説明

燃料電池システム

【課題】アノード側の排水性能を向上させる。
【解決手段】本発明は、アノードガス及びカソードガスを、単セルを積層した燃料電池スタックに供給して発電させる燃料電池システムであって、燃料電池スタックをその底面側から昇温させる昇温部を備える。これにより、燃料電池システムの排水性能を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の燃料電池システムとして、燃料電池スタックを流れる冷媒によって、冷却を必要とする被冷却機器の冷却を行うものがある(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−193921号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前述した従来の燃料電池システムは、燃料電池スタックの外周面からの放熱によってガス出口マニホールド内で凝縮した生成水の排水性能が低いという問題点があった。
【0005】
本発明はこのような従来の問題点に着目してなされたものであり、燃料電池システムの排水性能を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、アノードガス及びカソードガスを、単セルを積層した燃料電池スタックに供給して発電させる燃料電池システムである。そしてその燃料電池システムが、燃料電池スタックをその底面側から昇温させる昇温部を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、燃料電池スタックをその底面側から昇温させることで、ガス出口マニホールドでの水蒸気の凝縮を抑制することができる。したがって、燃料電池システムの排水性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の第1実施形態による燃料電池スタックの斜視図である。
【図2】図1のII-II線に沿う方向から見た単セル1の断面の一部を示す図である。
【図3】アノードセパレータをアノード電極側から見た平面図である。
【図4】本発明の第1実施形態によるアノードガス非循環型の燃料電池システムの概略構成図である。
【図5】アノードガス出口マニホールド近傍の燃料電池スタックの外周面に電気ヒータを取り付けた様子を示した図である。
【図6】本発明の第2実施形態によるアノードガス出口マニホールド近傍の燃料電池スタックの外周面の昇温方法について説明する図である。
【図7】本発明の第3実施形態によるウォータジャケットを設けた燃料電池スタックの斜視図である。
【図8】本発明のその他の実施形態による燃料電池スタックの斜視図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面等を参照して本発明の実施形態について説明する。
【0010】
(第1実施形態)
燃料電池は電解質膜をアノード電極(燃料極)とカソード電極(酸化剤極)とによって挟み、アノード電極に水素を含有するアノードガス(燃料ガス)、カソード電極に酸素を含有するカソードガス(酸化剤ガス)を供給することによって発電する。アノード電極及びカソード電極の両電極において進行する電極反応は以下の通りである。
【0011】
アノード電極 : 2H2 →4H+ +4e- …(1)
カソード電極 : 4H+ +4e- +O2 →2H2O …(2)
【0012】
この(1)(2)の電極反応によって燃料電池は1ボルト程度の起電力を生じる。
【0013】
燃料電池を自動車用動力源として使用する場合には、要求される電力が大きいため、数百枚の燃料電池を積層した燃料電池スタックとして使用する。そして、燃料電池スタックにアノードガス及びカソードガスを供給する燃料電池システムを構成して、車両駆動用の電力を取り出す。
【0014】
図1は、本実施形態による燃料電池スタック10の斜視図である。
【0015】
燃料電池スタック10は、積層された複数の単セル1と、一対の集電板2a,2bと、一対の絶縁板3a,3bと、一対のエンドプレート4a,4bと、を備える。
【0016】
単セル1は、起電力を生じる固体高分子型燃料電池の単位セルである。単セル1は、1ボルト程度の起電圧を生じる。単セル1の構成の詳細については、図2及び図3を参照して後述する。
【0017】
一対の集電板2a,2bは、積層された複数の単セル1の外側にそれぞれ配置される。集電板2a,2bは、例えば緻密質カーボンなどのガス不透過性の導電性部材で形成される。集電板2a,2bは、上辺の一部に電力を取り出すための出力端子6を備える。
【0018】
一対の絶縁板3a,3bは、集電板2a,2bの外側にそれぞれ配置される。絶縁板3a,3bは、例えばゴムなど絶縁性の部材で形成される。
【0019】
一対のエンドプレート4a,4bは、絶縁板3a,3bの外側にそれぞれ配置される。エンドプレート4a,4bは、例えば鋼などの剛性を備える金属性の材料で形成される。
【0020】
一対のエンドプレート4a,4bのうち、一方のエンドプレート4aには、冷却水入口孔41a及び冷却水出口孔41bと、アノードガス入口孔42a及びアノードガス出口孔42bと、カソードガス入口孔43a及びカソードガス出口孔43bとが形成される。詳細には、エンドプレート4aの一端側(図中右側)に、上から順にカソードガス入口孔43a、冷却水入口孔41a及びアノードガス出口孔42bが形成される。エンドプレート4bの他端側(図中左側)に、上から順にアノードガス入口孔42a、冷却水出口孔41b及びカソードガス出口孔43bが形成される。
【0021】
一対のエンドプレート4a,4bのうち、他方のエンドプレート4bには、アノードガス出口孔42b(図示せず)のみが形成される。エンドプレート4bに形成されたアノードガス出口孔42bは、一方のエンドプレート4aに形成されたアノードガス出口孔42bと対向するように設けられる。
【0022】
以下では、図2及び図3を参照して、単セル1の構成について説明する。
【0023】
図2は、図1のII-II線に沿う方向から見た単セル1の断面の一部を示す図である。
【0024】
単セル1は、膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly;以下「MEA」という)11を、アノードセパレータ20とカソードセパレータ30とで挟持して構成する。
【0025】
MEA11は、電解質膜11aと、アノード電極11bと、カソード電極11cとを有する。MEA11は、電解質膜11aの一方の面にアノード電極11bを有し、他方の面にカソード電極11cを有する。
【0026】
電解質膜11aは、フッ素系樹脂により形成されたプロトン伝導性のイオン交換膜である。電解質膜11aは、湿潤状態で良好な電気伝導性を示す。
【0027】
アノード電極11b及びカソード電極11cは、ガス拡散層、撥水層、及び触媒層から構成される。ガス拡散層は、充分なガス拡散性および導電性を有する部材によって形成され、例えば、炭素繊維からなる糸で織成したカーボンクロスで形成される。撥水層は、ポリエチレンフルオロエチレンと炭素材を含む層である。触媒層は、白金が担持されたカーボンブラック粒子から形成される。
【0028】
アノードセパレータ20は、アノード電極11bと接する。アノードセパレータ20は、アノード電極11bと接する側に、アノード電極11bにアノードガスを供給するためのガス流路24を有する。そして、アノード電極11bと直接接する面(後述するリブ25の頂面)25aの反対面に、発電により暖められた燃料電池スタック10を冷却する冷却水が流れる冷却水流路26を有する。
【0029】
カソードセパレータ30も同様に、カソード電極11cと接する側に、カソード電極11cにカソードガスを供給するためのガス流路34を有し、カソード電極11cと接する面35aの反対面に冷却水流路36を有する。
【0030】
なお、隣接するアノードセパレータ20とカソードセパレータ30とに設けられたそれぞれの冷却水流路26,36は、互いに向き合うように形成されており、この冷却水流路26,36によって1つの冷却水流路41が形成される。
【0031】
また、ガス流路24を流れるアノードガスと、ガス流路34を流れるカソードガスとは、MEA11を介して互いに逆向きに流れている。本実施形態では、ガス流路24を流れるアノードガスは紙面奥から手前へ流れており、ガス流路34を流れるカソードガスは紙面手前から奥へ流れている。冷却水流路41を流れる冷却水は、カソードガスと同じ方向に流れており、紙面手前から奥へ流れている。
【0032】
次に図3を参照して、アノードセパレータ20について説明する。図3は、アノードセパレータ20をアノード電極側から見た平面図である。
【0033】
図3に示すように、アノードセパレータ20の一端(図中左側)には、上から順に、アノードガス入口マニホールド22a、冷却水出口マニホールド21b、カソードガス出口マニホールド23bが形成される。一方、アノードセパレータ20の他端(図中右側)には、上から順に、カソードガス入口マニホールド23a、冷却水入口マニホールド21a、アノードガス出口マニホールド22bが形成される。
【0034】
アノードセパレータ20の表面には、複数の溝状のガス流路24が形成される。ガス流路24は、ガス流路底面24aからアノード電極側へ突出してアノード電極と接する複数のリブ25の間に形成される流路である。
【0035】
燃料電池スタック10の内部では、アノードガス入口マニホールド22aが重なって単セル1の積層方向に延びる一本の通路となっており(図4参照)、アノードガスは、アノードガス入口孔42aからアノードガス入口マニホールド22aへと流れ込み、各アノードセパレータ20のガス流路24に供給される。このとき、アノードガス入口マニホールド22aへと流れ込んだアノードガスは、アノードガス入口マニホールド22aとガス流路24との間に設けられるアノードガス拡散領域27で拡散させられて、ガス流路24に供給される。アノードガスはガス流路24を流れながらアノード電極11bと接する。これにより、アノード電極11bでは、前述した式(1)の電極反応が生じる。
【0036】
ガス流路24で電極反応に使用されなかった余剰のアノードガスと、カソード側からガス流路24へとクロスリークしてきた窒素や水蒸気などの不純ガスと、の混合ガス(以下「アノードオフガス」という。)は、ガス流路24とアノードガス出口マニホールド22bとの間に設けられるアノードガス収束領域28で収束させられて、アノードガス出口マニホールド22bへ排出される。アノードガス出口マニホールド22bも、燃料電池スタック10の内部で重なって単セル1の積層方向に延びる一本の通路となっており(図4参照)、アノードオフガスは、アノードガス出口マニホールド22bを流れてアノードガス出口孔42bから燃料電池スタック10の外部へ排出される。
【0037】
以下では、アノードガス拡散領域27とアノードガス収束領域28との間のガス流路24が形成されている領域、すなわち電極反応によって発熱している領域をアクティブエリア29という。アクティブエリア29は、アノードガス拡散領域27及びアノードガス収束領域28よりも相対的に温度が高くなる。
【0038】
図4は、燃料電池スタック10を使用した本実施形態によるアノードガス非循環型の燃料電池システム100の概略構成図である。アノードガス非循環型の燃料電池システム100とは、アノードガス排出通路55に排出された未使用のアノードガスを、アノードガス供給通路52に戻さないものをいう。
【0039】
燃料電池システム100は、燃料電池スタック10と、アノードガス供給装置50と、スタック冷却装置60と、コントローラ70と、を備える。燃料電池スタック10にカソードガスを供給・排出するカソードガス給排装置については、本発明の主要部ではないので、理解を容易にするために図示を省略した。本実施形態ではカソードガスとして空気を使用している。
【0040】
アノードガス供給装置50は、高圧タンク51と、アノードガス供給通路52と、調圧弁53と、圧力センサ54と、アノードガス排出通路55と、バッファタンク56と、パージ通路57と、パージ弁58と、を備える。
【0041】
高圧タンク51は、燃料電池スタック10に供給するアノードガスを高圧状態に保って貯蔵する。
【0042】
アノードガス供給通路52は、高圧タンク51から排出されたアノードガスを燃料電池スタック10に供給するための通路であって、一端部が高圧タンク51に接続され、他端部が燃料電池スタック10のアノードガス入口孔42aに接続される。
【0043】
調圧弁53は、アノードガス供給通路52に設けられる。調圧弁53は、高圧タンク51から排出されたアノードガスを所望の圧力に調節して燃料電池スタック10に供給する。調圧弁53は、連続的又は段階的に開度を調節することができる電磁弁であり、その開度はコントローラ70によって制御される。
【0044】
圧力センサ54は、調圧弁53よりも下流のアノードガス供給通路52に設けられる。圧力センサ54は、調圧弁53よりも下流のアノードガス供給通路52を流れるアノードガスの圧力(以下「アノード圧」という。)を検出する。
【0045】
アノードガス排出通路55は、一端が燃料電池スタック10のアノードガス出口孔42bに接続され、他端がバッファタンク56の上部に接続される。アノードガス排出通路55には、アノードオフガスが排出される。
【0046】
バッファタンク56は、アノードガス排出通路55を通って流れてきたアノードオフガスを一旦蓄える。アノードオフガス中の水蒸気の一部は、バッファタンク56内で凝縮して液水となり、アノードオフガスから分離される。
【0047】
パージ通路57は、一端部がバッファタンク56の下部に接続される。パージ通路57の他端部は、開口端となっている。バッファタンク56に溜められたアノードオフガス及び液水は、パージ通路57を通って開口端から外気へ排出される。
【0048】
パージ弁58は、パージ通路57に設けられる。パージ弁58は、連続的又は段階的に開度を調節することができる電磁弁であり、その開度はコントローラ70によって制御される。パージ弁58の開度を調節することで、バッファタンク56からパージ通路57を介して外気へ排出するアノードオフガスの量を調節し、バッファタンク56内のアノードガス濃度を所定の濃度となるように調節する。
【0049】
スタック冷却装置60は、冷却水循環通路61と、冷却水循環ポンプ62と、ラジエータ63と、バイパス通路64と、三方弁65と、を備える。
【0050】
冷却水循環通路61は、燃料電池スタック10を冷却するための冷却水が流れる通路であって、第1循環通路61aと第2循環通路61bとを備える。第1循環通路61aは、一端が燃料電池スタック10の冷却水出口孔41bに接続され、他端がラジエータ63に接続される通路であって、冷却水出口孔41bから排出された相対的に高温な冷却水が流れる通路である。第2循環通路61bは、一端がラジエータ63に接続され、他端が燃料電池スタック10の冷却水入口孔41aに接続される通路であって、ラジエータ63で冷やされた相対的に低温な冷却水が流れる通路である。
【0051】
冷却水循環ポンプ62は、第2循環通路61bに設けられて、冷却水を循環させる。
【0052】
ラジエータ63は、冷却水循環通路61に設けられて、燃料電池スタック10から排出された冷却水を冷却する。
【0053】
バイパス通路64は、ラジエータ63をバイパスさせて冷却水を循環させることができるように、一端が第1循環通路61aに接続され、他端が三方弁65に接続される。
【0054】
三方弁65は、第2循環通路61bに設けられる。三方弁65は、冷却水の温度に応じて冷却水の循環経路を切り替える。具体的には、冷却水の温度が相対的に高いときは、燃料電池スタック10から排出された冷却水が、ラジエータ63を介して再び燃料電池スタック10に供給されるように冷却水の循環経路を切り替える。逆に、冷却水の温度が相対的に低いときは、燃料電池スタック10から排出された冷却水から排出された冷却水が、ラジエータ63を介さずにバイパス通路64を流れて再び燃料電池スタック10に供給されるように冷却水の循環経路を切り替える。
【0055】
コントローラ70は、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えたマイクロコンピュータで構成される。
【0056】
コントローラ70には、前述した圧力センサ54の他にも、燃料電池スタック10の出力電流を検出する電流センサ71や燃料電池スタック10を冷却する冷却水の温度(以下「冷却水温」という。)を検出する温度センサ72、アクセルペダルの踏み込み量(以下「アクセル操作量」という。)を検出するアクセルストロークセンサ73などの、燃料電池システム100の運転状態を検出するための信号が入力される。
【0057】
コントローラ70は、これらの入力信号に基づいて調圧弁53を周期的に開閉し、アノード圧を周期的に増減圧させる脈動運転を行うとともに、パージ弁58の開度を調節してバッファタンク56から排出するアノードオフガスの流量を調節し、バッファタンク56内のアノードガス濃度を所定濃度に保つ。
【0058】
ここで、発明者らの鋭意研究の結果、特に本実施形態によるアノードガス非循環型の燃料電池システム100のように、燃料電池スタック10にアノードガスを圧送するポンプを備えない燃料電池システムの場合、アノード側でフラッディングが発生しやすくなるという問題点があることがわかった。以下、この問題点について説明する。
【0059】
アノードガス入口孔42aからアノードガス入口マニホールド22aを通ってガス流路24に流れてきたアノードガスの一部は、電極反応によって消費される。残りの一部は、アノードオフガスとなってアノードガス出口マニホールド22bを通り、アノードガス出口孔42bからアノードガス排出通路55に排出される。
【0060】
このとき、アノードガス出口マニホールド22bは、燃料電池スタック10の外周面の近傍に設けられているので、アノードガス出口マニホールド22bを流れるアノードオフガスは、燃料電池スタック10の外周面から周囲の空気への放熱によって温度が下がりやすい。そのため、アノードガス出口マニホールド22bでは、アノードオフガス中の水蒸気が凝縮して生成水になりやすい。
【0061】
ここで、燃料電池スタック10にアノードガスを圧送するポンプを備える燃料電池システム(例えばアノードガス循環型の燃料電池システム)の場合は、ポンプの回転速度を増大させることで、アノードガス出口マニホールド22bで凝縮した生成水をアノードオフガスと共にアノードガス排出通路55へと押し出して、燃料電池スタック10の外部へと排出させることができる。
【0062】
しかしながら、本実施形態のようにアノードガスを圧送するポンプを備えないアノードガス非循環型の燃料電池システム100の場合は、アノードガス出口マニホールド22bで凝縮した生成水を上記のような方法で燃料電池スタック10の外部へと排出させることができない。そのため、アノードガス出口マニホールド22bで水詰まりが発生しやすい。このような水詰まりはフラッディングの要因となり、アノードガス流路24でのアノードガスの拡散を阻害し、電圧低下を生じさせることになる。
【0063】
そこで本実施形態では、アノードガス出口マニホールド22bでのアノードオフガス中の水蒸気の凝縮を抑制するために、アノードガス出口マニホールド22b近傍の燃料電池スタック10の外周面に電気ヒータ81を取り付けることとした。
【0064】
図5は、アノードガス出口マニホールド22b近傍の燃料電池スタック10の外周面に電気ヒータ81を取り付けた様子を示した図である。なお、図5では、理解を容易にするために、燃料電池スタック内部のアノードセパレータ20の様子を破線で示した。
【0065】
図5に示すように、本実施形態では、アクティブエリア29よりも下流のアノードガス収束領域28及びアノードガス出口マニホールド22bを昇温させることができるように、燃料電池スタック10の外周面に複数の電気ヒータ81を取り付ける。具体的には、
アノードガス収束領域28及びアノードガス出口マニホールド22bの下方の燃料電池スタック10の底面と、アノードガス出口マニホールド22bの側方の燃料電池スタック10の側面とに、単セル1の積層方向に沿って電気ヒータ81を取り付ける。
【0066】
これにより、アクティブエリア29よりも温度が低くなるアノードガス収束領域28と、燃料電池スタック10の外周面からの放熱により温度が低下するアノードガス出口マニホールド22bと、を温度調整のしやすい電気ヒータ81によって暖めることができる。よって、アノードガス出口マニホールド22bでのアノードオフガス中の水蒸気の凝縮を抑制することができるので、アノード側でのフラッディングを抑制することができる。
【0067】
また、本実施形態では、アノードセパレータ20の一端側の重力方向上側にアノードガス入口マニホールド22aを形成し、他端側の重力方向下側にアノードガス出口マニホールド22bを形成した。つまり、アノードガス出口マニホールド22bをアノードガス入口マニホールド22aよりも相対的に下側に形成し、アノードガス収束領域28に存在する生成水を重力によってアノードガス出口マニホールド22bへと排出できるようにした。
【0068】
これにより、燃料電池スタック10にアノードガスを圧送するポンプを備える燃料電池システムに比べてアノード側での排水性が低下する本実施形態のようなアノードガス非循環型の燃料電池システム100において、アノード側での排水性を向上させることができる。
【0069】
また、燃料電池スタック内部でのアノードガスの流れ方向に対して、カソードガス及び冷却水の流れ方向を反対向きとしたので、アクティブエリア29内の温度分布を均一にすることができる。これにより、アクティブエリア29内の温度と冷却水温度との温度差を小さくすることができるので、温度差によって生じる水蒸気の凝縮を抑えることができる。
【0070】
また、本実施形態では、図4に示すように、一対のエンドプレート4a,4bのそれぞれにアノードガス出口孔42bを設けた。
【0071】
これにより、一対のエンドプレート4a,4bの一方にのみアノードガス出口孔42bを設けた場合と比較して、アノードガス出口マニホールド22bに流れ込んだアノードオフガスがアノードガス出口孔42bまで到達するまでの距離を短くすることができる。そのため、アノードオフガスがアノードガス出口マニホールド22b内を流れている時間を短くすることができるので、アノードガス出口マニホールド22b内でのアノードオフガス中の水蒸気の凝縮をより一層抑制することができる。
【0072】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。本発明の第2実施形態は、電力変換器82の廃熱によって、アノードガス出口マニホールド22b近傍の燃料電池スタック10の外周面を暖める点で第1実施形態と相違する。以下、その相違点を中心に説明する。なお、以下に示す各実施形態では前述した第1実施形態と同様の機能を果たす部分には、同一の符号を用いて重複する説明を適宜省略する。
【0073】
図6は、本実施形態によるアノードガス出口マニホールド22b近傍の燃料電池スタック10の外周面の昇温方法について説明する図である。
【0074】
図6に示すように、本実施形態による燃料電池システム100は、燃料電池スタック10の下に電力変換器82を備える。電力変換器82は、直流電力を交流電力に変換するインバータや、燃料電池スタック10の出力電圧を昇降圧させるコンバータなどをまとめたものである。
【0075】
本実施形態では、この電力変換器82内に収められたインバータ及びコンバータを構成する発熱性の各電子部品(IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)などの半導体スイッチやコンデンサ、リアクトルなど)821をアノードガス出口マニホールド22b近傍に配置させる。
【0076】
これにより、各電子部品821の廃熱によってアノードガス出口マニホールド22b近傍の燃料電池スタック10の外周面を暖めることができる。よって、アノードガス出口マニホールド22bでのアノードオフガス中の水蒸気の凝縮を抑制することができるので、アノード側でのフラッディングを抑制することができる。また、昇温のための特別な部品を追加する必要がないので、システム全体のコスト増や大型化を抑制することができる。
【0077】
また、本実施形態では、発熱性の各電子部品821の上方の空間を、熱伝導シート822で埋めることとした。これにより、各電子部品821の熱を効率的にアノードガス出口マニホールド22b近傍に伝達して、燃料電池スタック10の外周面を暖めることができる。
【0078】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態について説明する。本発明の第3実施形態は、アノードガス出口マニホールド22b近傍の燃料電池スタック10の外周面にウォータジャケット66を設ける点で第1実施形態と相違する。以下、その相違点を中心に説明する。
【0079】
図7は、本実施形態によるウォータジャケット66を設けた燃料電池スタック10の斜視図である。
【0080】
本実施形態によるスタック冷却装置60は、ウォータジャケット66と、分岐通路67と、をさらに備える。
【0081】
ウォータジャケット66は、アノードガス出口マニホールド22b近傍の燃料電池スタック10の外周面に取り付けられる。ウォータジャケット66は、燃料電池スタック10の形状にあわせてL字形をしており、燃料電池スタック10の側面に接する側面部661と、燃料電池スタック10の底面に接する底面部662と、を備える。
【0082】
側面部661は、アノードガス出口マニホールド22bの側方に取り付けられる。
【0083】
底面部662は、アノードガス収束領域28及びアノードガス出口マニホールド22bの下方に取り付けられる。
【0084】
分岐通路67は、燃料電池スタック10から排出された相対的に高温な冷却水が流れ通路であって、第1分岐通路67aと、第2分岐通路67bと、を備える。
【0085】
第1分岐通路67aは、一端がバイパス通路64との分岐点64aよりも上流の第1循環通路61aに接続され、他端がウォータジャケット66の側面部661の上面に接続される。
【0086】
第2分岐通路66bは、一端がウォータジャケット67の底面部662の左側面に接続され、他端が三方弁65と冷却水ポンプ62との間の第2循環通路61bに接続される。
【0087】
第1循環通路61aから分岐通路67aに流れ込んできた冷却水は、ウォータジャケット66の側面部661の上面からウォータジャケット66内に流れ込む。そして、ウォータジャケット66の側面部661から底面部662を経由して、底面部662の左側面から第2分岐通路67bへ排出される。
【0088】
これにより、ウォータジャケット66を流れる冷却水によって、アノードガス出口マニホールド22b近傍の燃料電池スタック10の外周面を暖めることができる。よって、アノードガス出口マニホールド22bでのアノードオフガス中の水蒸気の凝縮を抑制することができるので、アノード側でのフラッディングを抑制することができる。
【0089】
また、ウォータジャケット66内の冷却水が、アノードガス出口マニホールド22の側方及び下方を通ってからアノードガス収束領域28の下方を通って流れるので、燃料電池スタック10の外周面からの放熱の影響を受けやすいアノードガス出口マニホールド22bを、最も高温な状態の冷却水で昇温させることができる。これにより、効率良くアノードガス出口マニホールド22bでのアノードオフガス中の水蒸気の凝縮を抑制することができる。
【0090】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。
【0091】
例えば、上記の各実施形態では、アクティブエリア29よりも下流のアノードガス収束領域28及びアノードガス出口マニホールド22bを昇温させていたが、アノードガス出口マニホールド22bを集中的に昇温させることができるように、電気ヒータ81や電力変換器82内の各電子部品821、ウォータジャケット66を配置しても良い。
【0092】
これにより、アノードオフガス中の水蒸気が凝縮しやすいアノードガス出口マニホールド22bを集中的に昇温させることでき、アノードガス出口マニホールド22bに熱源の熱量を集中的に投入することができる。したがって、効率良くアノードガス出口マニホールド22bでのアノードオフガス中の水蒸気の凝縮を抑制することができる。
【0093】
また、上記第1及び第2実施形態では、アクティブエリア29よりも下流のアノードガス収束領域28及びアノードガス出口マニホールド22bを均等に昇温させていたが、第3実施形態のようにアノードガスの流れ方向に沿って熱源の熱量が増加するように昇温させても良い。
【0094】
アノードガスの流れ方向に沿って熱源の熱量を増加させる場合、第1実施形態であれば、アノードガス出口マニホールド22bの周りの燃料電池スタック10の外周面に電気ヒータ81を多く取り付ければ良い。第2実施形態であれば、アノードガス出口マニホールド22bの下方に発熱性の各電子部品821を多く配置させれば良い。
【0095】
これにより、アノードオフガス中の水蒸気の凝縮しやすさに応じた熱量を熱源からアノードガス出口マニホールド22b及びアノードガス収束領域28に投入することができる。つまり、燃料電池スタック10の外周面からの放熱の影響を受けやすいアノードガス出口マニホールド22bに熱源の熱量を多く投入することができるので、より効率良くアノードガス出口マニホールド22bでのアノードオフガス中の水蒸気の凝縮を抑制することができる。
【0096】
また、上記の各実施形態では、燃料電池スタック10にアノードガスを圧送するポンプを備えない燃料電池システムとしてアノードガス非循環型の燃料電池システム100を例に説明したが、これに限られるものではない。アノードガス循環型の燃料電池システムであっても、アノードガスを循環させるポンプを備えない燃料電池システムであれば良い。
【0097】
また、上記の各実施形態では、単セル1の積層方向に沿って、アノードガス出口マニホールド22b近傍の燃料電池スタック10の外周面全体を覆うように電気ヒータ81や電力変換器82内の各電子部品821、ウォータジャケット66を配置していたが、これに限られるものではない。
【0098】
例えば、図8に示すように、単セル1の積層方向の両端部のみを電気ヒータ81等によって昇温させても良い。そしてこのとき、アノードガス出口孔42b側にいくほど、熱量が増加するようにしても良い。これにより、放熱の影響が最も大きいアノードガス出口孔42b近傍のアノードガス出口マニホールド22bに熱源の熱量を多く投入することができるので、より効率良くアノードガス出口マニホールド22bでのアノードオフガス中の水蒸気の凝縮を抑制することができる。
【符号の説明】
【0099】
10 燃料電池スタック
22a アノードガス入口マニホールド
22b アノードガス出口マニホールド
29 アクティブエリア
42b アノードガス出口孔
60 スタック冷却装置(冷却装置)
66 ウォータジャケット(昇温部)
81 電気ヒータ(昇温部)
82 電力変換器(昇温部)
821 電子部品(発熱性電子部品)
100 燃料電池システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノードガス及びカソードガスを、単セルを積層した燃料電池スタックに供給して発電させる燃料電池システムであって、
前記燃料電池スタックをその底面側から昇温させる昇温部を備える、
ことを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
前記燃料電池スタックは、前記単セルの積層方向に延びるとともに前記燃料電池スタックから排出されるオフガスが流入する出口マニホールドを備え、
前記出口マニホールド内のオフガスが前記昇温部によって温められるように、前記出口マニホールドを前記燃料電池スタックの底面近傍に配置させる、
ことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記燃料電池システムは、アノードガスを圧送するポンプを備えないアノードガス非循環型の燃料電池システムであり、
前記出口マニホールドは、アノードオフガスが流入するアノードガス出口マニホールドである、
ことを特徴とする請求項2に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記単セルは、電極反応によって発熱しているアクティブエリアと、前記アクティブエリアを通過したアノードオフガスを前記アノードガス出口マニホールドに導入するガス収束領域とを備え、
前記昇温部は、前記単セルのガス収束領域及び前記アノードガス出口マニホールドの下方となる前記燃料電池スタックの底面に設けられる、
ことを特徴とする請求項3に記載の燃料電池システム。
【請求項5】
前記単セルの積層方向に対して直交するアノードガスの流れ方向に沿って相対的に投入熱量が増加するように、前記燃料電池スタックの底面に設けられる、
ことを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の燃料電池システム。
【請求項6】
前記昇温部は電気ヒータである、
ことを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか1つに記載の燃料電池システム。
【請求項7】
前記昇温部は、前記燃料電池スタックの下方に設けられた電力変換器内部の発熱性電子部品である、
ことを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか1つに記載の燃料電池システム。
【請求項8】
前記燃料電池スタックを冷却する冷却水を循環させる冷却装置を備え、
前記昇温部は、前記燃料電池を冷却した相対的に高温な冷却水が流入するウォータジャケットである、
ことを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか1つに記載の燃料電池システム。
【請求項9】
前記燃料電池スタックは、前記アノードガス出口マニホールドを介してアノードオフガスを前記燃料電池スタックの外部に排出するアノードガス出口孔を複数有する、
ことを特徴とする請求項1から請求項8までのいずれか1つに記載の燃料電池システム。
【請求項10】
前記燃料電池スタックを冷却する冷却水を循環させる冷却装置を備え、
前記燃料電池スタック内でのカソードガス及び冷却水の流れ方向を、前記燃料電池スタック内でのアノードガスの流れ方向に対して反対向きとした、
ことを特徴とする請求項1から請求項9までのいずれか1つに記載の燃料電池システム。
【請求項11】
前記燃料電池スタックのアノードガス出口マニホールドは、その燃料電池スタックのアノードガス入口マニホールドよりも重力方向下側に設けられる、
ことを特徴とする請求項1から請求項10までのいずれか1つに記載の燃料電池システム。
【請求項12】
前記昇温部は、前記燃料電池スタックの単セル積層方向端部に設けられる、
ことを特徴とする請求項1から請求項11までのいずれか1つに記載の燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−110070(P2013−110070A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−256284(P2011−256284)
【出願日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】