説明

燃料電池および燃料電池の運転方法

【課題】 本発明は、有機燃料を気化して発電部に供給し発電部においてプロトンを生成しさらにそのプロトンを酸素と反応させて水を生成するプロセスにより発電を行なう燃料電池等に関し、再現性のある高出力発電を可能とする。
【解決手段】 発電部に空気を取り込ませる空気供給口と、空気供給口を開閉自在に遮へいするシャッタと、発電開始前の、発電部が不活性状態にあるか活性状態にあるかを判定する判定部と、発電部が不活性状態にあることの判定を受けて、発電部に有機燃料が供給される状態で空気供給口をシャッタに遮へいさせる活性化処理を行なわせて活性化処理後にシャッタに空気供給口を開放させることにより発電を開始させ、発電部が活性状態にあることの判定を受けたときは活性化処理を行なわずにシャッタに空気供給口を開放させることにより発電を開始させる制御部とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機燃料を気化して発電部に供給し発電部においてプロトンを生成しさらにそのプロトンを酸素と反応させて水を生成するプロセスにより発電を行なう燃料電池、およびその燃料電池の運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、PDA、ノートパソコン等の携帯電子機器の著しい進歩により、消費電力の増加、長時間使用化が進み、その駆動電源である電池には更なる性能向上が求められている。しかし、現在ほとんどの携帯電子機器に搭載されている二次電池では、材料面、構造面から性能向上がほぼ限界に近づきつつある。これに対し、新規の高容量駆動電源として、燃料の理論容量が大きくリチウムイオン電池と比較して数倍の高容量化が期待されるダイレクトメタノール型燃料電池(DMFC)に注目が集まっている。これは、電解質に高分子固体電解質を用い、燃料として有機燃料から改質された水素を供給することなく、メタノールなどの有機燃料を電池上に直接に供給することでエネルギー密度を向上させた燃料電池であり、軽量小型化に適している。ダイレクトメタノール方式では、燃料極触媒にメタノールと水を液相あるいは気相で供給し、触媒上でプロトンと二酸化炭素が生成され、プロトンは高分子固体電解質膜中を透過して酸素と化合して水を生成する。この際、燃料極、空気極を外部回路に接続することで電力が取り出せる。
【0003】
DMFCにおける燃料供給方法には、燃料極表面に液体状態の燃料を直接供給する液体供給式と、液体燃料を気化させた後に発電部へ供給する気化供給式に分類できる。
【0004】
気化供給式ではタンク内から供給する燃料を高濃度化することが可能となり、同一容積で比較すると低濃度の燃料を液相で使用する場合に比べてエネルギー密度が向上する。従って、小型化、高エネルギー密度化が要求されている携帯電子機器用途では、気化供給式が適した方式であると言える。
【0005】
このダイレクトメタノール型燃料電池においては、触媒層や電解質膜の乾燥によって、発電開始時に発電が不安定になるという現象を生じる場合がある。この現象は、気化供給式の場合に特に顕著となる。このような発電開始時における発電の不安定な状態に対応する技術として、次の特許文献1が知られている。
【特許文献1】特開2007−123157号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1には、出力電圧値を監視し、その電圧値に応じて負荷の接続を制御することの開示はあるものの、触媒層や電解質膜の乾燥により生じる出力の不安定を解消させる技術については開示されていない。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑み、触媒層や電解質膜の乾燥により生じる出力の不安定を解消させ、再現性のある高出力発電を可能とする燃料電池およびその運転方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成する本発明の燃料電池は、有機燃料を気化して発電部に供給し発電部においてプロトンを生成しさらにそのプロトンを酸素と反応させて水を生成するプロセスにより発電を行なう燃料電池において、
発電部に空気を取り込ませる空気供給口と、
空気供給口を開閉自在に遮へいするシャッタと、
発電開始前の発電部が不活性状態にあるか活性状態にあるかを判定する判定部と、
発電部が不活性状態にあることの判定を受けて、発電部に有機燃料が供給される状態で空気供給口をシャッタに遮へいさせる活性化処理を行なわせる制御部とを備えたことを特徴とする。
ここで、上記制御部は、活性化処理後にシャッタに空気供給口を開放させることにより発電を開始させ、発電部が活性状態にあることの判定を受けたときは活性化処理を行なわずにシャッタに空気供給口を開放させることにより発電を開始させるものであることが好ましい。
【0009】
本発明の燃料電池は、発電開始前に発電部が活性状態にあるか不活性状態にあるかを判定し、不活性状態にあるときにのみ上記の活性化処理を行なうものであるため、再現性のある安定な高出力発電が行なわれる。
【0010】
また、本発明の燃料電池において、発電開始前の発電部の交流抵抗値を測定する抵抗値測定部と、
前回の発電からの経過時間を測定する時間計測部とを備え、
上記判定部は、時間計測部で計測された経過時間が基準時間以上であるとき、および経過時間は基準時間未満であっても測定部で測定された交流抵抗値が基準値以上であるときに、発電部が不活性状態にある旨判定するものであることが好ましい。
【0011】
発電部の不活性状態は、発電部の乾燥や酸化等により引き起こされると考えられる。したがって、前回の発電からの経過時間や発電部の交流抵抗値を測定することによって不活性状態にあるか否かを適正に判定することができる。
【0012】
ここで、前回の発電からの経過時間としては、前回の発電終了からの経過時間を採用することができ、それに限られず、例えば、前回の発電開始からの経過時間や、あるいは前回の発電のタイミングを指標する、例えば燃料カートリッジが存在する場合の、その燃料カートリッジの装着のタイミング等からの経過時間であってもよい。
【0013】
また、交流抵抗値としては、1kHz以上の周波数における交流抵抗値を採用することが好ましい。
【0014】
また、本発明の燃料電池は、有機燃料を含浸させた燃料含浸材を収容し、発電部を有する燃料電池本体に着脱自在に装着される燃料カートリッジを備えたものであってもよく、その場合に、上記判定部は、燃料カートリッジが燃料電池本体に装着されたことを受けて発電部が不活性状態にあるか活性状態にあるかを判定するものであることが好ましい。
【0015】
また、本発明の燃料電池は、濃度80%以上のメタノール水溶液を収容しメタノールを有機燃料とするものであることが好ましい。
【0016】
また、本発明の燃料電池の運転方法は、有機燃料を気化して発電部に供給し発電部においてプロトンを生成しさらにプロトンを酸素と反応させて水を生成するプロセスにより発電を行なう燃料電池の運転方法において、
上記燃料電池が、発電部に空気を取り込ませる空気供給口と、空気供給口を開閉自在に遮へいするシャッタとを備えたものであり、
発電開始前に、発電部が不活性状態にあるか活性状態にあるかを判定する判定ステップと、
発電部が不活性状態にあることの判定を受けて、発電部に有機燃料が供給される状態で空気供給口をシャッタに遮へいさせる活性化処理ステップと、
上記活性化処理後に、又は、発電部が活性状態にあることの判定を受けたときは活性化処理ステップをスキップして、シャッタに空気供給口を開放させることにより発電を開始させる発電開始ステップとを有することを特徴とする。
【0017】
ここで、本発明の燃料電池の運転方法において、
発電開始前の発電部の交流抵抗値を測定するとともに、前回の発電からの経過時間を測定する測定ステップを有し、
上記判定ステップは、前回の発電からの経過時間が基準時間以上であるとき、および、経過時間が基準時間未満であっても交流抵抗値が基準値以上であるときに、発電部が不活性状態にある旨、判定するステップであることが好ましい。
【0018】
また、本発明の燃料電池の運転方法において、当該燃料電池が、有機燃料を含浸させた燃料含浸材を収容し、発電部を有する燃料電池本体に着脱自在に装着される燃料カートリッジを備えたものであって、
上記判定ステップは、燃料カートリッジが燃料電池本体に装着されたことを受けて、発電部が不活性状態にあるか活性状態にあるかを判定するステップであってもよい。
【発明の効果】
【0019】
以上説明した本発明によれば、再現性のある高出力発電が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0021】
上記に示した気化供給式の技術の一つとして、以下に示すような、複数の孔をケース表面に設けたカード形状のカートリッジ内に、メタノールをNafionのような高分子材料に含浸させて固体状に固定したものを保持したものが考えられている(特願2006−999716号)。
【0022】
このカートリッジの特徴としては、メタノールが液体として漏出しないこと、カートリッジごと交換可能なために気化特性の劣化がないことが挙げられる。
【0023】
このようなカード形状のカートリッジを燃料供給系に用いる場合、燃料を消費した後、新たなカートリッジを挿入する必要がある。このようなカートリッジ交換の操作後に発電を行った場合、低出力のまま推移するなど、再現性のある発電ができない場合があるという問題がある。これは、カートリッジ交換の際にアノード側触媒層が大気に直接さらされ、触媒層および膜中の電解質相の乾燥や、触媒表面の酸化等が起こり、出力低下が起こったためであると考えられる。
【0024】
ここで、電解質相の湿潤や触媒表面の清浄化を目的とした、カートリッジ適用燃料電池の発電開始前における簡便な活性化手法として、カソード側への空気供給を遮断して一定時間放置する無酸素無発電放置の操作を行う方法が考えらていれる(特願2007−027531号)。
【0025】
しかし、前回の発電終了後に、速やかにこの処理を行って発電を開始すると、膜中のメタノール透過が過多となり、熱暴走を引き起こして安定な発電を行うことができない場合があるという問題がある。
【0026】
以下に示す例は、このような問題を解決するものである。
【0027】
図1は、本発明の一実施形態に係る燃料電池を備えた携帯電話機の模式図である。
【0028】
ここでは、燃料電池の用途の一例として、携帯電話機について説明する。
【0029】
携帯電話機には、典型的にはリチウム電池(図示せず)が内蔵されそのリチウム電池から供給される電力で動作するが、図示の燃料電池はそのリチウム電池を充電するために装備されている。
【0030】
図1に示す携帯電話機10には、開閉自在なカバー11が備えられており、そのカバー11を開いてカード型の燃料カートリッジ22が装着される。この燃料カートリッジ22には、有機燃料としてのメタノール水溶液を含浸させた燃料含浸材が収容されている。
【0031】
また、この携帯電話機10には、空気供給口12が設けられており、さらにその空気供給口12を開閉するシャッタ部材13が備えられている。このシャッタ部材13はシャッタ駆動部14によって駆動されて矢印A−A′方向に移動して空気供給口12を開閉する。また、この図1には、燃料電池の発電を制御するための内蔵制御回路15が示されている。この携帯電話機10内には、発電を行なう発電部(図示せず)が備えられており、燃料カートリッジ22からメタノール燃料の供給を受け発電して内蔵リチウム電池を充電する。一回の発電(リチウム電池の充電)が完了すると、燃料カートリッジ22は、この携帯電話機外に取り出される。
【0032】
図2は、カード形状の燃料カートリッジを適用した、燃料電池の内部構造を示した模式断面図である。
【0033】
この図2に示す燃料電池20は、ポンプやファン等の補器を用いない、小型化に適したいわゆるパッシブ型の構造を持つ燃料電池である。
【0034】
この燃料電池20(内部構造部分のみ、制御回路は後述する)は、その筐体21内に、カード型の燃料カートリッジ22が着脱自在に装着される。この燃料カートリッジ22は、内部に有機燃料としてのメタノール水溶液を含浸させた、高分子材料からなる燃料含浸材221が収容されており、また、この燃料カートリッジ22には、その燃料含浸材221から気化したメタノール燃料を放出させるための多数の孔222が形成されている。
【0035】
この燃料カートリッジ22から供給されたメタノールガスは、気化燃料拡散層23を通り、燃料極集電体24を通り、さらに燃料極ガス拡散層25を通って発電部26に達する。
【0036】
一方、筐体21に設けられた多数の孔211からなる空気供給口29からは空気が取り込まれ、その空気は、空気極集電体28を通り、空気極ガス拡散層27を通って発電部26に達する。
【0037】
発電部26は、燃料極触媒層261、固体電解質層262、および空気極触媒層263から構成されている。
【0038】
また、空気供給口29の前面にはシャッタ部材30が備えられており、このシャッタ部材30は矢印A−A′方向に移動して空気供給口29を開閉する役割りを担っている。
【0039】
発電部26は、アノードとしての燃料極触媒層261とカソードとしての空気極触媒層263を固体電解質層262を介して対向させた構造のものであり、アノード(燃料極触媒層261)では燃料が酸化されてプロトンと電子が取り出され、カソード(空気極触媒層263)では酸素と、アノードで生成された電子およびプロトンとから水が生成される。
【0040】
燃料極触媒層261および空気極触媒層263は、それぞれの電気化学反応を生ずることが可能な触媒または触媒担持体とプロトン導電性高分子電解質とを混合して、ガス拡散層または固体電解質に塗布したものである。
【0041】
また、固体電解質層262は、アノードにおいて生成したプロトンをカソードに輸送するための経路であり、電子伝導性を持たず、高いプロトン伝導性を有するものであり、代表的なものとしてはデュポン社製のNafion膜がある。
【0042】
燃料極集電体24および空気極集電体28は表面をAuメッキされたSUS304、SUS316など導電性を持ち耐食性の高い合金からなり、燃料および空気中の酸素を触媒層に導入できるようメッシュ、エキスパンドメタル、発泡金属などの形状を有するものである。
【0043】
燃料極ガス拡散層25および空気極ガス拡散層27は燃料および空気中の酸素を触媒層に導入できるよう多孔質体の形状とし、触媒層と集電体の間に配置されたときには導電性を持つ必要があり、このような材料としてはカーボンペーパなどがある。
【0044】
気化燃料拡散層23も燃料極ガス拡散層25と同様である。
【0045】
カートリッジ22内に保持するメタノールを固定するための高分子材料としては、メタノールが含浸するものであり、一般に高分子固体電解質やイオン交換膜として用いられているカルボキシル基またはスルホン基を含む高分子膜が好適であり、高濃度メタノール水溶液に対する不溶性の観点から、特にパーフルオロ系の樹脂膜が好適である。具体的には、Nafion(登録商標)(デュポン社製)、フレミオン(旭硝子社製商品名)、アシプレックス(旭化成社製商品名)を用いることができる。
【0046】
図3は、シャッタ部材の構造および作用を示す模式図である。
【0047】
図3(A)は、空気供給口29を示しており、ここには筐体21に多数の孔211が形成されている。
【0048】
図3(B)は、シャッタ部材30を示しており、このシャッタ部材30にも、筐体21に設けられた多数の孔211と同一ピッチの多数の孔301が形成されている。
【0049】
このシャッタ部材30は、図3(C)の状態と図3(D)との間で移動し、図3(C)の状態では、筐体21の孔211にシャッタ部材30の孔301が重なって空気供給口29を開き、図3(D)の状態では、シャッタ部材30の孔301が筐体21の孔211とはずれた位置に移動して筐体21の孔211がシャッタ部材30で塞がれ、空気供給口29が閉じられる。
【0050】
図4は、本実施形態の燃料電池を動作させる制御回路のブロック図である。
【0051】
交流抵抗測定回路41では、図2に示す燃料電池20に燃料カートリッジ22が装着されたことを契機として、燃料極集電体24と空気極集電体28との間の、1kHz以上の高周波数における交流抵抗値が測定され、その測定された交流抵抗値が判定回路42に入力される。また、この判定回路42には、時間測定回路43から、前回の発電終了からの経過時間が入力される。
【0052】
これらの交流抵抗値および経過時間は、触媒層や電解質層の湿潤状態の指標であり、判定回路42では、入力されてきた交流抵抗値および経過時間を元にその湿潤状態が評価され、活性化処理が必要か否かが判定される。具体的には、経過時間が基準時間以上であれば活性化処理が必要であると判定され、また、経過時間が基準時間未満であっても、交流抵抗値が基準値以上であるときは活性化処理が必要であると判定される。一方、それ以外の条件、すなわち、経過時間が基準時間未満であって、かつ交流抵抗値も基準値未満のときは活性化処理は不要であると判定される。
【0053】
シャッタ部材駆動回路43は、判定回路42による判定結果を受けて、活性化処理が不要の場合は、シャッタ部材30を図3(C)の状態に変位させて空気供給口29を開き、燃料電池発電部で発電が開始される。一方、活性化処理が必要な場合は、シャッタ部材駆動回路43は、シャッタ部材30を図3(D)の状態に変位させて空気供給口29を閉じ燃料電池発電部への空気供給を遮断することで活性化処理を行ない、所定時間経過後にシャッタ部材30を図3(C)の状態に変位させて空気供給口29を開放し燃料電池発電部に発電を開始させる。
【0054】
燃料電池発電部に空気が送り込まれないと、メタノールガスが、その燃料電池発電部に既に存在している空気中の酸素と直接に反応して発電なしに水が生成され、燃料電池発電部はその生成された水で湿潤して活性化する。
【0055】
燃料電池発電部で発電が行なわれると、その発電により得られた電力は電力制御回路44で安定化等の制御を受けて例えば携帯電話機の内蔵リチウム電池を充電するなど、この燃料電池を備えた装置に従って利用される。
【0056】
尚、シャッタ部材30の駆動源としては、ここでは図示は省略したが、圧電アクチュエータ、超音波モータ、ゲルアクチュエータや形状記憶合金アクチュエータ等を用いることができる。これらの駆動源への電力供給源としては、燃料電池自体を用いても良いし、燃料電池発電時に充電される補助電源のキャパシタ、あるいはリチウム電池を用いても良い。
【0057】
また、図4では、分かり易さのため、各回路ブロックに分けて説明したが、これらのブロック分けされた回路は、物理的には一体の回路構成にしてもよい。
【0058】
図5は、燃料カートリッジ装填時の処理を示すフローチャートである。
【0059】
燃料カートリッジが装填されると、燃料極集電体24と空気極集電体28との間の1kHz以上の高周波数の交流抵抗値が測定されるとともに(ステップS01)、前回の発電終了からの経過時間の測定が行なわれる(ステップS02)。次いで、その経過時間が基準時間以上であるか否か(ステップS03)、および交流抵抗値が基準値以上であるか否か(ステップS04)が判定される。経過時間が基準時間以上であるとき、あるいは経過時間は基準時間未満であっても交流抵抗値が基準値以上であるときは、空気供給口29を塞ぐ活性化処理が行なわれ(ステップS05)、所定時間経過後に空気供給口29が開かれて発電が開始される(ステップS06)。一方、経過時間が基準時間未満であり、かつ交流抵抗値も基準値未満であったときは、活性化処理はスキップされ、発電が開始される。
【0060】
図6は、図5に示すフローチャートに従って発電を行なったときの、燃料電池から出力される電力の出力密度(mW/cm)の時間変化を示した図であり、図7は、図5に示すフローチャートに従わずに発電を行なったときの同様の図である。
【0061】
ここでは、発電開始から60分経過後までに出力密度が25mW/cmに達することが、安定した発電が行なわれることの条件となっている。
【0062】
ここでは、燃料電池の構成において下記の材料を使用した。
【0063】
・燃料極触媒:白金−ルテニウム合金担持触媒(TEC61E54,田中貴金属社製)
・空気極:白金担持触媒(TEC10E50E,田中貴金属社製)
・電解質:Nafion(登録商標)N112(デュポン社製)
・燃料:100%メタノール
・カードカートリッジ中の燃料保持体:Nafion(登録商標)N117(デュポン社製)
またここでは、経過時間の基準時間は6時間、交流抵抗値の基準値は1.1Ω・cmに設定した。
【0064】
図6,図7に示すグラフA〜Eは、表1に示す条件で発電を開始したときのグラフである。
【0065】
【表1】

【0066】
交流抵抗値が1.1Ω・cm以上の場合、触媒層や膜の電解質の湿潤が不十分であり(グラフE)、活性化処理が必要となる。処理を施すと電解質が湿潤し、高い出力値を示す(グラフA)。また、前回発電終了より6時間以内であれば湿潤はある程度保たれており、出力はやや低下するものの、その低下の度合いは許容範囲のものである(グラフB)。この場合に活性化処理を施すと、膜中のメタノール透過が過多となり、熱暴走を引き起こしてしまう(グラフD)。また、前回発電終了より12時問経過したものでは、若干の電解質相の乾燥または触媒表面の酸化より、出力低下が起こっている(グラフC)。この場合には活性化処理が必要となる。
【0067】
前述したように、カートリッジ交換の際にアノード側触媒層が大気に直接さらされ、触媒層および電解質膜の乾燥や触媒表面の酸化等が起こるが、特に処置を施さずに発電を行うと出力低下が起こるなど、再現性のある発電特性が得られない。これに対し、本実施形態によれば、前回発電終了後からの経過時間、および触媒層・膜の電解質相の湿潤状態等を評価・判断することにより、無酸素無発電放置の活性化処理と組み合わせて、再現性のある高出力発電を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の一実施形態に係る燃料電池を備えた携帯電話機の模式図である。
【図2】カード形状の燃料カートリッジを適用した、燃料電池の内部構造を示した模式断面図である。
【図3】シャッタ部材の構造および作用を示す模式図である。
【図4】本実施形態の燃料電池を動作させる制御回路のブロック図である。
【図5】燃料カートリッジ装填時の処理を示すフローチャートである。
【図6】図5に示すフローチャートに従って発電を行なったときの、燃料電池から出力される電力の出力密度(mW/cm)の時間変化を示した図である。
【図7】図5に示すフローチャートに従わずに発電を行なったときの図6と同様の図である。
【符号の説明】
【0069】
10 携帯電話機
11 カバー
12 空気供給口
13,30 シャッタ部材
14 シャッタ駆動部
15 内蔵制御回路
20 燃料電池
21 筐体
22 燃料カートリッジ
23 気化燃料拡散層
24 燃料極集電体
25 燃料極ガス拡散層
26 発電部
27 空気極ガス拡散層
28 空気極集電体
29 空気供給口
41 交流抵抗測定回路
42 判定回路
43 時間測定回路
44 電力制御回路
211,222 孔
221 燃料含浸材
261 燃料極触媒層
262 固体電解質層
263 空気極触媒層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機燃料を気化して発電部に供給し、該発電部においてプロトンを生成しさらに該プロトンを酸素と反応させて水を生成するプロセスにより発電を行なう燃料電池において、
前記発電部に空気を取り込ませる空気供給口と、
前記空気供給口を開閉自在に遮へいするシャッタと、
発電開始前の前記発電部が不活性状態にあるか活性状態にあるかを判定する判定部と、
前記発電部が不活性状態にあることの判定を受けて、前記発電部に有機燃料が供給される状態で前記空気供給口を前記シャッタに遮へいさせる活性化処理を行なわせる制御部とを備えたことを特徴とする燃料電池。
【請求項2】
前記制御部は、前記活性化処理後に前記シャッタに前記空気供給口を開放させることにより発電を開始させ、前記発電部が活性状態にあることの判定を受けたときは前記活性化処理を行なわずに前記シャッタに前記空気供給口を開放させることにより発電を開始させる制御部とを備えたことを特徴とする請求項1記載の燃料電池。
【請求項3】
発電開始前の前記発電部の交流抵抗値を測定する抵抗値測定部と、
前回の発電からの経過時間を測定する時間計測部とを備え、
前記判定部は、前記時間計測部で計測された経過時間が基準時間以上であるとき、および該経過時間が基準時間未満であっても前記測定部で測定された交流抵抗値が基準値以上であるときに、前記発電部が不活性状態にある旨、判定するものであることを特徴とする請求項1又は2記載の燃料電池。
【請求項4】
有機燃料を含浸させた燃料含浸材を収容し、前記発電部を有する燃料電池本体に着脱自在に装着される燃料カートリッジを備えたことを特徴とする請求項1から3のうちいずれか1項記載の燃料電池。
【請求項5】
前記判定部は、前記燃料カートリッジが前記燃料電池本体に装着されたことを受けて、前記発電部が不活性状態にあるか活性状態にあるかを判定するものであることを特徴とする請求項4項記載の燃料電池。
【請求項6】
当該燃料電池は、濃度80%以上のメタノール水溶液を収容しメタノールを前記有機燃料とするものであることを特徴とする請求項1から5のうちのいずれか1項記載の燃料電池。
【請求項7】
有機燃料を気化して発電部に供給し該発電部においてプロトンを生成しさらに該プロトンを酸素と反応させて水を生成するプロセスにより発電を行なう燃料電池の運転方法において、
前記燃料電池が、前記発電部に空気を取り込ませる空気供給口と、前記空気供給口を開閉自在に遮へいするシャッタとを備えたものであり、
発電開始前に、前記発電部が不活性状態にあるか活性状態にあるかを判定する判定ステップと、
前記発電部が不活性状態にあることの判定を受けて、前記発電部に有機燃料が供給される状態で前記空気供給口を前記シャッタに遮へいさせる活性化処理ステップと、
前記活性化処理後に、又は、前記発電部が活性状態にあることの判定を受けたときは前記活性化処理ステップをスキップして、前記シャッタに前記空気供給口を開放させることにより発電を開始させる発電開始ステップとを有することを特徴とする燃料電池の運転方法。
【請求項8】
発電開始前の前記発電部の交流抵抗値を測定するとともに、前回の発電からの経過時間を測定する測定ステップを有し、
前記判定ステップは、前記経過時間が基準時間以上であるとき、および前記経過時間が基準時間未満であっても前記交流抵抗値が基準値以上であるときに、前記発電部が不活性状態にある旨、判定するステップであることを特徴とする請求項7記載の燃料電池の運転方法。
【請求項9】
当該燃料電池が、有機燃料を含浸させた燃料含浸材を収容し、前記発電部を有する燃料電池本体に着脱自在に装着される燃料カートリッジを備えたものであって、
前記判定ステップは、前記燃料カートリッジが前記燃料電池本体に装着されたことを受けて、前記発電部が不活性状態にあるか活性状態にあるかを判定するステップであることを特徴とする請求項6から8のうちいずれか1項記載の燃料電池の運転方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−123589(P2009−123589A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−297860(P2007−297860)
【出願日】平成19年11月16日(2007.11.16)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】