燃料電池システム
【課題】水素欠乏によるMEA(電解質膜)の劣化を防止することができる燃料電池システムを提供する。
【解決手段】アノードガスに混入する不純物をパージする燃料電池システムにおいて、要求負荷の変動に応じて反応ガスの圧力を設定する圧力設定部(ステップS11)と、燃料電池スタックの反応流路に窒素澱み点が残存するか否かを判定する澱み点判定部(ステップS15)と、窒素澱み点が残存する状態で要求負荷が低下したときには、反応ガスの圧力を下げることを禁止して運転する運転制御部(S14,S16)と、を含む。
【解決手段】アノードガスに混入する不純物をパージする燃料電池システムにおいて、要求負荷の変動に応じて反応ガスの圧力を設定する圧力設定部(ステップS11)と、燃料電池スタックの反応流路に窒素澱み点が残存するか否かを判定する澱み点判定部(ステップS15)と、窒素澱み点が残存する状態で要求負荷が低下したときには、反応ガスの圧力を下げることを禁止して運転する運転制御部(S14,S16)と、を含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、高圧のアノードガスの供給/停止が繰り返されてアノードガスの圧力が脈動する燃料電池システムを開示する。このような燃料電池システムでは、高圧のアノードガスが供給されれば、発電反応が生じアノードガスが消費される。続いて、アノードガスの供給が停止されれば、反応流路に残留するアノードガスが発電反応に消費される。そして再び高圧のアノードガスが供給されて、発電反応によってアノードガスが消費される。このようなことが繰り返されることで、アノードガスが無駄なく効率的に利用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2007−517369号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
要求負荷の変動に応じてアノードガスの圧力を調整する場合に、要求負荷が上がったときには、圧力調整弁の開度や開弁時間を大きくすることで、水素タンクから高圧の水素が供給されて、アノードガスの圧力が迅速に上昇する。したがって上げ過渡運転の時間は短い。ところが要求負荷が下がったときには、圧力調整弁を閉じた状態で発電反応によって水素が消費されるのを待たなければならない。したがって、アノードガスの圧力を下げるときの過渡運転(下げ過渡運転)の時間は、上げ過渡運転の時間に比べて長い。この下げ過渡運転において、バッファータンクの窒素が逆流してMEAのアノードガスの反応流路に残存する可能性がある。このような状態で、再び下げ過渡運転すると、水素が欠乏する事態が生じて、MEA(電解質膜)の劣化が促進されるおそれがある。
【0005】
本発明は、このような従来の問題点に着目してなされた。本発明の目的は、水素欠乏によるMEA(電解質膜)の劣化を防止することができる燃料電池システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下のような解決手段によって前記課題を解決する。
【0007】
本発明による燃料電池システムのひとつの態様は、アノードガスに混入する不純物をパージする。そして、要求負荷の変動に応じて反応ガスの圧力を設定する圧力設定部と、燃料電池スタックの反応流路に窒素澱み点が残存するか否かを判定する澱み点判定部と、窒素澱み点が残存する状態で要求負荷が低下したときには、反応ガスの圧力を下げることを禁止して運転する運転制御部と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
この態様によれば、窒素澱み点が残存する状態で要求負荷が低下したときには、反応ガスの圧力を下げることを禁止して運転するので、水素欠乏によるMEA(電解質膜)の劣化を防止することができる。
【0009】
本発明の実施形態、本発明の利点については、添付された図面を参照しながら以下に詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、本発明による燃料電池システムの第1実施形態の概要を示す図である。
【図2】図2は、燃料電池スタックを説明する図である。
【図3】図3は、燃料電池スタックにおける電解質膜の反応を説明する模式図である。
【図4】図4は、燃料電池スタックに供給する反応ガスの圧力を模式的に示す図である。
【図5】図5は、窒素澱み点が生じるメカニズムについて説明する図である。
【図6】図6は、図4の低負荷運転中のMEAのアノード流路における水素濃度を模式的に示す図である。
【図7】図7は、図4の高負荷運転中のMEAのアノード流路における水素濃度を模式的に示す図である。
【図8】図8は、本実施形態が解決しようとする課題について説明する図である。
【図9】図9は、燃料電池システムの第1実施形態のコントローラーが実行する制御フローチャートである。
【図10】図10は、窒素澱み点がMEAのアノード流路に残存するか否かを判定するルーチンを示すフローチャートである。
【図11】図11は、圧力低下ΔPと窒素澱み点の出口からの距離との相関の一例を示す図である。
【図12】図12は、第1実施形態の制御フローチャートが実行されたときの作動を説明するタイミングチャートである。
【図13】図13は、本発明による燃料電池システムの第2実施形態のコントローラーが実行する制御フローチャートである。
【図14】図14は、圧力低下ΔPと現在の水素濃度C1との相関の一例を示す図である。
【図15】図15は、要求負荷に応じて圧力を下げた後の水素濃度C2を求めるためのマップの一例を示す図である。
【図16】図16は、第2実施形態の制御フローチャートが実行されたときの作動を説明するタイミングチャートである。
【図17】図17は、第2実施形態の制御フローチャートが実行されたときのMEAのアノード流路における水素濃度を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1実施形態)
図1は、本発明による燃料電池システムの第1実施形態の概要を示す図である。
【0012】
燃料電池システムは、燃料電池スタック100と、水素タンク200と、圧力調整弁300と、バッファータンク400と、パージ弁500と、コントローラー600と、を含む。
【0013】
燃料電池スタック100は、反応ガス(アノードガスH2、カソードガスO2)が供給されて発電する。詳細は後述する。
【0014】
水素タンク200は、アノードガスH2を高圧状態で貯蔵する高圧ガスタンクである。水素タンク200は、アノードラインの最上流に設けられる。
【0015】
圧力調整弁300は、水素タンク200の下流に設けられる。圧力調整弁300は、水素タンク200から新たにアノードラインに供給するアノードガスH2の圧力を調整する。アノードガスH2の圧力は、圧力調整弁300の開度によって調整される。
【0016】
バッファータンク400は、燃料電池スタック100の下流に設けられる。バッファータンク400は、燃料電池スタック100から排出されたアノードガスH2を蓄える。また燃料電池スタックのカソード流路を流れる空気の一部(特に窒素N2)が電解質膜を透過してアノード流路に到達する。この窒素N2もアノードガスH2とともに燃料電池スタック100から排出され、バッファータンク400に蓄えられる。
【0017】
パージ弁500は、バッファータンク400の下流に設けられる。パージ弁500が開くと、窒素N2がアノードガスH2とともにバッファータンク400からパージされる。
【0018】
コントローラー600は、アノードラインに設けられた圧力センサー71や燃料電池スタック100に設けられた電流電圧センサー72などの信号に基づいて圧力調整弁300の作動を制御する。具体的な制御内容は後述される。
【0019】
図2は、燃料電池スタックを説明する図であり、図2(A)は外観斜視図、図2(B)は発電セルの構造を示す分解図である。
【0020】
図2(A)に示されるように、燃料電池スタック100は、積層された複数の発電セル10と、集電プレート20と、絶縁プレート30と、エンドプレート40と、4本のテンションロッド50とを備える。
【0021】
発電セル10は、燃料電池の単位発電セルである。各発電セル10は、1ボルト(V)程度の起電圧を生じる。各発電セル10の構成の詳細については後述される。
【0022】
集電プレート20は、積層された複数の発電セル10の外側にそれぞれ配置される。集電プレート20は、ガス不透過性の導電性部材、たとえば緻密質カーボンで形成される。集電プレート20は、正極端子211及び負極端子212を備える。燃料電池スタック100は、正極端子211及び負極端子212によって、各発電セル10で生じた電子e-が取り出されて出力する。
【0023】
絶縁プレート30は、集電プレート20の外側にそれぞれ配置される。絶縁プレート30は、絶縁性の部材、たとえばゴムなどで形成される。
【0024】
エンドプレート40は、絶縁プレート30の外側にそれぞれ配置される。エンドプレート40は、剛性のある金属材料、たとえば鋼などで形成される。
【0025】
一方のエンドプレート40(図2(A)では、左手前のエンドプレート40)には、アノード供給口41aと、アノード排出口41bと、カソード供給口42aと、カソード排出口42bと、冷却水供給口43aと、冷却水排出口43bとが設けられている。本実施形態では、アノード供給口41a、冷却水供給口43a及びカソード排出口42bは図中右側に設けられている。またカソード供給口42a、冷却水排出口43b及びアノード排出口41bは図中左側に設けられている。
【0026】
テンションロッド50は、エンドプレート40の四隅付近にそれぞれ配置される。燃料電池スタック100は内部に貫通した孔(不図示)が形成されている。この貫通孔にテンションロッド50が挿通される。テンションロッド50は、剛性のある金属材料、たとえば鋼などで形成される。テンションロッド50は、発電セル10同士の電気短絡を防止するため、表面には絶縁処理されている。このテンションロッド50にナット(奥にあるため図示されない)が螺合する。テンションロッド50とナットとが燃料電池スタック100を積層方向に締め付ける。
【0027】
アノード供給口41aにアノードガスとしての水素を供給する方法としては、例えば水素ガスを水素貯蔵装置から直接供給する方法、又は水素を含有する燃料を改質して改質した水素含有ガスを供給する方法などがある。なお、水素貯蔵装置としては、高圧ガスタンク、液化水素タンク、水素吸蔵合金タンクなどがある。水素を含有する燃料としては、天然ガス、メタノール、ガソリンなどがある。図1では、高圧ガスタンクが使用される。また、カソード供給口42aに供給するカソードガスとしては、一般的に空気が利用される。
【0028】
図2(B)に示されるように、発電セル10は、膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly;MEA)11の両面に、アノードセパレーター(アノードバイポーラープレート)12a及びカソードセパレーター(カソードバイポーラープレート)12bが配置される構造である。
【0029】
MEA11は、イオン交換膜からなる電解質膜111の両面に電極触媒層112が形成される。この電極触媒層112の上にガス拡散層(Gas Diffusion Layer;GDL)113が形成される。
【0030】
電極触媒層112は、たとえば白金が担持されたカーボンブラック粒子で形成される。
【0031】
GDL113は、十分なガス拡散性及び導電性を有する部材、たとえばカーボン繊維で形成される。
【0032】
アノード供給口41aから供給されたアノードガスは、このGDL113aを流れてアノード電極触媒層112(112a)と反応し、アノード排出口41bから排出される。
【0033】
カソード供給口42aから供給されたカソードガスは、このGDL113bを流れてカソード電極触媒層112(112b)と反応し、カソード排出口42bから排出される。
【0034】
アノードセパレーター12aは、GDL113a及びシール14aを介してMEA11の片面(図2(B)の裏面)に重ねられる。カソードセパレーター12bは、GDL113b及びシール14bを介してMEA11の片面(図2(B)の表面)に重ねられる。シール14(14a,14b)は、たとえばシリコーンゴム、エチレンプロピレンゴム(ethylene propylene diene monomer;EPDM)、フッ素ゴムなどのゴム状弾性材である。アノードセパレーター12a及びカソードセパレーター12bは、たとえばステンレスなどの金属製のセパレーター基体がプレス成型されて、一方の面に反応流路が形成され、その反対面に反応流路と交互に並ぶように冷却水流路が形成される。図2(B)に示すようにアノードセパレーター12a及びカソードセパレーター12bが重ねられて、冷却水流路が形成される。
【0035】
MEA11、アノードセパレーター12a及びカソードセパレーター12bには、それぞれ孔41a,41b,42a,42b,43a,43bが形成されており、これらが重ねられて、アノード供給口(アノード供給マニホールド)41a、アノード排出口(アノード排出マニホールド)41b、カソード供給口(カソード供給マニホールド)42a、カソード排出口(カソード排出マニホールド)42b、冷却水供給口(冷却水供給マニホールド)43a及び冷却水排出口(冷却水排出マニホールド)43bが形成される。
【0036】
図3は、燃料電池スタックにおける電解質膜の反応を説明する模式図である。
【0037】
上述のように、燃料電池スタック100は、反応ガス(カソードガスO2、アノードガスH2)が供給されて発電する。燃料電池スタック100は、電解質膜の両面にカソード電極触媒層及びアノード電極触媒層が形成された膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly;MEA)が数百枚積層されて構成される。そのうちの1枚のMEAが図3(A)に示される。ここではMEAにカソードガスが供給されて(カソードイン)、対角側から排出されながら(カソードアウト)、アノードガスが供給されて(アノードイン)、対角側から排出される(アノードアウト)、という例が示されている。
【0038】
各膜電極接合体(MEA)は、カソード電極触媒層及びアノード電極触媒層において以下の反応が、負荷に応じて進行して発電する。
【0039】
【数1】
【0040】
図3(B)に示すように、反応ガス(カソードガスO2)がカソード流路を流れるにつれて上式(1-1)の反応が進行し、水蒸気が生成される。するとカソード流路の下流側では相対湿度が高くなる。この結果、カソード側とアノード側との相対湿度差が大きくなる。この相対湿度差をドライビングフォースとして、水が逆拡散しアノード上流側が加湿される。この水分がさらにMEAからアノード流路に蒸発してアノード流路を流れる反応ガス(アノードガスH2)を加湿する。そしてアノード下流側に運ばれてアノード下流のMEAを加湿する。
【0041】
上記反応によって効率よく発電するには、電解質膜が適度な湿潤状態であることが必要である。電解質膜中の水分が少なく電解質膜の湿潤度が小さすぎれば上記反応が促進されない。反対に、電解質膜中の水分が多すぎれば、余剰の水分が反応流路に溢れてしまって、ガスの流れが阻害される。このような場合も上記反応が促進されない。したがって電解質膜が適度な湿潤状態であることで、効率よく発電される。
【0042】
図4は、燃料電池スタックに供給する反応ガスの圧力を模式的に示す図である。
【0043】
この燃料電池スタック100は、要求負荷の変動に応じて反応ガス(アノードガス、カソードガス)の圧力が設定される。そして、圧力調整弁300が開閉されて、高圧のアノードガスの供給/停止が繰り返されることで、アノードガスが脈動供給される。
【0044】
図4に示されるように、要求負荷が小さいときには、反応ガス(アノードガス、カソードガス)の圧力が低く設定されてアノードガスが脈動供給される。要求負荷が大きくなれば、反応ガス(アノードガス、カソードガス)の圧力が高く設定されてアノードガスが脈動供給される。
【0045】
アノードガスの圧力を上げるときには、圧力調整弁300の開度や開弁時間を大きくすればよい。このようにすれば、水素タンク200から高圧の水素が供給され、アノードガスの圧力を迅速に上げることができる。したがって、上げ過渡運転の時間は短い。
【0046】
しかしながら、アノードガスの圧力を下げるときには、圧力調整弁300を閉じた状態で上式(1-2)の反応によってアノードガスH2が消費されるのを待たなければならない。したがって、アノードガスの圧力を下げるときの過渡運転(下げ過渡運転)の時間は、上げ過渡運転の時間に比べて長い。そして下げ過渡運転では、圧力調整弁300が閉じられているので、アノードガスの圧力は脈動しない。また下げ過渡運転の時間が長いので、燃料電池スタックのMEAの反応流路に窒素が澱む場所(窒素澱み点)が生じる。窒素が澱んでいれば、その場所のアノードガス濃度が他よりも低くなる。このような窒素澱み点は、低負荷運転や高負荷運転でも生じていると考えられるが、圧力調整弁300が閉じられている時間が短いので、問題にはならない。
【0047】
この窒素澱み点については、以下で説明される。
【0048】
図5は窒素澱み点が生じるメカニズムについて説明する図であり、図5(A)はMEAの反応流路の断面を示し、図5(B)はMEAの反応流路の位置におけるアノードガス濃度の時間変化を示す。
【0049】
圧力調整弁300が全閉されても、MEAのアノード流路のアノードガスは、図5(A)の右向き矢印に示されるように、水素(アノードガス)の消費による圧力差によって、バッファータンク側へ流れる。アノードガスが消費されると、アノード流路の圧力がバッファータンクの圧力よりも低くなる。この結果、バッファータンクからアノード流路へ逆流するガスが発生する。バッファータンクには、水素H2ととも窒素N2も蓄えられているので、水素H2ととも窒素N2が逆流する。
【0050】
窒素N2は、式(1-1)(1-2)に示された触媒反応では、反応しないので、消費されない。そのため速度0点の近傍には、時間の経過とともに窒素N2が滞留することとなる。この結果、図5(B)に示されるように、時間の経過とともにアノードガスH2の濃度が下がる。
【0051】
図6は、図4の低負荷運転中のMEAのアノード流路における水素濃度を模式的に示す図であり、図6(A)は脈動圧が上限圧に達した状態を示し、図6(B)は脈動圧が下限圧に達した状態を示す。
【0052】
脈動圧が上限圧に達したときには、アノード流路は、上流から下流まで水素で充たされる。バッファータンクには、窒素も存在する。そのため、バッファータンクの水素濃度は、アノード流路の水素濃度よりも低い。
【0053】
脈動圧が下がって下限圧に達したときは、上述のように窒素澱み点が存在するので、アノード下流付近では、水素濃度が下がる。
【0054】
図7は、図4の高負荷運転中のMEAのアノード流路における水素濃度を模式的に示す図であり、図7(A)は脈動圧が上限圧に達した状態を示し、図7(B)は脈動圧が下限圧に達した状態を示す。
【0055】
高負荷運転においても、低負荷運転と同様に、脈動圧が上限圧に達したときには、アノード流路は、上流から下流まで水素で充たされる。
【0056】
脈動圧が下がって下限圧に達したときは、上述のように窒素澱み点が存在するので、アノード下流付近では、水素濃度が下がる。
【0057】
なお高負荷運転のときのほうが、低負荷運転のときに比べて、窒素澱み点がアノード流路の奥の位置に存在する。
【0058】
図8は、本実施形態が解決しようとする課題について説明する図である。図8(A)は、下げ過渡運転を終了した状態でのMEAのアノード流路における水素濃度を模式的に示す図である。図8(B)は、図8(A)の状態の後に、中負荷運転になってアノードガスの圧力が上がって脈動圧が上限圧に達した状態でのMEAのアノード流路における水素濃度を模式的に示す図である。図8(C)は、図8(B)の状態の後に、下げ過渡運転したときのMEAのアノード流路における水素濃度を模式的に示す図である。
【0059】
図4に示されるように、下げ過渡運転の時間は長い。そのため、図8(A)に示されるように、窒素澱み点は、図7(B)に示される高負荷運転中の脈動圧が下限圧に達した状態における位置よりも、さらに奥の位置に存在する。
【0060】
このような状態の後に、中負荷運転になってアノードガスの圧力が上がって脈動圧が上限圧に達しても、図8(B)に示されるように、窒素澱み点がバッファータンクまで排出されることなく、アノード流路内に残存してしまう。
【0061】
このような状態で、下げ過渡運転すると、窒素澱み点がアノード流路の奥に押し込まれるとともに、その窒素澱み点にさらに窒素が澱むこととなって水素が欠乏する事態が生じる。このようになっては、MEA(電解質膜)の劣化が促進されてしまう。
【0062】
このような課題を解決するために、発明者らは、以下のように制御することに想到した。
【0063】
図9は、燃料電池システムの第1実施形態のコントローラーが実行する制御フローチャートである。なおコントローラーは、微小時間(たとえば10ミリ秒)ごとにこのフローチャートを繰り返し実行する。
【0064】
ステップS11においてコントローラーは、要求負荷に応じて目標圧力を設定する。なお要求負荷は、たとえばドライバーによるアクセルペダル踏み込み量などから得られる。また要求負荷が大きいほど、目標圧力も大きい傾向になる。具体的には、あらかじめ実験等を通じて相関をマップに設定しておき、そのマップに要求負荷を適用して目標圧力を設定すればよい。
【0065】
ステップS12においてコントローラーは、現在、圧力下げを禁止して運転中であるか否かを判定する。コントローラーは、判定結果が否であればステップS13へ処理を移行し、判定結果が肯であればステップS15へ処理を移行する。
【0066】
ステップS13においてコントローラーは、要求負荷(目標圧力)が上がったか否かを判定する。コントローラーは、判定結果が否であればステップS14へ処理を移行し、判定結果が肯であればステップS15へ処理を移行する。
【0067】
ステップS14においてコントローラーは、何ら禁止することなく要求負荷に応じた目標圧力で運転する。
【0068】
ステップS15においてコントローラーは、窒素澱み点がMEAのアノード流路に残存するか否かを判定する。なお具体的な判断手法については、後述する。コントローラーは、判定結果が否であればステップS13へ処理を移行し、判定結果が肯であればステップS16へ処理を移行する。
【0069】
ステップS16においてコントローラーは、圧力下げを禁止して運転する。
【0070】
図10は、窒素澱み点がMEAのアノード流路に残存するか否かを判定するルーチンを示すフローチャートである。
【0071】
ステップS151においてコントローラーは、窒素澱み点の排出に必要な時間が演算されているか否かを判定する。コントローラーは、判定結果が否であればステップS152へ処理を移行し、判定結果が肯であればステップS156へ処理を移行する。
【0072】
ステップS152においてコントローラーは、窒素澱み点の出口からの距離を演算する。窒素澱み点の出口からの距離は、圧力低下(ΔP)が大きいほど、大きい傾向にある。また、同じ圧力低下(ΔP)でも初期圧力が小さいほど、大きい傾向にある(図11)。そこで、このような関係をあらかじめ実験等を通じてマップに設定しておき、そのマップに基づいて、窒素澱み点の出口からの距離を演算すればよい。
【0073】
ステップS153においてコントローラーは、パージ弁を開いてパージしたときに窒素澱み点が移動する速度を演算する。窒素澱み点の移動速度は、パージ弁の開度が大きいほど、速い傾向にある。また、パージ弁の開度時間が長いほど、速い傾向にある。また、運転圧力が高いほど、速い傾向にある。そこで、このような関係をあらかじめ実験等を通じてマップに設定しておき、そのマップに基づいて、窒素澱み点の移動速度を演算すればよい。
【0074】
ステップS154においてコントローラーは、圧力を脈動させることによって窒素澱み点が移動する速度を演算する。窒素澱み点の移動速度は、脈動振幅が大きいほど、速い傾向にある。また、脈動周期が短いほど、速い傾向にある。そこで、このような関係をあらかじめ実験等を通じてマップに設定しておき、そのマップに基づいて、窒素澱み点の移動速度を演算すればよい。
【0075】
ステップS155においてコントローラーは、窒素澱み点の排出に必要な時間を演算する。具体的には、ステップS152で求めた窒素澱み点の出口からの距離、ステップS153及びステップS154で求めた窒素澱み点の移動速度を勘案して、窒素澱み点の排出に必要な時間を演算する。
【0076】
ステップS156においてコントローラーは、窒素澱み点の排出に必要な時間が経過したか否かを判定する。コントローラーは、判定結果が否であればステップS157へ処理を移行し、判定結果が肯であればステップS158へ処理を移行する。
【0077】
ステップS157においてコントローラーは、窒素澱み点がMEAのアノード流路に残存していると判定する。
【0078】
ステップS158においてコントローラーは、窒素澱み点がMEAのアノード流路から排出されたと判定する。
【0079】
以上のフローチャートが実行されると、窒素澱み点の排出に必要な時間が演算されていなければ、ステップS151→S152→S153→S154→S155が処理されて、窒素澱み点の排出に必要な時間が演算される。
【0080】
窒素澱み点の排出に必要な時間が演算された後は、その時間が経過するまでは、ステップS151→S156→S157が処理されて、窒素澱み点がMEAのアノード流路に残存していることが判定される。そして、その時間が経過したら、ステップS151→S156→S158が処理されて、窒素澱み点がMEAのアノード流路から排出されたことが判定される。
【0081】
図12は、第1実施形態の制御フローチャートが実行されたときの作動を説明するタイミングチャートである。
【0082】
なお上述のフローチャートとの対応が分かりやすくするために、フローチャートのステップ番号にSを付して併記する。
【0083】
以上の制御フローチャートが実行されて以下のように作動する。
【0084】
図12では、時刻t11以前は、ステップS11→S12→S13→S14が繰り返し処理されて、要求負荷に応じた目標圧力で運転される。
【0085】
時刻t11で要求負荷が上がる。このとき、窒素澱み点は、MEAのアノード流路に残存しない。そこで、ステップS11→S12→S13→S15→S14が処理されて、要求負荷に応じた目標圧力で運転される。そして、その後は、ステップS11→S12→S13→S14が繰り返し処理されて、要求負荷に応じた目標圧力で運転される。
【0086】
時刻t12で要求負荷が下がる。このときは、ステップS11→S12→S13→S14が処理されて、要求負荷に応じた目標圧力で運転される。また、その後も、ステップS11→S12→S13→S14が繰り返し処理されて、要求負荷に応じた目標圧力で運転される。
【0087】
時刻t13で要求負荷が再び上がる。直前まで下げ過渡運転していたので、窒素澱み点がMEAのアノード流路に残存している。そこで、ステップS11→S12→S13→S15→S16が処理されて、圧力下げを禁止して運転する。その後は、ステップS11→S12→S15→S16が繰り返し処理されて、圧力下げを禁止して運転する。
【0088】
時刻t14で要求負荷が再び下がる。しかしながらこの時点では、まだ、窒素澱み点がMEAのアノード流路に残存している。そこで、ステップS11→S12→S15→S16が処理されて、圧力下げを禁止した運転が継続される。その結果、要求負荷は下がったが、圧力は下げられることなく現在の圧力が維持されて運転される。
【0089】
時刻t15で、窒素澱み点の排出に必要な時間が経過する。すなわち、窒素澱み点がMEAのアノード流路から排出されたことが判定される。そこで、ステップS11→S12→S15→S14が処理されて、要求負荷に応じた目標圧力で運転される。その結果、圧力が下げられて運転される。その後は、ステップS11→S12→S13→S14が繰り返し処理されて、圧力下げが禁止されることなく、要求負荷に応じた目標圧力で運転される。
【0090】
本実施形態によれば、窒素澱み点がMEAのアノード流路に残存しているときには、要求負荷が下がっても、圧力を下げることなく現在の圧力を維持して運転する。このようにしたので、現在残存している窒素澱み点にさらに窒素が澱むことで、水素が欠乏して、MEA(電解質膜)の劣化が促進されてしまう事態を防止できるようになった。
【0091】
そして、その後、窒素澱み点がMEAのアノード流路から排出された場合には、圧力を下げて運転するので、要求負荷に応じた圧力を供給することできる。仮に圧力を下げることなく、運転を継続すれば、燃費が悪化してしまう。しかしながら、本実施形態によれば、窒素澱み点がMEAのアノード流路から排出された場合には、圧力を下げて運転するので、このような事態を防止できる。
【0092】
また本実施形態では、窒素澱み点がMEAのアノード流路に残存しているか否かを、窒素澱み点の排出に必要な時間を演算し、その時間が経過したか否かによって求めるようにした。このようにしたので、簡易に判定することができる。
【0093】
(第2実施形態)
窒素澱み点がMEAのアノード流路に実際に残存しても、要求負荷の低下が少なく圧力を下げても水素欠乏に陥らなければ、圧力下げを禁止する必要がない。そこでこの第2実施形態では、圧力を下げたときに、水素欠乏に陥るか否かを推定する。そして、水素欠乏に陥ると推定できるときにのみ圧力下げを禁止し、水素欠乏に陥らないと推定できるときには、圧力下げを禁止しないようにした。
【0094】
具体的な内容を以下に説明する。
【0095】
図13は、本発明による燃料電池システムの第2実施形態のコントローラーが実行する制御フローチャートである。
【0096】
なお以下では前述と同様の機能を果たす部分には同一の符号を付して重複する説明を適宜省略する。
【0097】
ステップS11〜S16は、第1実施形態と同様なので、説明を省略する。
【0098】
ステップS21においてコントローラーは、要求負荷(目標圧力)が下がったか否かを判定する。コントローラーは、判定結果が否であればステップS22へ処理を移行し、判定結果が肯であればステップS16へ処理を移行する。
【0099】
ステップS22においてコントローラーは、現在の水素濃度C1を推定する。具体的には、水素濃度C1は、圧力調整弁の閉弁時間が長いほど、つまり圧力低下(ΔP)が大きいほど、小さい傾向にある。そこで、このような関係をあらかじめ実験等を通じてマップに設定しておき(図14)、そのマップに基づいて、現在の水素濃度C1を推定すればよい。
【0100】
ステップS23においてコントローラーは、現在の水素濃度C1に基づいて、要求負荷に応じて圧力を下げた後の水素濃度C2を推定する。具体的には、水素濃度C2は、水素濃度C1が小さいほど、小さい傾向にある。また圧力調整弁の閉弁時間が長いほど、小さい傾向にある。そこで、このような関係をあらかじめ実験等を通じてマップに設定しておき(図15)、そのマップに基づいて、水素濃度C2を推定すればよい。また、ステップS22で用いたマップの初期値を水素濃度C1とすることで、水素濃度C2を推定してもよい。
【0101】
ステップS24においてコントローラーは、水素濃度C2が基準濃度C0よりも小さいか否かを判定する。なおこの基準濃度C0は、水素濃度C2に誤差があったとしても、MEAのアノード流路において水素欠乏にならないことを判定するための基準値である。このような基準値は、あらかじめ実験等を通じて設定しておけばよい。コントローラーは、判定結果が否であればステップS14へ処理を移行し、判定結果が肯であればステップS16へ処理を移行する。
【0102】
以上の制御フローチャートが実行されて以下のように作動する。
【0103】
図16は、第2実施形態の制御フローチャートが実行されたときの作動を説明するタイミングチャートである。また図17は、第2実施形態の制御フローチャートが実行されたときのMEAのアノード流路における水素濃度を模式的に示す図である。図17(A)は、下げ過渡運転を終了した状態でのMEAのアノード流路における水素濃度を模式的に示す。図17(B)は、図17(A)の状態の後に、負荷が上がってアノードガスの圧力が上がって脈動圧が上限圧に達した状態でのMEAのアノード流路における水素濃度を模式的に示す。図17(C)は、図17(B)の状態の後に、負荷が下がってアノードガスの圧力が下がった状態でのMEAのアノード流路における水素濃度を模式的に示す。
【0104】
図16では、時刻t21以前は、ステップS11→S12→S13→S14が繰り返し処理されて、要求負荷に応じた目標圧力で運転される。
【0105】
時刻t21で要求負荷が上がる。このとき、窒素澱み点は、MEAのアノード流路に残存しない。そこで、ステップS11→S12→S13→S15→S14が処理されて、要求負荷に応じた目標圧力で運転される。そして、その後は、ステップS11→S12→S13→S14が繰り返し処理されて、要求負荷に応じた目標圧力で運転される。
【0106】
時刻t22で要求負荷が下がる。このときは、ステップS11→S12→S13→S14が処理されて、要求負荷に応じた目標圧力で運転される。また、その後も、ステップS11→S12→S13→S14が繰り返し処理されて、要求負荷に応じた目標圧力で運転される。
【0107】
時刻t23で要求負荷が再び上がる。なお要求負荷が上がる直前のMEAのアノード流路における水素濃度が図17(A)に模式的に示される。このように、窒素澱み点は、MEAのアノード流路に残存している。そして、要求負荷が上がった直後のMEAのアノード流路における水素濃度が図17(B)に模式的に示される。このときは、ステップS11→S12→S13→S15→S21→S22が処理されて、現在の水素濃度C1が推定される。そしてステップS23が処理されて水素濃度C2が推定される。そしてステップS24が処理される。ここでは、水素濃度C2が基準濃度C0よりも大きく、ステップS24→S14が処理される。その後は、ステップS11→S12→S13→S14が繰り返し処理されて、要求負荷に応じた目標圧力で運転される。
【0108】
時刻t24で要求負荷が下がる。このときは、ステップS11→S12→S13→S14が処理されて、要求負荷に応じた目標圧力で運転される。また、その後も、ステップS11→S12→S13→S14が繰り返し処理されて、要求負荷に応じた目標圧力で運転される。
【0109】
この下げ過渡運転が終了した直後のMEAのアノード流路における水素濃度が図17(C)に模式的に示される。窒素澱み点において水素濃度C2が確保されており、水素欠乏に陥らない。このように本実施形態によれば、要求負荷に応じた目標圧力で運転できる。すなわち無用に運転圧力を高く維持することがない。したがって、燃費を悪化させることなく安定して発電できる。
【0110】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0111】
たとえば、上記実施形態においては、窒素澱み点がMEAのアノード流路に残存しているか否かを、窒素澱み点の排出に必要な時間を演算し、その時間が経過したか否かによって求めるようにしたが、これには限られない。窒素センサーによって窒素が残存しているか否かを判定してもよい。
【0112】
また各演算に使用するマップは、一例に過ぎない。マップに用いる項目は、適切なものを適宜用いればよい。
【0113】
なお上記実施形態は、適宜組み合わせ可能である。
【符号の説明】
【0114】
100 燃料電池スタック
200 水素タンク
300 圧力調整弁
400 バッファータンク
500 パージ弁
600 コントローラー600
ステップS11 圧力設定部
ステップS14,S16 運転制御部
ステップS15 澱み点判定部
ステップS22,S23 濃度推定部
【技術分野】
【0001】
この発明は、燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、高圧のアノードガスの供給/停止が繰り返されてアノードガスの圧力が脈動する燃料電池システムを開示する。このような燃料電池システムでは、高圧のアノードガスが供給されれば、発電反応が生じアノードガスが消費される。続いて、アノードガスの供給が停止されれば、反応流路に残留するアノードガスが発電反応に消費される。そして再び高圧のアノードガスが供給されて、発電反応によってアノードガスが消費される。このようなことが繰り返されることで、アノードガスが無駄なく効率的に利用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2007−517369号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
要求負荷の変動に応じてアノードガスの圧力を調整する場合に、要求負荷が上がったときには、圧力調整弁の開度や開弁時間を大きくすることで、水素タンクから高圧の水素が供給されて、アノードガスの圧力が迅速に上昇する。したがって上げ過渡運転の時間は短い。ところが要求負荷が下がったときには、圧力調整弁を閉じた状態で発電反応によって水素が消費されるのを待たなければならない。したがって、アノードガスの圧力を下げるときの過渡運転(下げ過渡運転)の時間は、上げ過渡運転の時間に比べて長い。この下げ過渡運転において、バッファータンクの窒素が逆流してMEAのアノードガスの反応流路に残存する可能性がある。このような状態で、再び下げ過渡運転すると、水素が欠乏する事態が生じて、MEA(電解質膜)の劣化が促進されるおそれがある。
【0005】
本発明は、このような従来の問題点に着目してなされた。本発明の目的は、水素欠乏によるMEA(電解質膜)の劣化を防止することができる燃料電池システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下のような解決手段によって前記課題を解決する。
【0007】
本発明による燃料電池システムのひとつの態様は、アノードガスに混入する不純物をパージする。そして、要求負荷の変動に応じて反応ガスの圧力を設定する圧力設定部と、燃料電池スタックの反応流路に窒素澱み点が残存するか否かを判定する澱み点判定部と、窒素澱み点が残存する状態で要求負荷が低下したときには、反応ガスの圧力を下げることを禁止して運転する運転制御部と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
この態様によれば、窒素澱み点が残存する状態で要求負荷が低下したときには、反応ガスの圧力を下げることを禁止して運転するので、水素欠乏によるMEA(電解質膜)の劣化を防止することができる。
【0009】
本発明の実施形態、本発明の利点については、添付された図面を参照しながら以下に詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、本発明による燃料電池システムの第1実施形態の概要を示す図である。
【図2】図2は、燃料電池スタックを説明する図である。
【図3】図3は、燃料電池スタックにおける電解質膜の反応を説明する模式図である。
【図4】図4は、燃料電池スタックに供給する反応ガスの圧力を模式的に示す図である。
【図5】図5は、窒素澱み点が生じるメカニズムについて説明する図である。
【図6】図6は、図4の低負荷運転中のMEAのアノード流路における水素濃度を模式的に示す図である。
【図7】図7は、図4の高負荷運転中のMEAのアノード流路における水素濃度を模式的に示す図である。
【図8】図8は、本実施形態が解決しようとする課題について説明する図である。
【図9】図9は、燃料電池システムの第1実施形態のコントローラーが実行する制御フローチャートである。
【図10】図10は、窒素澱み点がMEAのアノード流路に残存するか否かを判定するルーチンを示すフローチャートである。
【図11】図11は、圧力低下ΔPと窒素澱み点の出口からの距離との相関の一例を示す図である。
【図12】図12は、第1実施形態の制御フローチャートが実行されたときの作動を説明するタイミングチャートである。
【図13】図13は、本発明による燃料電池システムの第2実施形態のコントローラーが実行する制御フローチャートである。
【図14】図14は、圧力低下ΔPと現在の水素濃度C1との相関の一例を示す図である。
【図15】図15は、要求負荷に応じて圧力を下げた後の水素濃度C2を求めるためのマップの一例を示す図である。
【図16】図16は、第2実施形態の制御フローチャートが実行されたときの作動を説明するタイミングチャートである。
【図17】図17は、第2実施形態の制御フローチャートが実行されたときのMEAのアノード流路における水素濃度を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1実施形態)
図1は、本発明による燃料電池システムの第1実施形態の概要を示す図である。
【0012】
燃料電池システムは、燃料電池スタック100と、水素タンク200と、圧力調整弁300と、バッファータンク400と、パージ弁500と、コントローラー600と、を含む。
【0013】
燃料電池スタック100は、反応ガス(アノードガスH2、カソードガスO2)が供給されて発電する。詳細は後述する。
【0014】
水素タンク200は、アノードガスH2を高圧状態で貯蔵する高圧ガスタンクである。水素タンク200は、アノードラインの最上流に設けられる。
【0015】
圧力調整弁300は、水素タンク200の下流に設けられる。圧力調整弁300は、水素タンク200から新たにアノードラインに供給するアノードガスH2の圧力を調整する。アノードガスH2の圧力は、圧力調整弁300の開度によって調整される。
【0016】
バッファータンク400は、燃料電池スタック100の下流に設けられる。バッファータンク400は、燃料電池スタック100から排出されたアノードガスH2を蓄える。また燃料電池スタックのカソード流路を流れる空気の一部(特に窒素N2)が電解質膜を透過してアノード流路に到達する。この窒素N2もアノードガスH2とともに燃料電池スタック100から排出され、バッファータンク400に蓄えられる。
【0017】
パージ弁500は、バッファータンク400の下流に設けられる。パージ弁500が開くと、窒素N2がアノードガスH2とともにバッファータンク400からパージされる。
【0018】
コントローラー600は、アノードラインに設けられた圧力センサー71や燃料電池スタック100に設けられた電流電圧センサー72などの信号に基づいて圧力調整弁300の作動を制御する。具体的な制御内容は後述される。
【0019】
図2は、燃料電池スタックを説明する図であり、図2(A)は外観斜視図、図2(B)は発電セルの構造を示す分解図である。
【0020】
図2(A)に示されるように、燃料電池スタック100は、積層された複数の発電セル10と、集電プレート20と、絶縁プレート30と、エンドプレート40と、4本のテンションロッド50とを備える。
【0021】
発電セル10は、燃料電池の単位発電セルである。各発電セル10は、1ボルト(V)程度の起電圧を生じる。各発電セル10の構成の詳細については後述される。
【0022】
集電プレート20は、積層された複数の発電セル10の外側にそれぞれ配置される。集電プレート20は、ガス不透過性の導電性部材、たとえば緻密質カーボンで形成される。集電プレート20は、正極端子211及び負極端子212を備える。燃料電池スタック100は、正極端子211及び負極端子212によって、各発電セル10で生じた電子e-が取り出されて出力する。
【0023】
絶縁プレート30は、集電プレート20の外側にそれぞれ配置される。絶縁プレート30は、絶縁性の部材、たとえばゴムなどで形成される。
【0024】
エンドプレート40は、絶縁プレート30の外側にそれぞれ配置される。エンドプレート40は、剛性のある金属材料、たとえば鋼などで形成される。
【0025】
一方のエンドプレート40(図2(A)では、左手前のエンドプレート40)には、アノード供給口41aと、アノード排出口41bと、カソード供給口42aと、カソード排出口42bと、冷却水供給口43aと、冷却水排出口43bとが設けられている。本実施形態では、アノード供給口41a、冷却水供給口43a及びカソード排出口42bは図中右側に設けられている。またカソード供給口42a、冷却水排出口43b及びアノード排出口41bは図中左側に設けられている。
【0026】
テンションロッド50は、エンドプレート40の四隅付近にそれぞれ配置される。燃料電池スタック100は内部に貫通した孔(不図示)が形成されている。この貫通孔にテンションロッド50が挿通される。テンションロッド50は、剛性のある金属材料、たとえば鋼などで形成される。テンションロッド50は、発電セル10同士の電気短絡を防止するため、表面には絶縁処理されている。このテンションロッド50にナット(奥にあるため図示されない)が螺合する。テンションロッド50とナットとが燃料電池スタック100を積層方向に締め付ける。
【0027】
アノード供給口41aにアノードガスとしての水素を供給する方法としては、例えば水素ガスを水素貯蔵装置から直接供給する方法、又は水素を含有する燃料を改質して改質した水素含有ガスを供給する方法などがある。なお、水素貯蔵装置としては、高圧ガスタンク、液化水素タンク、水素吸蔵合金タンクなどがある。水素を含有する燃料としては、天然ガス、メタノール、ガソリンなどがある。図1では、高圧ガスタンクが使用される。また、カソード供給口42aに供給するカソードガスとしては、一般的に空気が利用される。
【0028】
図2(B)に示されるように、発電セル10は、膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly;MEA)11の両面に、アノードセパレーター(アノードバイポーラープレート)12a及びカソードセパレーター(カソードバイポーラープレート)12bが配置される構造である。
【0029】
MEA11は、イオン交換膜からなる電解質膜111の両面に電極触媒層112が形成される。この電極触媒層112の上にガス拡散層(Gas Diffusion Layer;GDL)113が形成される。
【0030】
電極触媒層112は、たとえば白金が担持されたカーボンブラック粒子で形成される。
【0031】
GDL113は、十分なガス拡散性及び導電性を有する部材、たとえばカーボン繊維で形成される。
【0032】
アノード供給口41aから供給されたアノードガスは、このGDL113aを流れてアノード電極触媒層112(112a)と反応し、アノード排出口41bから排出される。
【0033】
カソード供給口42aから供給されたカソードガスは、このGDL113bを流れてカソード電極触媒層112(112b)と反応し、カソード排出口42bから排出される。
【0034】
アノードセパレーター12aは、GDL113a及びシール14aを介してMEA11の片面(図2(B)の裏面)に重ねられる。カソードセパレーター12bは、GDL113b及びシール14bを介してMEA11の片面(図2(B)の表面)に重ねられる。シール14(14a,14b)は、たとえばシリコーンゴム、エチレンプロピレンゴム(ethylene propylene diene monomer;EPDM)、フッ素ゴムなどのゴム状弾性材である。アノードセパレーター12a及びカソードセパレーター12bは、たとえばステンレスなどの金属製のセパレーター基体がプレス成型されて、一方の面に反応流路が形成され、その反対面に反応流路と交互に並ぶように冷却水流路が形成される。図2(B)に示すようにアノードセパレーター12a及びカソードセパレーター12bが重ねられて、冷却水流路が形成される。
【0035】
MEA11、アノードセパレーター12a及びカソードセパレーター12bには、それぞれ孔41a,41b,42a,42b,43a,43bが形成されており、これらが重ねられて、アノード供給口(アノード供給マニホールド)41a、アノード排出口(アノード排出マニホールド)41b、カソード供給口(カソード供給マニホールド)42a、カソード排出口(カソード排出マニホールド)42b、冷却水供給口(冷却水供給マニホールド)43a及び冷却水排出口(冷却水排出マニホールド)43bが形成される。
【0036】
図3は、燃料電池スタックにおける電解質膜の反応を説明する模式図である。
【0037】
上述のように、燃料電池スタック100は、反応ガス(カソードガスO2、アノードガスH2)が供給されて発電する。燃料電池スタック100は、電解質膜の両面にカソード電極触媒層及びアノード電極触媒層が形成された膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly;MEA)が数百枚積層されて構成される。そのうちの1枚のMEAが図3(A)に示される。ここではMEAにカソードガスが供給されて(カソードイン)、対角側から排出されながら(カソードアウト)、アノードガスが供給されて(アノードイン)、対角側から排出される(アノードアウト)、という例が示されている。
【0038】
各膜電極接合体(MEA)は、カソード電極触媒層及びアノード電極触媒層において以下の反応が、負荷に応じて進行して発電する。
【0039】
【数1】
【0040】
図3(B)に示すように、反応ガス(カソードガスO2)がカソード流路を流れるにつれて上式(1-1)の反応が進行し、水蒸気が生成される。するとカソード流路の下流側では相対湿度が高くなる。この結果、カソード側とアノード側との相対湿度差が大きくなる。この相対湿度差をドライビングフォースとして、水が逆拡散しアノード上流側が加湿される。この水分がさらにMEAからアノード流路に蒸発してアノード流路を流れる反応ガス(アノードガスH2)を加湿する。そしてアノード下流側に運ばれてアノード下流のMEAを加湿する。
【0041】
上記反応によって効率よく発電するには、電解質膜が適度な湿潤状態であることが必要である。電解質膜中の水分が少なく電解質膜の湿潤度が小さすぎれば上記反応が促進されない。反対に、電解質膜中の水分が多すぎれば、余剰の水分が反応流路に溢れてしまって、ガスの流れが阻害される。このような場合も上記反応が促進されない。したがって電解質膜が適度な湿潤状態であることで、効率よく発電される。
【0042】
図4は、燃料電池スタックに供給する反応ガスの圧力を模式的に示す図である。
【0043】
この燃料電池スタック100は、要求負荷の変動に応じて反応ガス(アノードガス、カソードガス)の圧力が設定される。そして、圧力調整弁300が開閉されて、高圧のアノードガスの供給/停止が繰り返されることで、アノードガスが脈動供給される。
【0044】
図4に示されるように、要求負荷が小さいときには、反応ガス(アノードガス、カソードガス)の圧力が低く設定されてアノードガスが脈動供給される。要求負荷が大きくなれば、反応ガス(アノードガス、カソードガス)の圧力が高く設定されてアノードガスが脈動供給される。
【0045】
アノードガスの圧力を上げるときには、圧力調整弁300の開度や開弁時間を大きくすればよい。このようにすれば、水素タンク200から高圧の水素が供給され、アノードガスの圧力を迅速に上げることができる。したがって、上げ過渡運転の時間は短い。
【0046】
しかしながら、アノードガスの圧力を下げるときには、圧力調整弁300を閉じた状態で上式(1-2)の反応によってアノードガスH2が消費されるのを待たなければならない。したがって、アノードガスの圧力を下げるときの過渡運転(下げ過渡運転)の時間は、上げ過渡運転の時間に比べて長い。そして下げ過渡運転では、圧力調整弁300が閉じられているので、アノードガスの圧力は脈動しない。また下げ過渡運転の時間が長いので、燃料電池スタックのMEAの反応流路に窒素が澱む場所(窒素澱み点)が生じる。窒素が澱んでいれば、その場所のアノードガス濃度が他よりも低くなる。このような窒素澱み点は、低負荷運転や高負荷運転でも生じていると考えられるが、圧力調整弁300が閉じられている時間が短いので、問題にはならない。
【0047】
この窒素澱み点については、以下で説明される。
【0048】
図5は窒素澱み点が生じるメカニズムについて説明する図であり、図5(A)はMEAの反応流路の断面を示し、図5(B)はMEAの反応流路の位置におけるアノードガス濃度の時間変化を示す。
【0049】
圧力調整弁300が全閉されても、MEAのアノード流路のアノードガスは、図5(A)の右向き矢印に示されるように、水素(アノードガス)の消費による圧力差によって、バッファータンク側へ流れる。アノードガスが消費されると、アノード流路の圧力がバッファータンクの圧力よりも低くなる。この結果、バッファータンクからアノード流路へ逆流するガスが発生する。バッファータンクには、水素H2ととも窒素N2も蓄えられているので、水素H2ととも窒素N2が逆流する。
【0050】
窒素N2は、式(1-1)(1-2)に示された触媒反応では、反応しないので、消費されない。そのため速度0点の近傍には、時間の経過とともに窒素N2が滞留することとなる。この結果、図5(B)に示されるように、時間の経過とともにアノードガスH2の濃度が下がる。
【0051】
図6は、図4の低負荷運転中のMEAのアノード流路における水素濃度を模式的に示す図であり、図6(A)は脈動圧が上限圧に達した状態を示し、図6(B)は脈動圧が下限圧に達した状態を示す。
【0052】
脈動圧が上限圧に達したときには、アノード流路は、上流から下流まで水素で充たされる。バッファータンクには、窒素も存在する。そのため、バッファータンクの水素濃度は、アノード流路の水素濃度よりも低い。
【0053】
脈動圧が下がって下限圧に達したときは、上述のように窒素澱み点が存在するので、アノード下流付近では、水素濃度が下がる。
【0054】
図7は、図4の高負荷運転中のMEAのアノード流路における水素濃度を模式的に示す図であり、図7(A)は脈動圧が上限圧に達した状態を示し、図7(B)は脈動圧が下限圧に達した状態を示す。
【0055】
高負荷運転においても、低負荷運転と同様に、脈動圧が上限圧に達したときには、アノード流路は、上流から下流まで水素で充たされる。
【0056】
脈動圧が下がって下限圧に達したときは、上述のように窒素澱み点が存在するので、アノード下流付近では、水素濃度が下がる。
【0057】
なお高負荷運転のときのほうが、低負荷運転のときに比べて、窒素澱み点がアノード流路の奥の位置に存在する。
【0058】
図8は、本実施形態が解決しようとする課題について説明する図である。図8(A)は、下げ過渡運転を終了した状態でのMEAのアノード流路における水素濃度を模式的に示す図である。図8(B)は、図8(A)の状態の後に、中負荷運転になってアノードガスの圧力が上がって脈動圧が上限圧に達した状態でのMEAのアノード流路における水素濃度を模式的に示す図である。図8(C)は、図8(B)の状態の後に、下げ過渡運転したときのMEAのアノード流路における水素濃度を模式的に示す図である。
【0059】
図4に示されるように、下げ過渡運転の時間は長い。そのため、図8(A)に示されるように、窒素澱み点は、図7(B)に示される高負荷運転中の脈動圧が下限圧に達した状態における位置よりも、さらに奥の位置に存在する。
【0060】
このような状態の後に、中負荷運転になってアノードガスの圧力が上がって脈動圧が上限圧に達しても、図8(B)に示されるように、窒素澱み点がバッファータンクまで排出されることなく、アノード流路内に残存してしまう。
【0061】
このような状態で、下げ過渡運転すると、窒素澱み点がアノード流路の奥に押し込まれるとともに、その窒素澱み点にさらに窒素が澱むこととなって水素が欠乏する事態が生じる。このようになっては、MEA(電解質膜)の劣化が促進されてしまう。
【0062】
このような課題を解決するために、発明者らは、以下のように制御することに想到した。
【0063】
図9は、燃料電池システムの第1実施形態のコントローラーが実行する制御フローチャートである。なおコントローラーは、微小時間(たとえば10ミリ秒)ごとにこのフローチャートを繰り返し実行する。
【0064】
ステップS11においてコントローラーは、要求負荷に応じて目標圧力を設定する。なお要求負荷は、たとえばドライバーによるアクセルペダル踏み込み量などから得られる。また要求負荷が大きいほど、目標圧力も大きい傾向になる。具体的には、あらかじめ実験等を通じて相関をマップに設定しておき、そのマップに要求負荷を適用して目標圧力を設定すればよい。
【0065】
ステップS12においてコントローラーは、現在、圧力下げを禁止して運転中であるか否かを判定する。コントローラーは、判定結果が否であればステップS13へ処理を移行し、判定結果が肯であればステップS15へ処理を移行する。
【0066】
ステップS13においてコントローラーは、要求負荷(目標圧力)が上がったか否かを判定する。コントローラーは、判定結果が否であればステップS14へ処理を移行し、判定結果が肯であればステップS15へ処理を移行する。
【0067】
ステップS14においてコントローラーは、何ら禁止することなく要求負荷に応じた目標圧力で運転する。
【0068】
ステップS15においてコントローラーは、窒素澱み点がMEAのアノード流路に残存するか否かを判定する。なお具体的な判断手法については、後述する。コントローラーは、判定結果が否であればステップS13へ処理を移行し、判定結果が肯であればステップS16へ処理を移行する。
【0069】
ステップS16においてコントローラーは、圧力下げを禁止して運転する。
【0070】
図10は、窒素澱み点がMEAのアノード流路に残存するか否かを判定するルーチンを示すフローチャートである。
【0071】
ステップS151においてコントローラーは、窒素澱み点の排出に必要な時間が演算されているか否かを判定する。コントローラーは、判定結果が否であればステップS152へ処理を移行し、判定結果が肯であればステップS156へ処理を移行する。
【0072】
ステップS152においてコントローラーは、窒素澱み点の出口からの距離を演算する。窒素澱み点の出口からの距離は、圧力低下(ΔP)が大きいほど、大きい傾向にある。また、同じ圧力低下(ΔP)でも初期圧力が小さいほど、大きい傾向にある(図11)。そこで、このような関係をあらかじめ実験等を通じてマップに設定しておき、そのマップに基づいて、窒素澱み点の出口からの距離を演算すればよい。
【0073】
ステップS153においてコントローラーは、パージ弁を開いてパージしたときに窒素澱み点が移動する速度を演算する。窒素澱み点の移動速度は、パージ弁の開度が大きいほど、速い傾向にある。また、パージ弁の開度時間が長いほど、速い傾向にある。また、運転圧力が高いほど、速い傾向にある。そこで、このような関係をあらかじめ実験等を通じてマップに設定しておき、そのマップに基づいて、窒素澱み点の移動速度を演算すればよい。
【0074】
ステップS154においてコントローラーは、圧力を脈動させることによって窒素澱み点が移動する速度を演算する。窒素澱み点の移動速度は、脈動振幅が大きいほど、速い傾向にある。また、脈動周期が短いほど、速い傾向にある。そこで、このような関係をあらかじめ実験等を通じてマップに設定しておき、そのマップに基づいて、窒素澱み点の移動速度を演算すればよい。
【0075】
ステップS155においてコントローラーは、窒素澱み点の排出に必要な時間を演算する。具体的には、ステップS152で求めた窒素澱み点の出口からの距離、ステップS153及びステップS154で求めた窒素澱み点の移動速度を勘案して、窒素澱み点の排出に必要な時間を演算する。
【0076】
ステップS156においてコントローラーは、窒素澱み点の排出に必要な時間が経過したか否かを判定する。コントローラーは、判定結果が否であればステップS157へ処理を移行し、判定結果が肯であればステップS158へ処理を移行する。
【0077】
ステップS157においてコントローラーは、窒素澱み点がMEAのアノード流路に残存していると判定する。
【0078】
ステップS158においてコントローラーは、窒素澱み点がMEAのアノード流路から排出されたと判定する。
【0079】
以上のフローチャートが実行されると、窒素澱み点の排出に必要な時間が演算されていなければ、ステップS151→S152→S153→S154→S155が処理されて、窒素澱み点の排出に必要な時間が演算される。
【0080】
窒素澱み点の排出に必要な時間が演算された後は、その時間が経過するまでは、ステップS151→S156→S157が処理されて、窒素澱み点がMEAのアノード流路に残存していることが判定される。そして、その時間が経過したら、ステップS151→S156→S158が処理されて、窒素澱み点がMEAのアノード流路から排出されたことが判定される。
【0081】
図12は、第1実施形態の制御フローチャートが実行されたときの作動を説明するタイミングチャートである。
【0082】
なお上述のフローチャートとの対応が分かりやすくするために、フローチャートのステップ番号にSを付して併記する。
【0083】
以上の制御フローチャートが実行されて以下のように作動する。
【0084】
図12では、時刻t11以前は、ステップS11→S12→S13→S14が繰り返し処理されて、要求負荷に応じた目標圧力で運転される。
【0085】
時刻t11で要求負荷が上がる。このとき、窒素澱み点は、MEAのアノード流路に残存しない。そこで、ステップS11→S12→S13→S15→S14が処理されて、要求負荷に応じた目標圧力で運転される。そして、その後は、ステップS11→S12→S13→S14が繰り返し処理されて、要求負荷に応じた目標圧力で運転される。
【0086】
時刻t12で要求負荷が下がる。このときは、ステップS11→S12→S13→S14が処理されて、要求負荷に応じた目標圧力で運転される。また、その後も、ステップS11→S12→S13→S14が繰り返し処理されて、要求負荷に応じた目標圧力で運転される。
【0087】
時刻t13で要求負荷が再び上がる。直前まで下げ過渡運転していたので、窒素澱み点がMEAのアノード流路に残存している。そこで、ステップS11→S12→S13→S15→S16が処理されて、圧力下げを禁止して運転する。その後は、ステップS11→S12→S15→S16が繰り返し処理されて、圧力下げを禁止して運転する。
【0088】
時刻t14で要求負荷が再び下がる。しかしながらこの時点では、まだ、窒素澱み点がMEAのアノード流路に残存している。そこで、ステップS11→S12→S15→S16が処理されて、圧力下げを禁止した運転が継続される。その結果、要求負荷は下がったが、圧力は下げられることなく現在の圧力が維持されて運転される。
【0089】
時刻t15で、窒素澱み点の排出に必要な時間が経過する。すなわち、窒素澱み点がMEAのアノード流路から排出されたことが判定される。そこで、ステップS11→S12→S15→S14が処理されて、要求負荷に応じた目標圧力で運転される。その結果、圧力が下げられて運転される。その後は、ステップS11→S12→S13→S14が繰り返し処理されて、圧力下げが禁止されることなく、要求負荷に応じた目標圧力で運転される。
【0090】
本実施形態によれば、窒素澱み点がMEAのアノード流路に残存しているときには、要求負荷が下がっても、圧力を下げることなく現在の圧力を維持して運転する。このようにしたので、現在残存している窒素澱み点にさらに窒素が澱むことで、水素が欠乏して、MEA(電解質膜)の劣化が促進されてしまう事態を防止できるようになった。
【0091】
そして、その後、窒素澱み点がMEAのアノード流路から排出された場合には、圧力を下げて運転するので、要求負荷に応じた圧力を供給することできる。仮に圧力を下げることなく、運転を継続すれば、燃費が悪化してしまう。しかしながら、本実施形態によれば、窒素澱み点がMEAのアノード流路から排出された場合には、圧力を下げて運転するので、このような事態を防止できる。
【0092】
また本実施形態では、窒素澱み点がMEAのアノード流路に残存しているか否かを、窒素澱み点の排出に必要な時間を演算し、その時間が経過したか否かによって求めるようにした。このようにしたので、簡易に判定することができる。
【0093】
(第2実施形態)
窒素澱み点がMEAのアノード流路に実際に残存しても、要求負荷の低下が少なく圧力を下げても水素欠乏に陥らなければ、圧力下げを禁止する必要がない。そこでこの第2実施形態では、圧力を下げたときに、水素欠乏に陥るか否かを推定する。そして、水素欠乏に陥ると推定できるときにのみ圧力下げを禁止し、水素欠乏に陥らないと推定できるときには、圧力下げを禁止しないようにした。
【0094】
具体的な内容を以下に説明する。
【0095】
図13は、本発明による燃料電池システムの第2実施形態のコントローラーが実行する制御フローチャートである。
【0096】
なお以下では前述と同様の機能を果たす部分には同一の符号を付して重複する説明を適宜省略する。
【0097】
ステップS11〜S16は、第1実施形態と同様なので、説明を省略する。
【0098】
ステップS21においてコントローラーは、要求負荷(目標圧力)が下がったか否かを判定する。コントローラーは、判定結果が否であればステップS22へ処理を移行し、判定結果が肯であればステップS16へ処理を移行する。
【0099】
ステップS22においてコントローラーは、現在の水素濃度C1を推定する。具体的には、水素濃度C1は、圧力調整弁の閉弁時間が長いほど、つまり圧力低下(ΔP)が大きいほど、小さい傾向にある。そこで、このような関係をあらかじめ実験等を通じてマップに設定しておき(図14)、そのマップに基づいて、現在の水素濃度C1を推定すればよい。
【0100】
ステップS23においてコントローラーは、現在の水素濃度C1に基づいて、要求負荷に応じて圧力を下げた後の水素濃度C2を推定する。具体的には、水素濃度C2は、水素濃度C1が小さいほど、小さい傾向にある。また圧力調整弁の閉弁時間が長いほど、小さい傾向にある。そこで、このような関係をあらかじめ実験等を通じてマップに設定しておき(図15)、そのマップに基づいて、水素濃度C2を推定すればよい。また、ステップS22で用いたマップの初期値を水素濃度C1とすることで、水素濃度C2を推定してもよい。
【0101】
ステップS24においてコントローラーは、水素濃度C2が基準濃度C0よりも小さいか否かを判定する。なおこの基準濃度C0は、水素濃度C2に誤差があったとしても、MEAのアノード流路において水素欠乏にならないことを判定するための基準値である。このような基準値は、あらかじめ実験等を通じて設定しておけばよい。コントローラーは、判定結果が否であればステップS14へ処理を移行し、判定結果が肯であればステップS16へ処理を移行する。
【0102】
以上の制御フローチャートが実行されて以下のように作動する。
【0103】
図16は、第2実施形態の制御フローチャートが実行されたときの作動を説明するタイミングチャートである。また図17は、第2実施形態の制御フローチャートが実行されたときのMEAのアノード流路における水素濃度を模式的に示す図である。図17(A)は、下げ過渡運転を終了した状態でのMEAのアノード流路における水素濃度を模式的に示す。図17(B)は、図17(A)の状態の後に、負荷が上がってアノードガスの圧力が上がって脈動圧が上限圧に達した状態でのMEAのアノード流路における水素濃度を模式的に示す。図17(C)は、図17(B)の状態の後に、負荷が下がってアノードガスの圧力が下がった状態でのMEAのアノード流路における水素濃度を模式的に示す。
【0104】
図16では、時刻t21以前は、ステップS11→S12→S13→S14が繰り返し処理されて、要求負荷に応じた目標圧力で運転される。
【0105】
時刻t21で要求負荷が上がる。このとき、窒素澱み点は、MEAのアノード流路に残存しない。そこで、ステップS11→S12→S13→S15→S14が処理されて、要求負荷に応じた目標圧力で運転される。そして、その後は、ステップS11→S12→S13→S14が繰り返し処理されて、要求負荷に応じた目標圧力で運転される。
【0106】
時刻t22で要求負荷が下がる。このときは、ステップS11→S12→S13→S14が処理されて、要求負荷に応じた目標圧力で運転される。また、その後も、ステップS11→S12→S13→S14が繰り返し処理されて、要求負荷に応じた目標圧力で運転される。
【0107】
時刻t23で要求負荷が再び上がる。なお要求負荷が上がる直前のMEAのアノード流路における水素濃度が図17(A)に模式的に示される。このように、窒素澱み点は、MEAのアノード流路に残存している。そして、要求負荷が上がった直後のMEAのアノード流路における水素濃度が図17(B)に模式的に示される。このときは、ステップS11→S12→S13→S15→S21→S22が処理されて、現在の水素濃度C1が推定される。そしてステップS23が処理されて水素濃度C2が推定される。そしてステップS24が処理される。ここでは、水素濃度C2が基準濃度C0よりも大きく、ステップS24→S14が処理される。その後は、ステップS11→S12→S13→S14が繰り返し処理されて、要求負荷に応じた目標圧力で運転される。
【0108】
時刻t24で要求負荷が下がる。このときは、ステップS11→S12→S13→S14が処理されて、要求負荷に応じた目標圧力で運転される。また、その後も、ステップS11→S12→S13→S14が繰り返し処理されて、要求負荷に応じた目標圧力で運転される。
【0109】
この下げ過渡運転が終了した直後のMEAのアノード流路における水素濃度が図17(C)に模式的に示される。窒素澱み点において水素濃度C2が確保されており、水素欠乏に陥らない。このように本実施形態によれば、要求負荷に応じた目標圧力で運転できる。すなわち無用に運転圧力を高く維持することがない。したがって、燃費を悪化させることなく安定して発電できる。
【0110】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0111】
たとえば、上記実施形態においては、窒素澱み点がMEAのアノード流路に残存しているか否かを、窒素澱み点の排出に必要な時間を演算し、その時間が経過したか否かによって求めるようにしたが、これには限られない。窒素センサーによって窒素が残存しているか否かを判定してもよい。
【0112】
また各演算に使用するマップは、一例に過ぎない。マップに用いる項目は、適切なものを適宜用いればよい。
【0113】
なお上記実施形態は、適宜組み合わせ可能である。
【符号の説明】
【0114】
100 燃料電池スタック
200 水素タンク
300 圧力調整弁
400 バッファータンク
500 パージ弁
600 コントローラー600
ステップS11 圧力設定部
ステップS14,S16 運転制御部
ステップS15 澱み点判定部
ステップS22,S23 濃度推定部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノードガスに混入する不純物をパージする燃料電池システムにおいて、
要求負荷の変動に応じて反応ガスの圧力を設定する圧力設定部と、
燃料電池スタックの反応流路に窒素澱み点が残存するか否かを判定する澱み点判定部と、
窒素澱み点が残存する状態で要求負荷が低下したときには、反応ガスの圧力を下げることを禁止して運転する運転制御部と、
を含む燃料電池システム。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池システムにおいて、
前記運転制御部は、反応ガスの圧力を下げることを禁止した後に、窒素澱み点が残存しなくなったときには、反応ガスの圧力を下げることを許可して運転する、
燃料電池システム。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の燃料電池システムにおいて、
前記澱み点判定部は、窒素澱み点の排出に要する時間が経過したか否かによって、窒素澱み点が残存するか否かを判定する、
燃料電池システム。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の燃料電池システムにおいて、
窒素澱み点が残存する状態で要求負荷が下がったときに、圧力を下げた後の水素濃度を推定する濃度推定部をさらに含み、
前記運転制御部は、推定された水素濃度が基準値よりも大きいときには、窒素澱み点が残存する状態で要求負荷が低下しても、反応ガスの圧力を下げることを禁止せずに運転する、
燃料電池システム。
【請求項1】
アノードガスに混入する不純物をパージする燃料電池システムにおいて、
要求負荷の変動に応じて反応ガスの圧力を設定する圧力設定部と、
燃料電池スタックの反応流路に窒素澱み点が残存するか否かを判定する澱み点判定部と、
窒素澱み点が残存する状態で要求負荷が低下したときには、反応ガスの圧力を下げることを禁止して運転する運転制御部と、
を含む燃料電池システム。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池システムにおいて、
前記運転制御部は、反応ガスの圧力を下げることを禁止した後に、窒素澱み点が残存しなくなったときには、反応ガスの圧力を下げることを許可して運転する、
燃料電池システム。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の燃料電池システムにおいて、
前記澱み点判定部は、窒素澱み点の排出に要する時間が経過したか否かによって、窒素澱み点が残存するか否かを判定する、
燃料電池システム。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の燃料電池システムにおいて、
窒素澱み点が残存する状態で要求負荷が下がったときに、圧力を下げた後の水素濃度を推定する濃度推定部をさらに含み、
前記運転制御部は、推定された水素濃度が基準値よりも大きいときには、窒素澱み点が残存する状態で要求負荷が低下しても、反応ガスの圧力を下げることを禁止せずに運転する、
燃料電池システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2013−114860(P2013−114860A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−259101(P2011−259101)
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]