説明

燃料電池の出力電圧回復装置及び方法

【課題】燃料電池に対する付臭剤の影響を簡易な手段によって除去し、燃料電池の運転を安定して低コストにてしかも連続して行うことができる燃料電池の出力電圧回復装置及び方法を提供する。
【解決手段】付臭剤含有燃料ガスを燃料電池3に供給して発電を行う燃料電池の出力電圧回復装置及び方法であって、燃料電池3の出力電圧が所定値以下となったときに該燃料電池3に付臭剤非含有燃料ガスを供給することを特徴とする燃料電池の出力電圧回復装置及び方法。付臭剤非含有燃料ガスとしては、付臭剤含有燃料ガスを吸着材を用いた付臭剤除去器6に通して付臭剤を除去したガスが好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は燃料電池の出力電圧回復装置及び方法に係り、特に付臭剤により低下した出力電圧を回復させる手段及び工程を有する燃料電池の出力電圧回復装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池に供給される燃料ガスに付臭剤を添加してガス漏洩を検知するようにした燃料電池システムにおいては、運転を継続すると、付臭剤を入れていないときでも、電圧低下があるが、それよりもさらに付臭剤により燃料電池出力特性が次第に低下してくることがある。特許文献1,2には、燃料ガスから付臭剤を除去して燃料電池に供給することが記載されている。具体的には、特許文献1には、付臭剤を活性炭やゼオライトで吸着除去することが記載されており、特許文献2には、燃料ガスを冷却することにより付臭剤を凝縮又は昇華させて分離除去することが記載されている。
【0003】
特許文献3には、付臭剤含有ガスを燃料電池に供給して発電を行い、付臭剤が燃料電池に堆積してきた場合には燃料電池を昇温させて付臭剤を燃料電池から除去することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−327650
【特許文献2】特開2008−257933
【特許文献3】特開2008−41554
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1,2では、燃料電池に供給される燃料ガスの全量を付臭剤除去処理する必要があり、吸着装置などの付臭剤除去装置が大型化し、燃料電池発電システムが大型化し、設備コスト高にもなる。さらに、発電のランニングコストも嵩む。特許文献3では、付臭剤が燃料電池に蓄積してきたときに燃料電池を昇温させるための昇温手段が必要となると共に、燃料電池を高温にした場合の安全装置を付設することが必要となり、燃料電池発電システムが大型化し、コスト高となる。さらに、燃料電池を高温に昇温させるため、この間に定常の発電運転を行うことができず、発電効率が低下する。
【0006】
本発明は、上記の種々の問題点を解決し、燃料電池に対する付臭剤の影響を簡易な手段によって除去し、燃料電池の運転を安定して低コストにてしかも連続して行うことができる燃料電池の出力電圧回復装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の燃料電池の出力電圧回復装置は、付臭剤含有燃料ガスを燃料電池に供給して発電を行う燃料電池の出力電圧回復装置であって、間欠的に該燃料電池に付臭剤非含有燃料ガスを供給する付臭剤非含有燃料供給手段を有するものである。
【0008】
本発明の燃料電池の出力電圧回復方法は、付臭剤含有燃料ガスを燃料電池に供給して発電を行う工程を有する燃料電池の出力電圧回復方法において、間欠的に、該燃料電池に付臭剤非含有燃料ガスを供給して出力電圧を回復させる工程を実行することを特徴とするものである。
【0009】
本発明では、燃料電池の出力電圧が所定値以下となったときに付臭剤非含有燃料ガスを供給することが好ましい。
【0010】
本発明では、付臭剤非含有燃料ガスは、付臭剤含有燃料ガスを付臭剤除去処理したガスであることが好ましい。
【0011】
本発明では、燃料ガスは水素ガスであり、付臭剤はシクロヘキセンであることが好ましい。
【0012】
本発明では、付臭剤非含有燃料ガスの供給時間が1秒以上特に10秒以上であることが好ましい。
【0013】
本発明では、燃料電池が固体高分子形燃料電池またはアルカリ電解質形燃料電池であることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の燃料電池の出力電圧回復装置及び方法では、付臭剤含有燃料ガスを燃料電池に供給して発電を行い、間欠的に、例えば付臭剤の影響により燃料電池の発電出力が低下してきた場合に燃料電池に付臭剤非含有燃料ガスを供給する。このように燃料電池に付臭剤非含有燃料ガスを供給することにより、燃料電池内に付着していた付臭剤が除去され、燃料電池の発電出力が回復する。本発明では、燃料電池に付臭剤非含有燃料ガスを供給している間も燃料電池は発電を継続する。本発明では、燃料電池を昇温させて付臭剤を除去する構成が不要であり、燃料電池システムの構成が簡易である。また、燃料電池を無用に昇温させないので、安全対策システムも簡易なもので足りる。
【0015】
本発明では、燃料電池の出力電圧が所定値以下となったときに付臭剤含有燃料ガスの代りに付臭剤非含有燃料ガスを燃料電池に供給することにより、燃料電池の出力電圧を該所定値以上に保つことができる。
【0016】
付臭剤非含有燃料ガスとして、付臭剤含有燃料ガスを付臭剤除去処理したガスを用いることにより、付臭剤非含有燃料ガスを容易に製造することができる。
【0017】
本発明は、燃料ガスが水素ガスであり、付臭剤がシクロヘキセンである場合に適用するのに好適である。本発明では、付臭剤非含有燃料ガスを短時間、例えば1秒以上供給することにより、燃料電池出力を回復させることができる。本発明は、燃料電池が固体高分子形燃料電池である場合に適用するのに好適である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】燃料電池発電システムの構成図である。
【図2】別の燃料電池発電システムの構成図である。
【図3】実施例の試験装置の概要図である。
【図4】実験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0020】
本発明装置及び方法に用いる燃料電池としては、固体高分子形燃料電池、リン酸形燃料電池、溶融炭酸塩形燃料電池、固体酸化物形燃料電池、アルカリ電解質形燃料電池などの各種燃料電池のうち固体高分子形燃料電池またはアルカリ電解質形燃料電池が好適である。この固体高分子形燃料電池は、通常、複数のセルが積層されてなるセルスタックを有する。各セルは、固体高分子電解質膜と、固体高分子電解質膜を両側から挟む燃料極(アノード)及び空気極(酸化剤極:カソード)と、燃料極及び空気極を挟む燃料極側セパレータ及び空気極側セパレータとからなる。
【0021】
燃料極は、拡散層と触媒層とを有している。燃料極には、水素ガスや水素リッチガスなどの水素を含む燃料ガスが燃料供給系により燃料極に供給される。燃料極に供給された燃料ガスは、拡散層で拡散され触媒層に到達する。触媒層では、水素がプロトン(水素イオン)と電子とに分離される。水素イオンは固体高分子電解質膜を通って空気極に移動し、電子は外部回路を通って空気極に移動する。触媒としては、通常、白金が用いられているが、これに限定されるものではなく、白金合金、非白金系触媒であってもよい。
【0022】
空気極は、拡散層と触媒層とを有し、空気等の酸化剤ガスが酸化剤供給系により空気極に供給される。空気極に供給された酸化剤ガスは、拡散層で拡散され触媒層に到達する。触媒層では、酸化剤ガスと、固体高分子電解質膜を通って空気極に到達した水素イオンと、外部回路を通って空気極に到達した電子とによる反応により水が生成する。このような燃料極及び空気極における反応の際に外部回路を通る電子が、燃料電池のセルスタックの両端子間に接続される負荷に対する電力として使用される。
【0023】
燃料ガスとしては水素ガスが好適である。一般に、燃料ガスの付臭剤としてはシクロへキセン、メルカプタン類、スルフィド類、チオフェン類などが用いられるが、燃料ガスが水素ガスの場合、次の化合物が好適であり、中でもシクロヘキセンが好適である。1−ペンテン、cis−2−ペンテン、trans−2−ペンテン、2−メチル1−ブテン、3−メチル1−ブテン、2−メチル2−ブテン、アレン、メチルアレン、エチルアレン、1,3−ペンタジエン、2−メチル1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル1,3−ブタジエン、1,4−ペンタジエン、1,5−ヘキサジエン、1,6−ヘプタジエン、1,3,5−ヘキサトリエン、1−ブチン、2−ブチン、スチレン、ビニルアセチレン、ヘプテン、オクテン、ノネン、デセン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、trans−2−ブテン、cis−2−ブテン、1,5−ヘキサジエン3−イン、ジイソブチレン、1−ヘキセン、イソプレン、1,3−ブタジエン、1,2−ブタジエン、シクロペンテン、シクロペンタジエン(ジシクロペンタンジエン)、1,3−シクロヘキサジエン、1,3−シクロヘプタジエン、1,5−シクロオクタジエン、1,5,9−シクロドデカトリエン、4−ビニルシクロヘキセン−1、1−ビニルシクロヘキセン−1、5−エチリデン−2−ノルボルネン、5−ビニル−2−ノルボルネン、ビシクロペンタジエン、シクロヘキセン、1−メチルピロール、ピラジン、2−メチルピラジン、2−メチル−3−イソブチルピラジン、2,3−ジメチルピラジン、2,5−ジメチルピラジン、2,6−ジメチルピラジン、2,3,5−トリメチルピラジン、2−エチルピラジン、2−プロピルピラジン、2−ビニルピラジン、2−アリルピラジン、2−ピコリン、α.p−ジメチル−スチレン、クメン、2,5−ジエチルピラジン、リモネン、メシチレン、2−メチルナフタレン、3−メチルインドール(スカトール)、ミルセン、α−ピネン、1−オクテン−3−オン、2,3−ブタンジオン、ペンタン−2,3−ジオン、ヘキサン−2,5−ジオン、ヘプタン−2,5−ジオン、エチリデンジエチルエーテル、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、アミルアルコール、プロパギルアルコール、β,γ−ヘキセノール(cis−ヘキセン−1−オール)、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ヘキサナール(カプロアルデヒド)、クミンアルデヒド、アセトン、2−オクタノン、3−オクタノン、ジアセチル(2,3−ブタンジオン)、アセトフェノン、メチルホーメート、メチルアセテート、メチルプロピオネート、メチルフェニルアセテート、エチルホーメート、エチルアセテート、イソプロピルホーメート、イソアミルアセテート、n−アミルアセテート、フェニルエチルホーメート、2−イソペンテニルアセテート、エチルプロピオネート、ブチルアセテート、イソブチルアセテート、アミルプロピオネート、エチルカプロエート、アミルブチレート、エチルカプリレート、エチルカプレート、ヘキシルブチレート、エチルシンナメート、ベンジルアセテート、エチルクロトネート、エチル3,3−ジメチルアクリレート、エチル−4−メチル−4−ペンテノエート、エチル−4−メチル−3−ペンテノエート、エチルヘプト−3−エノエート、エチルピルベート、プロピルクロトネート、メチルアクリレート、ブチルアクリレート、アリルアクリレート、メチルメタアクリレート、メンチルアセテート、ボルニルアセテート、β−フェニルエチルアセテート、アリルカプロエート、エチルメチルフェニルグリシデート、p−クレジルアセテート、アセトールアセテート、エチル9−デセノエート、2,3オクタンジオン、メチル−3−アセトキシ−ブタノエート、プロピオノイン、2−メチル−2−ペンテナール、アセトインアセテート、メチル3−ヒドロキシ−ブチレート、2−メチル−1−ヘプテン−3−オール、8−ノネン−2−オン、アセトイン、3−メチル−3−ブテニルアセテート、テトラヒドロシトラール、アリルアルコール、ブタナール(ブチルアルデヒド)、2,3−ブタンジオン(ジアセチル)、イソブチルセロソルブ、イソブチルアルデヒド、カルビトールアセテート、2−デセナール、デカナール、ジイソブチルカルビノール、ドデカナール(ラウリルアルデヒド)、エチルアクリレート、エチルブチレート、エチルバレレート、エチルビニルケトン、エチル2−メチルブチレート、ヘプタナール、1−ヘプタノール、2−ヘプタノン、2−ヘプテナール、2−ヘクセノール、メシチルオキサイド、2−メチルブタナール−1、3−メチルブタナール−1、2−メチルブタノール、メチルイソアミルケトン(5−メチル−2−ヘキサノン)、2−メチル−1−ペンタノール、2−メチルブチルアセテート、2−メチルプロパナール(イソブチルアルデヒド)、2−ノナナール、n−ノナナール(ペラルゴンアルデヒド)、2−オクテナール、オクタナール(n−カプリルアルデヒド)、オクチルアセテート、1−ペンテン−3−オン(エチルビニールケトン)、イソペンタナール、ペンタナール(バレルアルデヒド)、2,4−ペンタンジオン(アセチルアセトン)、イソペンチルアセテート(イソアミルアセテート)、ペンチルアセテート(n−アミルアセテート)、プロパナール(プロピオンアルデヒド)、プロパノン酸、プロピルブチレート、ウンデカナール、ブチロイン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、シクロヘキセンオキサイド、m−クレゾール、N−(2′−フルフリル)ピロール、2−ピロールアルデヒド、5−メチル−2−ピロールアルデヒド、N−エチルピロールアルデヒド、2−アセチル−N−メチルピロール、ジケテン、5−アセチル2−メチルオキサゾール、2−アセチルフラン、2−メチルフラン、フルフラール、フルフリルアセトン、5−メチル−2−フルフラール、ジヒドロフラノン、シクロペンタノン、フェニルn−ブチレート、2−フェニル−2−ブテナール、ジフルフリルエーテル、クリサンテノン、2−ブテン−4−オリド、2−メトキシフェノール(ガイアコール)、2−メトキシ−3−エチルピラジン、2−メトキシ−3−イソブチルピラジン、2−メトキシ−3−イソブチルピリジン、2−メトキシ−3−イソプロピルピラジン、2−メトキシ−3−プロピルピラジン、アニソール、ベンズアルデヒド、1,8−シネオール、シクロペンチルアセテート、2−エトキシ−3−エチルピラジン、2−ヒドロキシ−3−メトキシベンズアルデヒド(o−バニリン)、フェニルエーテル。
【0024】
付臭剤含有燃料ガスがシクロへキセン含有水素ガスである場合、水素ガスに対してシクロへキセンが0.1〜5000ppm特に1〜300ppm程度添加されることが好ましい。なお、シクロへキセンと共にさらに窒素化合物、炭化水素類などが添加されてもよい。また、付臭剤含有燃料ガスの態様によっては、この程度の濃度に至るまで前処理として、付臭剤除去をおこなった後に、付臭剤含有燃料ガスとして供給をおこなってもよい。
【0025】
付臭剤非含有燃料ガスとしては、付臭剤無添加の燃料ガスであってもよいが、上記の付臭剤含有燃料ガスを付臭剤除去処理したものが好適である。この付臭剤除去処理手段としては、活性炭、ゼオライト等の吸着剤を用いた吸着装置が好適である。この吸着装置は、常時稼動されるものではなく、燃料電池に付臭剤非含有燃料ガスを供給するときだけ稼動させるものであるので、小容量のもので足りる。なお、吸着材を用いることなく、系外から、直接、必要に応じて、付臭剤非含有燃料ガスを導入してもよい。
【0026】
図1は、付臭剤除去器と燃料電池とを用いた燃料電池発電システムの構成図である。付臭剤含有燃料ガスはガス供給ライン1、バルブ2を経て燃料電池3に供給される。このバルブ2を迂回するバイパスライン4にバルブ5及び付臭剤除去器6が設けられている。燃料電池3の出力電圧を電圧計10で検出し、この検出電圧が制御器11に入力される。この制御器11は、予め設定されている所定値と検出電圧とを比較する比較回路と、検出電圧が所定値以下となったときにバルブ2,5を制御して燃料電池3に付臭剤非含有燃料ガスを供給するバルブ駆動制御回路とを有する。
【0027】
通常運転時には、バルブ2を開、バルブ5を閉とし、燃料ガスを全量そのまま燃料電池3に供給して発電を行う。
【0028】
燃料電池3の出力電圧が所定値以下となった場合には、バルブ2を閉、バルブ5を開とし、燃料ガスを全量付臭剤除去器6に通して付臭剤を除去した後、燃料電池3に供給する。この実施の形態では、付臭剤除去器6として、活性炭、ゼオライト等の吸着材を充填した吸着装置が用いられている。付臭剤がシクロへキセンの場合、付臭剤除去器6を通過した燃料ガス中のシクロへキセン濃度は10ppm以下、特に1ppm以下であることが好ましい。
【0029】
このように付臭剤を実質的に含有しない付臭剤非含有燃料ガスを燃料電池に供給すると、燃料電池中に、特に燃料電池の触媒に付着していた付臭剤又はその分解生成物が脱離等の物理的除去作用や化学的除去作用等によって除去され、燃料電池の発電電圧(出力電圧)が回復する。
【0030】
燃料ガスがシクロへキセンを0.1〜5000ppm程度含む水素ガスであり、燃料電池が固体高分子形燃料電池である場合、付臭剤含有燃料ガスを燃料電池に1秒〜1000時間、特に10秒〜1000時間、とりわけ1時間〜1000時間供給した後、シクロへキセン除去水素ガスなどのシクロヘキセン非含有水素を1秒〜100時間特に10秒〜100時間、とりわけ1時間〜100時間、さらには10時間〜100時間程度供給することにより、燃料電池出力電圧を十分に回復させることができる。
【0031】
図1のシステムにおいて、燃料電池3に付臭剤含有燃料ガスを供給している間に、必要に応じ付臭剤除去器6の吸着材を再生処理や交換することができる。
【0032】
上記説明では、燃料電池3の出力電圧が所定値よりも低下した場合に付臭剤非含有燃料ガスを燃料電池3に供給するものとしているが、燃料電池3の出力電圧がそれ程低下しないときでも間欠的に(例えば定期的に)付臭剤非含有燃料ガスを燃料電池3に供給し、燃料電池3の出力電圧低下を抑制するようにしてもよい。
【0033】
本発明では、付臭剤非含有ガスを燃料電池3に供給するときの供給速度を付臭剤含有ガス供給時よりも高くし、燃料電池3の出力電圧を短時間で回復させるようにしてもよい。なお、付臭剤非含有燃料ガスを燃料電池3に供給しながら燃料電池を開回路に保持してもよい。また、一時的に発電電圧を一定に保ちながら付臭剤非含有燃料ガスの供給量を増大させてもよい。
【0034】
本発明では、付臭剤除去処理した燃料ガスを一時的に貯留しておくタンクを設けてもよい。このタンク内に水素吸蔵合金を充填してもよい。このタンク内の燃料ガスを定常運転時の供給速度よりも高供給速度にて燃料電池に供給してもよい。
【0035】
なお、図1のシステムは本発明の一例であり、本発明はそれ以外の形態とされてもよい。図2のシステムは、燃料電池3を複数個設けた場合、各燃料電池3に対し1台の付臭剤除去器5によって付臭剤を除去した燃料ガスを供給しうるように構成したものである。図2では、各燃料電池の電圧計10の検出電圧を1基の制御器12に入力し、該制御器12によって各燃料電池3への付臭剤非含有燃料ガスの供給制御を行っている。図示はしないが、付臭剤除去器5を並列に複数個設置し、一部の付臭剤除去器で付臭剤を供給しているときに他の一部の付臭剤除去器で吸着材の脱着又は交換を行うようにしてもよい。
【実施例】
【0036】
[実施例1]
燃料電池に対し付臭剤含有燃料ガスとしてシクロへキセン添加水素ガスを供給し、間欠的に付臭剤非含有燃料としてシクロへキセン無添加水素ガスを供給して燃料電池の運転を行った。具体的には、電極面積25cm(5cm角)の膜・電極接合体(MEA)を有した、JARI(日本自動車研究所)標準セルを、単セルとして運転した。MEAの触媒はTEC10E50Eであり、触媒量は両極共に0.2mgPt/cmである。電解質膜はNafion(登録商標)NRE211である。
【0037】
電流密度は0.25A/cmで一定とし、シクロへキセン添加中も常に同じ電流密度となるように制御した。燃料利用率(Uf)は90%、空気利用率(Uo)は55%とした。セル温度は65℃とし、アノードとカソードに流通するガスの加湿露点はいずれも65℃とした。
【0038】
シクロヘキセンが5000ppmの標準ガスを用意し、加湿した後の水素または空気に対し、100ppmのシクロヘキセン濃度となるように添加した。図3に試験装置の概要を示す。
【0039】
燃料電池の発電特性評価には(株)東陽テクニカ製のAUTOPEMを用いた。
【0040】
燃料電池の運転を開始から535時間が経過するまではシクロへキセン無添加の水素ガスを燃料電池に供給した。その後、シクロへキセン100ppm添加水素ガスを406時間供給した。次いで、シクロへキセン無添加水素ガスを2時間供給した後、シクロへキセン100ppm添加水素ガスを837時間供給した。さらに、その後、シクロへキセン無添加水素ガスを600時間供給した。
【0041】
燃料電池の出力電圧の経時変化を図4に示す。図4の通り、535時間経過後にシクロヘキセンの添加を開始するとセル電圧は徐々に低下した。406時間のシクロへキセン添加運転後、2時間シクロへキセン無添加水素ガスを供給することにより、セル電圧が回復した。その後、837時間のシクロへキセン添加運転後、シクロヘキセンの添加を停止すると、再びセル電圧が回復した。またシクロへキセン添加を再開し、その後、シクロへキセン無添加水素ガスの供給を継続した場合、セル電圧はシクロヘキセンを混入していない初期におけるセル電圧の推移の外挿線(点線)レベルとなった。
【0042】
以上より、アノード側からシクロヘキセンが混入するとセル電圧が低下するものの、シクロヘキセンの添加を停止することにより可逆的に回復することを確認した。
【符号の説明】
【0043】
3 燃料電池
6 付臭剤除去器
10 電圧計
11,12 制御器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
付臭剤含有燃料ガスを燃料電池に供給して発電を行う燃料電池の出力電圧回復装置であって、
間欠的に該燃料電池に付臭剤非含有燃料ガスを供給する付臭剤非含有燃料ガス供給手段を有する燃料電池の出力電圧回復装置。
【請求項2】
請求項1において、燃料電池の出力電圧の検出手段と、該検出手段の検出電圧が所定値以下となったときに前記供給手段を作動させる制御手段とをさらに有することを特徴とする燃料電池の出力電圧回復装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、付臭剤非含有燃料ガス供給手段は、付臭剤含有燃料ガスを付臭剤除去処理して付臭剤非含有燃料ガスを製造する手段を有することを特徴とする燃料電池の出力電圧回復装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、燃料ガスは水素ガスであり、付臭剤はシクロヘキセンであることを特徴とする燃料電池の出力電圧回復装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、付臭剤非含有燃料ガスの供給時間が1秒以上であることを特徴とする燃料電池の出力電圧回復装置。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項において、燃料電池が固体高分子形燃料電池またはアルカリ電解質形燃料電池であることを特徴とする燃料電池の出力電圧回復装置。
【請求項7】
付臭剤含有燃料ガスを燃料電池に供給して発電を行う工程を有する燃料電池の出力電圧回復方法において、
間欠的に、該燃料電池に付臭剤非含有燃料ガスを供給して出力電圧を回復させる工程を実行することを特徴とする燃料電池の出力電圧回復方法。
【請求項8】
請求項7において、燃料電池の出力電圧が所定値以下となったときに付臭剤非含有燃料ガスを供給することを特徴とする燃料電池の出力電圧回復方法。
【請求項9】
請求項7又は8において、付臭剤非含有燃料ガスは、付臭剤含有燃料ガスを付臭剤除去処理したガスであることを特徴とする燃料電池の出力電圧回復方法。
【請求項10】
請求項7ないし9のいずれか1項において、燃料ガスは水素ガスであることを特徴とする燃料電池の出力電圧回復方法。
【請求項11】
請求項7ないし9のいずれか1項において、燃料ガスは水素ガスであり、付臭剤はシクロヘキセンであることを特徴とする燃料電池の出力電圧回復方法。
【請求項12】
請求項7ないし11のいずれか1項において、付臭剤非含有燃料ガスの供給時間が1秒以上であることを特徴とする燃料電池の出力電圧回復方法。
【請求項13】
請求項7ないし12のいずれか1項において、燃料電池が固体高分子形燃料電池またはアルカリ電解質形燃料電池であることを特徴とする燃料電池の出力電圧回復方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−89347(P2013−89347A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−226590(P2011−226590)
【出願日】平成23年10月14日(2011.10.14)
【出願人】(000220262)東京瓦斯株式会社 (1,166)
【Fターム(参考)】