説明

燃料電池用ガスケット

【課題】膜状又は薄板状の枠体11にゴム材料又はゴム状弾性を有する合成樹脂材料からなるガスケット本体12が一体的に設けられた構造を有する燃料電池用ガスケット1の剛性を高め、ハンドリング性及び作業性を向上させる。
【解決手段】膜状又は薄板状の枠体11に、ゴム材料又はゴム状弾性を有する合成樹脂材料からなるガスケット本体12が一体に設けられ、枠体11の外周に、ガスケット本体12の外周から張り出した張出部11bを有すると共に、この張出部11bが燃料電池セルの外周縁に沿って延びる切れ目11cで屈曲されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば燃料電池に用いられるガスケットであって、膜状又は薄板状の枠体にゴム材料又はゴム状弾性を有する合成樹脂材料からなるガスケット本体が一体的に設けられた構造を有するものに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、水の電気分解の逆反応である電気化学反応、すなわち水素と酸素から水を生成する反応によって電力を発生するものであるため、燃料電池を構成する各燃料電池セルには、燃料ガス(水素)や酸化ガス(酸素)、カソード面から排出される水や余剰空気をシールするためのガスケットが装着される。この種のガスケットは、ゴム材料単体からなるものの場合、断面積が小さいものであるほど剛性が不足して、ハンドリング性が悪化するため、装着の際に位置ずれを生じるおそれがある。とくに、シールリップを有するガスケットの場合、僅かな位置ずれでも所要のシール性が得られなくなり、漏洩の原因となる。
【0003】
このようなハンドリング性の悪化を来たさないようにするには、図5に示されるように、ガスケット100を、膜状又は薄板状の枠体(合成樹脂フィルム)101にゴム材料からなるガスケット本体102を一体に設けた構造とすることが知られている(例えば下記の特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003−56704号公報
【0004】
このような構造のガスケット100は、枠体101によってある程度剛性を向上させることができるが、さらにしっかりとした剛性を得る場合は、枠体101の厚さtを厚くする必要があるため、多数の燃料電池セルを積層することによって大型化を来たしてしまい、このため燃料電池のサイズが制限されているような場合は適用が困難である。また、ガスケット100の幅wが狭い場合は、枠体101を厚くしても十分な剛性が得られないこともある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上のような点に鑑みてなされたものであって、その技術的課題は、膜状又は薄板状の枠体にゴム材料又はゴム状弾性を有する合成樹脂材料からなるガスケット本体が一体的に設けられた構造を有する燃料電池用ガスケットの剛性を高め、ハンドリング性及び作業性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した技術的課題を有効に解決するための手段として、請求項1の発明に係る燃料電池用ガスケットは、膜状又は薄板状の枠体に、ゴム材料又はゴム状弾性を有する合成樹脂材料からなるガスケット本体が一体に設けられ、前記枠体の外周に、前記ガスケット本体の外周から張り出した張出部を有すると共に、この張出部が燃料電池セルの外周縁に沿って屈曲されるものである。
【0007】
また、請求項2の発明に係る燃料電池用ガスケットは、請求項1に記載された構成において、張出部が、燃料電池セルの外周縁に沿って延びる切れ目又は溝において屈曲されるものである。
【0008】
また、請求項3の発明に係る燃料電池用ガスケットは、請求項1に記載された構成において、張出部に、粘着剤が塗布されたものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る燃料電池用ガスケットによれば、膜状又は薄板状の枠体の剛性が、この枠体に屈曲形成された張出部によって高くなるので、枠体の厚さを厚くすることなくガスケットの剛性を高めることができ、ハンドリング性を向上させることができる。しかもこのガスケットを燃料電池に組み込む際に、屈曲された張出部を燃料電池セルの外周縁に嵌合させることによって、燃料電池セルに対してガスケットが位置決めされるので、組み込み作業性を向上させることができる。
【0010】
また、張出部に、燃料電池セルの外周縁に沿って延びる切れ目又は溝を形成しておくことによって、張出部を容易に屈曲することができる。
【0011】
また、張出部に粘着剤を塗布することによって、燃料電池セルに対してガスケットを容易に位置決め固定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明に係る燃料電池用ガスケットの好ましい実施の形態について、図面を参照しながら説明する。図1は、本発明に係る燃料電池用ガスケットの一形態を示す斜視図、図2は、図1におけるA−A位置で切断した断面図である。
【0013】
図1に示されるガスケット1は、膜状又は薄板状の枠体11と、この枠体11に一体的に設けられて、外周縁が燃料電池セルのセパレータ(不図示)の外周縁と同形同大に形成されたガスケット本体12とを備え、例えば不図示の燃料電池の発電領域やマニホールド穴などに対応する開口部10を有する。
【0014】
枠体11は、ガスケット本体12と一体に接合された本体部11aと、その外周側に延在されて、ガスケット本体12の外周から張り出した張出部11bとからなる。この枠体11としては、ポリイミド、ポリエステル、アラミド樹脂、ポリフェニレンスルフィド等の電気絶縁性に優れた合成樹脂製で厚さが0.05〜0.5mmのフィルムからなるものが好適に用いられるが、特に材質が限定されるものではなく、例えば電気絶縁性に優れたゴム材料や合成樹脂材料で被覆された金属薄板なども使用可能である。
【0015】
枠体11の張出部11bは、ガスケット本体12の外周縁12aに沿って、言い換えれば燃料電池セルのセパレータの外周縁に沿って延びるハーフカットによる切れ目11cで屈曲されており、このため燃料電池セルのセパレータの外周縁に嵌合可能となっている。したがって、燃料電池セルへのガスケット1の組み込み前においては、張出部11bは本体部11aと同一平面をなすようにしておき、ガスケット1の組み込む時に、切れ目11cで張出部11bを折り曲げれば良い。
【0016】
なお、ガスケット本体12からの張出部11bの張り出し幅は0.5mm以上であり、枠体11の本体部11aに対する屈曲角度θは60〜90°であることが好ましい。
【0017】
ガスケット本体12はゴム材料又はゴム状弾性を有する合成樹脂材料からなるものであって、枠体11の本体部11aの片面に一体的に接合されている。図示の例では、ガスケット本体12は平坦な形状となっているが、先に説明した図5のように山形あるいは蒲鉾形に突出したシールリップを有するものとすることもできる。
【0018】
ガスケット本体12を枠体11に一体的に接合する方法としては、例えば枠体11に対して自己接着性のある成形用液状ゴム材料を用いて、枠体11の本体部11aに一体成形する方法を採用すれば、ガスケット本体12の成形に際してあらかじめ枠体11の本体部11aに接着剤を塗布する工程を省略することができる。
【0019】
枠体11の張出部11bの内側面(谷折り側の面)には、図2に破線で示されるように、粘着剤の塗布によって粘着剤層13が形成されており、この粘着剤層13には、不図示の剥離紙が貼着されている。
【0020】
以上の構成を備えるガスケット1は、例えば、燃料電池セルにおけるセパレータとMEA(膜・電極複合体)との間に介在されて、燃料ガス(水素)や酸化ガス(酸素)、カソード面から排出される水や余剰空気をシールするものである。
【0021】
そしてこのガスケット1は、枠体11を一体に有するのに加えて、この枠体11の外周に、ガスケット本体12の外周から張り出すと共にガスケット本体12の外周縁に沿って延びる切れ目11cで屈曲された張出部11bを有するため、ガスケット1の厚さ方向(図2における上下方向)への曲げ荷重に対する剛性が高くなる。したがって、燃料電池の組み立てにおいて、当該ガスケット1のハンドリング性及び組み込み作業性が向上する。また、剛性を高めるために枠体11の肉厚を大きくする必要がないので、多数の燃料電池セルを積層した燃料電池スタックの大型化を来たしてしまうのを防止することができる。
【0022】
しかも、ガスケット1を組み込む作業では、枠体11の張出部11bの内側面(粘着剤層13が形成され剥離紙が貼着された面)を、燃料電池セル(セパレータ)の外周縁に嵌合させるようにすることによって、ガスケット1が燃料電池セルに対して位置決めされることから、容易に組み込むことができる。
【0023】
また、ガスケット1を組み込んだら、枠体11の張出部11bから剥離紙を剥がして粘着剤層13を露出させてから、張出部11bを外周側から押圧してセパレータの外周面などに押し付ければ、張出部11bを、粘着剤層13を介して前記セパレータの外周面などに粘着固定することができる。
【0024】
次に、図3及び図4は、それぞれ本発明に係る燃料電池用ガスケットの他の形態を図1におけるA−Aと対応する位置で切断して示す断面図である。
【0025】
このうち図3に示される実施の形態は、枠体11の本体部11aがガスケット本体12の外周部に埋設された状態でこのガスケット本体12と一体化されたものである。また、図4に示される実施の形態は、枠体11の本体部11aがガスケット本体12の幅方向全域に埋設された状態でこのガスケット本体12と一体化されたものであり、言い換えれば枠体11の本体部11aの両面にガスケット本体12を一体成形したものである。その他の部分については、図2と同様に構成することができる。
【0026】
したがってこれらの形態についても、先に説明した図1及び図2に示される形態と同様の効果を実現することができる。
【0027】
また、図3又は図4の形態によれば、山形あるいは蒲鉾形に突出したシールリップをガスケット本体12の両面に形成することができる。
【0028】
なお、上述の各形態においては、枠体11の本体部11aに対して張出部11bを容易に折り曲げるための切れ目11cを形成したが、この切れ目11cの代わりに、溝をプレスにより打ち出し形成する等の手段を講じても良い。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係る燃料電池用ガスケットの一形態を示す斜視図である。
【図2】図1におけるA−A位置で切断して示す断面図である。
【図3】本発明に係る燃料電池用ガスケットの他の形態を図1におけるA−Aと対応する位置で切断して示す断面図である。
【図4】本発明に係る燃料電池用ガスケットの他の形態を図1におけるA−Aと対応する位置で切断して示す断面図である。
【図5】従来技術に係る燃料電池用ガスケットをその延長方向と直交する平面で切断して示す断面図である。
【符号の説明】
【0030】
1 ガスケット
11 枠体
11a 本体部
11b 張出部
11c 切れ目
12 ガスケット本体
13 粘着剤層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜状又は薄板状の枠体に、ゴム材料又はゴム状弾性を有する合成樹脂材料からなるガスケット本体が一体に設けられ、前記枠体の外周に、前記ガスケット本体の外周から張り出した張出部を有すると共に、この張出部が燃料電池セルの外周縁に沿って屈曲されることを特徴とする燃料電池用ガスケット。
【請求項2】
張出部が、燃料電池セルの外周縁に沿って延びる切れ目又は溝において屈曲されることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用ガスケット。
【請求項3】
張出部に、粘着剤が塗布されたことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用ガスケット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−272109(P2009−272109A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−120974(P2008−120974)
【出願日】平成20年5月7日(2008.5.7)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【Fターム(参考)】