説明

燃料電池用セパレータ材料、それを用いた燃料電池用セパレータ及び燃料電池スタック

【課題】基材表面に形成するAuめっき層の厚みが薄くても耐食性に優れ、かつコストを低減した燃料電池用セパレータ材料、それを用いた燃料電池用セパレータ及び燃料電池スタックを提供する。
【解決手段】金属薄板の一方の面に厚み0.5〜4nmの均一な第1Auめっき層が形成され、該金属基材の他の面に第1Auめっき層より厚い均一な第2Auめっき層が形成され、第1Auめっき層と第2Auめっき層の断面をそれぞれ透過電子顕微鏡で観察した場合の被覆率がいずれも80%以上である燃料電池用セパレータ材料である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属薄板の表面にAuめっき層が形成された燃料電池用セパレータ材料、それを用いた燃料電池用セパレータ及び燃料電池スタックに関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型の燃料電池用セパレータは電気伝導性を有し、燃料電池の各単セルを電気的に接続し、各単セルで発生したエネルギー(電気)を集電すると共に、各単セルへ供給する燃料ガス(燃料液体)や空気(酸素)の流路が形成されている。このセパレータは、インターコネクタ、バイポーラプレート、集電体とも称される。
このような燃料電池用セパレータとして、従来はカーボン板にガス流通路を形成したものが使用されていたが、材料コストや加工コストが大きいという問題がある。一方、カーボン板の代わりに金属板を用いる場合、発電環境下で金属が腐食し、その溶出イオンが膜電極接合体に取り込まれることで発電性能を低下させるという問題や、金属表面に絶縁性の不動態化被膜が生成することでガス拡散膜とセパレータ間の接触抵抗が増大し発電性能を低下させる問題があった。このようなことから、ステンレス鋼板製の波形セパレータの頂部にAuめっきを0.01〜0.06μm被覆する技術や(特許文献1、2)、ステンレス鋼板の表面にAu,Ru、Rh、Pd、Os、Ir及びPt等から選ばれる貴金属をスパッタ成膜して導電部分を形成する技術(特許文献3)が知られている。
又、ステンレス鋼板の表面に、点状又は島状に10nm(0.019mg/cm)程度の金めっきを施す技術(特許文献4)や、ステンレス鋼板の表面に酸化被膜を形成後に金めっきを施す技術(特許文献5)が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−228914号公報
【特許文献2】特開平9−22708号公報
【特許文献3】特開2001−297777号公報
【特許文献4】特開2004−296381号公報(0007)
【特許文献5】特開2007−257883号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、コスト低減のために金めっきの厚みが20nm未満に薄くなると、被膜欠陥が生じ易くなり、燃料電池用セパレータの耐食性を十分に確保できないという問題がある。特に、燃料電池用セパレータは酸性雰囲気に置かれるため、耐食性の点で厳しい環境下にある。
又、特許文献4記載の技術は、ステンレス鋼と金との間で異種金属間接触腐食が起こらないように、90℃、pH3の硫酸に対するステンレス鋼単体の自然電位を0.48Vとすることから、金の重量を1.76mg/cm以下にしている。その結果、金めっき皮膜を均一でなく、あえて島状に形成しているが、一般的にはステンレス鋼等の金属薄板の露出部分が多いと、薄板からの溶出イオン量が多くなり、発電性能を低下させる問題がある。
すなわち、本発明は、金属薄板表面に形成するAuめっき層の厚みが薄くても耐食性に優れ、コストを低減した燃料電池用セパレータ材料、それを用いた燃料電池スタックの提供を目的とする。更に、成形した2枚のセパレータ材料を張り合わせ、一方に燃料ガスを流し、他方には酸化性ガスを流し、さらに張り合わせた中間部には冷却水を流すバイポーラ型のセパレータの場合、ガス側と冷却水側では必要とする耐食性が異なっているが、本発明は、金属薄板表面に必要最小限の金の膜をつけることで、コストを低減した燃料電池用セパレータ材料、それを用いた燃料電池スタックの提供も目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の燃料電池用セパレータ材料は、金属薄板の一方の面に、厚み0.5〜4nmの第1Auめっき層が形成され、該金属薄板の他の面に前記第1Auめっき層より厚い均一な第2Auめっき層が形成され、前記第1Auめっき層と前記第2Auめっき層の断面をそれぞれ透過電子顕微鏡で観察した場合の被覆率がいずれも80%以上である。
【0006】
前記第1Auめっき層と前記第2Auめっき層とは、硫酸水素ナトリウムを伝導塩として含むpH1.0以下のAuめっき浴により電気めっきされていることが好ましい。
前記第2Auめっき層の厚みが7nm以上であることが好ましい。
前記第1Auめっき層と前記第2Auめっき層とは、前記金属薄板の両面にそれぞれ対向する電極を用いて湿式めっきされ、該両面で異なる電流を流してめっきされていることが好ましい。
前記第1Auめっき層と前記第2Auめっき層とは、それぞれ前記金属薄板の表面の一部に形成されていてもよい。
【0007】
前記金属薄板がステンレス鋼からなることが好ましく、オーステナイト系ステンレス鋼からなることがより好ましい。
前記金属薄板の厚さが0.05〜0.3mmであることが好ましい。
前記Auめっき層が封孔処理されていることが好ましい。
前記封孔処理は、メルカプト系水溶液中で前記Auめっき層を電解処理してなることが好ましい。
本発明の燃料電池用セパレータ材料は固体高分子形燃料電池又はダイレクトメタノール型固体高分子形燃料電池に用いられることが好ましい。
【0008】
本発明の燃料電池用セパレータは、前記燃料電池用セパレータ材料を用い、前記第2Auめっき層側が空気極及び燃料極側に向いているものである。
本発明の燃料電池スタックは、前記燃料電池用セパレータ材料を用い、前記第2Auめっき層側が空気極及び燃料極側に向いているものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、金属薄板表面に形成するAuめっき層の厚みが薄くても耐食性を向上させ、コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】第1Auめっき層の断面のTEM像を示す図である。
【図2】金属薄板上の金の被覆状態(TEM像)を模式的に表した図である。
【図3】本発明の実施形態に係る燃料電池スタック(単セル)の断面図である。
【図4】バイポーラ型セパレータの構造を示す断面図である。
【図5】本発明の実施形態に係る平面型燃料電池スタックの断面図である。
【図6】燃料電池用セパレータ材料を用いた単セルによる発電試験を行ったときの、時間に対する出力電圧を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態に係る燃料電池用セパレータ材料について説明する。なお、本発明において%とは、特に断らない限り、質量%を示すものとする。
又、本発明において「燃料電池用セパレータ」とは、電気伝導性を有し、各単セルを電気的に接続し、各単セルで発生したエネルギー(電気)を集電すると共に、各単セルへ供給する燃料ガス(燃料液体)や空気(酸素)の流路が形成されたものをいう。セパレータは、インターコネクタ、バイポーラプレート、集電体とも称される。
従って、詳しくは後述するが、燃料電池用セパレータとして、板状の基材表面に凹凸状の流路を設けたセパレータの他、上記したパッシブ型DMFC用セパレータのように板状の基材表面にガスやメタノールの流路孔が開口したセパレータを含む。
【0012】
<金属薄板>
燃料電池用セパレータ材料は耐食性と導電性が要求され、その基材(金属薄板)には耐食性が求められる。このため金属薄板には耐食性が良好で比較的低コストなステンレス鋼、より好ましくはオーステナイト系ステンレス鋼を用いることが好ましい。
オーステナイト系ステンレス鋼の種類は特に制限されないが、例えば、JISに規格するSUS304、SUS316L、SUS301を挙げることができる。
金属薄板の形状も特に制限されず、Auをめっきできる形状であればよいが、セパレータ形状にプレス成形することから板材であることが好ましく、特に厚みが0.05〜0.3mmの板材であることが好ましい。金属薄板の厚みが0.05mm未満の場合、成形後のセパレータの剛性が低く、燃料電池スタック組み立て時にセパレータの変形が起こりやすく、組み立て工数の増大やセパレータロスが大きくなる場合がある。一方、金属薄板の厚みが厚くなるとセパレータの剛性は向上するが、厚みが0.3mmを超えても必要とされるセパレータの剛性は飽和すると共にスタックの重量増につながる場合がある。
【0013】
又、Auめっき層を平滑に成膜する観点から、金属薄板の表面も平滑化,清浄化すべきであるするとよい。
金属薄板の表面を平滑化するために、例えばロール表面粗さをRa≦0.05μmにしたロール用いて仕上げ圧延をし、清浄化するために、仕上げ焼鈍は光輝焼鈍を施したすとよい。さらに、焼鈍炉内の送りロールは、通常はカーボンロールであるが、焼鈍時にカーボンロールから薄板へのカーボン付着が懸念されるためセラミックロールを用いるとよく、薄板の表面が酸化しないよう、炉内雰囲気は水素と窒素とし、その比率は例えば9:1としたするとよい
【0014】
<第1Auめっき層>
本発明においては、金属薄板の両面にAuめっき層が形成されている。そのうち、第1Auめっき層は厚み0.5〜4nmの均一な層である。
燃料電池用セパレータのうち、発電環境下に晒される面(空気極側、燃料極側)の腐食が激しく、この面に耐食性の金めっきを施している。しかしながら、燃料電池用セパレータにおいて、空気極及び燃料極側と反対面も徐々に腐食が進行することが判明した。この反対面には、例えば反応熱を低下させる冷却媒体(水道水等)が流れる。
そこで、本発明者らは、冷却媒体側のかかる緩やかな腐食を防止するのに必要な最も薄いAuめっき厚さを検討したところ、厚み0.5nm以上の均一な層とすればよいことを見出した。従って、第1Auめっき層の厚みは、耐食性の観点から0.5nm以上とし、コストの点から4nm以下とする。又、第1Auめっき層の厚みが4nmを超えても上記した緩やかな腐食を防止する効果が飽和する。
【0015】
又、第1Auめっき層の厚みが4nm以下と薄い場合、Auめっき層が点状や島状となって金属薄板の露出部分が多くなる。一般に金属薄板の露出部分が多いと、ステンレス鋼製の薄板からの溶出イオン量が多くなり、発電性能を低下させる問題がある。このようなことから、第1Auめっき層を均一に形成する必要がある。
第1Auめっき層、及び後述する第2Auめっき層の厚みは、電解法、蛍光X線膜厚計および断面のTEM(透過型電子顕微鏡)像で算出することができる。蛍光X線膜厚計としては、例えばエスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製のSEA5100を用いることができる。図1に本発明例1の第1Auめっき層の断面TEM像(倍率139000倍)を示す。
【0016】
ここで、本発明において、第1Auめっき層、及び後述する第2Auめっき層が「均一」であることは、TEM(透過型電子顕微鏡)によるめっき層の断面観察(100000倍以上、通常、139000倍)で判定することができる。具体的には、めっき層の断面のTEM像において、(素地である金属薄板の露出していない部分の面積)/(全測定面積)で表される金の被覆率が80%以上であれば、Auめっき層が「均一」であるとする。
図2のように金属薄板上の金の被覆状態(TEM像)を模式的に表した場合、金属薄板の露出している部分が領域B、Dであり、金属薄板の露出していない部分が領域A,C,Eである。従って、TEM像における領域A,C,Eの水平方向の合計長さ(A+C+E)を金属薄板の露出していない部分の面積とみなし、全測定領域の合計長さ(A+B+C+D+E)を全測定面積とみなし、{(A+C+E)/(A+B+C+D+E)}×100(%)によって金の被覆率を算出することができる。
【0017】
第1Auめっき層を均一に形成する方法としては、硫酸水素ナトリウムを伝導塩として含むpH1.0以下のAuめっき浴により電気めっきすることが挙げられる。この場合、Auめっき浴の組成としては、Au塩、硫酸水素ナトリウム、及び必要に応じてその他の添加剤を含むものを用いることができる。Au塩としては、シアン化金塩、非シアン系の金塩(塩化金等)等を用いることができ、Au塩の金濃度は1〜100g/L程度とすることができる。又、硫酸水素ナトリウムの濃度は、50〜100g/L程度とすることができる。
pH1.0以下の酸性Auめっき浴を用いると、金属薄板としてステンレス鋼を用いた場合に、表面のCr酸化皮膜が除去されやすく、Auめっき層の密着性が向上する。さらにめっきの際に水素が多量に発生してステンレス表面が活性化され、Auが付着しやすくなる。
また、酸性Auめっき浴を用い、ステンレス鋼等の金属薄板表面に直接(ダイレクトに)Auめっきすることが好ましい。従来からコネクタ材では基材にNi下地めっきを行った後、Auめっきを施しているが、発電環境下ではNiが腐食するため、Ni下地めっきなしに基材に直接Auめっきすることが望ましい。
【0018】
Auめっきの条件としては、電流密度が低いと金属薄板の凸部に電流が集中してめっき層が均一になり難く、又、めっき浴温が低いとめっき層が均一になり難い傾向にある。
又、めっき液中の金濃度は1〜4g/Lが好ましく、より好ましくは1.3〜1.7g/Lである。金濃度が1g/L未満であると、電流効率が低下してめっき層が均一になり難い傾向にある。
【0019】
又、省金化の観点から、燃料電池用セパレータ材料を燃料電池用セパレータに加工した際に電極との接触面となる部分等、導電性が必要となる部分のみに第1Auめっき層、及び後述する第2Auめっき層を施すことも可能である。
【0020】
<第2Auめっき層>
金属薄板のうち第1Auめっき層の形成面と反対側の面に第2Auめっき層が形成されている。第2Auめっき層は、第1Auめっき層より厚い均一な層である。
燃料電池用セパレータにおいて、空気極及び燃料極側の面は発電環境下に晒されるために腐食が激しく、第1Auめっき層より厚いAuめっきを施す必要がある。
第2Auめっき層の厚みは第1Auめっき層より厚くする必要があり、例えば5nm以上とすることができるが、耐食性の観点から7nm以上とすることが好ましい。一方、コストの点から第2Auめっき層の厚みを40nm以下とするのが好ましい。又、第2Auめっき層の厚みが40nmを超えても腐食を防止する効果が飽和する。
第2Auめっき層についても均一な層とすることで、Auめっき層が点状や島状となって金属薄板が露出するような部分を減少させ、特にステンレス鋼製の薄板からの溶出イオン量を低下させることができる。
【0021】
金属薄板の両面に第1Auめっき層及び第2Auめっき層を形成する方法は特に限定されないが、両面で異なる電流を流して(第1Auめっき層よりも第2Auめっき層の電流値が高い)湿式電気めっきすることが好ましい。
【0022】
<封孔処理>
Auめっき層が封孔処理されていることが好ましい。Auめっき層に被膜欠陥が存在しても、封孔処理によってこの欠陥を埋め、耐食性を維持することができる。Auめっきの封孔処理は各種の方法が知られているが、メルカプト系水溶液中でAuめっき層を電解処理するのが好ましい。メルカプト系水溶液は、メルカプト基含有化合物を水に溶解したものであり、メルカプト基含有化合物としては、例えば特開2004−265695号公報に記載されたメルカプトベンゾチアゾール誘導体が挙げられる。
【0023】
<燃料電池用セパレータ>
次に、本発明の燃料電池用セパレータ材料を用いた燃料電池用セパレータについて説明する。燃料電池用セパレータは、上記した燃料電池用セパレータ材料を所定形状に加工してなり、燃料ガス(水素)又は燃料液体(メタノール)、空気(酸素)、冷却水等を流すための反応ガス流路又は反応液体流路(溝や開口)が形成されている。
そして、上記した燃料電池用セパレータ材料のうち、第2Auめっき層側が空気極及び燃料極側に向いている。
【0024】
<積層型(アクティブ型)燃料電池用セパレータ>
図3は、積層型(アクティブ型)燃料電池の単セルの断面図を示す。なお、図3では後述するセパレータ10の外側にそれぞれ集電板140A,140Bが配置されているが、通常、この単セルを積層してスタックを構成した場合、スタックの両端にのみ一対の集電板が配置される。
そして、セパレータ10は電気伝導性を有し、後述するMEAに接して集電作用を有し、各単セルを電気的に接続する機能を有する。又、後述するように、セパレータ10には燃料ガスや空気(酸素)の流路となる溝が形成されている。
【0025】
図3において、固体高分子電解質膜20の両側にそれぞれアノード電極40とカソード電極60とが積層されて膜電極接合体(MEA;Membrane Electrode Assembly)80が構成されている。又、アノード電極40とカソード電極60の表面には、それぞれアノード側ガス拡散膜90A、カソード側ガス拡散膜90Bがそれぞれ積層されている。本発明において膜電極接合体という場合、ガス拡散膜90A、90Bを含んだ積層体としてもよい。
【0026】
MEA80の両側には、ガス拡散膜90A、90Bにそれぞれ対向するようにセパレータ10が配置され、セパレータ10がMEA80を挟持している。MEA80側のセパレータ10表面には流路10Lが形成され、後述するガスケット12、流路10L、及びガス拡散膜90A(又は90B)で囲まれた内部空間20内をガスが出入可能になっている。
そして、アノード電極40側の内部空間20には燃料ガス(水素等)が流れ、カソード電極60側の内部空間20に酸化性ガス(酸素、空気等)が流れることにより、電気化学反応が生じるようになっている。
【0027】
アノード電極40とガス拡散膜90Aの周縁の外側は、これらの積層厚みとほぼ同じ厚みの枠状のシール部材31で囲まれている。又、シール部材31とセパレータ10の周縁との間には、セパレータに接して略枠状のガスケット12が介装され、ガスケット12が流路10Lを囲むようになっている。さらに、セパレータ10の外面(MEA80側と反対側の面)にはセパレータ10に接して集電板140A(又は140B)が積層され、集電板140A(又は140B)とセパレータ10の周縁との間に略枠状のシール部材32が介装されている。
シール部材31及びガスケット12は、燃料ガス又は酸化ガスがセル外に漏れるのを防止するシールを形成する。又、単セルを複数積層してスタックにした場合、セパレータ10の外面と集電板140A(又は140B)との間の空間21には空間20と異なるガス(空間20に酸化性ガスが流れる場合、空間21には水素が流れる)が流れる。従って、シール部材32もセル外にガスが漏れるのを防止する部材として使われる。
【0028】
そして、MEA80(及びガス拡散膜90A、90B)、セパレータ10、ガスケット12、集電板140A、140Bを含んで燃料電池セルが構成され、複数の燃料電池セルを積層して燃料電池スタックが構成される。
【0029】
バイポーラ型セパレータの構造は、図3、図4に示すように、成形した2枚のセパレータ材料の接触部同士をレーザー溶接等により張り合わせ、一方に燃料ガス、他方には酸化性ガスを流し、張り合わせた中間部には冷却水を流す構造になっている。
【0030】
図3に示す積層型(アクティブ型)燃料電池は、上記した水素を燃料として用いる燃料電池のほか、メタノールを燃料として用いるDMFCにも適用することができる。
【0031】
<平面型(パッシブ型)燃料電池用セパレータ>
図5は、平面型(パッシブ型)燃料電池の単セルの断面図を示す。なお、図5ではセパレータ100の外側にそれぞれ集電板140が配置されているが、通常、この単セルを積層してスタックを構成した場合、スタックの両端にのみ一対の集電板が配置される。
なお,図5において、MEA80の構成は図3の燃料電池と同一であるので同一符号を付して説明を省略する(図5では、ガス拡散膜90A、90Bの記載を省略しているが、ガス拡散膜90A、90Bを有していてもよい)。
【0032】
図5において、セパレータ100は電気伝導性を有し、MEAに接して集電作用を有し、各単セルを電気的に接続する機能を有する。又、後述するように、セパレータ100には燃料液体や空気(酸素)の流路となる孔が形成されている。
セパレータ100は、断面がクランク形状になるよう、長尺平板状の基材の中央付近に段部100sを形成してなり、段部100sを介して上方に位置する上側片100bと、段部100sを介して下方に位置する下側片100aとを有する。段部100sはセパレータ100の長手方向に垂直な方向に延びている。
そして、複数のセパレータ100を長手方向に並べ、隣接するセパレータ100の下側片100aと上側片100bとの間に空間を形成させ、この空間にMEA80を介装する。2つのセパレータ100でMEA80が挟まれた構造体が単セル300となる。このようにして、複数のMEA80がセパレータ100を介して直列に接続されたスタックが構成される。
【0033】
図5に示す平面型(パッシブ型)燃料電池は、上記したメタノールを燃料として用いるDMFCのほか、水素を燃料として用いる燃料電池にも適用することができる。又、平面型(パッシブ型)燃料電池用セパレータの開口部の形状や個数は限定されず、開口部として上記した孔の他、スリットとしてもよく、セパレータ全体が網状であってもよい。
【0034】
<燃料電池用スタック>
本発明の燃料電池用スタックは、本発明の燃料電池用セパレータ材料を用いてなる。
燃料電池用スタックは、1対の電極で電解質を挟み込んだセルを複数個直列に接続したものであり、各セルの間に燃料電池用セパレータが介装されて燃料ガスや空気を遮断する。燃料ガス(H2)が接触する電極が燃料極(アノード)であり、空気(O2) が接触する電極が空気極(カソード)である。
燃料電池用スタックの構成例は、既に図3及び図5で説明した通りであるが、これに限定されない。
【実施例】
【0035】
<試料の作製>
表1、表2に示す各金属薄板を平滑化するためにロール表面粗さをRa=0.03μmにしたロールを用いて仕上げ圧延した後、清浄化するために光輝焼鈍を施して作製した。さらに焼鈍炉内の送りロールはセラミックロールを用い、炉内雰囲気は水素と窒素とし、その比率は9:1とした。
こうして作製した各金属薄板を市販の脱脂液パクナ105を用いて電解脱脂後、pH0.5の硫酸水溶液中で酸洗して前処理した。
次に、以下のAuめっき浴を用い、酸洗後の各金属薄板に直接Auめっきを行った。金属薄板の両面にそれぞれ対向して酸化イリジウム電極を配置し、各酸化イリジウム電極に異なる電流を流すことで、該金属薄板の両面に異なる電流が流れるようにした(第1Auめっき層よりも第2Auめっき層の電流値が高い)。そして、金属薄板のそれぞれの面に、表1、表2に示す厚みのAuめっき層を電気めっきした。このようにして、燃料電池用セパレータ材料を作製した。
Auめっき液(シアン系)の組成;シアン化金塩(金濃度:1.5g/L)、硫酸水素ナトリウム70g/L、pH0.9
【0036】
なお、表1の各燃料電池用セパレータ材料は、金属薄板の各面の全面にそれぞれAuめっき層を形成させた。一方、表2の各燃料電池用セパレータ材料は、金属薄板のうち発電時のアクティブエリアに相当する部分にのみAuめっき層を形成させた。従って、表2の各燃料電池用セパレータ材料の評価は、Auめっき層の形成されている部分を切出して行った。
以上のようにして作製した燃料電池用セパレータ材料表面の皮膜の均一性および耐食性を以下のように測定した。
<皮膜の均一性>
TEM(透過型電子顕微鏡)により試料の断面を観察して(139000倍)判定した。素地を被覆する金の被覆率が80%以上であればAuめっき層が「均一」であるとした。具体的には、試料の断面のTEM像において、金属薄板の露出していない部分の水平方向の合計長さL1を金属薄板の露出していない部分の面積とみなし、全測定領域の合計長さL2を全測定面積とみなし、(L1/L2)×100(%)によって金の被覆率を算出した。
【0037】
<第1Auめっき層側の耐食性>
固体高分子型燃料電池の発電時の冷却水側の腐食環境を想定して、以下の加速試験を行った。90℃、600mlのpH5に調整した10質量ppm塩素水溶液を用い、pHは硫酸で調整し、塩素濃度は塩化ナトリウムで調整した。40mm×50mmに切り出した各燃料電池用セパレータ材料を上記塩素水溶液に168時間浸漬した後引き上げた。その後、水溶液中のFe、Ni、CrイオンをICP分析にて定量し、金属溶出量を測定した。
<第2Auめっき層側の耐食性>
固体高分子型燃料電池の発電環境下の腐食環境を基に、以下の加速試験を行った。95℃、600mlのpH1硫酸水溶液に、40×50mmに切り出した各燃料電池用セパレータ材料を168時間浸漬した後、引き上げた。その後、水溶液中のFe、Ni、CrイオンをICP分析にて定量し、金属溶出量を測定した。
【0038】
<接触抵抗>
電気接点シミュレータ(山崎精機研究所製のCRS−1)を用い、電圧レンジ200mV、荷重10gf、測定モードを一定荷重、測定長さ1mmで各Auめっき層の接触抵抗分布を測定した。サンプリング数は600点で、その平均値を接触抵抗値として用いた。
【0039】
燃料電池用セパレータに求められる代表的な特性は、使用環境での耐食性(有害な金属イオンの溶出がない)である。具体的には、第1Auめっき層側の耐食性と第2Auめっき層側の耐食性は金属イオンの溶出が0.05mg/L以下であるこが望ましい。第1Auめっき層側の耐食性が0.05mg/Lを超えると、溶出した金属イオンによる冷却水への漏電(金属イオンの溶出に伴い冷却水の導電性が良くなることに起因して水中に電気が流れる)が生じ、又、第2Auめっき層側の耐食性が0.05mg/Lを超えると、溶出イオンが膜電極接合体に取り込まれることで、それぞれ発電性能を低下させる。
【0040】
<金属薄板の適正板厚>
表3に示すように、厚みを0.03〜0.3mmまで変化させたステンレス鋼製の金属薄板を用い、巾100mm、長さ500mmのセパレータ(溝形状;ピッチ2.5mm、深さ0.5mmのストレート溝)をプレス成形した。量産時の燃料電池連続組立ラインを想定して、成形したセパレータを1枚ずつ、手で掴んで右から左に1m移動させる作業を100枚分行うのに必要な時間と、その時に発生するセパレータの変形(折れ、曲がり)を目視で判定した。できる限り変形発生を抑えるため慎重に移動を行い、それでも不可避となった変形品の割合を算出した。
得られた結果を表1〜表3に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
【表2】

【0043】
【表3】

【0044】
表1、表2から明らかなように、金属薄板の片面(表面)に厚み0.5nm以上の均一な第1Auめっき層が形成され、金属薄板の他の面(裏面)に第1Auめっき層より厚い均一な第2Auめっき層が形成されている各本発明例の場合、金属溶出量が少なく耐食性に優れるものとなった。
又、各本発明例は表面に金の皮膜が存在するため、接触抵抗が顕著に小さい(50mΩ以下)。一般にバイポーラセパレータはレーザー溶接等で組み立てられ、溶接部は電気の通路となるが、本発明例のセパレータ材料は表面抵抗が小さいために電気がさらに通りやすくなり、燃料電池の性能向上につながる。
【0045】
一方、金属薄板の片面(表面)に第1Auめっき層を形成しなかった比較例1、3、4、6、8の場合、金属溶出量が増大して耐食性が劣化した。
又、金属薄板の片面(表面)の第1Auめっき層の厚みが0.5nm未満である比較例2、7,10の場合も、金属溶出量が増大して耐食性が劣化した。
第1Auめっき層を不均一に形成した比較例5、9、11の場合も、金属溶出量が増大して耐食性が劣化した。なお、比較例5、9、11は、特許文献4の実施例を参考にして作製した。
【0046】
さらに、表3より、板厚が0.05mm以上の金属薄板を用いた本発明例の場合、燃料電池の組立で発生するセパレータの変形品の割合は0となり、組立に要する作業時間の短時間化も達成できた。
【0047】
次に、本発明例8と比較例2の各セパレータ材料をセパレータに成形した後、図3に示す単セルをそれぞれ作製し、この単セルによる発電試験を行なった。試験条件、及び時間に対する出力電圧を図6に示す。本発明例8のセパレータ材料を用いたセルは1000hr安定して発電されたのに対し、比較例2のセパレータ材料を用いたセルは時間と共に出力電圧(発電性能)が劣化した。
【符号の説明】
【0048】
10、100 セパレータ
12、12B ガスケット
20 固体高分子電解質膜
40 アノード電極
60 カソード電極
80 膜電極接合体(MEA)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属薄板の一方の面に、厚み0.5〜4nmの第1Auめっき層が形成され、該金属薄板の他の面に前記第1Auめっき層より厚い均一な第2Auめっき層が形成され、
前記第1Auめっき層と前記第2Auめっき層の断面をそれぞれ透過電子顕微鏡で観察した場合の被覆率がいずれも80%以上である燃料電池用セパレータ材料。
【請求項2】
前記第1Auめっき層と前記第2Auめっき層とは、硫酸水素ナトリウムを伝導塩として含むpH1.0以下のAuめっき浴により電気めっきされている請求項1に記載の燃料電池用セパレータ材料。
【請求項3】
前記第2Auめっき層の厚みが7nm以上である請求項1又は2に記載の燃料電池用セパレータ材料。
【請求項4】
前記第1Auめっき層と前記第2Auめっき層とは、前記金属薄板の両面にそれぞれ対向する電極を用いて湿式めっきされ、該両面で異なる電流を流してめっきされている請求項1〜3のいずれかに記載の燃料電池用セパレータ材料。
【請求項5】
前記第1Auめっき層と前記第2Auめっき層とは、それぞれ前記金属薄板の表面の一部に形成されている請求項1〜4のいずれかに記載の燃料電池セパレータ材料。
【請求項6】
前記金属薄板がステンレス鋼からなる請求項1〜5のいずれかに記載の燃料電池用セパレータ材料。
【請求項7】
前記ステンレス鋼がオーステナイト系ステンレス鋼である請求項6に記載の燃料電池用セパレータ材料。
【請求項8】
前記金属薄板の厚さが0.05〜0.3mmである請求項1〜7のいずれかに記載の燃料電池用セパレータ材料。
【請求項9】
前記Auめっき層が封孔処理されている請求項1〜8のいずれかに記載の燃料電池用セパレータ材料。
【請求項10】
前記封孔処理は、メルカプト系水溶液中で前記Auめっき層を電解処理して行われる請求項9に記載の燃料電池用セパレータ材料。
【請求項11】
固体高分子形燃料電池に用いられる請求項1〜10のいずれかに記載の燃料電池用セパレータ材料。
【請求項12】
ダイレクトメタノール型固体高分子形燃料電池に用いられる請求項11記載の燃料電池用セパレータ材料。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかに記載のセパレータ材料を用い、前記第2Auめっき層側が空気極及び燃料極側に向いている燃料電池用セパレータ。
【請求項14】
請求項1〜12のいずれかに記載の燃料電池用セパレータ材料を用い、前記第2Auめっき層側が空気極及び燃料極側に向いている燃料電池スタック。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図1】
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【公開番号】特開2012−18864(P2012−18864A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−156523(P2010−156523)
【出願日】平成22年7月9日(2010.7.9)
【出願人】(502362758)JX日鉱日石金属株式会社 (482)
【出願人】(000003713)大同特殊鋼株式会社 (916)
【Fターム(参考)】