説明

燃料電池用の電極の製造方法

【課題】燃料電池用の電極の製造に要する時間を短縮する。
【解決手段】燃料電池用の電極の製造方法は、アイオノマーを含む触媒層を形成する工程と、触媒層の一の表面付近に含まれるアイオノマーにせん断力を作用させることによりアイオノマーをフィブリル化する工程と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用の電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池、例えば、固体高分子型燃料電池は、電解質膜を挟んで配置される一対の電極(アノードおよびカソード)にそれぞれ反応ガス(燃料ガスおよび酸化剤ガス)を供給して電気化学反応を引き起こすことにより、物質の持つ化学エネルギーを直接電気エネルギーに変換する。
【0003】
燃料電池の製造の際には、電解質膜の表面に触媒層を形成することにより触媒塗布電解質膜(Catalyst Coated Membrane、以下略して「CCM」とも呼ぶ)が製造され、さらに、CCMを構成する触媒層の表面にガス拡散層が接合される。燃料電池における触媒層とガス拡散層との積層体は、「ガス拡散電極」(または単に「電極」)と呼ばれる。
【0004】
従来、燃料電池の電極の製造のための触媒層とガス拡散層との接合は、例えば100℃、1MPaでの熱圧着(ホットプレス)により行われていた(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−049933号公報
【特許文献2】特開2004−214045号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来の技術では、触媒層とガス拡散層との接合を熱圧着によって行うため、昇温および降温のための時間(いわゆるタクトタイム)を要し、電極の製造に要する時間の短縮という点で向上の余地があった。
【0007】
なお、このような課題は、固体高分子型燃料電池用に限らず、燃料電池一般のための電極を製造する際に共通の課題であった。
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、燃料電池用の電極の製造に要する時間を短縮することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題の少なくとも一部を解決するために、本発明は、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0010】
[適用例1]燃料電池用の電極の製造方法であって、
アイオノマーを含む触媒層を形成する工程と、
前記触媒層の一の表面付近に含まれる前記アイオノマーにせん断力を作用させることにより前記アイオノマーをフィブリル化する工程と、を備える、方法。
【0011】
この方法は、アイオノマーを含む触媒層を形成する工程と、触媒層の一の表面付近に含まれるアイオノマーにせん断力を作用させることによりアイオノマーをフィブリル化する工程とを備えるため、触媒層の一の表面付近に含まれるアイオノマーの比表面積が増大し、電極を製造するための触媒層とガス拡散層との接合における接合点が増加し、触媒層とガス拡散層との接合を常温圧着により行うことができる。そのため、この方法では、触媒層とガス拡散層との接合を熱圧着で行う場合に必要な昇温および降温のための時間が不要となり、電極の製造に要する時間を短縮することができる。
【0012】
[適用例2]適用例1に記載の方法であって、さらに、
前記触媒層の前記表面上にガス拡散層を接合する工程と、を備える、方法。
【0013】
この方法は、触媒層の表面付近に含まれるアイオノマーがフィブリル化した状態において、触媒層の表面上にガス拡散層を接合する工程を備えるため、触媒層とガス拡散層との接合を常温圧着により行うことができ、電極の製造に要する時間を短縮することができる。
【0014】
[適用例3]適用例1または適用例2に記載の方法であって、
前記フィブリル化する工程における前記アイオノマーにせん断力を作用させることは、前記触媒層の前記表面上にアイオノマーを含む膜状部材を設置した後に、前記膜状部材を剥離することを含む、方法。
【0015】
この方法では、触媒層の表面上にアイオノマーを含む膜状部材を設置した後に、当該膜状部材を剥離することにより、触媒層の表面付近に含まれるアイオノマーにせん断力を作用させることができ、アイオノマーをフィブリル化することができる。
【0016】
[適用例4]適用例1または適用例2に記載の方法であって、
前記フィブリル化する工程における前記アイオノマーにせん断力を作用させることは、前記触媒層の前記表面にローラーをかけることを含む、方法。
【0017】
この方法では、触媒層の表面にローラーをかけることにより、触媒層の表面付近に含まれるアイオノマーにせん断力を作用させることができ、アイオノマーをフィブリル化することができる。
【0018】
[適用例5]適用例1ないし適用例4のいずれかに記載の方法であって、
前記触媒層を形成する工程は、電解質膜上に前記触媒層を形成する工程である、方法。
【0019】
この方法では、電解質膜上に形成された触媒層の表面付近に含まれるアイオノマーにせん断力を作用させることによりアイオノマーをフィブリル化することができ、触媒層とガス拡散層との接合を常温圧着により行うことができるため、電極の製造に要する時間を短縮することができると共に、電解質膜の耐久性を向上させることができる。
【0020】
[適用例6]適用例5に記載の方法であって、さらに、
前記触媒層が形成された前記電解質膜をキャリアシートに把持した状態でアニール処理を行う工程を備え、
前記フィブリル化する工程における前記アイオノマーにせん断力を作用させることは、前記キャリアシートを剥離することを含む、方法。
【0021】
この方法では、触媒層が形成された電解質膜をキャリアシートに把持した状態でアニール処理を行った後にキャリアシートを剥離することにより、触媒層の表面付近に含まれるアイオノマーにせん断力を作用させることができ、アイオノマーをフィブリル化することができる。
【0022】
[適用例7]適用例1ないし適用例6のいずれかに記載の方法であって、
前記アイオノマーは、パーフルオロスルホン酸樹脂材料である、方法。
【0023】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、燃料電池用の電極の製造方法、燃料電池用の発電体の製造方法、燃料電池の製造方法等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】第1実施例における燃料電池10の構成を概略的に示す説明図である。
【図2】第1実施例における燃料電池10の発電体100の製造方法を示すフローチャートである。
【図3】第1実施例における燃料電池10の発電体100の製造方法の概要を示す説明図である。
【図4】第1実施例における燃料電池10の発電体100の製造方法の概要を示す説明図である。
【図5】触媒層122,132の表面の状態を示す説明図である。
【図6】第2実施例における燃料電池10の発電体100の製造方法を示すフローチャートである。
【図7】第2実施例における燃料電池10の発電体100の製造方法の概要を示す説明図である。
【図8】第3実施例における燃料電池10の発電体100の製造方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
次に、本発明の実施の形態を実施例に基づいて以下の順序で説明する。
A.第1実施例:
B.第2実施例:
C.第3実施例:
D.変形例:
【0026】
A.第1実施例:
A−1.燃料電池の構成:
図1は、第1実施例における燃料電池10の構成を概略的に示す説明図である。燃料電池10は、比較的小型で発電効率に優れる固体高分子型燃料電池である。燃料電池10は、発電体100をセパレータ200で挟んで複数積層したスタック構造を有している。図1には、燃料電池10の構成をわかりやすく示すために、燃料電池10を構成する一部の発電体100およびセパレータ200のみを抜き出して示し、他の図示を省略している。また、図1では、発電体100およびセパレータ200が積層される前の状態を示しているが、発電体100およびセパレータ200は、実際には互いに密着するように積層されている。
【0027】
発電体100は、電解質膜110と、電解質膜110の一方の表面に形成されるアノード電極120と、電解質膜110の他方の表面に形成されるカソード電極130と、を有している。各電極は、ガス拡散電極とも呼ばれる。なお、本明細書では、発電体100を構成する各層の主たる表面(厚さ方向に直交する表面)を単に「表面」と呼ぶ。
【0028】
電解質膜110は、固体高分子材料としてのフッ素系スルホン酸ポリマーにより形成された高分子電解質膜(例えばナフィオン(登録商標)膜:NRE212)であり、湿潤状態において良好なプロトン伝導性を有する。なお、電解質膜110としては、ナフィオン(登録商標)に限定されず、例えば、アシプレックス(登録商標)やフレミオン(登録商標)等の他のフッ素系スルホン酸膜が用いられるとしてもよい。また、電解質膜110として、フッ素系ホスホン酸膜、フッ素系カルボン酸膜、フッ素炭化水素系グラフト膜、炭化水素系グラフト膜、芳香族膜等が用いられるとしてもよいし、PTFE、ポリイミド等の補強材を含む機械的特性を強化した複合高分子膜が用いられるとしてもよい。
【0029】
アノード電極120は、アノード側電極反応が進行する反応場であり、電解質膜110の表面に配置されたアノード側触媒層122と、アノード側触媒層122のセパレータ200側の表面に配置されたアノード側ガス拡散層124と、を含んでいる。また、カソード電極130は、カソード側電極反応が進行する反応場であり、電解質膜110の表面に配置されたカソード側触媒層132と、カソード側触媒層132のセパレータ200側の表面に配置されたカソード側ガス拡散層134と、を含んでいる。
【0030】
以下の説明では、アノード電極120およびカソード電極130を、まとめて単に「電極」とも呼ぶ。同様に、アノード側触媒層122およびカソード側触媒層132を、まとめて単に「触媒層」とも呼び、アノード側ガス拡散層124およびカソード側ガス拡散層134を、まとめて単に「ガス拡散層」とも呼ぶ。
【0031】
触媒層122,132は、電極反応を促進する触媒を提供する層であり、触媒を担持する導電性担体と電解質としてのアイオノマーとを含む材料により形成されている。なお、導電性担体としては、例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーなどの炭素材料のほか、炭化ケイ素などに代表される炭素化合物等を用いることができる。また、触媒としては、例えば、白金や白金合金、パラジウム、ロジウム、金、銀、オスミウム、イリジウム等を使用することができる。また、白金合金としては、例えば、白金と、アルミニウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、ガリウム、ジルコニウム、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、バナジウム、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、チタンおよび鉛のうちの少なくとも一種との合金を用いることができる。また、アイオノマーとしては、例えば、パーフルオロスルホン酸樹脂材料(例えばナフィオン(登録商標))や、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリスルフィド、スルホン化ポリフェニレン等のスルホン化プラスチック系電解質、スルホアルキル化ポリエーテルエーテルケトン、スルホアルキル化ポリエーテルスルホン、スルホアルキル化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホアルキル化ポリスルホン、スルホアルキル化ポリスルフィド、スルホアルキル化ポリフェニレンなどのスルホアルキル化プラスチック系電解質等を用いることができる。
【0032】
ガス拡散層124,134は、電極反応に用いられる反応ガス(酸化剤ガスおよび燃料ガス)を電解質膜110の面方向に沿って拡散させる層であり、例えばカーボンクロスやカーボンペーパーにより形成されている。本実施例では、拡散層に、例えばPTFE樹脂によって撥水処理が施されている。
【0033】
なお、電解質膜110と触媒層(アノード側触媒層122およびカソード側触媒層132)とで構成される積層体は、触媒塗布電解質膜(Catalyst Coated Membrane、略して「CCM」)または膜・電極接合体(Membrane Electrode Assembly、略してMEA)とも呼ばれる。また、電解質膜110と触媒層122,132とガス拡散層(アノード側ガス拡散層124およびカソード側ガス拡散層134)とで構成される積層体(すなわち発電体100)は、膜・電極・ガス拡散層接合体(Membrane Electrode&Gas Diffusion Layer Assembly、略してMEGA)とも呼ばれる。
【0034】
セパレータ200は、ガスを透過しない緻密質であると共に導電性を有する材料、例えば圧縮成型された緻密質カーボン、金属、導電性樹脂により形成されている。1つのセパレータ200は、一方の面が1つの発電体100のアノード側ガス拡散層124と隣接しており、他方の面が他の発電体100のカソード側ガス拡散層134と隣接している。セパレータ200の両表面には溝が形成されており、燃料電池10の各部材が積層された状態では、アノード側ガス拡散層124に接する側の面に形成された溝により燃料ガス流路が形成され、カソード側ガス拡散層134に接する側の面に形成された溝により酸化剤ガス流路が形成される。
【0035】
燃料電池10は、発電体100を製造し、複数の発電体100およびセパレータ200を積層し、発電体100およびセパレータ200の積層体の両端に集電板(不図示)、絶縁板(不図示)、エンドプレート(不図示)を配置し、テンションプレート、テンションロッド等により積層方向に所定の押圧力がかかった状態で締結することにより製造される。
【0036】
なお、図1では記載を省略しているが、燃料電池10は、いずれも燃料電池スタックを積層方向(図1の上下方向)に貫通する燃料ガス供給マニホールドと、燃料ガス排出マニホールドと、酸化剤ガス供給マニホールドと、酸化剤ガス排出マニホールドと、を有している。燃料電池スタックに対して供給された燃料ガスは、燃料ガス供給マニホールドを介して燃料ガス流路に分配され、発電体100における電気化学反応に供される。利用されなかった燃料ガス(アノードオフガス)は、燃料ガス排出マニホールドを介して外部に排出される。また、燃料電池スタックに対して供給された酸化剤ガスは、酸化剤ガス供給マニホールドを介して酸化剤ガス流路に分配され、発電体100における電気化学反応に供される。利用されなかった酸化剤ガス(カソードオフガス)は、酸化剤ガス排出マニホールドを介して外部に排出される。燃料ガスとしては、例えば水素ガスが用いられ、酸化剤ガスとしては、例えば空気が用いられる。
【0037】
A−2.燃料電池の発電体の製造方法
図2は、第1実施例における燃料電池10の発電体100の製造方法を示すフローチャートである。また、図3および図4は、第1実施例における燃料電池10の発電体100の製造方法の概要を示す説明図である。
【0038】
発電体100の製造の際には、最初に、電解質膜110の上に触媒層122,132を形成する(ステップS110)。触媒層122,132は、触媒担持導電性担体とアイオノマーとを溶媒と共に混合して生成した触媒層用溶液を、電解質膜110の表面に塗工ブレードにて層状に塗布することにより形成する。図3(a)には、電解質膜110上に触媒層122,132が形成された様子を示している。また、図4(a)には、電解質膜110上に形成された触媒層122,132の断面を拡大して示している。図4(a)に示すように、触媒層122,132は、触媒担持導電性担体CAとアイオノマーIOとを含んでいる。なお、触媒層の形成方法として、ブレード塗工による方法に代えて、スプレー塗工やインクジェット法、スクリーン印刷等による公知の形成方法を適用するとしてもよい。
【0039】
次に、電解質膜110上に形成された触媒層122,132の表面上に、製造用電解質膜PMを設置する(ステップS120)。図3(b)および図4(b)には、電解質膜110上に形成された触媒層122,132の表面上に製造用電解質膜PMが設置された様子を示している。製造用電解質膜PMは、発電体100の製造のために用いられるアイオノマーを含む膜状部材である。本実施例では、製造用電解質膜PMは、電解質膜110と同じ材料で形成された膜である。図4(b)に示すように、触媒層122,132の表面上に製造用電解質膜PMを設置すると、触媒層122,132の表面付近に含まれるアイオノマーIOが、その接着力により、製造用電解質膜PMの表面に軽く固着する。
【0040】
次に、触媒層122,132の表面上に設置された製造用電解質膜PMを、電解質膜110の面方向に略平行に引きずることにより、触媒層122,132から剥離する(ステップS130)。図3(c)および図4(c)には、触媒層122,132の表面上に設置された製造用電解質膜PMを剥離している様子を示している。製造用電解質膜PMを剥離するために引きずると、製造用電解質膜PMの表面に固着していた触媒層122,132表面付近のアイオノマーIOに、せん断力が作用する。アイオノマーIOにせん断力が作用すると、アイオノマーIOがフィブリル化(小繊維化)する。アイオノマーIOがフィブリル化すると、その比表面積は増大する。図4(d)には、製造用電解質膜PMを完全に剥離した後の触媒層122,132の断面を示している。この状態では、触媒層122,132の表面全域にわたって、表面付近のアイオノマーIOがフィブリル化している。
【0041】
図5は、触媒層122,132の表面の状態を示す説明図である。図5(a)には、触媒層122,132が形成された当初の表面の顕微鏡写真を示しており、図5(b)には、触媒層122,132の表面に製造用電解質膜PMを設置し、その後、製造用電解質膜PMを剥離したときの表面の顕微鏡写真を示している。図5(a)に示す状態では、触媒層122,132の表面にフィブリル化したアイオノマーIOは存在しない。一方、図5(b)に示すように、製造用電解質膜PMを剥離してアイオノマーIOにせん断力を作用させると、触媒層122,132表面付近のアイオノマーIOはフィブリル化する。
【0042】
最後に、電解質膜110上に形成された触媒層122,132の表面上にガス拡散層124,134を接合する(ステップS140)。本実施例では、触媒層122,132とガス拡散層124,134との接合は、25℃、1MPaでの常温圧着(4分間)によって行われる。
【0043】
本実施例では、ガス拡散層124,134の接合の前に、触媒層122,132の表面付近に含まれるアイオノマーIOがフィブリル化され、その比表面積が増大しているため、触媒層122,132とガス拡散層124,134との接合の際の接合点が増加する。従って、触媒層122,132とガス拡散層124,134との接合を熱圧着ではなく常温圧着で行っても、要求される接合強度を得ることができる。
【0044】
具体的には、接合強度を計測する剥離試験の結果、本実施例の製造方法により製造された発電体100では、触媒層122,132とガス拡散層124,134との接合強度は16N/mであった。これは、アイオノマーIOをフィブリル化する工程を有さず、かつ、触媒層とガス拡散層との接合を100℃、1MPaでの熱圧着(4分間)によって行う従来の製造方法により製造された発電体における接合強度と同等である。また、比較例として、アイオノマーIOをフィブリル化する工程を有さず、かつ、触媒層とガス拡散層との接合を25℃、1MPaでの常温圧着(4分間)によって行う製造方法により製造された発電体を対象とした試験では、接合強度は実質的に0N/mであった(すなわち、触媒層とガス拡散層とは接合していなかった)。
【0045】
以上説明したように、本実施例では、発電体100の製造の際に、触媒層122,132の表面付近に含まれるアイオノマーIOにせん断力を作用させてアイオノマーIOをフィブリル化するため、アイオノマーIOの比表面積が増大し、触媒層122,132とガス拡散層124,134との接合の際の接合点が増加する。そのため、触媒層122,132とガス拡散層124,134との接合を常温圧着により行うことができる。従って、本実施例では、熱圧着の際に必要な昇温および降温のための時間(タクトタイム)が不要となり、触媒層122,132とガス拡散層124,134との接合処理(すなわち電極の製造処理)に要する時間を短縮することができる。これにより、製造に使用される設備の償却費を低減することができる。例えば、一実験例では、触媒層とガス拡散層との接合を熱圧着で行う場合には、昇温に18分間、接合に4分間、降温に20分間の合計42分間を要したが、触媒層とガス拡散層との接合を常温圧着で行う場合には、接合のための4分間のみを要し、処理時間は約10分の1となった。
【0046】
また、本実施例では、触媒層122,132とガス拡散層124,134との接合を常温圧着により行うことができるため、燃料電池10を構成する各材料の加熱による耐久性の低下を抑制することができる。特に、電解質膜110は加熱によって乾燥・収縮するため、触媒層122,132とガス拡散層124,134との接合を常温圧着により行うことにより、電解質膜110の耐久性を向上させることができる。
【0047】
B.第2実施例:
図6は、第2実施例における燃料電池10の発電体100の製造方法を示すフローチャートである。また、図7は、第2実施例における燃料電池10の発電体100の製造方法の概要を示す説明図である。第2実施例では、触媒層122,132の表面付近に含まれるアイオノマーIOにせん断力を作用させる工程の内容が図2に示した第1実施例とは異なっており、その他の工程(ステップS110およびS140)は、第1実施例と同じである。すなわち、第1実施例では、触媒層122,132の表面上に製造用電解質膜PMを設置し、設置した製造用電解質膜PMを剥離することにより、アイオノマーIOにせん断力を作用させていたが(図2のステップS120およびS130)、第2実施例ではこれに代えて、電解質膜110上に形成された触媒層122,132に転写ローラー処理を行うことにより、アイオノマーIOにせん断力を作用させている(図6のステップS132)。
【0048】
図7には、転写ローラー処理の様子を示している。転写ローラー処理は、触媒層122,132が形成された電解質膜110(すなわち触媒塗布電解質膜CCM)を転写ローラーTRに通す処理である。転写ローラー処理の際には、転写ローラーTRに対向する位置の触媒層122,132の表面付近に含まれるアイオノマーIOが、その接着力により、転写ローラーTRの表面に軽く固着し、その後、転写ローラーTRの進行に伴って、転写ローラーTRの表面に固着していた触媒層122,132表面付近のアイオノマーIOにせん断力が作用し、アイオノマーIOがフィブリル化(小繊維化)する。なお、転写ローラー処理は、転写ローラーTRの表面の温度を高くして(例えば100℃にして)行うこと(すなわち熱転写)が、アイオノマーIOと転写ローラーTRの表面との固着を促進してアイオノマーIOを有効にフィブリル化するという点で、好ましい。
【0049】
アイオノマーIOにせん断力を作用させてフィブリル化する工程(ステップS132)の後、触媒層122,132とガス拡散層124,134との接合を常温圧着で行い(ステップS140)、発電体100が製造される。接合強度を計測する剥離試験の結果、本実施例の製造方法により製造された発電体100では、触媒層122,132とガス拡散層124,134との接合強度は、アイオノマーIOをフィブリル化する工程を有さず、かつ、触媒層とガス拡散層との接合を100℃、1MPaでの熱圧着(4分間)によって行う従来の製造方法により製造された発電体における接合強度と同等であることが確認された。
【0050】
以上説明したように、第2実施例でも、第1実施例と同様に、発電体100の製造の際に、触媒層122,132の表面付近に含まれるアイオノマーIOにせん断力を作用させてアイオノマーIOをフィブリル化するため、アイオノマーIOの比表面積が増大し、触媒層122,132とガス拡散層124,134との接合の際の接合点が増加する。そのため、触媒層122,132とガス拡散層124,134との接合を常温圧着により行うことができ、熱圧着の際に必要な昇温および降温のための時間(タクトタイム)が不要となり、触媒層122,132とガス拡散層124,134との接合処理(すなわち電極の製造処理)に要する時間を短縮することができる。また、第2実施例でも、触媒層122,132とガス拡散層124,134との接合を常温圧着により行うことができるため、燃料電池10を構成する各材料の加熱による耐久性の低下を抑制することができる。
【0051】
C.第3実施例:
図8は、第3実施例における燃料電池10の発電体100の製造方法を示すフローチャートである。第3実施例では、触媒層122,132の表面付近に含まれるアイオノマーIOにせん断力を作用させる工程の内容が図2に示した第1実施例とは異なっており、その他の工程(ステップS110およびS140)は、第1実施例と同じである。
【0052】
第3実施例では、電解質膜110上への触媒層122,132の形成(ステップS110)の後に、触媒層122,132が形成された電解質膜110(すなわち触媒塗布電解質膜CCM)に対して、キャリアシートに把持した状態で、例えば120℃でアニール処理を行う(ステップS124)。なお、キャリアシートは、例えばPETやPEにより形成されたものが使用される。アニール処理により、触媒層122,132の表面付近に含まれるアイオノマーIOがキャリアシートの表面に軽く固着する。
【0053】
次に、キャリアシートを触媒層122,132から剥離する(ステップS134)。キャリアシートを触媒層122,132から剥離すると、キャリアシートの表面に固着していた触媒層122,132表面付近のアイオノマーIOにせん断力が作用し、アイオノマーIOがフィブリル化(小繊維化)する。
【0054】
その後、触媒層122,132とガス拡散層124,134との接合を常温圧着で行い(ステップS140)、発電体100が製造される。接合強度を計測する剥離試験の結果、本実施例の製造方法により製造された発電体100では、触媒層122,132とガス拡散層124,134との接合強度は、アイオノマーIOをフィブリル化する工程を有さず、かつ、触媒層とガス拡散層との接合を100℃、1MPaでの熱圧着(4分間)によって行う従来の製造方法により製造された発電体における接合強度と同等であることが確認された。
【0055】
以上説明したように、第3実施例でも、第1実施例と同様に、発電体100の製造の際に、触媒層122,132の表面付近に含まれるアイオノマーIOにせん断力を作用させてアイオノマーIOをフィブリル化するため、アイオノマーIOの比表面積が増大し、触媒層122,132とガス拡散層124,134との接合の際の接合点が増加する。そのため、触媒層122,132とガス拡散層124,134との接合を常温圧着により行うことができ、熱圧着の際に必要な昇温および降温のための時間(タクトタイム)が不要となり、触媒層122,132とガス拡散層124,134との接合処理(すなわち電極の製造処理)に要する時間を短縮することができる。また、第2実施例でも、触媒層122,132とガス拡散層124,134との接合を常温圧着により行うことができるため、燃料電池10を構成する各材料の加熱による耐久性の低下を抑制することができる。
【0056】
D.変形例:
なお、この発明は上記の実施例や実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0057】
D1.変形例1:
上記各実施例における発電体100の製造方法は、あくまで一例であり、種々変形可能である。例えば、上記第1実施例では、触媒層122,132の表面上に電解質膜110と同じ材料の製造用電解質膜PMが設置される(図2のステップS120)としているが、製造用電解質膜PMの代わりに、アイオノマーを含む他の膜状部材が用いられるとしてもよい。
【0058】
また、上記第2実施例では、転写ローラーTRにより熱転写により触媒層122,132に含まれるアイオノマーIOをフィブリル化しているが、転写ローラーTRの表面の状態(例えばアイオノマーIOとの接着良好性)に応じて、熱転写の代わりに常温転写によりアイオノマーIOをフィブリル化するとしてもよい。
【0059】
また、上記各実施例において、触媒層122,132とガス拡散層124,134との常温接合の条件(25℃、1MPa、4分間)はあくまで一例であり、種々変形可能である。
【0060】
D2.変形例2:
上記各実施例における燃料電池10の構成は、あくまで一例であり、種々変形可能である。例えば、上記各実施例では、セパレータ200の溝により燃料ガス流路および酸化剤ガス流路が形成されるとしているが、発電体100とセパレータ200との間に多孔体層が配置され、当該多孔体層が燃料ガス流路および酸化剤ガス流路として機能し、セパレータ200が溝を有さないものとしてもよい。
【0061】
また、上記各実施例では、ガス拡散層124,134に撥水処理が施されているとしているが、ガス拡散層124,134には必ずしも撥水処理が施されている必要はない。
【0062】
また、上記各実施例では、燃料電池10の各構成部材の材料を特定しているが、これらの材料に限定されるものではなく、適正な種々の材料を用いることができる。また、上記各実施例では、燃料電池10は固体高分子型燃料電池であるとしているが、本発明は他の種類の燃料電池(例えば、ダイレクトメタノール形燃料電池やリン酸形燃料電池)にも適用可能である。
【符号の説明】
【0063】
10…燃料電池
100…発電体
110…電解質膜
120…アノード電極
122…アノード側触媒層
124…アノード側ガス拡散層
130…カソード電極
132…カソード側触媒層
134…カソード側ガス拡散層
200…セパレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池用の電極の製造方法であって、
アイオノマーを含む触媒層を形成する工程と、
前記触媒層の一の表面付近に含まれる前記アイオノマーにせん断力を作用させることにより前記アイオノマーをフィブリル化する工程と、を備える、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、さらに、
前記触媒層の前記表面上にガス拡散層を接合する工程と、を備える、方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の方法であって、
前記フィブリル化する工程における前記アイオノマーにせん断力を作用させることは、前記触媒層の前記表面上にアイオノマーを含む膜状部材を設置した後に、前記膜状部材を剥離することを含む、方法。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の方法であって、
前記フィブリル化する工程における前記アイオノマーにせん断力を作用させることは、前記触媒層の前記表面にローラーをかけることを含む、方法。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の方法であって、
前記触媒層を形成する工程は、電解質膜上に前記触媒層を形成する工程である、方法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法であって、さらに、
前記触媒層が形成された前記電解質膜をキャリアシートに把持した状態でアニール処理を行う工程を備え、
前記フィブリル化する工程における前記アイオノマーにせん断力を作用させることは、前記キャリアシートを剥離することを含む、方法。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の方法であって、
前記アイオノマーは、パーフルオロスルホン酸樹脂材料である、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図5】
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