説明

燃料電池システムの制御方法

【課題】燃料電池システムの停止時発電処理を実施するにあたり、スタックの破壊、次回機動性の悪化、並びに弁誤開弁等の不具合を防止できる燃料電池システムの制御方法を提供する。
【解決手段】燃料電池システム10の運転停止指令を検出したときから停止時発電処理中に、アノード側の圧力が閾値圧力以下で停止時発電処理を中断することで、燃料電池スタック12の破壊や空気導入弁55の誤開弁を防止できる。燃料電池20の電圧Vcが閾値電圧以下で停止時発電処理を中断することで、燃料電池20が壊れることを防止できる。冷却媒体温度Tcが閾値温度以上で停止時発電処理を中断することで冷却不足を要因として燃料電池20が壊れることを防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、酸化剤ガス及び燃料ガスの電気化学反応により発電する燃料電池を備える燃料電池システムの制御方法に関し、特に、発電停止時にアノード内の水素とカソード内の酸素を消費させることで、燃料電池内のカソード内を窒素濃度の濃いガスで充満させる停止時発電処理を実施する燃料電池システムの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、燃料ガス(主に水素を含有するガス、例えば、水素ガス)及び酸化剤ガス(主に酸素を含有するガス、例えば、空気)をアノード電極及びカソード電極に供給して電気化学的に反応させることにより、直流の電気エネルギを得るシステムである。このシステムは、定置用の他、車載用として燃料電池車両に組み込まれている。
【0003】
例えば、固体高分子型燃料電池は、高分子イオン交換膜からなる電解質膜の両側に、それぞれアノード電極及びカソード電極を設けた電解質膜・電極構造体(MEA)を、一対のセパレータによって挟持している。一方のセパレータと電解質膜・電極接合体との間には、アノード電極に燃料ガスを供給するための燃料ガス流路が形成されるとともに、他方のセパレータと前記電解質膜・電極構造体との間には、カソード電極に酸化剤ガスを供給するための酸化剤ガス流路が形成されている。
【0004】
この燃料電池の停止時には、燃料ガス及び酸化剤ガスの供給が停止されるが、燃料ガス流路内に前記燃料ガスが残留する一方、酸化剤ガス流路内に前記酸化剤ガスが残留している。従って、特に燃料電池の停止期間が長くなると、燃料ガスや酸化剤ガスが電解質膜を透過し、前記燃料ガスと前記酸化剤ガスとが混在し反応して電解質膜・電極構造体が劣化するおそれがある。
【0005】
そこで、例えば、特許文献1に開示されている燃料電池システムでは、燃料電池の運転停止時に、アノード側への反応ガスの供給を遮断するとともに、カソード側への反応ガスの供給を遮断する。さらに、アノード側排ガスをアノード側循環ラインを経由して上流側に循環させるとともに、カソード側排ガスをカソード循環ラインを介して上流側に循環させ、燃料電池内の電気化学反応を継続させることで発電させ、発電出力をバッテリに充電する。このようにして、アノード側排ガスの水素を消費させるとともに、カソード側排ガス中の酸素を消費して窒素ガスをタンクに蓄積し、タンクに蓄積した窒素ガスにより燃料電池のアノード内及びカソード内をガス置換している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−22487号公報(図1、[0029])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載された技術のように、燃料電池の運転停止時に、窒素ガスにより燃料電池のアノード内及びカソード内を不活性なガスにより置換することは、運転停止後に、不必要な反応が発生する可能性が少なくなり、燃料電池の劣化防止という観点からも好ましい。
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載された停止時発電処理に係る技術では、例えば、アノード側の反応ガスの供給を遮断して発電(電気化学反応)を継続させているので、アノード側の圧力が相当に低下する場合があり、燃料電池システムを構成するスタックの破壊や弁の誤開弁(誤開放)を惹起してしまうという問題がある。
【0009】
また、この停止時発電処理は、電気的に大きな負荷をかける(大きな電流を引く)ことがないので発生する熱量が少なく、かつ比較的に時間のかかる処理であるので、氷点下等の低温下において実施すると、燃料電池の氷結を招く可能性があり、同様に燃料電池システムを構成するスタック等が破壊してしまうおそれがある。
【0010】
この発明は上記の課題を考慮してなされたものであり、燃料電池システムの停止時発電処理を実施するにあたり、スタックの破壊、次回機動性の悪化、並びに弁の誤開弁等の不具合を悉く防止することを可能とする燃料電池システムの制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明は、カソード側に供給される酸化剤ガス及びアノード側に供給される燃料ガスの電気化学反応により発電する燃料電池と、前記燃料電池に前記酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給装置と、前記燃料電池に前記燃料ガスを供給する燃料ガス供給装置と、前記燃料電池に冷却媒体を供給する冷却媒体供給装置と、前記燃料電池の運転停止指令を検出した際、前記燃料ガスの供給を停止する一方、前記酸化剤ガスを燃料電池に供給しながら前記燃料電池を発電させる停止時発電処理を実施する燃料電池システムの制御方法において、以下の特徴(1)を備える。
【0012】
(1)前記燃料電池システムの運転停止指令を検出したときから前記停止時発電処理中に、前記アノード側の圧力が閾値圧力以下、前記燃料電池の電圧{例えば、セル(セルペア)電圧}が閾値電圧以下、前記アノード側の燃料ガスの温度が閾値温度以下、及び前記冷却媒体の温度が閾値温度以上、の少なくとも1つの条件が検出された場合には、前記停止時発電処理を中断することを特徴とする。
【0013】
この発明によれば、アノード側の圧力が閾値圧力以下で停止時発電処理を中断することで、スタックの破壊や弁の誤開弁(誤開放)を防止できる。また、前記燃料電池の電圧が閾値電圧以下で停止時発電処理を中断することで、燃料電池(セル)が壊れることを防止できる。さらに、冷却媒体温度が閾値温度以上で停止時発電処理を中断することで冷却不足を要因として燃料電池が壊れる(セルが焼損する)ことを防止できる。
【0014】
また、この発明は、カソード側に供給される酸化剤ガス及びアノード側に供給される燃料ガスの電気化学反応により発電する燃料電池と、前記燃料電池に前記酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給装置と、前記燃料電池に前記燃料ガスを供給する燃料ガス供給装置と、前記燃料電池の運転停止指令を検出した際、前記燃料ガスの供給を停止する一方、前記酸化剤ガスを燃料電池に供給しながら前記燃料電池を発電させる停止時発電処理を実施する燃料電池システムの制御方法において、以下の特徴(2)を備える。
【0015】
(2)前記燃料電池システムの運転停止指令を検出したときに、前記燃料電池システムの通常発電中の発電不調が記憶されていたとき、前記燃料電池システムが所定温度以下の状態で起動され前記燃料電池システムの暖機完了前であったとき、及び前記燃料電池のガス圧力を制御する制御弁が凍結の可能性があるとき、の少なくとも1つの条件が検出された場合には、前記停止時発電処理を実施しないことを特徴とする。
【0016】
この発明によれば、燃料電池システムの運転停止指令を検出したときに、前記燃料電池システムの通常発電中の発電不調が記憶されていたとき、停止時発電処理を実施しないことで発電不調状態を改善する余地が残される(発電不調状態を継続することは、より劣化を促進する可能性が高く好ましくない。)。また、前記燃料電池システムの運転停止指令を検出したときに、前記燃料電池システムが所定温度以下の状態で起動され前記燃料電池システムの暖機完了前であったとき、停止時発電処理を実施しないことで、燃料電池が発電不調状態になることを防止できる。さらに、燃料電池システムの運転停止指令を検出したときに、前記燃料電池のガス圧力を制御する制御弁が凍結の可能性があるとき、前記停止時発電処理を実施しないことで、凍結を防止できる。
【0017】
なお、この発明は、発電不調等の不具合発生時に、停止時発電処理を不実施乃至中断することで、前記停止時発電処理を除いた他の不具合対策処理、例えば、乾燥した空気によるアノード側やカソード側の掃気処理等を実施することで、発電不調等の不具合を解消できる可能性が得られる点で有用である。
【発明の効果】
【0018】
この発明によれば、停止時発電処理をする際に、不具合が検出されたとき、停止時発電処理中であれば中断し、停止時発電処理前であれば実施しないようにしたので、停止時発電処理の続行乃至実施による不具合の悪化・継続を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】この発明の実施形態に係る制御方法が実施される燃料電池システムの概略構成図である。
【図2】前記燃料電池システムを構成する回路説明図である。
【図3】前記制御方法を説明するタイミングチャートである。
【図4】前記制御方法を説明するフローチャートである。
【図5】前記燃料電池システムの水素ガス系容積部及び空気系容積部の説明図である。
【図6】停止時発電処理の全体説明図である。
【図7】実施可否判断部と中断要否判断部の具体的な動作例の説明図である。
【図8】実施可否・中断要否判断部に記憶されている判断表の説明図である。
【図9】モード切替判断部に記憶されているモード切替表の説明図である。
【図10】差圧保護の考え方の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1に示すように、この発明の実施形態に係る制御方法が実施される燃料電池システム10は、燃料電池スタック12と、燃料電池スタック12に酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給装置14と、燃料電池スタック12に燃料ガスを供給する燃料ガス供給装置16と、燃料電池スタック12に冷却媒体を供給する冷却媒体供給装置21と、燃料電池スタック12に掃気ガスを導入する掃気装置15と、燃料電池スタック12に接続自由なバッテリ(蓄電装置)17と、燃料電池システム10全体の制御を行うコントローラ(制御装置、制御部)18と、を備える。
【0021】
コントローラ18は、マイクロコンピュータを含む計算機であり、CPU(中央処理装置)、メモリであるROM(EEPROMも含む。)、RAM(ランダムアクセスメモリ)、その他、A/D変換器、D/A変換器等の入出力装置、時計、計時部としてのタイマ19等を有しており、CPUがROMに記録されているプログラムを読み出し実行することで各種機能実現部(機能実現手段)、たとえば制御部、演算部、及び処理部等として機能する。
【0022】
燃料電池システム10は、燃料電池自動車等の燃料電池車両に搭載される。バッテリ17は、燃料電池車両を通常走行可能であり、例えば、20A、〜500V程度であるとともに、後述する12V電源98よりも高電圧且つ高電力容量である。
【0023】
燃料電池スタック12は、複数の燃料電池(セル又はセルペアともいう。)20を積層して構成される。各燃料電池20は、例えば、パーフルオロスルホン酸の薄膜に水が含浸された固体高分子電解質膜22をカソード電極24とアノード電極26とで挟持した電解質膜・電極構造体(MEA)28を備える。
【0024】
カソード電極24及びアノード電極26は、カーボンペーパ等からなるガス拡散層と、白金合金(又はRu等)が表面に担持された多孔質カーボン粒子が前記ガス拡散層の表面に一様に塗布されて形成された電極触媒層とを有する。電極触媒層は、固体高分子電解質膜22の両面に形成される。
【0025】
電解質膜・電極構造体28をカソード側セパレータ30及びアノード側セパレータ32で挟持する。カソード側セパレータ30及びアノード側セパレータ32は、例えば、カーボンセパレータ又は金属セパレータで構成される。
【0026】
カソード側セパレータ30と電解質膜・電極構造体28との間には、酸化剤ガス流路34が設けられるとともに、アノード側セパレータ32と前記電解質膜・電極構造体28との間には、燃料ガス流路36が設けられる。
【0027】
燃料電池スタック12には、各燃料電池20の積層方向に互いに連通して、酸化剤ガス、例えば、酸素含有ガス(以下、空気ともいう。)を供給する酸化剤ガス入口連通孔38a、燃料ガス、例えば、水素含有ガス(以下、水素ガスともいう)を供給する燃料ガス入口連通孔40a、冷却媒体を供給する冷却媒体入口連通孔41a、前記酸化剤ガスを排出する酸化剤ガス出口連通孔38b、前記燃料ガスを排出する燃料ガス出口連通孔40b、及び前記冷却媒体を排出する冷却媒体出口連通孔41bが設けられる。
【0028】
酸化剤ガス供給装置14は、大気からの空気を圧縮して供給するエアポンプ50を備え、前記エアポンプ50が空気供給流路52に配設される。空気供給流路52には、供給ガスと排出ガスとの間で水分と熱を交換する加湿器54が配設される。空気供給流路52は、燃料電池スタック12の酸化剤ガス入口連通孔38aに連通する。
【0029】
酸化剤ガス供給装置14は、酸化剤ガス出口連通孔38bに連通する空気排出流路56を備える。空気排出流路56は、加湿器54の加湿媒体通路(図示せず)に連通するとともに、この空気排出流路56には、エアポンプ50から空気供給流路52を通って燃料電池スタック12に供給される空気の圧力を調整するためのバタフライ弁等の開度調整可能な背圧制御弁(単に、背圧弁ともいう。)58が設けられる。背圧制御弁58は、ノーマルクローズ型(通電されない時に閉じられる)制御弁により構成されることが好ましい。空気排出流路56は、希釈ボックス60に連通する。
【0030】
掃気装置15は、大気からの空気を圧縮して供給する前記エアポンプ50、空気供給流路52、及び空気排出流路56を酸化剤ガス供給装置14と共有し、さらに、エゼクタ66の下流側の水素供給流路64と空気供給流路52との間に配設された空気導入流路53と、この空気導入流路53に設けられた空気導入弁55と、を備える。
【0031】
空気導入弁55は、エアポンプ50から空気供給流路52及び空気導入流路53を介し、燃料ガス入口連通孔40aを通じて燃料ガス流路36に圧縮空気を導入するための、いわゆるアノード側空気掃気処理時に開放される開閉弁である。なお、アノード側空気掃気処理は、水滴を吹き飛ばせる大きな風量とされる点でアノード側空気置換処理と異なり、アノード側の燃料ガスを空気にガス置換する点でアノード側空気置換処理と共通する。
【0032】
燃料ガス供給装置16は、高圧水素を貯留し開閉弁であるインタンク電磁弁63が一体的に設けられた水素タンク62を備え、この水素タンク62は、水素供給流路64を介して燃料電池スタック12の燃料ガス入口連通孔40aに連通する。
【0033】
この水素供給流路64には、開閉弁である遮断弁65及びエゼクタ66が設けられる。エゼクタ66は、水素タンク62から供給される水素ガスを、水素供給流路64を通って燃料電池スタック12に供給するとともに、燃料電池スタック12で使用されなかった未使用の水素ガスを含む排ガスを、水素循環路68から吸引して、再度、前記燃料電池スタック12に燃料ガスとして供給する。
【0034】
燃料ガス出口連通孔40bには、オフガス流路70が連通する。オフガス流路70の途上には、水素循環路68が連通するとともに、オフガス流路70には、パージ弁72を介して希釈ボックス60が接続される。希釈ボックス60の排出口側には、排出流路74が接続される。なお、排出流路74には、図示しない貯蔵バッファが配設され、この貯蔵バッファには、大気に連通する排気流路が接続される。
【0035】
冷却媒体供給装置21は、燃料電池スタック12に設けられる冷却媒体入口連通孔41a及び冷却媒体出口連通孔41bに連通し、冷却媒体を燃料電池スタック12に循環させる冷却媒体循環路78を備える。冷却媒体循環路78には、ラジエータ122及び冷却媒体循環用のポンプ120が配設される。なお、ラジエータ122には、図示しないラジエータファンが配設される。
【0036】
コントローラ18は、各種制御処理を実行するために、水素供給流路64に設けられたアノード圧力Paを検出する圧力センサ102、酸化剤ガス入口連通孔38aの近傍に設けられたカソード圧力Pkを検出する圧力センサ103、燃料ガス出口連通孔40bの近傍に設けられた水素温度Thを検出する温度センサ104、車両の外気温Teを検出する外気温センサ105、冷却媒体出口連通孔41bに設けられた冷却媒体温度Tcを検出する温度センサ106、各燃料電池20の電圧(セル電圧又はセルペア電圧という。)Vcを検出する電圧センサ108、及び燃料電池スタック12から流れ出る電流の電流値Ioを検出する電流センサ110の各信号を取り込み、後述するFCコンタクタ86のオン(閉)オフ(開)、遮断弁65等の弁の開閉及び開度制御、及びエアポンプ50の流量(風量)の調整等のアクチュエータの制御等を行う。
【0037】
図2に示すように、燃料電池スタック12には、主電力線80の一端が接続されるとともに、主電力線80の他端がインバータ82に接続される。インバータ82には、三相の車両走行用の駆動モータ84が接続される。なお、主電力線80は、実質的には、2本用いられているが、説明の簡素化を図るために、1本の前記主電力線80で記載する。以下に説明する他のラインにおいても、同様である。また、燃料電池スタック12の出力に現れる高電圧を1次側電圧Vfc1ともいう。
【0038】
主電力線80には、FCコンタクタ(主電源開閉器、燃料電池スタック開閉器)86が配設されるとともに、エアポンプ50が接続される。主電力線80には、電力線88の一端が接続され、電力線88には、DC/DCコンバータ90及びバッテリコンタクタ(蓄電装置開閉器)92を介してバッテリ17が接続される。電力線88には、分岐電力線94が設けられ、分岐電力線94には、ダウンバータ(DC/DCコンバータ)96を介して12V電源98が接続される。なお、12V電源98は、バッテリ17よりも低い電圧であればよく、12Vに限定されるものではない。
【0039】
このように構成される燃料電池システム10の動作について、以下に説明する。
【0040】
先ず、燃料電池システム10の通常運転時(通常発電時、又は通常発電処理時ともいう。)には、酸化剤ガス供給装置14を構成するエアポンプ50を介して、空気供給流路52に空気が送られる。この空気は、加湿器54を通って加湿された後、燃料電池スタック12の酸化剤ガス入口連通孔38aに供給される。この空気は、燃料電池スタック12内の各燃料電池20に設けられている酸化剤ガス流路34に沿って移動することにより、カソード電極24に供給される。
【0041】
使用済みの空気は、酸化剤ガス出口連通孔38bから空気排出流路56に排出され、加湿器54に送られることによって新たに供給される空気を加湿した後、背圧制御弁58を介して希釈ボックス60に導入される。
【0042】
一方、燃料ガス供給装置16では、インタンク電磁弁63及び遮断弁65が開放されることにより、水素タンク62から減圧制御弁(図示せず)により減圧された後、水素供給流路64に水素ガスが供給される。この水素ガスは、水素供給流路64を通って燃料電池スタック12の燃料ガス入口連通孔40aに供給される。燃料電池スタック12内に供給された水素ガスは、各燃料電池20の燃料ガス流路36に沿って移動することにより、アノード電極26に供給される。
【0043】
使用済みの水素ガスは、燃料ガス出口連通孔40bから水素循環路68を介してエゼクタ66に吸引され、燃料ガスとして、再度、燃料電池スタック12に供給される。従って、カソード電極24に供給される空気とアノード電極26に供給される水素ガスとが電気化学的に反応して発電が行われる。
【0044】
一方、水素循環路68を循環する水素ガスには、不純物が混在し易い。このため、不純物を混在する水素ガスは、パージ弁72が開放されることによって希釈ボックス60に導入される。この水素ガスは、希釈ボックス60内で空気オフガスと混合されることにより水素濃度が低下(希釈)された後、貯蔵バッファ(図示せず)に排出される。
【0045】
さらに、冷却媒体供給装置21では、ポンプ120の作用下に、冷却媒体が冷却媒体循環路78から燃料電池スタック12の冷却媒体入口連通孔41aに導入される。前記冷却媒体は、燃料電池スタック12内の図示しない冷却媒体流路に供給され、各燃料電池20を冷却した後、冷却媒体出口連通孔41bから冷却媒体循環路78に排出される。
【0046】
通常発電中には、掃気装置15は作動させず、空気導入弁55は、閉じた状態に保持される。空気導入弁55は、ノーマルクローズ型(通電されない時に閉じられる)の開閉弁であることが好ましい。
【0047】
次に、燃料電池システム10の運転停止時における制御方法について、図3に示すタイミングチャート及び図4に示すフローチャートに沿って、以下に説明する。
【0048】
図示しない燃料電池自動車に搭載された燃料電池システム10は、上記のように、イグニッションスイッチ(運転スイッチ)がオン状態とされたときに(ステップS1:YES)、上述した通常発電運転(ステップS2:発電制御)を行うことにより、所望の走行が行われている。そして、イグニッションスイッチ(運転スイッチ)がオフ(ステップS3:YES)されると、コントローラ18は、これを停止指令として検出し(時点t1)、燃料電池システム10のステップS4の昇圧処理以降の停止時発電処理を含む運転停止時処理を開始する。
【0049】
先ず、後述するディスチャージ処理(停止時発電処理、低酸素ストイキ発電処理、O2リーン処理、又はO2リーン発電処理ともいう。)後に、燃料電池スタック12内の燃料ガス圧力(アノード圧力Pa)が設定圧力に維持されるように、水素ガス(燃料ガス)の供給圧力が、予め、設定される。
【0050】
具体的には、図5に示すように、水素ガスが充填されて閉じられる水素ガス系容積部200は、燃料電池スタック12内の燃料ガス流路36、燃料ガス入口連通孔40a及び燃料ガス出口連通孔40bと、水素供給流路64のエゼクタ66よりも下流領域と、水素循環路68と、オフガス流路70のパージ弁72よりも上流領域とにより構成される。なお、図5において、煩雑さを避けるために、図1中の冷却媒体供給装置21は、省略している。
【0051】
空気雰囲気を不活性なガスである窒素雰囲気に置換したい空気系容積部202は、燃料電池スタック12内の酸化剤ガス流路34、酸化剤ガス入口連通孔38a及び酸化剤ガス出口連通孔38bと、空気供給流路52と、空気排出流路56と、加湿器54と、希釈ボックス60と、図示しない貯蔵バッファとにより構成される。
【0052】
ディスチャージ処理時には、空気は、酸素ストイキを、通常発電時の酸素ストイキよりも低い低酸素ストイキで供給する。具体的には、低酸素ストイキは、値1前後に設定される。なお、酸素ストイキは、通常発電時には、1.2〜3.0の間に収まることが好ましい。一方、ディスチャージ処理時に、水素ガスは、供給が停止される。
【0053】
このため、空気系容積部202における燃料電池スタック12で窒素雰囲気にしたい残存酸素のモル数nO2(O2は正しくはO2と表記される。)及びエアポンプ50により供給される低酸素ストイキにより窒素雰囲気にしたい加湿器54、希釈ボックス60及び貯蔵バッファの酸素のモル数n´O2と、水素ガス系容積部200における残存水素のモル数nH2(H2は正しくはH2と表記される。)とは、2(nO2+n´O2)=nH2の関係を有する状態に設定される。なお、上述したように、水素H2は水素H2を意味し、酸素O2は酸素O2を意味している。
【0054】
そして、設定された残存水素のモル数nH2から、n(モル数)=P(圧力)×V(体積)/R(気体常数)×T(絶対温度)の式を用いて、水素ガスの供給圧力(アノード圧力)Pa1が算出される(図3参照)。但し、アノード圧力Pa1は、ディスチャージ完了時に、一定圧力Pa2以上に維持されるように設定される。一定圧力Pa2は、水素の不足や過剰が発生しない程度の圧力である。
【0055】
ここで、空気系容積部202の容量>>水素ガス系容積部200の容量の関係を有する場合には、前記水素ガス系容積部200の容量を増加させるために、アノード圧力Pa1まで増圧させる方法、又は不足する水素の供給を行う方法を採用することができる。
【0056】
一方、水素ガス系容積部200の容量>>空気系容積部202の容量の関係を有する場合には、前記水素ガス系容積部200の容量を減少させるために、アノード圧力Pa1まで減圧させる方法が採用される。
【0057】
イグニッションスイッチ(運転スイッチ)がオフにされると(時点t1)、図3に示すように、インタンク電磁弁63及び遮断弁65の開放作用下に燃料電池スタック12に水素ガスが供給され、燃料電池スタック12内の圧力がアノード圧力Pa1まで上昇する(時点t1〜t2:昇圧処理)。このアノード圧力Pa1は、上記の計算式より算出される。
【0058】
ステップS4の昇圧処理が終了すると(時点t2)、インタンク電磁弁63が閉じられ、ステップS5のインタンク電磁弁63の故障検知処理に移行する。この故障検知処理では、アノード圧力Pa=Pa1の変化の有無により故障検知が行われる。変化していない場合には、インタンク電磁弁63が正常とされる。
【0059】
インタンク電磁弁63の故障検知処理が終了すると(時点t3)と、ステップS6において、後述する停止時発電処理(ステップS8)の実施可否が判断される。
【0060】
停止時発電処理の実施の可否は、図6に示す実施可否・中断要否(中断要不要)判断部210中、図7に示す実施可否判断部212により判断される。
【0061】
ステップS6で後述するように、この実施形態では、停止時発電処理中に該停止時発電処理を中断するか否かの判断が、実施可否・中断要否判断部210中、中断要否(中断要不要)判断部214によりなされる。
【0062】
実施可否判断部212と中断要否判断部214は、各種情報を用いて、それぞれ実施可否判断及び中断要否判断を行う。
【0063】
前記の各種情報には、図6に示すように、発電不調情報{燃料電池システム10の通常発電中の発電不調情報、例えば、通常1.2[V]であるセル電圧が0.6[V]以下の値になっている(なっていた)等の履歴情報を含む。}、低温短時間起動履歴情報(燃料電池システム10が氷点下等の所定温度以下の状態で起動され暖機完了前に運転停止されたときであるときの履歴情報)、エア圧センサ故障情報(圧力センサ103の故障情報)、水素圧センサ故障情報(圧力センサ102の故障情報)、水素温度(温度センサ104による現在の水素温度Th)、水素温度センサ故障情報(温度センサ104の故障情報)、エアポンプ故障情報(エアポンプ50の故障情報)、エア圧上昇故障情報(圧力センサ103で閾値圧力以上のエア圧を検出したときに発生する情報)、アノード掃気要求(通常発電時に外気温が氷点下以下の温度であるとき、あるいはソーク時に氷点下以下の温度になる可能性があるとき等に、運転停止時あるいはソーク時に、燃料電池20のアノード側に大風量の圧縮空気を送って液滴を吹き飛ばし、氷結を防止する処理を実施する要求であって、次回の起動を円滑化等する。)、背圧弁掃気要求(背圧制御弁58が氷結する可能性のあるときに発生する要求。なお、背圧弁掃気処理は、エアポンプ50から供給される圧縮空気が加湿器54及び燃料電池スタック12内を通過し、さらに加湿器54により低湿化された比較的高温の乾燥空気が背圧制御弁58に供給されるようにする処理である。)、水素換気要求(車両内のセンタトンネル内等に水素濃度センサが配設されていた場合に、該水素濃度センサが所定以上の水素濃度を検出した場合に発生する要求。水素換気処理は、エアポンプ50及び図示しないラジエータファン等を回転させることで実施される。)、最低セル電圧(通常発電中及びディスチャージ処理中にセル中、電圧が最低になるセルの電圧の情報)、電圧センサ故障情報(電圧センサ108の故障情報)、背圧弁故障情報(背圧制御弁58の故障情報)、冷却媒体温度(温度センサ106による冷却媒体温度Tcの情報)等が含まれる。
【0064】
そして、実施可否・中断要否判断部210は、これらの情報と、予め格納(記憶)してある、図8に示す判断表205を参照して、実施可否乃至中断要否を判断する。
【0065】
判断表205に示すように、水素圧力が閾値圧力以下(停止時発電処理開始時及び停止時発電処理実施中)、セルペア電圧が低下、水素温度Thが閾値温度以下、又は冷却媒体温度Tcが閾値温度以上の場合には、停止時発電処理(ディスチャージ処理)を非実施もしくは中断要と判断し、所定の保護機能を働かせる。
【0066】
また、エア圧センサ(圧力センサ103)故障、水素圧センサ(圧力センサ102)故障、電圧センサ108故障、又は水素温度センサ104故障の場合には、判断に用いるセンサの故障時であると判断し、停止時発電処理を非実施もしくは中断要と判断する。
【0067】
さらに、エアポンプ50故障、エア圧力上昇異常、背圧弁(背圧制御弁58)故障の場合には、停止時発電処理を実施乃至続行できない故障発生時であると判断し、非実施もしくは中断要と判断する。
【0068】
さらにまた、上述した停止時アノード掃気要求、背圧弁凍結対策掃気要求、又は水素換気要求が発生した場合には、停止時発電処理に優先する他の処理要求がある場合と判断し、非実施もしくは中断要と判断する。
【0069】
図6、図7において、モード切替判断部206は、エア圧力(カソード圧力Pk)、1次側電圧Vfc1、水素圧力(アノード圧力Pa)、緊急のO2リーン処理中止要求(停止時発電処理中止要求)、及び実施可否・中断要否判断部210からの実施可否情報(図7中、可/否)、中断要否情報(図7中、続行/中断)に基づき、各種モード切替制御を行う。
【0070】
モード切替判断部206は、具体的には、図9に示すモード切替表208を参照して、モード切替のための終了条件及び中断時の遷移先(モード)を判断する。
【0071】
図9に示すように、停止時発電処理(ディスチャージ処理、DCHG O2リーン処理)中は、終了条件が所定時間の経過又は水素圧(アノード圧力Pa)の低下(図3:Pa=Pa2)とされ、中断時の遷移先が水素圧(アノード圧力Pa)が高い場合には希釈ボックス60を利用したアノード圧抜き工程に遷移し水素圧(アノード圧力Pa)が低い場合には終了とされる。ディスチャージ処理(D/V:ダウンバータ)中は、終了条件が1次側電圧Vfcの低下(十分にディスチャージされた。)、所定時間経過、又は水素圧(アノード圧力Pa)の低下とされ、中断時の遷移先が終了とされる。
【0072】
ステップS6(時点t6)の実施可否判断において、例えば、燃料電池システム10の通常発電中の発電不調が発電不調情報(発電不調履歴情報)に記憶されていたときや、燃料電池システム10が所定温度以下の状態(例えば、氷点下等の低温状態)で起動され燃料電池システム10の暖機完了前に運転が停止されたときの情報が低温短時間起動履歴情報に記憶されていたとき、あるいは燃料電池20のガス圧力を制御する背圧制御弁58が凍結の可能性があるとき、の少なくとも1つの条件が検出された場合には、停止時発電処理を開始しないので(実施しない)ステップ6の判断が否定的になる。
【0073】
ステップS6の判断が実施可である場合、ステップS7(時点t3〜t6)で希釈・カソード掃気処理が行われる。この希釈・カソード掃気処理では、カソード側の水滴を含む液滴等を吹き飛ばすため、及び希釈ボックス60に残留している水素を完全に希釈するための空気による(酸化剤ガス供給装置14による)掃気処理が行われる。この際、高回転数[rpm]に設定されるエアポンプ50を駆動するのに不足する電力は補充される。
【0074】
希釈・カソード掃気処理後には、背圧制御弁58の開度制御が一旦停止されて開放されることで大気に連通し、カソード圧力PkがPk=0[kPag:gはゲージ圧を意味する。]にされる状態が作られる(時点t6〜t7)。さらに、カソード掃気処理終了時点(時点t6)で、酸化剤ガス供給装置14を構成するエアポンプ50は、通常運転時に比べて相当に回転数が減速され、酸化剤ガス中の酸素ストイキを、通常発電時の酸素ストイキよりも低い低酸素ストイキで供給する。具体的には、低酸素ストイキは、1前後に設定される。そして、圧力センサ103の学習処理(0点補正)がなされる。
【0075】
その後、時点t7〜t8において、背圧制御弁58の開度を調整することで、圧力センサ103により検出されるカソード圧力Pkが、低酸素ストイキに対応する所定の低圧力Pk1とされ、さらに、その低圧力Pk1での背圧制御弁58の学習処理がなされる(時点t7〜t8)。以降、エアポンプ50のオフ(時点t9)まで、低圧力Pk1とされる。
【0076】
背圧制御弁58の学習処理(時点t7〜t8)後のステップS8の停止時発電処理、換言すれば、低酸素ストイキ発電処理(O2リーン発電処理、単にO2リーン処理ともいう。時点t8〜t9)では、燃料電池スタック12から取り出される電流(FC電流)は、固体高分子電解質膜22を透過してアノード側からカソード側に燃料ガスである水素ガスが移動することを阻止する値に設定される。その際、図2において、FCコンタクタ86及びバッテリコンタクタ92がオンされており、燃料電池スタック12の発電時に得られる電力は、DC/DCコンバータ90により電圧を降圧させた後、バッテリ17に充電される。なあ、ステップS8の停止時発電処理(低酸素ストイキ発電処理)は、もっとも長くは、時点t6〜t10の間で継続されていると考えることができる。
【0077】
上記のように、燃料電池スタック12では、低酸素ストイキの空気が供給される一方、遮断弁65の閉塞(時点t3)により水素ガスの供給が停止した状態で、発電が行われている。パージ弁72も閉じられている。そして、燃料電池スタック12による発電電力は、バッテリ17に供給されることにより、ディスチャージ{図3中、DCHG(O2リーン処理)}されている。従って、燃料電池スタック12の発電電圧が所定の電圧、すなわち、バッテリ17に供給不能な電圧(バッテリ17の電圧とほぼ同じ電圧)まで低下すると、エアポンプ50にのみ発電電力が供給される。
【0078】
これにより、燃料電池スタック12内では、O2リーン処理(時点t8〜t9)の間にアノード側の水素濃度が低下する一方、カソード側の酸素濃度が低下していく。そこで、例えば、アノード側の水素圧力(アノード圧力Pa)が所定の圧力Pa2以下となった際に、エアポンプ50がオフされるとともに、バッテリコンタクタ92がオフされる(時点t9)。
【0079】
このため、燃料電池スタック12は、内部に残存する水素ガスと空気とにより発電される(時点t9〜t10)。この燃料電池スタック12の発電により発生する電力は、ダウンバータ96を介して降圧された後、12V電源98に充電(図3中、D/V DCHG)されるとともに、必要に応じて図示しないラジエータファン等に電力が供給される。さらに、燃料電池スタック12の発電電圧が、ダウンバータ96の作動限界電圧の近傍まで低下すると、ステップS10(時点t10)において、FCコンタクタ86がオフされる。これにより燃料電池システム10は、運転停止状態、いわゆるソーク状態となる。
【0080】
一方、このステップS8の停止時発電処理が実施されている間、その時点t6〜t10(中断判断期間)の間では、ステップS9において、停止時発電処理を中断すべきか否かの判断が中断要否判断部214によって常時(実際には間欠的に)なされ、中断すべきでなく続行される際には、ステップS8の停止時発電処理にもどる。
【0081】
中断要否判断部214では、具体的に、例えば、停止時発電処理中に、アノード側の圧力(アノード圧力Pa)が閾値圧力以下{ノーマルクローズ状態でバネ圧で閉じられる空気導入弁55やパージ弁72等の電磁弁の弁にかかる負圧(差圧)が、前記バネ圧に抗して弁を誤開弁(誤開放)させない圧力以下}、燃料電池20の電圧(セル電圧)Vcが閾値電圧以下、アノード側の燃料ガスの温度Thが閾値温度以下(閾値温度以下であると氷結する可能性がある。)、及び冷却媒体の温度Tcが閾値温度以上(逆に、冷却不足を要因として燃料電池(セル)20が壊れる可能性がある。)、の少なくとも1つの条件が検出された場合には、停止時発電処理を中断する(ステップS9:YES)。
【0082】
空気導入弁55やパージ弁72の差圧による誤開弁が発生する可能性について、図10を参照してより詳しく説明すると、停止時発電処理(O2リーンDCHG処理)中は、遮断弁65が閉じられて(空気導入弁55及びパージ弁72も閉じられている。)、燃料電池スタック12のアノード側の水素が発電により消費されるので、時点t6以降、アノード圧力Paが低下し、時間の経過とともに負圧となり、さらに負圧が大きくなる。一方、カソード側は、背圧制御弁58及びエアポンプ50の作用下に大気圧より若干大きな圧力による流量で僅かな圧縮空気が供給されている。したがって、負圧が大きくなるとアノード・カソード間の差圧、いわゆる極間差圧が大きくなり、アノード圧力Pa(ここでは負圧)が、空気導入弁55及びパージ弁72の弁体をポート側に押し付けて弁を閉ざしているバネの弾性力より大きくなると、弁体がポートから離れて開いてしまう(誤開弁又は誤開放という。)。誤開弁が発生すると、次回機動性が劣悪になる等の不具合を惹起する。
【0083】
図10のアノード圧力Paの特性154では、時点t6とt7の間に閾値圧力−Pamaxを下回るので誤開弁が発生する。アノード圧力Paの特性152では、時点t10のソーク後に閾値圧力−Pamaxを下回る時点で誤開弁が発生する。なお、停止時発電処理中(時点t6〜t10)の間に、アノード圧力Paは、圧力特性150、152に示すように急激に低下する。その一方、ソーク中(ソーク開始時点t10以降)には、水素が消費されず、特性150、152に示すように、アノード圧力Paは徐々に低下するが、水素量が少なくなったときに(時点tx)、窒素ガスがカソード側からアノード側へ透過する量が大きくなり、アノード圧力Paは、徐々に大きくなる(時点tx〜)。
【0084】
これらの特性150、152、154を予めシミュレーション及び(又は)実験等により記憶しておくことで、停止時発電中断判断時の閾値圧力Pathを定めることができる。特性150が正常なパターン(閾値圧力−Pamaxを下回らない)を有する最小限の特性である。
【0085】
[実施形態のまとめ]
以上説明したように上述した実施形態は、カソード側に供給される酸化剤ガス及びアノード側に供給される燃料ガスの電気化学反応により発電する燃料電池20と、燃料電池20に前記酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給装置14と、燃料電池20に前記燃料ガスを供給する燃料ガス供給装置16と、燃料電池20に冷却媒体を供給する冷却媒体供給装置21と、燃料電池20の運転停止指令を検出した際、前記燃料ガスの供給を停止する一方、前記酸化剤ガスを低酸素ストイキで燃料電池20に供給しながら燃料電池20を発電させる停止時発電処理を実施する燃料電池システム10の制御方法及び装置に関するものである。
【0086】
この制御方法及び装置は、燃料電池システム10の運転停止指令を検出した(時点t1)ときから停止時発電処理中(時点t6〜t10)に、アノード側の圧力Paが閾値圧力Path以下、燃料電池20の電圧が閾値電圧以下、アノード側の燃料ガスの温度Tcが閾値温度以下、及び冷却媒体の温度Tcが閾値温度以上、の少なくとも1つの条件が検出された場合には、停止時発電処理を中断するようにしたので、燃料電池スタック12の破壊や弁の誤開弁、及び燃料電池20が壊れることを防止できる。
【0087】
また、上述した実施形態は、カソード側に供給される酸化剤ガス及びアノード側に供給される燃料ガスの電気化学反応により発電する燃料電池20と、燃料電池20に前記酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給装置14と、燃料電池20に燃料ガスを供給する燃料ガス供給装置16と、燃料電池20の運転停止指令を検出した(時点t1)際、燃料ガスの供給を停止する一方、酸化剤ガスを低酸素ストイキで燃料電池20に供給しながら燃料電池20を発電させる停止時発電処理を実施する燃料電池システム10の制御方法及び装置に関するものである。
【0088】
この制御方法及び装置は、燃料電池システム10の運転停止指令を検出したとき(時点t1)に、燃料電池システム10の通常発電中の発電不調が記憶されていたとき、燃料電池システム10が氷点下等の所定温度以下の状態で起動され燃料電池システム10の暖機完了前であったとき、及び燃料電池20のガス圧力を制御する背圧制御弁58が凍結の可能性があるとき、の少なくとも1つの条件が検出された場合には、前記停止時発電処理を実施しないようにしたので、発電不調状態からさらに悪化することや凍結を防止できる。
【0089】
停止時発電処理を実施しないことで、停止時発電処理を除く、他の不具合対策処理、例えば、乾燥した空気による掃気処理等を実施して不具合を解消できる可能性が得られる点で有用である。
【0090】
また、上述した実施形態によれば、燃料電池20の劣化抑制に有効な停止時発電処理を実施しつつ、次回機動性の確保、燃料電池スタック12の保護、及び水素に係る安全性の確保等を同時に達成することができる。
【0091】
なお、この発明は、上述した実施形態に限らず、この明細書の記載内容に基づき、種々の構成を採りうることができる。
【符号の説明】
【0092】
10…燃料電池システム 12…燃料電池スタック
14…酸化剤ガス供給装置 15…掃気装置
16…燃料ガス供給装置 17…バッテリ
18…コントローラ 19…タイマ
20…燃料電池 21…冷却媒体供給装置
22…固体高分子電解質膜 24…カソード電極
26…アノード電極 28…電解質膜・電極構造体
30、32…セパレータ 34…酸化剤ガス流路
36…燃料ガス流路 38a…酸化剤ガス入口連通孔
38b…酸化剤ガス出口連通孔 40a…燃料ガス入口連通孔
40b…燃料ガス出口連通孔 41a…冷却媒体入口連通孔
41b…冷却媒体出口連通孔 50…エアポンプ
52…空気供給流路 53…空気導入流路
54…加湿器 55…空気導入弁
56…空気排出流路 58…背圧制御弁
60…希釈ボックス 62…水素タンク
63…インタンク電磁弁 64…水素供給流路
65…遮断弁 66…エゼクタ
68…水素循環路 70…オフガス流路
72…パージ弁 74…排出流路
78…冷却媒体循環路 86…FCコンタクタ
90…DC/DCコンバータ 92…バッテリコンタクタ
96…ダウンバータ 98…12V電源
102、103…圧力センサ 104、105、106…温度センサ
108…電圧センサ 110…電流センサ
120…ポンプ 122…ラジエータ
210…実施可否・中断要否判断部 212…実施可否判断部
214…中断要否判断部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カソード側に供給される酸化剤ガス及びアノード側に供給される燃料ガスの電気化学反応により発電する燃料電池と、
前記燃料電池に前記酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給装置と、
前記燃料電池に前記燃料ガスを供給する燃料ガス供給装置と、
前記燃料電池に冷却媒体を供給する冷却媒体供給装置と、
前記燃料電池の運転停止指令を検出した際、前記燃料ガスの供給を停止する一方、前記酸化剤ガスを燃料電池に供給しながら前記燃料電池を発電させる停止時発電処理を実施する燃料電池システムの制御方法において、
前記燃料電池システムの運転停止指令を検出したときから前記停止時発電処理中に、
前記アノード側の圧力が閾値圧力以下、前記燃料電池の電圧が閾値電圧以下、前記アノード側の燃料ガスの温度が閾値温度以下、及び前記冷却媒体の温度が閾値温度以上、の少なくとも1つの条件が検出された場合には、
前記停止時発電処理を中断する
ことを特徴とする燃料電池システムの制御方法。
【請求項2】
カソード側に供給される酸化剤ガス及びアノード側に供給される燃料ガスの電気化学反応により発電する燃料電池と、
前記燃料電池に前記酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給装置と、
前記燃料電池に前記燃料ガスを供給する燃料ガス供給装置と、
前記燃料電池の運転停止指令を検出した際、前記燃料ガスの供給を停止する一方、前記酸化剤ガスを燃料電池に供給しながら前記燃料電池を発電させる停止時発電処理を実施する燃料電池システムの制御方法において、
前記燃料電池システムの運転停止指令を検出したときに、
前記燃料電池システムの通常発電中の発電不調が記憶されていたとき、前記燃料電池システムが所定温度以下の状態で起動され前記燃料電池システムの暖機完了前であったとき、及び前記燃料電池のガス圧力を制御する制御弁が凍結の可能性があるとき、の少なくとも1つの条件が検出された場合には、
前記停止時発電処理を実施しない
ことを特徴とする燃料電池システムの制御方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2012−190679(P2012−190679A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−53894(P2011−53894)
【出願日】平成23年3月11日(2011.3.11)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】