説明

燃料電池内部状態検出装置

【課題】外乱に起因する内部状態の誤検出を抑制することができる燃料電池内部状態検出装置を提供する。
【解決手段】燃料電池スタック10を構成する複数の燃料電池モジュールの内部状態を検出する燃料電池内部状態検出装置において、燃料電池スタック10に交流電流を印加する電流印加手段52と、電流印加時に各燃料電池モジュールの所定周波数での応答電圧を検出する電圧検出手段S11と、各燃料電池モジュールの所定周波数での応答電圧と、その周波数における基準値とを比較して、内部状態検出条件が成立したか否かを判定する条件判定手段S13と、内部状態検出条件成立時に各燃料電池モジュールの所定周波数での応答電圧に基づいて燃料電池モジュール毎の内部状態を検出する内部状態検出手段S14と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池の内部状態を検出する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車やハイブリット車の電源となる燃料電池においては、電解質膜や燃料極、酸化剤極の状態(以下「内部状態」という。)によっては、発電性能が低下する可能性がある。燃料電池の発電性能が低下した場合には、燃料電池を正常な状態に戻すことや、燃料電池の状態に合わせた運転をすることが重要である。そのため、燃料電池システムにおいては燃料電池の内部状態を検出することが必要である。
【0003】
特許文献1には、燃料電池の発電が安定した後に燃料電池に交流電流を印加して、燃料電池の交流インピーダンスを求めることで、燃料電池の内部状態を検出する内部状態検出装置が開示されている。燃料電池の発電状態を安定させてから燃料電池の内部状態を検出するので、外乱の影響を受けることなく内部状態を検出できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−18741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
燃料電池システムでは発電安定時以外にも内部状態を検出する必要があるが、特許文献1に記載の内部状態検出装置を発電安定時以外にも適用した場合には、駆動モータ制御用インバータのスイッチング制御によるノイズ等の外乱の影響を受けて燃料電池の内部状態を誤検出してしまうおそれがある。
【0006】
そこで、本発明は、このような問題点に着目してなされたものであり、外乱に起因する内部状態の誤検出を抑制することができる燃料電池内部状態検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下のような解決手段によって前記課題を解決する。
【0008】
本発明は、燃料電池スタックを構成する複数の燃料電池モジュールの内部状態を検出する燃料電池内部状態検出装置である。燃料電池内部状態検出装置は、燃料電池スタックに交流電流を印加する電流印加手段と、電流印加時に各燃料電池モジュールの所定周波数での応答電圧を検出する電圧検出手段と、各燃料電池モジュールの所定周波数での応答電圧とその周波数における基準値とを比較して内部状態検出条件が成立したか否かを判定する条件判定手段と、内部状態検出条件成立時に各燃料電池モジュールの所定周波数での応答電圧に基づいて燃料電池モジュール毎の内部状態を検出する内部状態検出手段を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、内部状態検出条件が成立した場合にのみ、各セルモジュールの所定周波数の応答電圧に基づいて各セルモジュールの内部状態を検出するので、応答電圧に外乱が含まれた場合であってもセルモジュールの内部状態を誤検出することがない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明による燃料電池内部状態検出装置を適用可能な燃料電池システムの一例を示すシステム構成図である。
【図2】電圧検出装置の概略構成図である。
【図3】電流印加部によって印加される交流電流を示す図である。
【図4】フィルタ部の周波数‐ゲイン特性を示す図である。
【図5】燃料電池スタックのn番目のセルモジュールにおける応答電圧を示す図である。
【図6】コントローラが実行するセルモジュールの内部状態検出制御を示すフローチャートである。
【図7】低周波内部状態検出制御を示すフローチャートである。
【図8】中周波内部状態検出制御を示すフローチャートである。
【図9】高周波内部状態検出制御を示すフローチャートである。
【図10】外乱がない場合のセルモジュールの内部状態検出制御の一例を説明する図である。
【図11】高周波数の外乱がある場合のセルモジュールの内部状態検出制御の一例を説明する図である。
【図12】燃料電池スタックの出力電力と、基準電圧値算出に用いられる係数との関係を示す図である。
【図13】第2実施形態における低周波内部状態検出制御を示すフローチャートである。
【図14】第2実施形態における中周波内部状態検出制御を示すフローチャートである。
【図15】第2実施形態における高周波内部状態検出制御を示すフローチャートである。
【図16】燃料電池スタックの出力電力とばらつき基準値との関係を示す図である。
【図17】第3実施形態における内部状態検出制御及び外乱周波内部状態検出制御を示すフローチャートである。
【図18】外乱周波数での応答電圧が検出された場合のセルモジュールの内部状態検出制御の一例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面等を参照して本発明の実施形態について説明する。
【0012】
(第1実施形態)
図1は、本発明による燃料電池内部状態検出装置を適用可能な燃料電池システムの一例を示すシステム構成図である。
【0013】
燃料電池システム100は、車両用の燃料電池システムであって、燃料電池スタック10と、水素吸排機構20と、空気吸排機構30と、駆動モータ制御装置40と、電圧検出装置50と、コントローラ60とを備える。
【0014】
燃料電池スタック10は、アノードガスである水素とカソードガスである空気とによって発電する燃料電池を少なくとも1枚以上有するセルモジュールをn個備える。燃料電池スタック10は、車両の駆動に必要な電力を発電する。
【0015】
水素吸排機構20は、高圧水素タンク21と、水素供給通路22と、水素供給弁23と、水素オフガス排出通路24と、水素オフガス排出弁25とを備える。
【0016】
高圧水素タンク21は、燃料電池スタック10に供給する水素を高圧状態で貯蔵する。
【0017】
水素供給通路22は、一端が高圧水素タンク21に接続し、他端が燃料電池スタック10の水素供給孔に接続する。
【0018】
水素供給弁23は、水素供給通路22に設けられ、高圧水素タンク21から燃料電池スタック10に供給される水素の流量を調整する。
【0019】
水素オフガス排出通路24は、一端が燃料電池スタック10の水素オフガス排出孔に接続し、他端が外部に開口する。
【0020】
水素オフガス排出弁25は、水素オフガス排出通路24に設けられ、外部に排出される水素オフガスの流量を調整する。
【0021】
空気吸排機構30は、空気供給通路31と、コンプレッサ32と、空気オフガス排出通路33と、空気オフガス排出弁34とを備える。
【0022】
空気供給通路31は、一端が空気取り入れ口を形成し、他端が燃料電池スタック10の空気供給孔に接続する。
【0023】
コンプレッサ32は、空気供給通路31に設けられ、外部から取り入れた空気を加圧して燃料電池スタック10に供給する。
【0024】
空気オフガス排出通路33は、一端が燃料電池スタック10の空気オフガス排出孔に接続し、他端が外部に開口する。
【0025】
空気オフガス排出弁34は、空気オフガス排出通路33に設けられ、外部に排出される空気オフガスの流量を調整する。
【0026】
駆動モータ制御装置40は、DC/DCコンバータ41と、バッテリ42と、インバータ43と、駆動モータ44とを備える。
【0027】
DC/DCコンバータ41は、燃料電池スタック10と充放電可能な二次電池であるバッテリ42との間で直流電圧を昇圧又は降圧させる。
【0028】
インバータ43は、燃料電池スタック10やバッテリ42からの直流電流を交流電流に変換し、駆動モータ44に供給する。駆動モータ44は、三相交流モータであって、車両の主動力源である。
【0029】
電圧検出装置50は、内部状態検出制御時に燃料電池スタック10に交流電流を印加し、各セルモジュールでの応答電圧を検出する。電圧検出装置50によって検出された応答電圧信号は、コントローラ60に出力される。
【0030】
コントローラ60は、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えたマイクロコンピュータで構成される。コントローラ60には、電圧検出装置50からの応答電圧信号が入力するほか、種々のセンサ類からの信号が入力する。コントローラ60は、これら入力信号に基づいて、燃料電池スタック10の各セルモジュールの内部状態を検出したり、インバータ43のスイッチング素子を制御したりする。
【0031】
図2を参照して、電圧検出装置50の構成について説明する。
【0032】
電圧検出装置50は、接続線51を介して燃料電池スタック10の各セルモジュールと電気的に接続される。電圧検出装置50は、電流印加部52と、フィルタ部53と、電圧測定部54と、アイソレータ55と、電圧処理部56とを備える。
【0033】
電流印加部52は、内部状態検出制御時に燃料電池スタック10に交流電流を印加する。このように燃料電池スタック10に交流電流を印加すると、燃料電池スタック10の各セルモジュールには応答電圧が生じる。電流印加部52は、電圧検出装置50に設けるのではなく、DC/DCコンバータ41に設置してもよい。
【0034】
電流印加部52によって印加される交流電流は、図3(A)及び図3(B)に示すように、異なる3つの周波数f1〜f3を含む交流電流である。低周波数f1は、0.01〜1Hz程度の周波数である。中周波数f2は、20〜40Hz程度の周波数である。高周波数f3は、5〜10kHz程度の周波数である。
【0035】
図2に戻り、フィルタ部53は、セルモジュール毎に電圧検出装置50内に設けられる。フィルタ部53は、図4に示すように、セルモジュールの応答電圧のうち所定の周波数帯の応答電圧を通過させるバンドパスフィルタである。フィルタ部53のハイパス側のカットオフ周波数fCHは、電流印加部52によって印加される交流電流の低周波数f1よりも小さく設定される。フィルタ部53のローパス側のカットオフ周波数fCLは、電流印加部52によって印加される交流電流の低周波数f3よりも大きく設定される。
【0036】
図2に示すフィルタ部53は、応答電圧の直流電圧成分を除去して入力電圧を低下させるので電圧測定部54の耐久性を向上させることができ、応答電圧の高周波成分を除去するので電圧測定部54でのエイリアシングの発生を抑制できる。
【0037】
電圧測定部54は、フィルタ部53と同数設けられる。電圧測定部54は、フィルタ処理された応答電圧を検出し、アナログ信号からデジタル信号に変換する。電圧測定部54で測定された応答電圧は、アイソレータ55を介して、電圧処理部56に入力する。
【0038】
電圧処理部56は、各セルモジュールの応答電圧をFFT処理し、各セルモジュールにおける周波数毎の応答電圧を算出する。
【0039】
図5は、電圧検出装置50において検出される、燃料電池スタック10のn番目のセルモジュールの応答電圧を示す。本実施形態では3つの周波数f1、f2、f3を含む交流電流を燃料電池スタック10に印加するので、それぞれの周波数に対応した応答電圧V1n、V2n、V3nが電圧検出装置50によって検出される。応答電圧V1nは、n番目のセルモジュールでの低周波数f1における応答電圧である。また、応答電圧V2nはn番目のセルモジュールでの中周波数f2における応答電圧であり、応答電圧V3nはn番目のセルモジュールでの高周波数f3における応答電圧である。
【0040】
コントローラ60は、各セルモジュールの周波数毎の応答電圧V11n、V21n、V31nに基づいて、各セルモジュールの内部状態を検出する。コントローラ60は、低周波数f1における応答電圧V11nから各セルモジュールの交流インピーダンスを算出し、これら交流インピーダンスに基づいて各セルモジュールの反応ガス導入部の異常を検出する。コントローラ60は、中周波数f2における応答電圧V21nから各セルモジュールの交流インピーダンスを算出し、これら交流インピーダンスに基づいて各セルモジュールの燃料極や酸化剤極の異常を検出する。さらに、コントローラ60は、高周波数f3における応答電圧V31nから各セルモジュールの交流インピーダンスを算出し、これら交流インピーダンスに基づいて各セルモジュールの電解質膜の異常を検出する。
【0041】
このように異なる周波数の応答電圧に基づいてセルモジュールの異なる内部状態を検出することは、特開2005−332702において公知である。
【0042】
ところで、従来手法の燃料電池内部状態検出装置は、発電安定時以外に内部状態を検出する場合、駆動モータ制御用インバータのスイッチング制御によるノイズ等の外乱の影響を受けて内部状態を誤検出する可能性があった。
【0043】
そこで、本実施形態では、各セルモジュールの応答電圧V11n、V21n、V31nに基づいて誤検出をしない内部状態検出条件が成立したか否かを判定し、条件成立時に各セルモジュールの内部状態を検出することで、外乱の影響を受けずに各セルモジュールの内部状態を診断する。
【0044】
図6のフローチャートを参照して、コントローラ60が実行するセルモジュールの内部状態検出制御について説明する。
【0045】
図6は、内部状態検出制御のメインルイーチンを示すフローチャートである。この制御は、電源オン時から開始され、例えば10ミリ秒周期で繰り返し実行される。
【0046】
ステップS1では、コントローラ60は、低周波内部状態検出制御を実施する。
【0047】
ステップS2では、コントローラ60は、中周波内部状態検出制御を実施する。
【0048】
ステップS3では、コントローラ60は、高周波内部状態検出制御を実施して、処理を終了する。
【0049】
図7のフローチャートを参照して、低周波内部状態検出制御について説明する。
【0050】
ステップS11では、コントローラ60は、電圧検出装置50によって検出されたセルモジュール毎の低周波数f1での応答電圧V11nを読み込む。
【0051】
ステップS12では、コントローラ60は、低周波応答電圧平均値V1AVEと係数C1とに基づいて(1)式から低周波基準電圧値V1sを算出する。
【0052】
【数1】

【0053】
ここで、係数C1は1よりも大きい値である。係数C1は、予めの実験により、正常状態での各セルモジュールの応答電圧V11nのばらつきに基づいて決定される。
【0054】
ステップS13では、コントローラ60は、各セルモジュールの応答電圧V11nの少なくとも1つが低周波基準電圧値V1sよりも大きいか否かを判定する。
【0055】
応答電圧V11nの少なくとも1つが低周波基準電圧値V1sよりも大きい場合には、コントローラ60は、内部状態を誤検出することがない低周波内部状態検出条件が成立していると判定し、ステップS14の処理を実行する。応答電圧V11nの全てが低周波基準電圧値V1sよりも小さい場合には、コントローラ60は、低周波内部状態検出条件が不成立であると判定し、各セルモジュールの内部状態を検出することなく処理を終了する。
【0056】
ステップS14では、コントローラ60は、各セルモジュールの低周波数f1での応答電圧V11nに基づいて、各セルモジュールの交流インピーダンスを算出し、これら交流インピーダンスに基づいて各セルモジュールの内部状態(反応ガス導入部の異常)を検出する。
【0057】
図8のフローチャートを参照して、中周波内部状態検出制御について説明する。
【0058】
ステップS21では、コントローラ60は、電圧検出装置50によって検出されたセルモジュール毎の中周波数f2での応答電圧V21nを読み込む。
【0059】
ステップS22では、コントローラ60は、中周波応答電圧平均値V2AVEと係数C2とに基づいて(2)式から中周波基準電圧値V2sを算出する。
【0060】
【数2】

【0061】
ここで、係数C2は1よりも大きい値である。係数C2は、予めの実験により、正常状態での各セルモジュールの応答電圧V21nのばらつきに基づいて決定される。
【0062】
ステップS23では、コントローラ60は、各セルモジュールの応答電圧V21nの少なくとも1つが中周波基準電圧値V2sよりも大きいか否かを判定する。
【0063】
応答電圧V21nの少なくとも1つが中周波基準電圧値V2sよりも大きい場合には、コントローラ60は、内部状態を誤検出することがない中周波内部状態検出条件が成立していると判定し、ステップS24の処理を実行する。応答電圧V21nの全てが中周波基準電圧値V2sよりも小さい場合には、コントローラ60は、中周波内部状態検出条件が不成立であると判定し、各セルモジュールの内部状態を検出することなく処理を終了する。
【0064】
ステップS24では、コントローラ60は、各セルモジュールの中周波数f2での応答電圧V21nに基づいて、各セルモジュールの交流インピーダンスを算出し、これら交流インピーダンスに基づいて各セルモジュールの内部状態(燃料極や酸化剤極の異常)を検出する。
【0065】
図9のフローチャートを参照して、高周波内部状態検出制御について説明する。
【0066】
ステップS31では、コントローラ60は、電圧検出装置50によって検出されたセルモジュール毎の高周波数f3での応答電圧V31nを読み込む。
【0067】
ステップS32では、コントローラ60は、高周波応答電圧平均値V3AVEと係数C3とに基づいて(3)式から中周波基準電圧値V3sを算出する。
【0068】
【数3】

【0069】
ここで、係数C3は1よりも大きい値である。係数C3は、予めの実験により、正常状態での各セルモジュールの応答電圧V31nのばらつきに基づいて決定される。
【0070】
ステップS33では、コントローラ60は、各セルモジュールの応答電圧V31nの少なくとも1つが高周波基準電圧値V3sよりも大きいか否かを判定する。
【0071】
応答電圧V31nの少なくとも1つが高周波基準電圧値V3sよりも大きい場合には、コントローラ60は、内部状態を誤検出することがない高周波内部状態検出条件が成立していると判定し、ステップS34の処理を実行する。応答電圧V31nの全てが高周波基準電圧値V3sよりも小さい場合には、コントローラ60は、高周波内部状態検出条件が不成立であると判定し、各セルモジュールの内部状態を検出することなく処理を終了する。
【0072】
ステップS34では、コントローラ60は、各セルモジュールの高周波数f3での応答電圧V31nに基づいて、各セルモジュールの交流インピーダンスを算出し、これら交流インピーダンスに基づいて各セルモジュールの内部状態(電解質膜の異常)を検出する。
【0073】
図10を参照して、インバータ43のスイッチング制御によるノイズ等の外乱がない場合のセルモジュールの内部状態検出制御の一例を説明する。図10は、燃料電池スタック10に交流電流を印加した時に検出されたセルモジュール毎の周波数と応答電圧との関係を示した図である。
【0074】
各セルモジュールの低周波数f1での応答電圧V11nはモジュール間においてほぼ同程度の大きさであるため、応答電圧V11nの全てが低周波基準電圧値V1sよりも小さくなり、低周波内部状態検出条件が不成立となるので(ステップS13でNO)、低周波内部状態検出制御は実施されない。
【0075】
また、各セルモジュールの中周波数f2での応答電圧V21nもモジュール間においてほぼ同程度の大きさであるため、応答電圧V21nの全てが中周波基準電圧値V2sよりも小さくなり、中周波内部状態検出条件が不成立となるので(ステップS23でNO)、中周波内部状態検出制御は実施されない。
【0076】
これに対して、各セルモジュールの高周波数f3での応答電圧V31nでは、第2セルモジュールの応答電圧V32のみが極端に大きくなっている。このような場合には、応答電圧V32が高周波基準電圧値V3sよりも大きくなり、高周波内部状態検出条件が成立する(ステップS33でYES)。セルモジュールの内部状態異常の可能性がある時には、応答電圧V31nに基づいて各セルモジュールの交流インピーダンスを算出し、これら交流インピーダンスに基づいて各セルモジュールの内部状態(電解質膜の異常)を検出する。
【0077】
次に、図11を参照して、インバータ43のスイッチング制御によるノイズ等が高周波数f3の外乱である場合のセルモジュールの内部状態検出制御の一例を説明する。図11は、燃料電池スタック10に交流電流を印加した時に検出されたセルモジュール毎の周波数と応答電圧との関係を示した図である。
【0078】
各セルモジュールの低周波数f1での応答電圧V11n及び中周波数f2での応答電圧V21nはモジュール間においてほぼ同程度の大きさであるため、図10の場合と同様に、低・中周波内部状態検出制御は実施されない。
【0079】
一方、インバータ43からのノイズ等が高周波数f3の外乱であるため、この外乱に起因して、各セルモジュールの高周波数f3での応答電圧V31nは全体的に大きな値となる。
【0080】
このように応答電圧V31nが大きくなると、従来手法の燃料電池内部状態検出装置では、内部状態に異常がないにもかかわらず全てのセルモジュールにおいて内部状態が悪化したと検出してしまい、内部状態を誤検出する可能性がある。
【0081】
本実施形態では、外乱を含んで応答電圧V31nが大きくなっても、応答電圧V31nがモジュール間において同程度の大きさである場合には、応答電圧V31nの全てが高周波基準電圧値V3sよりも小さくなり、高周波内部状態検出条件が不成立となるので(ステップS33でNO)、高周波内部状態検出制御は実施されない。したがって、応答電圧V31nに外乱が含まれた場合であっても、セルモジュールの内部状態を誤検出することがない。
【0082】
以上により、第1実施形態の燃料電池内部状態検出装置では、下記の効果を得ることができる。
【0083】
燃料電池内部状態検出装置は、燃料電池スタック10に交流電流を印加し、交流電流の周波数に対応したセルモジュール毎の応答電圧を検出して、これら応答電圧の少なくとも1つが基準電圧値よりも大きくなった場合に、各セルモジュールの応答電圧に基づいて各セルモジュールの内部状態を検出する。これにより、応答電圧に外乱が含まれた場合であってもセルモジュールの内部状態を誤検出することがなく、内部状態検出精度を高めることができる。
【0084】
また、燃料電池スタック10に印加される交流電流は異なる3つの周波数f1、f2、f3を含んでいるので、セルモジュール毎に各周波数に対応した応答電圧を検出できる。燃料電池内部状態検出装置は、異なる周波数の応答電圧に基づいて内部状態検出制御実施するので、異なる種類の燃料電池内部状態を検出することが可能となる。
【0085】
なお、第1実施形態では、低・中・高周波基準電圧値V1s、V2s、V3sを算出する際に一定値である係数C1、C2、C3を用いたが、図12に示すように燃料電池スタック10の出力電力に応じて変化する係数C1、C2、C3を用いてよい。この場合には、係数C1、C2、C3は、1よりも大きな値であって、燃料電池スタック10の出力電力が大きくなるほど小さくなるように設定される。燃料電池スタック10の出力電力に応じて低・中・高周波基準電圧値V1s、V2s、V3sを変化させるので、燃料電池スタック10の運転状態に最適な内部状態検出を実施することができる。
【0086】
(第2実施形態)
第2実施形態における燃料電池システム100は、第1実施形態とほぼ同様の構成であるが、低・中・高周波内部状態検出制御での内部状態検出条件の判定において相違する。以下、その相違点を中心に説明する。
【0087】
図13のフローチャートを参照して、第2実施形態における低周波内部状態検出制御について説明する。図13のステップS11及びS14の内容は、第1実施形態における図7のステップS11及びS14と同様である。
【0088】
コントローラ60は、ステップS11において低周波数f1での応答電圧V11nを読み込んだ後、ステップS15の処理を実行する。
【0089】
ステップS15では、コントローラ60は、各セルモジュールの応答電圧V11nと低周波応答電圧平均値V1AVEとに基づいて(4)式から、ばらつきの指標となる標準偏差S1を算出する。
【0090】
【数4】

【0091】
ステップS16では、コントローラ60は、低周波数f1でのばらつき基準値S1sを算出する。ばらつき基準値S1sは、予めの実験により、正常状態での各セルモジュールの応答電圧V11nのばらつきから決定される。
【0092】
ステップS17では、コントローラ60は、応答電圧V11nのばらつきを示す標準偏差S1がばらつき基準値S1sよりも大きいか否かを判定する。
【0093】
標準偏差S1がばらつき基準値S1sよりも大きい場合には、コントローラ60は、低周波内部状態検出条件が成立していると判定し、ステップS14の処理を実行する。標準偏差S1がばらつき基準値S1sよりも小さい場合には、コントローラ60は、低周波内部状態検出条件が不成立であると判定し、各セルモジュールの内部状態を検出することなく処理を終了する。
【0094】
ステップS14では、コントローラ60は、各セルモジュールの低周波数f1での応答電圧V11nに基づいて各セルモジュールの交流インピーダンスを算出し、これら交流インピーダンスに基づいて各セルモジュールの内部状態(反応ガス導入部の異常)を検出する。
【0095】
図14のフローチャートを参照して、第2実施形態における中周波内部状態検出制御について説明する。図14のステップS21及びS24の内容は、第1実施形態における図8のステップS21及びS24と同様である。
【0096】
コントローラ60は、ステップS21において中周波数f2での応答電圧V21nを読み込んだ後、ステップS25の処理を実行する。
【0097】
ステップS25では、コントローラ60は、各セルモジュールの応答電圧V21nと中周波応答電圧平均値V2AVEとに基づいて(5)式から、ばらつきの指標となる標準偏差S2を算出する。
【0098】
【数5】

【0099】
ステップS26では、コントローラ60は、中周波数f2でのばらつき基準値S2sを算出する。ばらつき基準値S2sは、予めの実験により、正常状態での各セルモジュールの応答電圧V21nのばらつきから決定される。
【0100】
ステップS27では、コントローラ60は、応答電圧V21nのばらつきを示す標準偏差S2がばらつき基準値S2sよりも大きいか否かを判定する。
【0101】
標準偏差S2がばらつき基準値S2sよりも大きい場合には、コントローラ60は、中周波内部状態検出条件が成立していると判定し、ステップS24の処理を実行する。標準偏差S2がばらつき基準値S2sよりも小さい場合には、コントローラ60は、中周波内部状態検出条件が不成立であると判定し、各セルモジュールの内部状態を検出することなく処理を終了する。
【0102】
ステップS24では、コントローラ60は、各セルモジュールの中周波数f2での応答電圧V21nに基づいて、各セルモジュールの交流インピーダンスを算出し、これら交流インピーダンスに基づいて各セルモジュールの内部状態(燃料極や酸化剤極の異常)を検出する。
【0103】
次に、図15のフローチャートを参照して、第2実施形態における高周波内部状態検出制御について説明する。図15のステップS31及びS34の内容は、第1実施形態における図9のステップS31及びS34と同様である。
【0104】
コントローラ60は、ステップS31において高周波数f3での応答電圧V31nを読み込んだ後、ステップS35の処理を実行する。
【0105】
ステップS35では、コントローラ60は、各セルモジュールの応答電圧V31nと高周波応答電圧平均値V3AVEとに基づいて(6)式から、ばらつきの指標となる標準偏差S3を算出する。
【0106】
【数6】

【0107】
ステップS36では、コントローラ60は、高周波数f3でのばらつき基準値S3sを算出する。ばらつき基準値S3sは、予めの実験により、正常状態での各セルモジュールの応答電圧V31nのばらつきから決定される。
【0108】
ステップS37では、コントローラ60は、応答電圧V31nのばらつきを示す標準偏差S3がばらつき基準値S3sよりも大きいか否かを判定する。
【0109】
標準偏差S3がばらつき基準値S3sよりも大きい場合には、コントローラ60は、高周波内部状態検出条件が成立していると判定し、ステップS34の処理を実行する。標準偏差S3がばらつき基準値S3sよりも小さい場合には、コントローラ60は、高周波内部状態検出条件が不成立であると判定し、各セルモジュールの内部状態を検出することなく処理を終了する。
【0110】
ステップS34では、コントローラ60は、各セルモジュールの高周波数f3での応答電圧V31nに基づいて、各セルモジュールの交流インピーダンスを算出し、これら交流インピーダンスに基づいて各セルモジュールの内部状態(電解質膜の異常)を検出する。
【0111】
以上により、第2実施形態の燃料電池内部状態検出装置では、下記の効果を得ることができる。
【0112】
燃料電池内部状態検出装置は、燃料電池スタック10に交流電流を印加し、交流電流の周波数に対応したセルモジュール毎の応答電圧を検出して、これら応答電圧から算出される標準偏差がばらつき基準値よりも大きくなった場合に、各セルモジュールの応答電圧に基づいて各セルモジュールの内部状態を検出する。これにより、応答電圧に外乱が含まれた場合であってもセルモジュールの内部状態を誤検出することがなく、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0113】
なお、第2実施形態では、ばらつき基準値S1s、S2s、S3sを一定値としたが、図16に示すように燃料電池スタック10の出力電力に応じてばらつき基準値S1s、S2s、S3sを変化させるようにしてもよい。この場合には、ばらつき基準値S1s、S2s、S3sは、燃料電池スタック10の出力電力が大きくなるほど小さくなるように設定される。燃料電池スタック10の出力電力に応じてばらつき基準値S1s、S2s、S3sを変化させるので、燃料電池スタック10の運転状態に最適な内部状態検出を実施することができる。
【0114】
(第3実施形態)
第3実施形態における燃料電池システム100は、第1実施形態とほぼ同様の構成であるが、セルモジュールの内部状態の検出において相違する。以下、その相違点を中心に説明する。
【0115】
インバータ43のスイッチング制御によるノイズ等が燃料電池スタック10に印加される交流電流の周波数と異なる周波数(以下「外乱周波数」という)を有する外乱である場合には、内部状態検出制御時に外乱周波数における応答電圧が検出されることがある。そこで、第3実施形態では、第1実施形態と同様に低周波数f1〜高周波数f3での応答電圧に基づいて各セルモジュールの内部状態を検出するだけでなく、外乱周波数における応答電圧に基づいて各セルモジュールの内部状態を検出する。
【0116】
図17(A)は、第3実施形態の内部状態検出制御のメインルイーチンを示すフローチャートである。図17のステップS1〜S3の処理は、第1実施形態の図6のステップS1〜S3の処理と同様である。
【0117】
コントローラ60は、ステップS3処理後のステップS4において、外乱周波内部状態検出制御を実施し、処理を終了する。
【0118】
次に図17(B)のフローチャートを参照して、外乱周波内部状態検出制御について説明する。
【0119】
ステップS41では、コントローラ60は、電圧検出装置50によって検出されたセルモジュール毎の外乱周波数f4での応答電圧V41nを読み込む。
【0120】
ステップS42では、コントローラ60は、外乱周波応答電圧平均値V4AVEと係数C4とに基づいて(7)式から外乱周波基準電圧値V4sを算出する。
【0121】
【数7】

【0122】
ここで、係数C4は1よりも大きい値である。係数C4は、予めの実験により、正常状態での各セルモジュールの応答電圧V41nのばらつきに基づいて決定される。なお、係数C4は、燃料電池スタック10の出力電力が大きくなるほど小さくなるように設定してもよい。
【0123】
ステップS43では、コントローラ60は、各セルモジュールの応答電圧V41nの少なくとも1つが外乱周波基準電圧値V4sよりも大きいか否かを判定する。
【0124】
応答電圧V41nの少なくとも1つが外乱周波基準電圧値V4sよりも大きい場合には、コントローラ60は、外乱周波内部状態検出条件が成立していると判定し、ステップS44の処理を実行する。応答電圧V41nの全てが外乱周波基準電圧値V4sよりも小さい場合には、コントローラ60は、外乱周波内部状態検出条件が不成立であると判定し、各セルモジュールの内部状態を検出することなく処理を終了する。
【0125】
ステップS44では、コントローラ60は、各セルモジュールの外乱周波数f4での応答電圧V41nに基づいて、各セルモジュールの交流インピーダンスを算出し、これら交流インピーダンスに基づいて各セルモジュールの内部状態を検出する。
【0126】
図18は、外乱周波数f4での応答電圧V41nが検出された場合のセルモジュールの内部状態検出制御の一例を説明する。
【0127】
各セルモジュールの低〜高周波数f1〜f3での応答電圧V11n〜V31nはモジュール間においてほぼ同程度の大きさであるため、各セルモジュールの内部状態は検出されない。
【0128】
これに対して、各セルモジュールの外乱周波数f4での応答電圧V41nでは、第2セルモジュールの応答電圧V42のみが極端に大きくなっている。このような場合には、第2セルモジュールの応答電圧V42が外乱周波基準電圧値V4sよりも大きくなり、外乱周波内部状態検出条件が成立する(ステップS43でYES)。外乱周波内部状態検出条件が成立して、セルモジュールの内部状態異常の可能性があると判定された時には、応答電圧V41nに基づいて各セルモジュールの交流インピーダンスを算出し、これら交流インピーダンスに基づいて各セルモジュールの内部状態を検出する。
【0129】
以上により、第3実施形態の燃料電池内部状態検出装置では、下記の効果を得ることができる。
【0130】
燃料電池内部状態検出装置は、低周波数f1〜高周波数f3での応答電圧に基づいて各セルモジュールの内部状態を検出するだけでなく、外乱周波数での応答電圧に基づいて各セルモジュールの内部状態を検出するので、第1実施形態よりもセルモジュールの状態変化を検知しやすくなる。
【0131】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。
【0132】
第1〜第3実施形態では、燃料電池スタック10に印加した交流電流の周波数に対応する周波数の応答電圧に基づいて各セルモジュールの内部状態を検出するようにしたが、これに限られるものではない。例えば、燃料電池スタック10に印加した交流電流の周波数に対する高調周波数での応答電圧をセルモジュール毎に検出し、それら高調周波数での応答電圧に基づいて各セルモジュールの内部状態を検出するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0133】
100 燃料電池システム
10 燃料電池スタック
43 インバータ
44 駆動モータ
50 電圧検出装置
52 電流印加部(電流印加手段)
53 フィルタ部
54 電圧測定部
56 電圧処理部
60 コントローラ
S11、S21、S31、S41 電圧検出手段
S13、S23、S33、S43、S17、S27、S37 条件判定手段
S14、S24、S34、S44 内部状態検出手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池スタックを構成する複数の燃料電池モジュールの内部状態を検出する燃料電池内部状態検出装置において、
前記燃料電池スタックに交流電流を印加する電流印加手段と、
電流印加時に、各燃料電池モジュールの所定周波数での応答電圧を検出する電圧検出手段と、
各燃料電池モジュールの所定周波数での応答電圧と、その周波数における基準値とを比較して、内部状態検出条件が成立したか否かを判定する条件判定手段と、
内部状態検出条件成立時に、各燃料電池モジュールの所定周波数での応答電圧に基づいて燃料電池モジュール毎の内部状態を検出する内部状態検出手段と、
を備えることを特徴とする燃料電池内部状態検出装置。
【請求項2】
前記条件判定手段は、各燃料電池モジュールの所定周波数での応答電圧の少なくとも1つが、各燃料電池モジュールの所定周波数での応答電圧の平均値に基づいて算出される前記基準値よりも大きい場合に、内部状態検出条件が成立したと判定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池内部状態検出装置。
【請求項3】
前記条件判定手段は、各燃料電池モジュールの所定周波数での応答電圧から算出される標準偏差が、前記基準値よりも大きい場合に、内部状態検出条件が成立したと判定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池内部状態検出装置。
【請求項4】
前記条件判定手段は、予めの実験により、正常状態での各セルモジュールの応答電圧ばらつきから前記基準値を設定する、
ことを特徴とする請求項3に記載の燃料電池内部状態検出装置。
【請求項5】
前記条件判定手段は、前記燃料電池スタックの出力電力が大きくなるほど前記基準値を小さく設定する、
ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1つに記載の燃料電池内部状態検出装置。
【請求項6】
前記電圧検出手段は、前記交流電流の周波数に対応する周波数での応答電圧を検出する、
ことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1つに記載の燃料電池内部状態検出装置。
【請求項7】
前記電流印加手段は、複数の周波数を有する交流電流を印加し、
前記電圧検出手段は、各燃料電池モジュールにおいて周波数毎の応答電圧を検出し、
前記条件判定手段は、各燃料電池モジュールの周波数毎の応答電圧とそれら周波数における基準値とを比較して、周波数毎の内部状態検出条件が成立したか否かを判定し、
前記内部状態検出手段は、内部状態検出条件が成立した周波数の前記応答電圧に基づいて燃料電池モジュール毎の内部状態を検出する、
ことを特徴とする請求項6に記載の燃料電池内部状態検出装置。
【請求項8】
前記電圧検出手段は、前記所定周波数の応答電圧を通すバンドパスフィルタを備える、
ことを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1つに記載の燃料電池内部状態検出装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate