説明

燃料電池システム

【課題】脈動運転時の発電性能及び排水性能を向上させる。
【解決手段】燃料電池スタック2に供給するアノードガスの圧力を周期的に増減圧させて発電するアノードガス非循環型の燃料電池システム1であって、燃料電池スタック2から排出されるアノードオフガスを蓄える下流バッファタンク47と、下流バッファタンク47の温度を燃料電池スタック2の温度に調節する下流バッファ温度調節機構472と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の燃料電池システムとして、アノードガス供給通路に常閉ソレノイド弁を設け、アノードガス排出通路に上流から順に常開ソレノイド弁とバッファタンク(リサイクルタンク)とを設けたものがある。
【0003】
この従来の燃料電池システムは、アノードガス排出通路に排出された未使用のアノードガスを、アノードガス供給通路に戻さないアノードガス非循環型の燃料電池システムであり、アノード圧力を調整する制御弁によって、運転状態に応じた脈動幅でアノードガスの圧力を増減圧させる脈動運転を実施していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2007−517369号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前述した従来の燃料電池システムは、バッファタンクの温度変化を考慮していなかった。そのため、バッファタンクの温度によっては、設定された脈動幅で脈動運転を実施すると、燃料電池スタック内部のアノードガス濃度が低下して発電の安定性が低下したり、液水の排出性能が低下するという問題点があった。
【0006】
本発明はこのような従来の問題点に着目してなされたものであり、バッファタンクの温度を一定に保つことで、安定した発電を行うとともに、液水の排出性能を確保することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、燃料電池に供給するアノードガスの圧力を周期的に増減圧させて発電するアノードガス非循環型の燃料電池システムである。そして、その燃料電池システムが、燃料電池から排出されるアノードオフガスを蓄える下流バッファタンクと、下流バッファタンクの温度を燃料電池の温度に調節する下流バッファ温度調節機構と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、下流バッファ温度調節機構によって下流バッファタンクの温度を燃料電池の温度に調節し、バッファタンクの温度を一定に保って下流バッファタンクと燃料電池との間に温度差が生じるのを抑制できる。したがって、安定した発電を行うことができるとともに、液水の排出性能を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】燃料電池の構成について説明する図である。
【図2】本発明の第1実施形態によるアノードガス非循環型の燃料電池システムの概略構成図である。
【図3】定常運転時における脈動運転について説明する図である。
【図4】アノードガス流路の内部で局所的にアノードガス濃度が他よりも低くなる部分が発生する理由について説明する図である。
【図5】本発明の第2実施形態によるアノードガス非循環型の燃料電池システムの概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面等を参照して本発明の実施形態について説明する。
【0011】
(第1実施形態)
燃料電池は電解質膜をアノード電極(燃料極)とカソード電極(酸化剤極)とで挟み、アノード電極に水素を含有するアノードガス(燃料ガス)、カソード電極に酸素を含有するカソードガス(酸化剤ガス)を供給することによって発電する。アノード電極及びカソード電極の両電極において進行する電極反応は以下の通りである。
【0012】
アノード電極 : 2H2 →4H+ +4e- …(1)
カソード電極 : 4H+ +4e- +O2 →2H2O …(2)
【0013】
この(1)及び(2)の電極反応によって燃料電池は1ボルト程度の起電力を生じる。
【0014】
図1は、本発明の一実施形態による燃料電池10の構成について説明する図である。図1(A)は、燃料電池10の概略斜視図である。図1(B)は、図1(A)の燃料電池10のB−B断面図である。
【0015】
燃料電池10は、膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly;以下「MEA」という)11の表裏両面に、アノードセパレータ12とカソードセパレータ13とが配置されて構成される。
【0016】
MEA11は、電解質膜111と、アノード電極112と、カソード電極113と、を備える。MEA11は、電解質膜111の一方の面にアノード電極112を有し、他方の面にカソード電極113を有する。
【0017】
電解質膜111は、フッ素系樹脂により形成されたプロトン伝導性のイオン交換膜である。電解質膜111は、湿潤状態で良好な電気伝導性を示す。
【0018】
アノード電極112は、触媒層112aとガス拡散層112bとを備える。触媒層112aは、電解質膜111と接する。触媒層112aは、白金又は白金等が担持されたカーボンブラック粒子から形成される。ガス拡散層112bは、触媒層112aの外側(電解質膜111の反対側)に設けられ、アノードセパレータ12と接する。ガス拡散層112bは、充分なガス拡散性および導電性を有する部材によって形成され、例えば、炭素繊維からなる糸で織成したカーボンクロスで形成される。
【0019】
カソード電極113もアノード電極112と同様に、触媒層113aとガス拡散層113bとを備える。
【0020】
アノードセパレータ12は、ガス拡散層112bと接する。アノードセパレータ12は、ガス拡散層112bと接する側にアノード電極112にアノードガスを供給するための複数の溝状のアノードガス流路121を有する。
【0021】
カソードセパレータ13は、ガス拡散層113bと接する。カソードセパレータ13は、ガス拡散層113bと接する側にカソード電極113にカソードガスを供給するための複数の溝状のカソードガス流路131を有する。
【0022】
アノードガス流路121を流れるアノードガスと、カソードガス流路131を流れるカソードガスとは、互いに平行に同一方向に流れる。互いに平行に逆方向に流れるようにしても良い。
【0023】
このような燃料電池10を自動車用動力源として使用する場合には、要求される電力が大きいため、数百枚の燃料電池10を積層した燃料電池スタックとして使用する。そして、燃料電池スタックにアノードガス及びカソードガスを供給する燃料電池システムを構成して、車両駆動用の電力を取り出す。
【0024】
図2は、本発明の第1実施形態によるアノードガス非循環型の燃料電池システム1の概略構成図である。
【0025】
燃料電池システム1は、燃料電池スタック2と、冷却装置3と、アノードガス供給装置4と、コントローラ5と、を備える。
【0026】
燃料電池スタック2は、複数枚の燃料電池10を積層したものであり、アノードガス及びカソードガスの供給を受けて発電し、車両の駆動に必要な電力(例えばモータを駆動するために必要な電力)を発電する。
【0027】
燃料電池スタック2にカソードガスを供給・排出するカソードガス給排装置については、本発明の主要部ではないので、理解を容易にするために図示を省略した。本実施形態ではカソードガスとして空気を使用している。
【0028】
冷却装置3は、低温冷却水通路31と、高温冷却水通路32と、冷却水循環ポンプ33と、ラジエータ34と、バイパス通路35と、三方弁36と、温度センサ37と、を備える。
【0029】
低温冷却水通路31は、燃料電池スタック2を冷却する冷却水のうち、ラジエータ34で冷却された相対的に温度の低い冷却水が流れる通路である。低温冷却水通路31を流れる冷却水の温度は概ね60[℃]から80[℃]程度である。低温冷却水通路31は、上流側低温冷却水通路31aと、下流側低温冷却水通路31bと、を備える。
【0030】
上流側低温冷却水通路31aは、一端部がラジエータ34に接続され、他端部が後述する下流バッファタンク47の通水部472に接続される。
【0031】
下流側低温冷却水通路31bは、一端部が下流側バッファタンク47の通水部472に接続され、他端部が燃料電池スタック2の冷却水入口孔21に接続される。
【0032】
高温冷却水通路32は、燃料電池スタック2を冷却する冷却水のうち、燃料電池スタック2から排出された相対的に温度の高い冷却水が流れる通路である。高温冷却水通路32を流れる冷却水の温度は概ね60[℃]から90[℃]程度である。高温冷却水通路32は、上流側高温冷却水通路32aと、下流側高温冷却水通路32bと、を備える。
【0033】
上流側高温冷却水通路32aは、一端部が燃料電池スタック2の冷却水出口孔22に接続され、他端部が後述する上流バッファタンク45の通水部452に接続される。
【0034】
下流側高温冷却水通路32bは、一端部が上流バッファタンク45の通水部452に接続され、他端部がラジエータ34に接続される。
【0035】
冷却水循環ポンプ33は、上流側低温冷却水通路31aに設けられて、冷却水を循環させる。
【0036】
ラジエータ34は、高温冷却水通路32を流れてきた冷却水の温度を下げて、低温冷却水通路31へと排出する。
【0037】
バイパス通路35は、ラジエータ34をバイパスさせて冷却水を循環させることができるように、一端部が下流側高温冷却水通路32bに接続され、他端部が三方弁36に接続される。
【0038】
三方弁36は、上流側低温冷却水通路31aに設けられる。三方弁36は、冷却水の温度に応じて冷却水の循環経路を切り替える。具体的には、冷却水の温度が相対的に高いときは、燃料電池スタック2から排出された冷却水が、ラジエータ34を介して再び燃料電池スタック2に供給されるように冷却水の循環経路を切り替える。逆に、冷却水の温度が相対的に低いときは、燃料電池スタック2から排出された冷却水が、ラジエータ34を介さずにバイパス通路35を流れて再び燃料電池スタック2に供給されるように冷却水の循環経路を切り替える。
【0039】
温度センサ37は、上流側高温冷却水通路32aに設けられて、上流側高温冷却水通路32aを流れる冷却水の温度を検出する。本実施形態では、温度センサ37で検出された冷却水の温度を燃料電池スタック2の温度として代用している。
【0040】
アノードガス供給装置4は、高圧タンク41と、アノードガス供給通路42と、調圧弁43と、圧力センサ44と、上流バッファタンク45と、アノードガス排出通路46と、下流バッファタンク47と、パージ通路48と、パージ弁49と、を備える。
【0041】
高圧タンク41は、燃料電池スタック2に供給するアノードガスを高圧状態に保って貯蔵する。
【0042】
アノードガス供給通路42は、高圧タンク41から排出されたアノードガスを燃料電池スタック2に供給するための通路であって、上流側アノードガス供給通路42aと、下流側アノードガス供給通路42bと、を備える。
【0043】
上流側アノードガス供給通路42aは、一端部が高圧タンク41に接続され、他端部が上流バッファタンク45の上部に接続される。
【0044】
下流側アノードガス供給通路42bは、一端部が上流バッファタンク45の下部に接続され、他端部が燃料電池スタック2のアノードガス入口孔23に接続される。
【0045】
調圧弁43は、上流側アノードガス供給通路42aに設けられる。調圧弁43は、高圧タンク41から排出されたアノードガスを所望の圧力に調節する。調圧弁43は、連続的又は段階的に開度を調節することができる電磁弁であり、その開度はコントローラ5によって制御される。
【0046】
圧力センサ44は、調圧弁43よりも下流の上流側アノードガス供給通路42aに設けられる。圧力センサ44は、調圧弁43よりも下流の上流側アノードガス供給通路42aを流れるアノードガスの圧力を検出する。本実施形態では、この圧力センサ44で検出したアノードガスの圧力を、燃料電池スタック内部の各アノードガス流路121と下流バッファタンク47とを含むアノード系全体の圧力(以下「アノード圧」という。)として代用する。
【0047】
上流バッファタンク45は、燃料電池スタック2の近傍に設けられる。上流バッファタンク45は、タンク部451と、通水部452と、を備える。
【0048】
タンク部451は、燃料電池スタック2に供給するアノードガスを一旦蓄える。タンク部451には、上流側アノードガス供給通路42a及び下流側アノードガス供給通路42bがそれぞれ接続される。上流側アノードガス供給通路42aからタンク部451に流入してきたアノードガスは、タンク部451に一旦蓄えられた後、下流側アノードガス供給通路42bを流れて燃料電池スタック2に供給される。
【0049】
タンク部451の外壁451aには、タンク部451に蓄えられたアノードガスが外部環境の影響を受けないように、断熱材が施される。
【0050】
通水部452は、燃料電池スタック2から排出された冷却水を流すための通路である。通水部452には、上流側高温冷却水通路32a及び下流側高温冷却水通路32bがそれぞれ接続される。燃料電池スタック2から排出された冷却水は、上流側高温冷却水通路32a、通水部452、下流側高温冷却水通路32bの順に流れてラジエータ34に流入する。
【0051】
このように、本実施形態では上流バッファタンク45に通水部452を設けることで、タンク部451に蓄えられたアノードガスと通水部452を流れる冷却水との間で熱交換できるようにして、タンク部451のアノードガスの温度と、冷却水の温度、すなわち燃料電池スタック2の温度と、に温度差が生じないようにしている。その理由については後述する。
【0052】
通水部452の外周壁には、タンク部451に蓄えられたアノードガスと通水部452を流れる冷却水との熱交換を促進させるために、複数のフィン453が設けられる。
【0053】
アノードガス排出通路46は、一端部が燃料電池スタック2のアノードガス出口孔24に接続され、他端部が下流バッファタンク47の上部に接続される。アノードガス排出通路46には、電極反応に使用されなかった余剰のアノードガスと、カソード側からアノードガス流路121へとクロスリークしてきた窒素や水蒸気などの不純ガスと、の混合ガス(以下「アノードオフガス」という。)が排出される。
【0054】
下流バッファタンク47は、上流バッファタンク45と同様の構造をしており、タンク部471と、通水部472と、を備える。
【0055】
タンク部471は、燃料電池スタック2から排出されたアノードオフガスを一旦蓄える。タンク部471には、アノードガス排出通路及びパージ通路がそれぞれ接続される。
【0056】
タンク部471の外壁471aには、タンク部471に蓄えられたアノードオフガスが外部環境の影響を受けないように、断熱材が施されている。
【0057】
通水部472は、燃料電池スタック2に供給する冷却水を流すための通路である。通水部472には、上流側低温冷却水通路31a及び下流側低温冷却水通路31bがそれぞれ接続される。ラジエータ34で冷やされた冷却水は、上流側低温冷却水通路31a、通水部、下流側低温冷却水通路31bの順に流れて燃料電池スタック2に供給される。
【0058】
このように、本実施形態では下流バッファタンク47にも通水部472を設けることで、タンク部471に蓄えられたアノードオフガスと通水部472を流れる冷却水との間で熱交換できるようにし、タンク部471のアノードオフガスの温度と、冷却水の温度、すなわち燃料電池スタック2の温度と、に温度差が生じないようにしている。その理由については後述する。
【0059】
通水部472の外周壁には、上流バッファタンク45と同様に、タンク部471に蓄えられたアノードオフガスと通水部を流れる冷却水との熱交換を促進させるための複数のフィン473が設けられる。
【0060】
パージ通路48は、一端部が下流バッファタンク47の下部に接続される。パージ通路48の他端部は、開口端となっている。下流バッファタンク47に溜められたアノードオフガス及び液水は、パージ通路48を通って開口端から外気へ排出される。
【0061】
パージ弁49は、パージ通路48に設けられる。パージ弁49は、連続的又は段階的に開度を調節することができる電磁弁であり、その開度はコントローラ5によって制御される。パージ弁49の開度を調節することで、下流バッファタンク47からパージ通路48を介して外気へ排出するアノードオフガスの量を調節し、下流バッファタンク47内のアノードガス濃度が所定濃度となるように調節する。燃料電池システム1の運転状態が同じであれば、パージ弁49の開度を大きくするほど下流バッファタンク47内の窒素濃度が低下し、アノードガス濃度が高くなる。
【0062】
コントローラ58は、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えたマイクロコンピュータで構成される。
【0063】
コントローラ5には、前述した温度センサ37や圧力センサ44の他にも、燃料電池スタック2の出力電流を検出する電流センサ51などの、燃料電池システム1の運転状態を検出するための信号が入力される。
【0064】
コントローラ5は、これらの入力信号に基づいて調圧弁43を周期的に開閉し、アノード圧を周期的に増減圧させる脈動運転を行うとともに、パージ弁49の開度を調節して下流バッファタンク47から排出するアノードオフガスの流量を調節し、下流バッファタンク47内のアノードガス濃度を所定濃度に保つ。
【0065】
アノードガス非循環型の燃料電池システム1の場合、調圧弁43を開いたままにして高圧タンク41から燃料電池スタック2にアノードガスを供給し続けてしまうと、燃料電池スタック2から排出された未使用のアノードガスを含むアノードオフガスが、下流バッファタンク47からパージ通路48を介して外気へ排出され続けてしまうので無駄となる。
【0066】
そこで、本実施形態では調圧弁43を周期的に開閉し、アノード圧を周期的に増減圧させる脈動運転を行うのである。脈動運転を行うことで、下流バッファタンク47に溜めたアノードオフガスを、アノード圧の減圧時に燃料電池スタック2に逆流させることができる。これにより、アノードオフガス中のアノードガスを再利用することができるので、外気へ排出されるアノードガス量を減らすことができ、無駄をなくすことができる。
【0067】
以下、図3を参照して脈動運転について説明しつつ、アノード圧の減圧時に下流バッファタンク47に溜めたアノードオフガスが燃料電池スタック2に逆流する理由について説明する。
【0068】
図3は、燃料電池システム1の運転状態が一定の定常運転時における脈動運転について説明する図である。
【0069】
図3(A)に示すように、コントローラ5は、燃料電池スタック2にかかる負荷(以下「スタック負荷」という。)(出力電流)に基づいて、アノード圧の基準圧と脈動幅とを算出し、アノード圧の上限値及び下限値を設定する。そして、基準圧を中心として、脈動幅の範囲でアノード圧を周期的に増減圧させて、設定したアノード圧の上限値及び下限値の間でアノード圧を周期的に増減圧させる。
【0070】
具体的には、時刻t1でアノード圧が下限値に達したら、図3(B)に示すように、少なくともアノード圧を上限値まで増圧させることができる開度まで調圧弁43を開く。この状態のときは、アノードガスは高圧タンク41から燃料電池スタック2に供給され、下流バッファタンク47へと排出される。
【0071】
時刻t2でアノード圧が上限値に達したら、図3(B)に示すように調圧弁43を全閉とし、高圧タンク41から燃料電池スタック2へのアノードガスの供給を停止する。そうすると、前述した(1)の電極反応によって、燃料電池スタック2内部のアノードガス流路121に残されたアノードガスが時間の経過とともに消費されるので、アノードガスの消費分だけアノード圧が低下する。
【0072】
また、アノードガス流路121に残されたアノードガスが消費されると、一時的に下流バッファタンク47の圧力がアノードガス流路121の圧力よりも高くなるので、下流バッファタンク47からアノードガス流路121へとアノードオフガスが逆流する。その結果、アノードガス流路121に残されたアノードガスと、アノードガス流路121に逆流したアノードオフガス中のアノードガスが時間の経過とともに消費され、さらにアノード圧が低下する。
【0073】
時刻t3でアノード圧が下限値に達したら、時刻t1のときと同様に調圧弁43が開かれる。そして、時刻t4で再びアノード圧が上限値に達したら、調圧弁43を全閉とする。
【0074】
次に、下流バッファタンク47のタンク部471と燃料電池スタック2との間に温度差が生じないようにしている理由について説明する。
【0075】
前述したアノード圧の基準圧と脈動幅は、燃料電池スタック2の温度と下流バッファタンク47の温度とが等しいことを前提に設定されたものである。具体的には、下流バッファタンク47の温度が、暖機完了後の燃料電池スタック2の定常温度(約60[℃])と等しいことを前提として設定されたものである。
【0076】
しかしながら、本実施形態のように下流バッファタンク47に通水部472を設けない場合には、下流バッファタンク47のタンク部471の温度が外気温度や走行風などの外部環境によって変動し、燃料電池スタック2の定常温度よりも低くなったり高くなったりすることがある。つまり、燃料電池スタック2と下流バッファタンク47との間で温度差が生じることがある。
【0077】
脈動運転を実施する場合、燃料電池スタック2と下流バッファタンク47との間で温度差が生じると、アノード圧を上限圧から下限圧まで低下させる減圧時及びアノード圧を下限圧から上限圧まで増加させる増圧時において、それぞれ以下のような問題が生じることがわかった。
【0078】
まず、アノード圧の減圧時に生じる問題について説明する。
【0079】
アノード圧が所定の上限圧に達したときの下流バッファタンク47に存在するアノードガス(水素)の物質量は、下流バッファタンク47の温度に応じて変化する。具体的には、下流バッファタンク47内の圧力が同じであれば、下流バッファタンク47の温度が低いときほど、下流バッファタンク47の内部に存在するアノードガスの物質量は多くなる。
【0080】
アノード圧の減圧時には、アノードガス流路121に残されたアノードガスと、アノードガス流路121に逆流したアノードオフガス中のアノードガスとを消費させることで、アノード圧を上限圧から下限圧まで低下させている。そのため、下流バッファタンク47のタンク部471に存在するアノードガスの物質量が多くなるほど、アノード圧を下限圧まで低下させるために必要なアノードガスの消費量が多くなるので、アノード圧を下限圧まで低下させるために必要な時間が長くなる。
【0081】
アノード圧を下限圧まで低下させるために必要な時間が長くなると、アノード圧の減圧時において、アノードガス流路121の内部で局所的にアノードガス濃度が他より低くなる部分が発生する。この理由について、図4を参照して説明する。
【0082】
図4は、アノードガス流路121の内部で局所的にアノードガス濃度が他よりも低くなる部分が発生する理由について説明する図である。図4(A)は、アノード圧の減圧時におけるアノードガス流路121内のアノードガス及びアノードオフガスの流れを示した図である。図4(B)は、アノード圧の減圧時におけるアノードガス流路121内のアノードガスの濃度分布を、時間の経過に応じて示した図である。
【0083】
図4(A)に示すように、調圧弁43が全閉にされると、アノードガス流路121に残されたアノードガスが消費されると、一時的に下流バッファタンク47のタンク部471の圧力がアノードガス流路121の圧力よりも高くなるので、下流バッファタンク47側からアノードガス流路121へとアノードオフガスが逆流してくる。また、同様にアノードガス供給通路42にある高濃度のアノードガスも、圧力の低いアノードガス流路121へ流れ込んでくる。
【0084】
そうすると、アノードガス供給通路22側からアノードガス流路121へ流れ込んでくるアノードガスと、下流バッファタンク47側からアノードガス流路121へと逆流してきたアノードオフガスと、の合流部において、それぞれのガス流速が略ゼロとなる淀み点が発生する。
【0085】
アノードガス流路121内でこのような淀み点が発生すると、前述した(1)の電極反応に使用されないアノードオフガス中の窒素が、時間の経過に応じて淀み点近傍に溜まっていく。その結果、淀み点近傍の窒素濃度が時間の経過に応じて他よりも高くなってしまい、図4(B)に示すように、淀み点近傍のアノードガス濃度が時間の経過に応じて他よりも低くなってしまう。
【0086】
アノードガス流路121内で最もアノードガス濃度が低くなる部分のアノードガス濃度(以下「流路内最低アノードガス濃度」という。)が、予め定められた許容下限アノードガス濃度を下回ると、その部分で前述した(1)及び(2)の電極反応が阻害されて電圧が負電圧に転じるおそれがあり、燃料電池10を劣化させる原因となる。
【0087】
次に、アノード圧の増圧時に生じる問題について説明する。
【0088】
前述したように、アノード圧が所定の上限圧に達したときの下流バッファタンク47の内部に存在するアノードガス(水素)の物質量は、下流バッファタンク47の温度に応じて変化する。具体的には、下流バッファタンク47内の圧力が同じであれば、下流バッファタンク47の温度が高くなるほど、下流バッファタンク47の内部に存在するアノードガスの物質量は少なくなる。
【0089】
そのため、下流バッファタンク47の温度が高くなるほど、アノード圧を上限圧まで増加させるのに必要なアノードガス量が少なくなる。その結果、下流バッファタンク47の温度が高くなるほど、アノード圧の増圧時におけるアノードガスの流速、ひいては運動エネルギーが低下し、アノードガス流路121内の液水の排出性能が低下する。
【0090】
アノードガスの運動エネルギーが、アノードガス流路121内の液水を排出するために必要な運動エネルギーの最小値(以下「許容下限運動エネルギー」という。)を下回ると、アノードガス流路121内でフラッディングが発生するおそれがあり、これもまた燃料電池10を劣化させる原因となる。
【0091】
そこで本実施形態では、下流バッファタンク47に通水部472を設けることで、タンク部471に蓄えられたアノードオフガスと通水部472を流れる冷却水との間で熱交換できるようにし、タンク部471の温度と、燃料電池スタック2の温度と、に温度差が生じないようにしたのである。
【0092】
これにより、下流バッファタンク47のタンク部471の温度が、燃料電池スタック2の定常温度よりも低くなるのを抑制できるので、アノード圧を下限圧まで低下させるために必要な時間が長くなるのを抑制できる。よって、アノード圧の減圧時に流路内最低アノードガス濃度が許容下限アノードガス濃度を下回るのを抑制できる。
【0093】
また、下流バッファタンク47のタンク部471の温度が、燃料電池スタック2の定常温度よりも高くなるのも抑制できるので、アノード圧を上限圧まで増加させるのに必要なアノードガス量が減少するのを抑制できる。よって、アノード圧の増圧時にアノードガスの運動エネルギーが許容下限運動エネルギーを下回るのを抑制できる。
【0094】
続いて、上流バッファタンク45のタンク部451と燃料電池スタック2との間に温度差が生じないようにしている理由について説明する。
【0095】
燃料電池システム1を車両に搭載する場合、配置スペースや重量バランスの観点から、燃料電池スタック2が車両前方に搭載され、高圧タンク41が車両後方に搭載されることが多い。そのため、アノードガス供給通路42が長くなり、アノードガス供給通路42を流れるアノードガスが外気温度や走行風などの外部環境の影響を受けやすくなる。
【0096】
したがって、外部環境によっては燃料電池スタック2に供給されるアノードガスと燃料電池スタック2との温度差が大きくなってしまう。
【0097】
そこで本実施形態では、上流バッファタンク45に通水部452を設けることで、タンク部451に蓄えられたアノードガスと通水部452を流れる冷却水との間で熱交換できるようにし、タンク部451の温度、すなわち燃料電池スタック2に供給されるアノードガスの温度と、燃料電池スタック2の温度と、に温度差が生じないようにしたのである。
【0098】
これにより、燃料電池スタック2から排出されたアノードオフガスの温度と燃料電池スタック2の温度との間に温度差が生じにくくなる。また、上流側のアノードガスの温度が、燃料電池スタック2の定常温度よりも低くなるのを抑制できるので、アノード圧を下限圧まで低下させるために必要な時間が長くなるのを抑制できる。よって、アノード圧の減圧時に流路内最低アノードガス濃度が許容下限アノードガス濃度を下回るのを抑制できる。
【0099】
以上説明した本実施形態によれば、下流バッファタンク47に通水部472を設けてタンク部471に蓄えられたアノードオフガスと通水部472を流れる冷却水との間で熱交換できるようにし、タンク部471の温度と、燃料電池スタック2の温度と、に温度差が生じないようにした。
【0100】
これにより、下流バッファタンク47のタンク部471の温度が、燃料電池スタック2の定常温度よりも低くなるのを抑制できるので、アノード圧を下限圧まで低下させるために必要な時間が長くなるのを抑制できる。よって、アノード圧の減圧時に流路内最低アノードガス濃度が許容下限アノードガス濃度を下回るのを抑制できる。
【0101】
また、下流バッファタンク47のタンク部471の温度が、燃料電池スタック2の定常温度よりも高くなるのも抑制できるので、アノード圧を上限圧まで増加させるのに必要なアノードガス量が減少するのを抑制できる。よって、アノード圧の増圧時にアノードガスの運動エネルギーが許容下限運動エネルギーを下回るのを抑制できる。
【0102】
また本実施形態よれば、上流バッファタンク45に通水部452を設けてタンク部451に蓄えられたアノードガスと通水部452を流れる冷却水との間で熱交換できるようにし、燃料電池スタック2に供給されるアノードガスの温度と、燃料電池スタック2の温度と、に温度差が生じないようにした。
【0103】
これにより、燃料電池スタック2から排出されたアノードオフガスの温度と燃料電池スタック2の温度との間に温度差が生じにくくなる。また、上流側のアノードガスの温度が、燃料電池スタック2の定常温度よりも低くなるのを抑制できるので、アノード圧を下限圧まで低下させるために必要な時間が長くなるのを抑制できる。よって、アノード圧の減圧時に流路内最低アノードガス濃度が許容下限アノードガス濃度を下回るのを抑制できる。
【0104】
また本実施形態によれば、上流バッファタンク45のタンク部451の外壁451a、及び、下流バッファタンク47のタンク部471の外壁471aのそれぞれに断熱材を施した。これにより、上流バッファタンク45のタンク部451に蓄えられたアノードガスに対する外部環境の影響を少なくすることができる。同様に、下流バッファタンク47のタンク部471に蓄えられたアノードオフガスに対する外部環境の影響を少なくすることができる。
【0105】
また本実施形態によれば、上流バッファタンク45の通水部452の外周壁にフィン453を設けた。これにより、上流バッファタンク45のタンク部451に蓄えられたアノードガスと通水部452を流れる冷却水との熱交換を促進させて、上流バッファタンク45と燃料電池スタック2との間に温度差が生じるのを抑制できる。
【0106】
同様に、下流バッファタンク47の通水部472の外周壁にフィン473を設けた。これにより、下流バッファタンク47のタンク部471に蓄えられたアノードオフガスと通水部472を流れる冷却水との熱交換を促進させて、下流バッファタンク47と燃料電池スタック2との間に温度差が生じるのを抑制できる。
【0107】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態は、下流バッファタンク47の通水部472に、燃料電池スタック2から排出された冷却水を流す点で第1実施形態と相違する。以下、その相違点を中心に説明する。なお、以下に示す実施形態では前述した第1実施形態と同様の機能を果たす部分には、同一の符号を用いて重複する説明を適宜省略する。
【0108】
図5は、本発明の第2実施形態によるアノードガス非循環型の燃料電池システム1の概略構成図である。
【0109】
本実施形態による燃料電池システム1の冷却水装置3は、一端部が上流側高温冷却水通路32aに接続され、他端部が下流バッファタンク47の通水部に接続される分岐通路38と、一端部が下流バッファタンク47の通水部472に接続され、他端部が下流側高温冷却水通路32bに接続される合流通路39と、を備える。
【0110】
これにより、上流バッファタンク45の通水部452及び下流バッファタンク47の通水部472のそれぞれに燃料電池スタック2から排出された冷却水を流すことができる。
【0111】
ラジエータ34で冷やされて燃料電池スタック2に供給される冷却水の温度よりも、燃料電池スタック2から排出された冷却水の温度の方が、燃料電池スタック2の温度に近い。そのため、下流バッファタンク47の通水部472に燃料電池スタック2から排出された冷却水を流すことで、下流バッファタンク47のタンク部471の温度と、燃料電池スタック2の温度と、の温度差をより抑制することができる。
【0112】
以上説明した本実施形態によれば、下流バッファタンク47の通水部472にも燃料電池スタック2から排出された冷却水を流すことにした。これにより、第1実施形態と同様の効果が得られるほか、下流バッファタンク47のタンク部471の温度と、燃料電池スタック2の温度と、の温度差をより抑制することができる。
【0113】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。
【0114】
例えば、上記各実施形態では、冷却水との熱交換によって上流バッファタンク45のタンク部451及び下流バッファタンク47のタンク部471の温度を燃料電池スタック2の温度と同程度になるように調節していた。
【0115】
しかしながら、これに限らず、上流バッファタンク45のタンク部451及び下流バッファタンク47のタンク部471に電気ヒータ等の熱源を設けて燃料電池スタック2の温度と同程度になるように調節しても良い。
【0116】
また、上流バッファタンク45のタンク部451及び下流バッファタンク47のタンク部471のいずれか一方のみを燃料電池スタック2の温度と同程度になるように調節しても良い。
【0117】
また、上記第1実施形態では、上流バッファタンク45の通水部452に燃料電池スタック2から排出された冷却水を流し、下流バッファタンク47の通水部472に燃料電池スタック2に供給する冷却水を流していた。しかしながら、これに限らず、上流バッファタンク45の通水部452に燃料電池スタック2に供給する冷却水を流し、下流バッファタンク47の通水部472に燃料電池スタック2から排出された冷却水を流しても良い。
【符号の説明】
【0118】
1 燃料電池システム
10 燃料電池
45 上流バッファタンク
452 通水部(温度調節機構)
47 下流バッファタンク
472 通水部(温度調節機構)
473 フィン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池に供給するアノードガスの圧力を周期的に増減圧させて発電するアノードガス非循環型の燃料電池システムであって、
前記燃料電池から排出されるアノードオフガスを蓄える下流バッファタンクと、
前記下流バッファタンクの温度を前記燃料電池の温度に調節する下流バッファ温度調節機構と、
を備えることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
前記下流バッファ温度調節機構は、
前記下流バッファタンクに設けられた通水部に、前記燃料電池の冷却水を流してその下流バッファタンクの温度を前記燃料電池の温度に調節する、
ことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記通水部には、前記燃料電池から排出された冷却水が流れる、
ことを特徴とする請求項2に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記通水部の外周には、その通水部を流れる冷却水と、前記下流バッファタンクに蓄えられたアノードオフガスと、の間で熱交換を促進するフィンが設けられる、
ことを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の燃料電池システム。
【請求項5】
前記下流バッファタンクは、その外壁に設けられた断熱層をさらに備える、
ことを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1つに記載の燃料電池システム。
【請求項6】
前記燃料電池に供給するアノードガスを蓄える上流バッファタンクと、
前記上流バッファタンクの温度を前記燃料電池の温度に調節する上流バッファ温度調節機構と、
をさらに備えることを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか1つに記載の燃料電池システム。
【請求項7】
燃料電池に供給するアノードガスの圧力を周期的に増減圧させて発電するアノードガス非循環型の燃料電池システムであって、
前記燃料電池に供給するアノードガスを蓄える上流バッファタンクと、
前記燃料電池から排出されるアノードオフガスを蓄える下流バッファタンクと、
前記上流バッファタンクの温度を前記燃料電池の温度に調節する上流バッファ温度調節機構と、
を備えることを特徴とする燃料電池システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−252960(P2012−252960A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−126605(P2011−126605)
【出願日】平成23年6月6日(2011.6.6)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】