説明

燃料電池用セパレータ

【課題】機械切削や鋳造といった加工手間のかかる手段を用いずに、大量生産に適した製造し易い燃料電池用セパレータを提供すること。
【解決手段】燃料電池用セパレータは、内側プレート11と、それを挟み込む2枚の外側プレートとを積層して構成され、これらのプレートが相互に接合されて冷媒の中空流路を形成する。内側プレート11は、打ち抜かれた環状の外枠部12と、平面内の冷媒流路23を規定する流路規定部19,20と、接続部24,25とから構成される。その流路規定部19,20は、接続部24,25により一体的に接合され、外枠部12に接合され固定される。内側プレートの接続部24,25を平面内において互いに異なる位置に配置することで、冷媒流路23が確保される。上記構成により、プレートの打ち抜きや接合といった手段により製造し易いセパレータが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に用いられるセパレータに係り、詳しくは、積層される複数のプレートにより冷媒流路が形成される燃料電池用セパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池においては、燃料ガスと酸化ガスを電気化学的に反応させて起電させるため反応熱が生じる。そこで、燃料電池を構成するセパレータに冷媒流路を設けて冷媒を流し、電極反応による温度を所望の温度を超えないようにされている。従って、セパレータには電極反応熱を冷却するための熱伝導性が要求される。
【0003】
また、セパレータには、燃料電池に供給される燃料ガスと酸化ガスとを分離するためのシール機能のほかに、電極反応で生じた電気を集電する電導性、腐食によるイオン発生を防ぐ耐食性などの諸機能が要求される。
【0004】
また、燃料電池を構成するセパレータには、上記諸機能に加えて、同一製品の大量生産を可能とする生産性が要求される。これは、燃料電池が、電圧を上げるためにセルを大量に積層してスタックを構成することによる。このセパレータの生産性を左右する要因のひとつに、冷媒流路を形成するプレートの製造のし易さ、つまり加工性が挙げられる。
【0005】
例えば、特許文献1には、冷却水用孔を穿設した集電ホルダおよび集電端子が開示され、特許文献2には、セパレータの冷却液通路を形成するためのリブが開示されている。
【0006】
特許文献1に開示されている冷却液通路形成側のセパレータ第1面を表す正面図を図5に示す。ここで、セパレータ100の冷却液通路101は、冷却液供給口102と連通する導入部103、冷却液排出口104と連通する導出部105、導入部103と導出部105とをつなぐ中間部106を有している。中間部106にはその全長にわたって2本の第1リブ107が形成されている。導入部103及び導出部105には第1リブ107と独立した第2リブ108が形成されている。この導入部103は、図6に図示するような断面を有している。この対を成す2枚のセパレータ100を、互いの冷却液通路101を向かい合わせることで閉鎖された冷却液通路が構成される。
【0007】
【特許文献1】特開平6−168728号公報
【特許文献2】特開2001−110434号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の冷却水用孔は、一般に深い細径の穴であり、一枚板の断面内に機械切削により孔明けをして製造するか、精密鋳造により一体として製造しなければならない。燃料電池のセパレータは、ミリ単位の肉厚であり、その断面内にさらに微小な孔を精度よく明けるには製造手間がかかり、生産性の高い製法とはいえない。また、この冷却水用孔は一方向に限定され、流路をカーブ状やクランプ状にできないことから、冷却水の流れ方向の自由度は低い。
【0009】
また、特許文献2の冷却液通路は、リブの配置が一方向に限定されず、冷却液の流れ方向の自由度は高い。しかし、これらのリブは、機械切削又は精密鋳造により成形しなければならず、生産性の高い製法とはいえない。さらに、セパレータを構成する対を成す2枚のプレートは、それぞれ同一の機能を発揮しなければならないことから、素材の材質及びプレートの肉厚を相互に変えることは困難である。
【0010】
特許文献2の冷却液通路のように、セパレータを厚さ方向に複数枚に分割することで、冷媒流路は加工し易くなるが、流路を機械切削や精密鋳造による限り加工手間がかかり、大量生産に適した製造し易い製法とはいえない。
【0011】
本願の目的は、かかる課題を解決し、機械切削や精密鋳造といった加工手間のかかる手段を用いずに、大量生産に適した製造し易い燃料電池用セパレータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明に係る燃料電池用セパレータは、冷媒流路を有する燃料電池用セパレータであって、環状の導電性部材からなる外枠部と、外枠の内部に配置され、外枠部の肉厚以下の肉厚を有する流路規定部と、流路規定部と外枠部を連結し、外枠部の肉厚以下の肉厚を有する接続部とを含んで構成される内側プレートと、導電性部材からなり、内側プレートを挟んで積層される複数の外側プレートとを備えることを特徴とする。
【0013】
また、燃料電池用セパレータは、内側プレートを複数積層して構成され、内側プレートは、それぞれ外枠部と、流路規定部と、接続部との肉厚が略等しいことが好ましい。
【0014】
また、燃料電池用セパレータは、内側プレートのうち少なくとも2つにおける接続部が、平面内において互いに異なる位置に配置されていることが好ましい。
【0015】
また、燃料電池用セパレータは、内側プレートは、流路規定部と、接続部との肉厚が異なることが好ましい。
【0016】
また、燃料電池用セパレータは、内側プレートと外側プレートの肉厚が略等しいことが好ましい。
【0017】
また、燃料電池用セパレータは、内側プレートの外枠部、流路規定部、接続部及び外側プレートのうち少なくとも2つの材質が異なることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
上記構成により、アノード側の外側プレートと、冷媒流路を形成する内側プレートと、カソード側の外側プレートとを接合することで燃料電池用セパレータが構成される。内側プレートは、板の平板面を打ち抜いた環状の外枠部と、その打ち抜かれた内部に複数の冷媒流路に挟まれる流路規定部と、この流路規定部を固定するための接続部とを備え、それらを接合することで、冷媒について複数の中空流路を有するセパレータの製造が可能となる。すなわち、機械加工や鋳造といった製造手間のかかる手段を用いずに、製造し易い冷媒流路を有するセパレータが可能となる。
【0019】
また、複数の内側プレートを積層する場合には、平面内において接続部が互いに重複して冷媒流路を塞がないように、内側プレートの接続部が、他の内側プレートの接続部と平面的に相互に位置をずらすことで、冷媒流路を塞ぐことなく冷媒の流れの自由度が高いセパレータが可能となる。
【0020】
また、内側プレートを1枚として部品点数を減らし、上記構成と同様に、流路規定部を配置し、流路規定部と外枠部とを連結する接続部が冷媒流路を塞がないような肉厚とすることにより、製造し易いセパレータが可能となる。
【0021】
また、上記構成によるセパレータの外側プレートと内側プレートの肉厚を略等しくすることで、セパレータを構成する各プレートを同一の肉厚の素材から加工でき、セパレータの低コスト化が可能となる。
【0022】
さらに、上記構成によるセパレータの内側プレートの外枠部、流路規定部、接続部及び外側プレートの素材の材質を、それぞれに要求される機能に応じて選択することで、セパレータの低コスト化が可能となる。
【0023】
以上のように、本発明に係る燃料電池用セパレータによれば、積層された複数のプレート相互の接合と、内側プレート内部の打ち抜きと、流路規定部と内側プレートとを連結する橋状の部分の接合とによりセパレータの製造が可能となり、機械切削や鋳造といった製造手間のかかる手段を用いずに製造しやすいセパレータが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下に、図面を用いて本発明に係る実施の形態につき、詳細に説明する。
【0025】
図1に本発明に係る燃料電池の概略構成を示す。燃料電池1は、高分子電解質膜4と、高分子電解質膜を挟む2つの電極(アノード電極5及びカソード電極6)とで形成されるMEA(電極・膜接合体)2が、セパレータ3を挟んで複数積層され構成される。燃料ガス流路7及び酸化ガス流路8は、共に拡散層側に設けることで通気性を上げ、これにより、セパレータ3のMEA側は溝のないフラットな平面となる。
【0026】
セパレータ3は、積層された複数のプレートを接合したものであり、本実施形態では、アノード側の外側プレート9、カソード側の外側プレート10、及び2枚の内側プレート11から構成される。内側プレート11により平面内の冷媒流路が規定され、内側プレート11を挟み込む外側プレート9,10により冷媒流路がセパレータ内に中空流路として構成される。図1に示す内側プレート11において、後述する流路23以外の部分を斜線で示す。
【0027】
図2に内側プレート11の平面図の概略を示す。内側プレート11は、プレートの内部の冷媒流路23を構成する部分が、例えばパンチングにより環状に打ち抜かれ、環状の外枠部12となる。また、外枠部12は、燃料ガス供給口15、酸化ガス供給口16、燃料ガス排出口18、酸化ガス排出口17も、例えばパンチングにより打ち抜かれる。内側プレート11の冷媒循環用流路は、冷媒供給口13及び冷媒排出口14と連通する外枠の内部の打ち抜かれた部分に設けられる。
【0028】
外枠の内部の冷媒循環用流路は、冷媒供給口13と連通する導入部21、冷媒排出口と連通する導出部22、及び導入部21と導出部22とをつなぐ複数の中間流路23により構成される。この中間流路23は、本実施形態では、L字形及びI字形をした流路規定部19及び20により複数の流路に分割される。流路規定部19,20の形状は、L字形及びI字形に限らず所望の流路を規定する形状であれば他の形状であってもよい。また、流路規定部19,20の数量もこれに限られない。この冷媒流路は、各流路の圧力損失を考慮して設計され、それに従って流路規定部19,20の形状や数量が選択される。さらに、セパレータ3を構成するプレートの剛性や強度を補強するために別途流路規定部を追加しても良い。
【0029】
流路規定部19、20は、内側プレート11の外枠部12を残して打ち抜かれた部分に配置されるため、そのままでは位置が固定されない。そこで、外枠部12と流路規定部19,20とを接続部24、25により連結する。これにより、複数の流路規定部19、20が、接続部24、25により一体として連結された上で、外枠部12に接続され位置が固定される。図2において、実線で示した接続部24は一方の内側プレート11での位置であり、破線で示した接続部25は他方の内側プレート11での位置である。
【0030】
図3に2枚の内側プレート11の接続部24と25の位置関係を斜視図で示す。接続部24と25は、平面内において重複しないようにずらした位置に配置される。これは、外枠部12と、流路規定部19,20と、接続部24,25との肉厚が略等しいため、2枚の内側プレート11の接続部24と25が重なった位置に配置されると冷媒流路23が塞がれてしまうからである。図3に示すように冷媒は、ずらして配置された接続部24と25により図中の矢印のように流れる。接続部24又は25の肉厚が、流路規定部19,20に比べて冷媒流路23を確保可能な程度に薄い場合には、接続部24と25を重複した位置へ配置してもよい。
【0031】
図4に本実施形態における、アノード側の外側プレート9、カソード側の外側プレート10、及び2枚の内側プレート11が積層されたセパレータ3の概略構成を分解斜視図で示す。外側プレート9,10は、拡散層側に酸化ガス及び燃料ガスの供給や排出用の溝を設けたため、溝のないフラットな平板となる。外側プレート9,10には、燃料電池の各ユニットに燃料ガス、酸化ガス、冷媒の供給口や排出口13〜18が設けられる。上述したように、接続部24及び25は、平面内において重複しないようにずらして配置される。
【0032】
本実施形態では、流路規定部19,20及び接続部24,25は、個別の部品として製造され、相互に接合されて一体として組み立てられた後、外枠部12に接合され内側プレート11が完成する。従って、接続部24,25は、一体となった複数の流路規定部19,20が、捩れたり大きく撓んだりしないような位置に取り付けられる。さらに、完成した内側プレート11は、2枚の外側プレート9及び10に挟まれた状態でプレート同士が接合され、セパレータ3が完成する。これらの部品やプレート同士の接合は、例えば、接合する部品を加圧又は加熱すると接触部分で相互拡散が生じ接合が可能となる拡散接合法、又は通常の金属の溶接法による。
【0033】
外側プレート9,10及び内側プレート11は、同じ材質で略等しい肉厚の材料としても良い。これにより材料費を低減することが可能となる。
【0034】
外側プレート9,10及び内側プレート11のうちの少なくとも外枠部12は、例えば、ステンレスやチタンといった導電性部材からなる。外側プレート9,10及び内側プレート11の材質は、それぞれに要求される機能に応じて選択可能である。例えば、MEAに接することから高耐食性が要求される外側プレート9,10はチタンや耐食性の高いステンレス鋼を用い、一方、内側プレート11には、通常のステンレス鋼を用いることが可能である。これにより、セパレータ3が1枚あるいは2枚である場合と比較して、材料費の低減が可能となる。
【0035】
他の実施形態として、内側プレートを1枚としても良い。この場合には、冷媒が流れるために、接続部24(又は25)の肉厚を流路規定部19,20に比べて冷媒流路が確保可能な程度に薄くしなければならない。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明に係る燃料電池の概略構成を示す図である。
【図2】セパレータを構成する内側プレートの概略平面図である。
【図3】内側プレートが2枚の場合に、平面上の位置をずらした接続部及び冷媒の流れを示す概略図である。
【図4】積層されたセパレータの概略構成を示す分解斜視図である。
【図5】従来のセパレータに設けられた冷却液通路を示す概略図である。
【図6】図5の断面図である。
【符号の説明】
【0037】
1 燃料電池、2 MEA(電極・膜接合体)、3 セパレータ、4 高分子電解質膜、5 アノード電極、6 カソード電極、7 燃料ガス流路、8 酸化ガス流路、9 アノード側の外側プレート、10 カソード側の外側プレート、11 内側プレート、12 外枠部、13 冷媒供給口、14 冷媒排出口、15 燃料ガス供給口、16 酸化ガス供給口、17 酸化ガス排出口、18 燃料ガス排出口、19,20 流路規定部、21 導入部、22 導出部、23 中間流路、24,25 接続部、100 セパレータ、101 冷却液通路、102 冷却液供給口、103 導入部、104 冷却液排出口、105 導出部、106 中間部、107 第1リブ、108 第2リブ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒流路を有する燃料電池用セパレータであって、
環状の導電性部材からなる外枠部と、
外枠の内部に配置され、外枠部の肉厚以下の肉厚を有する流路規定部と、
流路規定部と外枠部を連結し、外枠部の肉厚以下の肉厚を有する接続部と、
を含んで構成される内側プレートと、
導電性部材からなり、内側プレートを挟んで積層される複数の外側プレートと、
を備えることを特徴とする燃料電池用セパレータ。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池用セパレータにおいて、
内側プレートを複数積層して構成され、
内側プレートは、それぞれ外枠部と、流路規定部と、接続部との肉厚が略等しいことを特徴とする燃料電池用セパレータ。
【請求項3】
請求項2に記載の燃料電池用セパレータにおいて、
内側プレートのうち少なくとも2つにおける接続部は、平面内において互いに異なる位置に配置されていることを特徴とする燃料電池用セパレータ。
【請求項4】
請求項1に記載の燃料電池用セパレータにおいて、
内側プレートは、流路規定部と、接続部との肉厚が異なることを特徴とする燃料電池用セパレータ。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1に記載の燃料電池用セパレータにおいて、
内側プレートと外側プレートの肉厚が略等しいことを特徴とする燃料電池用セパレータ。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1に記載の燃料電池用セパレータにおいて、
内側プレートの外枠部、流路規定部、接続部及び外側プレートのうち少なくとも2つの材質が異なることを特徴とする燃料電池用セパレータ。




















【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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