説明

燃料電池用ポリエステルフィルム

【課題】カルボジイミド化合物により芳香族ポリエステルの末端が封止された組成物よりなり、イソシアネート化合物を遊離させず、耐加水分解性、および長期補強性能保持性に優れた燃料電池用ポリエステルフィルムを提供すること。
【解決手段】カルボジイミド基を1個有しその第一窒素と第二窒素とが結合基により結合されている環状構造を少なくとも含む化合物と、芳香族ポリエステルとを混合した組成物よりなり、縦方向および横方向のヤング率が3000MPa以上である燃料電池用ポリエステルフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボジイミド化合物によって芳香族ポリエステルのカルボキシル基末端が封止された組成物からなる、燃料電池用ポリエステルフィルムに関する。また本発明は、固体高分子電解質型燃料電池における固体高分子電解質膜の補強部材用として適した燃料電池用ポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題の観点から燃料電池の開発が積極的に行われている。かかる燃料電池としては、使用される電解質の種類により、固体高分子電解質型、りん酸型、溶融炭酸塩型、固体酸化物型などが知られている。これらの中でも、固体高分子電解質型燃料電池は、反応温度が比較的低い点が注目されている。
【0003】
固体高分子電解質型燃料電池は、分子中にプロトン(水素イオン)交換基を有する高分子樹脂膜を飽和状態にまで含水させた場合に、プロトン導電性電解質として機能することを利用した燃料電池である。固体高分子電解質型燃料電池は、高分子イオン交換膜(陽イオン交換膜)を含む高分子電解質膜と、この高分子電解質膜の両側にそれぞれ配置されるアノード側電極およびカソード側電極とを有した燃料電池構造体(燃料電池セル)を、セパレータによって挟持することにより構成されている。アノード側電極に供給された燃料ガス、例えば水素は、触媒電極上で水素イオン化され、適度に加湿された高分子電解質膜を介してカソード側電極側へと移動する。その間に生じた電子が外部回路に取り出され、直流の電気エネルギーとして利用される。カソード側電極には、酸化剤ガス、例えば酸素ガスあるいは空気が供給されているために、このカソード側電極において、前記水素イオン、前記電子および酸素が反応して水が生成される。
【0004】
高分子電解質膜としては、パーフルオロスルホン酸樹脂膜(例えば「Nafion」(デュポン社の登録商標))がよく使用されている。また、燃料電池は、高分子イオン交換膜の抵抗率を小さくして高い発電効率が得られるようにするために、通常50℃〜100℃程度の温度条件で運転される。一方、高分子電解質膜は、導電率の向上や低コスト化が求められており、極めて薄いフィルム状の素材である。そのため、取り扱いが難しく、それぞれの電極との接合時や複数の単電池を積層してスタックとして組み合わせる組み立て作業時等において、その周縁部にしわが発生してしまうことがしばしば生じる。また、しわなどが全くない状態であっても、スタックの構成部材の中で最も機械的強度が低いことが問題となっている。
【0005】
このような問題に対して、特許文献1には、燃料電池セルの周縁部に、電解質膜を機械的に補強するとともに電解質膜との境界面から燃料ガスや酸化剤ガスが漏れないように気密に接合された補強枠を備えること、また補強枠として、動作温度においても所要の機械的強度,耐食性等を有するものが好ましく、一例としてポリカーボネート、その他ポリエチレンテレフタレート、ガラス繊維強化エポキシ樹脂等の熱硬化性のプラスチック、チタン等の耐食性金属、あるいはカーボンを用いることが開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、固体高分子電解質膜の両面に固定された多孔質体の外周端部に、気密性を有した枠部材を用いること、および枠部材の具体的な材料としては、ポリカーボネート、エチレンプロピレン共重合体、ポリエステル、変性ポリフェニレンオキサイド、ポリフェニレンサルファイド、またはアクリロニトリルスチレン等の熱可塑性樹脂が用いられることが開示されている。
【0007】
また、特許文献3には、固体高分子電解質膜の補強用フィルムとして、高い機械的強度および加工温度・使用温度域において優れた耐熱寸法安定性を有し、また高湿度の使用環境において優れた加水分解性を有する、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートを主たる成分とする二軸配向ポリエステルフィルムが開示されている。
【0008】
また、特許文献4には、燃料電池に使用されるシール一体型膜電極接合体において、シール部材の内部にシール部材よりも剛性の高い補強部材を有すること、および該補強部材を構成する樹脂としてポリエチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルスルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリプロピレン、ポリイミドを用いることが開示されている。
【0009】
このように、固体高分子電解質補強部材として、主として機械的強度面から種々の樹脂が候補として挙げられているのが現状である。それらの中で、補強効果の高さからポリエステル樹脂が着目されているものの、一般的なポリエステルを用いたのみでは高温・高湿状態で使用された場合の耐加水分解性が十分でないことがあり、長期に渡って使用すると、補強部材としての機械的強度が十分に保持されないという問題がある。そこで、高い耐加水分解性を有しており、高温・高湿度の使用環境において長期に渡って高い機械的強度を保持できる材料が望まれているのが現状である。
【0010】
一方、芳香族ポリエステルからなるフィルムに対してカルボジイミド化合物を適用し、加水分解を抑制することは既に提案されている(特許文献5、6)。しかしながら、この提案において用いられているカルボジイミド化合物は、線状のカルボジイミド化合物である。
【0011】
線状カルボジイミド化合物を高分子化合物の末端封止剤として用いると、線状カルボジイミド化合物が高分子化合物の末端に結合する反応に伴いイソシアネート基を有する化合物が遊離し、イソシアネート化合物の独特の臭いを発生し、作業環境を悪化させることが問題となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平7−65847号公報
【特許文献2】特開平10−199551号公報
【特許文献3】特開2007−103170号公報
【特許文献4】特開2007−250249号公報
【特許文献5】特開2005−2265号公報
【特許文献6】特開2005−29688号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、カルボジイミド化合物により芳香族ポリエステルの末端が封止された組成物よりなり、イソシアネート化合物を遊離させず、耐加水分解性に優れ、および長期に渡って補強性能を保持することができる、すなわち長期補強性能保持性に優れる燃料電池用ポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成した。即ち、本発明の目的は、
1.カルボジイミド基を1個有しその第一窒素と第二窒素とが結合基により結合されている環状構造を少なくとも含む化合物と、芳香族ポリエステルとを混合した組成物よりなり、縦方向および横方向のヤング率が3000MPa以上である燃料電池用ポリエステルフィルム。
により達成される。
【0015】
また、本願発明には、下記も包含される。
2.環状構造を形成する原子数が8〜50である上記1記載の燃料電池用ポリエステルフィルム。
3.環状構造が、下記式(1)で表される上記1記載の燃料電池用ポリエステルフィルム。
【化1】

(式中、Qは、脂肪族基、脂環族基、芳香族基またはこれらの組み合わせである2〜4価の結合基であり、ヘテロ原子を含有していてもよい。)
4.Qは、下記式(1−1)、(1−2)または(1−3)で表される2〜4価の結合基である上記3記載の燃料電池用ポリエステルフィルム。
【化2】

(式中、ArおよびArは各々独立に、2〜4価の炭素数5〜15の芳香族基である。RおよびRは各々独立に、2〜4価の炭素数1〜20の脂肪族基、2〜4価の炭素数3〜20の脂環族基またはこれらの組み合わせ、またはこれら脂肪族基、脂環族基と2〜4価の炭素数5〜15の芳香族基の組み合わせである。XおよびXは各々独立に、2〜4価の炭素数1〜20の脂肪族基、2〜4価の炭素数3〜20の脂環族基、2〜4価の炭素数5〜15の芳香族基、またはこれらの組み合わせである。sは0〜10の整数である。kは0〜10の整数である。なお、sまたはkが2以上であるとき、繰り返し単位としてのX、あるいはXが、他のX、あるいはXと異なっていてもよい。Xは、2〜4価の炭素数1〜20の脂肪族基、2〜4価の炭素数3〜20の脂環族基、2〜4価の炭素数5〜15の芳香族基、またはこれらの組み合わせである。但し、Ar、Ar、R、R、X、XおよびXはヘテロ原子を含有していてもよい、また、Qが2価の結合基であるときは、Ar、Ar、R、R、X、XおよびXは全て2価の基である。Qが3価の結合基であるときは、Ar、Ar、R、R、X、XおよびXの内の一つが3価の基である。Qが4価の結合基であるときは、Ar、Ar、R、R、X、XおよびXの内の一つが4価の基であるか、二つが3価の基である。)
5.環状構造を含む化合物が、下記式(2)で表される上記1記載の燃料電池用ポリエステルフィルム。
【化3】

(式中、Qは、脂肪族基、脂環族基、芳香族基またはこれらの組み合わせである2価の結合基であり、ヘテロ原子を含有していてもよい。)
6.Qは、下記式(2−1)、(2−2)または(2−3)で表される2価の結合基である上記5記載の燃料電池用ポリエステルフィルム。
【化4】

(式中、Ar、Ar、R、R、X、X、X、sおよびkは、各々式(1−1)〜(1−3)中のAr、Ar、R、R、X、X、X、sおよびkと同じである。)
7.環状構造を含む化合物が、下記式(3)で表される上記1記載の燃料電池用ポリエステルフィルム。
【化5】

(式中、Qは、脂肪族基、脂環族基、芳香族基またはこれらの組み合わせである3価の結合基であり、ヘテロ原子を含有していてもよい。Yは、環状構造を担持する担体である。)
8.Qは、下記式(3−1)、(3−2)または(3−3)で表される3価の結合基である上記7記載の燃料電池用ポリエステルフィルム。
【化6】

(式中、Ar、Ar、R、R、X、X、X、sおよびkは、各々式(1−1)〜(1−3)のAr、Ar、R、R、X、X、X、sおよびkと同じである。但しこれらの内の一つは3価の基である。)
9.Yは、単結合、二重結合、原子、原子団またはポリマーである上記7記載の燃料電池用ポリエステルフィルム。
10. 環状構造を含む化合物が、下記式(4)で表される上記1記載の燃料電池用ポリエステルフィルム。
【化7】

(式中、Qは、脂肪族基、芳香族基、脂環族基またはこれらの組み合わせである4価の結合基であり、ヘテロ原子を保有していてもよい。ZおよびZは、環状構造を担持する担体である。)
11.Qは、下記式(4−1)、(4−2)または(4−3)で表される4価の結合基である上記10記載の燃料電池用ポリエステルフィルム。
【化8】

(式中、Ar、Ar、R、R、X、X、X、sおよびkは、各々式(1−1)〜(1−3)の、Ar、Ar、R、R、X、X、X、sおよびkと同じである。但し、これらの内の一つが4価の基であるか、二つが3価の基である。)
12.ZおよびZは各々独立に、単結合、二重結合、原子、原子団またはポリマーである上記10記載の燃料電池用ポリエステルフィルム。
13.芳香族ポリエステルがポリエチレンテレフタレートである上記1〜12のいずれか1に記載の燃料電池用ポリエステルフィルム。
14.芳香族ポリエステルがポリエチレンナフタレートである上記1〜12のいずれか1に記載の燃料電池用ポリエステルフィルム。
15.縦方向および横方向の160℃、30分の熱収縮率が5%以下である上記1〜14のいずれか1に記載の燃料電池用ポリエステルフィルム。
16.組成物が下記の3成分からなる、上記1記載の燃料電池用ポリエステルフィルム。
(a)カルボジイミド基を1個有しその第一窒素と第二窒素とが結合基により結合されている環状構造を少なくとも含む化合物、
(b)芳香族ポリエステル、
(c)カルボジイミド基を1個有しその第一窒素と第二窒素とが結合基により結合されている環状構造を少なくとも含む化合物によってカルボキシル基が封止された芳香族ポリエステル。
17.組成物が下記の2成分からなる、上記1記載の燃料電池用ポリエステルフィルム。
(a)カルボジイミド基を1個有しその第一窒素と第二窒素とが結合基により結合されている環状構造を少なくとも含む化合物、
(c)カルボジイミド基を1個有しその第一窒素と第二窒素とが結合基により結合されている環状構造を少なくとも含む化合物によってカルボキシル基が封止された芳香族ポリエステル。
18.組成物が下記の1成分からなる、上記1記載の燃料電池用ポリエステルフィルム。
(c)カルボジイミド基を1個有しその第一窒素と第二窒素とが結合基により結合されている環状構造を少なくとも含む化合物によってカルボキシル基が封止された芳香族ポリエステル。
19.固体高分子電解質膜補強用であることを特徴とする上記1〜18のいずれか1に記載の燃料電池用ポリエステルフィルム。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、イソシアネート化合物を遊離させず、カルボジイミド化合物により、芳香族ポリエステルの末端が封止された組成物よりなる燃料電池用ポリエステルフィルムを提供することができる。その結果、イソシアネート化合物による悪臭の発生を抑制することができ作業環境を向上させることができる。また同時に、耐加水分解性および長期補強性能保持性に優れた燃料電池用ポリエステルフィルムを提供することができる。それにより、高温・高湿度下の使用環境でも、長期に渡り高い機械的強度を維持することができ、燃料電池用部材として、とりわけ固体高分子電解質膜の補強部材として用いた場合に、長期に渡って十分な補強性能を保持することができ、燃料電池も長期に渡り使用可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
<環状カルボジイミド化合物>
本発明において、カルボジイミド化合物は環状構造を有する(以下、本カルボジイミド化合物を環状カルボジイミド化合物と略記することがある。)。環状カルボジイミド化合物は、環状構造を複数有していてもよい。
【0018】
環状構造は、カルボジイミド基(−N=C=N−)を1個有しその第一窒素と第二窒素とが結合基により結合されている。一つの環状構造中には、1個のカルボジイミド基のみを有するが、例えば、スピロ環など、分子中に複数の環状構造を有する場合にはスピロ原子に結合するそれぞれの環状構造中に1個のカルボジイミド基を有していれば、化合物として複数のカルボジイミド基を有していてよいことはいうまでもない。環状構造中の原子数は、好ましくは8〜50、より好ましくは10〜30、さらに好ましくは10〜20、特に、10〜15が好ましい。
【0019】
ここで、環状構造中の原子数とは、環状構造を直接構成する原子の数を意味し、例えば、8員環であれば8、50員環であれば50である。環状構造中の原子数が8より小さいと、環状カルボジイミド化合物の安定性が低下して、保管、使用が困難となる場合があるためである。また反応性の観点よりは環員数の上限値に関しては特別の制限はないが、50を超える原子数の環状カルボジイミド化合物は合成上困難となり、コストが大きく上昇する場合が発生するためである。かかる観点より環状構造中の原子数は好ましくは、10〜30、より好ましくは10〜20、特に好ましくは10〜15の範囲が選択される。
【0020】
環状構造は、下記式(1)で表される構造であることが好ましい。
【化9】

【0021】
式中、Qは、それぞれヘテロ原子ならびに置換基を含んでいてもよい、脂肪族基、脂環族基、芳香族基またはこれらの組み合わせである2〜4価の結合基である。ヘテロ原子とはこの場合、O、N、S、Pを指す。この結合基の価のうち2つの価は環状構造を形成するために使用される。Qが3価あるいは4価の結合基である場合、単結合、二重結合、原子、原子団を介して、ポリマーあるいは他の環状構造と結合している。
【0022】
結合基は、それぞれヘテロ原子ならびに置換基を含んでいてもよい、2〜4価の炭素数1〜20の脂肪族基、2〜4価の炭素数3〜20の脂環族基、2〜4価の炭素数5〜15の芳香族基またはこれらの組み合わせであり、上記で規定される環状構造を形成するための必要炭素数を有する結合基が選択される。組み合わせの例としては、アルキレン基とアリーレン基が結合した、アルキレン−アリーレン基のような構造などが挙げられる。
結合基(Q)は、下記式(1−1)、(1−2)または(1−3)で表される2〜4価の結合基であることが好ましい。
【0023】
【化10】

【0024】
式中、ArおよびArは各々独立に、それぞれヘテロ原子ならびに置換基を含んでいてもよい、2〜4価の炭素数5〜15の芳香族基である。
【0025】
芳香族基として、それぞれへテロ原子を含んで複素環構造を持っていてもよい、炭素数5〜15のアリーレン基、炭素数5〜15のアレーントリイル基、炭素数5〜15のアレーンテトライル基が挙げられる。アリーレン基(2価)として、フェニレン基、ナフタレンジイル基などが挙げられる。アレーントリイル基(3価)として、ベンゼントリイル基、ナフタレントリイル基などが挙げられる。アレーンテトライル基(4価)として、ベンゼンテトライル基、ナフタレンテトライル基などが挙げられる。これらの芳香族基は置換されていても良い。置換基として、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜15のアリール基、ハロゲン原子、ニトロ基、アミド基、ヒドロキシル基、エステル基、エーテル基、アルデヒド基などが挙げられる。
【0026】
およびRは各々独立に、それぞれヘテロ原子ならびに置換基を含んでいてもよい、2〜4価の炭素数1〜20の脂肪族基、2〜4価の炭素数3〜20の脂環族基、およびこれらの組み合わせ、またはこれら脂肪族基、脂環族基と2〜4価の炭素数5〜15の芳香族基の組み合わせである。
【0027】
脂肪族基として、炭素数1〜20のアルキレン基、炭素数1〜20のアルカントリイル基、炭素数1〜20のアルカンテトライル基などが挙げられる。アルキレン基として、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、へプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、ドデシレン基、へキサデシレン基などが挙げられる。アルカントリイル基として、メタントリイル基、エタントリイル基、プロパントリイル基、ブタントリイル基、ペンタントリイル基、ヘキサントリイル基、ヘプタントリイル基、オクタントリイル基、ノナントリイル基、デカントリイル基、ドデカントリイル基、ヘキサデカントリイル基などが挙げられる。アルカンテトライル基として、メタンテトライル基、エタンテトライル基、プロパンテトライル基、ブタンテトライル基、ペンタンテトライル基、ヘキサンテトライル基、ヘプタンテトライル基、オクタンテトライル基、ノナンテトライル基、デカンテトライル基、ドデカンテトライル基、ヘキサデカンテトライル基などが挙げられる。これらの脂肪族基は置換されていても良い。置換基として、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜15のアリール基、ハロゲン原子、ニトロ基、アミド基、ヒドロキシル基、エステル基、エーテル基、アルデヒド基などが挙げられる。
【0028】
脂環族基として、炭素数3〜20のシクロアルキレン基、炭素数3〜20のシクロアルカントリイル基、炭素数3〜20のシクロアルカンテトライル基が挙げられる。シクロアルキレン基として、シクロプロピレン基、シクロブチレン基、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基、シクロへプチレン基、シクロオクチレン基、シクロノニレン基、シクロデシレン基、シクロドデシレン基、シクロへキサデシレン基などが挙げられる。アルカントリイル基として、シクロプロパントリイル基、シクロブタントリイル基、シクロペンタントリイル基、シクロヘキサントリイル基、シクロヘプタントリイル基、シクロオクタントリイル基、シクロノナントリイル基、シクロデカントリイル基、シクロドデカントリイル基、シクロヘキサデカントリイル基などが挙げられる。アルカンテトライル基として、シクロプロパンテトライル基、シクロブタンテトライル基、シクロペンタンテトライル基、シクロヘキサンテトライル基、シクロヘプタンテトライル基、シクロオクタンテトライル基、シクロノナンテトライル基、シクロデカンテトライル基、シクロドデカンテトライル基、シクロヘキサデカンテトライル基などが挙げられる。これらの脂環族基は置換されていても良い。置換基として、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜15のアリール基、ハロゲン原子、ニトロ基、アミド基、ヒドロキシル基、エステル基、エーテル基、アルデヒド基などが挙げられる。
【0029】
芳香族基として、それぞれへテロ原子を含んで複素環構造を持っていてもよい、炭素数5〜15のアリーレン基、炭素数5〜15のアレーントリイル基、炭素数5〜15のアレーンテトライル基が挙げられる。アリーレン基として、フェニレン基、ナフタレンジイル基などが挙げられる。アレーントリイル基(3価)として、ベンゼントリイル基、ナフタレントリイル基などが挙げられる。アレーンテトライル基(4価)として、ベンゼンテトライル基、ナフタレンテトライル基などが挙げられる。これら芳香族基は置換されていても良い。置換基として、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜15のアリール基、ハロゲン原子、ニトロ基、アミド基、ヒドロキシル基、エステル基、エーテル基、アルデヒド基などが挙げられる。
【0030】
上記式(1−1)、(1−2)においてXおよびXは各々独立に、それぞれヘテロ原子ならびに置換基を含んでいてもよい、2〜4価の炭素数1〜20の脂肪族基、2〜4価の炭素数3〜20の脂環族基、2〜4価の炭素数5〜15の芳香族基、またはこれらの組み合わせである。
【0031】
脂肪族基として、炭素数1〜20のアルキレン基、炭素数1〜20のアルカントリイル基、炭素数1〜20のアルカンテトライル基などが挙げられる。アルキレン基として、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、へプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、ドデシレン基、へキサデシレン基などが挙げられる。アルカントリイル基として、メタントリイル基、エタントリイル基、プロパントリイル基、ブタントリイル基、ペンタントリイル基、ヘキサントリイル基、ヘプタントリイル基、オクタントリイル基、ノナントリイル基、デカントリイル基、ドデカントリイル基、ヘキサデカントリイル基などが挙げられる。アルカンテトライル基として、メタンテトライル基、エタンテトライル基、プロパンテトライル基、ブタンテトライル基、ペンタンテトライル基、ヘキサンテトライル基、ヘプタンテトライル基、オクタンテトライル基、ノナンテトライル基、デカンテトライル基、ドデカンテトライル基、ヘキサデカンテトライル基などが挙げられる。これらの脂肪族基は置換されていても良い。置換基として、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜15のアリール基、ハロゲン原子、ニトロ基、アミド基、ヒドロキシル基、エステル基、エーテル基、アルデヒド基などが挙げられる。
【0032】
脂環族基として、炭素数3〜20のシクロアルキレン基、炭素数3〜20のシクロアルカントリイル基、炭素数3〜20のシクロアルカンテトライル基が挙げられる。シクロアルキレン基として、シクロプロピレン基、シクロブチレン基、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基、シクロへプチレン基、シクロオクチレン基、シクロノニレン基、シクロデシレン基、シクロドデシレン基、シクロへキサデシレン基などが挙げられる。アルカントリイル基として、シクロプロパントリイル基、シクロブタントリイル基、シクロペンタントリイル基、シクロヘキサントリイル基、シクロヘプタントリイル基、シクロオクタントリイル基、シクロノナントリイル基、シクロデカントリイル基、シクロドデカントリイル基、シクロヘキサデカントリイル基などが挙げられる。アルカンテトライル基として、シクロプロパンテトライル基、シクロブタンテトライル基、シクロペンタンテトライル基、シクロヘキサンテトライル基、シクロヘプタンテトライル基、シクロオクタンテトライル基、シクロノナンテトライル基、シクロデカンテトライル基、シクロドデカンテトライル基、シクロヘキサデカンテトライル基などが挙げられる。これらの脂環族基は置換されていても良い。置換基として、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜15のアリール基、ハロゲン原子、ニトロ基、アミド基、ヒドロキシル基、エステル基、エーテル基、アルデヒド基などが挙げられる。
【0033】
芳香族基として、それぞれへテロ原子を含んで複素環構造を持っていてもよい、炭素数5〜15のアリーレン基、炭素数5〜15のアレーントリイル基、炭素数5〜15のアレーンテトライル基が挙げられる。アリーレン基として、フェニレン基、ナフタレンジイル基などが挙げられる。アレーントリイル基(3価)として、ベンゼントリイル基、ナフタレントリイル基などが挙げられる。アレーンテトライル基(4価)として、ベンゼンテトライル基、ナフタレンテトライル基などが挙げられる。これらの芳香族基は置換されていても良い。置換基として、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜15のアリール基、ハロゲン原子、ニトロ基、アミド基、ヒドロキシル基、エステル基、エーテル基、アルデヒド基などが挙げられる。
【0034】
上記式(1−1)、(1−2)においてs、kは0〜10の整数、好ましくは0〜3の整数、より好ましくは0〜1の整数である。s及びkが10を超えると、環状カルボジイミド化合物は合成上困難となり、コストが大きく上昇する場合が発生するためである。かかる観点より整数は好ましくは0〜3の範囲が選択される。なお、sまたはkが2以上であるとき、繰り返し単位としてのX、あるいはXが、他のX、あるいはXと異なっていてもよい。
【0035】
上記式(1−3)においてXは、それぞれヘテロ原子ならびに置換基を含んでいてもよい、2〜4価の炭素数1〜20の脂肪族基、2〜4価の炭素数3〜20の脂環族基、2〜4価の炭素数5〜15の芳香族基、またはこれらの組み合わせである。
【0036】
脂肪族基として、炭素数1〜20のアルキレン基、炭素数1〜20のアルカントリイル基、炭素数1〜20のアルカンテトライル基などが挙げられる。アルキレン基として、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、へプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、ドデシレン基、へキサデシレン基などが挙げられる。アルカントリイル基として、メタントリイル基、エタントリイル基、プロパントリイル基、ブタントリイル基、ペンタントリイル基、ヘキサントリイル基、ヘプタントリイル基、オクタントリイル基、ノナントリイル基、デカントリイル基、ドデカントリイル基、ヘキサデカントリイル基などが挙げられる。アルカンテトライル基として、メタンテトライル基、エタンテトライル基、プロパンテトライル基、ブタンテトライル基、ペンタンテトライル基、ヘキサンテトライル基、ヘプタンテトライル基、オクタンテトライル基、ノナンテトライル基、デカンテトライル基、ドデカンテトライル基、ヘキサデカンテトライル基などが挙げられる。これら脂肪族基は置換基を含んでいてもよく、置換基として、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜15のアリール基、ハロゲン原子、ニトロ基、アミド基、ヒドロキシル基、エステル基、エーテル基、アルデヒド基などが挙げられる。
【0037】
脂環族基として、炭素数3〜20のシクロアルキレン基、炭素数3〜20のシクロアルカントリイル基、炭素数3〜20のシクロアルカンテトライル基が挙げられる。シクロアルキレン基として、シクロプロピレン基、シクロブチレン基、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基、シクロへプチレン基、シクロオクチレン基、シクロノニレン基、シクロデシレン基、シクロドデシレン基、シクロへキサデシレン基などが挙げられる。アルカントリイル基として、シクロプロパントリイル基、シクロブタントリイル基、シクロペンタントリイル基、シクロヘキサントリイル基、シクロヘプタントリイル基、シクロオクタントリイル基、シクロノナントリイル基、シクロデカントリイル基、シクロドデカントリイル基、シクロヘキサデカントリイル基などが挙げられる。アルカンテトライル基として、シクロプロパンテトライル基、シクロブタンテトライル基、シクロペンタンテトライル基、シクロヘキサンテトライル基、シクロヘプタンテトライル基、シクロオクタンテトライル基、シクロノナンテトライル基、シクロデカンテトライル基、シクロドデカンテトライル基、シクロヘキサデカンテトライル基などが挙げられる。これら脂環族基は置換基を含んでいてもよく、置換基として、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜15のアリーレン基、ハロゲン原子、ニトロ基、アミド基、ヒドロキシル基、エステル基、エーテル基、アルデヒド基などが挙げられる。
【0038】
芳香族基として、それぞれへテロ原子を含んで複素環構造を持っていてもよい、炭素数5〜15のアリーレン基、炭素数5〜15のアレーントリイル基、炭素数5〜15のアレーンテトライル基が挙げられる。アリーレン基として、フェニレン基、ナフタレンジイル基などが挙げられる。アレーントリイル基(3価)として、ベンゼントリイル基、ナフタレントリイル基などが挙げられる。アレーンテトライル基(4価)として、ベンゼンテトライル基、ナフタレンテトライル基などが挙げられる。これらの芳香族基は置換されていても良い。置換基として、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜15のアリール基、ハロゲン原子、ニトロ基、アミド基、ヒドロキシル基、エステル基、エーテル基、アルデヒド基などが挙げられる。
【0039】
また、Ar、Ar、R、R、X、XおよびXはヘテロ原子を含有していてもよい、また、Qが2価の結合基であるときは、Ar、Ar、R、R、X、XおよびXは全て2価の基である。Qが3価の結合基であるときは、Ar、Ar、R、R、X、XおよびXの内の一つが3価の基である。Qが4価の結合基であるときは、Ar、Ar、R、R、X、XおよびXの内の一つが4価の基であるか、二つが3価の基である。
【0040】
本発明で用いる環状カルボジイミド化合物として、以下(a)〜(c)で表される化合物が挙げられる。
【0041】
[環状カルボジイミド化合物(a)]
本発明で用いる環状カルボジイミド化合物として下記式(2)で表される化合物(以下、「環状カルボジイミド化合物(a)」ということがある。)を挙げることができる。
【0042】
【化11】

【0043】
式中、Qは、脂肪族基、脂環族基、芳香族基またはこれらの組み合わせである2価の結合基であり、ヘテロ原子を含有していてもよい。脂肪族基、脂環族基、芳香族基は、式(1)で説明したものと同じである。但し、式(2)の化合物においては、脂肪族基、脂環族基、芳香族基は全て2価である。Qは、下記式(2−1)、(2−2)または(2−3)で表される2価の結合基であることが好ましい。
【0044】
【化12】

【0045】
式中、Ar、Ar、R、R、X、X、X、sおよびkは、各々式(1−1)〜(1−3)中のAr、Ar、R、R、X、X、X、sおよびkと同じである。但し、これらは全て2価である。
かかる環状カルボジイミド化合物(a)としては、以下の化合物が挙げられる。
【0046】
【化13】

【0047】
【化14】

【0048】
【化15】

【0049】
【化16】

【0050】
【化17】

【0051】
【化18】

【0052】
【化19】

【0053】
【化20】

【0054】
【化21】

【0055】
【化22】

【0056】
【化23】

【0057】
【化24】

【0058】
【化25】

【0059】
【化26】

【0060】
[環状カルボジイミド化合物(b)]
さらに、本発明で用いる環状カルボジイミド化合物として下記式(3)で表される化合物(以下、「環状カルボジイミド化合物(b)」ということがある。)を挙げることができる。
【0061】
【化27】

【0062】
式中、Qは、脂肪族基、脂環族基、芳香族基、またはこれらの組み合わせである3価の結合基であり、ヘテロ原子を含有していてもよい。Yは、環状構造を担持する担体である。脂肪族基、脂環族基、芳香族基は、式(1)で説明したものと同じである。但し、式(3)の化合物においては、Qを構成する基の内一つは3価である。
は、下記式(3−1)、(3−2)または(3−3)で表される3価の結合基であることが好ましい。
【0063】
【化28】

【0064】
式中、Ar、Ar、R、R、X、X、X、sおよびkは、各々式(1−1)〜(1−3)のAr、Ar、R、R、X、X、X、sおよびkと同じである。但しこれらの内の一つは3価の基である。
Yは、単結合、二重結合、原子、原子団またはポリマーであることが好ましい。Yは結合部であり、複数の環状構造がYを介して結合し、式(3)で表される構造を形成している。
かかる環状カルボジイミド化合物(b)としては、下記化合物が挙げられる。
【0065】
【化29】

【0066】
【化30】

【0067】
【化31】

【0068】
【化32】

【0069】
[環状カルボジイミド化合物(c)]
本発明で用いる環状カルボジイミド化合物として下記式(4)で表される化合物(以下、「環状カルボジイミド化合物(c)」ということがある。)を挙げることができる。
【0070】
【化33】

【0071】
式中、Qは、脂肪族基、脂環族基、芳香族基またはこれらの組み合わせである4価の結合基であり、ヘテロ原子を保有していてもよい。ZおよびZは、環状構造を担持する担体である。ZおよびZは、互いに結合して環状構造を形成していてもよい。
脂肪族基、脂環族基、芳香族基は、式(1)で説明したものと同じである。但し、式(4)の化合物において、Qは4価である。従って、これらの基の内の一つが4価の基であるか、二つが3価の基である。
は、下記式(4−1)、(4−2)または(4−3)で表される4価の結合基であることが好ましい。
【0072】
【化34】

【0073】
Ar、Ar、R、R、X、X、X、sおよびkは、各々式(1−1)〜(1−3)の、Ar、Ar、R、R、X、X、X、sおよびkと同じである。但し、Ar、Ar、R、R、X、XおよびXは、これらの内の一つが4価の基であるか、二つが3価の基である。ZおよびZは各々独立に、単結合、二重結合、原子、原子団またはポリマーであることが好ましい。ZおよびZは結合部であり、複数の環状構造がZおよびZを介して結合し、式(4)で表される構造を形成している。
かかる環状カルボジイミド化合物(c)としては、下記化合物を挙げることができる。
【0074】
【化35】

【0075】
【化36】

【0076】
【化37】

【0077】
<環状カルボジイミド化合物の製造方法>
本発明の環状カルボジイミド化合物の製造方法は特に限定無く、従来公知の方法により製造することができる。例として、アミン体からイソシアネート体を経由して製造する方法、アミン体からイソチオシアネート体を経由して製造する方法、アミン体からトリフェニルホスフィン体を経由して製造する方法、アミン体から尿素体を経由して製造する方法、アミン体からチオ尿素体を経由して製造する方法、カルボン酸体からイソシアネート体を経由して製造する方法、ラクタム体を誘導して製造する方法などが挙げられる。
【0078】
また、本発明の環状カルボジイミド化合物は、以下の文献に記載された方法により製造することができる。
Tetrahedron Letters,Vol.34,No.32,515−5158,1993.
Medium−and Large−Membered Rings from Bis(iminophosphoranes):An Efficient Preparation of Cyclic Carbodiimides, Pedro Molina etal.
Journal of Organic Chemistry,Vol.61,No.13,4289−4299,1996.
New Models for the Study of the Racemization Mechanism of Carbodiimides.Synthesis and Structure(X−ray Crystallography and 1H NMR) of Cyclic Carbodiimides, Pedro Molina etal.
Journal of Organic Chemistry,Vol.43,No8,1944−1946,1978.
Macrocyclic Ureas as Masked Isocyanates, Henri Ulrich etal.
Journal of Organic Chemistry,Vol.48,No.10,1694−1700,1983.
Synthesis and Reactions of Cyclic Carbodiimides,
R.Richteretal.
Journal of Organic Chemistry,Vol.59,No.24,7306−7315,1994.
A New and Efficient Preparation of Cyclic Carbodiimides from Bis(iminophosphoranea)and the System BocO/DMAP,Pedro Molina etal.
【0079】
製造する化合物に応じて、適切な製法を採用すればよいが、例えば、
(1)下記式(a−1)で表されるニトロフェノール類、下記式(a−2)で表されるニトロフェノール類および下記式(b)で表される化合物を反応させ、下記式(c)で表されるニトロ体を得る工程、
【化38】

【化39】

(2)得られたニトロ体を還元して下記式(d)で表わされるアミン体を得る工程、
【化40】

(3)得られたアミン体とトリフェニルホスフィンジブロミドを反応させ下記式(e)で表されるトリフェニルホスフィン体を得る工程、および
【化41】

(4)得られたトリフェニルホスフィン体を反応系中でイソシアネート化した後、直接脱炭酸させることによって製造したものは、本願発明に用いる環状カルボジイミド化合物として好適に用いることができる。
(上記式中、ArおよびArは各々独立に、炭素数1〜6のアルキル基またはフェニル基で置換されていてもよい芳香族基である。EおよびEは各々独立に、ハロゲン原子、トルエンスルホニルオキシ基およびメタンスルホニルオキシ基、ベンゼンスルホニルオキシ基、p−ブロモベンゼンスルホニルオキシ基からなる群から選ばれる基である。Arは、フェニル基である。Xは、下記式(i−1)から(i−3)の結合基である。)
【0080】
【化42】

【0081】
【化43】

【0082】
【化44】

【0083】
なお、環状カルボジイミド化合物は、芳香族ポリエステルのカルボキシル基を有効に封止することができるが、本発明の主旨に反しない範囲において、所望により、例えば、従来公知のポリマーのカルボキシル基封止剤を併用することができる。かかる従来公知のカルボキシル基封止剤としては、特開2005−2174号公報記載の剤、例えば、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物、オキサジン化合物、などが例示される。
【0084】
<芳香族ポリエステル>
本発明において、環状カルボジイミド化合物を適用する芳香族ポリエステルはカルボキシル基を有する。
芳香族ポリエステルとしては、例えば、ジカルボン酸あるいはそのエステル形成性誘導体とジオールあるいはそのエステル形成性誘導体を重縮合してなる重合体または共重合体が、好ましくは熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂が例示される。
かかる熱可塑性芳香族ポリエステル樹脂は、成形性などのため、ラジカル生成源、例えばエネルギー活性線、酸化剤などにより処理されてなる架橋構造を含有していてもよい。
【0085】
上記ジカルボン酸あるいはそのエステル形成性誘導体としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、ビス(p−カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−テトラブチルホスホニウムイソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、マロン酸、グルタル酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸単位およびこれらのエステル形成性誘導体などが挙げられる。
【0086】
また、上記ジオールあるいはそのエステル形成性誘導体としては、炭素数2〜20の脂肪族グリコールすなわち、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、デカメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオール、ダイマージオールなど、あるいは分子量200〜100,000の長鎖グリコール、すなわちポリエチレングリコール、ポリ1,3−プロピレングリコール、ポリ1,2−プロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなど、芳香族ジオキシ化合物すなわち、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノンtert−ブチルハイドロキノン、ビスフェノールA、ビスフェノールS、ビスフェノールFなど、およびこれらのエステル形成性誘導体などが挙げられる。
【0087】
これらの重合体ないしは共重合体の具体例として芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体と脂肪族ジオールまたはそのエステル形成性誘導体を主成分として重縮合してなる芳香族ポリエステルとしては、芳香族カルボン酸またはそのエステル形成性誘導体、好ましくは、テレフタル酸あるいはナフタレン2,6−ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオールから選ばれる脂肪族ジオールまたはそのエステル形成性誘導体を主成分として重縮合してなる重合体が例示される。
【0088】
具体的にはポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリプロピレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリエチレン(テレフタレート/イソフタレート)、ポリトリメチレン(テレフタレート/イソフタレート)、ポリブチレン(テレフタレート/イソフタレート)、ポリエチレンテレフタレート・ポリエチレングリコール、ポリトリメチレンテレフタレート・ポリエチレングリコール、ポリブチレンテレフタレート・ポリエチレングリコール、ポリブチレンナフタレート・ポリエチレングリコール、ポリエチレンテレフタレート・ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリトリメチレンテレフタレート・ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリブチレンテレフタレート・ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリブチレンナフタレート・ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリエチレン(テレフタレート/イソフタレート)・ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリトリメチレン(テレフタレート/イソフタレート)・ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリブチレン(テレフタレート/イソフタレート)・ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリブチレン(テレフタレート/サクシネート)、ポリエチレン(テレフタレート/サクシネート)、ポリブチレン(テレフタレート/アジペート)、ポリエチレン(テレフタレート/アジペート)等を好ましく挙げることができる。なかでも好ましい芳香族ポリエステルとしては、ブチレンテレフタレート、エチレンテレフタレート、トリメチレンテレフタレート、エチレンナフタレンジカルボキシレート、ブチレンナフタレンジカルボキシレートからなる群より選ばれる少なくとも一種を主たる繰り返し単位として含む芳香族ポリエステルであり、特に長期補強性能保持性の向上効果を高くできるという観点から、特に好ましくはポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、あるいはこれらの混合物である。また、これらの芳香族ポリエステルは、共重合成分を有していてもよいが、耐熱性の観点から、かかる共重合成分の共重合量は、ポリエステルの全繰り返し単位の30モル%以下が好ましく、さらに好ましくは20モル%以下、特に好ましくは10モル%以下である。
【0089】
さらに全芳香族ポリエステルとしては、芳香族カルボン酸またはそのエステル形成性誘導体、好ましくは、テレフタル酸あるいはナフタレン2,6−ジカルボン酸またはそれらのエステル形成性誘導体と芳香族多価ヒドロキシ化合物またはそのエステル形成性誘導体を主成分として重縮合してなる重合体が例示される。
【0090】
具体的には例えば、ポリ(4−オキシフェニレン−2,2−プロピリデン−4−オキシフェニレン−テレフタロイル−co−イソフタロイル)などが例示されるこれらのポリエステル類は、カルボジイミド反応性成分として、分子末端にカルボキシル基およびまたはヒドロキシル基末端を1から50当量/tonを含有する。かかる末端基、とりわけカルボキシル基はポリエステルの安定性を低下させるため、環状カルボジイミド化合物で封止することが好ましい。
【0091】
カルボキシル末端基をカルボジイミド化合物で封止するとき、本発明の環状カルボジイミド化合物を適用することにより、有毒な遊離イソシアネートの生成無く、カルボキシル基を封止できる利点は大きい。
【0092】
前述のポリエステル類は周知の方法(例えば、飽和ポリエステル樹脂ハンドブック(湯木和男著、日刊工業新聞社(1989年12月22日発行)等に記載)により製造することができる。
【0093】
環状カルボジイミド化合物を作用させるこれらの芳香族ポリエステルには、環状カルボジイミド化合物と反応してその効力を失わない範囲で、公知のあらゆる添加剤、フィラーを添加して用いることができる。添加剤としては例えば、溶融粘度を低減させるため、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネートのような脂肪族ポリエステルポリマーや、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリ(エチレン−プロピレン)グリコールなどの脂肪族ポリエーテルポリマーを内部可塑剤として、あるいは外部可塑剤として含有させることができる。さらには、艶消し剤、消臭剤、難燃剤、糸摩擦低減剤、抗酸化剤、着色顔料等として無機微粒子や有機化合物を必要に応じて添加することができる。
【0094】
<芳香族ポリエステルと環状カルボジイミド化合物との混合方法>
本発明においては、環状カルボジイミド化合物は芳香族ポリエステルと混合し、反応させることによって、カルボキシル基を封止することができる。環状カルボジイミド化合物を芳香族ポリエステルに添加、混合する方法は特に限定なく、従来公知の方法により、溶液、融液あるいは適用する高分子のマスターバッチとして添加する方法、あるいは環状カルボジイミド化合物が溶解、分散または溶融している液体に芳香族ポリエステルの固体を接触させ環状カルボジイミド化合物を浸透させる方法などをとることができる。
【0095】
溶液、融液あるいは適用する高分子のマスターバッチとして添加する方法をとる場合には、従来公知の混練装置を使用して添加する方法ことができる。混練に際しては、溶液状態での混練法あるいは溶融状態での混練法が、均一混練性の観点より好ましい。混練装置としては、とくに限定なく、従来公知の縦型の反応容器、混合槽、混練槽あるいは一軸または多軸の横型混練装置、例えば一軸あるいは多軸のルーダー、ニーダーなどが例示される。芳香族ポリエステルとの混合時間は特に指定はなく、混合装置、混合温度にもよるが、0.1分から2時間、好ましくは0.2分から60分、より好ましくは1分から30分が選択される。
【0096】
溶媒としては、芳香族ポリエステルおよび環状カルボジイミド化合物に対し、不活性であるものを用いることができる。特に、両者に親和性を有し、両者を少なくとも部分的に溶解、あるいは両者に少なくとも部分的に溶解より溶媒が好ましい。
溶媒としてはたとえば、炭化水素系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒、エーテル系溶媒、ハロゲン系溶媒、アミド系溶媒などを用いることができる。
【0097】
炭化水素系溶媒として、ヘキサン、シクロへキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ヘプタン、デカンなどが挙げられる。
ケトン系溶媒として、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、シクロへヘキサノン、イソホロンなどが挙げられる。
エステル系溶媒としては、酢酸エチル、酢酸メチル、コハク酸エチル、炭酸メチル、安息香酸エチル、ジエチレングリコールジアセテートなどが挙げられる。
エーテル系溶媒としては、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、ジフェニルエーテルなどが挙げられる。
ハロゲン系溶媒としては、ジクロロメタン、クロロホルム、テトラクロロメタン、ジクロロエタン、1,1’,2,2’−テトラクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどをあげることができる。
アミド系溶媒としては、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンなどが挙げられる。
これらの溶媒は単一であるいは所望により混合溶媒として使用することができる。
【0098】
本発明において、溶媒は、芳香族ポリエステルと環状カルボジイミド化合物の合計、100重量部あたり1〜1,000重量部の範囲で適用される。1重量部より少ないと、溶媒適用に意義がない。また、溶媒使用量の上限値は、特にないが、操作性、反応効率の観点より1,000重量部程度である。
【0099】
環状カルボジイミド化合物が溶解、分散または溶融している液体に芳香族ポリエステルの固体を接触させ環状カルボジイミド化合物を浸透させる方法をとる場合には、上記のごとき溶剤に溶解した環状カルボジイミド化合物に固体の芳香族ポリエステルを接触させる方法や、環状カルボジイミド化合物のエマルジョン液に固体の芳香族ポリエステルを接触させる方法などをとることができる。接触させる方法としては、芳香族ポリエステルを浸漬する方法や、芳香族ポリエステルに塗布する方法、散布する方法などを好適にとることができる。
【0100】
本発明の環状カルボジイミド化合物による封止反応は、室温(25℃)〜300℃程度の温度で可能であるが、反応効率の観点より、好ましくは50〜250℃、より好ましくは80〜200℃の範囲ではより促進される。芳香族ポリエステルは、溶融している温度ではより反応が進行しやすいが、環状カルボジイミド化合物の揮散、分解などを抑制するため、300℃より低い温度で反応させることが好ましい。また高分子の溶融温度を低下、攪拌効率を上げるためにも、溶媒を適用することは効果がある。
【0101】
反応は無触媒で十分速やかに進行するが、反応を促進する触媒を使用することもできる。触媒としては、従来の線状カルボジイミド化合物で使用される触媒が適用できる。例えば、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、3級アミン化合物、イミダゾール化合物、第4級アンモニウム塩、ホスフィン化合物、ホスホニウム塩、リン酸エステル、有機酸、ルイス酸などが挙げられ、これらは1種または2種以上使用することができる。触媒の添加量は、特に限定されるものではないが、芳香族ポリエステルと環状カルボジイミド化合物の合計100重量部に対し、0.001〜1重量部が好ましく、また0.01〜0.1重量部がより好ましく、さらには0.02〜0.1重量部が最も好ましい。
【0102】
環状カルボジイミド化合物の適用量は、カルボキシル基1当量あたり、環状カルボジイミド化合物に含まれるカルボジイミド基が0.5から100当量の範囲が選択される。0.5当量より過少に過ぎると、環状カルボジイミド化合物適用の意義がない場合がある。また100当量より過剰に過ぎると、基質の特性が変成する場合がある。かかる観点より、上記基準において、好ましくは0.6〜100当量、より好ましくは0.65〜70当量、さらに好ましくは0.7〜50当量、とりわけ好ましくは0.7〜30当量の範囲が選択される。また、本発明においては、本発明が規定するヤング率を満足すると同時に、環状カルボジイミド化合物の適用量を上記数値範囲とすることで、長期補強性能保持性の向上効果を高くすることができる。
【0103】
<芳香族ポリエステルと環状カルボジイミド化合物とを混合した組成物>
上記の方法によって混合して得られる組成物は、両者の割合、反応時間等によって、基本的に以下の態様を取りうる。
【0104】
(1)組成物が下記の3成分からなる、
(a)カルボジイミド基を1個有しその第一窒素と第二窒素とが結合基により結合されている環状構造を少なくとも含む化合物。
(b)芳香族ポリエステル。
(c)カルボジイミド基を1個有しその第一窒素と第二窒素とが結合基により結合されている環状構造を少なくとも含む化合物によってカルボキシル基が封止された芳香族ポリエステル。
【0105】
(2)組成物が下記の2成分からなる。
(a)カルボジイミド基を1個有しその第一窒素と第二窒素とが結合基により結合されている環状構造を少なくとも含む化合物。
(c)カルボジイミド基を1個有しその第一窒素と第二窒素とが結合基により結合されている環状構造を少なくとも含む化合物によってカルボキシル基が封止された芳香族ポリエステル。
【0106】
(3)組成物が下記の成分からなる、
(c)カルボジイミド基を1個有しその第一窒素と第二窒素とが結合基により結合されている環状構造を少なくとも含む化合物によってカルボキシル基が封止された芳香族ポリエステル。
【0107】
ここで、(3)の態様は組成物ではなく、変性された芳香族ポリエステルであるが、本発明においては便宜的に「組成物」として記載する。
いずれの態様も好ましいものであるが、未反応の環状カルボジイミド化合物が組成物中に存在している場合には、溶融成形時、湿熱雰囲気下等、何らかの要因で芳香族ポリエステルの分子鎖が切断された場合に、未反応の環状カルボジイミド化合物と、切断により生じた分子鎖末端とが反応することにより、カルボキシル基濃度を低いままに保つことができるので、とりわけ好ましい。
【0108】
なお、本発明において、上記の“3成分”、“2成分”、“1成分”の記載は、芳香族ポリエステルと環状カルボジイミド化合物とが組成物中においてとりうる態様についてのみを記載しているのであって、本発明の目的を阻害しない限りにおいて、上述の公知のあらゆる添加剤、フィラーが添加することを除外しているものではないことはいうまでもない。
【0109】
<芳香族ポリエステルと環状カルボジイミド化合物とを混合した組成物からなるフィルム>
本発明のポリエステルフィルムは、上述の芳香族ポリエステルと環状カルボジイミド化合物とを混合した組成物からなるものであるが、フィルムに製膜するにあたっては、押し出し成形、キャスト成形等の成形手法を用いることができる。例えば、Iダイ、Tダイ、円形ダイ等が装着された押出機等を用いて、未延伸フィルムを押し出し成形することができる。
【0110】
押し出し成形により未延伸フィルムを得る場合は、溶融フィルムを冷却ドラム上に押し出し、次いで該フィルムを回転する冷却ドラムに密着させ冷却することによって未延伸フィルムを得ることができる。このとき、溶融フィルムと冷却ドラムの密着方法については、キャスティングドラムの温度を上げて粘着させる技術や、ロールによるニップや静電密着などの技術が使用できるが、静電密着方式を使用する場合は、スルホン酸四級ホスホニウム塩などの静電密着剤を配合し、電極よりフィルム溶融面に非接触的に電荷を容易に印加し、それによってフィルムを、回転する冷却ドラムに密着させることにより表面欠陥の少ない未延伸フィルムを得ることができる。
【0111】
また、樹脂組成物を溶解する溶媒、例えばクロロホルム、二塩化メチレン等の溶媒を用いて溶液とした後、キャスト乾燥固化することにより未延伸フィルムをキャスト成形することもできる。
【0112】
本発明においては、ヤング率を本発明が規定する範囲とするために、上記で得られた未延伸フィルムを機械的流れ方向(以下、縦方向または長手方向またはMDと呼称する場合がある。)に縦延伸、および機械的流れ方向に直行する方向(以下、横方向または幅方向またはTDと呼称する場合がある。)に横延伸して2軸延伸フィルムとすることが必要である。かかる延伸方法としては、ロール延伸とテンター延伸による逐次2軸延伸法、テンター延伸による同時2軸延伸法、チューブラー延伸による2軸延伸法等を挙げることができる。
【0113】
ヤング率を本発明が規定する範囲とするために、縦延伸倍率は1.7倍以上が必要であり、2.1倍以上が好ましく、2.6倍以上がより好ましく、3.0倍以上がさらに好ましい。また、横延伸倍率は2.1倍以上が必要であり、2.6倍以上が好ましく、2.9倍以上がより好ましく、3.1倍以上がさらに好ましい。一方、延伸倍率はあまり高くしすぎると製膜時に破断が頻発しやすくなる傾向にあり、縦、横とも8倍以下であることが好ましく、7倍以下であることがより好ましく、6倍以下であることがさらに好ましく、5倍以下であることがとりわけ好ましい。
【0114】
縦延伸工程においては、芳香族ポリエステルのガラス転移温度をTgとするとき、好ましくは(Tg−20)〜(Tg+30)℃で予熱した後に縦延伸を実施する。かかる縦延伸温度は(Tg−10)〜(Tg+45)℃が好ましく、(Tg)〜(Tg+30)℃がさらに好ましい。また、横延伸工程においては、好ましくは(Tg−20)〜(Tg+50)℃で予熱した後に横延伸を実施する。かかる横延伸温度は(Tg−20)〜(Tg+60)℃が好ましく、(Tg+10)〜(Tg+50)℃がさらに好ましい。さらに、横延伸工程においては、横延伸開始部の温度よりも、横延伸終了部の温度を4℃以上高くすることが特に好ましい。本発明にいては、このような延伸温度を採用することにより、本発明が規定するヤング率をより達成しやすくなり、また、長期補強性能保持性の観点でより好ましいフィルムを得ることができる。
【0115】
延伸後、芳香族ポリエステルの結晶融解温度をTmとするとき、好ましくは(Tm−110)℃以上(Tm)℃未満の温度で、好ましくは3〜60秒、熱処理(熱固定)することにより、熱収縮率を好適に低下させることができる。また、本発明が規定するヤング率を達成しやすくなる。このような観点から、熱処理温度は(Tm−70)〜(Tm)℃の範囲が好ましく、さらに好ましくは(Tm−50)〜(Tm−10)℃、より好ましくは(Tm−40)〜(Tm−20)℃である。
【0116】
その後、縦方向、横方向の熱収縮率を調整、低下させるために、縦方向および/または横方向に弛緩率0.2〜15%の範囲で熱弛緩処理を行うことが好ましい。弛緩率は0.5%以上10%以下がより好ましく、1%以上6%以下がさらに好ましい。弛緩させる温度は、上記熱処理温度より5℃以上低いことが好ましく、20℃以上低いことがより好ましく、40℃以上低いことがさらに好ましい。また、ガラス転移温度Tgより高いことが好ましく、Tg+20℃以上であることがより好ましく、Tg+40℃以上であることがさらに好ましい。
かくして得られた延伸フィルムには、所望により従来公知の方法で、表面活性化処理、たとえばプラズマ処理、アミン処理、コロナ処理を施すことも可能である。
【0117】
<添加剤>
本発明のポリエステルフィルムには、例えば安定剤、染料、滑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、難燃剤などの添加剤を所望により含有させることができる。
本発明のポリエステルフィルムは、フィルムの取り扱い性を向上させるため、発明の効果を損なわない範囲で不活性粒子が添加されていてもよい。かかる不活性粒子としては、例えば、周期律表第IIA、第IIB、第IVA、第IVBの元素を含有する無機粒子(例えば、カオリン、アルミナ、シリカアルミナ、二酸化チタン、硫酸バリウム、ゼオライト、球状シリカ、多孔質シリカなど)を例示することができる。また、架橋シリコーン樹脂、架橋ポリスチレン樹脂、架橋アクリル樹脂粒子等の、耐熱性の高いポリマーよりなる有機粒子を例示することができる。不活性粒子の平均粒子径は、0.005〜5μmの範囲が好ましく、0.05〜3μmの範囲がより好ましい。また、含有量は、フィルムの重量に対して0.01〜5重量%の範囲が好ましく、0.1〜3重量%の範囲がより好ましい。フィルムに含まれる不活性粒子は、単一成分でもよく、二成分以上の多成分でも良く、平均粒子径の異なる不活性粒子を含んでいてもよい。
【0118】
また、本発明のポリエステルフィルムが酸化防止剤を含有する場合には、かかる酸化防止剤としては、フェノール系の酸化防止剤が好ましく使用されるが、リン系およびイオウ系酸化防止剤も使用することが可能であり、これらを併用することもできる。これらの含有量は、フィルムの重量に対して0.01〜5重量%の範囲が好ましく、0.05〜3重量%がより好ましく、0.1〜1.5重量%がさらに好ましい。
【0119】
<フィルムの特性>
[ヤング率]
本発明のポリエステルフィルムは、フィルムの縦方向および横方向のヤング率が、それぞれ3000MPa以上である。本発明においては、環状カルボジイミド化合物を用い、かつヤング率を上記数値範囲とすることによって、長期に渡って補強性能を保持することができる(長期補強性能保持性に優れる。)。ヤング率が低くなると、長期補強性能保持性に劣る傾向にある。このような観点から、縦方向および横方向のヤング率は、より好ましくは3500MPa以上、さらに好ましくは4000MPa以上、特に好ましくは4500MPa以上である。また、ヤング率が高いとフィルムの腰そのものが高いということであり、電解質膜の補強部材として補強性能に優れる。ヤング率が低くなると、電解質と重ね合わせた際の腰が弱く、電解質膜のハンドリング性、加工性が悪くなることがあり、また補強効果が十分でないことがある。
ヤング率を上記態様とするためには、上述した製膜条件、とりわけ上述した延伸条件および熱処理条件を採用すればよく、かかる方法を本発明における好ましい達成手段として挙げることができる。
【0120】
[熱収縮率]
本発明のポリエステルフィルムは、160℃×30分間熱処理された後の縦方向および横方向の熱収縮率がそれぞれ5%以下であることが好ましい。熱収縮率が上記数値範囲にあると、例えば電解質膜(ナフィオン117など)の両面に枠状にポリエステルフィルムを重ねて熱プレスにより接合するような加工の際において、電解質膜の破断やしわの発生を抑制することができる。熱収縮率が高くなると、かかる加工の際に電解質膜が破れたり、しわが発生しやすくなる傾向にあり、電解質膜の性能に支障を生じやすくなる傾向にある。このような観点から、160℃×30分の熱収縮率は、4%以下であることがより好ましく、3%以下がさらに好ましく、2%以下が特に好ましい。また縦方向と横方向との熱収縮率の差が大きくなると、高温環境下において電解質膜に歪みが生じやすく、本来の電解質膜の性能に支障が生じることがある。このような観点からは、縦方向と横方向との熱収縮率の差は小さい方が好ましく、かかる差は4%以下が好ましく、3%以下がより好ましく、2%以下がさらに好ましく、1%以下が特に好ましい。
【0121】
160℃×30分の熱収縮率を上記数値範囲にするには、芳香族ポリエステルの固有粘度等のポリマー特性の調整、縦横の延伸倍率および延伸温度、熱固定温度およびその時間等の製膜条件を調整することによって達成すればよい。例えば、延伸倍率を低くしたり、熱固定温度を高くしたりすることによって熱収縮率は低くなる傾向にある。また、熱固定後に、熱弛緩処理することによっても熱収縮率は低くなる傾向にあり、上記数値範囲を達成しやすくなる。
【0122】
[引張強度]
本発明のポリエステルフィルムは、縦方向および横方向の引張強度が110MPa以上であることが好ましい。引張強度が上記数値範囲にあると、燃料電池用として、特に固体高分子電解質補強用として好ましい強度、耐久性となる。引張強度が110MPa未満の場合には製品強度の低下を招くことにつながり、好ましくない。このような観点から、フィルムの引張強度は、より好ましくは170MPa以上であり、さらに好ましくは200MPa以上である。一方、500MPaを超える引張強度を有するフィルムを得ようとすると、フィルムの伸度が著しく低くなるので、製造が困難となることがある。
【0123】
[カルボキシル基末端濃度]
更に、本発明のポリエステルフィルムは、カルボキシル基末端濃度[COOH]が0〜30eq/tonであることが好ましい。カルボキシル基末端濃度が30eq/tonよりも多い場合には、加水分解の度合いが大きく、燃料電池用としてのフィルム強力の著しい低下を招くことがある。強力保持の観点からは、カルボキシル基末端濃度は好ましくは20eq/ton以下、さらに好ましくは10eq/ton以下、最も好ましくは6eq/ton以下である。カルボキシル基末端基濃度は低ければ低いほど好ましい。
【0124】
[補強性能]
本発明のポリエステルフィルムは、補強性能に優れる。かかる補強性能は、具体的な評価方法は後述のとおりであるが、電解質膜を枠状の補強膜(枠状のポリエステルフィルム)で挟持した構成体に対して振動を与えたときに、電解質膜に発生するしわ、破れ、破損などが抑制される程度により評価することができる。補強性能に優れると、燃料電池に振動などが加わったとしても電解質膜に欠点を生じず、燃料電池の寿命、信頼性を向上することができる。
【0125】
また、本発明のポリエステルフィルムは、長期に渡って高温・高湿下に保管されてもその補強性能を保持することができ、十分な補強性能を示すことができる。すなわち、長期補強性能保持性に優れる。具体的には、上記構成体を121℃、2atm、100%RHの環境下において250時間放置した後に上記と同様に補強性能を評価したとしても、電解質膜にしわ、破れ、破損の発生が十分に抑制される。
上記のような補強性能を備えるには、環状カルボジイミド化合物を用いると同時に、ヤング率を本発明が規定する数値範囲となるようにすればよい。
【0126】
[耐加水分解性]
本発明のポリエステルフィルムは、121℃、2気圧、100%RHの環境下で放置した場合に、破断強度保持率が50%になるまでの時間が100時間以上であることが好ましい。かかる時間が上記数値範囲にあると、長期の耐加水分解性に優れることを意味し、燃料電池用途においては、高湿環境下において製品の長寿命化がはかれ好ましい。このような観点から、上記破断強度保持率が50%になるまでの時間は、より好ましくは130時間以上、さらに好ましくは150時間以上、特に好ましくは180時間以上である。ここで破断強度保持率とは、121℃・2気圧・100%RHの環境下で一定時間経過させた試験片の縦方向および横方向の破断強度の平均値を、処理前のこれら方向の破断強度の平均値で割った値(%)で表わされる。
【0127】
[フィルム厚み]
本発明のポリエステルフィルムは、フィルム厚みが1〜300μmの範囲にあることが好ましく、さらに好ましくは5〜150μm、特に好ましい範囲は10〜90μmであり、燃料電池用、とりわけ固体高分子電解質膜補強用として好適である。薄くなりすぎると、フィルム同士の貼り付きがが起き易くなるなど、搬送性、取り扱い性が悪くなる傾向にある。一方、厚くなりすぎると、フィルムが硬くなり、切断等し難くなるなど、加工性が悪くなる傾向にある。本発明のポリエステルフィルムは、通常、単層で用いられるが、発明の効果を損なわない範囲において、積層体であってもよい。
【実施例】
【0128】
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明する。なお、実施例中の各特性値は次の方法で求めた。
【0129】
A.ガラス転移温度(Tg)、融点(Tm)
TAインストルメント社製,TA−2920を用いて、昇温速度20℃/分の条件で測定し、ガラス転移温度(Tg)を求め、また得られた溶融ピークのピーク温度を融点(Tm)とした。
【0130】
B.カルボキシル基末端濃度[COOH](eq/ton)
試料を精製o−クレゾールに窒素気流下溶解、ブロモクレゾールブルーを指示薬とし、0.05規定水酸化カリウムのエタノール溶液で滴定した。
【0131】
C.イソシアネートガス発生テスト
試料を、160℃で5分間加熱し、熱分解GC/MS分析により定性・定量した。尚、定量はイソシアネートで作成した検量線を用いて行った。GC/MSは日本電子(株)製GC/MS Jms Q1000GC K9を使用した。
【0132】
D.フィルム厚み
電子マイクロメータ(アンリツ(株)製の商品名「K−312A型」)を用いて針圧30gにてフィルム厚みを測定した。
【0133】
E.ヤング率
フィルムの縦方向および横方向に、150mm長×10mm幅に切り出した試験片を用い、オリエンテック社製テンシロンUCT−100型を用いて、温度20℃、湿度50%RHに調節された室内において、チャック間距離を100mmにして、引張速度10mm/分、チャート速度500mm/分で引張試験を実施し、得られた荷重−伸び曲線の立ち上り部の接線よりヤング率を計算して求めた。なお、縦方向のヤング率とはフィルムの縦方向(MD)を測定方向としたものであり、横方向のヤング率とはフィルムの横方向(TD)を測定方向としたものである。各方向についてそれぞれ10回測定し、その平均値を用いた。
【0134】
F.破断伸度、破断強度
フィルムの縦方向および横方向に、長さ200mm、幅10mmの短冊状のサンプルを切り出して測定に用いた。JIS K−7127に規定された方法に従って、引張試験器(オリエンテック社製、テンシロンUCT−100型)を用いて、25℃、65%RHの環境下にて破断伸度、破断強度を測定した。初期引張チャック間距離は100mmとし、引張速度は100mm/分とした。測定は、各方向についてそれぞれ10回行い、その平均値を求めた。
【0135】
G.耐加水分解性評価
フィルムの縦方向および横方向に、150mm長×10mm幅に切り出した短冊状の試料片を準備し、121℃・2atm・濡れ飽和モード・100%RHに設定した環境試験機内にステンレス製のクリップで吊り下げた。その後、10時間ごとに試料片を取り出し、縦方向および横方向のそれぞれについて、前記Fと同様の方法で破断強度を測定して、処理後の縦方向および横方向の破断強度の平均値(X、単位:MPa)を求めた。次いで、この処理後の破断強度の平均値X、および上記Fの測定から処理前の縦方向および横方向の破断強度の平均値Xを用いて、下記式によって破断強度保持率を算出した。
破断強度保持率(%)=(破断強度X/初期の破断強度X)×100
(式中、破断強度Xは、121℃、2atm、100%RHの条件で所定時間処理後の、縦方向と横方向の破断強度の平均値(単位:MPa)、初期の破断強度Xは、処理前の、縦方向と横方向の破断強度の平均値(単位:MPa)をそれぞれ表す。)
10時間ごとのサンプリングおよび測定を行い、破断強度保持率が50%以下になった測定点と、その直前の測定点との2点について、かかる2点間における熱処理時間に対する破断強度保持率の変化を1次関数で近似して、破断強度保持率が50%のときの熱処理時間を求め、破断強度の半減時間とした。
【0136】
H.補強性能評価A
電解質膜として100mm四方のパーフルオロスルホン酸樹脂(デュポン社製:ナフィオン117)を用い、その両面に幅20mmの枠状のポリエステルフィルム(外周100mm×100mm、内周80mm×80mm)を重ねて140℃で熱プレスにより接合した。
かかる電解質膜及び補強部材の構成体を振動試験機に固定し、90℃の雰囲気下で、振幅0.75mm(フィルムの縦方向)、10Hz→55Hz→10Hzを60秒で掃引、これを1サイクルとして10サイクル行った後の、電解質膜のしわ、破れ、破損などの変化を目視で観察し、以下の基準で評価した。
○:電解質膜にしわ、破れ、破損などの変化が観察されず、補強性能に優れている。
△:電解質膜に微小なしわ、破れ、破損のいずれか1つが観察され、補強性能がやや劣るものの実用できる。
×:電解質膜にしわ、破れ、破損の2つ以上が観察され、補強性能が十分ではない。
【0137】
I.補強性能評価B(長期補強性能保持性)
上記Hの方法で作成した電解質膜及び補強部材の構成体を121℃・2atm・濡れ飽和モード・100%RHに設定した環境試験機内に設置し、250時間処理を行った。
処理後のサンプルを用いて振動試験機に固定し、90℃の雰囲気下で、振幅0.75mm(フィルムの縦方向)、10Hz→55Hz→10Hzを60秒で掃引、これを1サイクルとして10サイクル行った後の、電解質膜のしわ、破れ、破損などの変化を目視で観察し、以下の基準で評価した。
○:電解質膜にしわ、破れ、破損などの変化が観察されず、補強性能に優れている。
△:電解質膜に微小なしわ、破れ、破損のいずれか1つが観察され、補強性能がやや劣るものの実用できる。
×:電解質膜にしわ、破れ、破損の2つ以上が観察され、補強性能が十分ではない。
【0138】
J.電解質膜の形状安定性
電解質膜として100mm四方のパーフルオロスルホン酸樹脂(デュポン社製ナフィオン117)を用い、その両面に幅20mmの枠状のポリエステルフィルム(外周100mm×100mm、内周80mm×80mm)を重ねて140℃で熱プレスにより接合した。このサンプルを10セット作成し、熱プレス後のポリエステルフィルム枠の枠内の電解質膜のしわの状態、形状を目視で観察し、形状安定性について以下の基準で評価した。
○:電解質膜の部分に目視で小さなしわ、波打ち状の変形などの変化が観察されない。
△:電解質膜の部分に目視で波打ち状の変形は見られないが、枠周辺に微小なしわが観察されるものが3枚以下観察されるが、実用上支障はない。
×:電解質膜の部分に目視で波打ち状の変形がかんさつされるものがあるか、枠周辺に微小なしわが観察されるものが4枚以上観察され、形状安定性が劣る。
【0139】
K.還元粘度(ηsp/c)の測定
試料1.2gを〔テトラクロロエタン/フェノール=(6/4)wt%混合溶媒〕100mlに溶解、35℃でウベローデ粘度管を使用して測定し、還元粘度保持率は、試料処理前の還元粘度を100%として求めた。
【0140】
L.熱収縮率
ASTM D1204に準じ、160℃で30分間サンプルを処理した後、サンプルの温度を室温(25℃)に戻し、処理前後の長さ変化より熱収縮率(%)を求めた。
【0141】
[参考例1]ポリエチレンテレフタレートの準備:
帝人ファイバー(株)製のポリエチレンテレフタレート「TR−8580」をそのまま、ポリエチレンテレフタレート(PET、Tg=80℃、Tm=258℃)として用いた。かかるPETの還元粘度は0.85dl/g、カルボキシル基末端濃度は30eq/tonであった。
【0142】
[参考例2]ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートの準備:
ナフタレン−2,6−ジカルボン酸ジメチル100部、およびエチレングリコール60部を、エステル交換触媒として酢酸マンガン四水塩0.03部を使用し、150℃から238℃に徐々に昇温させながら120分間エステル交換反応を行なった。途中反応温度が170℃に達した時点で三酸化アンチモン0.024部を添加し、エステル交換反応終了後、リン酸トリメチル(エチレングリコール中で135℃、5時間0.11〜0.16MPaの加圧下で加熱処理した溶液:リン酸トリメチル換算量で0.023部)を添加した。その後反応生成物を重合反応器に移し、290℃まで昇温し、27Pa以下の高真空下にて重縮合反応を行って、固有粘度が0.61dl/gの、実質的に粒子を含有しない、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート(PEN、Tg=121℃、Tm=269℃)を得た。
【0143】
[参考例3]環状カルボジイミド化合物の製造:
o−ニトロフェノール(0.11mol)とペンタエリトリチルテトラブロミド(0.025mol)、炭酸カリウム(0.33mol)、N,N−ジメチルホルムアミド200mlを攪拌装置及び加熱装置を設置した反応装置にN雰囲気下仕込み、130℃で12時間反応後、DMFを減圧により除去し、得られた固形物をジクロロメタン200mlに溶かし、水100mlで3回分液を行った。有機層を硫酸ナトリウム5gで脱水し、ジクロロメタンを減圧により除去し、中間生成物D(ニトロ体)を得た。
【0144】
次に中間生成物D(0.1mol)と5%パラジウムカーボン(Pd/C)(2g)、エタノール/ジクロロメタン(70/30)400mlを、攪拌装置を設置した反応装置に仕込み、水素置換を5回行い、25℃で水素を常に供給した状態で反応させ、水素の減少がなくなったら反応を終了した。Pd/Cを回収し、混合溶媒を除去すると中間生成物E(アミン体)が得られた。
【0145】
次に攪拌装置及び加熱装置、滴下ロートを設置した反応装置に、N雰囲気下、トリフェニルホスフィンジブロミド(0.11mol)と1,2−ジクロロエタン150mlを仕込み攪拌させた。そこに中間生成物E(0.025mol)とトリエチルアミン(0.25mol)を1,2−ジクロロエタン50mlに溶かした溶液を25℃で徐々に滴下した。滴下終了後、70℃で5時間反応させる。その後、反応溶液をろ過し、ろ液を水100mlで5回分液を行った。有機層を硫酸ナトリウム5gで脱水し、1,2−ジクロロエタンを減圧により除去し、中間生成物F(トリフェニルホスフィン体)が得られた。
【0146】
次に、攪拌装置及び滴下ロートを設置した反応装置に、N雰囲気下、ジ−tert−ブチルジカーボネート(0.11mol)とN,N−ジメチル−4−アミノピリジン(0.055mol)、ジクロロメタン150mlを仕込み攪拌させる。そこに、25℃で中間生成物F(0.025mol)を溶かしたジクロロメタン100mlをゆっくりと滴下させた。滴下後、12時間反応させる。その後、ジクロロメタンを除去し得られた固形物を、精製することで、下記構造式に示す化合物(MW=516)を得た。構造はNMR、IRにより確認した。
【0147】
【化45】

【0148】
[参考例4]PETと環状カルボジイミド化合物との組成物:
参考例1のポリエチレンテレフタレート(PET)100重量部を、150℃、3時間で乾燥した後、混練機の第一供給口より、シリンダー温度270℃で溶融混練後、参考例3の操作で得た環状カルボジイミド化合物1重量部を第二供給口より供給しシリンダー温度270℃で溶融混練し、組成物を得てペレット化した。組成物製造時イソシアネート臭の発生は感じられなかった。
【0149】
[参考例5]PENと環状カルボジイミド化合物との組成物:
参考例2の操作において得られたポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート(PEN)100重量部を、170℃、5時間で乾燥した後、混練機の第一供給口より、シリンダー温度290℃で溶融混練後、参考例3の操作で得た環状カルボジイミド化合物1重量部を第二供給口より供給しシリンダー温度290℃で溶融混練し、組成物を得てペレット化した。組成物製造時イソシアネート臭の発生は感じられなかった。
【0150】
[実施例1]
参考例4で得られた、融点256℃、カルボキシル基末端濃度5eq/tonの組成物のペレットを、150℃に設定した熱風乾燥器で3時間乾燥した。乾燥したペレットを、ダイ温度270℃でシート状に溶融押出して、白金コート線状電極を用い、静電キャスト法によって鏡面冷却ドラム表面に密着、固化させて未延伸フィルムを得た。
得られた未延伸フィルムを、100℃で縦方向に3.6倍、次いで120℃で横方向に4.0倍延伸し、さらに225℃で15秒間熱固定を行い、続いて横方向に200℃で3%の弛緩処理を行い、厚さ40μmの2軸延伸フィルムを得た。このとき、押出、製膜、延伸、熱固定の過程でイソシアネートガスに由来する刺激臭は感じられなかった。得られたフィルムの特性を表1に示す。
【0151】
[実施例2〜3]
実施例1において、フィルムの製膜条件を表1に示すとおりとする以外は、実施例1と同様にしてフィルムを得た。このとき、押出、製膜、延伸、熱固定の過程でイソシアネートガスに由来する刺激臭は感じられなかった。得られたフィルムの特性を表1に示す。
【0152】
[実施例4]
参考例5で得られた、融点260℃、カルボキシル基末端濃度5eq/tonの組成物のペレットを、170℃に設定した熱風乾燥器で5時間乾燥した。乾燥したペレットをダイ温度、290℃でシート状に溶融押出して、白金コート線状電極を用い、静電キャスト法によって鏡面冷却ドラム表面に密着、固化させて未延伸フィルムを得た。
得られた未延伸フィルムを、125℃で縦方向に3.0倍、次いで135℃で横方向に3.2倍延伸し、さらに225℃で15秒間熱固定を行い、続いて横方向に210℃で3%の弛緩処理を行い、厚さ40μmの2軸延伸フィルムを得た。このとき、押出、製膜、延伸、熱固定の過程でイソシアネートガスに由来する刺激臭は感じられなかった。得られたフィルムの特性を表1に示す。
実施例1〜4で得られたフィルムは、表1に示す如く、ヤング率が高く、熱収縮率が低く、結果として長期補強性能保持性が良好であり、固体高分子電解質膜の補強部材用のフィルムとして優れたな特性を有していた。
【0153】
[比較例1]
フィルムの製膜条件を表1に示すとおりとする以外は、実施例1と同様にしてフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。なお、比較例1における押出、製膜、延伸、熱固定の過程においては、イソシアネートガスに由来する刺激臭は感じられなかった。
【0154】
[比較例2]
フィルムの製膜条件を表1に示すとおりとする以外は、実施例4と同様にしてフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。なお、比較例2における押出、製膜、延伸、熱固定の過程においては、イソシアネートガスに由来する刺激臭は感じられなかった。
比較例1、2で得られたフィルムは、表1に示す如く、ヤング率が低く、熱収縮率も高く、結果として長期補強性能保持性に劣り、固体高分子電解質膜の補強部材用のフィルムとして特性が不充分であった。
【0155】
[比較例3]
参考例1のポリエチレンテレフタレートの樹脂100重量部に、市販の直鎖状ポリカルボジイミド化合物(日清紡ケミカル株式会社製「カルボジライト」LA−1)を1重量部、二軸押出機を用いて270℃にて混練して得たペレットを用いて、実施例1と同様にして厚さ40μmの2軸延伸フィルムとした。比較例3においては、製膜の過程でイソシアネート由来の刺激臭がした。さらに得られたフィルムについてイソシアネートガス発生テストを実施したところ10ppmのイソシアネートガスが発生した。
【0156】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0157】
本発明のフィルムは、耐加水分解性に優れ、さらに長期補強性能保持性に優れており、例えば燃料電池用、とりわけ固体高分子電解質補強用として好適に用いることができ、その工業的価値は高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボジイミド基を1個有しその第一窒素と第二窒素とが結合基により結合されている環状構造を少なくとも含む化合物と、芳香族ポリエステルとを混合した組成物よりなり、縦方向および横方向のヤング率が3000MPa以上である燃料電池用ポリエステルフィルム。
【請求項2】
環状構造を形成する原子数が8〜50である請求項1記載の燃料電池用ポリエステルフィルム。
【請求項3】
環状構造が、下記式(1)で表される請求項1記載の燃料電池用ポリエステルフィルム。
【化1】

(式中、Qは、脂肪族基、脂環族基、芳香族基またはこれらの組み合わせである2〜4価の結合基であり、ヘテロ原子を含有していてもよい。)
【請求項4】
Qは、下記式(1−1)、(1−2)または(1−3)で表される2〜4価の結合基である請求項3記載の燃料電池用ポリエステルフィルム。
【化2】

(式中、ArおよびArは各々独立に、2〜4価の炭素数5〜15の芳香族基である。RおよびRは各々独立に、2〜4価の炭素数1〜20の脂肪族基、2〜4価の炭素数3〜20の脂環族基またはこれらの組み合わせ、またはこれら脂肪族基、脂環族基と2〜4価の炭素数5〜15の芳香族基の組み合わせである。XおよびXは各々独立に、2〜4価の炭素数1〜20の脂肪族基、2〜4価の炭素数3〜20の脂環族基、2〜4価の炭素数5〜15の芳香族基、またはこれらの組み合わせである。sは0〜10の整数である。kは0〜10の整数である。なお、sまたはkが2以上であるとき、繰り返し単位としてのX、あるいはXが、他のX、あるいはXと異なっていてもよい。Xは、2〜4価の炭素数1〜20の脂肪族基、2〜4価の炭素数3〜20の脂環族基、2〜4価の炭素数5〜15の芳香族基、またはこれらの組み合わせである。但し、Ar、Ar、R、R、X、XおよびXはヘテロ原子を含有していてもよい、また、Qが2価の結合基であるときは、Ar、Ar、R、R、X、XおよびXは全て2価の基である。Qが3価の結合基であるときは、Ar、Ar、R、R、X、XおよびXの内の一つが3価の基である。Qが4価の結合基であるときは、Ar、Ar、R、R、X、XおよびXの内の一つが4価の基であるか、二つが3価の基である。)
【請求項5】
環状構造を含む化合物が、下記式(2)で表される請求項1記載の燃料電池用ポリエステルフィルム。
【化3】

(式中、Qは、脂肪族基、脂環族基、芳香族基またはこれらの組み合わせである2価の結合基であり、ヘテロ原子を含有していてもよい。)
【請求項6】
は、下記式(2−1)、(2−2)または(2−3)で表される2価の結合基である請求項5記載の燃料電池用ポリエステルフィルム。
【化4】

(式中、Ar、Ar、R、R、X、X、X、sおよびkは、各々式(1−1)〜(1−3)中のAr、Ar、R、R、X、X、X、sおよびkと同じである。)
【請求項7】
環状構造を含む化合物が、下記式(3)で表される請求項1記載の燃料電池用ポリエステルフィルム。
【化5】

(式中、Qは、脂肪族基、脂環族基、芳香族基またはこれらの組み合わせである3価の結合基であり、ヘテロ原子を含有していてもよい。Yは、環状構造を担持する担体である。)
【請求項8】
は、下記式(3−1)、(3−2)または(3−3)で表される3価の結合基である請求項7記載の燃料電池用ポリエステルフィルム。
【化6】

(式中、Ar、Ar、R、R、X、X、X、sおよびkは、各々式(1−1)〜(1−3)のAr、Ar、R、R、X、X、X、sおよびkと同じである。但しこれらの内の一つは3価の基である。)
【請求項9】
Yは、単結合、二重結合、原子、原子団またはポリマーである請求項7記載の燃料電池用ポリエステルフィルム。
【請求項10】
環状構造を含む化合物が、下記式(4)で表される請求項1記載の燃料電池用ポリエステルフィルム。
【化7】

(式中、Qは、脂肪族基、芳香族基、脂環族基またはこれらの組み合わせである4価の結合基であり、ヘテロ原子を保有していてもよい。ZおよびZは、環状構造を担持する担体である。)
【請求項11】
は、下記式(4−1)、(4−2)または(4−3)で表される4価の結合基である請求項10記載の燃料電池用ポリエステルフィルム。
【化8】

(式中、Ar、Ar、R、R、X、X、X、sおよびkは、各々式(1−1)〜(1−3)の、Ar、Ar、R、R、X、X、X、sおよびkと同じである。但し、これらの内の一つが4価の基であるか、二つが3価の基である。)
【請求項12】
およびZは各々独立に、単結合、二重結合、原子、原子団またはポリマーである請求項10記載の燃料電池用ポリエステルフィルム。
【請求項13】
芳香族ポリエステルがポリエチレンテレフタレートである請求項1〜12のいずれか1項に記載の燃料電池用ポリエステルフィルム。
【請求項14】
芳香族ポリエステルがポリエチレンナフタレートである請求項1〜12のいずれか1項に記載の燃料電池用ポリエステルフィルム。
【請求項15】
縦方向および横方向の160℃、30分の熱収縮率が5%以下である請求項1〜14のいずれか1項に記載の燃料電池用ポリエステルフィルム。
【請求項16】
組成物が下記の3成分からなる、請求項1記載の燃料電池用ポリエステルフィルム。
(a)カルボジイミド基を1個有しその第一窒素と第二窒素とが結合基により結合されている環状構造を少なくとも含む化合物、
(b)芳香族ポリエステル、
(c)カルボジイミド基を1個有しその第一窒素と第二窒素とが結合基により結合されている環状構造を少なくとも含む化合物によってカルボキシル基が封止された芳香族ポリエステル。
【請求項17】
組成物が下記の2成分からなる、請求項1記載の燃料電池用ポリエステルフィルム。
(a)カルボジイミド基を1個有しその第一窒素と第二窒素とが結合基により結合されている環状構造を少なくとも含む化合物、
(c)カルボジイミド基を1個有しその第一窒素と第二窒素とが結合基により結合されている環状構造を少なくとも含む化合物によってカルボキシル基が封止された芳香族ポリエステル。
【請求項18】
組成物が下記の1成分からなる、請求項1記載の燃料電池用ポリエステルフィルム。
(c)カルボジイミド基を1個有しその第一窒素と第二窒素とが結合基により結合されている環状構造を少なくとも含む化合物によってカルボキシル基が封止された芳香族ポリエステル。
【請求項19】
固体高分子電解質膜補強用であることを特徴とする請求項1〜18のいずれか1項に記載の燃料電池用ポリエステルフィルム。

【公開番号】特開2011−256332(P2011−256332A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−133894(P2010−133894)
【出願日】平成22年6月11日(2010.6.11)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】