説明

燃料電池の発電方法

【課題】 簡単な手順によって、燃料電池の発電能力を短時間で向上させることができる、燃料電池の発電方法を提供すること。
【解決手段】 電解質膜9と、電解質膜9の一方側に配置され、ヒドラジンが供給されるアノード10と、電解質膜9の他方側に配置され、酸素が供給されるカソード11とを有する単位セル6を備える燃料電池2において、アノード10へヒドラジンを、カソード11へ酸素をそれぞれ供給しながら、単位セル6のアノード10とカソード11とを短絡する工程と、アノード10とカソード11との短絡後、カソード11への酸素の供給を停止する工程と、酸素の供給停止後、加熱されたヒドラジンをアノード10に接触させる工程とを実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒドラジンを燃料とする燃料電池の発電方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ヒドラジンを燃料とする燃料電池が、炭酸ガスを生成せず、実質的なゼロエミッションを実現できることから注目されている。
ヒドラジン燃料電池として、例えば、アニオン交換膜と、この膜を挟んで対向配置される、コバルト金属からなる燃料側電極(アノード)および銀担持カーボンからなる酸素側電極(カソード)とを有する膜・電極接合体(MEA)を備える燃料電池が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、近年、燃料電池の起動特性を向上させる目的で、燃料電池の活性化方法が種々提案されている。
例えば、電解質層と、この電解質層を挟持する燃料極および空気極とを備えるダイレクトメタノール式の燃料電池において、空気極への酸素供給を遮断した状態で燃料極に燃料を供給し、単電池当たりの電圧が0.3V以下とされる開回路状態で、所定時間放置する燃料電池の活性化方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−244961号公報
【特許文献2】特開2008−192526号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
燃料電池の起動特性の向上は、上記のようなダイレクトメタノール式燃料電池に限らず、ヒドラジン燃料電池においても要求されている。
ヒドラジン燃料電池では、撥水性を示すMEAのアノードが、ヒドラジンとの接触により親水性に変化(親水化)することによって、アノードに対するヒドラジンの親和性が高くなって発電能力が向上する。したがって、燃料電池の発電早期にアノードが親水化されれば、ヒドラジン燃料電池の起動特性の向上化を図ることができる。
【0006】
そのようなアノードの親水化は、アノードにヒドラジンが接触する発電過程において進行するが、発電時の電気化学的反応により、アノードには窒素ガスが生じるので、その窒素ガスによってアノードが覆われる。そのため、ガスに覆われた部分において、アノードとヒドラジンとの接触が阻害され、親水化の進行度合にばらつきが生じる。したがって、単に燃料電池を発電させるだけでは、発電能力を短時間で向上させることは困難である。
【0007】
一方、特許文献2に記載の活性化方法では、発電過程において、空気極への酸素供給を遮断した状態で、燃料が燃料極に供給される。そして、燃料電池が、開回路状態で所定時間放置される。しかし、特許文献2に記載の方法は、ダイレクトメタノール式燃料電池に採用されるものである。そのような活性化方法がヒドラジン燃料電池に採用されても、燃料電池の発電能力を短時間で向上させることは、やはり困難である。
【0008】
本発明の目的は、簡単な手順によって、燃料電池の発電能力を短時間で向上させることができる、燃料電池の発電方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の燃料電池の発電方法は、電解質膜と、前記電解質膜の一方側に配置され、ヒドラジンが供給されるアノードと、前記電解質膜の他方側に配置され、酸素が供給されるカソードとを有する単位セルを備える燃料電池の発電方法であって、前記アノードへヒドラジンを、前記カソードへ酸素をそれぞれ供給しながら、前記アノードと前記カソードとを短絡させる工程と、前記アノードと前記カソードとの短絡後、前記カソードへの酸素の供給を停止する工程と、酸素の供給停止後、加熱されたヒドラジンを前記アノードに接触させる工程とを備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の燃料電池の発電方法によれば、アノードとカソードとを短絡する工程と、カソードへの酸素の供給を停止する工程と、加熱されたヒドラジンをアノードに接触させる工程とを、この順で実行するといった簡単な手順によって、アノードを親水化することができる。
また、アノードとカソードとを短絡した後、カソードへの酸素供給が停止されることによって、アノード−カソード間でのイオンおよび電子の授受が停止する。そのため、酸素供給の停止後、アノードにおける窒素ガスの発生を抑制することができる。その結果、アノードに対してヒドラジンを均等に接触させることができるので、アノードを均等に親水化することができる。
【0011】
これらの結果、燃料電池の発電能力を短時間で向上させることができるので、燃料電池の起動特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態を示す燃料電池の発電方法に使用される燃料電池システムの概略構成図である。
【図2】実施例1の各発電過程における燃料電池のI−V特性を示すグラフである。
【図3】実施例2および比較例1の発電過程における燃料電池のI−V特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.燃料電池システムの全体構成
図1は、本発明の一実施形態を示す燃料電池の発電方法に使用される燃料電池システムの概略構成図である。
燃料電池システム1は、ヒドラジンを燃料とする燃料電池2と、燃料電池2に対してヒドラジンを循環させるための燃料循環部3と、発電反応に使用するための空気(酸素)を給排するための空気給排部4と、燃料電池2を冷却するための冷却部5とを備えている。以下の説明において、特記しない限り、ヒドラジンという場合には、水加ヒドラジン、無水ヒドラジンおよびヒドラジンのアルカリ水溶液(例えば、水加ヒドラジン+KOH水溶液など)のいずれをも含むものとする。
(1)燃料電池
燃料電池2は、例えば、固体高分子形燃料電池(PEFC)であって、複数の単位セル6が積層されたセルスタック7と、セルスタック7の積層方向(以下、積層方向)において、セルスタック7を挟んで対向する1対のエンドプレート8とを備えている。
【0014】
各単位セル6は、電解質膜9と、積層方向における電解質膜9の一方側に配置され、ヒドラジンが供給されるアノード10と、積層方向における電解質膜9の他方側に配置され、空気が供給されるカソード11と、電解質膜9、アノード10およびカソード11を挟んで対向配置される1対のセパレータ12とを備えている。
電解質膜9としては、例えば、プロトン交換膜、アニオン交換膜などの固体高分子膜が挙げられる。
【0015】
プロトン交換膜としては、例えば、パーフルオロスルホン酸膜などが挙げられる。また、アニオン交換膜としては、例えば、4級アンモニウム基、ピリジニウム基などのアニオン交換基を有する固体高分子膜(アニオン交換樹脂)が挙げられる。
アノード10は、例えば、積層方向他方側に配置され、電解質膜9に接触する触媒層(図示せず)と、触媒層の一方側に配置され、触媒層にヒドラジンを拡散させるための拡散層(図示せず)との積層構造で構成されている。
【0016】
触媒層は、例えば、触媒が担持された多孔質担体を用いて形成されている。
多孔質担体としては、例えば、カーボンなどの撥水性担体が挙げられる。
触媒としては、特に制限されず、例えば、白金族元素(Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt)、鉄族元素(Fe、Co、Ni)などの周期表第8〜10(VIII)族元素や、例えば、Cu、Ag、Auなどの周期表第11(IB)族元素など、さらには、これらの組み合わせなどが挙げられる。
【0017】
拡散層は、例えば、カーボンペーパ、カーボンクロスなどを用いて形成されている。
カソード11は、例えば、積層方向一方側に配置され、電解質膜9に接触する触媒層(図示せず)と、触媒層の他方側に配置され、触媒層に空気を拡散させるための拡散層(図示せず)との積層構造で構成されている。
触媒層は、例えば、アノード10の触媒層の材料として例示した、触媒担持多孔質担体を用いて形成されている。
【0018】
拡散層は、例えば、カーボンペーパ、カーボンクロスなどを用いて形成されている そして、電解質膜9の一方面にアノード10が、他方面にカソード11が、それぞれ圧着形成されることにより、これらは膜・電極接合体(MEA)を形成している。
セパレータ12は、例えば、ガス不透過性の導電性部材を用いて形成されている。
セパレータ12の積層方向一方側には、アノード10と接触する他方側の面において、アノード10にヒドラジンを供給するための燃料流路(図示せず)が形成されている。
【0019】
一方、セパレータ12の積層方向他方側には、カソード11と接触する一方側の面において、カソード11に空気を供給するための空気流路(図示せず)が形成されている。
そして、各単位セル6は、電解質膜9、アノード10およびカソード11からなる膜・電極接合体を、その厚さ方向両側から1対のセパレータ12で挟みこむことにより形成される。
【0020】
各単位セル6には、アノード10に電気的に接続されたアノード配線と、カソード11に電気的に接続されたカソード配線とがそれぞれ接続されており、それらが、纏めて1本のアノード配線13および1本のカソード配線14として結線されている。図1では、図解し易くするために、各単位セル6について、アノード配線もしくはカソード配線の一方のみを示している。
【0021】
エンドプレート8には、燃料供給口15と、燃料排出口16と、空気供給口17と、空気排出口18と、給水口19と、排水口20とが形成されている。
燃料電池2では、ヒドラジンは、燃料供給口15から流入して各単位セル6のアノード10に供給され、その後、各アノード10での電気化学反応により発生した水とともに、燃料排出口16から排出される。また、空気は、空気供給口17から流入して各単位セル6のカソード11に供給され、その後、空気排出口18から排出される。また、燃料電池2を冷却するための冷却水は、給水口19から流入して各単位セル6に供給され、その後、排水口20から排出される。
(2)燃料循環部
燃料循環部3は、燃料電池2に対して燃料を循環させる燃料循環管21と、燃料循環管21に介在された燃料タンク22とを備えている。
燃料循環管21は、下流側端部がエンドプレート8の燃料供給口15に接続され、上流側端部がエンドプレート8の燃料排出口16に接続されている。
【0022】
なお、燃料循環管21には、図示しないポンプが介在されており、ヒドラジンは、ポンプの駆動により燃料循環管21に循環されてアノード10に供給され、ポンプの停止によりアノード10への供給が停止される。
燃料タンク22には、燃料としてのヒドラジンが貯蔵されている。また、燃料タンク22には、図示しないヒータが取り付けられている。このヒータをONにすることによって、燃料タンク22内のヒドラジンを適宜加熱することができる。
(3)空気給排部
空気給排部4は、空気を燃料電池2に供給するための空気供給管23と、燃料電池2から排出される空気を外部に排出するための空気排出管24とを備えている。
【0023】
空気供給管23は、上流側端部が大気中に開放され、下流側端部がエンドプレート8の空気供給口17に接続されている。空気供給管23の途中には、空気供給管23を開閉するための供給弁25が設けられている。また、空気供給管23の途中において、例えば、供給弁25の上流側には、図示しないポンプ(例えば、コンプレッサなど)が介装されている。
【0024】
空気排出管24は、上流側端部がエンドプレート8の空気排出口18に接続され、下流側端部がドレンとされる。また、空気排出管24の途中には、空気排出管24を開閉するための排出弁26が設けられている。
(4)冷却部
冷却部5は、燃料電池2に対して冷却水を循環させる冷却水循環管27と、冷却水循環管27に介在された冷却水タンク28とを備えている。
冷却水循環管27は、下流側端部がエンドプレート8の給水口19に接続され、上流側端部がエンドプレート8の排水口20に接続されている。冷却水タンク28には、冷却水が貯蔵されている。
(5)発電方法
以上説明した燃料電池システム1では、燃料循環管21にヒドラジンを流すことにより燃料電池2に対してヒドラジンを循環させ、供給弁25および排出弁26を開くことにより燃料電池2に空気を供給することによって発電する。
【0025】
供給されるヒドラジンの流量は、例えば、1単位セル6あたり100〜200mL/minである。
供給される空気の流量は、例えば、1単位セル6あたり10〜30L/minである。
供給されたヒドラジンは、各単位セル6のアノード10に接触しながらセパレータ12の燃料流路(図示せず)を通過する。一方、供給された空気は、各単位セル6のカソード11に接触しながらセパレータ12の空気流路(図示せず)を通過する。
【0026】
そして、各極(アノード10およびカソード11)において、下記式(1)〜(3)で示される電気化学反応が生じ、起電力が発生する。
(1) N+4OH→N+4HO+4e (アノード10での反応)
(2) O+2HO+4e→4OH (カソード11での反応)
(3) N+O→N+2HO (燃料電池2全体での反応)
すなわち、ヒドラジンが供給されたアノード10では、ヒドラジン(N)とカソード11での反応で生成した水酸化物イオン(OH)とが反応して、窒素(N)および水(HO)が生成するとともに、電子(e)が発生する(上記式(1)参照)。
【0027】
アノード10で発生した電子(e)は、図示しない外部回路を経由してカソード11に到達する。つまり、この外部回路を通過する電子(e)が、電流となる。
一方、カソード11では、電子(e)と、外部からの供給もしくは燃料電池2での反応で生成した水(HO)と、空気流路を流れる空気中の酸素(O)とが反応して、水酸化物イオン(OH)が生成する(上記式(2)参照)。
【0028】
そして、生成した水酸化物イオン(OH)が、電解質膜9を通過してアノード10に到達し、上記と同様の反応(上記式(1)参照)が生じる。
このようなアノード10およびカソード11での電気化学的反応が連続的に生じることによって、燃料電池2全体として上記式(3)で表わされる反応が生じて、燃料電池システム1による発電が行なわれる。
【0029】
そして、上記した燃料電池システム1において、本発明の一実施形態に係る発電方法を適用すれば、発電早期に燃料電池2の発電能力を向上させることができる。
具体的には、例えば、上記した通常発電の実行前もしくは通常発電を数回(例えば、2〜4回程度)実行した後に、下記に示す工程を有する燃料電池2の活性化処理を実行する。
【0030】
活性化処理では、まず、アノード10へヒドラジンを、カソード11へ空気を供給しながら、アノード配線13とカソード配線14とを電気的に接続することによって、すべての単位セル6のアノード10とカソード11とを短絡させる工程を実行し、例えば、10〜60分、放置する。
放置後、供給弁25および排出弁26を閉じることによって、カソード11に対する空気の流通を遮断して、カソード11への酸素の供給を停止する工程を実行する。
【0031】
次いで、燃料タンク22内のヒドラジンを、例えば、60〜70℃まで加熱し、その加熱されたヒドラジンを燃料電池2に対して循環させて、加熱ヒドラジンをアノード10に接触させる工程を実行する。このとき、加熱ヒドラジンを、例えば、1〜24時間、循環させる。
(6)作用・効果
そして、この発電方法によれば、上記のように、複数の単位セル6のアノード10とカソード11とを短絡する工程と、カソード11への酸素の供給を停止する工程と、加熱ヒドラジンをアノード10に接触させる工程とを、この順で実行するといった簡単な手順によって、アノード10を親水化することができる。
また、燃料電池2に対してヒドラジンおよび空気を供給している間は、燃料電池2において上記式(3)で示される電気化学反応が継続するが、すべての単位セル6のアノード10とカソード11とが短絡されているので、カソード11への酸素供給が停止されることによって、上記式(2)で示される反応が停止する。これにより、アノード10への水酸化物イオン(OH)の供給が停止し、アノード10−カソード11間でのイオンおよび電子の授受が停止して、上記式(3)の反応が停止する。
【0032】
すなわち、カソード11に対する酸素供給の停止後、アノード10における上記式(1)の電気化学反応が停止するので、アノード10における窒素ガスの発生を抑制することができる。その結果、循環する加熱ヒドラジンを、アノード10に均等に接触させることができるので、アノード10を均等に親水化することができ、親水化を促進させることができる。
【0033】
これらの結果、燃料電池2の発電能力を短時間で向上させることができるので、燃料電池2の起動特性を向上させることができる。
さらに、このような燃料電池2の起動特性の向上を、燃料電池2の組立て前ではなく、組立て後の発電過程において実施できるので、以下のような不具合が発生することもない。
【0034】
例えば、アノード10の親水化は、発電過程ではなく、燃料電池2の組立てに先立って、アノード10にヒドラジンを接触させることによっても実行することができる。そのような方法として、例えば、電解質膜9、アノード10およびカソード11からなる膜・電極接合体をヒドラジンに浸漬する方法が考えられる。
しかし、MEAをヒドラジンに浸漬する方法では、電解質膜9がヒドラジンを吸収して膨潤し、燃料電池2の組立てが困難になるといった不具合や、カソード11の触媒層がヒドラジンと接触して、カソード11の触媒機能が低下するといった不具合を生じるおそれがある。そのため、アノード10のみにヒドラジンを接触させる必要があるが、接触させる作業に時間を浪費するといった不具合を生じることとなる。
【0035】
これに対し、上記説明した発電方法によれば、エンドプレート8の空気供給口17にヒドラジンを供給することがないので、カソード11とヒドラジンとの接触を抑制することができる。そのため、カソード11の触媒機能の低下を抑制することができる。また、組立て後の燃料電池2に対して上記した工程を実行するため、燃料電池2の組立てが困難になることもない。
(7)変形例
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明の実施形態は、これらに限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で、適宜設計を変形することができる。
【0036】
例えば、前述の実施形態では、本発明が適用される一実施形態として、複数の単位セル6が積層されたセルスタック7を備える燃料電池2を取り上げたが、本発明は、単位セル6を1つのみ備える燃料電池に適用することもできる。その場合には、アノード10へヒドラジンを、カソード11へ空気を供給しながら、当該単位セル6に接続されているアノード配線13とカソード配線14とを電気的に接続することによって、当該単位セル6のアノード10とカソード11とを短絡すればよい。
【0037】
また、例えば、前述の実施形態では、加熱ヒドラジンをアノード10に接触させる工程において、ヒドラジンの加熱を、燃料タンク22に設けられたヒータによって行なったが、例えば、冷却水タンク28にヒータを設け、このヒータによって加熱された温水によって行なってもよい。
その場合、例えば、カソード11に対する空気の流通の遮断後、燃料電池2に対して温水を循環させるとともに、ヒドラジンの循環を停止してもよい。これにより、セパレータ12の燃料流路(図示せず)を満たしてアノード10に接触している状態のヒドラジンを、温水からセパレータ12を介して伝わる熱によって加熱することができる。
【0038】
また、単位セル6を短絡する工程において、複数の単位セル6全てを短絡する必要はなく、例えば、いくつかの単位セル6を短絡するだけでもよい。
本発明の発電方法は、例えば、電動車両、鉄道、船舶、航空機など、燃料電池が使用される各種分野において好適に実施することができる。
【実施例】
【0039】
次に、本発明を実施例および比較例に基づいて説明するが、本発明は下記の実施例によって限定されるものではない。
実施例1
1.燃料電池システムの組み立て
図1に示す燃料電池システム1と同様の構成の燃料電池システムを組立てた。なお、燃料電池システムの主な装置仕様を、以下のように設計した。
・燃料電池の形式:固体高分子形
・単位セルの数:1個
・電解質膜:アニオン交換膜
・アノード:コバルト担持カーボン多孔質体(Co/C)
・カソード:銀担持カーボン多孔質体(Ag/C)
・燃料:水加ヒドラジンアルカリ溶液(20%水加ヒドラジン+1molKOH水溶液)
2.燃料電池の特性評価
上記仕様の燃料電池システムにおいて、以下の操作を実行した。
(1)1回目発電
燃料を流量100mL/minでアノードに供給し、空気を10L/minでカソードに供給することによって、燃料電池の発電を行なった。発電中、アノード配線およびカソード配線から0〜30Aの範囲で電流を引くことによって、1単位セル当たりの電圧変化を調べた。
(2)2回目発電
1回目発電後、1回目発電と同様の条件で燃料および空気を供給することによって、燃料電池の発電を行なった。発電中、アノード配線およびカソード配線から0〜60Aの範囲で電流を引くことによって、1単位セル当たりの電圧変化を調べた。
(3)3回目発電
2回目発電後、1回目発電と同様の条件で燃料および空気を供給することによって、燃料電池の発電を行なった。発電中、アノード配線およびカソード配線から0〜60Aの範囲で電流を引くことによって、1単位セル当たりの電圧変化を調べた。
(4)活性化処理
3回目発電後、1回目発電と同様の条件で燃料および空気を供給しながら、アノード配線とカソード配線とを電気的に接続することによって、単セルのアノードとカソードとを短絡させ、30分間放置した。
【0040】
次いで、カソードへの空気の供給を停止し、燃料タンク内で60℃に加熱したヒドラジンを燃料電池に対して3時間循環させた。
(5)4回目発電
活性化処理後、1回目発電と同様の条件で燃料および空気を供給することによって、燃料電池の発電を行なった。発電中、アノード配線およびカソード配線から0〜110Aの範囲で電流を引くことによって、1単位セル当たりの電圧変化を調べた。
(6)5回目発電
4回目発電後、1回目発電と同様の条件で燃料および空気を供給することによって、燃料電池の発電を行なった。発電中、アノード配線およびカソード配線から60〜120Aの範囲で電流を引くことによって、1単位セル当たりの電圧変化を調べた。
【0041】
以上の操作によって得られた、各発電過程におけるI−V特性を図2に示す。
図2によると、発電過程において電流を引くことによって、アノードの親水化が進行し、燃料電池の発電能力が徐々に向上していることが確認された。例えば、1回目発電では、電流を20A引いたときの電圧降下が0.297Vであったのに対し、3回目発電では、同じ電流値での電圧降下が0.205Vであった。
【0042】
さらに、図2では、3回目発電と4回目発電との間に活性化処理を実行したことによって、アノードの親水化が促進され、燃料電池の発電能力が飛躍的に向上していることが確認された。例えば、3回目発電では、電流を80A引いたときに電圧が0.533V降下しているのに対し、活性化処理後の4回目発電では、0.380Vしか降下しなかった。
以上の結果から、燃料電池の発電能力は、通常の発電過程でも徐々に向上するが、上記の活性化処理によって飛躍的に向上することが確認された。
【0043】
すなわち、この活性化処理を実行することにより、燃料電池の発電能力を短時間で向上させることができるので、燃料電池の起動特性を向上させることができる。
また、活性化処理後の電圧の降下度合を低減できるので、例えば、3回目発電では、電流の上限が80Aに制限されていたが、活性化処理後の4回目発電では、110Aまで電流を引くことができた。すなわち、この活性化処理によって、燃料電池の出力を向上させることができた。
実施例2
まず、実施例1と同じ仕様の燃料電池システムを組立てた。このとき、燃料電池を、単位セルが複数積層されたスタック構造とした。次いで、燃料を1単位セルあたり流量100mL/minでアノードに供給し、空気を1単位セルあたり10L/minでカソードに供給しながら、アノード配線とカソード配線とを電気的に接続することによって、全ての単位セルのアノードとカソードとを短絡させ、30分間放置した。
【0044】
次いで、カソードへの空気の供給を停止し、燃料タンク内で72℃に加熱したヒドラジンを燃料電池に対して4時間循環させた。
次いで、上記と同様の条件で燃料および空気を供給することによって、燃料電池の発電を行なった。発電中、アノード配線およびカソード配線から0〜15Aの範囲で電流を引くことによって、1単位セル当たりの電圧変化を調べた。発電過程におけるI−V特性を図3に示す。
比較例1
まず、実施例1と同じ仕様の燃料電池システムを組立てた。次いで、燃料を流量100mL/minでアノードに供給し、空気を10L/minでカソードに供給しながら、アノード配線とカソード配線とを電気的に接続することによって、全ての単位セルを短絡させ、30分間放置した。
【0045】
次いで、カソードへの空気の供給を停止し、加熱せずに常温のままのヒドラジンを燃料電池に対して4時間循環させた。
次いで、上記と同様の条件で燃料および空気を供給することによって、燃料電池の発電を行なった。発電中、アノード配線およびカソード配線から電流を引くことによって、1単位セル当たりの電圧変化を調べた。発電過程におけるI−V特性を図3に示す。
【0046】
図3によると、同じ大きさの電流を引いたときの降下電圧が、比較例1に比べて、実施例1の方が小さいことが確認された。この結果から、比較例1の燃料電池の発電能力に比べて、実施例1の燃料電池の発電能力の方が高いことが確認された。
すなわち、燃料および空気を供給しながら単位セルのアノードとカソードとを短絡する工程と、カソードへの酸素の供給を停止する工程とを順に実行した後、加熱ヒドラジンをアノードに接触させることによって、加熱ヒドラジンの接触がない場合に比べて、燃料電池に優れた発電能力を発現させることができる。
【符号の説明】
【0047】
2 燃料電池
6 単位セル
9 電解質膜
10 アノード
11 カソード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜と、
前記電解質膜の一方側に配置され、ヒドラジンが供給されるアノードと、
前記電解質膜の他方側に配置され、酸素が供給されるカソードと
を有する単位セルを備える燃料電池の発電方法であって、
前記アノードへヒドラジンを、前記カソードへ酸素をそれぞれ供給しながら、前記アノードと前記カソードとを短絡させる工程と、
前記アノードと前記カソードとの短絡後、前記カソードへの酸素の供給を停止する工程と、
酸素の供給停止後、加熱されたヒドラジンを前記アノードに接触させる工程と
を備えることを特徴とする、燃料電池の発電方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−238571(P2010−238571A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−86120(P2009−86120)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】