説明

燃料電池用セパレータ材料および燃料電池用導電性セパレータ

【課題】燃料電池用導電性セパレータを製造するために好適に用いられる燃料電池用セパレータ材料であって、燃料電池用導電性セパレータを製造する際の成形性等に優れ、導電性、強靱性、耐熱性に優れ、不純物の溶出や吸水も少ない燃料電池用導電性セパレータを得られる燃料電池用セパレータ材料を提供すること。
【解決手段】(A)粒子状のまたは短繊維状の導電性基材および(B)ガラスマトリックス形成用液状前駆体を必須成分として含有してなる燃料電池用セパレータ材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は燃料電池用導電性セパレータを製造するために好適に用いられる燃料電池用セパレータ材料およびこれを成形してなる燃料電池用導電性セパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
これまで、燃料電池用導電性セパレータとして、表面を各種攻撃イオンに耐えるように不動態化した金属板、導電性基材と樹脂組成物とからなる混合物を成形加工した成形品、ブロック状に成形した樹脂複合体からの切削加工品等が検討されている。
【0003】
例えば、導電性基材と樹脂組成物とからなる混合物を成形加工して成形品とするものとしては、一般に炭素質材料と熱硬化性樹脂とを均一混合また均一混練して成形材料を調製した後、金型により成形し1次成形体を得、この1次成形体を焼成するものが挙げられる(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
しかしながら、燃料電池用導電性セパレータとして、表面を不動態化した金属板を用いる場合、微細な傷等によって起こる突発的不良を防止しがたい。また、導電性基材と樹脂組成物とからなる混合物を成形加工するものは、炭素質材料等の導電性基材の充填率を目標の貫通抵抗率を得るレベルにまで高めることが容易でなく、バインダ樹脂を焼き飛ばすような不安定な加工法が必要となる。さらに、ブロック状に成形した樹脂複合体を切削加工するものは、作業時間がかかり製造費用が増大するという課題がある。
【0005】
現在、これらの問題を解決するために種々の試みがなされているが、未だ製造が容易でかつ各種特性に優れた燃料電池用導電性セパレータは完成されていない。
【特許文献1】特開2004−119325号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上述したような課題を解決するためになされたものであって、燃料電池用導電性セパレータを製造するために好適に用いられる燃料電池用セパレータ材料であって、燃料電池用導電性セパレータを製造する際の成形性等に優れ、導電性、強靱性、耐熱性に優れ、不純物の溶出や吸水も少ない燃料電池用導電性セパレータを得ることができる燃料電池用セパレータ材料を提供することを目的としている。
【0007】
また、本発明はこのような燃料電池用セパレータ材料を用いて製造され、導電性、強靱性、耐熱性に優れ、不純物の溶出や吸水も少ない燃料電池用導電性セパレータを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題の解決に向けて鋭意検討を進めた結果、燃料電池用セパレータ材料を黒鉛粉末等の粒子状のまたは短繊維状の導電性基材とガラスマトリックスを形成可能なガラスマトリックス形成用液状前駆体とを必須成分として含有してなるものとすることで、燃料電池用導電性セパレータを製造する際の成形性等に優れ、導電性、強靱性、耐熱性に優れ、不純物の溶出や吸水も少ない燃料電池用導電性セパレータとすることができることを見いだし、本発明を完成させたものである。
【0009】
すなわち、本発明の燃料電池用セパレータ材料は、(A)粒子状のまたは短繊維状の導電性基材および(B)ガラスマトリックス形成用液状前駆体を必須成分として含有してなることを特徴とするものである。
【0010】
前記(B)ガラスマトリックス形成用液状前駆体は、200℃以下の熱処理により無機ガラスを形成することが可能なものであることが好ましい。また、このような(B)ガラスマトリックス形成用液状前駆体は、シリコン・アルコキシドおよび揮発性の有機酸を含んでなる液体を加熱して得られた高粘性液体であることが好ましい。
【0011】
本発明の燃料電池用導電性セパレータは、燃料電池用セパレータ材料を成形してなる燃料電池用導電性セパレータであって、燃料電池用セパレータ材料として上述したような(A)粒子状のまたは短繊維状の導電性基材および(B)ガラスマトリックス形成用液状前駆体を必須成分として含有してなるものを用いたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、燃料電池用セパレータ材料を(A)粒子状のまたは短繊維状の導電性基材および(B)ガラスマトリックス形成用液状前駆体を必須成分として含有してなるものとすることで、燃料電池用導電性セパレータを製造する際の成形性等を向上させ、また導電性、強靱性、耐熱性に優れ、不純物の溶出や吸水も少ない燃料電池用導電性セパレータとすることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の燃料電池用セパレータ材料およびこれを成形してなる燃料電池用導電性セパレータについて説明する。まず、本発明の燃料電池用セパレータ材料に関して、各構成成分について説明し、次に燃料電池用セパレータ材料の調製方法について説明する。
【0014】
まず、本発明に用いる(A)粒子状のまたは短繊維状の導電性基材としては、炭素質材料が好ましく用いられる。炭素質材料としては特に限定されるものではないが、マトリックス母材となる(B)ガラスマトリックス形成用液状前駆体と混合あるいは混練して最終的に燃料電池用導電性セパレータとした場合に、その導電性が高くなるような物質および形状であることが好ましい。
【0015】
このような炭素質材料としては、例えば人造や天然の黒鉛粉末が挙げられる。人造の黒鉛には、石油系コークスと石炭系コークス由来の2種類がある。また、天然の黒鉛には、燐片状の黒鉛と土壌黒鉛がある。
【0016】
炭素質材料として黒鉛粉末を用いる場合には、平均粒子径が0.5μm以上100μm以下の範囲内のものを用いることが好ましく、平均粒子径が0.5μm以上25μm以下の範囲のものを用いればより好ましい。このような平均粒子径のものを用いることによって、燃料電池用導電性セパレータを製造する際の成形性等を向上させ、また燃料電池用導電性セパレータの導電性等を良好なものとすることができる。
【0017】
導電性基材として黒鉛粉末を用いる場合には、平均粒子径の異なる二種類以上の黒鉛粒子を用いることが好ましい。平均粒子径の異なる二種類以上の黒鉛粉末を用いる場合、各黒鉛粉末の平均粒子径は上述した平均粒子径の範囲内から選ばれることが好ましく、例えば平均粒子径が0.5μm以上25μm以下である黒鉛粉末と平均粒子径が25μmを超え100μm以下である黒鉛粉末とを少なくとも含むものが好ましく、さらには平均粒子径が0.5μm以上25μm以下である黒鉛粉末と平均粒子径が50μmを超え100μm以下である黒鉛粉末とを少なくとも含むものが好ましい。このような平均粒子径の異なる二種類以上の黒鉛粉末からなるものを用いることにより、燃料電池用導電性セパレータ中に黒鉛粉末を高い密度で充填することが可能となり、導電性等を良好なものとすることができる。
【0018】
炭素質材料としては黒鉛粉末以外のものを用いることもできる。すなわち、カーボン繊維、カーボンブラック、筒状や球状等のフラーレン等を用いることができる。また、炭素質材料としては、2種類以上の炭素質材料を併用することもできる。炭素質材料として繊維状のものを用いる場合は短繊維状のものが好ましく、例えば繊維径が2〜20μm、また繊維径に対する繊維長の比率であるアスペクト比が3〜300のものが好ましい。
【0019】
炭素質材料を併用する例としては、例えば黒鉛粉末とカーボン繊維とを併用する例が挙げられ、この場合、黒鉛粉末100重量部に対し、カーボン繊維が20重量部を超えないようにすることが好ましい。カーボン繊維の含有量が20重量部を超えると、燃料電池用セパレータ材料を調製する際の均一な混合あるいは混練が困難となり、燃料電池用導電性セパレータを製造する際の成形性等も低下し、また燃料電池用導電性セパレータの各種特性も低下するおそれがある。
【0020】
なお、上述したような炭素質材料には、マトリックス母材となる(B)ガラスマトリックス形成用液状前駆体との親和性を増すために、エポキシ系、シリコーン系、フッ素系、有機金属系等の公知のカップリング剤による処理が行われていてもよい。
【0021】
このような(A)粒子状のまたは短繊維状の導電性基材の燃料電池用セパレータ材料における含有量は、燃料電池用セパレータ材料全体の80重量%以上98重量%以下の範囲であることが好ましく、より好ましくは90重量%以上95重量%以下の範囲である。(A)粒子状のまたは短繊維状の導電性基材の含有量が80重量%未満では、燃料電池用導電性セパレータとした場合に十分な電気伝導性が得られず、98重量%を超えると燃料電池用導電性セパレータを製造する際に必要な塑性を発現させることが難しくなる。
【0022】
次に、本発明に用いる(B)ガラスマトリックス形成用液状前駆体について説明する。この(B)ガラスマトリックス形成用液状前駆体は熱処理により無機ガラスとなるものであって、(A)粒子状のまたは短繊維状の導電性基材と混合あるいは混練し、その後に熱処理することによって、(A)粒子状のまたは短繊維状の導電性基材どうしを結びつけて燃料電池用導電性セパレータとするものである。
【0023】
本発明では、(A)粒子状のまたは短繊維状の導電性基材どうしを結びつけて燃料電池用導電性セパレータとするものとして(B)ガラスマトリックス形成用液状前駆体を用いることで、燃料電池用導電性セパレータを導電性、強靱性、耐熱性に優れ、また不純物の溶出や吸水の少ないものとすることができ、特に従来の樹脂組成物を用いたものに比べ耐熱性に優れ、不純物の溶出や吸水の少ないものとすることができる。
【0024】
このような(B)ガラスマトリックス形成用液状前駆体は、例えば無機ガラスを形成する方法として良く知られたゾル・ゲル法を用いて調製することができる。すなわち、例えばシリコン・アルコキシド、加水分解に必要な水、および、触媒としての酸あるいはアルカリを添加することによって得られる溶液を室温〜80℃程度で攪拌し、加水分解および重合を起こさせゾルとした後、さらに反応を進めてゲルとすることにより調製する。ゲル化させることにより得られた(B)ガラスマトリックス形成用液状前駆体は、例えば600℃以上に加熱することにより無機ガラスとすることができるものである。
【0025】
ゾル・ゲル法に用いられるシリコン・アルコキシドとしては、オルトケイ酸エステルまたはそれを化学的に重合させたり修飾したりしたものが挙げられ、好ましくはオルトケイ酸エステルであり、さらに好ましくはSi(OR)(但し、Rは炭素数1〜4のアルキル基を示す。)で表されるオルトケイ酸エステルであり、具体的にはテトラメチルオルトシリケート、テトラエチルオルトシリケートが好ましく用いられる。また、触媒としての酸としては、例えば塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、その他の酸を用いることができる。
【0026】
また、このようなゾル・ゲル法に代えて、水を添加せずに(B)ガラスマトリックス形成用液状前駆体を調製する方法を用いてもよい(以下、非水型の調製方法と呼ぶ。)。このような非水型の調製方法としては、シリコン・アルコキシドおよび揮発性の有機酸を含む混合物を、例えば100〜160℃で20〜1000分間加熱して高粘性液体((B)ガラスマトリックス形成用液状前駆体)とする方法が挙げられる。
【0027】
このような非水型の調製方法により得られた高粘性液体は、例えば200℃以下といった比較的低温で固化させることにより無機ガラスを形成することが可能であり、燃料電池用導電性セパレータの製造性を向上させることが可能となる。
【0028】
このような非水型の調製方法に用いられるシリコン・アルコキシドとしては、オルトケイ酸エステルまたはそれを化学的に重合させたり修飾したりしたものが挙げられ、好ましくはオルトケイ酸エステルであり、さらに好ましくはSi(OR)(但し、Rは炭素数1〜4のアルキル基を示す。)で表されるオルトケイ酸エステルであり、具体的にはテトラメチルオルトシリケート、テトラエチルオルトシリケートが好ましく用いられる。
【0029】
非水型の調製方法に用いられる揮発性の有機酸は、シリコン・アルコキシドと混合、加熱したときに液体を与え、200℃以下で揮発するものであれば好ましく、例えば酢酸、無水酢酸、ギ酸等が挙げられ、好ましくは酢酸または無水酢酸である。揮発性の有機酸は、シリコン・アルコキシド100重量部に対して、20〜150重量部の範囲で用いることが好ましい。
【0030】
また、非水型の調製方法では、上述したようなシリコン・アルコキシドおよび揮発性の有機酸に加え、揮発性の非水有機溶媒を用いることが好ましい。すなわち、上述したようなシリコン・アルコキシドと揮発性の有機酸のみを混合、加熱しただけものでは、燃料電池用導電性セパレータを製造する際の熱処理等によりひび割れ等が発生するおそれがあるためである。
【0031】
このようなシリコン・アルコキシドおよび揮発性の有機酸と共に用いられる揮発性の非水有機溶媒としては、水を含まないものであって、シリコン・アルコキシドおよび揮発性の有機酸と均一に混合することができ、例えば200℃以下で揮発するものが好ましく、具体的にはヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン等が挙げられ、好ましくはヘキサン、シクロヘキサンである。このような揮発性の非水有機溶媒は、シリコン・アルコキシド100重量部に対して、100〜500重量部の範囲で用いることが好ましい。
【0032】
非水型の調製方法において揮発性の非水有機溶媒を用いる場合の具体的な調製方法としては、シリコン・アルコキシドと揮発性の有機酸とからなる混合物を、例えば100〜160℃、好ましくは120〜130℃で、例えば10〜180分、好ましくは40〜80分加熱して液体とした後、これに揮発性の非水有機溶媒を加え、例えば100〜160℃、好ましくは120〜130℃で、例えば10〜1000分、好ましくは200〜500分加熱して透明な高粘性液体((B)ガラスマトリックス形成用液状前駆体)とする調製方法が挙げられる。この場合、揮発性の非水有機溶媒の添加を数回に分けて、添加と加熱とを繰り返し行ってもよい。
【0033】
また、このようにシリコン・アルコキシドと揮発性の有機酸とからなる混合物を加熱した後に揮発性の非水有機溶媒を加えて熱処理する調製方法の他に、例えばシリコン・アルコキシド、揮発性の有機酸および揮発性の非水有機溶媒を混合して2時間〜10日間放置した後、必要に応じて濾過して得た液体を、例えば100〜160℃、好ましくは120〜130℃で、例えば20〜1000分、好ましくは100〜400分加熱して透明な高粘性液体((B)ガラスマトリックス形成用液状前駆体)とする調製方法を用いてもよい。
【0034】
これらの非水型の調製方法により得られた(B)ガラスマトリックス形成用液状前駆体は、例えば200℃以下といった比較的低温で固化させることにより無機ガラスとなるため、本発明では(B)ガラスマトリックス形成用液状前駆体としてこのような非水型の調製方法により得られたものを用いることにより、燃料電池用導電性セパレータの製造性に優れた燃料電池用セパレータ材料とすることが可能となる。
【0035】
以上、本発明の燃料電池用セパレータ材料を構成する必須成分である(A)粒子状のまたは短繊維状の導電性基材および(B)ガラスマトリックス形成用液状前駆体について説明したが、本発明の燃料電池用セパレータ材料においては、本発明の趣旨に反しない限度において、また必要に応じて、この種の材料に一般に添加される添加剤、例えば接着助剤、離型材、靭性付与剤、耐熱性付与剤、導電助剤、可塑剤、溶剤等を添加してもよい。
【0036】
次に、(A)粒子状のまたは短繊維状の導電性基材と(B)ガラスマトリックス形成用液状前駆体とを必須成分としてなる本発明の燃料電池用セパレータ材料の調製方法について述べる。なお、本発明の燃料電池用セパレータ材料の調製は以下の調製方法に限定されるものではない。
【0037】
まず、(A)粒子状のまたは短繊維状の導電性基材および(B)ガラスマトリックス形成用液状前駆体を必須成分として配合し、必要に応じて上述したような各種の添加剤を添加して配合物とする。次に、この配合物を、ボールミル、万能混合機、多軸ロール機、単軸もしくは二軸の混練押出機等を用いて均一に混合あるいは混練等を行う。この混練等は、配合物の性状に合わせて、適宜、冷却あるいは加熱しながら行うことが好ましい。
【0038】
このようにして混練等を行うことにより得られる燃料電池用セパレータ材料は固形状、ペースト状、液状等であり、その性状は特に限定されるものではない。また、可塑剤あるいは溶剤を配合した場合、適当な段階で、加熱あるいは減圧、または、減圧加熱により除去しておくことが好ましい。
【0039】
このようにして得られた燃料電池用セパレータ材料は、例えばセパレータ形状に成形した後、熱処理を行って燃料電池用導電性セパレータとしてもよいし、セパレータ形状への成形と同時に熱処理を行って燃料電池用導電性セパレータとしてもよい。
【0040】
このような成形は、燃料電池用セパレータ材料の性状、すなわち固形状、ペースト状または液状等の性状に合わせて、適宜、成形方法等を選択して用いることが好ましい。成形方法としては、例えば圧縮成形、移送成形、射出成形等を用いることができる。本発明では、燃料電池用セパレータ材料をペースト状とし、これを圧縮成形することにより燃料電池用導電性セパレータとすることが好ましい。
【0041】
このような燃料電池用導電性セパレータを製造する際にはカーボンクロスを組み込んでもよく、この場合、例えばカーボンクロスに液状の燃料電池用セパレータ材料を含浸させた後に熱処理することにより、または、カーボンクロスと固形状あるいはペースト状の燃料電池用セパレータ材料とを一体的に成形した後に熱処理することにより、カーボンクロスが組み込まれた燃料電池用導電性セパレータとすることができる。
【0042】
燃料電池用セパレータ材料を燃料電池用導電性セパレータへとする際の熱処理は、燃料電池用セパレータ材料中の(B)ガラスマトリックス形成用液状前駆体の調製方法、すなわちゾル・ゲル法により調製されたものか、あるいは、水を添加せずに調製されたものか(非水型の調製方法)によって、適宜、熱処理温度を調整することが好ましい。
【0043】
(B)ガラスマトリックス形成用液状前駆体がゾル・ゲル法により調製されたものである場合には、熱処理温度を600〜900℃とすることが好ましく、また非水型の調製方法により調製されたものである場合には、例えば熱処理温度を200℃以下、好ましくは100〜195℃、さらに好ましくは130〜190℃とし、熱処理時間を数時間〜数日間とすることが好ましい。
【0044】
本発明では、燃料電池用セパレータ材料を熱処理して燃料電池用導電性セパレータとする際の熱処理温度を低くすることができ、製造性に優れたものとすることができることから、特に(B)ガラスマトリックス形成用液状前駆体として非水型の調製方法により得られる高粘性液体、すなわちシリコン・アルコキシドおよび揮発性の有機酸を含んでなる液体を加熱して得られる高粘性液体を用いることが好ましい。
【実施例】
【0045】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明する。
【0046】
(実施例1)
還流冷却機付きのガラス製の加熱合成容器に液状のテトラエトキシシラン(多摩化学工業株式会社製)80重量部を投入後、特級の酢酸(和光純薬工業株式会社製)100重量部を緩やかに滴下投入し、125℃で1時間、強制攪拌下に加熱、化学反応を進めた。
【0047】
次に、反応物を加熱合成容器中で常温まで急冷した後、ヘキサン100重量部を滴下投入し、125℃で1時間の加熱を行い、終段でヘキサンを加熱減圧蒸留により除去した。さらに、反応を完結させるため、再度、反応物を加熱合成容器内で常温に冷却した後、ヘキサン100重量部を滴下投入し、125℃で1時間の加熱を行い、終段でヘキサンを加熱減圧蒸留により除去した。その後、液状残留物をろ過することにより無色透明のガラスマトリックス形成用液状前駆体Xを得た。
【0048】
次に、5℃の低温環境に設置したアルミナ製ボールミルに、ガラスマトリックス形成用液状前駆体X8重量部、平均粒径5μmの人造黒鉛90重量部、シリコーン界面活性剤2重量を加え、1時間攪拌し、ペースト状の燃料電池用セパレータ材料を得た。
【0049】
(実施例2)
還流冷却機付きのガラス製の加熱合成容器に液状のテトラメトキシシラン(多摩化学工業株式会社製)80重量部を投入後、特級の酢酸(和光純薬工業株式会社製)100重量部を緩やかに滴下投入し、125℃で1時間、強制攪拌下に加熱、化学反応を進めた。
【0050】
次に、反応物を加熱合成容器中で常温まで急冷した後、ヘキサン100重量部を滴下投入し、125℃で1時間の加熱を行い、終段でヘキサンを加熱減圧蒸留により除去した。さらに、反応を完結させるため、再度、反応物を加熱合成容器内で常温に冷却した後、ヘキサン100重量部を滴下投入し、125℃で1時間の加熱を行い、終段でヘキサンを加熱減圧蒸留により除去した。その後、液状残留物をろ過することにより無色透明のガラスマトリックス形成用液状前駆体Yを得た。
【0051】
次に、5℃の低温環境に設置したアルミナ製ボールミルに、ガラスマトリックス形成用液状前駆体Y8重量部、平均粒径5μmの人造黒鉛90重量部、シリコーン界面活性剤2重量を加え、1時間攪拌し、ペースト状の燃料電池用セパレータ材料を得た。
【0052】
(実施例3)
還流冷却機付きのガラス製の加熱合成容器に液状のテトラメトキシシラン(多摩化学工業株式会社製)80重量部を投入後、特級の酢酸(和光純薬工業株式会社製)100重量部を緩やかに滴下投入し、125℃で1時間、強制攪拌下に加熱、化学反応を進めた。
【0053】
次に、反応物を加熱合成容器中で常温まで急冷した後、ヘキサン100重量部を滴下投入し、125℃で1時間の加熱を行い、終段でヘキサンを加熱減圧蒸留により除去した。さらに、反応を完結させるため、再度、反応物を加熱合成容器内で常温に冷却した後、ヘキサン100重量部を滴下投入し、125℃で1時間の加熱を行い、終段でヘキサンを加熱減圧蒸留により除去した。その後、液状残留物をろ過することにより無色透明のガラスマトリックス形成用液状前駆体Yを得た。
【0054】
次に、5℃の低温環境に設置したアルミナ製ボールミルに、ガラスマトリックス形成用液状前駆体Y5重量部、平均粒径5μmの人造黒鉛93重量部、シリコーン界面活性剤2重量を加え、1時間攪拌し、ペースト状の燃料電池用セパレータ材料を得た。
【0055】
(実施例4)
還流冷却機付きのガラス製の加熱合成容器に液状のテトラエトキシシラン(多摩化学工業株式会社製)80重量部を投入後、特級の酢酸(和光純薬工業株式会社製)100重量部を緩やかに滴下投入し、125℃で1時間、強制攪拌下に加熱、化学反応を進めた。
【0056】
次に、反応物を加熱合成容器中で常温まで急冷した後、ヘキサン100重量部を滴下投入し、125℃で1時間の加熱を行い、終段でヘキサンを加熱減圧蒸留により除去した。さらに、反応を完結させるため、再度、反応物を加熱合成容器内で常温に冷却した後、ヘキサン100重量部を滴下投入し、125℃で1時間の加熱を行い、終段でヘキサンを加熱減圧蒸留により除去した。その後、液状残留物をろ過することにより無色透明のガラスマトリックス形成用液状前駆体Xを得た。
【0057】
次に、5℃の低温環境に設置したアルミナ製ボールミルに、ガラスマトリックス形成用液状前駆体X16重量部、平均粒径5μmの人造黒鉛85重量部、フッ素系界面活性剤1重量部を加え、1時間攪拌し、ペースト状の燃料電池用セパレータ材料を得た。
【0058】
なお、実施例1〜4におけるガラスマトリックス形成用液状前駆体X、Yの調製は、いずれも非水型の調製方法によるものである。また、ガラスマトリックス形成用液状前駆体X、Yの赤外分光スペクトルの測定結果およびガラスマトリックス形成用液状前駆体X、Yの熱処理後のEDX分析から、ガラスマトリックス形成用液状前駆体X、Yはいずれも無機ガラスを形成することが可能であることを確認した。
【0059】
(比較例1)
平均粒径5μmの人造黒鉛85重量部、ノボラックエポキシ樹脂9重量部、フェノール樹脂4.5重量部、アミン系触媒0.5重量部、エポキシカップリング剤0.5重量部、離型剤0.5重量部を二軸ロール機で加熱混練し、冷却、粉砕して、固形のエポキシ樹脂成形材料(燃料電池用セパレータ材料)とした。
【0060】
(比較例2)
平均粒径5μmの人造黒鉛93重量部、ビフェニルエポキシ樹脂4重量部、フェノール樹脂2.4重量部、アミン系触媒0.1重量部、エポキシカップリング剤0.2重量部、離型剤0.3重量部を二軸ロール機で加熱混練し、冷却、粉砕して、固形のエポキシ樹脂成形材料(燃料電池用セパレータ材料)とした。
【0061】
(比較例3)
平均粒径5μmの人造黒鉛85重量部、ノボラックフェノール樹脂11.5重量部、フェノール樹脂4.5重量部、ヘキサメチレンジアミン2.5重量部、エポキシカップリング剤0.5重量部、離型剤0.5重量部を二軸ロール機で加熱混練し、冷却、粉砕して、固形のエポキシ樹脂成形材料(燃料電池用セパレータ材料)とした。
【0062】
実施例1〜4の燃料電池用セパレータ材料の組成を表1に、比較例1〜3の燃料電池用セパレータ材料の組成を表2にそれぞれ示す。
【0063】
【表1】

【0064】
【表2】

【0065】
次に、実施例1〜4および比較例1〜3の燃料電池用セパレータ材料をモデル金型を用いて圧縮成形することにより燃料電池用導電性セパレータ試験片を製造し、その際の成形性を調べると共に、製造された燃料電池用導電性セパレータ試験片の導電性、不純物特性、強靱性、耐熱性、吸水性を評価した。結果を表3、4に示す。なお、各特性の評価は表5に示す通りとした。
【0066】
【表3】

【0067】
【表4】

【0068】
【表5】

【0069】
表3、4から明らかなように、ガラスマトリックス形成用液状前駆体を必須成分として用いた実施例1〜4の燃料電池用セパレータ材料は成形性に優れ、燃料電池用導電性セパレータとした場合に導電性、強靱性および耐熱性に優れ、また不純物の溶出や吸水も少ないものとできることが認められた。これに対して、比較例1〜3の従来の燃料電池用セパレータ材料は成形性は優れるものの、実施例1〜4の燃料電池用セパレータ材料に比較して、燃料電池用導電性セパレータとした場合に不純物の溶出が多く、耐熱性も低く、また吸水も多くなることが認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)粒子状のまたは短繊維状の導電性基材および(B)ガラスマトリックス形成用液状前駆体を必須成分として含有してなることを特徴とする燃料電池用セパレータ材料。
【請求項2】
前記(B)ガラスマトリックス形成用液状前駆体は、200℃以下の熱処理により無機ガラスを形成することが可能なものであることを特徴とする請求項1記載の燃料電池用セパレータ材料。
【請求項3】
前記(B)ガラスマトリックス形成用液状前駆体は、シリコン・アルコキシドおよび揮発性の有機酸を含んでなる液体を加熱して得られる高粘性液体であることを特徴とする請求項1または2記載の燃料電池用セパレータ材料。
【請求項4】
燃料電池用セパレータ材料を成形してなる燃料電池用導電性セパレータであって、前記燃料電池用セパレータ材料として請求項1乃至3のいずれか1項記載の燃料電池用セパレータ材料を用いたことを特徴とする燃料電池用導電性セパレータ。