸水発熱性素材120tを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、低温環境下において発電性能が低下しにくい燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、水素イオンを透過する電解質の両面に電極を配し、酸素と燃料ガスを接触させて発電を行う燃料電池が開発されている。たとえば、ある燃料電池システムにおいては、セルスタック体を収容するケーシングの収納部および蓋体を二重壁構造とし、その中に水分を吸収して発熱する発熱繊維を充填している。そして、セルスタック体の温度が0度Cに低下するとケーシング内にミスト状の水分を充満させる。このような従来技術として、たとえば、特許文献1がある。
【0003】
【特許文献1】特開2001−351653号公報
【特許文献2】特開2005−44624号公報
【0004】
しかし、上記の技術においては、本来、温度を制御する必要がないケーシングの温度を上昇させることによってセルスタック体の温度を上昇させており、効率が悪い。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の課題の少なくとも一部を取り扱うためになされたものであり、効率的に低温環境下における燃料電池の発電性能を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明では、一態様として燃料電池を以下のような構成とする。この燃料電池は、電解質膜と、電解質膜に接している触媒層と、触媒層に対して電解質膜とは逆の側に設けられた拡散層と、拡散層に対して触媒層とは逆の側に設けられるセパレータと、を備える。そして、触媒層と電解質膜と拡散層とセパレータとのうちの少なくとも一つの構成要素は、水分を吸収して発熱することができ水分を放出して発熱可能な状態となることができる吸水発熱性素材を含む。
【0007】
このような態様においては、触媒層と電解質膜と拡散層とセパレータとのうちの吸水発熱性素材を含む構成要素それ自体が発熱する。このため、ケーシングが発熱する態様に比べて効率的に触媒層を加熱することができる。よって、低温環境下においても触媒層を発電に適した温度に効率的に昇温させることができ、その結果、低温環境下における燃料電池の発電性能を高めることができる。
【0008】
なお、拡散層は、吸水発熱性素材を使用して構成され拡散層内においてセパレータの側から触媒層の側まで設けられた発熱部を備えることが好ましい。このような態様とすれば、吸水性を備える発熱部を介して、触媒層からガス流路に向けて、過剰な水を効率的に排出することができる。
【0009】
また、セパレータが、触媒層に供給されるガスが流通するガス流路の内壁の少なくとも一部を構成する態様においては、セパレータは、以下のような構成とすることが好ましい。すなわち、セパレータは、その内壁を構成する部分に吸水発熱性素材を使用して構成された発熱部を備えることが好ましい。このような態様とすれば、ガス流路内を流通するガスを効率的に加熱することができる。
【0010】
なお、以上で説明した燃料電池の運転は、以下のように行うことが好ましい。まず、工程(a)として、所定の条件が満たされる場合に、触媒層とセパレータの間に位置するガス流路に水分を含むガスを供給する。この工程をもうけることで、吸水発熱性素材にガス中の水分を吸収させ、発熱させて、触媒層を加熱することができる。よって、低温環境下における燃料電池の発電性能を高めることができる。
【0011】
また、工程(b)として、触媒層の温度が第1の温度より高いときに、ガス流路にガスを供給して発電を行うことが好ましい。なお、上記の所定の条件は、工程(b)を実行する前において触媒層の温度が第1の温度未満であること、を含むことが好ましい。このような態様とすれば、発電に適した温度まで触媒層を加熱して、その後、発電を行うことができる。
【0012】
なお、工程(a)の後に、工程(c)として、吸水発熱性素材を含む構成要素を乾燥させることが好ましい。このような態様とすれば、工程(a)で吸水発熱性素材が発熱した後、吸水発熱性素材に水分を放出させて、再び、吸水発熱性素材を発熱可能な状態とすることができる。よって、次に低温環境下において燃料電池を運転する際に、水分を与えて吸水発熱性素材を発熱させることができる。
【0013】
また、工程(c)の後に、工程(d)として、ガス流路内のガスの流通を止めることが好ましい。このような態様とすれば、燃料電池の運転を停止している状態において、ガスが流通して、ガスが含む水分を吸水発熱性素材が吸収して発熱してしまう可能性を低減できる。よって、次に低温環境下において燃料電池を運転する際に、水分を与えて吸水発熱性素材を発熱させることができる。なお、運転停止時には、吸水発熱性素材に水分を吸収させない状態を保って、ガス流路内のガスの流通を止めることが好ましい。
【0014】
なお、本発明は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、燃料電池、燃料電池に用いられる積層構造体、燃料電池の製造方法、燃料電池用の積層構造体の形成方法等の形態で実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
A.第1の実施形態:
図1は、第1の実施形態の燃料電池10を示す斜視図である。燃料電池10は、セパレータ20、セパレータ30、および膜電極接合体100を有している。膜電極接合体100は、セパレータ20とセパレータ30の間に位置する。
【0016】
膜電極接合体100は、電解質膜110と、電解質膜110の両側に設けられた触媒層112,114と、触媒層112,114の外側に設けられた拡散層120,122と、を有している。なお、触媒層114は、図1においては、電解質膜110の裏側に位置するため、図示されない。
【0017】
電解質膜110は、水を含有した状態で水素イオンを伝導することができる固体高分子膜である。本実施形態では、一例としてナフィオン(登録商標)を使用する。電解質膜110には、温度センサTmが設けられている。
【0018】
触媒層112,114は、電解質膜110の両側に接触するように設けられる。触媒層112,114は、たとえば、カーボン粒子の表面に白金触媒を担持させたものを電解質膜110の表面に積層して作成される。カーボン粒子の表面には、電解質膜110と同素材の電解質が付着されている。各カーボン粒子は、その電解質を介して電解質膜110および他のカーボン粒子と接合する。触媒層112は、酸素極(カソード)として機能する。触媒層114は、水素極(アノード)として機能する。燃料電池の運転中は、電子は、図示しない電気回路を通って水素極(触媒層114)から酸素極(触媒層112)に移動する。
【0019】
拡散層120は、触媒層112に対して電解質膜110とは逆の側に設けられる。拡散層122は、触媒層114に対して電解質膜110とは逆の側に設けられる。拡散層120,122は、たとえば、撥水処理されたカーボンペーパとすることができる。膜電極接合体100内に存在する水は、拡散層120,122を伝わって外部に排出される。このため、膜電極接合体100の酸素極および水素極において水が滞留して燃料ガスおよび酸化ガスと電極との接触が妨げられ、その結果、発電が阻害されてしまう可能性が低減される。
【0020】
セパレータ20は酸素流路22を有しているカーボン製の板状体である。すなわち、酸素流路22の内壁の一部22wは、セパレータ20によって構成される。そして、酸素流路22の内壁の他の一部は、拡散層120によって構成される。酸素流路22は、セパレータ20と触媒層112の間に位置する。
【0021】
この酸素流路22内を流通する酸素含有ガスは、拡散層120を介して触媒層112と接触する。酸素含有ガスの流通方向を図1においてAoで示す。第1の実施形態では、酸素含有ガスは空気である。
【0022】
一方、セパレータ30は水素流路32を有しているカーボン製の板状体である。すなわち、水素流路22の内壁の一部32wは、セパレータ30によって構成される。そして、水素流路32の内壁の他の一部は、拡散層122によって構成される。水素流路32は、セパレータ30と触媒層114の間に位置する。
【0023】
この水素流路32内を流通する水素含有ガスは、拡散層122を介して触媒層114と接触する。本明細書においては、この水素含有ガスを「燃料ガス」とも言う。燃料ガス中の水素のイオンは、水素極114側から酸素極112側に膜電極接合体100を透過し、酸素極112側において酸素と反応する。燃料ガスの流通方向を図1においてAhで示す。
【0024】
なお、図1では、燃料電池10の主要な構成部分のみを示した。図1では図示を省略したが、燃料電池10は、酸素流路22内の空気が外部に漏出せず、かつ、水素極側に漏出しないように構成されている。また、燃料電池10は、水素流路32内の水素含有ガスが外部に漏出せず、かつ、酸素極側に漏出しないように構成されている。
【0025】
図2は、膜電極接合体100の拡大平面図および拡大断面図である。図2の上段に、膜電極接合体100の拡大平面図を示す。図2の下段に、膜電極接合体100のA−A断面図を示す。拡散層120は、一部に、親水性を有する吸水発性熱繊維で構成された発熱部120tを有する。発熱部120tは、拡散層120を構成するカーボンペーパ120cを触媒層112の側からセパレータ20(酸素流路22)の側に貫通するように構成されている。このような態様とすることで、触媒層112において電気化学反応によって生成された水を、親水性の発熱部120tを介して酸素流路22に排出できる。なお、拡散層120のカーボンペーパ120cは、撥水性である。拡散層120における発熱部120tの割合は、乾燥状態で約5重量%である。
【0026】
なお、発熱部120tは、たとえば、拡散層120を構成するカーボンペーパ120cにレーザで穴をあけ、その穴内に吸水発性熱繊維を充填することで形成することができる。吸水発性熱繊維としては、東洋紡績株式会社のモイスケア(商品名)、または美津濃株式会社よりブレスサーモ(商品名)として販売されている製品を使用することができる。これらの吸水発熱性繊維は、水分を吸収して発熱する。また、これらの吸水発熱性繊維は、加熱され、または発熱時に比べて湿度が低い環境下におかれると、水分を放出して、発熱前の状態に戻る。そして、その後、再び水分を吸収して発熱することができる。これらの製品は、親水性を有する。
【0027】
拡散層122も、同様に、発熱部122tを有する(図2の下段参照)。拡散層122の発熱部122tの構成および製法は、拡散層120の発熱部120tと同じである。このような態様とすることで、触媒層112から電解質膜110を通じて触媒層114に浸透した水のうちの過剰な水を、発熱部122tを介して水素流路32に排出できる。
【0028】
図3は、セパレータ20の拡大平面図および拡大断面図である。図3の上段に、セパレータ20の拡大平面図を示す。図3の下段に、セパレータ20のB−B断面図を示す。セパレータ20は、酸素流路22の内壁22wを構成する側の面を、発熱部20tで覆われている。発熱部20tは、図3の上段に示すように、格子状に構成されている。各格子を形成する辺は、吸水発熱性繊維を互いに接するように辺に平行に配して構成することができる。
【0029】
発熱部20tが格子状に構成されているため、セパレータ20の一部は露出している。このセパレータ20の露出部20eを通じて、セパレータ20と膜電極接合体100との間に導電性が確保される。なお、発熱部20tがセパレータ20の酸素流路22を構成する側の面を覆っている部分の面積比は、約5%である。
【0030】
なお、発熱部20tは吸水発熱性繊維1本分の厚みで構成される。このような構成とすることで、セパレータ20と膜電極接合体100との接触抵抗を少なくすることができる。
【0031】
セパレータ30も、同様に、発熱部30tを有する。セパレータ30の発熱部30tの構成は、セパレータ20の発熱部20tと同じである。そのような態様とすることで、セパレータ30の露出部30eを通じて、セパレータ30と膜電極接合体100との間に導電性が確保される。
【0032】
図4は、低温環境下における本実施形態の燃料電池10の運転方法を示すフローチャートである。「低温環境下」とは、たとえば、0度C以下の環境下である。ユーザによって燃料電池10の運転開始が指示されると、まず、ステップS10において、暖機運転が行われる。具体的には、水分を含む空気が酸素流路22に送られる。また、水分を含む燃料ガスが水素流路32に送られる。この段階では、水素極(触媒層114)と酸素極(触媒層112)を結ぶ電気回路はONになっていない。このため、ステップS10では、発電は行われない。
【0033】
ステップS10においては、吸水発熱繊維で構成されたセパレータ20の発熱部20t、および拡散層120の発熱部120tが、空気が含む水分を吸収して発熱する(図2および図3参照)。また、吸水発熱繊維で構成されたセパレータ30の発熱部30t、および拡散層122の発熱部122tが、燃料ガスが含む水分を吸収して発熱する。
【0034】
ステップS20においては、温度センサTmの出力に基づいて、電解質膜110が所定の温度Tthに達したか否かが判定される。なお、電解質膜110、触媒層112,114は、一体に設けられた薄膜であるので、触媒層112,114の温度は、電解質膜110の温度と等しい。電解質膜110がTthに達していない場合には、処理はステップS10に戻る。電解質膜110がTthに達した場合は、処理はステップS30に進む。なお、ここでは、温度Tthは1度Cとする。ただし、Tthは、0〜5度Cの任意の温度とすることができる。
【0035】
ステップS30では、定常運転が行われる。具体的には、水素極(触媒層114)と酸素極(触媒層112)を結ぶ電気回路がONされ、発電が行われる。ステップS30においては、上記の所定の温度、たとえば80度C以上の環境で発電が行われる。このため、望ましい環境温度の下で効率的に発電を行うことができる。なお、定常運転においては、暖機運転と同様に、加湿した空気および燃料ガスを膜電極接合体100に供給することができる(図1参照)。しかし、電解質膜110が充分な湿潤状態にあるときには、空気および燃料ガスの少なくとも一方への加湿を停止して、発電を行うこともできる。
【0036】
ステップS40では、ユーザによって燃料電池10の運転終了が指示されたか否かが判定される。ユーザによって燃料電池10の運転終了が指示されていない間は、ステップS30の定常運転が行われる。ユーザによって燃料電池10の運転終了が指示されると、処理はステップS50に進む。
【0037】
ステップS50では、乾燥運転が行われる。具体的には、定常運転時に比べて加湿される水分の量が少ない空気が酸素流路22に送られる。また、定常運転時に比べて加湿された水分の量が少ない燃料ガスが水素流路32に送られる。なお、「定常運転時に比べて」とは、定常運転においてもっとも加湿される水分が多い状態との比較を意味する。乾燥運転においては、たとえば、空気および燃料ガスは、加湿されずに電解質膜110に供給される。
【0038】
そして、乾燥運転においては、燃料電池10は、高電流かつ低電圧で運転される。その結果、膜電極接合体100が高温となる。すると、吸水発熱繊維で構成された拡散層120の発熱部120t、および拡散層122の発熱部122tは熱を吸収し、湿度の低い空気または燃料ガスに対して水分を放出する。そして、発熱部120tおよび発熱部122tは、「水分を与えられると再び発熱が可能である状態」となる。
【0039】
また、燃料電池10は、高電流かつ低電圧で運転されると、膜電極接合体100の熱でセパレータ20,30も高温となる。このため、吸水発熱繊維で構成されたセパレータ20の発熱部20t、およびセパレータ30の発熱部30tは熱を吸収し、湿度の低い空気または燃料ガスに対して水分を放出する。その結果、発熱部20tおよび発熱部30tは、「水分を与えられると再び発熱が可能である状態」となる。
【0040】
ステップS50において、所定時間、乾燥運転が行われると、燃料電池10の運転は終了する。なお、運転終了時には、燃料電池10内の酸素流路22および水素流路32は密閉され、ガスが流通しない状態を保たれる。そのようにすることで、運転が停止されている間、発熱部120t、発熱部122t、発熱部20tおよび発熱部30tが外部から侵入する空気や燃料ガスから水分を吸収しない状態が保たれる。なお、通常無加湿の外気より運転時の加湿ガスの方が湿度が高い。そのため、仮に多少外気が侵入して各発熱部が若干発熱したとしても、加湿ガス導入時にそれらは十分発熱する。よって、運転終了時に酸素流路22および水素流路32を密閉しない態様とすることもできる。
【0041】
運転終了後に上記の処理が行われるため、発熱部120t、発熱部122t、発熱部20tおよび発熱部30tは、運転終了後、「水分を与えられると再び発熱可能な状態」を保たれる。よって、その後、再び低温環境下で燃料電池10の運転開始の指示が出された場合には、ステップS10において、発熱部120t、発熱部122t、発熱部20tおよび発熱部30tを発熱させ、暖機運転を行うことができる。
【0042】
なお、ステップS10における暖機運転において発熱部120t、発熱部122t、発熱部20tおよび発熱部30tに吸収された水分の一部は、ステップS20における定常運転において放出される。定常運転においては、暖機運転よりも温度が高い状態が保たれるためである。放出された水分は、電解質膜110を一定の湿潤状態に保つために使用される。また、過剰な水分は、酸素流路22、水素流路32を通じて排出される。
【0043】
燃料電池10を以上で説明したような構成とし、図4のように運転することで、以下のような効果が得られる。すなわち、電気ヒータや燃料ガスを燃焼させる装置などの、膜電極接合体100を加熱するための加熱装置を別途、設けることなく、低温環境下において燃料電池の温度を上昇させることができる。
【0044】
また、本実施形態において発熱素材に供給される水分は、燃料ガスおよび酸化ガスに含有される水分である。燃料ガスおよび酸化ガスには、膜電極接合体100を一定の湿潤状態に保つため、多くの場合、加湿されている。すなわち、多くの場合、燃料ガスおよび酸化ガスに水分を保持させるための加湿手段が、燃料電池に設けられている。本実施形態によれば、それらの加湿手段によって燃料ガスおよび酸化ガスに付与される水分を利用して、膜電極接合体100を加熱することができる。
【0045】
また、本実施形態においては、発熱部120t,122tが膜電極接合体100の拡散層120,122に設けられている。このため、燃料電池10を収納するケーシングに発熱素材を配する態様に比べて、効率的に膜電極接合体100を加熱することができる。
【0046】
また、本実施形態においては、発熱部20t,30tがセパレータ20,30に設けられている。このため、燃料電池10を収納するケーシングに発熱素材を配する態様に比べて、効率的に燃料ガスおよび酸化ガスを加熱することができる。よって、発熱部120t,122tによって加熱された膜電極接合体100の熱が、セルスタック外から供給される低温の燃料ガスや酸化ガスによって奪われてしまう可能性を低減できる。
【0047】
さらに、本実施形態においては、撥水性の拡散層120内に、触媒層112の側から酸素流路22の側に貫通するように、親水性の発熱部120tが設けられている。このため、触媒層112における過剰な水分は、効率的に酸素流路22に排出される。よって、低温環境下で触媒層112において過剰な水分が凍結してしまう可能性を低減することができる。拡散層122内の発熱部122tも同様の効果を奏する。よって、低温環境下で触媒層114において過剰な水分が凍結してしまう可能性を低減することができる。
【0048】
B.変形例:
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0049】
B1.第1変形例:
上記の実施形態においては、吸水発熱性繊維で構成される部分は、セパレータ20,30の表面、および拡散層120,122内に設けられた(図2および図3参照)。しかし、吸水発熱性繊維で構成される部分は、これらの構成のうちの一部にのみ設けることもできる。また、電解質膜110や触媒層112,114内に吸水発熱性繊維を混入させることもできる。また、ある層と他の層との間に、吸水発熱性素材を配することもできる。そのような態様としても、効率的に膜電極接合体100を加熱することができる。なお、層と層の間に吸水発熱性素材を配する場合には、それらの層同士の接触を妨げないような態様で配することが好ましい。
【0050】
なお、電解質膜110や触媒層112,114内に吸水発熱性繊維を混入させる場合には、0.01〜10重量%だけ混入することが好ましい。吸水発熱性繊維の割合が0.01重量%未満の場合には、触媒層や電解質膜を加熱するのに充分な熱を供給することができず、10重量%よりも多い場合には、発電性能が大きく低下するためである。
【0051】
また、上記実施形態では、拡散層120における発熱部120tの割合および拡散層122における発熱部122tの割合は、乾燥状態で約5重量%である。しかし、拡散層に含まれる発熱部の割合は他の値とすることもできる。ただし、拡散層に含まれる発熱部の割合は、乾燥状態で0.1〜10重量%であることが好ましい。発熱部の割合が0.1重量%未満の場合には、触媒層や電解質膜を加熱するのに充分な熱を供給することができず、10重量%よりも多い場合には、発電性能が大きく低下するためである。
【0052】
B2.第2変形例:
上記実施形態では、拡散層120,122は、撥水処理されたカーボンペーパで構成される。しかし、拡散層120,122は、他の素材で構成することもできる。たとえば、拡散層120,122は、撥水処理されたカーボンクロスとすることができる。すなわち、拡散層は、連通した空隙を備える層とすることができる。なお、拡散層は、撥水性を有している部分を備えることが好ましい。
【0053】
また、上記実施形態では、拡散層120,122の発熱部120t,122tは、レーザであけられた穴に吸水発熱性素材を充填して構成された。しかし、拡散層120,122の発熱部120t,122tは、カーボンペーパに注射器で吸水発熱性素材を注入するなど、他の方法で形成することもできる。
【0054】
B3.第3変形例:
上記実施形態においては、セパレータ20,30は、ガス流路を構成する側の面全体を発熱部20t,30tで覆われていた(図3参照)。しかし、セパレータは、ガス流路を構成する側の面の一部の領域を発熱部で覆われる態様とすることもできる。たとえば、ガス流路の内面を構成する部分のみを発熱部で覆われる態様とすることができる。さらに、ガス流路の内面を構成する部分のさらに一部の領域のみを発熱部で覆われる態様とすることもできる。
【0055】
また、上記実施形態では、発熱部20tは、セパレータ20の酸素流路22を構成する側の面を、5%だけ覆うように構成される(図3参照)。また、発熱部30tは、セパレータ30の水素流路32を構成する側の面を、5%だけ覆うように構成される。しかし、発熱部がセパレータを覆う面積の割合は、他の値とすることができる。ただし、発熱部がセパレータを覆う面積の割合は、0.1〜10%とすることが好ましい。発熱部がセパレータを覆う面積の割合が0.1重量%未満の場合には、ガス流路を流通するガスを加熱するのに充分な熱を供給することができないためである。そして、発熱部がセパレータを覆う面積の割合が10重量%よりも多い場合には、接触抵抗が大きくなり、発電性能が大きく低下するためである。
【0056】
また、上記実施形態においては、セパレータ20,30は、ガス流路を構成する溝22,23が設けられたカーボン製の板状体である。しかし、セパレータは他の態様とすることもできる。
【0057】
たとえば、セパレータは、連通する空隙を有する構成要素を触媒層の側に備える態様とすることもできる。連通する空隙を有する構成要素としては、たとえば、互いに連通する細孔を有する発泡チタンなどの発泡金属、カーボンペーパ、カーボンクロスなどを採用することができる。そのような態様においては、連通する空隙を有する構成要素がガス流路として機能する。そして、セパレータがガス流路の外殻の少なくとも一部を構成する。ガス流路は、ガス流路内のガスが外部に漏出せず、かつ、他方の極の側に漏出しないように構成される。
【0058】
また、燃料電池は、拡散層がガス流路を兼ねる態様とすることもできる。そのような態様においても、セパレータがガス流路の外殻の少なくとも一部を構成する。
【0059】
B4.第4変形例:
上記実施形態においては、触媒層112と拡散層120は、互いに接している(図2の下段参照)。また、触媒層114と拡散層122も、互いに接している。さらに、拡散層120とセパレータ20は、互いに接している(図1参照)。また、拡散層122とセパレータ30も、互いに接している。
【0060】
しかし、これらの各構成要素の間に、他の層を設けることもできる。たとえば、拡散層は、触媒層に対して電解質膜とは逆の側において、触媒層に接して、または触媒層との間に他の層を挟んで、設けられる態様とすることができる。また、セパレータは、拡散層に対して触媒層とは逆の側において、拡散層に接して、または拡散層との間に他の層を挟んで、設けられる態様とすることができる。
【0061】
B5.第5変形例:
上記実施形態においては、発熱部120t、発熱部122t、発熱部20tおよび発熱部30tは、吸水発性熱繊維で設けられている。しかし、これらの構成は、他の素材で設けることもできる。すなわち、素材の態様は、固形であってもよいし、ゲル状であってもよい。すなわち、膜電極接合体を加熱するための発熱部は、環境に関する第1の状態において水分を吸収して発熱することができ、環境に関する第2の状態であって第1の状態よりも湿度が低い第2の状態において、水分を放出して発熱可能な状態となることができる吸水発熱性素材で設けることができる。そして、吸水発熱性素材は水分を放出させることで、くり返し発熱可能なものであることが好ましい。
【0062】
B6.第6変形例:
上記実施形態においては、膜電極接合体100の温度に応じた燃料電池10の運転は、電解質膜110に設けられた温度センサTmの出力に基づいて行われた(図1および図4のステップS20参照)。しかし、温度センサは、他の場所に設けることもできる。たとえば、温度センサは、触媒層112,114のいずれかに設けることができ、拡散層120,122のいずれかに設けることもできる。さらに、温度センサは、セルの冷却水出口に設けることもできる。すなわち、温度センサは、燃料電池10内において、その出力に基づいて電解質膜110および触媒層112,114の温度を推定することができる場所に設けることができる。言い換えれば、電解質膜および触媒層の温度は、直接的に測定されることができ、また、間接的に測定されることもできる。
【0063】
B7.第7変形例:
上記実施形態においては、乾燥運転時には、湿度の低いガスの供給と、燃料電池10の高電流かつ低電圧の運転と、の両方が行われていた。しかし、いずれか一方のみを行うこともできる。そのような態様としても、セパレータや膜電極接合体100内の吸水発熱性繊維から水分を放出させて、発熱可能な状態とすることができる。
【0064】
B8.第4変形例:
上記実施形態では、暖機運転中は、発電を行わない(図4のステップS10参照)。しかし、暖機運転中においても発電を行うこともできる。そのような態様においては、上記の実施形態に比べて、ユーザによる運転開始の指示から短い時間で発電を開始することができる。また、発電によって生成された水を使用して、吸水発熱性繊維で膜電極接合体100を加熱することができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】第1の実施形態の燃料電池10を示す斜視図。
【図2】膜電極接合体100の拡大平面図および拡大断面図。
【図3】セパレータ20の拡大平面図および拡大断面図。
【図4】低温環境下における実施形態の燃料電池10の運転方法を示すフローチャート。
【符号の説明】
【0066】
10…燃料電池
20,30…セパレータ
20e…露出部
20t…発熱部
22…酸素流路
30…セパレータ
30e…露出部
30t…発熱部
32…水素流路
100…膜電極接合体
110…電解質膜
112…触媒層(酸素極)
114…触媒層(水素極)
120,122…拡散層
120c…カーボンペーパ
120t…発熱部
122…拡散層
122t…発熱部
122c…カーボンペーパ
Ao…酸素含有ガスの流通方向を示す矢印
Ah…水素含有ガスの流通方向を示す矢印

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池であって、
電解質膜と、
前記電解質膜に接している触媒層と、
前記触媒層に対して前記電解質膜とは逆の側に設けられた拡散層と、
前記拡散層に対して前記触媒層とは逆の側に設けられるセパレータと、を備え、
前記触媒層と前記電解質膜と前記拡散層と前記セパレータとのうちの少なくとも一つの構成要素は、水分を吸収して発熱することができ前記水分を放出して発熱可能な状態となることができる吸水発熱性素材を含む、燃料電池。
【請求項2】
請求項1記載の燃料電池であって、
前記拡散層は、前記吸水発熱性素材を使用して構成され前記拡散層内において前記セパレータの側から前記触媒層の側まで設けられた発熱部を備える、燃料電池。
【請求項3】
請求項1記載の燃料電池であって、
前記セパレータは、
前記触媒層に供給されるガスが流通するガス流路の内壁の少なくとも一部を構成し、
前記内壁を構成する部分に前記吸水発熱性素材を使用して構成された発熱部を備える、燃料電池。
【請求項4】
請求項1記載の燃料電池の運転方法であって、
(a)所定の条件が満たされる場合に、前記触媒層と前記セパレータの間に位置するガス流路に水分を含むガスを供給する工程を含む、方法。
【請求項5】
請求項4記載の方法であって、さらに、
(b)前記触媒層の温度が第1の温度より高いときに、前記ガス流路にガスを供給して発電を行う工程を含み、
前記所定の条件は、前記工程(b)を実行する前において前記触媒層の温度が第1の温度未満であることを含む、方法。
【請求項6】
請求項5記載の方法であって、さらに、
(c)前記工程(a)の後に、前記少なくとも一つの構成要素を乾燥させる工程を含む、方法。
【請求項7】
請求項6記載の方法であって、さらに、
(d)前記工程(c)の後に、前記ガス流路内のガスの流通を止める工程を含む、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−16322(P2008−16322A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−186543(P2006−186543)
【出願日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】