説明

燃料電池の運転方法

【課題】ポリベンズイミダゾール系化合物と酸を少なくとも含有する電解質膜及びビニルホスホン酸を少なくとも含有する触媒層を用いた燃料電池の好適な運転方法の提供。
【解決手段】ポリベンズイミダゾール化合物とビニルホスホン酸を少なくとも含有してなる電解質膜とビニルホスホン酸を少なくとも含有する触媒層を有する燃料電池の運転方法であって、且つ140℃〜260℃の間で運転することを特徴とする燃料電池の運転方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温無加湿条件を使用した燃料電池の運転方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリベンズイミダゾールにリン酸を含浸させることで、イミダゾール骨格とリン酸の相互作用を利用し、ポリベンズイミダゾール中にリン酸を保持させると共に、リン酸のプロトン伝導機能により120℃以上の高温かつ水分の比較的少ない環境で高いプロトン伝導性を引き出した電解質膜が報告されている(たとえば特許文献1)。しかし、ポリベンズイミダゾール自体にはイオン伝導特性がないので、十分なプロトン伝導性を得るためには、ポリベンズイミダゾールにリン酸を多量に含浸させる必要がある。またリン酸自体のプロトン伝導性は温度が上がるほど良くなるが、リン酸が高温環境にさらされると脱水縮合してポリリン酸となり、ポリベンズイミダゾール自体を溶解するという問題がある。そのため使用上限温度は160℃〜170℃が限界であり、例えば、ポリベンズイミダゾールとリン酸からなる電解質膜を用いた燃料電池システムの説明書には、使用上限温度は175℃であると記載されている(非特許文献1)。
【0003】
そのような背景から、上記酸含浸した電解質膜を用いる燃料電池の発電温度は、およそ140℃〜170℃に制限されており、より好ましくは150〜160℃程度という非常に狭い温度範囲で運転する困難さがある。
【0004】
また、ポリベンズイミダゾールやその誘導体にリン酸やビニルホスホン酸を含有させてなる電解質膜も報告されているが、例えば特許文献2や特許文献3において実施例の記載によると、電極としては市販の電極を使用しており、動作温度は150℃程度である。
【0005】
このように、酸含浸タイプの電解質膜にて、より広い温度範囲で動作可能な燃料電池というものは充分に検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表平11−503262号公報
【特許文献2】特開2006−339065号公報
【特許文献3】特開2007−115426号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Serenus166/390Air C Datasheet(Serenergy(デンマーク))
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するものであり、特にポリベンズイミダゾール系化合物と酸を少なくとも含有する電解質膜及びビニルホスホン酸を少なくとも含有する触媒層を用いた燃料電池の好適な運転方法に関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
鋭意検討の結果、以下の手段により、課題を解決しうる発明をなした。
【0010】
本発明は、ポリベンズイミダゾール化合物とビニルホスホン酸を少なくとも含有してなる電解質膜とビニルホスホン酸を少なくとも含有する触媒層を有する燃料電池の運転方法であって、且つ140℃〜260℃の間で運転することを特徴とする燃料電池の運転方法である。
【0011】
さらに、前記ポリベンズイミダゾール化合物が、スルホン酸或いはスルホン酸塩を構成単位に有するポリベンズイミダゾール化合物であると、ビニルホスホン酸の保持性が良くなるので好ましく、上記温度範囲で好適に運転できる。
【0012】
また、ポリベンズイミダゾール化合物が架橋されてなると、ビニルホスホン酸の保持性が良くなるので好ましい。
【0013】
さらには、ポリベンズイミダゾール化合物は、下記式(1)乃至、式(2)の構造を有する化合物であることで、ビニルホスホン酸が抜けにくくなるため、広い温度範囲で好適に運転できる。
【0014】
【化1】


(式中、nは1から4の整数、R1はイミダゾール環を形成できる4価の芳香族結合ユニット、R2は2価の芳香族結合ユニット、Zはスルホン酸基を表す。スルホン酸基はすべてが酸の形態であっても一部またはすべてが誘導体の形態であっても良い。)
【0015】
【化2】


(式中、Xは、直接結合,−O−,−SO 2−,−S−,−CO−,−C(CH 3) 2−,−C(CF 3) 2−,−O−Ph−O−よりなる群から選ばれる1種以上の結合様式を表し、Arは芳香族ユニットから選ばれる1種以上の結合様式、Phは芳香族結合ユニット、Yはスルホン酸基であり、すべてが酸の形態であっても一部またはすべてが誘導体の形態であっても良く、nは1から4までの整数を表すものとする)
【0016】
また、燃料は、水素、改質ガス、アルコール或いはアルコールと水の混合物のいずれかであることを特徴とする燃料電池の運転方法である。
【0017】
また、本発明のもう一つの実施様態は、ポリベンズイミダゾール化合物とビニルホスホン酸を少なくとも含有してなる電解質膜とビニルホスホン酸を少なくとも含有する触媒層を有し、140℃〜260℃の温度範囲で発電可能な燃料電池である。
【発明の効果】
【0018】
ポリベンズイミダゾール化合物とビニルホスホン酸を少なくとも含有してなる電解質膜を使用する燃料電池を広い温度範囲で運転できる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の燃料電池においては、ポリベンズイミダゾール化合物を含む高分子とビニルホスホン酸を含む電解質膜を使用することが好ましい。従来技術で使用されるリン酸は、温度が上がるほど脱水縮合反応でポリリン酸化が進むためポリベンズイミダゾール化合物のリン酸或いはポリリン酸への溶解度が増すので、電解質膜としての形態を維持することが困難となる。それに対してビニルホスホン酸を含浸する場合、脱水縮合反応がほとんど起こらないため、ポリベンズイミダゾール化合物に対する溶解性が著しく変化する現象は起こりにくい。この点でポリベンズイミダゾール化合物とビニルホスホン酸を含有する電解質膜を使用することにより、従来のポリベンズイミダゾールとリン酸からなる電解質膜の使用可能な温度範囲が狭いという問題が解決されることを見出した。なお本発明のポリベンズイミダゾール系化合物とは、高分子鎖を形成する構成単位の中にベンズイミダゾール環を含んでいる高分子化合物を意味する。
【0020】
ポリベンズイミダゾール化合物とビニルホスホン酸の比率としては、ビニルホスホン酸が30質量部〜90質量部の範囲であることが好ましい。30質量部以下となると電解質膜として必要なイオン伝導性を維持することが困難となる傾向にあるので、発電性能が低くなる傾向にある。一方90質量部を越えると、膜の強度を維持すること困難となる傾向にあるので、広い範囲で運転することが難しい。より好ましくは50〜85質量部、さらに好ましくは、60〜85質量部の範囲である。尚、酸成分として、ビニルホスホン酸の他、リン酸を含んでいても良い。この場合、ビニルホスホン酸とリン酸の比率は、モル比で100:0〜30:60であることが好ましく、特に好ましくは、100:0〜60:40の範囲である。リン酸混入量増加に伴いポリベンズイミダゾール化合部の溶解度が増加する傾向にあるので、高温で使用するのが困難となる傾向にあるが、溶解しない範囲でリン酸を含有させることができる。ビニルホスホン酸は、高温環境下で部分的に重合し、オリゴマーを形成しやすい性質があるが、燐酸を共存させると重合しにくくなる点で特に高温で運転するためには好ましい。
【0021】
ビニルホスホン酸と組み合わせるポリベンズイミダゾール化合物の相性により、ビニルホスホン酸を保持する能力は変化し、耐久性に影響する。ポリベンズイミダゾール化合物のビニルホスホン酸に対する溶解性を低下させる方策としては、架橋する方法が好適に使用できる。架橋方法としては、電解質膜あるいはその前駆体を電子線で架橋する方法や、架橋反応の前駆体を含有させておく手法は好適である。例えばポリベンズイミダゾールあるいはその誘導体をフィルム状に成形後、電子線を照射して一部架橋し、その後ビニルホスホン酸に浸漬することにより、ポリベンズイミダゾールあるいはその誘導体とビニルホスホン酸を含有する電解質膜を形成できる。架橋処理を行うと、ビニルホスホン酸の割合を増加させることが可能であり、プロトン伝導性が改善される効果があると共に、より高温で動作可能な電解質膜となるのでより好ましい手法である。
【0022】
このような架橋処理の他、ポリベンズイミダゾール化合物のポリマー骨格を適正化することは有効な方策である。特にビニルホスホン酸との相性として、酸性基としてスルホン酸基を有するポリベンズイミダゾール系化合物を用いることが好ましい。本発明において、スルホン酸基とは、特に記載がない限り、遊離のスルホン酸として存在する基およびスルホン酸塩として存在する基のいずれも含むものとする。スルホン酸基を有すると、ビニルホスホン酸に対する溶解度が低下するため、電解質膜としての形態安定性を保持することが可能であり、燃料電池としたときの耐久性が特に良いため、広い温度範囲での運転に適している。
【0023】
通常ポリベンズイミダゾールは、芳香族テトラミンまたはその誘導体とジカルボン酸またはその誘導体を組み合わせた2種のモノマー間の重合反応により合成される。また、同一分子内に2個のアミノ基またはその誘導体と1個のカルボキシル基を持つ化合物の自己縮合により合成することができる。さらに、これらを混合した系においても合成することができる。本発明におけるスルホン酸基を有するポリベンズイミダゾール系化合物は、特に構造が規定されることはないが、これらの重合反応においてジカルボン酸モノマー中にスルホン酸基またはその誘導体を含むジカルボン酸を使用することで合成することが好ましい。スルホン酸基は、イミダゾール環上窒素原子に結合した側鎖を介して導入することも可能であるが、これらの形で導入したポリマーは一般的に耐溶剤性が低下する傾向にあるためである。また、ポリベンズイミダゾールポリマー中のベンズイミダゾール環上にスルホン化反応等により、スルホン酸基を導入することもできるが、この場合はポリマーの耐熱性が低下しやすい傾向となる。
【0024】
スルホン酸基を含有するポリベンズイミダゾール系化合物は、具体的には、下記構造式(1)で示される成分を含んでいることが好ましい。
【0025】
【化1】

【0026】
(式中、nは1から4の整数、R1はイミダゾール環を形成できる4価の芳香族結合ユニット、R2は2価の芳香族結合ユニット、Zはスルホン酸基を表す。スルホン酸基はすべてが酸の形態であっても一部またはすべてが誘導体の形態であっても良い。)
nが0であるユニットにおいてはビニルホスホン酸を保持することが難しく、nが5以上であるユニットにおいてはポリマーの耐水性が低下する傾向があるからである。ただし、上記構造式(1)のユニットを含む構造であれば、部分的にnが0や5以上のユニットが共存していても問題はない。また、R1はイミダゾール環を形成できる4価の芳香族結合ユニットを表し、R1は芳香環の単環であっても複数の芳香環の結合体あるいは縮合環であっても良く、安定な置換基を有していても良い。R1の芳香族ユニットによりポリベンズイミダゾール系化合物に酸性分子が共存しても化学的に高い安定性を保つという特性が付与される。R1は単独の構造であってもよいが、複数の構造を含んでいるものでも良い。R2は、芳香環の単環であっても複数の芳香環の結合体あるいは縮合環であっても良く、スルホン酸基やホスホン酸基以外の安定な置換基を有していても良い。スルホン酸基および/またはホスホン酸基がR2を介して芳香族テトラミン部位と結合することにより、ポリベンズイミダゾール系化合物にイオン伝導性が付与され、また溶媒に対する良好な溶解性も付与される。Zはスルホン酸基を表わすが、それらの一部が塩構造となっていても良い。具体的な塩構造としては、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩の他、各種金属塩、アンモニウム塩、アルキルアンモニウム塩等をあげることができるが、これらに限定されることはない。
【0027】
本発明におけるスルホン酸基を有するポリベンズイミダゾール系化合物は、下記構造式(2)で示される構成成分を含んでいることがさらに好ましい。
【0028】
【化2】

【0029】
(式中、Xは、直接結合,−O−,−SO 2−,−S−,−CO−,−C(CH 3) 2−,−C(CF 3) 2−,−O−Ph−O−よりなる群から選ばれる1種以上の結合様式を表し、Arは芳香族ユニットから選ばれる1種以上の結合様式、Phは芳香族結合ユニット、Yはスルホン酸基であり、すべてが酸の形態であっても一部またはすべてが誘導体の形態であっても良く、nは1から4までの整数を表すものとする)。また、Xの結合様式が直接結合であるとビニルホスホン酸含浸量を増やせるためより好ましく、−SO2−であるとポリマーの酸化耐性が向上するので特に好ましい。
【0030】
上記の誘導体としては、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩の他、各種金属塩、アンモニウム塩、アルキルアンモニウム塩等の塩構造をあげることができるが、これらに限定されることはない。式中のnが0であるユニットにおいてはビニルホスホン酸を保持する能力が低下する傾向があり、nが5以上であるユニットにおいてはポリマーの耐水性が低下する傾向があるため高温運転には適さない傾向がある。ただし、上記構造式(2)のユニットを含む構造であれば、部分的にnが0や5以上のユニットが共存していても問題はない。
【0031】
上記の構造式(1)および上記の構造式(2)で示す構造を含む本発明のポリベンズイミダゾール系化合物を合成する経路は特には限定されないが、通常は化合物中のイミダゾール環を形成し得る芳香族テトラミン類およびそれらの誘導体よりなる群から選ばれる一種以上の化合物と、芳香族ジカルボン酸およびその誘導体よりなる群から選ばれる一種以上の化合物との反応により合成することができる。その際、使用するジカルボン酸の中にスルホン酸基またはそれらの誘導体を含有するジカルボン酸を使用することで、得られるポリベンズイミダゾール系化合物中にスルホン酸基を導入することができる。スルホン酸基を含むジカルボン酸はそれぞれ一種以上組み合わせて使用することが出来る。また例えばホスホン酸基などのスルホン酸基以外の官能基も含まれていても良い。当然、スルホン酸基またはそれらの誘導体を含まないジカルボン酸も同時に使用して合成することもできる。
【0032】
ここで、本発明のポリベンズイミダゾール系化合物の構成要素であるベンズイミダゾール系結合ユニットにおいて、スルホン酸基を有するベンズイミダゾール系結合ユニットや、スルホン酸基を有さないベンズイミダゾール系結合ユニットや、その他の結合ユニットは、ランダム重合および/または交互的重合により結合していることが好ましい。また、これらの重合形式は一種に限られず、二種以上の重合形式が同一の化合物中で並存していてもよい。
【0033】
上記の構造式(1)、構造式(2)で示される構成成分を含むスルホン酸基および/またはホスホン酸基含有ポリベンズイミダゾール系化合物を与える芳香族テトラミンの具体例としては、特に限定されるものではないが、たとえば、1,2,4,5−テトラアミノベンゼン、3,3’−ジアミノベンジジン、3,3’,4,4’−テトラアミノジフェニルエーテル、3,3’,4,4’−テトラアミノジフェニルチオエーテル、3,3’,4,4’−テトラアミノジフェニルスルホン、3,3’,4,4’−テトラアミノベンゾフェノン、2,2−ビス(3,4−ジアミノフェニル)プロパン、ビス(3,4−ジアミノフェニル)メタン、2,2−ビス(3,4−ジアミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,4−ビス(3,4−ジアミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3,4−ジアミノフェノキシ)ベンゼン、1,2−ビス(3,4−ジアミノフェノキシ)ベンゼン等およびこれらの誘導体が挙げられる。これらのうち、構造式(2)で表される結合ユニットを形成することができる、3,3’−ジアミノベンジジン,3,3’,4,4’−テトラアミノジフェニルエーテル、3,3’,4,4’−テトラアミノジフェニルスルホン、3,3’,4,4’−テトラアミノジフェニルチオエーテル、3,3’,4,4’−テトラアミノベンゾフェノン、2,2−ビス(3,4−ジアミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,4−ジアミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,4−ビス(3,4−ジアミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3,4−ジアミノフェノキシ)ベンゼン、1,2−ビス(3,4−ジアミノフェノキシ)ベンゼンおよびこれらの誘導体が特に好ましい。
【0034】
これらの芳香族テトラミン類の誘導体の具体例としては、塩酸、硫酸、リン酸等の酸との塩等を挙げることができる。また、これらの化合物は単独で使用してもよいが、同時に複数使用することもできる。さらに、これらの化合物は、必要に応じて塩化すず(II)や亜リン酸化合物等の公知の酸化防止剤を含んでいてもよい。
【0035】
上述の構造式(1)または(2)の構造を与えるスルホン酸基含有ジカルボン酸は、芳香族系ジカルボン酸中に1個から4個のスルホン酸基を含有するものを選択することができるが、具体例としては、たとえば、2,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸、2,5−ジカルボキシ−1,4−ベンゼンジスルホン酸、4,6−ジカルボキシ−1,3−ベンゼンジスルホン酸、2,2’−ジスルホ−4,4’−ビフェニルジカルボン酸、3,3’−ジスルホ−4,4’−ビフェニルジカルボン酸、等のスルホン酸基含有ジカルボン酸およびこれらの誘導体を挙げることができる。誘導体としては、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩や、アンモニウム塩、アルキルアンモニウム塩等をあげることができる。スルホン酸基含有ジカルボン酸の構造は特にこれらに限定されることはない。芳香族ジカルボン酸骨格中に5個以上のスルホン酸基を有する場合、ポリマーの耐水性が低下し易い傾向がある。
【0036】
スルホン酸基を含有するジカルボン酸の純度は特に制限されるものではないが、98質量%以上が好ましく、99質量%以上がより好ましい。スルホン酸基を含有するジカルボン酸を原料として重合されたポリベンズイミダゾールは、スルホン酸基を含有しないジカルボン酸を用いた場合に比べて、重合度が低くなる傾向が見られる。このため、スルホン酸基を含有するジカルボン酸としてできるだけ純度が高いものを用いることにより、得られるポリマーの重合度が低くなることを防止することが耐久性の観点から好ましい。
【0037】
本発明で使用されるポリベンズイミダゾール系化合物の合成において、スルホン酸基を有する芳香族ジカルボン酸とともにスルホン酸基を有さない芳香族ジカルボン酸を使用する場合、全芳香族ジカルボン酸中におけるスルホン酸基を有する芳香族ジカルボン酸の含有率を20モル%以上となるように配合することが好ましい。この場合、本発明のポリベンズイミダゾール系化合物がスルホン酸基を有することによるビニルホスホン酸保持能力の向上効果を顕著に得ることができる。また、さらにスルホン酸基を有する芳香族ジカルボン酸の含有率を50モル%以上となるように配合することがさらに効果は顕著である。
【0038】
上述の芳香族テトラミン類およびそれらの誘導体よりなる群から選ばれる一種以上の化合物と、芳香族ジカルボン酸およびその誘導体よりなる群から選ばれる一種以上の化合物とを用いて、スルホン酸基を有するポリベンズイミダゾール系化合物を合成する方法は、特に限定されるものではないが、たとえば、J.F.Wolfe,Encyclopediaof Polymer Science and Engineering,2nd Ed.,Vol.11,P.601(1988)に記載されるようなポリリン酸を溶媒とする脱水、環化重合により合成することができる。また、ポリリン酸のかわりにメタンスルホン酸/五酸化リン混合溶媒系を用いた同様の機構による重合を適用することもできる。なお、熱安定性の高いポリベンズイミダゾール系化合物を合成するには、一般によく使用されるポリリン酸を用いた重合が好ましい。
【0039】
さらに、本発明で使用されるポリベンズイミダゾール系化合物を得るには、たとえば、適当な有機溶媒中や混合原料モノマー融体の形での反応でポリアミド構造等を有する前駆体ポリマーを合成しておき、その後の適当な熱処理等による環化反応で目的のポリベンズイミダゾール構造に変換する方法等も使用することができる。
【0040】
また、合成されたポリベンズイミダゾール系化合物において繰り返し単位を構成することになる原料モノマーが複数の種類からなる場合には、該繰返し単位同士はランダム重合および/または交互的重合により結合していることが好ましい。なお、ポリベンズイミダゾール系化合物をランダム重合や交互的重合ではなくブロック重合により合成することもできる。
【0041】
ポリベンズイミダゾール系化合物の数平均分子量は、特に限定されるものではないが、5,000以上であることが好ましく、10,000以上であればより好ましい。また、この数平均分子量は1,000,000以下であることが好ましく、300,000以下であればより好ましい。分子量が低いと電解質膜としての形態を維持するのが困難な傾向にある。また、この分子量が1,000,000を超えると粘度の上昇によりポリベンズイミダゾール系化合物を成形することが困難になる傾向がある。また、ポリベンズイミダゾール系化合物の分子量は、実質的には濃硫酸中で測定した場合の対数粘度で評価することができる。そして、この対数粘度は0.3以上であることが好ましく、特に0.40以上であればより好ましい。また、この対数粘度は10以下であることが好ましく、特に6以下であればより好ましい。この対数粘度が0.3未満の場合には、粘度の低下によりポリベンズイミダゾール系化合物から良好な性質を備えた成形物を得ることが困難となる。また、この分子量が8を超えると粘度の上昇によりポリベンズイミダゾール系化合物を成形することが困難になる。
【0042】
本発明のポリベンズイミダゾール系化合物は、たとえばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル類、ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン6,10、ナイロン12等のポリアミド類、ポリメチルメタクリレート、ポリメタクリル酸エステル類、ポリメチルアクリレート、ポリアクリル酸エステル類等のアクリレート系樹脂、ポリアクリル酸系樹脂、ポリメタクリル酸系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンやジエン系ポリマーを含む各種ポリオレフィン、ポリウレタン系樹脂、酢酸セルロース、エチルセルロース等のセルロース系樹脂、ポリアリレート、アラミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンオキシド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリベンズイミダゾール、ポリベンズオキサゾール、ポリベンズチアゾール等の芳香族系ポリマー、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ノボラック樹脂、ベンゾオキサジン樹脂等の熱硬化性樹脂等と共に用いることもできる。その場合、該ポリベンズイミダゾール系化合物が、樹脂組成物全体の50質量%以上100質量%未満を占めることが好ましい。より好ましくは70質量%以上100質量%未満である。なお、ポリベンズイミダゾール系化合物またはこれを含む樹脂組成物は、必要に応じて、たとえば酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、粘着付与剤、可塑剤、粘度調整剤、静電気防止剤、抗菌剤、消泡剤、分散剤、重合禁止剤、無機成分(例えばMn、Ce、Cs、Zr、Ti、Si、Alなどの化合物)、補強素材、保湿剤、等の各種添加剤を含んでいても良い。
【0043】
ポリベンズイミダゾール系化合物またはこれを含む樹脂組成物は、重合溶液、単離したポリマー、および再溶解させたポリマー溶液等から押し出し、圧延、キャスト等任意の方法で膜形状に成形することができる。本発明のポリベンズイミダゾール系化合物またはこれを含む樹脂組成物を含有する高分子膜を成形する好ましい方法としては、溶液からのキャストが挙げられる。ポリベンズイミダゾール系化合物またはこれを含む樹脂組成物を溶解するための溶媒としては、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン、ヘキサメチルホスホンアミド等の非プロトン極性溶媒や、ポリリン酸、メタンスルホン酸、硫酸、トリフルオロ酢酸等の強酸から適切なものを選ぶことができるが、これらに限定されるものではない。これらの溶媒のうち、特に有機溶媒系は好ましく用いられる。さらに、本発明のポリベンズイミダゾールが良好に溶解するN,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドンを溶媒として選定することが好ましい。これらの溶媒は、可能な範囲で複数を混合して使用してもよい。また、ポリベンズイミダゾールまたはこれを含む樹脂組成物の溶解性を向上させる手段として、臭化リチウム、塩化リチウム、塩化アルミニウム等のルイス酸を有機溶媒に添加したものを溶媒としてもよい。溶液中のポリマー濃度は0.1〜50質量%の範囲であることが好ましい。ポリマー濃度が0.1質量%未満である場合には成形性が悪化し易い傾向があり、50質量%を超える場合には加工性が悪化し易い傾向がある。
【0044】
ポリマー溶液を基板にキャストし、溶媒を除去する際には、溶媒を乾燥除去することが膜の均一性という点で好ましい。また、ポリマーや溶媒の分解や変質をさけるため、減圧下でできるだけ低い温度で乾燥することも好ましい。キャストする基板には、ガラス板、テフロン(登録商標)板、金属板、ポリマーシート等を用いることができる。溶液の粘度が高い場合には、基板や溶液を加熱して高温でキャストすると溶液の粘度が低下して容易にキャストすることができる。キャストする際の溶液の厚みは特に制限されないが、20〜1000μmであることが好ましい。20μm未満とすると膜としての形態を保ち難くなる傾向があり、1000μmを超えると不均一な膜ができ易くなる傾向がある。溶液の厚みはより好ましくは30〜800μmである。溶液のキャスト厚を制御する方法は公知の方法を用いることができる。たとえば、アプリケーター、ドクターブレード、コンマコーター等を用いて一定の厚みを確保することや、ダイコート、ロールコートなども利用できる。キャストした溶液は、溶媒の除去速度を調整することでより均一な膜とすることができる。たとえば、加熱して溶媒を留去する場合には、最初の段階では低温にして蒸発速度を下げたりすることができる。また、水等の非溶媒に浸漬して溶媒を除去する場合には、溶液を空気中や不活性ガス中に適当な時間放置しておく等してポリマーの凝固速度を調整することができる。本発明の膜は目的に応じて任意の膜厚にすることができるが、イオン伝導性の面からはできるだけ薄いことが好ましい。具体的には200μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがさらに好ましい。また、膜の強度や加工性の面から、膜厚は3μm以上であることが好ましい。
【0045】
ポリベンズイミダゾール系化合物を含む高分子膜には、ビニルホスホン酸を含む溶液が含浸され、本発明の電解質膜が得られる。一般に、ポリベンズイミダゾール系化合物を含む高分子膜と、該高分子膜に含浸させる酸化合物との組合せによって、含浸によるプロトン伝導性の発現挙動や、酸化合物の含浸可能量、含浸による高分子膜の膨潤変形、得られるプロトン伝導性高分子膜の耐久性等が種々異なる。本発明においては、ポリベンズイミダゾール系化合物とビニルホスホン酸、さらには架橋などを組み合わせることにより、十分な量のビニルホスホン酸を含浸させても電解質膜の変形が小さく、優れたプロトン伝導性を示す電解質膜となる。この電解質膜を用いることで特に180℃以上の高温環境においても耐久性が高く長時間の使用に耐え得るという特性を有する燃料電池が得られる。
【0046】
ポリベンズイミダゾール系化合物を含む高分子膜にビニルホスホン酸を含浸させる方法としては、該高分子膜を、ビニルホスホン酸そのものまたはビニルホスホン酸を含む溶液に浸漬する方法等が好ましく挙げられる。浸漬時の温度条件、浸漬時間を変えることにより、ビニルホスホン酸の含浸速度と含浸量をコントロールすることができる。ビニルホスホン酸含浸量は、浸漬温度、浸漬時間の組合せで決定されるが、浸漬させる温度としてはたとえば20℃から150℃の範囲とすることが好ましい。また、浸漬時間はたとえば10分から15時間の範囲内であることが好ましい。温度が高いほど浸漬時間が短くなるため好ましいが、時間が短すぎると不均一に含浸されやすくなる傾向がある。ビニルホスホン酸を製造する際に副生されるリン酸やエチルホスホン酸等の不純物やビニルホスホン酸が一部ポリマー化したオリゴマーが含まれていても用いることが出来る。また、ビニルホスホン酸の粘度を調節するために、ビニルホスホン酸の純度が50質量%を下回らない範囲でビニルホスホン酸と相溶である溶媒との溶液を用いることが出来る。また、含浸させるビニルホスホン酸とともに、他の無機および/または有機の酸性化合物を同時に含浸させることもできる。ここで使用できる無機酸としては、リン酸、ポリリン酸、硫酸、硝酸、フッ酸、塩酸、臭化水素酸およびそれらの誘導体が挙げられる。また、有機酸としては、有機スルホン酸、有機ホスホン酸が使用される。有機スルホン酸の具体的な例としては、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ヘキサンスルホン酸、オクチルスルホン酸、ドデシルスルホン酸、セチルスルホン酸、スルホコハク酸、スルホグルタル酸、スルホアジピン酸、スルホピメリン酸、スルホスベリン酸、スルホアゼライン酸、スルホセバシン酸を始めとするアルキルスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ペンタフルオロエタンスルホン酸、ヘプタフルオロプロピルスルホン酸、等のパーフルオロアルキルスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、1,3−ベンゼンジスルホン酸、トルエンスルホン酸、オクチルベンゼンスルホン酸、2−メチル−5−イソプロピルベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ジノニルナフタレンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、クロロベンゼンスルホン酸、フェノールスルホン酸、トリクロロベンゼンスルホン酸、ニトロトルエンスルホン酸、ニトロベンゼンスルホン酸、スルホ安息香酸、等の芳香族スルホン酸、およびこれらの誘導体を挙げることができるが、これらに限定されることなく各種構造の有機スルホン酸を使用することが出来る。有機ホスホン酸の具体的な例としては、フェニルホスホン酸、1,3−ジカルボキシフェニルホスホン酸等の芳香族系ホスホン酸、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸等の脂肪族系ホスホン酸、およびこれらの誘導体を挙げることができるが、これらに限定されることなく各種構造の有機ホスホン酸を使用することが出来る。ビニルホスホン酸と他の無機および/または有機の酸性化合物を同時に含浸させる場合は、含浸させる酸性化合物の内30モル%以上がビニルホスホン酸であることが好ましく、特に好ましくは60モル%以上である。
【0047】
また、上述した電解質膜に電極を設置することによって、本発明の電解質膜と電極との膜電極接合体を得ることができる。電極の構成としては触媒層とガス拡散層に分けられ、電解質膜の両側に触媒層を電解質膜と接するように配置され、その外側にガス拡散層が配される。ここで言う触媒層とは、白金族金属などを含む触媒、あるいは白金族金属を含む触媒をカーボン(活性炭粒子、グラファイトカーボン、カーボンナノチューブなどの炭素材料)や無機粒子、あるいはカーボンと無機粒子の複合体などに担持した触媒担持体など公知の燃料電池に使用可能な触媒を少なくとも含有する層のことであり、アノード触媒層とカソード触媒層に分けられる。アノード触媒層は、燃料電池でいうところの燃料極であり、この電極に供給された燃料は触媒層中の触媒によって酸化される。一方カソード触媒層には酸素を含むガス(空気)などの酸化ガスが供給され、酸素の還元反応が起こる。この外側に存在するガス拡散層は、燃料や酸素を含むガスを触媒層に供給する役割を担っている。
【0048】
白金族金属としては、Pt,Ru,Rh、Pd,Os,Irなどから選ばれるが、特にPtを含有していることが好ましい。またAu,Ce,Mn、Fe、Ni、Cr、Mo、N、P、Ti、V、Cu、Y、Zr、などを含んでいても良い。
【0049】
膜電極接合体の作製方法としては、従来から公知の方法が好ましく採用でき、たとえば、電解質膜と電極(触媒層を形成したガス拡散層、GDEとも呼ばれる)とを加熱加圧する方法、電解質膜に触媒や溶媒を含有するインクを吹き付け乾燥することで電解質膜表面に触媒層を形成後、ガス拡散層と一体化する方法、スクリーン印刷で電解質膜に触媒層を形成したのち、ガス拡散層と一体化する方法等が一般的である。特に、電解質膜と電極を加熱する場合には、膜電極接合体作成時の環境としては、湿度が40%以下の環境で行うことが好ましい。より好ましくは湿度30%以下の環境である。水分が入り込みにくい環境で作業することで酸成分の流出を抑制できるので好ましい。またインクを拭きつけ乾燥させることで作製する場合やスクリーン印刷による手法の場合、電解質膜の温度を50℃以上、より好ましくは70℃以上、最適には100℃以上で作業することが好ましく、電解質膜の温度が高いことで、水分や溶媒による影響を緩和できる。
【0050】
また、特に本発明の膜電極接合体においては、触媒層中にビニルホスホン酸を含んでいることが重要である。電極と電解質膜のプロトン伝導を円滑に行わせる目的でプロトン伝導性物質が触媒層には必要となるが、この際、ビニルホスホン酸を含有させることで、ビニルホスホン酸の効果により高温でも発電が可能となる。ビニルホスホン酸の触媒層中での存在量としては、触媒層における体積比率として、5%〜60%であることが好ましく、特には10%〜40%である。ビニルホスホン酸が5%よりも少ない場合、十分なプロトン伝導性が確保されにくいため、性能低下が早い傾向があり、60%を越えると、燃料或いは酸素の供給が阻害されるため性能が悪くなる傾向にある。また触媒担持体に使用されるカーボンは、耐酸化性の観点からグラファイトカーボンあるいはカーボンナノチューブが好ましい、またカーボンと無機成分を組み併せた担体は、耐酸化性の観点から尚好ましい。無機成分としては、各種金属のゾルゲル反応を利用して、複合化することができるし、カーボンと無機成分を混合攪拌する手法も可能である。耐酸化性の弱い担体を使用すると燃料電池の性能低下が早くなる傾向がある。なおビニルホスホン酸に加えて、無機酸や有機酸も電極中に混在させることは可能である。その場合、ビニルホスホン酸を含む酸成分として上記範囲にあることが好ましい。尚、無機酸としては、リン酸、ポリリン酸、硫酸、硝酸、フッ酸、塩酸、臭化水素酸およびそれらの誘導体が挙げられる。また、有機酸としては、有機スルホン酸、有機ホスホン酸が使用される。有機スルホン酸の具体的な例としては、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ヘキサンスルホン酸、オクチルスルホン酸、ドデシルスルホン酸、セチルスルホン酸、スルホコハク酸、スルホグルタル酸、スルホアジピン酸、スルホピメリン酸、スルホスベリン酸、スルホアゼライン酸、スルホセバシン酸を始めとするアルキルスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ペンタフルオロエタンスルホン酸、ヘプタフルオロプロピルスルホン酸、等のパーフルオロアルキルスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、1,3−ベンゼンジスルホン酸、トルエンスルホン酸、オクチルベンゼンスルホン酸、2−メチル−5−イソプロピルベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ジノニルナフタレンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、クロロベンゼンスルホン酸、フェノールスルホン酸、トリクロロベンゼンスルホン酸、ニトロトルエンスルホン酸、ニトロベンゼンスルホン酸、スルホ安息香酸、等の芳香族スルホン酸、およびこれらの誘導体を挙げることができるが、これらに限定されることなく各種構造の有機スルホン酸を使用することが出来る。有機ホスホン酸の具体的な例としては、フェニルホスホン酸、1,3−ジカルボキシフェニルホスホン酸等の芳香族系ホスホン酸、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸等の脂肪族系ホスホン酸、およびこれらの誘導体を挙げることができるが、これらに限定されることなく各種構造の有機ホスホン酸を使用することが出来る。このうちビニルホスホン酸の割合としては50モル%以上であることが好ましく、それよりもビニルホスホン酸の割合が低いと耐久性が低くなる傾向にある。
【0051】
そして、上記の膜電極接合体を備え、酸化剤流路を形成した酸化剤配流板を酸素極側に設け、燃料流路を形成した燃料配流板を燃料極側に設けたものを単位セルとすることにより、特に140℃〜260℃の高温で運転できるとともに加湿条件を必要とせず、広範囲の燃料を使用可能で、かつ耐久性の高い、本発明の燃料電池を得ることができる。例えば、燃料電池に供給される燃料を燃料改質により取り出す場合、水素、水、二酸化炭素と共に一酸化炭素が混入することが知られており、一酸化炭素は燃料電池の触媒(白金)表面に吸着し、反応を阻害することで知られているが、これは、COと水素の熱力学的平衡状態と関連付けられる。両者の吸着はLangmuir吸着と認識されており、COとHの被覆率は下記式(3)で表される。
【0052】
【数1】

【0053】
ここで、KcoとKHは吸着の平衡定数、PcoとPH2はCOとH2のガス相中での分圧である。ここで水素はCOよりも吸着エンタルピーが低いので、温度が上がると両分子の平衡定数が変化し、COの白金被覆率が低下し水素の被覆率が上昇する。結果として高温で燃料電池を運転すると触媒が被毒されにくくなるため、触媒改質器の簡素化が可能となる。例えば触媒の種類にも大きく依存するが、白金触媒にて、1ppmのCO存在下では約60−80℃、10ppmで100℃前後、100ppmで130−150℃、1000ppmで180−200℃程度まで温度を上げることで影響を抑制できる。このように好適には160℃以上、さらに好適には180℃以上で運転することが好ましく、触媒被毒と併せて燃料選択(この場合不純物混入量が多くとも発電でき、システムを簡素化できる)の幅が広がる。
【0054】
また同時に、燃料選択の幅も広がる。メタノールやエタノールも燃料電池の燃料として利用可能であることが知られているが、例えばメタノールは酸化工程にてCOを生成するため、上記理由で触媒を被毒し、水素燃料を使用する燃料電池に比べて大幅に性能が低くなるため、高温で運転することによってCOの影響を抑制することができる。このように、燃料電池の動作温度を上げることができれば触媒性能をより好ましい形で引き出し性能向上に貢献できる。さらにPBIとリン酸からなる酸含浸膜においては、メタノールやエタノールなどの液体が混入するとリン酸の溶出が起こるため耐久性が低下する。しかしながら燃料電池の動作温度向上は、液体燃料を供給してもガス状態で存在するため、酸流出の影響も少なく、高い耐久性を引き出すことができる。
【実施例】
【0055】
以下、本発明について実施例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されることはない。なお、実施例および比較例における発電性能評価は次の方法で行なった。
【0056】
<対数粘度>
ポリマー粉末を0.5g/dlの濃度で濃硫酸に溶解し、30℃の恒温槽中でオストワルド粘度計を用いて粘度測定を行い、対数粘度[ln(ta/tb)]/cで評価した(taは試料溶液の落下秒数、tbは溶媒のみの落下秒数、cはポリマー濃度)。
【0057】
<発電特性>
白金ブラックとビニルホスホン酸を体積比率で1:0.5となる割合で蓋付きのサンプル瓶に密閉したのち、超音波で24時間混合した。ついで1−プロパノールで10倍に薄め、さらに1時間超音波で混合し触媒インクを調整した。次いで市販の高温燃料電池用ガス拡散層(Electrochem社製)の上に、スポイトを用いて、白金担持量として、3mg/cm2となるよう触媒インクをなるべく均一に塗布し、105℃で1時間乾燥することで電極を作製した。この電極の触媒層の側を電解質膜に接するように電解質膜の両側から挟み込んで、熱プレス(120℃、110N/cm2、1分)で貼り合わせ、膜電極接合体を作製した。次いで市販の燃料電池セル(Electrochem社製)にガスケットと共に挟み込み、設定動作温度となるまで昇温した。その後無加湿の条件下、燃料極側に300ppmの一酸化炭素を含む水素、空気局側に空気を流しながら0.25A/cm2の電流密度で連続発電し、700時間後の電池電圧を比較した。
【0058】
(実施例1)
3,3’,4,4’−テトラアミノジフェニルスルホン、2,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸モノナトリウム、ポリリン酸(五酸化リン含量75質量%)、五酸化リンをモル比で1:1:300:30となるよう重合容器に量り取った。窒素を流し、オイルバス上ゆっくり撹拌しながら100℃まで昇温した。105℃で1時間保持した後、160℃に昇温して1時間、200℃に昇温して6時間重合した。重合終了後放冷し、水を加えて重合物を取り出し、家庭用ミキサーを用いてpH試験紙で中性を示すまで水洗を繰り返した。得られたポリマーは80℃で終夜減圧乾燥した。ポリマーの対数粘度は、2.01dl/gを示した。
【0059】
得られたポリマーをN−メチル−2−ピロリドン(NMP)に8wt%の濃度となるようオイルバス上で溶解したのち、ガラス基板上に厚みが一定となるようアプリケーターを使用して塗布、その後ガラス板毎、乾燥機に入れ、フィルム状になるまでNMPを加熱留去した。次いで水中に一晩浸漬した。得られたフィルムは、イオン交換水に1晩浸漬し、さらに純水でさらに数回浸漬洗浄することでNMPを除去し、10μmの厚みの高分子膜1を得た。
【0060】
この高分子膜1をビニルホスホン酸(純度85質量%、東京化成株式会社)に100℃で4時間浸漬して、ビニルホスホン酸を添加したプロトン伝導性高分子膜を得た。この時ビニルホスホン酸が含浸され、膜厚は40μmとなった。
【0061】
得られた電解質膜を用い、前述の方法により燃料電池を作製し、発電特性を評価した。結果を表1に示す。
【0062】
(実施例2)
3,4―ジアミノ安息香酸、3,3’―ジアミノベンジジン、テレフタル酸、ポリリン酸(五酸化リン含量75質量%)、五酸化リンをモル比で4:1:3:1200:120となるよう重合容器に量り取った。重合容器に量り取った。窒素を流し、オイルバス上ゆっくり撹拌しながら100℃まで昇温した。100℃で1時間保持した後、160℃に昇温して1時間、さらに200℃に昇温して5時間重合した。重合終了後放冷し、水を加えて重合物を取り出し、家庭用ミキサーを用いてpH試験紙が中性を示すまで水洗を繰り返した。得られたポリマーは80℃で終夜減圧乾燥した。ポリマーの対数粘度は、1.85dl/gを示した。
【0063】
実施例1と同様の手法でフィルム化し、膜厚12μmの膜を得た。次いで500kVの電子線を30秒間照射することで電子線架橋を行い、電解質膜2を得た。
【0064】
この電解質膜2に実施例1と同様な方法によりビニルホスホン酸を含浸した。この時のビニルホスホン酸含有後の膜厚は、38μmであった。次いで実施例1と同様な方法により、燃料電池を作製し、発電特性測定を行なった。結果を表1に記す。
【0065】
(実施例3)
実施例1の電解質膜1を実施例2の方法で電子線架橋し、実施例3の電解質膜を得た。
【0066】
この電解質膜3に実施例1と同様な方法によりビニルホスホン酸を添加し、プロトン伝導性高分子膜を得た。この時のビニルホスホン酸含有により膜厚は、29μmであった。
【0067】
このプロトン伝導性高分子膜を用いて実施例1と同様な方法により、燃料電池を作製し発電評価を行なった。結果を表1に記す。
【0068】
(実施例4)
実施例1の燃料電池において、燃料ガスとして、メタノールと水の1.1:1(モル比)混合ガスを供給しながら190℃で発電を行った。混合ガスの供給は、燃料電池への燃料供給路の途中に150℃設定のヒータを設置し、メタノールと水の混合液を気化させた状態で燃料電池に供給した。初期電圧は0.44Vであり、300時間発電経過後も0.43Vであり、安定に動作することを確認した。
【0069】
(比較例1)
電子線架橋処理を除き、実施例2に従い、比較例1の電解質膜を作製し、ビニルホスホン酸含浸を試みたところ、電解質膜が完全にビニルホスホン酸に溶解し、以降の試験を行うことはできなかった。
【0070】
(比較例2)
比較例1の電解質膜に、ビニルホスホン酸に変えて、オルトリン酸(純度85%)を70℃で1時間含浸することで比較例2の電解質膜を得た。膜厚は34μmであった。次いで実施例1と同様な方法により、燃料電池を作製し発電評価を行った。結果を表1に示す。
【0071】
(比較例3)
米国特許第3313783号公報、米国特許第3509108号公報などに記載されている製造方法を参考として、ポリ−2,2’−(m−フェニレン)−5,5’−ビベンズイミダゾールを得た。このポリマーをジメチルアセトアミド(DMAc)にオイルバス上で溶解し、ホットプレート上のガラス板にキャストし、フィルム状になるまでDMAcを留去した。さらに125℃で15時間真空乾燥しDMAcを完全に留去した13μmの厚みの高分子膜4を得た。
【0072】
この高分子膜4を、オルトリン酸(純度85質量%、東京化成株式会社)に70℃にて3時間浸漬して、オルトリン酸を含浸した。膜厚42μmの電解質膜を得た。得られた膜を用いて実施例1と同様な方法で燃料電池を作製した。但し電極には、ビニルホスホン酸に変えてオルトリン酸を用いた。発電結果を表1に示す。
【0073】
(比較例4)
高分子膜4を、ビニルホスホン酸に70℃にて3時間浸漬してオルトリン酸含浸を試みたが、電解質膜の膨潤変形が顕著であり、その後の実験には適さないものであった。
【0074】
【表1】

【0075】
表1の結果より、実施例1〜3の燃料電池においては、150℃〜210℃いずれの温度でも700時間後でも良好な発電性能が確認できた。本発明の燃料電池はこのように広い温度範囲においても安定に動作することが確認できた。さらには、150℃で運転するよりも180℃、210度で運転する方が電池電圧が高く好ましいものであった。これは、一酸化炭素による触媒被毒が高温で運転することによって低減されているためと考えられる。一方、比較例の燃料電池においては、150℃においてある程度の電圧で発電可能であることを示したが180℃で発電すると大きく性能が低下し、210℃では測定できなかった。燃料電池を分解すると膜が溶解していた。従って比較例の燃料電池は、広い温度範囲で使用できるものではないことが分かる。実施例間の比較としてはポリベンズイミダゾール化合物を架橋した実施例2において180℃から210℃への変化により電圧低下が若干見受けられる。次いで実施例1のスルホン酸基を導入したポリベンズイミダゾール化合物が良好であり、さらに良好には、スルホン酸基を導入したポリベンズイミダゾール化合物を架橋した実施例3の燃料電池で温度安定性が高いものである。
【0076】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明に係る燃料電池により、高温無加湿条件で広い温度範囲で運転可能な燃料電池が提供されるので、より広範な燃料電池の使い方が可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリベンズイミダゾール化合物とビニルホスホン酸を少なくとも含有してなる電解質膜とビニルホスホン酸を少なくとも含有する触媒層を有する燃料電池の運転方法であって、且つ140℃〜260℃の間で運転することを特徴とする燃料電池の運転方法。
【請求項2】
前記ポリベンズイミダゾール化合物が、スルホン酸或いはスルホン酸塩を構成単位に有するポリベンズイミダゾール化合物であることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池の運転方法。
【請求項3】
前記ポリベンズイミダゾール化合物が架橋されてなることを特徴とする請求項1又は2に記載の燃料電池の運転方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の燃料電池の運転方法であって、前記ポリベンズイミダゾール化合物は、下記式(1)乃至、式(2)の構造を有する化合物であることを特徴とする燃料電池の運転方法。
【化1】

(式中、nは1から4の整数、R1はイミダゾール環を形成できる4価の芳香族結合ユニット、R2は2価の芳香族結合ユニット、Zはスルホン酸基を表す。スルホン酸基はすべてが酸の形態であっても一部またはすべてが誘導体の形態であっても良い。)
【化2】

(式中、Xは、直接結合,−O−,−SO 2−,−S−,−CO−,−C(CH 3) 2−,−C(CF 3) 2−,−O−Ph−O−よりなる群から選ばれる1種以上の結合様式を表し、Arは芳香族ユニットから選ばれる1種以上の結合様式、Phは芳香族結合ユニット、Yはスルホン酸基であり、すべてが酸の形態であっても一部またはすべてが誘導体の形態であっても良く、nは1から4までの整数を表すものとする)
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の燃料電池の運転方法であって、燃料は、水素、改質ガス、アルコール或いはアルコールと水の混合物のいずれかであることを特徴とする燃料電池の運転方法。
【請求項6】
ポリベンズイミダゾール化合物とビニルホスホン酸を少なくとも含有してなる電解質膜とビニルホスホン酸を少なくとも含有する触媒層を有し、140℃〜260℃の温度範囲で発電可能な燃料電池。

【公開番号】特開2013−51145(P2013−51145A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−188911(P2011−188911)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000003160)東洋紡株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】