説明

燃料電池システム及び燃料電池

【課題】燃料電池のアノードから外部へ流出する燃料の量を適正な範囲に制御可能で、小型化が実現可能な燃料電池システムを提供する。
【解決手段】膜電極複合体と、アノード流路板20と、通気路41と、通気路41と連通する排出路42とを備える燃料電池10aと、燃料電池10aの発電状態を測定する測定装置50と、燃料電池10aに燃料を供給する燃料供給部60と、測定装置50の測定結果に基づいて、排出路42から流れ出す燃料の流出量を解析し、解析結果に基づいて、流出量が所定値になるように燃料の供給量を制御する制御装置100とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタノールを用いた直接型燃料電池に好適な燃料電池システム及び燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
アルコール等の液体燃料を直接発電部に供給する直接型燃料電池は、気化器や改質器等の補器が不要なため、携帯機器の小型電源等への利用が期待されている。このような直接型燃料電池としては、アルコール水溶液を発電部に直接供給してプロトンを取り出すと共に、発電部から排出された水等の排出物を発電部の上流側に配置された混合タンク等に循環させて再利用する循環型燃料電池システムが知られている。
【0003】
直接メタノール供給型燃料電池(DMFC)においては、アノード、カソード及び膜電極複合体(MEA)を備える発電セルを積層したセルスタック(発電部)において、発電が行われている。アノードには、送液ポンプ等を介して水及びメタノールの混合溶液が送られ、下記(1)式に示す反応が生じ、二酸化炭素が発生する。一方、カソードには送気ポンプ等を介して空気が送られ、下記(2)式に示す反応が生じ、水が発生する。
【0004】

CH3OH + H2O → CO2 + 6H+ + 6e- ・・・(1)
3/2O2 + 6H ++ 6e-→ 3H2O ・・・(2)

アノードで発生した二酸化炭素と水及び未反応のメタノールとを含む混合流体は、気液二相流となってアノードから排出される。アノードから排出された気液二相流は、アノードの出口側の流路に設けられた気液分離器により、気体と液体に分離される。分離後の液体は回収流路を介して混合タンク等へ循環させる。分離後の気体は大気に放出させる。
【0005】
ところが、上述の循環型燃料電池システムでは、アノードの出口側の流路に気液分離器や循環機構を設ける必要があるため、小型化が困難である。そこで、気液分離機構を発電セルの内部に設けることにより、装置の小型化を実現可能とする種々の提案がなされてきている。
【0006】
例えば、特許文献1は、発電セルの内部に、燃料ガス拡散層と連続する生成ガス拡散層及びガス分離膜等を設け、アノードで発生する気体をガス分離膜を介して外部へ排出させる機構を開示している。
【0007】
しかしながら、特許文献1の方法では、発電セル内にガス分離膜及び生成ガス拡散層を配置しているため、圧力損失が大きくなる。また、部品点数も多くなるため、装置が複雑化し、装置の組立作業も煩雑になる。
【0008】
一方、アノードにメタノール等の高濃度燃料を供給すると、アノード反応で生成したCO2に燃料蒸気が同伴し、燃料蒸気がCO2とともに流出し、燃料利用効率が低下するという事項が、問題になる。また、高濃度メタノールが直接アノード触媒層に接すると、アノード触媒層や電解質膜が、メタノールによりダメージを受けるという問題点もある。
【0009】
しかしながら、特許文献1では、燃料の漏洩抑制手段として、ガス分離膜を用いる事項しか開示していないため、分離膜の設置により圧力損失が大きくなる。一方、特許文献1においてガス分離膜を省略すると、排出ガスと同伴する燃料ガスの発電セル外部への漏洩を抑制できない。更には、運転状況によっては、発電セルに燃料が過剰に供給されることにより、排出ガスに同伴する燃料の量も増加する場合が考えられるが、特許文献1は、排出ガスに同伴する燃料の量そのものを減らす対策は講じていない。
【特許文献1】特開2006−134808号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、アノードから外部へ流出する燃料の量を適正な範囲に制御可能で、小型化が実現可能な燃料電池システム及び燃料電池を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明の態様によれば、電解質膜、電解質膜を挟んで互いに対向するアノード触媒層及びカソード触媒層、及びアノード触媒層上に配置されたアノードガス拡散層を含む膜電極複合体と、アノードガス拡散層上に配置されたアノード流路板と、アノードガス拡散層の周縁部に沿って設けられた通気路と、アノード流路板の端部に設けられ、通気路と連通し、アノード触媒層における反応で発生するガスを排出する排出路と、を含む燃料電池と、燃料電池の発電状態を測定する測定装置と、燃料電池に燃料を供給する燃料供給部と、測定装置の測定結果に基づいて、排出路から燃料電池の外部へ流れ出す燃料の流出量を解析し、解析結果に基づいて流出量が所定値になるように燃料の供給量を制御する制御装置とを備える燃料電池システムが提供される。
【0012】
本願発明の他の態様によれば、電解質膜、電解質膜を挟んで互いに対向するアノード触媒層及びカソード触媒層、及びアノード触媒層上に配置されたアノードガス拡散層を含む膜電極複合体と、アノードガス拡散層上に配置され、燃料をアノードガス拡散層の中心領域からアノード触媒層へ供給するアノード流路板と、アノードガス拡散層の周縁部に沿って設けられた通気路と、アノード流路板の端部に設けられ、通気路と連通し、アノード触媒層で発生するガスを排出する排出路とを備える燃料電池が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、アノードから外部へ流出する燃料の量を適正な範囲に制御可能で、小型化が実現可能な燃料電池システム及び燃料電池が提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。以下の図面の記載においては、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。以下に示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の技術的思想は、構成部品の構造、配置等を下記のものに特定するものではない。
【0015】
(第1の実施の形態)
図1に示すように、第1の実施の形態に係る燃料電池システムは、燃料電池(発電部)10aと、燃料電池10aの発電状態を測定する測定装置50と、燃料電池10aに高濃度燃料を供給する燃料供給部60と、燃料電池システムの一連の動作を制御する制御装置100とを備える。燃料電池10aは、膜電極複合体(MEA)8、MEA8を挟んで互いに対向するアノード流路板20及びカソード流路板30を備える。
【0016】
MEA8は、プロトン導電性の固体高分子膜等からなる電解質膜3、電解質膜3の表面に触媒を塗布して配置されたアノード触媒層1及びカソード触媒層2、アノード触媒層1及びカソード触媒層2の外側表面にそれぞれ配置されたアノードガス拡散層4及びカソードガス拡散層5を備える。アノード触媒層1及びアノードガス拡散層4の周囲は、シール部9aによってシールされている。カソード触媒層2及びカソードガス拡散層5の周囲は、シール部9bによってシールされている。
【0017】
電解質膜3としては、テトラフルオロエチレンとペルフルオロビニルエーテルスルフォン酸とのコポリマーであって、例えば、商品名ナフィオン(米国デュポン社)が利用可能である。アノード触媒層1としては白金ルテニウムを、カソード触媒層2としては白金等を利用することができる。アノードガス拡散層4、カソードガス拡散層5としては、多孔質のカーボンペーパー等が用いられる。
【0018】
アノード触媒層1とアノードガス拡散層4との間には、撥水処理した、サブミクロンの孔径からなる数十ミクロン厚みのカーボン製のアノードマイクロポーラス層が配置されていてもよい。カソード触媒層2とカソードガス拡散層5との間には、サブミクロンの孔径からなる数十ミクロン厚みのカーボン製のカソードマイクロポーラス層が配置されていてもよい。シール部9a、9bとしては、シリコンゴム等の種々の材料を用いることができる。
【0019】
アノード流路板20は、1本若しくは複数の流路で上流側から下流側に向かって蛇行させて流すサーペンタイン流路状又は並行流路状の燃料流路21と、燃料流路21からアノードガス拡散層4側へ分岐し、燃料流路21を流れる燃料をアノードガス拡散層4へ送給する送給口22を備える。燃料流路21と送給口22との間には、気化膜23が配置されている。
【0020】
気化膜23としては、液体を透過させずに気体のみを選択的に透過させるタイプの膜が好適である。気化膜23としては、例えば、撥油処理を施した多孔体樹脂膜等が好適である。アノード流路板20の内部に気化膜23を設置することにより、液体燃料をアノード流路板20の内部で気化できるため、装置の小型化が図れる。また、気体状態の燃料をアノード11へ送給することにより、液体燃料をアノード11へ送給する場合に比べて、CO2等の生成ガスをアノード11内で物質移動させることが容易になる。気体状態の燃料は、発電により発生するCO2等の生成ガスと容易に混合するため、高濃度燃料を供給する場合でも、アノード触媒層1における燃料濃度を低下させる事が可能になる。
【0021】
送給口22とアノードガス拡散層4との間には、空隙部24が配置されている。空隙部24により、送給口22を介して供給された燃料が、アノード触媒層1での反応で生じたCO2等の生成ガスで薄められるため、アノード触媒層1に到達する燃料の濃度を適切な範囲に調節することが可能である。
【0022】
アノード触媒層1及びアノードガス拡散層4の周縁部とシール部9aとの間には、周縁部に沿うように通気路41が配置されている。通気路41は、アノード流路板20の端部に配置された排出路42と直接接続されている。通気路41及び排出路42は、アノード触媒層1におけるアノード反応で生成されたCO2等の生成ガスを、燃料電池10aの外部へ排出させるための排出部40として機能する。
【0023】
排出部40を燃料電池10a内に設けることで、アノード反応で生成した生成ガスを燃料電池10aから直接、外部に排出させることができるため、気液分離機構を外部に配置する従来の循環型燃料電池システムに比べて、装置の小型化が図れる。また、通気路41及び排出路42の間には、分離膜や拡散層等の圧力損失を増大させる部材を配置していないため、装置の簡略化が図れると共に、分離膜を配置することで生じる圧力損失をなくすことができる。
【0024】
カソード流路板30には、カソード触媒層2に空気(酸素)等の酸化剤を供給するための孔31が開いている。
【0025】
燃料供給部60は、制御装置100から出力される制御信号に基づいて、燃料を燃料流路21へ供給する。燃料供給部60としては、燃料を貯蔵する容器、燃料の濃度を調節する燃料タンク、燃料を供給する燃料ポンプ、供給流量を調節するためのバルブ等を含む。圧力、温度、濃度等の燃料の物理状態を調節するための調整機構、センサ等も、燃料供給部60として含んでもよい。
【0026】
測定装置50としては、燃料電池10aに搭載された集電板(図示省略)に接続した電流計、電圧計が好適である。また、カソード流路板30の中央領域には、燃料電池10aの温度を測定するための温度測定部51が設けられている。測定装置50、温度測定部51を配置することにより、測定装置50、温度測定部51の測定値を用いて、燃料電池10aの発電量、電流密度、燃料利用効率等を常時解析できるため、燃料電池10a内で起こる反応をリアルタイムで確認でき、より好適な条件に制御できる。測定装置50としては、電流計、電圧計に限られず、例えば、燃料電池の物理的状態を検知するための各種センサなどであってもよい。
【0027】
制御装置100は、条件設定部101、入出力部102、解析部103、判定部104、調整部105を備えている。
【0028】
条件設定部101は、燃料電池10aの装置条件、運転条件等の他に、燃料電池10aの排出部40から流れ出す燃料流出量(流量)や燃料電池10a内のアノードの燃料濃度を解析するための解析式、クロスオーバー評価情報、解析した値が所定の範囲内にあるか否かを判定する基準となる設定値等を設定し、記憶装置110に記憶させる。装置条件としては、例えば、気化膜の種類、気化膜の面積、気化温度や、発電領域の面積(アノード触媒層1、カソード触媒層2)等が設定される。運転条件としては、圧力、温度、燃料流量等が設定される。クロスオーバー評価情報としては、燃料の種類、MEA8の構成、アノード触媒層1における燃料濃度、温度、電流密度等の種々の運転条件に応じて変化する燃料のクロスオーバー量(流量)を評価したテーブル又は式等が用いられる。解析式としては、例えば、以下の手順で導き出される解析式が用いられる。
【0029】
例えば、図2に示すように、燃料流路21に供給する燃料の体積流量をfMeOHとし、(1)式のアノード反応により発生するCO2の体積流量をfCO2とする。なお、以下においては、燃料としてメタノールを利用する場合について説明する(図2においてシール部9a、9bの図示は省略している)。
【0030】
メタノールが気体で供給される場合、アノード11のガスの混合が気体の拡散により十分早いと仮定し、アノード11でメタノールの体積分率がxmixになっていると仮定する。アノード11から排出される気体の流量をfmixとする。CO2発生流量(体積流量fCO2)は、発電電流Iと、気体の状態方程式(PV=nRT)の関係から、n=I/6Fとなるので、(3)式の関係が導かれる。
【0031】

CO2=IRT/6FP ・・・(3)

(3)式において、Fはファラデー定数、Rは気体定数、Tは絶対温度、Pは圧力である。本実施形態の場合の圧力は、ほぼ大気圧と等しいとしてよい。
【0032】
発電で消費されるメタノールの流量は、(1)式より、発生するCO2の流量と同じである。ここで、アノードからカソードへクロスオーバーするメタノールの流量を、fxoverとする。fxoverは、MEA8の構成、アノード触媒層1におけるメタノール濃度、温度、電流密度等により変化するため、予め、運転条件におけるfxoverを評価し、テーブルもしくは式として求めておく。評価されたテーブルもしくは式は、クロスオーバー評価情報として記憶装置110へ格納しておく。
【0033】
アノードへ供給するメタノールの流量のストイキをξとすると、発電量はfCO2と等しいため、

MeOH=ξfCO2 ・・・(4)

とおくことができる。「ストイキξ」とは、発電に用いられるメタノールの量の何倍のメタノールを供給するかという値であり、制御装置100により設定できる。ここでfxoverが発電に使われるメタノールのβ倍だとすると、

xover=βfCO2 ・・・(5)

とおくことができる。その結果、発電とクロスオーバーでアノードからなくなるメタノールの量は、(1+β)fCO2となる。発電に必要な水は、(2)式のカソード反応で生成した水がアノードへ透過するものとする。気体の体積流量バランスより、(6)式が得られる。
【0034】

MeOH+fCO2=fmix+(1+β)fCO2 ・・・(6)

また、メタノール量のバランスより(7)式が得られる。
【0035】

MeOH=xmixmix+(1+β)fCO2 ・・・(7)

(6)、(7)式よりfmixを消去すると、メタノールの体積分率xmixとして次式が得られる。
【0036】

mix={(fMeOH-(1-β)fCO2)}/(fMeOH-βfCO2)=(ξ-1-β)/(ξ-β) ・・・(8)

アノード11から流出するメタノールの流出量xmixmixは、(1)〜(8)式から、

mixmix=(ξ-1-β)fCO2={(ξ-1-β)IRT}/6FP ・・・(9)

となる。
【0037】
発電とクロスオーバーで使われるメタノール流量以上に供給したメタノールは、アノードから流出するが、(8)式より、アノードにおけるメタノールの体積分率xmixは、供給するメタノールのストイキξと、クロスオーバーするメタノールの量で決定されることが分かる。また(9)式より、メタノールの流出量xmixmixは、供給するメタノールのストイキξと、クロスオーバーするメタノールの量と、燃料電池10aの運転条件で決定されることが分かる。
【0038】
第1の実施の形態に係る燃料電池システムにおいては、燃料電池10a内において良好な発電特性が得られる燃料濃度(例えば液相濃度換算値で0.5M以上)を保つようにし、かつ、排出路41から排出される燃料の流出量xmixmixがなるべく小さくなるように、上記解析式(8)、(9)式を利用してメタノールの流出量及び燃料電池10a内の濃度(例えば本実施形態では液相濃度換算値)を解析し、メタノール供給量を適切な範囲に制御することが望ましい。
【0039】
図3にストイキξに対するアノードでのメタノール体積分率xmixを示す。なお、βの値は、燃料電池10aの運転条件に応じて予め所定の値をとるが、ここでは、β=0.25の場合を例に説明する。参考に、メタノール体積分率xmixに相当する気体のメタノール濃度C、気体のメタノール濃度と気液平衡になる液体のメタノール濃度Cも示してある。なお、気体のメタノール濃度Cは気体の状態方程式(PV=nRT)に、メタノール分圧としてPxmixを代入することにより得られる。液体のメタノール濃度(液相濃度換算値)Clは気体のメタノール濃度からヘンリーの法則を用いて換算することにより都度求めることもできるし、予め求めておいた値をデータテーブルとして記憶装置110に格納しておいてもよい。
【0040】
図3より、100%メタノール蒸気を供給する場合でも、発電により発生するCO2によりメタノールは希釈され、β=0.25の場合、例えばストイキ1.35で液体濃度2M程度になっていることが分かる。
【0041】
図1の入出力部102は、測定装置50、温度測定部51の測定値を受け取るとともに、燃料供給部60へ燃料供給流量及び供給濃度に関する制御信号を出力する。解析部103は、測定値に基づいて、燃料電池10aの発電量、電流密度、燃料利用効率等を解析可能であるとともに、図4(a)に示すように、燃料電池10aから流出する燃料の流出量を上記(9)式に基づいて解析する流出量解析部1031と、燃料電池10a内におけるアノード11の燃料濃度(例えば液相濃度換算値)を上記(8)式から気体の状態方程式を用いて解析する濃度解析部1032を備える。
【0042】
判定部104は、図4(b)に示すように、流出量解析部1031が解析した解析結果と設定値を比較し、排出部40から流出する燃料の流出量が所定の範囲内の値に制御されているかを判定する流量判定部1041と、濃度解析部1032が解析した解析結果(液相濃度換算値)と設定値とを比較し、解析した濃度が所定の範囲内の値であるか否かを判定する濃度判定部1042とを備える。
【0043】
図1の調整部105は、判定部104の判定結果に基づいて、燃料の流出量或いは液相濃度換算値が所定の範囲から外れている場合には、燃料供給部60による燃料の供給状態(流量及び濃度)及び燃料電池10aの運転条件の少なくともいずれかを調節する。記憶装置110は、運転条件、設定値、解析式などの制御装置100の動作に必要な情報を記憶する。
【0044】
次に、図5に示すフローチャートを用いて、図1に示す燃料電池システムの制御方法の一例を説明する。
【0045】
まず、ステップS1において、条件設定部101が、燃料電池10aの装置条件、運転条件、燃料電池10aの排出部40から流れ出す燃料の流出量を解析するための例えば(8)、(9)式に示すような解析式、設定値、クロスオーバー評価情報等を設定し、記憶装置110に記憶させる。
【0046】
ステップS3において、出入力部102が、測定装置50、温度測定部51の測定値を受け取る。ステップS5において、流出量解析部1031が、出入力部102が受け取った測定値、記憶装置110に記憶されたクロスオーバー評価情報及び燃料電池10aの運転条件及び(9)式に示す解析式を用いて、燃料電池10aの発電状態、即ち、発電量、ストイキξ、クロスオーバー量β、アノード11から排出される燃料の流出量xmixmixを計算する。濃度解析部1032は、出入力部102が受け取った測定値、記憶装置110に記憶されたクロスオーバー評価情報及び運転条件、及び(8)式に示す解析式を用いて燃料電池10a内における燃料の液相濃度換算値を解析する。
【0047】
ステップS7において、流出量判定部1041が、燃料の流出量xmixmixが、規定値を上回るか否かを判定する。燃料の流出量xmixmixが既定値を下回る場合はステップS8へ進む。燃料の流出量xmixmixが、規定値を上回る場合には、ステップS9に進み、調整部105が、燃料供給部60による燃料の供給流量を調整する、或いは、調整部105が、燃料電池10aの運転条件をより好適な条件に調整する。ここで、規定値としては、例えば米国産業衛生専門会議(ACGIH)の許容限界値に所定の安全率を乗じた値を用いることができる。制御方式としては、運転条件を固定した状態でストイキξの値を変化させるように燃料供給量を制御するのが好ましいが、燃料供給量を一定とし、電流値や、セル温度を適切な値になるように制御してもよい。ステップS9の処理が終了したら、ステップS3へ進み、再び検出部102により、測定装置50の測定値を検出する。
【0048】
ステップS8において、濃度判定部1042が、濃度解析部1032が解析した液相濃度換算値が適正な濃度範囲内にあるか否かを判定する。例えば、本実施形態では、液相濃度換算値の上限を3Mと設定することができる。燃料流量の下限値は、例えば液相濃度換算で0.5M以上になるように設定することができる。燃料濃度換算値が所定の範囲内にない場合はステップS9へ進み、所定の範囲内にある場合は、処理を終了する。なお、燃料利用効率を向上させるためには、良好な発電特性が得られる範囲で、燃料供給流量fMeOHを低下させるほうが好ましい。
【0049】
第1の実施の形態に係る燃料電池システムによれば、アノード反応により生成されるCO2等の生成ガスをアノード触媒層1及びアノードガス拡散層4の周縁部に設けた通気路41から直接外部へ排出させることができるため、アノード11の構造がシンプルになり、装置の小型化が図れる。また、通気路41と排出路42との間にCO2分離膜等を備えていないため、部品点数も少なくてすみ、分離膜を配置する場合に比べて圧力損失も小さくてすむ。また、通気路41を周縁部に設けることにより、供給した燃料はMEA近傍を通過した後排出されることになるため、他の部分に通気路を設ける場合に比べ、アノード触媒層1で生成した生成ガスに同伴され無駄に流出する燃料の割合を少なくすることができる。
【0050】
更に、制御装置100が、測定装置50の測定結果に基づいて、アノード11から外部へ流出する燃料流出量及び燃料電池10a内でのアノード11の燃料濃度を解析し、燃料流出量が少なくなるように、且つアノード11での燃料濃度が発電に好適な条件になるように、燃料供給部60の燃料の供給を制御するため、アノード11から外部へ流出する燃料の量を適正な範囲に制御可能であるとともに、燃料利用効率の向上を図ることができ、高効率発電が可能となる。
【0051】
なお、図示はしていないが、例えば制御装置100に警告モジュール等を組み込むことにより、アノード11から流れ出る燃料の流出量が多量で図1に示す燃料電池システムでも制御が困難な場合に、使用者に警告を促すようにしてもよい。これにより、メタノール等の可燃性燃料の外部への多量の流出を抑制できる。また、排出路42の下流側に、未反応の燃料を処理する機構を設けてもよい。本実施形態では気化膜23により液体燃料を気化させているが、気化膜23を設けず、燃料供給部で気化させ、燃料を気体の状態で燃料流路21に供給してもよい。
【0052】
(第2の実施の形態)
図6に示すように、第2の実施の形態に係る燃料電池システムは、燃料電池(発電部)10bを備える点が、図1に示す燃料電池システムと異なる。他は、実質的に図1に示す燃料電池システムと同様であるので、重複した説明を省略する。
【0053】
燃料電池10bは、膜電極複合体(MEA)8、MEA8を挟んで互いに対向するアノード流路板200及びカソード流路板300を備える。
【0054】
MEA8は、電解質膜3、電解質膜3の表面に触媒を塗布して配置されたアノード触媒層1及びカソード触媒層2、アノード触媒層1、カソード触媒層2の外側表面にそれぞれ配置されたアノードガス拡散層4及びカソードガス拡散層5、及びカソードガス拡散層5上に配置された多孔質膜32を備える。アノード触媒層1とアノードガス拡散層4との間には、マイクロポーラス層6が配置されている。カソード触媒層2とカソードガス拡散層5との間には、マイクロポーラス層6が配置されている。
【0055】
アノード触媒層1、マイクロポーラス層6及びアノードガス拡散層4の周囲は、シール部9aによってシールされている。カソード触媒層2、マイクロポーラス層7及びカソードガス拡散層5の周囲は、シール部9bによってシールされている。多孔質膜32の周囲は、シール部9cによってシールされている。
【0056】
アノード流路板200は、1本若しくは複数の流路で上流側から下流側に向かって蛇行させて流すサーペンタイン流路状又は並行流路状の燃料流路210と、燃料流路210から分岐し、燃料流路210を流れる燃料をアノードガス拡散層4へ送給する送給口240を備える。送給口240は、アノードガス拡散層4の中心領域と対向するように配置されている。図6に示すように、燃料は、送給口240と対向するアノードガス拡散層2の中心領域140(図7の点線部分)を通過してアノード触媒層1へと到達する。燃料流路210と送給口240との間には、気化膜230が配置されている。
【0057】
アノード触媒層1でのアノード反応により生じたCO2等の生成ガスは、アノードガス拡散層4を通って通気口410へ排出され、図示しない排出口から燃料電池10bの外部へ排気される。この際、生成ガスと同伴する燃料は、アノード触媒層1の近傍を通過する際にアノード反応に用いられるため、通気路410に近づくに従って、徐々に濃度が低くなっていく。なお、図6に示す燃料電池10bは、図7に示すように、供給した燃料が発電で消費され、濃度が低下した状態で排出されるようにアノード11の幅が長さLに設計されている。
【0058】
第2の実施の形態に係る燃料電池10bによれば、気体状の燃料をアノードガス拡散層4の中心領域140から供給し、アノードガス拡散層4の領域から生成ガスをアノードガス拡散層4の周縁部側へ排出させることにより、生成ガスに同伴されるメタノールを低減できる。また、制御装置100によって燃料供給部60が供給する燃料の流量を制御することにより、通気口410に流出させる燃料の流出量そのものも減らすことができるため、燃料をより有効に利用でき、発電効率を向上させることができる。
【0059】
なお、図6に示す燃料電池10bにおいても、メタノールの供給量をfMeOH=ξfCO2 とすると、発電とクロスオーバーで使われるメタノール量は(1+β)fCO2となり、流出するメタノール流量は(ξ-1-β)fCO2となる。発生するCO2の流量を加えると、アノード11の周縁部から流出するガスの流量は(ξ-β)fCO2となるため、メタノールの体積分率は、式(8)と同様になり、第1の実施の形態と同様の解析式を用いることができる。
【0060】
(その他の実施の形態)
本発明は上記の実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が可能である。
【0061】
例えば、第1及び第2の実施の形態に係る燃料電池システムにおいては、クロスオーバー評価情報が予め記憶装置110に格納される例を紹介した。しかしながら、図1又は図6に示す制御装置100により、測定装置50が測定した電流値に基づいて、燃料電池10a、10bの発電量及び燃料のクロスオーバー量を逐次解析してクロスオーバー評価情報を計算する。その計算結果をもとに、解析部103が、発電に必要な燃料量とクロスオーバーで消費される燃料量を推定する。そして、燃料供給部50が、推定量とほぼ同等の流量の燃料をアノード流路板20へ供給させるような制御モジュールを更に制御装置100に組み込んでも構わない。燃料が燃料電池10a、10bの内部で完全に利用されるような状況であれば、通気路41、410を通って排出される燃料の流出量もほぼゼロに抑えられるため、燃料電池10a、10bからの燃料の流出を抑制できる。
【0062】
また、図6においても、燃料は、燃料電池10a、10bに導入する前に、気化器を用いて予め気化させてから導入させても構わない。その際、気化膜23、230が省略できることは勿論である。
【0063】
このように、本発明は、この開示から妥当な特許請求の範囲の発明特定事項によって表されるものであり、実施段階においては、その要旨を逸脱しない範囲で変形して具体化できる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る燃料電池システムの一例を示す概略図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る燃料電池システムの燃料の流れを示す説明図である。
【図3】β=0.25の場合のストイキξに対するメタノール体積分率xmixを示すグラフである。
【図4】図1の制御装置の詳細例を示すブロック図である。
【図5】本発明の第1の実施の形態に係る燃料電池システムの制御方法の一例を示すフローチャートである。
【図6】本発明の第2の実施の形態に係る燃料電池システムの一例を示す断面図である。
【図7】本発明の第2の実施の形態に係る燃料電池システムの一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0065】
1…アノード触媒層
2…カソード触媒層
3…電解質膜
4…アノードガス拡散層
5…カソードガス拡散層
6、7…マイクロポーラス層
8…膜電極複合体
9a、9b、9c…シール部
10a、10b…燃料電池
11…アノード
12…カソード
20…アノード流路板
21…燃料流路
22…送給口
23…気化膜
24…空隙部
30…カソード流路板
31…孔
32…多孔質膜
40…排出部
41…通気路
42…排出路
50…測定装置
60…燃料供給部
100…制御装置
101…条件設定部
102…検出部
103…解析部
104…判定部
105…調整部
110…記憶装置
200…アノード流路板
210…燃料流路
240…送給口
300…カソード流路板
410…通気路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜、前記電解質膜を挟んで互いに対向するアノード触媒層及びカソード触媒層、及び前記アノード触媒層上に配置されたアノードガス拡散層を含む膜電極複合体と、
前記アノードガス拡散層上に配置されたアノード流路板と、
前記アノードガス拡散層の周縁部に沿って設けられた通気路と、
前記アノード流路板の端部に設けられ、前記通気路と連通し、前記アノード触媒層における反応で発生するガスを排出する排出路と、
を含む燃料電池と、
前記燃料電池の発電状態を測定する測定装置と、
前記燃料電池に燃料を供給する燃料供給部と、
前記測定装置の測定結果に基づいて、前記排出路から前記燃料電池の外部へ流れ出す前記燃料の流出量を解析し、解析結果に基づいて前記流出量が所定値になるように前記燃料の供給量を制御する制御装置と
を備えることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
前記アノード流路板が、
前記燃料を流通させる燃料流路と、
前記燃料流路から分岐し、前記アノードガス拡散層と対向する送給口と、
前記燃料流路と前記送給口との間に配置され、前記燃料を気化させる気化膜と
を備えることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記送給口と前記アノードガス拡散層との間に設けられた空間部を更に有し、前記空間部において、気化した前記燃料を前記アノード触媒層における反応で発生するガスで希釈させることを特徴とする請求項1又は2に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記制御装置が、
前記測定装置が測定した前記燃料電池の電流値、電圧値、温度条件及び前記燃料電池における前記燃料のクロスオーバー評価情報を用いて、前記燃料電池のアノードに存在する前記燃料の体積分率を解析し、前記体積分率から推定される前記流出量及び前記アノードの燃料濃度を解析する解析部と、
前記流出量及び前記アノードの燃料濃度が所定の範囲内にあるか否かを判定する判定部と、
前記判定部の判定結果に基づいて、前記燃料の供給流量、濃度及び前記燃料電池の運転条件の少なくともいずれかを調整する調整部と
を備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の燃料電池システム。
【請求項5】
前記送給口が前記アノードガス拡散層の中央領域に設けられていることを特徴とする請求項2に記載の燃料電池システム。
【請求項6】
電解質膜、前記電解質膜を挟んで互いに対向するアノード触媒層及びカソード触媒層、及び前記アノード触媒層上に配置されたアノードガス拡散層を含む膜電極複合体と、
前記アノードガス拡散層上に配置され、燃料を前記アノードガス拡散層の中心領域から前記アノード触媒層へ供給するアノード流路板と、
前記アノードガス拡散層の周縁部に沿って設けられた通気路と、
前記アノード流路板の端部に設けられ、前記通気路と連通し、前記アノード触媒層で発生するガスを排出する排出路と
を備えることを特徴とする燃料電池。
【請求項7】
前記アノード流路板が、
前記燃料を流通させる燃料流路と、
前記燃料流路から分岐し、前記アノードガス拡散層の中心領域と対向する送給口と、
前記燃料流路と前記送給口との間に配置され、前記燃料を気化させる気化膜と
を備えることを特徴とする請求項6に記載の燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−80323(P2010−80323A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−248667(P2008−248667)
【出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】