説明

燃料電池システムおよび燃料電池システムの制御方法

【課題】燃料電池の制御性を向上させる技術を提供する。
【解決手段】燃料電池システム100は、燃料電池10と、燃料電池10の電圧を制御する制御部20とを備える。制御部20は、燃料電池10の所定の電流に対する電圧の目標値である目標電圧に基づいて、目標上昇量ΔVを設定する。制御部20は、一時的電圧低下処理の処理条件を、目標上昇量ΔVに基づいて設定する。制御部20は、設定した処理条件に基づいて、燃料電池10の電圧を燃料電池10の発電特性に基づいて一時的に低下させることにより、燃料電池10の一時的な電流の増大を生じさせて、燃料電池10の発電特性を変化させる一時的電圧低下処理を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池(以下、単に「燃料電池」と呼ぶ)は、湿潤状態で良好なプロトン伝導性を示す電解質膜の両面に電極を配置した膜電極接合体を発電体として備える(下記特許文献1等)。燃料電池車両に搭載されている燃料電池は、外気温が著しく高い環境下(例えば、気温40℃前後)において運転が継続されたり、登坂中や加速中など、高負荷運転が長期間に渡って継続されたりする場合に、運転温度が著しく高い高温状態となる場合がある。燃料電池が高温状態となると、電解質膜におけるプロトン伝導性が低下して、その発電性能が低下してしまい、所望の電力を出力させることが困難になるなど、燃料電池の制御性が低下してしまう可能性があった。こうした問題は、燃料電池車両に限らず、燃料電池を備える燃料電池システムに共通の問題であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−129252号公報
【特許文献2】特開2010−027297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、燃料電池の制御性を向上させる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0006】
[適用例1]
燃料電池システムであって、燃料電池と、前記燃料電池の電圧を制御する制御部と、
を備え、前記制御部は、前記燃料電池の所定の電流に対する電圧の目標値である目標電圧を設定し、前記目標電圧に基づいて、前記燃料電池の発電特性を変化させて、前記燃料電池の所定の電流に対する電圧を上昇させるための処理条件を設定し、前記制御部は、前記燃料電池の電圧を前記燃料電池の発電特性に基づいて一時的に低下させることにより、前記燃料電池の一時的な電流の増大を生じさせて、前記燃料電池の発電特性を変化させる一時的電圧低下処理を、前記処理条件に従って実行する、燃料電池システム。
この燃料電池システムであれば、例えば、高温状態において燃料電池の発電性能が低下している場合であっても、適切な処理条件で一時的電圧低下処理を実行することにより、燃料電池の発電特性を変化させ、燃料電池の電圧を目標電圧まで上昇させることができる。従って、燃料電池の電圧制御の制御性が向上する。
【0007】
[適用例2]
適用例1記載の燃料電池システムであって、前記制御部は、前記一時的電圧低下処理を実行したときに、前記燃料電池の所定の電流に対する電圧が前記発電特性の変化により上昇する量と、前記一時的電圧低下処理の処理条件と、の関係を、予め取得しており、前記制御部は、前記関係を用いて、前記処理条件を、現在の電圧と前記目標電圧との差である目標電圧上昇量に基づいて設定する、燃料電池システム。
この燃料電池システムであれば、一時的電圧低下処理によって電圧が上昇する量と、一時的電圧低下処理の処理条件との間の関係を用いることにより、燃料電池の電圧を目標電圧まで上昇させるための処理条件を適切に設定することができる。
【0008】
[適用例3]
適用例2記載の燃料電池システムであって、前記処理条件は、前記一時的電圧低下処理における最低電圧と、前記一時的電圧低下処理において最低電圧を保持した期間と、前記一時的電圧低下処理において電圧を回復させるときの電圧の上昇速度と、のうちの少なくとも1つである、燃料電池システム。
この燃料電池システムであれば、目標電圧上昇量に応じて、一時的電圧低下処理の処理条件として、一時的電圧処理における最低電圧や、その最低電圧を保持する期間、電圧を回復させる際の電圧の上昇速度(電流の低下速度)を適切に設定することができる。
【0009】
[適用例4]
適用例2または適用例3記載の燃料電池システムであって、さらに、前記一時的電圧低下処理を実行する直前の前記燃料電池の運転状態を検出する運転状態検出部を備え、前記制御部は、前記一時的電圧低下処理を実行したときに、前記燃料電池の所定の電流に対する電圧が前記発電特性の変化により上昇する量と、前記燃料電池の運転状態と、前記一時的電圧低下処理の処理条件と、の関係を、予め取得しており、前記関係を用いて、前記燃料電池の運転状態と、前記目標電圧と、に基づいて、前記処理条件を設定する、燃料電池システム。
この燃料電池システムであれば、目標電圧上昇量と、燃料電池の運転状態とに応じて、一時的電圧低下処理の処理条件を適切に設定することができる。
【0010】
[適用例5]
適用例4記載の燃料電池システムであって、前記一時的電圧低下処理を実行する直前の前記燃料電池の運転状態は、前記燃料電池が所定の温度よりも高い高温状態にある期間の累積時間と、前記燃料電池の電極に担持された触媒の状態を示す触媒利用率と、のうちの少なくとも1つである、燃料電池システム。
この燃料電池システムであれば、目標電圧上昇量と、高温状態にある期間の累積時間および/または燃料電池の触媒利用率、に応じて、一時的電圧低下処理の処理条件を適切に設定することができる。
【0011】
[適用例6]
適用例2から5のいずれかに記載の燃料電池システムであって、さらに、前記燃料電池の電圧を計測する電圧計測部を備え、前記制御部は、前記一時的電圧低下処理実行後の前記燃料電池の電圧の計測値と、前記目標電圧との差が収束されるように、前記関係の補正を実行する、燃料電池システム。
この燃料電池システムであれば、一時的電圧低下処理において、所望の電圧の上昇を得るための、より適切な処理条件の設定が可能となる。
【0012】
[適用例7]
適用例1から6のいずれかに記載の燃料電池システムであって、さらに、前記制御部によって充放電が制御され、前記一時的電圧低下処理において、前記燃料電池の出力電力を補助する二次電池を備え、前記制御部は、前記二次電池の放電を制限する閾値である前記二次電池の充電状態の下限値を予め設定し、前記二次電池の充電状態が前記下限値より小さくならないように、前記二次電池の充電状態を管理しており、前記制御部は、前記一時的電圧低下処理を実行する際に、前記下限値を低下させることにより、前記二次電池の放電を制限する条件を緩やかにする、燃料電池システム。
この燃料電池システムであれば、一時的電圧低下処理の実行時における二次電池による電力の補償を確保することができる。
【0013】
[適用例8]
燃料電池システムの制御方法であって、
(a)コンピュータが、燃料電池の所定の電流に対する電圧の目標値である目標電圧を設定し、前記目標電圧に基づいて、前記燃料電池の発電特性を変化させて、前記燃料電池の所定の電流に対する電圧を上昇させるための処理条件を設定する工程と、
(b)コンピュータが、前記燃料電池の電圧を前記燃料電池の発電特性に基づいて一時的に低下させることにより、前記燃料電池の一時的な電流の増大を生じさせて、前記燃料電池の発電特性を変化させる一時的電圧低下処理を、前記目標電圧に基づいて設定した処理条件によって実行する工程と、を備える、制御方法。
この制御方補であれば、例えば、高温状態において燃料電池の発電性能が低下している場合であっても、適切な処理条件で一時的電圧低下処理を実行することにより、燃料電池の発電特性を変化させ、燃料電池の電圧を目標電圧まで上昇させることができる。従って、燃料電池の電圧制御の制御性が向上する。
【0014】
なお、本発明は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、燃料電池システム、その燃料電池システムを搭載した車両等の形態で実現することができる。また、本発明は、燃料電池システムの制御方法、その制御方法を実行する制御装置やプログラム、そのプログラムを記録した記録媒体等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】燃料電池システムの構成を示す概略図。
【図2】燃料電池システムの電気的構成を示す概略図。
【図3】燃料電池システムの制御部によるシステム制御の制御手順を示す説明図。
【図4】通常運転の実行時における燃料電池システムの出力制御を説明するための説明図。
【図5】燃料電池の発電性能の低下を説明するための説明図。
【図6】一時的電圧低下処理による燃料電池の発電特性の一時的向上を説明するための説明図。
【図7】発電特性回復運転における燃料電池の電圧制御を説明するための説明図。
【図8】発電特性回復運転の具体的な制御手順を示す説明図。
【図9】一時的電圧低下処理を実行した後の電圧上昇量と、一時的電圧低下処理における電圧低下量との関係を示す説明図。
【図10】第2実施例の発電特性回復運転の制御手順を示す説明図。
【図11】燃料電池において、一時的に電圧を低下させた後に電圧を回復させたときの、電圧の上昇速度と、電圧の上昇量との関係を示す説明図。
【図12】電圧上昇量に基づいて電圧の上昇速度を取得するために用いるマップの一例を示す説明図。
【図13】第3実施例の燃料電池システムにおけるシステム制御の制御手順を示す説明図。
【図14】第3実施例の発電特性回復運転の制御手順を示す説明図。
【図15】一時的電圧低下処理による電圧の上昇量と高温継続時間との関係を示す説明図。
【図16】一時的電圧低下処理の処理条件を決定するために用いるマップの一例を示す模式図。
【図17】第4実施例の発電特性回復運転の処理手順を示す説明図。
【図18】カソード電位と触媒利用率との関係を表すマップの一例を示す説明図。
【図19】第4実施例の発電特性回復運転の制御手順を示す説明図。
【図20】二次電池の準備処理の処理手順を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
A.第1実施例:
図1は本発明の一実施例としての燃料電池システムの構成を示す概略図である。この燃料電池システム100は、燃料電池車両などに搭載され、運転者からの要求に応じて、駆動力として用いられる電力を出力する。燃料電池システム100は、燃料電池10と、制御部20と、カソードガス供給部30と、カソードガス排出部40と、アノードガス供給部50と、アノードガス循環排出部60と、冷媒供給部70とを備える。
【0017】
燃料電池10は、反応ガスとして水素(アノードガス)と空気(カソードガス)の供給を受けて発電する固体高分子形燃料電池である。燃料電池10は、単セルとも呼ばれる複数の発電体11が積層されたスタック構造を有する。各発電体11は、電解質膜の両面に電極を配置した発電体である膜電極接合体(図示せず)と、膜電極接合体を狭持する2枚のセパレータ(図示せず)とを有する。
【0018】
ここで、電解質膜は、湿潤状態で良好なプロトン伝導性を示す固体高分子薄膜によって構成することができる。また、電極は、発電反応を促進させるための触媒が担持された導電性粒子によって構成することができる。触媒としては、例えば、白金(Pt)を採用することができ、導電性粒子としては、例えば、カーボン(C)粒子を採用することができる。
【0019】
制御部20は、中央処理装置と主記憶装置とを備えるマイクロコンピュータによって構成されている。制御部20は、出力電力の要求を受け付け、その要求に応じて、以下に説明する各構成部を制御し、燃料電池10に発電させる。
【0020】
カソードガス供給部30は、カソードガス配管31と、エアコンプレッサ32と、エアフロメータ33と、開閉弁34と、加湿部35とを備える。カソードガス配管31は、燃料電池10のカソード側に接続された配管である。エアコンプレッサ32は、カソードガス配管31を介して燃料電池10と接続されており、外気を取り込んで圧縮した空気を、カソードガスとして燃料電池10に供給する。
【0021】
エアフロメータ33は、エアコンプレッサ32の上流側において、エアコンプレッサ32が取り込む外気の量を計測し、制御部20に送信する。制御部20は、この計測値に基づいて、エアコンプレッサ32を駆動することにより、燃料電池10に対する空気の供給量を制御する。
【0022】
開閉弁34は、エアコンプレッサ32と燃料電池10との間に設けられており、カソードガス配管31における供給空気の流れに応じて開閉する。具体的には、開閉弁34は、通常、閉じた状態であり、エアコンプレッサ32から所定の圧力を有する空気がカソードガス配管31に供給されたときに開く。
【0023】
加湿部35は、エアコンプレッサ32から送り出された高圧空気を加湿する。制御部20は、電解質膜の湿潤状態を保持して良好なプロトン伝導性を得るために、加湿部35によって、燃料電池10に供給される空気の加湿量を制御し、燃料電池10内部の湿潤状態を調整する。なお、加湿部35は、カソード排ガス配管41と接続されており、排ガス中の水分を高圧空気の加湿に用いる。
【0024】
カソードガス排出部40は、カソード排ガス配管41と、調圧弁43と、圧力計測部44とを備える。カソード排ガス配管41は、燃料電池10のカソード側に接続された配管であり、カソード排ガスを燃料電池システム100の外部へと排出する。調圧弁43は、カソード排ガス配管41におけるカソード排ガスの圧力(燃料電池10のカソード側の背圧)を調整する。圧力計測部44は、調圧弁43の上流側に設けられており、カソード排ガスの圧力を計測し、その計測値を制御部20に送信する。制御部20は、圧力計測部44の計測値に基づいて調圧弁43の開度を調整する。
【0025】
アノードガス供給部50は、アノードガス配管51と、水素タンク52と、開閉弁53と、レギュレータ54と、水素供給装置55と、圧力計測部56とを備える。水素タンク52は、アノードガス配管51を介して燃料電池10のアノードと接続されており、タンク内に充填された水素を燃料電池10に供給する。なお、燃料電池システム100は、水素タンク52に換えて、炭化水素系の燃料を改質して水素を生成する改質部を、水素の供給源として備えているものとしても良い。
【0026】
開閉弁53と、レギュレータ54と、水素供給装置55と、圧力計測部56とは、アノードガス配管51に、この順序で、上流側(水素タンク52側)から設けられている。開閉弁53は、制御部20からの指令により開閉し、水素タンク52から水素供給装置55の上流側への水素の流入を制御する。レギュレータ54は、水素供給装置55の上流側における水素の圧力を調整するための減圧弁であり、その開度が制御部20によって制御されている。
【0027】
水素供給装置55は、例えば、電磁駆動式の開閉弁であるインジェクタによって構成することができる。圧力計測部56は、水素供給装置55の下流側の水素の圧力を計測し、制御部20に送信する。制御部20は、圧力計測部56の計測値に基づき、水素供給装置55を制御することによって、燃料電池10に供給される水素量を制御する。
【0028】
アノードガス循環排出部60は、アノード排ガス配管61と、気液分離部62と、アノードガス循環配管63と、水素循環用ポンプ64と、アノード排水配管65と、排水弁66と、圧力計測部67とを備える。アノード排ガス配管61は、燃料電池10のアノードの出口と気液分離部62とを接続する配管であり、発電反応に用いられることのなかった未反応ガス(水素や窒素など)を含むアノード排ガスを気液分離部62へと誘導する。
【0029】
気液分離部62は、アノードガス循環配管63と、アノード排水配管65とに接続されている。気液分離部62は、アノード排ガスに含まれる気体成分と水分とを分離し、気体成分については、アノードガス循環配管63へと誘導し、水分についてはアノード排水配管65へと誘導する。
【0030】
アノードガス循環配管63は、アノードガス配管51の水素供給装置55より下流に接続されている。アノードガス循環配管63には、水素循環用ポンプ64が設けられており、この水素循環用ポンプ64によって、気液分離部62において分離された気体成分に含まれる水素は、アノードガス配管51へと送り出される。このように、この燃料電池システム100では、アノード排ガスに含まれる水素を循環させて、再び燃料電池10に供給することにより、水素の利用効率を向上させている。
【0031】
アノード排水配管65は、気液分離部62において分離された水分を燃料電池システム100の外部へと排出するための配管である。排水弁66は、アノード排水配管65に設けられており、制御部20からの指令に応じて開閉する。制御部20は、燃料電池システム100の運転中は、通常、排水弁66を閉じておき、予め設定された所定の排水タイミングや、アノード排ガス中の不活性ガスの排出タイミングで排水弁66を開く。
【0032】
アノードガス循環排出部60の圧力計測部67は、アノード排ガス配管61に設けられている。圧力計測部67は、燃料電池10の水素マニホールドの出口近傍において、アノード排ガスの圧力(燃料電池10のアノード側の背圧)を計測し、制御部20の送信する。
【0033】
冷媒供給部70は、冷媒用配管71と、ラジエータ72と、三方弁73と、冷媒循環用ポンプ75と、2つの冷媒温度計測部76a,76bとを備える。冷媒用配管71は、燃料電池10を冷却するための冷媒を循環させるための配管であり、上流側配管71aと、下流側配管71bと、バイパス配管71cとで構成される。
【0034】
上流側配管71aは、燃料電池10に設けられた冷媒用の出口マニホールドとラジエータ72の入口とを接続する。下流側配管71bは、燃料電池10に設けられた冷媒用の入口マニホールドとラジエータ72の出口とを接続する。バイパス配管71cは、一端が、三方弁73を介して上流側配管71aと接続され、他端が、下流側配管71bに接続されている。制御部20は、三方弁73の開閉を制御することにより、バイパス配管71cへの冷媒の流入量を調整して、ラジエータ72への冷媒の流入量を制御する。
【0035】
ラジエータ72は、冷媒用配管71に設けられており、冷媒用配管71を流れる冷媒と外気との間で熱交換させることにより、冷媒を冷却する。冷媒循環用ポンプ75は、下流側配管71bにおいて、バイパス配管71cの接続箇所より下流側(燃料電池10の冷媒入口側)に設けられており、制御部20の指令に基づき駆動する。
【0036】
2つの冷媒温度計測部76a,76bはそれぞれ、上流側配管71aと、下流側配管71bとに設けられており、それぞれの計測値を制御部20へと送信する。制御部20は、各冷媒温度計測部76a,76bのそれぞれの計測値の差から燃料電池10の運転温度を検出する。また、制御部20は、検出した燃料電池10の運転温度に基づき、冷媒循環用ポンプ75の回転数を制御して、燃料電池10の運転温度を調整する。
【0037】
燃料電池システム100は、さらに、燃料電池車両の車両情報を取得するための、外気温センサ101や、車速センサ102を備える。外気温センサ101は、燃料電池車両外部の気温を検出し、制御部20に送信する。車速センサ102は、燃料電池車両の現在の速度を検出し、制御部20に送信する。制御部20は、これらのセンサから得られた情報を適宜、燃料電池10の出力制御のために利用する。
【0038】
図2は、燃料電池システム100の電気的構成を示す概略図である。燃料電池システム100は、二次電池81と、DC/DCコンバータ82と、DC/ACインバータ83とを備える。また、燃料電池システム100は、セル電圧計測部91と、電流計測部92と、インピーダンス計測部93と、SOC検出部94とを備える。
【0039】
燃料電池10は、直流配線DCLを介してDC/ACインバータ83に接続されており、DC/ACインバータ83は、燃料電池車両の駆動力源であるモータ200に接続されている。二次電池81は、DC/DCコンバータ82を介して、直流配線DCLに接続されている。
【0040】
二次電池81は、燃料電池10の補助電源として機能し、例えば充・放電可能なリチウムイオン電池で構成することができる。制御部20は、DC/DCコンバータ82を制御することにより、燃料電池10の電流・電圧と、二次電池81の充放電とを制御し、直流配線DCLの電圧レベルを可変に調整する。
【0041】
二次電池81には、SOC検出部94が接続されている。SOC検出部94は、二次電池81の充電状態であるSOC(State of Charge)を検出し、制御部20に送信する。ここで、二次電池81のSOCとは、二次電池81の充電容量に対する二次電池81の充電残量(蓄電量)の比率を意味する。SOC検出部94は、二次電池81の温度や電力、電流を計測することにより、二次電池81のSOCを検出する。
【0042】
制御部20は、SOC検出部94の検出値に基づき、二次電池81のSOCが所定の範囲内に収まるように、二次電池81の充放電を制御する。具体的には、制御部20は、SOC検出部94から取得した二次電池81のSOCが予め設定された下限値より低い場合には、燃料電池10の出力する電力によって、二次電池81を充電する。また、二次電池81のSOCが予め設定された上限値より高い場合には、二次電池81に放電させる。
【0043】
DC/ACインバータ83は、燃料電池10と二次電池81とから得られた直流電力を交流電力へと変換し、モータ200に供給する。そして、モータ200によって回生電力が発生する場合には、DC/ACインバータ83が、その回生電力を直流電力に変換する。直流電力に変換された回生電力は、DC/DCコンバータ82を介して二次電池81に蓄電される。
【0044】
セル電圧計測部91は、燃料電池10の各発電体11と接続されており、各発電体11の電圧(セル電圧)を計測する。セル電圧計測部91は、その計測結果を制御部20に送信する。制御部20は、セル電圧計測部91の計測結果に基づき、燃料電池10が出力する電圧を取得する。
【0045】
電流計測部92は、直流配線DCLに接続されており、燃料電池10の出力する電流値を計測し、制御部20に送信する。制御部20は、セル電圧と電流の実測値と目標値(制御値)との間に差が生じている場合には、その差が収束されるように、それらの制御値を修正する、いわゆるフィードバック制御を実行する。
【0046】
インピーダンス計測部93は、燃料電池10に接続されており、燃料電池10に交流電流を印加することにより、燃料電池10全体のインピーダンスを測定し、制御部20へと送信する。制御部20は、インピーダンス計測部93の計測結果に基づき、燃料電池10の電解質膜の湿潤状態を管理する。開閉スイッチ95は、直流配線DCLに設けられており、制御部20の指令に基づき、燃料電池10および二次電池81と、モータ200との間の電気的接続を制御する。
【0047】
図3は、燃料電池システム100の制御部20によるシステム制御の制御手順を示すフローチャートである。制御部20は、燃料電池システム100が起動すると、運転者からの燃料電池車両に対する駆動要求に基づいて燃料電池10に発電させる通常運転の実行を開始する(ステップS10)。
【0048】
図4は、通常運転の実行時における燃料電池システム100の出力制御を説明するための説明図である。図4には、燃料電池10の電流−電圧特性(I−V特性)を示すグラフGI-Vと、電流−電力特性(I−P特性)を示すグラフGI-Pとを、左右の縦軸をそれぞれ電圧と電力とし、横軸を電流として示してある。通常、燃料電池の発電特性は、I−V特性やI−P特性によって表すことができる。燃料電池のI−V特性は、電流の増加に従って下降する横S字状のなだらかな曲線グラフとして表され、燃料電池のI−P特性は、上に凸の曲線グラフとして表される。
【0049】
制御部20は、燃料電池10についてのI−V特性およびI−P特性などの発電特性を表す情報を、燃料電池10の制御用情報として予め記憶している。なお、燃料電池10のI−V特性およびI−P特性は、燃料電池10の運転温度など、その運転条件に応じて変化するため、制御部20は、それらの運転条件ごとの制御用情報を有していることが好ましい。
【0050】
制御部20は、燃料電池10のI−P特性に基づいて、要求電力Ptに対して燃料電池10が出力すべき目標電流Itを取得する。そして、制御部20は、燃料電池10のI−V特性に基づいて、目標電流Itを出力するための燃料電池10の目標電圧Vtを取得する。制御部20は、DC/DCコンバータ82に直流配線DCLの電圧を目標電圧Vtに設定させることにより、燃料電池10および二次電池81に要求電力Ptを出力させる。
【0051】
ステップS20(図3)では、制御部20は、通常運転の実行中に、所定のタイミングで、燃料電池10の運転温度を検出し、燃料電池10が高温状態であるか否かを判定する。ここで、本明細書において、「高温状態」とは、燃料電池10の運転温度が予め設定された閾値(例えば、約90℃程度)より高くなっている状態を意味する。
【0052】
制御部20は、燃料電池10が高温状態ではなかった場合には、通常運転の制御(ステップS10)を継続し、燃料電池10が高温状態である場合には、高温運転を開始する(ステップS25)。具体的には、制御部20は、高温運転として、燃料電池10に対する冷媒の供給流量を増大させたり、反応ガスの加湿度を上昇させるなど、燃料電池10の運転温度の上昇や、電解質膜の乾燥を抑制するための制御を開始する。ここで、この高温運転では、燃料電池10の出力制御は、通常運転時と同様に実行されるが、燃料電池10の発電性能は、運転温度の上昇とともに低下してしまうことが知られている。
【0053】
図5は、運転温度の上昇に伴う燃料電池の発電性能の低下を説明するための説明図である。図5には、通常の運転温度(例えば、60℃〜80℃程度)における燃料電池のI−V特性の一例を示すグラフI−Vnと、高温状態(例えば、90℃以上)における燃料電池のI−V特性の一例を示すグラフI−Vdとを、縦軸を電圧とし、横軸を電流として示してある。
【0054】
一般に、燃料電池のI−V特性は、燃料電池の運転温度の上昇とともに、その特性をあらわす曲線グラフが下降する方向に変化する傾向にある。そして、I−V特性を示すグラフが下降するほど、燃料電池の発電効率は低下し、発熱を生じやすい発電状態となる。そのため、I−V特性を示すグラフが著しく下降しているような発電状態では、電解質膜の乾燥や、触媒の酸化が促進され、燃料電池は、発電特性に従って電流を増大させて電力を増大させることが困難な限界状態となる(破線で図示)。この状態で、燃料電池に、さらに負荷をかけると、燃料電池の不可逆的な劣化を生じる可能性もある。
【0055】
そこで、本実施例の燃料電池システム100では、高温運転の実行中に、所定のタイミングで、燃料電池10の発電性能が著しく低下した限界状態にないかを判定する(図3のステップS30)。この判定処理では、例えば、燃料電池10の所定の電流に対するセル電圧が所定の閾値よりも低下したときに、燃料電池10の発電状態が限界状態であると判定するものとしても良い。また、燃料電池10のインピーダンスに基づき取得したセル抵抗が著しく増大したときに、燃料電池10の発電状態が限界状態であると判定するものとしても良い。
【0056】
制御部20は、燃料電池10の発電状態が限界状態でないと判定した場合には、高温運転の制御を継続する(ステップS25)。また、高温運転の実行中に、燃料電池10の運転温度が低下し、高温状態から回復したときには、通常運転に復帰する(破線矢印で図示)。
【0057】
一方、制御部20は、ステップS30において、燃料電池10の発電状態が限界状態であると判定した場合には、燃料電池10の劣化を回避するための劣化回避運転を開始する(ステップS40)。この劣化回避運転では、燃料電池10の出力制御が制限される。具体的には、制御部20は、燃料電池10の出力電力を所定の限界値で制限する。より具体的には、制御部20は、燃料電池10の電圧を所定の限界電圧Vlimに制限し、燃料電池10の電流を所定の限界電流Ilimに制限する。なお、この劣化回避運転の実行中には、要求電力に対する不足分を二次電池81が補償する。
【0058】
ここで、この劣化回避運転の実行中であっても、二次電池81によって補償できる電力を超える電力が要求されるなど、燃料電池10の電圧をさらに上昇させる必要がある要求がなされる場合がある。また、燃料電池システムの内部的な要求により、燃料電池10の電圧をさらに上昇させる必要が生じる場合がある。
【0059】
本実施例の燃料電池システム100では、劣化回避運転の継続中に、燃料電池10の電圧を上昇させる必要のある要求を検出した場合には(ステップS50)、その要求を無効とせず、発電特性回復運転の実行を開始する(ステップS60)。この発電特性回復運転は、以下に説明する一時的電圧低下処理を所定の周期で、所定の回数、繰り返して実行することにより、燃料電池10の発電性能を一時的に向上させる運転である。
【0060】
図6(A)〜(C)は、一時的電圧低下処理による燃料電池の発電性能の一時的向上を説明するための説明図である。図6(A),(B)のグラフは実験により得られたものである。図6(A)は、燃料電池の電流の時間変化を示すグラフであり、図6(B)は、燃料電池の電圧の時間変化を示すグラフである。図6(A),(B)のグラフはそれぞれ、時間軸を互いに対応させて図示してある。
【0061】
この実験では、時刻t1〜t2の間に、燃料電池の電流を、I1からI2に増大させ、I2で一時的に保持した後、再びI1まで低下させた(図6(A))。このとき、燃料電池の電圧は、電流の増大に伴って、V1からV2まで低下したが、電流を元の電流値I1に復帰させたとき(時刻t2)には、元の電圧V1よりも高い電圧V3となり、その後も元の電圧V1より高い電圧がしばらく維持された(図6(B))。
【0062】
図6(C)は、一時的に電圧を低下させた後の電圧の上昇を燃料電池のI−V特性によって説明するための説明図である。図6(C)には、時刻t1(燃料電池の電圧を低下させる前)における燃料電池のI−V特性を示すグラフを破線で図示し、時刻t2(燃料電池の電圧を回復させた後)における燃料電池のI−V特性を示すグラフを実線で図示してある。
【0063】
図6(A),(B)に示されたように、一時的に電流を増大させた後に、燃料電池の電流と電圧とが対応しなくなったのは、図6(C)に示すように、燃料電池のI−V特性が回復する方向に変化したためである。このI−V特性の変化は、一時的な電流の増大によって、燃料電池内部の水分の増加がもたらされ、電解質膜の乾燥領域の減少や、触媒の酸化被膜の減少/活性化などが促進されたためである。なお、ここまでの説明からも理解できるとおり、一時的電圧低下処理の実行前後における、ある電流に対する電圧の上昇量(図6では、V3−V1として得られる量)は、燃料電池の発電性能の向上の度合いを示す値であると解釈できる。
【0064】
このように、燃料電池の電圧を一時的に低下させて、燃料電池の発電特性(I−V特性)に基づいた一時的な電流の増大を生じさせる一時的電圧低下処理を実行することにより、燃料電池の発電特性を回復させ、燃料電池の発電性能を向上させることができる。ただし、この発電特性の回復変化による発電性能の向上は、一時的なものであり、燃料電池の電圧は、電流を一定に保持していても、時間の経過とともに次第に低下する。従って、所望の発電性能の向上を得るためには、一時的電圧低下処理を、繰り返し実行することが望ましい。
【0065】
図7(A),(B)は、発電特性回復運転における燃料電池10の出力制御を説明するための説明図である。図7(A)には、縦軸を電圧とし、横軸を時間として、発電特性回復運転の実行開始前後における燃料電池10の電圧の時間変化の一例を示すグラフを図示してある。また、図7(B)には、縦軸を電流とし、横軸を時間として、図7(A)と時間軸を対応させて、燃料電池10の電流の時間変化の一例を示すグラフを図示してある。
【0066】
ここで、劣化回避運転において燃料電池10が限界電圧Vlimおよび限界電流Ilimを出力しているときに、制御部20が、燃料電池10の電圧を目標電圧Vtまで上昇させる要求を検出したものとする(図3のステップS40,S50)。制御部20は、発電特性回復運転として、以下のように燃料電池10の出力制御を実行する(ステップS60)。
【0067】
制御部20は、燃料電池10の電圧を、制限電圧VlimからVcまで低下させ、電流をIlimからIcへと増大させる(時刻t1a)。そして、低下後の電圧Vcで所定の期間保持した後、電流が元のIlimに戻るように、電圧を、元の限界電圧Vlimよりも高いVpまで上昇させる(時刻t1b)。
【0068】
以後、本明細書では、一時的電圧低下処理後の上昇電圧Vpと、一時的電圧低下処理実行前の元の電圧Vlimとの差、即ち、一時的電圧低下処理による電圧の上昇量を「電圧上昇量ΔV」と呼ぶ(ΔV=Vp−Vlim)。本実施例の燃料電池システム100では、目標電圧Vtに基づいて上昇電圧Vpを設定するとともに、電圧上昇量ΔVの目標値(目標上昇量ΔV)を設定し、目標上昇量ΔVを得るための一時的電圧低下処理の処理条件を決定するが、詳細は後述する。
【0069】
なお、上記の「上昇電圧Vp」が、特許請求の範囲における「目標電圧」に相当し、「目標上昇量ΔV」が、特許請求の範囲における「目標電圧上昇量」に相当する。
【0070】
時刻t1b〜t2aでは、制御部20は、燃料電池10から流出する電流がIlimで保持されるように制御する。しかし、前記したとおり、燃料電池10の発電性能の向上は一時的なものであるため、制御部20は、予め設定された速度で、電圧をVpから徐々に低下させる。以後、制御部20は、燃料電池10の電圧の時間平均が目標電圧Vtとなるように、時刻t1a〜t1bの期間と同様な一時的電圧低下処理を、所定の回数、一定の周期Tで繰り返す。
【0071】
このように、本実施例の燃料電池システム100では、発電特性回復運転において、上述したような一時的に電圧を低下させる一時的電圧低下処理を繰り返し実行することにより、燃料電池10の電圧を、限界電圧Vlimから、さらに上昇させることができる。発電特性回復運転は、具体的には、以下のような手順で実行される。
【0072】
図8は、発電特性回復運転の具体的な制御手順を示すフローチャートである。ステップS100では、制御部20は、要求されている電圧(目標電圧Vt)に基づいて、一時的電圧低下処理後の上昇電圧Vpを設定するとともに、一時的電圧低下処理によって上昇させるべき電圧の上昇量である目標上昇量ΔVを設定する。具体的には、制御部20は、目標電圧Vtと、予め設定されている一時的電圧低下処理を繰り返す周期Tとに基づいて、上昇電圧Vpや目標上昇量ΔVを設定する。制御部20は、予め準備された関係を用いて、目標電圧Vtに対する上昇電圧Vpや目標上昇量ΔVを設定するものとしても良い。
【0073】
ステップS110では、制御部20は、目標上昇量ΔVに基づき、一時的電圧低下処理における燃料電池10の最低電圧(電圧低下の目標値)である低下後電圧Vcを、一時的電圧低下処理の処理条件として決定する。具体的には、制御部20は、以下のように低下後電圧Vcを取得する。
【0074】
図9は、本発明の発明者が実験によって得たグラフであり、所定の電流に対する電圧が、一時的電圧低下処理を実行した後に上昇した量(電圧上昇量)と、一時的電圧低下処理における電圧の低下量(電圧低下量)との関係を示すグラフである。本発明の発明者は、燃料電池に電流密度0.25A/cm2,0.5A/cm2,1A/cm2で発電させているときにそれぞれ、一時的電圧低下処理を電圧低下量を変えて実行し、前記の元の電流密度にそれぞれ回復させたときの電圧の上昇量を計測した。そして、各計測値のプロットから、図9に示す破線の直線グラフG1が得られた。
【0075】
本発明の発明者は、この実験により、一時的電圧低下処理における電圧低下量と、一時的電圧低下処理によって得られる電圧上昇量との間には、電圧低下量が大きいほど、電圧上昇量がほぼ一定の割合で増大する線形関係があることを見出した。そして、その線形関係は、燃料電池の電流の値にかかわらず、ほぼ一定の関係として得られることを見出した。
【0076】
ここで、制御部20は、図9と同様な電圧低下量と電圧上昇量との関係を表すマップを予め格納している。ステップS110では、そのマップを用いて、目標上昇量ΔVに対する電圧低下量Vdを取得し、電圧低下量Vdと現在の電圧Viとから、一時的電圧低下処理における電圧低下の目標値である低下後電圧Vc(Vc=Vi−Vd)を取得する。
【0077】
ステップS120では、燃料電池10の電圧を、ステップS110で決定した低下後電圧Vcまで一時的に、所定の一定期間だけ低下させる一時的電圧低下処理を、予め設定された周期Tで、所定の回数、繰り返し実行する。これによって、図7で説明したように、燃料電池10の電圧を限界電圧Vlimから上昇させることができ、一時的電圧低下処理が繰り返し実行されている期間の燃料電池10の電圧の時間平均をとったときに、目標電圧Vtが得られる。
【0078】
ステップS130では、制御部20は、一時的電圧低下処理によって適正な電圧上昇量が得られたか否かの判定を行う。具体的には、制御部20は、燃料電池10の上昇後の電圧を計測し、目標値である目標上昇量ΔVと、実際に電圧が上昇した量との間の誤差を算出し、その誤差が予め設定された許容範囲(例えば、±10%程度)にあるか否かを判定する。
【0079】
制御部20は、誤差が許容範囲から外れている場合には、その誤差が低減されるように、図9で説明したマップを補正する(ステップS140)。具体的には、一時的電圧低下処理実行後に得られた実際の電圧の上昇量を反映させて、マップが表すグラフをシフトさせたり、その勾配を修正するものとしても良い。
【0080】
制御部20は、ステップS120の一時的電圧低下処理において、目標上昇量ΔVとして適正な値が得られていた場合、または、ステップS130におけるマップの補正が完了した場合には、発電特性回復運転を終了する。そして、再び、燃料電池10の電圧の上昇が必要になるまで、劣化回避運転を実行する(ステップS40)。なお、劣化回避運転の実行中に、燃料電池10の発電性能が限界状態から回復した場合には、制御部20は、ステップS25の高温運転に復帰し、さらに、燃料電池10が高温状態でなくなっているときには、通常運転へと復帰する(破線矢印で図示したフロー)。
【0081】
以上のように、本実施例の燃料電池システム100であれば、燃料電池10が高温状態となって発電性能が低下し、限界域まで到達してしまった後であっても、発電特性回復運転によって、燃料電池10の電圧を目標電圧まで到達させることが可能である。従って、高温状態における燃料電池10の制御性が向上する。また、発電特性回復運転では、目標電圧に応じて一時的電圧低下処理の処理条件が設定されるため、燃料電池10の電圧を適切に制御することが可能である。さらに、一時的電圧低下処理によって実際に上昇した電圧の上昇量が、処理条件を設定するためのマップにフィードバックされるため、燃料電池10の制御性をより向上させることが可能である。
【0082】
B.第2実施例:
図10は本発明の第2実施例としての燃料電池システムが実行する発電特性回復運転の制御手順を示すフローチャートである。図10は、ステップS110に換えてステップS111が設けられている点以外は、図8とほぼ同じである。なお、第2実施例の燃料電池システムの構成は、第1実施例の燃料電池システムの構成とほぼ同じである(図1,図2)。また、第2実施例の燃料電池システムにおける制御部20によるシステム制御の手順は、第1実施例で説明した手順と同様である(図3)。
【0083】
第2実施例の発電特性回復運転では、制御部20は、ステップS110において、目標上昇量ΔVを取得した後、その目標上昇量ΔVに基づいて、一時的電圧低下処理における電圧の回復速度である電圧上昇速度Vrvを設定する(ステップS111)。制御部20は、電圧上昇速度Vrvの設定値を取得するために、以下に説明する、一時的電圧低下処理において電圧を回復させるときの電圧の上昇速度(電圧上昇速度)と、電圧上昇量との関係を利用する。
【0084】
図11は、本発明の発明者が実験によって得たグラフであり、燃料電池に対して、一時的電圧低下処理を実行したときの、電圧上昇速度と、電圧上昇量との関係を示すグラフである。図11には、左右の縦軸をそれぞれセル電圧と電流密度とし、横軸を時間として、下段に、電流密度の時間変化を示すグラフGI1〜GI3を示し、上段に、電圧の時間変化を示すグラフGV1〜GV3を示してある。
【0085】
このグラフに示されているように、電流密度をIhighからIlowに低下させたときの電流密度の低下速度が小さいほど(電圧の上昇速度が大きいほど)、変化後の電圧の値が高くなった。このことから、本発明の発明者は、一時的電圧低下処理では、電圧の回復速度(電圧上昇速度)が大きいほど、電圧上昇量が大きくなる(即ち、燃料電池の性能の向上の度合いが高くなる)ことを見出した。そこで、第2実施例の燃料電池システムでは、制御部20は、一時的電圧低下処理の処理条件の設定のために、以下のようなマップを用いる。
【0086】
図12は、ステップS111において、制御部20が、目標上昇量ΔVに基づいて電圧の上昇速度Vrvを取得するために用いるマップの一例を示す説明図である。図12には、ステップS111で用いられるマップを、縦軸を電圧上昇量とし、横軸を電圧上昇速度とするグラフとして示してある。このマップは、電圧上昇量が大きいほど、電圧上昇速度が大きくなり、電圧上昇量が大きいほど、電圧上昇速度の変化率が小さくなるように設定されている。
【0087】
制御部20は、このマップを用いて、目標上昇量ΔVに対する電圧上昇速度Vrvを取得する(ステップS111)。そして、一時的電圧低下処理として、燃料電池10の電圧を所定の低下後電圧Vcまで低下させて、所定の期間、低下後電圧Vcで保持した後、電圧上昇速度Vrvで燃料電池の電圧を回復させる(ステップS120)。なお、第2実施例の燃料電池システム100では、一時的電圧低下処理を所定の周期Tで実行できるように、電圧上昇速度Vrvに応じて、一時的電圧低下処理の実行間隔(電圧上昇後から再び電圧が低下されるまでの時間間隔)が調整されるものとしても良い。
【0088】
以上のように、第2実施例の燃料電池システムでは、予め取得した関係を用いて、所望の電圧上昇量に基づき、一時的電圧低下処理の処理条件の1つである電圧上昇速度を設定することにより、燃料電池10の所望の発電特性の回復を得ることができる。従って、高負荷運転時における燃料電池10の制御性が向上する。なお、第2実施例の燃料電池システムでは、予め取得した関係を用いて、所望の電圧上昇量に基づいて、一時的電圧低下処理における電流の低下速度が設定されているものと解釈することも可能である。
【0089】
C.第3実施例:
図13は、本発明の第3実施例としての燃料電池システムにおいて制御部20が実行するシステム制御の制御手順を示すフローチャートである。図13は、ステップS24が追加されている点以外は、図3とほぼ同じである。図14は、第3実施例の燃料電池システムにおける発電特性回復運転の制御手順を示すフローチャートである。
【0090】
図14は、ステップS105が追加されている点と、ステップS110に換えてステップS112が設けられている点以外は、図8とほぼ同じである。なお、第3実施例の燃料電池システムの構成は、第1実施例の燃料電池システム100の構成とほぼ同じである(図1,図2)。第3実施例の燃料電池システムでは、目標上昇量ΔVと、燃料電池10が高温状態である間の累積時間(燃料電池10が高温状態に曝された累積時間)とに基づいて、一時的電流低下処理の処理条件が設定される。具体的には以下の通りである。
【0091】
制御部20は、通常運転の実行時に、燃料電池10が高温状態であることを検出した場合には、燃料電池10が高温状態である間の累積時間(以下、「高温継続時間」と呼ぶ)の計測を開始した後、高温運転を開始する(ステップS24,S25)。この高温継続時間は、以下に説明するように、発電特性回復運転において、一時的電圧低下処理の処理条件の設定に用いられる。なお、高温計測時間は、燃料電池10の運転温度が低下し、高温状態でなくなってから所定の時間が経過したときにリセットされるものとしても良い。
【0092】
発電特性回復運転(図14)では、制御部20は、ステップS100において、目標上昇量ΔVを取得した後、現在の高温継続時間を、一時的電圧低下処理を実行する直前の燃料電池10の運転状態として取得する(ステップS105)。そして、ステップS112では、所定の関係を用いて、目標上昇量ΔVと、高温継続時間とに基づいて、一時的電圧低下処理における低下後電圧Vcを決定する。
【0093】
図15は、本発明の発明者の実験により得られたグラフであり、燃料電池に対して、高温継続時間ごとに、一定の処理条件で一時的電圧低下処理を実行したときの計測結果を、縦軸を電圧上昇量とし、横軸を高温継続時間として示したグラフである。なお、実線グラフG1は、一時的電圧低下処理において低下後電圧Vcを保持した期間を、破線グラフG2のときよりも長く設定したときのグラフである。
【0094】
一時的電圧低下処理の処理条件を一定にした場合、一時的電圧低下処理による電圧上昇量は、高温継続時間が長くなるほど大きくなる。そして、電圧上昇量の増加率は、高温継続時間が長くなるほど低下し、高温継続時間がある値を超えると電圧上昇量は最大値に収束する。
【0095】
本発明の発明者は、この高温継続時間と、電圧上昇量との関係は、一時的電圧処理における最低電圧である低下後電圧ごとに取得できることを見出した。第3実施例の燃料電池システムでは、そうした高温継続時間と、電圧上昇量と、低下後電圧との関係を表したマップとを用いて、高温継続時間Tdと、目標上昇量ΔVとに基づいて、一時的電圧低下処理の処理条件である低下後電圧Vcを決定する。
【0096】
図16は、ステップS112において、一時的電圧低下処理の処理条件を決定するために用いるマップの一例を示す模式図である。第3実施例の燃料電池システムでは、制御部20は、低下後電圧Vc(Vc=v1,v2,v3,…,vn-1,vn)ごとの高温継続時間と電圧上昇量との関係を表すマップを予め記憶している。
【0097】
ステップS112では、制御部20は、ステップS105で取得した高温継続時間Tdに対して目標上昇量ΔVが得られるマップを選択し、そのマップに対応する低下後電圧Vcを取得する。そして、その低下後電圧Vcを一時的電圧低下処理の処理条件として決定する。なお、図16のマップは、一時的電圧低下処理を実行した後に計測される燃料電池10の電圧上昇量の実測値に基づいて補正される(ステップS140)。
【0098】
以上のように、第3実施例の燃料電池システムであれば、目標上昇量ΔVに加えて、一時的電圧低下処理の実行直前における高温継続時間Tdに基づいて、適切な一時的電圧低下処理の処理条件を設定することができる。従って、高負荷運転時における燃料電池10の制御性が向上する。
【0099】
C1.第3実施例の他の構成例:
上記の第3実施例では、目標上昇量ΔVと、高温継続時間Tdとに基づいて、一時的電圧低下処理の処理条件として、低下後セル電圧Vcを決定していた。しかし、図15のグラフに示したとおり、一時的電圧低下処理の実行後の電圧上昇量は、一時的電圧低下処理において低下後電圧Vcを保持した時間(低電圧保持期間)が長いほど大きくなった。この関係を利用することにより、制御部20は、目標上昇量ΔVと、高温継続時間Tdとに基づいて、一時的電圧低下処理における低電圧保持期間を決定することも可能である。
【0100】
D.第4実施例:
図17は、本発明の第4実施例としての燃料電池システムにおいて実行される発電特性回復運転の処理手順を示すフローチャートである。第4実施例の燃料電池システムでは、燃料電池10の運転状態として、カソード触媒の現在の触媒利用率ψiを取得し、その触媒利用率ψiと、目標上昇量ΔVとに基づいて、一時的電圧低下処理の処理条件を決定する。なお、第4実施例の燃料電池システムの構成は第1実施例の燃料電池システムの構成とほぼ同じである(図1,図2)。また、第4実施例の燃料電池システムにおいて制御部20が実行するシステム制御の制御手順は、第1実施例で説明した制御手順と同様である(図3)。
【0101】
第4実施例の燃料電池システムでは、燃料電池10が高温状態において限界状態にあると判定され、さらに、燃料電池10に対して電圧の上昇要求がなされたときに、以下に説明する発電特性回復運転を実行する。ステップS200では、第1実施例で説明したステップS100(図8)と同様に、現在の燃料電池10の電圧と、目標電圧Vtと、予め設定された一時的電圧低下処理の実行周期Tとに基づき、一時的電圧低下処理における目標上昇量ΔVを設定する。
【0102】
ステップS210では、制御部20は、燃料電池10の現在のカソード電位φiを取得する。カソード電位φiは、燃料電池10の現在のセル電圧Vciと、インピーダンス計測部93の計測値から取得できる燃料電池10のセル抵抗Rと、燃料電池10の現在の電流密度Iを用いて、下記の数式(1)から取得することができる。
φi=Vci+I×R …(1)
【0103】
図18は、カソード電位と触媒利用率との関係を表すマップの一例を示す説明図である。このマップは、燃料電池システムの起動時に、制御部20が、LSV(Linear Sweep Voltammetry)によって取得するものとしても良いし、制御部20の記憶部に予め格納されているものとしても良い。カソード電位と触媒利用率との関係は、通常、カソード電位が高いほど、触媒利用率が低下する横S字状のなだらかな曲線グラフとして表すことができ、カソード電位と触媒利用率とは、互いに一意に求めることができる。
【0104】
ステップS220では、制御部20は、このマップを用いて、現在のカソード電位φiに対する現在の触媒利用率ψiを取得する(破線矢印で図示)。ステップS230では、ターフェルの式に基づく下記の数式(2)に、現在の触媒利用率ψiと、目標上昇量ΔVと、セル抵抗Rと、燃料電池10の現在の運転温度Tとを代入し、一時的電圧低下処理後の触媒利用率の目標値である目標触媒利用率ψtを取得する。
ΔV=(R×T/α×F)×ln(ψt/ψi)…(2)
ここで、αはカソード反応の移動係数であり、通常、0.5〜1.0の間の値となる。Fはファラデー定数である。
【0105】
ステップS240では、図18で説明したマップを再び用いて、目標触媒利用率ψtに対する目標カソード電位φtを取得する(図18において一点鎖線の矢印で図示)。ステップS250では、取得した目標カソード電位φtと、燃料電池10のセル抵抗Rと、電流密度Iとを、下記の数式(3)に代入して、一時的電圧低下処理における低下後電圧Vcを取得する。
Vc=φt−I×R …(3)
【0106】
ステップS260では、ステップS250で取得した低下後電圧Vcを所定の期間保持する一時的電圧低下処理を、所定の周期Tで、所定の回数、繰り返して実行する。そして、ステップS270では、一時的電圧低下処理における燃料電池10の実際の電圧上昇量を計測し、目標値である目標上昇量ΔVとの間の誤差を算出する。制御部20は、その誤差が予め設定された許容範囲(例えば、±10%程度)から外れている場合には、図18で説明したマップを補正する(ステップS280)。
【0107】
以上のように、第4実施例の燃料電池システムでは、目標電圧から取得できる目標上昇量ΔVと、一時的電圧低下処理の実行直前における燃料電池10の運転状態を示す触媒利用率ψiと、に基づいて、一時的電圧低下処理の処理条件である低下後電圧Vcを決定する。ここで、一時的電圧低下処理によって燃料電池10の発電特性が回復する理由の1つは、一時的な電流の増大によって、触媒の酸化被膜が減少し、触媒利用率が向上するためである。従って、触媒利用率に基づいて一時的電圧低下処理の処理条件を設定することによって、より直接的に、燃料電池10における発電性能の向上の度合いを制御することができ、燃料電池10の出力制御がより高い精度で可能となる。
【0108】
E.第5実施例:
図19は、第4実施例の燃料電池システムにおいて実行される発電特性回復運転の制御手順を示すフローチャートである。図19は、ステップS115が追加されている点以外は、図8とほぼ同じである。なお、第5実施例の燃料電池システムの構成は、第1実施例の燃料電池システム100の構成とほぼ同じである(図1,図2)。また、第4実施例の燃料電池システムにおいて制御部20が実行するシステム制御の制御手順は、第1実施例で説明した手順と同様である(図3)。
【0109】
ここで、一時的電圧低下処理を実行する際には、二次電池81の出力によって、燃料電池10の出力不足が補償される場合がある。しかし、既に説明したとおり、二次電池81のSOCには下限値が予め設定されているため、二次電池81のSOCが著しく低い場合には、一時的電圧低下処理の実行の際の二次電池81による補償が困難となってしまう可能性がある。そこで、第5実施例の燃料電池システムでは、ステップS110において、一時的電圧低下処理の処理条件を設定した後に、一時的電圧低下処理が繰り返し実行されている間の二次電池81による補償を確保するための準備処理を実行する(ステップS115)。
【0110】
図20は、ステップS115における二次電池81の準備処理の処理手順を示すフローチャートである。ステップS300では、制御部20は、一時的電圧低下処理の処理条件に基づいて、二次電池81による出力補償が必要であるか否かの判定処理を実行する。具体的には、制御部20は、燃料電池10に現在要求されている電力(要求電力)と、一時的電圧低下処理が繰り返し実行されている間に燃料電池10が出力できるであろう電力とを比較する。そして、要求電力に対して、一時的電圧低下処理が繰り返し実行されている間の燃料電池10の出力電力が不足するか否かを判定する。
【0111】
二次電池81による出力補償が必要であると判定した場合には、制御部20は、二次電池81の現在のSOCを検出する(ステップS310)。一方、二次電池81による出力補償が必要でないと判定した場合には、制御部20は、発電特性回復運転に戻り、一時的電圧低下処理を所定の周期Tで、所定の回数、繰り返し実行する(図19のステップS120)。
【0112】
ステップS320(図20)では、制御部20は、現在の二次電池81のSOCに基づいて、一時的電圧低下処理の実行中に不足する電力を二次電池81が補償できるか否かを判定する。即ち、二次電池81に、その不足電力を出力させた場合に、二次電池81のSOCが下限値より低くならないかを判定する。制御部20は、二次電池81による補償が可能であると判定した場合には、発電特性回復運転に戻り、一時的電圧低下処理の実行を開始する(図19のステップS120)。
【0113】
ステップS330(図20)以降の処理では、制御部20は、一時的電圧低下処理の実行を確保するために、二次電池81の出力制限を緩やかにする処理、または、一時的電圧低下処理の処理条件を変更する処理のいずれかを実行する。具体的には、以下の通りである。
【0114】
制御部20は、二次電池81に不足電力を補償させると、二次電池81のSOCが下限値より低くなってしまうと判定した場合には、その下限値をより低い値に再設定することにより、二次電池81による補償が可能となるか否かを判定する(ステップS330)。即ち、二次電池81のSOCの下限値を予め規定された、初期設定の下限値より低い第2の下限値に再設定し、二次電池81に一時的電圧低下処理における不足電力を補償させた場合に、二次電池81のSOCが、第2の下限値より低くなるか否かを判定する。
【0115】
制御部20は、二次電池81のSOCの下限値の変更により、一時的電圧低下処理における不足電力の補償が可能となると判定した場合には、二次電池81のSOCの下限値を第2の下限値に変更する(ステップS340)。ここで、二次電池81のSOCの下限値は、二次電池81の蓄電量不足による劣化を防止するために設定された値である。しかし、燃料電池10の発電性能が向上すれば、二次電池81にかかる負荷も低減されることから、第4実施例の燃料電池システムでは、二次電池81のSOCの制限を、あえて一時的に緩和することにより、一時的電圧低下処理の実行を確保する。
【0116】
制御部20は、二次電池81のSOCの下限値を変更しても、一時的電圧低下処理における不足電力の補償はできないと判定した場合には、一時的電圧低下処理の処理条件を変更する(ステップS350)。具体定期には、一時的電圧低下処理の実行中における不足電力が低減されるように、低下後電圧Vcの値を上昇させる補正を実行する。制御部20は、SOCの下限値の変更、または、低下後電圧Vcの変更を実行した後に、発電特性回復運転に戻り、一時的電圧低下処理の実行を開始する(図19のステップS120)。
【0117】
以上のように、第5実施例の燃料電池システムでは、二次電池81による電力の補償が可能になるように予め準備することにより、一時的電圧低下処理の実行を確保する。従って、高負荷運転時における燃料電池10の発電性能を確実に向上させることができる。
【0118】
F.変形例:
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0119】
F1.変形例1:
上記の各実施例では、燃料電池システムが燃料電池車両に搭載されていた。しかし、各実施例の燃料電池システムは、燃料電池車両に搭載されていなくとも良い。燃料電池システムは、外部からの要求に応じた電力を供給する電力供給源として、他の装置やシステム等に搭載されるものとしても良い。
【0120】
F2.変形例2:
上記の各実施例では、制御部20は、目標上昇量ΔVに基づいて、一時的電圧低下処理の処理条件として、低下後電圧Vcや、電圧上昇速度Vrv、低電圧保持期間を設定していた。しかし、目標上昇量ΔVと一時的電圧低下処理実行後の上昇電圧Vpとは一意の関係であるため、一時的電圧低下処理実行後の目標電圧である上昇電圧Vpに基づき、一時的電圧低下処理の処理条件を設定しているものと解釈することができる。従って、制御部20は、上記実施例で説明したマップに換えて予め準備された上昇電圧Vpと一時的電圧低下処理の処理条件との関係を表したマップを用いるものとしても良い。なお、制御部20は、予め準備された目標電圧Vtと一時的電圧低下処理の処理条件との間の関係を用いて、目標電圧Vtに基づき、一時的電圧低下処理の処理条件を設定するものとしても良い。
【0121】
また、制御部20は、一時的電圧低下処理の処理条件として、他の処理条件を設定するものとしても良い。制御部20は、例えば、上昇電圧Vpや目標上昇量ΔVに基づいて、一時的電圧低下処理を繰り返し実行する際の周期Tを設定するものとしても良い。また、制御部20は、上昇電圧Vpや目標上昇量ΔVに基づいて、複数の処理条件を設定するものとしても良い。例えば、制御部20は、上昇電圧Vpや目標上昇量ΔVに基づいて、低下後電圧Vcと、電圧上昇速度Vrvとを設定するものとしても良い。
【0122】
F3.変形例3:
上記第3実施例では、一時的電圧低下処理の実行直前における燃料電池10の運転状態として、高温継続時間Tdを検出し、目標上昇量ΔVと、高温継続時間Tdとに基づいて、一時的電圧低下処理の処理条件を決定していた。しかし、一時的電圧低下処理の処理条件を決定するために検出する燃料電池10の運転状態は、他の要素であっても良い。具体的には、以下のようなものがある。
・セル電圧
・インピーダンス
・電流密度
・反応ガスのストイキ比
・入口圧、または、出口圧(背圧)
ここで、上記の「ストイキ比」とは、燃料電池の発電量に対して理論的に必要なカソードガスの量(カソードガスの理論的消費量)に対する実際のカソードガスの供給量の比を意味する。また、「入口圧」とは、燃料電池10の反応ガスの供給側における圧力を意味し、「出口圧(背圧)」とは、燃料電池10の反応ガスの排出側における圧力を意味する。
なお、一時的電圧低下処理の処理条件は、一時的電圧低下処理実行後の目標電圧である上昇電圧Vpと、上記の燃料電池10の運転状態の要素のうちの少なくとも1つとに基づいて決定されれば良い。一時的電圧低下処理の処理条件は、例えば、上昇電圧Vpと、高温継続時間Tdと、セル電圧との組み合わせに基づいて決定されるものとしても良く、更に多次元的な要素の組み合わせによって決定されるものとしても良い。
【0123】
F4.変形例4:
上記の各実施例では、燃料電池10の高温状態を検出した後、高温運転を開始し(ステップS25)、燃料電池10の劣化回避運転(ステップS40)の実行中に、発電特性回復運転(ステップS60)を開始していた。しかし、燃料電池10の高温状態の検出は省略されるものとしても良いし、高温運転の実行や劣化回避運転の実行も省略されるものとしても良い。制御部20は、例えば、燃料電池10の電解質膜の乾燥や発電性能の低下が検出されたときに、発電特性回復運転を実行するものとしても良い。
【0124】
F5.変形例5:
上記の各実施例では、一時的電圧低下処理条件の決定の際に、制御部20は、目標上昇量ΔVと一時的電圧低下処理の処理条件との関係を表したマップや、目標上昇量ΔVと、燃料電池10の運転状態と、一時的電圧低下処理の処理条件と、の関係を表したマップを用いていた。しかし、制御部20は、そうしたマップを用いなくとも良く、例えば予め設定された数式や関数などの対応関係を用いて、目標上昇量ΔVや、燃料電池10の運転状態に基づいて、一時的電圧低下処理の処理条件を設定するものとしても良い。また、制御部20は、そうしたマップや数式などによって表される関係を用いなくとも良い。制御部20は、少なくとも、一時的電圧低下処理実行後の目標電圧である上昇電圧Vp(上昇電圧Vpから一意に求められる値を含む)に基づいて、一時的電圧低下処理の処理条件を設定すれば良い。
【0125】
F6.変形例6:
上記の各実施例では、一時的電圧低下処理を実行した後の電流を、電圧の低下を開始する直前の電流と同じとなるように制御していた。しかし、一時的電圧低下処理の実行後の電流は、電圧の低下を開始する直前の電流と異なる電流に制御されても良い。
【0126】
F7.変形例7:
上記第5実施例では、制御部20は、ステップS340において、二次電池81のSOCの下限値を低下させていた。しかし、制御部20は、二次電池81のSOCの制限自体を解除してしまうものとしても良い。
【0127】
F8.変形例8:
上記の各実施例では、一時的電圧低下処理を実行した後に、燃料電池10の電圧の実測値と、目標上昇量ΔVとに基づいて、マップの補正を実行していた。しかし、マップの補正処理は省略されるものとしても良い。
【符号の説明】
【0128】
10…燃料電池
11…発電体
20…制御部
30…カソードガス供給部
31…カソードガス配管
32…エアコンプレッサ
33…エアフロメータ
34…開閉弁
35…加湿部
40…カソードガス排出部
41…カソード排ガス配管
43…調圧弁
44…圧力計測部
50…アノードガス供給部
51…アノードガス配管
52…水素タンク
53…開閉弁
54…レギュレータ
55…水素供給装置
56…圧力計測部
60…アノードガス循環排出部
61…アノード排ガス配管
62…気液分離部
63…アノードガス循環配管
64…水素循環用ポンプ
65…アノード排水配管
66…排水弁
67…圧力計測部
70…冷媒供給部
71…冷媒用配管
71a…上流側配管
71b…下流側配管
71c…バイパス配管
72…ラジエータ
73…三方弁
75…冷媒循環用ポンプ
76a,76b…冷媒温度計測部
81…二次電池
82…DC/DCコンバータ
83…DC/ACインバータ
91…セル電圧計測部
92…電流計測部
93…インピーダンス計測部
94…SOC検出部
95…開閉スイッチ
100…燃料電池システム
101…外気温センサ
102…車速センサ
200…モータ
DCL…直流配線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池システムであって、
燃料電池と、
前記燃料電池の電圧を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記燃料電池の所定の電流に対する電圧の目標値である目標電圧を設定し、前記目標電圧に基づいて、前記燃料電池の発電特性を変化させて、前記燃料電池の所定の電流に対する電圧を上昇させるための処理条件を設定し、
前記制御部は、前記燃料電池の電圧を前記燃料電池の発電特性に基づいて一時的に低下させることにより、前記燃料電池の一時的な電流の増大を生じさせて、前記燃料電池の発電特性を変化させる一時的電圧低下処理を、前記処理条件に従って実行する、燃料電池システム。
【請求項2】
請求項1記載の燃料電池システムであって、
前記制御部は、前記一時的電圧低下処理を実行したときに、前記燃料電池の所定の電流に対する電圧が前記発電特性の変化により上昇する量と、前記一時的電圧低下処理の処理条件と、の関係を、予め取得しており、
前記制御部は、前記関係を用いて、前記処理条件を、現在の電圧と前記目標電圧との差である目標電圧上昇量に基づいて設定する、燃料電池システム。
【請求項3】
請求項2記載の燃料電池システムであって、
前記処理条件は、
前記一時的電圧低下処理における最低電圧と、
前記一時的電圧低下処理において最低電圧を保持した期間と、
前記一時的電圧低下処理において電圧を回復させるときの電圧の上昇速度と、
のうちの少なくとも1つである、燃料電池システム。
【請求項4】
請求項2または請求項3記載の燃料電池システムであって、さらに、
前記一時的電圧低下処理を実行する直前の前記燃料電池の運転状態を検出する運転状態検出部を備え、
前記制御部は、
前記一時的電圧低下処理を実行したときに、前記燃料電池の所定の電流に対する電圧が前記発電特性の変化により上昇する量と、前記燃料電池の運転状態と、前記一時的電圧低下処理の処理条件と、の関係を、予め取得しており、
前記関係を用いて、前記燃料電池の運転状態と、前記目標電圧と、に基づいて、前記処理条件を設定する、燃料電池システム。
【請求項5】
請求項4記載の燃料電池システムであって、
前記一時的電圧低下処理を実行する直前の前記燃料電池の運転状態は、
前記燃料電池が所定の温度よりも高い高温状態にある期間の累積時間と、
前記燃料電池の電極に担持された触媒の状態を示す触媒利用率と、
のうちの少なくとも1つである、燃料電池システム。
【請求項6】
請求項2から5のいずれか一項に記載の燃料電池システムであって、さらに、
前記燃料電池の電圧を計測する電圧計測部を備え、
前記制御部は、前記一時的電圧低下処理実行後の前記燃料電池の電圧の計測値と、前記目標電圧との差が収束されるように、前記関係の補正を実行する、燃料電池システム。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の燃料電池システムであって、さらに、
前記制御部によって充放電が制御され、前記一時的電圧低下処理において、前記燃料電池の出力電力を補助する二次電池を備え、
前記制御部は、前記二次電池の放電を制限する閾値である前記二次電池の充電状態の下限値を予め設定し、前記二次電池の充電状態が前記下限値より小さくならないように、前記二次電池の充電状態を管理しており、
前記制御部は、前記一時的電圧低下処理を実行する際に、前記下限値を低下させることにより、前記二次電池の放電を制限する条件を緩やかにする、燃料電池システム。
【請求項8】
燃料電池システムの制御方法であって、
(a)コンピュータが、燃料電池の所定の電流に対する電圧の目標値である目標電圧を設定し、前記目標電圧に基づいて、前記燃料電池の発電特性を変化させて、前記燃料電池の所定の電流に対する電圧を上昇させるための処理条件を設定する工程と、
(b)コンピュータが、前記燃料電池の電圧を前記燃料電池の発電特性に基づいて一時的に低下させることにより、前記燃料電池の一時的な電流の増大を生じさせて、前記燃料電池の発電特性を変化させる一時的電圧低下処理を、前記目標電圧に基づいて設定した処理条件によって実行する工程と、
を備える、制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2013−114855(P2013−114855A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−259040(P2011−259040)
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】