説明

燃料電池用スタック

【課題】マニホールド内に水滴が生成、または、流入する状態においても、マニホールド内壁面のガス流路溝との接続部において、接続部近傍での水滴の滞留を抑制し、ガス流路溝の水滴による閉塞を抑制することで、電気出力安定性を向上できる燃料電池用スタックを提供することを目的とする。
【解決手段】固体高分子電解質膜を一対のガス拡散電極で挟んでなる電解質膜−電極接合体と、前記ガス拡散電極と当接することでガス流路を形成するガス流路溝を備えたセパレータと、をそれぞれ複数積層することで形成される燃料電池用スタックにおいて、
前記スタックは、複数の前記ガス流路溝の上流側の一端と接続するマニホールドを備え、
前記マニホールドの内壁面のうち、前記マニホールドと前記ガス流路溝との接続部に隣接する部分には、親水性向上処理が施されていることを特徴とする燃料電池用スタック。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用スタックに関するものである。
【背景技術】
【0002】
高分子電解質型燃料電池(以下、PEFCという)は、MEA(Membrane−Electrode−Assembly:電解質膜−電極接合体)を有し、MEAの両側主面それぞれを、水素を含有する燃料ガスと、空気など酸素を含有する酸化剤ガスとに曝露して、燃料ガスと酸化剤ガスとを電気化学的に反応させることにより、電力と熱とを発生させる装置である。
【0003】
MEAに燃料ガスおよび酸化剤ガスを供給するため、MEAは、ガス流路溝が形成されたセパレータと当接している。
【0004】
また、ガス流路溝の上流側の一端は、各セルへ供給するガス量の等配性を確保するため、マニホールドと接続されている。
【0005】
ところで、PEFC停止時において、燃料電池用スタックおよび燃料電池用システムが冷却されることから、燃料電池用スタックのガス供給側マニホールド内、および、燃料電池用システム内の燃料電池用スタックに接続されたガス供給配管内には、残留した加湿ガスが結露することによる水滴が生じることになる。
【0006】
PEFC再運転時において、燃料電池用スタックのガス供給側マニホールド内には、停止時に発生した水滴、及び、停止時にガス供給配管内で発生しガス供給側マニホールドへ流入してくる水滴、が存在することになり、安定した出力を得るためには、これら水滴をマニホールド内で滞留させることなく、ガス流路溝へ送り出す必要がある。
【0007】
すなわち、ガス供給側マニホールド内に水滴が滞留した場合、マニホールドとガス流路溝との接続部を水滴が閉塞することにつながり、ガスの流れを阻害し、MEAにガスが供給されないことになる。その結果、フラッディング現象を起こし、電気出力が不安定化する等、燃料電池用スタックの性能を低下させることが知られている。
【0008】
そこで、従来は、ガス供給側マニホールドと、ガス流路溝と、の間に導入部を設け、導入部の親水性を向上処理する方法が開示されている。(例えば、特許文献1参照)
また、導入部の疎水性を向上処理する方法が開示されている。(例えば、特許文献2参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−141695号公報
【特許文献2】特開2010−182488号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1および特許文献2の構成において、ガス供給側マニホールドの内壁面のうち、マニホールドとガス流路溝との接続部に隣接する部分に対し、水滴の滞留を抑制する処理はされておらず、ガス供給側マニホールド内の水滴が、マニホールド内壁面のガス流路溝との接続部を閉塞する可能性があった。そのため、PEFC起動時にお
いて、安定した電気出力を得ることは困難であった。
【0011】
本発明は、上記従来の課題を解決するもので、マニホールド内壁面のガス流路溝との接続部において、接続部近傍での水滴の滞留を抑制し、ガス流路溝が水滴により閉塞されることを抑制することで、電気出力の安定性を向上できる燃料電池用スタックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記従来の課題を解決するために、本発明の燃料電池用スタックは、ガス供給側マニホールドの内壁面のうち、マニホールドとガス流路溝との接続部に隣接する部分に親水性向上処理を施すものである。
【0013】
これにより、マニホールド内壁面のガス流路溝との接続部において、接続部近傍での水滴の滞留を抑制し、ガス流路溝が水滴により閉塞されることを抑制することで、電気出力の安定性を向上できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の燃料電池用スタックによれば、マニホールド内に水滴が生成、または、流入する状態においても、マニホールド内壁面のガス流路溝との接続部において、接続部近傍での水滴の滞留を抑制し、ガス流路溝が水滴により閉塞されることを抑制するので、燃料電池の性能を安定的に確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態1に係る燃料電池用スタックの概略構成を示す模式図および斜視図
【図2】本発明の実施の形態1に係る電池モジュールの概略構成を示す断面図
【図3】本発明の実施の形態1に係るセパレータのガス流路パターンを示す平面図
【図4】本発明の実施の形態1に係る燃料電池用スタックの燃料ガス供給側マニホールドの断面図
【図5】本発明の実施の形態2に係る燃料電池用スタックの燃料ガス供給側マニホールドの断面図
【図6】本発明の実施の形態3および比較例2に係るセパレータのガス流路パターンを示す平面図
【図7】本発明の実施の形態4および比較例3に係るセパレータのガス流路パターンを示す平面図
【図8】本発明の実施の形態1に係るマニホールドとガス流路溝との接続部における水滴の形態を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0016】
第1の発明は、固体高分子電解質膜を一対のガス拡散電極で挟んでなる電解質膜−電極接合体と、前記ガス拡散電極と当接することでガス流路を形成するガス流路溝を備えたセパレータと、をそれぞれ複数積層することで形成される燃料電池用スタックである。そして特に、前記スタックは、複数の前記ガス流路溝の上流側の一端と接続するマニホールドを備え、前記マニホールドの内壁面のうち、前記マニホールドと前記ガス流路溝との接続部に隣接する部分には、親水性向上処理が施されていることを特徴とする。
【0017】
この構成により、マニホールド内壁面とガス流路溝との接続部において、接続部近傍の水滴は、マニホールドとガス流路溝との接続部に隣接する部分への親水化向上処理により、接触角が小さくなり球形状の形成が困難になることから、マニホールド内壁面とガス流路溝との接続部近傍での水滴の滞留を抑制することができる。よって、マニホールド内壁
面と接続されたガス流路溝入口部が、水滴により閉塞されるのを抑制することができるので、燃料電池の性能を安定的に確保することができる。
【0018】
第2の発明は、第1の発明において、前記マニホールドの内壁面のうち、前記マニホールドと前記ガス流路溝との接続部に隣接する部分には、親水性材料が配設されていることを特徴とする。
【0019】
この構成により、マニホールド内壁面のガス流路溝との接続部近傍に直接親水性向上処理をした場合と同じ効果が得られ、ガス流路溝の水滴による閉塞を抑制することができるので、燃料電池の性能を安定的に確保することができる。
【0020】
第3の発明は、第1乃至2いずれかの発明において、前記マニホールドは、前記ガス流路の鉛直上方に配置されたことを特徴とする。
【0021】
この構成により、マニホールド内壁面とガス流路溝との接続部において、接続部がマニホールド底面に近い位置に形成され、より水滴が滞留しやすい状態においても、マニホールド内壁面とガス流路溝との接続部での水滴の滞留を抑制することができる。よって、マニホールドと接続されたガス流路溝入口部が、水滴により閉塞されるのを抑制することができるので、マニホールドをセルの鉛直上方に配置することで、マニホールドを配置する外周部分のデットスペースを無くし、コンパクトに設計した燃料電池用スタックにおいても、燃料電池の性能を安定的に確保することができる。
【0022】
第4の発明は、第1乃至3いずれかの発明において、前記ガス流路溝は、前記マニホールドから鉛直下方向に延伸することを特徴とする。
【0023】
この構成により、マニホールド内壁面とガス流路溝との接続部において、ガス流路溝がマニホールドから鉛直方向に延伸することで、ガス流路溝がマニホールドから水平方向に延伸する場合と比較し、ガス流路溝入口部が水滴により閉塞しやすいガス流路溝パターンにおいても、マニホールド内壁面とガス流路溝との接続部での水滴の滞留を抑制することができる。よって、マニホールドと接続されたガス流路溝入口部が、水滴により閉塞されるのを抑制することができるので、マニホールドからセルへ迂回することなくガス流路溝パターンを形成した燃料電池用スタックにおいても、燃料電池の性能を安定的に確保することができる。
【0024】
第5の発明は、第1乃至4いずれかの発明において、前記マニホールドのうち、少なくとも燃料ガス供給側マニホールドの前記ガス流路溝との接続部に隣接する部分に対し、親水性向上処理が施されていることを特徴とする。
【0025】
この構成により、ガス供給量が酸化剤ガスと比較して少なく、マニホールド内の水滴を排出する能力が低い、燃料ガス供給側マニホールドに、親水性向上処理が施されることから、マニホールド内壁面とガス流路溝との接続部での水滴の滞留を抑制することができ、よって、マニホールドと接続されたガス流路溝入口部が、水滴により閉塞されるのを抑制することができるので、燃料電池の性能を安定的に確保することができる。
【0026】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明するが、先に説明した実施の形態と同一構成については同一符号を付して、その詳細な説明は省略する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0027】
(実施の形態1)
[燃料電池の構成]
次に、本実施の形態1に係る燃料電池スタック101の構成について、図1を参照しながら説明する。
【0028】
ここで、一般的な構成として、内部マニホールド型スタックを例に説明するが、内部マニホールド型スタックに限定されるものではなく、外部マニホールド型スタックでも同様の効果がある。
【0029】
図1(a)は、燃料電池スタック101の概略構成を示す模式図、図1(b)は斜視図、である。
【0030】
図1(a)に示すように、燃料電池スタック101は、複数のセル10がその厚み方向に積層されたセル積層体80と、セル積層体80の両端に配置された端板81、82と、セル積層体80と端板81、82をセル10の積層方向において締結する締結具(図示せず)と、を有する。また、端板81とセル積層体80の間には、絶縁板83及び集電板85が配置されていて、端板82とセル積層体80との間には、絶縁板84及び集電板86が配置されている。
【0031】
図1(b)に示すように、セル積層体80には、セル10の積層方向に延びるように、燃料ガス供給側マニホールド31、酸化剤ガス供給側マニホールド33、熱媒体供給側マニホールド(図示せず)、が構成されており、それぞれ、燃料ガス供給口41、酸化剤ガス供給口51、熱媒体供給口(図示せず)と接続されている。更に、燃料ガス排出側マニホールド32、酸化剤ガス排出側マニホールド34、熱媒体排出側マニホールド(図示せず)、が構成されており、それぞれ、燃料ガス排出口、酸化剤ガス排出口、熱媒体排出口(いずれも図示せず)と接続されている。
【0032】
ここで、燃料電池用スタックを出来るだけコンパクトに設計するためには、マニホールドを配置する外周部分のデットスペースをなくすことが望ましい。このため、燃料ガス供給側マニホールド、酸化剤ガス供給側マニホールド、熱媒体供給側マニホールドと、燃料ガス排出側マニホールド、酸化剤ガス排出側マニホールド、熱媒体排出側マニホールドと、を対向する2面に集中させ、スペースの有効利用を図ることが一般的である。
【0033】
[セルの構成]
次に、本実施の形態1に係る燃料電池スタック101のセル10について、図2、および、図3を参照しながら説明する。
【0034】
図2は、図1に示す燃料電池スタック101におけるセル10の概略構成を模式的に示す断面図である。なお、図2においては、一部を省略している。
【0035】
図2に示すように、セル10は、MEA18(Membrane−Electrode−Assembly:膜−電極接合体)と、ガスケット19と、アノードセパレータ16と、カソードセパレータ17と、を備えている。
【0036】
MEA18は、水素イオンを選択的に輸送する電解質層(高分子電解質膜)11と、アノード12と、カソード13と、を有している。電解質層11は、略4角形の形状を有しており、電解質層11の両面には、その周縁部より内方に位置するようにアノード12とカソード13がそれぞれ設けられている。なお、電解質層11の周縁部には、燃料ガス供給側マニホールド孔、酸化剤ガス供給側マニホールド孔、熱媒体供給側マニホールド孔、および、燃料ガス排出側マニホールド孔、酸化剤ガス排出側マニホールド孔、熱媒体排出側マニホールド孔、(いずれも図示せず)が厚み方向に貫通するように設けられている。
【0037】
アノード12は、電解質層11の一方の主面上に設けられ、白金系金属触媒(電極触媒)を担持したカーボン粉末(導電性炭素粒子)からなる触媒担持カーボンと触媒担持カーボンに付着した高分子電解質を含むアノード触媒層と、ガス通気性と導電性を兼ね備えたアノードガス拡散層(いずれも図示せず)と、を有している。アノード触媒層は、一方の主面が電解質層11と接触するように配置されていて、アノード触媒層の他方の主面には、アノードガス拡散層が配置されている。同様に、カソード13は、電解質層11の他方の主面上に設けられ、白金系金属触媒(電極触媒)を担持したカーボン粉末(導電性炭素粒子)からなる触媒担持カーボンと触媒担持カーボンに付着した高分子電解質を含むカソード触媒層と、カソード触媒層の上に設けられ、ガス通気性と導電性を兼ね備えたカソードガス拡散層(いずれも図示せず)と、を有している。
【0038】
また、MEA18のアノード12、および、カソード13の周囲には、電解質層11を挟んで一対のフッ素ゴム製でドーナツ状のガスケット19が配設されている。これにより、燃料ガス、酸化剤ガス、熱媒体が電池外にリークされることが防止され、また、セル10内でこれらが互いに混合されることが防止される。なお、ガスケット19の周縁部には、厚み方向の貫通孔からなる燃料ガス供給側マニホールド孔、酸化剤ガス供給側マニホールド孔、熱媒体供給側マニホールド孔、および、燃料ガス排出側マニホールド孔、酸化剤ガス排出側マニホールド孔、熱媒体排出側マニホールド孔(いずれも図示せず)が設けられている。
【0039】
また、MEA18とガスケット19を挟むように、導電性のアノードセパレータ16とカソードセパレータ17が配設されている。これにより、MEA18が機械的に固定され、複数のセル10をその厚み方向に積層したときには、MEA18が電気的に接続される。なお、アノードセパレータ16及びカソードセパレータ17は、熱伝導性及び導電性に優れた金属、黒鉛、又は、黒鉛と樹脂を混合したものを使用することができ、例えば、カーボン粉末とバインダー(溶剤)との混合物を射出成形により作製したものやチタンやステンレス鋼製の板の表面に金メッキを施したものを使用することができる。
【0040】
アノードセパレータ16のアノード12と接触する一方の主面(以下、内面という)には、燃料ガスが通流するための溝状の燃料ガス流路溝14が設けられており、他方の面には、熱媒体が通流するための溝状の熱媒体流路溝22が設けられている。同様に、カソードセパレータ17のカソード13と接触する一方の主面(以下、内面という)には、酸化剤ガスが通流するための溝状の酸化剤ガス流路溝15が設けられており、他方の面には、熱媒体が通流するための溝状の熱媒体流路溝23が設けられている。
【0041】
図3(a)は、図1に示す燃料電池スタック101におけるアノードセパレータ16、図3(b)は、カソードセパレータ17、それぞれのガス流路側の平面図である。
【0042】
アノードセパレータ16、および、カソードセパレータ17のそれぞれの周縁部には、燃料ガスを供給するカソード入口マニホールド111、酸化剤ガスを供給するアノード入口マニホールド113、熱媒体を供給する熱媒体入口マニホールド112、および、燃料ガスを排出するマニホールド孔114、酸化剤ガス排出側マニホールド孔116、熱媒体排出側マニホールド115、が厚み方向に貫通するように設けられている。また、燃料ガス流路溝14、および、酸化剤ガス流路溝15、の形状は任意であり、例えば、セル10の厚み方向から見て、サーペンタイン状に形成されていても良く、ストレート形状に形成されていても良い。
【0043】
これにより、アノード12、および、カソード13には、それぞれ、燃料ガス、および、酸化剤ガスが供給され、これらのガスが反応して電気と熱が発生する。
【0044】
そして、このように形成されたセル10が、その厚み方向に積層されることにより、セル積層体80が形成される。
【0045】
実施の形態1として、燃料電池用スタックの燃料ガス供給側マニホールド31の断面図を図4に示す。
【0046】
実施の形態1にて作製したセル積層体80の、燃料ガス供給側マニホールド31と燃料ガス流路溝14とのガス流路溝接続部24に隣接するガス流路溝隣接部25、および、酸化剤ガス供給側マニホールド33と酸化剤ガス流路溝15との接続部に隣接する部分に、親水性向上処理として、親水性エポキシ樹脂を塗布し、燃料電池用スタックを作製した。なお、親水性向上処理には、金属酸化物(アルミナ、シリカ、ゼオライト等)、または、親水性樹脂(エポキシ、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、アクリル酸等)の塗布または含浸、および、表面処理(酸化、酸、プラズマ、紫外線、界面活性剤などによる処理)などがあり、親水性が向上するいずれの手段でも用いることが可能である。
【0047】
(実施の形態2)
実施の形態2として、燃料電池用スタックの燃料ガス供給側マニホールド31の断面図を図5に示す。
【0048】
実施の形態1にて作製したセル積層体80の、燃料ガス供給側マニホールド31の内壁面に親水性樹脂管35を配設する。また、同様に、酸化剤ガス供給側マニホールド33の内壁面に親水性エポキシ樹脂管を配設し、燃料電池用スタックを作製した。なお、親水性材料には、親水性樹脂(エポキシ、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、アクリル酸等)、および、表面を親水性樹脂でコートしたもの、または、表面処理(酸化、酸、プラズマ、紫外線、界面活性剤などによる処理)を施したものなどがあり、親水性が向上しているいずれの材料でも用いることが可能である。
【0049】
(実施の形態3)
実施の形態3として、燃料電池用スタックのアノードセパレータ16a、および、カソードセパレータ17aのガス流路パターンを図6に示す。
【0050】
アノードセパレータ16a、および、カソードセパレータ17a以外は、実施の形態1と同様に作製したセル積層体80の、燃料ガス供給側マニホールド31と燃料ガス流路溝14とのガス流路溝接続部24に隣接するガス流路溝隣接部25、および、酸化剤ガス供給側マニホールド33と酸化剤ガス流路溝15との接続部に隣接する部分に、親水性エポキシ樹脂を塗布し、燃料電池用スタックを作製した。
【0051】
(実施の形態4)
実施の形態4として、実施の形態1にて作製した燃料電池用スタックのアノードセパレータ16b、および、カソードセパレータ17bのガス流路パターンを図6に示す。
【0052】
アノードセパレータ16b、および、カソードセパレータ17b以外は、実施の形態1と同様に作製したセル積層体80の、燃料ガス供給側マニホールド31と燃料ガス流路溝14とのガス流路溝接続部24に隣接するガス流路溝隣接部25、および、酸化剤ガス供給側マニホールド33と酸化剤ガス流路溝15との接続部に隣接する部分に、親水性エポキシ樹脂を塗布し、燃料電池用スタックを作製した。
【0053】
(実施の形態5)
実施の形態5として、実施の形態1にて作製したセル積層体80の、燃料ガス供給側マニホールド31と燃料ガス流路溝14とのガス流路溝接続部24に隣接するガス流路溝隣
接部25に、親水性エポキシ樹脂を塗布し、燃料電池用スタックを作製した。
【0054】
比較例1として、実施の形態1にて作製したセル積層体80の、燃料ガス供給側マニホールド31と燃料ガス流路溝14との接続部24に隣接する部分25、および、酸化剤ガス供給側マニホールド33と酸化剤ガス流路溝15との接続部に隣接する部分に、親水性向上処理を施すこと無く、燃料電池用スタックを作製した。
【0055】
比較例2として、燃料電池用スタックのアノードセパレータ16a、および、カソードセパレータ17aのガス流路パターンを図6に示す。
【0056】
アノードセパレータ16a、および、カソードセパレータ17a以外は、実施の形態1と同様に作製したセル積層体80の、燃料ガス供給側マニホールド31と燃料ガス流路溝14との接続部24に隣接する部分25、および、酸化剤ガス供給側マニホールド33と酸化剤ガス流路溝15との接続部に隣接する部分に、親水性向上処理を施すこと無く、燃料電池用スタックを作製した。
【0057】
比較例3として、実施の形態1にて作製した燃料電池用スタックのアノードセパレータ16b、および、カソードセパレータ17bのガス流路パターンを図7に示す。
【0058】
アノードセパレータ16b、および、カソードセパレータ17b以外は、実施の形態1と同様に作製したセル積層体80の、燃料ガス供給側マニホールド31と燃料ガス流路溝14との接続部24に隣接する部分25、および、酸化剤ガス供給側マニホールド33と酸化剤ガス流路溝15との接続部に隣接する部分に、親水性向上処理を施すこと無く、燃料電池用スタックを作製した。
【0059】
比較例4として、実施の形態1にて作製したセル積層体80の、酸化剤ガス供給側マニホールド33と酸化剤ガス流路溝15との接続部に隣接する部分に、親水性エポキシ樹脂を塗布し、燃料電池用スタックを作製した。
【0060】
なお、比較例1〜5にて作製した燃料電池用スタックを24h発電後、5℃環境で24h停止し、その後、再起動した時のフラッディングの有無、および、再起動12h後から24h後まで間の各セル電圧の差にて電気出力安定性の評価とした。
【0061】
上により、燃料電池用スタックの電気出力安定性を評価した結果を表1に示す。
【0062】
【表1】

【0063】
比較例1は、燃料ガス供給側マニホールド31と燃料ガス流路溝14との接続部24に隣接する部分25、および、酸化剤ガス供給側マニホールド33と酸化剤ガス流路溝15との接続部に隣接する部分に、親水性向上処理が施されていない。実施の形態1の燃料電池用スタックは、表1より、比較例1と比較しても、フラッディングが無く、各セル電圧差が小さいことから、マニホールド内壁面のガス流路溝との接続部において、接続部近傍での水滴の滞留を抑制し、ガス流路溝が水滴により閉塞されるのを抑制する効果があると考えられる。
【0064】
図8にマニホールドとガス流路溝との接続部における水滴の形態について示す。図8(a)はマニホールドとガス流路溝との接続部に隣接する部分に親水化向上処理が施された場合のマニホールド鉛直方向断面模式図である。図8(b)はマニホールドとガス流路溝との接続部に隣接する部分に親水化向上処理が施されていない場合のマニホールド鉛直方向断面模式図である。図8(c)はマニホールドとガス流路溝との接続部に隣接する部分に親水化向上処理が施された場合のマニホールド水平方向断面模式図である。図8(d)はマニホールドとガス流路溝との接続部に隣接する部分に親水化向上処理が施されていない場合のマニホールド水平方向断面模式図である。
【0065】
図8より、マニホールド内壁とガス流路溝との接続部において、接続部に隣接する部分への親水化向上処理により、接続部近傍の水滴の接触角が小さくなり、球形状の形成が困難になるため、マニホールド内壁とガス流路溝との接続部での水滴の滞留が抑制され、電気出力安定性につながったものと考えられる。
【0066】
表1より、実施の形態2の燃料電池用スタックは、比較例1と比較しても、フラッディングが無く、各セル電圧差が小さいことから、マニホールドと接続されたガス流路溝入口部が、水滴により閉塞されるのを抑制する効果があると考えられる。
【0067】
また、親水性向上処理として、親水性エポキシ樹脂を塗布した実施の形態1と比較し、同じ効果が得られている。
【0068】
このことは、マニホールドとガス流路溝との接続部に隣接する部分に親水性材料を配設した場合においても、隣接部に直接親水性向上処理をした場合と同じ効果が得られ、ガス
流路溝の水滴による閉塞を抑制することができ、電気出力安定性につながったものと考えられる。
【0069】
実施の形態3の燃料電池用スタックは、表1より、供給側マニホールドがMEAの鉛直上方に配置された実施の形態1と比較し、同等の電気出力安定性が得られている。
【0070】
このことは、燃料ガス供給側マニホールド31と燃料ガス流路溝14との接続部24に隣接する部分25、および、酸化剤ガス供給側マニホールド33と酸化剤ガス流路溝15との接続部に隣接する部分に、親水性向上処理が施されている場合、MEAに対するマニホールド位置にかかわらず、ガス流路溝の水滴による閉塞を抑制することができ、電気出力安定性につながったものと考えられる。
【0071】
一方、表1より、マニホールドがMEAの鉛直上方に配置された比較例1と、マニホールドがMEAの水平横方向に配置された比較例2と比較すると、供給側マニホールドがMEAの鉛直上方に配置された比較例1の方が、各セル電圧差が大きいことから、電気出力安定性が低い結果が得られている。
【0072】
このことは、マニホールドを配置する外周部分のデットスペースを無くし、コンパクトに燃料電池用スタックを設計するため、供給側マニホールドをMEAの鉛直上方に配置した場合の方が、水平横方向に配置した場合よりも、より親水性向上処理の効果が得られ、ガス流路溝の水滴による閉塞を抑制することができ、電気出力安定性につながったものと考えられる。
【0073】
実施の形態4の燃料電池用スタックは、表1より、ガス流路溝が供給側マニホールドから鉛直方向に延伸している実施の形態1と比較し、同等の電気出力安定性が得られている。
このことは、燃料ガス供給側マニホールド31と燃料ガス流路溝14との接続部24に隣接する部分25、および、酸化剤ガス供給側マニホールド33と酸化剤ガス流路溝15との接続部に隣接する部分に、親水性向上処理が施されている場合、ガス流路溝の延伸方向にかかわらず、ガス流路溝の水滴による閉塞を抑制することができ、電気出力安定性につながったものと考えられる。
【0074】
比較例1は、燃料ガス供給側マニホールド31と燃料ガス流路溝14との接続部24に隣接する部分25、および、酸化剤ガス供給側マニホールド33と酸化剤ガス流路溝15との接続部に隣接する部分に、親水性向上処理が施されてなく、且つ、ガス流路溝が供給側マニホールドから鉛直方向に延伸している。表1より、比較例1と、ガス流路溝が供給側マニホールドから水平方向に延伸している比較例3を比較すると、ガス流路溝が鉛直方向に延伸された比較例1の方が、各セル電圧差が大きいことから、電気出力安定性が低い結果が得られている。
【0075】
このことは、マニホールドを配置する外周部分のデットスペースを無くし、コンパクトに燃料電池用スタックを設計することを可能とする。また、供給側マニホールドをセルの鉛直上方に配置し、且つ、供給側マニホールドからセルまでの流路長を最短にするため、ガス流路溝が鉛直方向に延伸した場合の方が、水平方向に延伸した場合よりも、より親水性向上処理の効果が得られ、ガス流路溝の水滴による閉塞を抑制することができ、電気出力安定性につながったものと考えられる。
【0076】
実施の形態5の燃料電池用スタックは、表1より、燃料ガス供給側マニホールド31と燃料ガス流路溝14との接続部24に隣接する部分25に対し、親水性向上処理が施されている。しかし、酸化剤ガス供給側マニホールド33と酸化剤ガス流路溝15との接続部
に隣接する部分に、親水性向上処理が施されていない比較例4と比較し、耐フラッディング性は同等であるため、各セル電圧差が小さい結果が得られている。
【0077】
このことは、ガス供給量が酸化剤ガスと比較して少なく、マニホールド内の水滴を排出する能力が低い、燃料ガス供給側マニホールド31と燃料ガス流路溝14との接続部24に隣接する部分25に対し、親水性向上処理を施すことにより、マニホールド内壁とガス流路溝との接続部での水滴の滞留を抑制することができ、電気出力安定性につながったものと考えられる。
【0078】
このように構成された本実施の形態1に係る燃料電池用スタックは、供給側マニホールド内壁とガス流路溝との接続部において、水滴の滞留が抑制され、電気出力安定性を向上させることができ、燃料電池の性能を安定的に確保することができる。
【産業上の利用可能性】
【0079】
以上のように、本発明に係る燃料電池用スタックは、供給側マニホールド内に水滴が生成、または、流入する状態においても、ガス流路溝の水滴による閉塞の抑制に有効である。また、供給側マニホールド内壁面とガス流路溝との接続部において水滴が滞留することによるフラッディングなどの影響を受け難い。これにより、電気出力安定性が要望される、高分子型固体電解質を用いた燃料電池、燃料電池デバイス、定置用燃料電池コジェネレーションシステム等の用途に適用できる。
【符号の説明】
【0080】
10 セル
11 電解質層
12 アノード
13 カソード
14 燃料ガス流路溝
15 酸化剤ガス流路溝
16、16a、16b アノードセパレータ
17、17a、17b カソードセパレータ
18 膜−電極接合体
19 ガスケット
22、23 熱媒体流路溝
24 ガス流路溝接続部
25 ガス流路溝隣接部
31 燃料ガス供給側マニホールド
32 燃料ガス排出側マニホールド
33 酸化剤ガス供給側マニホールド
34 酸化剤ガス排出側マニホールド
35 親水性樹脂管
36 親水性向上処理済マニホールド
37 親水性向上未処理マニホールド
38、39 水滴
40 ガス流路溝
41 燃料ガス供給口
51 酸化剤ガス供給口
85、86 集電板
80 セル積層体
81、82 端板
83、84 絶縁板
101 燃料電池スタック
111 カソード入口マニホールド
112 熱媒体入口マニホールド
113 アノード入口マニホールド
114 マニホールド孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体高分子電解質膜を一対のガス拡散電極で挟んでなる電解質膜−電極接合体と、前記ガス拡散電極と当接することでガス流路を形成するガス流路溝を備えたセパレータと、をそれぞれ複数積層することで形成される燃料電池用スタックにおいて、
前記スタックは、複数の前記ガス流路溝の上流側の一端と接続するマニホールドを備え、
前記マニホールドの内壁面のうち、前記マニホールドと前記ガス流路溝との接続部に隣接する部分には、親水性向上処理が施されていることを特徴とする燃料電池用スタック。
【請求項2】
前記マニホールドの内壁面のうち、前記マニホールドと前記ガス流路溝との接続部に隣接する部分には、親水性材料が配設されていることを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用スタック。
【請求項3】
前記マニホールドは、前記ガス流路の鉛直上方に配置されたことを特徴とする請求項1または2記載の燃料電池用スタック。
【請求項4】
前記ガス流路溝は、前記マニホールドから鉛直下方向に延伸することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の燃料電池用スタック。
【請求項5】
前記マニホールドのうち、少なくとも燃料ガス供給側マニホールドの前記ガス流路溝との接続部に隣接する部分に対し、親水性向上処理が施されていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の燃料電池用スタック。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図1】
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【図2】
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【図8】
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