説明

燃料電池構成要素に使用するポリマー

【課題】新規なプロトン伝導性炭化水素系ポリマーを提供する。
【解決手段】プロトン伝導性炭化水素系ポリマーは、半フッ素化した芳香族炭化水素の主鎖ならびに少なくとも1個の−CF2−基および酸性基を含む側鎖を含む。芳香族ポリマー、主鎖および側鎖の両方に結合しており、そのうちの約65重量%未満が側鎖に結合している酸性基を含む。芳香族ポリマーは、少なくとも1個のアリール環を含む、主鎖に結合した側鎖と、主鎖およびアリール基の両方に結合した酸性基とを含む。ポリマーは、脂肪族炭化水素の主鎖と、少なくとも1個の不活性化したアリール環を含む側鎖と、不活性化したアリール環に結合した酸性基とを含む。別の脂肪族ポリマーは、−CF2−基および酸性基を含む側鎖を有する。燃料電池構成要素は、プロトン伝導性ポリマーと、水不溶性無機材料と、無機材料上に固定したヘテロポリ酸とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、その開示が参照により本明細書に組み込まれている、2005年9月30日出願の米国仮特許出願第60/722857号、2005年10月28日出願の米国仮特許出願第60/731441号、2005年11月15日出願の米国仮特許出願第60/736815号、2005年12月8日出願の米国仮特許出願第60/748658号に対する特典を主張する。
【0002】
本発明は概してポリマー、特に、燃料電池のポリマー電解質膜および電極などの燃料電池構成要素に使用するのに適切なプロトン伝導性ポリマーに関する。
【背景技術】
【0003】
燃料電池は、大部分の現行法よりも高い効率および低い排出量で発電する、将来有望な技術である。ポリマー電解質膜(polymer electrolyte membrane)(「PEM」)燃料電池は、アノード(anode)とカソード(cathode)とに挟まれたプロトン伝導性ポリマー膜を含む。水素またはメタノールなどの燃料は流れてアノードと接触し、そこで電子とプロトンに解離する。膜を通過できない電子は、アノードからカソードへ電気負荷を含有する外部回路を通って流れ、電池から生じた電力が電気負荷によって消費される。電池の反対側では、カソードが空気から酸素を吸着し、外部回路を通る電子を引きつける電位を発生させることにより、吸着した酸素に電子を付与する。吸着した酸素が2個の電子を受け取ると、負に帯電した酸素陰イオンを形成する。ポリマー電解質膜によって、プロトンは膜を通過して分散することができる。2個のプロトンが酸素陰イオンと出会うと、共に結合して水を形成する。
【0004】
燃料電池はかなり進歩したが、商用化に向けて未だ存在する障壁は大きい。特に燃料電池のコストは未だに高い。最も広く使用されているポリマー電解質膜は、DuPontよりナフィオン(Nafion)(登録商標)の商品名で販売されているフッ素系ポリマー膜であり、比較的高価で売られている。フッ素系ポリマー膜は、高温での耐久性が低いこと、通常の作動温度で一酸化炭素による汚染を受けやすいこと、直接メタノール型燃料電池におけるメタノールのクロスオーバー(methanol crossover)があること、および水分管理特性が悪いなど他の欠点もある。
【0005】
したがって、燃料電池のポリマー電解質膜を作製するのに使用する代替のプロトン伝導性ポリマーを提供することは、望ましいであろう。
【0006】
プロトン伝導性ポリマーは、ポリマー電解質膜に加え他の燃料電池構成要素にも使用することができる。例えば、プロトン伝導性ポリマーは、燃料電池用の電極を調製する上で、炭素担持触媒の粒子と共に、バインダーとしても使用できる。電極など他の燃料電池構成要素を作製するのに使用する代替のプロトン伝導性ポリマーを提供することは、望ましいであろう。
【発明の要約】
【0007】
本発明は、芳香族炭化水素ポリマーの主鎖と、主鎖に結合した側鎖と、側鎖に結合した酸性基とを含み、酸性基が、主鎖から原子7〜12個分離れた、側鎖上の原子に結合しているプロトン伝導性炭化水素系ポリマーに関する。
【0008】
本発明はまた、半フッ素化芳香族炭化水素ポリマーの主鎖と、主鎖に結合した側鎖とを含み、側鎖が各側鎖内に少なくとも1個の−CF2−基と、各側鎖に結合した酸性基とを含むプロトン伝導性炭化水素系ポリマーに関する。
【0009】
本発明はまた、芳香族炭化水素ポリマーの主鎖と、主鎖に結合した側鎖とを含むプロトン伝導性炭化水素系ポリマーであって、側鎖が、各側鎖内に少なくとも1個の−CH2−CF2−基と、各側鎖に結合した酸性基とを含む、プロトン伝導性炭化水素系ポリマーに関する。
【0010】
本発明はまた、芳香族炭化水素ポリマーの主鎖と、主鎖に結合した側鎖とを含み、かつ主鎖と側鎖との両方に結合し、その約65重量%未満が側鎖に結合している酸性基を含む、プロトン伝導性炭化水素系ポリマーに関する。
【0011】
本発明はまた、芳香族炭化水素ポリマーの主鎖と、少なくとも1個のアリール環を含む、主鎖に結合した側鎖と、主鎖と側鎖のアリール基との両方に結合した酸性基とを含む、プロトン伝導性炭化水素系ポリマーに関する。
【0012】
本発明はまた、脂肪族炭化水素ポリマーの主鎖と、少なくとも1個の不活性化アリール環を含む、主鎖に結合した側鎖と、側鎖の不活性化アリール環に結合した酸性基とを含むプロトン伝導性炭化水素系ポリマーに関する。
【0013】
本発明はまた、脂肪族炭化水素ポリマーの主鎖と、各側鎖内の−CF2−基および各側鎖に結合した酸性基を含む、主鎖に結合した側鎖とを含む、プロトン伝導性炭化水素系ポリマーに関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、燃料電池システム用の燃料電池構成要素を作製するために使用することができるプロトン伝導性ポリマーのいくつかの実施形態を提供する。この燃料電池構成要素は、ポリマーが有用であると判定されるものであればいずれの種類でもよい。いくつかの非限定的な例として、膜電極接合体、膜、電極、触媒インク、ガス拡散層、および膜電極接合体を作製するためのバインダーが挙げられる。
【0015】
1.側鎖がスルホン酸−CH2−>6またはスルホン酸−CF2−もしくは−CH2−CF2−
このポリマーは、プロトン伝導性の炭化水素系ポリマーである。「プロトン伝導性」とは、プロトンが、燃料電池のポリマー電解質膜として使用するのに十分な速度でポリマーの膜を通過して拡散することが、ポリマーによって可能になることを意味する。「炭化水素系」とは、他の原子も存在し得るが、ポリマーは主にその主鎖に沿って炭素原子および水素原子で構成されていることを意味する。これには、米国特許第5094995号(本明細書に参照により組み込まれている)に開示されているようなNafion(登録商標)タイプのパーフルオロポリマーは含まれない。
【0016】
該ポリマーは、芳香族炭化水素ポリマーの主鎖を含む。この芳香族ポリマーは、その主鎖の酸化に対して耐性を示すことが好ましい。任意の適切な芳香族ポリマー(複数可)を主鎖に使用することができる。非限定的ないくつかの例としては、ポリスルホン(PS)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルスルホン(PES)、およびポリチオエーテルスルホンが挙げられる。
【0017】
該ポリマーは、主鎖に結合した側鎖も含む。該ポリマーはさらに側鎖に結合した酸性基も含む。本明細書で使用する場合、「酸性基」という用語は、酸性基および酸性基の塩の両方を含む。スルホン酸基、カルボン酸基、ホスホン酸基、ホスフィン酸基、またはボロン酸基など、このようなポリマーを作製するのに適切な任意の酸性基を使用することができる。異なる酸性基の混合物も使用できる。好ましくは、酸性基はスルホン酸基である。いくつかの実施形態において、酸性基は、末端基、すなわち側鎖の末端に結合する基である。
【0018】
本発明の第1の実施形態の一態様において、酸性基は、主鎖から原子7〜12個分離れた側鎖上の原子に結合している。ポリマーの全酸性基のうちの少なくとも約65重量%、好ましくは約75%、さらに好ましくは少なくとも約85%、最も好ましくは実質的にすべての酸性基が、これらの位置のうちの1箇所に結合している。例えば、側鎖は炭化水素の側鎖から構成され、酸性基は主鎖から炭素原子7〜12個分離れた、結合した炭素原子であってもよい。好ましい実施形態において、側鎖は6個を超える−CH2−基を含み、酸性基は、主鎖から6個よりも多く離れた−CH2−基に結合している。
【0019】
本発明の第1の実施形態の別の態様において、該ポリマーは、芳香族炭化水素ポリマーの主鎖を含むが、該主鎖は半フッ素化している。「半フッ素化」とは、ポリマーは、主鎖に沿って主に炭素原子および水素原子により構成されるが、ポリマーは主鎖に沿ってフッ素原子のかなりの部分も含むことを意味する。一実施形態において、主鎖は−C(CF−基を含む。任意の適切な半フッ素化芳香族炭化水素ポリマー(複数可)を主鎖に使用することができる。
【0020】
該ポリマーは、主鎖に結合した側鎖も含む。側鎖は、各側鎖内に少なくとも1個の−CF2−基を含む。一実施形態において側鎖は、各側鎖内に少なくとも2個または3個の基を含む。該側鎖は、上記の酸性基などの、側鎖に結合した酸性基も含む。いくつかの実施形態においてこの鎖は、末端の酸性基を除いて、本質的に−CF2−基から構成される。
【0021】
本発明の第1の実施形態の別の態様において、該ポリマーは、芳香族炭化水素ポリマーの主鎖を含み、各側鎖内に少なくとも1個の−CH2−CF2−基を含む側鎖を含む。一実施態様において該側鎖は、各側鎖内に少なくとも2個または3個の−CH2−CF2−基を含む。該側鎖は、上記の酸性基などの、側鎖に結合した酸性基も含む。いくつかの実施形態においてこの鎖は、末端の酸性基を除いて、本質的に−CH2−CF2−基から構成される。
【0022】
本発明の第1の実施形態による好ましいポリマーをいくつか以下に示す。
【0023】
【化1】

【0024】
2.主鎖および側鎖の混在スルホン酸
該ポリマーは、芳香族炭化水素ポリマーの主鎖と、主鎖に結合した側鎖とを含む。いくつかの実施形態において、側鎖は−CH2−基または−CF2−基を含む。該ポリマーは、主鎖と側鎖との両方に結合した、上記の酸性基なども含む。好ましくは、酸性基の約65重量%未満が側鎖に結合している。
【0025】
本発明の第2の実施形態による好ましいポリマーをいくつか以下に示す。
【0026】
【化2】

【0027】
3.側鎖がアリールスルホン酸
該ポリマーは、芳香族炭化水素ポリマーの主鎖を含む。該ポリマーは、少なくとも1個のアリール環を含む、主鎖に結合した側鎖も含む。いくつかの実施形態において、側鎖は少なくとも2個または3個のアリール環を含む。側鎖は、アリール環に加えて他の基を含んでもよい。
【0028】
該ポリマーは、主鎖と側鎖のアリール基との両方に結合した、上記の酸性基などをさらに含む。いくつかの実施形態において側鎖は、各側鎖に結合した2個以上の酸性基を含む。主鎖に結合した酸性基は、任意の適切な位置に結合でき、通常主鎖のアリール基に結合している。
【0029】
好ましい実施形態においてポリマーは、以下一般構造式を有するスルホン化ジハロモノマーから得る。
【0030】
【化3】

[式中、
R=H、Li、Na、K、Csであり、
X=F、Clであり
Y=結合、−C(=O)−、−SO2−、−C(CF−、−(CH2)n− n=1〜10であり、
Q=結合、アリール、アルキル、フルオロアルキル、縮合複素環などである。]
【0031】
本発明の第3の実施形態による好ましいポリマーを以下に示す。
【0032】
【化4】

【0033】
4.主鎖が脂肪族炭化水素および側鎖が芳香族スルホン酸
該ポリマーは、脂肪族炭化水素ポリマーの主鎖を含む。該ポリマーは、少なくとも1個の不活性化アリール環を含む、主鎖に結合した側鎖と、側鎖の不活性化アリール環に結合した酸性基とをも含む。「不活性化」アリール環とは、プロトン伝導性の酸性基が、スルホン、ケトン、ニトリル、ニトロ、四級アンモニウム塩などの不活性化した官能基に対してメタ配置されていることを意味する。これら不活性化官能基によって、芳香環は、燃料電池の作動条件下でプロトン伝導性酸性基が膜から脱離しにくくなる。酸性基を不活性化アリール環上に配置することによって、燃料電池作動中の脱離反応および望まない架橋を回避し得る。
【0034】
本発明のいくつかの実施形態において、該ポリマーは、置換反応を受ける官能基を有するポリマーと、芳香族ハロ化合物とを反応させることによって得られる。例えば、芳香族ハロ化合物は、以下の一般構造式を有するスルホン化芳香族ハロ化合物であってよい。
【0035】
【化5】

[式中、
R=H、Li、Na、K、Csであり、
X=F、Clであり、
Y=結合、−C(=O)−、−SO2−、−C(CF−、−(CH2)n−、n=1〜10であり、
Q=結合、アリール、アルキル、フルオロアルキル、縮合複素環などである。]
【0036】
本発明の第4の実施形態による好ましいポリマーをいくつか以下に示す。
【0037】
【化6】

【0038】
5.主鎖が脂肪族炭化水素および側鎖がフルオロアルキルスルホン酸
該ポリマーは脂肪族炭化水素ポリマーの主鎖を含む。該ポリマーは、−CF2−基を含む側鎖も含む。いくつかの実施形態において、側鎖は2〜3個またはそれ以上の−CF2−基を含む。該ポリマーは、側鎖に結合している酸性基も含む。いくつかの実施形態において、酸性基は、側鎖の端に結合している。
【0039】
本発明の第5の実施形態による好ましいポリマーを以下に示す。
【0040】
【化7】

【0041】
6.前記ポリマーのいずれかに対し化学結合した無機添加剤
該ポリマーは、本発明の最初の5つの実施形態に記載したポリマーのいずれかを含み、ポリマーに化学結合した(共有結合またはイオン結合した)1種または複数の無機添加剤をさらに含む。添加剤はポリマーの特性を改善する。そのような添加剤は、例えばイミダゾール、リグノスルホネート、リンタングステン酸、ポリタングステン酸、硫酸水素セシウム、ジルコニウムオキシ塩、リンモリブデン酸、またはケイタングステン酸を含み得る。
【0042】
本発明の化学結合した添加剤とは対照的に、無機添加剤とポリマーとの物理的なブレンドは、それら固有の水溶性により、時間の経過と共に浸出する傾向にある。これら添加剤を化学結合することによって、この浸出を排除し、膜の耐久性を改善し得る。例えば、化学結合した添加剤により、膜内の吸水量が減少するので耐久性は改善し、これによって膜の機械的特性および疲労抵抗(収縮−膨潤のサイクル)が改善し得る。これら添加剤を化学結合することにより、意図する用途に応じて、添加剤の配置を酸性基から近くにも遠くにも制御し得る。こうして膜全体にわたって水の輸送をある程度制御することにより、性能および耐久性をさらに改善し得る。物理的にブレンドした添加剤であれば、膜のTgをもたらさないであろうが、化学結合した添加剤はTgを増加させ、高温および低RHにおいて、クリープおよびピンホールの形成を低減し得る。
【0043】
7.化学結合した(chemically bonded)金属リン酸塩または金属ホスホン酸塩
該ポリマーは、本発明の最初の5つの実施形態に記載したすべてのポリマーを含み、ポリマーに化学結合した金属リン酸塩または金属ホスホン酸塩をさらに含む。これらの材料とポリマーとの物理的ブレンドとは対照的に、本発明の化学結合した材料は燃料電池構成要素に有利な結果を生じ得る。任意の適切なリン酸塩もしくはホスホン酸塩またはその組合せを使用することができる。いくつかの非限定的な例は、金属リン酸塩、金属ホスホン酸塩、金属リン酸水素塩、金属ホスホン酸水素塩、金属ピロリン酸塩、および金属スルホフェニルリン酸塩を含む。任意の適切な金属グループまたはその組合せを使用することができる。いくつかの非限定的な例は、Ti、V、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Zr、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、W、Pt、およびAuなどの遷移金属、ならびにB、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Se、およびTeなどの非遷移金属を含む。一実施態様において、ジルコニウムが好ましい金属である。
【0044】
本発明の第7の実施形態による好ましいポリマーは、酸と錯塩を形成することのできる塩基性ポリマーである。そのような塩基性ポリマーは、ポリ(ビニルピリジン)、ポリ(5,5’−ビベンズイミダゾール−2,2’−ビフェニリレン)、ポリ(2,6−ベンズイミダゾール−ジイルスルホニル−5,2−ベンズイミダゾールジイル−1,3−フェニレン)、ポリ(m−フェニレン)、o,m−2−ベンゾオキサゾール、ポリ(m−フェニレン)、o,m−5−メチル−2−ベンゾオキサゾール、ポリ(アリーレン−1,3,4−オキサジアゾール)、ポリ(アリールエーテルフタラジン)を含むがこれらに限らない。好ましいポリマーを以下に示す。
【0045】
【化8】

【0046】
本発明は、膨潤を低減するために、ポリ(アリーレンエーテルスルホン)ポリマーおよび他の炭化水素系ポリマーで作製されたポリマー電解質膜に、疎水性改質剤、特にパーフルオロポリマーまたはコポリマー(以下に示す)を添加することを含む。パーフルオロコポリマーは、最高30重量%までのポリ(アリーレンエーテルスルホン)と巨視的に相容である。
【0047】
【化9】

【0048】
本発明は、ポリ(スルホンエーテルベンザゾール)、特にポリ(スルホンエーテルベンゾオキサゾール)およびポリ(スルホンエーテルベンズイミダゾール)(両方とも以下に示す)ならびにこれらとポリ(アリーレンエーテルスルホン)および他の炭化水素系ポリマーで作製されたポリマー電解質膜との複合材を作製する方法も含む。
【0049】
【化10】

実施例
【実施例1】
【0050】
本実施例は、側鎖にアリールスルホン酸を有する芳香族炭化水素PEMの合成を記載する。
【0051】
ステップ1:アリールスルホン酸モノマー(1)の合成
【0052】
【化11】

【0053】
スキーム:アリールスルホン酸モノマー(1)の合成
標準的な実験手順で、オーバーヘッド・スターラー、不活性ガス注入口およびコンデンサーを備えた250ミリリットル(ml)の三ツ口丸底フラスコ内で2,4−ジクロロベンゾフェノン10gを計量した。発煙硫酸(15ml)をゆっくりとフラスコに加えた。フラスコの内容物を、油浴を用いてゆっくりと110℃に加熱し、その温度で2時間維持し、次いで室温に冷却した。その溶液を250mlの氷水に注いだ。酸性溶液をNaOHで中和し、NaClを用いて塩析した。生成物をろ過で単離し、NaCl飽和溶液で数回洗浄した。次いで生成物を熱エタノールから再結晶化した。
【0054】
ステップ2:2,4−ジクロロベンゾフェノンを用いたPEMの合成
攪拌棒、熱電対、Dean Starkコンデンサー、およびガスパージ用の注入口が取り付けてある樹脂製反応釜(resin kettle)に、ビスフェノールA(5.0018g、0.0219モル)と、4,4’−ジフルオロベンゾフェノン(3.3425、0.0153モル)、2,4−ジクロロベンゾフェノン(1.6575g、0.0066モル)、KCO(6.1g)、80mlのN−メチル−2−ピロリジノン、および40mlのトルエンを仕込んだ。還流温度に達するまで(〜133℃)試薬をゆっくりと加熱し、還流を4時間維持する。トルエンを徐々に取り去り、温度を180℃まで上げた。その温度で反応を20時間維持した。20時間の終わりに、反応混合液を80℃まで冷却し、ワットマン濾紙No.4を取り付けたブフナーロートを用いて、ポリマー溶液をろ過した。ろ過したポリマー溶液を、水中で沈殿させ、真空炉内で、120℃で24時間乾燥させることにより単離した。原理上は、2,4−ジクロロベンゾフェノンの代わりにモノマー(1)を使用して、アリールスルホン酸側鎖を有するPEMを得ることができる。
【実施例2】
【0055】
本実施例は、側鎖にアリールスルホン酸を有する脂肪族炭化水素PEMの合成を記載する。
【0056】
ステップ1:モノマー(2)の合成
【0057】
【化12】

【0058】
スキーム:モノマー(2)の合成
モノマー2を上記の反応スキームに従い合成した。標準的な実験手順で、オーバーヘッド・スターラー、不活性ガス注入口およびコンデンサーを備えた250mlの三ツ口丸底フラスコ内で4−クロロフェニルスルホン10gを計量した。発煙硫酸(40g)をゆっくりとフラスコに加えた。フラスコの内容物を、油浴を用いてゆっくりと110℃に加熱し、その温度で2時間維持し、次いで室温に冷却した。その溶液を250mlの氷水に注いだ。酸性溶液をNaOHで中和し、NaClを用いて塩析した。生成物をろ過で単離し、NaCl飽和溶液で数回洗浄した。次いで生成物を熱エタノールから再結晶化した。
【0059】
ステップ2:ポリマーの合成
攪拌棒、熱電対、Dean Starkコンデンサー、およびガスパージ用の注入口が取り付けてある100mlの三ツ口丸底フラスコに、1gのポリ(4−ビニルフェノール)(Aldrich社製の、平均分子量8000を有するもの)、1.22gのモノマー2(0.0028モル)、KCO(0.4g、0.0029モル)、25mlのN,N−ジメチルアセトアミド、および25mlのトルエンを仕込んだ。還流温度に達するまで(〜133℃)まで試薬をゆっくりと加熱し、還流を4時間維持する。トルエンを徐々に取り去り、温度を160℃まで上げた。その温度で反応を20時間維持した。20時間の終わりに、反応混合液を80℃まで冷却し、ワットマン濾紙No.4を取り付けたブフナーロートを用いて、ポリマー溶液をろ過した。ろ過したポリマー溶液を、水中で沈殿させ、真空炉内で、120℃で24時間乾燥させることにより単離した。
【実施例3】
【0060】
本実施例では、リン酸水素ジルコニウムのPEMへのイオン結合を実証する。この目的のために、以下の手順に従い、窒素含有の複素環式ポリマーを作製した。攪拌棒、熱電対、コンデンサー、およびガスパージ用の注入口が取り付けてある樹脂製反応釜の中に、3,3ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン(4.916g、0.017モル)、4,4’−オキシビス安息香酸(2.944g、0.0114モル)、5−スルホイソフタル酸(1.548g、0.0061モル)および137gのポリリン酸を仕込んだ。試薬を160℃に加熱し、この温度を4時間維持した。温度を190℃に上げ、その温度を20時間維持した。フラスコ内の内容物を2Lの蒸留水に注ぎ、取得したポリマーを10%の水酸化アンモニウム溶液で洗浄し、次いで水で洗浄してpHを中性にする。ポリマーを真空炉で、120℃で24時間乾燥させ、乾燥ポリマーを得た。上記で作製した窒素含有の複素環式ポリマー(1g)をポリ(アリールエーテルスルホン)(1g)と混合し、5mlのジメチルアセトアミド中に溶解した。ポリマー溶液をガラスプレート上でキャスティングし、溶媒を熱で除去し、自立膜を得た。ポリマー膜をHCl中12%(重量/体積)のZrOCl8HOに浸漬した。3時間後に膜を取り除き、50%のリン酸溶液に30分間浸した。ポリマーフィルムを別のガラストレイに移し、炉内に80℃で3時間保った。膜を炉から取り出し、室温まで冷却し、リトマス試験紙で中性になるまで水で洗浄した。ポリマー膜を炉内で、120℃で4時間乾燥する。単体ポリマー膜とZrOCl8HO処理した膜との重量差は、〜2重量%までのリン酸水素ジルコニウムZr(HPOがポリマー膜に取込まれていることを示している。Zr(HPO含有ポリマー膜(0.1672g)を24時間熱水で抽出し、ポリマー膜を真空炉で6時間乾燥させた。抽出後のポリマー膜の重量は、そのまま同じであり、これはZr(HPOがポリマー膜に結合していることを示している。
【0061】
対照実施例1:スルホン化ポリ(アリールエーテルスルホン)/リン酸水素ジルコニウムの複合膜
スルホン酸%が約35%の寸法既知(4cm×4cm)のスルホン化ポリ(アリールエーテルスルホン)膜をビーカーの中に取り、ZrOCl・8HOの水溶液50ml(10重量/体積%)を加えた。内容物を60℃に2時間加熱した。膜を取り出し、膜表面上の過剰な溶液を、ワットマン4濾紙を用いて拭い取り、1N HPO中に60℃で2時間含浸した。最後に、膜を洗浄液がリトマス試験紙で中性になるまで良く水洗した。
【0062】
対照実施例2:スルホン化ポリ(アリールエーテルスルホン)/リンタングステン酸の複合膜
スルホン酸%が約35%の寸法既知(4cm×4cm)のスルホン化ポリ(アリールエーテルスルホン)膜をビーカーの中に取り、1NのHPO50mlを加えた。内容物を60℃で2時間加熱した。膜をリトマス試験紙で中性になるまで良く水洗した。次いで膜を50mlのリンタングステン酸水溶液(10重量/体積%)内で含浸した。内容物を60℃に2時間加熱した。膜を取り出し、膜表面上の過剰な溶液を、ワットマン4濾紙を用いて拭い取り、乾燥させた。
【0063】
特許法の規定に従い、本発明の原理および実施例をその好ましい実施形態にて説明および例証してきた。しかし、本発明は、その趣旨または範囲から逸脱することなく、具体的に説明および例証されたものとは異なる方法で実施し得ることを理解しなければならない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半フッ素化した芳香族炭化水素の主鎖と、前記主鎖に結合した側鎖とを含み、前記側鎖が、各側鎖内に7〜10個の−CF−基と、各側鎖に結合した酸性基とを含む、プロトン伝導性炭化水素系ポリマー。
【請求項2】
主鎖が−C(CF−基を含む、請求項1に記載のプロトン伝導性ポリマー。
【請求項3】
酸性基がスルホン酸塩基を含む、請求項1に記載のプロトン伝導性ポリマー。
【請求項4】
芳香族炭化水素ポリマーの主鎖と、前記主鎖に結合した側鎖とを含み、前記側鎖が少なくとも3個の−CH−CF−基と、−CH−基と−CF−基とを合計して7〜10個含み、各側鎖は末端酸性基とを含む、プロトン伝導性炭化水素系ポリマー。
【請求項5】
酸性基がスルホン酸塩基を含む、請求項4に記載のプロトン伝導性ポリマー。
【請求項6】
側鎖が8〜10個の−CF−基含む、請求項4に記載のプロトン伝導性ポリマー。
【請求項7】
側鎖が実質的に−CF−基と末端スルホン酸塩基とから成る、請求項6に記載のプロトン伝導性ポリマー。
【請求項8】
側鎖が9〜10個の−CF−基を含む、請求項6に記載のプロトン伝導性ポリマー。
【請求項9】
ポリマーが、ポリスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホンおよびポリチオエーテルスルホンから成る群から選ばれる、請求項8に記載のプロトン伝導性ポリマー。
【請求項10】
化学的にポリマーと結合し、その特性を改善する無機添加剤をさらに含む、請求項1に記載のプロトン伝導性ポリマー。
【請求項11】
側鎖が−CH−基と−CF−基とを合計して8〜10個含む、請求項4に記載のプロトン伝導性ポリマー。
【請求項12】
側鎖が実質的に−CH−基と−CF−基および末端スルホン酸塩基とから成る、請求項11に記載のプロトン伝導性ポリマー。
【請求項13】
側鎖が合計して9〜10個の−CH−基と−CF−基を含む、請求項11に記載のプロトン伝導性ポリマー。
【請求項14】
ポリマーが、ポリスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホンおよびポリチオエーテルスルホンから成る群から選ばれる、請求項13に記載のプロトン伝導性ポリマー。
【請求項15】
化学的にポリマーと結合し、その特性を改善する無機添加剤をさらに含む、請求項4に記載のプロトン伝導性ポリマー。

【公開番号】特開2013−82931(P2013−82931A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−276672(P2012−276672)
【出願日】平成24年12月19日(2012.12.19)
【分割の表示】特願2008−533729(P2008−533729)の分割
【原出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(504294547)バトル、メモリアル、インスティテュート (6)
【Fターム(参考)】