説明

燃料電池状態診断装置

【課題】部品点数の増加を招くことなく、燃料電池の状態を診断可能な燃料電池状態診断装置を提供する。
【解決手段】燃料電池1に対して所定の波形を有する交流電流を印加する交流電流印加部51と、診断対象となる単位セル10の局所部位に流れる局所電流を検出する局所電流検出部4と、局所電流から交流成分を抽出して交流成分における周波数特性を算出する演算部521と、交流電流における周波数特性と局所電流における周波数特性との対応関係に基づいて燃料電池の状態を診断する状態診断手段62と、を備える。これによると、単位セル10のセル電圧を検出するセル電圧検出手段を備える必要がないので、部品点数の増加を招くことなく燃料電池1の状態を診断することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池の状態を診断する燃料電池状態診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、交流インピーダンス法により燃料電池のインピーダンス(内部抵抗)を測定し、測定したインピーダンスに基づいて、燃料電池の状態を診断する構成が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この特許文献1では、燃料電池の単位セルの電圧(セル電圧)を検出するセル電圧センサ、および単位セルの局所部位を流れる電流を検出する局所電流センサの検出値に基づいて、単位セルの局所部位におけるインピーダンスを測定するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−252706号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の如く、交流インピーダンス法を用いて交流インピーダンスを測定する構成では、局所電流センサおよびセル電圧センサ(セル電圧検出手段)が必要となるため、燃料電池状態診断装置における部品点数が増加して、コストアップとなる問題がある。特に、セル電圧センサは、特別な絶縁対策等を施す必要があり、コストアップの主要因となる。
【0006】
本発明は上記点に鑑みて、部品点数の増加を招くことなく、燃料電池の状態を診断可能な燃料電池状態診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明者らは鋭意検討を重ねた。この結果、燃料電池に対して所定の交流電流を印加した際の電流変動(応答特性)が、燃料電池の状態により異なることに着眼し、燃料電池に交流電流を印加した際の電流変動によって燃料電池の状態を診断する構成を案出した。すなわち、酸素を主成分とする酸化剤ガスと水素を主成分とする燃料ガスとを電気化学反応させて電気エネルギを発生させる単位セル(10)が複数積層された燃料電池(1)の状態を診断する燃料電池状態診断装置であって、燃料電池(1)に対して所定の波形を有する交流電流を印加する交流電流印加手段(51)と、診断対象となる単位セル(10)の局所部位に流れる局所電流を検出する局所電流検出手段(4)と、局所電流から交流成分を抽出して交流成分における周波数特性を算出する周波数特性算出手段(521)と、交流電流における周波数特性と局所電流における周波数特性との対応関係に基づいて燃料電池の状態を診断する状態診断手段(62)と、を備えることを特徴とする。
【0008】
これによると、単位セル(10)のセル電圧を検出するセル電圧検出手段を備える必要がないので、部品点数の増加を招くことなく燃料電池(1)の状態を診断することが可能となる。
【0009】
また、請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の燃料電池状態診断装置において、交流電流における周波数特性を入力とし、局所電流における周波数特性を出力とした局所伝達関数を算出する局所伝達関数算出手段(522)と、燃料電池(1)の状態に応じて予め設定された複数の基準伝達関数を記憶する記憶手段(61)と、を備え、状態診断手段(62)は、複数の基準伝達関数から伝達関数算出手段(522)にて算出された局所伝達関数に対応する基準伝達関数を選択し、選択した基準伝達関数に基づいて燃料電池(1)の状態を特定することを特徴とする。
【0010】
このように、燃料電池(1)に対して所定の交流電流を印加した際の局所電流の変動を示す局所伝達関数を算出することで、燃料電池(1)の状態を診断することができる。
【0011】
なお、この欄および特許請求の範囲で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】第1実施形態に係る燃料電池システムの概略構成図である。
【図2】第1実施形態に係る信号処理装置の模式図である。
【図3】局所伝達関数の周波数特性の一例を示すナイキスト線図である。
【図4】燃料電池の状態に応じた局所伝達関数の周波数特性を示すナイキスト線図である。
【図5】交流電流の周波数を変化させた場合の局所伝達関数の周波数特性を示すボード線図である。
【図6】本実施形態の信号処理装置および制御装置にて行う制御処理を示すフローチャートである。
【図7】第2実施形態に係る信号処理装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。
【0014】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態について図1〜図6に基づいて説明する。図1は、本実施形態に係る燃料電池システムの概略構成図であり、図2は、本実施形態に係る信号処理装置5の模式図である。この燃料電池システムは、電気自動車の一種である、いわゆる燃料電池車両に適用されており、車両走行用電動モータ等の電気負荷に電力を供給するものである。
【0015】
まず、燃料電池システムは、図1に示すように、水素と酸素との電気化学反応を利用して電力を発生する燃料電池1を備えている。燃料電池1は、図示しない車両走行用電動モータや2次電池といった各種電気負荷に供給される電気エネルギを出力するもので、本実施形態では、固体高分子電解質型燃料電池を採用している。より具体的には、燃料電池1は、基本単位となる単位セル10が複数積層され、各単位セル10が電気的に直列に接続されて構成されたものである。
【0016】
図2に示すように、各単位セル10は、固体高分子からなる電解質膜100aの両側面に一対の電極100b、100cが配置された膜電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)100と、この膜電極接合体100を狭持する一対のセパレータ101、102で構成されている。
【0017】
一対のセパレータ101、102は、カーボン材や導電性金属よりなる板状プレートからなり、アノード電極100bと対向する面に水素が流れる水素流路(図示略)が形成され、カソード電極100cと対向する面に空気が流れる空気流路(図示略)が形成されている。
【0018】
単位セル10では、以下に示すように、水素と酸素とを電気化学反応させて、電気エネルギを出力する。
【0019】
(負極側:アノード電極)H→2H+2e
(正極側:カソード電極)2H+1/2O+2e→H
図1に戻り、燃料電池1と電気負荷2との間には、双方向に電力を伝達可能なDC−DCコンバータ(図示略)を介して電気的に接続されている。DC−DCコンバータは、燃料電池1から電気負荷、あるいは電気負荷から燃料電池1への電力の流れを制御するものである。
【0020】
燃料電池1における積層された複数の単位セル10の間には、診断対象となる特定の単位セル10(以下、診断対象セル10と称する。)の局所部位に流れる電流(局所電流)を検出する局所電流検出部4(局所電流検出手段)が設けられている。局所電流検出部4は、積層された単位セル10の間の任意の部位に設けることができる。
【0021】
局所電流検出部4は、診断対象セル10における水素出口部付近、空気出口部付近を含む複数部位に流れる局所電流を検出するために、複数の電流センサ(本実施形態では5個)を有して構成されている。局所電流検出部4を構成する電流センサとしては、シャント抵抗や磁気等を利用した周知のセンサを用いることができる。局所電流検出部4から出力される出力信号は、後述する信号処理装置5の演算処理部52にて演算処理される。なお、信号処理装置5については後述する。
【0022】
燃料電池1のカソード電極100c側には、酸素を主成分とする酸化剤ガス(空気)を燃料電池1に供給するための空気供給配管20、並びに、燃料電池1にて電気化学反応を終えた余剰空気および空気極で生成された生成水を燃料電池1から外気へ排出するための空気排出配管21が接続されている。
【0023】
空気供給配管20の最上流部には、大気中から吸入した空気を燃料電池1に圧送するための空気ポンプ22が設けられ、空気排出配管21には、燃料電池1内の空気の圧力を調整するための空気調圧弁23が設けられている。なお、本実施形態では、空気ポンプ22および空気調圧弁23によって、所定の流量および圧力の空気を燃料電池1に供給する空気供給手段が構成される。
【0024】
燃料電池1のアノード電極100b側には、水素を主成分とする燃料ガスを燃料電池1に供給するための水素供給配管30、アノード電極100b側に溜まった生成水を微量な水素と共に燃料電池1から外部へ排出するための水素排出配管31が接続されている。
【0025】
水素供給配管30の最上流部には、高圧水素が充填された高圧水素タンク32が設けられ、水素供給配管30における高圧水素タンク32と燃料電池1との間には、燃料電池1に供給される水素の圧力を調整する水素調圧弁33が設けられている。なお、本実施形態では、この水素調圧弁33によって、所望の圧力の水素を燃料電池1に供給する燃料ガス側のガス供給手段が構成される。
【0026】
水素排出配管31には、生成水を微量な水素とともに外気へ排出するために所定の時間間隔で開閉する電磁弁34が設けられている。なお、上述の電気化学反応では、アノード電極100b側において生成水は発生しないものの、アノード電極100b側には、カソード電極100c側から各セル10の電解質膜100aを透過した生成水が溜まるおそれがある。このため、本実施形態では、水素排出配管31および電磁弁34を設けている。
【0027】
燃料電池システムには、各種制御を行う発電制御手段としての制御装置(ECU)6が設けられている。この制御装置6は、入力信号に基づいて、燃料電池システムを構成する各種電気式アクチュエータの作動を制御するもので、CPU、およびROM、RAM等の記憶手段61からなる周知のマイクロコンピュータとその周辺回路にて構成されている。
【0028】
具体的には、制御装置6の入力側には、信号処理装置5、および車室内に設けられた車両起動スイッチ6aに接続されており、信号処理装置5および車両起動スイッチ6aからの出力信号が入力される。なお、車両起動スイッチ6aは、空気ポンプ22、空気調圧弁23、水素調圧弁33、電磁弁34等の作動開始信号を出力する開始信号出力手段の機能を兼ねる。なお、制御装置6の出力側には、上述の空気ポンプ22、空気調圧弁23、水素調圧弁33、電磁弁34等の各種電気式アクチュエータ、および信号処理装置5が接続されている。
【0029】
本実施形態の制御装置6は、信号処理装置5と双方向に通信可能に構成されており、信号処理装置5からの出力に基づいて、燃料電池1の状態を診断する。本実施形態では、制御装置6の一部および信号処理装置5が燃料電池1の状態を診断する燃料電池状態診断装置として機能する。
【0030】
次に、本実施形態の信号処理装置5について説明する。信号処理装置5は、診断対象セル10の出力電流に対して任意の周波数の交流電流を印加する交流印加部51、および局所電流検出部4で検出された局所電流を演算処理する演算処理部52、診断対象セル10の出力電流を検出する出力電流センサ53等で構成されている。
【0031】
交流印加部51は、診断対象セル10の出力電流に任意の周波数で正弦波等の交流電流を印加する交流電流印加手段を構成している。本実施形態の交流印加部51は、異なる複数の周波数を合成した交流信号を燃料電池1の出力信号に印加可能に構成されている。なお、交流印加部51にて印加する交流電流は、燃料電池1の発電状態に影響しないように、燃料電池1における発電電流の10%以下とすることが好ましい。
【0032】
演算処理部52は、交流印加部51にて印加した交流電流と同一周波数の交流成分を抽出し、抽出した交流成分の周波数特性を算出する演算部521と、演算部521での演算結果に基づいて診断対象セルの各局所部位における局所伝達関数Fnを算出する局所伝達関数算出部522を有して構成されている。なお、本実施形態では、演算部521が周波数特性算出手段を構成し、局所伝達関数算出部522が局所伝達関数算出手段を構成している。
【0033】
演算部521は、交流印加部51にて診断対象セル10に交流電流を印加した際、出力電流センサ53および局所電流検出部4の各電流センサから、交流印加部51にて印加した交流電流と同一周波数の交流成分を抽出し、各交流成分における周波数特性(ゲインや位相差等)を算出する。なお、演算部521で求めた出力電流センサ53の交流成分における周波数特性は、実質的に交流印加部51にて印加した交流電流の周波数特性と同じ特性となる。
【0034】
局所伝達関数算出部522は、演算部521で求めた出力電流センサ53の交流成分における周波数特性(全体での電流変動)ΔIを入力とし、局所電流検出部4の各電流センサの交流成分における周波数特性(局所電流変動)Δinを出力とした局所伝達関数Fnを算出する。局所伝達関数算出部522において算出した局所伝達関数Fnの周波数特性は、図3に示すような軌跡となる。図3は、局所伝達関数Fnの周波数特性の一例を示すナイキスト線図であり、図中のRe(F)が実数部、Im(F)が虚数部、Abs(F)がゲイン、θ(F)が位相差を示している。
【0035】
この局所伝達関数Fnは、診断対象セル10に対して交流電流を印加した際の電流変動(応答特性)を示しており、その周波数特性が燃料電池1の状態に応じて変化する。このため、本実施形態では、制御装置6にて、局所伝達関数算出部522で算出した局所伝達関数Fnに基づいて燃料電池1の状態を診断する診断処理を行う。本実施形態では、制御装置6における燃料電池1の状態を診断する構成(ソフトウェアおよびハードウェアを含む。)を状態診断手段62とする。
【0036】
次に、本実施形態における燃料電池1の状態の診断方法について、図4および図5に基づいて説明する。図4は、燃料電池1の状態に応じた局所伝達関数Fnの周波数特性を示すナイキスト線図である。また、図5は、交流電流の周波数を変化させた場合の局所伝達関数Fnの周波数特性を示すボード線図であり、図5の(a)が周波数を変化させた場合のゲインの変化を示し、(b)が周波数を変化させた場合の位相差の変化を示している。
【0037】
図4に示すように、燃料電池1の状態が正常状態(正常)、酸素が欠乏した状態(酸素欠乏)、および水素が欠乏した状態(水素欠乏)では、それぞれ異なる周波数特性を示すことが分かる。
【0038】
このため、燃料電池1の状態が正常状態(正常)、酸素が欠乏した状態(酸素欠乏)、および水素が欠乏した状態(水素欠乏)における伝達関数を基準伝達関数として予め制御装置6の記憶手段61に記憶し、記憶手段61に記憶した各基準伝達関数と、局所伝達関数算出部522にて算出した局所伝達関数Fnとを比較することで、燃料電池1の状態を推定することが可能となる。
【0039】
また、図5に示すように、燃料電池1の状態が正常状態(正常)、酸素が欠乏した状態(酸素欠乏)、および水素が欠乏した状態(水素欠乏)では、10Hz以下の周波数帯域で、ゲインおよび位相差が顕著に異なることが分かる。
【0040】
従って、交流印加部51にて印加する交流電流の周波数を10Hz以下とし、当該交流電流を印加した際に局所伝達関数算出部522にて算出した局所伝達関数Fnと、記憶手段61に記憶した各基準伝達関数との対応関係を比較照合することで、燃料電池1の状態を精度よく推定することが可能となる。
【0041】
なお、単位セル10では、水素流路の出口側にて水素欠乏が生じ易いため、水素流路の出口側付近の局所電流を用いて算出した局所伝達関数Fnを用いることで、燃料電池1の水素欠乏を精度よく推定することができる。また、単位セル10では、空気流路の出口側にて酸素欠乏が生じ易いため、空気流路の出口側付近の局所電流を用いて算出した局所伝達関数Fnを用いることで、燃料電池1の酸素欠乏を精度よく推定することができる。
【0042】
次に、上記構成に係る燃料電池システムにおいて、正常状態、水素欠乏状態、および酸素欠乏状態といった三種類の状態を診断する状態診断処理の流れを、図6に示すフローチャートにより説明する。図6に示す制御フローは、車両起動スイッチ6aが投入(ON)されて、燃料電池1の発電状態となるとスタートする。なお、図6では、信号処理装置5および制御装置6にて行う処理を1つのフローチャートで示している。
【0043】
車両が起動すると、まず、信号処理装置5の交流印加部51から診断対象セル10に単一周波数の正弦波を有する交流電流を印加する(S10)。交流印加部51で印加する交流電流の周波数は、10Hz以下に設定されており、予め記憶手段61に記憶されている。
【0044】
次に、出力電流センサ53および局所電流検出部4の各電流センサからの出力信号を読み込む(S20)。そして、演算処理部52の演算部521にて出力電流センサ53および局所電流検出部4の出力信号から、交流印加部51にて印加した交流電流と同一周波数の交流成分を抽出し、各交流成分における周波数特性を算出する(S30)。
【0045】
次に、ステップS30にて算出した出力電流センサ53の交流成分における周波数特性(全体での電流変動)ΔIを入力とし、局所電流検出部4の各電流センサの交流成分における周波数特性(局所電流変動)Δinを出力とした局所伝達関数Fnを算出する(S40)。
【0046】
次に、ステップS40にて算出した局所伝達関数Fnを、予め記憶手段61に記憶された通常状態、水素欠乏状態、および酸素欠乏状態における基準伝達関数と照合する(S50)。具体的には、交流印加部51にて印加した交流電流と同一周波数における局所伝達関数Fnのゲインおよび位相差に最も近いゲインおよび位相差となる基準伝達関数を選択する。
【0047】
次に、ステップS50にて選択した基準伝達関数に対応する燃料電池1の状態が、水素欠乏であるか否かを判定する(S60)。この結果、水素欠乏であると判定された場合は、今回の燃料電池1の状態を水素欠乏と診断する(S70)。なお、水素欠乏と判定された場合、燃料電池1への水素の供給量が不足していることが原因と考えられるため、例えば、水素調圧弁33の開度を増大させ、高圧水素タンク32からの水素の供給量を増大させることにより、水素欠乏を解消することが可能となる。
【0048】
一方、ステップS60の判定処理の結果、水素欠乏でないと判定された場合は、ステップS50にて選択した基準伝達関数に対応する燃料電池1の状態が、酸素欠乏であるか否かを判定する(S80)。この結果、酸素欠乏であると判定された場合は、今回の燃料電池1の状態を酸素欠乏と診断し(S90)、酸素欠乏でないと判定された場合は、今回の燃料電池1の状態を正常と診断する(S100)。なお、酸素欠乏と判定された場合、カソード電極100c側に生成水が溜っていることが原因と考えられるので、空気調圧弁23の開度を増大させてカソード側に溜まった生成水を燃料電池1の内部から排出することで、酸素欠乏を解消することが可能となる。
【0049】
以上説明した本実施形態の構成によれば、燃料電池1における診断対象セル10に対して所定の交流電流を印加した際の局所電流の変動を示す局所伝達関数Fnを算出することで、燃料電池1の状態を診断することができる。このような構成では、単位セル10のセル電圧を検出するセル電圧検出手段を備える必要がないので、部品点数の増加を招くことなく燃料電池1の状態を診断することが可能となる。従って、燃料電池1の状態を診断する構成によって燃料電システムのコストが増大してしまうことを回避することができる。
【0050】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について図7に基づいて説明する。図7は、本実施形態に係る信号処理装置5の模式図である。なお、本実施形態では、第1実施形態と同様または均等な部分についての説明を省略、または簡略化して説明する。
【0051】
上述の第1実施形態では、交流印加部51にて単一周波数の交流電流を印加するようにしているが、本実施形態では、交流印加部51にて異なる周波数を合成した合成波を有する交流電流を印加するようにしている。なお、交流電流は、燃料電池1の状態により周波数特性が顕著に異なる傾向を示す周波数同士を合成した合成波とすることが好ましい。
【0052】
具体的には、本実施形態の信号処理装置5の演算処理部52には、FFT処理部523が設けられている。このFFT処理部523は、FFT(高速フーリエ変換)により、出力電流センサ53および局所電流検出部4の各電流センサからの出力信号から異なる周波数毎に交流成分を抽出するものである。
【0053】
本実施形態の演算処理部52では、FFT処理部523にて、出力電流センサ53および局所電流検出部4の各電流センサからの出力信号から異なる周波数毎に交流成分を抽出し、演算部521にてFFT処理部523で抽出された各交流成分の周波数特性を算出する。
【0054】
本実施形態の構成によれば、異なる周波数を合成した合成波形の交流電流を印加することで、局所伝達関数算出部522にて周波数特性の異なる局所伝達関数Fnを一度に算出することが可能となる。さらに、燃料電池1の状態により周波数特性が顕著に異なる傾向を示す周波数同士を合成した合成波の交流電流を診断対象セル10に印加した場合、局所伝達関数算出部522にて、基準伝達関数の周波数特性に強い相関を有する局所伝達関数Fnを算出することが可能となる。この結果、燃料電池1の状態を診断する際の診断精度の向上を図ることができる。
【0055】
(他の実施形態)
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、各請求項に記載した範囲を逸脱しない限り、各請求項の記載文言に限定されず、当業者がそれらから容易に置き換えられる範囲にも及び、かつ、当業者が通常有する知識に基づく改良を適宜付加することができる。例えば、以下のように種々変形可能である。
【0056】
(1)上述の第1実施形態では、演算部521にて出力電流センサ53の交流成分における周波数特性を算出し、算出した出力電流センサ53の交流成分における周波数特性を局所伝達関数Fnの入力としているが、これに限定されない。演算部521で求めた出力電流センサ53の交流成分における周波数特性は、実質的に交流印加部51にて印加した交流電流の周波数特性と同じ特性となるため、交流印加部51にて印加する交流電流の周波数特性を局所伝達関数Fnの入力としてもよい。これによれば、出力電流センサ53を省略することができるので、燃料電池1の状態を診断する構成の部品点数の低減を図ることができる。
【0057】
(2)上述の各実施形態では、各伝達関数のゲインおよび位相差の相関に基づいて局所伝達関数Fnと基準伝達関数とを照合する例を説明したが、これに限定されず、例えば、各伝達関数におけるゲインおよび位相差と、局所電流検出部4にて検出した電流値との組み合わせにより照合するようにしてもよい。
【0058】
(3)上述の各実施形態のように、交流印加部51にて印加する交流電流の周波数を10Hz以下とすることが好ましいが、これに限定されず、例えば、0.1Hz〜数百kHzまでの間の任意の周波数としてもよい。
【0059】
(4)上述の各実施形態では、交流印加部51にて印加する交流電流の周波数を一定としているが、これに限定されず、例えば、交流印加部51にて印加する交流電流の周波数を可変させ、変化させた周波数毎に燃料電池1の状態を診断するようにしてもよい。
【0060】
(5)上述の各実施形態では、局所電流検出部4を単位セル10の局所部位(複数箇所)に複数の電流センサで構成する例を説明したが、これに限定されず、例えば、単位セル10の局所部位(一箇所)に対応して配置された単一の電流センサで構成してもよい。
【0061】
(6)上述の各実施形態では、交流印加部51にて診断対象セル10に対して単一周波数の正弦波、または正弦波を合成した合成波を有する交流電流を印加する構成としているが、これに限定されず、例えば、単一周波数の矩形波やインパルス波、または、これらの合成波を有する交流電流を印加する構成としてもよい。
【0062】
(7)上述の各実施形態では、交流印加部51にて診断対象セル10に対して交流電流を印加する構成としているが、これに限定されず、例えば、DC−DCコンバータを用いて診断対象セル10に対して交流電流を印加する構成としてもよい。これにより、燃料電池1の状態を診断する構成の部品点数の低減を図ることができる。
【0063】
(8)上述の各実施形態では、信号処理装置5および制御装置6にて正常状態、水素欠乏状態、および酸素欠乏状態といった三種類の状態を診断する状態診断処理を行う例を説明したが、これに限定されない。例えば、燃料電池1の単位セル10の局所部位が乾燥するドライアップ、燃料電池1の単位セル10へ過剰に水素が供給される水素供給過剰、燃料電池1の単位セル10へ過剰に酸素(空気)が供給される酸素供給過剰等においても、局所伝達関数Fnが異なる周波数特性が示す。このため、ドライアップ、水素供給過剰、酸素供給過剰等の状態における局所伝達関数Fnを算出し、ドライアップ、水素供給過剰、酸素供給過剰等の状態を診断するようにしてもよい。
【0064】
(9)上述の各実施形態では、局所電流検出部4および出力電流センサ53からの出力信号を信号処理装置5の演算処理部52にて演算する例を説明したが、これに限定されず、例えば、演算処理部52にて行う処理を、制御装置6にて行うようにしてもよい。
【0065】
(10)上述の各実施形態では、燃料電池車両に搭載された燃料電池1の状態を診断する例を説明したが、これに限定されず、船舶及びポータブル発電器等の移動体や設置型の燃料電池1の状態を診断するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0066】
1 燃料電池
10 単位セル
4 局所電流検出部(局所電流検出手段)
51 交流印加部(交流電流印加手段)
521 演算部(周波数特性算出手段)
522 局所伝達関数算出部(局所伝達関数算出手段)
61 記憶手段
62 状態診断手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素を主成分とする酸化剤ガスと水素を主成分とする燃料ガスとを電気化学反応させて電気エネルギを発生させる単位セル(10)が複数積層された燃料電池(1)の状態を診断する燃料電池状態診断装置であって、
前記燃料電池(1)に対して所定の波形を有する交流電流を印加する交流電流印加手段(51)と、
診断対象となる前記単位セル(10)の局所部位に流れる局所電流を検出する局所電流検出手段(4)と、
前記局所電流から交流成分を抽出して前記交流成分における周波数特性を算出する周波数特性算出手段(521)と、
前記交流電流における周波数特性と前記局所電流における周波数特性との対応関係に基づいて前記燃料電池の状態を診断する状態診断手段(62)と、
を備えることを特徴とする燃料電池状態診断装置。
【請求項2】
前記交流電流における周波数特性を入力とし、前記局所電流における周波数特性を出力とした局所伝達関数を算出する局所伝達関数算出手段(522)と、
前記燃料電池(1)の状態に応じて予め設定された複数の基準伝達関数を記憶する記憶手段(61)と、を備え、
前記状態診断手段(62)は、前記複数の基準伝達関数から前記伝達関数算出手段(522)にて算出された前記局所伝達関数に対応する基準伝達関数を選択し、選択した基準伝達関数に基づいて前記燃料電池(1)の状態を特定することを特徴とする請求項1に記載の燃料電池状態診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−199010(P2012−199010A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−61073(P2011−61073)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】