説明

燃料電池セル

【課題】従来の燃料電池セルでは、アノード側とカソード側の差圧により膜電極構造体の端部に曲げ応力が集中し、膜電極構造体の耐久性を高めることが困難であった。
【解決手段】フレーム1を有する膜電極構造体2と、これを挟持する二枚のセパレータ3A,3Bを備え、フレーム1と各セパレータA,3Bとの間に形成したディフューザ部D1,D2の周縁部にガスシール部材11,12を設けた燃料電池セルCであって、カソード側のディフューザ部D1におけるガスシール部材11の位置と、アノード側のディフューザ部D2におけるガスシール部材12の位置が、ディフューザ部D1,D2の内外方向に互いにオフセットしてあるものとすることで、カソード側とアノード側のガスの差圧に対して応力発生部を分散させて、フレーム及び膜電極構造体の耐久性を向上させた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池の発電要素として用いられる燃料電池セルに関し、とくに、複数枚積層して燃料電池スタックを構成する燃料電池セルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の燃料電池セルとしては、例えば、特許文献1に記載されているものがある。特許文献1に記載の燃料電池セルは、膜電極構造体(MEA:Membrane Electrode Assembly)と、膜電極構造体を挟む二枚のセパレータを備えている。膜電極構造体は、電解質膜を燃料極と空気極とで挟持し、その両面に、第1及び第2のガス拡散層を夫々備えている。
【0003】
そして、上記の燃料電池セルは、ガス拡散層の外側に、膜電極構造体の端部を延出させると共に、ガス拡散層の外側において、両セパレータに設けた弾性ガスケットで膜電極構造体の端部の挟み込むことにより、膜電極構造体の変形やガク拡散層のずれを防止するものである。この特許文献1の燃料電池セルでは、膜電極構造体を中心にして、各ガス拡散層、各ガスケット及びセパレータが夫々対称的に積層配置してある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−108852号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記したような燃料電池セルでは、膜電極構造体の各ガス拡散層に、反応用ガスであるカソードガス及びアノードガスを夫々供給する必要があるから、各ガス拡散層とガスケットの間には、反応用ガスの流通領域(ディフューザ部)が不可欠である。
【0006】
その一方で、この種の燃料電池セルでは、燃料電池の運転状況に応じてカソード側とアノード側とでガスの差圧が発生することがあり、反応用ガスの流通領域がその差圧の影響を受けやすい。これに対して、従来の燃料電池セルのように、膜電極構造体の端部を対称的に積層配置したガスケットで挟持したものでは、その差圧によって膜電極構造体の端部が厚さ方向に変形し、この際、ガスケットに挟持されている部分の縁に曲げ応力が集中するので、膜電極構造体の耐久性(疲労寿命)を高めることが難しいという問題点があった。
【0007】
本発明は、上記従来の状況に鑑みて成されたもので、周囲にフレームを有する膜電極構造体と、フレーム及び膜電極構造体を挟持する二枚のセパレータを備えた燃料電池セルにおいて、カソード側とアノード側のガスの差圧に対して、フレーム及び膜電極構造体の耐久性を向上させることができる燃料電池セルを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の燃料電池セルは、周囲にフレームを有する膜電極構造体と、フレーム及び膜電極構造体を挟持する二枚のセパレータを備え、フレームと各セパレータとの間に反応用ガスを流通させるディフューザ部を形成すると共に、各ディフューザ部の周縁部にガスシール部材を設けた構造を有するものである。
【0009】
そして、燃料電池セルは、カソード側のディフューザ部におけるガスシール部材の位置と、カソード側のディフューザ部におけるガスシール部材の位置が、ディフューザ部の内外方向に互いにオフセットしてある構成としており、上記構成をもって従来の課題を解決するための手段としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の燃料電池セルによれば、周囲にフレームを有する膜電極構造体と、フレーム及び膜電極構造体を挟持する二枚のセパレータを備えた燃料電池セルにおいて、カソード側とアノード側のガスの差圧に対して、フレーム及び膜電極構造体の耐久性(疲労寿命)を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の燃料電池セルの一実施形態を説明する分解状態の平面図である。
【図2】図1に示す燃料電池セルの組立後の平面図である。
【図3】図1に示す燃料電池セルを積層して成る燃料電池スタックを説明する分解斜視図(A)及び組立後の斜視図(B)である。
【図4】アノード側のディフューザ部の周縁部に設けたガスシール部材を説明する平面図である。
【図5】図4に示す燃料電池セルのディフューザ部の断面図である。
【図6】燃料電池セルの他の実施形態を示すディフューザ部の断面図である。
【図7】燃料電池セルのさらに他の実施形態を示すディフューザ部の断面図である。
【図8】燃料電池スタックを備えた燃料電池システムの一例を示す説明図である。
【図9】図8に示す燃料電池システムにおけるカソード側及びアノード側のガスの圧力変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1及び図2は、本発明の燃料電池セルの一実施形態を説明する図である。
図1に示す燃料電池セルCは、周囲にフレーム1を有する膜電極構造体2と、フレーム1及び膜電極構造体2を挟持するカソード側及びアノード側のセパレータ3A,3Bを備えている。フレーム1は、ほぼ一定の厚さの薄板状を成しており、その縁部を除く大部分が膜電極構造体2の厚さよりも薄いものである。そして、フレーム1と両セパレータ3A,3Bとの間に、反応用ガスを流通させる夫々の流通領域(後記するディフューザ部)を有している。なお、フレーム1は樹脂であり、セパレータ3A,3Bは金属であることが、製造しやすいために望ましい。
【0013】
膜電極構造体2は、一般に、MEA(Membrane Electrode Assembly)と呼ばれるものであって、例えば固体高分子から成る電解質層を空気極層(カソード)と燃料極層(アノード)とで挟持した構造を有している。この膜電極構造体2は、空気極層に他方の反応用ガスであるカソードガス(空気)が供給されると共に、燃料極層に一方の反応用ガスであるアノードガス(水素)が供給されて、電気化学反応により発電をする。なお、膜電極構造体2としては、空気極層と燃料極層の表面に、カーボンペーパや多孔質体等から成るガス拡散層を備えたものも含まれる。
【0014】
フレーム1は、樹脂成形(例えば射出成形)により膜電極構造体2と一体化してあり、この実施形態では、膜電極構造体2を中央にして長方形状を成している。また、フレーム1は、両端部に、各々三個ずつのマニホールド穴H1〜H6が配列してあり、各マニホールド穴群から膜電極構造体2に至る領域が反応用ガスの流通領域となる。このフレーム1及び両セパレータ3A,3Bは、いずれもほぼ同等の縦横寸法を有する長方形状である。
【0015】
また、フレーム1は、上記の反応用ガスの流通領域に、円形状の複数の突部10が縦横に配列してある。これらの突部10は、膜電極構造体2の経時変化などによって燃料電池セルCに厚さ方向の変位が生じた際に、セパレータ3A,3Bに接触して反応用ガスの流通空間を維持するものである。
【0016】
各セパレータ3A,3Bは、夫々ステンレス等の金属板をプレス成形したものである。各セパレータ3A,3Bは、膜電極構造体2に対応する中央部分が、短辺方向の断面において波形状に形成してある。この波形状は図示の如く長辺方向に連続している。これにより、各セパレータ3A,3Bは、波形状における膜電極構造体2に対応する中央部分では、各凸部分が膜電極構造体2に接触すると共に、波形状における各凹部分が反応用ガスの流路となる。
【0017】
また、各セパレータ3A,3Bは、両端部に、フレーム1の各マニホールド穴H1〜H6同等のマニホールド穴H1〜H6を有し、各マニホールド穴群から断面波形状の部分に至る領域が反応用ガスの流通領域となる。
【0018】
上記のフレーム1及び膜電極構造体2と両セパレータ3A,3Bは、重ね合わせて燃料電池セルCを構成する。このとき、燃料電池セルCは、とくに図2に示すように、中央に、膜電極構造体2の領域である発電部Gを備えている。そして、発電部Gの両側に、反応用ガスの供給及び排出を行うマニホールド部Mと、各マニホールド部Mから発電部Gに至る反応用ガスの流通領域であるディフューザ部D2(又はD1)を備えている。ディフューザ部D2(又はD1)は、フレーム1と両側のセパレータ3A,3Bとの間、つまりアノード側及びカソード側に夫々形成されている。
【0019】
図2の左側に示す一方のマニホールド部Mにおいて、各マニホールド穴H1〜H3は、カソードガス供給用(H1)、冷却流体供給用(H2)及びアノードガス供給用(H3)であり、積層方向に互いに連通して夫々の流路を形成する。また、図2の右側に示す他方のマニホールド部Mにおいて、各マニホールド穴H4〜H6は、アノードガス排出用(H4)、冷却流体排出用(H5)及びカソードガス排出用(H6)であり、積層方向に互いに連通して夫々の流路を形成する。なお、供給用と排出用は、一部または全部が逆の位置関係でも良い。
【0020】
さらに、燃料電池セルCは、図1に示すように、フレーム1と各セパレータ3A,3Bの縁部同士の間や、マニホールド穴H1〜H6の周囲に、ガスシールSLが設けてある。また、燃料電池セルCを複数枚を積層した状態では、セル同士すなわち隣接するセパレータ3同士の間にもガスシールSLを設ける。この実施形態では、隣接するセパレータ3,3間に冷却流体を流通させる構造である。
【0021】
上記のガスシールSLは、個々の層間において、カソードガス、アノードガス及び冷却流体の夫々の流通域を気密的に分離すると共に、その層間に所定の流体が流れるように、マニホールド穴H1〜H6の周縁部の適当な箇所に開口を設ける。
【0022】
上記構成を備えた燃料電池セルCは、複数枚を積層して、図3に示すような燃料電池スタックFSを構成する。
【0023】
燃料電池スタックFSは、図3(A)に示すように、燃料電池セルCの積層体Aに対し、セル積層方向の一端部(図3中で右側端部)に、集電板4A及びスペーサ5を介してエンドプレート6Aが設けてあると共に、他端部に、集電板4Bを介してエンドプレート6Bが設けてある。また、燃料電池スタックFSは、積層体Aに対し、燃料電池セルCの長辺側となる両面(図3中で上下面)に、締結板7A,7Bが設けてあると共に、短辺側となる両面に、補強板8A,8Bが設けてある。
【0024】
そして、燃料電池スタックFSは、各締結板7A,7B及び補強板8A,8BをボルトBにより両エンドプレート6A,6Bに連結する。このようにして、燃料電池スタックFSは、図3(B)に示すようなケース一体型構造となり、積層体Aをセル積層方向に拘束・加圧して個々の燃料電池セルCに所定の接触面圧を加え、ガスシール性や導電性等を良好に維持する。
【0025】
ここで、上記したような燃料電池セルCでは、燃料電池の運転状況に応じてカソード側とアノード側とでガスの差圧が発生し、反応用ガスの流通領域であるディフューザ部D1,D2がその差圧の影響を受ける。より具体的には、カソード側及びアノード側の両ディフューザ部D1,D2を隔離するフレーム1が、その差圧により厚さ方向に変形し、ガスシールSLに挟持されている部分の縁に曲げ応力が集中する。
【0026】
これに対して、燃料電池セルCは、図4にアノード側セパレータ3Bを示すように、ディフューザ部D2の周縁部に、太線で示すガスシール部材12(11)を設けた構造にしている。そして、燃料電池セルCは、図5に示すように、カソード側(図5中で上側)のディフューザ部D1におけるガスシール部材11の位置と、アノード側のディフューザ部D2におけるガスシール部材12の位置が、ディフューザ部D1,D2の内外方向(図5中で左右方向)に互いにオフセットしてある。つまり、両ガスシール11,12は、互いにずらせて配置され、フレーム1を中心にして非対称的に設けてある。
【0027】
この実施形態では、カソード側のディフューザD1におけるガスシール部材11の幅寸法L1と、アノード側のディフューザ部D2におけるガスシール部材12の幅寸法L2とが異なっている。これにより、燃料電池セルCは、両ガスシール部材11,12の位置を互いにオフセットしている。
【0028】
すなわち、図示例では、カソード側のガスシール部材11の幅寸法L1よりも、アノード側のガスシール部材12の幅寸法L2の方が小さいものとなっている。そして、カソード側のディフューザ部D1におけるガスシール部材11の位置が、アノード側のディフューザ部D2におけるガスシール部材12の位置よりも、ディフューザ部D1の内側(図5中で左側)にオフセットしてある構造である。
【0029】
上記のガスシール部材11,12は、先述したガスシールSLの一部を利用することも可能であるし、ガスシールSLとは別の部材として配置しても良い。また、ガスシール部材11,12は、より望ましくは、接着性及びシール性の両方を備えた材料から成るものとする。これにより、フレーム1と各セパレータ3A,3Bとを接着して、双方の間の気密性を維持することができる。
【0030】
このようなガスシール部材11,12は、ガスシールSLの塗布と同一の工程で形成することが可能である。また、ガスシール部材11,12を設ける前に、フレーム1のシール配置箇所にショットブラスト等の正面研削加工を施して、同配置箇所の表面を微細な凹凸状にし、これによりガスシール部材11,12の接着性を高めることも有効である。なお、ガスシール部材11,12は、例えば図4に示すアノード側においては、アノードガス排出用のマニホールド穴H4に対応する部分(点線部分)に、ガスの流通を確保する開口を設ける。
【0031】
上記構成を備えた燃料電池セルCは、カソード側のガスシール部材11の位置と、アノード側のガスシール部材12の位置をオフセットしたことにより、ガスの差圧によりフレーム1がアノード側(図5中で下側)に変位した際の応力発生部S1と、フレーム1がカソード側に変位した際の応力発生部S2の位置が、ディフューザ部D1,D2の内外方向にずれた状態となる。
【0032】
これにより、燃料電池セルCは、アノード側及びカソード側の差圧により、フレーム1に厚さ方向の変位が繰り返し生じた場合でも、従来のように一箇所に曲げ応力が集中することが無く、二箇所の応力発生部S1,S2に分散されるので、ガスの差圧に対するフレーム1及び膜電極構造体2の耐久性(疲労寿命)を向上させることができる。
【0033】
また、上記の燃料電池セルCでは、アノード側のガスシール部材12の幅寸法L2の方が小さいと共に、カソード側ガスシール部材11の位置がディフューザ部Dの内側にオフセットしてあるので、カソード側においては、ガスシール部材11から突部10に至るまでの梁長さL3が短くなる。これにより、燃料電池セルCは、とくに、フレーム1がカソード側に変位した際に、フレーム1に生じる曲げ応力をより小さく抑制することができ、耐久性のさらなる向上を実現することができる。
【0034】
図6及び図7は、本発明の燃料電池セルの他の実施形態を説明する図である。なお、以下の実施形態において、先の実施形態(図1〜図5参照)と同一の構成部位は、同一符号を付して詳細な説明を省略する。
【0035】
図6に示す燃料電池セルCは、カソード側(図6中で上側)のディフューザ部におけるガスシール部材11の数と、アノード側のディフューザ部におけるガスシール部材12の数とが異なるものとなっている。これにより、燃料電池セルCは、カソード側及びアノード側のガスシール部材11,12の位置を互いにディフューザ部の内外方向(図6の左右方向)にオフセットしている。
【0036】
すなわち、図示例では、カソード側のガスシール部材11が二つであると共に、アノード側のガスシール部材12の数が一つであって、個々のガスシール部材11,12の大きさはほぼ同等である。そして、カソード側のディフューザ部D1におけるガスシール部材11の位置が、アノード側のディフューザ部D2におけるガスシール部材12の位置よりも、ディフューザ部D1の内側(図6中で左側)にオフセットしてある構造である。
【0037】
上記構成を有する燃料電池セルCにあっても、ガスの差圧によりフレーム1がアノード側(図6中で下側)に変位した際の応力発生部S1と、フレーム1がカソード側に変位した際の応力発生部S2の位置がずれた状態となる。また、カソード側においては、ガスシール部材11から突部10に至るまでの梁長さL3が短くなる。
【0038】
これにより、上記の燃料電池セルCは、先の実施形態と同様に、フレーム1に生じる曲げ応力を分散させて、フレーム1及び膜電極構造体2の耐久性(疲労寿命)を向上させることができると共に、フレーム1に生じる曲げ応力を小さく抑制して、耐久性のさらなる向上を実現する。
【0039】
図7に示す燃料電池セルCは、カソード側及びアノード側の両ディフューザ部D1,D2に夫々複数のガスシール部材11,12を配置している。そして、カソード側(図7中で上側)のディフューザ部D1におけるガスシール部材11同士の間隔寸法と、アノード側のディフューザ部D2におけるガスシール部材12同士の間隔寸法とが異なるものとなっている。これにより、燃料電池セルCは、カソード側及びアノード側のガスシール部材11,12の位置を互いにディフューザ部の内外方向(図7の左右方向)にオフセットしている。
【0040】
すなわち、図示例では、カソード側及びアノード側のガスシール部材11,12が夫々二つずつであって、カソード側(図7中で上側)のガスシール部材11同士の間隔寸法よりも、アノード側のガスシール部材12同士の間隔寸法を小さくしている。そして、カソード側のディフューザ部D1におけるガスシール部材11の位置が、アノード側のディフューザ部D2におけるガスシール部材12の位置よりも、ディフューザ部D1の内側(図7中で左側)にオフセットしてある構造である。
【0041】
上記構成を有する燃料電池セルCにあっても、ガスの差圧によりフレーム1がアノード側(図7中で下側)に変位した際の応力発生部S1と、フレーム1がカソード側に変位した際の応力発生部S2の位置がずれた状態となる。また、カソード側においては、ガスシール部材11から突部10に至るまでの梁長さL3が短くなる。
【0042】
これにより、上記の燃料電池セルCは、先の実施形態と同様に、フレーム1に生じる曲げ応力を分散させて、フレーム1及び膜電極構造体2の耐久性(疲労寿命)を向上させることができると共に、フレーム1に生じる曲げ応力を小さく抑制して、耐久性のさらなる向上を実現する。
【0043】
ここで、図8は、図3に示す燃料電池スタックFS、すなわち本発明の燃料電池セルCを複数枚積層して成る燃料電池スタックFSを備えた燃料電池システムの一例を示す図である。
【0044】
図示の燃料電池システムは、燃料電池スタックFSに対して、カソードガスの供給路31及び排出路32と、アノードガスの供給路33及び排出路34と、冷却流体の循環路35を備えている。
【0045】
カソードガスの供給路31には、コンプレッサ等の空気供給手段36と、空気供給手段36からの給気を加湿する加湿器37が設けてある。また、カソードガスの排出路32は、排出空気中に含まれる水蒸気を加湿器37に供給し、その下流において、背圧調整弁38により大気に開放される。
【0046】
アノードガスの供給路33は、水素タンク39から燃料電池スタックFSに至るもので、途中に水素調整弁40が設けてある。また、アノードガスの排出路34は、水セパレータタンク41に至るものである。水セパレータタンク41は、水量検出用のレベルセンサ42を備えると共に、水を外部に排出するための水捨て弁43と、窒素ガスを大気に開放する窒素パージ弁44を備えている。
【0047】
冷却流体の循環路35は、ラジエーター45で冷却した冷却流体(冷却水)を循環させるものであって、冷却水循環ポンプ46と、ラジエーター45をバイパスするバイパス路47と、循環路35とバイパス路47を接続する三方弁48を備えている。
【0048】
図示の燃料電池システムは、アノードデッドエンドシステムと呼ばれるもので、アノードガスの流通が供給側から排出側へ一方向になっている。このアノードデッドエンドシステムでは、発電開始後、水素調圧弁40によりアノードガスの供給を一旦停止し、発電を継続することによりアノードガスの供給路33の圧力を低下させる。そして、供給路33が所定の圧力になったところで水素調圧弁40によりアノードガスの供給を再開し、アノードガスの供給を開始したときのガス流により燃料電池セルFC内の生成水を水セパレータタンク41に排出するようにしている。
【0049】
つまり、上記の燃料電池システムにおいて、アノードガスの圧力は、図9に示す如く運転中に脈動することになる。このとき、カソードガスの圧力はほぼ一定であると共に、アノードガスの上限圧力はカソードガスの圧力よりも大きくなる。
【0050】
これに対して、燃料電池セルCは、先述の各実施形態で説明したように、とくに、カソード側のガスシール部材11の位置を、アノード側のガスシール部材12の位置よりも、ディフューザ部D1の内側にオフセットしているので、フレーム1及び膜電極構造体2の耐久性(疲労寿命)をより高めることができる。
【0051】
すなわち、上記の燃料電池システムでは、カソード側に圧力に比べてアノード側の上限圧力の方が高いので、その差圧によりフレーム1が厚さ方向に変位した際には、カソード側(図5〜7中で上側)への変位量の方が大きくなる。そこで、燃料電池セルCでは、カソード側のガスシール部材11の位置をディフューザ部D1の内側にオフセットすることで、フレーム1がカソード側に変位した際の曲げ応力をより小さく抑制し、これにより耐久性をより高めている。
【0052】
上記の各実施形態で説明したように、本発明の燃料電池セルCは、フレーム1及び膜電極構造体2の耐久性を高めることができる。したがって、上記の燃料電池セルCを複数枚積層して成る燃料電池スタックFSとしても、耐久性が向上し、長期にわたって安定した発電を行うことができる。
【0053】
本発明の燃料電池セルは、その構成が上記各実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で構成の細部を適宜変更することが可能である。例えば、ガスシール部材の材料、大きさ、数及び間隔などを適宜変更したり、カソード側及びアノード側におけるガスシール部材の形態や配置を上記各実施形態と逆にしたり、上記各実施形態の構成同士を組み合わたりすることも可能である。
【符号の説明】
【0054】
C 燃料電池セル
D1 カソード側のディフューザ部
D2 アノード側のディフューザ部
FS 燃料電池スタック
SL ガスシール
1 フレーム
2 膜電極構造体
3A カソード側セパレータ
3B アノード側セパレータ
11 カソード側のガスシール部材
12 アノード側のガスシール部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周囲にフレームを有する膜電極構造体と、フレーム及び膜電極構造体を挟持する二枚のセパレータを備え、フレームと各セパレータとの間に反応用ガスを流通させるディフューザ部を形成すると共に、各ディフューザ部の周縁部にガスシール部材を設けた構造を有する燃料電池セルであって、
カソード側のディフューザ部におけるガスシール部材の位置と、アノード側のディフューザ部におけるガスシール部材の位置が、ディフューザ部の内外方向に互いにオフセットしてあることを特徴とする燃料電池セル。
【請求項2】
カソード側のディフューザにおけるガスシール部材の幅寸法と、アノード側のディフューザ部におけるガスシール部材の幅寸法とが異なることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池セル。
【請求項3】
カソード側のディフューザ部におけるガスシール部材の数と、アノード側のディフューザ部におけるガスシール部材の数とが異なることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池セル。
【請求項4】
カソード側及びアノード側の両ディフューザ部に夫々複数のガスシール部材を配置すると共に、カソード側のディフューザ部におけるガスシール部材同士の間隔寸法と、アノード側のディフューザ部におけるガスシール部材同士の間隔寸法とが異なることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池セル。
【請求項5】
カソード側のディフューザ部におけるガスシール部材の位置が、アノード側のディフューザ部におけるガスシール部材の位置よりも、ディフューザ部の内側にオフセットしてあることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の燃料電池セル。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の燃料電池セルを複数枚積層して成ることを特徴とする燃料電池スタック。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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