説明

燃料電池制御システムおよび燃料電池停止方法

【課題】停止時におけるMEAの劣化を低減させることができる燃料電池制御システムおよび燃料電池停止方法を提供する。
【解決手段】PBI−リン酸形燃料電池の燃料電池制御システム100は、燃料電池スタック1と、燃料改質部3と、燃焼部4と、脱硫部5と、を備える。燃料電池スタック1は、リン酸含浸塩基性ポリマーの電解質層と、電解質層を挟み配置されたアノードおよびカソードを含む。燃料改質部3は、燃料ガスを改質する。燃焼部4は、燃料ガスを含むガスを燃焼させる。脱硫部5は、燃料ガスを脱硫する。燃料電池スタック1のカソードへ供給する酸化剤ガスを燃料ガスへ切り替え、かつ、燃料電池スタック1のアノードへ燃料改質部3を介して供給していた燃料ガスを、供給路の切り替えにより燃料改質部3を介さずに燃料電池スタック1へ供給し、燃料電池制御システム100の停止を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池制御システムおよび燃料電池停止方法に関する。より詳しくは、リン酸含浸塩基性ポリマーを電解質層に用いる燃料電池の燃料電池制御システムおよび燃料電池停止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池の基本構造は、正極、負極および電解質膜を一体化して貼り合わせた膜/電極接合体(Membrane Electrode Assembly、MEA)を導電板で挟みこんだセルで構成される。
【0003】
燃料電池には、固体高分子形燃料電池(Polymer Electrolyte Fuel Cell、PEFC)、固体酸化物形燃料電池(Solid Oxide Fuel Cell、SOFC)またはリン酸形燃料電池(Phosphoric Acid Fuel Cell、PAFC)等、電極仕様の異なった方式がある。
【0004】
また、PEFCとPAFCの中間的な電極を使用する燃料電池が開発されている。例えば、電解質材料としてポリベンズイミダゾール(PBI)樹脂にリン酸を含浸させた材料を利用する、PBI−リン酸電極を用いた燃料電池が挙げられる。
【0005】
従来の高分子電解質型燃料電池システムでは、稼働停止時におけるアノード電極側およびカソード電極側流路に残存する水気の凝縮による電極触媒の濡れや、残存物による金属触媒の被毒が問題となることが多かった。その対策として、燃料電池システムの燃料電池スタックの高分子電解質膜を、加湿を必要としないものを具備することが特許文献1に記載されており、その高分子電解質膜はリン酸を含有する電解質膜を含むことが挙げられている。
【0006】
特許文献2においては、燃料電池本体の単セル電圧が予め定めた設定値を下回るまで燃料電池本体から電力を取り出す停止方法を用いて、カソード電極側に残留する酸素を消費することで、燃料電池発電装置の上述の問題に対する対策を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−71729号公報
【特許文献2】特開2008−140772号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1では、燃料電池システムの稼働停止時に、アノードおよびカソードのパージを、燃焼した燃料ガスを用いて行っている。パージに用いる燃焼ガスには燃焼により水分が含まれている。水分により燃料電池の膜/電極接合体(Membrane Electrode Assembly、MEA)においてリン酸が溶出し、燃料電池特性が劣化するおそれがある。また、燃焼の際の空気量によっては、起動時の異常電位が発生したり、不完全燃焼によりガス流路が閉塞したりするなどして、燃料電池特性の劣化の原因となる可能性がある。
【0009】
特許文献2では、カソード電極内での生成水の凝縮が発生するおそれがあり、水分により燃料電池の膜/電極接合体(Membrane Electrode Assembly、MEA)が劣化し、燃料電池特性の劣化が発生していた。また、セル電圧を所定の電圧まで下げるために、外部負荷との接続が必要であった。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、停止時におけるMEAの劣化を低減させることができる燃料電池制御システムおよび燃料電池停止方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明の第1の観点に係る燃料電池制御システムは、リン酸含浸塩基性ポリマーの電解質層と、該電解質層を挟み配置されたアノードおよびカソードを含む燃料電池スタックと、燃料ガスから水素ガスを含む改質ガスを生成するガス改質装置と、前記ガス改質装置で生成した改質ガスを前記燃料電池スタックの前記アノードへ供給する改質ガス供給路と、酸化剤ガスを前記燃料電池スタックの前記カソードへ供給する酸化剤ガス供給路と、前記燃料ガスを前記ガス改質装置を介さずに前記燃料電池スタックへ供給する燃料ガス供給路と、前記カソードへの前記酸化剤ガスの供給を停止して、前記燃料ガスを前記ガス改質装置を経由せずに前記カソードに供給するカソード供給切り替え機構と、前記アノードへの前記改質ガスの供給を停止して、前記燃料ガスを前記ガス改質装置を経由せずに、前記アノードへ供給するアノード供給切り替え機構と、前記燃料電池スタックから排出される、燃料ガスを含むガスを燃焼させるガス燃焼装置と、を備えることを特徴とする。
【0012】
所定の条件に適合した場合に、前記カソード供給切り替え機構および前記アノード供給切り替え機構を作動させて、前記カソードおよび前記アノードにそれぞれ前記燃料ガスを前記ガス改質装置を経由せずに供給する制御装置を備えることが好ましい。
【0013】
前記制御装置は、カソード供給路を切り替えたのち、所定の電圧以下になったときに、アノード供給路を切り替えることが好ましい。
【0014】
前記燃料ガスは天然ガスまたはプロパンガスであることがより好ましい。
【0015】
前記リン酸含浸塩基性ポリマーは、リン酸含浸ポリベンズイミダゾールであることがさらに好ましい。
【0016】
本発明の第2の観点に係る燃料電池停止方法は、リン酸含浸塩基性ポリマーの電解質層を有し、該電解質層を挟み配置されたアノードおよびカソードを含む燃料電池スタックと、該燃料電池スタックの該アノードへ供給する改質ガスを燃料ガスから生成するガス改質装置を備える燃料電池制御システムの燃料電池停止方法であって、前記燃料電池スタックの負荷を切り離す工程と、前記燃料電池スタックの前記カソードへの、酸化剤ガスの供給を停止する工程と、前記カソードへのガス供給路を切り替え、前記燃料電池スタックのカソードへ燃料ガスを供給する第1のパージ工程と、前記燃料電池スタックのアノードへの、前記ガス改質装置を経由させた燃料ガスの供給を停止する工程と、前記アノードへのガス供給路を切り替え、前記燃料電池スタックのアノードへ前記ガス改質装置を経由させずに前記燃料ガスを供給する第2のパージ工程と、を備えることを特徴とする。
【0017】
前記第1のパージ工程は、前記燃料電池スタックの電圧が所定の第1の電圧まで降下した後に行うことが好ましい。
【0018】
前記第2のパージ工程は、前記燃料電池スタックの電圧が所定の第2の電圧まで降下した後に行うことが好ましい。
【0019】
前記第1のパージ工程および前記第2のパージ工程で前記燃料電池スタックに供給した燃料ガスを、該燃料電池スタックから回収し燃焼する工程を備えることがより好ましい。
【0020】
前記リン酸含浸塩基性ポリマーは、リン酸含浸ポリベンズイミダゾールであることがさらに好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、停止時におけるMEAの劣化を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施の形態に係る燃料電池制御システムの一例を示す構成概略図である。
【図2】燃料電池スタックの一例を示す構成斜視図である。
【図3】燃料電池スタックの部分(セル)の一例を示す構成斜視図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る燃料電池制御システムの燃料電池停止動作の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して、本発明に係る燃料電池制御システムおよび燃料電池停止方法について詳細に説明する。なお、本明細書において「有する」、「含む」または「備える」といった表現は、「からなる」または「から構成される」という意も含むものとする。
【0024】
なお、本発明に係る燃料電池制御システムに用いる燃料ガスは、例えば都市ガス13A(または天然ガスもしくはプロパンガスを含むガス)を使用するものとする。
【0025】
本発明の実施の形態は、燃料電池制御システムに関する。図1は、本発明の実施の形態に係る燃料電池制御システムの一例を示す構成概略図である。
【0026】
運転中の燃料電池制御システム100は、本体である燃料電池スタック1のアノードへ水素を含む改質ガスが供給され、また、カソードへ酸素を含む酸化剤ガスが供給される。そして、アノードの水素とカソードの酸素によって、電解質膜を通して燃料電池スタック1に起電力が生じ、発電する仕組みである。
【0027】
本発明に係る実施の形態の燃料電池制御システムにおける燃料電池スタックの基本的な構成要素については、例えば、当該技術分野において公知の構成要素を用いることができる。先に、燃料電池スタック1の内部の詳細について図面を用いて説明する。
【0028】
図2は、燃料電池スタックの一例を示す構成斜視図である。燃料電池スタック1は、多数のセル11が積層されたような構造となっている。なお、理解しやすいよう、図2では燃料電池スタック1の周囲の囲いは図示していない。図3は、燃料電池スタックの部分(セル)の一例を示す構成斜視図である。図3に示すように、セル11は、膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly、MEA)12を、アノード側セパレータ13とカソード側セパレータ14とで挟んで貼り合わせたような構造となっている。
【0029】
アノード側セパレータ13およびカソード側セパレータ14には、図3に示すように、燃料ガス流路15および酸化剤ガス流路16が形成されている。膜電極接合体12は、リン酸を含浸したイオン伝導性を有する電解質膜21と、アノード触媒層22と、カソード触媒層23と、アノードガス拡散層24と、カソードガス拡散層25とから構成されている。
【0030】
電解質膜21は、リン酸を含浸する塩基性ポリマーであって、例えばリン酸含浸ポリベンズイミダゾールなどをいう。電解質膜21にリン酸含浸ポリベンズイミダゾールを用いることで、燃料電池制御システム100の運転温度を、摂氏120度ないし摂氏220度の範囲で運転することが可能となる。図2および図3に示す燃料電池スタック1およびセル11を構成する材料については、当該技術分野において公知である材料を用いることが可能である。なお、膜電極接合体12の電極部分には、アイオノマーとして、リン酸含浸塩基性ポリマーを含む。
【0031】
塩基性ポリマーとしては、当該技術分野にて一般に使用される、少なくとも一つの窒素原子を有するポリマー、特に主鎖および/または側鎖に一つの窒素原子を有するポリマーが挙げられる。このような塩基性ポリマーは、繰返し単位に少なくとも一つの窒素原子を有するポリマーであることが好ましく、繰返し単位に少なくとも一つの窒素原子を有する芳香環(特に5員環または6員環)を含有するポリマーであることがさらに好ましい。なお、1つの窒素原子を有する繰返し単位に加えて、窒素原子を有さない繰返し単位も含むコポリマーを使用することも可能である。
【0032】
具体的には、例えば、ポリベンズイミダゾール類、ポリ(ピリジン類)、ポリ(ピリミジン類)、ポリイミダゾール類、ポリベンゾチアゾール類、ポリベンゾオキサゾール類、ポリオキサジアゾール類、ポリキノリン類、ポリキノキサリン類、ポリチアジアゾール類、ポリ(テトラザピレン類)、ポリオキサゾール類、ポリチアゾール類、ポリビニルピリジン類またはポリビニルイミダゾール類等を挙げることができる。このうち最も好ましい塩基性ポリマーは、ポリベンズイミダゾール類である。
【0033】
また、図2および図3においては、理解しやすいよう、燃料ガス流路15および酸化剤ガス流路16がそれぞれ各セル11において直交に、かつ直線に流れる場合の斜視図を示しているが、蛇行流路(サーペンタイン)で流れる場合、改質ガスおよび酸化剤ガスがそれぞれ下から上へまたは上から下へ流れる場合、または、その逆に流れる場合等、どのような流路でも構わない。
【0034】
以下、図1を用いて、本発明に係る実施の形態の燃料電池制御システムの運転について、詳細に説明する。燃料電池制御システムにおける基本的な構成要素については、例えば、当該技術分野において公知の構成要素を用いることができる。
【0035】
燃料電池制御システム100は、燃料電池スタック1、インバータ2、燃料改質部3、燃焼部(バーナ)4、脱硫部5、測定部6および制御部7を備える。また、燃料電池制御システム100は、複数のポンプ(P1、P2、P3およびP4を総称してポンプPnとする)と、複数のバルブ(V1、V2、V3、V4、V5、V6および7を総称してバルブVnとする)と、上述の各機能部とポンプPnおよび/またはバルブVnを連通する流路(R1a、R1b、R2a、R2b、R3、R4、R5、R6、R7およびその他の供給路)を備える。
【0036】
制御部7は、ポンプPnおよびバルブVnを制御することにより、各機能部へ所定のガスや水の供給を制御し、また、各機能部を制御する。バルブVnを制御するとは、ポンプPnと各機能部を連通する流路にあるバルブVnの開閉を指す。
【0037】
燃料電池スタック1のアノードへのガス供給は、燃料改質部3から改質ガス供給路R1b、アノード用供給路R1aを連通する流路、脱硫部5から燃料ガス供給路R5、アノード用供給路R1aを連通する流路、のいずれかの流路を介して行われる。燃料電池制御システム100の運転時は、燃料電池スタック1のアノードへのガス供給は、燃料改質部3から改質ガス供給路R1b、アノード用供給路R1aを連通する流路を介して行う。具体的には、アノード供給切り替え機構である改質ガス用電磁弁V1を開け、アノード供給切り替え機構であるアノードガスパージ用電磁弁V5を閉じて行われる。
【0038】
また、燃料電池制御システム100の停止時において、燃料電池スタック1のアノードへのガス供給を、脱硫部5から燃料ガス供給路R5、アノード用供給路R1aを連通する流路を介して行う場合があり、詳細は後述する。具体的には、改質ガス用電磁弁V1を閉じ、アノードガスパージ用電磁弁V5を開けて行われる。アノード供給切り替え機構の改質ガス用電磁弁V1およびアノードガスパージ用電磁弁V5の開閉は、制御部7により制御される。
【0039】
燃料電池スタック1のカソードへのガス供給は、酸化剤ガス供給ブロワP1から酸化剤ガス供給路R2b、カソード用供給路R2aを連通する流路、脱硫部5から燃料ガス供給路R3、カソード用供給路R2aを連通する流路、のいずれかの流路を介して行われる。燃料電池制御システム100の運転時は、燃料電池スタック1のカソードへのガス供給を、酸化剤ガス供給ブロワP1から酸化剤ガス供給路R2b、カソード用供給路R2aを連通する流路を介して行う。具体的には、カソード供給切り替え機構である酸化剤ガス用電磁弁V2を開け、カソード供給切り替え機構であるカソードガスパージ用電磁弁V3を閉じて行われる。
【0040】
また、燃料電池制御システム100の停止時において、燃料電池スタック1のカソードへのガス供給を、脱硫部5から燃料ガス供給路R3、カソード用供給路R2aを連通する流路を行う場合があり、詳細は後述する。具体的には、酸化剤ガス用電磁弁V2を閉じ、カソードガスパージ用電磁弁V3を開けて行われる。カソード供給切り替え機構の酸化剤ガス用電磁弁V2およびカソードガスパージ用電磁弁V3の開閉は、制御部7により制御される。
【0041】
まず、制御部7の制御により、燃料ガス供給用電磁弁V4が開けられ、燃料ガスは、脱硫部5を通り、燃料ガス供給路R4を介して燃料改質部3へ送られる。また、水処理装置などで処理された改質水は、改質水供給ポンプP4を介して燃料改質部3へ送られる。そして、燃料改質部3は、燃料ガスと改質水とを反応させ改質させて、水素を主成分とする改質ガスを得る。
【0042】
制御部7は、改質ガス用電磁弁V1を開けることで、燃料改質部3で得た改質ガスを、改質ガス供給路R1bおよびアノード用供給路R1aを介して、燃料電池スタック1のアノードへ供給する。
【0043】
また、制御部7は、酸化剤ガス用電磁弁V2を開けることで、酸化剤ガス供給ブロワP1から酸化剤ガスを、酸化剤ガス供給路R2bおよびカソード用供給路R2aを介して、燃料電池スタック1のカソードへ供給する。酸化剤ガスは、例えば、空気などが用いられる。
【0044】
燃料電池スタック1内では、改質ガスと酸化剤ガスとが反応し改質ガスは消費され、燃料電池スタック1に起電力が生じ発電する。また、同時に熱も発生する。このとき燃料電池スタック1は、運転中、燃料電池スタック冷却ポンプP3を介して冷却水で冷却され、所定の温度に維持される。
【0045】
消費されなかった未反応の改質ガスは、カソード用排出路R6およびアノード用排出路R7を介して燃焼部4に送られ、オフガス燃焼空気供給ブロワP2を介して送られた空気によって燃焼部4で燃焼され、排気される。なお、燃料電池スタック1内で発生した電気は、インバータ2で直流電力から交流電力に電力変換される。また、燃料電池スタック1内で発生した熱は、燃焼部4でオフガスの燃焼時に発生した熱とまとめて、排熱回収ボイラなど(図示せず)で排気される前に回収し、利用してもよい。
【0046】
次に、燃料電池制御システム100の停止について、本発明にかかる動作を説明する。制御部7の燃料電池制御システム100の運転停止指示により、まずインバータ2を停止し、燃料電池スタック1との接続を遮断するとともに、燃料電池スタック1への負荷抵抗を解除する。そして、燃料電池スタック1のカソードへの酸化剤ガスの供給を止める。具体的には、制御部7により、酸化剤ガス供給ブロワP1が停止され、また、酸化剤ガス用電磁弁V2が閉じられる。酸化剤ガス用電磁弁V2を閉じることで、酸化剤ガス供給ブロワP1から燃料電池スタック1のカソードへ連通する流路が遮断される。
【0047】
次に、制御部7により、カソードガスパージ用電磁弁V3が開けられ、燃料電池スタック1のカソードへの、脱硫部5から燃料ガス供給路R3とカソード用供給路R2aとの流路が連通する。そして、脱硫部5で脱硫された燃料ガスが燃料電池スタック1のカソードへ供給され、燃料電池スタック1のカソードから酸化剤ガスをパージする。
【0048】
燃料電池スタック1のカソード側をパージするために用いられた燃料ガスは、パージされた酸化剤ガスと共に、カソード用排出路R6を介して、燃焼部4へ送られ、燃焼部4で燃焼される。なお、燃料電池スタック1のカソードから酸化剤ガスをパージし終えた後に、カソード側排出用電磁弁V6を閉じ、燃料ガスの供給を停止することで、燃料電池スタック1のカソードは燃料ガスで充填した状態で封止することができる。
【0049】
なお、燃料電池スタック1のカソードへ脱硫部5から燃料ガスを供給する際に、すなわち脱硫部5から燃料ガス供給路R3、カソード用供給路R2aを通してカソードへ燃料ガスを供給する際に、水分除去などを施し、よりドライ状態の燃料ガスを供給してもよい。燃料ガスをよりドライの状態にしておくことで、燃料電池スタック1の劣化のおそれをさらに低減することができる。例えば、脱硫部5とカソードガスパージ用電磁弁V3の間の燃料ガス供給路R3に、除湿乾燥機などを備える。
【0050】
燃料電池スタック1は、燃料電池スタック1のカソードへの酸化剤ガスの供給を止められ、発電が生じにくくなり、徐々に電圧降下が起こる。このとき燃料電池スタック1の電圧は、測定部6で測定され、制御部7へ測圧結果が送られる。
【0051】
燃料電池スタック1の電圧が、所定の電圧Vxより小さい電圧である電圧Vx1になったときに、制御部7は、改質ガス用電磁弁V1を閉じ、アノードガスパージ用電磁弁V5を開け、流路の切り替えを行う。すなわち、燃料改質部3、改質ガス供給路R1b、アノード用供給路R1aを介して燃料電池スタック1のアノードへ連通する流路から、脱硫部5、燃料ガス供給路R5、アノード用供給路R1aを介して燃料電池スタック1のアノードへ連通する流路へ、流路が切り替わる。このとき、燃料電池スタック1のアノードへ供給するガスを、改質ガスから燃料ガスへ切り替える際に、燃料改質部3を停止し、改質水供給ポンプP4を停止しておく。
【0052】
その結果、燃料電池スタック1のアノードへ供給する燃料ガスが、燃料改質部3を介していた改質ガスから、燃料改質部3を介さない燃料ガスへ変更され、改質ガスをパージすることができる。燃料電池スタック1のアノード側をパージするために用いられた燃料ガスは、パージされた改質ガスと共に、アノード用排出路R7を介して、燃焼部4へ送られ、燃焼部4で燃焼される。なお、燃料電池スタック1のアノードから改質ガスをパージし終えた後に、アノード側排出用電磁弁V7を閉じ、燃料ガスの供給を停止することで、燃料電池スタック1のアノードは燃料ガスで充填した状態で封止することができる。
【0053】
なお、燃料電池スタック1のアノードへ脱硫部5から燃料改質部3を介さずに燃料ガスを供給する際に、すなわち脱硫部5から燃料ガス供給路R5、アノード用供給路R1aを通してアノードへ燃料ガスを供給する際に、水分除去などを施し、よりドライ状態の燃料ガスを供給してもよい。燃料ガスをよりドライの状態にしておくことで、リン酸の溶出をより抑えることができ、燃料電池スタック1の劣化のおそれをさらに低減することができる。例えば、脱硫部5とアノードガスパージ用電磁弁V5の間の燃料ガス供給路R5に、除湿乾燥機などを備える。
【0054】
燃料電池スタック1は、燃料電池スタック1のカソードへの酸化剤ガスの供給だけでなく、アノードへの改質ガスの供給も止められ、さらに電圧降下が生じる。電圧Vx1から所定の電圧Vyより小さい電圧Vy1になったときに、燃料電池制御システム100を完全に停止する。具体的には、制御部7は、開いた状態にあるバルブ、すなわちカソードガスパージ用電磁弁V3、燃料ガス供給用電磁弁V4、アノードガスパージ用電磁弁を全て閉じる。また、燃料電池スタック1の冷却を行っている燃料電池スタック冷却ポンプP3を停止し、燃料電池制御システム100の停止動作を完了する。なお、一例として、所定の電圧である電圧Vxは0.8V、所定の電圧である電圧Vyは0.5Vとする。
【0055】
燃料電池制御システム100の停止において、上述したように、パージに用いるガスは、燃料ガスを脱硫部5で脱硫したガスを使用している。パージに用いるガスは、燃料の改質ガスの原料として利用する燃料ガスと兼用でき、かつ、燃焼などの前処理をせずに済む。特に、燃料電池制御システム100の燃料電池スタック1は、PBI−リン酸形燃料電池を用いているので、燃料ガスをドライの状態のまま利用することができ、水蒸気による燃料電池スタックの劣化を防止することができる。
【0056】
また、パージに用いるガスは、前処理を行わずに済むので、燃焼の空気調整などの必要がなく容易に準備することができ、また、ガス中に水蒸気が含まれることがなく燃料電池スタック1の劣化を引き起こす要因を低減でき、不具合の発生を低減できる。さらに、パージに用いた後のガス、すなわちクリーニングガスは、燃料電池の運転時におけるガスと同じ原料から成り、回収後に燃焼して処理することができ、燃料電池スタック1および燃料電池制御システム100へ与える影響を低減できる。
【0057】
また、燃料電池制御システム100の停止において、上述したように、燃料電池スタック1のアノード側およびカソード側と連通する流路は、燃料電池の運転を停止し、アノード側およびカソード側での水素および酸素の消費が充分に落ち着いてから、バルブの開閉により燃料電池スタック1への流路を塞ぐので、燃料電池スタック1の内圧の減圧により発生するMEAの劣化を低減することができる。
【0058】
以下、本実施の形態に係る燃料電池制御システム100の燃料電池停止動作の一例について、フローチャートを用いて詳細に説明する。図4は、本実施の形態に係る燃料電池制御システムの燃料電池停止動作の一例を示すフローチャートである。図4に示すように、燃料電池制御システム100の停止動作は、まず、インバータ2を停止し、燃料電池スタック1との接続を解除し、燃料電池スタック1への負荷抵抗を停止する。(ステップS11)。そして、燃料電池スタック1へ酸化剤ガスの供給を止め、すなわち酸化剤ガス供給ブロワP1を停止し、酸化剤ガス用電磁弁V2を閉じる(ステップS12)。
【0059】
そして、脱硫部5と燃料電池スタック1の間にあるカソードガスパージ用電磁弁V3を開ける(ステップS13)。ステップS12で酸化剤ガス用電磁弁V2を閉じ、ステップ
13でカソードガスパージ用電磁弁V3を開けることで、燃料電池スタック1のカソードへ連通する流路が、酸化剤ガス供給路R2bおよびカソード用供給路R2aの連通した流路から燃料ガス供給路R3、カソード用供給路R2aの連通した流路へと切り替えられる。すなわち、カソード酸化剤ガス供給ブロワP1から供給していた酸化剤ガスの供給が停止され、脱硫部5から燃料ガスが供給され、燃料電池スタック1内部の酸化剤ガスをパージする。なお、制御部7の制御により、酸化剤ガス用電磁弁V2の閉じる動作、カソードガスパージ用電磁弁V3を開ける動作が行われる。
【0060】
電池スタック1のカソードへ燃料ガスを供給することにより、電池スタック1のカソードに残存している酸化剤ガスがパージされる。このとき、電池スタック1のスタックセル電圧は、一度は電圧が立ち上がるが、徐々に電圧降下が生じる。電池スタック1のスタックセル電圧の平均値Vx1が所定の電圧Vxより小さくなったときに(ステップS14;YES)、電池スタック1のアノードに残存している改質ガスのパージを開始するため、ステップS15を行う。電池スタック1のスタックセル電圧の平均値Vx1が所定の電圧Vxより大きい場合は(ステップS14;NO)、所定の電圧Vxより小さくなるまで酸化剤ガスのパージ(ステップS13)を続けておく。
【0061】
制御部7は、改質ガス用電磁弁V1を閉じ、アノードガスパージ用電磁弁V5を開ける(ステップS15)。具体的には、燃料改質部3、改質ガス供給路R1b、アノード用供給路R1aを介して燃料電池スタック1のアノードへ連通する流路から、脱硫部5、燃料ガス供給路R5、アノード用供給路R1aを介して燃料電池スタック1のアノードへ連通する流路へ、流路の切り替えが行われる。このステップS15の動作により、燃料電池スタック1のアノードへのガスの供給が、改質ガスから燃料ガスへと切り替えられ、燃料電池スタック1内部の改質ガスをパージする。
【0062】
なお、燃料電池スタック1のアノードへのガスの供給が改質ガスから燃料ガスへ切り替えられ、燃料改質部3から改質ガスの供給を停止するに伴い、制御部7は、改質水供給ポンプP4を停止する(ステップS16)。
【0063】
電池スタック1のアノードへ燃料ガスを供給することにより、電池スタック1のアノードに残存している改質ガスがパージされ、電池スタック1のスタックセル電圧は、さらに電圧降下が生じる。電池スタック1のスタックセル電圧の平均値Vy1が所定の電圧Vyより小さくなれば(ステップS17;YES)、 燃料電池制御システム100を劣化のおそれを充分に低減できるので、燃料電池制御システム100の停止動作に取りかかる。電池スタック1のスタックセル電圧の平均値Vy1が所定の電圧Vyより大きい場合は(ステップS17;NO)、所定の電圧Vyより小さくなるまで改質ガスのパージを続けておく。
【0064】
制御部7は、まず、電池スタック1のカソード側の酸化剤ガスが燃料ガスにより充分にパージされ、かつ、電池スタック1のアノード側の改質ガスが燃料ガスにより充分にパージされた状態で、カソード側排出用電磁弁V6およびアノード側排出用電磁弁V7を閉じる(ステップS18)。制御部7は、続けて、開いた状態にあるバルブ、すなわちカソードガスパージ用電磁弁V3、燃料ガス供給用電磁弁V4、アノードガスパージ用電磁弁を全て閉じる(ステップS19)。なお、ステップS18およびステップS19を行うことで、電池スタック1内部に燃料ガスを充填した状態で封止することができる。
【0065】
そして、燃料電池スタック1の冷却を行っている燃料電池スタック冷却ポンプP3を停止し(ステップS20)、燃料電池制御システム100の停止動作を終了する。
【0066】
以上説明したように、本発明の実施の形態に係る燃料電池制御システムおよび燃料電池停止方法によれば、停止時におけるMEAの劣化を低減させることができる。
【0067】
燃料ガスをパージガスとして利用することができ、容易に、燃料電池スタックおよび燃料電池制御システムへ与える影響を低減することができる。パージガスとして利用する際に、燃焼などの前処理が不要で容易であり、燃焼ガスで発生する水蒸気による燃料電池スタックの劣化や、不完全燃焼時における燃料電池制御システムへの不具合のおそれが低減する。
【0068】
特に、燃料電池制御システムは、PBI−リン酸形燃料電池を用いているので、燃料ガスをドライの状態のまま利用することができ、水蒸気による燃料電池スタックの劣化を防止することができる。さらに、回収したパージガス、すなわちクリーニングガスの処理も燃焼するのみで処理が容易であり、燃料ガスと同じ成分であるため、燃料電池制御システムに不具合が発生するおそれがなくなる。
【0069】
また、燃料電池制御システムの停止において、燃料電池の運転を停止し、燃料電池スタックのアノード側およびカソード側と連通する流路を閉じるので、燃料電池スタックのアノード側およびカソード側での水素および酸素の消費が充分に落ち着いた状態となり、燃料電池スタックの内部の減圧により発生するMEAの劣化を低減することができる。
【符号の説明】
【0070】
1 燃料電池スタック
2 インバータ(負荷)
3 燃料改質部(ガス改質装置)
4 燃焼部(バーナ)(ガス燃焼装置)
5 脱硫部
6 測定部
7 制御部
100 燃料電池制御システム
V1 改質ガス用電磁弁(アノード供給切り替え機構)
V2 酸化剤ガス用電磁弁(カソード供給切り替え機構)
V3 カソードガスパージ用電磁弁(カソード供給切り替え機構)
V5 アノードガスパージ用電磁弁(アノード供給切り替え機構)
R1a アノード用供給路
R1b 改質ガス供給路
R2a カソード用供給路
R2b 酸化剤ガス供給路
R3、R5 燃料ガス供給路


【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸含浸塩基性ポリマーの電解質層と、該電解質層を挟み配置されたアノードおよびカソードを含む燃料電池スタックと、
燃料ガスから水素ガスを含む改質ガスを生成するガス改質装置と、
前記ガス改質装置で生成した改質ガスを前記燃料電池スタックの前記アノードへ供給する改質ガス供給路と、
酸化剤ガスを前記燃料電池スタックの前記カソードへ供給する酸化剤ガス供給路と、
前記燃料ガスを前記ガス改質装置を介さずに前記燃料電池スタックへ供給する燃料ガス供給路と、
前記カソードへの前記酸化剤ガスの供給を停止して、前記燃料ガスを前記ガス改質装置を経由せずに前記カソードに供給するカソード供給切り替え機構と、
前記アノードへの前記改質ガスの供給を停止して、前記燃料ガスを前記ガス改質装置を経由せずに、前記アノードへ供給するアノード供給切り替え機構と、
前記燃料電池スタックから排出される、燃料ガスを含むガスを燃焼させるガス燃焼装置と、
を備えることを特徴とする燃料電池制御システム。
【請求項2】
所定の条件に適合した場合に、前記カソード供給切り替え機構および前記アノード供給切り替え機構を作動させて、前記カソードおよび前記アノードにそれぞれ前記燃料ガスを前記ガス改質装置を経由せずに供給する制御装置を備えることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池制御システム。
【請求項3】
前記制御装置は、カソード供給路を切り替えたのち、所定の電圧以下になったときに、アノード供給路を切り替えることを特徴とする請求項2に記載の燃料電池制御システム。
【請求項4】
前記燃料ガスは天然ガスまたはプロパンガスであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の燃料電池制御システム。
【請求項5】
前記リン酸含浸塩基性ポリマーは、リン酸含浸ポリベンズイミダゾールであることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の燃料電池制御システム。
【請求項6】
リン酸含浸塩基性ポリマーの電解質層を有し、該電解質層を挟み配置されたアノードおよびカソードを含む燃料電池スタックと、該燃料電池スタックの該アノードへ供給する改質ガスを燃料ガスから生成するガス改質装置を備える燃料電池制御システムの燃料電池停止方法であって、
前記燃料電池スタックの負荷を切り離す工程と、
前記燃料電池スタックの前記カソードへの、酸化剤ガスの供給を停止する工程と、
前記カソードへのガス供給路を切り替え、前記燃料電池スタックのカソードへ燃料ガスを供給する第1のパージ工程と、
前記燃料電池スタックのアノードへの、前記ガス改質装置を経由させた燃料ガスの供給を停止する工程と、
前記アノードへのガス供給路を切り替え、前記燃料電池スタックのアノードへ前記ガス改質装置を経由させずに前記燃料ガスを供給する第2のパージ工程と、
を備えることを特徴とする燃料電池停止方法。
【請求項7】
前記第1のパージ工程は、前記燃料電池スタックの電圧が所定の第1の電圧まで降下した後に行うことを特徴とする請求項6に記載の燃料電池停止方法。
【請求項8】
前記第2のパージ工程は、前記燃料電池スタックの電圧が所定の第2の電圧まで降下した後に行うことを特徴とする請求項6または7に記載の燃料電池停止方法。
【請求項9】
前記第1のパージ工程および前記第2のパージ工程で前記燃料電池スタックに供給した燃料ガスを、該燃料電池スタックから回収し燃焼する工程を備えることを特徴とする請求項6ないし8のいずれか1項に記載の燃料電池停止方法。
【請求項10】
前記リン酸含浸塩基性ポリマーは、リン酸含浸ポリベンズイミダゾールであることを特徴とする請求項6ないし9のいずれか1項に記載の燃料電池停止方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−174553(P2012−174553A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−36449(P2011−36449)
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】