説明

燃料電池用セパレータ及びその製造方法

【課題】燃料電池用セパレータであって、セパレータ基体と導電層との間の密着性をより向上させることである。
【解決手段】隣設する燃料電池用セル間のガスを分離する燃料電池用セパレータ22であって、チタン材料またはステンレス鋼で成形されたセパレータ基体24と、セパレータ基体24に形成されたチタン酸化物またはクロム酸化物からなる酸化物層26と、酸化物層26の上に形成された金(Au)等からなる導電層28とを有する。酸化物層26は、セパレータ基体24を酸化して形成されることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用セパレータ及びその製造方法に係り、特に、隣設する燃料電池用セル間のガスを分離する燃料電池用セパレータ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、高効率と優れた環境特性を有する電池として近年脚光を浴びている。燃料電池は、一般的に、燃料ガスである水素に、酸化剤ガスである空気中の酸素を電気化学反応させて、電気エネルギを作りだしている。そして、水素と酸素とが電気化学反応した結果、水が生成される。
【0003】
燃料電池の種類には、リン酸型、溶融炭酸塩型、固体電解質型、アルカリ型、固体高分子型等がある。この中でも、常温で起動しかつ起動時間が速い等の利点を有する固体高分子型の燃料電池が注目されている。このような固体高分子型の燃料電池は、移動体、例えば、車両等の動力源として用いられている。
【0004】
固体高分子型の燃料電池は、複数の単セル、集電板、エンドプレート等を積層して組み立てられる。そして、燃料電池用セルは、電解質膜と、触媒層と、ガス拡散層と、セパレータとを含んで構成される。
【0005】
特許文献1には、燃料電池用ガスセパレータ等が開示され、ステンレス板を成形した基材板を貼り合わせて得た基材部は、その表面に、スズメッキ層である第1コート層を有し、第1コート層は、熱膨張黒鉛からなる第2コート層によってさらに被覆され、燃料電池用ガスセパレータは、第2コート層によって充分な耐食性が付与されていることが記載されている。
【0006】
【特許文献1】特開2000−138067号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、燃料電池用セパレータをチタン等の金属材料で製造する場合には、一般的に、電気伝導性の高い金(Au)等の導電体を表面にめっき等して、ガス拡散層等との間の接触抵抗を低減させている。ここで、チタン等で形成されたセパレータ基体に金(Au)等の導電体を直接めっき等すると、導電体で形成された導電層とセパレータ基体との間の密着性が弱いため導電層が剥離する場合がある。
【0008】
そこで、本発明の目的は、セパレータ基体と導電層との密着性をより向上させた燃料電池用セパレータ及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る燃料電池用セパレータは、隣設する燃料電池用セル間のガスを分離する燃料電池用セパレータであって、チタン材料またはステンレス鋼で成形されたセパレータ基体と、セパレータ基体に形成された酸化物層と、酸化物層の上に形成された導電層と、を有することを特徴とする。
【0010】
本発明に係る燃料電池用セパレータにおいて、酸化物層は、セパレータ基体の表面を酸化して形成されることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る燃料電池用セパレータにおいて、セパレータ基体はチタン材料で成形され、酸化物層はチタン酸化物で形成されることを特徴とする。
【0012】
本発明に係る燃料電池用セパレータにおいて、チタン酸化物で形成された酸化物層の厚みは、2nm以上400nm以下であることを特徴とする。
【0013】
本発明に係る燃料電池用セパレータにおいて、セパレータ基体はステンレス鋼で成形され、酸化物層はクロム酸化物で形成されることを特徴とする。
【0014】
本発明に係る燃料電池用セパレータにおいて、導電層は、金で形成されることを特徴とする。
【0015】
本発明に係る燃料電池用セパレータにおいて、金で形成された導電層の厚みは、2nm以上100nm以下であることを特徴とする。
【0016】
本発明に係る燃料電池用セパレータの製造方法は、隣設する燃料電池用セル間のガスを分離する燃料電池用セパレータの製造方法であって、チタン材料またはステンレス鋼でセパレータ基体を成形するセパレータ基体成形工程と、セパレータ基体に酸化物層を形成する酸化物層形成工程と、酸化物層の上に導電層を形成する導電層形成工程と、を有することを特徴とする。
【0017】
本発明に係る燃料電池用セパレータの製造方法において、酸化物層形成工程は、セパレータ基体の表面を酸化させて酸化物層を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
上記のように本発明に係る燃料電池用セパレータ及びその製造方法によれば、セパレータ基体と導電層との間に酸化物層を設けることにより、セパレータ基体と導電層との密着性をより向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に図面を用いて本発明に係る実施の形態につき、詳細に説明する。まず、燃料電池用セルの構成について説明する。図1は、燃料電池用セル10の断面を示す図である。燃料電池用セル10は、電解質膜12と、触媒層14と、ガス拡散層16とを一体化し、燃料電池の電極を形成する膜電極接合体18(Membrane Electrode Assembly:MEA)と、ガス流路を形成するガス流路構造体であるエキスパンド成形体20と、隣設するセル(図示せず)間の燃料ガスまたは酸化剤ガスを分離するセパレータ22と、を含んで構成される。
【0020】
電解質膜12は、アノード極側で発生した水素イオンをカソード極側まで移動させる機能等を有している。電解質膜12の材料には、化学的に安定であるフッ素系樹脂、例えば、パーフルオロカーボンスルホン酸のイオン交換膜が使用される。
【0021】
触媒層14は、アノード極側での水素の酸化反応や、カソード極側での酸素の還元反応を促進する機能を有している。そして、触媒層14は、触媒と、触媒の担体とを含んで構成される。触媒は、反応させる電極面積をより大きくするため、一般的に粒子状にして、触媒の担体に付着させて使用される。触媒には、水素の酸化反応や酸素の還元反応について、より小さい活性化過電圧を有する白金族元素である白金等が使用される。触媒の担体としては、カーボン材料、例えば、カーボンブラック等が使用される。
【0022】
ガス拡散層16は、燃料ガスである水素ガス等と、酸化剤ガスである空気等とを触媒層14に拡散させる機能や、電子を移動させる機能等を有している。そして、ガス拡散層16には、導電性を有する材料であるカーボン繊維織布、カーボン紙等が使用される。
【0023】
エキスパンド成形体20は、膜電極接合体18の両面に積層され、ガス流路を形成するガス流路構造体としての機能を有している。エキスパンド成形体20は、膜電極接合体18のガス拡散層16と、セパレータ22とに接触して積層され、膜電極接合体18とセパレータ22とに電気的に接続される。エキスパンド成形体20は、多数の開口からなるメッシュ構造を備えているので、より多くの燃料ガス等が膜電極接合体18と接触して化学反応し、燃料電池用セル10の発電効率を高めることができる。
【0024】
エキスパンド成形体20には、例えば、JIS G 3351に示されるエキスパンドメタルや、JIS A 5505に示されるメタルラスまたは金属多孔体等が使用される。また、エキスパンド成形体20は、チタン及びチタン合金のチタン材料や、SUS316L及びSUS304等のステンレス鋼等により成形されることが好ましい。これらの金属材料は、機械的強度が高く、その表面に安定な酸化物(TiO、Ti23、TiO2、CrO2、CrO、Cr23等)からなる不働態膜等の不活性皮膜が形成されるため、優れた耐食性を有するからである。ステンレス鋼には、オーステナイト系ステンレス鋼やフェライト系ステンレス鋼等を用いることができる。
【0025】
セパレータ22は、エキスパンド成形体20に積層され、隣設するセル(図示せず)における燃料ガスと酸化剤ガスとを分離する機能を有している。また、セパレータ22は、隣設するセル(図示せず)を電気的に接続する機能を有している。セパレータ22は、チタン材料またはステンレス鋼で成形されたセパレータ基体24と、セパレータ基体24に形成された酸化物層26と、酸化物層26の上に形成された導電層28と、を有している。
【0026】
セパレータ基体24は、チタン及びチタン合金のチタン材料や、SUS316L及びSUS304のステンレス鋼で成形されている。これらの金属材料は、上述したように機械的強度が高く、その表面に安定な酸化物からなる不働態膜等の不活性皮膜が形成されるため、優れた耐食性を有するからである。ステンレス鋼には、オーステナイト系ステンレス鋼やフェライト系ステンレス鋼等を用いることができる。
【0027】
酸化物層26は、セパレータ基体24の表面を酸化して形成される酸化物で構成されることが好ましい。セパレータ基体24の表面を酸化して形成される酸化物は、セパレータ基体24との密着性に優れるからである。セパレータ基体24がチタン材料で成形される場合には、酸化物層26はチタン酸化物(TiO、Ti23,TiO2等)で形成されることが好ましい。また、セパレータ基体24がステンレス鋼で成形される場合には、酸化物層26はクロム酸化物(CrO2、CrO、Cr23等)で形成されることが好ましい。勿論、他の条件次第では、酸化物層26は、セパレータ基体24の表面を酸化して形成される酸化物以外の酸化物で構成してもよい。
【0028】
導電層28は、導電体である金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、パラジウム(Pd)等の金属材料により形成される。これらの金属材料は、電気伝導率が高いので、接触抵抗をより小さくすることができるからである。これらの金属材料の中でも、金(Au)は、耐食性に優れており、電気伝導率が大きいので、導電層28を形成する金属材料として好ましい。また、導電層28は、金(Au)、白金(Pt)等の合金で形成されてもよい。
【0029】
次に、燃料電池用セパレータ22の製造方法について説明する。
【0030】
図2は、セパレータ22の製造方法を示すフローチャートである。セパレータ22の製造方法は、セパレータ基体成形工程(S10)と、洗浄工程(S12)と、中和工程(S14)と、酸洗工程(S16)と、酸化物層形成工程(S18)と、導電層形成工程(S20)と、を含んで構成される。
【0031】
セパレータ基体成形工程(S10)は、チタン材料またはステンレス鋼を加工してセパレータ基体24を成形する工程である。セパレータ基体24は、例えば、チタン材料またはステンレス鋼を圧延加工等することにより成形される。チタン材料またはステンレス鋼の加工装置には、一般的に、金属材料の圧延加工やプレス加工等に使用される加工装置が用いられる。
【0032】
洗浄工程(S12)は、セパレータ基体24を洗浄する工程である。セパレータ基体24は、例えば、アルカリ浸漬脱脂等で洗浄される。アルカリ浸漬脱脂には、苛性ソーダ等のアルカリ性溶液が使用される。セパレータ基体24をアルカリ浸漬脱脂等で洗浄することにより、セパレータ基体24の表面に付着した油分等が除去される。
【0033】
中和工程(S14)は、洗浄後のセパレータ基体24に残留したアルカリ溶液を中和して除去する工程である。中和処理は、洗浄後のセパレータ基体24を中和液に浸漬して行われる。中和液には、硫酸溶液、塩酸溶液、硝酸溶液等が使用される。そして、中和液から取り出されたセパレータ基体24は、脱イオン水等で洗浄される。
【0034】
酸洗工程(S16)は、中和処理等がされたセパレータ基体24を酸洗して、セパレータ基体24の表面から酸化物を除去する工程である。後述する酸化物層形成工程(S18)の前に、セパレータ基体24の表面から成形加工中等に生成した酸化物を除去することにより、酸化物層形成工程(S18)では、酸化物層26をより均一に形成することができる。酸洗処理は、セパレータ基体24を硝弗酸溶液または弗酸溶液等の弗化物を含有した溶液に浸漬して行われる。セパレータ基体24が弗化物を含有した溶液に浸漬されると、セパレータ基体24の表面に生成した酸化物がエッチィングされる。弗化物を含有した溶液から取り出されたセパレータ基体24は、脱イオン水等で洗浄される。
【0035】
酸化物層形成工程(S18)は、酸洗等されたセパレータ基体24に酸化物層26を形成する工程である。酸化物層26は、セパレータ基体24を熱風乾燥または焼成等することにより形成されることが好ましい。セパレータ基体24の表面が酸化されて酸化物層26が形成されるため、セパレータ基体24と酸化物層26との密着性が向上するからである。セパレータ基体24の熱風乾燥には、例えば、ホットガン等が使用される。また、セパレータ基体24の焼成には、例えば、一般的な焼成炉等が使用される。酸化物層26は、熱風乾燥温度、熱風乾燥時間、焼成温度、焼成時間等を調整することにより所定の厚みに形成される。勿論、他の条件次第では、スパッタリング法やイオンプレーティング法等によりセパレータ基体24に酸化物層26を形成してもよい。
【0036】
セパレータ基体24をチタン材料で成形する場合には、チタン酸化物層26の厚みは、2nm以上400nm以下であることが好ましい。チタン酸化物層26の厚みが2nmより小さい場合には、セパレータ基体24と導電層28との密着性が充分に得られないからである。また、チタン酸化物層26の厚みが2nmより小さいとTiの耐食性(耐酸化性)が劣るからである。そして、チタン酸化物層26の厚みが400nmより大きい場合には、セパレータの接触抵抗が大きくなり電気伝導性が低下するからである。
【0037】
導電層形成工程(S20)は、酸化物層26の上に導電層28を形成する工程である。導電層28は、金(Au)等の導電体をコーティングすることにより形成される。金(Au)等のコーティングには、例えば、電解めっき法を用いることができる。金(Au)の電解めっき法には、シアン化金カリウムや亜硫酸金ナトリウム等を含む金めっき浴が用いられる。また、金めっき浴には、酸性、中性またはアルカリ性のめっき浴が用いられる。導電層28は、めっき時間等を調整することにより所定の厚みに形成される。勿論、他の条件次第では、導電層28の形成は、塗布法やインクジェット法等により行ってもよい。
【0038】
導電層28を金で形成した場合には、導電層28の厚みは、2nm以上100nm以下であることが好ましい。導電層28の厚みが2nmより小さい場合には、セパレータの接触抵抗が大きくなるからである。また、導電層28の厚みが100nm以下より大きい場合には、高価な金で導電層28を形成するため製造コストが増加するからである。なお、導電層28を金で形成した場合には、導電層28の厚みは、2nm以上20nm以下であることがより好ましい。以上で、燃料電池用セパレータ22の製造が完了する。
【0039】
上記構成によれば、セパレータ基体と導電層との間に酸化物層を設けることにより、セパレータ基体と導電層との密着性が向上するため導電層の剥離を抑制することができる。
【0040】
上記構成によれば、セパレータ基体の表面を酸化させて酸化物層を形成することにより、セパレータ基体と酸化物層との密着性をより向上させることができる。
【0041】
(実施例)
酸化物層の膜厚を変えてセパレータ供試体を作製し、電気伝導性について評価した。
【0042】
まず、セパレータ供試体の作製方法について説明する。純チタン材をロール圧延してチタンシートを成形した。チタンシートをアルカリ浸漬脱脂して洗浄し、チタンシートに付着した油分を除去した。アルカリ脱脂洗浄したチタンシートを硫酸溶液中に浸漬して中和した。次に、チタンシートを硝弗酸溶液中に浸漬して酸洗し、チタンシートの表面に生成した酸化物をエッチィングして除去した。
【0043】
酸洗したチタンシートの表面を酸化させてチタン酸化物層(TiO2層)を形成した。チタン酸化物層の膜厚は、2nmから800nmの範囲とした。チタン酸化物層の形成は、熱風乾燥または焼成により温度と時間を変えて行った。例えば、チタン酸化物層の膜厚を2nmで形成する場合には60℃から80℃で5秒の熱風乾燥を行った。また、チタン酸化物層の膜厚を400nmで形成する場合には300℃で30分間の焼成を行い、チタン酸化物層の膜厚を800nmで形成する場合には600℃で30分間の焼成を行った。そして、チタン酸化物層の上に導電層である金めっき層を形成した。金めっき層の形成は、アルカリ性金めっき浴を使用して電解めっき法により行った。金めっき層の膜厚は、いずれのセパレータ供試体も10nmとした。
【0044】
作製したセパレータ供試体について接触抵抗の測定を行った。図3は、接触抵抗の測定方法を示す図である。金属治具30にガス拡散層材32を取り付けた後、2つのガス拡散層材32の間に試験片34としてのセパレータ供試体を挟み、所定の面圧を加えて密着させた。そして、1Aの電流を流したときの試験片34とガス拡散層材32との間の電圧を測定し接触抵抗を求めた。
【0045】
図4は、セパレータ供試体における接触抵抗の測定結果を示すグラフである。図4に示すように、横軸にチタン酸化物層の膜厚(nm)を取り、縦軸に接触抵抗(mΩ・cm2)を取り、各膜厚に対する接触抵抗値を黒菱形で示した。チタン酸化物層の膜厚が400nmより大きいセパレータ供試体では、接触抵抗が急激に大きくなった。チタン酸化物層の膜厚が2nm以上400nm以下のセパレータ供試体で、接触抵抗が小さく良好な電気伝導性が得られた。なお、チタン酸化物層の膜厚は2nm以上200nm以下が好ましく、2nm以上10nm以下がより好ましい。チタン酸化物層の膜厚を上記範囲にすることにより、Ti本来の耐食性(耐酸化性)を確保しつつ、接触抵抗をより小さくでき電気伝導性をより高くすることができる。
【0046】
次に、導電層の膜厚を変えてセパレータ供試体を作製し、電気伝導性について評価した。
【0047】
まず、セパレータ供試体の作製方法について説明する。セパレータ供試体を、上述した作製方法と同様の方法により作製した。但し、チタン酸化物層を、熱風乾燥によりチタンシートの表面を酸化して8nm形成した。そして、チタン酸化物層の上に、アルカリ性金めっき浴を使用した電解めっき法により金めっき層を形成した。金めっき層の膜厚は、2nmから20nmとした。
【0048】
作製したセパレータ供試体について接触抵抗を測定した。接触抵抗の測定は、図3に示す接触抵抗測定方法により行った。図5は、セパレータ供試体における接触抵抗測定結果を示すグラフである。図5に示すように、横軸に金めっき層の膜厚(nm)を取り、縦軸に接触抵抗(mΩ・cm2)を取り、各膜厚に対する接触抵抗値を黒四角形で示した。図5から明らかなように、いずれの膜厚で作製したセパレータ供試体についても、接触抵抗が小さく、良好な電気伝導性が得られた。また、金めっき層の厚みが10nmより大きくなると接触抵抗の低下の割合が小さくなった。金は高価であるので、金めっき層を10nm以下で形成することが製造コストの点で好ましい。
【0049】
次に、セパレータ供試体について断面観察を行った。断面観察用のセパレータ供試体は、チタン酸化物層の膜厚8nm、金めっき層の膜厚80nmで、上述したセパレータ供試体の作製方法と同様の方法により作製した。なお、セパレータ供試体の断面観察は、透過電子顕微鏡(TEM)により行った。図6は、セパレータ供試体における断面の透過電子顕微鏡像を示す写真である。図6に示すように、金めっき層とチタンシートとの間にチタン酸化物層であるTiO2層が形成されていることが観察された。
【0050】
次に、2種類の燃料電池用セパレータを製造し、密着性と耐食性とを評価した。
【0051】
まず、実施例1におけるセパレータの製造方法について説明する。セパレータ基体を成形する金属材料には、純チタンを使用した。純チタン材をロール圧延してチタンシートを成形した。チタンシートをアルカリ浸漬脱脂して洗浄し、アルカリ脱脂洗浄したチタンシートを硫酸溶液中に浸漬して中和した。次に、チタンシートを硝弗酸溶液中に浸漬して酸洗し、チタンシートの表面に生成した酸化物をエッチィングして除去した。チタン酸化物層(TiO2層)を、60℃から80℃の熱風乾燥によりチタンシートを酸化して8nm形成した。そして、チタン酸化物層の上に導電層である金めっき層を形成した。金めっき層の膜厚は10nmとした。金めっき層の形成は、アルカリ性金めっき浴を使用し電解めっき法により行った。
【0052】
比較例1におけるセパレータの製造方法について説明する。比較例1におけるセパレータでは、チタンシート上にチタン酸化物層(TiO2層)を形成しないことの他は、実施例1のセパレータと同様の製造方法より製造した。
【0053】
製造したセパレータについて、密着性試験を行った。セパレータの密着性試験は、JIS規格等に準拠して行った。図7は、セパレータの密着性試験結果を示すグラフである。図7に示すように、横軸にセパレータの種類を取り、縦軸に密着強度(N/cm2)を取り、各セパレータの密着強度を棒グラフで示した。図7から明らかなように、実施例1のセパレータにおける密着強度は、比較例1のセパレータにおける密着強度より高い結果が得られた。チタンシートと金めっき層との間にチタン酸化物層を設けることにより、チタンシートと金めっき層との間の密着性が向上した。
【0054】
次に、セパレータの耐食性評価方法について説明する。セパレータの耐食性評価方法は、腐食試験後に接触抵抗を測定することにより行った。腐食試験は、JIS Z 2294に規定されている金属材料の電気化学的高温腐食試験方法に準拠して行った。図8は、電気化学的高温腐食試験で使用した試験装置を示す図である。試験は、大気開放系にて行った。試験に用いた溶液は、硫酸系溶液を使用した。試験溶液の温度は、50℃とした。そして、100時間の間、一定の電位を与えて腐食試験を行った。腐食試験後、図3に示す接触抵抗測定方法により接触抵抗を測定した。
【0055】
図9は、セパレータにおける腐食試験後の接触抵抗測定結果を示すグラフである。図9に示すように、横軸にセパレータの種類を取り、縦軸に接触抵抗(mΩ・cm2)を取り、各セパレータにおける腐食試験100時間後の接触抵抗を黒菱形で示した。実施例1におけるセパレータの接触抵抗は、比較例1におけるセパレータの接触抵抗より低下した。比較例1におけるセパレータでは、チタンシートと金めっき層との間にチタン酸化物層が設けられていないため、金めっき層の密着性が低下してチタンシートの腐食が進行したこと等により接触抵抗が大きくなり電気伝導性が低下した。これに対して、実施例1におけるセパレータでは、チタンシートと金めっき層との密着性が向上したこと及びチタン酸化物層が保護被膜として機能していること等により電気伝導性の低下が抑制され良好な耐食性が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の実施の形態において、燃料電池用セルの断面を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態において、セパレータの製造方法を示すフローチャートである。
【図3】本発明の実施の形態において、接触抵抗の測定方法を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態において、セパレータ供試体における接触抵抗の測定結果を示すグラフである。
【図5】本発明の実施の形態において、セパレータ供試体における接触抵抗の測定結果を示すグラフである。
【図6】本発明の実施の形態において、セパレータ供試体における断面の透過電子顕微鏡像を示す写真である。
【図7】本発明の実施の形態において、セパレータの密着性試験結果を示すグラフである。
【図8】本発明の実施の形態において、電気化学的高温腐食試験で使用した試験装置を示す図である。
【図9】本発明の実施の形態において、セパレータにおける腐食試験後の接触抵抗測定結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0057】
10 燃料電池用セル、12 電解質膜、14 触媒層、16 ガス拡散層、18 膜電極接合体、20 エキスパンド成形体、22 セパレータ、24 セパレータ基体、26 酸化物層、28 導電層、30 金属治具、32 ガス拡散層材、34 試験片。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
隣設する燃料電池用セル間のガスを分離する燃料電池用セパレータであって、
チタン材料またはステンレス鋼で成形されたセパレータ基体と、
セパレータ基体に形成された酸化物層と、
酸化物層の上に形成された導電層と、
を有することを特徴とする燃料電池用セパレータ。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池用セパレータであって、
酸化物層は、セパレータ基体の表面を酸化して形成されることを特徴とする燃料電池用セパレータ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の燃料電池用セパレータであって、
セパレータ基体はチタン材料で成形され、酸化物層はチタン酸化物で形成されることを特徴とする燃料電池用セパレータ。
【請求項4】
請求項3に記載の燃料電池用セパレータであって、
チタン酸化物で形成された酸化物層の厚みは、2nm以上400nm以下であることを特徴とする燃料電池用セパレータ。
【請求項5】
請求項1または2に記載の燃料電池用セパレータであって、
セパレータ基体はステンレス鋼で成形され、酸化物層はクロム酸化物で形成されることを特徴とする燃料電池用セパレータ。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1つに記載の燃料電池用セパレータであって、
導電層は、金で形成されることを特徴とする燃料電池用セパレータ。
【請求項7】
請求項6に記載の燃料電池用セパレータであって、
金で形成された導電層の厚みは、2nm以上100nm以下であることを特徴とする燃料電池用セパレータ。
【請求項8】
隣設する燃料電池用セル間のガスを分離する燃料電池用セパレータの製造方法であって、
チタン材料またはステンレス鋼でセパレータ基体を成形するセパレータ基体成形工程と、
セパレータ基体に酸化物層を形成する酸化物層形成工程と、
酸化物層の上に導電層を形成する導電層形成工程と、
を有することを特徴とする燃料電池用セパレータの製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の燃料電池用セパレータの製造方法であって、
酸化物層形成工程は、セパレータ基体の表面を酸化させて酸化物層を形成することを特徴とする燃料電池用セパレータの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−104932(P2009−104932A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−276471(P2007−276471)
【出願日】平成19年10月24日(2007.10.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000100805)アイシン高丘株式会社 (202)
【Fターム(参考)】