説明

燃料電池システム及び燃料電池システムの制御方法

【課題】燃料電池における発電一時停止時の電気化学反応の触媒の劣化を抑制して、燃料電池の性能の低下を抑制する。
【解決手段】燃料電池システム1は、水素ガスとエアを燃料電池10に供給し、水素ガスとエアを電気化学反応させて発電するものである。燃料電池システム1は、燃料電池10の発電を一時的に停止させているときに、セル電圧を維持するため燃料電池10への水素ガスとエアの供給を行う場合に、水素ガスの供給をエアの供給よりも先に開始する制御装置13を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料ガスと酸化ガスを燃料電池に供給し、燃料ガスと酸化ガスを電気化学反応させて発電する燃料電池システム、及び燃料電池システムの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばいわゆる燃料電池自動車には、燃料電池を有する燃料電池システムが搭載されている。この燃料電池システムは、ガス供給源から燃料ガスと酸化ガスを燃料電池に供給し、燃料電池において燃料ガスと酸化ガスを電気化学反応させて発電し、燃料電池自動車はその電力を動力としている。燃料電池は、セルの積層体を有し、各セルのアノード流路に燃料ガスを供給し、カソード流路に酸化ガスを供給し、それらのガスが電解質を通じて反応することによって発電する。
【0003】
上記燃料電池自動車では、燃費の向上を目的とし、信号待ちなどの停車中に燃料電池へのガスの供給を停止し発電を一時的に停止する運転(間欠運転)が行われている(特許文献1、2参照)。発電を一時的に停止させた場合、燃料電池の各セルのセル電圧が低下する。セル電圧が著しく低下すると、間欠運転から通常運転に迅速に戻すのが困難になるため、各セル電圧が所定の値(待機電圧)以上に維持されるように、間欠運転時においても、燃料電池に燃料ガスと酸化ガスを供給することが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−181809号公報
【特許文献2】特開2007−123020号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のように発電を一時的に停止させると、アノード流路に沿って燃料ガスの濃度分布ができる。具体的にはアノード流路の入口付近及び出口付近に比べて中央付近の濃度が低くなる。この濃度分布の状態において、上述のようにセル電圧の待機電圧を維持するために燃料電池に燃料ガスと酸化ガスの供給が開始された場合、セル電圧は回復するが、アノード流路の水素濃度が低い位置において、電気化学反応のための白金等の触媒の担持カーボンが、セル電圧の高電位に曝されて、不可逆なカーボン酸化反応が生じることがある。この結果、電気化学反応の触媒が劣化し、燃料電池の性能が低下する。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、燃料電池における発電一時停止時の電気化学反応の触媒の劣化を抑制して、燃料電池の性能の低下を抑制することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明は、燃料ガスと酸化ガスを燃料電池に供給し、燃料ガスと酸化ガスを電気化学反応させて発電する燃料電池システムであって、燃料電池の発電を一時的に停止させているときに、燃料電池への燃料ガスと酸化ガスの供給を行う場合に、前記燃料ガスの供給を前記酸化ガスの供給よりも先に開始するガス供給制御装置を有する、燃料電池システムである。
【0008】
本発明によれば、燃料電池の発電を一時的に停止させているときに、燃料ガスの供給を酸化ガスの供給よりも先に開始するので、当該燃料ガスの供給により、先にアノード流路内のガスが攪拌され、当該アノード流路内の燃料ガスの濃度を均一化できる。これにより、セル電圧の回復のために後で酸化ガスを供給しても、触媒担持カーボンの酸化反応が生じなくなり、この結果、電気化学反応の触媒の劣化が抑制され、燃料電池の性能の低下が抑制される。
【0009】
前記ガス供給制御装置による前記燃料ガスと酸化ガスの供給は、燃料電池のセル電圧を所定の値以上に維持する場合に行うようにしてもよい。
【0010】
前記ガス供給制御装置による前記燃料ガスの供給は断続的に行われるようにしてもよい。
【0011】
別の観点による本発明は、燃料ガスと酸化ガスを燃料電池に供給し、燃料ガスと酸化ガスを電気化学反応させて発電する燃料電池システムであって、燃料電池の発電を一時的に停止させているときに、燃料電池のアノード流路の入口圧力とカソード流路の入口圧力を上昇させる場合に、前記アノード流路の入口圧力の上昇を前記カソード流路の入口圧力の上昇よりも先に開始する入口圧力制御装置を有する、燃料電池システムである。
【0012】
前記入口圧力制御装置による前記アノード流路の入口圧力の上昇は、燃料電池のセル電圧を所定の値以上に維持する場合に行うようにしてもよい。
【0013】
別の観点による本発明は、燃料ガスと酸化ガスを燃料電池に供給し、燃料ガスと酸化ガスを電気化学反応させて発電する燃料電池システムの制御方法であって、燃料電池の発電を一時的に停止させているときに、燃料電池への燃料ガスと酸化ガスの供給を行う場合に、前記燃料ガスの供給を前記酸化ガスの供給よりも先に開始する、燃料電池システムの制御方法である。
【0014】
別の観点による本発明は、燃料ガスと酸化ガスを燃料電池に供給し、燃料ガスと酸化ガスを電気化学反応させて発電する燃料電池システムの制御方法であって、燃料電池の発電を一時的に停止させているときに、燃料電池のアノード流路の入口圧力とカソード流路の入口圧力を上昇させる場合に、前記アノード流路の入口圧力の上昇を前記カソード流路の入口圧力の上昇よりも先に開始する、燃料電池システムの制御方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、燃料電池における発電一時停止時の電気化学反応の触媒の劣化を抑制して、燃料電池の性能の低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】燃料電池システムの構成を示す模式図である。
【図2】燃料電池の斜視図である。
【図3】燃料電池の内部構造を示す図である。
【図4】セルの構造を示す断面図である。
【図5】セパレータの平面図である。
【図6】燃料電池システムの制御方法のフローチャートである。
【図7】間欠運転時のセル電圧の変動と、水素ガスポンプ及びエアコンプレッサの稼働タイミングを示すグラフである。
【図8】アノード流路の水素ガス濃度のばらつきを示す説明図である。
【図9】水素ガスを供給する前と後のアノード流路の水素ガス濃度を示す説明図である。
【図10】断続的に水素ガスポンプを稼働させる場合の水素ガスポンプ及びエアコンプレッサの稼働タイミングを示すグラフである。
【図11】間欠運転開始時から水素ガスポンプを稼働させる場合の水素ガスポンプ及びエアコンプレッサの稼働タイミングを示すグラフである。
【図12】間欠運転時のアノード流路とカソード流路の入口圧力タイミングを示すグラフである。
【図13】アノード流路の入口圧力を上昇させる前と後のアノード流路の水素ガス濃度を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。本実施の形態における燃料電池システム1は、例えば自動車に搭載されるものである。
【0018】
燃料電池システム1は、例えば図1に示すように反応ガス(酸化ガス及び燃料ガス)の供給を受けて発電する燃料電池10と、燃料電池10に対し酸化ガスとしてのエアを給排気するエア配管系11と、燃料電池10に対し燃料ガスとしての水素ガスを給排気する水素ガス配管系12と、制御装置13等を有している。
【0019】
エア配管系11は、エアを燃料電池10に供給するエア供給流路30と、燃料電池10を通過したエアを排出するエア排出流路31を有している。エア供給流路30には、大気中のエアを取り込んで圧送するエアコンプレッサ40と、加湿器41等が設けられている。また、エア排出流路31には、加湿器41と、水素希釈器42等が設けられている。このエア配管系11により、コンプレッサ40により加圧されたエアが加湿器41に送られ、加湿器41で加湿されたエアが燃料電池10に供給される。また、燃料電池10を通過したエアは、加湿器41に送られ、その後水素希釈器42に送られ、その後システム外に排出される。
【0020】
水素ガス配管系12は、高圧(例えば70MPa)の水素ガスを貯留した燃料供給源としての水素タンク50と、水素タンク50の水素ガスを燃料電池10に供給するための水素ガス供給流路51と、燃料電池10から排出された水素オフガスを水素ガス供給流路51に戻すための循環流路52等を有している。
【0021】
水素ガス供給流路51には、水素タンク50の水素ガスの圧力を予め設定した二次圧に減圧するレギュレータ60と、燃料電池10側に供給する水素ガスの流量やガス圧を高精度に調整するインジェクタ61等が設けられている。
【0022】
循環流路52には、例えば水素オフガスから水や不純物を除去する気液分離器70と、循環流路52内の水素オフガスを加圧して水素ガス供給流路51側へ圧送する水素ガスポンプ71等が設けられている。例えば気液分離器70には、分離された水や一部の水素オフガスを水素希釈器42に送る排出流路72が接続されている。排出流路72には、気液分離器70からの水や一部の水素オフガスの排出を制御する排出制御弁73が設けられている。
【0023】
次に、燃料電池10について説明する。燃料電池10は、図2及び図3に示すように固体高分子電解質型の単セル80を複数積層してなるセル積層体81を有している。セル積層体81の両端には、それぞれ集電板82a、82bと、絶縁板83a、83bと、エンドプレート84a、84bが配置されている。上下のテンションプレート85は、エンドプレート84a、84bの間に架け渡されてボルト86で固定されている。エンドプレート84bと絶縁板83bとの間には、弾性モジュール87が設けられる。
【0024】
セル積層体81内には、各単セル80を積層方向に貫通する複数のマニホールド90が形成されている。エア用のマニホールド90は、エンドプレート84aの供給口91a、排気口91bを通じて、エア供給流路30及びエア排出流路31に接続されている。また、水素ガス用のマニホールド90は、エンドプレート84aの供給口92a、排気口92bを通じて、水素ガス供給流路51及び循環流路52に接続されている。さらに冷媒用のマニホールド90は、エンドプレート84aの供給口93a、排気口93bを通じて図示しない冷媒供給流路及び冷媒排出流路に接続されている。
【0025】
図4に示すように、単セル80は、MEA100及び一対のセパレータ101A、101Bを備えている。MEA100(膜―電極アッセンブリ)は、イオン交換膜からなる電解質膜102と、電解質膜102を挟んだアノード電極103及びカソード電極104とで構成されている。アノード電極103には、セパレータ101Aの水素ガスが流れるアノード流路105が面し、カソード電極104には、セパレータ101Bのエアが流れるカソード流路106が面している。また、隣り合う単セル80のセパレータ101A、101Bの間には、冷媒流路107が形成されている。また、例えば単セル80には、セル80の発電電圧を検出する電圧計108が設けられている。
【0026】
図5は、セパレータ101Aの平面図である。セパレータ101Aは、方形の板状に形成され、その対角には、マニホールド90の一部を構成する水素ガスの入口110と、出口111が形成されている。セパレータ101Aには、入口110から出口111に通じる溝状のカソード流路105がジグザグ状に形成されている。なお、セパレータ101Bもセパレータ101Aと同様に、マニホールド90の一部を構成するエアの入口と出口を有し、当該入口から出口に通じるカソード流路106がジグザグ状に形成されている。
【0027】
以上の構成から、水素ガス供給流路51を通じて燃料電池10に供給された水素ガスは、マニホールド90を流れ、マニホールド90の各セル80のセパレータ101Aの入口110からアノード流路105に流入しアノード電極103に供給される。アノード流路105を通過した水素オフガスは、出口111からマニホールド90を通じて循環流路52に排出される。一方、エア供給流路30を通じて燃料電池10に供給されたエアは、マニホールド90を流れ、マニホールド90の各セル80のセパレータ101Bの入口からカソード流路106に流入し、カソード電極104に供給される。カソード流路106を通過したエアは、カソード流路106の出口からマニホールド90を通じてエア排出流路31に排出される。アノード電極103に供給された水素ガスとカソード電極104に供給されたエアが電気化学的に反応して発電する。
【0028】
制御装置13は、CPU、ROM、RAM等により構成され、入力される各センサ信号に基づき、当該システムの各部を統合的に制御する。具体的には、制御装置13は、自動車の回転数検知センサやアクセルペダル開度を検出するアクセルペダルセンサ等から送出される各センサ信号に基づいて、燃料電池10の出力要求電力を算出する。そして、制御装置13は、この出力要求電力に対応する出力電力を発生させるように、エア配管系11及び水素ガス配管系12のエアコンプレッサ40や水素ガスポンプ71などを制御し、燃料電池10の出力電圧及び出力電流を制御する。
【0029】
制御装置13は、通常運転モードと間欠運転モードとの切り換えを行う。通常運転モードとは、自動車のトラクションモータ等の負荷装置への電力供給のために燃料電池10が発電を継続的に行う運転モードを意味する。間欠運転モードとは、例えば自動車のアイドリング時、低速走行時、回生制動時等のような低負荷運転時に燃料電池10の発電を一時的に休止し、バッテリから負荷装置への電力供給を行い、燃料電池10には開放端電圧を維持し得る程度の水素ガス及び空気の供給を間欠的に行う運転モードを意味する。間欠運転モードは、本発明における「燃料電池の発電を一時的に停止させているとき」に相当する。
【0030】
また、制御装置13は、間欠運転モードにおいて、電圧計108によりセル80の電圧を測定し、当該測定電圧に基づいて、燃料電池10への水素ガスとエアの供給を行うことができる。制御装置13は、本発明におけるガス供給制御装置として機能する。
【0031】
次に、以上のように構成された燃料電池システム1の制御方法について説明する。本実施の形態では、間欠運転モードにおいて、燃料電池10への水素ガスとエアの供給を行う場合に、水素ガスの供給をエアの供給よりも先に開始する。図6は、かかる燃料電池システム1の制御方法の一例を示すフローチャートである。
【0032】
先ず自動車のアクセルがOFF状態であるなどの所定の条件を満たした場合に通常運転モードから間欠運転モードに移行し、間欠運転が開始される。このとき、燃料電池10に水素ガスを供給するための水素ガスポンプ71と、エアを供給するためのエアコンプレッサ40が停止される。その後、逐次間欠運転が継続されるか否かが確認され、例えばアクセルがON状態になった場合には、間欠運転を停止し、アクセルがOFF状態のままの場合には、間欠運転が継続する。間欠運転を継続すると、例えば図7に示すように燃料電池10のセル80のセル電圧Vcが低下していく。間欠運転時においても、通常運転に迅速に戻せるように、セル電圧Vcを待機電圧V0以上に維持する必要がある。また、間欠運転で発電の停止状態が続くと、図8に示すようにアノード電極103のアノード流路105の中央部分の水素濃度が低下していき、アノード流路105における水素濃度がばらつく。
【0033】
間欠運転が継続し、図7に示すセル電圧Vcが、予め設定された閾値V1(V1<待機電圧V0)よりも低くなると、水素ガスポンプ71が稼働し、燃料電池10への水素ガスの供給が開始される。これにより、図9に示すようにアノード電極103のアノード流路105における水素濃度のばらつきがなくなる。具体的には、アノード流路105の中央付近で低下していた水素ガスの濃度が回復する。一方、セル電圧Vcが閾値V1を上回っている間は、水素ガスの供給が開始されず、図6に示したように間欠運転が継続されるか否かの判断に戻される。なお、セル電圧Vcは、電圧計108により計測されたものが用いられる。
【0034】
水素ガスの供給が開始され、図7に示すようにセル電圧Vcが、予め設定された閾値V2(V2<V1)よりも低くなると、エアコンプレッサ40が稼働し、燃料電池10へのエアの供給が開始される。これにより、セル電圧Vcが回復する。一方、セル電圧Vcが閾値V2を上回っている間は、エアの供給が開始されず、間欠運転が継続されるか否かの判断に戻される。
【0035】
セル電圧Vcが回復し待機電圧V0よりも高くなると、水素ガスポンプ71とエアコンプレッサ40が停止され、水素ガスとエアの供給が停止される。水素ガスとエアの供給が停止されると、間欠運転が継続されるか否かの判断に戻される。また、セル電圧Vcが待機電圧V0よりも高くなっていない場合にも、間欠運転が継続されるか否かの判断に戻される。
【0036】
本実施の形態によれば、間欠運転において、セル電圧Vcを待機電圧V0以上に維持するため燃料電池10に水素ガスとエアを供給する場合において、水素ガスの供給をエアの供給よりも先に開始している。これにより、初めにアノード電極103のアノード流路105内のガスが攪拌され、当該アノード流路105内の水素ガスの濃度を均一化できる。これにより、セル電圧Vcの回復のために後からエアを供給しても、触媒担持カーボンの酸化反応が生じなくなり、この結果、電気化学反応の触媒の劣化が抑制され、燃料電池10の性能低下が抑制される。
【0037】
本実施の形態では、間欠運転時の水素ガスとエアの供給が、燃料電池10のセル電圧Vcを待機電圧V0以上に維持する場合に行われるので、間欠運転から通常運転への切り替えを迅速かつ適切に行うことができる。
【0038】
上記実施の形態において、図10に示すように間欠運転時の水素ガスの供給を断続的に行うようにしてもよい。かかる場合、水素ガスポンプ71のON、OFFを所定のデューティー比で行う。これにより、水素ガスポンプ71の動力損を抑制できる。
【0039】
また、上記実施の形態において、水素ガスの供給を、セル電圧Vcが所定の閾値V1より低下してから開始していたが、間欠運転開始時から行うようにしてもよい。かかる場合、例えば図11に示すように水素ガスポンプ71を所定のデューティー比でON、OFFして水素ガスの供給を行ってもよいし、継続的に水素ガスの供給を行ってもよい。
【0040】
以上の実施の形態では、セル電圧Vcを待機電圧V0以上に維持するため、水素ガスとエアの供給を行っていたが、それに代えて、燃料電池10のアノード電極103側のアノード流路105の入口圧力と、カソード電極104側のカソード流路106の入口圧力を上昇させてもよく、この場合、制御装置13により、アノード流路105の入口圧力の上昇をカソード流路106の入口圧力の上昇より先に開始するようにしてもよい。なお、このとき制御装置13は、本発明における入口圧力制御装置として機能する。
【0041】
例えば、間欠運転時に図12に示すセル電圧Vcが、予め設定された閾値V1’よりも低くなった場合には、アノード電極103側のアノード流路105の入口圧力が上げられる。これにより、図13に示すようにアノード流路105における水素濃度のばらつきが小さくなる。さらにセル電圧Vcが、予め設定された閾値V2’よりも低くなった場合には、カソード電極104のカソード流路106の入口圧力が上げられる。これにより、セル電圧Vcが回復する。セル電圧Vcが待機電圧V0より高くなると、アノード流路105の入口圧力とカソード流路106の入口圧力の上昇が止められる。
【0042】
かかる例においても、間欠運転において、セル電圧Vcを待機電圧V0以上に維持するため燃料電池10のアノード電極103側のアノード流路105の入口圧力と、カソード電極104側のカソード流路106の入口圧力を上昇させる場合において、アノード流路105の入口圧力の上昇をカソード流路106の入口圧力の上昇より先に開始している。これにより、初めにアノード電極103のアノード流路105内の水素ガスの濃度を均一化できる。よって、セル電圧Vcの回復のために後からカソード流路106の入口圧力を上昇させても、触媒担持カーボンの酸化反応が生じなくなり、この結果、電気化学反応の触媒の劣化が抑制され、燃料電池10の性能低下が抑制される。
【0043】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0044】
例えば、本発明にかかる燃料電池システムは、車両、船舶、飛行機、ロボットなどの各種移動体に搭載できるほか、定置型電源にも適用できる。また、燃料電池で用いられる燃料ガス及び酸化ガスは、水素ガスやエアに限られず他のガスであってもよい。また、以上の実施の形態では、間欠運転時の水素ガスとエアの供給は、燃料電池10のセル電圧Vcを待機電圧V0以上に維持する場合に行われているが、それ以外で水素ガスとエアの供給を行う場合にも本発明は適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、燃料電池における発電一時停止時の電気化学反応の触媒の劣化を抑制して、燃料電池の性能の低下を抑制する際に有用である。
【符号の説明】
【0046】
1 燃料電池システム
10 燃料電池
13 制御装置
40 エアコンプレッサ
71 水素ガスポンプ
80 セル
103 アノード電極
104 カソード電極
105 アノード流路
106 カソード流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料ガスと酸化ガスを燃料電池に供給し、燃料ガスと酸化ガスを電気化学反応させて発電する燃料電池システムであって、
燃料電池の発電を一時的に停止させているときに、燃料電池への燃料ガスと酸化ガスの供給を行う場合に、前記燃料ガスの供給を前記酸化ガスの供給よりも先に開始するガス供給制御装置を有する、燃料電池システム。
【請求項2】
前記ガス供給制御装置による前記燃料ガスと酸化ガスの供給は、燃料電池のセル電圧を所定の値以上に維持する場合に行う、請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記ガス供給制御装置による前記燃料ガスの供給は断続的に行われる、請求項1又は2に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
燃料ガスと酸化ガスを燃料電池に供給し、燃料ガスと酸化ガスを電気化学反応させて発電する燃料電池システムであって、
燃料電池の発電を一時的に停止させているときに、燃料電池のアノード流路の入口圧力とカソード流路の入口圧力を上昇させる場合に、前記アノード流路の入口圧力の上昇を前記カソード流路の入口圧力の上昇よりも先に開始する入口圧力制御装置を有する、燃料電池システム。
【請求項5】
前記入口圧力制御装置による前記アノード流路の入口圧力の上昇は、燃料電池のセル電圧を所定の値以上に維持する場合に行う、請求項4に記載の燃料電池システム。
【請求項6】
燃料ガスと酸化ガスを燃料電池に供給し、燃料ガスと酸化ガスを電気化学反応させて発電する燃料電池システムの制御方法であって、
燃料電池の発電を一時的に停止させているときに、燃料電池への燃料ガスと酸化ガスの供給を行う場合に、前記燃料ガスの供給を前記酸化ガスの供給よりも先に開始する、燃料電池システムの制御方法。
【請求項7】
燃料ガスと酸化ガスを燃料電池に供給し、燃料ガスと酸化ガスを電気化学反応させて発電する燃料電池システムの制御方法であって、
燃料電池の発電を一時的に停止させているときに、燃料電池のアノード流路の入口圧力とカソード流路の入口圧力を上昇させる場合に、前記アノード流路の入口圧力の上昇を前記カソード流路の入口圧力の上昇よりも先に開始する、燃料電池システムの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−109947(P2013−109947A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−253982(P2011−253982)
【出願日】平成23年11月21日(2011.11.21)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】