説明

燃料電池用セパレータ及びそのプラズマ処理装置

【課題】耐食性に優れ、かつ接触抵抗が低くい金属基板を用いた固体高分子型燃料電池用セパレータの提供、及び生産性に優れたプラズマ処理技術及プラズマ処理装置を提供する。
【解決手段】金属製セパレータ基板表面に接触抵抗10mΩcm2以下、撥水角80°以上のシリコン含有炭素系被膜を被着する。プラズマ処理容器内に、一対の基板支持具2にそれぞれ複数枚の金属基板3をほぼ平行、且つ等間隔に係止した第1の基板電極群2aと第2の基板電極群2bとをほぼ等間隔に相互に噛み合わせて配置し、該一対の基板電極群にコンデンサー7を介して高周波電力を給電し、且つローパスフィルタ12を介して負の脈流電圧又はパルス電圧を印加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐食性に優れ、アノード及びカドード電極との接触電気抵抗が小さい個体高分子型燃料電池用セパレータ、及びそのプラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境問題やエネルギー問題を解決するエネルギー源として燃料電池が注目されている。特に、固体高分子型燃料電池は低い温度で動作可能であること、小型化・軽量化が可能であることから家庭用電源や燃料電池自動車への適用が検討されている。
【0003】
一般的な固体高分子型燃料電池を構成する重要部品の一つにセパレータがある。このセパレータに要求される特性としては、酸性雰囲気における耐食性に優れていること、振動等に対する機械的強度が大きいこと、アノード及びカソード電極となるカーボンペーパーとの接触抵抗が小さいこと、溝加工等の加工性に優れ、軽量かつ安価であることなどである。
【0004】
最近では、上記諸特性を満たすセパレータの基材として、ステンレス鋼板などの金属板が主として検討されている。ステンレス鋼やチタン及びその合金などの金属を用いたセパレータは、表面に不動態皮膜を形成することによって良好な耐食性を得ているが、この不動態皮膜がアノード及びカソード電極との接触抵抗を高くするため、導電性を阻害し、燃料電池の発電効率を低下させることが知られている。また、耐食性も十分ではなく、溶出したイオンが触媒特性を劣化させたり、固体高分子膜のイオン伝導性を低下させたりするため、結果的に燃料電池の発電特性を劣化させることが知られている。
【0005】
このため、耐食性金属材料、例えばステンレス鋼表面に炭化物系または硼化物系金属介在物などを析出させて、不動態皮膜による導電性阻害要因を除去するもの(特許文献1参照)、金属基板表面に導電性セラミックス微粒子と導電性樹脂の混合被膜を形成するもの(特許文献2参照)、金属基板表面にアモルファスカーボンと導電部を有する被膜層を形成するもの(特許文献3参照)などが検討されている。
【0006】
特許文献1には、ステンレス鋼を800℃〜1200℃で長時間熱処理することによってステンレス鋼中の炭素又は/及び硼素をクロム系炭化物及びクロム系硼化物の微粒子として基材表面に析出させる技術が開示されている。これらの微粒子は低抵抗率であって、その表面に不動態皮膜を形成しないので、接触抵抗を十分低くできるとされている。しかし、ステンレス鋼基材が露出しているため、電解液中に金属イオンが溶出する、またステンレス鋼基材を800℃〜1200℃で長時間熱処理する必要があるなどの課題があった。
【0007】
特許文献2では、金属基板表面に少なくとも1層の導電性樹脂層を被覆した耐食性に優れた燃料電池セパレータ技術が開示されている。前記導電性樹脂層の導電性セラミックスとバインダー樹脂の質量比を30/70〜70/30とし、導電性樹脂層の厚みを0.5〜10μmの範囲とすることによって耐食性が改善され、アノード及びカソード電極との接触抵抗を15mΩ・cm程度に低減できることが記載されている。しかし、最近では、5mΩ・cm以下の接触抵抗が要求されていて実用化に至っていない。
【0008】
特許文献3では、金属基板上にアモルファスカーボン層と導電部とからなる被覆層を有する燃料電池用セパレータ技術が開示されている。当該セパレータは、アモルファスカーボン層と、アモルファスカーボン層と黒鉛微粒子で構成される導電部とからなる被覆層を備えることを特徴とする。耐食性は改善されるが、アモルファスカーボンは絶縁性膜であるため、接触抵抗は10mΩ・cm程度で、十分低くできないという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−193206号公報
【特許文献2】特開2007−273458号公報
【特許文献3】特開2008−204876号公報
【特許文献4】特願2008−184765号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】ECI Symposium Series,Volume RP5,Tomar,Portugal,July 1−7,2007,P.221−228
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、耐食性に優れ、かつ接触抵抗が低くい金属基板を用いた固体高分子型燃料電池用セパレータを安価に提供すること、及び生産性に優れたプラズマ処理装置を提供することにある。また、これによって表面処理された燃料電池用セパレータ、及び当該燃料電池用セパレータを用いた固体高分子型燃料電池を安価に提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願は、上記課題を解決するために成されたもので下記の発明を提供する。
【0013】
本発明の請求項1に係る燃料電池用セパレータは、金属製セパレータ基板表面に接触抵抗が10mΩ・cm以下、水の撥水角が80°以上の炭素系被膜を被着してなることを特徴とする。
【0014】
本発明の請求項2に係る燃料電池用セパレータは、請求項1に記載の前記炭素系被膜が5原子%乃至35原子%のシリコン元素を含むことを特徴とする。
【0015】
本発明の請求項3に係る燃料電池用セパレータは、請求項1及び2に記載の前記炭素系被膜の厚さが0.05μm乃至2μmであることを特徴とする。
【0016】
本発明の請求項4に係るプラズマ処理装置は、プラズマ処理容器と、該プラズマ処理容器内に被加工基板を支持する一対の基板支持具と、前記被加工基板を加熱する加熱手段と、前記一対の基板支持具に高周波電力を給電する高周波電源と、前記一対の基板支持具にバイアス電圧を重畳して給電するバイアス電源とを備えたプラズマ処理装置において、前記一対の基板支持具にそれぞれ複数枚の金属基板をほぼ平行、且つ等間隔に係止した第1の基板電極群と同じく第2の基板電極群とをほぼ等間隔に相互に噛み合わせて一対の対向電極板とし、該一対の対向電極板にコンデンサーを介して高周波電力を給電し、且つ前記一対の対向電極板にローパスフィルタを介してバイアス電圧を給電できる構成であることを特徴とする。
【0017】
本発明の請求項5に係るプラズマ処理装置は、請求項4に記載の前記一対の対向電極板の間隔が20mm〜80mmであることを特徴とする。
【0018】
本発明の請求項6に係るプラズマ処理装置は、請求項4及び5に記載の前記バイアス電源が周波数50Hz〜100kHzの負の脈流電圧、矩形波電圧、パルス電圧のいずれかの電圧を給電できることを特徴とする。
【0019】
本発明の請求項7に係るプラズマ処理装置は、請求項4から6のいずれかに記載の前記バイアス電源が周波数50Hz〜100kHzの正弦波電圧を両波整流した負の脈流電圧を前記一対の対向電極板に交互に印加する構成であることを特徴とする。
【0020】
本発明の請求項8に係るプラズマ処理装置は、請求項4から7のいずれかに記載の前記加熱手段が前記一対の対向電極板を200℃乃至500℃に加熱し、当該温度に保持する制御装置を有することを特徴とする。
【0021】
本発明の請求項9に係る高分子固体電解質型燃料電池は、請求項1から3のいずれかに記載の燃料電池用セパレータ又は/及び請求項4から8に記載のプラズマ処理装置によって表面処理された燃料電池用セパレータを適用したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によって、耐食性に優れ、かつ接触抵抗が低くい金属基板を用いた固体高分子型燃料電池用のセパレータを提供し、生産性に優れた製造技術を提供することができる。また、これによって製造された燃料電池用セパレータ、及び当該燃料電池用セパレータを用いた固体高分子型燃料電池を安価に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係るプラズマ処理装置の要部構成の概略図面である。
【図2】本発明に係る一対の対向電極板の構成を示す概略図面である。
【図3】本発明に係る導電性DLC被膜を被着したセパレータ基板の動電位分極測定結果を示す図面である。
【図4】本発明に係る導電性被膜のシリコン含有率と撥水率の関係を示す図である。
【図5】本発明に係る他のプラズマ処理装置の要部構成の概略図面である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明に係る燃料電池用セパレータは、金属製セパレータ基板表面に接触抵抗が10mΩ・cm以下、水の撥水角が80°以上の炭素系被膜を被着してなることを特徴とする。前記炭素系被膜はシリコン元素を5原子%乃至35原子%含む導電性ダイヤモンドライクカーボン(以下、導電性DLCとも記す)である。通常のダイヤモンドライクカーボン(以下、DLCとも記す)は絶縁性で、水に対する撥水角は65°乃至70°であるが、シリコン元素を5原子%から35原子%含む導電性DLC被膜の撥水角は80°から100°に向上することが知られている(非特許文献1参照)。
【0025】
厚さ1μm、抵抗率10Ω・cm以下の導電性DLC被膜を被着した場合、1平方センチメートル当たりの抵抗値は1mΩ以下となるから実用上、抵抗率10Ω・cm以下の導電性DLC被膜であればよい。しかし、接触抵抗を10mΩ・cm以下にするためには導電性DLC被膜の抵抗率は0.1Ω・cm以下であることが望ましい。発明者らの実験結果によれば、抵抗率10mΩ・cmの導電性DLC被膜が得られている(特許文献4参照)。
【0026】
一方、通常のDLC被膜は耐薬品性に優れた被膜であって、酸性溶液やアルカリ性溶液に侵されることはないが、製造コストを考慮したDLC被膜には必ずといってよいほど数ミクロン程度、或いはそれ以下のピンホールが存在し、このピンホールを通じて溶液が浸透して下地の金属基材を腐食する。しかし、前記シリコン元素を添加した導電性DLC被膜は90°以上の撥水角を有し、当該導電性DLC被膜を被着した燃料電池用セパレータはミクロン程度、或いはそれ以下のピンホールが存在しても、このピンホールを通じて溶液は浸透できないため金属基材が腐食されることはない。即ち、孔食の発生を抑制し、実質的に優れた耐食性を示す導電性DLC被膜となる。
【0027】
また、前記導電性DLC被膜中のシリコン元素含有量を表面側に向かって大きくした傾斜組成被膜、或いはシリコン元素含有量の異なる被膜を積層することによって、被膜表面の撥水角を大きくして耐食性を向上することもできる。本発明に係る燃料電池用セパレータに適用する場合は、前記炭素系被膜の厚さは0.05μm乃至2μmであることが望ましい。
【0028】
図1に本発明に係るプラズマ処理装置の要部構成の概略図を示す。また、図2には一対の基板支持具2と第1の基板電極群2a及び第2の基板電極群2bの概念図を示す。プラズマ処理容器1と、該プラズマ処理容器内に被加工基板3を支持する一対の基板支持具2と、前記一対の基板支持具に高周波電力を給電する高周波電源5と、前記一対の基板支持具2にバイアス電圧を重畳して給電するバイアス電源8とを備えたプラズマ処理装置であって、前記一対の基板支持具2にそれぞれ複数枚の金属基板3をほぼ平行、且つ等間隔に係止した第1の基板電極群2aと同じく第2の基板電極群2bとをほぼ等間隔に相互に噛み合わせて一対の対向電極板4とし、該一対の対向電極板にコンデンサー7を介して高周波電力を給電し、且つ前記一対の対向電極板4にローパスフィルタ12を介してバイアス電圧を給電する。
【0029】
前記プラズマ処理容器内に原料ガスを導入し、前記一対の対向電極板4に高周波電力を給電して放電プラズマを発生させ、同時に負のバイアス電圧を印加して前記基板電極群の基板両面に導電性DLC被膜を被着する。前記高周波電源5には、例えば周波数13.56MHz、出力300W乃至3kWの出力を有するものを使用することができる。
【0030】
バイアス電源8には、出力300V乃至5kVの負の脈流電圧又は/及び負のパルス電圧を給電できるものを使用することができる。図1に負の脈流電圧発生の概念図を示す。交流電圧発生器9の出力電圧を変圧器10の一次側に給電し、二次側の出力電圧をダイオード11によって両波整流して負の脈流電圧を発生させる。ローパスフィルタ12を介して前記一対の対向電極板4に前記脈流電圧を交互に給電する。前記交流電圧の周波数は、特定されるものではないが、50Hz乃至200kHzが好適である。更に、好ましくは1kHz乃至100kHzである。
【0031】
本発明によれば、前記導電性DLC被膜の形成には、主として前記高周波電力によって原料ガスの放電プラズマを発生させ、前記脈流電圧の給電によって所望の導電性DLC被膜を形成することができる。本発明の他の実施形態によれば、原料ガスの放電プラズマ発生に前記高周波電力を補助的に使用し、前記バイアス電源8からの脈流電圧によって放電プラズマを維持して所望の導電性DLC被膜を形成することもできる。更に、前記脈流電圧の給電のみによって所望の導電性DLC被膜を形成することも可能である。
【0032】
また、本発明の他の実施形態によれば、バイアス電源として図4に示すように、前記一対の対向電極板4に負のパルス電圧を交互に印加できるバイアス電源20を使用することができる。前記第1の基板電極群2aと第2の基板電極群2bに負のパルス電圧を交互に印加することによって両基板電極間に電位差を発生させることができ、この電位差で加速されたプラズマ中のイオンが基板の両表面に入射して導電性DLC被膜を形成する。
【0033】
前記加熱手段はプラズマ処理容器の内壁面に沿って加熱手段(図示せず)を設置し、該加熱板からの輻射熱によって前記一対の対向電極板4を200℃乃至500℃に加熱する。本発明によれば、基板温度は導電性DLC被膜の形成に不可欠で、その好適な温度範囲は350℃乃至450℃である。
【実施例1】
【0034】
図1及び図2に示す如く、一対の基板支持具2にA6サイズのステンレス製セパレータ基板(SUS304)3をそれぞれ3枚、8cm間隔でほぼ平行に係止して第1の基板電極群2aと第2の基板電極群2bとを構成し、ほぼ等間隔に相互に噛み合わせて一対の対向電極板4とした。電極間隔は約4cmとした。該一対の対向電極板を前記プラズマ処理容器内に設置し、その一方の給電端子を整合器6とコンデンサー7を介して高周波電源5の出力端子に接続し、他方の給電端子をコンデンサー7を介して接地した。また、前記一対の対向電極板4の給電端子はローパスフィルタ12を介してバイアス電源8に接続した。
【0035】
前記プラズマ処理容器の内壁面に沿って熱遮蔽材を挟んで設置した加熱手段によって前記一対の対向電極板を400℃に加熱した。前記プラズマ処理装置内を予め高真空に排気して十分ガス出しした後、水素ガス20%とアルゴンガス80%の混合ガスを導入してガス圧力0.6パスカルに調整し、周波数13.56MHz、出力1kWの高周波電力を給電して放電プラズマを発生させた。前記一対の対向電極板に500Vの脈流電圧を印加して基材表面をクリーニングした。基板表面の自然酸化膜や吸着ガスを除去した。
【0036】
次ぎに、原料ガスとしてフッ化炭素(CF)ガス、アセチレン(C)ガス及びヘキサメチルジシロキサン((CHSiOSi(CH、以下、HMDSOとも記す)ガスを流量比2:1:1の割合で導入してガス圧力を0.5パスカルに調整し、前記一対の対向電極板に1kWの高周波電力を給電して放電プラズマを発生させた。同時に、前記バイアス電源8から周波数33kHz、750Vの負の脈流電圧を前記一対の対向電極板に重畳して印加して導電性DLC被膜を形成した。
【0037】
被膜形成時間6分で厚さ160nmの導電性DLC被膜を得た。該被膜のフッ素含有量は2.5原子%、シリコン含有量は25原子%及び酸素含有量は22原子%であった。被膜全体の硬度は12GPa、水の接触角は91°であった。図3にHMDSOガスの流量比を変えてシリコン含有率と撥水率の関係を測定した結果を示す。撥水率はシリコン含有率にほぼ比例して増加することが解る。
【0038】
4探針測定器Napson、RT−7による抵抗率の測定結果、前記導電性DLC被膜の抵抗率は12mΩ・cmであった。また、前記導電性DLC被膜を被着した試料を3cm角に切断し、アルミニウム電極間に両面にカーボンペーパーを挟んでセットし、圧力10kgf/cm、電流密度−2.0〜+2.A/cmの範囲で接触抵抗を評価した。その結果、5〜10mΩ・cmの接触抵抗を得た。
【0039】
本実施例で得られた導電性DLC被膜を被着したセパレータ基板の耐食性を評価するため、0.05モル硫酸溶液中、常温における動電位分極測定を行った。測定には電気化学測定装置(ソーラトロン社製、SI 1280B)を使用した。測定結果を図4に示す。曲線▲1▼はステンレス基板の動電位分極を、▲2▼は導電性DLC被膜を被着したステンレス基板の動電位分極を示す。導電性DLC被膜を被着することによって、電流密度が約1桁減少し、不動態保持電位が高電位側に移動して耐食性が改善されたことが解る。
【0040】
本実施例では、セパレータ基板の温度を400℃に保持して導電性DLC被膜を形成したが、抵抗率10Ω・cm程度の被膜を形成する場合は、前記セパレータ基板の温度を250℃に保持して導電性DLC被膜を形成することができる。
【実施例2】
【0041】
実施例1と同様に、一対の基板支持具2にA6サイズのステンレス製セパレータ基板3をそれぞれ3枚、8cm間隔でほぼ平行に係止して第1の基板電極群2aと第2の基板電極群2bとを製作し、ほぼ等間隔に相互に噛み合わせて一対の対向電極板4とした。電極間隔は約4cmとした。該一対の対向電極板を前記プラズマ処理容器内に設置し、その一方の給電端子を整合器6とコンデンサー7を介して高周波電源5の出力端子に接続し、もう一方の給電端子をコンデンサー7を介して接地した。また、前記一対の対向電極板の給電端子はローパスフィルタ12を介してバイアス電源8に接続した。
【0042】
前記一対の対向電極板を300℃に加熱して前記プラズマ処理装置内を予め高真空に排気して十分ガス出しした後、水素ガス20%とアルゴンガス80%の混合ガスを導入、周波数13.56MHz、出力1kWの高周波電力を給電して放電プラズマを発生させ、前記一対の対向電極板の基材表面をクリーニングした。
【0043】
次ぎに、原料ガスとしてフッ化炭素ガス、アセチレンガス及びテトラメチルシランガス(Si(CH)を流量比3:1:1の割合で導入してガス圧力を15パスカルに調整し、前記一対の対向電極板に500Wの高周波電力を給電して放電プラズマを発生させた。同時に、前記バイアス電源8から周波数33kHz、950Vの負の脈流電圧を前記一対の対向電極板に重畳して印加して導電性DLC被膜を形成した。本実施例では、前記高周波電力は放電の開始、安定放電を容易にするための補助的電源として使用し、前記バイアス電源から給電する脈流電圧によって高密度プラズマを発生させて前記一対の電極板表面に導電性DLC被膜を形成した。
【0044】
被膜形成時間6分で厚さ230nmの導電性DLC被膜を得た。該被膜のフッ素含有量は6原子%、シリコン元素含有量は32原子%、被膜全体の硬度は15GPa、水の接触角は95乃至110°であった。4探針測定器Napson、RT−7による抵抗率の測定結果、前記導電性DLC被膜の抵抗率は5.5Ω・cmであった。接触抵抗は実施例1とほぼ同等であった。
【実施例3】
【0045】
図5に本発明の他の実施態様を示す。本実施例で用いたプラズマ処理装置の要部構成及びバイアス電源20の概略図を示す。前記バイアス電源20は直流電源23、パルス信号発生器22及びスイッチング素子21a、21bで構成されている。前記直流電源23は300V乃至10kVの負の直流電圧を発生する可変直流電源である。また、前記パルス信号発生器22は前記スイッチング素子21a及び21bを交互に動作させるパルス信号発生器で、繰り返し周波数500Hz乃至5kHz、パルス幅500μs乃至5μsのパルス信号を発生する。
【0046】
前記バイアス電源の出力端子はローパスフィルタ12を介して前記第1の基板電極群2a及び第2の基板電極群2bに接続されている。前記パルス信号をスイッチング素子21a及び21bに印加することによって、第1の基板電極群2aと第2の基板電極群2bに任意の負のパルス電圧を交互に印加することができる。
【0047】
実施例1と同様に、前記一対の対向電極板を400℃に加熱して前記プラズマ処理装置内を予め高真空に排気して十分ガス出しした後、水素ガス20%とアルゴンガス80%の混合ガスを導入、周波数13.56MHz、出力300Wの高周波電力を給電して放電プラズマを発生させ、バイアス電源から繰り返し周波数1kHz、パルス電圧5kV、パルス幅10μsの負のパルス電圧を印加して前記一対の対向電極板の基材表面をクリーニングした。
【0048】
次ぎに、原料ガスとしてフッ化炭素ガス、アセチレンガス及びテトラメチルシランガスを流量比2:1:1の割合で導入してガス圧力を0.6パスカルに調整し、前記一対の対向電極板に500Wの高周波電力を給電して放電プラズマを発生させた。同時に、前記バイアス電源20から周波数3kHz、パルス電圧−5kVの負のパルス電圧を前記一対の対向電極板に交互に印加して導電性DLC被膜を形成した。本実施例では、前記高周波電力で放電プラズマを励起し、前記バイアス電源20から給電する高電圧パルス電圧によって高密度プラズマを発生させることができ、前記一対の電極板表面に導電性DLC被膜を形成することができた。
【0049】
被膜形成時間10分で厚さ190nmの導電性DLC被膜を得た。該被膜のシリコン元素含有量は33原子%、被膜全体の硬度は15GPa、水の接触角は実施例2とほぼ同じであった。4探針測定器Napson、RT−7による抵抗率の測定結果、前記導電性DLC被膜の抵抗率は8.5mΩ・cmであった。
【0050】
上記実施例では、セパレータ基板材料としてステンレスSUS304基板に適用したが、これに限定されるものではなく、チタニウム、ニッケル、マグネシウム、アルミニウムなど非鉄金属材料及びこれらの合金材料にも適用できることは云うまでもない。
【符号の説明】
【0051】
1:真空容器、2:基板支持具、2a、2b:基板電極群、3:被加工基板、4:対向電極板、5:高周波電源、6:整合器、7:コンデンサー、8:バイアス電源、9:交流電圧発生器、10:変圧器、11:ダイオード、12:ローパスフィルタ、13:フィードスルー、20:バイアス電源、21a、21b:スイッチング素子、22:パルス信号発生器、23:直流電源、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製燃料電池用セパレータ基板表面に、接触抵抗が10mΩ・cm以下、水の撥水角が80°以上の炭素系被膜を被着してなることを特徴とする燃料電池用セパレータ。
【請求項2】
前記炭素系被膜が5原子%乃至35原子%のシリコン元素を含むことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池用セパレータ。
【請求項3】
前記炭素系被膜の厚さが0.05μm乃至2μmであることを特徴とする請求項1及び2に記載の燃料電池用セパレータ。
【請求項4】
プラズマ処理容器と、該プラズマ処理容器内に被加工基板を支持する一対の基板支持具と、前記被加工基板を加熱する加熱手段と、前記一対の基板支持具に高周波電力を給電する高周波電源と、前記一対の基板支持具にバイアス電圧を重畳して給電するバイアス電源とを備えたプラズマ処理装置において、前記一対の基板支持具にそれぞれ複数枚の金属基板をほぼ平行、且つ等間隔に係止した第1の基板電極群と同じく第2の基板電極群とをほぼ等間隔に相互に噛み合わせて一対の対向電極板とし、該一対の対向電極板にコンデンサーを介して高周波電力を給電し、且つ前記一対の対向電極板にローパスフィルタを介してバイアス電圧を給電できる構成であることを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項5】
前記一対の対向電極板の間隔が20mm〜80mmであることを特徴とする請求項4に記載のプラズマ処理装置。
【請求項6】
前記バイアス電圧が、周波数50Hz〜100kHzの負の脈流電圧、矩形波電圧、パルス電圧のいずれかであることを特徴とする請求項4及び5に記載のプラズマ処理装置。
【請求項7】
前記バイアス電源が、周波数50Hz〜100kHzの正弦波電圧を両波整流した負の脈流電圧を前記一対の対向電極板に交互に印加する構成であることを特徴とする請求項4から6のいずれかに記載のプラズマ処理装置。
【請求項8】
前記加熱手段が前記一対の対向電極板を200℃乃至500℃に加熱し、当該温度に保持する制御装置を有することを特徴とする請求項4から7のいずれかに記載のプラズマ処理装置。
【請求項9】
請求項1から3のいずれかに記載の燃料電池用セパレータ又は/及び請求項4から8に記載のプラズマ処理装置によって製造された燃料電池用セパレータを適用したことを特徴とする高分子固体電解質型燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−89460(P2012−89460A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−246832(P2010−246832)
【出願日】平成22年10月15日(2010.10.15)
【出願人】(303029317)株式会社プラズマイオンアシスト (17)
【出願人】(500278372)
【Fターム(参考)】