説明

燃料電池用セパレータの製造方法

【課題】研磨処理等を行わなくても、均一な高さの凸部(めっき層パターン)を有する燃料電池用セパレータの製造方法を提供する。
【解決手段】金属基板1上に、めっきを行うためのアンダーコート層2を形成し、アンダーコート層2上にドライフィルムレジストを配置して成るレジスト層3に対して、露光、現像を行うことにより、レジスト層パターン、およびアンダーコート層2が露出する凹部パターン6を形成するパターン形成工程と、凹部パターン6に沿って露出したアンダーコート層2上に、めっき層パターン7を形成するめっき層パターン形成工程と、このめっき層パターン形成工程後に、上記レジスト層パターンを除去するレジスト層パターン除去工程と、を有する燃料電池用セパレータの製造方法であって、パターン形成工程の際に、特定の露光パターンで露光を行うことを特徴とする燃料電池用セパレータの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、均一な高さの凸部(めっき層パターン)を有する燃料電池用セパレータを得ることができる燃料電池用セパレータの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の金属セパレータにおいては、薄い金属板の板金加工やエッチング加工によって金属板表面を加工し流路構造を得る方式が一般的となっている。しかしながら、これらの方式には、以下のような問題があった。
【0003】
すなわち、板金加工により金属セパレータを作製する場合には、金属板の両面に自由な溝形状を設計することが困難であり、片面の溝形状によって逆面の溝形状が制約を受けてしまうため、ガス流路形状の設計自由度が小さい。そのため、冷却水(LLC)流路を確保する等のため、多数の金属板を重ねて流路を確保する必要があり、接触抵抗が大きくなる問題がある。さらに、微細加工の精度に限界があり、加工精度は数百ミクロン程度が限界であり、数ミクロンの溝幅を有した極微細なガス流路を形成することが困難であった。
【0004】
そもそも板金加工は、金属板を延性変形させる加工法であり、金属板の厚みによる効果、スプリングバックの影響によって、例えば厚み100μm程度の金属板では、300μm〜500μm程度のパターンを形成するのが限界である。金属板を薄くすれば、若干微細なパターンを形成することは可能にはなるものの、今度は形状保持性が問題となる。特に燃料電池セパレータでは、接触抵抗を低くするため、パターン部に強い圧縮応力が加えられ、金属板を薄くするのにも限界がある。
【0005】
一方、エッチング加工により金属セパレータを作製する場合においても、微細加工の精度に限界があり、加工精度は最小でも50ミクロン程度で、数ミクロンの溝幅を有した極微細なガス流路を形成することは困難であった。また、深溝の加工が困難であり、例えば溝幅50ミクロン、溝深さ150ミクロンといった、極めて深い溝深さを有するセパレータを得ることができない。そのため、微細な表面加工の施された金属セパレータでは、圧力損失が大きくなってしまい、さらには水詰まり、粉塵詰まり等のトラブルを引き起こしやすい問題がある。
【0006】
なお、エッチング加工ではフォトリソグラフィーによって板金加工より遥かに微細な加工(〜数十ミクロンレベル)を実現することが可能である。しかしながら、エッチング加工はレジストに被覆されていない部分を薬液等によってエッチングする加工であるため、金属板の厚み方向ばかりでなく、横方向にもエッチングが進行してしまう現象が発生する(サイドエッチ現象)。このため、例えば溝の開口幅に対して溝深さが2〜3倍もあるような深溝を加工することが本質的に困難であり、接触抵抗を低減させようと微細な流路パターンを製造した場合には、浅い溝の影響によってスタックの圧力損失増大、水詰まりの発生、粉塵詰まりの発生等の問題を引き起こすこととなる。
【0007】
これらの問題に対して、特許文献1においては、リフトオフ法を用いた金属セパレータの製造方法が開示されている。これは、導電性のある基板にレジスト膜を形成し、フォトマスクを用いて露光、現像することにより開口部を形成し、開口部に電鋳で凸部を形成し、その後、レジスト膜を剥離することにより凸部間を流路とするセパレータを製造するものである。さらに、耐食性向上のため、凸部先端または全体に貴金属めっきを施すことも記載されている。しかしながら、リフトオフ法を用いて金属セパレータを製造すると、以下のような問題があった。
【0008】
すなわち、リフトオフ法においては、レジスト膜に形成された開口部に電鋳等を行うことにより凸部を形成するが、例えば局所的に開口部の面積が大きい部分があると、凸部(めっき部)の厚肉化が生じ、相対的に凸部の高さが高くなるといった問題があった。そのため、凸部の高さが不均一となる場合があり、そのようなセパレータを燃料電池に用いると、接触抵抗の不均一化による発電損失を引き起こす場合があった。そのため、従来、凸部の高さを均一にする研磨処理等が行われていたが、工程数が増加する等の問題があった。
【0009】
なお、燃料電池用セパレータに関する技術やその周辺技術については、例えば特許文献2〜6等が知られている。特許文献2では、ドライフィルムレジストを用いた燃料電池用セパレータの製造方法が開示されている。この燃料電池用セパレータは、基板が絶縁性を有し、レジスト膜の開口部をガス流路として用いるものであった。特許文献3では、基板の表面に、ニッケル等の保護層を有する燃料電池用セパレータが開示されている。特許文献4では、金属基板上にアンダーコート層を設けてなる固体電解質型燃料電池が開示されている。特許文献5および6では、基板に対して無電解めっきで下地層を形成し、下地層形成後に電解めっきを行う技術が開示されている。
【特許文献1】特開2003−346825公報
【特許文献2】特開2005−38727公報
【特許文献3】特開2000−58080公報
【特許文献4】特開平5−251092号公報
【特許文献5】特開2005−72414号公報
【特許文献6】特開平5−167227号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、研磨処理等を行わなくても、均一な高さの凸部(めっき層パターン)を有する燃料電池用セパレータを形成することが可能な燃料電池用セパレータの製造方法を提供することを主目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明においては、金属基板上に、めっきを行うためのアンダーコート層を形成するアンダーコート層形成工程と、上記アンダーコート層上にドライフィルムレジストを配置し、レジスト層を形成するレジスト層形成工程と、上記レジスト層に対して、露光、現像を行うことにより、レジスト層パターン、および上記アンダーコート層が露出する凹部パターンを形成するパターン形成工程と、上記凹部パターンに沿って露出した上記アンダーコート層上に、めっき法により、めっき層パターンを形成するめっき層パターン形成工程と、上記めっき層パターン形成工程後に、上記レジスト層パターンを除去するレジスト層パターン除去工程と、を有する燃料電池用セパレータの製造方法であって、燃料電池用セパレータのガス流路となる平面領域をガス流路平面領域Tとし、上記ガス流路平面領域T全体に占める上記凹部パターンの面積を凹部パターン面積率Sとし、また、上記ガス流路平面領域T内の凹部パターンの平均線幅を100倍した長さを一辺とする正方形の領域を基準平面領域Aとし、上記基準平面領域A全体に占める上記凹部パターンの面積を凹部パターン面積率Sとした場合に、上記パターン形成工程の際に、任意の上記基準平面領域Aの凹部パターン面積率Sの値が、上記凹部パターン面積率Sの値の±20%の範囲内となるような露光パターンで露光を行うことを特徴とする燃料電池用セパレータの製造方法を提供する。
【0012】
本発明によれば、任意の凹部パターン面積率Sの値が、凹部パターン面積率Sの値の特定の範囲内にあり、凹部パターンが均一に配されていることから、めっき層パターンを形成する際に、局所的な厚肉化がおきず、均一な高さのめっき層パターン(凸部)を有するセパレータを得ることができる。これによって、例えば自動車用大型燃料電池スタックであっても接触抵抗の不均一化による発電損失が発生せず、高効率化が可能となる。
【0013】
上記発明においては、上記アンダーコート層形成工程の前に、上記金属基板の表面を粗化する表面粗化工程を行うことが好ましい。金属基板の表面を粗化することにより、物理的凹凸によるピン止め効果を得ることができ、金属基板とアンダーコート層とを強固に結合させることができるからである。
【発明の効果】
【0014】
本発明においては、均一な高さの凸部(めっき層パターン)を有する燃料電池用セパレータを得ることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の燃料電池用セパレータ(単に「セパレータ」と称する場合がある。)の製造方法について説明する。
【0016】
本発明の燃料電池用セパレータの製造方法は、上述したように、パターン形成工程の際に、任意の上記基準平面領域Aの凹部パターン面積率Sの値が、上記凹部パターン面積率Sの値の±20%の範囲内となるような露光パターンで露光を行うことを特徴とするものである。
【0017】
本発明によれば、任意の凹部パターン面積率Sの値が、凹部パターン面積率Sの値の特定の範囲内にあり、凹部パターンが均一に配されていることから、めっき層パターンを形成する際に、局所的な厚肉化がおきず、均一な高さのめっき層パターン(凸部)を有するセパレータを得ることができる。これによって、例えば自動車用大型燃料電池スタックであっても接触抵抗の不均一化による発電損失が発生せず、高効率化が可能となる。
【0018】
さらに、本発明によれば、ドライフィルムレジストを平行光源によって露光し、現像しているため、ガス流路を極めて精密化することが可能である。通常、板金加工等では数百μmレベルが限界であるが、例えば20μm程度の極薄いドライフィルムレジストを用いれば、幅約10μm程度のガス流路を容易に形成することができる。これによって、製造するセパレータの接触抵抗を低減化し、かつ板厚みを薄くすることが可能となり、燃料電池スタックの体積エネルギー効率を向上させることができる。
【0019】
さらに、本発明によれば、セパレータのガス流路の幅を極めて微細にすることができ、さらに、そのガス流路の幅に対して、例えば2倍程度の深さを与えることができる。そのため、接触抵抗を低く保ちながらスタックの圧力損失を小さく保つことが可能となり、従来のエッチング加工等と比較して、上述した圧力損失が増大してしまう問題や水、粉塵が詰まる問題が発生しにくいという利点を有する。
【0020】
さらに、本発明によれば、通常のレジストを用いた加工と異なり、ドライフィルムレジストを用いているため、大面積のセパレータであっても容易に加工することが可能である。そのため、本発明により得られるセパレータは、特に自動車用大型燃料電池スタックに適している。
【0021】
次に、本発明の燃料電池用セパレータの製造方法について、図面を用いて説明する。図1は、本発明の燃料電池用セパレータの製造方法の一例を示す工程図である。図1に示される燃料電池用セパレータの製造方法は、SUS製の金属基板1上に、無電解めっき法によりニッケルのアンダーコート層2を形成するアンダーコート層形成工程(図1(a))と、アンダーコート層2上に、ポジ型のドライフィルムレジストを配置し、熱圧着することにより、レジスト層3を形成するレジスト層形成工程(図1(b))と、レジスト層3に対して、フォトマスク4を用いて光5を照射し(図1(c))、その後、現像することによって、レジスト層パターン3´、およびアンダーコート層2が露出する凹部パターン6を形成するパターン形成工程(図1(d))と、凹部パターン6に沿って露出したアンダーコート層2上に、電解めっき法によりニッケルのめっき層パターン7を形成する、めっき層パターン形成工程(図1(e))と、めっき層パターン形成工程後に、レジスト層パターン3´を除去するレジスト層パターン除去工程(図1(f))と、めっき層パターン7および露出したアンダーコート層2の表面に、耐腐食性を向上させるカーボンコート層8を形成するカーボンコート層形成工程(図1(g))と、を有する。なお、本発明においては、パターン形成工程の際に特定の露光パターンで露光を行うことを特徴の一つとするが、詳細については、後述する「3.パターン形成工程」で説明する。
以下、本発明の燃料電池の製造方法について、工程毎に説明する。
【0022】
1.アンダーコート層形成工程
まず、本発明におけるアンダーコート層形成工程について説明する。本発明におけるアンダーコート層形成工程は、金属基板上に、めっきを行うためのアンダーコート層を形成する工程である。本発明においては、アンダーコート層を設けることにより、後述するめっき層パターンを均一の厚さで形成することができる。
【0023】
金属基板の材料としては、導電性を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えば、SUS、ニッケル、アルミニウム、チタン、黄銅、ニッケル−亜鉛合金等を挙げることができ、中でも、SUS、ニッケルおよび黄銅が好ましい。導電性や汎用性に優れているからである。
金属基板の厚さとしては、一般的なセパレータの厚みと同様とすることができ、特に限定されるものではないが、例えば20μm〜300μmの範囲内、中でも30μm〜200μmの範囲内、特に40μm〜100μmの範囲内であることが好ましい。
【0024】
アンダーコート層の材料としては、導電性を有するものであれば特に限定されるものではないが、後述するめっき層パターンの材料の種類等に応じて適宜選択することが好ましい。アンダーコート層の材料としては、例えばニッケル、金、クロムおよび亜鉛等を挙げることができ、中でもニッケルが好ましい。
アンダーコート層の厚さとしては、例えば0.1μm〜50μmの範囲内、中でも0.5μm〜20μmの範囲内、特に1.0μm〜10μmの範囲内であることが好ましい。
【0025】
金属基板上にアンダーコート層を形成する方法としては、所望のアンダーコート層を形成することができる方法であれば特に限定されるものではないが、例えば、無電解めっき法、スパッタリング法および電子ビーム蒸着法等を挙げることができ、中でも無電解めっき法が好ましい。また、特に、本発明においては、上記アンダーコート層が、ニッケル無電解めっきにより形成されたものであることが好ましい。
【0026】
また、本発明においては、アンダーコート層形成工程の前に、上記金属基板の表面を粗化する表面粗化工程を行うことが好ましい。金属基板の表面を粗化することにより、物理的凹凸によるピン止め効果を得ることができ、金属基板とアンダーコート層とを強固に結合させることができるからである。例えば、頻繁な起動/停止や低温からの急激な温度上昇を伴う起動が繰り返される自動車用燃料電池スタックでは、セパレータ内部に無理な応力が蓄積し、めっき部分の剥がれが発生して長期耐久性に問題が生じる場合がある。特に、アンダーコート層と金属基板との間では、熱膨張率や厚みの違いから、低温起動を繰り返すと膜の剥がれが発生し易い。これに対して、金属基板の表面を粗化することによって、物理的凹凸によるピン止め効果によって金属基板とアンダーコート層とを強固に結合させることができ、例えば、急激な熱膨張を伴う低温(氷点下)からの起動を繰り返しても、アンダーコート層と金属基板との間に剥がれが生じることを抑制でき、自動車用燃料電池スタックに用いるのに適切な耐久性を有したセパレータを得ることができる。
【0027】
本発明においては、金属基板の表面粗度Rzが、例えば0.02μm〜20μmの範囲内、中でも0.5μm〜15μmの範囲内、特に1.0μm〜10μmの範囲内となるように、表面粗化を行うことが好ましい。
【0028】
金属基板の表面を粗化する方法としては、ピン止め効果が得られる程度に粗化可能な方法であれば特に限定されるものではないが、具体的には、サンドブラスト法等の物理的粗化方法、および粗化液等を用いた化学的粗化方法等を挙げることができる。特に、本発明においては、サンドブラスト法により金属基板の表面を粗化することが好ましい。所望の粗化表面を容易に得ることができるからである。
サンドブラスト法に用いられる投射材としては、例えば、アルミナ、シリカおよびジルコニア等を挙げることができる。また、サンドブラスト法の際の投射圧力や投射機については、一般的なサンドブラスト法と同様であるので、ここでの説明は省略する。
【0029】
2.レジスト層形成工程
次に、本発明におけるレジスト層形成工程について説明する。本発明におけるレジスト層形成工程は、上記アンダーコート層上にドライフィルムレジストを配置し、レジスト層を形成する工程である。本発明においては、ドライフィルムレジストを用いることにより、充分に膜厚の大きなレジスト層を大面積で形成することができる。
【0030】
本発明に用いられるドライフィルムレジストは、ポジ型であっても良く、ネガ型であっても良い。ドライフィルムレジストがポジ型である場合は、露光、現像により、露光部が分解除去され、非露光部が後述するレジスト層パターンとなる。逆に、ドライフィルムレジストがネガ型である場合は、露光、現像により、非露光部が分解除去され、露光部が後述するレジスト層パターンとなる。ドライフィルムレジストは市販品をそのまま用いることができる。
【0031】
ドライフィルムレジストの膜厚としては、例えば5μm〜500μmの範囲内、中でも10μm〜250μmの範囲内、特に20μm〜150μmの範囲内であることが好ましい。
また、ドライフィルムレジストをアンダーコート層上に配置し、レジスト層を形成する方法としては、具体的には、熱圧着する方法等を挙げることができる。
【0032】
3.パターン形成工程
次に、本発明におけるパターン形成工程について説明する。本発明におけるパターン形成層は、上記レジスト層に対して、露光、現像を行うことにより、レジスト層パターン、およびアンダーコート層が露出する凹部パターンを形成する工程である。
【0033】
さらに、本発明においては、燃料電池用セパレータのガス流路となる平面領域をガス流路平面領域Tとし、上記ガス流路平面領域T全体に占める上記凹部パターンの面積を凹部パターン面積率Sとし、また、上記ガス流路平面領域T内の凹部パターンの平均線幅を100倍した長さを一辺とする正方形の領域を基準平面領域Aとし、上記基準平面領域A全体に占める上記凹部パターンの面積を凹部パターン面積率Sとした場合に、上記パターン形成工程の際に、任意の上記基準平面領域Aの凹部パターン面積率Sの値が、上記凹部パターン面積率Sの値の±20%の範囲内となるような露光パターンで露光を行う。
【0034】
ここで上記露光パターンについて詳細に説明する。本発明においては、まずガス流路平面領域Tを定義する。ガス流路平面領域Tとは、燃料電池用セパレータを作製した際に、ガス流路となる平面領域をいう。例えば図2(a)に示すように、めっき層パターン7(凸部)と、ガス流路パターン9(凹部)とを有する燃料電池用セパレータを作製するためには、図2(b)に示すように、これらのパターンとは逆のパターンを有する部材、すなわち、凹部パターン6(凹部)と、レジスト層パターン3´(凸部)とを有する部材を作製する必要がある。このような場合において、図2(c)に示すように、燃料電池用セパレータのガス流路となる平面領域をガス流路平面領域Tと定義する。
さらに、本発明においては、ガス流路平面領域T全体に占める凹部パターンの面積を凹部パターン面積率Sとして定義する。凹部パターン面積率Sは、パターン形成工程後に、ガス流路平面領域T内に凹部パターンが占める割合を測定することにより、求めることができる。
【0035】
次に、本発明においては、基準平面領域Aを定義する。基準平面領域Aとは、ガス流路平面領域T内の凹部パターンの平均線幅を100倍した長さを一辺とする正方形の領域をいう。本発明において、凹部パターンの平均線幅とは、ガス流路平面領域T内の凹部パターンを10箇所測定した際の平均値をいうものとする。例えば、図3に示すように、ガス流路平面領域Tに、特定のレジスト層パターン3´および凹部パターン6が形成されている場合には、できるだけ線幅の異なる場所((i)〜(iii))を測定して凹部パターンの平均線幅を求める。凹部パターンの平均線幅は、例えば5μm〜500μmの範囲内、中でも10μm〜300μmの範囲内、特に25μm〜200μmの範囲内であることが好ましい。
さらに、本発明においては、基準平面領域A全体に占める凹部パターンの面積を凹部パターン面積率Sとして定義する。
【0036】
本発明においては、パターン形成工程の際に、任意の上記基準平面領域Aの凹部パターン面積率Sの値が、通常、上記凹部パターン面積率Sの値の±20%の範囲内となるような露光パターンで露光を行うが、中でも±15%の範囲内、特に±10%の範囲内であることが好ましい。上記範囲内とすることで、平面内における凹部パターンの占有率を均一化することができ、めっき層パターンが局所的に厚くなったり薄くなったりすることを防止でき、均一な高さのめっき層パターンを得ることができるからである。具体的には、図4に示すように、ガス流路平面領域Tでの凹部パターン面積率Sと、ガス流路平面領域T内における基準平面領域Aでの凹部パターン面積率Sを比較して、任意の地点において、凹部パターン面積率Sの値が、凹部パターン面積率Sの値の特定の範囲内となるような露光パターンで露光を行う。
【0037】
また、一般的に、セパレータのガス流路には、ガス流路を折り返すための屈曲部と、ガス流路が直線的に配置された非屈曲部とが存在する。そのため、セパレータの製造段階においては、後にめっき層パターンが形成される凹部パターンにも、ガス流路に対応して屈曲部が設けられる。具体的には、図5(a)に示すように、屈曲部11および非屈曲部12を有する凹部パターン6が形成される。この場合、次のような問題が生じる場合が考えられる。すなわち、図5(a)に示される領域Xおよび領域Yを比較すると、領域Xに占める凹部パターンの面積率が、領域Yに占める凹部パターンの面積率よりも大きくなるため、領域Xに形成されるめっき層パターンの厚みが、領域Yに形成されるめっき層パターンの厚みよりも小さくなる可能性がある。このような場合は、図5(b)に示すように、領域Xにおける屈曲部11の線幅を小さくし、領域Xおよび領域Yに占める凹部パターンの面積率をそれぞれ均等化することによって、均一な高さの凸部(めっき層パターン)を得ることができる。
【0038】
本発明において、ガス流路平面領域Tの面積としては、特に限定されるものではないが、より大きいことが好ましい。大型の燃料電池用セパレータを作製する場合であっても、均一な高さの凸部(めっき層パターン)を有する燃料電池用セパレータを形成することができるからである。ガス流路平面領域Tの面積としては、具体的には、200cm以上、中でも200cm〜700cmの範囲内、特に300cm〜500cmの範囲内であることが好ましい。
【0039】
本発明に用いられるフォトマスクとしては、上述した露光パターンを実現可能な遮光部等を有するものあれば特に限定されるものではなく、一般的なフォトマスクを用いることができる。本発明に用いられる光としては、ドライレジストフィルムの種類等により異なるものであるが、例えば紫外線、可視光線、赤外線、X線等を挙げることができ、中でも紫外線が好ましい。また、現像に用いられる現像液としては、目的とするレジスト層パターン以外のレジスト層部分を除去できるものであれば特に限定されるものではなく、市販の現像液を使用することができる。
【0040】
4.めっき層パターン形成工程
次に、本発明におけるめっき層パターン形成工程について説明する。本発明におけるめっき層パターン形成工程は、上記凹部パターンに沿って露出した上記アンダーコート層上に、めっき法により、めっき層パターンを形成する工程である。本発明においては、通常、凹部パターンを埋めるように、めっき層パターンが形成される。
【0041】
めっき層パターンの材料としては、導電性を有するものであれば特に限定されるものではないが、上述したアンダーコート層の材料の種類等に応じて適宜選択することが好ましい。めっき層パターンの材料としては、例えばニッケル、金、クロムおよび亜鉛等を挙げることができ、中でもニッケルが好ましい。
【0042】
めっき層パターンの厚さとしては、燃料電池用セパレータの用途等により異なるものである。めっき層パターンの具体的な厚さについては、後述する「7.燃料電池用セパレータ」で説明する。また、本発明においては、レジスト層パターンの間に形成された凹部パターンを埋めるように、めっき層パターンが形成される。そのため、所望の形状のガス流路を形成するためには、通常、めっき層パターンの厚さを、レジスト層パターンの厚さよりも小さくする必要がある。したがって、本発明においては、目的とするめっき層パターンの厚さに応じて、使用するドライフィルムレジストの膜厚等を適宜選択することが好ましい。
【0043】
本発明に用いることができるめっき法としては、所望のめっき層パターンを形成可能な方法であれば特に限定されるものではないが、具体的には電解めっき法および無電解めっき法等を挙げることができ、中でも電解めっき法が好ましい。特に、本発明においては、上記めっき層パターンが、ニッケル電解めっきにより形成されたものであることが好ましい。
【0044】
5.レジスト層パターン除去工程
本発明におけるレジスト層パターン除去工程は、上記めっき層パターン形成工程後に、上記レジスト層パターンを除去する工程である。本発明においては、レジスト層パターンを除去したパターンが、セパレータのガス流路となる。
【0045】
レジスト層パターンを除去する方法としては、特に限定されるものではないが、具体的には、剥離液を用いる方法等を挙げることができる。剥離液の種類等については、一般的な剥離液と同様の剥離液を用いることができ、レジスト層パターンの材料等に応じて適宜選択することが好ましい。具体的には、苛性ソーダ水溶液等を挙げることができる。
【0046】
6.カーボンコート層形成工程
本発明においては、上記レジスト層パターン除去工程の後に、めっき層パターンの表面に、耐腐食性を向上させるカーボンコート層を形成するカーボンコート層形成工程を行うことが好ましい。より耐久性に優れた燃料電池用セパレータを得ることができるからである。すなわち、カーボンコート層を設けることにより、強酸性下に置かれる燃料電池の運転環境下でセパレータから金属イオンが溶出することを抑制することができ、電解質膜のイオン交換によるプロトン伝導率の低下や、副反応として起こるヒドロキシルラジカルの発生による電解質膜の劣化が抑制され、高い耐久性能を保つことができる。
【0047】
本発明において、カーボンコート層は、少なくともめっき層パターンの表面に形成されていれば良いが、めっき層パターン、およびレジスト層パターン除去工程により露出したアンダーコート層の両方の表面に形成されていることが好ましい。
【0048】
カーボンコート層は、通常、炭素材料および結着材を含有する。上記炭素材料としては、具体的には、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、ファーネスブラック、ピッチ系炭素繊維、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、カーボンナノファイバー、および基相成長炭素繊維等を挙げることができる。一方、上記結着材としては、具体的には、エチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)およびポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系樹脂等を挙げることができ、中でもエチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)が好ましい。また、上記結着材として、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂および光硬化性樹脂等を用いることもできる。なお、カーボンコート層における炭素材料の含有量としては、所望の導電性を得ることができる量であれば特に限定されるものではなく、セパレータの用途等に応じて適宜選択することが好ましい。
【0049】
カーボンコート層の膜厚としては、例えば1μm〜50μmの範囲内、中でも2μm〜30μmの範囲内、特に3μm〜10μmの範囲内であることが好ましい。上記範囲内であれば、導電性と耐腐食性のバランスに優れたカーボンコート層とすることができるからである。
また、カーボンコート層を形成する方法としては、例えば、上述した炭素材料および結着材、ならびに溶媒を含有する塗工液を用意し、一般的な塗布方法により塗布する方法等を挙げることができる。塗布方法としては、具体的には、スプレー法、ディスペンス法およびインクジェット法等を挙げることができる。さらに、セパレータを塗工液に浸漬させることによって、カーボンコート層を形成しても良い。
【0050】
7.燃料電池用セパレータ
本発明の燃料電池用セパレータの製造方法においては、上述した複数の工程を経て、金属基板上にめっき層パターン等を形成し、燃料電池用セパレータを得る。本発明においては、金属基板の一方の表面上に、上述しためっき層パターン等を形成しても良く、金属基板の両方の表面上に、上述しためっき層パターン等を形成しても良い。
【0051】
本発明により得られる燃料電池用セパレータのめっき層パターンは、ほぼ一定の高さ(厚さ)で形成される。めっき層パターンの平均高さとしては、例えば5μm〜450μmの範囲内、中でも15μm〜300μmの範囲内、特に25μm〜250μmの範囲内であることが好ましい。なお、めっき層パターンの平均高さとは、形成されためっき層パターンを10箇所測定した際の平均値をいうものとする。また、本発明により形成されためっき層パターンは、任意の地点において、上記のめっき層パターンの平均高さの±30%の範囲内、中でも±15%の範囲内、特に±10%の範囲内にあることが好ましい。なお、めっき層パターンの高さは、通常、燃料電池用セパレータのガス流路の深さと一致する。本発明により得られる燃料電池用セパレータのガス流路の深さは、例えば、ガス流路の幅の0.8倍〜3.0倍の範囲内、1.0倍〜2.5倍の範囲内、特に1.3倍〜2.0倍の範囲内であることが好ましい。
【0052】
本発明により得られる燃料電池用セパレータのガス流路の幅としては、特に限定されるものではないが、例えば2μm〜300μmの範囲内、中でも3μm〜200μmの範囲内、特に5μm〜100μmの範囲内であることが好ましい。本発明においては、上記の範囲となるように、レジスト層パターンの幅を設定することが好ましい。
【0053】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0054】
以下に実施例を示して本発明をさらに具体的に説明する。
[実施例1]
厚み100μmの黄銅基板を界面活性剤にて洗浄後、黄銅基板上に、ニッケル−燐合金からなるアンダーコート層を無電解めっき法により3μm設けた。次に基板を乾燥後、厚み75μmのドライフィルムレジスト(デュポン社製)に、特定の遮光パターンを有するフォトマスクを110℃、0.3MPaの条件にてラミネートし、平行光源によって露光し、ドライフィルムレジストを現像し、さらに焼成炉にて120℃、30分間硬化させた。これにより、アンダーコート層上に、レジスト層パターンおよび凹部パターンを形成した。なお、ガス流路平面領域T全体に占める凹部パターン面積率Sは37%であった。一方、ガス流路平面領域T内の凹部パターンの平均線幅は65μmであり、それを100倍した長さを一辺とする正方形の領域を基準平面領域Aとし、基準平面領域A全体に占める凹部パターンの面積を凹部パターン面積率Sとした場合に、いずれの凹部パターン面積率Sの値も、凹部パターン面積率Sの値の±7%の範囲内となっていた。
次に、ニッケル電解めっき槽に、現像後の基板を投入することにより、黄銅基板が露出する凹部パターンにニッケルを選択的に電着させ、めっき層パターンを得た。続いて、レジスト層パターンを3%苛性ソーダ水溶液によって剥離し、界面活性剤にて洗浄後、該基板を、70重量%の割合でアセチレンブラック(デンカ製)を含有するエチレンテトラフルオロエチレン共重合体溶液に浸漬させ、膜厚2μmのカーボンコート層を設け、最後に80℃で熱風乾燥することにより、燃料電池用セパレータを得た。
得られためっき層パターンの厚みを10点測定した結果、得られためっき層パターンの厚みの平均値は59μm、最大値は62μm、最小値は54μm、標準偏差は1.8μmであった。その結果、膜厚のばらつきが少ないめっき層パターンが形成されていることが確認された。
【0055】
[実施例2]
厚み100μmの黄銅基板に、平均粒径12μmのアルミナ粉を投射材とし、0.3MPaの投射圧力にてサンドブラスト加工を施し、表面粗さRzが7.4μmの黄銅基板を得た。この黄銅基板を用いたこと以外は、実施例1と同様にして燃料電池用セパレータを得た。
得られたセパレータを用いて、金属基板とアンダーコート層との密着性をテープ剥離試験法により測定した結果、表面粗化処理を行っていない実施例1と比較して、約2.4倍密着性が向上していることが判明した。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の燃料電池用セパレータの製造方法の一例を示す工程図である。
【図2】ガス流路平面領域Tを説明する説明図である。
【図3】凹部パターンの線幅を説明する説明図である。
【図4】凹部パターン面積率Sおよび凹部パターン面積率Sの関係を説明する説明図である。
【図5】凹部パターンの屈曲部および非屈曲部を説明する説明図である。
【符号の説明】
【0057】
1 … 金属基板
2 … アンダーコート層
3 … レジスト層
4 … フォトマスク
5 … 光
6 … 凹部パターン
7 … めっき層パターン
8 … カーボンコート層
9 … ガス流路パターン
11 … 屈曲部
12 … 非屈曲部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基板上に、めっきを行うためのアンダーコート層を形成するアンダーコート層形成工程と、
前記アンダーコート層上にドライフィルムレジストを配置し、レジスト層を形成するレジスト層形成工程と、
前記レジスト層に対して、露光、現像を行うことにより、レジスト層パターン、および前記アンダーコート層が露出する凹部パターンを形成するパターン形成工程と、
前記凹部パターンに沿って露出した前記アンダーコート層上に、めっき法により、めっき層パターンを形成するめっき層パターン形成工程と、
前記めっき層パターン形成工程後に、前記レジスト層パターンを除去するレジスト層パターン除去工程と、
を有する燃料電池用セパレータの製造方法であって、
燃料電池用セパレータのガス流路となる平面領域をガス流路平面領域Tとし、前記ガス流路平面領域T全体に占める前記凹部パターンの面積を凹部パターン面積率Sとし、また、前記ガス流路平面領域T内の凹部パターンの平均線幅を100倍した長さを一辺とする正方形の領域を基準平面領域Aとし、前記基準平面領域A全体に占める前記凹部パターンの面積を凹部パターン面積率Sとした場合に、
前記パターン形成工程の際に、任意の前記基準平面領域Aの凹部パターン面積率Sの値が、前記凹部パターン面積率Sの値の±20%の範囲内となるような露光パターンで露光を行うことを特徴とする燃料電池用セパレータの製造方法。
【請求項2】
前記アンダーコート層形成工程の前に、前記金属基板の表面を粗化する表面粗化工程を行うことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用セパレータの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−66237(P2008−66237A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−245720(P2006−245720)
【出願日】平成18年9月11日(2006.9.11)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】