説明

燃料電池に用いられるガス拡散層、および、燃料電池

【課題】燃料電池において、水素と酸素との電気化学反応によって生成された生成水を、触媒層からガス拡散層の表面上の所望の位置に移動させる。
【解決手段】燃料電池に用いられるガス拡散層(例えば、アノード側ガス拡散層140)において、親水性繊維(148)を、親水性繊維の一部が撥水性を有する拡散層基材(142)の両面に露出するように、所望の位置に縫い付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に用いられるガス拡散層、および、燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、水素と酸素との電気化学反応によって発電する燃料電池がエネルギ源として注目されている。この燃料電池は、所定の電解質膜の両面に、それぞれアノード(水素極)、および、カソード(酸素極)を接合した膜電極接合体を有しており、アノード、および、カソードには、反応ガスとしての水素、および、酸素がそれぞれ供給される。そして、アノード、および、カソードは、上記電気化学反応を促進するための触媒層と、この触媒層に反応ガスを拡散させつつ供給するためのガス拡散層とをそれぞれ備えており、カソード側の触媒層では、発電時にカソード反応によって、水(生成水)が生成される。この生成水は、カソード側の触媒層からガス拡散層を透過し、カソード反応で消費されずに燃料電池の外部に排出されるカソードオフガスとともに排出される。また、生成水は、カソード側から電解質膜を透過してアノード側に染み出す場合があり、この場合、アノード側に染み出した生成水は、アノード側の触媒層からガス拡散層を透過し、アノード反応で消費されずに燃料電池の外部に排出されるアノードオフガスとともに排出される。
【0003】
上記生成水が燃料電池の電解質膜近傍で過剰に滞留すると、いわゆるフラッディングが発生し、反応ガスの拡散、および、供給が、生成水によって阻害され、燃料電池の発電性能が低下する。そこで、従来、フラッディングを抑制するために、カーボンクロスや、カーボンペーパのカーボン繊維の間にポリテトラフルオロエチレンや、カーボンブラックを分散させることによって、撥水性を有するガス拡散層を構成することが行われている。しかし、このガス拡散層では、生成水を撥水することによって、反応ガスの通路を確保することはできるが、過剰な生成水を触媒層からガス拡散層の表面に速やかに移動させることはできなかった。
【0004】
近年では、ガス拡散層における反応ガスの通路を確保するとともに、過剰な生成水を触媒層からガス拡散層の表面に速やかに移動させる技術が提案されている。例えば、下記特許文献1には、親水性炭素繊維と、撥水性炭素繊維とを織り込んだ織布をガス拡散層として用いる技術が記載されている。この技術では、撥水性炭素繊維によって生成水を撥水し、ガス拡散層における反応ガスの通路を確保するとともに、生成水を親水性炭素繊維に沿ってガス拡散層の表面に速やかに移動させることができる。
【0005】
【特許文献1】特開2002−15747号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、燃料電池において、膜電極接合体は、一般に、セパレータによって挟持されるので、例えば、セパレータの形状等に起因して、ガス拡散層の表面上には、生成水の排出に適した領域と、適さない領域とが生じる場合がある。この場合、生成水は、ガス拡散層の表面上の生成水の排出に適した領域に移動させ、生成水の排出に適さない領域には移動させないようにすることが望ましい。しかし、上記特許文献1に記載された技術では、ガス拡散層の表面上の所望の位置に、親水性炭素繊維を精度良く配置することができないので、上記要望を実現することができなかった。
【0007】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、燃料電池において、水素と酸素との電気化学反応によって生成された生成水を、触媒層からガス拡散層の表面上の所望の位置に移動させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の課題の少なくとも一部を解決するため、本発明では、以下の構成を採用した。
本発明のガス拡散層は、
所定の電解質膜の両面に、それぞれアノード、および、カソードを接合した膜電極接合体を備え、前記カソードが、前記電解質膜に接合され、水素と酸素との電気化学反応を促進するための触媒層と、該触媒層に所定のガスを拡散させつつ供給するためのガス拡散層とを備える燃料電池に用いられる前記ガス拡散層であって、
撥水性を有する拡散層基材と、
親水性を有する親水性繊維と、を備え、
前記親水性繊維は、該親水性繊維の一部が前記拡散層基材の両面に露出するように、前記拡散層基材に縫い付けられていることを要旨とする。
【0009】
なお、親水性繊維としては、例えば、カーボン繊維や、アラミド繊維等を用いることができる。
【0010】
本発明では、拡散層基材に親水性繊維を縫い付けるので、ガス拡散層の表面上の所望の位置に、親水性繊維を精度良く配置することができる。そして、親水性繊維の一部は、拡散層基材の両面に露出しているので、ガス拡散層の一方の面から他方の面に、親水性繊維に沿って、速やかに水を移動させることができる。したがって、このガス拡散層を用いた燃料電池において、水素と酸素との電気化学反応によって生成された生成水を、触媒層からガス拡散層の表面上の生成水の排出に適した領域に移動させるようにするとともに、生成水の排出に適さない領域には移動させないようにすることができる。つまり、本発明によって、燃料電池において、水素と酸素との電気化学反応によって生成された生成水を、触媒層からガス拡散層の表面上の所望の位置に移動させるようにすることができる。
【0011】
上記ガス拡散層において、
前記拡散層基材は、比較的撥水性が低い低撥水層と、比較的撥水性が高い高撥水層とを備え、
前記高撥水層は、前記触媒層と当接する面に備えられているようにしてもよい。
【0012】
こうすることによって、このガス拡散層を用いた燃料電池において、さらに、ガス拡散層の、触媒層との界面におけるガスの拡散性を向上させ、ガスの供給効率を向上させることができる。この結果、燃料電池の発電効率を向上させることができる。
【0013】
上述したいずれかのガス拡散層において、
前記親水性繊維は、前記拡散層基材の面に対して垂直方向に貫通するように縫い付けられているようにすることが好ましい。
【0014】
こうすることによって、ガス拡散層の一方の面から他方の面に、最短距離で生成水を移動させることができる。
【0015】
本発明は、燃料電池の発明として構成することもできる。すなわち、
本発明の第1の燃料電池は、
所定の電解質膜の両面に、それぞれアノード、および、カソードを接合した膜電極接合体を備え、前記カソードが、前記電解質膜に接合され、水素と酸素との電気化学反応を促進するための触媒層と、該触媒層に所定のガスを拡散させつつ供給するためのガス拡散層とを備える燃料電池であって、
前記膜電極接合体は、前記ガス拡散層として、上述した本発明のいずれかのガス拡散層を備えており、
前記燃料電池は、前記膜電極接合体の両面を挟持するセパレータを備え、
該セパレータは、
前記ガス拡散層と当接するリブ部と、
前記ガスが流れるガス流路となる溝部と、を備え、
少なくとも前記リブ部の表面は、親水性を有しており、
前記ガス拡散層において、前記親水性繊維は、該親水性繊維の一部が前記リブ部に当接するように、前記拡散層基材に縫い付けられていることを要旨とする。
【0016】
こうすることによって、触媒層からガス拡散層の親水性繊維に沿って移動した生成水を、セパレータのリブ部の表面に速やかに広げ、ガス流路に流れるガスの流れによって外部に排出することができる。この結果、燃料電池におけるフラッディングを抑制することができる。
【0017】
上記燃料電池において、
前記リブ部は、多孔質の部材からなるようにしてもよい。
【0018】
こうすることによって、触媒層からガス拡散層の親水性繊維に沿って移動した生成水を、セパレータのリブ部の内部にも広げることができる。
【0019】
また、本発明の第2の燃料電池は、
所定の電解質膜の両面に、それぞれアノード、および、カソードを接合した膜電極接合体を備え、前記カソードが、前記電解質膜に接合され、水素と酸素との電気化学反応を促進するための触媒層と、該触媒層に所定のガスを拡散させつつ供給するためのガス拡散層とを備える燃料電池であって、
前記膜電極接合体は、前記ガス拡散層として、上述した本発明のいずれかのガス拡散層を備えており、
前記燃料電池は、前記膜電極接合体の両面を挟持するセパレータを備え、
該セパレータは、
前記ガス拡散層と当接するリブ部と、
前記ガスが流れるガス流路となる溝部と、を備え、
前記ガス流路は、乾燥した前記ガスが流れるガス流路であり、
前記ガス拡散層において、前記親水性繊維は、該親水性繊維の一部が前記ガス流路に露出するように、前記拡散層基材に縫い付けられていることを要旨とする。
【0020】
こうすることによって、触媒層からガス拡散層の親水性繊維に沿って移動した生成水を、乾燥ガスによって乾燥させるとともに、ガス流路に流れるガスの流れによって外部に排出することができる。この結果、燃料電池におけるフラッディングを抑制することができる。
【0021】
また、本発明の第2の燃料電池では、上述した本発明の第1の燃料電池と異なり、セパレータの表面が親水性を有していないので、ガス拡散層において、親水性繊維の一部がセパレータのリブ部と当接するように拡散層基材に親水性繊維を縫い付けると、ガス拡散層の親水性繊維に沿って移動した生成水は、リブ部の表面に広がりにくくなる。このため、リブ部とガス拡散層との当接部に生成水が滞留して、排出されにくくなるおそれがある。本発明では、ガス拡散層において、親水性繊維の一部がセパレータのリブ部と当接しないように、拡散層基材に親水性繊維を縫い付けるので、上述したリブ部とガス拡散層との当接部に生成水が滞留して、排出されにくくなる不具合を回避することができる。
【0022】
また、本発明は、先に説明したガス拡散層の製造方法の発明として構成することもできる。すなわち、
本発明の製造方法は、
所定の電解質膜の両面に、それぞれアノード、および、カソードを接合した膜電極接合体を備え、前記カソードが、前記電解質膜に接合され、水素と酸素との電気化学反応を促進するための触媒層と、該触媒層に所定のガスを拡散させつつ供給するためのガス拡散層とを備える燃料電池に用いられる前記ガス拡散層の製造方法であって、
撥水性を有する拡散層基材を用意する工程と、
親水性を有する親水性繊維を用意する工程と、
前記親水性繊維の一部が前記ガス拡散性基材の両面に露出するように、前記親水性繊維を前記拡散層基材に縫い付ける工程と、
を備えることを要旨とする。
【0023】
こうすることによって、先に説明した本発明のガス拡散層を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について、実施例に基づき以下の順序で説明する。
A.燃料電池スタックの構成:
B.単セル:
C.ガス拡散層:
C1.アノード側ガス拡散層:
C2.カソード側ガス拡散層:
C3.ガス拡散層の製造方法
D.変形例:
【0025】
A.燃料電池スタックの構成:
図1は、本発明の一実施例としての燃料電池スタック10の概略構成を示す説明図である。燃料電池スタック10は、図示するように、水素と酸素の電気化学反応によって発電する単セル100を所定数積層して形成される。単セル100の積層数は、燃料電池スタック10に要求される出力に応じて任意に設定可能である。単セル100の詳細については、後述する。
【0026】
燃料電池スタック10は、一端からエンドプレート12、絶縁板16、集電板18、複数の単セル100、集電板20、絶縁板22、エンドプレート14の順に積層されて構成される。エンドプレート12、14は、剛性を確保するため、鋼等の金属によって形成されている。集電板18、20は、緻密質カーボンや銅板などガス不透過な導電性部材によって形成されている。絶縁板16、22は、ゴムや樹脂等の絶縁性部材によって形成されている。集電板18、20には、それぞれ出力端子19、21が設けられており、燃料電池スタック10で発電した電力を出力可能となっている。
【0027】
一方のエンドプレート14には、燃料ガス供給口35や、燃料ガス排出口36や、酸化剤ガス供給口33や、酸化剤ガス排出口34や、冷却水供給口31や、冷却水排出口32が設けられている。燃料ガス供給口35から燃料電池スタック10に供給された燃料ガスは、エンドプレート12に向かって流れながら各単セル100に分配される。各単セル100に配分された燃料ガスは、図中の上方から下方に単セル100内の流路を流れた後、エンドプレート14側に流れ、燃料ガス排出口36から排出される。酸化剤ガスも同様に、酸化剤ガス供給口33から供給された後、エンドプレート12に向かって流れながら各単セル100に分配され、各単セル100内の流路を流れた後、酸化剤ガス排出口34から排出される。燃料電池スタック10は、このようなガスの流れを実現できるよう内部で各単セル100のガス流路が形成されている。
【0028】
なお、酸化剤ガス排出口34、および、燃料ガス排出口36からは、排出ガスとともに、各単セル100において発電時に水素と酸素との電気化学反応によって生成された生成水も排出される。
【0029】
また、図示は省略しているが、燃料電池スタック10には、スタック構造のいずれかの箇所における接触抵抗の増加等による電池性能の低下を抑制したり、ガスの漏洩を抑制したりするために、スタック構造の積層方向に、押圧力が加えられている。
【0030】
B.単セル:
図2は、単セル100の断面構造を模式的に示す説明図である。この単セル100は、膜電極接合体110の両面を、セパレータ170,180で挟持することによって構成されている。
【0031】
膜電極接合体110は、プロトン伝導性を有する電解質膜120の一方の面に、アノード(水素極)として、アノード側触媒層130と、アノード側ガス拡散層140とを、この順に積層し、他方の面に、カソード(酸素極)として、カソード側触媒層150と、カソード側ガス拡散層160とを、この順に積層することによって構成されている。本実施例では、電解質膜120として、固体高分子型の電解質膜を用いるものとした。電解質膜120として、他の電解質膜を用いるものとしてもよい。
【0032】
なお、膜電極接合体110のアノード、および、カソードには、それぞれ燃料ガスとしての水素、および、酸化剤ガスとしての酸素を含む空気が供給され、水素と酸素との電気化学反応によって、発電が行われる。このとき、カソード側触媒層150では、カソード反応によって、生成水も生成される。カソード側触媒層150で生成された生成水は、電解質膜120を透過して、アノード側触媒層130にも染み出す。そして、これらの生成水は、膜電極接合体110中に過剰に滞留すると、フラッディングが生じるため、後述する方法によって、外部に速やかに排出される。
【0033】
膜電極接合体110のアノード側に配置されるセパレータ170は、図示するように、リブ部172と、溝部174とを備える凹凸形状を有しており、溝部174は、水素が流れるガス流路を形成する。なお、本実施例では、リブ部172は、多孔体によって形成されている。また、リブ部172の表面には、親水処理が施されている。
【0034】
膜電極接合体110のカソード側に配置されるセパレータ180も、図示するように、リブ部182と、溝部184とを備える凹凸形状を有しており、溝部184は、空気が流れるガス流路を形成する。本実施例では、セパレータ180の溝部184には、乾燥した空気が流れるものとする。なお、セパレータ180におけるリブ部182は、膜電極接合体110のアノード側に配置されるセパレータ170とは異なり、多孔体ではなく、また、表面に親水処理も施されていない。
【0035】
セパレータ170,180の材料としては、カーボンや、金属など、導電性を有する種々の材料を適用可能である。
【0036】
C.ガス拡散層:
以下、本発明における特徴的な構成要素であるガス拡散層について説明する。
【0037】
C1.アノード側ガス拡散層:
図3は、膜電極接合体110のアノード側ガス拡散層140の断面構造を模式的に示す説明図である。また、この図では、膜電極接合体110と、セパレータ170とを当接させたときの、アノード側ガス拡散層140と、セパレータ170との配置関係、および、膜電極接合体110における電解質膜120との配置関係も併せて示した。
【0038】
図示するように、アノード側ガス拡散層140は、比較的撥水性が低い低撥水性拡散層144と、比較的撥水性が高い高撥水性拡散層146とを備える拡散層基材142に、親水性を有する親水性繊維148を、その一部が拡散層基材142の両面に露出するように縫い付けたものである。親水性繊維148は、拡散層基材142の面に対して垂直方向に貫通するように縫い付けられている。拡散層基材142は、例えば、カーボン繊維の間にポリテトラフルオロエチレンや、カーボンブラックを分散させたカーボンクロスの一方の面に、撥水剤を塗布することによって形成される。親水性繊維148としては、例えば、アラミド繊維等を用いることができる。
【0039】
膜電極接合体110において、アノード側ガス拡散層140は、高撥水性拡散層146がアノード側触媒層130と当接するように接合されている。こうすることによって、アノード側ガス拡散層140の、アノード側触媒層130との界面における水素の拡散性を向上させ、アノード側触媒層130への水素の供給効率を向上させることができる。この結果、燃料電池スタック10の発電効率を向上させることができる。
【0040】
また、アノード側ガス拡散層140において、親水性繊維148は、膜電極接合体110と、セパレータ170とを当接させたときに、セパレータ170のリブ部172と、親水性繊維148の一部とが当接するように、拡散層基材142に縫い付けられている。このリブ部172の表面には、先に説明したように、親水処理が施されている。また、リブ部172は、多孔質によって形成されている。したがって、発電時にカソード側触媒層150で生成され、電解質膜120を透過して、アノード側触媒層130に染み出した生成水は、親水性繊維148に沿ってアノード側ガス拡散層140の表面に速やかに移動し、リブ部172の表面、および、内部に広がって、アノードオフガスとともに外部に排出される。この結果、膜電極接合体110のアノード側でのフラッディングを抑制することができる。
【0041】
C2.カソード側ガス拡散層:
図4は、膜電極接合体110のカソード側ガス拡散層160の断面構造を模式的に示す説明図である。また、この図では、膜電極接合体110と、セパレータ180とを当接させたときの、カソード側ガス拡散層160と、セパレータ180との配置関係、および、膜電極接合体110における電解質膜120との配置関係も併せて示した。
【0042】
図示するように、カソード側ガス拡散層160は、アノード側ガス拡散層140と同様に、比較的撥水性が低い低撥水性拡散層164と、比較的撥水性が高い高撥水性拡散層166とを備える拡散層基材162に、親水性を有する親水性繊維168を、その一部が拡散層基材162の両面に露出するように縫い付けたものである。親水性繊維168は、拡散層基材162の面に対して垂直方向に貫通するように縫い付けられている。拡散層基材162、および、親水性繊維168の材質等は、先に説明した拡散層基材142、および、親水性繊維148と同じである。
【0043】
膜電極接合体110において、カソード側ガス拡散層160は、アノード側ガス拡散層140と同様に、高撥水性拡散層166がカソード側触媒層150と当接するように接合されている。こうすることによって、カソード側ガス拡散層160の、カソード側触媒層150との界面における空気の拡散性を向上させ、カソード側触媒層150への酸素の供給効率を向上させることができる。この結果、燃料電池スタック10の発電効率を向上させることができる。
【0044】
また、カソード側ガス拡散層160において、親水性繊維168は、膜電極接合体110と、セパレータ180とを当接させたときに、セパレータ180の溝部184に親水性繊維168が露出するように、拡散層基材162に縫い付けられている。そして、セパレータ180の溝部184には、先に説明したように、乾燥した空気が流れる。したがって、発電時にカソード側触媒層150で生成された生成水は、親水性繊維148に沿ってカソード側ガス拡散層160の表面に移動し、乾燥した空気によって乾燥するとともに、カソードオフガスとともに外部に排出される。この結果、膜電極接合体110のカソード側でのフラッディングを抑制することができる。
【0045】
なお、上述したアノード側ガス拡散層140、および、カソード側ガス拡散層160において、親水性繊維148,168は、それぞれアノード側ガス拡散層140、および、カソード側ガス拡散層160の面に対して垂直方向に貫通するように縫い付けられているので、アノード側触媒層130、および、カソード側触媒層150から、生成水を最短距離で、アノード側ガス拡散層140、および、カソード側ガス拡散層160の表面に移動させることができる。
【0046】
また、アノード側ガス拡散層140、および、カソード側ガス拡散層160には、セパレータ170,180との位置合わせを容易に行うことができるように、マーキングがなされている。
【0047】
C3.ガス拡散層の製造方法:
拡散層基材142,162は、比較的破損しやすいため、上述したアノード側ガス拡散層140、および、カソード側ガス拡散層160は、例えば、以下に説明する製造方法にように製造される。ここでは、アノード側ガス拡散層140の製造方法について説明するが、カソード側ガス拡散層160の製造方法も同様である。
【0048】
図5は、アノード側ガス拡散層140の製造方法の一例を示す説明図である。まず、拡散層基材142と、親水性繊維148と、拡散層基材142に親水性繊維148を縫い付けるための中空針200とを用意する。そして、拡散層基材142に、アノード側ガス拡散層140と、セパレータ170との位置合わせを行うためのマーキングを付ける。そして、図5(a)に示したように、拡散層基材142の所望の位置に、中空針200を垂直に刺す。そして、図5(b)に示したように、中空針200の内部に親水性繊維148を通す。そして、図5(c)に示したように、親水性繊維148を通した中空針200を、拡散層基材142から抜く。そして、拡散層基材142の所望の位置にすべて親水性繊維148が縫い付けられるまで、図5(a)〜(c)に示した工程を繰り返す。こうすることによって、アノード側ガス拡散層140を製造することができる。
【0049】
以上説明した本実施例の燃料電池スタック10では、アノード側ガス拡散層140、および、カソード側ガス拡散層160において、拡散層基材142,162に親水性繊維148,168を縫い付けるので、アノード側ガス拡散層140、および、カソード側ガス拡散層160の表面上の所望の位置に、親水性繊維148,168を精度良く配置することができる。そして、親水性繊維148,168の一部は、それぞれ拡散層基材142,162の両面に露出しているので、アノード側触媒層130、および、カソード側触媒層150からそれぞれ、親水性繊維148,168に沿って、アノード側ガス拡散層140、および、カソード側ガス拡散層160の表面に、速やかに生成水を移動させることができる。したがって、燃料電池スタック10において、水素と酸素との電気化学反応によって生成された生成水を、アノード側触媒層130、および、カソード側触媒層150からアノード側ガス拡散層140、および、カソード側ガス拡散層160の表面上の所望の位置に移動させるようにすることができる。そして、この生成水を、アノードオフガス、または、カソードオフガスオフガスとともに、燃料電池スタック10の外部に速やかに排出することができる。この結果、燃料電池スタック10におけるフラッディングを抑制することができる。
【0050】
D.変形例:
以上、本発明のいくつかの実施の形態について説明したが、本発明はこのような実施の形態になんら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において種々なる態様での実施が可能である。例えば、以下のような変形例が可能である。
【0051】
D1.変形例1:
上記実施例では、アノード側ガス拡散層140は、拡散層基材142と親水性繊維148とを備えるものとしたが、これに限られない。先に説明したように、拡散層基材142は破損しやすいため、拡散層基材142を縫い付けたときの補強用の補強糸149をさらに備えるようにしてもよい。カソード側ガス拡散層160についても同様である。
【0052】
図6は、変形例としてのアノード側ガス拡散層の断面構造を模式的に示す説明図である。図6(a)に示したように、拡散層基材142のガス流路側に補強糸149を配置し、この補強糸149を跨いで、所望の位置に1本の親水性繊維148を縫い付けるようにしてもよい。また、図6(b)に示したように、拡散層基材142のガス流路側に補強糸149を配置し、この補強糸149を跨いで、複数の親水性繊維148を縫い付けるようにしてもよい。この場合、アノード側触媒層130側の余った親水性繊維148は、拡散層基材142の面に沿うように貼り付けられる。また、図6(c)に示したように、図6(b)に示した例と同様に、拡散層基材142のガス流路側に補強糸149を配置し、この補強糸149を跨いで、複数の親水性繊維148を縫い付けるようにして、アノード側触媒層130側の余った親水性繊維148の先をほぐして、拡散層基材142の面に沿うように広げて貼り付けるようにしてもよい。また、図6(b),(c)における補強糸149を省略してもよい。
【0053】
D2.変形例2:
上記実施例では、アノード側ガス拡散層140は、低撥水性拡散層144と、高撥水性拡散層146とを備えるものとしたが、いずれか一方のみを備えるようにしてもよい。カソード側ガス拡散層160についても同様である。
【0054】
D3.変形例3:
上記実施例では、アノード側ガス拡散層140において、親水性繊維148は、拡散層基材142の面に対して垂直に縫い付けられるものとしたが、斜めに縫い付けられるものとしてもよい。
【0055】
D4.変形例4:
上記実施例では、セパレータ170のリブ部172は、多孔体によって形成されているものとしたが、多孔体でなくてもよい。
【0056】
D5.変形例5:
上記実施例では、膜電極接合体110のアノード側に当接するセパレータ170と、カソード側に当接するセパレータ180とは、異なるものを用いるものとしたが、これに限られない。例えば、単セル100のカソード側に当接するセパレータとして、セパレータ180の代わりに、セパレータ170を用いるようにしてもよい。この場合、カソード側ガス拡散層160における拡散層基材162への親水性繊維168の縫い付け方は、アノード側ガス拡散層140における拡散層基材142への親水性繊維148の縫い付け方と同じにしてもよい。
【0057】
なお、上記実施例では、膜電極接合体110のカソードには、乾燥した空気が供給されるものとしたが、加湿された空気が供給されるようにしてもよい。この場合には、カソード側ガス拡散層160の表面に移動した生成水を乾燥させることができないので、セパレータ180の代わりに、セパレータ170を用いるようにするとともに、カソード側ガス拡散層160における拡散層基材162への親水性繊維168の縫い付け方(セパレータ170との配置関係配置)を、アノード側ガス拡散層140における拡散層基材142への親水性繊維148の縫い付け方と同じにすることが好ましい。
【0058】
D6.変形例6:
上記実施例において、図3に示した例では、アノード側ガス拡散層140において、親水性繊維148は、セパレータ170の複数のリブ部172を横断する方向に縫い付けられているものとしたが、これに限られない。例えば、親水性繊維148を、1つのリブ部172を縦断する方向に縫い付けるようにしてもよい。カソード側ガス拡散層160についても同様である。
【0059】
D7.変形例7:
上記実施例では、本発明のガス拡散層を、膜電極接合体110のアノード側、および、カソード側の両方に適用した場合について説明したが、これに限られない。例えば、生成水の量が多くなるカソード側についてのみ、本発明のガス拡散層を適用するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の一実施例としての燃料電池スタック10の概略構成を示す説明図である。
【図2】単セル100の断面構造を模式的に示す説明図である。
【図3】膜電極接合体110のアノード側ガス拡散層140の断面構造を模式的に示す説明図である。
【図4】膜電極接合体110のカソード側ガス拡散層160の断面構造を模式的に示す説明図である。
【図5】アノード側ガス拡散層140の製造方法の一例を示す説明図である。
【図6】変形例としてのアノード側ガス拡散層の断面構造を模式的に示す説明図である。
【符号の説明】
【0061】
10...燃料電池スタック
12,14...エンドプレート
16,22...絶縁板
18,20...集電板
19,21...出力端子
31...冷却水供給口
32...冷却水排出口
33...酸化剤ガス供給口
34...酸化剤ガス排出口
35...燃料ガス供給口
36...燃料ガス排出口
100...単セル
110...膜電極接合体
120...電解質膜
130...アノード側触媒層
140...アノード側ガス拡散層
142...拡散層基材
144...低撥水性拡散層
146...高撥水性拡散層
148...親水性繊維
150...カソード側触媒層
160...カソード側ガス拡散層
162...拡散層基材
164...低撥水性拡散層
166...高撥水性拡散層
168...親水性繊維
170...セパレータ
172...リブ部
174...溝部
180...セパレータ
182...リブ部
184...溝部
200...中空針

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の電解質膜の両面に、それぞれアノード、および、カソードを接合した膜電極接合体を備え、前記カソードが、前記電解質膜に接合され、水素と酸素との電気化学反応を促進するための触媒層と、該触媒層に所定のガスを拡散させつつ供給するためのガス拡散層とを備える燃料電池に用いられる前記ガス拡散層であって、
撥水性を有する拡散層基材と、
親水性を有する親水性繊維と、を備え、
前記親水性繊維は、該親水性繊維の一部が前記拡散層基材の両面に露出するように、前記拡散層基材に縫い付けられている、
ガス拡散層。
【請求項2】
請求項1記載のガス拡散層であって、
前記拡散層基材は、比較的撥水性が低い低撥水層と、比較的撥水性が高い高撥水層とを備え、
前記高撥水層は、前記触媒層と当接する面に備えられている、
ガス拡散層。
【請求項3】
請求項1または2記載のガス拡散層であって、
前記親水性繊維は、前記拡散層基材の面に対して垂直方向に貫通するように縫い付けられている、
ガス拡散層。
【請求項4】
所定の電解質膜の両面に、それぞれアノード、および、カソードを接合した膜電極接合体を備え、前記カソードが、前記電解質膜に接合され、水素と酸素との電気化学反応を促進するための触媒層と、該触媒層に所定のガスを拡散させつつ供給するためのガス拡散層とを備える燃料電池であって、
前記膜電極接合体は、前記ガス拡散層として、請求項1ないし3のいずれかに記載のガス拡散層を備えており、
前記燃料電池は、前記膜電極接合体の両面を挟持するセパレータを備え、
該セパレータは、
前記ガス拡散層と当接するリブ部と、
前記ガスが流れるガス流路となる溝部と、を備え、
少なくとも前記リブ部の表面は、親水性を有しており、
前記ガス拡散層において、前記親水性繊維は、該親水性繊維の一部が前記リブ部に当接するように、前記拡散層基材に縫い付けられている、
燃料電池。
【請求項5】
請求項4記載の燃料電池であって、
前記リブ部は、多孔質の部材からなる、
燃料電池。
【請求項6】
所定の電解質膜の両面に、それぞれアノード、および、カソードを接合した膜電極接合体を備え、前記カソードが、前記電解質膜に接合され、水素と酸素との電気化学反応を促進するための触媒層と、該触媒層に所定のガスを拡散させつつ供給するためのガス拡散層とを備える燃料電池であって、
前記膜電極接合体は、前記ガス拡散層として、請求項1ないし3のいずれかに記載のガス拡散層を備えており、
前記燃料電池は、前記膜電極接合体の両面を挟持するセパレータを備え、
該セパレータは、
前記ガス拡散層と当接するリブ部と、
前記ガスが流れるガス流路となる溝部と、を備え、
前記ガス流路は、乾燥した前記ガスが流れるガス流路であり、
前記ガス拡散層において、前記親水性繊維は、該親水性繊維の一部が前記ガス流路に露出するように、前記拡散層基材に縫い付けられている、
燃料電池。
【請求項7】
所定の電解質膜の両面に、それぞれアノード、および、カソードを接合した膜電極接合体を備え、前記カソードが、前記電解質膜に接合され、水素と酸素との電気化学反応を促進するための触媒層と、該触媒層に所定のガスを拡散させつつ供給するためのガス拡散層とを備える燃料電池に用いられる前記ガス拡散層の製造方法であって、
撥水性を有する拡散層基材を用意する工程と、
親水性を有する親水性繊維を用意する工程と、
前記親水性繊維の一部が前記ガス拡散性基材の両面に露出するように、前記親水性繊維を前記拡散層基材に縫い付ける工程と、
を備える製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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