説明

燃料電池反応分析装置及び燃料電池運転状態監視装置

【課題】本発明は、燃料のアノード酸化反応を迅速に分析することが可能な燃料電池反応分析装置及び燃料電池の運転状態を迅速に監視することが可能な燃料電池運転状態監視装置を提供することを目的とする。
【解決手段】燃料電池反応分析装置は、アノード43における燃料の酸化反応を分析し、アノード43の近傍又は表面に設けられ、気体及び液体の成分を導入するプローブ46と、プローブ46から導入された成分を分析する質量分析装置47と、質量分析装置47の内部を排気する差動排気装置と、プローブ46から導入された成分を質量分析装置47に輸送する配管を少なくとも有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池反応分析装置及び燃料電池運転状態監視装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水素ガスを燃料とする燃料電池は、一般に、高い出力密度が得られ、特に、水素燃料を用いた固体高分子電解質型燃料電池(PEFC)は、電気自動車等の高速移動体の電源あるいは分散型電源として期待されている。
【0003】
一般に、水素を燃料とする固体高分子電解質型燃料電池では、アノード(燃料極)及びカソード(酸素極)の二つの電極と、これらに挟まれた固体高分子電解質膜(PEM)からなる膜電極接合体(MEA)が形成され、これをセルユニットとして複数積層し、スタックとした構成をとっている。セルユニットのアノードには、水素を、カソードには、酸化剤として、酸素又は空気を供給し、それぞれの電極で生じる酸化反応あるいは還元反応によって起電力が得られる。
【0004】
電極における電気化学反応を活性化するために、電極には殆どの場合、白金触媒が使用され、アノードで発生したプロトン(水素イオン)が、固体高分子電解質膜を介して、カソードまで伝導し、発電がなされる。上記の水素を燃料とする固体高分子電解質型燃料電池は、水素燃料の貯蔵や運搬、燃料供給の方法等に、解決すべき課題が多く、特に、小型携帯機器等の電子機器用電源を目的としたパーソナル用途に不向きであることが一般に認識されている。これらの課題を解決し、特に、小型で軽量の燃料電池を実現する技術として、有機液体燃料を直接酸化して発電を行う燃料電池が最近注目されている。その一つの形態である直接アルコール型燃料電池(DAFC)は、固体高分子電解質型燃料電池と同様の発電セル構成で、燃料として、アルコールをアノードに直接供給し、アノード酸化反応を行う燃料電池である。メタノール水溶液を用いて発電する直接メタノール型燃料電池(DMFC)は、水素を用いて発電する燃料電池や燃料を改質して水素を得て燃料とする燃料電池よりも小型、軽量であり、安全性に優れているため、携帯型電子機器等の電源としての期待が大きい。しかしながら、直接メタノール型燃料電池は、メタノールのアノード酸化反応の過電圧が大きいという問題がある。なお、水素を用いて発電する水素燃料電池では、カソードにおける酸素の還元反応の過電圧が大きいが、DMFCでは、これ以上にアノードにおけるメタノールの酸化反応の過電圧が大きい。
【0005】
ところで、メタノールやエタノールのアノード酸化には、白金触媒が好適であることが知られているが、白金とルテニウムの合金がさらに好適であることも知られている(非特許文献1参照)。しかしながら、白金とルテニウムの合金をアノードに使用しても、メタノール、エタノール等のアルコール燃料のアノード酸化において、十分ではない。
【0006】
このため、直接メタノール型燃料電池と同等以上の出力特性を有する電極触媒の開発が望まれている。このため、直接アルコール型燃料電池のアルコールアノード酸化反応のメカニズムは、従来から研究がなされ、有効な触媒の開発を目的として、多くの検討がなされている(非特許文献2〜5参照)。しかしながら、触媒を構成する元素の組み合わせでは、実用的な性能を有するアルコールの酸化触媒、特に、炭素数が2のエタノール、炭素数が3のイソプロピルアルコール(2−プロパノ−ル)等のエネルギー密度が大きいアルコール燃料の酸化触媒については、実現できていない。この理由として、アルコールのアノード酸化反応のメカニズムの解明が一部の理解に止まること、定説が確立されていないこと、すなわち、アノード酸化反応のメカニズムが詳しく理解されていないこと挙げられる。また、高活性な触媒を構成する元素系の組み合わせを実現する多元系触媒の最適な作製方法が未確立であることが挙げられる。
【0007】
燃料電池の電極反応は、アノードの反応と、カソードの反応からなる。カソードの反応は、酸素の還元反応であり、燃料電池の適切な発電特性を得るためには、アノードにおける酸化反応の過電圧が小さく、アノードの反応が全反応の律速とならないことが望まれる。このとき、アルコール又はアルコール水溶液を用いた場合のアノードの反応は、触媒金属と水素のような表面反応では説明できない複雑な反応である。
【0008】
この点に関しては、非特許文献4及び5に、代表的な知見が提示されているが、当業者によっても定説が定まっていない。直接メタノール型燃料電池(DMFC)では、メタノールの酸化が律速となる理由は、多様に推測されている反応活性を低下させる阻害要因の中でも、アノード酸化の過程で発生する一酸化炭素(CO)が電極に吸着し、白金を主とする電極触媒を被毒するためとされている。この問題を解決するために、様々な電極触媒が検討されている。中でも、Pt−Ru合金を使用した場合、CO被毒が低減することが知られているが、この場合も、アノードの反応がカソードの反応に比較して律速となっている。このとき、非特許文献2〜5でも、メタノールのアノード酸化反応は、詳細に解析されていないのが現状であるが、白金−ルテニウム触媒を用いた場合、以下のようになると考えられている。直接メタノール型燃料電池では、アノードにおいて、
CHOH+HO→6H+6e+CO
の反応が生じ、その際、
CHOH+xPt→PtCHOH+H+e
CHOH+xPt→PtCHOH+H+e
CHOH+xPt→PtCOH+H+e
CHOH+xPt→PtCO+2H+2e
PtCHOH+PtOH→HCOOH+H+e+xPt
等の反応が生じると考えられている。このとき、COH(又はHCO)、COは、白金に対する強い吸着種となり、ルテニウムは、以下の作用を及ぼすと考えられる。
【0009】
Ru+HO→RuOH+H+e
PtCOH+RuOH→CO+2H+2e+xPt+Ru
PtCO+RuOH→CO+H+e+xPt+Ru
一方、カソードでは、
+4H+4e→2H
の反応が生じると考えられる。
【0010】
炭素数が1のメタノールでさえ、上記のように推測される複雑な反応が生じるため、その他のアルコール、例えば、炭素数が2のエタノールにおけるアノード酸化反応は、さらに複雑である。例えば、非特許文献3の800〜802ページに詳述されていることは、当業者であれば容易に理解できるものである。
【0011】
一方、エタノールのアノード酸化反応は、
OH+3HO→12H+12e+2CO
と表され、白金に対する強い吸着種であり、いわゆる被毒の原因となる、−COH、CO、−COOH、−CH等は、エタノールのアノード酸化反応で生成する解離種や中間生成物、例えば、CHCHOH、CHCHO、CHCOOH等から容易に形成されると考えられる。
【0012】
このように、燃料電池、特に、アルコール燃料を直接アノード酸化する直接アルコール型燃料電池については、発電反応の根幹を成す電極反応、すなわち、アノード及びカソードの反応が詳しくわかっていないため、高活性な触媒を開発する場合に、触媒設計の指導的原理等の基本的な考え方が得られず、トライアンドエラーの開発方式に頼らざるを得ないという問題がある。複数の炭素を有するエタノール等のアルコールのアノード酸化反応は、メタノールよりも中間反応がさらに複雑である。例えば、エタノールのアノード酸化を阻害する要因が中間生成物、副生成物の多さ、複雑さであることは当業者でも容易に理解されているものの、どのようなことが定量的に起こっているかは理解されていない。
【0013】
非特許文献6には、アノード酸化反応を調べる方法として、メタノールのアノード酸化を例に、質量分析法を用いたDEMS手法(Differential Electrochemical Mass Spectroscopy)が開示されている。しかしながら、この方法は、電極基板に特定の方法で固定した触媒のハーフセル(半電池)のアノード酸化反応を調べることができるが、触媒固定(担持)の様々な形態に対応できないという問題がある。
【0014】
特許文献1には、質量分析法を用いた燃料電池の分析が開示されている。しかしながら、この方法は、大気圧イオン化法を用いており、微量不純物の分析には適するが、分析装置が複雑で大型になるという問題がある。さらに、発電セルの分析に適用することができるが、ハーフセルや膜電極接合体(MEA)の特性分析に適さない。
【0015】
特許文献2には、DEMS手法の記述はあるが、開示データが無く、非特許文献6と同様に、ハーフセルのアノード酸化への適用に限定されている。
【特許文献1】特開2004−157057号公報
【特許文献2】特表2006−501983号公報
【非特許文献1】Souza et al,Journal of Electroanalytical Chemistry,420(1997),17−20,Performance of a co−electrodeposited Pt−Ru electrode for the electro−oxidation of a ethanol studied by in situ FTIR spectroscopy
【非特許文献2】Lamy et al,Journal of Power Sources,105(2002)283−296,Recent advances in the development of direct alcohol fuel cells(DAFC)
【非特許文献3】Lamy et al,Journal of Applied Electrochemistry,31,799−809(2001),Electrocatalytic oxidation of aliphatic alcohols:Application to the direct alcohol fuel cell(DAFC)
【非特許文献4】Zhu et al,Langmuir 2001,17,146−154,Attenuated Total Reflection−Fourier Transform Infrared Study of Methanol Oxidation on Sputtered Pt Film Electrode
【非特許文献5】Wasmas et al,Journal of Electroanalytical Chemistry 461(1999),14−31,Methanol oxidation and direct methanol fuel cells:a selective review
【非特許文献6】T.Iwashita;Handbook of Fuel Cells−Fundamentals,Technology and applications;Volume2:electrocatalysis;John Wiley & Sons,Ltd.(2003),ISBN:0−471−49926−9;Chapter 41 “Methanol and CO electrooxidation”,603−624
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、上記の従来技術では、液中や液体を含む物体中に残存又は溶存する揮発成分を、シリンジ等を用いて取り出した後に、分析装置で分析することにより特定(同定)するため、燃料電池の電極反応に関係する分析を迅速に実施することができない。すなわち、アノード酸化反応や燃料電池の発電セル中の反応分析を迅速に実施することができず、その結果、適切な触媒設計やセル設計の試験や効率的な開発を実施することができない。さらに、燃料電池の発電特性を向上させるために、電極反応に重要な役割を果たす触媒等の反応性表面の形態に関わらず、ハーフセル(半電池)、膜電極接合体(MEA)、発電セル及び発電システムにおける各段階の電極反応において、反応に関わる物質を検出し、最適な設計に導くための汎用性の高い分析装置が得られていない。特に、直接アルコール型燃料電池では、溶液中の反応が非常に複雑であるため、反応分析が必須の要件となる。また、燃料電池の燃料の入口及び出口でのマスバランス、燃料や酸化剤の散逸(漏れ)、燃料のクロスオーバー量、電極反応の化学量論的状態を把握することにより、発電状態、発電性能、発電効率等の燃料電池の運転状態を迅速に監視する装置が得られていない。
【0017】
本発明は、上記の従来技術が有する問題に鑑み、燃料のアノード酸化反応を迅速に分析することが可能な燃料電池反応分析装置及び燃料電池の運転状態を迅速に監視することが可能な燃料電池運転状態監視装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
請求項1に記載の発明は、アノードにおける燃料の酸化反応を分析する燃料電池反応分析装置において、該アノードの近傍又は表面に設けられ、気体及び液体の成分を導入するプローブと、該プローブから導入された成分を分析する質量分析装置と、該質量分析装置の内部を排気する差動排気システムと、該プローブから導入された成分を該質量分析装置に輸送する配管を少なくとも有することを特徴とする。
【0019】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の燃料電池反応分析装置において、前記プローブは、多孔性高分子膜を具備することを特徴とする。
【0020】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の燃料電池反応分析装置において、前記質量分析装置の分析動作と測定動作を同期させることが可能な電気化学測定装置をさらに有することを特徴とする。
【0021】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の燃料電池反応分析装置において、前記燃料は、一種以上のアルコールを含有することを特徴とする。
【0022】
請求項5に記載の発明は、アノードに供給する燃料を導入する燃料導入部、アノードに供給した燃料を排出する燃料排出部、カソードに供給する酸化剤を導入する酸化剤導入部及びカソードに供給した酸化剤を排出する酸化剤排出部を有する燃料電池の運転状態を監視する燃料電池運転状態監視装置において、該燃料導入部内、燃料排出部内、酸化剤導入部内及び酸化剤排出部内の少なくとも一つに設けられ、気体及び液体の成分を導入するプローブと、該プローブから導入された成分を分析する質量分析装置と、該質量分析装置の内部を排気する差動排気システムと、該プローブから導入された成分を該質量分析装置に輸送する配管を少なくとも有することを特徴とする。
【0023】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の燃料電池運転状態監視装置において、前記プローブは、多孔性高分子膜を具備することを特徴とする。
【0024】
請求項7に記載の発明は、請求項5又は6に記載の燃料電池運転状態監視装置において、前記燃料は、一種以上のアルコールを含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、燃料のアノード酸化反応を迅速に分析することが可能な燃料電池反応分析装置及び燃料電池の運転状態を迅速に監視することが可能な燃料電池運転状態監視装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
次に、本発明を実施するための最良の形態を図面と共に説明する。
【0027】
まず、本発明で用いられる燃料電池の構造について述べる。
【0028】
図1に、一般的な固体高分子電解質型燃料電池の単一構成要素を構成する単セル構造を示す。図1に示す燃料電池は、筐体1a及び1bの間に電解質膜2が設けられており、さらに、筺体1a及び1bの間には、電解質膜2を挟持するようにアノード3(燃料極)とカソード4(空気極)が設けられている。さらに、アノード3及びカソード4の外側には、燃料供給部5及び酸化剤供給部6がそれぞれ設けられている。燃料としては、水素ガス、改質ガス燃料等を用いることができ、酸化剤としては、空気、酸素、過酸化水素等を用いることができる。
【0029】
電解質膜2は、アニオン又はカチオンのいずれのイオン伝導タイプでも使用できるが、プロトン伝導タイプのものが好適に使用される。電解質膜2としては、パーフルオロアルキルスルホン酸ポリマー等の高分子膜等の公知の材料を使用することができる。
【0030】
アノード3及びカソード4としては、白金や白金を主成分とする合金触媒が塗布された多孔質カーボンペーパーを用いることができるが、導電性を有する多孔質材料で、燃料や酸化剤の拡散を阻害するものでなければ、多孔質カーボンペーパー以外の材料を使用することもできる。膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly;MEA)は、アノード3とカソード4の間に電解質膜2を介在させて挟持すること又はホットプレス、キャスト製膜等によって三者を接合することにより、形成することができる。多孔質カーボンペーパーには、必要に応じて、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の撥水剤を添加又は積層することもできる。
【0031】
燃料供給部5の下方には、燃料を導入するための燃料導入部21が設けられており、上方には、未反応の燃料、水を排出するための燃料排出部22が設けられている。このとき、強制吸気手段及び/又は強制排気手段を付設してもよい。
【0032】
酸化剤供給部6の上方には、酸化剤を導入するための酸化剤導入部23が設けられており、下方には、未反応の酸化剤と生成物(多くの場合は、水)を排出するための酸化剤排出部24が設けられている。このとき、強制吸気手段及び/又は強制排気手段を付設してもよい。また、筐体1aに、空気の自然対流口を設けてもよい。
【0033】
図2に、直接アルコール型燃料電池の単セル構造を示す。なお、図2において、図1と同一の構成については、同一の参照符号を付して、説明を省略する。図2に示す燃料電池は、図1と同様な構成を有するが、アノード3の代わりに、アルコール酸化用の電極触媒を有するアノード3Aが用いられている。この電極触媒は、単結晶、多結晶、非晶質のいずれであってもよく、さらには、各元素が合金化された構造や微粒子クラスターの集合体であってもよい。この電極触媒は、単独でアノード3Aとして使用することもできるが、導電性支持体上に担持させて、電極触媒構造体として使用することもできる。導電性支持体としては、金、白金、ステンレス、ニッケル等の金属薄膜、メッシュ状あるいはスポンジ状の金属膜、導電性材料、カーボン微粒体(微粉体)、酸化チタン、シリカ、酸化スズ等の導電性粒子が挙げられる。
【0034】
電極触媒構造体の形成方法としては、スパッタリング法、真空蒸着法、ガス中蒸発法等のスパッタリング法以外のPVD(Physical Vapor Deposition)法、熱CVD等のCVD(Chemical Vapor Deposition)法等の気相合成法(真空薄膜作製法とほぼ同義)を適用することができるが、これらの他に、電解めっき、無電解めっき、含浸法等の公知の化学的又は電気化学的方法を適用することもできる。
【0035】
カソード4は、白金を担持したカーボン粒子をイオン伝導性材料と共によく混合したものを、電解質膜2に当接させることにより形成することができる。このとき、イオン伝導性材料は、電解質膜2と同じ材料であることが好ましい。カソード4を電解質膜2に当接させる方法としては、ホットプレス、キャスト製膜等の方法を使用することができる。なお、カソード4としては、貴金属又はこれを担持したものや、有機金属錯体又はこれを焼成したもの等を使用してもよい。
【0036】
燃料供給部5は、アルコール燃料を収納する燃料収納部であってもよく、外部に設けられたアルコール燃料を収納する燃料収納部に連通していてもよい。アルコール燃料は、自然対流及び/又は強制対流により攪拌されるが、必要に応じて、強制対流手段を付設してもよい。
【0037】
燃料供給部5の下方には、アルコール燃料を導入するための燃料導入部21が設けられており、上方には、未反応の燃料、水、二酸化炭素を排出するための燃料排出部22が設けられている。このとき、強制吸気手段及び/又は強制排気手段を付設してもよい。
【0038】
アルコール燃料は、アルコール単独又はアルコールと水の混合液であることが好ましいが、一般に、有機液体燃料として多量に販売されているメタノール、エタノール、イソプロパノール等が用いられている。これらを水との混合物として用いると、クロスオーバーを効果的に抑制することができ、さらに良好なセル起電圧と出力を得ることができる。
【0039】
図1及び図2に示す燃料電池は、単セルであるが、本発明においては、単セルを使用してもよいし、複数の単セルを直列接続及び/又は並列接続した実装燃料電池を使用してもよい。複数の単セルを接続する際には、膨張黒鉛に流体通路の溝加工を施したバイポーラプレート、膨張黒鉛等の炭素材料と耐熱性樹脂の混合物を成形したバイポーラプレート、ステンレス基材等の金属板に耐酸化性被膜及び導電性被膜を施したバイポーラプレート等のバイポーラプレートを使用した接続方式を採用してもよいし、平面接続方式を採用してもよい。さらに、その他の公知の接続方式を採用してもよい。
【0040】
図3に、本発明の燃料電池反応分析装置の一例を示す。溶液中の電極反応の反応系30には、溶存した揮発成分や電極反応によって生成する生成物が内包されており、これらを検出するために、プローブ31aが反応系30中に設置されている。電極反応を電解質溶液中で行う場合には、電解質溶液は、通常、酸性又はアルカリ性であるが、これらに対する耐性を確保するために、プローブ31aは、フッ素樹脂等の耐酸性、耐アルカリ性の材料で構成されていることが好ましい。プローブ31aは、図3(b)に示すように、フッ素樹脂で表面が被覆されたOリング31c(バイトン製)によりシールされており、アノード31bの表面に設けられている。プローブ31aとしては、反応系30から溶存した揮発成分や電極反応の生成物を取り込みやすい反面、水分を通しにくくする機能、いわゆる気液分離の作用を有する多孔性高分子膜を用いることができ、図3では、厚さが100μm程度の多孔性PTFE膜が用いられている。多孔性高分子膜の平均孔径は、0.2〜1.0μmであることが好ましく、0.5μmが特に好ましい。なお、多孔性高分子膜は、気液分離作用を有するものであれば、材質は、PTFEに限定されない。
【0041】
プローブ31aは、真空系の配管と接続されており、ストップバルブ32と導入バルブ33(流量調節型)を介して質量分析装置39に接続されている。質量分析装置39の内部は、ターボ分子ポンプ37や補助的なロータリーポンプ38を複数用いた差動排気システムにより、分析時に、高真空に排気される。質量分析装置39には、プローブ31aから導入される試料ガスの量が増加しても急に圧力が上昇しないようにオリフィス36が設けられており、質量分析装置39への試料ガスの導入量が制限されている。また、プローブ31aからの試料ガスの導入量が多い場合には、バイパスバルブ34(流量調節型)とロータリーポンプ35によって、バイパス排気を行い、所定の圧力を保つことができる。質量分析装置39は、系内の圧力が高くなると使用できない場合があるため、真空計等の圧力測定器(図示せず)によってインターロックがかかるようになっている。なお、図4〜7においても、図示していないが、図3と同様に、プローブは、真空系の配管と接続されており、質量分析装置の内部は、差動排気システムにより、分析時に高真空に排気される。
【0042】
質量分析装置39は、質量分析計を主とするシステムからなり、試料ガスをその質量電荷比(m/z:mは、質量、zは、イオンの価数を表す。)によって弁別する。質量分析計は、磁場型質量分析計、飛行時間型質量分析計、イオントラップ型質量分析計等が挙げられるが、質量掃引の高速性、操作の簡便性、コンパクトさ、可搬性、他の計測、測定、分析器への電磁ノイズの影響等を考慮すると、四重極型質量分析計が好ましい。
【0043】
四重極型質量分析計は、イオン化部、質量分離部及びイオン検出部からなる。イオン化部では、一般の磁場型質量分析計と同様に、電子衝撃法により、イオン化部に導入された試料ガスに熱電子を衝突させてイオン化が行われる。質量分離は、電気的な掃引を行ってイオンの質量電荷比によって行われる。四重極型質量分析計では、4本の円形又は楕円形の断面を有する金属電極を精密に相互に対向させ、この4本の電極に高周波と直流波を印加して四重極電場を形成することにより、質量分離が行われる。試料ガスを電離(イオン化)する方法としては、フラグメントの生成を考慮すると、ソフトなイオン化方法である大気圧イオン化が適しているが、イオン−分子反応を用いた大気圧イオン化方法では、一次イオンを生成するための放電や放電するための不活性ガスが必要となる。このため、簡便にイオン化することができる電子衝撃法を用いることが好ましい。この方法では、イオン化条件によっては、試料ガスをイオン化する際に、フラグメントイオンが生成するものの、本発明においては、試料ガスは、燃料、酸化剤等、既知であるものが多いため、障害になるものは少ない。
【0044】
なお、図3においては、溶液中の電極反応の反応系30について説明したが、本発明の燃料電池反応分析装置は、他の用途にも使用することができ、プローブを溶液中又は溶液を含む物体、例えば、発酵槽、オレンジ、桃の果肉の中に導入すること以外は、図3と同様の構成とすることにより、簡便に、水分量、化学反応で発生するガス(炭酸ガス等)、品質管理上、重要な特定の物質を捕捉して分析することができる。
【0045】
図4に、本発明の燃料電池反応分析装置の他の例を示す。図4に示す燃料電池反応分析装置は、ハーフセルの電極反応を分析する装置であり、ガラス製の三電極式の電解セル40を用いて、電極反応が行われる。電解セル40内には、電解質溶液41(例えば、0.5M硫酸水溶液)が満たされ、アルコールのアノード酸化を行う場合は、電解質溶液41に、所定の濃度のアルコールを混合する。アノード43としては、金やガラス状炭素基板上に、触媒が担持されたものを用いることができる。触媒を担持する際には、触媒が担持された導電性カーボン微粒子とイオン伝導性ポリマーを混合したインク状の混合物(触媒インク)を塗布、乾燥してもよいし、スパッタリング等の成膜方法で触媒を多孔質層に形成してもよい。触媒としては、PtをベースとしたRu、Sn、Ir等の他の金属との合金、あるいは遷移金属との合金やそれらの酸化物等を用いることが可能である。
【0046】
電解セル40には、通常の測定方法に従って、隔膜42(多孔性ガラス質)、参照電極44、カソード45、ルギン管49が所定の箇所に配設されている。電解セル40内で行われる電極反応は、電気化学測定装置48で制御され、サイクリックボルタンメトリー(CV)等の電気化学測定を実施することができる。アノード43における酸化反応の生成物は、溶液に内包されるが、プローブ46を介して質量分析装置47に導入される。このとき、プローブ46は、アノード43の近傍に設けられている点で、図3(b)に示すプローブ31aとは異なる。このとき、アノード43とプローブ46の距離は、特に限定されないが、アノード46における酸化反応の生成物をプローブ46から効率的に導入するためには、0〜5.0mmであることが好ましく、0〜1.0mmがさらに好ましい。質量分析装置47は、図3に示す構成と同様であるが、電気化学測定装置48と直接接続されており、電気化学測定装置48の動作に同期させることが可能である。具体的には、図14(a)に示すように、電気化学測定装置HZ−5000(北斗電工社製)のI/Oコネクタと、質量分析装置に具備され、コンピュータ及び制御システムを有する質量分析用制御・データ処理装置のデジタル入出力ボード(DIOボード)が接続される。詳細には、図14(b)に示すように、電気化学測定装置から出力されたCV測定開始・終了のデジタル出力信号は、入出力インターフェースを介して、質量分析用制御・データ処理装置のインターフェースに取り込まれ、TTLのレベル信号を受け取り、質量分析装置のコンピュータソフトウェアに取り込まれて、質量分析装置の分析開始・終了を電気化学測定装置と同期する仕組みになっている。
【0047】
図5に、本発明の燃料電池反応分析装置の他の例を示す。図5に示す燃料電池反応分析装置は、膜電極接合体51を用いて行われる電極反応によって生成する生成物を分析する。膜電極接合体51は、電解質膜51aと、アノード51bをホットプレス等で接合した構造体となっている。テフロン(登録商標)からなる反応セル50内に膜電極接合体51を構成する電解質膜51aを介して左右の系を分離している。電解質膜51aは、適切なシール材でシールされており、反応セル50内の電解質膜51a側には、参照電極52、カソード53及び電解質溶液54が所定の箇所に配設されている。また、アノード51b側には、アルコール水溶液55が満たされ、アルコールのアノード酸化が行われる。反応セル50は、加熱装置57によって所定の温度まで加熱できるようになっており、熱電対や温度計(不図示)で熱管理がなされる。このとき、アノード51b、参照電極52及びカソード53は、それぞれ電気化学測定装置58に接続され、電気化学測定装置58は、質量分析装置59と直接接続されている。アノード51bの電極反応の生成物は、溶液系からプローブ56を介して質量分析装置に導入され、プローブ56の構成、生成物の導入方法及び分析方法は、図4の場合と同様である。
【0048】
図6に、本発明の燃料電池運転状態監視装置の一例を示す。図6に示す燃料電池運転状態監視装置は、図2に示す燃料電池の燃料導入部21及び燃料排出部22に設けられたプローブ21a及び22aから試料ガスを導入し、質量分析装置25を用いて分析することにより、燃料電池の運転状態を監視する。このように分析することによって、アノード3Aに導入されるアルコール燃料と、セル内の発電によって消費されるアルコール燃料の経時的な比率、発電条件によるアルコール消費量の変動、アルコールのアノード酸化反応の生成物の量的な関係を把握することができる。燃料導入部21及び燃料排出部22に設けられたプローブ21a及び22aから試料ガスを導入する際には、それぞれサンプリングバルブ(不図示)で制御される。燃料導入部21の分析をするときは、燃料導入部21の側のサンプリングバルブを開け、燃料排出部22の側のサンプリングバルブを閉じる。また、燃料排出部22の分析をするときは、燃料排出部22の側のサンプリングバルブを開け、燃料導入部21の側のサンプリングバルブを閉じる。交互に高速で燃料導入部21及び燃料排出部22の分析をするときは、燃料導入部21及び燃料排出部22の側のサンプリングバルブを交互に高速で開閉する。このように分析することによって、アノード3Aに導入するアルコール燃料と、セル内の発電によって消費されるアルコール燃料の経時的な比率、発電条件による消費量の変動、生成物の量的な関係を把握することができる。さらに、精密な測定を繰り返せば、発電条件や外乱による反応の化学量論的なズレ等の把握が可能となる。なお、質量分析装置25は、図3に示す構成と同様であり、プローブ21a及び22aは、図4の構成と同様である。また、図6においては、図2に示す燃料電池を用いているが、図1に示す燃料電池を用いてもよい。
【0049】
図7に、本発明の燃料電池運転状態監視装置の他の例を示す。なお、図7において、図6と同一の構成については、同一の参照符号を付して、説明を省略する。図7に示す燃料電池運転状態監視装置を用いると、アノード3Aに供給される燃料がカソード4に透過してクロスオーバーする現象の量的な把握を行うことができる。アルコール燃料は、特に限定されないが、メタノール水溶液を供給するDMFCについて、以下に説明する。メタノールがアノード3Aからクロスオーバーしたものは、カソード4で酸素と反応し、電解質膜2を劣化させる要因になるため、クロスオーバー量の評価は、DMFCにとって重要な性能評価項目である。このとき、燃料電池の発電を行わずに静的なクロスオーバー量を評価する際には、酸化剤導入部23に窒素や不活性ガスを流通させながら、酸化剤排出部24のプローブ24aから試料ガスを導入し、試料ガスに含まれるクロスオーバーした微量メタノール量を質量分析装置25で検出する。また、燃料電池の発電を行いながら動的なクロスオーバー量を評価する際には、膜電極接合体(MEA)の電解質膜2を透過したメタノールは、カソード4の触媒作用により、ある割合で二酸化炭素に変化するので、酸化剤排出部24のプローブ24aから試料ガスを導入し、試料ガスに含まれる微量(概ね数10ppmオーダー)の二酸化炭素を質量分析装置25で検出する。このようにして、燃料導入部21、燃料排出部22及び酸化剤排出部24のそれぞれの試料ガスに含まれる微量成分の量的な関係、経時的な変化、発電条件による変動を捉えることにより、より効率の高い発電のための設計事項を明確にすることができる。また、電解質膜の燃料クロスオーバー特性を把握することができるため、電解質膜の材料特性を向上させるために用いることができる。なお、プローブ24aは、図4の構成と同様であり、酸化剤排出部24に設けられたプローブ24aから試料ガスを導入する際には、図6と同様に、サンプリングバルブ(不図示)で制御される。また、図7においては、図2に示す燃料電池を用いているが、図1に示す燃料電池を用いてもよい。
【0050】
図6及び7においては、燃料電池の単セルを用いているが、単セルが積層(スタック)された実用的な燃料電池としてもよい。これにより、水素燃料の漏れを監視すること、燃料電池発電中のセル内の水分の異常な変化を捉えること、発電反応の生成物の変化を捉えて正常な発電状態からのズレを監視して警報を出し、適正な稼動状況に戻す制御システムに系の監視データを提供することが可能になる。なお、本実施形態は、水素燃料を用いた燃料電池に限定されず、改質水素燃料を用いた燃料電池、直接メタノール型燃料電池(DMFC)、直接アルコール型燃料電池(DAFC)等の燃料電池に適用することができる。
【実施例】
【0051】
以下の参考例及び実施例においては、質量分析装置は、MID(Multi Ion Detection)という方法をとっており、複数指定した特定の質量数に対応するスペクトルを同時に検出して記録するものである。
〔参考例1〕
図8に、図3に示す燃料電池反応分析装置を用いて、溶液中に溶存する微量なエタノール(揮発成分)を測定した結果を示す。なお、参考例1において、アノード31bは、設けられておらず、プローブ31aは、溶液中から試料ガスを導入するために用いられており、反応系30の代わりに溶液が用いられている。具体的には、約0.0003M(約18ppm)のエタノール水溶液を調製して、得られた溶液中にプローブ31aを挿入した。ストップバルブ32を開くと、水と共に、微量のエタノールが同定された。なお、エタノールを同定するために、質量電荷比(m/z)が31であるエタノールのメインピークを用いた。エタノールは、電子衝撃法でイオン化すると、いくつかのピークで構成されるスペクトルパターン(エタノールの標準スペクトル)が得られるが、強度が最も強いメインピークに着目して分析した。ストップバルブ32を開いて導入した試料ガスのスペクトルから、ストップバルブ32を閉じて測定したバックグラウンドを差し引き、水に対するエタノールの分圧比を計算したところ、13ppmであった。質量スペクトルは、分圧で表示されるが、質量分析計の信号は、電流値(イオン電流値)で計測されるため、装置固有のパラメータを感度として校正しておけば、イオン電流値の比として、試料ガスの構成比等を求めることも可能である。
〔実施例1〕
図9に、図4に示す燃料電池反応分析装置を用いて、エタノールを含む電解質溶液(0.5M硫酸水溶液)中のアノード酸化の電気化学測定(CV)と質量分析装置による測定を同一の反応系で実施した結果を示す。なお、実施例1においては、アノード43及びプローブ46の代わりに、図3(b)に示すアノード31bの表面に設けられたプローブ31aを用いた。また、アノード31bとして、カーボンペーパーに、カーボンブラックと含フッ素ポリマーを混合した多孔質層を形成し、この上に、電極触媒(Pt−Sn二元系の合金触媒)を固定(担持)したものを用いた。なお、触媒の担持は、触媒が担持された導電性カーボン微粒子とイオン伝導性ポリマーを混合したインク状の混合物(触媒インク)を塗布、乾燥することにより行った。このとき、触媒の担持量は、Ptで換算して、約1mg/cmである。アノード31bは、エタノールを含む電解質溶液に浸漬されており、アノード31bに電気的なコンタクトを取った金(Au)のリード線を用いて、三電極式の電解セル40を構成した。このようにして、電気化学測定(CV)を行うと共に、質量分析装置47によって反応生成物を同定した。
【0052】
図9(a)において、Aは、8サイクルのCV(掃引速度は、10mV/秒)(図9(b)参照)に応じた特定の質量スペクトルの変化を示すものでCVの掃引を停止すると、質量スペクトルは、変化しなくなる。また、Bは、一定の電位(ポテンシャル)を印加したとき(図9(c)及び(d)参照)の特定の質量スペクトルの変化を調べたものであり、生成物がどのように変化するか容易に見ることができる。m/z=43は、酢酸のメインピークであり、m/z=44は、二酸化炭素又はアセトアルデヒドの親イオンのピークであるが、この状態では、両者の量的な弁別は難しいものの、CVの掃引状態と呼応することから、エタノールのアノード酸化反応の中間生成物又は副生成物と考えられる。m/z=29は、種々の物質のフラグメントイオンが重畳したものと考えられるが、CVの掃引状態と呼応することから、エタノールのアノード酸化反応の中間生成物であるアセトアルデヒドのメインピークが多分に含まれていると考えられる。
〔実施例2〕
図10に、メタノールを含む電解質溶液(0.5Mの硫酸水溶液)中のアノード酸化の電気化学測定(CV)と質量分析装置による測定を同一の反応系で実施した結果を示す。
実施例2においては、燃料として、メタノールを用い、電極触媒として、Pt−Ru−W−Moの多元系合金触媒を用いて、8サイクルのCV(図10(b)参照)と5サイクルのCV(図10(c)参照)(掃引速度は、いずれも10mV/秒)を実施した以外は、実施例1と同様に測定を実施した。なお、CVの電位(ポテンシャル)の掃引を停止しているときは、質量スペクトルは、変化しない。m/z=60は、ギ酸メチルの親イオンのピーク、m/z=46は、ギ酸の親イオンのピークであると考えられる。図10(d)及び(e)に、それぞれ図10(a)のC及びDの拡大図を示す。m/z=44は、メタノールのアノード酸化反応の最終生成物である二酸化炭素の親イオンのピークが多分に含まれていると考えられる。
〔実施例3〕
図11に、メタノールを含む電解質溶液(0.5Mの硫酸水溶液)中のアノード酸化の電気化学測定(CV)と質量分析装置による測定を同一の反応系で実施した結果を示す。実施例3においては、電極触媒をスパッタリング法で担持し、2サイクル(EとF)のCV(図11(c)参照)(掃引速度は、2mV/秒)を実施し、これと完全に同期させて質量スペクトルの変化を記録した以外は、実施例2と同様に測定を実施した。図11(a)から、CVの掃引速度を低くすると、貴な電位方向(フォワード)と卑な電位方向(リターン)によって質量スペクトルが変化することがわかる。また、分圧を対数表示した図11(b)では、メタノールのアノード酸化の中間生成物であるギ酸メチルやギ酸、最終生成物である二酸化炭素の変化が現れている。
〔実施例4〕
図12に、エタノールを含む電解質溶液(0.5M硫酸水溶液)中のアノード酸化の電気化学測定(CV)と質量分析装置による測定を同一の反応系で実施した結果を示す。実施例4においては、燃料として、エタノールを用いて、20サイクルのCVを実施した以外は、実施例3と同様に測定を実施した。m/z=43は、酢酸のメインピークであり、m/z=44は、二酸化炭素の親イオンのピークであり、m/z=29は、アセトアルデヒドのメインピークである。アセトアルデヒドのメインピークは、他の中間生成物やエタノールのフラグメントピークと重畳している可能性があるが、このピークの変化がCVと同期して現れることから、このピークにアセトアルデヒドのメインピークが含まれると考えられる。
〔実施例5〕
図13に、エタノールを含む電解質溶液(0.5M硫酸水溶液)中のアノード酸化の電気化学測定(CV)と質量分析装置による測定を同一の反応系で実施した結果を示す。実施例5においては、電極触媒として、Pt−Sn合金触媒を用い、プローブ46に直接電極触媒を担持し、5サイクルのCVを実施した以外は、実施例4と同様に測定を実施した。このとき、触媒の担持は、触媒が担持された導電性カーボン微粒子とイオン伝導性ポリマーを混合したインク状の混合物(触媒インク)をスプレー塗布、乾燥することにより行った。このようにして得られた質量スペクトルの変化は、実施例4の態様と同様である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】固体高分子電解質型燃料電池の単セル構造を示す図である。
【図2】直接アルコール型燃料電池の単セル構造を示す図である。
【図3】本発明の燃料電池反応分析装置の一例を示す図である。
【図4】本発明の燃料電池反応分析装置の他の例を示す図である。
【図5】本発明の燃料電池反応分析装置の他の例を示す図である。
【図6】本発明の燃料電池運転状態監視装置の一例を示す図である。
【図7】本発明の燃料電池運転状態監視装置の他の例を示す図である。
【図8】参考例1の測定結果を示す図である。
【図9】実施例1の測定結果を示す図である。
【図10】実施例2の測定結果を示す図である。
【図11】実施例3の測定結果を示す図である。
【図12】実施例4の測定結果を示す図である。
【図13】実施例5の測定結果を示す図である。
【図14】電気化学測定装置と質量分析装置の接続例を示す図である。
【符号の説明】
【0054】
1a、1b 筐体
2 電解質膜
3、3A アノード
4 カソード
5 燃料供給部
6 酸化剤供給部
21 燃料導入部
22 燃料排出部
23 酸化剤導入部
24 酸化剤排出部
21a、22a、24a、31a、46、56 プローブ
25、39、47、59 質量分析装置
31b、43、51b アノード
31c Oリング
32 ストップバルブ
33 導入バルブ
34 バイパスバルブ
35 ロータリーポンプ
36 オリフィス
37 ターボ分子ポンプ
38 ロータリーポンプ
40 電解セル
41、54 電解質溶液
42 隔膜
44、52 参照電極
45、53 カソード
48、58 電気化学測定装置
49 ルギン管
50 反応セル
51 膜電極接合体
51a 電解質膜
55 アルコール水溶液
57 加熱装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノードにおける燃料の酸化反応を分析する燃料電池反応分析装置において、
該アノードの近傍又は表面に設けられ、気体及び液体の成分を導入するプローブと、該プローブから導入された成分を分析する質量分析装置と、該質量分析装置の内部を排気する差動排気システムと、該プローブから導入された成分を該質量分析装置に輸送する配管を少なくとも有することを特徴とする燃料電池反応分析装置。
【請求項2】
前記プローブは、多孔性高分子膜を具備することを特徴とする請求項1に記載の燃料電池反応分析装置。
【請求項3】
前記質量分析装置の分析動作と測定動作を同期させることが可能な電気化学測定装置をさらに有することを特徴とする請求項1又は2に記載の燃料電池反応分析装置。
【請求項4】
前記燃料は、一種以上のアルコールを含有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の燃料電池反応分析装置。
【請求項5】
アノードに供給する燃料を導入する燃料導入部、アノードに供給した燃料を排出する燃料排出部、カソードに供給する酸化剤を導入する酸化剤導入部及びカソードに供給した酸化剤を排出する酸化剤排出部を有する燃料電池の運転状態を監視する燃料電池運転状態監視装置において、
該燃料導入部内、燃料排出部内、酸化剤導入部内及び酸化剤排出部内の少なくとも一つに設けられ、気体及び液体の成分を導入するプローブと、該プローブから導入された成分を分析する質量分析装置と、該質量分析装置の内部を排気する差動排気システムと、該プローブから導入された成分を該質量分析装置に輸送する配管を少なくとも有することを特徴とする燃料電池運転状態監視装置。
【請求項6】
前記プローブは、多孔性高分子膜を具備することを特徴とする請求項5に記載の燃料電池運転状態監視装置。
【請求項7】
前記燃料は、一種以上のアルコールを含有することを特徴とする請求項5又は6に記載の燃料電池運転状態監視装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2008−21521(P2008−21521A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−191987(P2006−191987)
【出願日】平成18年7月12日(2006.7.12)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】