説明

燃料電池用セパレータおよびその製造方法

【課題】高い耐食性や低不純物溶出特性を示し、ガス不透過性および電気抵抗が低く、高い強度および耐久性を有する固体高分子形燃料電池用セパレータを提供する。
【解決手段】粒度分布が1〜150μmで平均粒子径が30〜70μmである第一の黒鉛粉末と、平均粒子径が1〜10μmで比表面積が30〜100m/gである第二の黒鉛粉末とを、第一の黒鉛粉末の質量/第二の黒鉛粉末の質量で表わされる比が80/20〜60/40となるように混合した黒鉛粉末混合物が、熱硬化性樹脂バインダーにより結着された材料からなることを特徴とする固体高分子形燃料電池用セパレータである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用セパレータおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、燃料が有する化学エネルギーを直接電気エネルギーに変換するもので、電気エネルギーへの変換効率が高く、騒音や振動も少ないことから、携帯機器、自動車、鉄道、コジェネレーション等の多様な分野における電源として今後の発展が期待されている。
【0003】
燃料電池のうち、固体高分子形燃料電池(PEFC)は、イオン伝導性を有する高分子膜(イオン交換膜)の両面を白金などの触媒を担持させたアノード電極板およびカソード電極板で挟み、その両外側に板状セパレータを配してなる単セルを基本構成単位とし、この単セルを数十〜数百個積層させたスタックとその外側に設けた2つの集電体等から構成されてなるものであり、代表的には、水素等の燃料ガス及び空気等の酸化剤ガスの流路としての溝を、各電極板のセパレータ側表面に刻設したリブ付電極方式と、各セパレータの表面に刻設したリブ付セパレータ方式等がある(例えば、特許文献1(特開2000−21421号公報)参照)。
PEFCのうち、車載用PEFCにおいては、1スタックあたり数百個の単セルが積層されることから、使用されるセパレータ数も数百枚に亘る。
【0004】
上記板状セパレータは、燃料ガスと酸化剤ガスとを完全に分離した状態で電極に供給するために高度のガス不透過性が必要とされ、また、発電効率を高めるために、電池の内部抵抗を低減して高い導電性を有することが必要とされる。さらに、長期に亘って安定して発電を行うために、高度の耐食性や低不純物溶出特性等が必要とされ、このような材質特性が要求されるセパレータには、従来から炭素質系の材料が用いられており、熱硬化性樹脂バインダーにより黒鉛などの炭素粉末を結着し、成形した炭素/樹脂複合モールドセパレータが使用されてきた。
【0005】
PEFCの製造に際しては、スタックの形成時に単セル同士が密着するように強く締め付ける必要があるが、近年、車載用PEFCのセパレータとして、薄型で軽量なものが求められるようになっていることから、スタックを形成する個々のセパレータにおいて、組立時や締結時の荷重に耐え得る、より高い強度を有するものが求められるようになっている。
さらに、車載用PEFCのセパレータとしては、PEFCの起動、停止による冷熱サイクルに伴う膨張収縮の繰り返しや、自動車の振動による負荷に耐え得る高度の耐久性(疲労特性)や信頼性を有するものが求められるようになっている。
【0006】
しかしながら、上記炭素/樹脂複合モールドセパレータは、一般に、耐食性や低不純物溶出特性に優れるものの、金属製セパレータと比較した場合に強度や耐久性等の機械的特性に劣ることから、スタックの組立、締結時の負荷(荷重)によって割れやクラックを生じ易く、特に長期に亘る耐久性に劣ることから疲労劣化等を生じ易い。
【0007】
このため、引用文献2(特開2007−134225号公報)においては、平均粒子径が30μmまたは40μmである多孔質人造黒鉛材料100質量部に対して、熱硬化性樹脂24質量部および内部離型剤であるカルナバワックス1質量部を含む組成物からなる燃料電池用セパレータが提案されており、引用文献2によれば、強度や柔軟性に優れた燃料電池用セパレータを提供し得るとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−21421号公報
【特許文献2】特開2007−134225号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、本発明者等の検討によれば、引用文献2に記載の燃料電池用セパレータは、使用当初は高い強度を示すものの、長期間使用した場合の耐久性に劣り、繰り返し負荷に対する抵抗力が低く疲労劣化を生じ易いものであることが判明した。
このような状況下、本発明は、耐食性や低不純物溶出特性に優れるとともに、ガス不透過性および電気特性に優れ、高い強度および耐久性を示す燃料電池用セパレータおよびその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記技術課題を解決するために本発明者がさらに検討したところ、粒度分布が1〜150μmで平均粒子径が30〜70μmである第一の黒鉛粉末と、平均粒子径が1〜10μmで比表面積が30〜100m/gである第二の黒鉛粉末とを、第一の黒鉛粉末の質量/第二の黒鉛粉末の質量で表わされる比が80/20〜60/40となるように混合した黒鉛粉末混合物が、熱硬化性樹脂バインダーにより結着された材料からなることを特徴とする固体高分子形燃料電池用セパレータによって、上記技術課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、
(1)粒度分布が1〜150μmで平均粒子径が30〜70μmである第一の黒鉛粉末と、平均粒子径が1〜10μmで比表面積が30〜100m/gである第二の黒鉛粉末とを、第一の黒鉛粉末の質量/第二の黒鉛粉末の質量で表わされる比が80/20〜60/40となるように混合した黒鉛粉末混合物が、熱硬化性樹脂バインダーにより結着された材料からなることを特徴とする固体高分子形燃料電池用セパレータ(以下、本発明のセパレータと称する)、
(2)前記第一の黒鉛粉末が、等方性黒鉛を粉砕、分級して粒度調整した人造黒鉛粉末またはモザイク状コークスを黒鉛化処理した後、粉砕、分級して粒度調整した人造黒鉛粉末であるとともに、前記第二の黒鉛粉末も、等方性黒鉛を粉砕、分級して粒度調整した人造黒鉛粉末またはモザイク状コークスを黒鉛化処理した後、粉砕、分級して粒度調整した人造黒鉛粉末である上記(1)に記載の固体高分子形燃料電池用セパレータ、
(3)固体高分子形燃料電池用セパレータを製造する方法であって、
粒度分布が1〜150μmで平均粒子径が30〜70μmである第一の黒鉛粉末と、平均粒子径が1〜10μmで比表面積が30〜100m/gである第二の黒鉛粉末とを、第一の黒鉛粉末の質量/第二の黒鉛粉末の質量で表わされる比が80/20〜60/40となるように混合した黒鉛粉末混合物を、熱硬化性樹脂バインダー溶液に分散させてスラリー状混合材料を作製し、
該スラリー状混合材料を用いてドクターブレード法によりグリーンシートを作製し、次いで、
得られたグリーンシートを積層し、熱圧成形する
ことを特徴とする固体高分子形燃料電池用セパレータの製造方法(以下、本発明のセパレータの製造方法と称する)、
(4)前記第一の黒鉛粉末が、等方性黒鉛を粉砕、分級して粒度調整した人造黒鉛粉末またはモザイク状コークスを黒鉛化処理した後、粉砕、分級して粒度調整した人造黒鉛粉末であるとともに、前記第二の黒鉛粉末も、等方性黒鉛を粉砕、分級して粒度調整した人造黒鉛粉末またはモザイク状コークスを黒鉛化処理した後、粉砕、分級して粒度調整した人造黒鉛粉末である上記(3)に記載の固体高分子形燃料電池用セパレータの製造方法、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、黒鉛粉末を含有することによって高い耐食性や低不純物溶出特性を示すとともに、上記黒鉛粉末として、第一の黒鉛粉末および第二の黒鉛粉末を含有することによって、ガス不透過性および電気抵抗が低く、高い強度および耐久性を有する固体高分子形燃料電池用セパレータを提供することができるとともに、該固体高分子形燃料電池用セパレータを簡便に製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明で用いるグリーンシートの形態の一例を示す図((a)および(b))と、得られるセパレータの形態の一例を示す図((c))である。
【図2】本発明のセパレータの使用形態を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
先ず、本発明のセパレータについて説明する。
本発明のセパレータは、粒度分布(粒子径分布範囲)が1〜150μmで平均粒子径が30〜70μmである第一の黒鉛粉末と、平均粒子径が1〜10μmで比表面積が30〜100m/gである第二の黒鉛粉末とを、第一の黒鉛粉末の質量/第二の黒鉛粉末の質量で表わされる比が80/20〜60/40となるように混合した黒鉛粉末混合物が、熱硬化性樹脂バインダーにより結着された材料からなることを特徴とするものである。
【0015】
本発明のセパレータは、セパレータ形成材料として、粒度分布が1〜150μmで平均粒子径が30〜70μmである第一の黒鉛粉末と、平均粒子径が1〜10μmで比表面積が30〜100m/gである第二の黒鉛粉末とを含む。
【0016】
本発明のセパレータにおいて、第一の黒鉛粉末は、粒度分布が1〜150μmであり、2〜120μmであることが好ましい。第一の黒鉛粉末の粒度分布の上限が150μm超である場合、セパレータの厚みが薄い場合にガスリークを生じ易くなる。
また、第一の黒鉛粉末は、平均粒子径が30〜70μmであり、32〜60μmであることが好ましい。
【0017】
本発明のセパレータにおいて、第一の黒鉛粉末の粒度分布が1〜150μmであることにより、粒度分布が広くなり、後述するようにスラリー状混合材料からセパレータを製造するときに、流動性が高く安定したスラリーを得易くなる。また、第一の黒鉛粉末の粒度分布が1〜150μmであるとともに、平均粒子径が30〜70μmであることにより、セパレータの形成材料が数十μm以上の粒子径を有する黒鉛粉末を一定割合含むことになることから、セパレータの固有抵抗や接触抵抗を容易に低減することができる。
【0018】
なお、本出願書類において、粒度分布は、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定される、体積基準積算粒度分布における粒径の上限値と下限値により規定され、また、本出願書類において、平均粒子径は、上記方法で測定された体積基準積算粒度分布における積算粒度で50%の粒径(平均粒径D50)を意味する。
【0019】
本発明のセパレータにおいて、第二の黒鉛粉末は、平均粒子径が1〜10μmであり、2〜8μmであることが好ましい。また、第二の黒鉛粉末の粒度分布は0.3〜40μmであることが好ましく、0.5〜20μmであることがより好ましい。
第二の黒鉛粉末の粒度分布や平均粒子径は、第一の黒鉛粉末の粒度分布や平均粒子径と同様の方法で測定することができる。
【0020】
本発明のセパレータにおいて、第二の黒鉛粉末の比表面積は30〜100m/gであり、35〜85m/gであることが好ましい。
第二の黒鉛粉末の比表面積が30m/gより小さい場合には、セパレータの疲労特性が低下して耐久性が低下し易くなり、比表面積が100m/gを超える場合には、セパレータの製造時に成形材料の流動性が低下してリーク性能(ガス不透過性)が低下し易くなる。
【0021】
なお、本出願書類において、黒鉛粉末の比表面積は、表面積計((株)島津製作所製全自動表面積測定装置)を用い、測定対象に対して、窒素流通下350℃で30分間予備乾燥を行なった後、大気圧に対する窒素の相対圧の値が0.3となるように正確に調整した窒素ヘリウム混合ガスを用い、ガス流動法による窒素吸着BET10点法により測定した値を意味する。
【0022】
第二の黒鉛粉末は、振動ミル等の粉砕装置を用いて人造黒鉛等の黒鉛粒子を所望粒径になるように粉砕することにより作製することができる。
本発明のセパレータにおいて、第二の黒鉛粉末は、第一の黒鉛粉末よりも平均粒子径が小さく、このように平均粒子径の小さな黒鉛粉末は通常粉砕処理によって作製されるため、得られる黒鉛粉末表面は、メカノケミカル変化を生じて化学的に活性になる。また、上記粉砕処理により、得られる黒鉛粉末表面には物理的に凹凸を生じて上記比表面積を有する黒鉛粉末を容易に得ることができるとともに、セパレータの製造時に熱硬化性樹脂バインダーとの密着性を向上させて、曲げ特性等の破断歪が高く、耐久性の指標である疲労特性(疲労限界)が著しく向上したセパレータを容易に得ることができる。
【0023】
本発明のセパレータにおいて、第一の黒鉛粉末としては、等方性黒鉛を粉砕、分級して粒度調整した人造黒鉛粉末またはモザイク状コークスを黒鉛化処理した後、粉砕、分級して粒度調整した人造黒鉛粉末であることが好ましい。
また、本発明のセパレータにおいて、第二の黒鉛粉末としても、等方性黒鉛を粉砕、分級して粒度調整した人造黒鉛粉末またはモザイク状コークスを黒鉛化処理した後、粉砕、分級して粒度調整した人造黒鉛粉末であることが好ましい。
【0024】
等方性黒鉛を粉砕、分級して粒度調整した人造黒鉛粉末またはモザイク状コークスを黒鉛化処理した後、粉砕、分級して粒度調整した人造黒鉛粉末は、黒鉛粉末の結晶面間隔d002が0.3360nm以上と黒鉛化度が低いことから、硬質でかつ熱硬化性樹脂バインダーとの親和性が高く、曲げ特性における弾性変形領域が大きくなって、破断歪みが大きくなり、繰り返し負荷に対する疲労破壊を生じ難くなることから、強度および機械的耐久性の高いセパレータを容易に得ることができる。
【0025】
これに対し、第一の黒鉛粉末や第二の黒鉛粉末の原料として、ニードルコークスを黒鉛化した針状の人造黒鉛粉末や、天然黒鉛を使用した場合には、黒鉛結晶が発達して(黒鉛化度が高くなって)、曲げ試験における弾性変形領域が小さくなるとともに、表面が不活性な状態になって黒鉛粉末表面と熱硬化性樹脂バインダーとの親和性が弱くなり、小さな負荷領域であっても弾性変形から塑性変形に変化するため破断歪が小さくなって繰り返し負荷による亀裂の発生や亀裂の進展を生じ易く、疲労特性が低く、耐久性が低いセパレータになってしまう。
【0026】
本発明のセパレータにおいて、セパレータを構成する材料(以下、適宜セパレータ構成材料という)中の第一の黒鉛粉末および第二の黒鉛粉末の合計含有割合(黒鉛粉末混合物の含有割合)は、65〜90質量%であることが好ましく、70〜85質量%であることがより好ましく、75〜80質量%であることがさらに好ましい。
【0027】
本発明のセパレータにおいて、第一の黒鉛粉末と第二の黒鉛粉末は、黒鉛粉末混合物として、セパレータ構成材料中において、「第一の黒鉛粉末の質量/第二の黒鉛粉末の質量」で表わされる比が、80/20〜60/40となるように含有され、75/25〜65/35となるように含有されることが好ましい。
【0028】
黒鉛粉末混合物中の第二の黒鉛粉末の含有割合が20質量%未満であると(第一の黒鉛粉末の含有割合が80質量%を超えると)、後述するセパレータの製造時に、グリーンシートの形成材料となるスラリー状混合材料において粒径の大きな黒鉛粉末が沈降し易くなり、スラリーの安定性が低下する。
黒鉛粉末混合物中の第二の黒鉛粉末の含有割合が40質量%を超えると(第一の黒鉛粉末の含有割合が60質量%未満になると)、後述するようにグリーンシートを熱圧成形してセパレータを製造する際に、成形材料となるグリーンシートの流動性が低下して、組織不良を生じたり、ガス不透過性が低下し易くなる。
【0029】
本発明のセパレータにおいて、黒鉛粉末混合物中における粒子径が30〜70μmの黒鉛粉末の含有割合は、25〜55質量%であることが好ましく、30〜50質量%であることがより好ましい。
また、本発明のセパレータにおいて、黒鉛粉末混合物中における粒子径が1〜10μmの黒鉛粉末の含有割合は、15〜45質量%であることが好ましく、20〜40質量%であることがより好ましい。
なお、本出願書類において、上記黒鉛粉末の含有割合は、いずれもレーザー回折式粒度分布測定装置により測定される、体積基準積算粒度分布に基づいて求めることができる。
【0030】
本発明のセパレータは、上記黒鉛粉末混合物が熱硬化性樹脂バインダーにより結着された材料からなる。熱硬化性樹脂バインダーの具体例は、後述するとおりである。
【0031】
本発明のセパレータにおいて、セパレータ構成材料中の熱硬化性樹脂バインダーの含有割合は、10〜35質量%であることが好ましく、15〜30質量%であることがより好ましく、20〜25質量%であることがさらに好ましい。
【0032】
本発明のセパレータにおいて、セパレータ構成材料は、フェノール樹脂硬化剤、硬化促進剤、分散剤等を含んでもよい。フェノール樹脂硬化剤、硬化促進剤および分散剤の具体例は、後述するとおりである。
【0033】
本発明のセパレータにおいて、セパレータ構成材料中のフェノール樹脂硬化剤の含有割合は、熱硬化性樹脂バインダーとして、多官能フェノール型エポキシ樹脂を用いる場合、該エポキシ樹脂中における全エポキシ基に対するフェノール樹脂中における全フェノール性水酸基の当量比(フェノール樹脂中における全フェノール性水酸基/エポキシ樹脂中における全エポキシ基)が0.5〜1.5となるように含有することが好ましく、0.7〜1.5となるように含有することがより好ましく、0.9〜1.1となるように含有することがさらに好ましく、1.0程度であることが特に好ましい。上記当量比が0.5未満であるか1.5を超えると、未反応の熱硬化性樹脂バインダーあるいはフェノール樹脂硬化剤の残存量が多くなるため、効率が低下し易くなる。
【0034】
本発明のセパレータにおいて、セパレータ構成材料中の硬化促進剤の含有割合は、通常、熱硬化性樹脂バインダー100質量部に対し0.05〜3質量部の範囲で添加することができる。
【0035】
本発明のセパレータにおいて、セパレータ構成材料中における熱硬化性樹脂バインダー、フェノール樹脂硬化剤および硬化促進剤の合計量は、黒鉛粉末混合物100質量部に対して、10〜35質量部であることが好ましい。
【0036】
本発明のセパレータにおいて、セパレータ構成材料中の分散剤の含有割合は、黒鉛粉末混合物100質量部に対して0.1〜5質量部であることが好ましい。分散剤の含有割合が、黒鉛粉末混合物100質量部に対して0.1質量部より少なくなると、セパレータ製造時に黒鉛粉末が分散せずにすぐに沈降してしまう。また、同含有割合が黒鉛粉末100質量部に対して5質量部より多くなると、樹脂特性を低下させ、結果的にセパレータの機械的特性の悪化(強度低下)を招くばかりか、耐薬品性、特に硫酸酸性液中における特性劣化を招くことになる。
【0037】
本発明によれば、黒鉛粉末を含有することによって高い耐食性や低不純物溶出特性を示すとともに、上記黒鉛粉末として、第一の黒鉛粉末および第二の黒鉛粉末を含有することによって、ガス不透過性が高く、電気抵抗が低く、高い強度および耐久性を有する固体高分子形燃料電池用セパレータを提供することができる。
本発明のセパレータは、以下に詳述する本発明のセパレータの製造方法により作製することができる。
【0038】
次に、本発明のセパレータの製造方法について説明する。
本発明のセパレータの製造方法は、粒度分布が1〜150μmで平均粒子径が30〜70μmである第一の黒鉛粉末と、平均粒子径が1〜10μmで比表面積が30〜100m/gである第二の黒鉛粉末とを、第一の黒鉛粉末の質量/第二の黒鉛粉末の質量で表わされる比が80/20〜60/40となるように混合した黒鉛粉末混合物を、熱硬化性樹脂バインダー溶液に分散させてスラリー状混合材料を作製し、該スラリー状混合材料を用いてドクターブレード法によりグリーンシートを作製し、次いで、得られたグリーンシートを積層し、熱圧成形することを特徴とするものである。
【0039】
黒鉛粉末混合物を、熱硬化性樹脂バインダー溶液に分散させてスラリー状混合材料を作製し、該スラリー状混合材料を用いてドクターブレード法によりグリーンシートを作製し、次いで、得られたグリーンシートを積層し、熱圧成形する具体的態様としては、熱硬化性樹脂バインダーを、必要に応じてフェノール樹脂硬化剤や硬化促進剤とともに有機溶剤に溶解してバインダー樹脂液を作製する工程(バインダー樹脂液作製工程)と、バインダー樹脂液に黒鉛粉末混合物を分散させてスラリー状混合材料を作製する工程(スラリー状混合材料作製工程)と、該スラリーをフィルム上に塗布し、乾燥した後、離型して緻密質部形成材であるグリーンシートを作製する工程(グリーンシート作製工程)と、得られたグリーンシートを成形型内に充填して熱圧成形する工程(熱圧成形工程)とを施す方法を挙げることができる。
【0040】
(1)バインダー樹脂液作製工程
バインダー樹脂液(熱硬化性樹脂バインダー含有液)は、熱硬化性樹脂バインダーを、必要に応じフェノール樹脂硬化剤や硬化促進剤とともに攪拌、混合し、さらに必要に応じ後述する黒鉛粉末混合物を分散し得る最低必要量の分散剤を、所望の質量比で適宜な有機溶剤に攪拌、溶解することにより作製することができる。
【0041】
熱硬化性樹脂バインダーとしては、pHが2〜3程度のスルホン酸などの電解質に対する耐酸性および60〜100℃程度の燃料電池の作動温度に耐え得る耐熱性を有するものであれば特に限定されず、例えば、レゾールタイプのフェノール樹脂、ノボラックタイプのフェノール樹脂に代表されるフェノール樹脂系、フルフリルアルコール樹脂、フルフリルアルコールフルフラール樹脂、フルフリルアルコールフェノール樹脂などのフラン系樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカルボジイミド樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ピレン−フェナントレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、2官能脂肪族アルコールエーテル型エポキシ樹脂や多官能フェノール型エポキシ樹脂等のエポキシ樹脂、ユリア樹脂、ジアリルフタレート樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、メラミン樹脂などが挙げられ、これらを単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0042】
緻密質部形成用熱硬化性樹脂バインダーとしては、2官能脂肪族アルコールエーテル型エポキシ樹脂、多官能フェノール型エポキシ樹脂、2官能脂肪族アルコールエーテル型エポキシ樹脂と多官能フェノール型エポキシ樹脂とを組み合わせてなる混合樹脂が好ましい。
【0043】
2官能脂肪族アルコールエーテル型エポキシ樹脂としては、数平均分子量が1500〜3500であるとともに、数平均分子量/エポキシ当量が2以上である、下記一般式(I)で表される2官能脂肪族アルコールエーテル型エポキシ樹脂が好ましい。
【0044】
G−O−(R−O)−G (I)
(ただし、Gはグリシジル基、Oは酸素原子、Rは炭素数が2〜10のアルキレン基、kは1以上の整数であり、kが2以上の整数である場合、複数のRは同一であっても異なっていてもよい。)
【0045】
一般式(I)で表されるエポキシ樹脂において、2つのグリシジル基G、G間に存在するk個のアルキレン基Rに含まれる総炭素数が120超であると、樹脂の柔軟性が高くなるので得られるセパレータの破断歪みは大きくなるが、曲げ強度は例えば30MPa未満と低くなる。また、上記総炭素数が30未満では2つのグリシジル基G、G間の分子鎖が短すぎるので柔軟性が低くなる。また、kは8〜30であることが好ましく、15〜25であることがより好ましい。
【0046】
一般式(I)で表される2官能脂肪族アルコールエーテル型エポキシ樹脂としては、例えば、ヘキサンジオール型エポキシ樹脂、ポリエチレングリコール型エポキシ樹脂、ポリプロピレングリコール型エポキシ樹脂、ポリオキシテトラメチレングリコール型エポキシ樹脂などを挙げることができ、これ等の樹脂の中でも酸素原子数の割合が相対的に低いものが好ましく、酸素原子数の割合が相対的に低くなると、耐水性が向上し、得られるセパレータの吸水膨潤性を抑制することができる。
【0047】
一般式(I)で表される2官能脂肪族アルコールエーテル型エポキシ樹脂は直鎖単結合構造であるため、分子鎖が可動し易く、柔軟性を有し、ゴム弾性を発揮しやすい構造を有しているため、得られるセパレータに優れた可撓性、伸縮性、破断歪み特性を付与することができる。
【0048】
一方、多官能フェノール型エポキシ樹脂は、分子中にフェノール骨格を有し、エポキシ基を2個以上有する化合物であれば特に制限されず、例えば、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン骨格含有型エポキシ樹脂などを挙げることができる。
【0049】
ビスフェノール型エポキシ樹脂としては、2官能フェノール型エポキシ樹脂を挙げることができる。
【0050】
2官能フェノール型エポキシ樹脂は分子中に2個のエポキシ基を有するものであり、2官能フェノール型エポキシ樹脂としては、例えば、一般式(II)で表されるビスフェノールA型エポキシ樹脂を挙げることができる。
【0051】
【化1】

【0052】
一般式(II)で表される2官能フェノール型エポキシ樹脂において、nは1〜10の整数であり、1〜5の整数であることが好ましく、2〜3の整数であることがより好ましい。
【0053】
一般式(II)で表されるビスフェノールA型エポキシ樹脂は、平面的なベンゼン環を有することから分子が運動し難く、柔軟性が低いが、その構造上、セパレータに高い曲げ強度を付与することができる。
熱硬化性樹脂バインダー量が少ないと得られるセパレータの強度が低下し、逆に熱硬化性樹脂バインダー量が多くなると電気抵抗が高くなる。
【0054】
バインダー樹脂液を構成するフェノール樹脂硬化剤としては、分子中にフェノール構造を有するものであれば特に限定されず、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、キシレン型フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン型フェノール樹脂、ビスフェノール型ノボラック樹脂などのノボラック樹脂、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、テトラブロモビスフェノールAなどのビスフェノール類、該ビスフェノール類を該ビスフェノール類のジグリシジルエーテルで高分子量化したり、エピクロルヒドリンと上記ビスフェノール類とを後者が過剰となる割合で反応させて得られるビスフェノール系樹脂などが挙げられる。
【0055】
フェノール樹脂硬化剤の含有割合は、熱硬化性樹脂バインダーとして、多官能フェノール型エポキシ樹脂を用いる場合、該エポキシ樹脂中における全エポキシ基に対するフェノール樹脂中における全フェノール性水酸基の当量比(フェノール樹脂中における全フェノール性水酸基/エポキシ樹脂中における全エポキシ基)が0.5〜1.5であることが好ましく、0.7〜1.5であることがより好ましく、0.9〜1.1であることがさらに好ましく、1.0程度であることが特に好ましい。上記当量比が0.5未満であるか1.5を超えると、未反応の混合樹脂あるいはフェノール樹脂硬化剤の残存量が多くなるため、効率が低下してしまう。
【0056】
また、バインダー樹脂液を構成する硬化促進剤としては、リン系化合物、第3級アミン、イミダゾール、有機酸金属塩、ルイス酸、アミン錯塩などから選ばれる1種以上を挙げることができ、熱硬化性樹脂バインダーとして、多官能フェノール型エポキシ樹脂を用いる場合、通常、樹脂100質量部に対し0.05〜3質量部の範囲で添加することができる。
【0057】
また、上記バインダー樹脂液中に含まれる熱硬化性樹脂バインダー、フェノール樹脂硬化剤、硬化促進剤の合計量は、黒鉛粉末混合物100質量部に対して、10〜35質量部であることが好ましい。
【0058】
バインダー樹脂液を構成する有機溶媒としては、一般に入手可能なもので、熱硬化性樹脂バインダーを溶解させ得るものであれば特に限定されず、例えば、エチルアルコール、イソプロピルアルコールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類が多く用いられ、これ等の有機溶媒のうち、後述するスラリーをドクターブレード成形してグリーンシート化する際の、スラリーの安定性や粘度、シートの乾燥速度などを考慮すると、メチルエチルケトンが最も好ましい。
【0059】
有機溶媒量が多くなると、黒鉛粉末の沈降が速くなり、後述するグリーンシートの表裏に組織差を発生して反り上がりを生じる場合がある。逆に有機溶媒量が少なくなると、後述するスラリーの粘度が上昇し、グリーンシート形成時にブレードが凝集した炭素質粉末を引きずって表面に凹凸を生じるため、シート化が困難になる。
【0060】
バインダー樹脂液を構成する分散剤としては、非イオン性界面活性剤、陽イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤等を挙げることができる。
【0061】
非イオン性界面活性剤としては、例えば、芳香族エーテル型、カルボン酸エステル型、アクリル酸エステル型、リン酸エステル型、スルホン酸エステル型、脂肪酸エステル型、ウレタン型、フッ素型、アミノアマイド型、アクリルアマイド型の各種ポリマーからなるものが挙げられる。
【0062】
陽イオン界面活性剤としては、アンモニウム基、スルホニウム基、ホスホニウム基を含有する各種ポリマーからなるものが挙げられる。
【0063】
陰イオン界面活性剤としては、カルボン酸型、リン酸型、スルホン酸型、ヒドロキシ脂肪酸型、脂肪酸アマイド型の各種ポリマーからなるものが挙げられる。
上記各界面活性剤の分子量は、黒鉛粉末混合物を上記有機溶媒中に分散させるために、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるポリスチレン換算重量平均分子量で、2,000〜100,000の範囲にあることが望ましい。上記重量平均分子量が、2,000未満であると、分散剤が黒鉛粉末表面に吸着した際にポリマー成分が充分な立体反発層を形成することができず、分散粒子の再凝集が起こるため好ましくない。また、上記重量平均分子量が、100,000を越えると製造再現性が低下したり、凝集剤として作用する場合がある。
【0064】
これらの界面活性剤は単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
分散剤は、黒鉛粉末混合物100質量部に対して0.1〜5質量部加えることが好ましい。分散剤の添加量が、黒鉛粉末混合物100質量部に対して0.1質量部より少なくなると、黒鉛粉末が分散せずにすぐに沈降してしまう。また、同添加量が黒鉛粉末100質量部に対して5質量部より多くなると、樹脂特性を低下させ、結果的にセパレータの機械的特性の悪化(強度低下)を招くばかりか、耐薬品性、特に硫酸酸性液中における特性劣化を招くことになる。
【0065】
また、バインダー樹脂液は、上記分散剤のほかにも、必要に応じて、例えば、濡れ浸透剤、防腐剤、消泡剤、表面調整剤などの添加剤を、本発明の目的を阻害しない範囲で適宜含有することできる。これ等の添加剤を含有することにより、安定したスラリーを作製して表面の滑らかなグリーンシートを得ることができる。
【0066】
バインダー樹脂液は、上記有機溶媒中に、熱硬化性樹脂バインダーを、必要に応じ、フェノール樹脂硬化剤、硬化促進剤、分散剤等とともに添加して、攪拌機にて攪拌、混合することにより作製することができる。攪拌時間は1時間程度が好ましく攪拌機の回転数は100〜1000回転/分程度であることが好ましい。
【0067】
(2)スラリー状緻密質部形成材料作製工程
上記(1)工程で得たバインダー樹脂液と、黒鉛粉末混合物とを混合して、黒鉛粉末混合物が分散したスラリー状混合材料を作製する。
本発明のセパレータの製造方法において、黒鉛粉末混合物を構成する第一の黒鉛粉末および第二の黒鉛粉末の具体例や、黒鉛粉末混合物中の第一の黒鉛粉末および第二の黒鉛粉末の含有割合や、黒鉛粉末混合物中の粒子径が30〜70μmの黒鉛粉末の含有割合および粒子径が1〜10μmの黒鉛粒子の含有割合は、上述したとおりである。
【0068】
本発明のセパレータの製造方法においては、第一の黒鉛粉末と第二の黒鉛粉末とを特定割合で含む黒鉛粉末混合物を使用することにより、有機溶媒量を少なくしても、流動性が高く、安定なスラリー状混合材料を得ることができ、次工程のグリーンシート成形時において、乾燥収縮によるひび割れが低減されたグリーンシートを得ることができる。
【0069】
本発明のセパレータの製造方法においては、黒鉛粉末混合物が第一の黒鉛粉末と第二の黒鉛粉末とを特定割合で含んでなることにより、大きな粒子の間隙に小さな粒子が入り込む充填効果もあって、緻密なグリーンシートを得ることができる。第一の黒鉛粉末は、黒鉛粉末混合物の充填性を向上させるとともに、電気抵抗の低減に寄与する。また、第二の黒鉛粉末は、上記グリーンシート形成時の乾燥ヒビ割れを防止し、緻密なグリーンシートを得ることができるほか、得られるセパレータの強度や破断歪等の機械的特性を向上させ、さらに耐久性(疲労特性)を向上させることができる。
【0070】
本発明のセパレータの製造方法においては、上記バインダー樹脂液と黒鉛粉末混合物とを混合、分散処理して、スラリー状混合材料を作製することが好ましい。
【0071】
黒鉛粉末混合物は、熱硬化性樹脂バインダー、フェノール樹脂硬化剤および硬化促進剤の合計量(樹脂成分合計量)に対して、質量比で、樹脂成分合計量:黒鉛粉末混合物=10:90〜35:65となるようにバインダー樹脂液と混合することが好ましい。樹脂成分合計量の質量割合が10%未満であり、炭素質粉末の質量割合が90%超であると、熱硬化性樹脂バインダー量が低減するので、成形時の流動性が低下して均一に混合することが困難になり、組成が不均一になり易い。一方、樹脂成分合計量の質量割合が35%超であり、黒鉛粉末混合物の質量割合が65%未満であると、成形性は向上するが、黒鉛粉末混合物と熱硬化性樹脂バインダーからなる成形体の電気抵抗が大きくなり、得られるセパレータを用いて燃料電池を作製した際に、燃料電池の性能低下を招きやすくなる。
【0072】
バインダー樹脂液と黒鉛粉末混合物との混合、分散処理は、万能撹拌機、超音波処理装置、カッターミキサー、三本ロール等の分散機を用いて行うことが好ましく、バインダー樹脂液中に黒鉛粉末混合物を分散させ、さらに適宜有機溶剤を添加して粘度が100〜2000mPa・s、好ましくは100〜1000mPa・sになるように調整し、スラリー化することが好ましい。スラリーの粘度が100mPa・sを下回ると、グリーンシートの作製時にドクターブレードからスラリーが流出してシートが広がるため、均質な厚さのシートを形成することができ難くなる。また、スラリーの粘度が2000mPa・sを超えると、グリーンシートの作製時にブレードが凝集した炭素質粉末を引きずって表面に凹凸を生じるため、シート化が困難になる。
【0073】
なお、グリーンシートの作製時において、上記混合、分散処理によって巻き込んだエアが、グリーンシート表面に凹凸を形成し均質性を低下する場合があるので、遠心処理や真空脱気等の手法により上記スラリー中のエアを脱気した上で、グリーンシートを作製することが望ましい。
【0074】
(3)グリーンシート作製工程
上記(2)工程で調製したスラリーを、ドクターブレード法によりポリエステルなどのフィルム上に塗布する。この際、ドクターブレードとフィルム間のギャップを適宜0.2〜0.8mm程度に調整した後、ドクターブレードのスラリーホッパーにスターラーでよく攪拌したスラリーを流し込み、好ましくは離型剤を塗布したフィルム上に均等な厚みに塗布する。
【0075】
得られるグリーンシートの厚みは、ドクターブレードとフィルムとのギャップ間隔やスラリー濃度を調整することにより調整することができ、乾燥後の厚みで0.1〜0.5mmになるように制御することが好ましい。
【0076】
得られたグリーンシートは、自然乾燥させたり、所望により、ある程度の長さにカットした上で扇風機などを用いて送風乾燥して、目視にて溶媒分が揮発するまで乾燥させることが好ましい。また、溶媒分が揮発し、表面が乾いた状態となってから、所定の寸法にカッターナイフで切れ目を入れたり、打ち抜き型で所定形状、寸法にした上で、更に所定時間、乾燥、或いは冷却することでフィルムから離形し易くしてから表面のフィルムを剥がして離型することが好ましい。
【0077】
このように、ドクターブレード法は、黒鉛粉末混合物等の原料粉末、熱硬化性樹脂バインダー類、分散剤、有機溶剤等からなるスラリー状混合材料をドクターブレード装置を用いてキャリヤフィルム上に一定の厚みになるように連続塗工した後、乾燥して有機溶剤を揮発・蒸発させることにより、グリーンシートを得る方法であり、シート成形、乾燥、巻き取り、打ち抜き加工等を連続的に行う生産方法であることから、高い生産効率でグリーンシートを作製することができる。
【0078】
このようにして得られたグリーンシートは、緻密な樹脂膜から構成されてなるものであることから、得られるセパレータのガス不透過性を向上させることができる。
【0079】
このようにして得られるグリーンシートは、厚さ0.1〜1.0mmであることが適当であり、0.15〜0.8mmであることがより適当であり、0.2〜0.6mmであることがさらに適当である。
【0080】
(4)熱圧成形工程
上記(3)工程で得たグリーンシートを、得ようとするセパレータの厚さに応じて適宜複数枚積層した上で熱圧成形することにより、熱圧成形物を作製することができる。
【0081】
上記熱圧成形は、例えば、図1(a)に示すような形状を有する、本体部形成用グリーンシート31aと縁部形成用グリーンシート31bとを、図1(b)に示すように重ね合せた状態で成形型内に配置した後、プレス機に投入し、熱圧成形することにより行うことができる。
【0082】
成形型としては、一対の上型と下型からなるものを挙げることができ、得ようとするセパレータ形状に応じた成形面形状を有するものを挙げることができる。例えば、得ようとするセパレータが図1(c)に示すようなコルゲート状の断面形状を有するものである場合は、上型や下型の成形面にコルゲート状の溝が形成されてなる成形型を挙げることができる。成形型の成形面には、適宜離型剤を塗布してもよい。
【0083】
本体部形成用グリーンシート31aや縁部形成用グリーンシート31b等の積層数は、得ようとする熱圧成形物の厚さに応じて適宜変更すればよい。
このようにして、例えば、図1(c)に示すような形状を有する、縁部32を有し、本体部がコルゲート状に成形されてなる熱圧成形物を得ることができる。上記コルゲート形状を有する熱圧成形物は、所定枚のグリーンシートをそれぞれ凹凸成形面を有する成形型の上型と下型間に導入して熱圧成形することにより作製することができる。
【0084】
熱圧成形物は、上記グリーンシートを2〜6枚積層してなるものであることが好ましい。熱圧成形部が、図1(c)に示すような態様を採る場合には、本体部形成用グリーンシート31aを1〜3枚、縁部形成用グリーンシート31bを1〜3枚積層した状態で熱圧成形してなるものであることが好ましい。
【0085】
上記成形型の成形面に設けられた凹凸(溝)は、その幅が0.5〜3.0mmであることが好ましく、0.5〜2.5mmであることがより好ましく、0.5〜2.0mmであることがさらに好ましい。また、上記凹凸(溝)は、その深さが0.2〜1.0mmであることが好ましく、0.2〜0.8mmであることがより好ましく、0.2〜0.6mmであることがさらに好ましい。
本発明のセパレータの製造方法において、熱圧成形物として、上記凹凸表面を有するコルゲート状緻密質部材を用いることにより、得られるセパレータにガス流路を容易に付与することができる。
【0086】
また、熱圧成形物は、図1(c)に示す形態以外の形態を採ることもでき、例えば、同一サイズのグリーンシートを成形型中に積層して熱圧成形することにより平面状(平板状)であるものを作製してもよい。
【0087】
上記熱圧成型(熱圧成形)時の圧力は10〜100MPaであることが好ましく、20〜80MPaであることがより好ましく、20〜60MPaであることがさらに好ましい。また、熱圧成形時の温度は、150〜250℃であることが好ましい。熱圧成形時の加圧時間は、上記バインダー樹脂液中に含まれる熱硬化性樹脂バインダー、フェノール樹脂硬化剤、硬化促進剤の種類によって適宜決定することができる。例えば熱硬化性樹脂バインダーとして、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、硬化剤としてノボラック型フェノール樹脂、硬化促進剤として2−エチル−4−メチルイミダゾールを用いた場合の熱圧成形加圧時間は、1秒〜600秒が好ましく、1秒〜300秒がより好ましく、1秒〜30秒がさらに好ましい。また、上記加圧時においては、加圧状態を連続的に維持するのではなく、適時加圧状態を開放して、ガス抜きを行ってもよい。加圧時の圧力が上記範囲内にあることにより、得られるセパレータに所望の強度およびガス不透過性を付与することができる。
【0088】
熱圧成形物の厚さは、0.1〜0.5mmであることが適当であり、0.15〜0.45mmであることがより適当であり、0.2〜0.4mmであることがさらに適当である。なお、本明細書において、熱圧成形物が図1(c)に示すような形態を採る場合は、図1(c)にtで示す厚さが熱圧成形物の厚さに相当
する。上記熱圧成形物の厚みは、得られるセパレータの厚みと同視することができる。
【0089】
本発明のセパレータの製造方法で得られる熱圧成形物は、上記緻密構造を有するグリーンシートから成るものであることから、厚さが薄い場合でも高度のガス不透過性を有するセパレータを作製することができる。
【0090】
得られた熱圧成形物は、適宜、親水化処理を施すことが好ましい。親水化処理は、例えば、オゾンガスで処理すること等により行うことができる。オゾンガス処理による親水化処理は、0〜100℃の温度雰囲気下、1000〜50000ppm(mg/L)の濃度のオゾンガスに、0.5〜10時間曝すことにより行うことが好ましい。
【0091】
得られた熱圧成形物は、必要に応じて更に機械加工してもよく、また、必要に応じて、適宜150〜250℃程度の温度でアフターキュアを行ってもよい。
また、熱圧成形物の表面には、熱硬化性樹脂バインダーの薄い皮膜が存在し、この皮膜によりセパレータの接触抵抗が高くなるので、ブラスト処理して除去することが好ましい。この場合、乾式でのブラスト処理でも可能であるが、表面粗さを小さくすることが望ましいので、細かい研磨砥粒を使ったウェットブラスト処理により処理することが好ましい。
本発明によれば、このようにして目的とするセパレータを製造することができる。
【0092】
本発明によれば、黒鉛粉末を含有することによって高い耐食性や低不純物溶出特性を示すとともに、上記黒鉛粉末として、第一の黒鉛粉末および第二の黒鉛粉末を含有することによって、電気抵抗が低く、高い強度および耐久性を有する固体高分子形燃料電池用セパレータを簡便に製造する方法を提供することができる。
【0093】
図2に示すように、本発明のセパレータまたは本発明の製造方法で得られたセパレータを用いた燃料電池の単セル1は、例えば、イオン伝導性を有する高分子膜(イオン交換膜)2の両面を白金などの触媒を担持させたアノード電極板4およびカソード電極板5で挟み、その両外側に板状セパレータ3、3を配することにより形成することができる。
【実施例】
【0094】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0095】
(実施例1)
第一の黒鉛粉末として、等方性黒鉛を粉砕、分級して粒度調整した、粒度分布が3〜98μm、平均粒子径(D50)が33μm、結晶面間隔d002が0.3366nmである人造黒鉛粉末を用い、第二の黒鉛粉末として、等方性黒鉛を粉砕、分級して粒度調整した、平均粒子径(D50)が4μm、比表面積が39m/g、結晶面間隔d002が0.3366nmである人造黒鉛粉末を用い、上記第一の黒鉛粉末の質量/第二の黒鉛粉末の質量で表わされる比が75/25になるように混合することにより、黒鉛粉末混合物を得た。
該黒鉛粉末混合物中における粒子径が70μmより大きい黒鉛粉末の含有割合は2質量%であり、粒子径が30〜70μmの黒鉛粉末の含有割合は35質量%であり、粒子径が10μmを超え30μm未満の黒鉛粉末の含有割合は28質量%であり、粒子径が1〜10μmの黒鉛粉末の含有割合は34質量%であり、粒子径が1μmより小さい黒鉛粉末の含有割合は1質量%であった。
熱硬化性樹脂バインダーとしてクレゾールノボラック型エポキシ樹脂(日本化薬(株)製)、硬化剤としてノボラック型フェノール樹脂(明和化成(株)製)を用い、ノボラック型エポキシ樹脂中における全エポキシ基に対するノボラック型フェノール樹脂中における全フェノール性水酸基の当量比(ノボラック型フェノール樹脂中における全フェノール性水酸基/ノボラック型エポキシ樹脂中における全エポキシ基)が1.0になるように混合して混合樹脂とし、さらに該混合樹脂に対し、硬化促進剤として2−エチル−4−メチルイミダゾールを混合して樹脂成分とした。上記硬化促進剤は、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂とノボラック型フェノール樹脂との混合樹脂100質量部に対して1質量部となるように混合した。
上記黒鉛粉末混合物100質量部に対し、上記樹脂成分中の混合樹脂が25質量部、黒鉛粉の分散剤として陰イオン界面活性剤であるポリカルボン酸型ポリマーが0.5質量部となるように、有機溶媒であるメチルエチルケトンに溶解してバインダー樹脂液を作製し、次いで、上記黒鉛粉末混合物100質量部を上記バインダー樹脂液中に投入した。
上記黒鉛粉混合物を投入したバインダー樹脂液を、攪拌機で1時間混合して、20℃における粘度が1000mPa・sであるスラリー状混合材料を調製した。
【0096】
次いで、上記スラリー状混合材料を、ドクターブレードを有するグリーンシート成形装置内に注入し、PETフィルム上に塗工して、ドクターブレード法によるシート状物を作製し、十分に送風乾燥することにより、厚さ0.3mm程度のグリーンシートを作製した。
上記グリーンシートを打ち抜き型で所定形状に打ち抜き、フィルムから剥がした後、それぞれ図1(a)に示す形態を有する、本体部形成用グリーンシート31a(外形寸法:縦200mm、横200mm)2枚と、縁部形成用グリーンシート31b(外形寸法:縦200mm、横200mm)2枚とを積層することにより、所定厚みになるように調整した、図1(b)に示すような形態を有するグリーンシート積層物を得た。
【0097】
成形型として、外形が縦270mm、横270mmで、成形面の縦200mm、横200mmの範囲に幅1mm、片面溝深さ0.3mmの溝形状部が彫設された、上下一対の金型からなる成形型を用い、該成形型の成形面に上記グリーンシート積層物を載置して、180℃の温度条件下、40MPaの圧力で20秒間押圧して熱圧成形することにより、図1(c)に示すような形状を有する、縦200mm、横200mmで、厚さ(最薄肉部の厚さ)tが0.20mmで、縁部32の厚さが0.8mmである熱圧成形物を作製した。
【0098】
得られた熱圧成形物を成形型から取り外した後、さらに硬化炉内で190℃の温度下で5時間の後硬化を行い、次いでウェットブラスト処理を施して表面の樹脂リッチな層を除去することにより、目的とするセパレータを得た。
【0099】
得られセパレータは、外観形状が良好なものであった。また、得られたセパレータの曲げ強度(MPa)、破断歪み(%)、固有抵抗(mΩ・cm)、接触抵抗(mΩ・cm)、耐久性(疲労特性)を測定した。結果を表1に示す。
【0100】
<曲げ強度の測定法>
JIS R1601に準拠して、室温下において4点曲げ試験を行い、曲げ強度(MPa)を測定した。
<破断歪みの測定法>
JIS R1601に準拠して、室温下において4点曲げ試験を行い、破断歪み(%)を測定した。
<固有抵抗の測定法>
JIS C2525に準拠し、固有抵抗(mΩ・cm)を測定した。
<接触抵抗の測定法>
測定対象となるセパレータを30mm角の2枚のテストピースとして切り出し、
得られたテストピース同士を1MPaの圧力で接触させながら、通電量1Aでテストピース間の電圧降下(mV)を測定し、接触抵抗(mΩ・cm)を算出した。
<耐久性(疲労特性)>
支持側40mm、負荷側20mmの4点曲げ治具に試験片(縦5mm、横50mm、厚さ0.8mm)を載せて、振幅0.4%撓みを5Hzで繰り返し負荷をかけて、破断する回数を測定した。
【0101】
(実施例2)
第一の黒鉛粉末として、モザイク状コークス(三菱化学(株)製)を2500℃で黒鉛化処理した後、粉砕、分級して粒度調整した、粒度分布が2〜110μm、平均粒子径(D50)が35μm、結晶面間隔d002が0.3363nmである人造黒鉛粉末を用い、第二の黒鉛粉末として、モザイク状コークス(三菱化学(株)製)を2500℃で黒鉛化処理した後、粉砕、分級して粒度調整した、平均粒子径(D50)が5μm、比表面積が66m/g、結晶面間隔d002が0.3363nmである人造黒鉛粉末を用い、上記第一の黒鉛粉末の質量/第二の黒鉛粉末の質量で表わされる比が75/25になるように混合することにより、黒鉛粉末混合物を得、この黒鉛粉末混合物を用いた以外は、実施例1と同様にして目的とするセパレータを得た。上記黒鉛粉末混合物中における粒子径が70μmより大きい黒鉛粉末の含有割合は4質量%であり、粒子径が30〜70μmの黒鉛粉末の含有割合は40質量%であり、粒子径が10μmを超え30μm未満の黒鉛粉末の含有割合は28質量%であり、粒子径が1〜10μmの黒鉛粉末の含有割合は26質量%であり、粒子径が1μmより小さい黒鉛粉末の含有割合は2質量%であった。
得られセパレータは、外観形状が良好なものであった。また、得られたセパレータの曲げ強度(MPa)、破断歪み(%)、固有抵抗(mΩ・cm)、接触抵抗(mΩ・cm)、耐久性(疲労特性)を実施例1と同様にして測定した。結果を表1に示す。
【0102】
(実施例3)
第一の黒鉛粉末として、モザイク状コークス(三菱化学(株)製)を2500℃で黒鉛化処理した後、粉砕、分級して粒度調整した、粒度分布が5〜120μm、平均粒子径(D50)が60μm、結晶面間隔d002が0.3362nmである人造黒鉛粉末を用い、第二の黒鉛粉末として、モザイク状コークス(三菱化学(株)製)を2500℃で黒鉛化処理した後、粉砕、分級して粒度調整した、平均粒子径(D50)が2μm、比表面積が85m/g、結晶面間隔d002が0.3362nmである人造黒鉛粉末を用い、上記第一の黒鉛粉末の質量/第二の黒鉛粉末の質量で表わされる比が75/25になるように混合することにより、黒鉛粉末混合物を得、この黒鉛粉末混合物を用いた以外は、実施例1と同様にして目的とするセパレータを得た。上記黒鉛粉末混合物中における粒子径が70μmより大きい黒鉛粉末の含有割合は8質量%であり、粒子径が30〜70μmの黒鉛粉末の含有割合は50質量%であり、粒子径が10μmを超え30μm未満の黒鉛粉末の含有割合は14質量%であり、粒子径が1〜10μmの黒鉛粉末の含有割合は23質量%であり、粒子径が1μmより小さい黒鉛粉末の含有割合は5質量%であった。
得られセパレータは、外観形状が良好なものであった。また、得られたセパレータの曲げ強度(MPa)、破断歪み(%)、固有抵抗(mΩ・cm)、接触抵抗(mΩ・cm)、耐久性(疲労特性)を実施例1と同様にして測定した。結果を表1に示す。
【0103】
(実施例4)
上記第一の黒鉛粉末の質量/第二の黒鉛粉末の質量で表わされる比が70/30になるように混合することにより、黒鉛粉末混合物を得、この黒鉛粉末混合物を用いた以外は、実施例1と同様にして目的とするセパレータを得た。上記黒鉛粉末混合物中における粒子径が70μmより大きい黒鉛粉末の含有割合は2質量%であり、粒子径が30〜70μmの黒鉛粉末の含有割合は32質量%であり、粒子径が10μmを超え30μm未満の黒鉛粉末の含有割合は26質量%であり、粒子径が1〜10μmの黒鉛粉末の含有割合は38質量%であり、粒子径が1μmより小さい黒鉛粉末の含有割合は2質量%であった。
得られセパレータは、外観形状が良好なものであった。また、得られたセパレータの曲げ強度(MPa)、破断歪み(%)、固有抵抗(mΩ・cm)、接触抵抗(mΩ・cm)、耐久性(疲労特性)を実施例1と同様にして測定した。結果を表1に示す。
【0104】
(実施例5)
第一の黒鉛粉末として、等方性黒鉛を粉砕、分級して粒度調整した、粒度分布が3〜98μm、平均粒子径(D50)が33μm、結晶面間隔d002が0.3366nmである人造黒鉛粉末を用い、第二の黒鉛粉末として、等方性黒鉛を粉砕、分級して粒度調整した、平均粒子径(D50)が7μm、比表面積が35m/g、結晶面間隔d002が0.3366nmである人造黒鉛粉末を用い、上記第一の黒鉛粉末の質量/第二の黒鉛粉末の質量で表わされる比が65/35になるように混合することにより、黒鉛粉末混合物を得、この黒鉛粉末混合物を用いた以外は、実施例1と同様にして目的とするセパレータを得た。上記黒鉛粉末混合物中における上記黒鉛粉末混合物中における粒子径が70μmより大きい黒鉛粉末の含有割合は2質量%であり、粒子径が30〜70μmの黒鉛粉末の含有割合は33質量%であり、粒子径が10μmを超え30μm未満の黒鉛粉末の含有割合は27質量%であり、粒子径が1〜10μmの黒鉛粉末の含有割合は35質量%であり、粒子径が1μmより小さい黒鉛粉末の含有割合は3質量%であった。
得られセパレータは、外観形状が良好なものであった。また、得られたセパレータの曲げ強度(MPa)、破断歪み(%)、固有抵抗(mΩ・cm)、接触抵抗(mΩ・cm)、耐久性(疲労特性)を実施例1と同様にして測定した。結果を表1に示す。
【0105】
【表1】

【0106】
(比較例1)
第一の黒鉛粉末として、モザイク状コークス(三菱化学(株)製)を2500℃で黒鉛化処理した後、粉砕、分級して粒度調整した、粒度分布が2〜110μm、平均粒子径が35μm、結晶面間隔d002が0.3363nmである人造黒鉛粉末を用い、第二の黒鉛粉末として、モザイク状コークス(三菱化学(株)製)を2500℃で黒鉛化処理した後、粉砕、分級して粒度調整した、平均粒子径が5μm、比表面積が23m/g、結晶面間隔d002が0.3363nmである人造黒鉛粉末を用い、上記第一の黒鉛粉末の質量/第二の黒鉛粉末の質量で表わされる比が75/25になるように混合することにより、黒鉛粉末混合物を得、この黒鉛粉末混合物を用いた以外は、実施例1と同様にして目的とするセパレータを得た。上記黒鉛粉末混合物中における粒子径が70μmより大きい黒鉛粉末の含有割合は2質量%であり、粒子径が30〜70μmの黒鉛粉末の含有割合は33質量%であり、粒子径が10μmを超え30μm未満の黒鉛粉末の含有割合は28質量%であり、粒子径が1〜10μmの黒鉛粉末の含有割合は35質量%であり、粒子径が1μmより小さい黒鉛粉末の含有割合は1質量%であった。
得られセパレータは、外観形状が良好なものであった。また、得られたセパレータの曲げ強度(MPa)、破断歪み(%)、固有抵抗(mΩ・cm)、接触抵抗(mΩ・cm)、耐久性(疲労特性)を実施例1と同様にして測定した。結果を表1に示す。
【0107】
(比較例2)
第一の黒鉛粉末として、モザイク状コークス(三菱化学(株)製)を2500℃で黒鉛化処理した後、粉砕、分級して粒度調整した、粒度分布が3〜98μm、平均粒子径が33μm、結晶面間隔d002が0.3362nmである人造黒鉛粉末を用い、第二の黒鉛粉末として、モザイク状コークス(三菱化学(株)製)を2500℃で黒鉛化処理した後、粉砕、分級して粒度調整した、平均粒子径が1μm、比表面積が110m/g、結晶面間隔d002が0.3362nmである人造黒鉛粉末を用い、上記第一の黒鉛粉末の質量/第二の黒鉛粉末の質量で表わされる比が75/25になるように混合することにより、黒鉛粉末混合物を得、この黒鉛粉末混合物を用いた以外は、実施例1と同様にして目的とするセパレータを得た。上記黒鉛粉末混合物中における粒子径が70μmより大きい黒鉛粉末の含有割合は2質量%であり、粒子径が30〜70μmの黒鉛粉末の含有割合は30質量%であり、粒子径が10μmを超え30μm未満の黒鉛粉末の含有割合は26質量%であり、粒子径が1〜10μmの黒鉛粉末の含有割合は35質量%であり、粒子径が1μmより小さい黒鉛粉末の含有割合は7質量%であった。
得られセパレータは、外観上組織不良が観察されるものであった。また、得られたセパレータの曲げ強度(MPa)、破断歪み(%)、固有抵抗(mΩ・cm)、接触抵抗(mΩ・cm)、耐久性(疲労特性)を実施例1と同様にして測定した。結果を表1に示す。
【0108】
(比較例3)
第一の黒鉛粉末として、等方性黒鉛を粉砕、分級して粒度調整した、粒度分布が3〜98μm、平均粒子径が33μm、結晶面間隔d002が0.3366nmである人造黒鉛粉末を用い、第二の黒鉛粉末として、等方性黒鉛を粉砕、分級して粒度調整した、平均粒子径が4μm、比表面積が39m/g、結晶面間隔d002が0.3366nmである人造黒鉛粉末を用い、上記第一の黒鉛粉末の質量/第二の黒鉛粉末の質量で表わされる比が85/15になるように混合することにより、黒鉛粉末混合物を得、この黒鉛粉末混合物を用いた以外は、実施例1と同様にして目的とするセパレータを得た。上記黒鉛粉末混合物中における粒子径が70μmより大きい黒鉛粉末の含有割合は2質量%であり、粒子径が30〜70μmの黒鉛粉末の含有割合は34質量%であり、粒子径が10μmを超え30μm未満の黒鉛粉末の含有割合は32質量%であり、粒子径が1〜10μmの黒鉛粉末の含有割合は30質量%であり、粒子径が1μmより小さい黒鉛粉末の含有割合は1質量%であった。
得られセパレータは、外観形状が良好なものであった。また、得られたセパレータの曲げ強度(MPa)、破断歪み(%)、固有抵抗(mΩ・cm)、接触抵抗(mΩ・cm)、耐久性(疲労特性)を実施例1と同様にして測定した。結果を表1に示す。
【0109】
(比較例4)
比較例4において、上記第一の黒鉛粉末の質量/第二の黒鉛粉末の質量で表わされる比が50/50になるように混合することにより、黒鉛粉末混合物を得、この黒鉛粉末混合物を用いた以外は、比較例4と同様にして目的とするセパレータを得た。上記黒鉛粉末混合物中における粒子径が70μmより大きい黒鉛粉末の含有割合は2質量%であり、粒子径が30〜70μmの黒鉛粉末の含有割合は17質量%であり、粒子径が10μmを超え30μm未満の黒鉛粉末の含有割合は24質量%であり、粒子径が1〜10μmの黒鉛粉末の含有割合は55質量%であり、粒子径が1μmより小さい黒鉛粉末の含有割合は2質量%であった。
得られセパレータは、外観上組織不良が観察されるものであった。また、得られたセパレータの曲げ強度(MPa)、破断歪み(%)、固有抵抗(mΩ・cm)、接触抵抗(mΩ・cm)、耐久性(疲労特性)を実施例1と同様にして測定した。結果を表1に示す。
【0110】
(比較例5)
第一の黒鉛粉末として、モザイク状コークス(三菱化学(株)製)を2500℃で黒鉛化処理した後、粉砕、分級して粒度調整した、粒度分布が5〜200μm、平均粒子径が80μm、結晶面間隔d002が0.3363nmである人造黒鉛粉末を用い、第二の黒鉛粉末として、モザイク状コークス(三菱化学(株)製)を2500℃で黒鉛化処理した後、粉砕、分級して粒度調整した、平均粒子径が4μm、比表面積が39m/g、結晶面間隔d002が0.3363nmである人造黒鉛粉末を用い、上記第一の黒鉛粉末の質量/第二の黒鉛粉末の質量で表わされる比が75/25になるように混合することにより、黒鉛粉末混合物を得、この黒鉛粉末混合物を用いた以外は、実施例1と同様にして目的とするセパレータの作製を試みた。上記黒鉛粉末混合物中における粒子径が70μmより大きい黒鉛粉末の含有割合は25質量%であり、粒子径が30〜70μmの黒鉛粉末の含有割合は37質量%であり、粒子径が10μmを超え30μm未満の黒鉛粉末の含有割合は25質量%であり、粒子径が1〜10μmの黒鉛粉末の含有割合は12質量%であり、粒子径が1μmより小さい黒鉛粉末の含有割合は1質量%であった。
【0111】
(比較例6)
第一の黒鉛粉末として、ニードル状コークス(新日鉄化学(株)製)を2800℃で黒鉛化処理した後、粉砕、分級して粒度調整した、粒度分布が3〜116μm、平均粒子径が35μm、結晶面間隔d002が0.3358nmである人造黒鉛粉末を用い、第二の黒鉛粉末として、ニードル状コークス(新日鉄化学(株)製)を2800℃で黒鉛化処理した後、粉砕、分級して粒度調整した、平均粒子径が7μm、比表面積が14m/g、結晶面間隔d002が0.3358nmである人造黒鉛粉末を用い、上記第一の黒鉛粉末の質量/第二の黒鉛粉末の質量で表わされる比が75/25になるように混合することにより、黒鉛粉末混合物を得、この黒鉛粉末混合物を用いた以外は、実施例1と同様にして目的とするセパレータの作製を試みた。上記黒鉛粉末混合物中における粒子径が70μmより大きい黒鉛粉末の含有割合は6質量%であり、粒子径が30〜70μmの黒鉛粉末の含有割合は33質量%であり、粒子径が10μmを超え30μm未満の黒鉛粉末の含有割合は27質量%であり、粒子径が1〜10μmの黒鉛粉末の含有割合は33質量%であり、粒子径が1μmより小さい黒鉛粉末の含有割合は1質量%であった。
【0112】
【表2】

【0113】
実施例1〜実施例5で得られたセパレータは、黒鉛粉末を含有することによって高い耐食性や低不純物溶出特性を示し、表1より、上記黒鉛粉末として、第一の黒鉛粉末および第二の黒鉛粉末を含有することによって、外観が良好で、電気抵抗が低く、高い強度および耐久性を有するものであり、固体高分子形燃料電池用セパレータとして好適に使用し得るものであることが分かる。
【0114】
一方、表2より、比較例1で得られたセパレータは、原料として用いた第二の黒鉛粉末の比表面積が23m/gと小さいため、破断歪みが0.65%と小さく、耐久性試験においては2万回で破断し、十分な疲労特性を発揮することができないものであった。
【0115】
表2より、比較例2で得られたセパレータは、原料として用いた第二の黒鉛粉の比表面積が110m/gと大きいため、熱圧成形時におけるグリーンシートの流動性が低くなり、表面に組織不良を生じてガスリークを生じるものであり、また、電気抵抗が高いものであった。
【0116】
表2より、比較例3で得られたセパレータは、原料として用いた第一の黒鉛粉末の量に比較して第二の黒鉛粉末の量が少ないため、破断歪みが0.67%と小さく、耐久性試験においては3万7千5百回で破断し、十分な疲労特性を発揮することができないものであった。
【0117】
表2より、比較例4で得られたセパレータは、原料として用いた第一の黒鉛粉末の量に比較して第二の黒鉛粉末の量が多いため、熱圧成形時におけるグリーンシートの流動性が低くなり、セパレータ表面に組織不良を生じてガスリークを生じるものであり、また、電気抵抗が高いものであった。
【0118】
表2より、比較例5においては、原料として用いた第一の黒鉛粉末の粒度分布が5〜200μmで平均粒子径も80μmと大きいことから、スラリー状混合液中で粒径の大きな黒鉛粉末が沈降してしまい、得られるグリーンシートに組織不良が観察された。また、久性試験においては5万6千回で破断し、十分な疲労特性を発揮することができないものであった。
【0119】
表2より、比較例6においては、原料として用いた第二の黒鉛粉末の比表面積が14m/gと小さいため、破断歪みが0.51%と小さく、耐久性試験においては153回で破断し、十分な疲労特性を発揮することができないものであった。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明によれば、高い耐食性や低不純物溶出特性を示し、ガス不透過性および電気抵抗が低く、高い強度および耐久性を有する固体高分子形燃料電池用セパレータを提供することができるとともに、該固体高分子形燃料電池用セパレータを簡便に製造する方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0121】
1 単セル
2 イオン交換膜
31a 本体部形成用グリーンシート
31b 縁部形成用グリーンシート
32 縁部
3 セパレータ
4 アノード電極板
5 カソード電極板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒度分布が1〜150μmで平均粒子径が30〜70μmである第一の黒鉛粉末と、平均粒子径が1〜10μmで比表面積が30〜100m/gである第二の黒鉛粉末とを、第一の黒鉛粉末の質量/第二の黒鉛粉末の質量で表わされる比が80/20〜60/40となるように混合した黒鉛粉末混合物が、熱硬化性樹脂バインダーにより結着された材料からなることを特徴とする固体高分子形燃料電池用セパレータ。
【請求項2】
前記第一の黒鉛粉末が、等方性黒鉛を粉砕、分級して粒度調整した人造黒鉛粉末またはモザイク状コークスを黒鉛化処理した後、粉砕、分級して粒度調整した人造黒鉛粉末であるとともに、前記第二の黒鉛粉末も、等方性黒鉛を粉砕、分級して粒度調整した人造黒鉛粉末またはモザイク状コークスを黒鉛化処理した後、粉砕、分級して粒度調整した人造黒鉛粉末である請求項1に記載の固体高分子形燃料電池用セパレータ。
【請求項3】
固体高分子形燃料電池用セパレータを製造する方法であって、
粒度分布が1〜150μmで平均粒子径が30〜70μmである第一の黒鉛粉末と、平均粒子径が1〜10μmで比表面積が30〜100m/gである第二の黒鉛粉末とを、第一の黒鉛粉末の質量/第二の黒鉛粉末の質量で表わされる比が80/20〜60/40となるように混合した黒鉛粉末混合物を、熱硬化性樹脂バインダー溶液に分散させてスラリー状混合材料を作製し、
該スラリー状混合材料を用いてドクターブレード法によりグリーンシートを作製し、次いで、
得られたグリーンシートを積層し、熱圧成形する
ことを特徴とする固体高分子形燃料電池用セパレータの製造方法。
【請求項4】
前記第一の黒鉛粉末が、等方性黒鉛を粉砕、分級して粒度調整した人造黒鉛粉末またはモザイク状コークスを黒鉛化処理した後、粉砕、分級して粒度調整した人造黒鉛粉末であるとともに、前記第二の黒鉛粉末も、等方性黒鉛を粉砕、分級して粒度調整した人造黒鉛粉末またはモザイク状コークスを黒鉛化処理した後、粉砕、分級して粒度調整した人造黒鉛粉末である請求項3に記載の固体高分子形燃料電池用セパレータの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−20803(P2013−20803A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−153035(P2011−153035)
【出願日】平成23年7月11日(2011.7.11)
【出願人】(000219576)東海カーボン株式会社 (155)
【Fターム(参考)】