燃料電池システム
【課題】 燃料電池スタック内の少なくとも一つのセルの電圧が0V以下となることを防止して、燃料電池の性能劣化を防止することが可能な燃料電池システムを提供する。
【解決手段】 燃料電池システム1は、燃料電池スタック10と、燃料電池スタック10の電圧を検出し且つ検出した電圧値に応じて燃料電池スタック10の出力電流を制御するコントロールユニット20とを備えている。コントロールユニット20は、燃料電池スタック10に燃料ガス及び酸化剤ガスが供給された場合、検出電圧値が第1所定電圧値以上となるときには、検出電圧値が第1所定電圧値以上でないときにおいて出力される通常電流値よりも、出力電流値を小さくする。
【解決手段】 燃料電池システム1は、燃料電池スタック10と、燃料電池スタック10の電圧を検出し且つ検出した電圧値に応じて燃料電池スタック10の出力電流を制御するコントロールユニット20とを備えている。コントロールユニット20は、燃料電池スタック10に燃料ガス及び酸化剤ガスが供給された場合、検出電圧値が第1所定電圧値以上となるときには、検出電圧値が第1所定電圧値以上でないときにおいて出力される通常電流値よりも、出力電流値を小さくする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、燃料電池は、反応ガスである水素などの燃料と空気などの酸化剤を電気化学的に反応させることにより、燃料が有する化学エネルギーを直接電気エネルギーに変換する装置である。この燃料電池は、電解質の違いなどによりさまざまなタイプのものに分類されるが、その一つとして、電解質に固体高分子電解質を用いる固体高分子電解質形燃料電池が知られている。
【0003】
この固体高分子型燃料電池の燃料極、酸化剤極の両電極において進行する電極反応は、
以下の通りである。
燃料極 : 2H2→4H++4e− …(1)
酸化剤極 : 4H++4e−+O2→2H2O …(2)
【0004】
燃料極に燃料が供給されると、燃料極では(1)式の反応式が進行して水素イ
オンが生成する。この生成した水素イオンが水和状態で電解質(固体高分子電解質型燃料電池であれば固体高分子電解質膜)を透過(拡散)して酸化剤極に至り、この酸化剤極に酸素含有ガス、例えば空気が供給されていると、酸化剤極では(2)式の反応式が進行する。この(1)及び(2)式の電極反応が各極で進行することで、燃料電池は起電力を生じることとなる。
【0005】
ここで、燃料電池を自動車の動力源として使用する場合や、寒冷地での定置用として使用する場合には、燃料電池が0度以下の雰囲気にさらされることがあり、このような状況下でも燃料電池が起動でき、通常に発電できることが望まれている。しかし、0度以下の低温状態では、セルの中に残留した水分が凍結して、反応ガス流路が閉塞したり、電極近傍に残留している水分が凍結して反応ガスの拡散を阻害したりして、発電性能が低下してしまうという問題がある。
【0006】
そこで、燃料電池スタックに残留した水分を除去する燃料電池システムが提案されている。この燃料電池システムによれば、燃料電池の運転終了時後に乾燥空気を供給すると共に加熱した冷却水を導入するので、効果的に燃料電池スタック内に残留した水分を除去することができる(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002−246054号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の燃料電池システムでは、燃料電池スタック内の水分を過剰に除去してしまうことがある。この場合、電解質膜が乾燥して抵抗値が上昇してしまうため、次回発電時には電流取り出し直後に、抵抗分極が過大となって燃料電池スタック内の少なくとも一つのセルの電圧が0V以下となり、燃料電池の性能劣化を招く可能性があった。
【0008】
本発明はこのような従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、燃料電池スタック内の少なくとも一つのセルの電圧が0V以下となることを防止して、燃料電池の性能劣化を防止することが可能な燃料電池システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の燃料電池システムは、高分子電解質膜とこの電解質膜を挟持する燃料極及び酸化剤極とからなる膜電極接合体、並びに、膜電極接合体に燃料ガス及び酸化剤ガスを供給する流路が形成されたセパレータを有する燃料電池が複数積層された燃料電池スタックと、燃料電池スタックの電圧を検出する電圧検出手段と、電圧検出手段により検出された電圧値に応じて燃料電池スタックの出力電流を制御する電流制御手段とを備えている。また、電流制御手段は、燃料電池スタックに燃料ガス及び酸化剤ガスが供給された場合、電圧検出手段により検出された電圧値が第1所定電圧値以上となるときには、電圧検出手段により検出された電圧値が第1所定電圧値以上でないときにおいて出力される通常電流値よりも、出力電流値を小さくする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、燃料電池スタックの電圧を検出し、燃料ガス及び酸化剤ガスが供給された場合に、検出した電圧値が第1所定電圧値以上である場合には、検出した電圧値が第1所定電圧値以上でないときにおいて出力される通常電流値よりも、出力電流値を小さくする。ここで、電解質膜が乾燥すると水素が酸化剤極へ透過する(クロスオーバー)量の減少により反応ガス導入後の燃料電池スタックの電圧が高くなる。このため、反応ガス導入後の燃料電池スタックの電圧を検知することにより電解質膜の含水状態を検知することができる。そして、検出した電圧値が第1所定電圧値以上である場合、すなわち、電解質膜が乾燥している場合は、出力電流値を小さくすることで、抵抗分極により燃料電池スタック内の少なくとも一つのセルの電圧が0V以下となることを防止する。従って、燃料電池の性能劣化を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において、同一又は同様の要素には同一の符号を付して説明を省略するものとする。
【0012】
図1は、本発明の第1実施形態に係る燃料電池システムの構成図である。同図に示すように、燃料電池システム1は、概略的に説明すると、燃料電池スタック10と、コントロールユニット(電圧検出手段、電流制御手段)20と、負荷制御ユニット30とからなっている。
【0013】
燃料電池スタック10は、燃料供給配管41から送り込まれた燃料ガスである水素と酸化剤供給配管42から送り込まれた酸化剤ガスである空気との電気化学反応によって発電し、発電によって消費されなかった残余ガスを燃料排出配管43及び酸化剤排出配管44から排出する構成となっている。また、燃料電池スタック10は、発電機能を有する単位セル(燃料電池)が複数積層された構成となっている。
【0014】
図2は、図1に示した燃料電池スタック10を構成する固体高分子電解質型燃料電池のセル構造を示す模式断面図である。同図に示すように、燃料電池スタック10の一単位であるセルは、固体高分子膜からなる高分子電解質膜101と高分子電解質膜101を挟持するように電解質膜の両面に配設される燃料極102及び酸化剤極103とからなる膜電極接合体110、並びに、これら両電極の外側に配置された燃料極拡散層104、酸化剤極拡散層105、燃料ガス流路106、及び酸化剤ガス流路107より構成される。
【0015】
高分子電解質膜101は、フッ素系樹脂等の固体高分子材料によりプロトン伝導性の膜として形成されている。この高分子電解質膜101の両面に配設される燃料極102及び酸化剤極103は、白金又は白金及びその他の金属からなる触媒層と、ガス拡散層とからなり、触媒の存在する面が電解質膜101と接触するように形成されている.
燃料ガス流路106及び酸化剤ガス流路107は、ガス不透過である緻密性カーボン材等による燃料極セパレータ108及び酸化剤極セパレータ109の片面又は両面に配置されたに多数のリブにより形成され、酸化剤ガス及び燃料ガスはそれぞれの図示しないガス入口から供給され、図示しないガス出口から排出される。
【0016】
再度、図1を参照する。コントロールユニット20は、燃料電池システム1を制御するものである。また、コントロールユニット20は、燃料電池スタック10の電圧を検出し、検出した電圧値に応じて燃料電池スタック10の出力電流を負荷制御ユニット30を介して制御する機能を有している。
【0017】
このような燃料電池システム1においては、まず、供給配管41,42を通じて燃料電池スタック10に反応ガスが導入される。このとき、コントロールユニット20は、燃料電池スタック10の電圧値を検出する。そして、検出した電圧値が第1所定電圧値以上であるか否かを判断する。
【0018】
ここで、コントロールユニット20は、検出した電圧値が第1所定電圧値以上であるか否かを判断することにより、燃料電池スタック10の電解質膜101の含水状態を判断している。すなわち、電解質膜101が乾燥すると水素が酸化剤極103へ透過する(クロスオーバー)量の減少により反応ガス導入後の燃料電池スタック10の電圧が高くなる。このため、反応ガス導入後の燃料電池スタック10の電圧を検知することにより電解質膜101の含水状態を検出することができる。また、電解質膜101が乾燥して抵抗値が上昇してしまうと、抵抗分極が過大となってしまう。このように抵抗分極が過大となると次回発電時に燃料電池スタック10の少なくとも一つのセルの電圧が0V以下となり、燃料電池の性能劣化を招く可能性がある。そこで、コントロールユニット20は、検出した電圧値が第1所定電圧値以上である場合、燃料電池スタック10の出力電流を小さくする。
【0019】
図3は、第1実施形態に係る燃料電池システム1の動作を示すグラフであり、(a)は検出した電圧値が第1所定電圧値以上でない場合の電圧状態を示し、(b)は検出した電圧値が第1所定電圧値以上でない場合の電流状態を示している。また、(c)は検出した電圧値が第1所定電圧値以上である場合の電圧状態を示し、(d)は検出した電圧値が第1所定電圧値以上である場合の電流状態を示している。
【0020】
まず、図3(a)に示す例では、時刻t1において反応ガスを導入した後の電圧値Vstackは第1所定電圧値V1以上となっていない。このとき、電解質膜101は適度な含水状態にあると考えられ、コントロールユニット20は通常の処理を行う。すなわち、図3(b)に示すように、時刻t2から出力電流を通常の電流値とする。
【0021】
一方、図3(c)に示す例では、時刻t1において反応ガスを導入した後の電圧値Vstackは第1所定電圧値V1以上となっている。このとき、電解質膜101は乾燥状態にあると考えられ、コントロールユニット20は、少なくとも一つのセルの電圧が0V以下とならないように出力電流を抑える。すなわち、図3(d)に示すように、出力電流を通常電流値よりも小さい電流値I1に制御する。このように、出力電流値を小さくすることで、抵抗分極により燃料電池スタック内の少なくとも一つのセルの電圧が0V以下となることを防止している。
【0022】
次に、第1実施形態に係る燃料電池システム1の詳細動作を説明する。図4は、第1実施形態に係る燃料電池システム1の詳細動作を示すフローチャートである。図4に示すように、まず、燃料電池システム1を起動すると、燃料電池スタック10に反応ガスが導入される(ST1)。そして、コントロールユニット20は、燃料電池スタック10の電圧値を検出する(ST2)。次いで、コントロールユニット20は、検出した電圧値Vstackが第1所定電圧値V1以上であるか否かを判断する(ST3)。
【0023】
ここで、検出した電圧値Vstackが第1所定電圧値V1以上でないと判断した場合(ST3:NO)、図4に示す処理は終了し、その後、燃料電池システム1は通常の発電を行っていく。一方、検出した電圧値Vstackが第1所定電圧値V1以上であると判断した場合(ST3:YES)、コントロールユニット20は低負荷電流を取り出す(ST4)。すなわち、図3(d)に示したように、コントロールユニット20は出力電流を通常電流値よりも小さい電流値I1に制御する。
【0024】
図5は、電圧値Vstackが第1所定電圧値V1以上となる場合における電圧値及び電流値を示すグラフであって、(a)は出力電流を通常電流とした場合における電圧状態を示し、(b)は出力電流を通常電流とした場合における電流状態を示している。また、(c)は出力電流を電流I1とした場合における電圧状態を示し(d)は出力電流を電流I1とした場合における電流状態を示している。
【0025】
まず、図5(a)及び(b)に示すように、時刻t1において電圧値Vstackが第1所定電圧値V1以上となり、時刻t2において出力電流を通常電流値としたとする。このとき、図5(a)に示すように、燃料電池スタック10の電圧値Vstackは0Vを下回ることがあり、燃料電池の性能劣化を招くこととなる。
【0026】
これに対し、図5(c)及び(d)に示すように、時刻t1において電圧値Vstackが第1所定電圧値V1以上となり、時刻t2において出力電流を通常電流値よりも低い電流値I1としたとする。このとき、図5(c)に示すように、燃料電池スタック10の電圧値Vstackは0Vを下回らず、燃料電池の性能劣化を防止することとなる。
【0027】
再度、図4を参照する。低負荷電流を取り出した後(ST4の後)、コントロールユニット20は、電圧値Vstackの微分値が正となっているか否かを判断する(ST5)。電圧値Vstackの微分値が正となっていないと判断した場合(ST5:NO)、正となったと判断されるまで、この処理が繰り返される。他方、電圧値Vstackの微分値が正となったと判断した場合(ST5:YES)、コントロールユニット20は負荷電流を増大させる(ST6)。すなわち、コントロールユニット20は出力電流を通常電流値に戻す。その後、図4に示す処理は終了して、燃料電池システム1は通常の発電を行っていくこととなる。
【0028】
図6は、出力電流を電流I1とした場合における電圧状態を示すグラフである。同図に示すように、時刻t1〜t2の期間において電圧値Vstackの微分値は負であるか「0」である。ところが、時刻t2において出力電流を電流値I1とした後、電圧値Vstackは少しずつ上昇していく。このため、電圧変化の微分値が正となる。ここで、電流値Vstackの微分値が正となる場合、電解質膜101が徐々に含水することにより抵抗値が低下しているといえる。このため、出力電流値を大きくしても燃料電池スタック内の少なくとも一つのセルの電圧が0V以下となり難くなっている。よって、コントロールユニット20は、電圧値Vstackの微分値が正となったと判断した場合、負荷電流を増大させることとしている。
【0029】
このようにして、第1実施形態に係る燃料電池システム1によれば、燃料電池スタック10の電圧を検出し、燃料ガス及び酸化剤ガスが供給された場合に、検出した電圧値Vstackが第1所定電圧値V1以上であるときには、検出した電圧値Vstackが第1所定電圧値V1以上でないときにおいて出力される通常電流値よりも、出力電流値を小さくする。ここで、電解質膜101が乾燥すると水素が酸化剤極へ透過する(クロスオーバー)量の減少により反応ガス導入後の燃料電池スタック10の電圧が高くなる。このため、反応ガス導入後の燃料電池スタック10の電圧を検知することにより電解質膜101の含水状態を検知することができる。そして、検出した電圧値Vstackが第1所定電圧値V1以上である場合、すなわち、電解質膜101が乾燥している場合は、出力電流値を小さくすることで、抵抗分極により燃料電池スタック内の少なくとも一つのセルの電圧が0V以下となることを防止する。従って、燃料電池の性能劣化を防止することができる。
【0030】
また、出力電流値を小さく制御した後に、燃料電池スタック10の電圧変化の微分値が正となった場合、出力電流値を通常電流値に戻すこととしている。ここで、電圧変化の微分値が正となった場合とは、電解質膜101が徐々に含水して抵抗値が低下した場合と言える。このため、出力電流値を大きくしても燃料電池スタック内の少なくとも一つのセルの電圧が0V以下とならず、燃料電池の性能劣化を防止しつつも、零下時における使用においては電流値を素早く増大させて昇温を速やかに行うことができる。
【0031】
次に、本発明の第2実施形態を説明する。第2実施形態に係る燃料電池システム2は、第1実施形態のものと同様であるが、処理内容が異なっている。以下、第1実施形態との相違点を説明する。
【0032】
図7は、本発明の第2実施形態に係る燃料電池システム2の詳細動作を示すフローチャートである。なお、図7に示すステップST11〜ST14の処理は図4に示すステップST1〜ST4の処理と同様であるため、説明を省略する。出力電流を小さくする制御をした後(ST4の後)、コントロールユニット20は、通常電流値に達するまで、出力電流を徐々に大きくしていく(ST15)。そして、電流値が通常電流値に達すると図7に示す処理は終了して、燃料電池システム2は通常の発電を行っていくこととなる。
【0033】
ここで、ステップST15のように出力電流値を徐々に大きくしていった場合、上記(2)式の反応によって生成される水の量が多くなっていく。このため、生成される水によって電解質膜101を湿潤とすることができ、電解質膜101の抵抗を下げることとなる。よって、燃料電池スタック内の少なくとも一つのセルの電圧が0V以下とならないようにして燃料電池の性能劣化を防止しつつも、燃料電池スタックの昇温を速やかに行うこととなる。
【0034】
このようにして、第2実施形態に係る燃料電池システム2によれば、第1実施形態と同様に、燃料電池の性能劣化を防止することができる。
【0035】
さらに、第2実施形態によれば、出力電流値を小さく制御した後には、通常電流値に達するまで出力電流値を徐々に大きくしていくこととしている。ここで、出力電流値を徐々に大きくしていった場合、上記(2)式の反応によって生成される水の量が多くなっていく。このため、生成される水によって電解質膜101を湿潤とすることができ、電解質膜101の抵抗を下げることとなる。よって、燃料電池スタック内の少なくとも一つのセルの電圧が0V以下とならないようにして燃料電池の性能劣化を防止しつつも、燃料電池スタックの昇温を速やかに行うことができる。
【0036】
次に、本発明の第3実施形態を説明する。第3実施形態に係る燃料電池システム3は、第1実施形態のものと同様であるが、構成及び処理内容が異なっている。以下、第1実施形態との相違点を説明する。
【0037】
図8は、本発明の第3実施形態に係る燃料電池システム3の構成図である。同図に示すように、燃料電池システム3は、新たに温度センサ(温度検出手段)50を備えている。温度センサ50は、燃料電池スタック10の温度を検出するものであって、コントロールユニット20に接続されている。このため、本実施形態のコントロールユニット20は、温度センサ50からの信号に基づいて、燃料電池システム3の制御を行うようになっている。
【0038】
図9は、第3実施形態に係る燃料電池システム3の詳細動作を示すフローチャートである。なお、図9に示すステップST21〜ST24の処理は図4に示すステップST1〜ST4の処理と同様であるため、説明を省略する。
【0039】
出力電流を小さくする制御をした後(ST24の後)、コントロールユニット20は、温度センサ50から信号を読み込んで、燃料電池スタック10の温度Tstackを検出する(ST25)。次いで、コントロールユニット20は、温度センサ50により検出された燃料電池スタック10の温度Tstackが第1所定温度T1以上であるか否かを判断する(ST26)。
【0040】
ここで、燃料電池スタック10の温度Tstackが第1所定温度T1以上でないと判断した場合(ST26:NO)、第1所定温度T1以上であると判断されるまで、この処理が繰り返される。他方、燃料電池スタック10の温度Tstackが第1所定温度T1以上であると判断した場合(ST26:YES)、コントロールユニット20は出力電流を通常電流値に戻す(ST27)。その後、図9に示す処理は終了して、燃料電池システム3は通常の発電を継続していくこととなる。
【0041】
このようにして、第3実施形態に係る燃料電池システム3によれば、第1実施形態と同様に、燃料電池の性能劣化を防止することができる。
【0042】
さらに、第3実施形態によれば、出力電流値を小さく制御した後に、燃料電池スタック10の温度Tstackが第1所定温度T1以上となった場合、出力電流値を通常電流値に戻すこととしている。ここで、温度が高くなると電解質膜101は抵抗が小さくなる傾向がある。このため、燃料電池スタック10の電圧Vstackを一定時間監視してその微分値を求めることなく、燃料電池スタック10の温度Tstackを基準とすることで、燃料電池の性能劣化を防止しつつも、より簡素な構成で燃料電池スタック10の昇温を速やかに行うことができる。
【0043】
次に、本発明の第4実施形態を説明する。第4実施形態に係る燃料電池システム4は、第1実施形態のものと同様であるが、構成及び処理内容が異なっている。以下、第1実施形態との相違点を説明する。
【0044】
図10は、本発明の第4実施形態に係る燃料電池システム4の構成図である。同図に示すように、燃料電池システム4は、新たにコンプレッサ61,62及び圧力制御弁63,64を備えている。
【0045】
コンプレッサ61,62は、燃料供給配管41及び酸化剤供給配管42にそれぞれ設けられ、水素及び空気を圧縮して燃料電池スタック10に送り込むものである。圧力制御弁63,64は、燃料排出配管43及び酸化剤排出配管44にそれぞれ設けられ、燃料電池スタック10からの水素及び空気の排出量を調整する構成となっている。この圧力制御弁63,64の排出量の調整によって、燃料電池スタック10のガス圧力が制御されることとなる。なお、コンプレッサ61,62及び圧力制御弁63,64の制御は、コントロールユニット20によって行われるようになっている。このため、本実施形態においてコントロールユニット20は圧力を制御する手段として機能することとなる。
【0046】
図11は、第4実施形態に係る燃料電池システム4の詳細動作を示すフローチャートである。なお、図11に示すステップST31〜ST33の処理は図4に示すステップST1〜ST3の処理と同様であるため、説明を省略する。
【0047】
電圧値Vstackが第1所定電圧値V1以上であると判断した後(ST33にて「YES」と判断した後)、コントロールユニット20は燃料電池スタック10に供給される燃料ガス及び酸化剤ガスのガス圧力を増大させる(ST34)。すなわち、コントロールユニット20は、検出された電圧値Vstackが第1所定電圧値V1以上でないときにおける通常のガス圧力よりも、ガス圧力を高くする。
【0048】
ここで、ガス圧力を高くすると拡散分極を低減することができる。このため、拡散分極を小さくして燃料電池スタック10のセル電圧が0V以下となること一層防止することができる。
【0049】
次いで、コントロールユニット20は出力電流を通常電流値よりも小さい電流値I1に制御する(ST35)。その後、コントロールユニット20は、電圧値Vstackの微分値が正となっているか否かを判断する(ST36)。電圧値Vstackの微分値が正となっていないと判断した場合(ST36:NO)、正となったと判断されるまで、この処理が繰り返される。他方、電圧値Vstackの微分値が正となったと判断した場合(ST36:YES)、コントロールユニット20は、ガス圧力を通常のガス圧力に戻す(ST37)。
【0050】
そして、コントロールユニット20は、負荷電流を増大させる(ST38)。すなわち、コントロールユニット20は出力電流を通常電流値に戻す。その後、図11に示す処理は終了して、燃料電池システム4は通常の発電を継続していくこととなる。
【0051】
このようにして、第4実施形態に係る燃料電池システム4によれば、第1実施形態と同様に、燃料電池の性能劣化を防止することができ、燃料電池の性能劣化を防止しつつも、零下時における使用においては電流値を素早く増大させて昇温を速やかに行うことができる。
【0052】
さらに、第4実施形態によれば、検出した電圧値Vstackが第1所定電圧値V1以上である場合には出力電流値を小さくするだけでなく、ガス圧力を高くすることとしている。ここで、ガス圧力を高くすると拡散分極を低減することができる。このため、拡散分極を小さくして燃料電池スタック10のセル電圧が0V以下となること一層防止することができる。従って、燃料電池の性能劣化を一層防止することができる。
【0053】
また、ガス圧力を高く制御した後に、燃料電池スタック10の電圧変化の微分値が正となった場合、ガス圧力を通常のガス圧力に戻すこととしている。ここで、微分値が正である場合、電解質膜101が徐々に湿潤状態となっており、抵抗分極は低下している。このため、ガス圧力を戻しても燃料電池スタック10の少なくとも一つのセルの電圧が0V以下とならず、燃料電池の性能劣化を防止しつつも昇温を速やかに行うことができる。また反応ガスの圧力を下げるため、ガス圧力を上昇させるのに必要となるエネルギーを節約することができる。
【0054】
次に、本発明の第5実施形態を説明する。第5実施形態に係る燃料電池システム5は、上記実施形態のものと同様であるが、構成及び処理内容が異なっている。以下、上記実施形態との相違点を説明する。
【0055】
図12は、本発明の第5実施形態に係る燃料電池システム5の構成図である。同図に示すように、燃料電池システム5は、加熱部(加熱手段)70を備えている。加熱部70は、燃料電池スタック10を加熱するものであり、コントロールユニット20によって制御されるようになっている。このため、本実施形態においてコントロールユニット20は、加熱を制御する手段として機能することとなる。
【0056】
図13は、第5実施形態に係る燃料電池システム5の詳細動作を示すフローチャートである。図13に示すように、まず、コントロールユニット20は、温度センサ50からの信号を読み込んで、燃料電池スタック10の温度Tstackが水分凍結温度(例えば0度)以下であるか否かを判断する(ST41)。燃料電池スタック10の温度Tstackが水分凍結温度以下でないと判断した場合(ST41:NO)、図13に示す処理は終了し、燃料電池システム5は通常の発電を行っていく。
【0057】
一方、燃料電池スタック10の温度Tstackが水分凍結温度以下であると判断した場合(ST41:YES)、ステップST42,ST43において図4のステップST1,ST2と同様の処理が実行される。そして、コントロールユニット20は、燃料電池スタック10の電圧値Vstackが第1所定電圧値V1よりも小さい第2所定電圧値V2未満であるか否かを判断する(ST44)。
【0058】
ここで、燃料電池スタック10の電圧値Vstackが第2所定電圧値V2未満であると判断した場合(S44:YES)、ステップST45〜ST47において図11のステップST33〜ST35と同様の処理が実行される。
【0059】
次いで、コントロールユニット20は、燃料電池スタック10の温度Tstackを検出し、検出した燃料電池スタック10の温度Tstackが第1所定温度T1以上であるか否かを判断する(ST48)。燃料電池スタック10の温度Tstackが第1所定温度T1以上でないと判断した場合(ST48:NO)、第1所定温度T1以上であると判断されるまで、この処理が繰り返される。
【0060】
他方、燃料電池スタック10の温度Tstackが第1所定温度T1以上であると判断した場合(ST48:YES)、コントロールユニット20はガス圧力を低下させ(ST49)、出力電流を通常電流値に戻し(ST50)、その後、図13に示す処理は終了する。これにより、燃料電池システム5は通常の発電処理を行っていくこととなる。
【0061】
ところで、燃料電池スタック10の電圧値Vstackが第2所定電圧値V2未満でないと判断した場合(S44:NO)、コントロールユニット20は、加熱部70によって燃料電池スタック10を加熱させる(ST51)。ここで、零下時(水分凍結温度以下の状況下)において電圧値Vstackが第2所定電圧値V2未満である場合、触媒層の反応サイトが凍結した水分で覆われて電圧が低下していると考えられる。このため、コントロールユニット20は、燃料電池スタック10を加熱し、凍結した水分を溶かすこととしている。これにより、凍結水分による発電性能の低下を防止している。また、加熱部70による加熱によって、燃料電池スタックを昇温させてから電流を取り出すことにより、電流取り出し直後に燃料電池スタック内の少なくとも一つのセルの電圧が0V以下となることを防止している。
【0062】
次いで、コントロールユニット20は、燃料電池スタック10の温度Tstackが第2所定温度T2を超えるか否かを判断する(ST52)。ここで、第2所定温度T2は、凍結水分が充分に溶ける温度である。
【0063】
燃料電池スタック10の温度Tstackが第2所定温度T2を超えないと判断した場合(ST52:NO)、超えると判断されるまで、この処理が繰り返される。一方、燃料電池スタック10の温度Tstackが第2所定温度T2を超えると判断した場合(ST52:YES)、コントロールユニット20は、加熱部70による加熱を停止する(ST53)。そして、図13に示す処理は終了し、燃料電池システム5は通常の発電処理を行っていくこととなる。
【0064】
このようにして、第5実施形態に係る燃料電池システム5によれば、上記実施形態と同様に、燃料電池の性能劣化を防止することができ、燃料電池の性能劣化を防止しつつも、より簡素な構成で燃料電池スタック10の昇温を速やかに行うことができる。また、燃料電池の性能劣化を一層防止することができる。
【0065】
さらに、第5実施形態によれば、ガス圧力を高く制御した後に、燃料電池スタック10の温度Tstackが第1所定温度T1以上となった場合、ガス圧力を通常のガス圧力に戻すこととしている。ここで、温度が高くなると電解質膜101は抵抗が小さくなる傾向がある。このため、燃料電池スタック10の電圧Vstackを一定時間監視してその微分値を求めることなく、燃料電池スタック10の温度Tstackを基準とすることで、燃料電池の性能劣化を防止しつつも、より簡素な構成で燃料電池スタックの昇温を速やかに行うことができる。また反応ガスの圧力を下げるため、ガス圧力を上昇させるのに必要となるエネルギーを節約することができる。
【0066】
また、燃料電池スタック10が零下時において起動されて燃料電池スタック10に燃料ガス及び酸化剤ガスが供給された場合、検出した電圧値Vstackが第1所定電圧値V1よりも小さい第2所定電圧値V2未満であるときには、燃料電池スタック10を加熱することとしている。ここで、零下時において電圧値Vstackが第2所定電圧値V2未満である場合、触媒層の反応サイトが凍結した水分で覆われて電圧が低下していると考えられる。このため、燃料電池スタックを加熱することで、凍結した水分を溶かして、凍結水分による発電性能の低下を防止することができる。また、加熱部70による加熱によって、燃料電池スタック10を昇温させてから電流を取り出すことにより、電流取り出し直後に燃料電池スタック10の少なくとも一つのセルの電圧が0V以下となることを防止することができる。従って、発電性能の低下を防止しつつ、燃料電池の性能劣化を防止することができる。
【0067】
また、燃料電池スタック10の温度Tstackが第2所定温度T2を超えた場合、加熱を停止することとしている。このため、凍結した水分を溶かした後に加熱を行わないこととし、加熱に必要となるエネルギーを節約することができる。
【0068】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、変更を加えてもよいし、各実施形態を組み合わせるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の第1実施形態に係る燃料電池システムの構成図である。
【図2】図1に示した燃料電池スタックを構成する固体高分子電解質型燃料電池のセル構造を示す模式断面図である。
【図3】第1実施形態に係る燃料電池システム1の動作を示すグラフであり、(a)は検出した電圧値が第1所定電圧値以上でない場合の電圧状態を示し、(b)は検出した電圧値が第1所定電圧値以上でない場合の電流状態を示し、(c)は検出した電圧値が第1所定電圧値以上である場合の電圧状態を示し、(d)は検出した電圧値が第1所定電圧値以上である場合の電流状態を示している。
【図4】第1実施形態に係る燃料電池システム1の詳細動作を示すフローチャートである。
【図5】電圧値Vstackが第1所定電圧値V1以上となる場合における電圧値及び電流値を示すグラフであって、(a)は出力電流を通常電流とした場合における電圧状態を示し、(b)は出力電流を通常電流とした場合における電流状態を示し、(c)は出力電流を電流I1とした場合における電圧状態を示し(d)は出力電流を電流I1とした場合における電流状態を示している。
【図6】出力電流を電流I1とした場合における電圧状態を示すグラフである。
【図7】本発明の第2実施形態に係る燃料電池システムの詳細動作を示すフローチャートである。
【図8】本発明の第3実施形態に係る燃料電池システムの構成図である。
【図9】第3実施形態に係る燃料電池システムの詳細動作を示すフローチャートである。
【図10】本発明の第4実施形態に係る燃料電池システムの構成図である。
【図11】第4実施形態に係る燃料電池システムの詳細動作を示すフローチャートである。
【図12】本発明の第5実施形態に係る燃料電池システムの構成図である。
【図13】第5実施形態に係る燃料電池システムの詳細動作を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0070】
1〜5…燃料電池システム
10…燃料電池スタック
20…コントロールユニット(電流制御手段、圧力制御手段、加熱制御手段)
30…負荷制御ユニット
41…燃料供給配管
42…酸化剤供給配管
43…燃料排出配管
44…酸化剤排出配管
50…温度センサ(温度検出手段)
61,62…コンプレッサ
63,64…圧力制御弁
70…加熱部(加熱手段)
101…高分子電解質膜
102…燃料極
103…酸化剤極
110…膜電極接合体
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、燃料電池は、反応ガスである水素などの燃料と空気などの酸化剤を電気化学的に反応させることにより、燃料が有する化学エネルギーを直接電気エネルギーに変換する装置である。この燃料電池は、電解質の違いなどによりさまざまなタイプのものに分類されるが、その一つとして、電解質に固体高分子電解質を用いる固体高分子電解質形燃料電池が知られている。
【0003】
この固体高分子型燃料電池の燃料極、酸化剤極の両電極において進行する電極反応は、
以下の通りである。
燃料極 : 2H2→4H++4e− …(1)
酸化剤極 : 4H++4e−+O2→2H2O …(2)
【0004】
燃料極に燃料が供給されると、燃料極では(1)式の反応式が進行して水素イ
オンが生成する。この生成した水素イオンが水和状態で電解質(固体高分子電解質型燃料電池であれば固体高分子電解質膜)を透過(拡散)して酸化剤極に至り、この酸化剤極に酸素含有ガス、例えば空気が供給されていると、酸化剤極では(2)式の反応式が進行する。この(1)及び(2)式の電極反応が各極で進行することで、燃料電池は起電力を生じることとなる。
【0005】
ここで、燃料電池を自動車の動力源として使用する場合や、寒冷地での定置用として使用する場合には、燃料電池が0度以下の雰囲気にさらされることがあり、このような状況下でも燃料電池が起動でき、通常に発電できることが望まれている。しかし、0度以下の低温状態では、セルの中に残留した水分が凍結して、反応ガス流路が閉塞したり、電極近傍に残留している水分が凍結して反応ガスの拡散を阻害したりして、発電性能が低下してしまうという問題がある。
【0006】
そこで、燃料電池スタックに残留した水分を除去する燃料電池システムが提案されている。この燃料電池システムによれば、燃料電池の運転終了時後に乾燥空気を供給すると共に加熱した冷却水を導入するので、効果的に燃料電池スタック内に残留した水分を除去することができる(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002−246054号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の燃料電池システムでは、燃料電池スタック内の水分を過剰に除去してしまうことがある。この場合、電解質膜が乾燥して抵抗値が上昇してしまうため、次回発電時には電流取り出し直後に、抵抗分極が過大となって燃料電池スタック内の少なくとも一つのセルの電圧が0V以下となり、燃料電池の性能劣化を招く可能性があった。
【0008】
本発明はこのような従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、燃料電池スタック内の少なくとも一つのセルの電圧が0V以下となることを防止して、燃料電池の性能劣化を防止することが可能な燃料電池システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の燃料電池システムは、高分子電解質膜とこの電解質膜を挟持する燃料極及び酸化剤極とからなる膜電極接合体、並びに、膜電極接合体に燃料ガス及び酸化剤ガスを供給する流路が形成されたセパレータを有する燃料電池が複数積層された燃料電池スタックと、燃料電池スタックの電圧を検出する電圧検出手段と、電圧検出手段により検出された電圧値に応じて燃料電池スタックの出力電流を制御する電流制御手段とを備えている。また、電流制御手段は、燃料電池スタックに燃料ガス及び酸化剤ガスが供給された場合、電圧検出手段により検出された電圧値が第1所定電圧値以上となるときには、電圧検出手段により検出された電圧値が第1所定電圧値以上でないときにおいて出力される通常電流値よりも、出力電流値を小さくする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、燃料電池スタックの電圧を検出し、燃料ガス及び酸化剤ガスが供給された場合に、検出した電圧値が第1所定電圧値以上である場合には、検出した電圧値が第1所定電圧値以上でないときにおいて出力される通常電流値よりも、出力電流値を小さくする。ここで、電解質膜が乾燥すると水素が酸化剤極へ透過する(クロスオーバー)量の減少により反応ガス導入後の燃料電池スタックの電圧が高くなる。このため、反応ガス導入後の燃料電池スタックの電圧を検知することにより電解質膜の含水状態を検知することができる。そして、検出した電圧値が第1所定電圧値以上である場合、すなわち、電解質膜が乾燥している場合は、出力電流値を小さくすることで、抵抗分極により燃料電池スタック内の少なくとも一つのセルの電圧が0V以下となることを防止する。従って、燃料電池の性能劣化を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において、同一又は同様の要素には同一の符号を付して説明を省略するものとする。
【0012】
図1は、本発明の第1実施形態に係る燃料電池システムの構成図である。同図に示すように、燃料電池システム1は、概略的に説明すると、燃料電池スタック10と、コントロールユニット(電圧検出手段、電流制御手段)20と、負荷制御ユニット30とからなっている。
【0013】
燃料電池スタック10は、燃料供給配管41から送り込まれた燃料ガスである水素と酸化剤供給配管42から送り込まれた酸化剤ガスである空気との電気化学反応によって発電し、発電によって消費されなかった残余ガスを燃料排出配管43及び酸化剤排出配管44から排出する構成となっている。また、燃料電池スタック10は、発電機能を有する単位セル(燃料電池)が複数積層された構成となっている。
【0014】
図2は、図1に示した燃料電池スタック10を構成する固体高分子電解質型燃料電池のセル構造を示す模式断面図である。同図に示すように、燃料電池スタック10の一単位であるセルは、固体高分子膜からなる高分子電解質膜101と高分子電解質膜101を挟持するように電解質膜の両面に配設される燃料極102及び酸化剤極103とからなる膜電極接合体110、並びに、これら両電極の外側に配置された燃料極拡散層104、酸化剤極拡散層105、燃料ガス流路106、及び酸化剤ガス流路107より構成される。
【0015】
高分子電解質膜101は、フッ素系樹脂等の固体高分子材料によりプロトン伝導性の膜として形成されている。この高分子電解質膜101の両面に配設される燃料極102及び酸化剤極103は、白金又は白金及びその他の金属からなる触媒層と、ガス拡散層とからなり、触媒の存在する面が電解質膜101と接触するように形成されている.
燃料ガス流路106及び酸化剤ガス流路107は、ガス不透過である緻密性カーボン材等による燃料極セパレータ108及び酸化剤極セパレータ109の片面又は両面に配置されたに多数のリブにより形成され、酸化剤ガス及び燃料ガスはそれぞれの図示しないガス入口から供給され、図示しないガス出口から排出される。
【0016】
再度、図1を参照する。コントロールユニット20は、燃料電池システム1を制御するものである。また、コントロールユニット20は、燃料電池スタック10の電圧を検出し、検出した電圧値に応じて燃料電池スタック10の出力電流を負荷制御ユニット30を介して制御する機能を有している。
【0017】
このような燃料電池システム1においては、まず、供給配管41,42を通じて燃料電池スタック10に反応ガスが導入される。このとき、コントロールユニット20は、燃料電池スタック10の電圧値を検出する。そして、検出した電圧値が第1所定電圧値以上であるか否かを判断する。
【0018】
ここで、コントロールユニット20は、検出した電圧値が第1所定電圧値以上であるか否かを判断することにより、燃料電池スタック10の電解質膜101の含水状態を判断している。すなわち、電解質膜101が乾燥すると水素が酸化剤極103へ透過する(クロスオーバー)量の減少により反応ガス導入後の燃料電池スタック10の電圧が高くなる。このため、反応ガス導入後の燃料電池スタック10の電圧を検知することにより電解質膜101の含水状態を検出することができる。また、電解質膜101が乾燥して抵抗値が上昇してしまうと、抵抗分極が過大となってしまう。このように抵抗分極が過大となると次回発電時に燃料電池スタック10の少なくとも一つのセルの電圧が0V以下となり、燃料電池の性能劣化を招く可能性がある。そこで、コントロールユニット20は、検出した電圧値が第1所定電圧値以上である場合、燃料電池スタック10の出力電流を小さくする。
【0019】
図3は、第1実施形態に係る燃料電池システム1の動作を示すグラフであり、(a)は検出した電圧値が第1所定電圧値以上でない場合の電圧状態を示し、(b)は検出した電圧値が第1所定電圧値以上でない場合の電流状態を示している。また、(c)は検出した電圧値が第1所定電圧値以上である場合の電圧状態を示し、(d)は検出した電圧値が第1所定電圧値以上である場合の電流状態を示している。
【0020】
まず、図3(a)に示す例では、時刻t1において反応ガスを導入した後の電圧値Vstackは第1所定電圧値V1以上となっていない。このとき、電解質膜101は適度な含水状態にあると考えられ、コントロールユニット20は通常の処理を行う。すなわち、図3(b)に示すように、時刻t2から出力電流を通常の電流値とする。
【0021】
一方、図3(c)に示す例では、時刻t1において反応ガスを導入した後の電圧値Vstackは第1所定電圧値V1以上となっている。このとき、電解質膜101は乾燥状態にあると考えられ、コントロールユニット20は、少なくとも一つのセルの電圧が0V以下とならないように出力電流を抑える。すなわち、図3(d)に示すように、出力電流を通常電流値よりも小さい電流値I1に制御する。このように、出力電流値を小さくすることで、抵抗分極により燃料電池スタック内の少なくとも一つのセルの電圧が0V以下となることを防止している。
【0022】
次に、第1実施形態に係る燃料電池システム1の詳細動作を説明する。図4は、第1実施形態に係る燃料電池システム1の詳細動作を示すフローチャートである。図4に示すように、まず、燃料電池システム1を起動すると、燃料電池スタック10に反応ガスが導入される(ST1)。そして、コントロールユニット20は、燃料電池スタック10の電圧値を検出する(ST2)。次いで、コントロールユニット20は、検出した電圧値Vstackが第1所定電圧値V1以上であるか否かを判断する(ST3)。
【0023】
ここで、検出した電圧値Vstackが第1所定電圧値V1以上でないと判断した場合(ST3:NO)、図4に示す処理は終了し、その後、燃料電池システム1は通常の発電を行っていく。一方、検出した電圧値Vstackが第1所定電圧値V1以上であると判断した場合(ST3:YES)、コントロールユニット20は低負荷電流を取り出す(ST4)。すなわち、図3(d)に示したように、コントロールユニット20は出力電流を通常電流値よりも小さい電流値I1に制御する。
【0024】
図5は、電圧値Vstackが第1所定電圧値V1以上となる場合における電圧値及び電流値を示すグラフであって、(a)は出力電流を通常電流とした場合における電圧状態を示し、(b)は出力電流を通常電流とした場合における電流状態を示している。また、(c)は出力電流を電流I1とした場合における電圧状態を示し(d)は出力電流を電流I1とした場合における電流状態を示している。
【0025】
まず、図5(a)及び(b)に示すように、時刻t1において電圧値Vstackが第1所定電圧値V1以上となり、時刻t2において出力電流を通常電流値としたとする。このとき、図5(a)に示すように、燃料電池スタック10の電圧値Vstackは0Vを下回ることがあり、燃料電池の性能劣化を招くこととなる。
【0026】
これに対し、図5(c)及び(d)に示すように、時刻t1において電圧値Vstackが第1所定電圧値V1以上となり、時刻t2において出力電流を通常電流値よりも低い電流値I1としたとする。このとき、図5(c)に示すように、燃料電池スタック10の電圧値Vstackは0Vを下回らず、燃料電池の性能劣化を防止することとなる。
【0027】
再度、図4を参照する。低負荷電流を取り出した後(ST4の後)、コントロールユニット20は、電圧値Vstackの微分値が正となっているか否かを判断する(ST5)。電圧値Vstackの微分値が正となっていないと判断した場合(ST5:NO)、正となったと判断されるまで、この処理が繰り返される。他方、電圧値Vstackの微分値が正となったと判断した場合(ST5:YES)、コントロールユニット20は負荷電流を増大させる(ST6)。すなわち、コントロールユニット20は出力電流を通常電流値に戻す。その後、図4に示す処理は終了して、燃料電池システム1は通常の発電を行っていくこととなる。
【0028】
図6は、出力電流を電流I1とした場合における電圧状態を示すグラフである。同図に示すように、時刻t1〜t2の期間において電圧値Vstackの微分値は負であるか「0」である。ところが、時刻t2において出力電流を電流値I1とした後、電圧値Vstackは少しずつ上昇していく。このため、電圧変化の微分値が正となる。ここで、電流値Vstackの微分値が正となる場合、電解質膜101が徐々に含水することにより抵抗値が低下しているといえる。このため、出力電流値を大きくしても燃料電池スタック内の少なくとも一つのセルの電圧が0V以下となり難くなっている。よって、コントロールユニット20は、電圧値Vstackの微分値が正となったと判断した場合、負荷電流を増大させることとしている。
【0029】
このようにして、第1実施形態に係る燃料電池システム1によれば、燃料電池スタック10の電圧を検出し、燃料ガス及び酸化剤ガスが供給された場合に、検出した電圧値Vstackが第1所定電圧値V1以上であるときには、検出した電圧値Vstackが第1所定電圧値V1以上でないときにおいて出力される通常電流値よりも、出力電流値を小さくする。ここで、電解質膜101が乾燥すると水素が酸化剤極へ透過する(クロスオーバー)量の減少により反応ガス導入後の燃料電池スタック10の電圧が高くなる。このため、反応ガス導入後の燃料電池スタック10の電圧を検知することにより電解質膜101の含水状態を検知することができる。そして、検出した電圧値Vstackが第1所定電圧値V1以上である場合、すなわち、電解質膜101が乾燥している場合は、出力電流値を小さくすることで、抵抗分極により燃料電池スタック内の少なくとも一つのセルの電圧が0V以下となることを防止する。従って、燃料電池の性能劣化を防止することができる。
【0030】
また、出力電流値を小さく制御した後に、燃料電池スタック10の電圧変化の微分値が正となった場合、出力電流値を通常電流値に戻すこととしている。ここで、電圧変化の微分値が正となった場合とは、電解質膜101が徐々に含水して抵抗値が低下した場合と言える。このため、出力電流値を大きくしても燃料電池スタック内の少なくとも一つのセルの電圧が0V以下とならず、燃料電池の性能劣化を防止しつつも、零下時における使用においては電流値を素早く増大させて昇温を速やかに行うことができる。
【0031】
次に、本発明の第2実施形態を説明する。第2実施形態に係る燃料電池システム2は、第1実施形態のものと同様であるが、処理内容が異なっている。以下、第1実施形態との相違点を説明する。
【0032】
図7は、本発明の第2実施形態に係る燃料電池システム2の詳細動作を示すフローチャートである。なお、図7に示すステップST11〜ST14の処理は図4に示すステップST1〜ST4の処理と同様であるため、説明を省略する。出力電流を小さくする制御をした後(ST4の後)、コントロールユニット20は、通常電流値に達するまで、出力電流を徐々に大きくしていく(ST15)。そして、電流値が通常電流値に達すると図7に示す処理は終了して、燃料電池システム2は通常の発電を行っていくこととなる。
【0033】
ここで、ステップST15のように出力電流値を徐々に大きくしていった場合、上記(2)式の反応によって生成される水の量が多くなっていく。このため、生成される水によって電解質膜101を湿潤とすることができ、電解質膜101の抵抗を下げることとなる。よって、燃料電池スタック内の少なくとも一つのセルの電圧が0V以下とならないようにして燃料電池の性能劣化を防止しつつも、燃料電池スタックの昇温を速やかに行うこととなる。
【0034】
このようにして、第2実施形態に係る燃料電池システム2によれば、第1実施形態と同様に、燃料電池の性能劣化を防止することができる。
【0035】
さらに、第2実施形態によれば、出力電流値を小さく制御した後には、通常電流値に達するまで出力電流値を徐々に大きくしていくこととしている。ここで、出力電流値を徐々に大きくしていった場合、上記(2)式の反応によって生成される水の量が多くなっていく。このため、生成される水によって電解質膜101を湿潤とすることができ、電解質膜101の抵抗を下げることとなる。よって、燃料電池スタック内の少なくとも一つのセルの電圧が0V以下とならないようにして燃料電池の性能劣化を防止しつつも、燃料電池スタックの昇温を速やかに行うことができる。
【0036】
次に、本発明の第3実施形態を説明する。第3実施形態に係る燃料電池システム3は、第1実施形態のものと同様であるが、構成及び処理内容が異なっている。以下、第1実施形態との相違点を説明する。
【0037】
図8は、本発明の第3実施形態に係る燃料電池システム3の構成図である。同図に示すように、燃料電池システム3は、新たに温度センサ(温度検出手段)50を備えている。温度センサ50は、燃料電池スタック10の温度を検出するものであって、コントロールユニット20に接続されている。このため、本実施形態のコントロールユニット20は、温度センサ50からの信号に基づいて、燃料電池システム3の制御を行うようになっている。
【0038】
図9は、第3実施形態に係る燃料電池システム3の詳細動作を示すフローチャートである。なお、図9に示すステップST21〜ST24の処理は図4に示すステップST1〜ST4の処理と同様であるため、説明を省略する。
【0039】
出力電流を小さくする制御をした後(ST24の後)、コントロールユニット20は、温度センサ50から信号を読み込んで、燃料電池スタック10の温度Tstackを検出する(ST25)。次いで、コントロールユニット20は、温度センサ50により検出された燃料電池スタック10の温度Tstackが第1所定温度T1以上であるか否かを判断する(ST26)。
【0040】
ここで、燃料電池スタック10の温度Tstackが第1所定温度T1以上でないと判断した場合(ST26:NO)、第1所定温度T1以上であると判断されるまで、この処理が繰り返される。他方、燃料電池スタック10の温度Tstackが第1所定温度T1以上であると判断した場合(ST26:YES)、コントロールユニット20は出力電流を通常電流値に戻す(ST27)。その後、図9に示す処理は終了して、燃料電池システム3は通常の発電を継続していくこととなる。
【0041】
このようにして、第3実施形態に係る燃料電池システム3によれば、第1実施形態と同様に、燃料電池の性能劣化を防止することができる。
【0042】
さらに、第3実施形態によれば、出力電流値を小さく制御した後に、燃料電池スタック10の温度Tstackが第1所定温度T1以上となった場合、出力電流値を通常電流値に戻すこととしている。ここで、温度が高くなると電解質膜101は抵抗が小さくなる傾向がある。このため、燃料電池スタック10の電圧Vstackを一定時間監視してその微分値を求めることなく、燃料電池スタック10の温度Tstackを基準とすることで、燃料電池の性能劣化を防止しつつも、より簡素な構成で燃料電池スタック10の昇温を速やかに行うことができる。
【0043】
次に、本発明の第4実施形態を説明する。第4実施形態に係る燃料電池システム4は、第1実施形態のものと同様であるが、構成及び処理内容が異なっている。以下、第1実施形態との相違点を説明する。
【0044】
図10は、本発明の第4実施形態に係る燃料電池システム4の構成図である。同図に示すように、燃料電池システム4は、新たにコンプレッサ61,62及び圧力制御弁63,64を備えている。
【0045】
コンプレッサ61,62は、燃料供給配管41及び酸化剤供給配管42にそれぞれ設けられ、水素及び空気を圧縮して燃料電池スタック10に送り込むものである。圧力制御弁63,64は、燃料排出配管43及び酸化剤排出配管44にそれぞれ設けられ、燃料電池スタック10からの水素及び空気の排出量を調整する構成となっている。この圧力制御弁63,64の排出量の調整によって、燃料電池スタック10のガス圧力が制御されることとなる。なお、コンプレッサ61,62及び圧力制御弁63,64の制御は、コントロールユニット20によって行われるようになっている。このため、本実施形態においてコントロールユニット20は圧力を制御する手段として機能することとなる。
【0046】
図11は、第4実施形態に係る燃料電池システム4の詳細動作を示すフローチャートである。なお、図11に示すステップST31〜ST33の処理は図4に示すステップST1〜ST3の処理と同様であるため、説明を省略する。
【0047】
電圧値Vstackが第1所定電圧値V1以上であると判断した後(ST33にて「YES」と判断した後)、コントロールユニット20は燃料電池スタック10に供給される燃料ガス及び酸化剤ガスのガス圧力を増大させる(ST34)。すなわち、コントロールユニット20は、検出された電圧値Vstackが第1所定電圧値V1以上でないときにおける通常のガス圧力よりも、ガス圧力を高くする。
【0048】
ここで、ガス圧力を高くすると拡散分極を低減することができる。このため、拡散分極を小さくして燃料電池スタック10のセル電圧が0V以下となること一層防止することができる。
【0049】
次いで、コントロールユニット20は出力電流を通常電流値よりも小さい電流値I1に制御する(ST35)。その後、コントロールユニット20は、電圧値Vstackの微分値が正となっているか否かを判断する(ST36)。電圧値Vstackの微分値が正となっていないと判断した場合(ST36:NO)、正となったと判断されるまで、この処理が繰り返される。他方、電圧値Vstackの微分値が正となったと判断した場合(ST36:YES)、コントロールユニット20は、ガス圧力を通常のガス圧力に戻す(ST37)。
【0050】
そして、コントロールユニット20は、負荷電流を増大させる(ST38)。すなわち、コントロールユニット20は出力電流を通常電流値に戻す。その後、図11に示す処理は終了して、燃料電池システム4は通常の発電を継続していくこととなる。
【0051】
このようにして、第4実施形態に係る燃料電池システム4によれば、第1実施形態と同様に、燃料電池の性能劣化を防止することができ、燃料電池の性能劣化を防止しつつも、零下時における使用においては電流値を素早く増大させて昇温を速やかに行うことができる。
【0052】
さらに、第4実施形態によれば、検出した電圧値Vstackが第1所定電圧値V1以上である場合には出力電流値を小さくするだけでなく、ガス圧力を高くすることとしている。ここで、ガス圧力を高くすると拡散分極を低減することができる。このため、拡散分極を小さくして燃料電池スタック10のセル電圧が0V以下となること一層防止することができる。従って、燃料電池の性能劣化を一層防止することができる。
【0053】
また、ガス圧力を高く制御した後に、燃料電池スタック10の電圧変化の微分値が正となった場合、ガス圧力を通常のガス圧力に戻すこととしている。ここで、微分値が正である場合、電解質膜101が徐々に湿潤状態となっており、抵抗分極は低下している。このため、ガス圧力を戻しても燃料電池スタック10の少なくとも一つのセルの電圧が0V以下とならず、燃料電池の性能劣化を防止しつつも昇温を速やかに行うことができる。また反応ガスの圧力を下げるため、ガス圧力を上昇させるのに必要となるエネルギーを節約することができる。
【0054】
次に、本発明の第5実施形態を説明する。第5実施形態に係る燃料電池システム5は、上記実施形態のものと同様であるが、構成及び処理内容が異なっている。以下、上記実施形態との相違点を説明する。
【0055】
図12は、本発明の第5実施形態に係る燃料電池システム5の構成図である。同図に示すように、燃料電池システム5は、加熱部(加熱手段)70を備えている。加熱部70は、燃料電池スタック10を加熱するものであり、コントロールユニット20によって制御されるようになっている。このため、本実施形態においてコントロールユニット20は、加熱を制御する手段として機能することとなる。
【0056】
図13は、第5実施形態に係る燃料電池システム5の詳細動作を示すフローチャートである。図13に示すように、まず、コントロールユニット20は、温度センサ50からの信号を読み込んで、燃料電池スタック10の温度Tstackが水分凍結温度(例えば0度)以下であるか否かを判断する(ST41)。燃料電池スタック10の温度Tstackが水分凍結温度以下でないと判断した場合(ST41:NO)、図13に示す処理は終了し、燃料電池システム5は通常の発電を行っていく。
【0057】
一方、燃料電池スタック10の温度Tstackが水分凍結温度以下であると判断した場合(ST41:YES)、ステップST42,ST43において図4のステップST1,ST2と同様の処理が実行される。そして、コントロールユニット20は、燃料電池スタック10の電圧値Vstackが第1所定電圧値V1よりも小さい第2所定電圧値V2未満であるか否かを判断する(ST44)。
【0058】
ここで、燃料電池スタック10の電圧値Vstackが第2所定電圧値V2未満であると判断した場合(S44:YES)、ステップST45〜ST47において図11のステップST33〜ST35と同様の処理が実行される。
【0059】
次いで、コントロールユニット20は、燃料電池スタック10の温度Tstackを検出し、検出した燃料電池スタック10の温度Tstackが第1所定温度T1以上であるか否かを判断する(ST48)。燃料電池スタック10の温度Tstackが第1所定温度T1以上でないと判断した場合(ST48:NO)、第1所定温度T1以上であると判断されるまで、この処理が繰り返される。
【0060】
他方、燃料電池スタック10の温度Tstackが第1所定温度T1以上であると判断した場合(ST48:YES)、コントロールユニット20はガス圧力を低下させ(ST49)、出力電流を通常電流値に戻し(ST50)、その後、図13に示す処理は終了する。これにより、燃料電池システム5は通常の発電処理を行っていくこととなる。
【0061】
ところで、燃料電池スタック10の電圧値Vstackが第2所定電圧値V2未満でないと判断した場合(S44:NO)、コントロールユニット20は、加熱部70によって燃料電池スタック10を加熱させる(ST51)。ここで、零下時(水分凍結温度以下の状況下)において電圧値Vstackが第2所定電圧値V2未満である場合、触媒層の反応サイトが凍結した水分で覆われて電圧が低下していると考えられる。このため、コントロールユニット20は、燃料電池スタック10を加熱し、凍結した水分を溶かすこととしている。これにより、凍結水分による発電性能の低下を防止している。また、加熱部70による加熱によって、燃料電池スタックを昇温させてから電流を取り出すことにより、電流取り出し直後に燃料電池スタック内の少なくとも一つのセルの電圧が0V以下となることを防止している。
【0062】
次いで、コントロールユニット20は、燃料電池スタック10の温度Tstackが第2所定温度T2を超えるか否かを判断する(ST52)。ここで、第2所定温度T2は、凍結水分が充分に溶ける温度である。
【0063】
燃料電池スタック10の温度Tstackが第2所定温度T2を超えないと判断した場合(ST52:NO)、超えると判断されるまで、この処理が繰り返される。一方、燃料電池スタック10の温度Tstackが第2所定温度T2を超えると判断した場合(ST52:YES)、コントロールユニット20は、加熱部70による加熱を停止する(ST53)。そして、図13に示す処理は終了し、燃料電池システム5は通常の発電処理を行っていくこととなる。
【0064】
このようにして、第5実施形態に係る燃料電池システム5によれば、上記実施形態と同様に、燃料電池の性能劣化を防止することができ、燃料電池の性能劣化を防止しつつも、より簡素な構成で燃料電池スタック10の昇温を速やかに行うことができる。また、燃料電池の性能劣化を一層防止することができる。
【0065】
さらに、第5実施形態によれば、ガス圧力を高く制御した後に、燃料電池スタック10の温度Tstackが第1所定温度T1以上となった場合、ガス圧力を通常のガス圧力に戻すこととしている。ここで、温度が高くなると電解質膜101は抵抗が小さくなる傾向がある。このため、燃料電池スタック10の電圧Vstackを一定時間監視してその微分値を求めることなく、燃料電池スタック10の温度Tstackを基準とすることで、燃料電池の性能劣化を防止しつつも、より簡素な構成で燃料電池スタックの昇温を速やかに行うことができる。また反応ガスの圧力を下げるため、ガス圧力を上昇させるのに必要となるエネルギーを節約することができる。
【0066】
また、燃料電池スタック10が零下時において起動されて燃料電池スタック10に燃料ガス及び酸化剤ガスが供給された場合、検出した電圧値Vstackが第1所定電圧値V1よりも小さい第2所定電圧値V2未満であるときには、燃料電池スタック10を加熱することとしている。ここで、零下時において電圧値Vstackが第2所定電圧値V2未満である場合、触媒層の反応サイトが凍結した水分で覆われて電圧が低下していると考えられる。このため、燃料電池スタックを加熱することで、凍結した水分を溶かして、凍結水分による発電性能の低下を防止することができる。また、加熱部70による加熱によって、燃料電池スタック10を昇温させてから電流を取り出すことにより、電流取り出し直後に燃料電池スタック10の少なくとも一つのセルの電圧が0V以下となることを防止することができる。従って、発電性能の低下を防止しつつ、燃料電池の性能劣化を防止することができる。
【0067】
また、燃料電池スタック10の温度Tstackが第2所定温度T2を超えた場合、加熱を停止することとしている。このため、凍結した水分を溶かした後に加熱を行わないこととし、加熱に必要となるエネルギーを節約することができる。
【0068】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、変更を加えてもよいし、各実施形態を組み合わせるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の第1実施形態に係る燃料電池システムの構成図である。
【図2】図1に示した燃料電池スタックを構成する固体高分子電解質型燃料電池のセル構造を示す模式断面図である。
【図3】第1実施形態に係る燃料電池システム1の動作を示すグラフであり、(a)は検出した電圧値が第1所定電圧値以上でない場合の電圧状態を示し、(b)は検出した電圧値が第1所定電圧値以上でない場合の電流状態を示し、(c)は検出した電圧値が第1所定電圧値以上である場合の電圧状態を示し、(d)は検出した電圧値が第1所定電圧値以上である場合の電流状態を示している。
【図4】第1実施形態に係る燃料電池システム1の詳細動作を示すフローチャートである。
【図5】電圧値Vstackが第1所定電圧値V1以上となる場合における電圧値及び電流値を示すグラフであって、(a)は出力電流を通常電流とした場合における電圧状態を示し、(b)は出力電流を通常電流とした場合における電流状態を示し、(c)は出力電流を電流I1とした場合における電圧状態を示し(d)は出力電流を電流I1とした場合における電流状態を示している。
【図6】出力電流を電流I1とした場合における電圧状態を示すグラフである。
【図7】本発明の第2実施形態に係る燃料電池システムの詳細動作を示すフローチャートである。
【図8】本発明の第3実施形態に係る燃料電池システムの構成図である。
【図9】第3実施形態に係る燃料電池システムの詳細動作を示すフローチャートである。
【図10】本発明の第4実施形態に係る燃料電池システムの構成図である。
【図11】第4実施形態に係る燃料電池システムの詳細動作を示すフローチャートである。
【図12】本発明の第5実施形態に係る燃料電池システムの構成図である。
【図13】第5実施形態に係る燃料電池システムの詳細動作を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0070】
1〜5…燃料電池システム
10…燃料電池スタック
20…コントロールユニット(電流制御手段、圧力制御手段、加熱制御手段)
30…負荷制御ユニット
41…燃料供給配管
42…酸化剤供給配管
43…燃料排出配管
44…酸化剤排出配管
50…温度センサ(温度検出手段)
61,62…コンプレッサ
63,64…圧力制御弁
70…加熱部(加熱手段)
101…高分子電解質膜
102…燃料極
103…酸化剤極
110…膜電極接合体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子電解質膜とこの電解質膜を挟持する燃料極及び酸化剤極とからなる膜電極接合体、並びに、該膜電極接合体に燃料ガス及び酸化剤ガスを供給する流路が形成されたセパレータを有する燃料電池が複数積層された燃料電池スタックと、
前記燃料電池スタックの電圧を検出する電圧検出手段と、
前記電圧検出手段により検出された電圧値に応じて燃料電池スタックの出力電流を制御する電流制御手段と、を備え、
前記電流制御手段は、該燃料電池スタックに燃料ガス及び酸化剤ガスが供給された場合、前記電圧検出手段により検出された電圧値が第1所定電圧値以上となるときには、前記電圧検出手段により検出された電圧値が第1所定電圧値以上でないときにおいて出力される通常電流値よりも、出力電流値を小さくする
ことを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
前記電流制御手段は、出力電流値を小さく制御した後に、前記燃料電池スタックの電圧変化の微分値が正となった場合、出力電流値を前記通常電流値に戻すことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記燃料電池スタックの温度を検出する温度検出手段をさらに備え、
前記電流制御手段は、出力電流値を小さく制御した後に、前記温度検出手段により検出された前記燃料電池スタックの温度が第1所定温度以上となった場合、出力電流値を前記通常電流値に戻す
ことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記電流制御手段は、出力電流値を小さく制御した後に、前記通常電流値に達するまで出力電流値を徐々に大きくしていくことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項5】
前記燃料電池スタックに供給される燃料ガス及び酸化剤ガスのガス圧力を制御する圧力制御手段をさらに備え、
前記圧力制御手段は、該燃料電池スタックに燃料ガス及び酸化剤ガスが供給された場合、前記電圧検出手段により検出された電圧値が第1所定電圧値以上となるときには、前記電圧検出手段により検出された電圧値が第1所定電圧値以上でないときにおける通常のガス圧力よりも、ガス圧力を高くする
ことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項6】
前記圧力制御手段は、ガス圧力を高く制御した後に、前記燃料電池スタックの電圧変化の微分値が正となった場合、ガス圧力を前記通常のガス圧力に戻すことを特徴とする請求項5記載の燃料電池システム。
【請求項7】
前記燃料電池スタックの温度を検出する温度検出手段をさらに備え、
前記圧力制御手段は、ガス圧力を高く制御した後に、前記温度検出手段により検出された前記燃料電池スタックの温度が第1所定温度以上となった場合、ガス圧力を前記通常のガス圧力に戻す
ことを特徴とする請求項5記載の燃料電池システム。
【請求項8】
前記燃料電池スタックを加熱する加熱手段と、
前記加熱手段の作動を制御する加熱制御手段とをさらに備え、
前記加熱制御手段は、前記燃料電池スタックが零下時において起動されて前記燃料電池スタックに燃料ガス及び酸化剤ガスが供給された場合、前記電圧検出手段により検出された電圧値が第1所定電圧値よりも小さい第2所定電圧値未満であるときには、前記加熱手段によって燃料電池スタックを加熱する
ことを特徴とする請求項1記載の燃料電池システム。
【請求項9】
前記燃料電池スタックの温度を検出する温度検出手段をさらに備え、
前記加熱制御手段は、前記温度検出手段により検出された燃料電池スタックの温度が、凍結した水分が溶けるとして予め設定された第2所定温度を超えた場合、前記加熱手段による加熱を停止する
ことを特徴とする請求項8記載の燃料電池システム。
【請求項1】
高分子電解質膜とこの電解質膜を挟持する燃料極及び酸化剤極とからなる膜電極接合体、並びに、該膜電極接合体に燃料ガス及び酸化剤ガスを供給する流路が形成されたセパレータを有する燃料電池が複数積層された燃料電池スタックと、
前記燃料電池スタックの電圧を検出する電圧検出手段と、
前記電圧検出手段により検出された電圧値に応じて燃料電池スタックの出力電流を制御する電流制御手段と、を備え、
前記電流制御手段は、該燃料電池スタックに燃料ガス及び酸化剤ガスが供給された場合、前記電圧検出手段により検出された電圧値が第1所定電圧値以上となるときには、前記電圧検出手段により検出された電圧値が第1所定電圧値以上でないときにおいて出力される通常電流値よりも、出力電流値を小さくする
ことを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
前記電流制御手段は、出力電流値を小さく制御した後に、前記燃料電池スタックの電圧変化の微分値が正となった場合、出力電流値を前記通常電流値に戻すことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記燃料電池スタックの温度を検出する温度検出手段をさらに備え、
前記電流制御手段は、出力電流値を小さく制御した後に、前記温度検出手段により検出された前記燃料電池スタックの温度が第1所定温度以上となった場合、出力電流値を前記通常電流値に戻す
ことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記電流制御手段は、出力電流値を小さく制御した後に、前記通常電流値に達するまで出力電流値を徐々に大きくしていくことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項5】
前記燃料電池スタックに供給される燃料ガス及び酸化剤ガスのガス圧力を制御する圧力制御手段をさらに備え、
前記圧力制御手段は、該燃料電池スタックに燃料ガス及び酸化剤ガスが供給された場合、前記電圧検出手段により検出された電圧値が第1所定電圧値以上となるときには、前記電圧検出手段により検出された電圧値が第1所定電圧値以上でないときにおける通常のガス圧力よりも、ガス圧力を高くする
ことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項6】
前記圧力制御手段は、ガス圧力を高く制御した後に、前記燃料電池スタックの電圧変化の微分値が正となった場合、ガス圧力を前記通常のガス圧力に戻すことを特徴とする請求項5記載の燃料電池システム。
【請求項7】
前記燃料電池スタックの温度を検出する温度検出手段をさらに備え、
前記圧力制御手段は、ガス圧力を高く制御した後に、前記温度検出手段により検出された前記燃料電池スタックの温度が第1所定温度以上となった場合、ガス圧力を前記通常のガス圧力に戻す
ことを特徴とする請求項5記載の燃料電池システム。
【請求項8】
前記燃料電池スタックを加熱する加熱手段と、
前記加熱手段の作動を制御する加熱制御手段とをさらに備え、
前記加熱制御手段は、前記燃料電池スタックが零下時において起動されて前記燃料電池スタックに燃料ガス及び酸化剤ガスが供給された場合、前記電圧検出手段により検出された電圧値が第1所定電圧値よりも小さい第2所定電圧値未満であるときには、前記加熱手段によって燃料電池スタックを加熱する
ことを特徴とする請求項1記載の燃料電池システム。
【請求項9】
前記燃料電池スタックの温度を検出する温度検出手段をさらに備え、
前記加熱制御手段は、前記温度検出手段により検出された燃料電池スタックの温度が、凍結した水分が溶けるとして予め設定された第2所定温度を超えた場合、前記加熱手段による加熱を停止する
ことを特徴とする請求項8記載の燃料電池システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2007−35516(P2007−35516A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−219531(P2005−219531)
【出願日】平成17年7月28日(2005.7.28)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年7月28日(2005.7.28)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
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