説明

燃料電池型反応装置及びそれを用いた化合物の製造方法

【課題】有用な化合物をより効率的に製造するための反応装置を提供する。
【解決手段】アノード膜3、カソード膜5、及び電解質膜4を一体化させたユニット膜によりアノード室1、カソード室2に区画され、両極間を電子伝導体11で外部短絡した構造である燃料電池型反応装置であって、アノード膜3の一部が気相部に露出した状態でアノード室1に水又は電解質水溶液を存在させ、カソード膜5が、含窒素有機化合物を配位させた金属錯体と導電性炭素材料を含む混合物を熱処理して得られた触媒電極である、燃料電池型反応装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池型反応装置及びそれを用いる化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
過酸化水素は、化学、パルプ、医薬、食品、繊維、及び半導体工業において、漂白剤及び/又は酸化剤として使用されている有用な化合物である。
従来の過酸化水素の製造方法としては、例えば、(I)アルキルアントラキノンを用いた自動酸化法(非特許文献1参照)、(II)アルカリ金属水酸化物中で酸素を陰極還元する電解法(特許文献1参照)、(III)硫酸又は塩酸水溶液中に懸濁もしくは溶解した白金族系の触媒を用いて水素と酸素を触媒的に反応させる方法(特許文献2参照)等が知られており、工業的には主に上記(I)の方法が用いられている。
【0003】
しかしながら、これらの従来の過酸化水素の製造方法においては、例えば、上記(I)の方法では、大量の有機溶媒の添加を必要とし、また、多くの副生物や触媒の劣化が生じるので、さまざまな分離工程や再生工程を必要とする等の経済的に不利な点があり、より安価な製造法の開発が求められている。
また、上記(II)の方法においては、高価な電力エネルギーを必要とする問題点がある。
さらに、上記(III)の方法においては、同一反応器内において水素と酸素を混合させる必要があり、爆発危険性等の安全上の問題を有し、工業的製造法としては難点がある。
【0004】
一方、近年、燃料電池システムを用いて、温和な条件で種々の有用な化合物を製造する研究が進められている。燃料電池とは燃料を電解質膜で隔てて電気化学的に完全燃焼させ、その反応過程の自由エネルギー変化を直接電力エネルギーに変換することを目的としたシステムである。すなわち、電子の放出反応と受容反応をそれぞれアノード、カソードで行わせ、両極を結ぶ外部回路を通る電子の移動を電力として利用するものである。
このような燃料電池を有機合成の立場から化学反応器とみると、原理的には電力と共に有用な化合物の製造が可能である。
【0005】
燃料電池システムを応用した化学合成法は、以下の1)〜4)に述べるような、工業生産においても有利な特徴を有している。
1)活性種の分離や特殊反応場を形成させることができるため、通常の触媒反応では困難な選択反応を可能にする。
2)反応速度や選択性を電気的に容易に制御することができる。
3)外部回路に負荷を置けば、目的とした化合物と共に電力を得ることができる。
4)酸素等の酸化性物質と水素等の還元性物質が隔膜で分離されているので爆発の危険性を低減できる。
【0006】
燃料電池システムの化学合成への応用例としては、(IV)エチレンおよびプロピレンの部分酸化反応(非特許文献2参照)、(V)ベンゼンの水酸化反応(非特許文献3参照)、(VI)メタノールの酸化的カルボニル化反応(非特許文献4参照)、(VII)水素と酸素から過酸化水素を製造する方法(非特許文献5及び特許文献3〜5参照)等が提案されている。
【0007】
非特許文献5に開示された上記(VII)の方法においては、ナフィオン(デュポン社の登録商標)を隔膜とし、触媒電極として、膜のアノード側は白金黒を、カソード側は金メッシュ又はグラファイトを用いている。そして、アノード室に水素ガスを、塩酸水溶液が導入されたカソード室に酸素ガスを吹き込むことによって過酸化水素を製造する。
【0008】
また、特許文献3〜5に開示された上記(VII)の方法においては、アノード及びカソードにより、アノード室、中間室、及びカソード室に区画され、中間室に電解質溶液を存在させ、両極間を電子伝導体で外部短絡された構造を有する装置又は該中間室がカチオン交換膜によって区画された構造を有する装置が用いられる。そして、アノード室に水素ガスを、カソード室に酸素ガスを供給して、中間室の電解質溶液中に過酸化水素を発生させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第4,431,494号明細書
【特許文献2】米国特許第4,009,252号明細書
【特許文献3】特開2001−236968号公報
【特許文献4】特開2005−076043号公報
【特許文献5】特開2005−281057号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】化学便覧、応用化学編I 、日本化学会編、302ページ、1986年参照
【非特許文献2】触媒,31,48ページ,1989
【非特許文献3】J.Chem.Soc.,Faraday Trance.,90,451,1994
【非特許文献4】Electrochimica Acta,Vol.39,No.14,2109,1994
【非特許文献5】Electrochimica Acta,Vol.35,No.2,319,1990
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、非特許文献5に開示された上記(VII)の方法においては、上記1)〜4)等の利点を有するものの、得られる過酸化水素の濃度が低く、また、経時的に過酸化水素の生成が頭打ちになる等の問題点があった。
また、特許文献3〜5に開示された上記(VII)の方法においては、過酸化水素の生成速度が向上するものの、過酸化水素の蓄積濃度の点において必ずしも満足できるものではなく、また得られた過酸化水素に電解質が必然的に含まれてしまうという問題点があった。
【0012】
化学工業界においては、これら過酸化水素の製造方法に限らず、有用な化合物をより効率的に製造するための反応方法や触媒の開発が常に求められている。
【0013】
本発明が解決しようとする課題は、有用な化合物をより効率的に製造するための反応装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、アノード膜、カソード膜、及び電解質膜を一体化させたユニット膜によりアノード室、カソード室に区画され、両極間を電子伝導体で外部短絡した構造である燃料電池型反応装置であって、アノード膜の一部が気相部に露出した状態でアノード室に水又は電解質水溶液を存在させ、カソード膜が、含窒素有機化合物を配位させた金属錯体と導電性炭素材料を含む混合物を熱処理して得られた触媒電極である、燃料電池型反応装置とすることにより、上記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成した。
【0015】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
[1]
アノード膜、カソード膜、及び電解質膜を一体化させたユニット膜によりアノード室、カソード室に区画され、両極間を電子伝導体で外部短絡した構造である燃料電池型反応装置であって、
前記アノード膜の一部が気相部に露出した状態でアノード室に水又は電解質水溶液を存在させ、
前記カソード膜が、含窒素有機化合物を配位させた金属錯体と導電性炭素材料を含む混合物を熱処理して得られた触媒電極である、燃料電池型反応装置。
[2]
前記アノード室に還元性物質を供給して、前記カソード室に酸化性物質を供給して、前記カソード膜中に反応生成物を発生させる、上記[1]に記載の燃料電池型反応装置。
[3]
前記カソード膜が、導電性炭素材料を含む支持体に、前記金属錯体及び前記導電性炭素材料を含むカソード活物質を塗布して得られた触媒電極である、上記[1]又は[2]に記載の燃料電池型反応装置。
[4]
前記金属錯体が、金属アミン類、金属ピリジン類、金属フェナントロリン類、及び金属ポルフィリン類からなる群から選ばれる1種又は2種以上である、上記[1]〜[3]のいずれか1項に記載の燃料電池型反応装置。
[5]
前記導電性炭素材料が、活性炭、カーボンファイバー、グラファイト、カーボンウィスカー、カーボンブラック、カーボンペーパー、及びアセチレンブラックからなる群より選ばれる1種又は2種以上の炭素材料である、上記[1]〜[4]のいずれか1項に記載の燃料電池型反応装置。
[6]
酸化還元反応による化合物の製造方法であって、上記[1]〜[5]のいずれか1項に記載の燃料電池型反応装置を用い、前記アノード室に還元性物質を導入し、前記カソード室に酸化性物質を導入して、カソード膜において該還元性物質と該酸化性物質から化合物を製造する、化合物の製造方法。
[7]
前記還元性物質が水素供与体であり、前記酸化性物質が酸素であり、製造される化合物が過酸化水素である、上記[6]に記載の化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、有用な化合物をより効率的に製造することのできる、燃料電池型反応装置を提供することができる。
また、該燃料電池型反応装置を用いた、より効率的に有用な化合物を製造することのできる製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施の形態における燃料電池型反応装置を用いた、還元性物質(水素)と酸化性物質(酸素)から過酸化水素を製造する方法の概略図を示す。図1中、アノード室に存在する水又は電解質水溶液として水(H2O)を例示する。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施の形態」という。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0019】
本実施の形態の燃料電池型反応装置は、アノード膜、カソード膜、及び電解質膜を一体化させたユニット膜によりアノード室、カソード室に区画され、両極間を電子伝導体で外部短絡した構造である燃料電池型反応装置であって、前記アノード膜の一部が気相部に露出した状態でアノード室に水又は電解質水溶液を存在させ、前記カソード膜が、含窒素有機化合物を配位させた金属錯体と導電性炭素材料を含む混合物を熱処理して得られた触媒電極である。
本実施の形態の化合物の製造方法は、酸化還元反応による化合物の製造方法であって、本実施の形態の燃料電池型反応装置を用い、前記アノード室に還元性物質を導入し、前記カソード室に酸化性物質を導入して、カソード膜において該還元性物質と該酸化性物質から化合物を製造する方法である。
【0020】
以下、過酸化水素の製造方法を例に本実施の形態の詳細を説明する。本実施の形態は過酸化水素の製造方法に限定されるものではなく、前記(IV)〜(VI)のような燃料電池システムが応用できる他の化学合成反応にも適用することがでる。
本実施の形態の燃料電池型反応装置の一例として、実施例で用いた燃料電池型反応装置及び本実施の形態の製造方法により還元性物質(水素)と酸化性物質(酸素)から過酸化水素を製造するための反応の原理を示す概略図を図1に示す。
【0021】
図1に示す燃料電池型反応装置は、アノード膜3、カソード膜5、及び電解質膜4を一体化させたユニット膜により、アノード室1及びカソード室2に区画された構造を有する。カソード室2には生成物である過酸化水素を蓄積させるためのカソード側中間室6を設け、アノード膜3の一部を気相部に露出させた状態でアノード室1に水又は電解質水溶液が導入される。所望により、カソード膜の一部を気相部に露出させた状態でカソード側中間室6に水又は電解質水溶液を導入することもできる。アノード室1には還元性物質を供給するための還元性物質の入口7と、還元性物質の排出口9があり、カソード室2には酸化性物質を供給するための酸化性物質の入口8と、酸化性物質の排出口10がある。所望により、生成した過酸化水素はカソード側中間室6に、好ましくは中性の水又は電解質水溶液中に、過酸化水素水溶液として蓄積することもできる。
アノード膜3とカソード膜5の外側表面には集電用の金属メッシュ(例えば金製メッシュ)(図示せず)が取り付けられ、アノード膜3とカソード膜5の外側表面には電子伝導体であるリード線11を備え、リード線11によってアノード膜3とカソード膜5とは互いに接続されている。所望により、アノード膜3とカソード膜5の両極間に定電圧発生装置を設けて電圧を印加することで反応を促進させることもできる。また、所望により、外部回路に負荷をかけることにより、作動中の燃料電池型反応装置から電力を取り出すこともできる。
【0022】
本実施の形態で用いるアノード膜は、触媒の役割を果たすアノード活物質からなりイオン伝導性又は活性種伝導性を有するものである。また、本実施の形態で用いるカソード膜は、触媒の役割を果たすカソード活物質からなりイオン伝導性又は活性種伝導性を有するものである。
【0023】
アノード活物質としては、種々の材料を使用することができ、例えば、各種金属、金属化合物、及び導電性炭素材料からなる群から選ばれる1種又は2種以上を含む材料を使用することができる。
アノード活物質として用いる金属としては、好ましくは周期律表の1〜16族から選ばれる金属である。これらの金属は1種又は2種以上の混合物として用いてもよい。
アノード活物質として用いる金属化合物としては、これら金属の無機金属化合物及び有機金属化合物等の金属化合物を使用することができ、好ましくは金属ハロゲン化物、金属酸化物、金属水酸化物、金属硝酸塩、金属硫酸塩、金属酢酸塩、金属リン酸塩、金属カルボニル、及び金属アセチルアセトナト等を使用することができる。これらの金属化合物は1種又は2種以上の混合物として用いてもよい。
アノード活物質として用いる導電性炭素材料としては、電気伝導性を有する種々の炭素材料を使用することができ、好ましくは活性炭、カーボンブラック、アセチレンブラック、グラファイト、カーボンファイバー、カーボンペーパー、及びカーボンウィスカー等の炭素材料を使用することができる。これらの炭素材料は1種又は2種以上の混合物として用いてもよい。
【0024】
本実施の形態において、還元性物質として水素を用いる場合には、アノード活物質としては、水素をプロトンにするための公知な触媒、例えば、周期律表の8〜10族から選ばれる金属、好ましくは白金及びパラジウム等の金属又はこれらの金属化合物を使用することができる。また、還元性物質として水素を用いる場合には、アノード活物質として用いる導電性炭素材料としては、好ましくは活性炭、カーボンファイバー、グラファイト、カーボンウィスカー、カーボンペーパー、及びカーボンブラックを使用することができる。
【0025】
カソード活物質としては、含窒素有機化合物を配位させた金属錯体と導電性炭素材料を含む混合物を使用することができる。
【0026】
カソード活物質として用いる含窒素有機化合物を配位させた金属錯体(以下、単に「金属錯体」と記載する場合がある。)としては、好ましくは金属アミン類、金属ピリジン類、金属フェナントロリン類、及び金属ポルフィリン類であり、より好ましくは金属ピリジン類、金属フェナントロリン類、及び金属ポルフィリン類であり、さらに好ましくは金属フェナントロリン類及び金属ポルフィリン類である。これらの金属錯体は1種又は2種以上の混合物として用いてもよい。
【0027】
カソード活物質として用いる金属アミン類としては、アミン類に金属が配位した化合物を使用することができる。アミン類としては、好ましくは、エチレンジアミン、1,4−ブタンジアミン、1,6−ヘキサンジアミンを使用することができる。これらの金属アミン類は1種又は2種以上の混合物として用いてもよい。
【0028】
カソード活物質として用いる金属ピリジン類としては、ピリジン類に金属が配位した化合物を使用することができる。ピリジン類としては、好ましくは、ピリジン、ビピリジル、テトラピリジルを使用することができる。これらの金属ピリジン類は1種又は2種以上の混合物として用いてもよい。
【0029】
カソード活物質として用いる金属フェナントロリン類としては、フェナントロリン類に金属が配位した化合物を使用することができる。フェナントロリン類としては、好ましくは、1,10−フェナントロリン、1,10フェナントロリン−5−アミン、1,10フェナントロリン−5−クロライド、1,10フェナントロリン−5,6−ジメチル、1,10−フェナントロリン−5,6−ジオンを使用することができる。これらの金属フェナントロリン類は1種又は2種以上の混合物として用いてもよい。
【0030】
カソード活物質として用いる金属ポルフィリン類としては、ポルフィリン系大環状配位子を有し、ポルフィリン環の中心に金属が配位した化合物を使用することができる。ポルフィリン環には、フェニル基並びにメチル、カルボキシル、ブロモ、フルオロ、ヒドロキシル、アミノ、及びスルホ基等の様々な置換基で置換されたフェニル基等の様々な置換基が結合したものでもよく、また無置換のものでもよい。ポルフィリン環としては、好ましくは、ポルフィリン、テトラフェニルポルフィリン、オクタエチルポルフィリン、プロトポルフィリン、テトラキス(カルボキシフェニル)ポルフィリン、及びテトラ(1−メチル−4−ピリジル)ポルフィリン等のポルフィリン類である。これらの金属ポルフィリン類は1種又は2種以上の混合物として用いてもよい。
金属錯体の錯形成をする金属原子としては、マンガン、ニッケル、錫、亜鉛、コバルト、銅、カドニウム、鉄、又はバナジウム等を使用することができ、好ましくはコバルトである。これらの金属原子は1種又は2種以上の混合物として用いてもよい。
【0031】
本実施の形態において、カソード活物質として用いるもう一つの材料は、導電性炭素材料である。導電性炭素材料としては、電気伝導性を有する種々の炭素材料を使用することができ、好ましくは活性炭、カーボンブラック、アセチレンブラック、グラファイト、カーボンファイバー、カーボンペーパー、及びカーボンウィスカー等の炭素材料である。これらの炭素材料は、1種又は2種以上の混合物として用いてもよい。
【0032】
金属錯体と導電性炭素材料の混合方法としては、例えば、金属錯体と粒子状の導電性炭素材料を均一に物理混合するか、金属錯体と粒子状の導電性炭素材料を溶媒に溶解または分散させた後、溶媒を留去して導電性炭素材料に含浸担持する方法等が挙げられる。
上記混合方法における溶媒としては、ジメチルホルムアミド、キノリン、アセトン、ジクロロメタン、エタノール及び水等を使用することができる。金属錯体と導電性炭素材料の混合方法としては、金属錯体を導電性炭素材料にスパッタ法又は蒸着法により付与することもできる。
【0033】
カソード活物質としては、金属錯体と導電性炭素材料の混合物を熱処理したものを使用することが好ましい。熱処理は、酸素、空気、又は不活性ガス中で行うことができるが、窒素、ヘリウム、及びアルゴン等の不活性ガス中で熱処理を行うことが好ましい。
熱処理温度は、好ましくは100〜1000℃、より好ましくは400〜1000℃、さらに好ましくは500〜900℃である。
【0034】
本実施の形態において、アノード膜及びカソード膜は、その活物質の導電性が不足する場合、触媒としてではなく、導電性を上げる目的で上記導電性炭素材料を含ませることもできる。例えば、電極活物質(アノード活物質及びカソード活物質)を、導電性を上げる目的で添加された導電性炭素材料と組み合わせて用いる場合には、粒子状の導電性炭素材料と均一に混合するか、粒子状の導電性炭素材料に、電極活物質を担持させてなる粒子を用いると、組成が均一で、電子伝導性の良好なアノード膜及びカソード膜が得られるので好ましい。導電性炭素材料としては前記したものが用いられる。
【0035】
電極として、電極活物質を、導電性炭素材料と組み合わせて用いる場合には、両者の質量の合計に対する前者の質量(金属換算)の比は、好ましくは0.0001〜50質量%、より好ましくは0.001〜30質量%、さらに好ましくは0.001〜10質量%である。
後述の実施例で示されるように本実施の形態の方法によって水素と酸素から過酸化水素を製造する場合には、アノード膜として、白金黒及びカーボンファイバーを含む電極が好ましく用いられる(この場合、カーボンファイバーは、活物質としてではなく、導電性を上げる目的で添加されている)。一般に燃料電池で使用されている入手しやすい電極を用いてもよい。
【0036】
カソード膜としては、コバルトポルフィリン類を導電性炭素材料に含浸担持したものを不活性ガス中で熱処理したものを電極成分として用いることが好ましい。
【0037】
アノード膜及びカソード膜は、上述した各主成分以外に撥水剤を混合して用いることが好ましい。撥水剤としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレンオリゴマー(TFEO)、フッ化黒鉛((CF)n)、及びフッ化ピッチ(FP)等が挙げられる。本実施の形態において、撥水剤は、還元性物質及び酸化性物質(例えば、ガス)と水とユニット膜(アノード膜、カソード膜、及び電解質膜)との気体−液体−固体における三相界面での電気化学的反応効率を向上させる効果を持つ。また、撥水剤は、触媒粒子の結着剤としても機能するので、アノード膜及びカソード膜を構成する上記成分と物理混合してホットプレスすることによりシート状に成型して電極として用いることができる。
撥水剤を用いる場合の使用量は、使用する電極活物質の1〜250質量%とすることが好ましく、25〜100質量%とすることがより好ましい。
【0038】
アノード膜としては、上記アノード活物質を用いて、例えば、混錬法、塗布法、ドクターブレード法等、一般的に燃料電池で採用されている方法により製造することができる。
【0039】
カソード膜としては、上記カソード活物質を用いて、好ましくは、塗布法により製造することができ、カソード活物質の分散効果によって生成物の分解や逐次還元が抑制され、反応成績が向上する利点がある。
【0040】
本実施の形態に用いられるカソード膜は、導電性炭素材料を含む支持体に、含窒素有機化合物を配位させた金属錯体及び導電性炭素材料を含むカソード活物質を塗布して得られた触媒電極であることが好ましい。
導電性炭素材料を含む支持体としては、特に限定されないが、例えば、円形等の形状のものが挙げられ、導電性炭素材料を含む材料を、ホットプレスなどの方法により成型することにより製造することができる。
該支持体に用いられる導電性炭素材料と、カソード活物質に用いられる導電性炭素材料とは、同じであってもよく、異なっていてもよい。
導電性炭素材料を含む支持体としては、厚さは、好ましくは0.001〜5.0mm、より好ましくは0.01〜2.0mm、さらに好ましくは0.1〜1.0mmである。
【0041】
本実施の形態の電解質膜としては、イオン伝導体であれば特に限定されない。例えば、リン酸、塩酸、硫酸、及び塩酸等の酸性電解質を支持体に含浸させたプロトン酸膜、シリカ、アルミナ、H型ゼオライト、リン酸ジルコニウム、及びヘテロポリ酸等の固体電解質膜、SrCeO3、BaCeO3系等のペロブスカイト型焼結体、ポリスチレン・スルホン酸系及びフッ化炭素系重合体・スルホン酸系等のイオン交換高分子膜等が挙げられる。
本実施の形態においては、フッ素樹脂系のナフィオン(デュポン社の登録商標)膜等のイオン交換高分子膜が好ましく用いられる。
【0042】
本実施の形態においては、上記アノード膜、電解質膜、及びカソード膜をホットプレス等で圧着し、一体化させてシート状にしたユニット膜を本実施の形態の燃料電池型反応装置に設置する。
アノード膜、電解質膜、及びカソード膜から構成されるユニット膜の作製法は、例えば、塗布法やドクターブレード法等、一般的に燃料電池で採用されている方法を用いることができる。
【0043】
本実施の形態の燃料電池型反応装置は、ユニット膜によりアノード室、カソード室に区画された構造を有し、アノード室に水又は電解質水溶液が存在する。その際、アノード膜の一部が気相部に露出させた状態でアノード室に水又は電解質水溶液を導入する。
本実施の形態の燃料電池型反応装置は、還元性物質及び酸化性物質をガスとしてアノード膜及びカソード膜に供給するので、前記(IV)〜(VII)に記載の従来の燃料電池型反応装置に比べ、各物質の活量を上げることが可能となり、反応活性及び反応選択性が向上するという効果がある。
気相部に露出している部分としては、アノード膜の面積に対して、5〜95%であることが好ましく、20〜80%であることがより好ましく、40〜60%であることがさらに好ましい。
【0044】
例えば、実施例に示されるように、アノード室にアノード膜の一部が露出した状態で水又は電解質水溶液を存在させると、アノード膜中に三相界面が形成され、電気化学的反応効率が向上する。また、アノード室に存在させた水又は電解質水溶液によって、アノード膜中で発生するプロトンの移動を促進させるという効果があり、カソード膜中に形成された三相界面で生成した過酸化水素は、アノード室から移動したプロトンの水和水によって素早くカソードの三相界面から脱離し、水を含んだ過酸化水素水溶液としてカソード室に蓄積する。さらに、カソード室にカソード膜の一部が気相に露出した状態で液体を存在させてもよく、アノード室及びカソード室、中でも、カソード側中間室に水又は電解質水溶液を存在させることにより、高効率的に反応生成物を得ることができる。
カソード室には、過酸化水素水溶液として蓄積するために、カソード側中間室を設けることができる。
【0045】
本実施の形態でアノード室又はカソード室に存在させる水としては、純水、イオン交換水が用いられる。電解質水溶液としては、酸性、中性、又はアルカリ性の弱電解質水溶液及び強電解質水溶液が用いられる。これら電解質水溶液としては、例えば、HCl、H2SO4、H3PO4、HClO4、HNO3、NaOH、KOH、LiOH、NH3、及びNH4OH等の水溶液、又はそれらの塩の水溶液、水ガラス、水道水、工業用水等が挙げられる。
水又は電解質水溶液としては、1種又は2種以上の混合物として用いてもよい。
電解質水溶液の溶媒として、アルコール、塩化メチレン、クロロホルム、酢酸、アセトニトリル等の非水溶媒又はそれらの混合物を共に用いてもよい。
【0046】
本実施の形態で用いる還元性物質としては、電子供与能力を有する化合物でれば特に限定されず、好ましくはアノード上でプロトンと電子を放出することが可能な水素供与体が用いられる。還元性物質としては、例えば、水素、アルコール類、ハイドロキノン類、及び飽和炭化水素等が挙げられ、好ましくは工業的に安価な水素が用いられる。
還元性物質は、窒素、ヘリウム、及びアルゴン等の不活性ガスとの混合ガスとして用いてもよい。
【0047】
本実施の形態で用いる酸化性物質としては、電子受容能力を有する化合物であれば特に限定されず、例えば、空気、酸素、及び酸化窒素等が挙げられ、好ましくは空気及び酸素が用いられる。
酸化性物質は、必ずしも純粋である必要はなく、窒素、ヘリウム、及びアルゴン等の不活性ガスとの混合物として用いてもよい。また、カソード室に被酸化性基質を供給することにより、カソード膜中に酸化生成物を発生させることもできる。
【0048】
本実施の形態の方法においては、燃料電池型反応装置のスケールにともなって変わる種々の条件(例えば、還元性物質、酸化性物質、及び電解溶液の供給量等)は、燃料電池型反応装置のスケールにあわせて適宜選択できる。
上記還元性物質及び酸化性物質がアノード室又はカソード室に供給される場合、それぞれの流量は、燃料電池型反応装置のスケールに合わせて適宜選択できるが、それぞれの流量は、好ましくは0.1〜100000mL/分、より好ましくは1〜1000mL/分とすることができる。
【0049】
本実施の形態の方法においては、アノード膜とカソード膜の両極間に電圧を印加することにより、反応を加速させることができる。電圧を印加する場合の電圧は、好ましくは0.1〜10V、より好ましくは0.2〜2Vとすることができる。
本実施の形態の方法においては、反応温度は、好ましくは−20〜200℃、より好ましくは−5〜150℃の範囲から選択される。
反応時の還元性物質及び酸化性物質の圧力は、常圧で行うことができるが、加圧下でも減圧下でも実施することができる。加圧下で行う場合は、常圧を越えて100気圧以下とすることができる。減圧下で行う場合は、常圧未満で10-2Torr以上とすることができる。
反応時間は、反応生成物の選択率や収率の実質的な目標値を定め、適宜選択すればよく、特に限定されないが、好ましくは数秒ないし数時間である。
【0050】
反応形式としては、回分的又は連続的に行うことが可能であり、特に限定されない。
反応を連続的に行う場合には、適当な装置を併用し、カソード室に形成される反応混合物を連続的に抜き出しながら、水又は電解質水溶液をアノード室に連続的に導入することにより行うことができる。例えば、カソード室に新たに生成物が含まれる液体の排出口を設置して、アノード室に水又は電解質水溶液を連続的に導入してもよい。
反応生成物は、燃料電池型反応装置中の反応混合物から慣用の手段、例えば、蒸留又は抽出等を公知の分離手段によって分離し、所望の純度にすることができる。
【0051】
燃料電池型反応装置の大きさは、特に限定されないが、例えば、カソード室及びアノード室の容積は約0.1cm3から約10m3の範囲から選択することができ、アノード膜、カソード膜、及び電解質膜から構成されるユニット膜のサイズもそれに合わせて調整することができる。
【0052】
本実施の形態における、水素と酸素から過酸化水素を製造する方法において、以下の(1)、(2)式に示す反応が、ガス(水素、酸素)と液体とユニット膜(アノード膜、カソード膜、及び電解質膜)が形成する、気体−液体−固体の三相界面で進行する。
2 → 2H+ + 2e- (1)
2 + 2H+ + 2e- → H22 (2)
図1を参照して説明すると、アノード膜3に供給された水素供与体である水素は、電極上でプロトンと電子を放出し((1)式)、プロトンは電解質膜4を通過してカソード膜5へ移動し、一方、電子は外部回路を経由してカソード膜5に移動する。そして、カソード膜5では供給された酸素が電子及びプロトンと反応して、生成物である過酸化水素が得られる((2)式)。
【0053】
本実施の形態の燃料電池型反応装置は、還元性物質及び酸化性物質をガスとして供給するので、前記(IV)〜(VII)に記載の従来の燃料電池型反応装置に比べ、各物質の活量を上げることが可能となり、さらに酸素の2電子還元に有効な金属ポルフィリン類及び導電性炭素材料を含むカソード膜を用いることで反応活性及び反応選択性が向上するという効果がある。本実施の形態の燃料電池型反応装置を用いると、ユニット膜(アノード膜、カソード膜、及び電解質膜)の内部において、反応性を有する化学種の三相界面への移動が起きる。この反応原理により、過酸化水素の製造方法に限らず、その他の種々の酸化反応においても実施することができる。
【0054】
本実施の形態の燃料電池型反応装置は、有用な化合物を穏和な条件で選択性高く、効率的かつ経済的な方法で製造すると共に必要に応じて電力を製造し、従来の触媒プロセスが抱える問題点を克服することの可能な反応装置である。
また、本実施の形態の燃料電池型反応装置を用いて、有用な化合物を穏和な条件で選択性高く、効率的かつ経済的に製造することができる。
特に、該燃料電池型反応装置を用いて、水素と酸素から過酸化水素を製造することにより、従来の製造法における大量の有機溶媒の使用、製造工程の煩雑さ、電力エネルギーの大量消費、水素と酸素の混合による爆発危険性、低い過酸化水素の収率等の問題点を解決することができる。
【0055】
さらに、本実施の形態の燃料電池型反応装置を用いることで、有用な化合物を穏和な条件で高選択率、高効率的かつ経済的な方法で製造することができると共に、所望により電力を副産物として得ることができる。また、還元性物質及び酸化性物質がアノードとカソードで各々分離された状態で反応を行うことができるので、爆発混合気体の形成による爆発危険性が回避でき、生成物と酸化生成物との逐次的な反応による副生物の生成を抑制でき、さらに反応活性、反応選択性が高いという利点がある。
下記実施例に示すように、本実施の形態の燃料電池型反応装置を用いることで、水素と酸素から過酸化水素を電解質が含まれない中性の水中において、高選択率かつ高効率的に製造することができ、必要により、電気エネルギーを得ることもできる。
【実施例】
【0056】
以下、実施例及び比較例によって本実施の形態をより具体的に説明するが、本実施の形態はこれらによって何ら限定されるものではない。当業者は、以下に示す実施例のみならず様々な変更を加えて実施することが可能であり、かかる変更も本特許請求の範囲に包含される。
【0057】
[実施例1]
実施例1では図1に示す燃料電池型反応装置を用いて、酸素と水素から過酸化水素の製造を行った。
燃料電池型反応装置は、アノード膜3、電解質膜4、及びカソード膜5を一体化させたユニット膜により、アノード室1及びカソード室2に区画された構造を有する。カソード室2には生成した過酸化水素水溶液を蓄積させるためのカソード中間室6を設け、カソード膜3の半分の面積を気相部に露出させた状態でアノード室1にイオン交換水を15mL量導入し、カソード中間室を含むカソード室には、イオン交換水を導入しなかった。電解質膜4としては、ナフィオン117膜(円形、厚さ:0.2mm、直径:約25mm、米国デュポン製)を用いた。
【0058】
アノード室1は還元性物質の入口7と、余剰の還元性物質の排出口9を有する。カソード室2は酸化性物質の入口8と、余剰の酸化性物質の排出口10を有する。アノード膜3とカソード膜5の上には集電のための金製メッシュが配され、金製のリード線11によって、電流計12を介して短絡されている。
【0059】
アノード膜3、カソード膜5、及び電解質膜4を一体化させたユニット膜の作製方法は以下の通りである。
【0060】
アノード膜3は、Pt/カーボンブラック(Cabot社製、XC−72)25mg、カーボンファイバー粉末(昭和電工社製、VGCF)25mg及びPTFE粉末(ダイキン工業社製、 F104)5mgをよく混合し、これを円形シート状(厚さ:約1mm、直径:約16mm)にホットプレート(ADAVANTEC社製TOP−15)とステンレス板、ステンレスローラーを用いて120℃で成型し作製した。
【0061】
カソード膜5は、カーボンファイバー粉末(昭和電工社製、VGCF)48mg及びPTFE粉末(ダイキン工業社製、F104)3mgを混合したものを円形シート状(厚さ:約0.6mm、直径:約16mm)にホットプレートとステンレス板、ステンレスローラーを用いて120℃で成型した。次に、カソード活物質として、テトラフェニルポルフィリンコバルト(アルドリッチ製)とカーボンファイバー粉末(昭和電工社製、VGCF)をジクロロメタン中に分散させた後、ジクロロメタンを留去してカーボンファイバー粉末上に含浸担持した混合粉末をヘリウム気流中150℃で1時間乾燥させた後、800℃で2時間熱処理活性化してテトラフェニルポルフィリンコバルト/カーボンファイバー粉末(テトラフェニルポルフィリンコバルトの担持量は、コバルト金属基準で0.05質量%とした)を得た。次いで、プロパノール100μL及びナフィオン液(アルドリッチ社製、ナフィオン濃度10%、水溶媒)10μLの混合溶液に、上記で得られたテトラフェニルポルフィリンコバルト/カーボンファイバー粉末2mgを加えて超音波攪拌したスラリーを上記で得られたシートに塗布し、減圧乾燥したものをカソード膜5として用いた。
【0062】
上記で得られたシート状のアノード膜3及びカソード膜5の間に電解質膜4としてナフィオン117膜(円形、厚さ:0.2mm、直径:約25mm、米国デュポン製)を挟み、ホットプレス装置(アズワン社製、AH2003)を用いて140℃、5MPaで成型し、アノード膜3、カソード膜5、及び電解質膜4から構成される一体化させたユニット膜を作製した。得られたユニット膜をH型反応セルに設置した。
【0063】
上記燃料電池型反応装置を用いて以下のようにして反応を行った。
アノード室1に水素ガスを、カソード室2に酸素ガスをそれぞれ常圧下、20mL/分の流量で供給し、反応温度5℃、反応時間2時間として反応を行った。
その結果、カソード室2に設けたカソード側中間室6に過酸化水素の生成が認められ、同時に電流の発生も認められた。この間、アノード膜3とカソード膜5の間の電位差、電流、及び両極間を流れた電気量を、各々電位差計(北斗電工社製 ELECTRON METERHE−104)、無抵抗電流計(北斗電工社製 ZERO SHUNT AMMETER HM−104)及びクーロンメーター(北斗電工社製 COULOMB METER HF−210)を用いて測定した。生成した過酸化水素の濃度は、KMnO4水溶液を用いて分析した。
【0064】
得られた過酸化水素の生成濃度は11.32質量%、生成速度は1.134mmol・h-1、電流効率は45.7%であった。電流効率は、流れた電気量を無抵抗電流計とクーロンメーターを用いて計測し、下記の式によって求めた。
電流効率=(過酸化水素蓄積量(mol)×2×100/(流れた電気量(C)/96500(C/mol))式中の電気量とは、計測クーロン値(Q)を平均電流値に換算した値である(I(A)=Q(C)・3600(S))。
【0065】
[実施例2]
カソード側中間室6に、カソード膜5の半分の面積を気相部に露出させた状態でイオン交換水を0.5mL量導入した以外は実施例1と同様にして反応を行った。得られた過酸化水素の生成濃度は6.43質量%、生成速度は1.07mmol・h-1、電流効率は43.7%であった。
【0066】
[実施例3]
カソード活物質として、カーボンファイバー粉末(昭和電工社製、VGCF)に代えてカーボンブラック(Cabot社製、XC−72)を用いた以外は実施例1と同様にしてテトラフェニルポルフィリンコバルト/カーボンブラック(テトラフェニルポルフィリンコバルトの担持量は、コバルト金属基準で0.3質量%とした。)を調製し、反応を行った。得られた過酸化水素の生成濃度は13.9質量%、生成速度は2.61mmol・h-1、電流効率は40.9%であった。
【0067】
[実施例4]
カソード活物質として、カーボンファイバー粉末(昭和電工社製、VGCF)に代えてカーボンブラック(Cabot社製、XC−72)を用い、実施例1と同様にしてテトラフェニルポルフィリンコバルト/カーボンブラック(テトラフェニルポルフィリンコバルトの担持量は、コバルト金属基準で0.05質量%とした。)を調製した。得られたテトラフェニルポルフィリンコバルト/カーボンブラック4mgとした以外は実施例1と同様にして反応を行った。得られた過酸化水素の生成濃度は22.9質量%、生成速度は0.80mmol・h-1、電流効率は28.7%であった。
【0068】
[実施例5]
カソード活物質として、1,10−フェナントロリン(アルドリッチ和光純薬製)とカーボンブラック(Cabot社製、XC−72)と塩化コバルト6水和物(和光純薬アルドリッチ製)をエタノール中に溶解、分散させた後、エタノールを留去してカーボンブラック上に含浸担持した混合粉末をヘリウム気流中150℃で1時間乾燥させた後、700℃で2時間熱処理活性化してコバルト−フェナントロリン/カーボンブラック(コバルト−フェナントロリンの担持量は、コバルト金属基準で0.1質量%とした。)を得た。こうして得られたカソード活物質4mgを用い、カソード側中間室6に、カソード膜5の半分の面積を気相部に露出させた状態でイオン交換水を0.5mL量導入した以外は実施例1と同様にして反応を行った。得られた過酸化水素の生成濃度は6.1質量%、生成速度は0.97mmol・h-1、電流効率は31.52%であった。
【0069】
[実施例6]
1,10−フェナントロリン(和光純薬製)に代えて2,2−ビピリジル(和光純薬製)を用い、熱処理活性化温度を550℃とした以外は実施例5と同様にして反応を行った。得られた過酸化水素の生成濃度は4.0質量%、生成速度は0.46mmol・h-1、電流効率は34.3%であった。
【0070】
[比較例1]
開回路条件(両極間を短絡させない)とした以外は、実施例1と同様にして反応を行った。その結果、反応は進行せず、過酸化水素の生成は認められなかった。
【0071】
[比較例2]
アノード室1に水素と酸素の混合ガスを供給した以外は、実施例1と同様にして反応を行った。その結果、反応は進行するが、過酸化水素は生成せず、得られた生成物は水のみであった。
【0072】
[比較例3]
カソード室2に水素と酸素の混合ガスを供給した以外は、実施例1と同様にして反応を行った。その結果、反応は進行せず、過酸化水素の生成は認められなかった。
比較例1〜3の結果より、本反応は燃料電池型反応によって進行することが明白である。
【0073】
[比較例4]
アノード膜3を気相部に露出させず、完全にイオン交換水で満たした以外は実施例1と同様にして反応を行った。その結果、反応は進行せず、過酸化水素の生成は認められなかった。
【0074】
[比較例5]
アノード室1にイオン交換水を導入せず、カソード側中間室6に、カソード膜5の半分の面積を気相部に露出させた状態でイオン交換水を0.5mL量導入した以外は実施例1と同様にして反応を行った。得られた過酸化水素の生成濃度は4.4質量%、生成速度は0.42mmol・h-1、電流効率は14.3%であった。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の燃料電池型反応装置、該燃料電池型反応装置を用いた化合物の製造方法は、化学品、特に水素と酸素から過酸化水素を、容易にしかも高選択率かつ高効率で製造することができ、また、必要により、電気エネルギーを得ることもできることから、化学工業において有用な化合物、特に水素と酸素から過酸化水素を製造するために用いることができる。
【符号の説明】
【0076】
1 アノード室
2 カソード室
3 アノード膜
4 電解質膜
5 カソード膜
6 カソード側中間室
7 還元性物質の入口
8 酸化性物質の入口
9 還元性物質の排出口
10 酸化性物質の排出口
11 リード線
12 電流計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノード膜、カソード膜、及び電解質膜を一体化させたユニット膜によりアノード室、カソード室に区画され、両極間を電子伝導体で外部短絡した構造である燃料電池型反応装置であって、
前記アノード膜の一部が気相部に露出した状態でアノード室に水又は電解質水溶液を存在させ、
前記カソード膜が、含窒素有機化合物を配位させた金属錯体と導電性炭素材料を含む混合物を熱処理して得られた触媒電極である、燃料電池型反応装置。
【請求項2】
前記アノード室に還元性物質を供給して、前記カソード室に酸化性物質を供給して、前記カソード膜中に反応生成物を発生させる、請求項1に記載の燃料電池型反応装置。
【請求項3】
前記カソード膜が、導電性炭素材料を含む支持体に、前記金属錯体及び前記導電性炭素材料を含むカソード活物質を塗布して得られた触媒電極である、請求項1又は2に記載の燃料電池型反応装置。
【請求項4】
前記金属錯体が、金属アミン類、金属ピリジン類、金属フェナントロリン類、及び金属ポルフィリン類からなる群から選ばれる1種又は2種以上である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の燃料電池型反応装置。
【請求項5】
前記導電性炭素材料が、活性炭、カーボンファイバー、グラファイト、カーボンウィスカー、カーボンブラック、カーボンペーパー、及びアセチレンブラックからなる群より選ばれる1種又は2種以上の炭素材料である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の燃料電池型反応装置。
【請求項6】
酸化還元反応による化合物の製造方法であって、請求項1〜5のいずれか1項に記載の燃料電池型反応装置を用い、前記アノード室に還元性物質を導入し、前記カソード室に酸化性物質を導入して、カソード膜において該還元性物質と該酸化性物質から化合物を製造する、化合物の製造方法。
【請求項7】
前記還元性物質が水素供与体であり、前記酸化性物質が酸素であり、製造される化合物が過酸化水素である、請求項6に記載の化合物の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−215938(P2010−215938A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−61309(P2009−61309)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】