説明

燃料電池システム

【課題】一部のスタックの故障においても残りの正常なスタックで発電を継続する燃料電池システムを提供する。
【解決手段】直列に接続した複数のスタック(12A−12G)を有する電源回路(10A)を有し、電源回路(10A)は、前記各スタック(12A−12G)から分岐するバイパス回路(18A−18G)と、一部のセル電圧が閾値以下になったことを検知して電源回路(10A)と負荷とを遮断する接触器(19)と、各スタック(12A−12G)と電気的に直列に接続すると共に接触器(19)により電源回路と負荷とを遮断した後に前記検知されたスタックからバイパス回路(18A−18G)に切り換えるスイッチ(17A−17G)とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池を用いて発電する燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池システムは、大出力で用いる場合、大電圧を発生させるために1セルあたり1.0V程度の燃料電池セルを複数枚直列に接続してスタック構造にし、さらに、このスタックを直列に接続して利用される。しかし、燃料電池システムは運転中にフラッディングやクロスリーク、また、高分子膜や触媒の劣化により、一部のセルに発電不良が起こる場合があり、このような不具合が起きた場合、全てのセルが直列に接続されている構成では、1セルでも発電不良なセルが検知されると、燃料電池システム本体の停止を余儀なくされていた。
【0003】
この課題に対して、別の燃料電池システムでは、不良セルを含むスタックに対して外部電源を含むバイパス回路を並列に接続して、分流により不良セルの負荷量を下げていた(特許文献1参照)。
【0004】
別の燃料電池システムでは、バッテリ等の別の電源を用い、バッテリに電源を切り換ええた後に燃料電池システムを一旦停止させてパージ等の処理を行い、再度起動していた(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−78625号公報
【特許文献2】特開2006−120430号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1は、具体的なバイパス回路及びバイパス回路の接続方法を明確に開示していなかった。
【0007】
また、特許文献2の方法は、セル電圧が低下した場合に、発電を継続して行うことができなかった。
【0008】
そこで、本発明の目的は、一部のスタックの故障においても残りのスタックで発電を継続する燃料電池システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以下、符号を付して本発明の特徴を説明する。なお、符号は参照のためであり、本発明の実施形態に限定するものでない。
【0010】
本発明の第1の特徴に係わる燃料電池システム(1)は、スタック(12A−12G)と、スタック故障時に故障スタックを電気的にバイパスさせるバイパス回路(14A−14G)と、スタックの故障を検知して、バイパス回路へ切り換えを行うスイッチ(13A−13G)を有する。バイパス回路は整流素子(15A−15G)を有し、整流素子(15A−15G)はダイオードを用いる。
【0011】
本発明の第2の特徴に係わる燃料電池システム(1A)は、スタック(12A−12G)と、スタックの故障時に、まず、燃料電池システムと負荷とを電気的に遮断する接触器(19)と、負荷を遮断後、故障スタックを電気的にバイパスさせるバイパス回路(18A−18G)と、スタックの故障を検知して、バイパス回路へ切り換えを行うスイッチ(17A−17G)を有する。
【0012】
上記第1又は第2の特徴において、スタック(12A−12G)を構成するセルの電圧が閾値以下になった時に、不良セルを含むスタックだけを切り離し残りの正常なスタックにより運転の継続を可能とする。
【0013】
また、スタックの構成セル数を減らすことで、故障スタックを切り離した後も電圧低下の影響を低減して、運転継続を可能とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の第1の特徴によれば、一部のスタックが故障した場合、故障スタックに接続されているスイッチだけが開き、電流はバイパス回路を流れる。よって、燃料電池システムは残りの正常なスタックにより発電を継続することができる。
【0015】
また、故障したスタックを切り離す間にも、連続的に導通経路を変更することができる。
【0016】
本発明の第2の特徴によれば、スタックが故障した場合、まず、接触器を開いて電源回路と負荷とを遮断し、故障したスタックに接続されているスイッチをバイパス回路に切り換える。その後、接触器を閉じて、残りの正常なスタックにより発電を継続する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】第1及び第2の実施形態に係る燃料電池システムの概要ブロック図である。
【図2】第1の実施形態に係る燃料電池システムの回路図である。
【図3】図2に示す燃料電池システムの運転方法を示す回路図である。
【図4】第2の実施形態に係る燃料電池システムの回路図である。
【図5】(A)、(B)、(C)は、図4に示す燃料電池システムの運転方法を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して実施の形態を詳細に説明する。
【0019】
第1の実施形態
図1に示すように、燃料電池システム1は、電源装置3と、電源装置3と電気的に接続した制御装置7を有する。
【0020】
図2に示すように、電源装置3は、端子T1,T2の間に負荷を接続した電源回路10を有する。電源回路10は、スタック12A,12B,12C−12Gと、スタック12A−12Gに対して直列に接続したスイッチ13A,13B,13C−13Gと、各スタックに対して並列に接続した整流素子15A−15Gを有するバイパス回路14A,14B,14C−14Gを有する。
【0021】
スタック12A,12B,12C−12Gは、複数枚のセルを重ねて構成されたものであり、これらのセルは全て電気的に直列に接続されている。セルは、対向して配置された燃料極及び空気極と、各極の間に配置された電解質を有する。ここで、セルは、固体高分子形燃料セル、リン酸形燃料セルなど様々な種類の燃料電池セルの適用が考えられる。
【0022】
スタック12A−12Gから出力される電圧は、スタック12A−12Gを構成するセルの枚数により決まり、本発明を用いる場合、1スタックあたりのセル数を少なくすると、スタック故障時の電圧低下の影響を小さくすることができるなどのメリットがある。
【0023】
開閉スイッチ13A,13B,13C−13Gは、例えば、電磁スイッチを用いる。
【0024】
バイパス回路14A,14B,14C−14Gは、各スタック12A−12Gに対して並列に接続する。バイパス回路14A,14B,14C−14Gのそれぞれは、スタック12A,12B,12C−12Gのマイナス極側と分岐点A1−A7で接続し、開閉スイッチ13A−13Gの他端と分岐点A2−A8で接続する。
【0025】
バイパス回路14A,14B,14C−14Gのそれぞれは、整流素子としてのダイオード15A,15B,15C−15Gを有する。ダイオード15A,15B,15C−15G間は直列に接続されている。ダイオード15A,15B,15C−15Gは、導通により発熱するため、別途、冷却装置を用いる。冷却装置は、例えば、ファンである。
【0026】
電源装置3はセンサ部5を有する。センサ部5はスタック12A,12B,12C−12Gのセル電圧、温度等を測定して、これらの情報S1を制御装置7へ送る。
【0027】
制御装置7は、ECU(Electric Control Unit)である。制御装置7は、各スタック12A,12B,12C−12Gを構成するセルの電圧を常時監視している。一部のセル電圧が閾値以下となったとき、制御装置7は、セル電圧の低下を検知してスイッチ13A−13Gのうちから該当するスイッチに制御信号S2を送る。閾値は任意に設定・変更することができる。閾値は、例えば、燃料電池単セルの1.2Vの理論電圧に対して0.8Vに設定する。また、制御装置7は、複数枚のセルごとに電圧を監視してもよい。
【0028】
次に、図1〜3を参照して、燃料電池システム1の運転方法を説明する。
【0029】
図2は、全スタック12A,12B,12C−12Gが正常に動作している時の状態を示している。正常動作時は、スタック12A,12B,12C−12Gの総電圧が端子T1、T2間の負荷に印加される。矢印C1は、流れる電流を示す。制御装置7はスタック12A,12B,12C−12Gのセル電圧を監視している。
【0030】
ここで、図3に示すように、スタック12Bが故障した場合を想定する。このとき、図1において、制御装置7がセンサ部5から送られてきた情報S1に基づいてスタック12B中の発電不良なセルの電圧が閾値以下であると検知すると、制御信号S2を生成する。制御装置7は開閉スイッチ13Bへ制御信号S2を送る。開閉スイッチ13Bが制御信号S2に応答して開くと、故障したスタック12Bが電源回路10から切り離される。
【0031】
このとき、矢印C2で示す電流は分岐点A2からバイパス回路14Bへ流れ、ダイオイード15Bを通過して分岐点A3へ達する。電流は分岐点A3からスタック12C−12Gに流れる。これにより、バイパス回路14Bへ連続的に導通経路を変更することが可能であり、スタック12B以外の残りの正常なスタック12A、12C−12Gでバイパス回路14Bを経由して継続して運転することができる。
【0032】
第1の実施形態の燃料電池システム1によれば、一部のスタックが故障した場合でも、燃料電池システム1の発電を継続することができる。
【0033】
また、同システム1は、故障したスタックを切り離す間にも、連続的に導通経路を変更することができる。
【0034】
また、同システム1は、スイッチの切換後電気的に安全を確保した後、運転しながら、故障したスタックだけを修理又は交換して、再度、電源回路10に復帰させることも可能である。
【0035】
同システム1を用いれば、燃料電池を搭載した鉄道車両や自動車では、一部のスタックが故障した場合にも車両を停止させることなく運転を継続することが可能となる。
【0036】
第2の実施形態
図4に示すように、燃料電池システム1Aの電源回路10Aは、スタック12A−12Gと、スタック故障時に、燃料電池システムと負荷とを遮断する接触器19と、負荷を遮断後、故障スタックをバイパスさせるバイパス回路18A−18Gと、スタックの故障を検知して、バイパス回路18A−18Gへ切り換えを行うスイッチ17A−17Gを有する。
【0037】
バイパス回路18A,18B,18C−18Gは、スタック12A,12B,12C−12Gのマイナス極側と分岐点B1,B2,B3−B7で接続する。
【0038】
切換スイッチ17A,17B,17C−17Gは、スタック12A,12B,12C−12Gのプラス極側の端子と、バイパス回路18A,18B,18C−18Gの端子とを切り換え可能である。切換スイッチ17A,17B,17C−17Gは、例えば、電磁スイッチである。
【0039】
次に、図1,4,5を参照して、燃料電池システムの運転方法を説明する。
【0040】
図4は、全スタック12A,12B,12C−12Gが正常に動作している時の状態を示している。正常動作時は、スタック12A,12B,12C−12Gの総電圧がT1、T2の間の負荷に印加される。矢印C3は、流れる電流を示す。制御装置7はスタック12A,12B,12C−12Gのセルの電圧を監視している。
【0041】
ここで、図5(A)に示すように、スタック12Bが故障した場合を想定する。この時、図1において、制御装置7がセンサ部5からの情報S1に基づいてスタック12Bを構成する発電不良なセルの電圧が閾値以下であると検知し、制御信号S2を生成する。制御装置7は接触器19へ制御信号S2を送る。接触器19は制御信号S2に応答して開く。これにより、電源回路10Aと負荷とが遮断される。
【0042】
次に、図5(B)に示すように、接触器19により電源回路10Aと負荷とを遮断させた後に、切換スイッチ17Bは、制御信号S2に応答してスタック12Bのプラス極側の端子からバイパス回路18Bの端子に切り換える。このとき、電源回路10Aは遮断されているので、切換スイッチ17Bの動作時における大きなスパーク現象は防止できる。
【0043】
最後に、図5(C)に示すように、接触器19を閉じると、スタック12B以外の残りの正常なスタック12A,12C−12Gで発電が継続され、矢印C4で示す電流がバイパス回路18Bを経由して流れる。
【0044】
第2の実施形態の燃料電池システムによれば、第1の実施形態で用いられた冷却装置を必要としないので、装置構成の小型化を達成することができる。
【0045】
なお、以上の実施形態は発明の趣旨を変更しない範囲で変更、修正可能である。本発明の燃料電池システムは、例えば、鉄道車両、自動車、又は、家庭用等の電源に適用される。
【符号の説明】
【0046】
1 燃料電池システム
3 電源装置
5 センサ部
7 制御装置
10,10A 電源回路
12A−12G スタック
13A−13G 開閉スイッチ
14A−14G バイパス回路
15A−15G ダイオード
17A−17G 切換スイッチ
18A−18G バイパス回路
19 接触器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直列に接続した複数のスタックから構成される電源回路を有し、
前記電源回路は、
各スタックに対して並列に接続すると共に整流素子を有するバイパス回路と、
各スタックと電気的に直列に接続すると共に一部のセル電圧が低下して閾値以下になったことを検知して故障スタックを前記電源回路から切り離してバイパスさせるスイッチとを有した、
燃料電池システム。
【請求項2】
前記整流素子はダイオードを有する請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
直列に接続した複数のスタックから構成される電源回路を有し、
前記電源回路は、
各スタックから分岐するバイパス回路と、
一部のセル電圧が低下して閾値以下になったことを検知して電源回路と負荷とを遮断する接触器と、
各スタックと電気的に直列に接続すると共に前記接触器が前記電源回路と負荷とを遮断した後に前記検知されたスタックからバイパス回路に切り換えるスイッチとを有した、
燃料電池システム。
【請求項4】
一部のセル電圧が低下して閾値以下になった場合にも、故障したスタックを電源回路から切り離して残りの正常なスタックにより運転の継続を可能とする請求項1又は請求項3に記載の燃料電池システム。
【請求項5】
スタックあたりの構成セル数を減らすことで、故障スタックを切り離し後も電圧低下の影響を低減して運転の継続を可能とする請求項1又は請求項3に記載の燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−34782(P2011−34782A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−179320(P2009−179320)
【出願日】平成21年7月31日(2009.7.31)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】